特許第6072425号(P6072425)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6072425
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】三次元変位計測装置
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/00 20060101AFI20170123BHJP
【FI】
   G01B11/00 H
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-92287(P2012-92287)
(22)【出願日】2012年4月13日
(65)【公開番号】特開2013-221801(P2013-221801A)
(43)【公開日】2013年10月28日
【審査請求日】2015年4月13日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)平成23年度秋季講演大会講演概要集 平成23年10月18日発行表紙、219〜222頁、裏表紙 社団法人日本非破壊検査協会 (2)崖崩れ前兆変位計測システムの開発 2012年2月15日 2011度修士論文発表資料 中坊真希子
(73)【特許権者】
【識別番号】512050999
【氏名又は名称】藤垣 元治
(73)【特許権者】
【識別番号】512098452
【氏名又は名称】中坊 真希子
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】藤垣 元治
(72)【発明者】
【氏名】中坊 真希子
【審査官】 神谷 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−264852(JP,A)
【文献】 特開2012−058076(JP,A)
【文献】 特開平11−166818(JP,A)
【文献】 特許第4873485(JP,B2)
【文献】 特開2003−269928(JP,A)
【文献】 特開2006−003276(JP,A)
【文献】 特許第3446020(JP,B2)
【文献】 特開2010−230317(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0211258(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00−11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の位置における三次元変位を計測するための三次元変位計測装置であって、
前記所定の位置に備わった二次元格子パターンを撮像する複数台の撮像部と、
異なる複数の時刻において前記複数台の撮像部により撮像した前記二次元格子パターンを
解析し該異なる複数の時刻のうちの特定の時刻の位相を基準とし異なる時刻における位相
との二次元方向の位相差を算出する解析部と、
前記解析部で算出された二次元方向の位相差を前記三次元変位に変換するための換算行列
を記憶する記憶部と、
を備えたことを特徴とする三次元変位計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土砂災害の危険箇所での斜面等の自然構造物の三次元変位を定点観測する場合、あるいは、橋梁やビルディング、ダムなどの大型構造物や工場プラント等の人工構造物において、橋脚や橋梁、鉄骨部材、タンク、配管などの異常な三次元変位をモニタリングすることが可能な複数台のカメラを用いた三次元変位計測方法とその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
1mm以下の微小な変位を計測することができる手法にサンプリングモアレ法がある。1枚の格子画像から位相シフトされたモアレ画像を生成して、その位相を解析できる。さらに、2次元格子の位相を求め、そこから変位やひずみを求める手法としてはサンプリングモアレ法がある。この手法では、縦方向と横方向の位相が同時に求められ、また、格子ピッチの数百分の1の分解能で縦方向と横方向の変位を計測する方法が公知である。
【0003】
ところで、甚大な被害をもたらす自然災害の予測に関心が高まっており、こうした自然災害の1つに「崖崩れ」がある。「崖崩れ」とは、急激に斜面が崩れ落ちる現象であり、その発生は突発的で人命にかかわることが多い。崖崩れの多くは、他の斜面変動と同様に雨や融雪により引き起こされるが、道路や鉄道、構造物の建設等での山林の切り取り・盛り土の作業によっても誘発される可能性がある。したがって、崖崩れから人命を守るためには、その前兆現象を検知する必要がある。
