(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6072445
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】半導体装置およびそれを用いた電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H01L 29/739 20060101AFI20170123BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20170123BHJP
H01L 29/423 20060101ALI20170123BHJP
H01L 29/49 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
H01L29/78 655A
H01L29/78 655G
H01L29/78 652M
H01L29/78 652K
H01L29/78 652C
H01L29/78 652J
H01L29/78 653A
H01L29/58 G
【請求項の数】13
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-144893(P2012-144893)
(22)【出願日】2012年6月28日
(65)【公開番号】特開2014-11212(P2014-11212A)
(43)【公開日】2014年1月20日
【審査請求日】2015年1月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000233273
【氏名又は名称】株式会社 日立パワーデバイス
(74)【代理人】
【識別番号】100100310
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 学
(72)【発明者】
【氏名】白石 正樹
【審査官】
早川 朋一
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−330466(JP,A)
【文献】
特開2009−054903(JP,A)
【文献】
特開2010−045144(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/080928(WO,A1)
【文献】
国際公開第2011/111500(WO,A1)
【文献】
特表2010−541288(JP,A)
【文献】
特開2013−251468(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/78
H01L 21/336
H01L 29/739
H01L 21/331
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の第1半導体層と、
前記第1半導体層に隣接する第2導電型の第2半導体層と、
複数の第1のトレンチと、
前記複数の第1トレンチ内に設けられるゲート電極と、
前記第1トレンチ間に位置する第1領域および前記第1領域よりも前記第1トレンチ間の間隔が広い第2領域と、を備え、
前記第1領域においては、
前記第2半導体層に隣接する前記第1導電型の第3半導体層と、
前記第3半導体層に隣接する前記第2導電型の第4半導体層と、
を備え、
前記ゲート電極は、前記第1トレンチ内において、前記第3半導体層、前記第4半導体層および前記第2半導体層の各表面上に、第1絶縁膜を介して設けられ、
前記第1半導体層に低抵抗接触する第1電極と、
前記第3半導体層および前記第4半導体層に低抵抗接触する第2電極と、
を備える半導体装置において、
前記第2領域においては、
複数の第2トレンチと、
前記複数の第2トレンチ内において、トレンチ側壁との間に第2絶縁膜を介して設けられ、前記第2電極と電気的に接続される第3の電極と、
を備え、
前記第1トレンチと前記第2トレンチとの間には前記第2半導体層が介在することを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
請求項1に記載される半導体装置において、前記第1トレンチ内における前記ゲート電極の下部に、トレンチ側壁との間に第3絶縁膜を介して設けられ、前記第2電極に電気的に接続される第4電極が設けられることを特徴とする半導体装置。
