特許第6072668号(P6072668)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6072668
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】伝動システム
(51)【国際特許分類】
   F02B 67/06 20060101AFI20170123BHJP
   F16H 7/12 20060101ALI20170123BHJP
   F02D 29/06 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
   F02B67/06 A
   F16H7/12 A
   F02D29/06 F
   F02D29/06 H
【請求項の数】8
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2013-259997(P2013-259997)
(22)【出願日】2013年12月17日
(65)【公開番号】特開2015-117588(P2015-117588A)
(43)【公開日】2015年6月25日
【審査請求日】2016年2月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社日本自動車部品総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100093779
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】野口 仁志
(72)【発明者】
【氏名】岡田 弘
(72)【発明者】
【氏名】小田 修三
(72)【発明者】
【氏名】大江 修平
(72)【発明者】
【氏名】中野 智章
(72)【発明者】
【氏名】山下 義弘
(72)【発明者】
【氏名】山本 陽介
(72)【発明者】
【氏名】原 和久
【審査官】 佐藤 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−299844(JP,A)
【文献】 特開2005−083515(JP,A)
【文献】 特開2000−320439(JP,A)
【文献】 特開2003−028246(JP,A)
【文献】 特開2003−172415(JP,A)
【文献】 特開2004−060843(JP,A)
【文献】 特開2003−314322(JP,A)
【文献】 特開2006−194200(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 67/06
F02D 29/02−06
F02N 11/00−08
F16H 7/12
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関(2)の動力を特定補機(11)、および、前記特定補機以外のその他補機(13、15)に伝達する伝動システム(1)であって、
前記内燃機関の駆動軸(3)に取り付けられ、前記駆動軸とともに回転可能な駆動プーリ(4)と、
力行作動または回生作動可能な前記特定補機の軸(12)に取り付けられ、前記特定補機の軸とともに回転可能な特定補機プーリ(5)と、
前記その他補機の軸(14、16)に取り付けられ、前記その他補機の軸とともに回転可能な補機プーリ(6、7)と、
前記駆動プーリ、前記特定補機プーリおよび前記補機プーリに掛け回される無端伝動部材(9)と、
前記無端伝動部材の前記駆動プーリと前記特定補機プーリまたは前記補機プーリとの間に当接しながら回転可能、かつ、前記内燃機関に対し相対移動可能に設けられるテンショナプーリ(21)、
所定方向に伸縮することにより前記テンショナプーリが前記内燃機関に対し相対移動するよう前記テンショナプーリを駆動可能なテンショナ本体(40)、
前記テンショナ本体が前記所定方向に伸長するよう前記テンショナ本体を付勢する付勢手段(25)、および、
前記テンショナ本体の収縮を規制可能な規制手段(50)を有し、
前記テンショナ本体が伸縮することにより前記テンショナプーリが前記内燃機関に対し相対移動することで前記無端伝動部材の張力を調整可能なオートテンショナ(20)と、
前記特定補機および前記規制手段の作動を制御可能な制御部(70)と、を備え、
前記制御部は、
