特許第6072259号(P6072259)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6072259表面被覆無機粒子及びその製造方法、表面被覆剤、並びに、水硬性組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6072259
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】表面被覆無機粒子及びその製造方法、表面被覆剤、並びに、水硬性組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/36 20060101AFI20170123BHJP
   C04B 20/10 20060101ALI20170123BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20170123BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20170123BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20170123BHJP
   C04B 18/08 20060101ALI20170123BHJP
   C08F 220/28 20060101ALI20170123BHJP
   C08F 216/18 20060101ALI20170123BHJP
   C04B 103/30 20060101ALN20170123BHJP
【FI】
   C04B7/36
   C04B20/10
   C04B24/26 B
   C04B24/26 E
   C04B24/26 F
   C04B28/02
   C04B18/14 Z
   C04B18/08 Z
   C04B18/14 A
   C08F220/28
   C08F216/18
   C04B103:30
【請求項の数】12
【全頁数】42
(21)【出願番号】特願2015-530982(P2015-530982)
(86)(22)【出願日】2014年8月8日
(86)【国際出願番号】JP2014071022
(87)【国際公開番号】WO2015020199
(87)【国際公開日】20150212
【審査請求日】2016年1月4日
(31)【優先権主張番号】特願2013-167029(P2013-167029)
(32)【優先日】2013年8月9日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-167030(P2013-167030)
(32)【優先日】2013年8月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川上 宏克
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−512268(JP,A)
【文献】 特開2009−154056(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/032851(WO,A1)
【文献】 特開昭50−017450(JP,A)
【文献】 ホバートミキサーカタログ,ホバート・ジャパン株式会社,全6頁,「記載内容は、2011年12月のもの」,URL,http://www.hobart.co.jp/wp-content/themes/eddiemachado-bones-542ebd4/library/pdf/Mixer%20%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00−28/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水硬性無機粒子及びポゾラン活性無機粒子からなる群より選択される少なくとも1種の無機粒子の表面の一部又は全部が有機系分散剤で被覆されてなり、
粒子表面のケイ素(Si)及びカルシウム(Ca)に対する炭素(C)の相対表面濃度をXPSによって測定したとき(但し、測定装置として、ULVAC−PKI社製のPHI Quantera SXMを用いる。)に、炭素(C)の相対表面濃度が0.8〜50であり、かつ粒子表面から1〜2nmにおける深さの平均の炭素(C)の相対表面濃度が0.15〜50であることを特徴とする表面被覆無機粒子。
【請求項2】
前記表面被覆無機粒子は、粒子表面における、有機系分散剤単位量あたりのケイ素(Si)及びカルシウム(Ca)に対する炭素(C)の相対表面濃度をXPSによって測定したときに、炭素(C)の相対表面濃度が0.6〜10であり、かつ粒子表面から1〜2nmにおける深さの平均の炭素(C)の相対表面濃度が0.2〜5であることを特徴とする請求項1に記載の表面被覆無機粒子。
【請求項3】
前記表面被覆無機粒子は、水和度が0.1以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面被覆無機粒子。
【請求項4】
前記無機粒子は、セメント、シリカフューム、フライアッシュ及びスラグからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の表面被覆無機粒子。
【請求項5】
前記有機系分散剤は、ポリアルキレングリコールを含有するポリカルボン酸系重合体を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の表面被覆無機粒子。
【請求項6】
前記ポリカルボン酸系重合体は、下記一般式(1):
【化1】
(式中、R及びRは、同一又は異なって、水素原子又はメチル基を表す。pは、0〜2の整数を表す。qは、0又は1を表す。AOは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。nは、AOで表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数であり、2〜300の数である。Rは、水素原子又は炭素数1〜18の炭化水素基を表す。)で表される不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(a)由来の構成単位と、不飽和カルボン酸系単量体(b)由来の構成単位とを有する重合体であることを特徴とする請求項5に記載の表面被覆無機粒子。
【請求項7】
前記一般式(1)中のqは、0であることを特徴とする請求項6に記載の表面被覆無機粒子。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の表面被覆無機粒子を含有することを特徴とする水硬性粒子。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の表面被覆無機粒子を用いることを特徴とする水硬性組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかに記載の表面被覆無機粒子を製造する方法であって、
該製造方法は、水硬性無機粒子及びポゾラン活性無機粒子からなる群より選択される少なくとも1種の無機粒子を、有機系分散剤を含む溶媒に分散させた後、該溶媒を留去し、粉末化する工程を含むことを特徴とする表面被覆無機粒子の製造方法。
【請求項11】
前記溶媒は、有機溶媒を含むことを特徴とする請求項10に記載の表面被覆無機粒子の製造方法。
【請求項12】
前記溶媒は、水を含むことを特徴とする請求項10に記載の表面被覆無機粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面被覆無機粒子及びその製造方法、表面被覆剤、並びに、水硬性組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水硬性粒子には、水の存在下で水和反応が生じるような狭義の水硬性粒子の他、水だけでは水和しないものの、刺激剤と称される少量の物質の存在下で水和反応が生じるような潜在水硬性粒子がある。一般に、水硬性粒子は、分散剤、水、及び、必要に応じて細骨材や粗骨材等と併用され、セメントペーストやモルタル、コンクリート等の水硬性組成物を得るために使用される。例えば、フレッシュな(生)コンクリートを製造するには、ミキサーの中に、セメント等の狭義の水硬性粒子、分散剤、水、細骨材や粗骨材、及び、必要に応じてシリカフューム、高炉スラグ、フライアッシュ等の微粉末を投入した後、一定時間混合し、分散剤がペーストを分散させ流動性が一定になるまで、つまり流動性が安定するまで混練する手法が行われている。分散剤は減水剤とも称され、水硬性組成物に流動性を付与する添加剤として使用されるものであり、通常は、予め水と混合されて、水硬性粒子に添加される。このように水硬性粒子に(分散剤入りの)水を加えた後、流動性が安定化するまでの時間を、混練時間又は練上がりまでの時間と称するが、流動性が安定化するまでには一定の時間を要するのが通常である。
【0003】
分散剤を含む水硬性組成物としては、例えば、特許文献1に、所定の物性値を示すカルシウムアルミネート化合物と減水剤とを含有するセメント混和材が開示されている。この文献では、減水剤は、水に減水剤成分が溶解した液状のものや粉末状のものを使用することができる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−100469号公報
【特許文献2】特開2011−068134号公報
【特許文献3】特表2008−503432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、混練時間には一定時間を要するのが通常である。特に、水/水硬性粒子の質量比率が低い超高強度コンクリートほど、流動性が安定化するまでの時間、すなわち混練時間は長くなる傾向にある。これを改善して混練時間を短縮することができれば、例えば、コンクリート製造工場での1バッチあたりの製造時間等を短縮することができ、生産性向上に大きく寄与できる。しかし、このような課題を充分に解決できる技術は、まだ見いだされていないのが現状である。なお、特許文献1に記載の技術において、分散剤を粉末化して使用しても混練時間の短縮には寄与しない(後述の試験例3−1)。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、混練時間を著しく短縮することができ、流動性に優れる水硬性組成物を生産性よく与えることができる表面被覆無機粒子及びその製造方法を提供することを目的とする。本発明はまた、このような表面被覆無機粒子を得るために特に好適な表面被覆剤、及び、この表面被覆無機粒子を用いた水硬性組成物の製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、水硬性組成物の生産技術について種々検討の結果、水硬性組成物の製造に、水硬性無機粒子の表面の一部又は全部が有機系分散剤で被覆されてなり、かつ粒子表面又は表面近辺の炭素含有比率(炭素濃度)が所定範囲にある表面被覆無機粒子を用いると、流動性が安定化するまでの混練時間を著しく短縮でき、高い流動性を示す水硬性組成物を与えることができることを見いだした。また、これと同様の現象が、ポゾラン活性無機粒子を用いた表面被覆無機粒子についても生じることを見いだした。水/水硬性粒子の質量比率が低い場合であっても、このような表面被覆無機粒子を用いれば、高い流動性を示す水硬性組成物を短時間で容易に得ることができるため、生産性に非常に優れることになる。また、ポリアルキレングリコールを含有するポリカルボン酸系重合体を含む表面被覆剤は、水硬性無機粒子やポゾラン活性無機粒子への吸着性、及び、吸着後(すなわち表面被覆後)の粒子分散性に極めて優れるため、これら無機粒子用の表面被覆剤としての用途に特に適することも見いだした。そして、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達した。
【0008】
ここで、上述した特許文献2には、添加剤であるコンクリート流動化剤13で被覆されたセメント粒子(例えば、図中の粒子コーティング22等)が記載されているが、コンクリート流動化剤13は、少量の水と一緒に噴霧により供給されるため、流動化剤13がセメント表面を充分に被覆することができず、また、添加する水の量が少ないため、表面被覆時にセメント粒子を充分に分散することができない。特許文献3には、所定構造のポリマーAを含有する水性組成物を、セメント粉砕助剤として使用することが記載されている。このセメント粉砕助剤は、少量の水を必須に含む水性組成物としてクリンカー(セメント原料)に添加されるため、この場合もセメント粉砕時に表面を充分に被覆することができず、粉砕時にセメント粒子を充分に分散することができない。また、特許文献2、3の技術は、溶媒に水を使用したり、粒子表面が充分に分散剤で被覆されていないため、流動化剤の分散性が発揮しない(後述の試験例7−1)。したがって、これら特許文献2、3の技術によっては、流動性の向上と混練時間のより一層の短縮とを図ることはできない。
【0009】
本発明は、以下の発明(I)〜(VI)からなる。
(I)水硬性無機粒子及びポゾラン活性無機粒子からなる群より選択される少なくとも1種の無機粒子の表面の一部又は全部が有機系分散剤で被覆されてなり、粒子表面のケイ素(Si)及びカルシウム(Ca)に対する炭素(C)の相対表面濃度をXPSによって測定したときに、炭素(C)の相対表面濃度が0.35〜50であり、かつ粒子表面から1〜2nmにおける深さの平均の炭素(C)の相対表面濃度が0.15〜50である表面被覆無機粒子。
(II)上記表面被覆無機粒子であって、かつ、有機系分散剤単位量あたりの無機粒子表面のケイ素(Si)及びカルシウム(Ca)に対する炭素(C)の相対表面濃度が0.6〜10であり、かつ粒子表面から1〜2nmにおける深さの平均の炭素(C)の相対表面濃度が0.2〜5である表面被覆無機粒子。
(III)上記表面被覆無機粒子であって、かつ該無機粒子の水和度が0.1以下である表面被覆無機粒子。
(IV)上記表面被覆無機粒子を含有する水硬性無機粒子。
(V)上記表面被覆無機粒子を用いる水硬性組成物の製造方法。
(VI)上記表面被覆無機粒子を製造する方法であって、該製造方法は、水硬性無機粒子及びポゾラン活性無機粒子からなる群より選択される少なくとも1種の無機粒子を、有機系分散剤を含む溶媒に分散させた後、該溶媒を留去し、粉末化する工程を含む表面被覆無機粒子の製造方法。
(VII)上記表面被覆無機粒子を得るために使用される無機粒子の表面被覆剤であって、該無機粒子は、水硬性無機粒子及びポゾラン活性無機粒子からなる群より選択される少なくとも1種であり、該表面被覆剤は、ポリアルキレングリコールを含有するポリカルボン酸系重合体を含む表面被覆剤。
