特許第6072227号(P6072227)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6072227
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】ステント
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/82 20130101AFI20170123BHJP
【FI】
   A61F2/82
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-509637(P2015-509637)
(86)(22)【出願日】2013年4月1日
(86)【国際出願番号】JP2013059852
(87)【国際公開番号】WO2014162399
(87)【国際公開日】20141009
【審査請求日】2015年7月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141829
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 牧人
(72)【発明者】
【氏名】川北 泰誠
(72)【発明者】
【氏名】山下 秀昭
【審査官】 鈴木 洋昭
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−535165(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/82
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状に形成されて全体として隙間を有する筒形状を呈するストラットと、
前記ストラットの外表面を挟む両側面のうちの少なくとも一部に被覆され、薬剤および当該薬剤を担持する高分子材料である薬剤担持体を含む側面被覆体と、
前記ストラットの外表面に被覆され、前記薬剤担持体を含まず薬剤を含む外表面被覆体と、を有し、
前記外表面被覆体に含まれる薬剤は、前記側面被覆体に含まれる薬剤と異なり、
前記外表面被覆体に含まれる薬剤は抗癌剤であり、前記側面被覆体に含まれる薬剤は免疫抑制剤であるステント。
【請求項2】
前記ストラットの前記外表面と反対側の内表面は、薬剤が被覆されない請求項1に記載のステント。
【請求項3】
前記薬剤担持体は、生分解性ポリマーである請求項1または2に記載のステント。
【請求項4】
前記外表面被覆体は、薬剤のみにより構成される請求項1〜3のいずれか1項に記載のステント。
【請求項5】
前記抗癌剤はパクリタキセルであり、前記免疫抑制剤はシロリムスである請求項1〜4のいずれか1項に記載のステント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体管腔内に生じた狭窄部や閉塞部等に留置して管腔の開存状態を維持するステントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば心筋梗塞や狭心症の治療では、冠動脈の病変部(狭窄部)にステントを留置して、動脈内の空間を確保する方法が行われており、他の血管、胆管、気管、食道、尿道、その他の生体管腔内に生じた狭窄部の治療についても同様の方法が行われることがある。ステントは、機能および留置方法によって、バルーン拡張型ステントと、自己拡張型ステントとに区別される。
【0003】
バルーン拡張型ステントは、ステント自体に拡張機能はなく、目的部位に挿入後、バルーンにより拡張し、塑性変形させることにより管腔内に密着固定するものである。これに対し、自己拡張型ステントは、ステント自体が拡張機能を有し、カテーテル内に予め縮径した状態で収納し、目的部位に到達した後、縮径状態を解放して拡張させることにより管腔内に密着固定するものである。例えば特許文献1には、外側シースの内側に縮径させた自己拡張型ステントを収納し、目的部位で外側シースを手前へ引くことにより、ステントを外側シースから押し出して拡張させる方法が記載されている。
【0004】