【0004】
そこで、特許文献1には、所定の位置における変位を計測するための変位計測装置が開示されており、該変位計測装置は、所定の位置に設けられた変位計測用の格子を含む変位計測用画像を撮像する撮像部と、前記変位計測用画像から前記格子の領域を検出して該格子領域の画像を抽出する格子領域検出部と、抽出した前記格子領域の画像に対してサンプリングモアレ法により前記格子領域の画像に対するモアレの位相分布を導出する位相分布導出部と、前記位相分布から求められた前記所定の位置における変位前後の位相差と予め定められた格子ピッチとから前記所定の位置における変位を決定する変位決定部とを備えている。これによって、格子領域の画像のみを解析すればよいので、変位の解析時間を大きく低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−174874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されているように、サンプリングモアレ法は、1枚の2次元格子画像から位相シフトされたモアレ画像を生成して、その位相を解析することができ、そこから縦方向と横方向の位相が同時に求められ、格子ピッチの数百分の1の分解能で縦方向と横方向の変位を計測することができる。
しかしながら、例えば、崖崩れの前兆現象を的確に捉えるには、計測対象物の三次元方向の変位を計測する必要がある。背景技術で説明した特許文献1に開示された技術では、X軸方向とY軸方向の2方向の変位だけしか測定できない。Z軸方向の変位を測定するには、例えば、レーザー距離計などの他の計測装置を用いる必要があり、計測装置が複雑化・高コスト化してしまう。なお、レーザー距離計を用いる場合、Z軸方向に対して、X軸方向とY軸方向をそれぞれ垂直に求めることができなかった。
そこで、本発明は、カメラを複数台用いサンプリングモアレ法により三次元変位を計測することが可能な、三次元変位計測装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の請求項1に係る発明は、所定の位置における三次元変位を計測するための三次元変位計測装置であって、前記所定の位置に備わった二次元格子パターンを撮像する複数台の撮像部と、異なる複数の時刻において前記複数台の撮像部により撮像した前記二次元格子パターンを解析し該異なる複数の時刻のうちの特定の時刻の位相を基準とし異なる時刻における位相との二次元方向の位相差を算出する解析部と、前記解析部で算出された二次元方向の位相差を前記三次元変位に変換するための換算行列を記憶する記憶部と、を備えたことを特徴とする三次元変位計測装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、カメラを複数台用いサンプリングモアレ法により三次元変位を計測することが可能な、三次元変位計測装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】サンプリングモアレ法を説明する図である。
図2】カメラを2台設置し計測対象の2次元格子パターンを撮像することを説明する図である。
図3】実験の概略構成図である。
図4】カメラと移動ステージの位置関係を説明する図である。
図5】実際に撮影された画像を説明する図である。
図6】実験に用いた移動ステージを説明する図である。
図7】x方向のみに変位を与えたときの実験結果のグラフである。
図8】y方向のみに変位を与えたときの実験結果のグラフである。
図9】z方向のみに変位を与えたときの実験結果のグラフである。
図10】x,y,zの三次元方向に同時に変位を与えたときの実験結果のグラフである。
図11】本発明の三次元変位計測装置の概略構成図である。
図12】キャリブレーション用基準格子板を説明する図である。
図13】識別マークを有する2次元格子パターンの例を説明する図である。
図14】計測対象物に取り付けられた2次元格子パターンを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面と共に説明する。
まず、本発明の計測原理を説明する。
<サンプリングモアレ法>
従来はカメラ1台を用いて2次元方向の変位をサンプリングモアレ法により計測することが行われていた。これに対し、本発明は少なくともカメラ2台により、サンプリングモアレ法を用いて三次元変位を計測する方法および装置である。サンプリングモアレ法を用いてカメラ1台だけでは奥行き方向の変位を計測することができないが、本発明は2台以上の複数台のカメラを用いてその問題を解決した。