以下に本発明を詳述する。なお、以下に記載される本発明の個々の好ましい形態を2又は3以上組み合わせた形態も本発明の好ましい形態である。
【0010】
〔表面被覆無機粒子〕
本発明の表面被覆無機粒子は、所定の無機粒子の表面の一部又は全部が有機系分散剤で被覆された形態からなる。
上記表面被覆無機粒子は、例えば、平均粒径として0.01〜100μmの範囲であることが好適である。このような範囲にあることで、混練時間をより短縮することができるとともに、得られる水硬性組成物により均質な流動性を与えることが可能になる。より好ましくは0.05〜75μm、更に好ましくは0.1〜50μmの範囲である。
【0011】
(粒径測定法)
本明細書中、粒子の粒径は、市販の粒度分布測定装置を用いて測定することができる。例として、HORIBA社製、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA−910を用いて、試料をエタノールで超音波分散させた後、相対屈折率1.10の条件で測定することができる。
【0012】
上記表面被覆無機粒子を得るための無機粒子は、水硬性無機粒子及びポゾラン活性無機粒子からなる群より選択される少なくとも1種である。これら無機粒子は、例えば、平均粒径として、0.001〜100μmの範囲であることが好適である。好ましくは0.01〜100μm、より好ましくは0.05〜75μmの範囲である。
なお、上記水硬性無機粒子及びポゾラン活性無機粒子は、未だ水和(硬化)していない状態にあること、すなわち未水和であることが好適である。
【0013】
上記水硬性無機粒子において、「水硬性」とは、水の存在下で水和反応が生じ、固体として硬化していくような狭義の「水硬性」の他、水だけでは水和しないものの、刺激剤と称される少量の物質の存在下で水和反応が生じ、固体として硬化していくような「潜在水硬性」をも意味する。
【0014】
上記水硬性無機粒子としては、例えば、セメント、アルミナ等の狭義の水硬性無機粒子;スラグ等の潜在水硬性無機粒子;等が挙げられ、これらの1種又は2種以上からなるものであってもよい。中でも、セメント、高炉スラグが好ましく、これにより、混練時間を短縮するという本発明の作用効果をより充分に発揮することが可能となる。
【0015】
上記セメントとして具体的には、ポルトランドセメント(普通、早強、超早強、低熱、中庸熱、耐硫酸塩及びそれぞれの低アルカリ形)、各種混合セメント(高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント)、白色ポルトランドセメント、アルミナセメント、超速硬セメント(1クリンカー速硬性セメント、2クリンカー速硬性セメント、リン酸マグネシウムセメント)、グラウト用セメント、油井セメント、低発熱セメント(低発熱型高炉セメント、フライアッシュ混合低発熱型高炉セメント、ビーライト高含有セメント)、超高強度セメント、セメント系固化材、エコセメント(都市ごみ焼却灰、下水汚泥焼却灰の一種以上を原料として製造されたセメント)等が挙げられる。
【0016】
上記ポゾラン活性無機粒子とは、ポゾラン活性を有する無機粒子を意味し、例えば、シリカフューム、フライアッシュ、シンダーアッシュ、ハスクアッシュ、火山灰等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。中でも、シリカフューム、フライアッシュが好ましく、これにより、混練時間を短縮するという本発明の作用効果をより充分に発揮することが可能となる。
【0017】
上記無機粒子として特に好ましくは、セメント、シリカフューム、フライアッシュ及びスラグからなる群より選択される少なくとも1種である。これにより、混練時間を短縮するという本発明の作用効果をより充分に発揮することが可能となる。このように上記無機粒子が、セメント、シリカフューム、フライアッシュ及びスラグからなる群より選択される少なくとも1種である形態は、本発明の好適な形態の1つである。
【0018】
本発明ではまた、セメント表面の一部又は全部が有機系分散剤で被覆された表面被覆無機粒子と、シリカフューム、フライアッシュ及び/又はスラグの表面の一部又は全部が有機系分散剤で被覆された表面被覆無機粒子とを、併用することが特に好適である。通常、シリカフュームやフライアッシュ等の無機粒子は、粒子径が細かいため、該無機粒子をこのまま(すなわち被覆処理を施さずに)水硬性組成物の製造に使用した場合には、混練時間が長くなり生産性が充分ではない。しかし、これらの無機粒子の表面の一部又は全部を有機系分散剤で被覆した後、このような表面被覆無機粒子を混合して得られる粒子を使用すれば、水と混合したときに、混練時間を著しく短縮し、高い流動性を有するシリカフュームセメントやフライアッシュセメント、高炉スラグセメントを与えることができる。
【0019】
上記無機粒子の表面の一部又は全部が有機系分散剤で被覆された形態とは、上記無機粒子の表面に有機系分散剤が吸着又は付着していることを意味する。有機系分散剤は炭素原子を有するため、無機粒子中に有機系分散剤が存在し、表面(又は表面付近)の炭素含有率(炭素濃度)が向上していれば、無機粒子の表面に有機系分散剤が吸着又は付着している、すなわち無機粒子の表面の一部又は全部が有機系分散剤で被覆されていると推測される。
なお、粒子表面に有機系分散剤が吸着又は付着していることは、例えば、X線光電子分光法等を用いて粒子表面の炭素含有率(炭素濃度)を測定すること等により確認することができる。
【0020】
X線光電子分光法とは、高真空下で軟X線により固体表面を励起し、表面より放出される光電子を測定する分析方法である(以下、XPS分析法又はXPSと称する)。本分析法により、表面近傍数ナノメートルに存在する元素の酸化状態や濃度等に関する情報が得られ、表面のSi(ケイ素)、Ca(カルシウム)に対するC(炭素)の相対濃度を特定できると考えられる。
【0021】
(XPS分析法)
本発明では、表面被覆無機粒子におけるSi及びCaに対するCの相対表面濃度を測定する。Si及びCaに対するCの相対表面濃度は、縦軸が毎秒あたりのカウント数、横軸が結合エネルギーを示すXPSのチャートから、C1sのピーク面積をC1sの感度係数で除した値を、Si2pのピーク面積をSi2pの感度係数で除した値と、Ca2pのピーク面積をCa2pの感度係数で除した値との合計値で、除した値であり、下記数式(1)で表される。
【0022】
【数1】
【0023】
上記C1s、Si2p及びCa2pのピーク面積は、以下の手順により測定し算出することができる。
測定装置:ULVAC−PKI社製、PHI Quantera SXMを用い、X線源はAlKα、ビーム径は100μm、ビーム出力は25W−15kVとする。
試料調整法:SUS社製φ3ワッシャー内に、測定試料である粒子粉末を充填後、スパチュラを用いて指圧で固定化する。それをSUS社製の冶具でサンプル台にセットする。カーボンテープ等のカーボン種の冶具は一切使用しない。
深さ方向の分析方法:Arイオン(2kV−25mA)によって、SiO換算で8nm/分の速度でエッジングを行い、深さ方向分析を行う。
Si2p、Ca2p、C1sの測定では、パスエネルギーを280eV、エネルギーステップを0.5eVに設定する。
Si2pのピーク面積は100eV付近のピークを14回積算した後、Shirley法によりバックグラウンド除去して算出する。
Ca2pのピーク面積は345〜350eV付近のピークを14回積算した後、Shirley法によりバックグラウンド除去して算出する。
1sのピーク面積は285eV付近のピークを14回積算した後、Shirley法によりバックグラウンド除去して算出する。
なお、感度係数は測定装置固有の値であり、当該装置のSi2p、Ca2p、C1sの感度係数は、それぞれ119.676、597.269及び87.799である。
【0024】
上記表面被覆無機粒子は、その粒子表面のSi及びCaに対するCの相対表面濃度をXPSによって測定したときに、粒子表面(深さ0nm)のSi及びCaに対するCの相対表面濃度が0.35〜50であり、かつ粒子表面から1〜2nmにおける深さの平均のCの相対表面濃度が0.15〜50である。これにより、混練時間をより短縮することができ、流動性に優れる水硬性組成物を生産性よく与えることが可能になる。粒子表面(深さ0nm)のSi及びCaに対するCの相対表面濃度の下限値は、より好ましくは0.4以上、更に好ましくは0.5以上、特に好ましくは0.8以上である。また、上限値は、より好ましくは30以下、更に好ましくは10以下、特に好ましくは5以下、最も好ましくは3以下である。粒子表面から1〜2nmにおける深さの平均のCの相対表面濃度の下限値は、より好ましくは0.18以上、更に好ましくは0.20以上、特に好ましくは0.25以上、一層好ましくは0.3以上である。また上限値は、より好ましくは30以下、更に好ましくは10以下、特に好ましくは5.0以下、最も好ましくは3.0以下である。
【0025】
上記「粒子表面から1〜2nmにおける深さの平均のCの相対表面濃度」とは、表面から1nmにおける深さでのCの相対表面濃度と、表面から2nmにおける深さでのCの相対表面濃度との平均値を意味する。粒子表面(深さ0nm)の炭素含有比率には表面汚れによる影響が存在し得るが、表面から1nm以上の深さの部分では、その影響が低減されるため、粒子表面に有機系分散剤が吸着又は付着していることをより正確に確認することができる。
【0026】
また無機粒子中に有機系分散剤が存在していることを確認する方法としては、有機系分散剤で一部又は全部が被覆された粒子に水やアルコール等の溶媒を加え、所定時間撹拌した後、遠心分離等によって上澄み液を分離し、上澄み液を乾燥させ、NMR等で分析することで、確認することもできる。
【0027】
上記有機系分散剤は特に限定されず、水硬性無機粒子の分散剤(減水剤とも称される)として通常使用されるものを1種又は2種以上を使用することができる。例えば、以下の化合物等が例示される。
リグニンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、メラミンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリスチレンスルホン酸塩、アミノスルホン酸塩(例えば、アミノアリールスルホン酸−フェノール−ホルムアルデヒド縮合物等、特開平1−113419号公報参照)等のスルホン酸塩;ポリオール誘導体;ポリオキシアルキレン基とアニオン性基とを有する重合体(例えば、3−メチル3−ブテン−1−オール等の特定の不飽和アルコールにエチレンオキシド等を付加したアルケニルエーテル系単量体及び不飽和カルボン酸系単量体を含む単量体成分を用いて得られる共重合体又はその塩(特開昭62−68808号公報、特開平10−236858号公報、特開2001−220417号公報参照);(メタ)アクリル酸のポリエチレン(プロピレン)グリコールエステル又はポリエチレン(プロピレン)グリコールモノ(メタ)アリルエーテル、(メタ)アリルスルホン酸(塩)及び(メタ)アクリル酸(塩)を用いた共重合体(特開昭62−216950号公報参照);(メタ)アクリル酸のポリエチレン(プロピレン)グリコールエステル、(メタ)アリルスルホン酸(塩)及び(メタ)アクリル酸(塩)を用いて得られる共重合体(特開平1−226757号公報参照);ポリエチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテルとマレイン酸(塩)との共重合体(特開平4−149056号公報参照);ポリエチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸(塩)、及び、(メタ)アリルスルホン酸(塩)又はp−(メタ)アリルオキシベンゼンスルホン酸(塩)を用いて得られる共重合体(特開平6−191918号公報参照);アルコキシポリアルキレングリコールモノアリルエーテルと無水マレイン酸との共重合体、その加水分解物又はその塩(特開平5−43288号公報参照);
【0028】
(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体及び(メタ)アクリル酸系単量体を含む単量体成分から得られる共重合体(特公昭59−18338号公報参照);スルホン酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル及び必要に応じてこれと共重合可能な単量体を用いた共重合体又はその塩(特公昭62−119147号公報参照);アルコキシポリアルキレングリコールモノアリルエーテルと無水マレイン酸との共重合体と、末端に水酸基を有するポリオキシアルキレン誘導体とのエステル化反応物(特開平6−298555号公報参照);ポリアルキレングリコールモノエステル系単量体と、(メタ)アクリル酸系単量体、不飽和ジカルボン酸系単量体及び/又は(メタ)アリルスルホン酸系単量体とを用いて得られる共重合体(特開平7−223852号公報参照);スチレンスルホン酸、スルホアルキル(メタ)アクリレート、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及び/又はヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートモノリン酸エステルと、(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートと、不飽和カルボン酸系単量体とを用いて得られる共重合体又はその塩(特開平11−79811号公報参照);(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノビニルエーテル系単量体、不飽和カルボン酸系単量体及び(ヒドロキシ)アルキル(メタ)アクリレートを用いて得られる共重合体(特開2004−307590号公報参照);(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、リン酸モノエステル系単量体及びリン酸ジエステル系単量体を用いて得られる共重合体又はその塩(特開2006−52381号公報参照);不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル系単量体と不飽和モノカルボン酸系単量体との共重合体(特開2002−121055号公報、特開2002−121056号公報参照);等。
【0029】
上記有機系分散剤の中でも、リグニンスルホン酸塩やナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物等のスルホン酸系分散剤、ポリカルボン酸系分散剤が好適である。より好ましくは、分散性能により優れ、かつ水硬性無機粒子やポゾラン活性無機粒子の表面への吸着性に優れる観点から、ポリカルボン酸系分散剤を少なくとも用いることが好適である。
【0030】