しかしながら、このようなステントを目的部位に留置して狭窄部を拡張させた場合であっても、ステントを留置した部位に再狭窄が生じる場合がある。再狭窄の主な原因は、血管壁の治癒反応である血管内膜の増殖であることから、最近では、血管内膜の増殖を抑制しうる薬剤をステントの外表面にコーティングし、ステント留置部位で薬剤を溶出させて再狭窄を防止する、DES(Drug Eluting Stents)と称される薬剤溶出型のステントの開発が行われている。例えば特許文献2には、ステントを構成する線材であるストラットの外表面(生体管腔と接する面)および側面(外表面と隣接する面)に、薬剤および当該薬剤を担持する高分子材料の混合物により構成される薬剤コート層を設けることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−313893号公報
【特許文献2】国際公開第2010/032643号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、自己拡張型ステントの外表面に薬剤コート層が設けられると、搬送のために縮径した状態の自己拡張型ステントを収容する外側シースを基端側へ引いてステントを外側シースから押し出す際に、ステントの外表面にコーティングされた薬剤コート層が、外側シースとの摩擦により剥がれる可能性がある。薬剤コート層は、生体にとって異物である高分子材料を含むため、生体内で剥がれ落ちることは望ましくない。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、薬剤が剥がれても生体への影響が低く安全性を向上できるステントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明に係るステントは、線状に形成されて全体として隙間を有する筒形状を呈するストラットと、前記ストラットの外表面を挟む両側面のうちの少なくとも一部に被覆され、薬剤および当該薬剤を担持する高分子材料である薬剤担持体を含む側面被覆体と、前記ストラットの外表面に被覆され、前記薬剤担持体を含まず薬剤を含む外表面被覆体と、を有し、前記外表面被覆体に含まれる薬剤は、前記側面被覆体に含まれる薬剤と異なり、前記外表面被覆体に含まれる薬剤は抗癌剤であり、前記側面被覆体に含まれる薬剤は免疫抑制剤である
【発明の効果】
【0009】
上記のように構成したステントは、ステントを搬送するためのシースから押し出される際にシースの内面と摺動して剥がれ落ちやすい外表面被覆体に高分子材料からなる薬剤担持体が含まれないため、外表面被覆体が剥がれても生体への影響が低く安全性が向上する。そして、ステントを搬送するためのシースから押し出される際にシースの内面と摺動しない側面被覆体には薬剤担持体が含まれるため、薬剤に徐放性を持たせ、ステント留置後の細胞の形成の進行に合わせて細胞の増殖を抑え、再狭窄や遅延性ステント血栓症の発生を抑制できる。
【0010】
前記ストラットの前記外表面と反対側の内表面が、薬剤が被覆されないようにすれば、ステント全体が迅速に細胞で覆われてステントが生体管腔内に露出しなくなり、再狭窄や遅延性ステント血栓症の発生を抑制できる。
【0011】
前記薬剤担持体が、生分解性ポリマーであるようにすれば、薬剤担持体が徐々に生分解されることで薬剤が徐放され、ステントの留置部位での再狭窄や遅延性ステント血栓症が抑制される。
【0012】
前記外表面被覆体が、薬剤のみにより構成されるようにすれば、薬剤の即効性が高く発揮される。
【0013】
前記外表面被覆体に含まれる薬剤が、前記側面被覆体に含まれる薬剤と異なるようにすれば、ステントの部位に応じて異なる作用を発揮させて、再狭窄や遅延性ステント血栓症の発生を効果的に抑制できる。
【0014】
前記外表面被覆体に含まれる薬剤は抗癌剤であり、前記側面被覆体に含まれる薬剤は免疫抑制剤であるようにすれば、即効性のある外表面被覆体にて生体へ強く作用する抗癌剤を作用させつつ、徐放性のある側面被覆体にて免疫抑制剤を生体へ穏やかに作用させて、再狭窄や遅延性ステント血栓症の発生をより効果的に抑制できる。前記抗癌剤はパクリタキセルであり、前記免疫抑制剤はシロリムスであるようにすれば、狭窄治療用として一般的に用いられ、かつ短時間に効率よく細胞内へ移行させることができるという観点から好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係るステントが拡張した際の平面図である。
図2】本発明の実施形態に係るステントが縮径した際の展開図である。
図3】ステントの一部を示す拡大斜視図である。
図4図3の4−4線に沿う断面図である。
図5】ステントを生体内へ留置するためのステントデリバリーシステムを示す平面図である。
図6】ステントデリバリーシステムの先端部を示す断面図である。