【請求項3】
請求項1に記載の半導体装置において、前記第2絶縁膜の厚さは、前記第1絶縁膜の厚さよりも厚いことを特徴とする半導体装置。
【請求項4】
請求項2に記載の半導体装置において、前記第2絶縁膜および前記第3絶縁膜の厚さは、前記第1絶縁膜の厚さよりも厚いことを特徴とする半導体装置。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の半導体装置において、前記第1トレンチに隣接する前記第2トレンチと前記第1トレンチとの距離は、前記第1トレンチ間の距離以下であることを特徴とする半導体装置。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載の半導体装置において、前記第2領域において、前記第2トレンチ間に、前記第2導電型のフローティングの第5半導体層を設けることを特徴とする半導体装置。
【請求項7】
請求項6に記載の半導体装置において、前記第5半導体層の深さは、第2トレンチの深さよりも深いことを特徴とする半導体装置。
【請求項8】
請求項1に記載の半導体装置において、前記ゲート電極および前記第3電極はポリシリコンからなることを特徴とする半導体装置。
【請求項9】
請求項2に記載の半導体装置において、前記ゲート電極および前記第3電極並びに第4電極はポリシリコンからなることを特徴とする半導体装置。
【請求項10】
請求項1または請求項2に記載の半導体装置において、前記第2半導体層は、前記第1半導体層に隣接する第1部分と前記第1部分に隣接する第2部分を含み、前記第1部分のキャリア濃度は前記第2部分のキャリア濃度よりも高いことを特徴とする半導体装置。
【請求項11】
請求項1または請求項2に記載の半導体装置において、前記第2半導体層は、前記第3半導体層に隣接する第1部分と前記第1部分に隣接する第2部分を含み、前記第1部分のキャリア濃度は前記第2部分のキャリア濃度よりも高いことを特徴とする半導体装置。
【請求項12】
請求項1または請求項2に記載の半導体装置において、前記第3半導体層内には前記第2導電型の第5半導体層が設けられ、前記第5半導体層のキャリア濃度は前記第2半導体層のキャリア濃度よりも高いことを特徴とする半導体装置。
【請求項13】
一対の直流端子と、
相数に等しい個数の交流端子と、
直流端子と交流端子との間に接続される複数の半導体スイッチング素子と、
を備える電力変換装置において、
前記複数の半導体スイッチング素子の各々が請求項1乃至12のいずれか1項に記載の半導体装置であることを特徴とする電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体装置及びそれを用いた電力変換装置に係り、特に、トレンチ絶縁ゲート構造を有する絶縁ゲート型バイポーラトランジスタに好適な構造を備える半導体装置及びそれを用いた電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(Insulated Gate Bipolar Transistor:以下、IGBTと略記する)は、コレクタ電極とエミッタ電極間に流れる電流を、ゲート電極に印加する電圧によって制御する半導体スイッチング素子である。IGBTが制御できる電力は、数十ワットから数十万ワットにまで及び、またスイッチング周波数も数十ヘルツから百キロヘルツ超と幅広いため、家庭用のエアコンディショナーや電子レンジ等の小電力機器から、鉄道や製鉄所のインバータ等、大電力機器まで幅広く用いられている。
【0003】
IGBTには、これら電力機器の高効率化のために低損失化が求められており、導通損失やスイッチング損失の低減が要求されている。同時にEMCノイズや誤動作、モーターの絶縁破壊等の問題を防ぐため、アプリケーションの仕様に応じてdv/dtを制御できることが要求されている。
【0004】
そこで、特許文献1(特開2000−307116号公報)には、
図10に示すように、トレンチ117の配列ピッチを変えた構造のIGBTが開示されている。
図10のIGBTでは、トレンチ117の間隔が広い箇所に、pチャネル層106を形成せず、フローティングp層105を設けている。
【0005】
