特許第6072331号(P6072331)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6072331
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】家庭用マーガリン類製造用油脂組成物
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20170123BHJP
   A23D 7/00 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
   A23D9/00 518
   A23D7/00 500
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-91114(P2016-91114)
(22)【出願日】2016年4月28日
(65)【公開番号】特開2016-208973(P2016-208973A)
(43)【公開日】2016年12月15日
【審査請求日】2016年10月27日
(31)【優先権主張番号】特願2015-94308(P2015-94308)
(32)【優先日】2015年5月1日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591040144
【氏名又は名称】太陽油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】安武 貴一
(72)【発明者】
【氏名】東倉 誓哉
【審査官】 戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−233241(JP,A)
【文献】 特開2014−233242(JP,A)
【文献】 特開2010−115161(JP,A)
【文献】 特開昭62−295996(JP,A)
【文献】 特開平5−345900(JP,A)
【文献】 特開平9−241673(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/063629(WO,A1)
【文献】 特開2012−105583(JP,A)
【文献】 特開2010−98992(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 7/00−9/06
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA/
FROSTI/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラウリン系硬化油脂またはラウリン系硬化油脂のエステル交換油脂である油脂(A)及び融点が55℃未満のベヘン酸含有エステル交換油脂である油脂(B)を含み、油脂(B)の含有量が、ハードストック油脂組成物全質量に対して8質量%以下であることを特徴とする、家庭用マーガリン類製造用ハードストック油脂組成物。
【請求項2】
油脂(A)の含有量が、ハードストック油脂組成物全質量に対して30質量%以上であることを特徴とする、請求項1記載のハードストック油脂組成物。
【請求項3】
パーム系油脂含有エステル交換油脂である油脂(C)をさらに含む、請求項1または2記載のハードストック油脂組成物。
【請求項4】
油脂(B)が、構成脂肪酸としてラウリン酸及びベヘン酸を含有するエステル交換油脂である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のハードストック油脂組成物。
【請求項5】
油脂(A)が、ヤシ油、パーム核油及びパーム核分別油から選択されるラウリン系油脂の硬化油またはそのエステル交換油脂である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のハードストック油脂組成物。
【請求項6】
油脂(C)が、パーム系油脂とラウリン系油脂のエステル交換油脂である、請求項3に記載のハードストック油脂組成物。
【請求項7】
油脂(A)の融点が55℃未満であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載のハードストック油脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のハードストック油脂組成物を含む、家庭用マーガリン類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マーガリン類、特に家庭で冷蔵庫などに常備してパン等に塗って食する家庭用マーガリンおよび家庭用ファットスプレッドを含む家庭用マーガリン類の製造に用いるハードストック油脂組成物及び前記ハードストック油脂組成物を用いて製造される家庭用マーガリン類に関する。
