特許第6072246号(P6072246)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6072246
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】建設機械の異常情報制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 16/02 20060101AFI20170123BHJP
   B60R 16/023 20060101ALI20170123BHJP
   E02F 9/26 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
   B60R16/02 660D
   B60R16/023 Z
   E02F9/26 Z
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-522989(P2015-522989)
(86)(22)【出願日】2014年6月20日
(86)【国際出願番号】JP2014066382
(87)【国際公開番号】WO2014203990
(87)【国際公開日】20141224
【審査請求日】2015年7月29日
(31)【優先権主張番号】特願2013-130788(P2013-130788)
(32)【優先日】2013年6月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】特許業務法人 武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 学
(72)【発明者】
【氏名】柴田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】相澤 大輝
【審査官】 佐々木 智洋
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−178246(JP,A)
【文献】 特開平09−210864(JP,A)
【文献】 特開2004−069643(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/080835(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 16/02
B60R 16/023
E02F 9/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建設機械に設けられ、保守作業を行うサービス機器が接続される建設機械の異常情報制御装置において、
建設機械に搭載された機器の異常を検出する異常検出手段と、
通常モードと保守モードとを切り換えるモード切換手段と、
前記通常モードのときに前記異常検出手段で検出された前記機器の異常情報はサーバに出力し、前記保守モードのときに前記異常検出手段で検出された前記機器の異常情報は前記サーバに出力しない異常情報出力手段と、を備え、
前記モード切換手段は、前記サービス機器で選択された保守作業内容が予め定められた保守作業内容である場合に前記サービス機器から出力される切換指令に基づいて、前記通常モードから前記保守モード切り換えることを特徴とする建設機械の異常情報制御装置。
【請求項2】
請求項に記載の建設機械の異常情報制御装置において、
前記予め定められた保守作業内容には、少なくともエンジンを停止した状態で行うものが含まれていることを特徴とする建設機械の異常情報制御装置。
【請求項3】
請求項に記載の建設機械の異常情報制御装置において、
前記モード切換手段は、前記保守モードで行われる保守作業が終了したときに通常モードに切り換えることを特徴とする建設機械の異常情報制御装置。
【請求項4】
請求項に記載の建設機械の異常情報制御装置において、
前記モード切換手段は、サービス機器を外したときに通常モードに切り換えることを特徴とする建設機械の異常情報制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベルなどの建設機械に係り、特に異常情報の扱いを通常モードと保守モードとで異ならしめた建設機械の異常情報制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、油圧ショベル、ホイールローダ、ダンプトラック、ブルトーザなどの建設機械の分野では、環境負荷の低減や資源高騰を背景に、エンジンの電子制御化、車体の電動・ハイブリッド化が進められており、これら建設機械には、複雑な制御を実現するために圧力センサーに代表されるようなセンサー類が多数車体に取り付けられている。
【0003】
また、これら建設機械には、エンジンや油圧アクチュエータを制御したり、車体の稼働状況を管理したりするために、機能毎に専用のコントローラ(制御装置)が搭載されており、これらコントローラにはさらに所定の制御が正常に行われているか、センサーに断線異常などが発生していないかなどを判断する故障判定機能が備わっているものもある。
【0004】