このような構成にすることで、電流はトレンチ117の間隔の狭い部分にのみ流れるため、短絡時に流れる過電流を抑制でき、素子の破壊耐量が向上できる。また、ホール電流の一部がフローティングp層105を経由してpチャネル層106に流れ込むため、トレンチ117近傍でのホール濃度が増加し、オン電圧が低減できる効果もある。更にフローティングp層105とn
-ドリフト層104が形成するpn接合がトレンチ117のコーナ部にかかる電界を緩和し耐圧を保持できる。
【0006】
しかしながら、
図10で示す従来IGBT構造においては、IGBTのターンオン時に、IGBTや対アームのダイオードの出力電圧の時間変化率dv/dtの制御性が低下する場合がある。
図11に、ターンオン時のコレクタ−エミッタ間電圧の計算波形例を示す。
図11に示すように、ゲート抵抗を変えてもコレクタ−エミッタ間電圧のdv/dtが変わらず制御できない期間がある。
【0007】
この理由は以下のように考えられる。即ち、IGBTがオン状態になると
図10におけるフローティングp層105に過渡的にホールが流れ込み、フローティングp層105の電位が高くなる。この際、ゲート絶縁膜109で形成される帰還容量を介して、ゲート電極110に変位電流が流れ、ゲート電位が持ち上げられるため、MOSFET構造の相互コンダクタンスgmとゲート−エミッタ間電圧の時間変化率dvge/dtの積で決まるコレクタ電流の時間変化率di/dtが増加し、スイッチング速度が加速する。
【0008】
フローティングp層105に過渡的に流れ込むホールの量は、主として半導体内部の構造で決定され、外部のゲート抵抗で制御することは難しい。従って、加速されたdi/dtを外部のゲート抵抗で制御することができず、その結果として
図11に示すように、コレクタ電圧の時間変化率dv/dtがゲート抵抗で制御できない期間が発生する。
【0009】
このフローティングp層105の影響によるゲート電位の持ち上がりを抑制するために、以下のような技術が開示されている。
【0010】
特許文献2(特開2004−3938号公報)に開示された技術では、
図12に示すようにフローティングp層105とエミッタ電極114を抵抗301を介して電気的に接続することで、フローティングp層105の電位の持ち上がりを抑制している。これによりフローティングp層105からゲート電極110に流れ込む変位電流が減少し、ゲート電位の持ち上がりを抑制し、その結果としてdv/dtの制御性を向上することができる。
【0011】
特許文献3(特開2005−327806号公報)に開示された技術では、幅広いトレンチ内を、絶縁膜で充填することで、フローティングp層を削除し、フローティングp層の影響によるゲートの電位変動を無くすことで、dv/dtの制御性を向上することができる。さらに、ゲート電極の片側が厚い絶縁膜で覆われているため、帰還容量を低減することができ、更にdv/dtの制御性を向上することができる。
【0012】
特許文献4(特表2002−528916号公報)に開示された技術では、トレンチ内に絶縁膜を介して上部にゲート電極、下部にソース電極に接続される埋め込み電極を設けることで、ゲートの帰還容量が低減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2000−307116号公報
【特許文献2】特開2004−39838号公報
【特許文献3】特開2005−327806号公報
【特許文献4】特表2002−528916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
IGBTにおいては、低損失と高耐圧を保持しながら、ターンオンスイッチング期間中におけるdv/dtのゲート駆動回路による制御性を向上することが要求されている。これに対し、上記従来技術には、以下のような問題点がある。
【0015】
特許文献2に開示された技術の場合、フローティングp層105とエミッタ電極114間の抵抗301の抵抗値を小さくするほどdv/dtの制御性は向上するが、オン状態において注入されるホール電流の一部が、抵抗301を介してエミッタ電極114に流れ出てしまうため、電子の注入を促す効果が薄れ、オン電圧が上昇し、電力損失が増加する。逆に、抵抗301の抵抗値を大きくするとオン電圧の上昇は小さくなるが、dv/dtの制御性は低下する。
【0016】
