特許第6072203号(P6072203)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6072203極性または活性金属基材を有するスルホン化ブロックコポリマーラミネート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6072203
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】極性または活性金属基材を有するスルホン化ブロックコポリマーラミネート
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/08 20060101AFI20170123BHJP
   B32B 7/04 20060101ALI20170123BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
   B32B15/08 A
   B32B7/04
   B32B27/00 C
【請求項の数】1
【外国語出願】
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2015-227774(P2015-227774)
(22)【出願日】2015年11月20日
(62)【分割の表示】特願2014-538809(P2014-538809)の分割
【原出願日】2012年10月3日
(65)【公開番号】特開2016-106045(P2016-106045A)
(43)【公開日】2016年6月16日
【審査請求日】2015年12月18日
(31)【優先権主張番号】13/285,306
(32)【優先日】2011年10月31日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510145211
【氏名又は名称】クレイトン・ポリマーズ・ユー・エス・エル・エル・シー
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クイティエン・タン
(72)【発明者】
【氏名】カール・レズリー・ウィリス
【審査官】 相田 元
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−56147(JP,A)
【文献】 特表2004−535270(JP,A)
【文献】 特開2008−181882(JP,A)
【文献】 特表2009−504807(JP,A)
【文献】 特開昭55−129442(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0280382(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0223716(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
永続的なラミネートを製造する方法であって、
スルホン化されたブロックコポリマーを含むフィルムを提供すること、
前記フィルムを水にさらして部分的または完全に水を含んだフィルムを得ること、
前記部分的または完全に水を含んだフィルムを基材の極性表面または金属表面に直接貼付けること、および
乾燥によって、前記部分的または完全に水を含んだフィルムを基材の極性表面または金属表面上に永続的にラミネートし永続的なラミネートを製造すること
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極性基材および/または活性金属基材をラミネートするためのポリマーフィルムの使用に関する。特に本発明は、スルホン酸またはスルホン酸エステル官能性をほとんど、または全く含まないポリマーエンドブロックを少なくとも2つ、また有効な量のスルホン酸またはスルホン酸エステル官能性を含むポリマー内部ブロックを少なくとも1つ有するスルホン化ブロックコポリマーを原料とし、水にさらして、基材の極性表面または活性金属表面にラミネートされ得る成型フィルムに関する。場合により、ラミネートフィルムは水分−蒸気透過性があってもよく、暖房、換気および空調システムのための空気対空気のエネルギー交換を含むさまざまな用途に恩恵をもたらすことができる。
【背景技術】
【0002】
スチレン系ブロックコポリマーは当技術分野において周知である。一般に、スチレン系ブロックコポリマー(「SBC」)は、化学的に異なるモノマータイプを含み、これにより特定の望ましい特性をもたらす、内部のポリマーブロックおよび末端エンドポリマーブロックを含むことができる。一例として、より一般的な形態において、SBCは共役ジエンの内部のブロックおよび芳香族アルケニルアレーンを有する外部ブロックを有することができる。ポリマーブロックの異なる特性が互いに作用すると、異なるポリマー特性を得ることができる。例えば内部の共役ジエンブロックのエラストマー特性により、「より硬い」芳香族アルケニルアレーン外部ブロックと共に、莫大な種類の用途に有用なポリマーを生成することができる。このようなSBCは、逐次重合もしくはカップリング反応、またはこの組み合わせによって調製することができる。
【0003】
また、これらの特性をさらに改変するために、SBCを官能化できることも知られている。例えばSBCは、カルボン酸、エステルまたはアミド、ホスホン酸エステル基またはスルホン酸基などの官能基をポリマーの骨格に導入することによって修飾することができる。不飽和を含むポリマーに官能基を取り込むための方法は例えば、US3,135,716、US3,150,209およびUS4,409,357から学ぶことができる。官能基を水素化SBCに取り込む別の手順は例えば、US4,578,429およびUS4,970,265において教示されている。
【0004】
スルホン酸またはスルホン酸エステル官能基をポリマー骨格に付加することにより官能化したSBCの最初の1つが、例えば、WinklerによるUS3,577,357に開示されている。得られるブロックコポリマーは、一般構造A−B−(B−A)1−5を有するというのが特徴であったが、ここで各Aは非エラストマーのスルホン化モノビニルアレーンポリマーブロックであり、各Bは実質的に飽和エラストマーのアルファ−オレフィンポリマーブロックであり、このブロックコポリマーは、全ポリマー中において重量で少なくとも1%の硫黄および各モノビニルアレーン単位に対して1つまでのスルホン化成分を有するのに十分な程度までスルホン化されている。スルホン化ポリマーはこのように使用することも可能であり、また、酸、アルカリ金属塩、アンモニウム塩またはアミン塩の形態で用いることもできる。Winklerによれば、ポリスチレン−水素化ポリイソプレン−ポリスチレントリブロックコポリマーは、三酸化硫黄/リン酸トリエチルを含むスルホン化剤を用いて1,2−ジクロロエタン中で処理されている。スルホン化ブロックコポリマーは、浄水膜などにおいて有用である可能性のある吸水特性を備えるものとして記載されているが、後にフィルムに成型するのが容易でないことが判明している(US5,468,574)。
【0005】
さらに最近では、WillisらによるUS7,737,224において、スルホン化ブロックコポリマーの調製が開示され、水中で固体であって、ポリマーエンドブロックを少なくとも2つ、飽和ポリマー内部ブロックを少なくとも1つ含むスルホン化ブロックコポリマーが例示されており、ここで各エンドブロックはスルホン化されにくいポリマーブロックで、内部ブロックの少なくとも1つはスルホン化されやすい飽和ポリマーブロックであり、さらにここで内部ブロックの少なくとも1つは、ブロック内のスルホン化されやすいモノマーが10から100モルパーセントの程度までスルホン化されている。スルホン化ブロックコポリマーは、大量の水分−蒸気を運ぶことができる一方で、同時に水の存在下で寸法安定性および強度が良好であり、良好な湿潤強度、良好な水およびプロトン輸送特性、良好な耐メタノール性、容易なフィルムまたは膜成形性、バリア性、柔軟性および弾性の制御、調整可能な硬さ、ならびに熱/酸化安定性の組み合わせを必要とする最終使用用途向けに価値のある材料として記載されている。
【0006】
加えて、DadoらによるWO2008/089332では、スルホン化ブロックコポリマーを調製する方法が開示されており、例えば、エンドブロックAを少なくとも1つ、内部ブロックBを少なくとも1つ有する前駆体ブロックポリマーのスルホン化が例示されており、ここで各Aブロックはスルホン化されにくいポリマーブロック、各Bブロックはスルホン化されやすいポリマーブロックであって、AおよびBブロックには実質的にオレフィン不飽和がない。前駆体ブロックポリマーは、少なくとも1つの非ハロゲン化脂肪族溶媒をさらに含む反応混合物中で硫酸アシルと反応させている。Dadoらによれば、この方法により結果としてサイズおよび分布を限定できるスルホン化ポリマーのミセルおよび/または他のポリマー凝集物を含む反応生成物がもたらされた。
【0007】
WillisらによるUS7,737,224では、この中のスルホン化ブロックコポリマーの開示において、有用な多くの用途の中でも、これらがラミネートに使用できる可能性を示した。さらに、係属中の米国出願第12/893,163号では、クロスフロー空気流間で熱および水分を交換するためのエネルギー回収システム(ERV)のコア内で用いるラミネート膜の使用について開示している。このラミネート膜は、繊維状の微孔性支持基材およびエンドブロックAを少なくとも1つ、内部ブロックBを少なくとも1つ有するスルホン化ブロックコポリマーからできているものとして開示されており、ここで各Aブロックは本質的にスルホン酸またはスルホン酸エステル官能基を含まず、各Bブロックはモノマー単位の数を基準にして約10から約100モルパーセントのスルホン酸またはスルホン酸エステル官能基を含むポリマーブロックであり、このスルホン化ブロックコポリマーが繊維状の微孔性支持基材上にラミネートされている。
【0008】
さらに米国出願第12/893,145号には、場合によりスルホン酸やスルホン酸エステル官能基とは異なる官能基で官能化したエラストマーのスチレン系ブロックコポリマーを少なくとも1つ、スルホン化ブロックコポリマーを少なくとも1つ組み合わせたものを含むフィルムが開示されている。このようなフィルムは、天然および合成の織物および不織材料ならびに1つまたは複数のこのような材料から作られた基材の上に被覆されてもよい。基材の形状および形態には、繊維、フィルム、テキスタイル、金属材料、革および木材部品、または構造物が含まれる。被覆された物品を製造する方法には、直接被覆、吹付被覆、電気被覆、粉体被覆、転写被覆およびラミネーション法が含まれる。
【0009】
しかし、本発明者らにより認識されているように、極性または金属の基材表面を、湿った系の中で層間剥離しないポリマーフィルムでラミネートまたは被覆することも必要とされている。用途の1つとして、エネルギー交換システムでは、乾燥剤を表面に被覆してアルミニウムを支持基材として用いることがある。例えばUS4,769,053では、回転式の空気対空気エネルギー交換装置が開示されている。このシステムでは、アルミニウムが熱交換材料としてガス透過性のマトリックス中で用いられている。モレキュラーシーブでできた被覆された層が、顕熱および潜熱の吸収および放出に応用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第3,135,716号明細書
【特許文献2】米国特許第3,150,209号明細書
【特許文献3】米国特許第4,409,357号明細書
【特許文献4】米国特許第4,578,429号明細書
【特許文献5】米国特許第4,970,265号明細書
【特許文献6】米国特許第3,577,357号明細書
【特許文献7】米国特許第5,468,574号明細書
【特許文献8】米国特許第7,737,224号明細書
【特許文献9】国際公開第2008/089332号
【特許文献10】米国特許出願公開第2012/893,163号明細書
【特許文献11】米国特許出願公開第2012/893,145号明細書
【特許文献12】米国特許第4,769,053号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らにより認識されているように、多種多様な用途で用いられることになる、極性または金属基材に強力に結合するスルホン化ブロックコポリマーのフィルムが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の1つの実施形態では概して、スルホン化ブロックコポリマーを含むフィルムを提供し、フィルムを水にさらし、フィルムを乾燥することにより基材の極性表面または活性金属表面の上にフィルムをラミネートすることを含む、基材をラミネートする方法を提供する。
【0013】
別の実施形態では、スルホン化ブロックコポリマーはエンドブロックAを少なくとも1つ、内部ブロックBを少なくとも1つ有し、ここで各Aブロックは本質的にスルホン酸またはスルホン酸エステル官能基を含まず、各Bブロックはモノマー単位の数を基準にして約10から約100モルパーセントのスルホン酸またはスルホン酸エステル官能基を含むポリマーブロックである。
【0014】
別の実施形態においてフィルムは、水の存在に30時間さらしたときに層間剥離しない。別の実施形態においてラミネートフィルムは、水の存在下において基材への結合を維持する。
【0015】
別の実施形態においてラミネートフィルムは、しわが寄らない。
【0016】
別の実施形態において基材表面には、活性金属が含まれる。
【0017】
