(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6072648
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】ダイヤフラム弁
(51)【国際特許分類】
F16K 7/12 20060101AFI20170123BHJP
【FI】
F16K7/12 B
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-167538(P2013-167538)
(22)【出願日】2013年8月12日
(65)【公開番号】特開2015-36563(P2015-36563A)
(43)【公開日】2015年2月23日
【審査請求日】2015年7月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】390033857
【氏名又は名称】株式会社フジキン
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 直都
(74)【代理人】
【識別番号】100079038
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100060874
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 瑛之助
(72)【発明者】
【氏名】北野 太一
(72)【発明者】
【氏名】木曽 秀則
(72)【発明者】
【氏名】篠原 努
(72)【発明者】
【氏名】山路 道雄
【審査官】
北村 一
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第04828219(US,A)
【文献】
特開2005−188672(JP,A)
【文献】
特開平07−139649(JP,A)
【文献】
米国特許第05335691(US,A)
【文献】
特開2002−147623(JP,A)
【文献】
特開平08−105554(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 7/12; 7/16; 7/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体流入通路、流体流出通路および上向きに開口した凹所が設けられたボディと、ボディに形成された流体流入通路の周縁に着脱可能に配置されたシートと、ボディに着脱可能に配置されてシートを保持するシートホルダと、シートに押圧・離間されることで流体通路の開閉を行うダイヤフラムとを備えており、シートホルダは、中央貫通孔および中央貫通孔を囲む複数の外側貫通孔を有し、ダイヤフラムがシートから離れた開状態において、流体流入通路に流入した流体が、シートホルダの中央貫通孔から、ダイヤフラムとシートとの間に生じた空間に流入し、シートホルダの外側貫通孔を介して流体流出通路に連通するようになされているダイヤフラム弁において、
ボディの凹所の底面に、シートを受けるシート受け面とシートホルダを受けるシートホルダ受け面とが形成されており、ボディの凹所の底面に、シートホルダの複数の外側貫通孔に臨まされている環状の溝が複数の外側貫通孔の下側に位置するように形成されており、シートホルダの複数の外側貫通孔を通過した流体は、ボディの環状の溝に流入した後に流体流出通路に至ることを特徴とするダイヤフラム弁。
【請求項2】
シート受け面とシートホルダ受け面とが面一に形成されていることを特徴とする請求項1のダイヤフラム弁。
【請求項3】
シート受け面、シートホルダ受け面および溝の底面のうち、溝の底面が最も下側に形成されていることを特徴とする請求項1または2のダイヤフラム弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ダイヤフラム弁に関し、特に、シートが着脱可能とされてシートホルダに保持されたダイヤフラム弁に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤフラム弁として、流体流入通路、流体流出通路および上向きに開口した凹所が設けられたボディと、ボディに形成された流体流入通路の周縁に着脱可能に配置されたシートと、ボディに着脱可能に配置されてシートを保持するシートホルダと、シートに押圧・離間されることで流体通路の開閉を行うダイヤフラムと、ダイヤフラムの中央部を押圧するダイヤフラム押さえを上下移動させる上下移動手段とを備えているものが知られている(特許文献1など)。
【0003】
