(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6072557
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】ガラス成型用型材
(51)【国際特許分類】
C03B 11/00 20060101AFI20170123BHJP
C04B 35/565 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
C03B11/00 N
C04B35/565
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-21322(P2013-21322)
(22)【出願日】2013年2月6日
(65)【公開番号】特開2014-152053(P2014-152053A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2016年2月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西川 正人
(72)【発明者】
【氏名】光永 敏勝
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 厚樹
【審査官】
田中 則充
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−087018(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 11/00−11/16
C04B 35/565
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化硼素が10〜30質量%、炭化珪素が68〜88質量%、炭化硼素と炭素の合計が0.5〜3.0質量%、酸化硼素が0.15質量%以下であり、開気孔率が0.4%以下であるSiC−BN複合焼結体を用いたガラス成形用型材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱したガラスを成形しガラス素子を製作するためのガラス成形用型材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルカメラ、携帯電話、DVD、プリズム、光通信等の光学素子及び装飾用ガラス等広範囲にわたって、ガラス素材を変形可能な温度に加熱して加圧成形する方法が広く使われるようになった。
この成型用型材として、高温での安定性、ガラスと反応せず、高い形状精度での離型性が要求される。
これらの要求に対して、超硬合金やセラミックスなどの表面にSiCのコ−ティング(特許文献1)、又は、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化クロムの1種もしくは、2種以上の混合物に炭化珪素、窒化珪素の1種もしくは2種以上の複合物(特許文献2)。SiC基材に溶融Siを含浸させたSi−SiC複合材(特許文献3)等が、検討されている。しかし、特許文献1においては、コ−ティング剤の剥離、特許文献2及び特許文献3においては成形型への加工時欠け等発生し易く、加工性に問題があった。
特許文献4には、色ムラがなく、強度、耐熱性、加工性の良好なSiC−BN複合焼結体が開示されているが、ガラス成形用型材に用いることに関する記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−45135号公報
【特許文献2】特開平10−7424号公報
【特許文献3】特開2006−327848号公報
【特許文献4】特開2012−87018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、加熱したガラスを成形しガラス素子を製作するためのガラス成形用型材に関するものであって、成形用型への加工性、ガラスとの離型性等が良好なガラス成形用型材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明者は、高温での安定性、ガラスとの耐反応性、ガラスとの離型性、加工性等を鋭意検討した結果、SiC−BN複合焼結体をガラス成型用型材として用いることにより、成形用型への加工性、ガラスとの離型性が良好なガラス成形用型材得られる事を見出した。すなわち、以下の手段を採用する。
窒化硼素が10〜30質量%、炭化珪素が68〜88質量%、炭化硼素と炭素の合計が0.5〜3.0質量%、酸化硼素が0.15質量%以下であり、開気孔率が0.4%以下であるSiC−BN複合焼結体を用いたガラス成形用型材。
【発明の効果】
【0006】
加熱したガラスを成形するためのガラス成形用型材に本発明のSiC−BN焼結体を用いることにより、SiC焼結体より大幅に成形用型への加工性が向上し、ガラスとの離型性が良好なガラス成形用型材となる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、窒化硼素が10〜30質量%、炭化珪素が68〜88質量%、炭化硼素と炭素の合計が0.5〜3.0質量%、酸化硼素が0.15質量%以下であり、開気孔率が0.4%以下であるSiC−BN複合焼結体を用いたガラス成形用型材である。
窒化硼素10質量%未満の場合、又は炭化珪素88質量%を越えると硬度が高くなり機械加工性が低下し、加工コスト増大を及ぼす。窒化硼素30質量%を越えた場合、又は炭化珪素68質量%未満では、離型したガラス成型品の表面に窒化硼素粒子が付着しやすくなる。好ましくは、窒化硼素12〜28質量%、炭化珪素70〜86質量%あり、より好ましくは、窒化硼素14〜25質量%、炭化珪素73〜84質量%である。
焼結助剤は、炭化硼素と炭素の合計が0.5〜3.0質量%である。焼結助剤の合計が0.5質量%未満では、焼結が十分に起こらず、所望の開気孔率が得られずガラス成型時の離型性低下を招く。焼結助剤の合計が3.0質量%以上では、粒界の助剤層が増え離型性が低下する。好ましくは、0.7〜2.7質量%、より好ましくは、1.0〜2.5質量%である。酸化硼素の含有量0.15質量%を超えるとガラス成型時の離型性低下を招き易くなる。
焼結体の開気孔率が0.4%を超えると、開気孔部にガラスが入り離型性が低下してくる。好ましくは、0.3%以下、さらに好ましくは、0.2%以下である。