別の実施形態において基材表面は、Li、K、Ba、Ca、Na、Mg、Al、Zn、Cr、Fe、Cd、Co、Ni、SnおよびPb、またはこれらの合金からなる群から選択される活性金属を含む。
【0018】
別の実施形態において基材表面は、元素周期表の第2から第4周期、2族から13族の金属、または2つ以上の金属の合金を含む。
【0019】
別の実施形態において基材表面は、アルミニウムを含む。
【0020】
別の実施形態において基材表面は、ガラス、革または極性ポリマーを含む。
【0021】
別の実施形態において基材表面は充実性または多孔性である。
【0022】
別の実施形態において極性ポリマーには、アクリレート、メタクリレート、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアクリロニトリル、ポリアクリルアミド、ポリエーテル、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ酢酸ビニル(PVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリアミンポリアミド、ナイロン、スチレンアクリロニトリルポリマー(SAN)、エポキシド、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)、ポリカーボネートまたはこれらの混合物が含まれる。
【0023】
別の実施形態においてフィルムは25%水を含んでいる。
【0024】
別の実施形態においてスルホン化ブロックコポリマーは、一般構造A−B−A、A−B−A−B−A、(A−B−A)X、(A−B)nX、A−D−B−D−A、A−B−D−B−A、(A−D−B)X、(A−B−D)Xまたはこれらの混合物を有し、ここでnは2から約30の整数であり、Xはカップリング剤残基であり、さらにここで各Dブロックはスルホン化されにくいポリマーブロックであり、複数のAブロック、BブロックまたはDブロックは同じか、または異なる。
【0025】
別の実施形態においてスルホン化ブロックコポリマーの各Dブロックは、(i)水素化前に20から80モルパーセントの間のビニル含有率を有するイソプレン、1,3−ブタジエンから選択される、重合または共重合された共役ジエン、(ii)重合されたアクリレートモノマー、(iii)ケイ素ポリマー、(iv)重合されたイソブチレンおよび(v)これらの混合物からなる群から選択され、ここで重合された1,3−ブタジエンまたはイソプレンを含むセグメントはすべて引き続き水素化される。
【0026】
別の実施形態においてラミネートは、上述の方法によって形成される。別の実施形態においてラミネートは、回転ホイール熱交換器内で用いられる。
【0027】
別の実施形態において、活性金属または極性表面を含む基材、この基材の表面に結合してラミネートを形成するフィルムを含むラミネートが概して本明細書に開示されており、ここでこのフィルムはスルホン化されたポリマーを含む。
【0028】
別の実施形態では、スルホン化ポリマーはエンドブロックAを少なくとも1つ、内部ブロックBを少なくとも1つ有するブロックコポリマーであり、ここで各Aブロックは本質的にスルホン酸またはスルホン酸エステル官能基を含まず、各Bブロックはモノマー単位の数を基準にして約10から約100モルパーセントのスルホン酸またはスルホン酸エステル官能基を含むポリマーブロックである。
【0029】
別の実施形態においてフィルムは、水の存在に30時間さらしたときに層間剥離しない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】スルホン化ブロックコポリマー膜とアルミニウム基材との相互作用の略図である。
図2】スルホン化ブロックコポリマー膜とポリアミド基材との相互作用の略図である。
図3】乾燥した状態および水を含んだ状態のスルホン化ブロックコポリマー膜ならびに水にさらした結果、膜の表面において応答したイオン相の略図である。
図4】乾燥したスルホン化ブロックコポリマー膜の原子間力顕微鏡写真(高さの画像(height image))である。
図5】水を含んだスルホン化ブロックコポリマー膜の原子間力顕微鏡写真(高さの画像)である。
図6】ラミネート溶媒としてシクロヘキサンを用いてアルミニウム基材上に直接成型したSBC−1フィルムの写真である。
図7】ラミネート溶媒として1−プロパノールを使用した後にアルミニウムにラミネートしたSBC−1フィルムの写真である。
図8】ラミネート溶媒として水を使用した後にアルミニウムにラミネートしたSBC−1フィルムの写真である。
図9】ラミネート溶媒として水を使用した後に本革にラミネートしたSBC−1フィルムの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
ラミネートした基材および基材をラミネートする方法についての実施形態の詳細な説明が本明細書に開示されている。しかし、開示された実施形態はラミネートおよびラミネートのための方法の単なる例示であり、従ってこれらは開示された実施形態のさまざまな代替形態で実現できるものと理解されるべきである。従って、本明細書に開示された実施形態の中で扱われている手順、構造および機能に関する特定の詳細は、限定するものと解釈されるべきでなく、単に特許請求の範囲の基礎および本方法をさまざまに実施できるよう当業者に教示するための代表的な基礎として解釈されるべきである。
【0032】
さらに別途具体的に記載しない限り、本明細書で用いられる以下の表現は、次の意味を有すると理解される。
【0033】
本明細書において水または他の溶媒の吸収に関する文脈で用いられる「平衡」という表現は、ブロックコポリマーによる水の吸収速度が、ブロックコポリマーによる水の損失速度と釣り合いの取れた状態を指す。平衡の状態は概して本発明のスルホン化ブロックコポリマーを水に24時間(1日)浸して達することができる。また平衡はさらに短い時間で達することもある。さらに平衡状態は、完全に浸漬しない他の湿潤環境においても達することができるが、平衡に達する時間は異なることがある。
【0034】
「水を含んだ」という表現は、室温および室内圧力で水と接触した成型フィルムによる水の吸収を指す。フィルムは部分的または完全に水を含むことができる。
【0035】
「完全に水を含んだ」という表現は、室温および室内圧力で成型フィルムを水に浸すことによって最大量の水が吸収されている状態を指す。フィルムは、水に浸している間に平衡が得られたとき完全に水を含むことになる。
【0036】
「部分的に水を含んだ」という表現は、成型フィルムが、フィルムを室温および室内圧力で水に浸したとき吸収しうる最大量を下回る水を吸収した状態を指す。
【0037】
本明細書において用いられる「吸水値」という表現は、凝縮した液体の水と平衡状態にある、ブロックコポリマーにより吸収された水の重量を乾燥した材料の元の重量と比べたものを指し、パーセントで計算される。吸水値が低い場合、吸収された水が少ないことを示し、従ってより良い寸法安定性を表す。
【0038】
「ラミネーション」という表現は、成型ポリマー膜またはポリマーフィルムの、基材または他の材料への適用または結合を意味する。
【0039】
「層間剥離(delamination)」という表現は、ポリマーまたは成型ポリマーフィルムの、基材または他の材料からの分離を意味する。
【0040】
別途具体的に記載しない限り、本明細書において用いられる「フィルム」という表現は、基材と接触していても、接触していなくてもよい連続シートを指す。この表現は特に膜および被覆層の両方を包含する。
【0041】
別途具体的に記載しない限り、本明細書において用いられる「永続的にラミネートされた」という表現は、少なくとも25時間、または少なくとも29時間、または少なくとも40時間、または少なくとも60時間、または少なくとも100時間、または少なくとも126時間、または少なくとも130時間、またはさらに長く水に漬けた後、フィルムと基材との間で層間剥離が起こらない状態を指す。
【0042】
「MVTR」という表現は、「WVTR」即ち「水蒸気透過度(Water Vapor Transmission Rate)」としても知られている「透湿度(Moisture Vapor Transmission Rate)」を表す。試験規格ASTM E96により定義されているように、MVTRでは物体の単位面積を単位時間で特定の平行な表面に垂直に透過する定常な水蒸気の流れを、各表面における特定の温度および湿度の条件下で測定する。
【0043】
さらに、本明細書に開示されているすべての範囲は、特定の組み合わせおよび範囲が具体的には記載されていなくても、述べられている上限および下限の任意の組み合わせを含むためのものである。
【0044】
「しわが寄らないラミネート」という表現は、ポリマーフィルムが基材の表面および輪郭に沿っており、実質的にしわ、うね、もしくは泡または他のこのような欠陥がないラミネートを意味する。
【0045】
本発明の幾つかの実施形態によれば、驚いたことにスルホン化ブロックコポリマー組成物からできた成型フィルムは、基材の極性または活性金属表面に永続的にラミネートされることが判明している。幾つかの実施形態によれば、スルホン化ブロックコポリマーはフィルムに成型され、水からなる溶媒に十分な時間さらされて部分的または完全に水を含んだ状態になる。次いでフィルムを基材に貼付けてさらに乾燥させ、これによって基材の表面との結合を形成する。幾つかの実施形態では、完全に水を含ませる必要はなく、その代わりにフィルムに水を十分含ませ、乾燥時に極性または活性金属の基材表面に結合を形成する。これは本発明の目的のために永続的なラミネーションと呼ぶことができる。というのもラミネーションの後に水の存在下において、例えば130時間以上の長時間漬けた後でも膜は層間剥離しないからである。
【0046】
いかなる特定の理論にも拘束されるものではないが、ブロックコポリマーの湿ったスルホン酸官能基が基材の極性または活性金属表面と相互に作用し、これによって基材とフィルム間の化学結合を形成するものと考えられる。これに応じて、このような結合と共にフィルムは強く基材にラミネートされ、水の存在下において少なくとも25時間、または少なくとも29時間、または少なくとも40時間、または少なくとも60時間、または少なくとも100時間、または少なくとも126時間、または少なくとも130時間、またはさらに長く水に漬けた後でさえも層間剥離しない。さらにフィルムは、基材上にしわがなくラミネートされることが好ましく、これによって基材上に透明なフィルムの被覆を残すことができる。
【0047】
結合が強いので、ラミネートされた極性または活性金属基材は、非常に湿度の高い環境、空気対空気の熱交換システム、暖房、換気および空調用途、ならびに回転式の空気対空気エネルギー交換システムなどの湿潤環境において使用されることができる。ラミネートは、複合構造物が完全に水中に浸漬する水処理用途においてさえも使用されることができる。
【0048】
幾つかの実施形態において、極性または活性金属基材をラミネートするために本明細書において用いられるスルホン化ブロックコポリマーはWillisらによるUS7,737,224(この開示は全体が参照により本明細書に組み込まれる。)中にあるように記載されている。さらに、US7,737,224に記載されているスルホン化ブロックポリマーは、DadoらによるWO2008/089332またはHandlinらによるWO2009/137678(これらの開示は全体が参照により本明細書に組み込まれる。)の方法に従って調製されることができる。
【0049】
1.スルホン化ブロックコポリマー
スルホン化ブロックコポリマーを調製するためのブロックコポリマーは、アニオン重合、抑制アニオン重合(moderated anionic polymerization)、カチオン重合、チーグラー・ナッタ重合およびリビング鎖または安定なフリーラジカル重合を含む、幾つかの異なる方法によって製造することができる。アニオン重合は、以下および参照する文書でさらに詳細に説明されている。スチレン系ブロックコポリマーを製造するための抑制アニオン重合法は、例えば、US6,391,981、US6,455,651およびUS6,492,469に開示されており、これらの開示はそれぞれ参照により本明細書に組み込まれる。ブロックコポリマーを調製するためのカチオン重合法は、例えば、US6,515,083およびUS4,946,899に開示されており、これらの開示はそれぞれ参照により本明細書に組み込まれる。
【0050】
ブロックコポリマーを製造するために用いることができるリビング・チーグラー・ナッタ重合法は、G.W.Coates,P.D.HustadおよびS.ReinartzによってAngew.Chem.Int.Ed.,41,2236−2257(2002)において最近総説され、H.ZhangおよびK.Nomuraによるその後の出版物(J.Am.Chem.Soc.,Comm.,2005)にはスチレン系ブロックコポリマーを製造するためのリビング・チーグラー・ナッタ技術が具体的に記載されている。ニトロキシドを介したリビングラジカル重合化学の分野における広範な研究が概説されている(C.J.Hawker,A.W.Bosman,and E.Harth,Chem.Rev.,101(12),3661−3688(2001)参照)。この総説で概説されているように、スチレン系ブロックコポリマーは、リビングまたは安定なフリーラジカル技術によって合成することができる。ニトロキシド媒介重合法は、前駆体ポリマーを調製するときはリビング鎖または安定なフリーラジカル重合法が好ましい。
【0051】
2.ポリマー構造