故障判定機能を有するコントローラでは、判定された故障がその内容に応じてエラーコードという形で分類されて登録されている。故障判定の結果はコントローラ自身が記憶しており、エラーコードや発生時間といった情報を定期的に無線通信端末から情報センタへ送信するようになっている。そして、建設機械メーカーのサービスマンは、その情報センタへ集められた情報を基に車体の故障原因の解析を行い、緊急の修理が必要と判断したときは、必要な機材を準備した上で現場まで出向いて迅速に対応できる体制になっている。
【0005】
ところで、このようにして情報センタへ集められたエラーコードの内容と、実際の車体の状況とは常に一致するとは限らない。例えば、サービスマンが車体の部品交換などの保守作業中にセンサーなどの部品を一時的に取り外した状態だけであったとしても、その状態で故障診断が行われれば、コントローラはセンサーが断線していると判定し、エラーコードを送信してしまう。
【0006】
作業を行っているサービスマンは、これが部品交換作業時に発生してしまった意味のない偽のエラーコードであるということは分かるが、その他のサービスマンはそのエラーコードの真偽は判断できず、適格な対応が困難である。さらにこの偽のエラーコードは故障履歴として管理され続ける可能性があるため、この意味のない偽のエラーコードの解析に時間を浪費してしまうこともある。
【0007】
このような問題に対して従来では例えば以下の特許文献1のように、保守作業が行われやすいサービス工場でサービスマンが異常情報データを収集することのできる故障診断機を車体に接続しているときは、仮に異常情報が検出されてもこれを外部に出力しないようにしている。また、以下の特許文献2では、エラーコードに統一的な基準を設け、この基準に達したエラーコードのみを管理者側に送信するといった方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−41438号公報
【特許文献2】特許第4769382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1のような方法では情報センタへの異常情報の送信を禁止できるが、保守作業時に常に故障診断機を接続しておかねばならないといった問題がある。一方、特許文献2に示すような方法では、センサーの故障や断線のような車体の制御に異常を及ぼす基準を下げることはできないといった問題がある。
【0010】
そこで、本発明はこれらの課題を解決するために案出されたものであり、その目的は、異常情報が検知されてもこれを出力しない保守モードを設けると共に、この保守モードと通常モード間の移行を自動的に行うことができる新規な建設機械の情報制御装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために第1の発明は、建設機械に搭載された機器の異常を検出する異常検出手段と、前記異常検出手段で検出された前記機器の異常情報を、通常モードのときは出力し、保守モードのときは無効化または出力しない異常情報出力手段と、保守作業内容を判断し、その保守作業内容または状況に応じて前記通常モードと保守モードとを切り換えるモード切換手段とを備えたことを特徴とする建設機械の異常情報制御装置である。
【0012】
このような構成によれば、通常モードと保守モードとが保守作業内容または状況に応じて自動的に切り換わるため、保守モード時に発生した意味のない偽の異常情報の出力を防止して通常モード時に発生した真の異常情報のみを出力することができる。また、切り換えミスや保守作業後の通常モードへの切り換え忘れなどの人為的なミスも回避できる。
【0013】
ここで、本発明でいう「保守モード」とは、後に例示するように建設機械に搭載された各種装置や機器などの点検、保守(メンテナンス)作業などに伴って発生する異常情報(エラーコード)を無効化または出力しない状態をいう。一方、「通常モード」とは検出された異常情報の全て記憶し、記憶した異常情報を所定の時期に所定の方法によって遠隔の情報センタなどに送信できる状態をいう。
【0014】
第2の発明は、第1の発明において、保守作業を行うサービス機器を車体に接続する手段を備え、前記モード切換手段は、前記サービス機器で選択された保守作業内容または状況に応じて前記通常モードと保守モードとを切り換えることを特徴とする建設機械の異常情報制御装置である。このような構成によれば、サービスマンが車体にサービス機器を接続して保守作業内容を選択するだけで保守モードと通常モードとを自動的に切り換えることができる。
【0015】
第3の発明によれば、第2の発明において、前記モード切換手段は、前記サービス機器で選択された保守作業内容が、エンジンを始動した状態で行うものであるときは通常モードにし、エンジンを停止した状態で行うものであるときは保守モードにすることを特徴とする建設機械の異常情報制御装置である。このような構成によれば、保守作業内容をエンジンの起動の有無によって通常モードと保守モードとに明確に分別することができる。
【0016】
第4の発明によれば、第2または第3の発明において、前記モード切換手段は、前記保守モードで行われる保守作業が終了したときに通常モードに切り換えることを特徴とする建設機械の異常情報制御装置である。このような構成によれば、作業終了後に保守モードから通常モードへの切り換え忘れなどの人為的なミスを防止することができる。
【0017】