図7】ステントデリバリーシステムにより生体内にステントを留置する際を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上、誇張されて実際の比率とは異なる場合がある。
【0017】
本実施形態に係るステント10は、血管、胆管、気管、食道、尿道、またはその他の生体管腔内に生じた狭窄部または閉塞部を治療するために用いるものである。なお、本明細書では、管腔に挿入する側を「先端」若しくは「先端側」、操作する手元側を「基端」若しくは「基端側」と称することとする。
【0018】
ステント10は、自己の弾性力により拡張する、いわゆる自己拡張型ステントであり、細く線状に延びるストラット20と、ストラット20に被覆される被覆体30と、を備えている。
【0019】
ストラット20は、図1〜3に示すように、線材が折り返されながら環状に形成される複数の環状部21をその中心軸方向に配列し、隣接する環状部21同士を、互いの環状部21に共有される複数の共有部22によって一体化させて、全体として1つの円筒形状に形成されている。なお、環状部21の数は、特に限定されない。
【0020】
ストラット20の延在方向と直交する断面形状は、図4に示すように、矩形形状となっている。
【0021】
ストラット20に被覆される被覆体30は、外表面被覆体31と、側面被覆体32とを備えている。
【0022】
側面被覆体32は、ストラット20の生体管腔と接する側の外表面23を挟む両側面24に被覆され、薬剤および当該薬剤を担持する高分子材料である薬剤担持体を含んでいる。側面被覆体32は、ストラット20の両側面24の全体に被覆されてもよいが、両側面24の一部にのみ被覆されてもよく、一方の側面24のみに被覆されてもよい。
【0023】
外表面被覆体31は、ストラット20の外表面23に被覆される。外表面被覆体31は、薬剤を含み、側面被覆体32に含まれるような薬剤担持体としての高分子材料を含んでいない。外表面被覆体31は、ストラット20の外表面23の全体に被覆されてもよいが、外表面23の一部にのみ被覆されてもよい。
【0024】
ストラット20の外表面23と反対側の内表面25には、薬剤が被覆されず、ストラット20が露出されている。
【0025】
ステント10は、留置対象部位により異なるが、一般的に、拡張時(非縮径時、復元時)の外径が1.5〜30mm、好ましくは2.0〜20mm、肉厚が0.04〜1.0mm、好ましくは0.06〜0.5mmのものであり、長さは、5〜250mm、好ましくは10〜200mmである。
【0026】
外表面被覆体31の肉厚は、1〜300μm、好ましくは、3〜100μmである。側面被覆体32の肉厚は、1〜300μm、好ましくは、3〜100μmである。
【0027】
そして、ストラット20は、生体内挿入前および生体内挿入後のいずれにおいても超弾性を示す超弾性金属により略円筒形状に一体的に形成されている。
【0028】
超弾性金属としては、超弾性合金が好適に使用される。ここでいう超弾性合金とは一般に形状記憶合金といわれ、少なくとも生体温度(37℃付近)で超弾性を示すものである。好ましくは、49〜54原子%NiのTiNi合金、38.5〜41.5重量%ZnのCu−Zn合金、1〜10重量%XのCu−Zn−X合金(X=Be,Si,Sn,Al,Ga)、36〜38原子%AlのNi−Al合金等の超弾性金属体が使用される。特に好ましくは、上記のTiNi合金である。また、Ti−Ni合金の一部を0.01〜10.0重量%Xで置換したTi−Ni−X合金(X=Co,Fe,Mn,Cr,V,Al,Nb,W,B、Au,Pdなど)とすること、またはTi−Ni合金の一部を0.01〜30.0原子%で置換したTi−Ni−X合金(X=Cu,Pb,Zr)とすること、また、冷間加工率または/および最終熱処理の条件を選択することにより、機械的特性を適宜変えることができる。
【0029】
そして、使用される超弾性合金の座屈強度(負荷時の降伏応力)は、5〜200kg/mm(22℃)、好ましくは、8〜150kg/mm、復元応力(除荷時の降伏応力)は、3〜180kg/mm(22℃)、好ましくは、5〜130kg/mmである。ここでいう超弾性とは、使用温度において通常の金属が塑性変形する領域まで変形(曲げ、引張り、圧縮)させても、荷重の解放後、加熱を必要とせずにほぼ元の形状に回復することを意味する。
【0030】