シートホルダには、流体流出通路に通じる複数の貫通孔が形成されており、ダイヤフラムがシートから離れた開状態においては、流体流入通路に流入した流体は、ダイヤフラムとシートとの間に生じた空間に流入し、流体流出通路に連通しているシートホルダの貫通孔を介して流体流出通路へと至るようになされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−117269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来のダイヤフラム弁では、流量を増加させるには、流体流入通路、シートホルダの貫通孔および流体流出通路の径を大きくすることが考えられるが、ボディの形状を大きくすることなく、通路径および貫通孔径を大きくすることは困難であり、シートホルダを使用するダイヤフラム弁における流量の増加が課題となっている。また、流量を増加させる仕様とすると、製造された製品(各ダイヤフラム弁)ごとのバラツキが大きくなる傾向にあり、バラツキを抑えることも課題となっている。
【0006】
この発明の目的は、流量の増加が可能であり、しかも、バラツキを抑えることができるダイヤフラム弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明によるダイヤフラム弁は、流体流入通路、流体流出通路および上向きに開口した凹所が設けられたボディと、ボディに形成された流体流入通路の周縁に着脱可能に配置されたシートと、ボディに着脱可能に配置されてシートを保持するシートホルダと、シートに押圧・離間されることで流体通路の開閉を行うダイヤフラムとを備えており、
シートホルダは、中央貫通孔および中央貫通孔を囲む複数の外側貫通孔を有し、ダイヤフラムがシートから離れた開状態において、流体流入通路に流入した流体が、
シートホルダの中央貫通孔から、ダイヤフラムとシートとの間に生じた空間に流入し、シートホルダの
外側貫通孔を介して流体流出通路に連通するようになされているダイヤフラム弁において、ボディの凹所の底面に、シートを受けるシート受け面とシートホルダを受けるシートホルダ受け面とが形成されており、ボディの凹所の底面に、シートホルダ
の複数の外側貫通孔に臨まされている環状の溝が
複数の外側貫通孔の下側に位置するように形成されて
おり、シートホルダの複数の外側貫通孔を通過した流体は、ボディの環状の溝に流入した後に流体流出通路に至ることを特徴とするものである。
【0008】
このダイヤフラム弁によると、ボディの凹所の底面にシート受け面およびシートホルダ受け面が形成されているが、ボディの凹所の底面に環状の溝が形成されていないものに比べて、流量の増加が可能であり、しかも、バラツキを抑えることができる。
【0009】
ダイヤフラム弁は、上下移動手段が開閉ハンドルなどの手動弁であってもよく、上下移動手段が適宜なアクチュエータとされた自動弁であってもよく、自動弁の場合のアクチュエータは、流体(空気)圧によるものでもよく、電磁力によるものでもよい。
【0010】
シートホルダは、公知のものであり、例えば、孔あき円板状で、シートを保持する内周縁部と、所定間隔で流体流出通路に通じる複数の貫通孔が形成された中間環状部と、ダイヤフラムの外周縁部を挟持する外周縁部とからなるものとされる。
【0011】
シート受け面とシートホルダ受け面とが面一に形成されていることが好ましい。また、シート受け面、シートホルダ受け面および溝の底面のうち、溝の底面が最も下側に形成されていることが好ましい。
【0012】
ダイヤフラム弁は、シートホルダを保持するリテーナをさらに備えていることが好ましい。リテーナは、例えば、略円筒状で、シートホルダの外周縁部を受ける内向きフランジ部を有しているものとされるが、シートホルダがリテーナから脱落しない構造であれば、どのようなフランジ部の形状でもよく、内向きのフランジ部の代わりに、シートホルダを保持する突起形状を有する構成でもよい。。
【0013】
シートは、長期間使用した場合に、交換されることが好ましく、シートホルダを保持するリテーナを備えていることにより、リテーナを取り外すことで、リテーナに保持されたシートホルダおよびこれに保持されたシートを取り外すことができ、シートの交換を容易に行うことができる。
【0014】
シートは、例えば合成樹脂製とされるが、金属製であってももちろんよい。シートホルダおよびリテーナは、金属製であることが好ましい。
【0015】