【背景技術】
【0002】
マーガリン類は、日本農林規格により油脂含有率等によってマーガリンとファットスプレッドに分類される。油脂含有率が80%以上のものがマーガリン、80%未満のものがファットスプレッドである。
マーガリン及びファットスプレッドは、用途別に、家庭用、業務用、学校給食用などに分類される(非特許文献1)。家庭用マーガリン類は、通常、パンなどに塗って食する用途に用いられるもので、冷蔵庫から出してすぐに塗れるソフト型のマーガリンあるいはファットスプレッドが中心である。学校給食用は常温で融けにくいように融点が高めに設定されている。最も生産量の多い業務用マーガリン類は、製菓や製パンなどの材料として使用されるもので、パン生地等に練り込んで使用されることが多い。
マーガリン類は、ハードストックと呼ばれる硬化油などの高融点の油脂と、中融点あるいは液体油をブレンドして製造されることが一般的である。ハードストック油脂としては従来水素添加して得られる硬化油が用いられてきた。しかしながら、近年、硬化油に含まれるトランス脂肪酸を低減したいとの要請があり、従来に比べてトランス脂肪酸量を低下したハードストック油脂の開発が望まれている。
家庭用マーガリン類は、通常、冷蔵庫内で比較的長期にわたり保存して食するものであることから、硬度、外観、スプレッド性(伸展性)や口どけが、長期保存後も好ましい範囲であることが必要である。
トランス脂肪酸を低下させたマーガリン類を製造するための油脂組成物として、融点42℃〜48℃で炭素数18の飽和脂肪酸を20〜40質量%含有するヨウ素価40〜65の植物性硬化油脂を少量含む油脂組成物が従来提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−129949号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「油脂・脂質の基礎と応用 −栄養・健康から工業まで−」平成21年3月31日 改訂第2版発行、社団法人 日本油化学会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、硬度、外観、スプレッド性(伸展性)や口どけが、長期保存後も安定な家庭用マーガリン類を与える、家庭用マーガリン類を製造するためのハードストック油脂組成物を提供することを目的とする。
本発明はさらに、硬度、外観、スプレッド性(伸展性)や口どけなど、各性質がいずれもバランスよく良好でありかつトランス脂肪酸量が低い家庭用マーガリン類を製造することができる、ハードストック油脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、家庭用マーガリン類を製造するためのハードストック油脂組成物について研究していたところ、ラウリン系硬化油脂またはラウリン系硬化油脂のエステル交換油脂である油脂(A)及び融点が55℃未満のベヘン酸含有エステル交換油脂である油脂(B)を含み、油脂(B)の含有量が、ハードストック油脂組成物全質量に対して8質量%以下であることを特徴とする油脂組成物をハードストック油脂組成物として用いてマーガリン類を製造すると、少なくとも1ヶ月冷蔵庫で保存しても、硬度、外観、スプレッド性及び口どけのいずれも好適な範囲にあるマーガリン類を製造しうることを見いだし、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は以下を提供する。
〔1〕ラウリン系硬化油脂またはラウリン系硬化油脂のエステル交換油脂である油脂(A)及び融点が55℃未満のベヘン酸含有エステル交換油脂である油脂(B)を含み、油脂(B)の含有量が、ハードストック油脂組成物全質量に対して8質量%以下であることを特徴とする、家庭用マーガリン類製造用ハードストック油脂組成物。
〔2〕油脂(A)の含有量が、ハードストック油脂組成物全質量に対して30質量%以上であることを特徴とする、前記〔1〕記載のハードストック油脂組成物。
〔3〕パーム系油脂含有エステル交換油脂である油脂(C)をさらに含む、前記〔1〕または〔2〕記載のハードストック油脂組成物。
〔4〕油脂(B)が、構成脂肪酸としてラウリン酸及びベヘン酸を含有するエステル交換油脂である、前記〔1〕〜〔3〕のいずれか一に記載のハードストック油脂組成物。