上記ポリカルボン酸系分散剤とは、カルボキシル基及び/又はその塩の構造部分を有する重合体(ポリカルボン酸系重合体)を含む分散剤であることが好ましく、中でも、分散性能により優れる観点から、ポリアルキレングリコールを含むものが好適である。上記有機系分散剤としてより好ましくは、ポリアルキレングリコールを含有するポリカルボン酸系重合体を含むことである。このように上記有機系分散剤がポリアルキレングリコールを含有するポリカルボン酸系重合体を含む形態は、本発明の好適な形態の1つである。このようなポリカルボン酸系重合体は、特に、上記無機粒子表面への吸着性が高く、しかも表面被覆後により充分な分散性を発揮することができる。
【0031】
上記ポリアルキレングリコールは、例えば、炭素数2〜18のオキシアルキレン基の1種又は2種以上により形成されたものが好適である。2種以上のオキシアルキレン基が存在する場合、その付加形態は、ランダム付加、ブロック付加、交互付加等のいずれの付加形態であってもよい。上記オキシアルキレン基の炭素数としては、2〜8が好ましく、より好ましくは2〜4である。更に好ましくは2である、すなわち上記ポリアルキレングリコールは、ポリエチレングリコールであることが好適である。
【0032】
上記炭素数2〜18のオキシアルキレン基として具体的には、オキシエチレン基、オキシプロピレン、オキシブチレン基、オキシイソブチレン基、オキシブテン基(1−ブテンオキシド、2−ブテンオキシド等)等が挙げられるが、中でも、オキシエチレン基、オキシプロピレン基が好ましい。より好ましくは、オキシエチレン基が主体であるものである。
オキシエチレン基が主体であるとは、ポリアルキレングリコールが2種以上のオキシアルキレン基により形成される場合に、オキシアルキレン基を形成する全アルキレンオキシドのモル数において、エチレンオキシドが大半を占めるものであることを意味する。これにより、ポリカルボン酸系重合体の親水性と疎水性とのバランスがより良好なものとなり、該重合体の奏する効果がより充分に発揮されることとなる。具体的には、ポリアルキレングリコールを構成する全オキシアルキレン基100モル%中、オキシエチレン基が50〜100モル%であることが好ましい。より好ましくは60〜100モル%、更に好ましくは70〜100モル%、特に好ましくは80〜100モル%、最も好ましくは90〜100モル%である。
【0033】
上記ポリアルキレングリコールにおいて、アルキレングリコール(オキシアルキレン基)の平均繰り返し数(平均付加モル数)としては、例えば、2〜300の数であることが好適である。より好ましくは、5〜300の数である。更に好ましくは10〜150、特に好ましくは20〜100、一層好ましくは23〜75、最も好ましくは25〜75である。
【0034】
上記ポリカルボン酸系分散剤及びポリカルボン酸系重合体中のポリアルキレングリコールの存在形態は、単体で含まれていてもよいが、重合体の構造の一部として含まれることが好ましい。具体的には、上記有機系分散剤は、ポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸系重合体を含むことが好適である。
【0035】
上記ポリアルキレングリコールを含有するポリカルボン酸系重合体としては、例えば、不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(a)由来の構成単位(A)と、不飽和カルボン酸系単量体(b)由来の構成単位(B)とを有する重合体であることが好適である。このような重合体は、水硬性無機粒子やポゾラン活性無機粒子への吸着性や、吸着後(すなわち表面被覆後)の粒子分散性により優れるため、水硬性組成物を得る際の混練時間をより短縮でき、かつ得られた水硬性組成物の流動性をより一層向上することができる。より好ましくは、不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(a)及び不飽和カルボン酸系単量体(b)を含む単量体成分を重合して得られる重合体である。単量体成分に含まれる各単量体は、それぞれ1種又は2種以上を使用することができる。
なお、各構成単位は、各単量体が有する重合性二重結合(炭素炭素二重結合)が単結合となった構造を意味する。
以下では、不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(a)を「単量体(a)」とも称し、不飽和カルボン酸系単量体(b)を「単量体(b)」とも称し、単量体(a)由来の構成単位(A)と単量体(b)由来の構成単位(B)とを有する重合体を「共重合体(I)」とも称する。
【0036】
<不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(a)>
上記不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(a)は、重合性不飽和基と、ポリアルキレングリコール鎖とを有する単量体であればよい。
上記ポリアルキレングリコール鎖としては、例えば、炭素数2〜18のオキシアルキレン基の1種又は2種以上により構成されることが好適である。2種以上のオキシアルキレン基が存在する場合、その付加形態は、ランダム付加、ブロック付加、交互付加等のいずれの付加形態であってもよい。上記オキシアルキレン基の炭素数としては、2〜8が好ましく、より好ましくは2〜4である。更に好ましくは2である、すなわち上記ポリアルキレングリコール鎖は、ポリエチレングリコール鎖であることが好適である。
上記炭素数2〜18のオキシアルキレン基の具体例及び好ましい形態については上述したとおりである。
【0037】
上記ポリアルキレングリコール鎖において、アルキレングリコール(オキシアルキレン基)の平均繰り返し数(平均付加モル数)としては、例えば、2〜300の数であることが好適である。より好ましくは、5〜300の数である。このような範囲であることにより、単量体(a)の重合反応性及び共重合体(I)の親水性がより充分なものとなるため、本発明の作用効果をより充分に発揮することが可能となる。上記平均付加モル数として更に好ましくは10〜150、特に好ましくは20〜100、一層好ましくは23〜75、最も好ましくは25〜75である。
【0038】
上記不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(a)として特に好ましくは、下記一般式(1)で表されるものである。このように上記ポリカルボン酸系重合体が、下記一般式(1)で表される不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(a)由来の構成単位(A)と、不飽和カルボン酸系単量体(b)由来の構成単位(B)とを有する重合体である形態は、本発明の好適な形態の1つである。このような重合体としては、下記一般式(1)で表される単量体(a)及び単量体(b)を含む単量体成分を重合して得られる重合体がより好ましい。
【0039】
【化1】
【0040】
式中、R及びRは、同一又は異なって、水素原子又はメチル基を表す。pは、0〜2の整数を表す。qは、0又は1を表す。AOは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。nは、AOで表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数であり、2〜300の数である。Rは、水素原子又は炭素数1〜18の炭化水素基を表す。
【0041】
上記一般式(1)において、−(AO)−で表されるポリアルキレングリコール鎖については上述したとおりである。
上記一般式(1)において、R及びRは、同一又は異なって、水素原子又はメチル基を表し、pは、0、1又は2である。したがって、「C(R)H=C(R)−(CH−」で表されるアルケニル基は、炭素数2〜6のアルケニル基に相当するが、このアルケニルの炭素数として好ましくは、3〜5である。
上記「C(R)H=C(R)−(CH−」で表されるアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、メタリル基、3−ブテニル基、3−メチル−3−ブテニル基等が挙げられる。これらの中でも、ビニル基、アリル基、メタリル基、3−メチル−3−ブテニル基が好ましい。
なお、R及びRとしては、Rが水素原子であり、かつRがメチル基であることが好適であり、このような形態は本発明の好適な実施形態の1つである。
【0042】
上記一般式(1)において、Rは、水素原子又は炭素数1〜18の炭化水素基を表す。Rが炭化水素基を表す場合、共重合体(I)の親水性をより向上させる観点から、その炭素数(炭素原子数)は1〜12であることが好ましく、より好ましくは1〜8、更に好ましくは1〜4、特に好ましくは1〜3、最も好ましくは1〜2である。
上記炭化水素基としては、例えば、アルキル基(直鎖、分岐鎖又は環状)、フェニル基、アルキル置換フェニル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基等が好適である。中でも、アルキル基(直鎖、分岐鎖又は環状)がより好ましい。中でも、炭素数1〜12の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基、炭素数3〜12の脂環式アルキル基が好ましく、より好ましくは、炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基、炭素数3〜4の脂環式アルキル基であり、更に好ましくは、炭素数1〜3の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基、炭素数3の脂環式アルキル基である。
【0043】
上記Rとして特に好ましくは、水素原子、炭素数1〜3の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基又は炭素数3の脂環式アルキル基であり、一層好ましくは、水素原子、メチル基又はエチル基であり、最も好ましくは水素原子である。
【0044】
上記一般式(1)において、qは0又は1を表すが、q=0である場合、上記単量体(a)は、エーテル構造を有する単量体(エーテル系単量体とも称す)となる。また、q=1である場合、上記単量体(a)は、エステル構造を有する単量体(エステル系単量体とも称す)となる。これらの中でも、q=0であること、すなわち上記単量体(a)はエーテル系単量体であることが好ましく、これにより、分散性能をより高めることが可能になる。
【0045】
上記単量体(a)がエーテル系単量体である場合、該単量体の具体例としては、不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体が挙げられる。具体的には、不飽和アルコールポリアルキレングリコール付加物、すなわち不飽和基を有するアルコール(不飽和アルコールと称す)にポリアルキレングリコール鎖が付加した構造を有する化合物が好ましい。このような化合物は、例えば、不飽和アルコールにアルキレングリコール(アルキレンオキサイドとも称す)を付加反応して得ることができる。
【0046】
上記不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体として特に好ましくは、下記一般式(2):
【0047】
【化2】
【0048】
(式中、R及びRは、同一又は異なって、水素原子又はメチル基を表す。AOは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。nは、AOで表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数であり、2〜300の数である。Xは、炭素数1〜2の2価のアルキレン基、又は、直接結合を表す。Rは、水素原子又は炭素数1〜18の炭化水素基を表す。)で表される不飽和アルコールポリアルキレングリコール付加物である。
【0049】
上記一般式(2)において、R、R、AO、n及びRは、それぞれ一般式(1)における各記号と同様である。
上記一般式(2)において、Xは、炭素数1〜2の2価のアルキレン基、又は、直接結合を表す。Xが直接結合を表す場合、一般式(2)中のXに結合している炭素原子と酸素原子とが直接に結合した形態を有することとなる。上記Xとしては、これらの中でも、炭素数1〜2の2価のアルキレン基であることが好ましい。すなわち、メチレン基又はエチレン基が好ましい。
【0050】
上記一般式(2)で表される不飽和アルコールポリアルキレングリコール付加物としては、例えば、ポリエチレングリコールアリルエーテル、ポリエチレングリコールメタリルエーテル、(ポリ)エチレングリコール3−メチル−3−ブテニルエーテル、(ポリ)エチレングリコールテトラエチレングリコールモノビニルエーテル、(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコールアリルエーテル、(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコールメタリルエーテル、(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコール3−メチル−3−ブテニルエーテル、(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコールテトラエチレングリコールモノビニルエーテル、(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコールアリルエーテル、(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコールメタリルエーテル、(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコール3−メチル−3−ブテニルエーテル、(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコールテトラエチレングリコールモノビニルエーテル、メトキシポリエチレングリコールアリルエーテル、メトキシポリエチレングリコールメタリルエーテル、メトキシ(ポリ)エチレングリコール3−メチル−3−ブテニルエーテル、メトキシ(ポリ)エチレングリコールテトラエチレングリコールモノビニルエーテル、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコールアリルエーテル、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコールメタリルエーテル、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコール3−メチル−3−ブテニルエーテル、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコールテトラエチレングリコールモノビニルエーテル、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコールアリルエーテル、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコールメタリルエーテル、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコール3−メチル−3−ブテニルエーテル、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコールテトラエチレングリコールモノビニルエーテル等が好適である。本発明では、構成単位(A)を与える単量体(a)として、これらの1種又は2種以上を用いることが特に好適である。