前記内燃機関の停止条件の成立時または成立後、前記特定補機が力行作動時の回転方向とは反対方向に回転することで前記無端伝動部材が伸び、前記駆動プーリと前記特定補機プーリとの間で前記無端伝動部材が緩むことによって前記テンショナ本体が前記所定方向に伸長するよう前記特定補機の作動を制御する逆回転制御ステップ、
前記規制手段の作動を制御することにより前記テンショナ本体の収縮を規制する規制ステップ、
前記特定補機を力行作動させることにより前記内燃機関を始動させる始動ステップ、および、
前記規制手段の作動を制御することにより前記テンショナ本体の収縮の規制を解除する規制解除ステップを含み、
前記逆回転制御ステップにおいて、前記駆動軸が逆回転する方向の力に抗する力である抗力を増大させる抗力増大手段(70)を有し、
前記逆回転制御ステップにおいて、前記抗力増大手段により前記抗力を増大させた状態で前記特定補機の作動を制御することを特徴とする伝動システム。
【請求項2】
前記規制手段は、
前記テンショナ本体が収縮するのに従い容積が減少し、前記テンショナ本体が伸長するのに従い容積が増大するよう前記テンショナ本体内に形成される第1流体室(51)、
前記第1流体室に連通するよう前記テンショナ本体内に形成される第2流体室(52)、
前記第1流体室および前記第2流体室に封入される流体(53)、および、
前記制御部に制御されることにより、前記第1流体室と前記第2流体室との連通を許容または遮断可能な制御弁(60)を有し、
前記制御部は、前記規制ステップにおいて、前記第1流体室と前記第2流体室との連通が遮断されるよう前記制御弁の作動を制御することにより前記テンショナ本体の収縮を規制することを特徴とする請求項1に記載の伝動システム。
【請求項3】
前記抗力増大手段は、前記内燃機関の気筒(80)の吸気弁(83)が閉じて所定期間経過後に前記内燃機関が停止するよう前記特定補機の作動を制御することにより、前記駆動軸が逆回転する場合のカム反力を増大させることで前記抗力を増大させることを特徴とする請求項1または2に記載の伝動システム。
【請求項4】
前記抗力増大手段は、前記内燃機関の気筒(80)の吸気弁(83)および排気弁(84)が閉じた状態で前記気筒のピストン(81)が上死点と下死点との中間位置近傍に位置するとき前記内燃機関が停止するよう前記特定補機の作動を制御することにより、前記駆動軸が逆回転する場合の前記気筒内の圧力を増大させることで前記抗力を増大させることを特徴とする請求項1または2に記載の伝動システム。
【請求項5】
前記制御部に制御されることにより、前記内燃機関に吸気を導く吸気通路(92)を開閉可能なスロットルバルブ(94)をさらに備え、
前記抗力増大手段は、前記内燃機関の気筒(80)の排気弁(84)が閉じた状態、かつ、前記気筒の吸気弁(83)が開いた状態、かつ、前記スロットルバルブが前記吸気通路を開いた状態で前記気筒のピストン(81)が下死点に向かって移動しているとき前記内燃機関が停止するよう前記特定補機の作動を制御し、前記内燃機関が停止して所定期間経過後に前記吸気通路を閉じるよう前記スロットルバルブを制御することにより、前記駆動軸が逆回転する場合の前記気筒内の圧力を増大させることで前記抗力を増大させることを特徴とする請求項1または2に記載の伝動システム。
【請求項6】
前記制御部に制御されることにより、前記吸気弁と前記排気弁との開閉作動に関する位相差を変更することで前記吸気弁および前記排気弁の開閉タイミングを調整可能なバルブタイミング調整装置(98)をさらに備え、
前記抗力増大手段は、前記排気弁が閉じた状態、かつ、前記吸気弁が開いた状態、かつ、前記スロットルバルブが前記吸気通路を開いた状態で前記ピストンが下死点に向かって移動しているとき前記内燃機関が停止するよう前記特定補機の作動を制御し、前記内燃機関が停止して所定期間経過後に前記吸気通路を閉じるよう前記スロットルバルブを制御し、さらに前記気筒の前記吸気弁が閉じるよう前記バルブタイミング調整装置を制御することにより、前記駆動軸が逆回転する場合の前記気筒内の圧力を増大させることで前記抗力を増大させることを特徴とする請求項5に記載の伝動システム。
【請求項7】
前記バルブタイミング調整装置は、前記内燃機関の停止時においても前記吸気弁と前記排気弁との開閉作動に関する位相差を変更可能であることを特徴とする請求項6に記載の伝動システム。
【請求項8】
前記制御部に制御されることにより、前記駆動軸と前記駆動軸により駆動される駆動対象(32)との接続を許容または遮断可能なクラッチ手段(30)をさらに備え、