そして、ストラット20は、例えば、超弾性金属パイプを用いて、ストラット非構成部分を除去(例えば、切削、溶解)することにより作製され、これにより、一体形成物となっている。なお、ストラット20の形成に用いられる超弾性金属パイプは、不活性ガスまたは真空雰囲気にて超弾性合金のインゴットを形成し、このインゴットを機械的に研磨し、続いて、熱間プレスおよび押し出しにより、太径パイプを形成し、その後順次ダイス引き抜き工程および熱処理工程を繰り返すことにより、所定の肉厚、外径のパイプに細径化し、最終的に表面を化学的または物理的に研磨することにより製造することができる。そして、この超弾性金属パイプによるストラット20の形成は、切削加工(例えば、機械研磨、レーザー切削加工)、放電加工、化学エッチングなどにより行うことができ、さらにそれらの併用により行ってもよい。
【0031】
外表面被覆体31または側面被覆体32に含まれる薬剤としては、例えば、抗癌剤、免疫抑制剤、抗生物質、抗リウマチ剤、抗血栓薬、HMG−CoA還元酵素阻害剤、インスリン抵抗性改善剤、ACE阻害剤、カルシウム拮抗剤、抗高脂血症薬、インテグリン阻害薬、抗アレルギー剤、抗酸化剤、GP IIb/IIIa拮抗薬、レチノイド、フラボノイド、カロチノイド、脂質改善薬、DNA合成阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、抗血小板薬、抗炎症薬、生体由来材料、インターフェロン、一酸化窒素産生促進物質が挙げられる。
【0032】
抗癌剤は、例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、イリノテカン、ピラルビシン、パクリタキセル、ドセタキセル、メトトレキサートである。免疫抑制剤は、例えば、シロリムス、エベロリムス、ピメクロリムス、ABT−578、AP23573、CCI−779等のシロリムス誘導体、タクロリムス、アザチオプリン、シクロスポリン、シクロフォスファミド、ミコフェノール酸モフェチル、グスペリムス、ミゾリビン、ドキソルビシンである。
【0033】
抗生物質は、例えば、マイトマイシン、アクチノマイシン、ダウノルビシン、イダルビシン、ピラルビシン、アクラルビシン、エピルビシン、ペプロマイシン、ジノスタチンスチマラマーである。抗リウマチ剤は、例えば、メトトレキサート、チオリンゴ酸ナトリウム、ペニシラミン、ロベンザリットである。抗血栓薬は、例えば、ヘパリン、アスピリン、抗トロンピン製剤、チクロピジン、ヒルジンである。
【0034】
HMG−CoA還元酵素阻害剤は、例えば、セリバスタチン、セリバスタチンナトリウム、アトルバスタチン、アトルバスタチンカルシウム、ロスバスタチン、ロスバスタチンカルシウム、ピタバスタチン、ピタバスタチンカルシウム、フルバスタチン、フルバスタチンナトリウム、シンバスタチン、ロバスタチン、プラバスタチン、プラバスタチンナトリウムである。
【0035】
インスリン抵抗性改善剤は、例えば、トログリタゾン、ロシグリタゾン、ピオグリタゾン等のチアゾリジン誘導体である。ACE阻害剤は、例えば、キナプリル、ペリンドプリルエルブミン、トランドラプリル、シラザプリル、テモカプリル、デラプリル、マレイン酸エナラプリル、リシノブリル、カプトプリルである。カルシウム拮抗剤は、例えば、ニフェジピン、ニルバジピン、ジルチアゼム、ベニジピン、ニソルジピンである。
【0036】
抗高脂血症剤は、例えば、ベザフィブラート、フェノフィブラート、エゼチミブ、トルセトラピブ、パクチミブ、K−604、インプリタピド、プロブコールである。
【0037】
インテグリン阻害薬は、例えば、AJM300である。抗アレルギー剤は、例えば、トラニラストである。抗酸化剤は、例えば、α−トコフェロール、カテキン、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソールである。GP IIb/IIIa拮抗薬は、例えば、アブシキシマブである。レチノイドは、例えば、オールトランスレチノイン酸である。フラボノイドは、例えば、エピガロカテキン、アントシアニン、プロアントシアニジンである。カロチノイドは、例えば、β−カロチン、リコピンである。
【0038】
脂質改善薬は、例えば、エイコサペンタエン酸である。DNA合成阻害剤は、例えば、 5−FUである。チロシンキナーゼ阻害剤は、例えば、ゲニステイン、チルフォスチン、アーブスタチン、スタウロススポリンである。抗血小板薬は、例えば、チクロピジン、シロスタゾール、クロピドグレルである。抗炎症剤は、例えば、デキサメタゾン、プレドニゾロン等のステロイドである。
【0039】