本開示の態様の1つは、スルホン化ブロックコポリマーのポリマー構造に関する。1つの実施形態では、スルホン化ブロックコポリマーはポリマーエンドまたは外部ブロックAを少なくとも2つ、飽和ポリマー内部ブロックBを少なくとも1つ有し、ここで各Aブロックはスルホン化されにくいポリマーブロックであり、各Bブロックはスルホン化されやすいポリマーブロックである。
【0052】
好ましい構造は、一般構造A−B−A、(A−B)(A)、(A−B−A)、(A−B−A)X、(A−B)X、A−B−D−B−A、A−D−B−D−A、(A−D−B)(A)、(A−B−D)(A)、(A−B−D)X、(A−D−B)Xまたはこれらの混合物を有し、ここで、nは2から約30の整数、Xはカップリング剤残基、A、BおよびDは本明細書において下に定義した通りである。
【0053】
最も好ましい構造はA−B−A、(A−B)X、A−B−D−B−A、(A−B−D)X、A−D−B−D−Aおよび(A−D−B)Xなどの直鎖状構造ならびに(A−B)Xおよび(A−D−B)Xなどの放射状の構造であり、ここで、nは3から6である。このようなブロックコポリマーは典型的には、アニオン重合、安定なフリーラジカル重合、カチオン重合またはチーグラー・ナッタ重合によって製造される。ブロックコポリマーはアニオン重合によって製造されるのが好ましい。任意の重合においてポリマー混合物には、任意の直鎖状および/または放射状のポリマーに加えて、ある一定量のA−Bジブロックコポリマーが含まれることを当業者なら理解するであろう。それぞれの量は、本発明の実施にあたって有害であるとは認められていない。
【0054】
Aブロックは、重合された(i)パラ置換スチレンモノマー、(ii)エチレン、(iii)炭素原子3から18個のアルファ−オレフィン、(iv)1,3−シクロジエンモノマー、(v)水素化前に35モルパーセント未満のビニル含有量を有する共役ジエンのモノマー、(vi)アクリル酸エステル、(vii)メタクリル酸エステルおよび(viii)これらの混合物から選択される1つまたは複数のセグメントである。Aセグメントが1,3−シクロジエンまたは共役ジエンのポリマーである場合、このセグメントはブロックコポリマーの重合後、ブロックコポリマーのスルホン化前に水素化することになる。
【0055】
パラ置換スチレンモノマーは、パラ−メチルスチレン、パラ−エチルスチレン、パラ−n−プロピルスチレン、パラ−イソ−プロピルスチレン、パラ−n−ブチルスチレン、パラ−sec−ブチルスチレン、パラ−イソ−ブチルスチレン、パラ−t−ブチルスチレン、パラ−デシルスチレンの異性体、パラ−ドデシルスチレンの異性体および上記モノマーの混合物から選択される。パラ置換スチレンモノマーは、パラ−t−ブチルスチレンおよびパラ−メチルスチレンが好ましく、パラ−t−ブチルスチレンが最も好ましい。モノマーは、特定の源に依存して、モノマーの混合物であってもよい。パラ置換スチレンモノマーの全体の純度は、少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95重量%、さらにより好ましくは少なくとも98重量%の所望のパラ置換スチレンモノマーであることが望ましい。
【0056】
Aブロックがエチレンのポリマーセグメントであるとき、上で引用した通り、G.W.Coatesらによる総説内の参考文献において教示されるように、チーグラー・ナッタ法によってエチレンを重合することが有用でありうるが、この開示は参照により本明細書に組み込まれる。US3,450,795(この開示は参照により本明細書に組み込まれる。)において教示されるアニオン重合技術を用いてエチレンブロックを製造することが好ましい。このようなエチレンブロックのブロック分子量は典型的には、約1,000から約60,000の間になる。
【0057】
Aブロックが炭素原子3から18個のアルファ−オレフィンのポリマーであるとき、このようなポリマーは、上で引用したG.W.Coatesらによる総説内の参考文献において教示されるように、チーグラー・ナッタ法によって調製する。アルファ−オレフィンはプロピレン、ブチレン、ヘキサンまたはオクタンが好ましく、プロピレンが最も好ましい。このようなアルファ−オレフィンブロックのブロック分子量は典型的には、それぞれ約1,000から約60,000の間である。
【0058】
Aブロックが1,3−シクロジエンモノマーの水素化ポリマーであるとき、このようなモノマーは1,3−シクロヘキサジエン、1,3−シクロヘプタジエンおよび1,3−シクロオクタジエンからなる群から選択される。シクロジエンモノマーは1,3−シクロヘキサジエンであることが好ましい。このようなシクロジエンモノマーの重合はUS6,699,941(この開示は参照により本明細書に組み込まれる。)に開示されている。シクロジエンモノマーを用いるときは、非水素化重合シクロジエンブロックはスルホン化されやすいため、Aブロックの水素化が必要になる。従って、1,3−シクロジエンモノマーを用いてAブロックを合成した後、ブロックコポリマーを水素化することになる。
【0059】
Aブロックが水素化前に35モルパーセント未満のビニル含有量を有する非環状共役ジエンの水素化ポリマーであるとき、共役ジエンは1,3−ブタジエンであることが好ましい。ポリマーのビニル含有量は水素化前に35モルパーセント未満である必要があり、30モルパーセント未満が好ましい。特定の実施形態において、ポリマーのビニル含有量は水素化前に25モルパーセント未満になり、さらにより好ましくは20モルパーセント未満で、さらには15モルパーセント未満になり、さらに有利なポリマーのビニル含有量の1つは水素化前に10モルパーセント未満になる。このようにしてAブロックは、ポリエチレンに似た結晶構造を有することになる。このようなAブロック構造はUS3,670,054およびUS4,107,236に開示されており、これらの開示はそれぞれ参照により本明細書に組み込まれる。
【0060】
また、Aブロックはアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルのポリマーセグメントであってもよい。このようなポリマーブロックはUS6,767,976(この開示は参照により本明細書に組み込まれる。)に開示されている方法に従って製造してもよい。メタクリル酸エステルの具体例には、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、トリメトキシシリルプロピルメタクリレート、トリフルオロメチルメタクリレート、トリフルオロエチルメタクリレートなどの一級アルコールとメタクリル酸のエステル、イソプロピルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレートおよびイソボルニルメタクリレートなどの二級アルコールとメタクリル酸のエステルならびにtert−ブチルメタクリレートなどの三級アルコールとメタクリル酸のエステルが含まれる。アクリル酸エステルの具体例には、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ドデシルアクリレート、ラウリルアクリレート、メトキシエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート、グリシジルアクリレート、トリメトキシシリルプロピルアクリレート、トリフルオロメチルアクリレート、トリフルオロエチルアクリレートなどの一級アルコールとアクリル酸のエステル、イソプロピルアクリレート、シクロヘキシルアクリレートおよびイソボルニルアクリレートなどの二級アルコールとアクリル酸のエステルならびにtert−ブチルアクリレートなどの三級アルコールとアクリル酸のエステルが含まれる。必要な場合は、原料として1つまたは複数の他のアニオン重合性モノマーを、(メタ)アクリル酸エステルと共に用いることもできる。場合により使用することができるアニオン重合性モノマーの例には、メタクリル酸トリメチルシリル、N−,N−ジメチルメタクリルアミド、N,N−ジイソプロピルメタクリルアミド、N,N−ジエチルメタクリルアミド、N,N−メチルエチルメタクリルアミド、N,N−ジ−tert−ブチルメタクリルアミド、アクリル酸トリメチルシリル、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジ−イソプロピルアクリルアミド、N,N−メチルエチルアクリルアミドおよびN,N−ジ−tert−ブチルアクリルアミドなどのメタクリルまたはアクリルモノマーが含まれる。さらに、メタクリル酸エステル構造またはアクリル酸エステル構造など、2つ以上のメタクリル酸またはアクリル酸構造を分子内に有する多官能性アニオン重合性モノマー(例えば、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレートおよびトリメチロールプロパントリメタクリレート)を用いることができる。
【0061】
アクリル酸またはメタクリル酸エステルポリマーブロックを製造するために用いられる重合法では、ただ1つのモノマー、例えば(メタ)アクリル酸エステルを使用もしくはこれらを2つ以上組み合わせて使用することができる。2つ以上のモノマーを組み合わせて使用するとき、ランダム、ブロック、テーパードブロックなどの共重合形態から選択される任意の共重合形態は、モノマーの組み合わせやモノマーを重合系に加えるタイミング(例えば、2つ以上のモノマーを同時に加えたり、もしくは所与の時間間隔で別々に加えたりする。)などの条件を選択することによって実施することができる。
【0062】
Aブロックは、以下でさらに詳細に扱っているBブロック中に存在するようなビニル芳香族モノマーを最大15モルパーセント含むこともある。幾つかの実施形態において、Aブロックは、Bブロックについて述べるようなビニル芳香族モノマーを最大10モルパーセント含んでもよく、最大でも5モルパーセントのみ含むことが好ましく、最大でも2モルパーセントのみ含むことが特に好ましい。しかし最も好ましい実施形態では、Aブロックは、Bブロック中に存在するようなビニルモノマーを含まない。Aブロックにおけるスルホン化のレベルはAブロック中の全モノマーの0から最大15モルパーセントでもよい。特定の組み合わせおよび範囲が本明細書に記載されていなくても、適した範囲には特定のモルパーセントの任意の組み合わせが含まれることを当業者なら理解するであろう。
【0063】
Bブロックはそれぞれの場合において、非置換スチレンモノマー、オルト置換スチレンモノマー、メタ置換スチレンモノマー、アルファ−メチルスチレンモノマー、1,1−ジフェニルエチレンモノマー、1,2−ジフェニルエチレンモノマーおよびこれらの混合物から選択される1つまたは複数の重合ビニル芳香族モノマーのセグメントを含む。前述のモノマーおよびポリマーに加えて、Bブロックはまた、このようなモノマーと、20から80モルパーセントの間のビニル含有量を有する、1,3−ブタジエン、イソプレンおよびこれらの混合物から選択される共役ジエンとの、部分的または完全に水素化されたコポリマーを含んでもよい。部分的または完全に水素化されたジエンを伴うこれらのコポリマーは、ランダムコポリマー、テーパードコポリマー、ブロックコポリマーまたは制御分布コポリマーであってもよい。1つの好ましい実施形態において、Bブロックは選択的に部分的または完全に水素化され、共役ジエンと、この段落で述べたビニル芳香族モノマーとのコポリマーを含む。別の好ましい実施形態において、Bブロックはモノマーの特性により飽和している非置換スチレンモノマーブロックであり、水素化のステップの方法をさらに必要としない。制御分布構造を有するBブロックはUS7,169,848に開示されており、この開示は参照により本明細書に組み込まれる。US7,169,848では、スルホン化ブロックコポリマーの調製についても開示されている。スチレンブロックを含むBブロックは本明細書に記述されている。好ましい実施形態において、Bブロックは非置換スチレンでできており、水素化ステップを別途必要としない。
【0064】
本発明の別の態様において、ブロックコポリマーは20℃未満のガラス転移温度を有する耐衝撃性改良因子ブロックDを少なくとも1つ含む。1つの実施形態において耐衝撃性改良因子ブロックDは、水素化ポリマーまたはイソプレン、1,3−ブタジエンおよびこれらの混合物から選択される共役ジエンのコポリマーを含み、このポリマーブロックのブタジエン部分は水素化前に20と80モルパーセントとの間のビニル含有量を有し、このポリマーブロックは1,000と50,000との間の数平均分子量を有する。このようなDブロックを設けるとブロックコポリマーを硬くない、より弾性のあるものにするのに役立つ。
【0065】
別の実施形態において、耐衝撃性改良因子ブロックDは1,000から50,000の数平均分子量を有するアクリレートまたはシリコーンポリマーを含む。さらに別の実施形態において、耐衝撃性改良因子ブロックDブロックは1,000から50,000の数平均分子量を有するイソブチレンのポリマーブロックである。
【0066】
各Aブロックは独立して、約1,000と約60,000との間の数平均分子量を有し、各Bブロックは独立して、約10,000と約300,000との間の数平均分子量を有する。各Aブロックは2,000と50,000との間の数平均分子量を有することが好ましく、3,000と40,000との間がより好ましく、3,000と30,000との間がさらにより好ましい。各Bブロックは15,000と250,000との間の数平均分子量を有することが好ましく、20,000と200,000との間がより好ましく、30,000と100,000との間がさらにより好ましい。特定の組み合わせおよび範囲が本明細書に記載されていなくても、適した範囲には特定の数平均分子量の任意の組み合わせが含まれることを当業者なら理解するであろう。これらの分子量は光散乱測定によって最も正確に決定され、数平均分子量として表される。スルホン化ポリマーは約8モルパーセントから約80モルパーセント有することが好ましく、約10から約60モルパーセントのAブロックが好ましく、15モルパーセントを上回るAブロックがより好ましく、約20から約50モルパーセントのAブロックがさらにより好ましい。