【0051】
上記単量体(a)が上記不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体等のエーテル系単量体である場合、該単量体(a)は種々の方法で製造することができるが、中でも、以下の製造方法1)〜3)のいずれかにより得ることが好適である。
1)上記一般式(1)中のRが水素原子である場合、例えば、アルカリ触媒及び/又は酸触媒の存在下で、不飽和アルコールに、炭素数2〜18のアルキレンオキシドを所定モル付加することによって単量体(a)を得る方法。
なお、上記不飽和アルコールは、例えば、アリルアルコール、メタリルアルコール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等の炭素数2〜6のアルケニル基を有するアルコールの1種又は2種以上が好適である。
上記アルカリ触媒は、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられ、酸触媒としては、例えば、三フッ化ホウ素、四塩化スズ等が挙げられる。
【0052】
2)上記一般式(1)中のRが炭素数1〜18のアルキル基である場合、上記製造方法1)によって得られた、不飽和アルコールにアルキレンオキシドが所定モル付加した化合物に、更に、アルカリ触媒の存在下、メチルクロリド等の炭素数1〜18のハロゲン化アルキルを反応させることによって単量体(a)を得る方法。
【0053】
3)上記一般式(1)中のRが炭素数1〜18のアルキル基である場合、上記製造方法2)とは逆に、炭素数1〜18のアルコール類に炭素数2〜18のアルキレンオキシドを所定モル付加した化合物に、更に、アルカリ触媒の存在下、炭素数2〜6のハロゲン化アルケニルを反応させることによって単量体(a)を得る方法。
なお、炭素数1〜18のアルコール類は、メタノール、エタノール等の炭素数1〜18のアルコール類等が挙げられる。
炭素数2〜6のハロゲン化アルケニルは、例えば、アリルクロリド、メタリルクロリド等が挙げられる。
【0054】
上記単量体(a)がエステル系単量体である場合、該単量体の具体例としては、不飽和ポリアルキレングリコールエステル系単量体、すなわち不飽和基とポリアルキレングリコール鎖とがエステル結合を介して結合された構造を有する化合物が挙げられる。このような化合物の中でも、不飽和カルボン酸ポリアルキレングリコールエステル系化合物が好適であり、(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、(ヒドロキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0055】
上記(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートとしては、例えば、アルコール類に炭素数2〜18のアルキレンオキシド基を1〜25モル付加したアルコキシポリアルキレングリコール類が好適である。より好ましくは、エチレンオキシドが主体であるアルコキシポリアルキレングリコール類と、(メタ)アクリル酸とのエステル化物である。
【0056】
上記アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、オクタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、ノニルアルコール、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール等の炭素数1〜30の脂肪族アルコール類;シクロヘキサノール等の炭素数3〜30の脂環族アルコール類;(メタ)アリルアルコール、3−ブテン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等の炭素数3〜30の不飽和アルコール類;等が挙げられる。
【0057】
上記エステル化物として具体的には、以下に示す(アルコキシ)ポリエチレングリコール(ポリ)(炭素数2〜4のアルキレングリコール)(メタ)アクリル酸エステル類、(ヒドロキシ)ポリエチレングリコール(ポリ)(炭素数2〜4のアルキレングリコール)(メタ)アクリル酸エステル類等が好適である。
【0058】
ヒドロキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、メトキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)ブチレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、メトキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)ブチレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール(ポリ)ブチレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、メトキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール(ポリ)ブチレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、エトキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)ブチレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、エトキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール(ポリ)ブチレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、プロポキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、プロポキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、プロポキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)ブチレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、プロポキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール(ポリ)ブチレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、ブトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ブトキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、ブトキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)ブチレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、ブトキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール(ポリ)ブチレングリコール}モノ(メタ)アクリレート等。
【0059】
<不飽和カルボン酸系単量体(b)>
上記不飽和カルボン酸系単量体(b)は、重合性不飽和基と吸着基であるカルボキシル基及び/又はその塩の構造部分とを有する単量体であればよく特に限定されないが、(メタ)アクリル酸系単量体等の不飽和モノカルボン酸系単量体(b−1)であることが好ましい。具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、並びに、これらの一価金属塩、二価金属塩、アンモニウム塩及び有機アミン塩等の1種又は2種以上を使用することができる。中でも、共重合性の観点から、(メタ)アクリル酸及び/又はこれらの塩が好ましく、より好ましくは、アクリル酸及び/又はその塩である。
【0060】
上記一価金属塩を構成する一価金属原子としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられ、二価金属塩を構成する二価金属原子としては、例えば、カルシウム、マグネシウム等が挙げられる。また、有機アミン塩を構成する有機アミン基としては、例えば、モノエタノールアミン基、ジエタノールアミン基、トリエタノールアミン基等のアルカノールアミン基;モノエチルアミン基、ジエチルアミン基、トリエチルアミン基等のアルキルアミン基;エチレンジアミン基、トリエチレンジアミン基等のポリアミン基等が挙げられる。上記単量体(b)が塩である場合、中でも、アンモニウム塩又は一価金属塩であることが好ましい。より好ましくは一価金属塩であり、更に好ましくはアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩であり、特に好ましくはナトリウム塩である。
【0061】
上記共重合体(I)において、単量体(a)由来の構成単位(A)と、単量体(b)由来の構成体(B)との構成比率((A)/(B))は、55〜90/10〜45(質量比)であることが好適である。より好ましくは70〜90/10〜30であり、これにより本発明の作用効果をより充分に発揮することが可能となる。このように不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(a)由来の構成単位(A)と不飽和カルボン酸系単量体(b)由来の構成単位(B)との構成比率((A)/(B))が70〜90/10〜30(質量比)である形態は、本発明の好適な形態の1つである。更に好ましくは75〜85/15〜25、特に好ましくは79〜85/15〜21、最も好ましくは80〜85/15〜20である。
なお、特に、上記単量体(b)として不飽和モノカルボン酸系単量体(b−1)の1種又は2種以上を使用する場合は、構成単位(A)と、不飽和モノカルボン酸系単量体(b−1)由来の構成単位(B−1)との構成比率((A)/(B−1))が70〜90/10〜30(質量比)であることが好適であり、これにより本発明の作用効果をより充分に発揮することが可能となる。より好ましくは75〜85/15〜25、更に好ましくは79〜85/15〜21、特に好ましくは80〜85/15〜20である。
【0062】
本明細書中、不飽和カルボン酸系単量体(b)由来の構成単位(B)の割合を計算する場合は、構成単位(B)が、完全に中和された単量体(塩)由来の構成単位であるとして計算するものとする。また、不飽和カルボン酸系単量体(b)の割合を計算する場合は、単量体(b)が、完全に中和された単量体(塩)であるとして計算するものとする。例えば、単量体(b)としてアクリル酸を用い、重合反応において水酸化ナトリウムで完全中和する場合には、単量体(b)としてアクリル酸ナトリウムを用いたとして、質量割合(質量%)の計算をする。また、単量体(b)としてマレイン酸を用い、重合反応において水酸化ナトリウムで完全中和する場合には、単量体(b)としてマレイン酸二ナトリウムを用いたとして、質量割合(質量%)の計算をする。
【0063】
上記不飽和カルボン酸系単量体(b)はまた、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、並びに、これらの一価金属塩、二価金属塩、アンモニウム塩及び有機アミン塩等の不飽和ジカルボン酸系単量体(b−2)であってもよく、これらの1種又は2種以上を用いることができる。塩については上述したとおりである。これら不飽和ジカルボン酸系単量体(b−2)の中でも、共重合性の観点からマレイン酸及び/又はその塩が好ましい。
【0064】
上記共重合体(I)はまた、単量体(a)、不飽和モノカルボン酸系単量体(b−1)及び不飽和ジカルボン酸系単量体(b−2)を含む単量体成分を重合して得られる共重合体であることも好適である。すなわち、構成単位(A)、構成単位(B−1)、及び、不飽和ジカルボン酸系単量体(b−2)由来の構成単位(B−2)を含む共重合体であることも好ましい。この場合の構成単位の構成比率((A)/(B−1)/(B−2))は、55〜85/10〜30/5〜15(質量比)であることが好適である。このように、上記不飽和カルボン酸系単量体(b)が不飽和モノカルボン酸系単量体(b−1)及び不飽和ジカルボン酸系単量体(b−2)であり、不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(a)由来の構成単位(A)と、不飽和モノカルボン酸系単量体(b−1)由来の構成単位(B−1)と、不飽和ジカルボン酸系単量体(b−2)由来の構成単位(B−2)との構成比率((A)/(B−1)/(B−2))が55〜85/10〜30/5〜15(質量比)である形態もまた、本発明の好適な形態の1つである。より好ましくは60〜85/10〜25/5〜15、更に好ましくは65〜80/15〜25/5〜10である。
【0065】
<他の単量体>
上記単量体成分はまた、上記単量体(a)及び単量体(b)と共重合可能な単量体として、不飽和モノアクリル酸エステル系単量体(c)の1種又は2種以上を含んでもよい。すなわち、上記共重合体(I)は、更に、不飽和モノカルボン酸エステル系単量体(c)由来の構成単位(C)を含んでいてもよい。不飽和モノアクリル酸エステル系単量体(c)由来の構成単位(C)を更に含むことにより、流動性を一定時間保持することが期待できる。
【0066】
上記不飽和モノアクリル酸エステル系単量体(c)としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等が好ましい。中でも、メチルアクリレート、エチルアクリレート及び/又はブチルアクリレートがより好ましく、ブチルアクリレートが更に好ましい。
【0067】