前記抗力増大手段は、前記駆動軸と前記駆動対象との接続状態が許容されるよう前記クラッチ手段を制御することにより、前記駆動軸が逆回転する場合に前記駆動対象から前記駆動軸に作用する力を増大させることで前記抗力を増大させることを特徴とする請求項1または2に記載の伝動システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の動力を特定補機、および、その他補機に伝達する伝動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ベルト等の無端伝動部材を用い、内燃機関の動力を特定補機、および、特定補機以外のその他補機に伝達する伝動システムが知られている。ここで、特定補機は、スタータとして力行作動することにより、内燃機関を始動させることができる。また、特定補機は、内燃機関によりその他補機とともに回転させられて回生作動することにより、発電可能である。特許文献1には、駆動プーリと補機プーリとの間にオートテンショナを設け、当該オートテンショナにより無端伝動部材の張力を調整する伝動システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−299844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の伝動システムでは、オートテンショナは、無端伝動部材の駆動プーリと補機プーリとの間に当接しながら回転可能、かつ、内燃機関に対し相対移動可能に設けられるテンショナプーリ、所定方向に伸縮することによりテンショナプーリが内燃機関に対し相対移動するようテンショナプーリを駆動可能なテンショナ本体、テンショナ本体が前記所定方向に伸長するようテンショナ本体を付勢する付勢手段、および、テンショナ本体の収縮を規制可能な規制手段を有している。
【0005】
特許文献1のオートテンショナは、テンショナ本体が伸縮することによりテンショナプーリが内燃機関に対し相対移動することで無端伝動部材の張力を調整可能である。このオートテンショナは、特定補機が回生作動するときの無端伝動部材の駆動プーリと補機プーリとの間の緩みを解消可能である。一方、特定補機が力行作動するとき、無端伝動部材の駆動プーリと補機プーリとの間の張力が増大し、テンショナプーリは、所定位置まで移動する。テンショナプーリが所定位置まで移動すると、無端伝動部材により駆動プーリおよび駆動軸が回転させられ、内燃機関がクランキングされる。
【0006】
特許文献1の伝動システムでは、内燃機関の停止条件の成立時または成立後、特定補機が力行作動時の回転方向とは反対方向に回転することで無端伝動部材が伸び、駆動プーリと特定補機プーリとの間で無端伝動部材が緩むことによってテンショナ本体が前記所定方向に伸長するよう特定補機の作動を制御する逆回転制御ステップ、規制手段の作動を制御することによりテンショナ本体の収縮を規制する規制ステップ、および、特定補機を力行作動させることにより内燃機関を始動させる始動ステップを含んでいる。逆回転制御ステップにおいて無端伝動部材が伸びテンショナ本体が前記所定方向に伸長するよう特定補機の作動を制御することにより、始動ステップにおいて特定補機を力行作動させるとき、無端伝動部材は張力が増大した状態となっているため、無端伝動部材と各プーリとの間の滑りを抑制することができる。
【0007】
しかしながら、特許文献1の伝動システムでは、逆回転制御ステップにおいて、特定補機から出力するトルクが「テンショナ本体が前記所定方向に伸長可能な程度のトルク」以上、かつ、「駆動軸が逆回転し始める程度のトルク」以下の所定範囲内になるよう、特定補機の作動を高精度に制御する必要がある。そのため、特に前記所定範囲が狭い場合、逆回転制御ステップにおいて、特定補機から出力するトルクが前記所定範囲内になるよう特定補機の作動を制御するのが困難になるおそれがある。
【0008】
また、逆回転制御ステップにおいて特定補機から出力するトルクが「テンショナ本体が前記所定方向に伸長可能な程度のトルク」より小さい場合、テンショナ本体を伸長させることができず、始動ステップにおいて無端伝動部材の張力が小さくなり、無端伝動部材と各プーリとの間で滑りが発生するおそれがある。また、逆回転制御ステップにおいて特定補機から出力するトルクが「駆動軸が逆回転し始める程度のトルク」より大きくなった場合、駆動軸が逆回転するおそれがある。