【0067】
非置換スチレンモノマー、オルト置換スチレンモノマー、メタ置換スチレンモノマー、アルファ−メチルスチレンモノマー、1,1−ジフェニルエチレンモノマーおよび1,2−ジフェニルエチレンモノマーであるビニル芳香族モノマーのスルホン化ブロックコポリマー中における相対量は約5から約90モルパーセントであり、約5から約85モルパーセントが好ましい。代替の実施形態では、この量は約10から約80モルパーセントであり、約10から約75モルパーセントが好ましく、約15から約75モルパーセントがより好ましく、約25から約70モルパーセントが最も好ましい。特定の組み合わせが本明細書に記載されていなくても、適した範囲には特定のモルパーセントの任意の組み合わせが含まれることを当業者なら理解するであろう。
【0068】
好ましい実施形態において、非置換スチレンモノマー、オルト置換スチレンモノマー、メタ置換スチレンモノマー、アルファ−メチルスチレンモノマー、1,1−ジフェニルエチレンモノマーおよび1,2−ジフェニルエチレンモノマーであるビニル芳香族モノマーの各Bブロック中におけるモルパーセントは約10から約100モルパーセントであり、約25から約100モルパーセントが好ましく、約50から約100モルパーセントがより好ましく、約75から約100モルパーセントがさらにより好ましく、100モルパーセントが最も好ましい。特定の組み合わせおよび範囲が本明細書に記載されていなくても、適した範囲には特定のモルパーセントの任意の組み合わせが含まれることを当業者なら理解するであろう。
【0069】
スルホン化は典型的には、各Bブロックにスルホン官能基が1つまたは複数含まれるようなレベルである。好ましいスルホン化のレベルは、非置換スチレンモノマー、オルト置換スチレンモノマー、メタ置換スチレンモノマー、アルファ−メチルスチレンモノマー、1,1−ジフェニルエチレンモノマーおよび1,2−ジフェニルエチレンモノマーであるビニル芳香族モノマーの各Bブロック中におけるモルパーセントを基準にして10から100モルパーセントであり、約20から95モルパーセントがより好ましく、約30から90モルパーセントがさらにより好ましい。特定の組み合わせおよび範囲が本明細書に記載されていなくても、適したスルホン化の範囲には特定のモルパーセントの任意の組み合わせが含まれることを当業者なら理解するであろう。スルホン化のレベルは、乾燥したポリマーサンプルを滴定することにより求め、このサンプルはアルコールと水の混合溶媒中のNaOHの標準溶液を含むテトラヒドロフランに再溶解させたものである。
【0070】
3.ポリマーを調製するためのアニオン法概要
アニオン重合法には、リチウム開始剤を用いて溶液中で適したモノマーを重合することが含まれる。重合媒体として用いる溶媒は、生成するポリマーのリビングアニオン鎖末端と反応せず、商用重合装置で容易に取り扱われ、生成物ポリマーに対して適切な溶解性を備える任意の炭化水素でもよい。例えば、非極性の脂肪族炭化水素には一般にイオン化する水素原子がなく、特に適した溶媒となる。しばしば用いられるのはシクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタンおよびシクロオクタンなどの環状アルカンであるが、これらはすべて比較的非極性である。他の適した溶媒は当業者には周知であろうし、また所与のプロセス条件において有効に機能するよう選択することができるが、重合温度は考慮に入れる主要な因子の1つである。
【0071】
本発明のブロックコポリマーを調製するための出発原料には、上で述べたモノマーが含まれる。アニオン共重合のための重要な出発原料には他に、重合開始剤が1つまたは複数含まれる。本発明において、このようなものには例えば、s−ブチルリチウム、n−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム、アミルリチウムおよび同種のものなどのアルキルリチウム化合物ならびにm−ジイソプロペニルベンゼンのジ−sec−ブチルリチウム付加物などのジ開始剤(di−initiator)を含む他の有機リチウム化合物などが含まれる。このような他のジ開始剤はUS6,492,469に開示されており、この開示は参照により本明細書に組み込まれる。さまざまな重合開始剤の中でも、s−ブチルリチウムが好ましい。開始剤は重合混合物(モノマーおよび溶媒を含む。)中で、所望のポリマー鎖1つにつき開始剤の分子1つを基準として計算した量で使用することができる。リチウム開始剤によるプロセスは周知であり、例えばUS4,039,593およびRe.27,145に記載されており、これらの開示はそれぞれ参照により本明細書に組み込まれる。
【0072】
本発明のブロックコポリマーを調製するための重合条件は通常、アニオン重合に一般に用いられる条件と同様である。本発明において重合は約−30℃から約150℃の温度で実施するのが好ましく、約10℃から約100℃がより好ましく、工業的な制約を考えると約30℃から約90℃が最も好ましい。重合は不活性雰囲気中で、好ましくは窒素雰囲気中で行い、約0.5から約10バールの範囲内の圧力下で完了させてもよい。この共重合に必要な時間は一般に約12時間未満であり、約5分から約5時間で完了することができるが、温度、モノマー成分の濃度および所望のポリマーの分子量に左右される。2つ以上のモノマーを組み合わせて使用するとき、ランダム、ブロック、テーパードブロック、制御分布ブロックおよび同種の共重合形態から選択される任意の共重合形態を利用してもよい。
【0073】
アニオン重合法は、アルキルアルミニウム、アルキルマグネシウム、アルキル亜鉛またはこれらの組み合わせなどのルイス酸を加えることによって抑制することができることを当業者なら理解するであろう。ルイス酸を重合法に加えることによる効果は、
1)リビングポリマー溶液の粘度が低くなることで、プロセスを高いポリマー濃度で運転できるようになり、従って溶媒の使用が少なくなり、
2)リビングポリマー鎖末端の熱的な安定性が高まり、高い温度での重合が可能になり、この場合もポリマー溶液の粘度が下がり、溶媒の使用が少なくなり、
3)反応速度が遅くなることで、標準的なアニオン重合法で用いられてきたものと同じ反応熱を除去する技術を用いながら、高い温度での重合が可能になることである。
【0074】
ルイス酸を用いてアニオン重合法を抑制する処理の利益については、US6,391,981、US6,455,651およびUS6,492,469に開示されており、これらは参照により本明細書に組み込まれる。関連情報はUS6,444,767およびUS6,686,423に開示されており、これらの開示はそれぞれ参照により本明細書に組み込まれる。このような抑制されたアニオン重合法によって製造されたポリマーは、従来のアニオン重合法を用いて調製されたポリマーと同じ構造を有することが可能であり、従ってこの方法は本発明のポリマーを製造する上で役に立つ。ルイス酸で抑制されたアニオン重合法については、100℃と150℃との間の反応温度が好ましく、というのもこの温度であれば非常に高いポリマー濃度で反応させられる利点を活かせるからである。化学量論的に過剰なルイス酸を用いることができる一方、ほとんどの場合、処理を改善しても過剰なルイス酸による追加のコストに見合うほど十分な利益はない。抑制されたアニオン重合技術を用いてプロセス性能を改善するためには、リビングアニオン鎖末端1モル当たり約0.1から約1モルのルイス酸を使用するのが好ましい。
【0075】
放射状(分岐)ポリマーの調製には、「カップリング」と呼ばれる後重合ステップが必要である。上記の放射状の構造において、nは3から約30の整数であり、約3から約15が好ましく、さらに3から6がより好ましく、Xはカップリング剤の残分(remnant)または残基である。さまざまなカップリング剤が当技術分野において知られており、本発明のカップリングされたブロックコポリマーを調製する際に用いることができる。これらには例えば、ジハロアルカン、ハロゲン化ケイ素、シロキサン、多官能性エポキシド、シリカ化合物、一価アルコールとカルボン酸のエステル(例えばメチルベンゾエートおよびジメチルアジペート)およびエポキシ化油が含まれる。星型ポリマーは、例えばUS3,985,830、US4,391,949およびUS4,444,953ならびにCA716,645に開示されているようにポリアルケニルカップリング剤を用いて調製され、これらの開示はそれぞれ参照により本明細書に組み込まれる。適したポリアルケニルカップリング剤にはジビニルベンゼンが含まれ、m−ジビニルベンゼンが好ましい。好ましいのは、テトラ−メトキシシラン(TMOS)およびテトラ−エトキシシラン(TEOS)などのテトラ−アルコキシシラン、メチルトリメトキシシラン(MTMS)などのトリ−アルコキシシラン、ジメチルアジペートおよびジエチルアジペートなどの脂肪族ジエステルならびにビスフェノールAとエピクロロヒドリンの反応から誘導されるジグリシジルエーテルなどのジグリシジル芳香族エポキシ化合物である。
【0076】
直鎖状ポリマーは後重合「カップリング」ステップにより調製することもできる。しかし放射状のポリマーとは異なり、上記式中の「n」は整数の2であり、Xはカップリング剤の残分または残基である。
【0077】
4.水素化ブロックコポリマーを調製する方法
述べた通り場合によって−即ち(1)B内部ブロック内にジエンがあるとき、(2)Aブロックが1,3−シクロジエンのポリマーであるとき、(3)耐衝撃性改良因子ブロックDがあるとき、および(4)Aブロックが、35モルパーセント未満のビニル含有量を有する共役ジエンのポリマーであるとき−ブロックコポリマーを選択的に水素化して、スルホン化の前にエチレン性不飽和をすべて除去する必要がある。水素化によって一般に熱安定性、紫外線安定性、酸化安定性、従って最終ポリマーの耐候性が改善され、またAブロックまたはDブロックがスルホン化されるリスクが低減される。
【0078】
水素化は、先行技術において知られている幾つかの水素化または選択的な水素化法のいずれかにより実施することができる。このような水素化は、例えばUS3,595,942、US3,634,549、US3,670,054、US3,700,633およびRe.27,145(これらの開示は参照により本明細書に組み込まれる。)などにおいて教示されている方法を用いて達成することができた。これらの方法は、エチレン性不飽和を含むポリマーを水素化するよう働き、適した触媒の作用に基づく。このような触媒または触媒前駆体は、アルキルアルミニウム、または元素周期表の1族、2族もしくは13族から選択される金属、特にリチウム、マグネシウムもしくはアルミニウムの水素化物などの適した還元剤と組み合わせた、ニッケルまたはコバルトなどの8族から10族の金属を含むことが好ましい。この調製は適した溶媒または希釈剤中で約20℃から約80℃の温度で行うことができる。有用な他の触媒としてチタンベースの触媒系が含まれる。
【0079】
水素化は共役ジエン二重結合の少なくとも約90パーセントが還元され、ゼロと10パーセントとの間のアレーン二重結合が還元されるような条件下で実施することができる。好ましい範囲としては、還元される共役ジエン二重結合が少なくとも約95パーセントであり、約98パーセントの共役ジエン二重結合が還元されることがより好ましい。
【0080】
水素化が完了したら、ポリマー溶液を比較的大量の水性の酸(重量で1から30パーセントの酸が好ましい。)を用いて、ポリマー溶液1部に対して水性の酸約0.5部の体積比で撹拌することによって触媒を酸化および抽出することが好ましい。この酸の特性は重要ではない。適した酸にはリン酸、硫酸および有機酸が含まれる。この撹拌は、窒素中の酸素混合物でスパージしながら約50℃で約30から約60分間続ける。このステップでは、酸素と炭化水素の爆発性混合物が生成しないように注意しなければならない。
【0081】
5.スルホン化ポリマーを製造する方法
スルホン化ブロックコポリマーの逆ミセル溶液を非プロトン性極性溶媒中で調製する方法は幾つかある。本明細書に開示される幾つかの方法では最初にスルホン化ブロックコポリマーを非ハロゲン化脂肪族溶媒中で調製することを含み、場合により以下でさらに説明する通り、このコポリマーを膜に成型する。脂肪族溶媒中でスルホン化した後、場合によりさらに膜に成型したら、該スルホン化ポリマーを次いで非プロトン性極性溶媒中に溶解して逆ミセルを含む溶液を生成することができる。この第2の溶液は次いで成型して膜またはフィルムを形成することができる。
【0082】
本明細書に開示される複数の実施形態によれば、上記の調製されたブロックコポリマーはスルホン化されて非ハロゲン化脂肪族溶液中に溶解したスルホン化ポリマー生成物が得られるが、溶液中でスルホン化ポリマーはミセル形態に配置される。
【0083】