特許文献3に開示された技術の場合、フローティングp層を削除しているため、ゲート電極の角部に電界が集中し耐圧の保持が難しい。
【0017】
特許文献4に開示された技術の場合、ソース電極に接続される埋め込み電極を設けることで、帰還容量を低減できるが、MOSFETに関する技術であり、IGBTにおける低損失と高耐圧の保持については言及されていない。
【0018】
本発明は上述の問題点に鑑みなされたもので、その目的は、低損失と高耐圧を保持しながら、ターンオンスイッチング期間中におけるdv/dtの制御性を向上できる半導体装置及びそれを用いた電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明による半導体装置においては、エミッタ電極に電気的に接続された埋め込み電極を有するトレンチゲートを間隔の狭い領域と広い領域を設けるように配置し、間隔が狭い領域にはチャネル領域を設け、間隔が広い領域には、エミッタ電極に電気的に接続された電極を有するトレンチを設けることを特徴とする。これにより、従来構造にあったフローティング層を削除しても耐圧が保持でき、さらにゲートの帰還容量が低減できるために、dv/dtの制御性を向上できる。
【0020】
上記本発明の一態様である半導体装置は、第1導電型の第1半導体層と、前記第1半導体層に隣接する第2導電型の第2半導体層と、複数の第1のトレンチと、前記複数の第1トレンチ内に設けられるゲート電極と、前記第1トレンチ間に位置する第1領域および前記第1領域よりも前記第1トレンチ間の間隔が広い第2領域とを備える。本態様の前記第1領域においては、前記第2半導体層に隣接する前記第1導電型の第3半導体層と、前記第3半導体層に隣接する前記第2導電型の第4半導体層とを備え、前記ゲート電極は、前記第1トレンチ内において、前記第3半導体層、前記第4半導体層および前記第2半導体層の各表面上に、第1絶縁膜を介して設けられ、前記第1半導体層に低抵抗接触する第1電極と、前記第3半導体層および前記第4半導体層に低抵抗接触する第2電極とを備える。さらに、本態様半導の前記第2領域においては、複数の第2トレンチと、前記複数の第2トレンチ内において、トレンチ側壁との間に第2絶縁膜を介して設けられ、前記第2電極と電気的に接続される第3の電極とを備え、前記第1トレンチと前記第2トレンチとの間には前記第2半導体層が介在する。
【0021】
ここで、第1導電型および第2導電型は、例えば、それぞれp型およびn型であり、互いに反対導電型である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の半導体装置及びそれを用いた電力変換装置によれば、低損失と高耐圧を保持しながら帰還容量を低減することができ、ターンオンスイッチング期間中におけるdv/dtのゲート駆動回路による制御性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施例1であるIGBTを示す断面図である。
【
図2】従来IGBT及びフローティングp層を排除した従来IGBT及び実施例1のIGBTの耐圧計算結果を示す。
【
図3】実施例1のIGBTにおけるターンオン時のコレクタ−エミッタ間電圧の計算波形例を示す特性図である。
【
図4】実施例1のIGBTの製造工程を示す図である。
【
図5】本発明の実施例2であるIGBTを示す断面図である。
【
図6】本発明の実施例3であるIGBTを示す断面図である。
【
図7】本発明の実施例4であるIGBTを示す断面図である。
【
図8】本発明の実施例5であるIGBTを示す断面図である。
【
図9】本発明の実施例6である電力変換装置の主回路を示す回路図である。
【
図10】特許文献1で開示されているIGBTを示す断面図である。
【
図11】特許文献1で開示されているIGBTにおける、ターンオン時のコレクタ−エミッタ間電圧の計算波形を示す特性図である。
【
図12】特許文献2で開示されているIGBTを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図示した実施例に基づき本発明による半導体装置について詳細に説明する。
【0025】
(実施例1)
図1に、本発明の実施例1であるIGBTの断面構造を示す。
【0026】
本実施例のIGBTは、コレクタ電極100、pコレクタ層102、nバッファ層103、n