生体由来材料は、例えば、EGF(epidermal growth factor) 、VEGF(vascular endothelial growth factor)、HGF(hepatocyte growth factor)、PDGF(platelet derived growth factor)、BFGF(basic fibroblast growth factor)である。インターフェロンは、例えば、インターフェロン−γ1aである。一酸化窒素産生促進物質は、例えば、L−アルギニンである。
【0040】
なお、狭窄治療用として一般的に用いられ、かつ短時間に効率よく細胞内へ移行させることができるという観点から、パクリタキセル、ドセタキセル、シロリムス、エベロリムスが好ましく、特に、シロリムスおよびパクリタキセルが好ましい。
【0041】
外表面被覆体31に含まれる薬剤は、側面被覆体32に含まれる薬剤と同一であってもよく、または異なってもよい。一例として、外表面被覆体31に含まれる薬剤は、抗癌剤であるパクリタキセルとし、側面被覆体32に含まれる薬剤は、免疫抑制剤であるシロリムスとすることができる。
【0042】
薬剤担持体は、高分子材料であり、例えば、ポリオレフィン、ポリイソブチレン、エチレン−α−オレフィン共重合体、アクリルポリマー、ポリ塩化ビニル、ポリビニル・メチル・エーテル、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルケトン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、エチレン−メチル・メタクリル酸塩共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、ABS樹脂、ポリオキシメチレン、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアミド、エポキシ樹脂、ポリウレタン、レーヨン・トリアセテート、セルロース、酢酸セルロース、酪酸セルロース、セロハン、硝酸セルロース、プロピオニルセルロース、セルロース・エーテル、カルボキシメチルセルロース、キチン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、乳酸−グリコール酸共重合体、乳酸−カプロラクトン共重合体、ポリエチレンオキシド、ポリ乳酸−ポリエチレンオキシド共重合体、ポリエチレングリコール、ポリプロピレン・グリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンが挙げられる。
【0043】
薬剤担持体は、特に、生体内で分解される生分解性ポリマーであることが好ましい。生体内にステント10を留置した後、薬剤を担持している生分解性ポリマーが生分解されると、薬剤が徐放され、ステント留置部での再狭窄が防止されることになる。生分解性ポリマーとしては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、乳酸−グリコール酸共重合体、乳酸−カプロラクトン共重合体のいずれかを使用することが好ましい。
【0044】
外表面被覆体31をストラット20に被覆させる際には、薬剤を溶媒に溶解させたコーティング液をストラット20の外表面23にコーティングし、溶媒を蒸発させて薬剤を乾燥固化させて被覆させることができる。
【0045】
側面被覆体32をストラット20に被覆させる際には、薬剤および薬剤担持体を溶媒に溶解させたコーティング液をストラット20の側面24にコーティングし、溶媒を蒸発させて薬剤および薬剤担持体を乾燥固化させて被覆させることができる。
【0046】
溶媒は、特に限定されないが、メタノール、エタノール、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、アセトン等の有機溶媒が好ましい。
【0047】
次に、本実施形態に係るステント10を、生体管腔内に留置する方法を説明する。ステント10を留置する際には、図5,6に示すステントデリバリーシステム40を用いる。
【0048】
ステントデリバリーシステム40は、管状のシース50と、シース50内に摺動可能に挿通される内管60とを備える。
【0049】
シース50は、先端および基端が開口しており、先端側の内部にステント10を収納可能な収納部51が設けられる。先端開口は、ステント10を生体管腔内の狭窄部に留置する際、ステント10の放出口として機能する。ステント10は、縮径された状態で収納部51に収納され、外周面被覆体31が、シース50の収納部51の内面と接することになる。ステント10は、先端開口より押し出されることにより応力負荷が解除されて自己の弾性力により拡張し、圧縮前の形状に復元する。