いかなる特定の理論にも拘束されるものではないが、非ハロゲン化脂肪族溶媒中におけるスルホン化ブロックコポリマーのミセル構造は、相当量の使用済みスルホン化剤残基を有するスルホン化ブロックを含むコアを有し、このコアは非ハロゲン化脂肪族有機溶媒によって膨潤したスルホン化されにくいブロックに取り囲まれている、という記述によって説明することができるというのが現在の考えである。以下でより詳しくさらに説明されるように、スルホン化ブロックは、スルホン酸および/またはスルホン酸エステル官能基が存在しているので極性が高い。従って、このような溶媒中では、スルホン化ブロックが分子のコアに隔離される一方、外部のスルホン化されにくいポリマーブロックは、非ハロゲン化脂肪族溶媒によって溶けやすくなったシェルを形成する。分離したミセルの形成に加えて、ポリマー凝集物も形成されてもよい。いかなる特定の理論にも拘束されるものではないが、ポリマー凝集物は、ミセルについて説明済みの方法以外でのポリマー鎖が会合した結果得られる分離している、もしくは分離していない構造、および/または2つ以上の分離したミセルがゆるく凝集した群として記述することができる。従って、ミセル形態の溶媒和したスルホン化ブロックコポリマーは、分離したミセルおよび/またはミセルの凝集物を含んでもよく、このような溶液は場合により、ミセル構造以外の構造を有する凝集したポリマー鎖を含む。
【0084】
本明細書に記述されるようにミセルはスルホン化法の結果、形成することができ、または、ブロックコポリマーはスルホン化の前にミセル構造に配置してもよい。
【0085】
幾つかの実施形態において、ミセルの形成については、DadoらによるWO2008/089332またはHandlinらによるWO2009/137678に記載されているスルホン化法を使用してもよい。これらの方法はWillisらによるUS7,737,224に記載されているようにスルホン化されたスチレン系ブロックコポリマーを調製するのに有用である。
【0086】
重合後にポリマーは硫酸アシルなどのスルホン化試薬を用いて、少なくとも1つの非ハロゲン化脂肪族溶媒中でスルホン化することができる。幾つかの実施形態において前駆体ポリマーは、前駆体ポリマーを生産した結果得られる反応混合物から単離、洗浄、乾燥した後、スルホン化することができる。幾つかの他の実施形態において前駆体ポリマーは、前駆体ポリマーを生産した結果得られる反応混合物から単離することなくスルホン化することができる。
【0087】
a)溶媒
有機溶媒は非ハロゲン化脂肪族溶媒であることが好ましく、1つまたは複数のスルホン化されにくいブロックまたはコポリマーの非スルホン化ブロックを溶媒和するような第1の非ハロゲン化脂肪族溶媒を含む。第1の非ハロゲン化脂肪族溶媒は、約5から10個の炭素を有する置換または非置換環状脂肪族炭化水素を含んでもよい。非限定的な例には、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロペンタン、シクロヘプタン、シクロオクタンおよびこれらの混合物が含まれる。最も好ましい溶媒は、シクロヘキサン、シクロペンタンおよびメチルシクロヘキサンである。第1の溶媒はまた、ポリマーブロックのアニオン重合用の重合媒体として用いる溶媒と同じでもよい。
【0088】
幾つかの実施形態においてブロックコポリマーは、第1の溶媒のみ用いる場合においても、スルホン化の前にミセル形態であってもよい。第2の非ハロゲン化脂肪族溶媒を第1の非ハロゲン化脂肪族溶媒中の前駆体ポリマー溶液に加えると、ポリマーミセルおよび/または他のポリマー凝集物の「予備形成(pre−formation)」をもたらしたり、または助けたりする可能性がある。一方、第2の非ハロゲン化溶媒は第1の溶媒と混和するが、プロセス温度範囲において前駆体ポリマーのスルホン化されやすいブロックに対しては貧溶媒であり、また、スルホン化反応を妨げないように選ぶことが好ましい。言い換えれば、前駆体ポリマーのスルホン化されやすいブロックは、プロセス温度範囲において実質的に第2の非ハロゲン化溶媒に溶けないことが好ましい。前駆体ポリマーのスルホン化されやすいブロックがポリスチレンの場合、ポリスチレンに対しては貧溶媒であって、また第2の非ハロゲン化溶媒として用いることができる適した溶媒には、炭素が約12個までの直鎖および分岐鎖脂肪族炭化水素、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、2−エチルヘキサン、イソオクタン、ノナン、デカン、パラフィン系オイル、パラフィン系混合溶媒などが含まれる。第2の非ハロゲン化脂肪族溶媒の好ましい1つの例はn−ヘプタンである。
【0089】
予備形成したポリマーミセルおよび/または他のポリマー凝集物によって、第2の溶媒を加えずに達成できるよりも大幅に高い濃度で、本質的にゲル化させないようにすることなくポリマーのスルホン化を進めることができる。さらに、この手法によってポリマーのスルホン化転換率および副生成物の最小化の点から、C硫酸アシル(硫酸プロピオニル)など、より極性の高い硫酸アシルの有用性を実質的に高めることができる。言い換えれば、この手法によって、より極性の高いスルホン化試薬の有用性を高めることができる。このような硫酸アシルは以下でさらに説明する。
【0090】
b)ポリマー濃度
幾つかの実施形態によれば、高いレベルのスチレンスルホン化は、前駆体ポリマーの濃度を少なくともスルホン化の初期段階の間、前駆体ポリマーの限界濃度よりも低く保つことにより、反応混合物、反応生成物またはこれらの両方において、実質的にポリマーを沈殿させずに、またゲル化させないようにすることなく実現することができる。実質的にポリマーが沈殿しない混合物中での処理の過程で、局部的に溶媒が蒸発した結果、少量のポリマーが表面に沈着することがあることを当業者なら理解するであろう。例えば、幾つかの実施形態によれば、5%以下のポリマーが混合物中で沈殿したとき、混合物は実質的にポリマーが沈殿しないと見なしている。
【0091】
スルホン化を実施することができるポリマー濃度は出発ポリマーの組成に依存するが、この理由は、これよりも低い濃度ではポリマーをゲル化させないようにしない、またはポリマーのゲル化が無視できるという限界濃度は、ポリマーの組成に依存するからである。上述の通り限界濃度はまた、使用する溶媒または溶媒混合物の本性および所望のスルホン化の程度など、他の因子にも依存する。一般にポリマー濃度は、好ましくは実質的にハロゲン化溶媒がない反応混合物の全重量を基準にして、約1重量%から約30重量%、または約1重量%から約20重量%、または約1重量%から約15重量%、または約1重量%から約12重量%、または約1重量%から約10重量%の範囲に入る。特定の組み合わせおよび範囲が本明細書に記載されていなくても、適した範囲には特定の重量パーセントの任意の組み合わせが含まれることを当業者なら理解するであろう。
【0092】
本発明に記載された技術の幾つかの実施形態によれば、前駆体ポリマーまたは前駆体ポリマーの混合物の初期濃度は、反応混合物の全重量を基準にして、前駆体ポリマーの限界濃度未満、または約0.1重量%から前駆体ポリマーの限界濃度未満の濃度、または約0.5重量%から前駆体ポリマーの限界濃度未満の濃度、または約1.0重量%から前駆体ポリマーの限界濃度を約0.1重量%下回る濃度、または約2.0重量%から前駆体ポリマーの限界濃度を約0.1重量%下回る濃度、または約3.0重量%から前駆体ポリマーの限界濃度を約0.1重量%下回る濃度、または約5.0重量%から前駆体ポリマーの限界濃度を約0.1重量%下回る濃度の範囲に保つべきである。特定の組み合わせおよび範囲が本明細書に記載されていなくても、適した範囲には特定の重量パーセントの任意の組み合わせが含まれることを当業者なら理解するであろう。
【0093】
少なくとも幾つかの実施形態において、ポリマー濃度を限界濃度未満に保つと、この結果、ゲル化につながるより高い濃度条件に比べて副生成物カルボン酸の濃度が低い反応混合物になることができる。
【0094】
しかし、本技術の幾つかの実施形態におけるスルホン化ポリマーの生産の間、特にセミバッチ式または連続生産方法において、反応混合物中のポリマーの全濃度が前駆体ポリマーの限界濃度を上回ることがあることを当業者なら理解するであろう。
【0095】
c)スルホン化剤
複数の実施形態によれば、硫酸アシルを重合されたブロックコポリマーのスルホン化のために用いてもよい。アシル基は、好ましくは、CからC、またはCからC、またはCからCの、直鎖、分岐鎖もしくは環状カルボン酸、無水物もしくは酸塩化物またはこれらの混合物から誘導される。これらの化合物は、非芳香族炭素−炭素二重結合、ヒドロキシル基または硫酸アシルと反応する、もしくはスルホン化反応条件下で容易に分解するどのような他の官能性も含まないことが好ましい。例えば、カルボニル官能性からアルファ位に脂肪族四級炭素を有するアシル基(例えば、無水トリメチル酢酸から誘導される硫酸アシル)は、ポリマーのスルホン化反応の間に容易に分解すると見受けられ、好ましくは、記載されている本技術では避けるべきである。芳香族カルボン酸、無水物および酸塩化物、例えば、無水安息香酸および無水フタル酸から誘導されるアシル基も、本技術における硫酸アシルを生成するために有用なアシル基の範囲内に含まれる。アシル基は、アセチル、プロピオニル、n−ブチリルおよびイソブチリルの群から選択されるのがより好ましい。さらにより好ましくは、アシル基はイソブチリルである。硫酸イソブチリルによって高度にポリマーがスルホン化され、副生成物の形成が比較的最小限になることが発見されている。
【0096】
カルボン酸無水物と硫酸からの硫酸アシルの生成は次の反応によって表される。
【0097】
【化1】
硫酸アシルは、次式のアルファ−スルホン化カルボン酸を生成するスルホン化反応の過程でゆっくりと分解される。
【0098】
【化2】
本発明に記載された技術の1つの実施形態では、硫酸アシル試薬は、非ハロゲン化脂肪族溶媒中のポリマーの溶液に加える前に、別の「予備生成」反応内で行われる反応内でカルボン酸無水物および硫酸から得られる。予備生成反応は溶媒あり、または溶媒なしで実施することができる。溶媒を用いて硫酸アシルを予備生成するときは、溶媒は非ハロゲン化溶媒が好ましい。または硫酸アシル試薬は、非ハロゲン化脂肪族溶媒中のポリマーの溶液内でインサイチュ反応により得ることもできる。本技術のこの実施形態によれば、硫酸に対する無水物のモル比は約0.8から約2にすることができ、約1.0から約1.4が好ましい。この好ましい方法において用いる硫酸は、重量で濃度が約93%から約100%であることが好ましく、濃度が約95%から約100%であることがより好ましい。当業者は、インサイチュ反応で硫酸アシルを生成するために発煙硫酸を硫酸の代替として用いることができることを理解されよう。ただし、反応混合物の意図しない炭化を避ける、または最低限にするために発煙硫酸の強度は十分に低いものとする。
【0099】
本技術の別の実施形態において、硫酸アシル試薬は、脂肪族溶媒中のポリマーの溶液に加える前に、別の「予備生成」反応内で行われる反応内でカルボン酸無水物および発煙硫酸から得ることができ、ここで発煙硫酸の強度は遊離三酸化硫黄約1%から約60%、または遊離三酸化硫黄約1%から約46%、または遊離三酸化硫黄約10%から約46%の範囲であり、ここで発煙硫酸中に存在する硫酸に対する無水物のモル比は約0.9から約1.2である。
【0100】
さらに硫酸アシル試薬はカルボン酸無水物から、硫酸、発煙硫酸または三酸化硫黄の任意の組み合わせとの反応により調製することもできる。さらに、硫酸アシル試薬はカルボン酸から、クロロスルホン酸、発煙硫酸、三酸化硫黄またはこれらの任意の組み合わせとの反応により調製することができる。さらに、硫酸アシル試薬はカルボン酸塩化物から硫酸との反応により調製することもできる。または、硫酸アシルはカルボン酸、無水物および/または酸塩化物の任意の組み合わせから調製してもよい。
【0101】
硫酸アシルを用いたポリマースチレン系繰り返し単位のスルホン化は、次の反応によって表すことができる。
【0102】
【化3】
硫酸アシル試薬は、ポリマー溶液中に存在するスルホン化されやすいモノマーの繰り返し単位のモル数に対して、軽度にスルホン化されたポリマー生成物に対して非常に低いレベルから重度にスルホン化されたポリマー生成物に対して高いレベルの範囲の量で用いてもよい。硫酸アシルのモル量は、所与の方法から生成される硫酸アシルの理論量と定義することができるが、この量は、反応において制限的な試薬によって定まる。本技術の幾つかの実施形態によるスチレンの繰り返し単位(即ち、スルホン化されやすい単位)に対する硫酸アシルのモル比は、約0.1から約2.0、または約0.2から約1.3、または約0.3から約1.0の範囲であってもよい。
【0103】
本発明に記載された技術の少なくとも幾つかの実施形態によれば、スルホン化されやすいブロックポリマー内におけるビニル芳香族モノマーのスルホン化の程度(イオン交換容量)は、スルホン化ポリマー1グラム当たりスルホン酸が約0.4ミリ当量(meq)(0.4meq/g)以下、またはスルホン化ポリマー1グラム当たりスルホン酸が約0.6meq(0.6meq/g)以下、またはスルホン化ポリマー1グラム当たりスルホン酸が約0.7meq(0.8meq/g)以下、またはスルホン化ポリマー1グラム当たりスルホン酸が約1.0meq(1.0meq/g)以下、またはスルホン化ポリマー1グラム当たりスルホン酸が約1.2meq(1.2meq/g)以下、またはスルホン化ポリマー1グラム当たりスルホン酸が約1.3meq(1.3meq/g)以下、またはスルホン化ポリマー1グラム当たりスルホン酸が約1.6meq(1.6meq/g)以下、またはスルホン化ポリマー1グラム当たりスルホン酸が約1.8meq(1.8meq/g)以下、またはスルホン化ポリマー1グラム当たりスルホン酸が約2.0meq(2.0meq/g)以下、またはスルホン化ポリマー1グラム当たりスルホン酸が約2.2meq(2.2meq/g)以下、またはスルホン化ポリマー1グラム当たりスルホン酸が約2.5meq(2.2meq/g)以下である。最も好ましい範囲は、スルホン化ポリマー1グラム当たりスルホン酸が1.0meq(1.0meq/g)以下である。ポリマーのスルホン化レベルを表す別の手段としてスルホン化モルパーセントで表す。典型的なスルホン化のレベルにおいては、各Bブロックにスルホン官能基が1つまたは複数含まれる。好ましいスルホン化のレベルは、各Bブロック中のスルホン化されやすいビニル芳香族モノマーのモルパーセントを基準にして、約10から約100モルパーセント、または約20から95モルパーセント、または約30から90モルパーセントおよびまたは約40から約70モルパーセントであり、このモノマーとして例えば、非置換スチレンモノマー、オルト置換スチレンモノマー、メタ置換スチレンモノマー、アルファ−メチルスチレンモノマー、1,1−ジフェニルエチレンモノマー、1,2−ジフェニルエチレンモノマー、これらの誘導体またはこれらの混合物がありうる。特定の組み合わせおよび範囲が本明細書に記載されていなくても、適したスルホン化レベルの範囲には特定のモルパーセントの任意の組み合わせが含まれることを当業者なら理解するであろう。