【0013】
図1はサンプリングモアレ法を説明する図である。(a)はカメラによって撮像された2次元格子パターンの画像を示す図である。(b)は水平方向の1次元格子パターンの画像を示す図である。(c)は垂直方向の1次元格子パターンの画像を示す図である。(d)は水平方向の1次元格子パターンのモアレ画像を示す図である。(e)は垂直方向の1次元格子パターンのモアレ画像を示す図である。(f)はx方向のモアレ縞の位相分布を説明する図である。(g)はy方向のモアレ縞の位相分布を説明する図である。
【0014】
2次元格子パターンをカメラで撮影すると図1(a)のような画像が得られる。この画像に各方向に平滑化処理をかけると、図1(b),(c)のような1次元格子パターン画像が得られる。この画像からモアレ画像を得るためには、N画素ごとに間引き処理する必要がある。間引き処理は格子のピッチで決まる。間引き処理を施すとデータが欠けるので、残っている隣り合うデータを用いて線形補間を行う。線形補間を行うと、図1(d),(e)のような複数のモアレ画像が得られる。位相がN回シフトで1周するとき、n回目のシフト画像の明度をIn(x,y)とする。このとき、位相は数1式で表される。なお、このサンプリングモアレ法は公知の方法である。
【0015】
【数1】
【0016】
<変位計測>
変位が発生する前と後の2次元格子パターンをカメラで撮影する。撮影した2次元格子パターンの画像にサンプリングモアレ法を適用し、それぞれの画像の位相を求め、その差分Δφを計算する。変位量dx,と位相差Δφx,格子のピッチpx、変位量dy,と位相差Δφy,格子のピッチpyは数2式の関係にある。格子画像が2次元のとき、x,y方向の位相差を用いて計算することによって得られる。
【0017】
【数2】
【0018】
次に、本発明に係る2台のカメラを用いて三次元変位の計測を行うことを説明する。計測対象に2次元格子パネルを設置し、それをカメラで撮影する。撮影によって得られた画像を解析することで変位を計測する。このとき、カメラ1台からの情報では、x,y方向の変位しか計測することができない。これを、カメラを複数台設置することによりz方向の変位を計測する。
【0019】
図2に示されるようにカメラを2台設置し、計測対象の2次元格子パターンを撮影する。それぞれのカメラ10,12から得られる位相差から変換行列を用いて、x,y,z方向の変位を算出する。カメラ10で得られる位相差をφ1x,φ1y、カメラ12で得られる位相差をφ2x,φ2yとすると、数3式が得られる。数3式より、変換行列は[A]は3行*4列の行列で表される。
【0020】
【数3】
【0021】
この計測原理では、三次元変位を計測するために変換行列を求める必要がある。変換行列は、事前に任意の変位を各方向(X軸方向,Y軸方向,Z軸方向)に与え、計測された位相差から数4式を用いて求めることができる。
【0022】
【数4】
【0023】
このとき、変換行列[A]の疑似逆行列[A]を行列[B]とおき、各要素を数5式のようにおく。
【0024】
【数5】
【0025】
x方向に任意の変位dxを与えたときのそれぞれの位相差をφdx,1x、φdx,1y、φdx,2x、φdx,2yとする。同様に、y,zの方向にそれぞれ任意の変位dy,dzを与えたときそのそれぞれの位相をφdy,1x、φdy,1y、φdy,2x、φdy,2y、φdz,1x、φdz,1y、φdz,2x,φdz,2yとすると、数6,数7,数8で表すことができる。
【0026】
【数6】
【0027】
【数7】
【0028】
【数8】
【0029】
数6式,数7式,数8式から行列[B]の各要素が求められる。そして、数9式を用いて変換行列[A]を求めることができる。
【0030】
【数9】
【0031】
<三次元変位計測実験>
ここで本発明の理解を助けるため、上記計測原理による三次元変位の計測実験を説明する。図2に実際の様子を示し、図3に実験の概略図を示す。2台のカメラ10,12と移動ステージ4の距離は5.0m、2台のカメラ10,12間の距離は3.0mとする。また、カメラ10,12と移動ステージ4の位置関係は、図4に示される関係にあるので、x方向(もしくは、y方向)の計測誤差σx,y、z方向の計測誤差σzは正しく計測が行われている場合、数10式の関係になるはずである。
【0032】
【数10】
【0033】