第5の発明は、第2または第3の発明において、前記モード切換手段は、サービス機器を外したときに通常モードに切り換えることを特徴とする建設機械の異常情報制御装置である。このような構成によれば、第4の発明と同様に作業終了後に保守モードから通常モードへの切り換え忘れなどの人為的なミスを防止することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、通常モードと保守モードとが保守作業内容や状況に応じて自動的に切り換わるため、保守モード時に発生した意味のない偽の異常情報の出力を防止して通常モード時に発生した真の異常情報のみを出力することができる。また、切り換えミスや保守作業後の通常モードへの切り換え忘れなどの人為的なミスも回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る建設機械の1つである油圧ショベル100の実施の一形態を示した斜視図である。
図2】制御コントローラ30によって制御される油圧システム200を示す全体図である。
図3】本発明に係る異常情報制御装置300の構成を示したブロック図である。
図4】モニター装置25の一例を示した正面図である。
図5】本発明に係る異常情報制御装置300による異常情報の処理の流れを示したフローチャートである。
図6】典型的な日報作成手順の概要を示したフローチャート図である。
図7】典型的な日報作成手順の概要を示したフローチャート図である。
図8】作業内容として「試乗」が選択された場合の処理の流れを示したフローチャート図である。
図9】作業内容として「ソフト書換え」が選択された場合の処理の流れを示したフローチャート図である。
図10】作業内容として「部品交換」が選択された場合の処理の流れを示したフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の実施の形態を添付図面を参照しながら説明する。図1は本発明に係る建設機械の1つである油圧ショベル100の実施の一形態を示したものである。図示するようにこの油圧ショベル100は、クローラによって走行する下部走行体10と、この下部走行体10上に旋回自在に設けられた上部旋回体20とから主に構成されている。この上部旋回体20は、図示しない旋回体フレームの前側に運転席21aを有するキャブ21と、フロント作業機22を備えると共に、その後側にエンジンや熱交換器(図示せず)などを収容したエンジンルーム23を有し、さらにその後方にウェイト24などを備えた構造となっている。
【0021】
フロント作業機22は、ブーム22a、アーム22b、バケット22cおよび各油圧シリンダ46、46、46などを有し、キャブ21内の運転席21aの両側に設けられた操作レバー21bを操作して各油圧シリンダ46、46、46を伸縮させることによって各部を動作する。なお、図ではアーム22bの先端にバケット22cを装着しているが、バケット22cの代わりにグラップラーなどの各種アタッチメントが装着可能となっている。また、下部走行体10の移動機構はクローラの他にタイヤを用いたものもある。
【0022】
運転席21aの前方には、液晶表示部を備えたモニター装置25が設けられており、後述するような様々な情報を表示するようになっている。また、その運転席21a左側の操作レバー21bの近傍にはゲートロックレバー21cが設けられている。そして、このゲートロックレバー21cが上がっている状態のときはロック状態になっていてエンジン始動中に操作レバー21bを倒しても車体が動かないようになっており、このゲートロックレバー21cを下げた状態にすることで車体の動作が可能となっている。
【0023】
また、この運転席21aの後方には、制御コントローラ30や情報コントローラ60などの各種コントローラ類が収容されており、この制御コントローラ30によって図2に示すような全体の油圧システム200が制御されている。図において、符号40はエンジンであり、その出力軸41には可変容量型の第1油圧ポンプ42、第2油圧ポンプ43,第3油圧ポンプ44が接続されている。各油圧ポンプ42,43,44から吐出される圧油は、コントロールバルブを含む油圧回路45へ送られ、油量や方向を制御されて油圧シリンダ46や油圧モータ47などへ供給される。
【0024】
そして、この制御コントローラ30は、エンジンコントロールダイヤル50や各種センサー51および操作レバー21bなどからの入力信号を受けてエンジン制御演算部30aとポンプ制御演算部30bを統括制御している。
【0025】
すなわち、エンジンコントロールダイヤル50は、エンジン回転数の指令値を調整可能となっており、これによって調整された指令回転数はエンジン制御演算部30aへ入力される。エンジン制御演算部30は、その入力値に基づいて目標エンジン回転数を演算し、エンジンコントローラであるECU48に目標エンジン回転数を送り、その目標エンジン回転数に従ってECU48はエンジンの回転数を制御している。
【0026】
一方、ポンプ圧などを検出するセンサー51の信号や操作レバー21bの操作信号はエンジン制御演算部30およびポンプ制御演算部30bに入力され、ポンプ制御演算部30bがその入力値に基づいた指令値を演算して油圧ポンプ42,43,44を駆動制御する。具体的には、ポンプ制御演算部30bは、操作レバー21bの操作量に応じたポンプ流量を得られるようにポンプ吐出量を制御するポンプレギュレータ42a、43a、44aへ必要なポンプトルク圧を送るようになっている。