【0104】
スルホン化ポリマーのスルホン化のレベルまたは程度は、当業者に周知のNMR法および/または滴定法および/または以下の実施例に記載されており、当業者には理解できる2つの別々の滴定を用いる方法によって測定することができる。例えば、本技術の方法から得られる溶液は、1H−NMRにより約60℃(±20℃)で分析することができる。スチレンのスルホン化のパーセントは、1H−NMRスペクトルにおける芳香族のシグナルの積分により計算することができる。別の例として、反応生成物は2つの別々の滴定(「二滴定法」)によって分析し、スチレン系ポリマースルホン酸、硫酸および非ポリマー性副生成物スルホン酸(例えば、2−スルホ−アルキルカルボン酸)のレベルを求め、次いで、マスバランスに基づいてスチレンのスルホン化の程度を計算することができる。または、スルホン化のレベルは乾燥したポリマーサンプルを滴定によって求めることができ、このサンプルはアルコールと水の混合物中のNaOHの標準溶液を含むテトラヒドロフランに再溶解させたものである。最後の例の場合、副生成物の酸を確実に厳密に取り除くことが好ましい。
【0105】
ポリマーをスルホン化するための実施形態を硫酸アシル試薬に関する文脈において上述したが、他のスルホン化試薬の有用性も検討される。例えば、三酸化硫黄をリン酸トリエチルなどのリン酸エステルと錯化/反応させて誘導されるスルホン化試薬の使用も本技術において実証されている。このようなスルホン化試薬の化学については、スルホン酸アルキルエステルをかなりの程度取り込んで芳香族をスルホン化することが当技術分野において知られている。従って、結果として生じるスルホン化ポリマーはスルホン酸基とスルホン酸アルキルエステル基の両方を含むものと思われる。検討された他のスルホン化試薬には三酸化硫黄を五酸化リン、ポリリン酸、1,4−ジオキサン、トリエチルアミンなどと反応または錯化させて誘導されるものが含まれるが、これらに限定されない。
【0106】
d)反応条件
硫酸アシルと芳香族含有ポリマー(例えば、スチレン系ブロックコポリマー)などのスルホン化されやすいブロックコポリマーとの間のスルホン化反応は、約20℃から約150℃、または約20℃から約100℃、または約20℃から約80℃、または約30℃から約70℃、または約40℃から約60℃(例えば約50℃)の範囲の反応温度で実施することができる。反応時間は、反応の温度に応じて約1分未満から約24時間またはさらに長い時間の範囲内になりうる。カルボン酸無水物と硫酸のインサイチュ反応を利用する好ましい硫酸アシルの実施形態の幾つかにおいては、反応混合物の初期温度は所期のスルホン化反応温度とほぼ同じになりうる。または、この初期温度は、その後の所期のスルホン化反応温度よりも低くてもよい。好ましい実施形態において、硫酸アシルはインサイチュで約20℃から約40℃(例えば約30℃)において約0.5から約2時間で、または約1から約1.5時間で生成することができ、次いで反応混合物を約40℃から約60℃に加熱して反応の完了を早めることができる。
【0107】
必要ではないが、場合によりクエンチ剤を加えることによって反応をクエンチするステップを実施できるが、このクエンチ剤としては例えば、水またはメタノール、エタノールもしくはイソプロパノールなどのヒドロキシル含有化合物がありうる。典型的にはこのようなステップでは、少なくとも残存する未反応の硫酸アシルと反応するのに十分な量のクエンチ剤を加えることができる。
【0108】
本発明に記載された技術の幾つかの実施形態において、非ハロゲン化脂肪族溶媒中の芳香族含有ポリマーのスルホン化は、芳香族含有ポリマーをバッチ反応またはセミバッチ反応においてスルホン化試薬と接触させることにより実施できる。本技術の他の幾つかの実施形態では、スルホン化は連続反応において実施できるが、この連続反応は例えば、連続撹拌タンク反応器または一連の2つ以上の連続撹拌タンク反応器を用いることで実施可能になる。
【0109】
スルホン化の結果、ミセルのコアはスルホン酸および/またはスルホン酸エステル官能性を有するスルホン化されやすいブロックを含み、ブロックコポリマーのスルホン化されにくいブロックを含む外部のシェルに取り囲まれている。溶液中におけるこの相分離の(ミセルを形成させる)駆動力は、スルホン化ブロックとスルホン化ブロックコポリマーの非スルホン化ブロックとの間で極性が相当に異なることであるとされる。後者の非スルホン化ブロックは非ハロゲン化脂肪族溶媒、例えば上に開示された第1の溶媒によって大量に溶解する。一方、スルホン化ポリマーブロックは、ミセルのコア内に集まるように配置するであろう。
【0110】
f)フィルム成型
スルホン化反応が完了した後、ブロックコポリマーは、ブロックコポリマーを単離する必要なく、直接フィルムに成型することができる。
【0111】
ポリマーを成型するために従来の方法を用いてフィルムを形成してもよい。用いられる方法の1つは溶液キャスティングと呼ばれることがある。この手順によれば、上述のスルホン化反応から得られるスルホン化コポリマー溶液は、シリコーン処理したガラス板など、不活性な基材の上に注いでもよい。過剰な溶液はガラス棒を用いて取り除くことができる。次いで残った溶液は溶媒が蒸発するまで完全に乾燥させ、これによりスルホン化コポリマーの成型フィルムが残る。この特定の実施形態においてポリマーフィルム(例えば膜)は水中に沈めることができ、水中にある間、フィルムは形状を保持する(固体)。言い換えれば、ブロックコポリマーは水中で溶けず、または水中で分散しない。
【0112】
6.極性および活性金属基材
基材表面にスルホン化ブロックコポリマー膜をラミネーションするための本発明による使用のための基材には、膜のスルホン基との相互作用および結合(例えば水素結合、共有結合、イオン結合)の形成が可能な充実性および多孔性の基材が含まれる。この目的のために有用な基材は極性または活性金属基材である。
【0113】
スルホン酸エステル膜と共に用いるためのこのような基材は、表面に活性金属および/または極性基または極性部分を有する基材である。特に極性基には、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基またはエーテル基などの酸素含有基が含まれる。さらに極性基には、アミン基、ニトリル基、スルホンアミド基またはアミド基などの窒素含有基ならびに塩素、フッ素、臭素およびヨウ素を含むハロゲンが含まれる。ポリマー基材については、極性基または原子が主鎖の一部であっても、または主鎖から延びていてもよい。
【0114】
従って、本明細書において形成される膜と結合を形成するために有用な極性基材には、金属、金属合金、ガラス、シリカ、コンクリート、セラミックス、紙および他のセルロース系材料、各種金属酸化物、酸化炭、本革および合成皮革、動物の皮などが含まれる。さらに基材には、アクリレート、メタクリレート、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアクリロニトリル、ポリアクリルアミド、ポリエーテル、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ酢酸ビニル(PVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリアミンポリアミド、ナイロン、スチレンアクリロニトリルポリマー(SAN)、エポキシド、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)、ポリカーボネートおよび同種のものなどの主鎖および/または主鎖から延びる極性置換基の中に極性結合を有するポリマー基材が含まれる。基材は、ワックス、非極性ポリマーまたは他の保護被膜など、どのような他の化合物によっても処理されていないことが好ましく、というのも、これらは膜と基材との間の相互作用を妨げる可能性があるからである。
【0115】
スルホン化ブロックコポリマーと相互作用するための表面を有する別の基材には、金属および半金属および金属合金が含まれる。本明細書に開示されるフィルムと相互作用するために用いられる金属は活性化金属および/または不動態化金属である。
【0116】
幾つかの実施形態において、使用される金属は不動態化されており、つまり空気および/または水の存在下で酸化されている。この結果、酸化物の層が金属の表面に形成されることがあり、これによって極性表面が形成される。従って、部分的または完全に水を含んだブロック・コポリマー・フィルムのスルホン酸官能基は、部分的または完全に酸化された金属の表面と相互作用することがある。使用される金属には、周期表の第2から第4周期の金属を含む周期表の2族から13族の金属が含まれる。金属は特定の用途を目的として用いられ、従って薄板または箔に形成できるものが好ましい。
【0117】
他の実施形態において用いられる好ましい金属には、スルホン化ブロックコポリマー膜のスルホン官能基と直接相互作用する傾向がある金属が含まれる。このような実施形態において好ましい金属は、活性が高い金属、強い還元剤であり、酸と反応する可能性が高い。従って、このような金属は、いわゆる元素の活性系列の中で上位にある。具体的には、このような金属には最初に挙げた活性が最も高い金属および活性が低い、後に続く各金属と共に、Li、K、Ba、Ca、Na、Mg、Al、Zn、Cr、Fe、Cd、Co、Ni、SnおよびPbが含まれる。金属Li、K、Ba、Ca、NaおよびMgは、空気の存在下で自然発火するので取り扱いには注意しなければならない。活性金属は、単体または金属と組み合わせて合金または非金属を含む複合材として使用することができる。高い活性だけでなく、多くの用途にわたって広く使用できることから、本発明による使用のために最も好ましい金属はAlである。
【0118】
基材には、非金属の充填材または他の材料が含まれていてもよく、これによって複合材料または合金を形成する。しかし他の材料が基材中に存在する場合、飽和または部分的に飽和したスルホン化ブロック・コポリマー・フィルムと基材表面との間で相互作用し、結合するように、十分な量の金属が基材の表面に設けられるべきである。
【0119】
幾つかの実施形態において、いかなる特定の理論にも限定されるものではないが、スルホン基は活性化金属基材の表面で原子価ゼロの活性化金属と反応すると考えられる。以下の式に示す通り、ポリマー鎖Rから延びるスルホ基にはヒドロキシル基が含まれる。原子価ゼロの金属Mは酸素と反応し、これによって水素原子と置換する。
【0120】
【化4】
上式においてR基はポリマー鎖である。この機構によって、スルホン基と金属との間で強い結合が形成され、従って本発明の目的のためにスルホン化ブロックコポリマー膜と金属基材との間の永続的な結合と呼ぶことができるものを形成する。図1に示したのは、スルホン官能基と金属基材としてのアルミニウムとの相互作用の説明図である。
【0121】
述べた通りガラスは、本明細書に開示されるスルホン化ブロックコポリマー膜とラミネーションするために用いられる極性基材である。いかなる特定の理論にも拘束されるものではないが、ガラスは酸素原子を含むような分子構造であると考えられ、特に複数のSi−O結合が膜のスルホン基と相互作用すると考えられる。以下の式に示す通り、スルホン基はガラスの表面のシロキシル基と反応し、スルホン酸エステル結合を形成する。
【0122】
【化5】
この機構によって、スルホン基とケイ素原子との間で強い結合が形成され、従って本発明の目的のためにスルホン化ブロックコポリマー膜とガラス基材との間の永続的なラミネーションと呼ぶことができるものを形成する。
【0123】
上式で示した金属基材とガラス基材との相互作用は、極性官能性を有する他の基材に等しく適用できる。このような場合、スルホン酸のヒドロキシル基は、ヒドロキシル基の水素原子を置換する極性基と反応して、強い結合を形成することになる。
【0124】
【化6】
上の概念はさらに図2に例示しており、この図2ではスルホ官能性がポリアミド表面と反応して水素結合を形成している。
【0125】
さらに、いかなる特定の理論にも拘束されるものではないが、膜の構造は水で飽和したときに変化すると考えられる。既に述べた通り、スルホン化ブロックコポリマー膜は、スルホン酸を有するセグメントを含むイオン相ならびに非スルホン化セグメントのセグメントからなる非極性の硬いプラスチック相からできている。イオン相1および硬いプラスチック相2でできた膜の断面を図3に模式的に表した。膜が乾燥しているとき、イオン相1は図3の左側に示した通り膜の表面3と同じ高さか、下に膨らんでいる。しかし、イオン相は容易に水で膨潤するため、膜が湿っているとき、イオン相1は水を吸収して膨張し、これによって例えば図3の右側に例示したように膜の表面3を越えて膨らむ。
【0126】