〔5〕油脂(A)が、ヤシ油、パーム核油及びパーム核分別油から選択されるラウリン系油脂の硬化油またはそのエステル交換油脂である、前記〔1〕〜〔4〕のいずれか一に記載のハードストック油脂組成物。
〔6〕油脂(C)が、パーム系油脂とラウリン系油脂のエステル交換油脂である、前記〔3〕に記載のハードストック油脂組成物。
〔7〕 油脂(A)の融点が55℃未満であることを特徴とする、〔1〕〜〔6〕のいずれか一に記載のハードストック油脂組成物。〔8〕前記〔1〕〜〔7〕のいずれか一に記載のハードストック油脂組成物を含む、家庭用マーガリン類。
【発明の効果】
【0008】
本発明のハードストック油脂組成物を用いることにより、硬度、外観、スプレッド性(伸展性)や口どけが、長期保存後も安定な家庭用マーガリン類を製造することができる。
また、本発明により、硬度、外観、スプレッド性(伸展性)や口どけなど、各性質がいずれもバランスよく良好でありかつ低トランス脂肪酸含有量の家庭用マーガリン類を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<ハードストック油脂組成物>
本発明の油脂組成物は、家庭用マーガリン類を製造するためのハードストック油脂組成物である。
本明細書において家庭用マーガリン類とは、家庭において冷蔵庫等に常備して主にパン等に塗って食するための家庭用マーガリンおよび家庭用ファットスプレッドを意味する。
業務用マーガリンや業務用ファットスプレッドと呼ばれる、パン、ケーキ等の生地への練り込みに専ら用いられるタイプの製品を含まない。マーガリンとファットスプレッドの相違は主に油脂含有率であり、油脂含有率が80%以上のものがマーガリン、80%未満のものがファットスプレッドである。
ハードストック油脂組成物とは、マーガリン類を製造する上で、液体油あるいは中融点油脂と混合して使用する可塑性油脂組成物を意味する。融点は通常35〜50℃程度であるが、これに限定されるものではない。
本発明のハードストック油脂組成物は、ラウリン系硬化油脂またはラウリン系硬化油脂エステル交換油脂である油脂(A)及び融点が55℃未満のベヘン酸含有エステル交換油脂である油脂(B)を含み、油脂(B)の含有量が、ハードストック油脂組成物全質量に対して8質量%以下であることを特徴とする。
【0010】
1.油脂(A)
油脂(A)は、ラウリン系硬化油脂またはラウリン系硬化油脂のエステル交換油脂である。より十分な硬度を得るという観点から、ラウリン系硬化油脂のエステル交換油脂を用いることが好ましい。
ラウリン系油脂とは、構成脂肪酸としてラウリン酸を多く含む油脂、より好ましくはラウリン酸を構成脂肪酸全体の30質量%以上含む油脂であり、さらに好ましくは40質量%以上含む油脂である。
ラウリン系硬化油脂としては、ヤシ油、パーム核油、及びこれらの分別油を硬化した油から選択される油脂を含むことが好ましく、さらにヤシ油及びパーム核油及びパーム核分別油から選択される油脂の硬化油を含むことがより好ましい。
硬化油は、水素添加により油脂中の不飽和脂肪酸の不飽和部分の一部あるいは全部を飽和に変えた油脂をいう。硬化の方法及び条件は当業者であれば公知の方法により適宜行うことができる。硬化の程度は特に限定されないが、例えば、ヨウ素価が0〜3程度であることが好ましい。
硬化油は極度硬化油であることがより好ましい。
パーム核分別油としては、パーム核オレイン、パーム核ダブルオレイン、パーム核ステアリン等が挙げられる。
【0011】
油脂(A)は、油脂(A)の質量に対して、ラウリン系硬化油脂を少なくとも80質量%含むことが好ましく、少なくとも90質量%含むことがさらに好ましい。
油脂(A)において使用しうるラウリン系硬化油脂以外の油脂としては、パーム系油脂、及びこれらの硬化油脂が挙げられる。パーム系油脂としては、パーム油、パームステアリン、パームオレイン及びパームダブルオレイン等のパーム分別油が挙げられる。
【0012】
ラウリン系硬化油脂のエステル交換油脂とは、上述したラウリン系硬化油脂からなる油脂あるいはラウリン系硬化油脂を含む油脂をエステル交換した油脂を意味する。好ましくはラウリン系硬化油脂を少なくとも80質量%含み、より好ましくは少なくとも90質量%含む油脂をエステル交換したものであることが好ましい。前記エステル交換のための原料油脂にラウリン系硬化油脂以外の油脂が含まれる場合には、含まれる油脂としては、パーム系油脂、及びこれらの硬化油脂が挙げられる。パーム系油脂としては、パーム油、パームステアリン、パームオレイン及びパームダブルオレイン等のパーム分別油が挙げられる。