ダイヤフラムは、例えば、ニッケル合金薄板からなるものとされ、円形に切り抜き、中央部を上方へ膨出させた逆皿形に形成される。ダイヤフラムは、例えば、ステンレス鋼薄板からなるものや、ステンレス鋼薄板とニッケル・コバルト合金薄板との積層体よりなるものとしてもよく、ダイヤフラムの材料は、特に限定されるものではない。また、ダイヤフラムは、1枚であっても、複数枚を重ねた積層体であってもよく、仕様や条件などによって自由に選択することができる。
【発明の効果】
【0016】
この発明のダイヤフラム弁によると、ボディの凹所の底面に、シートを受けるシート受け面とシートホルダを受けるシートホルダ受け面とが形成されており、ボディの凹所の底面に、シートホルダに設けられた前記貫通孔に臨まされている環状の溝が形成されていることにより、ボディの凹所の底面にシート受け面およびシートホルダ受け面だけが形成されて、ボディの凹所の底面に環状の溝が形成されていないものに比べて、流量の増加が可能であり、しかも、バラツキを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、この発明によるダイヤフラム弁の1実施形態を示す縦断面図である。
【
図2】
図2は、ダイヤフラム弁を構成するシートホルダを拡大して示す図で、(a)は平面図、(b)は、縦断面図である。
【
図3】
図3は、この発明によるダイヤフラム弁の比較例となるダイヤフラム弁を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
この発明の実施の形態を、以下図面を参照して説明する。
【0019】
図1は、この発明によるダイヤフラム弁の1実施形態を示しており、ダイヤフラム弁(1)は、流体流入通路(2a)、流体流出通路(2b)および上方に向かって開口した凹所(2c)を有しているブロック状ボディ(2)と、ボディ(2)の凹所(2c)上部に下端部がねじ合わされて上方にのびる円筒状ボンネット(3)と、流体流入通路(2a)の周縁に設けられた環状のシート(4)と、ボディ(2)内のシート(4)の外周に設けられてシート(4)を保持するシートホルダ(5)と、シート(4)に押圧または離間されて流体通路(2a)を開閉するダイヤフラム(6)と、ダイヤフラム(6)の中央部を押さえるダイヤフラム押さえ(8)を下端に有し、ボンネット(3)内に上下移動自在に挿入されてダイヤフラム押さえ(8)を介してダイヤフラム(6)をシート(4)に押圧・離間させるステム(7)と、ステム(7)を下方に付勢する圧縮コイルばね(付勢部材)(9)と、ボンネット(3)内周に配置されてステム(7)の上下移動を案内しかつステム(7)の移動範囲を規制するガイド筒(10)と、ダイヤフラム(6)の外周縁部上面とガイド筒(10)の下端との間に配置されてダイヤフラム(6)の外周縁部をシートホルダ(5)の外周縁部との間で挟持するダイヤフラム保持リング(11)と、シートホルダ(5)を保持してガイド筒(10)の下端部およびダイヤフラム保持リング(11)に着脱可能に取り付けられたリテーナ(12)と、流体通路(2a)を開閉するためにステム(7)およびダイヤフラム押さえ(8)を圧縮空気で上下移動させる上下移動手段(図示略)とを備えている。
【0020】
ガイド筒(10)は、厚肉部(10a)と、その上方に連なる薄肉部(10b)とからなる。厚肉部(10a)の内周は、薄肉部(10b)の内周よりも径が大きく、厚肉部(10a)の内周によって、ステム(7)に設けられたフランジ部の外周を案内するようになっている。厚肉部(10a)の外周は、薄肉部(10b)の外周よりも径が大きく、厚肉部(10a)の上面(厚肉部(10a)と薄肉部(10b)との間の段差面)によって、ボンネット(3)の下端面を受けている。したがって、ボンネット(3)がボディ(2)にねじ合わされることで、ガイド筒(10)は、ダイヤフラム保持リング(11)を下方に押圧する。こうして、ガイド筒(10)は、ステム(7)を案内するためだけでなく、ダイヤフラム保持リング(11)をボディ(2)に固定するための部材ともなっており、ガイド筒(10)とダイヤフラム保持リング(11)とを合わせたものがダイヤフラム(6)の外周縁部をシートホルダ(5)との間で挟持するダイヤフラム保持部材を構成している。
【0021】
シートホルダ(5)は、金属製で孔あき円板状とされており、
図2に詳しく示すように、シート(4)を保持する内周縁部(21)と、所定間隔で流体流出通路(2b)に通じる複数の貫通孔(22b)が形成された中間環状部(22)と、ダイヤフラム(6)の外周縁部を挟持する外周縁部(23)とからなる。内周縁部(21)の下面と外周縁部(23)の下面とは面一であり、内周縁部(21)の上面と外周縁部(23)の上面とも面一である。シート(4)は、下方からシートホルダ(5)に嵌め入れられている。
【0022】