さらに説明図として、図4には乾燥したスルホン化ブロックコポリマー膜のサンプルの顕微鏡画像を示す。高さの画像は比較的平坦で特徴のない膜の表面を表している。暗い領域から明るい領域までのスケールバー上の幅は、わずか75オングストロームである。従ってイオン相は、乾燥した膜の表面より上方に膨らんでいないと考えられる。さらに図5では、水を含んだスルホン化ブロックコポリマー膜のサンプルの顕微鏡画像を示す。この高さの画像は、膜の表面より上方に持ち上げられた、水で膨潤した軟らかいハニカム様構造のイオンミクロ相を示している。暗い領域から明るい領域までのスケールバー上の幅は、1000オングストローム(100ナノメートル)を超えている。水を含んだこの膜の表面は高度にテクスチャー加工されている。分散している暗い相は、選択的にスルホン化されたブロックコポリマーの硬いプラスチックミクロ相である。この相は、膜の水を含んだスルホン化ポリスチレンミクロ相よりも低くくぼんでいる。従って水を含んだ状態では、イオン相は膜の表面より上方に膨らんでいると考えられる。
【0127】
水を含ませた結果として膜の表面に対するイオン相の位置が変化することによって、少なくとも部分的には、ラミネーションによって得られる強い結合を説明できる。水を含んだときにイオン相が膜の表面を越えて膨らむので、イオン相は、この上に貼付けられている基材の表面と接触することができるようになる。イオン相にはスルホン官能基が含まれるので、この官能基と基材の表面の極性基および金属との間で相互作用および/または反応が起こる。スルホン官能基と基材の表面の極性基および活性金属との相互作用は、膜と基材との間に強くラミネートされた結合をもたらすと考えられる。
【0128】
7.ラミネーション
スルホン化ブロックコポリマーから成型されたフィルムは極性または活性金属基材上にラミネートされる。これは、部分的または完全にフィルムに水を含ませるのに十分な溶媒にフィルムをさらすことによって行うことができる。
【0129】
本明細書に開示されるラミネーションのために用いられる溶媒は水である。好ましい溶媒として水は、単体または水に加えた少量の他の溶媒と組み合わせて用いることができる。溶媒として用いるための水には、少量の不純物が含まれていてもよいため、通常の水道水で十分である。しかし、水源には湧水、蒸留水、純水、濾水もしくは脱イオン水または他の形態の処理水もしくは未処理水が含まれる。天然水中に典型的に見られる塩、ナトリウム塩またはカリウム塩、塩素または各種金属イオンなどの少量の他の不純物があっても、水は本明細書に開示されるラミネーションにはうまく使用できる。水は、どのような不純物もフィルムまたはスルホン官能基との相互作用を妨げないように、十分に清浄であるべきである。
【0130】
さらに水には、水に加えた他の極性溶媒があってもよい。追加の極性溶媒には、膜を分解しない、または乾燥時に実質的に膜の固有の特性(透湿度「MVTR」など)を妨げない溶媒が含まれる。極性溶媒には、アルコール、ジオール、エステル、エーテル、ケトン、アルデヒド、カルボン酸のエステル、アクリレートが含まれ、1から20個の炭素原子が含まれ、1から8個の炭素原子が好ましく、1から4個の炭素原子が好ましく、直鎖、分岐鎖、環状、脂肪族または芳香族のものでもよい。どのような追加の溶媒も水と混和するものが好ましい。フィルムにしわが寄ったり、フィルムが曇ったりしないよう、また水の存在下において層間剥離する可能性を避けるために高レベルの水の濃度が適用されるべきであることが理解されるであろう。
【0131】
フィルムは、当技術分野において周知の従来の方法により溶媒にさらされてもよい。1つの方法には浴(bath)が含まれ、この方法では容器に溶媒を注ぎ、溶媒中にフィルムを漬ける。フィルムは浴中に数秒間から100時間、フィルムが十分に水を含むまで漬けることができる。少なくともフィルムは、水浴中に漬けて24時間後には完全に水を含むことができる。完全に水を含む時間は、フィルムの厚さなどの因子に依存する。さらに、フィルムが完全に水を含んだ時点というのは、平衡に達した時点でもある。
【0132】
他の方法として含まれるものとして、フィルムに水を吹き付けても、または噴射または噴霧によりフィルムに水蒸気を当ててもよい。別の方法では、フィルムを湿っぽい、もしくは湿気の多い空気中に十分な期間置いて部分的もしくは完全にフィルムに水を含ませても、またはスキージーを使用してもよい。これらの方法で水をフィルム中に吸収させることができる。
【0133】
幾つかの実施形態において、フィルムは完全に(即ち100%)溶媒を含む。フィルムがうまく極性または活性金属基材にラミネートされるために、フィルムが完全に水を含む必要はない。フィルムは、フィルムが極性または活性金属基材と相互作用して乾燥時に結合を形成するように十分に湿らせるべきである。幾つかの実施形態において、フィルムは部分的に水を含んでもよい。例えば幾つかの実施形態において、フィルムは少なくとも25%水を含んでも、または少なくとも30%水を含んでも、または少なくとも50%水を含んでも、または少なくとも60%水を含んでも、または少なくとも75%水を含んでも、または少なくとも90%水を含んでもよい。フィルムの厚さ、スルホン化レベル、表面形態、温度および他の因子にもよるが、フィルムは、数秒間水中に漬けた後でも、または他の水付与方法を施した後でも、ラミネーションする目的について十分に水を含むことができる。
【0134】
膜を基材にラミネートするために十分な水の量を求めるための別の方法は、吸水値によるものである。幾つかの実施形態において吸水値は、少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも25%、または少なくとも35%、または少なくとも50%、または少なくとも80%であるべきである。本発明のブロックコポリマーでは吸水値が低い。従って、最大吸水値は150%未満、または125%未満、または100%未満、または80%未満、または40%未満でもよい。従って完全に水を含んだとき、最大吸水値に達することになる。従って、極性または活性金属基材へのラミネーションを得るために、今述べた範囲内の低い吸水値を適用してもよい。
【0135】
フィルムが十分な量の溶媒を吸収した後、フィルムを直接基材に貼付けることができる。フィルムは基材の上に平坦に置き、気泡を閉じ込めないように配置すべきである。ガラス棒を適用してフィルムを基材の上で、さらに平らにしてもよい。フィルムを基材に施すために、プレス機、ローラーアセンブリまたは手作業を含む、当技術分野において周知の従来の方法を用いることができる。
【0136】
フィルムを基材に貼付けた後、フィルムを放置して乾燥させる。乾燥するための時間は溶媒のタイプおよび量、温度ならびに空気の湿度に依存するため、約1分から24時間以上になりうる。乾燥した温風を用いて乾燥を早めることができる。前述の通りフィルムが乾燥するにつれて、フィルムは基材の極性または活性金属表面との結合を形成する。
【0137】
乾燥後、本発明によるラミネートは極性または活性金属基材に強く結合される。基材とポリマーフィルムとの強い結合によって、ポリマーフィルムが基材表面のすべての起伏に実質的に沿っており、しわ、うね、泡または他のこのような欠陥のない、しわが寄らないラミネートが生み出される。フィルムは、たとえ水に長時間、例えば少なくとも29時間以上、または100時間以上、または118時間以上、または126時間以上、または200時間以上さらされたときでも層間剥離しない。従って、本発明によるラミネートはさまざまな用途に有用である。
【0138】
1つの用途には、空気対空気のエネルギー交換システム、例えば、US4,769,053に開示されているようなトータル・エンタルピー空気対空気回転式エネルギー交換器内での使用が含まれ、この開示は全体が参照により本明細書に組み込まれる。本明細書に開示されるラミネートは、エネルギー交換媒体として使用してもよく、従って当技術分野において典型的に使用されるような乾燥剤が必要なくなる。開示されているフィルムはMVTRの率が高いので、このようなエネルギー交換システムにおいて多大な利益がもたらされる。空気流が回転式の熱交換器を通過するとき、本明細書に開示されているようなフィルムにより、湿気の多い空気流から潜熱を吸収し、乾燥した空気流内に吸収した潜熱を放出することができる。従って効率的な熱交換が、本明細書に開示されているようなラミネートによって容易になる。
【0139】
別の用途には、これらの膜によって優れた分離性能が実証されているさまざまな水の濾過および水の脱イオン法が含まれる。本明細書に開示されるラミネーション技術によって形成される複合材は、破裂強さが改善されており、さらにラミネートされた構造物の輪郭は、膜の表面上における水の流れを改善する。布地、特にナイロンおよびナイロン−綿ブレンドをベースにした布地では、本開示の水活性化付着法を用いてこれらの布地の表面に膜を付けることができる。本明細書による膜は、デカールなど装飾の目的のため、または膜が電極もしくはセンサーとして、発汗において助けになる水輸送のため、もしくは毒物の排除のために用いられる機能的な適用のために、本明細書による基材にラミネートすることもできる。本明細書に開示される水活性化ラミネーション法は、追加の固体表面を改変するために用いることもできる。膜をコンクリート、さまざまなエンジニアリング熱可塑性プラスチック(ポリエステル、ナイロン、ポリエーテルなど)または金属表面などの固体表面に「接着する」(即ちラミネートする)ために水を用いる利益は、滑り抵抗の改善、装飾性の改良、表面の強化、電気輸送性能の向上のため、または雨をはじくためにもなりうる。開示されているラミネート技術のさまざまな医療用途も含まれており、例えばラミネートは傷口の包帯にも役立つ可能性がある。さらに、本明細書に開示される水活性化結合技術は、紙の表面に膜をラミネートするために用いることができるので、ラベルまたは切手ならびに他の多くの用途に有用である。
【0140】
8.その他の成分
さらに、本明細書に開示されるコポリマーは、コポリマーの特性またはスルホン化ブロックコポリマーから形成された膜に悪影響を及ぼさない他の成分と混ぜ合わせることができる。さらに、開示されたブロックコポリマーは、オレフィンポリマー、スチレンポリマー、粘着付与樹脂、親水性ポリマーおよびエンジニアリング熱可塑性プラスチック樹脂を含む多くの種類の他のポリマーと、イオン性液体、天然油、芳香剤などの高分子液体、ナノクレイ、カーボンナノチューブ、フラーレンなどの充填材ならびにタルク、シリカおよび同種のものなどの従来の充填材とブレンドしてもよい。
【0141】
さらに本発明のスルホン化ポリマーは、Kraton Polymers LLC.から入手できるスチレンブロックコポリマーなど、従来のスチレン/ジエンおよび水素化スチレン/ジエンブロックコポリマーとブレンドしてもよい。これらのスチレンブロックコポリマーには、直鎖状の水素化および非水素化S−B−S、S−I−S、S−EB−S、S−EP−Sブロックコポリマーが含まれる。同様に含まれるものには、イソプレンおよび/またはブタジエンと共にスチレンをベースにした放射状ブロックコポリマーならびに選択的に水素化された放射状ブロックコポリマーがある。
【0142】
さらに、スチレンブロックコポリマーS−B−S、S−I−S、S−EB−S、S−EP−Sは、例えばマレイン酸または無水マレイン酸などの誘導体などのモノカルボン酸またはポリカルボン酸化合物を用いて官能化してもよい。好ましい酸化合物は、不飽和モノカルボン酸ならびに好ましくは少なくとも1つのオレフィン不飽和と無水物、塩、エステル、エーテルおよびこのような酸からの他の置換誘導体を備える、複数のカルボキシル基を含む酸(C−C10)である。このような物質の例には、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、アクリル酸、アクリル酸ポリエーテル、アクリル酸無水物、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、メサコン酸、アンゲリカ酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸および無水シトラコン酸が含まれる。スチレン系ブロックコポリマーを官能化するための好ましいモノマーは、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸およびこれらの誘導体である。これらの官能化されたスチレン系ブロックコポリマー(F−SBC)は、スルホン化ブロックコポリマー(SBC)と(F−SBC/SBC)比率20/80から80/20でブレンドしてもよく、30/70から70/30がより好ましく、または60/40から40/60が最も好ましい。さらに、他の酸官能基ならびに当技術分野において周知のものを用いてもよい。
【0143】
オレフィンポリマーには、例えば、エチレンホモポリマー、エチレン/アルファ−オレフィンコポリマー、プロピレンホモポリマー、プロピレン/アルファ−オレフィンコポリマー、高衝撃性ポリプロピレン、ブチレンホモポリマー、ブチレン/アルファ−オレフィンコポリマーおよび他のアルファ−オレフィンコポリマーまたはインターポリマーが含まれる。代表的なポリオレフィンには、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度または極低密度ポリエチレン(ULDPEまたはVLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)および高圧法低密度ポリエチレン(LDPE)を含む、実質的に直鎖のエチレンポリマー、均一に分岐した直鎖状エチレンポリマー、不均一に分岐した直鎖状エチレンポリマーが含まれるが、これらに限定されない。以下に含まれる他のポリマーは、エチレン/アクリル酸(EEA)コポリマー、エチレン/メタクリル酸(EMAA)イオノマー、エチレン/酢酸ビニル(EVA)コポリマー、エチレン/ビニルアルコール(EVOH)コポリマー、エチレン/環状オレフィンコポリマー、ポリプロピレンホモポリマーおよびコポリマー、プロピレン/スチレンコポリマー、エチレン/プロピレンコポリマー、ポリブチレン、エチレン一酸化炭素インターポリマー(例えば、エチレン/一酸化炭素(ECO)コポリマー、エチレン/アクリル酸/一酸化炭素ターポリマーなど)である。以下に含まれるさらに他のポリマーは、ポリ塩化ビニル(PVC)およびPVCと他の材料とのブレンドである。