油脂のエステル交換の方法は当該技術分野で公知の方法で行うことができる。エステル交換には、例えば、ランダム(非選択的)エステル交換反応方法、選択型(指向型)エステル交換反応方法がある(参考文献:安田耕作、福永良一郎、松井宣也、渡辺正男、新版 油脂製品の知識、幸書房)。本発明では、ランダムエステル交換反応方法が好ましい。ランダムエステル交換は、例えば、ナトリウムメチラート、水酸化ナトリウム等を触媒としてエステル交換を行う化学的な方法、非選択的リパーゼ等を触媒としてエステル交換を行う酵素的な方法に従って行うことができる。特に、化学的な方法でランダムエステル交換反応を行うことにより、簡便であるため、より好ましい。
【0013】
油脂(A)の融点は55℃未満であることが好ましく、より好ましくは45℃以下であり、さらにより好ましくは40℃以下であり、特に好ましくは38℃以下であり、最も好ましくは36℃以下である。
油脂(A)の含有量は、ハードストック油脂組成物全質量に対して30質量%以上であることが好ましく、より好ましくは35質量%以上であり、さらに好ましくは37質量%以上であり、さらにより好ましくは38質量%以上であり、特に好ましくは40質量%以上であり、特により好ましくは45質量%以上であり、最も好ましくは50質量%以上である。30質量%未満であると、マーガリン類として十分な硬度が得られないため30質量%以上であることが好ましい。
油脂(A)の含有量の上限は特に限定されないが、ハードストック油脂組成物全質量に対して好ましくは80質量%、より好ましくは70質量%である。
【0014】
2.油脂(B)
油脂(B)は、ベヘン酸を構成脂肪酸として含むエステル交換油脂であり、かつ融点が55℃未満の油脂である。
油脂(B)の含有量は、ハードストック油脂組成物全質量に対して8質量%以下である。8質量%より多くなると、保存後の伸展性及び口どけが悪くなるからである。好ましくは、7質量%以下であり、さらに好ましくは6質量%以下である。また、油脂(B)は必須の成分であり、本発明のハードストック油脂組成物に必ず含まれる。1質量%以上含まれることが好ましく、2質量%以上含まれることがより好ましく、3質量%以上含まれることがさらに好ましい。
ベヘン酸を構成脂肪酸として含む油脂としては、例えば、ハイエルシンナタネ極度硬化油やカラシ油極度硬化油が挙げられる。
油脂(B)は、好ましくは、構成脂肪酸としてラウリン酸及びベヘン酸を含有するエステル交換油脂である。例えば、ヤシ油、パーム核油、これらの分別油あるいは硬化油から選択されるラウリン酸含有油脂と、ハイエルシン菜種極度硬化油、カラシ油極度硬化油等のベヘン酸含有油脂との、エステル交換油脂が挙げられる。
エステル交換油脂を製造するための、ラウリン酸含有油脂とベヘン酸含有油脂との割合は、例えば、油脂(B)の全構成脂肪酸中のベヘン酸量が一定の範囲となるように決めることができる。
【0015】
油脂(B)のエステル交換方法は油脂(A)について述べた方法と同様の方法で行うことができる。
油脂(B)の融点は好ましくは54℃以下、さらに好ましくは53℃以下である。油脂(B)の融点は、好ましくは40℃以上、さらに好ましくは45℃以上である。また、ヨウ素価は2〜7程度であることが好ましい。
油脂(B)の全構成脂肪酸を100質量%としたときのベヘン酸の量は、9〜39質量%程度であることが好ましく、14〜34質量%であることがより好ましい。また、ラウリン酸の量は、9〜39質量%程度であることが好ましく、14〜34質量%であることがより好ましい。
【0016】
3.油脂(C)
本発明のハードストック油脂組成物は、油脂(A)と油脂(B)の他に、さらにパーム系油脂含有エステル交換油脂である油脂(C)を含むことが好ましい。
パーム系油脂含有エステル交換油脂(C)とは、パーム果実由来の油脂であるパーム系油脂を含む油脂をエステル交換して得られる油脂を意味する。パーム系油脂としては、パーム油、パームステアリン、パームオレイン及びパームダブルオレイン等のパーム分別油、及びこれらの硬化油等が挙げられる。
パーム系油脂含有エステル交換油脂(C)は、好ましくは、パーム系油脂とラウリン系油脂を含む混合油脂のエステル交換油脂である。
ここで用いられるラウリン系油脂としては、ヤシ油、パーム核油、及びこれらの分別油であるパーム核オレイン、パーム核ダブルオレイン、パーム核ステアリン並びにこれらを硬化した油から選択される油脂が挙げられる。
【0017】
パーム系油脂とラウリン系油脂を含む混合油脂のうち、パーム系油脂の含有量は、混合油脂の合計質量に対し、40〜100質量%であることが好ましく、40〜95質量%であることがより好ましく、50〜90質量%であることが更により好ましく、60〜80質量%であることが最も好ましい。ラウリン系油脂の含有量は、混合油脂の合計質量に対し、60〜0質量%であることが好ましく、60〜5質量%であることがより好ましく、50〜10質量%であることが更により好ましく、40〜20質量%であることが最も好ましい。パーム系油脂の含有量が多いエステル交換油脂を多く用いると、硬度が低くなる傾向になり好ましくない。