【0050】
また、シース50の基端部には、シースハブ70が固定されている。シースハブ70は、シースハブ本体71と、シースハブ本体71内に収納され、内管60を摺動可能、かつ液密に保持する弁体(図示せず)を備えている。また、シースハブ70は、シースハブ本体71の中央付近より斜め後方に分岐するサイドポート72を備えている。また、シースハブ70は、内管60の移動を規制する内管ロック機構を備えていることが好ましい。
【0051】
内管60は、シャフト状の内管本体部61と、内管本体部61の先端に設けられ、シース50の先端より突出する内管先端部62と、内管本体部61の基端部に固定された内管ハブ63とを備える。
【0052】
内管先端部62は、シース50の先端より突出し、かつ、先端に向かって徐々に縮径するテーパー状に形成されている。このように形成することにより、狭窄部への挿入が容易となる。また、内管先端部62は、基端がシース50の先端と当接可能となっており、シース50の先端方向への移動を阻止するストッパーとして機能している。
【0053】
内管60の内管先端部62の基端側には、ステント保持用突出部65が設けられている。そして、ステント保持用突出部65より所定距離基端側には、ステント押出用突出部66が設けられている。これら2つの突出部65,66間にステント10が配置される。突出部65,66は、環状の突出部であることが好ましい。これら突出部65,66の外径は、圧縮されたステント10と当接可能な大きさとなっている。このため、ステント10は、ステント保持用突出部65により先端側への移動が規制され、ステント押出用突出部66により基端側への移動が規制される。そして、内管60の位置を保持した状態でシース50を基端側へ移動させると、ステント押出用突出部66によってステント10の基端側への移動が規制され、ステント10がシース50の内面を摺動し、シース50より放出される。さらに、ステント押出用突出部66の基端側は、基端側に向かって徐々に縮径するテーパー部66Aとなっていることが好ましい。同様に、ステント保持用突出部65の基端側は、基端側に向かって徐々に縮径するテーパー部65Aとなっていることが好ましい。このようにすることにより、内管60に対してシース50を基端側に移動させてステント10をシース50より放出した後に、シース50を先端側に移動させて内管60をシース50内に再収納する際に、突出部65,66がシース50の先端に引っかかることを防止できる。また、2つの突出部65,66は、X線造影性材料により別部材により形成されてもよい。これにより、X線造影下でステント10の位置を的確に把握することができ、手技がより容易なものとなる。
【0054】
内管60は、シース50内を貫通し、シース50の基端開口より突出している。内管60の基端部には、内管ハブ63が固着されている。内管60は、ガイドワイヤーが挿通されるルーメン64が、先端から基端まで延びて形成されている。なお、ルーメン64は、内管60の先端から内管60の途中で側方へ開口するように形成されてもよい。
【0055】
シース50は、ある程度の可撓性を有する材料により形成されるのが好ましく、そのような材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、あるいはこれら二種以上の混合物等のポリオレフィンや、軟質ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリエステル、ポリエステルエラストマー、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、シリコーンゴム、ラテックスゴム等が挙げられる。
【0056】
内管60は、シース50と同様の材料や、金属材料を適用することが可能である。金属材料は、例えば、ステンレス鋼、Ni−Ti合金である。
【0057】
シースハブ70および内管ハブ63は、例えば、ポリカーボネート、ポリオレフィン、スチレン系樹脂、ポリエステルなどの合成樹脂、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属材料が使用できる。
【0058】
ステントデリバリーシステム40を用いてステント10を生体管腔内(例えば血管)に留置する際には、まず、中心軸に向かって縮径されたステント10をシース50の先端側の収納部51に収容し、内管60のステント押出用突出部66をステント10の基端側に位置させた状態で、シース50内および内管60内を生理食塩水で満たす。