【0008】
本願発明に用いる炭化珪素としては、α−SiC及びβ−SiCのどちらも使用可能である。又、両者混合していても使用可能である。比表面積は、7m
2/g以上の微粉炭化珪素が好ましい。金属不純物は、少ない方が好ましい。
【0009】
窒化硼素としては、非晶質の窒化硼素、乱層構造の窒化硼素、六方昌の窒化硼素のいずれも用いることが可能である。比表面積は、10m
2/g以上の微粒子が好ましく、又金属不純物は、少ないものが好ましい。
【0010】
上記のような加工性、ガラスとの離型性が良好なガラス成形用型材を有する素材は、以下の条件を適用することで得られる。
【0011】
原料粉末とその配合は、
(1) 酸化硼素が0.4%以下、比表面積が10m
2/g以上の窒化硼素10〜30質量%、
(2) 比表面積が7.0m
2/g以上の炭化珪素68〜88質量%
(3) 焼結助剤として炭化硼素と炭素が0.5〜3.0質量%
上記の混合粉末を以下の条件でホットプレス焼結するものである。
(4)圧力10〜50MPa
(5)温度1850〜2150℃
(6)保持時間 1〜6時間
(7)非酸化性雰囲気
【0012】
窒化硼素の比表面積が10m
2/g以下になると焼結体が緻密に成り難く、開気孔率が大きくなりやすい。好ましくは13m
2/g以上、更に好ましくは、15m
2/g以上である。
炭化珪素の比表面積は、焼結体の加工性に関係し、比表面積7m
2/g以下の場合、炭化珪素の焼結体の結晶粒子が大きくなり、所望の加工性が得にくい。又加工時の治具の摩耗が大きくなる。
【0013】
混合は、湿式又は、乾式にて行う。好ましくは、混合粉末中の酸素が増加しにくいアルコ−ル系溶剤やフッ素系溶剤等を用い、湿式混合で均一混合粉末を得る事が望ましい。
焼結は、常圧焼結、加圧焼結、ホットプレス焼結等いずれも可能であるが、より緻密化しやすいホットプレス法が望ましい。(4)の圧力は、10MPa未満では、十分緻密な焼結体が得られず、所望の離型性が得られにくい。圧力50MPa以上では、設備が大きくなり、コスト的に不利となる。好ましくは、10〜45MPaで、更に好ましくは、15〜40MPaある。(5)の焼結温度1850℃未満では、十分緻密な焼結体が得られず、所望の離型性が得られにくい。焼結温度2150℃を越えるとカ−ボンダイスに付着し、製品とダイスの分離が困難となる。好ましくは、1880℃〜2090℃である。より好ましくは、1900℃〜2050℃である。(6)の保持時間1時間未満では、十分な焼結体が得られにくく、所望の離型性が得られにくい。6時間を超えると結晶粒径が大きくなり、加工性低下を起こす。又、コストが高くなる。好ましくは、2〜4時間である。(7)の雰囲気は、非酸化性雰囲気で行う。
【実施例】
【0014】
以下実施例により、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
実施例1
先ず原料粉末は以下の方法で調整した。市販の炭化珪素粉末(純度98.6質量%、比表面積12m
2/g、平均粒径0.7μm)、六方晶窒化硼素粉末(純度97.8質量%、平均粒径1.1μm、比表面積31m
2/g、酸化硼素0.08質量%)、市販の炭化硼素(平均粒径1.0μm)、及び黒鉛(比表面積70m
2/g、純度99.9質量%以上)を表1に示す所定の割合にて混合した。混合は、エタノ−ル溶液、Si
3N
4ボ−ルを用い、ボ−ルミルにて、湿式で20時間混合した後、乾燥、解砕し、混合粉末を得た。
【0015】
混合粉末を内径140mmの黒鉛製のダイスにセットしてホットプレス焼結し、直径140mm、厚み10mmの焼結体を得た。配合と焼結条件を表1に示す。
焼結体は取り出した後、直径30mm、厚み8mmに加工し、JISR 1634に準じて開気孔率を測定した。
その後、直径5mmのダイヤ電着工具(ノリタケダイヤ製)にて深さ3mmの穴加工を湿式で行い、加工終了時間を測定し、加工性を評価した。
加工条件は、マシニングセンタ−(キタムラ機械、MYCENTER-2XI)にて、#120ダイヤ電着工具、回転数10000rpm、加工速度を調整しながら、負荷レベルを10%にあわせて、工具にかかる荷重を一定にて行った。これらの結果を表2に示す。
【0016】
又、焼結体より直径10mm非球面形状の成形型を製作し、ガラス転移点(Tg)が560℃の光学ガラスを成型温度620℃、成型圧力2.5MPa、加圧時間1分で成型した。成型後200℃まで冷却した後、離型し、成型品を取り出して外観評価を行った。これらの結果を表2に示す。
さらに、焼結体を微粉砕し、B
2O
3含有量を日本セラミックス協会規格のJCRS 108−2005(ファインセラミックス用窒化ほう素微粉末の化学分析方法)の付属法の酸化ほう素(B
2O
3)の定量法のメタノ−ル分解−気化分離−ICP発光分析法にて測定した。結果を表2に示す。
なお、実施例と比較例のホットプレス焼結後の焼結体の化学組成を化学分析により確認した結果、原料の化学組成と同じであった。
【0017】
実施例2〜7
酸化硼素の含有量が異なる六方晶窒化硼素、及び窒化硼素、炭化珪素、炭化硼素、炭素の配合比率とホットプレス焼結条件を変えた以外は、実施例1と同様な条件で行った。なお、実施例1〜3、5〜7は、ガラス成型用型材としての繰り返し耐久性においても良好であった。但し、実施例4は、他の実施例と比較して、繰り返し耐久性がやや劣る結果となった。
【0018】
比較例1〜6
比較のため、本発明の範囲外の条件(表1に示す)でホットプレス焼結体を製作し、実施例1と同様な評価を行い、表2にその結果を示す。
比較例7
SiC焼結体を製作し、実施例1と同様に評価した。
比較例2と7は、焼結体の加工時に、焼結体にカケが発生し、加工性が不適であった。
【0019】
【表1】
【0020】
【表2】
表2の結果から明らかなように、本発明の実施例では、いずれも機械加工性がSiC焼結体より良好であり、精密加工部品に好適であった。又、ガラス成型時の離型性も良好であり、ガラス成型用型材として好適であった。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明のガラス成型用型材は、精密加工性、及びガラス成型時の離型性に優れるので、デジタルカメラ、携帯電話、DVD、プリズム、光通信等の光学素子及び装飾ガラス等のガラス部材の製造に広範囲にわたって、好適に使用可能である。