-ドリフト層104、トレンチ117、トレンチ117内に設けられたゲート電極110、ゲート絶縁膜109、エミッタ電極に電気的に接続された埋め込み電極118、埋め込み電極周りの絶縁膜119、トレンチ117の間隔の狭い領域に設けられたpチャネル層106、pチャネル層106に隣接するn
+エミッタ層107およびp
+コンタクト層108、トレンチ117の間隔の広い領域に設けられたトレンチ120、トレンチ120内に設けられたエミッタ電極に電気的に接続された電極121、電極121周りの絶縁膜119、層間絶縁膜113、エミッタ電極114、コレクタ端子101、エミッタ端子116、ゲート端子115からなる。これらの端子は、対応する電極に電気的に接続され、本IGBTと外部回路との接続点となる。
【0027】
図中の表記n
+、n、n
-は、この順でn型不純物によるキャリア濃度が相対的に低くなることを示す。p型不純物によるキャリア濃度についても同様に表記する。
【0028】
pコレクタ層102は、nバッファ層103とn
-ドリフト層104からなるn型半導体層と互いに隣接する。ここで、pコレクタ層102とpn接合を形成するnバッファ層103は、pコレクタ層102よりもキャリア濃度が低い。なお、所望の耐圧が得られるならば、n型半導体層はn
-ドリフト層104のみからなるものでも良い。
【0029】
pチャネル層106およびp
+コンタクト層108からなるp型半導体層は、nバッファ層103およびn
-ドリフト層104からなるn型半導体層に隣接する。pチャネル層106は、n
-ドリフト層104とpn接合を形成し、かつn
-ドリフト層104よりもキャリア濃度が高い。
【0030】
コレクタ電極100はpコレクタ層102と低抵抗接触によって電気的に接続される。エミッタ電極114は、p
+コンタクト層108およびpチャネル層106からなるp型半導体層と、p
+コンタクト層108との低抵抗接触によって電気的に接続される。また、トレンチ117内において、ゲート電極110は、n
+エミッタ層107、pチャネル層106およびn
-ドリフト層104の表面上に、ゲート絶縁膜109を介して設けられる。
【0031】
本IGBTでは、ゲート電極110と、ゲート電極110の下部に位置しエミッタ電極114に電気的に接続される埋め込み電極118を有するトレンチ117を、
図1のように間隔の狭い領域(間隔:a)と広い領域(間隔:b)を設けて配置し、間隔の狭い領域にはpチャネル層106を設け、間隔の広い領域にはエミッタ電極114に電気的に接続された電極121をするトレンチ120を設けている。トレンチ117の間隔の狭い領域にpチャネル層106を設けることで、飽和電流を制限しつつオン電圧を低減できる。また、間隔の広い領域にエミッタ電極114に電気的に接続された電極121を有するトレンチ120を設けることで、コレクタ−エミッタ間に電圧が印加された際に、トレンチ117のコーナ部にかかる電界を緩和でき、従来IGBT(
図10)で設けられていたフローティングp層105を削除しても耐圧が保持できる。さらに、トレンチ117内のゲート電極110の下部に、絶縁膜119を介してエミッタ電極に電気的に接続される埋め込み電極118を設けることで、ゲートの帰還容量が低減でき、耐圧を保持しながらdv/dtの制御性を向上できる。
【0032】
図2は、従来IGBT(
図10)と、従来IGBTにおいてフローティングp層105を削除したIGBTと、本実施例1のIGBTの耐圧計算結果例を示す。また、本実施例1のIGBTにおいて、トレンチ117の狭い間隔aと、トレンチ117と最もトレンチ117に近いトレンチ120の間隔cの比c/aと耐圧の関係を示す。
図2より、従来IGBT構造でフローティングp層105を削除すると耐圧が低下することがわかる。これは、フローティングp層105とn
-ドリフト層104が形成するpn接合が、トレンチ117のコーナ部にかかる電界を緩和しているためである。本実施例1のIGBTは、トレンチ120を設けることで、トレンチ117のコーナ部にかかる電界を緩和でき、高耐圧化することができる。ただし、図のように間隔cを大きくすると、トレンチ117のコーナ部にかかる電界が増大するため、トレンチ117とトレンチ120の間隔cは、トレンチ117の狭い間隔aと同じかそれ以下にすることが望ましい。
【0033】