上記共重合体(I)が更に不飽和モノカルボン酸エステル系単量体(c)由来の構成単位(C)を含む場合、構成単位(A)と、構成単位(B)と、構成単位(C)との構成比率((A)/(B)/(C))は、65〜84/10〜30/1〜5(質量比)であることが好適である。このように上記共重合体が更に不飽和モノカルボン酸エステル系単量体(c)由来の構成単位(C)を含み、不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(a)由来の構成単位(A)と、不飽和カルボン酸系単量体(b)由来の構成単位(B)と、不飽和モノカルボン酸エステル系単量体(c)由来の構成単位(C)との構成比率((A)/(B)/(C))が65〜84/10〜30/1〜5(質量比)である形態もまた、本発明の好適な形態の1つである。より好ましくは70〜83/15〜25/2〜5である。
【0068】
上記共重合体(I)はまた、その他の共重合可能な単量体の1種又は2種以上に由来する構成単位を含んでいてもよい。このような構成単位は、上記共重合体(I)を構成する全構成単位100質量%中、30質量%以下であることが好適である。より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
【0069】
上記その他の共重合可能な単量体としては、例えば、国際公開第2014/010572号〔0041〕〜〔0042〕に例示された、各種ジエステル類;ジアミド類;ハーフアミド類;(ポリ)アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類;多官能(メタ)アクリレート類;(ポリ)アルキレングリコールジマレート類;不飽和スルホン酸類及びその塩;メチル(メタ)アクリルアミド等のアミド類;ビニル芳香族類;アルカンジオールモノ(メタ)アクリレート類;ジエン類;不飽和アミド類;不飽和シアン類;不飽和エステル類;不飽和アミン類;ジビニル芳香族類;シアヌレート類;シロキサン誘導体;等が挙げられる。
【0070】
上記共重合反応は、重合開始剤を用いて行うことができ、溶媒中での重合や塊状重合等の方法により行うことができる。なお、上記共重合反応における各単量体の使用量は、重合体における各構成単位の割合が上述した範囲となるように、各単量体の共重合反応時の反応率を考慮して、適宜設定するのが好ましい。
【0071】
上記溶媒中での重合は回分式でも連続式でも行うことができ、その際使用される溶媒としては、水;メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール;ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘキサン等の芳香族又は脂肪族炭化水素;酢酸エチル等のエステル化合物;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン化合物が好適である。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。原料単量体及び得られる共重合体(I)の溶解性、並びに、上記共重合体(I)の使用時の便からは、水及び炭素原子数1〜4の低級アルコールよりなる群から選ばれた少なくとも1種を用いることが好ましい。その場合、炭素数1〜4の低級アルコールの中でもメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等が特に有効である。
【0072】
上記水溶液重合を行う場合は、ラジカル重合開始剤として、水溶性の重合開始剤、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩;過酸化水素;2,2′−アゾビス−2−メチルプロピオンアミジン塩酸塩等のアゾアミジン化合物、2,2′−アゾビス−2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン塩酸塩等の環状アゾアミジン化合物、2−カルバモイルアゾイソブチロニトリル等のアゾニトリル化合物等の水溶性アゾ系開始剤等が使用され、この際、亜硫酸水素ナトリウム等のアルカリ金属亜硫酸塩、メタ二亜硫酸塩、次亜燐酸ナトリウム、モール塩等のFe(B)塩、ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム二水和物、ヒドロキシルアミン塩酸塩、チオ尿素、L−アスコルビン酸(塩)、エリソルビン酸(塩)等の促進剤を併用することもできる。
【0073】
また低級アルコール、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、エステル化合物又はケトン化合物を溶媒とする重合には、ベンゾイルパーオキシドやラウロイルパーオキシド等のパーオキシド;クメンハイドロパーオキシド等のハイドロパーオキシド;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等が重合開始剤として用いられる。この際アミン化合物等の促進剤を併用することもできる。更に、水−低級アルコール混合溶剤を用いる場合には、上述した種々の重合開始剤又は重合開始剤と促進剤との組み合わせの中から適宜選択して用いることができる。重合温度は、用いる溶媒や重合開始剤により適宜定められるが、通常0〜120℃で行われる。
【0074】
上記塊状重合は、重合開始剤としてベンゾイルパーオキシドやラウロイルパーオキシド等のパーオキシド;クメンハイドロパーオキシド等のハイドロパーオキシド;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等を用い、50〜200℃の温度で行われる。
【0075】
各単量体の反応容器への投入方法は特に限定されず、全量を反応容器に初期に一括投入する方法、全量を反応容器に分割若しくは連続投入する方法、一部を反応容器に初期に投入し、残りを反応容器に分割若しくは連続投入する方法のいずれでもよい。好適な投入方法として、具体的には、下記の(1)〜(4)の方法が挙げられる。
(1)単量体の全部を反応容器に連続投入する方法。
(2)単量体(a)の全部を反応容器に初期に投入し、その他の単量体の全部を反応容器に連続投入する方法。
(3)単量体(a)の一部を反応容器に初期に投入し、単量体(a)の残りとその他の単量体の全部を反応容器に連続投入する方法。
(4)単量体(a)の一部とその他の単量体の一部を反応容器に初期に投入し、単量体(a)の残りとその他の単量体の残りをそれぞれ反応容器に交互に数回に分けて分割投入する方法。
更に、反応途中で各単量体の反応容器への投入速度を連続的又は段階的に変えることにより各単量体の単位時間当りの投入質量比を連続的又は段階的に変化させて、共重合体中の各構成単位の比率が異なる共重合体の混合物を重合反応中に合成するようにしてもよい。なお、ラジカル重合開始剤は反応容器に初めから仕込んでもよく、反応容器へ滴下してもよく、また目的に応じてこれらを組み合わせてもよい。
【0076】
また得られる共重合体(I)の分子量調節のために、連鎖移動剤を併用することもできる。連鎖移動剤としては、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、2−メルカプトエタンスルホン酸等のチオール系連鎖移動剤;イソプロピルアルコール等の2級アルコール;亜リン酸、次亜リン酸及びその塩(次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム等)、亜硫酸、亜硫酸水素、亜二チオン酸、メタ重亜硫酸及びその塩(亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜二チオン酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム等)の低級酸化物及びその塩;等の通常使用される親水性連鎖移動剤を用いることができる。
【0077】
上述のようにして得られた共重合体(I)は、そのまま水硬性無機粒子やポゾラン活性無機粒子用の表面被覆剤として用いることができるが、必要に応じて、上記共重合体(I)をアルカリ性物質で中和して用いてもよい。アルカリ性物質としては、一価金属又は二価金属の水酸化物や炭酸塩等の無機塩;アンモニア;有機アミンが好適である。また、反応終了後、必要ならば濃度調整を行うこともできる。
【0078】
上記ポリカルボン酸系共重合体の重量平均分子量(Mw)は、水硬性無機粒子やポゾラン活性無機粒子への結合性(吸着性)や、これらの無機粒子の凝集作用、得られる水硬性組成物の流動保持性等を考慮すると、重量平均分子量(Mw)が3000〜50万であることが好適である。より好ましくは5000〜30万、更に好ましくは7000〜20万、特に好ましくは8000〜10万である。
重合体の重量平均分子量は、例えば、以下の測定条件の下、ポリエチレングリコールを標準物質として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPCとも称す)により測定することができる。
【0079】
(GPC測定条件)
装置:Waters社製、Waters Alliance(2695)
解析ソフト:Waters社製、Empowerプロフェッショナル+GPCオプション
使用カラム:東ソー社製、TSK guard column SWXL+TSKgelG4000SWXL+G3000SWXL+G2000SWXL
検出器:示差屈折率計(RI)検出器(Waters社製、Waters 2414)
溶離液:水10999g及びアセトニトリル6001gの混合溶媒に酢酸ナトリウム三水和物115.6gを溶解し、更に酢酸でpH6.0に調整した溶液
較正曲線作成用標準物質:ポリエチレングリコール[ピークトップ分子量(Mp)300000、200000、107000、50000、27700、11840、6450、1470]
較正曲線:上記ポリエチレングリコールのMp値と溶出時間とを基礎にして3次式で作成流量:1.0mL/min
カラム温度:40℃
測定時間:45分
試料液注入量:100μL(試料濃度0.5質量%の溶離液調製溶液)
【0080】
本発明の表面被覆無機粒子はまた、粒子表面(深さ0nm)における、有機系分散剤単位量あたりのケイ素(Si)及びカルシウム(Ca)に対する炭素(C)の相対表面濃度が、0.6〜10であることが好適である。これにより、混練時間を著しく短縮することができ、流動性に優れる水硬性組成物を生産性よく与えることができるという本発明の作用効果をより充分に発揮することが可能となる。より好ましくは0.7〜10、更に好ましくは0.8〜8、特に好ましくは0.9〜7、一層好ましくは1.0〜6、最も好ましくは1.1〜5である。更に、同様の方法で得られた、有機系分散剤単位量あたりの、粒子表面から1〜2nmにおける深さの平均の炭素(C)の相対表面濃度が0.2〜5であることが好適である。これにより、本発明の作用効果をより充分に発揮することが可能となる。より好ましくは0.2〜4、更に好ましくは0.25〜3、特に好ましくは0.3〜3、一層好ましくは0.35〜2.5である。
【0081】
ここで、「有機系分散剤単位量あたりのケイ素(Si)及びカルシウム(Ca)に対する炭素(C)の相対表面濃度」は、以下の方法で求められる値である。
1、まず表面被覆無機粒子(すなわち、表面の一部又は全部が有機系分散剤で被覆されている、水硬性無機粒子及び/又はポゾラン活性無機粒子を意味する。)内に存在する有機系分散剤の量を求める。この「表面被覆無機粒子内に存在する有機系分散剤の量」とは、該表面被覆無機粒子を電気炉の中で加熱して求められる、150℃における強熱減量率(これを(p)とする)と、450℃における強熱減量率(これを(q)とする)との差(=p−q)である。ここでの各温度の強熱減量率は、各温度に加熱後の質量残存率(質量%)を意味する。
2、次に、表面被覆無機粒子のXPSを測定してケイ素(Si)及びカルシウム(Ca)に対する炭素(C)の相対表面濃度の値(これを(x)とする)を求めた後、該表面被覆無機粒子を電気炉の中で加熱し、550℃で3時間加熱した後の無機粒子のXPSを測定してケイ素(Si)及びカルシウム(Ca)に対する炭素(C)の相対表面濃度の値(これを(y)とする)を求め、これらの差(=x−y)を算出する。
3、上記2で求めた相対表面濃度の差(x−y)を、上記1で求めた表面被覆無機粒子内に存在する有機系分散剤の量(p−q)で除す。このように「(x−y)/(p−q)」により求められる値を、「有機系分散剤単位量あたりのケイ素(Si)及びカルシウム(Ca)に対する炭素(C)の相対表面濃度(z)」とする。
【0082】
本発明では特に、粒子表面における、有機系分散剤単位量あたりのケイ素(Si)及びカルシウム(Ca)に対する炭素(C)の相対表面濃度をXPSによって測定したときに、炭素(C)の相対表面濃度が0.6〜10であり、かつ粒子表面から1〜2nmにおける深さの平均の炭素(C)の相対表面濃度が0.2〜5であることが好適である。これによって、混練時間を著しく短縮することができ、流動性に優れる水硬性組成物を生産性よく与えることができるという本発明の作用効果を更に一層発揮することが可能となる。
【0083】
本発明の表面被覆無機粒子はまた、水和度が0.1以下であることが好適である。これにより、水硬性無機粒子の水和特性を損なうことなく、水和活性の高い水硬性粒子を得ることができ、本発明の作用効果をより充分に発揮することが可能となる。より好ましくは0.07以下、更に好ましくは0.04以下である。水和度の下限は、0であることが好ましい。すなわち水和度は0〜0.1であることが好ましく、より好ましくは0〜0.07、更に好ましくは0〜0.04である。
【0084】
本明細書中、「水和度」とは、以下の方法で測定される値を意味する。
表面被覆無機粒子(すなわち、表面の一部又は全部が有機系分散剤で被覆されている、水硬性無機粒子及び/又はポゾラン活性無機粒子を意味する。)を電気炉の中で加熱し、450℃における強熱減量率(これを(q)とする)と、550℃における強熱減量率(これを(r)とする)との差(=q−r)を、水和度とする。
ここでの各温度の強熱減量率とは、各温度に加熱後の質量残存率(質量%)を意味する。
【0085】
〔水硬性無機粒子〕
本発明はまた、上述した本発明の表面被覆無機粒子を含有する水硬性無機粒子でもある。このような水硬性無機粒子は、例えば、上記表面被覆無機粒子とともに、表面が被覆されていない水硬性無機粒子及び/又はポゾラン活性無機粒子を含むものが挙げられる。この場合、上記表面被覆無機粒子による作用効果をより充分に発現させるため、無機粒子の総量100質量%に対し、上記表面被覆無機粒子が2質量%以上であることが好ましく、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは10質量%以上、特に好ましくは20質量%以上、一層好ましくは30質量%以上、最も好ましくは100質量%である。
【0086】