ダイヤフラム(6)がシート(4)から離れた開状態においては、流体流入通路(2a)に流入した流体は、ダイヤフラム(6)とシート(4)との間に生じた空間に流入し、流体流出通路(2b)に連通しているシートホルダ(5)の貫通孔(22a)を介して流体流出通路(2b)へと至るようになされている。
【0023】
シート(4)の内周縁部(21)の下面と外周縁部(23)の下面とが面一であるのに対応して、ボディ(2)の凹所(2c)の底面(13)のうちシート(4)を受けるシート受け面(13a)とシートホルダ(5)を受けるシートホルダ受け面(13b)とは、面一に形成されている。
【0024】
ボディ(2)の凹所(2c)の底面(13)には、シートホルダ(5)に設けられた貫通孔(22a)に臨まされている環状の溝(14)が形成されている。
図2において、この環状の溝(14)が二点鎖線で示されている。
【0025】
なお、内周縁部(21)の下面と外周縁部(23)の下面とは面一でなくてもよく、これに対応するシート受け面(13a)とシートホルダ受け面(13b)とも面一でなくてもよい。すなわち、シート受け面(13a)とシートホルダ受け面(13b)及び溝(14)は隣接する事になるが、シートホルダ(5)の貫通孔(22a)の下側に溝(14)が形成されていれば良く、よって、シート受け面(13a)とシートホルダ受け面(13b)と溝(14)の底面の中で、溝(14)の底面が最も下側になるように、シート受け面(13a)及びシートホルダ受け面(13b)を、溝(14)の底面と比べて高くなるように形成すれば良く、その際、シート受け面(13a)とシートホルダ受け面(13b)の何れが高くなるような構成であっても良い。
【0026】
リテーナ(12)は、略円筒状で、シート(4)の外径にほぼ等しい内径を有しガイド筒(10)の下端部およびダイヤフラム保持リング(11)の外周に嵌め合わされる周壁(31)と、周壁(31)の下端部に設けられてシートホルダ(5)の外周縁部を受ける内向きフランジ部(32)とを有している。周壁(31)には、周壁(31)を変形しやすくするための軸方向に延びるスリット(図示略)が4対設けられている。
【0027】
シート(4)は、シートホルダ(5)およびリテーナ(12)からなるダイヤフラム弁用シートホルダユニットに保持されて、ボディ(2)内に配置される。シート(4)は、通常、一定期間使用した場合に交換されるようになされており、シート(4)の交換に際しては、リテーナ(12)を取り外すことで、シートホルダ(5)およびこれに保持されたシート(4)を取り外すことができる。そして、シート(4)を交換し、必要に応じて、シートホルダ(5)も交換し、シートホルダ(5)およびリテーナ(12)からなるダイヤフラム弁用シートホルダユニットにシート(4)が保持された状態で、ボディ(2)内に戻される。こうして、シート(4)の交換を容易に行うことができる。リテーナ(12)は、塑性変形する可能性がほとんど無いので、通常、繰り返しての使用が可能であり、また、塑性変形しないことで、シート(4)の交換の容易性が長期間に亘って維持される。
【0028】
上記のダイヤフラム弁(1)の流量を流量測定装置で測定した結果を表1に示す。表1において、比較例としたダイヤフラム弁を
図3に示す。
図3に示すダイヤフラム弁は、
図1のダイヤフラム弁(1)を基準にして、ボディ(2)の凹所(2c)の底面(13)の環状の溝(14)が無いものとされている。なお、流量測定装置は、一定の圧力と流量で供試品(この場合は、ダイヤフラム弁)に窒素ガスを供給することで、供試品の流量を測定するものであり、公知のものであるので、その詳細な説明は省略する。表1には、10個の供試品のそれぞれの値とそれらの平均値および標準偏差を示している。単位は、Nリットル/minとしている。
【表1】
【0029】
上記流量測定結果によると、本発明品(
図1に示したダイヤフラム弁(1))は、流量の平均値で13.29Nリットル/minと比較例の流量の平均値11.02Nリットル/minに比べて20%以上増加しており、しかも、そのバラツキ(標準偏差)が、1/7未満と大幅に小さくなっている。
【0030】
なお、上記において、ダイヤフラム弁(1)として、リテーナ(12)を有しているものを示したが、ダイヤフラム弁(1)は、リテーナ(12)を有していないものであってももちろんよい。
【符号の説明】
【0031】
(1):ダイヤフラム弁、(2):ボディ、(2a):流体流入通路、(2b):流体流出通路、(2c):凹所、(4):シート、(5):シートホルダ、(6):ダイヤフラム、(13):底面、(13a):シート受け面、(13b):シートホルダ受け面、(14):環状の溝