【0059】
次に、患者の血管に、例えばセルジンガー法によりシースイントロデューサを留置し、ガイドワイヤールーメン64内にガイドワイヤーを挿通させた状態で、ガイドワイヤーおよびステントデリバリーシステム40をシースイントロデューサの内部より血管内へ挿入する。続いて、ガイドワイヤーを先行させつつステントデリバリーシステム40を進行させ、シース50の先端部を狭窄部へ到達させる。
【0060】
この後、内管ハブ63を手で抑えてステント押出用突出部66が基端側へ移動しないように保持しつつ、シースハブ70を基端側へ引いて移動させ、基端方向へ移動するシース50の先端開口から、ステント押出用突出部66によって押し出すようにステント10を放出する。これにより、図7に示すように、ステント10は、応力負荷が解除されて自己の弾性力により拡張し、圧縮前の形状に復元する。これにより、狭窄部Sをステント10によって押し広げた状態で良好に維持することができる。
【0061】
そして、ステント10がシース50から押し出される際には、ステント10の外表面23がシース50の内面と摺動するため、外表面被覆体31の一部が剥がれ落ちやすいが、外表面被覆体31が高分子材料からなる薬剤担持体を含まないため、剥がれても生体への影響が低く、安全性が向上する。さらに、外表面被覆体31が薬剤担持体を含まないため、薬剤がより直接的に生体管腔(血管)に作用し、薬剤の即効性が高く発揮される。特に、外表面被覆体31が薬剤のみで構成されれば、薬剤の即効性がより高く発揮される。
【0062】
また、ステント10の側面24は、ステント10がシース50から押し出される際にシース50の内面と摺動しないため、薬剤担持体も含めて側面被覆体32が剥がれ落ち難い。このため、側面被覆体32においては薬剤担持体によって薬剤に徐放性を持たせ、ステント10留置後の血管内皮細胞の形成の進行に合わせて、血管内皮細胞の増殖を抑えることができる。
【0063】
そして、ステント10の内表面25には、薬剤が塗布されていないため、ステント10全体が迅速に血管内皮細胞で覆われてステント10が血管内に露出しなくなり、再狭窄や遅延性ステント血栓症の発生を抑制できる。
【0064】
また、薬剤担持体が生分解性ポリマーであれば、薬剤担持体が徐々に生分解されることで薬剤が徐放され、ステント10の留置部位での再狭窄や遅延性ステント血栓症が抑制される。
【0065】
また、外表面被覆体31に含まれる薬剤が、側面被覆体32に含まれる薬剤と異なるようにすれば、ステント10の部位に応じて異なる作用を発揮させて、再狭窄や遅延性ステント血栓症の発生を効果的に抑制できる。
【0066】
また、外表面被覆体31に含まれる薬剤が抗癌剤であり、側面被覆体32に含まれる薬剤が免疫抑制剤であれば、即効性のある外表面被覆体31にて生体へ強く作用する抗癌剤を作用させつつ、徐放性のある側面被覆体32にて免疫抑制剤を生体へ穏やかに作用させて、再狭窄や遅延性ステント血栓症の発生をより効果的に抑制できる。
【0067】
ステント10を生体管腔内に留置した後には、シースイントロデューサを介して血管よりガイドワイヤーおよびステントデリバリーシステム40を抜去し、手技が終了する。
【0068】
なお、本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。例えば、ストラット20の内表面25に薬剤が被覆されてもよく、この薬剤が薬剤担持体に担持されてもよい。また、外表面23に被覆される外表面被覆体は、薬剤に加えて、薬剤担持体としての高分子材料以外の材料を含んでもよい。
【0069】
また、本実施形態に係るステント10は、自己拡張型ステントであるが、バルーンによって拡張させるバルーン拡張型ステントであってもよい。バルーン拡張型ステントに本発明を適用すれば、バルーンにステントを装着(マウント)し、シース内にバルーンを挿通させてステントを搬送する際に、ステントの外表面被覆体が、シースの内面と摺動するため、外表面被覆体の一部が剥がれ落ちやすいが、外表面被覆体が高分子材料からなる薬剤担持体を含まないため、生体への影響が低減され、安全性が向上する。
【符号の説明】
【0070】
10 ステント、
20 ストラット、
23 外表面、
24 側面、
25 内表面、
30 被覆体、
31 外表面被覆体、
32 側面被覆体。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7