【0027】
図3は、この制御コントローラ30を中心とした本発明に係る異常情報制御装置300の構成を示したブロック図である。図示するようにこの異常情報制御装置300は、制御コントローラ30と、情報コントローラ60と、無線通信端末61などから構成されている。そして、制御コントローラ30は、入出力インターフェース31,32,CPU33,ROM34,RAM35などのハードウェアからなる情報処理装置によって構成されている。
【0028】
この制御コントローラ30の入出力インターフェース31には、センサー信号S1やエンジンキースイッチ信号S2などの入力要素Sが入力され、その入力要素Sに応じてCPU33で所定の演算処理が行われ、演算された出力信号は指令信号として入出力インターフェース32から前述した油圧ポンプ42乃至44や油圧シリンダ46などのアクチュエータ36へ出力される。なお、このCPU33において所定の演算処理を行わせるための制御プログラムは、ROM34に格納されており、エンジンキースイッチ信号S2が入力されるとRAM35にロードされて所定の制御が順次実行される。
【0029】
この制御コントローラ30には、さらにその入力信号に基づいて搭載された各種機器の異常(エラー)を検出する異常検出機能(異常検出プログラム)が備わっており、異常を検出したと判断したならば、運転席21a前方のモニター装置25にそれを表示する。図4は、このモニター装置25の一例を示したものであり、矩形状をしたモニター本体25aの前面に液晶表示部25bを備えると共に、その下部に複数の入力スイッチからなる入力部25cを備えた構成となっている。
【0030】
そして、後述するようにエンジンキースイッチオンにしてから車体の作業状態が保守モードになると車体が後述するような保守モードに切り変わると共に、液晶表示部25bのアイコン25dが点灯するなどして保守モードに切り変わったことを表示するようになっている。
【0031】
また、オペレータは、このモニター装置25に表示された異常情報を確認することで車体にどのような異常が発生しているのかを運転席21aにおいて目視によって把握できるようになっている。なお、制御コントローラ30は、その異常が重大なときは、モニター装置25による表示だけでなく音響警報処理を行い、ブザー装置26を鳴動するなどして緊急事態であることをオペレータなどに確実に報知できるようになっている。
【0032】
図3に示すようにこの異常情報は、同時に情報コントローラ60に送られて記憶され、情報コントローラ60は、その記憶した異常情報を無線通信機61を介して随時または定期的にサーバ70に無線送信する処理を行う。そして、この信号を受信したサーバ70は、この異常情報を情報データベース71に記憶し、各営業所や工場などの端末72がこのサーバ70に接続することで異常情報の確認ができるようになっている。
【0033】
また、この情報コントローラ60には、サービスツール(サービス機器)80が着脱自在に接続されるようになっており、このサービスツール80を接続することで情報コントローラ60に記憶された車体の稼働状況、異常情報などを適宜取得することが可能となっている。なお、このサービスツール80は、例えば日報作成用の専用装置や、あるいは日報作成用のソフトウェア(プログラム)を組み込んだPCなどとして各サービスマンに配布されて利用されるようになっている。
【0034】
図5は、このような構成をした本発明に係る異常情報制御装置300による異常情報の処理の流れを示したフローチャートである。図示するようにこの異常情報制御装置300は、最初のステップS100において各種センサーなどの入力要素Sからの入力信号に基づき異常が検出されたか否かの判断を行い、異常が検出されたと判断したとき(YES)は、次のステップS102およびS103に移行する。この異常の検出としては、例えば、センサー信号間での断線やショートが起きた場合、そのセンサー信号の電圧値はある閾値を超えて制御コントローラ30側に入力されてくる。そのため、この制御コントローラ30はそのセンサー信号の電圧値が上限閾値を超えていればセンサー高電圧異常として検出する。反対にそのセンサー信号の電圧値が下限閾値未満であればセンサー低電圧異常として検出する。
【0035】
ステップS102では、情報コントローラ60がその異常情報を記憶して次のステップS104に移行すると共に、ステップS103では、モニター装置25の液晶表示部25bにその異常を警告する表示をする。
【0036】
ステップS104では、その異常が検出されたときに車体が保守モードになっているか否かを判断し、保守モードとなっていると判断したとき(YES)は、情報コントローラ60がその異常情報を無効化して出力することなく処理を終了する。一方、車体が保守モードでない(NO)、すなわち通常モードであると判断したときは、次のステップS106に移行し、記憶されたその異常情報のエラーコードを所定時間経過後に無線通信機61からサーバ70へ送信する処理が行われる。
【0037】