特に、表面被覆無機粒子がシリカフュームである場合、この表面被覆無機粒子は、当該表面被覆無機粒子と表面が被覆されていない無機粒子との合計量100質量%に対して、2〜15質量%含まれるのが好ましく、5〜10質量%含まれるのが更に好ましい。
表面被覆無機粒子がフライアッシュやスラグである場合、この表面被覆無機粒子は、当該表面被覆無機粒子と表面が被覆されていない無機粒子との合計量100質量%に対して、10〜70質量%含まれるのが好ましく、更に好ましくは20〜60質量%であり、一層好ましくは30〜50質量%である。
【0087】
表面被覆無機粒子が狭義の水硬性無機粒子である場合(この表面被覆無機粒子を「表面被覆水硬性無機粒子」とも称す)、この表面被覆無機粒子に、表面が被覆されていないシリカフュームやフライアッシュ、スラグを混合することができる。
この混合系において、表面が被覆されていない無機粒子がシリカフュームである場合、表面被覆水硬性無機粒子と表面が被覆されていない無機粒子との合計量100質量%に対して、表面被覆水硬性無機粒子は、2〜15質量%含まれるのが好ましく、5〜10質量%含まれるのが更に好ましい。
また上記混合系において、表面が被覆されていない無機粒子がフライアッシュやスラグである場合、表面被覆水硬性無機粒子と表面が被覆されていない無機粒子との合計量100質量%に対して、表面被覆水硬性無機粒子は、10〜70質量%含まれるのが好ましく、更に好ましくは20〜60質量%であり、一層好ましくは30〜50質量%である。
【0088】
〔表面被覆無機粒子の製造方法〕
本発明の表面被覆無機粒子は、水硬性無機粒子及びポゾラン活性無機粒子からなる群より選択される少なくとも1種の無機粒子を、有機系分散剤を含む溶媒に分散させた後、該溶媒を留去し、粉末化する工程を含む製造方法により得られるものが好ましく、このような製造方法は、本発明の1つである。なお、上記製造方法は、通常の製造手段で採用される他の工程(例えば、洗浄工程等)を更に含んでもよい。
【0089】
上記製造方法ではまず、上記無機粒子を、有機系分散剤と溶媒とに加え、スラリー状態になるまで溶媒に分散させる(分散工程とも称す)。分散手段としては特に限定されず、通常行われる撹拌(混練)等の手法を用いることが好適である。
なお、上記無機粒子については、上述したとおりである。
【0090】
上記溶媒は、有機系分散剤を含み、かつ上記無機粒子が分散することができるものであればよい。例えば、有機溶媒又は水を含むことが好適である。このように上記溶媒が有機溶媒を含む形態、及び、上記溶媒が水を含む形態は、いずれも、本発明の好適な形態である。中でも、上記無機粒子の水和を制御するためにも、上記溶媒が有機溶媒を含むことが好ましい。
なお、上記溶媒が水と有機溶媒とを含む場合、上記溶媒中の有機溶媒と水との総量100質量%に対し、水が50質量%以下であることが好適である。これにより、水硬性無機粒子の水和を制御することが可能になる。有機溶媒と水との総量100質量%に対する水の割合としてより好ましくは30質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、特に好ましくは5質量%以下、一層好ましくは1質量%以下、最も好ましくは水を実質的に含まないこと、すなわち有機溶媒を用いる場合は水を実質的に含まないことが最も好ましい。
【0091】
上記有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、グリセリン等のアルコール類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3−メトキシブチルアセテート等のエステル類;トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;クロロホルム;ジメチルホルムアルデヒド等のアミド類;等の1種又は2種以上を使用することができる。好ましくは、アルコール類、エーテル類、ケトン類、エステル類を用いることであり、より好ましくは、アルコール類、又は、アルコール類と他の有機溶媒との混合溶媒である。
【0092】
上記分散工程において、溶媒の量は、有機系分散剤を含み、かつ上記無機粒子が分散することができる量であることが好適である。具体的には、表面被覆される無機粒子100重量部に対し、溶媒を5〜2000重量部用いることが好適である。より好ましくは10重量部以上、更に好ましくは14重量部以上であり、また、より好ましくは300重量部以下、更に好ましくは200重量部以下、特に好ましくは100重量部以下、最も好ましくは50重量部以下である。なお、溶媒の量が少ないと、無機粒子を充分に分散することができず、無機粒子同士が凝集を防止できないため、混練時間の短縮が望めない。溶媒の量が多すぎると、溶媒を留去するためのエネルギーや時間が多く必要となり、経済的ではない。
また、溶媒の量は、表面被覆無機粒子中の有機系分散剤の量100重量部に対して、500〜100000重量部とすることが好適である。より好ましくは1000重量部以上、更に好ましくは1400重量部以上、特に好ましくは2000重量部以上、最も好ましくは2300重量部以上であり、また、より好ましくは50000重量部以下、更に好ましくは30000重量部以下、特に好ましくは20000重量部以下である。
【0093】
上記有機系分散剤の使用量は、上記無機粒子の物性や、得られる表面被覆無機粒子の分散性等を考慮して適宜決定すればよいが、例えば、上記無機粒子100重量部に対し、0.01〜10重量部とすることが好適である。この範囲内であれば、上記無機粒子をより充分に、かつ効率的に被覆することができるとともに、得られる表面被覆無機粒子の分散性がより充分に発揮される。より好ましくは0.01〜5重量部、更に好ましくは0.05〜4重量部、更に好ましくは0.05〜3重量部である。
【0094】
上記製造方法では、上記分散工程後に、溶媒を留去し、粉末化を行う(粉末化工程とも称す)。溶媒の留去手段は特に限定されず、例えば、加熱や乾燥により溶媒を揮発させてもよいし、また、減圧条件下で溶媒を留去することも好適である。粉末化手段も特に限定されず、原料粉砕機等を用いて粉砕を行ってもよい。
なお、粉末化工程後に、篩(例えば、JIS試験篩等)を用いて、得られる表面被覆無機粒子の粒径を調整することが好適である。
【0095】
〔表面被覆剤〕
本発明はまた、上記表面被覆無機粒子を得るために使用される無機粒子の表面被覆剤であって、該無機粒子は、水硬性無機粒子及びポゾラン活性無機粒子からなる群より選択される少なくとも1種であり、該表面被覆剤は、ポリアルキレングリコールを含有するポリカルボン酸系重合体を含む表面被覆剤でもある。
ポリアルキレングリコールを含有するポリカルボン酸系重合体は、上述したとおり、水硬性無機粒子やポゾラン活性無機粒子の表面への吸着性が高く、しかも表面被覆後に高い分散性を付与することができるため、上記表面被覆無機粒子を得るための表面被覆剤として特に適している。
【0096】
上記ポリアルキレングリコールを含有するポリカルボン酸系重合体については上述したとおりであり、中でも特に、上記一般式(1)で表される不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(a)由来の構成単位と、不飽和カルボン酸系単量体(b)由来の構成単位とを有する重合体であることが好適である。このように、上記ポリアルキレングリコールを含有するポリカルボン酸系重合体の、水硬性無機粒子及びポゾラン活性無機粒子からなる群より選択される少なくとも1種の無機粒子の表面被覆剤としての使用も、本発明の好適な形態の1つである。また、上記一般式(1)中のqは、0であることが好ましい。
【0097】
上記表面被覆剤はまた、無機粒子の表面被覆作用とともに、無機粒子の粉砕を助ける作用も有する。したがって、無機粒子製造時の粉砕工程における粉砕助剤として、上述した表面被覆剤を使用することも好適である。しかし、本発明を達成するためには、無機粒子の粉砕時に粒子同士が分散することが必要であり、上記一定量の溶媒を含んだ形態で粉砕することが好ましい。
【0098】
〔水硬性組成物〕
本発明の表面被覆無機粒子は、水と混合されることで、水硬性組成物を与えることができる。このような上記表面被覆無機粒子及び水を含む水硬性組成物は、本発明の好適な実施形態の1つである。水硬性組成物としては、例えば、セメントペースト、モルタル、コンクリート、プラスター等が挙げられる。
【0099】
上記水硬性組成物は、必要に応じて、細骨材(砂等)や粗骨材(砕石等)等の骨材を含んでもよい。具体的には、例えば、砂利、砕石、水砕スラグ、再生骨材等の他、珪石質、粘土質、ジルコン質、ハイアルミナ質、炭化珪素質、黒鉛質、クロム質、クロマグ質、マグネシア質等の耐火骨材も使用可能である。
【0100】
上記水硬性組成物はまた、必要に応じて、分散剤を含んでもよい。本発明の表面被覆無機粒子は、その表面の一部又は全部が有機系分散剤で被覆されているため、これを含む水硬性組成物は、別途分散剤を含まなくても充分な流動性を示すことができるが、必要に応じて、更に分散剤を含んでもよい。分散剤としては、通常使用されるものを1種又は2種以上使用することができる。具体例は上述したとおりである。
【0101】
上記水硬性組成物は更に、必要に応じて、上記表面被覆無機粒子に加えて、表面が被覆されていない水硬性無機粒子及び/又はポゾラン活性無機粒子を含んでもよい。この場合、上記表面被覆無機粒子による作用効果をより充分に発現させるため、無機粒子の総量100質量%に対し、上記表面被覆無機粒子が2質量%以上であることが好ましく、より好ましくは5質量%以上である。また、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは30質量%以上、特に好ましくは50質量%以上、一層好ましくは80質量%以上、最も好ましくは100質量%である。
【0102】
上記水硬性組成物において、その1mあたりの単位水量、水硬性粒子(Bと称す)の総量(使用B量)、及び、水/B比(質量比)は、単位水量=100〜185kg/m、使用B量=250〜800kg/m、水/B比=0.1〜0.7とすることが好ましい。より好ましくは、単位水量=120〜175kg/m、使用B量=270〜800kg/m、水/B比=0.1〜0.65であり、貧配合〜富配合まで幅広く使用可能であるが、単位水量が500kg/m以上の高強度コンクリートや、900kg/m以上の超高強度コンクリートにも非常に有効である。また、本発明では、水/B比が低い水硬性組成物においても、混練時間が速く、かつ優れた流動性を発揮することができるという効果を有するが、このような効果は、例えば、水/B比が0.5以下の形態でより充分に確認することができる。水/B比としてより好ましくは0.4以下、より更に好ましくは0.35以下、更に好ましくは0.3以下、特に好ましくは0.25以下、最も好ましくは0.2以下である。
【0103】
上記水硬性組成物はまた、例えば、レディーミクストコンクリート、コンクリート2次製品(プレキャストコンクリート)用のコンクリート、遠心成形コンクリート、振動締め固めコンクリート、蒸気養生コンクリート、吹付けコンクリート等に有効であり、更に、中流動コンクリート(スランプ値が22〜25cmのコンクリート)、高流動コンクリート(スランプ値が25cm以上で、スランプフロー値が50〜70cmのコンクリート)、自己充填性コンクリート、セルフレベリング材等の高い流動性を要求されるモルタルやコンクリートにも有効である。
【0104】
上記水硬性組成物は更に、通常、セメント添加剤(材)として使用されているものを1種又は2種以上含んでもよい。例えば、国際公開第2014/010572号〔0066〕〜〔0072〕に例示された、水溶性高分子物質;高分子エマルジョン;遅延剤;早強剤・促進剤;鉱油系消泡剤;油脂系消泡剤;脂肪酸系消泡剤;脂肪酸エステル系消泡剤;オキシアルキレン系消泡剤;アルコール系消泡剤;アミド系消泡剤;リン酸エステル系消泡剤;金属石鹸系消泡剤;シリコーン系消泡剤;AE剤;その他界面活性剤;防水剤;防錆剤;ひび割れ低減剤;膨張材;セメント湿潤剤;増粘剤;分離低減剤;凝集剤;乾燥収縮低減剤;強度増進剤;セルフレベリング剤;防錆剤;着色剤;防カビ剤;等が挙げられる。
【0105】
〔水硬性組成物の製造方法〕
上記表面被覆無機粒子を用いる水硬性組成物の製造方法もまた、本発明の1つである。このような製造方法としては、例えば、上記表面被覆無機粒子と、水と、上述した必要に応じて添加される他の成分とを混合する工程を含むことが好適であり、その他の工程は特に限定されない。本発明では、上記表面被覆無機粒子を用いることにより、高い流動性を示す水硬性組成物を短時間で容易に得ることができるため、このような水硬性組成物の製造方法は、水硬性組成物を使用する技術分野において極めて有用である。
【発明の効果】
【0106】
本発明の表面被覆無機粒子は、上述のような構成であるので、混練時間を著しく短縮することができ、水硬性組成物の生産性を大幅に向上することができるものである。また、このような表面被覆無機粒子を用いた水硬性組成物は、極めて流動性に優れるものであるため、コンクリートを取り扱う土木・建設分野等で多大の貢献をなすものである。更に、ポリアルキレングリコールを含有するポリカルボン酸系重合体を含む表面被覆剤は、水硬性無機粒子やポゾラン活性無機粒子への吸着及び付着性、並びに、吸着及び付着後(すなわち表面被覆後)の粒子分散性に極めて優れるため、水硬性無機粒子又はポゾラン活性無機粒子用の表面被覆剤としての用途に特に適する。
【図面の簡単な説明】
【0107】
図1】試験例1−1、2−1及び3−1のそれぞれで使用した無機粒子について、粒子表面からの深さに対し、Si2p及びCa2pに対するC1sの相対表面濃度をプロットして作成したグラフである。
図2】試験例1−1において、セメント及び水投入時を0秒(s)とし、撹拌を停止するまでの水硬性組成物の状態を20〜60秒(s)ごとに撮影した写真である。
図3】試験例2−1において、セメント及び水投入時を0秒(s)とし、撹拌を停止するまでの水硬性組成物の状態を経時的に撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0108】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、調製例で得た重合体の重量平均分子量は、上述したGPC測定方法にて測定した。また、粒子の粒径、及び、表面Si2p及びCa2pに対するC1sの相対表面濃度は、上述した方法にて測定した。
試験例で得たセメントペーストのフロー値測定は、以下のように行った。
<フロー値の測定>
調製したペーストを、水平なテーブル上に置いた直径55mm、高さ50mmの中空円筒の容器に詰め、次いで、この中空円筒の容器を垂直に持ち上げた後、テーブルに広がったペーストの直径を縦横2方向について測定し、この平均値をフロー値とした。
【0109】
調製例1(ポリカルボン酸系分散剤(1)の調製)