エステル交換方法は油脂(A)について述べた方法と同様の方法で行うことができる。
油脂(C)の脂肪酸組成としては、全脂肪酸組成質量に対し、パルミチン酸を25〜65質量%含むことが好ましく、30〜60質量%含むことがより好ましく、35〜55質量%含むことが更により好ましい。また、オレイン酸を0〜40質量%含むことが好ましく、5〜35質量%含むことがより好ましく、10〜30質量%含むことが更により好ましい。
油脂(C)は、ハードストック油脂組成物全質量に対して15〜70質量%の範囲で含まれることが好ましく、20〜60質量%の範囲で含まれることがより好ましく、30〜50質量%の範囲で含まれることがさらにより好ましい。
【0018】
4.油脂(D)
本発明のハードストック油脂組成物は、融点が55℃以上の高融点硬化油脂である油脂(D)をさらに含んでいてもよい。
融点が55℃以上である高融点硬化油脂(D)としては、ハイエルシン菜種極度硬化油、菜種極度硬化油、パーム極度硬化油、大豆極度硬化油、それら(油脂を含む)の混合エステル交換油脂が挙げられる。融点は58℃以上であることがより好ましく、60℃以上であることがさらに好ましい。さらに脂肪酸組成としてベヘン酸を含有することがより好ましい。
油脂(D)はエステル交換油脂であっても非エステル交換油脂であってもよい。エステル交換方法は油脂(A)について述べた方法と同様の方法で行うことができる。
油脂(D)のハードストック油脂組成物中の含有量は5質量%以下であることが好ましく、0.1〜3質量%であることがより好ましく、0.2〜1.0質量%であることが更により好ましい。油脂(D)の添加量が多くなると口どけが悪くなる傾向になり好ましくない。
【0019】
5.その他の油脂(E)
本発明のハードストック油脂組成物は、上記油脂(A)〜(D)以外の油脂(E)をさらに含んでいてもよい。油脂(E)は、ラウリン系油脂等が挙げられる。なかでも、ラウリン系油脂が好ましい。ラウリン系油脂としては、ヤシ油、パーム核油、及びこれらの分別油であるパーム核オレイン、パーム核ダブルオレイン、パーム核ステアリン並びにこれらを硬化した油から選択される油脂が挙げられる。
その他の油脂(E)の含有量は、ハードストック油脂組成物全質量に対して上記油脂(A)〜(D)の各質量%の残部である。
【0020】
本発明のハードストック油脂組成物は、上述の構成の油脂を用いる結果、トランス脂肪酸量が大きく低減された油脂組成物となっている。具体的には、本発明の油脂組成物は、好ましくはトランス脂肪酸量が0〜5質量%であり、より好ましくは0〜4質量%である。
【0021】
<家庭用マーガリン類及びその製造方法>
家庭用マーガリン類とは、家庭用マーガリン及び家庭用ファットスプレッドを意味しており、通常、パンなどに塗って食するものである。その用途から、硬度、スプレッド性、外観、口どけなどが重要である。
マーガリン類は、一般には、1〜5μmの微細な固体脂結晶が分子間力により網目構造をとっていて,その中に液状油を保持している油中水型のエマルション形体である。水相部は,製品の種類にもよるが,数μmから数十μm程度の撥水滴の形で存在している。
本発明の家庭用マーガリン類は、上述した本発明のハードストック油脂組成物から製造されるものである。より具体的には、例えば、ハードストック油脂組成物と、液体油脂とを所定の比率で混合し、水、レシチン、飽和脂肪酸モノグリなどの乳化剤、その他の乳化剤、酸化防止剤、澱粉、糖類、タンパク質、フレーバーなどの添加剤を加えて攪拌することにより製造することができる。
例えば、水相と油相とを、適宜加熱して混合し、コンビネーター、パーフェクター、ポテーター名等の冷却混合機により急冷捏和することによりマーガリン類を製造することができる。
家庭用マーガリン類中の、本発明のハードストック油脂組成物の含有量は5〜45質量%程度であることが好ましく、10〜40質量%程度であることがより好ましく、15〜35質量%であることがさらに好ましく、20〜30質量%であることが最も好ましい。また、家庭用マーガリン類中の油脂含有率は20〜95質量%が好ましく、40〜92質量%であることがより好ましく、60〜88質量%であることがさらに好ましく、70〜85質量%であることが最も好ましい。
【実施例】
【0022】