本発明では、図5に示すフローに従って異常を検出し(ステップS100)、さらに異常情報を記憶し(ステップS102)、そのまま情報センタへエラーコードといった情報を送信する(ステップS106)状態を通常モードとして定義する。それに対してステップS102で記憶した異常情報をステップ106の情報センタへ送信する機能を無効化した状態を保守モードとして定義する。
【0038】
従って、保守モードでも異常検出および異常情報記憶機能は働いているため、モニター装置25や専用のサービスツール80上で現在発生している異常を確認することはできるが、コントローラに異常履歴は残らず、情報センタにエラーコードが送信されることはない。また、図4に示すように保守モードの場合は、モニター装置25上に保守モードであることを示すアイコン25dを表示し、さらに車体を動かす場合もエンジンコントロールダイヤル50で調整される指令回転数を無視し、エンジン制御演算部30aで最小となるエンジン回転数を常に固定してECU48に出力するようにする。これにより、保守モードで車体が動かされる場合であっても、サービスマンが直ぐに車体が保守モードであることを認識することができる。
【0039】
そして、本発明ではこの通常モードから保守モードへの切換えがサービスマンによる保守作業の一連の流れの中で自然に(自動的)に行われるようになっている。すなわち、サービスマンは通常、保守作業を行った後には、日報を作成し、その作業内容を管理するようになっている。そこで、本発明ではサービスマンがこの日報を作成する作業の中で自然にモード切換えがなされるようにしている。
【0040】
図6および図7は、典型的な日報作成手順の概要を示したものである。先ず、サービスマンは日報を作成するためには、専用のサービスツール80を車体(情報コントローラ60)に接続し(ステップS200)、車体のエンジンキースイッチをオンにする(ステップS202)。エンジンキースイッチをオフからオンにすることでバッテリからの電源ラインが各コントローラに供給され、各コントローラは動作可能状態になる。車体としては、エンジン始動待ち状態となる。
【0041】
車体のエンジンキースイッチがオンになったならば、サービスツール80の中の日報作成コマンドを実行し、日報作成の準備に入る(ステップS204)。日報作成を開始すると先ずは、車体の機種・号機や稼働時間などの日報作成に必要な基礎的な情報をサービスツール80を介して情報コントローラ60から取得する(ステップS206)。次に、サービスマンがこれから行おうとしている作業内容をタグで分離された項目の中から選択する(ステップS208)。作業内容については後述するが、例えば制御プログラム(ソフト)書換え、部品交換といった内容で分類される。作業内容を選択した後に、作業時間が記録される。その後、サービスマンは選択した保守作業を実施する(ステップS210)。
【0042】
保守作業が終了した後は、終了コマンドを実行する(ステップS212)。これにより作業終了時間が記録され、日報作成が終了する。作成した日報は電子データとしてファイル名を付けて保存し、後に紙に出力して管理する。そして、日報作成が終了したならば、車体からサービスツール80を外して終了となる(ステップS214)。
【0043】
このような一連の日報作成作業手順の中で本発明ではステップS208における作業内容を選択した段階で通常モードから保守モードへの切換え指令をサービスツール80から情報コントローラ60に送る。これによって、車体の状態が通常モードから保守モードへ自動的に切換わることになる。また、選択した作業内容によって保守モードから通常モードへ復帰するタイミングを変えるようにする。本発明では、作業内容を「試乗」、「ソフト書換え」、「部品交換」の3つに分類し、それぞれの作業内容により手順がどのように変わるのかを以下に説明する。
【0044】
(試乗)
図8は、作業内容として「試乗」が選択された場合の処理の流れを示したものである。ここで「試乗」とは、車体の動作に問題がないかを実際にエンジンを起動して車体の各部を動作させて点検することをいうものとする。先ず作業内容として「試乗」が選択された場合(ステップS300)、作業としては基本的には車体を動かすだけであるため、作業モードは通常モードの状態にしておき(ステップS302)、サービスマンは車体を動かすためにエンジンキーオンの状態からさらに回して実際にエンジンを始動する(ステップS304)。
【0045】
エンジンが始動したならば直ちに試乗に入るが、ステップS306のように車体の操作の邪魔になる場合には接続したサービスツール80を一旦外すことがある。サービスツール80が接続された状態での試乗(ステップS310)が終了したならばそのまま作業を終了(ステップS314)することになるが、サービスツール80が外された状態での試乗(ステップS308)の場合は、作成途中の日報情報をサービスツール80内のメモリ領域に一旦記録しておく。そして、試乗が終了したならば、サービスツール80を再び接続して(ステップS312)作成途中の日報情報を読み出して作業終了となる(ステップS314)。
【0046】
(ソフト書換え)