この実験に使用したカメラはUSBカメラで、撮影画素は1024*1024画素である。カメラレンズは焦点距離が16mmのものを用いた。カメラ10,12で実際に撮影された画像を図5(a),図5(b)に示す。移動ステージ4にはx,y方向ともに15mmピッチの2次元格子パターンが貼り付けてある。図6が実験に用いた移動ステージ4で、図中のx,y,z方向に動く。なお、カメラはUSBカメラに限定されない。
【0034】
上述したようにまず初めに変換行列を求め、次に移動ステージ4をx方向,y方向,z方向の各一方向にだけ1.0mmずつ変位させ、計測を行った。また、x,y,z方向に同時に0.5mmずつ変位させて計測を行う。
【0035】
<変換行列>
変換行列を求めるために、x,y,z方向それぞれ一方向だけに5.0mmの変位を与え、そのときカメラ10,カメラ12のそれぞれの位相差を表1に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
また、位相差から求められた変換行列は数11式の通りである。
【0038】
【数11】
【0039】
<実験結果>
上述の結果、以下の結果が得られた。
移動ステージ4を各一方向にだけ0.0〜5.0mmまで1.0mmずつ変位させ、計測を行った。
x方向のみに変位を与えたときの実験結果を表2に示し、また、図7にそのグラフを示す。
【0040】
【表2】
【0041】
同様に、y方向のみに変位を与えたときの実験結果を表3に示し、z方向のみに変位を与えたときの実験結果を表4に示す。また、グラフを図8図9に示す。
【0042】
【表3】
【0043】
【表4】
【0044】
x方向のみに変位を与えたときの誤差の標準偏差は、x方向は0.01mm、y方向は0.02mm、z方向は0.02mmであった。y方向のみに変位を与えたときの誤差の標準偏差は、x方向は0.01mm、y方向は0.02mm、z方向は0.02mmであった。y方向のみに変位を与えたときの誤差の標準偏差は、x方向は0.01mm、y方向は0.01mm、z方向は0.03mmであった。z方向のみに変位を与えたときの誤差の標準偏差は、x方向は0.01mm、y方向は0.01mm、z方向は0.03mmであった。
【0045】
また、x,y,z方向に同時に0.5mmずつ変位させて計測を行った。0.5mmずつ変位を与えたときに計測された変位を表5に示し、図10にそのグラフを示す。
【0046】
【表5】
【0047】
0.5mmずつ各方向に同時に変位を与えたときの誤差の標準偏差は、x方向は0.02mm、y方向は0.01mm、z方向は0.03mmであった。また、数10式より、tanθ=0.31、σx,y/σz=0.39であり、値が近いため、正しく計測できていることが分かる。
【0048】
図11は本発明の三次元変位計測装置の概略構成図である。
まず、計測対象物の三次元変位計測を行う前に三次元変位計測装置1のキャリブレーションを行う。計測対象物のカメラ側前方に、キャリブレーション用基準格子板2を設置する。キャリブレーション用基準格子板2は、図12のように3軸(x方向,y方向,z方向)移動ステージ4に表示モニタ6を取り付けたもので、表示モニタ6に2次元格子パターン8が表示されるようになっている。
【0049】
本発明の実施形態では、2次元格子パターンの表示を液晶パネルで行う。液晶パネルに表示された2次元格子パターンをx方向、y方向、z方向に順次一定量だけ変位させる。x方向、y方向の変位は液晶パネル内で行い、z方向の変位は移動ステージで行う。2次元格子パターンの変位前と変位後の画像を2台のカメラ10,12で撮像する。
撮像された画像から得られた位相差を元にして、位相差から三次元変位を求めるための変換行列を作成する。なお、本発明の実施形態では、図13のように各変位を識別できるように、2次元格子パターンの上部に識別マーク9を表示させるようにしている。キャリブレーション終了後、キャリブレーション用基準格子板2を取り外す。
そして、変位計測を行う。計測対象物に取り付けられた図14のような2次元格子パターン20を2台のカメラ10,12で撮影する。特定時刻の位相を基準として、変位後の格子画像から2次元の位相差を求める。得られた位相差から、キャリブレーション時に作成した変換行列を用いて計測対象物の所定の位置の三次元の変位を求めることができる。
【符号の説明】
【0050】
2 キャリブレーション用基準格子板
4 移動ステージ
6 表示モニタ
8 2次元格子パターン
9 識別マーク
10 第1カメラ
12 第2カメラ
14 パソコン
16 移動ステージコントローラ
18 コンピュータ
20 2次元格子パターン
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図14