温度計、撹拌機、滴下ロート、窒素導入管及び還流冷却器を備えたガラス製反応容器に、イオン交換水209.0gと3−メチル−3−ブテン−1−オールにエチレンオキシド(EO)を平均50モル付加した不飽和ポリアルキレングリコールエーテル(MBO−50)444.8gを仕込み、撹拌下に反応装置を窒素置換し、58℃に昇温した。次に、アクリル酸85.2gをイオン交換水154.3gで希釈した水溶液を5時間かけて滴下した。それと同時に、イオン交換水48.9gにL−アスコルビン酸0.94g及び3−メルカプトプロピオン酸8.0gを溶解させた水溶液並びにイオン交換水44.0gに過硫酸アンモニウム4.9gを溶解させた水溶液を5時間かけて滴下した。滴下終了後、58℃にて1時間攪拌を続け重合反応を終了し、重量平均分子量(Mw)が9200であるポリカルボン酸系共重合体の水溶液を得た。得られたポリカルボン酸系共重合体を50℃にて減圧(50mmHg)乾燥し、粉砕して、JIS試験篩メッシュ換算表における70メッシュを通過する粉末状のポリカルボン酸系共重合体に調製した。これをポリカルボン酸系分散剤(1)と称す。
【0110】
調製例2(ポリカルボン酸系分散剤(2)の調製)
温度計、撹拌機、滴下ロート、窒素導入管及び還流冷却器を備えたガラス製反応容器に、イオン交換水350gを仕込み、撹拌下に反応装置を窒素置換し、80℃に昇温した。次に、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(エチレンオキシドの付加モル数:23モル)315.2g、メタクリル酸83.7g、3−メルカプトプロピオン酸8.5gをイオン交換水171.4gで溶解させた水溶液を3時間かけて滴下した。それと同時に、イオン交換水63.5gに過硫酸ナトリウム6.6gを溶解させた水溶液を4時間かけて滴下した。滴下終了後、80℃にて1時間攪拌を続け重合反応を終了し、重量平均分子量(Mw)が9500であるポリカルボン酸系共重合体の水溶液を得た。得られたポリカルボン酸系共重合体を50℃にて減圧(50mmHg)乾燥し、粉砕して、JIS試験篩メッシュ換算表における70メッシュを通過する粉末状のポリカルボン酸系共重合体に調製した。これをポリカルボン酸系分散剤(2)と称す。
【0111】
製造例1(表面被覆無機粒子(1)の製造)
宇部三菱社製シリカフュームセメント700gをHobertミキサーに投入し、調製例1で得たポリカルボン酸系分散剤(1)を4.2g(セメント固形分に対して0.6質量%)溶解させたエタノール溶液102.2g(エタノールは98g、エタノール/セメント質量比=0.14)をミキサー内に投入した。投入後、1速にて120秒撹拌した後、撹拌を停止し、30秒かけて容器壁面に付着するペーストを掻き落とした。エタノール溶液を投入してから180秒後に2速に切替え、撹拌を再開し、180秒間撹拌した後、撹拌を停止した。得られたペーストをバットに移し、50℃条件下で減圧乾燥(50mmHg)を行い、エタノールを完全に留去した。乾燥後、粉砕を行い、JIS試験篩メッシュ換算表における70メッシュに相当する篩を用いて粒径を調整し、ポリカルボン酸系分散剤(1)で表面を被覆したシリカフュームセメント(表面被覆無機粒子(1)とも称す)を得た。
【0112】
試験例1−1
製造例1で得たシリカフュームセメント(表面被覆無機粒子(1))600gをHobertミキサーに投入し、水84gをミキサーに投入した(水/セメント質量比=0.14)。投入後、1速にて120秒撹拌した後、撹拌を停止し、30秒かけて容器壁面に付着するペーストを掻き落とした。水投入後180秒後に、2速で撹拌を再開し、更に180秒間撹拌を継続した。セメント及び水投入時を0秒とし、ペーストの軟らかさが目視で一定になるまでの時間を「混練時間」として表2に記載した。また、撹拌時の状態を経時的に撮影した写真を図2に示す。得られたペーストについて、フロー値を測定した結果を表2に示す。
なお、試験例1−1に用いた表面被覆シリカフュームセメント(表面被覆無機粒子(1))について、その粒子表面のSi2p及びCa2pに対するC1sの相対表面濃度をXPSにより測定した。結果を表1及び図1に示す。
【0113】
試験例2−1
宇部三菱社製シリカフュームセメント600gをHobertミキサーに投入し、調製例1で得たポリカルボン酸系分散剤(1)3.6gを溶解させた水84g(ポリカルボン酸系分散剤の添加量=セメント固形分に対し0.6質量%)をミキサー内に投入した(水/セメント質量比=0.14)。投入後、1速にて120秒撹拌した後、撹拌を停止し、30秒かけて容器壁面に付着するペーストを掻き落とした。水投入後180秒後に、2速で撹拌を再開し、更に180秒間撹拌を継続した。セメント及び水投入時を0秒とし、ペーストの軟らかさが目視で一定になるまでの時間を「混練時間」として表2に記載した。また、撹拌時の状態を経時的に撮影した写真を図3に示す。得られたペーストについて、フロー値を測定した結果を表2に示す。
なお、試験例2−1に用いた表面被覆を施していない宇部三菱社製シリカフュームセメントについて、その粒子表面のSi2p及びCa2pに対するC1sの相対表面濃度をXPSにより測定した。結果を表1及び図1に示す。
【0114】
試験例3−1
調製例1で得た粉末状ポリカルボン酸系分散剤(1)4.2gを、宇部三菱社製シリカフュームセメント700gに混合し、粉末状ポリカルボン酸系分散剤(1)を含有するプレミックスセメントを得た。
このプレミックスセメント600gをHobertミキサーに投入し、水84gをミキサー内に投入した(水/セメント質量比=0.14)。投入後、試験例1−1と同様にしてセメントペーストを作製した。ただし、水投入後180秒後に2速で撹拌を再開してから、更に240秒間撹拌を継続した。セメント及び水投入時を0秒とし、ペーストの軟らかさが目視で一定になるまでの時間を「混練時間」として表2に記載した。また、得られたペーストについて、フロー値を測定した結果を表2に示す。
なお、試験例3−1に用いたプレミックスセメントについて、その粒子表面のSi2p及びCa2pに対するC1sの相対表面濃度をXPSにより測定した。結果を表1及び図1に示す。
【0115】
【表1】
【0116】
【表2】
【0117】
上記の各試験例では、水/セメント質量比(W/C)が0.14(14%)と、非常に低い条件で行った。なお、一般的なコンクリートではW/C=0.45〜0.6(45〜60%)であり、高強度コンクリートでもW/C=0.3(30%)である。
試験例2−1は、通常のセメントを用いた例であり、該セメントは、セメント粒子表面(深さ0nm)のSi2p及びCa2pに対するC1sの相対表面濃度(表1中の「C/(Si+Ca)」)が0.32、粒子表面から1〜2nmにおける深さの平均のC1sの相対表面濃度が0.11となるものである。この場合、セメントペーストが一定の流動性を発現するまで(つまり流動性が安定化するまで)に約300秒(5分)要した。これに対し、本発明の表面被覆無機粒子を用いた試験例1−1では、シリカフュームセメントの粒子表面(深さ0nm)のSi2p及びCa2pに対するC1sの相対表面濃度が1.02、粒子表面から1〜2nmにおける深さの平均のC1sの相対表面濃度が0.32と、非常に高い。そして、試験例2−1と同じW/C条件下にも関わらず、一定の流動性を発現するまでに要した時間は90秒程度となり、著しい混練時間の短縮を達成できたことが分かった。
なお、試験例1−1でセメント粒子の表面被覆剤として使用した有機系分散剤は、試験例2−1でセメントに投入された分散剤と同じものであることから、試験例1−1で確認された混練時間の短縮効果は、セメント粒子表面の炭素含有比率の差に起因することが分かった。
【0118】
試験例3−1は、試験例1−1及び試験例2−1で用いたのと同じ有機系分散剤を、粉末のままセメント粒子と混合して得たプレミックスセメントを用いた例であり、該セメントは、セメント粒子表面(深さ0nm)のSi2p及びCa2pに対するC1sの相対表面濃度が0.34、粒子表面から1〜2nmにおける深さの平均のC1sの相対表面濃度が0.12となるものである。この場合、試験例2−1よりも混練時間が更に長くなった。したがって、有機系分散剤を粉末化しても、混練時間の短縮には寄与せず、むしろ混練時間は長時間化することが分かった。
【0119】
図1及び2からは、以下のことが分かった。
試験例1−1では、有機系分散剤が無機粒子に被覆されているため、図2に示されるように、水投入直後、無機粒子同士の凝集は発生しなかった。無機粒子の凝集体が構築されないため、水が速やかに無機粒子に行き渡り、短時間(90秒)で分散と凝集との平衡状態に達した。これに対し、試験例2−1では、図3で示されるように、有機系分散剤入りの水を投入直後、無機粒子同士の凝集が瞬時に起こり、凝集体の中に分散剤入りの水が拘束され、ダマの状態になり(0〜90秒)、分散と凝集が平衡状態に達するまで、300秒を要した。
【0120】
試験例1−2
製造例1で得た表面被覆シリカフュームセメント(表面被覆無機粒子(1))を坩堝内に精密天秤を使用し、小数点第4位まで秤量(5g程度)した。電気炉(ADVANTEC社製KM−600)に、秤量したシリカフュームセメントを含む坩堝を入れ、450℃、空気雰囲気下(流量2L/分)で、3時間加熱した。3時間後、電気炉から坩堝を取り出し、デシケーターの中で室温になるまで放冷し、該シリカフュームセメントを精密天秤で、小数点第4位まで秤量し、仕込み量と残存量との比から加熱後の残存率(q)を測定した。続いて、同じ坩堝を再び電気炉に入れ、550℃、窒素雰囲気下(流量2L/分)で3時間加熱した。3時間後、同様にデシケーター内で放冷し、550℃における加熱後の残存率(r)を測定した。
450℃の残存率(q)と550℃の残存率(r)との差から、シリカフュームセメント中の化学結合水の水和度(=q−r)を計算した。結果を表3に示す。
【0121】
試験例2−2
試験例2−1に用いた表面被覆を施していない宇部三菱社製シリカフュームセメントについて、試験例1−2と同様に水和度を測定した。結果を表3に示す。
【0122】
試験例3−2
試験例3−1に用いた粉末状ポリカルボン酸系分散剤(1)を含有するプレミックスセメントについて、試験例1−2と同様に水和度を測定した。結果を表3に示す。
【0123】
【表3】
【0124】
試験例1−2及び試験例2−2では、450℃から550℃におけるセメントの重量変化は小さく、セメント中の化学結合水の量が少ないことが分かった。試験例3−2では、粉末状ポリカルボン酸系分散剤(1)が450℃で充分に熱分解しなかったため、450℃から550℃におけるセメントの重量変化は大きくなったと推測される。加熱後の重量変化からも、表面被覆セメント(すなわち、製造例1で得た表面被覆無機粒子(1))と、表面被覆を施していないセメント(すなわち、市販シリカフュームセメント)と、粉末状ポリカルボン酸分散剤を含有するプレミックスセメント(すなわち、粉末状ポリカルボン酸系分散剤(1)を含有するプレミックスセメント)とでは、性質が異なることが分かった。
【0125】
なお、製造例1で得た表面被覆無機粒子(1)について、後述する試験例4−2と同様にして、有機系分散剤単位量あたりのケイ素(Si)及びカルシウム(Ca)に対する炭素(C)の相対表面濃度(z)を求めたところ、粒子表面における、有機系分散剤単位量あたりのケイ素(Si)及びカルシウム(Ca)に対する炭素(C)の相対表面濃度は0.84であり、粒子表面から1〜2nmにおける深さの平均の炭素(C)の相対表面濃度は0.24であった。
【0126】
製造例2(表面被覆無機粒子(2)の製造)
宇部三菱社製シリカフュームセメント700gをHobertミキサーに投入し、調製例2で得たポリカルボン酸系分散剤(2)を4.2g(セメント固形分に対して0.6質量%)溶解させたエタノール溶液102.2g(エタノールは98g、エタノール/セメント質量比=0.14)をミキサー内に投入した。投入後、1速にて120秒撹拌した後、撹拌を停止し、30秒かけて容器壁面に付着するペーストを掻き落とした。エタノール溶液を投入してから180秒後に2速に切替え、撹拌を再開し、180秒間撹拌した後、撹拌を停止した。得られたペーストをバットに移し、50℃条件下で減圧乾燥(50mmHg)を行い、エタノールを完全に留去した。乾燥後、粉砕を行い、JIS試験篩メッシュ換算表における70メッシュに相当する篩を用いて粒径を調整し、ポリカルボン酸系分散剤(2)で表面を被覆したシリカフュームセメント(表面被覆無機粒子(2)とも称す)を得た。
【0127】
製造例3(表面被覆無機粒子(3)の製造)
宇部三菱社製シリカフュームセメント700gをHobertミキサーに投入し、調製例2で得たポリカルボン酸系分散剤(2)を2.8g(セメント固形分に対して0.4質量%)溶解させたエタノール溶液100.8g(エタノールは98g、エタノール/セメント質量比=0.14)をミキサー内に投入した。投入後、1速にて120秒撹拌した後、撹拌を停止し、30秒かけて容器壁面に付着するペーストを掻き落とした。エタノール溶液を投入してから180秒後に2速に切替え、撹拌を再開し、180秒間撹拌した後、撹拌を停止した。得られたペーストをバットに移し、50℃条件下で減圧乾燥(50mmHg)を行い、エタノールを完全に留去した。乾燥後、粉砕を行い、JIS試験篩メッシュ換算表における70メッシュに相当する篩を用いて粒径を調整し、ポリカルボン酸系分散剤(2)で表面を被覆したシリカフュームセメント(表面被覆無機粒子(3)とも称す)を得た。
【0128】
製造例4(表面被覆無機粒子(4)の製造)
宇部三菱社製シリカフュームセメント700gをHobertミキサーに投入し、1速にて240秒撹拌した。撹拌と同時に、調製例2で得たポリカルボン酸系分散剤(2)を4.2g(セメント固形分に対して0.6質量%)溶解させた水溶液21g(水は16.8g、水/セメント質量比=0.024)をミキサー内のセメントに240秒かけてスプレー噴霧し、セメント粒子にポリカルボン酸系分散剤(2)を均一に被覆させた。撹拌を停止し、得られた粉末をバットに移し、50℃条件下で減圧乾燥(50mmHg)を行い、蒸発可能な水を完全に留去した(一部結合水として残存)。乾燥後、JIS試験篩メッシュ換算表における70メッシュに相当する篩を用いて粒径を調整し、ポリカルボン酸系分散剤(2)で表面を被覆したシリカフュームセメント(表面被覆無機粒子(4)とも称す)を得た。
【0129】
試験例4−1
製造例2で得たシリカフュームセメント(表面被覆無機粒子(2))600gをHobertミキサーに投入し、水84gをミキサーに投入した(水/セメント質量比=0.14)。投入後、1速にて120秒撹拌した後、撹拌を停止し、30秒かけて容器壁面に付着するペーストを掻き落とした。水投入後180秒後に、2速で撹拌を再開し、更に180秒間撹拌を継続した。セメント及び水投入時を0秒とし、ペーストの軟らかさが目視で一定になるまでの時間を「混練時間」として表5に記載した。得られたペーストについて、フロー値を測定した結果を表5に示す。