図3は、本実施例1のIGBTにおけるターンオン時のコレクタ−エミッタ間電圧の計算波形例を示す。本
図3に示すように、実施例1のIGBTでは、
図11に示す従来IGBTと比較し、ゲート抵抗を変えることで、コレクタ−エミッタ間電圧のdv/dtを大幅に制御できる。
【0034】
図4(a)〜(o)は、実施例1のIGBTの製造工程の一例を示す。
【0035】
まず
図4(a)に示すn
-ドリフト層104に表面酸化膜201を形成し、
図4(b)に示すように、ホトレジスト202でパターニングをし、
図4(c)に示すように、異方性エッチングによりトレンチ117を形成する。
【0036】
次に
図4(d)に示すように、絶縁膜119を形成する。ここで、絶縁膜119の厚さは、容量低減と絶縁耐圧確保の観点から、後述するゲート絶縁膜109より厚くすることが望ましい。次に
図4(e)に示すように、電極用のポリシリコン203を堆積し、
図4(f)に示すようにホトレジスト204でパターニングし、
図4(g)で示すように、トレンチ117内では、トレンチ下部に埋め込み電極118となるポリシリコンを残すように、またトレンチ120内及び表面に電極121となるポリシリコンが残るように、ポリシリコンのドライエッチングを実施する。ここで、埋め込み電極118となるポリシリコンは、後述するpチャネル層106よりも深い位置までエッチングする。また、図示しないが、埋め込み電極118となるポリシリコンは、チップ周辺部等の別の断面にて、エミッタ電極114に接続される。次に
図4(h)で示すように、トレンチ117内の絶縁膜119をエッチングする。ここで、絶縁膜119は埋め込み電極118となるポリシリコンの周りに残るようにエッチングする。次に
図4(i)で示すように、トレンチ117内にゲート絶縁膜109を形成する。次に
図4(j)で示すように、ゲート電極用のポリシリコン205を堆積し、
図4(k)で示すようにドライエッチングによりゲート電極110を形成する。
【0037】
次に
図4(l)で示すように、ホトレジスト206でパターニングし、p型イオン、n型イオンをイオン打ち込みし、
図4(m)で示すように、pチャネル層106、n
+エミッタ層107を形成する。その後、
図4(n)で示すように、層間絶縁膜113を堆積、エッチングし、p
+コンタクト層108を形成する。次に
図4(o)で示すように、エミッタ電極114を形成し、裏面にnバッファ層103、pコレクタ層102、コレクタ電極100を形成する。
【0038】
なお、本実施例では、裏面のpコレクタ層102やnバッファ層103を表面工程の後に形成しているが、
図4(a)の工程において、pコレクタ層102やnバッファ層103が形成されているエピ基板等を用いてもかまわない。
【0039】
以下、他の実施例について、主に実施例1と異なる点について説明する。
【0040】
(実施例2)
図5は、本発明の実施例2であるIGBTの断面構造を示す。本実施例2において、トレンチ120の中で、トレンチ117に近い両端のみを残し、両端のトレンチ120の間にはフローティングp層105を設けている。両端以外のトレンチ120を削除することでトレンチの数が低減できるので、プロセス歩留まりが向上できると共にコレクタ−エミッタ間容量が低減できる。両端以外のトレンチ120を削除しても、フローティングp層105を設けることで、コーナ部の電界を緩和できる。また、ターンオン時にフローティングp層105の電位が持ち上がっても、ゲート電極110とフローティングp層105間にはn
-ドリフト層104が介在するためゲート電極110とフローティングp層105は離れているので、ゲート電位には影響を与えず、dv/dtの制御性を向上できる。
【0041】
(実施例3)
図6は、本発明の実施例3であるIGBTの断面構造を示す。本実施例3では、実施例2で設けたフローティングp層105の代わりに、トレンチ120よりも深いフローティングp層122を設けている。フローティングp層122を深く形成することで、トレンチ120のコーナ部の電界を緩和でき、高耐圧化が可能となる。
【0042】
(実施例4)
図7は、本発明の実施例4であるIGBTの断面構造を示す。本実施例4では、pチャネル層106の下部、すなわちpチャネル層106とn
-ドリフト層104の間に、n層123が設けられている。すなわち、pチャネル層106およびp