【0144】
スチレンポリマーには、例えば、結晶性ポリスチレン、高衝撃性ポリスチレン、中衝撃性ポリスチレン、スチレン/アクリロニトリルコポリマー、スチレン/アクリロニトリル/ブタジエン(ABS)ポリマー、シンジオタクチックポリスチレン、スルホン化ポリスチレンおよびスチレン/オレフィンコポリマーが含まれる。代表的なスチレン/オレフィンコポリマーは実質的にランダムなエチレン/スチレンコポリマーであり、好ましくは少なくとも20重量パーセント、より好ましくは25重量パーセント以上の共重合されたスチレンモノマーを含む。
【0145】
その他の成分として用いることができる例示的な材料には、限定することなしに、
1)顔料、酸化防止剤、安定剤、界面活性剤および流動促進剤、
2)粒子状物質、充填材および油、ならびに
3)溶媒と組成物の加工性および取り扱い性を高めるために加える他の材料が含まれる。
【0146】
顔料、酸化防止剤、安定剤、界面活性剤および流動促進剤に関して、これらの成分は、組成物中で本発明のスルホン化ブロックコポリマーと共に利用されるとき、組成物の全重量を基準にして最大10%まで、即ち0から10%の量だけ含んでもよい。これらの成分のいずれか1つまたは複数が存在するとき、これらが存在する量は約0.001から約5%であってもよく、約0.001から約1%がさらにより好ましい。
【0147】
粒子状物質、充填材および油に関して、このような成分は、組成物の全重量を基準にして最大80%まで、0から80%の量だけ存在してもよい。これらの成分のいずれか1つまたは複数が存在するとき、これらが存在する量は約5から約50%であってもよく、約7から約50%が好ましい。
【実施例】
【0148】
以下の例は例示のみを目的とするものであり、いかなる意味においても、本発明の範囲を制限しようとするものでも、このように解釈すべきものでもない。
【0149】
a.材料および方法
スルホン化の程度:本明細書に記述され、滴定によって決定されるスルホン化の程度は、以下の電位差滴定法により測定した。スルホン化反応生成物の溶液は2つの別々の滴定(「二滴定法」)によって分析し、スチレン系ポリマースルホン酸、硫酸および非ポリマー性副生成物スルホン酸(2−スルホイソ酪酸)のレベルを決定した。それぞれの滴定において、反応生成物溶液約5グラムのアリコートを約100mLのテトラヒドロフランに溶解し、約2mLの水および約2mLのメタノールを加えた。第1の滴定において、この溶液をメタノール中の0.1Nシクロヘキシルアミンで電位差滴定して2つの終点を得た。第1の終点は、サンプル中のすべてのスルホン酸基に加えて硫酸の第1の酸性プロトンに対応し、第2の終点は、硫酸の第2の酸性プロトンに対応するものであった。第2の滴定において、この溶液をメタノール:水が約3.5:1の中の0.14N水酸化ナトリウムで電位差滴定し、3つの終点を得た。第1の終点は、サンプル中のすべてのスルホン酸基に加えて硫酸の第1および第2の酸性プロトンに対応し、第2の終点は、2−スルホイソ酪酸のカルボン酸に対応し、第3の終点は、イソ酪酸に対応するものであった。
【0150】
第1の滴定において硫酸の第2の酸性プロトンを選択的に検出し、合わせて第2の滴定において2−スルホイソ酪酸のカルボン酸を選択的に検出したことにより、酸成分の濃度を計算することができた。
【0151】
本明細書に記述され、1H−NMRによって決定されるスルホン化の程度は、以下の手順を用いて測定した。約2グラムの中和していないスルホン化ポリマー生成物の溶液を数滴のメタノールで処理し、50℃の真空オーブン内で約0.5時間乾燥させることにより溶媒を除去した。乾燥したポリマーのサンプル30mgを約0.75mLのテトラヒドロフラン−d(THF−d)に溶解し、これに濃HSOの液滴を部分的に加え、その後のNMR解析において妨害となる不安定なプロトンシグナルを芳香族のプロトンシグナルから低磁場側へシフトさせた。得られる溶液を、H−NMRにより約60℃で解析した。スチレンスルホン化のパーセントは、約7.6百万分率(ppm)のH−NMRシグナルを積分して計算したが、これはスルホン化したスチレン単位上の芳香族プロトンの1/2に相当するものであった。このような芳香族プロトンの残り半分に対応するシグナルは、非スルホン化スチレンの芳香族プロトンおよびtert−ブチルスチレンの芳香族プロトンに対応するシグナルと重なっていた。
【0152】
本明細書に記述されるイオン交換容量は、上述の電位差滴定法によって決定し、スルホン化ブロックコポリマーのグラム当たりのスルホン酸官能性のミリ当量として報告した。
【0153】
b.実験
スルホン化ブロックコポリマーSBC−1の調製
Aブロックがパラ−tert−ブチルスチレン(ptBS)のポリマーブロック、Dブロックが水素化イソプレン(Ip)のポリマーブロックからなり、およびBブロックが非置換スチレン(S)のポリマーブロックからなる、構造A−D−B−D−Aを有するペンタブロックコポリマーを逐次アニオン重合により調製した。シクロヘキサン中でのt−ブチルスチレンのアニオン重合は、sec−ブチルリチウムを用いて開始し、15,000g/molの分子量を有するAブロックを得た。次いで、イソプレンモノマーを加え、分子量が9,000g/molの第2のブロック(ptBS−Ip−Li)を得た。引き続き、スチレンモノマーをリビング(ptBS−Ip−Li)ジブロックコポリマー溶液に加えて重合させ、リビングトリブロックコポリマー(ptBS−Ip−S−Li)を得た。ポリマースチレンブロックは、分子量が28,000g/molのポリスチレンのみからなる。この溶液にイソプレンモノマーの別のアリコートを加え、この結果、分子量が11,000g/molのイソプレンブロックを生じた。従って、これによりリビングテトラブロックコポリマー構造(ptBS−Ip−S−Ip−Li)が得られた。パラ−tert−ブチルスチレンモノマーの第2のアリコートを加え、メタノールを加えることによりこの重合を停止して、分子量が約14,000g/molのptBSブロックを得た。次いで、標準的なCo2+/トリエチルアルミニウム法を用いて、このptBS−Ip−S−Ip−ptBSを水素化し、ペンタブロックのイソプレン部分内のC=C不飽和を除去した。次いで、イソ酪酸無水物/硫酸試薬を用いて(別の処理もなく、酸化、洗浄、「仕上げ」をせずに)ブロックポリマーを直接スルホン化した。ヘプタン(ブロックコポリマー溶液の体積当たりほぼ等しい体積のヘプタン。)を加えることにより、この水素化ブロックコポリマー溶液を固形分約10%まで希釈した。イソ酪酸無水物および硫酸(1/1(mol/mol))を十分に加え、ブロックコポリマー1g当たり2.0meqのスルホン化ポリスチレン官能性を得た。エタノール(2molエタノール/イソ酪酸無水物のmol)を加えることにより、スルホン化反応を停止した。得られるポリマーは、電位差滴定により、2.0meqの−SOH/ポリマーgの「イオン交換容量(IEC)」を有することが明らかになった。スルホン化ポリマーの溶液には、約10%wt/wtのレベルの固形分がヘプタン、シクロヘキサンおよびイソ酪酸エチルの混合物中に含まれていた。
【0154】
上述の通り調製した組成物のフィルムを窒素パージしたボックスの中、室温でシリコン処理したガラス板上に成型した。フィルムを少なくとも16時間放置して乾燥させた。特定の試験手順により特別に必要な処理を除き、これ以上のフィルムの後処理は実施していない。この手順により得られる典型的なフィルム厚さの範囲は0.25から2.0ミルである。
【0155】
特定の例では、フィルムを基材の上に直接流した。このような場合には、ポリマーは反応により生成した後も溶液中にあった。次いでこの溶液を基材の上に注ぎ、放置して乾燥させた。これを溶液流延法と呼ぶ。
【0156】
さらに、サーマル・ラミネーションは、SBC−1から基材と共に成型フィルムを提供し、プレス機内で240°Fを超える温度および400Psiのもとに置くことを指す。圧力および熱がフィルムを基材の上にラミネートする働きをする。
【0157】
本明細書中の実施例で用いている場合、ブラシ・ラミネーションは、溶媒をブラシにより成型フィルムに塗ることを指す。シクロヘキサンなどの溶媒を用いると、溶媒中に漬けた場合、このフィルムが溶解することがある。従って、フィルムにブラシをかけることにより、この溶媒をフィルム中に吸収させて試験することができる。その後、フィルムを基材に貼付け、次いで乾燥させる。
【0158】
本明細書中の実施例で用いている場合、水ラミネーションは成型フィルムを、少なくとも部分的に水を含むまで水浴に漬けることを指す。次いでこのフィルムを基材に貼付け、さらに基材に結合するまで乾燥させる。
【0159】
SBC−1から成型されたフィルムを溶解し、下表1の1aおよび2aに示す通りアルミニウム基材の上に溶液流延し、3aに示す通り熱的に成型した。次にこれらはすべて記載した時間、水中に漬けた。
【0160】
【表1】
表1中の各フィルムは水中に漬けた後に層間剥離した。さらに実施例1aは溶媒としてシクロヘキサンを用いた溶液流延であるが、図6に示す通り曇ったラミネートが形成された。層間剥離後、まだ水で湿っている間、これらをさらに対応する基材の上に戻して再度貼付けた。空気中にて周囲温度で一晩乾燥させた後、これらを再度水浴中に置いた。表2に示す通り、この効果で水キャスティング後にいずれのフィルムも層間剥離しなかった。
【0161】
【表2】
表3に示す通り、さらに水中での安定性についてラミネートを試験した。表3のそれぞれの場合について、最長で90分間水中に漬けた後、フィルムは層間剥離した。
【0162】
【表3】
表3中の各フィルムは水中に漬けた後に層間剥離した。しかし、層間剥離後、まだ水で湿っている間、これらのフィルムをさらに対応する基材の上に戻して再度貼付けた。空気中にて周囲温度で一晩乾燥させた後、これらをさらにそれぞれの基材の上にラミネートした。その後、ラミネートの結合を維持する能力を試験するため、ラミネートを再び水浴中に置いた。表4に示す通り、水ラミネーション後にいずれのフィルムも層間剥離しなかった。
【0163】
【表4】
【0164】
フィルムをSBC−1から成型し、次いで下表5中に示すさまざまな溶媒を用いて試験した。実施例10から15においては、溶媒を成型フィルムに塗り、次いでアルミニウム基材上にて乾燥させた。実施例10から15の各フィルムでは、乾燥およびアルミニウム基材へのラミネート時にしわの寄ったフィルムが形成された。フィルムでしわが寄った現象は、基材との結合が不十分であることを示した。例えば、1−プロパノールを溶媒としてアルミニウム基材と共に用いるとき、図7に示すようにしわが形成される。ラミネーション後、サンプルを水浴中に漬けた。表5に示す通り、実施例10から15中のラミネートは2時間未満の後に層間剥離した。
【0165】
【表5】
同じく表5に示したのは実施例16および17であり、これらの実施例ではフィルムを水中に漬けた後、アルミニウム基材の上で乾燥させてラミネートを形成した。これらのフィルムは水浴中に118時間漬けた後でも層間剥離しなかった。さらに、形成されたラミネートは図8に示す通り透明で澄んでおり、しわが寄っていない。従って、驚いたことに水溶媒を用いると、水の存在下において層間剥離せず、しわのない透明なフィルムと共に、極めて優れたラミネート特性が得られることが判明した。
【0166】
【表6】
表6に示す通り、ラミネーションのために水溶媒を適用すると、本革からなる基材は74時間後でも層間剥離しなかった。ラミネートされた本革の写真を図9に示す。牛革では層間剥離することが示されたが、これは表面処理による可能性がある。表面処理剤は、防水および保護のために非極性の物質(即ちワックス)になる傾向があり、これによってフィルムと基材の極性部分との相互作用が妨げられる。同じく表6に示したのはガラスへのラミネーションであり、これらについては29時間後でも層間剥離は発生しなかった。従って、驚いたことに水を溶媒として用いることにより、強い結合が革およびガラスに対して得られることが判明した。
【0167】
【表7】
表7に示したのは極性ポリマー基材上にSBC−1をラミネーションしたものである。例示した通り、ラミネーションはPVC、PEIおよび繊維ガラス強化PETのポリマー基材を用いてうまく行うことができた。さらに表7では、表面のタイプがラミネーションの特性に影響を与えることが示されている。例えば滑らかな表面のPVC上へのラミネーションは73時間後でも保たれていたが、一方でテクスチャー加工を施した表面のPVCでは層間剥離が発生した。さらに補強など他の因子がラミネーションに影響を与えうる。例えば、繊維ガラス強化PETでは水に73時間漬けた後でもラミネーションが保たれていたが、一方でポリエステルPETでは不十分な結合につながった。従って、驚いたことに水を溶媒として用いることにより、強い結合が極性ポリマー基材に対して得られることが判明した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9