なお、試験例4−1に用いた表面被覆シリカフュームセメント(表面被覆無機粒子(2))について、その粒子表面のSi2p及びCa2pに対するC1sの相対表面濃度をXPSにより測定した。結果を表4に示す。
【0130】
試験例5−1
製造例3で得たシリカフュームセメント(表面被覆無機粒子(3))600gをHobertミキサーに投入し、調製例2で得たポリカルボン酸系分散剤(2)0.6gを含む水84g(ポリカルボン酸系分散剤の添加量=セメント固形分に対し0.1質量%)をミキサーに投入した(水/セメント質量比=0.14)。投入後、試験例4−1と同様にしてセメントペーストを作製した。セメント及び水投入時を0秒とし、ペーストの軟らかさが目視で一定になるまでの時間を「混練時間」として表5に記載した。得られたペーストについて、フロー値を測定した結果を表5に示す。
【0131】
試験例6−1
宇部三菱社製シリカフュームセメント600gをHobertミキサーに投入し、調製例2で得たポリカルボン酸系分散剤(2)3.6gを溶解させた水84g(ポリカルボン酸系分散剤の添加量=セメント固形分に対し0.6質量%)をミキサー内に投入した(水/セメント質量比=0.14)。投入後、試験例4−1と同様にしてセメントペーストを作製した。セメント及び水投入時を0秒とし、ペーストの軟らかさが目視で一定になるまでの時間を「混練時間」として表5に記載した。得られたペーストについて、フロー値を測定した結果を表5に示す。
なお、試験例6−1に用いた表面被覆を施していない宇部三菱社製シリカフュームセメントについて、その粒子表面のSi2p及びCa2pに対するC1sの相対表面濃度をXPSにより測定した。結果を表4に示す。
【0132】
試験例7−1
製造例4で得たシリカフュームセメント(表面被覆無機粒子(4))600gをHobertミキサーに投入し、水84gをミキサーに投入した(水/セメント質量比=0.14)。投入後、試験例4−1と同様にしてセメントペーストを作製した。撹拌終了後においても、ペーストの軟らかさが目視で一定にならなかったため、「混練時間」を480秒以上として表5に記載した。得られたペーストについて、フロー値を測定した結果を表5に示す。
なお、試験例7−1に用いた水溶液によって表面被覆を施したシリカフュームセメント(表面被覆無機粒子(4))について、その粒子表面のSi2p及びCa2pに対するC1sの相対表面濃度をXPSにより測定した。結果を表4に示す。
【0133】
【表4】
【0134】
【表5】
【0135】
試験例4−2
製造例2で得た表面被覆シリカフュームセメント(表面被覆無機粒子(2))を坩堝内に精密天秤を使用し、小数点第4位まで秤量(5g程度)した。電気炉(ADVANTEC社製KM−600)に、秤量したシリカフュームセメントを含む坩堝を入れ、150℃、窒素雰囲気下(流量2L/分)で3時間加熱した。3時間後、電気炉から坩堝を取り出し、デシケーターの中で室温になるまで放冷し、該シリカフュームセメントを精密天秤で、小数点第4位まで秤量し、仕込み量と残存量との比から加熱後の残存率(p)を測定した。続いて、同じ坩堝を再び電気炉に入れ、450℃、空気雰囲気下(流量2L/分)で、3時間加熱した。3時間後、同様にデシケーター内で放冷し、450℃における加熱後の残存率(q)を測定した。150℃の残存率(p)と450℃の残存率(q)との差から、シリカフュームセメント中の有機系分散剤の含有量(=p−q)を計算した。
続いて、同じ坩堝を再び電気炉に入れ、550℃、窒素雰囲気下(流量2L/分)で3時間加熱した。3時間後、同様にデシケーター内で放冷し、550℃における加熱後の残存率(r)を測定した。450℃の残存率(q)と550℃の残存率(r)との差から、シリカフュームセメント中の化学結合水の水和度(=q−r)を計算した。結果を表6に示す。
550℃で加熱した後に得られたシリカフュームセメントについて、その粒子表面のSi2p及びCa2pに対するC1sの相対表面濃度をXPSにより測定した。結果を表7に示す。
表6と表7で得られた結果から、有機系分散剤単位量あたりのケイ素(Si)及びカルシウム(Ca)に対する炭素(C)の相対表面濃度(z)を算出した。結果を表8に示す。
【0136】
試験例6−2
試験例6−1に用いた表面被覆を施していない宇部三菱社製シリカフュームセメントについて、試験例4−2と同様に強熱減量を測定し、有機系分散剤の含有量及び水和度を測定した。結果を表6に示す。550℃で加熱した後に得られたシリカフュームセメントについて、その粒子表面のSi2p及びCa2pに対するC1sの相対表面濃度をXPSにより測定した。結果を表7に示す。
表6と表7で得られた結果から、有機系分散剤単位量あたりのケイ素(Si)及びカルシウム(Ca)に対する炭素(C)の相対表面濃度(z)を算出した。結果を表8に示す。
【0137】
試験例7−2
試験例7−1に用いた、製造例4で得た表面被覆シリカフュームセメント(表面被覆無機粒子(4))について、試験例4−2と同様に強熱減量を測定し、有機系分散剤の含有量及び水和度を測定した。結果を表6に示す。550℃で加熱した後に得られたシリカフュームセメントについて、その粒子表面のSi2p及びCa2pに対するC1sの相対表面濃度をXPSにより測定した。結果を表7に示す。
表6と表7で得られた結果から、有機系分散剤単位量あたりのケイ素(Si)及びカルシウム(Ca)に対する炭素(C)の相対表面濃度(z)を算出した。結果を表8に示す。
【0138】
【表6】
【0139】
【表7】
【0140】
【表8】
【0141】
表4〜8より、以下のことが分かった。
試験例6−1は、試験例2−1と同じ通常のシリカフュームセメントを用いた例であり、調製例2で得たポリカルボン酸系分散剤(2)を含有する水溶液を添加して混練したセメントペーストが一定の流動性を発現するまでに約285秒要した(表5)。
これに対し、本発明の表面被覆無機粒子(2)を用いた試験例4−1では、シリカフュームセメントの粒子表面(深さ0nm)のSi2p及びCa2pに対するC1sの相対表面濃度が1.18、粒子表面から1〜2nmにおける深さの平均のC1sの相対表面濃度が0.32と、非常に高く、試験例6−1と同じW/C条件下にも関わらず、一定の流動性を発現するまでに要した時間は165秒程度となり、著しい混練時間の短縮を達成できたことが分かった(表5)。
なお、試験例4−1でセメント粒子の表面被覆剤として使用した有機系分散剤は、試験例6−1でセメントに投入された分散剤と同じものであることから、試験例4−1で確認された混練時間の短縮効果は、セメント粒子表面の炭素含有比率の差に起因することが分かった。
【0142】
試験例5−1においては、製造例3で得た少量のポリカルボン酸系分散剤で表面被覆を施したシリカフュームセメント(表面被覆無機粒子(3))に、少量のポリカルボン酸系分散剤を含有する水溶液を添加して混練することにより、試験例4−1よりもトータルのポリカルボン酸系分散剤使用量が少ないにもかかわらず、同等以上の流動性と混練時間を達成できたことが分かった(表5)。
【0143】
試験例7−1は、製造例4で得られたセメント(表面被覆無機粒子(4))、すなわち分散剤を含む水溶液をセメントに噴霧して得た表面被覆セメントを用いた例である。この場合、シリカフュームセメントの粒子表面(深さ0nm)のSi2p及びCa2pに対するC1sの相対表面濃度が0.73、粒子表面から1〜2nmにおける深さの平均のC1sの相対表面濃度が0.28と、試験例4−1と同じ分散剤量にも関わらず、試験例4−1に比べて小さい値となった(表4)。そして、一定の流動性を発現するまでに約480秒以上の時間を要し、フロー値も55mmと小さい値となった(表5)。
試験例7−1と同様に表面被覆無機粒子(4)を用いた場合には、表8の試験例7−2より、有機系分散剤単位量あたりのシリカフュームセメントの粒子表面(深さ0nm)のSi2p及びCa2pに対するC1sの相対表面濃度が0.53、粒子表面から1〜2nmにおける深さの平均のC1sの相対表面濃度が0.19と、本発明の表面被覆無機粒子(2)を用いた試験例4−2の値に比べて、低い値を示した(表8)。
これらの結果から、表面被覆無機粒子(4)のように少量の水溶液を噴霧して被覆する方法では、分散剤がセメント表面に充分に被覆されていないため、セメント粒子の凝集を防ぐことができず、混練時間の短縮が認められなかったものと考えられる。
【0144】
試験例4−2及び試験例6−2では、450℃から550℃におけるセメントの重量変化は小さく、セメント中の化学結合水の量が少ないことが分かった(表6)。試験例7−2では、450℃から550℃における変化率は大きい(表6)が、これは、水溶液を噴霧したため、セメント結合水が生成したことに起因する。試験例7−2では、分散剤が水和物に取り込まれてしまったため、流動性の向上も得られなかったと推測される。よって、水和度を低くするためには、有機溶剤を使用することが好ましいことが分かった。
また、特許文献2のような水溶液で噴霧する方式では、流動性の向上と混練時間の短縮が達成できないことが分かった。
【0145】
なお、表には示していないが、製造例3で得た表面被覆無機粒子(3)について、試験例4−2と同様にして、有機系分散剤単位量あたりのケイ素(Si)及びカルシウム(Ca)に対する炭素(C)の相対表面濃度(z)を求め、粒子表面における、有機系分散剤単位量あたりのケイ素(Si)及びカルシウム(Ca)に対する炭素(C)の相対表面濃度は0.6〜10であり、粒子表面から1〜2nmにおける深さの平均の炭素(C)の相対表面濃度は0.2〜5であることを確認している。また、製造例3で得た表面被覆無機粒子(3)の水和度についても、0.1以下であることを確認している。
【0146】
製造例5(表面被覆無機粒子の製造)
エルケム社製シリカフューム(940−U)100gをHobertミキサーに投入し、調製例1で得たポリカルボン酸系分散剤(1)を14g(シリカフュームに対して14質量%)溶解させた水溶液214g(水は200g、水/シリカフューム質量比=2.0)をミキサー内に投入した。投入後、1速にて120秒撹拌した後、撹拌を停止した。得られたシリカフュームスラリーをバットに移し、50℃条件下で減圧乾燥(50mmHg)を行い、水を完全に留去した。乾燥後、粉砕を行い、JIS試験篩メッシュ換算表における93メッシュに相当する篩を用いて粒径を調整し、ポリカルボン酸系分散剤(1)で表面が被覆されたシリカフュームを得た。得られたシリカフュームについて、その粒子表面のSi2p及びCa2pに対するC1sの相対表面濃度をXPSにより測定した。結果を表9に示す。
次に得られたシリカフューム35gと市販の太平洋普通ポルトランドセメント665gとを混合(シリカフューム/シリカフューム混合セメント質量比=0.05)して、シリカフューム混合セメントを調製した。得られたシリカフューム混合セメントについても、その粒子表面の評価を行い、また、粒径を測定した。結果を表9に示す。
【0147】
試験例8
製造例5で得たシリカフューム混合セメント600gをHobertミキサーに投入し、水96gをミキサーに投入した(水/セメント質量比=0.16)。投入後、1速にて120秒撹拌した後、撹拌を停止し、30秒かけて容器壁面に付着するペーストを掻き落とした。水投入後180秒後に、2速で撹拌を再開し、更に240秒間撹拌を継続した。セメント及び水投入時を0秒とし、ペーストの軟らかさが目視で一定になるまでの時間を「混練時間」として表10に記載した。得られたペーストについて、フロー値を測定した結果を表10に示す。
【0148】
製造例6
エルケム社製シリカフューム(940−U、粒子径0.1μm)100gをHobertミキサーに投入し、水200gをミキサー内に投入した。投入後、1速にて120秒撹拌した後、撹拌を停止した。得られたシリカフュームスラリーをバットに移し、50℃条件下で減圧乾燥(50mmHg)を行い、水を完全に留去した。乾燥後、粉砕を行い、JIS試験篩メッシュ換算表における93メッシュに相当する篩を用いて粒径を調整し、比較となるシリカフュームを得た。得られたシリカフュームについて、その粒子表面のSi2p及びCa2pに対するC1sの相対表面濃度をXPSにより測定した。結果を表9に示す。
次に得られたシリカフューム35gと市販の太平洋普通ポルトランドセメント665gを混合(シリカフューム/シリカフューム混合セメント質量比=0.05)して、比較となるシリカフューム混合セメントを調製した。得られたシリカフューム混合セメントについても、粒子表面の評価を行い、また、粒径を測定した。結果を表9に示す。
【0149】
試験例9
製造例6で得たシリカフューム混合セメント600gをHobertミキサーに投入し、調製例1で得たポリカルボン酸系分散剤(1)を含む水99.6g(ポリカルボン酸系分散剤の添加量=セメント固形分に対し0.6質量%)をミキサー内に投入した(水/セメント質量比=0.16)。投入後、1速にて120秒撹拌した後、撹拌を停止し、30秒かけて容器壁面に付着するペーストを掻き落とした。水投入後180秒後に、2速で撹拌を再開し、更に15分間撹拌を継続した。セメント及び水投入時を0秒とし、ペーストの軟らかさが目視で一定になるまでの時間を「混練時間」として表10に記載した。得られたペーストについて、フロー値を測定した結果を表10に示す。
【0150】
【表9】
【0151】
【表10】
【0152】
試験例9では、セメントペーストが一定の流動性を発現するまでに約17分要した。これに対し、本発明の表面被覆無機粒子を用いた試験例8では、試験例9と同じW/C条件下にも関わらず、一定の流動性を発現するまでに要した時間は5分程度となり、著しい混練時間の短縮を達成できたことが分かった。
【0153】
シリカフューム粒子表面のSi2p及びCa2pに対するC1sの相対表面濃度(表9)を対比すると、試験例8に使用したシリカフューム(製造例5)と、試験例9で使用したシリカフューム(製造例6)とでは、顕著な差が確認されたため、製造例5で得たシリカフューム混合セメントは、その粒子表面の一部又は全部が有機系分散剤で充分に被覆されたものであることが確認されたといえる。
【0154】
なお、表には示していないが、製造例5で得たシリカフューム及びシリカフューム混合セメントのそれぞれについて、試験例4−2と同様にして、有機系分散剤単位量あたりのケイ素(Si)及びカルシウム(Ca)に対する炭素(C)の相対表面濃度(z)を求め、いずれも、粒子表面における、有機系分散剤単位量あたりのケイ素(Si)及びカルシウム(Ca)に対する炭素(C)の相対表面濃度は0.6〜10であり、粒子表面から1〜2nmにおける深さの平均の炭素(C)の相対表面濃度は0.2〜5であることを確認している。また、製造例5で得たシリカフューム及びシリカフューム混合セメントの水和度についても、いずれも0.1以下であることを確認している。
図1
図2
図3