図9は、作業内容として「ソフト書換え」が選択された場合の処理の流れを示したものである。ここで「ソフト書換え」とは、例えば対象となるコントローラの制御プログラム(ソフトウェア)を市場で発生した不具合対策を施した新バージョンの制御プログラム(ソフトウェア)に書換える(更新)ことをいう。ソフト書換えの際は、対象となるコントローラの書換え中に、各コントローラとの通信が途絶えることがあり、それを故障と判断してエラーコードを発生させてしまうことがある。そのためにソフト書換え前に通常モードから保守モードへ切換えておくことで不要なエラーコードが記録され、そのエラーコードが情報センタに送信される事態を防ぐことができる。
【0047】
図示するように作業内容として「ソフト書換え」が選択された場合(ステップS400)、作業モードは自動的に通常モードから保守モードへ切換わる(ステップS402)。それからサービスツール80でソフト書換えを実施することになるが、場合によってはその途中でエンジンキーオフするなどしてソフト書換え中断することも考えられる(ステップS404)。
【0048】
このステップS404において作業を中断せずにソフト書換えが実施された場合(ステップS406)、書換え完了と共に直ちに保守モードから通常モードへ復帰し(ステップS408)、作業終了となる(ステップS410)。また、このステップS404においてソフト書換え前にエンジンキーオフした場合は、直ちに保守モードから通常モードへ復帰するようにし(ステップS408)、保守モードのままにならないようにする。
【0049】
(部品交換)
図10は、作業内容として「部品交換」が選択された場合の処理の流れを示したものである。部品交換とは、例えば定期的なフィルタの交換作業や不具合のために油圧シリンダや油圧モータなどの各部品を交換する作業をいう。これらの部品交換作業のうち対象となる部品によってはそれに繋がる配管、信号線、センサーなどの取り外しも必要となり、外したものを元に戻し忘れてしまうとその状態を故障と判断してエラーコードを発生させてしまうことがある。そのために部品交換作業前に通常モードから保守モードへ切換えておくことで不要なエラーコードが記録され、そのエラーコードが情報センタに送信されることを防ぐことができる。
【0050】
図示するように先ず作業内容として部品交換が選択された場合(ステップS500)、作業モードは自動的に通常モードから保守モードへ切換わり(ステップS502)、車体は自動的にエンジンキーオフされ(ステップS504)、作成途中の日報情報がサービスツール80内のメモリ領域に一旦記録される。なお、このステップS504において自動的にエンジンキーオフされる理由は、センサーやコントローラに電源が供給された状態で部品を交換すると、予期せずに備品を壊してしまう危険があるためである。
【0051】
エンジンキーオフ状態で部品交換を実施し(ステップS506)、再度エンジンキーオンしてサービスツール80を起動する(ステップS508)。サービスツール80を起動すると作成途中の日報情報が読み出され、サービスツール80上で故障診断が実施される。そして次のステップS510において故障を検出していないかを判断し、故障を検出してないと判断したとき(YES)は、正常に部品交換が終了したため、作業モードを保守モードから通常モードへ復帰し(ステップS514)、作業終了となる(ステップS516)。
【0052】
一方、ステップS510において故障を検出したと判断したとき(NO)は、サービスマンにサービスツール80上で作業を続けるかどうかを選択させる(ステップS512)。そして、作業を続けると判断したとき(YES)は、ステップS504に戻って同様な処理を繰り返す。ここで、故障の原因が部品交換の際に配管、信号線、センサーなどを戻し忘れたことによる場合は、それを直した上で再度ステップS510において故障がないかを調べる。
【0053】
ステップS512において故障の原因が解明できない場合は、想定外の問題が発生していると判断して作業を中止する(NO)ことを選択する。この場合も保守モードから通常モードへ移行し(ステップS514)、今回の故障をコントローラに記録し、情報センタにもエラーコードを送信した上で迅速な対応を採るようにする。
【0054】
このように本発明の異常情報制御装置300によれば、通常モードと保守モードとが保守作業内容または状況に応じて自動的に切り換わるため、保守モード時に発生した意味のない偽の異常情報の出力を防止して通常モード時に発生した真の異常情報のみを出力することができる。また、切り換えミスや保守作業後の通常モードへの切り換え忘れなどの人為的なミスも確実に回避することができる。また、従来例のように保守作業時に常に故障診断機を接続しておく必要がなく、また、エラーコードに統一的な基準を設けなどといっ対応をする必要もない。なお、本実施の形態では、建設機械として油圧ショベルの例を上げたが、他にホイールローダやダンプトラック、ブルトーザなどであっても同様である。
【符号の説明】
【0055】
100…油圧ショベル(建設機械)
200…油圧システム
300…異常情報制御装置
25…モニター装置
30…制御コントローラ(異常検出手段、異常情報出力手段、モード切換手段)
60…情報コントローラ(異常検出手段、異常情報出力手段、モード切換手段、サービス機器接続手段)
61…無線通信端末
80…サービス機器
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