+コンタクト層108からなるp型半導体層に隣接するn型半導体層が、nバッファ層103、n
-ドリフト層104およびn層123からなる。n層123はpチャネル層106とpn接合を形成する。n層123のキャリア濃度は、pチャネル層106よりも低く、n
-ドリフト層104よりも高い。このn層123は、pチャネル層106およびp
+コンタクト層108を通ってエミッタ電極114に流れ込むホールにとって障壁となるため、pチャネル層106近傍のn
-ドリフト層104におけるホール濃度が増加し、オン電圧の低減が可能となる。
【0043】
(実施例5)
図8は、本発明の実施例5であるIGBTの断面構造を示す。本実施例5では、n層123の下部、すなわちn層123とn
-ドリフト層104の間に、さらにp層124が設けられている。すなわち、nバッファ層103、n
-ドリフト層104およびn層123からなるn型半導体層に隣接するp型半導体層が、p層124、pチャネル層106およびp
+コンタクト層108からなる。p層124はn層123とpn接合を形成する。前述した実施例4では、n層123のキャリア濃度を高めるほど、ホールに対する障壁が高くなりオン電圧の低減効果は高まるが、オフ時のn層123での電界強度が強くなり、耐圧に影響する。本実施例5では、p層124を追加することで、n層123での電界強度が緩和され、n層123のキャリア濃度を高くしても耐圧が保持できるので、更なるオン電圧の低減が可能となる。
【0044】
(実施例6)
図9は、本発明の実施例6である電力変換装置の主回路を示す。本実施例6は、インバータ装置であり、601はゲート駆動回路、602は上述した実施例1〜5のいずれかのIGBT、603はIGBTに逆並列に接続されるダイオード、604および605は一対の直流入力端子、606、607および608は交流出力端子である。本実施例は、交流の相数が3相のため、3個の交流出力端子を備える。各IGBTは、交流出力端子のいずれかと直流入力端子のいずれかの間に接続される。IGBTがオン・オフスイッチングすることにより、直流電力が交流電力に変換される。
【0045】
上述した実施例1〜5のいずれかのIGBTを電力変換装置における半導体スイッチング素子として適用することで、電力変換装置の低損失化と高信頼化が実現できる。
【0046】
なお、本実施例6ではインバータ装置について説明したが、コンバータ装置やチョッパ等のその他の電力変換装置についても同様の効果が得られる。コンバータ装置では、604および605は直流入力端子、606、607および608は交流出力端子となり、IGBTがオン・オフスイッチングすることにより、交流電力が直流電力に変換される。また、交流の相数は、3相に限らず、複数相でも良い。
【0047】
以上、本発明の実施例について詳述したが、これら実施例に限らず、本発明の技術的思想の範囲内で種々の実施例が可能である。例えば、上述した実施例1〜5のIGBTはnチャネル型であるが、本発明はpチャネル型のIGBTについても適用できる。またトレンチゲートを有する他のデバイス構造においても同様である。
【符号の説明】
【0048】
21 ベース領域
22 ウエル領域
24、117、120、425 トレンチ
25、109 ゲート絶縁膜
26、110、427 ゲート電極
27 ソース領域
28、114 エミッタ電極
29、39 絶縁領域
30 コレクタ領域
31、100 コレクタ電極
101 コレクタ端子
102 pコレクタ層
103 nバッファ層
104 n
-ドリフト層
105 フローティングp層
106 pチャネル層
107 n
+エミッタ層
108 p
+コンタクト層
113 層間絶縁膜
115 ゲート端子
116 エミッタ端子
118 埋め込み電極
119、420a、420b 絶縁膜
121 電極
122 フローティングp層
123 n層
124 p層
201 表面酸化膜
202、204、206 ホトレジスト
203、205 ポリシリコン
301 抵抗
400 半導体装置
412 nドリフト層
414 n
+基板
416 pベース層
418 n
+ソース層
428a 埋め込みソース電極
428b ソース電極
430 ドレイン電極
601 ゲート駆動回路
602 IGBT
603 ダイオード
604、605 直流入力端子
606、607、608 交流出力端子