表1に示した各油脂を以下のように処理して製造した。なお、各油脂は、以下に記載の各処理を行った後、通常の脱色脱臭処理を行っているが、脱色脱臭処理については記載を省略した。
(1)パーム核油100質量%を水素添加処理を行い、油脂A−1を得た。油脂A−1の融点は40℃であり、ヨウ素価は0であった。全構成脂肪酸質量に対してラウリン酸量は47.3%であった。
(2)パーム核極度硬化油100%を用いて、0.12%のナトリウムメチラートを触媒とし、90℃で30分間、非選択的エステル交換反応を行い油脂A−2を得た。油脂A−2の融点は36℃であり、ヨウ素価は0であった。また、全構成脂肪酸質量に対し、ラウリン酸量は47.3質量%であった。
(3)パーム核極度硬化油91質量%、パーム極度硬化油9質量%の混合油を用いて、油脂A-2と同様の反応を行い油脂A−3を得た。油脂A−3の融点は36℃であり、ヨウ素価は0であった。また、全構成脂肪酸質量に対し、ラウリン酸量は43.0質量%であった。
(4)ハイエルシンナタネ極度硬化油50質量%、ヤシ油50質量%の混合油を用いて、油脂A-2と同様の反応を行い、油脂Bを得た。油脂Bの融点は48℃であり、ヨウ素価は4であった。また、全構成脂肪酸質量に対し、ベヘン酸量は23.8質量%、ラウリン酸量は24.2質量%であった。
(5)パーム核オレイン29質量%、パームステアリン56質量%およびパーム極度硬化油15質量%の混合油を用いて、油脂A-2と同様の反応を行い油脂C−1を得た。油脂C−1の融点は42℃であり、ヨウ素価は25であった。構成脂肪酸としてパルミチン酸を44.8質量%、オレイン酸を21.0質量%含んでいた。
(6)パーム核オレイン25質量%、パームステアリン8質量%およびパーム油67質量%の混合油を用いて、油脂A-2と同様の反応を行い油脂C−2を得た。油脂C−2の融点は36℃であり、ヨウ素価は44であった。構成脂肪酸としてパルミチン酸を37.9質量%、オレイン酸を32.9質量%含んでいた。
(7)パームオレインを用いて、油脂A-2と同様の反応を行い油脂C−3を得た。油脂C−3の融点は36℃であり、ヨウ素価は60であった。構成脂肪酸としてパルミチン酸を36.1質量%、オレイン酸を45.0質量%含んでいた。
(8)ハイエルシン菜種油の極度硬化処理を行い、油脂Dを得た。油脂Dの融点は61℃であった。ベヘン酸量は、全構成脂肪酸質量に対し47.5質量%であった。
【0023】
表1
【0024】
表2-1
【0025】
表2-2
【0026】
製造した油脂組成物を用いて、下記表3の配合中のハードストックとして使用し、硬度、外観、スプレッド性および官能評価を、以下のように行った。
【0027】
表3
【0028】
1.硬度測定方法
レオメーター(島津製作所 EZ-Test)にて、直径5mmプランジャーで10mm押した時の応力値をプランジャーの面積値で割って応力を算出した。
硬度が200を下回ると柔らかすぎてナイフですくった際に落ちてしまい使いにくく、2500を上回ると硬すぎてナイフですくいにくい。
【0029】
2.外観(ツヤ)
マーガリンの表面を目視にて5点満点で評価した。ツヤ強 5点〜1点 弱。
作製直後及び1ヶ月後の油脂組成物について3点以上であれば合格品とした。
【0030】
3.スプレッド性評価
・伸展性:3gをスパチュラにてプラスチック性の板に塗り広げる。塗りやすさを評価し、B以上であれば合格とした。
A:滑らかで塗りやすい
B:塗りやすい
C:塗りにくい
・粒の数:塗り広げたマーガリン中の粒(グレイン)の数をカウントした。B以上であれば合格とした。
A:0〜5個
B:6〜15個
C:16個以上
【0031】
4.官能評価
口どけ、フレーバーリリース及び塩味について、パネラー(5人)により以下の評価に従って評価し、最も多い評価結果を記載した。
A:非常に良好
B:良好
C:不良
作製直後及び1ヶ月後の油脂組成物について評価がB以上であれば合格品とした。
【0032】
表4-1
【0033】
表4-2
【0034】
上記結果から、本発明のハードストック油脂組成物は、保存後も適度な硬度を有し、さらに、外観、伸展性、口どけも良い家庭用マーガリン類を与える(実施例1〜10)。特に、実施例3、4、8及び10の油脂組成物は外観、伸展性、口どけが良好で、さらに1ヶ月保存後もそれらの性能が維持されており、極めて良好な結果を示した。油脂(B)の含有量が、ハードストック油脂組成物全質量に対して8質量%より多く含まれると、保存後の伸展性及び口どけなどが大きく低下したマーガリンが得られた(比較例1)。また、油脂(A)を含まない油脂組成物を用いると、硬度が低く、また外観も悪く、粒が多くて食感の悪いマーガリンが得られた(比較例2)。