【0009】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、内燃機関を始動するとき、特定補機の作動を高精度に制御することなしに無端伝動部材と各プーリとの間の滑りを抑制可能な伝動システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、内燃機関の動力を特定補機、および、特定補機以外のその他補機に伝達する伝動システムであって、駆動プーリと特定補機プーリと補機プーリと無端伝動部材とオートテンショナと制御部とを備えている。
【0011】
駆動プーリは、内燃機関の駆動軸に取り付けられ、駆動軸とともに回転可能である。特定補機プーリは、力行作動または回生作動可能な特定補機の軸に取り付けられ、特定補機の軸とともに回転可能である。補機プーリは、その他補機の軸に取り付けられ、その他補機の軸とともに回転可能である。無端伝動部材は、駆動プーリ、特定補機プーリおよび補機プーリに掛け回される。これにより、各プーリの回転は、無端伝動部材を経由して他のプーリに伝達する。
【0012】
オートテンショナは、テンショナプーリ、テンショナ本体、付勢手段および規制手段を有している。テンショナプーリは、無端伝動部材の駆動プーリと特定補機プーリまたは補機プーリとの間に当接しながら回転可能、かつ、内燃機関に対し相対移動可能に設けられる。テンショナ本体は、所定方向に伸縮することによりテンショナプーリが内燃機関に対し相対移動するようテンショナプーリを駆動可能である。付勢手段は、テンショナ本体が前記所定方向に伸長するようテンショナ本体を付勢する。規制手段は、テンショナ本体の収縮を規制可能である。
【0013】
オートテンショナは、テンショナ本体が伸縮することによりテンショナプーリが内燃機関に対し相対移動することで無端伝動部材の張力を調整可能である。オートテンショナにより、例えば、特定補機が回生作動するときの無端伝動部材の駆動プーリと特定補機プーリまたは補機プーリとの間の緩みを解消することができる。
【0014】
制御部は、特定補機および規制手段の作動を制御可能である。制御部は、内燃機関の停止条件の成立時または成立後、特定補機が力行作動時の回転方向とは反対方向に回転することで無端伝動部材が伸び、駆動プーリと特定補機プーリとの間で無端伝動部材が緩むことによってテンショナ本体が前記所定方向に伸長するよう特定補機の作動を制御する逆回転制御ステップ、規制手段の作動を制御することによりテンショナ本体の収縮を規制する規制ステップ、特定補機を力行作動させることにより内燃機関を始動させる始動ステップ、および、規制手段の作動を制御することによりテンショナ本体の収縮の規制を解除する規制解除ステップを含んでいる。
【0015】
制御部は、逆回転制御ステップにおいて、駆動軸が逆回転する方向の力に抗する力である抗力を増大させる抗力増大手段を有している。制御部は、逆回転制御ステップにおいて、抗力増大手段により前記抗力を増大させた状態で特定補機の作動を制御する。
【0016】
本発明では、制御部が、逆回転制御ステップにおいて無端伝動部材が伸びテンショナ本体が前記所定方向に伸長するよう特定補機の作動を制御することにより、始動ステップにおいて特定補機を力行作動させるとき、無端伝動部材は張力が増大した状態となる。これにより、内燃機関を始動するとき、無端伝動部材と各プーリとの間の滑りを抑制することができる。
【0017】
また、内燃機関の始動後、規制解除ステップでテンショナ本体の収縮の規制を解除し、逆回転制御ステップで増大した無端伝動部材の張力を低減することにより、無端伝動部材の摩擦抵抗の増大を抑制しつつ、無端伝動部材の摩耗および損傷を抑制可能である。
【0018】
また、本発明では、制御部は、逆回転制御ステップにおいて、駆動軸が逆回転する方向の力に抗する力である抗力を増大させる抗力増大手段を有し、逆回転制御ステップにおいて、抗力増大手段により前記抗力を増大させた状態で特定補機の作動を制御する。これにより、逆回転制御ステップにおいて、「駆動軸が逆回転し始める程度のトルク」の値を大きくすることができる。そのため、「テンショナ本体が前記所定方向に伸長可能な程度のトルク」以上、かつ、「駆動軸が逆回転し始める程度のトルク」以下の所定範囲が広くなり、制御部は、逆回転制御ステップにおける特定補機の作動の制御が容易になる。その結果、特定補機の作動を高精度に制御することなく、駆動軸の逆回転を防止しつつ、テンショナ本体を前記所定方向に伸長させることができる。したがって、本発明では、内燃機関を始動するとき、特定補機の作動を高精度に制御することなしに無端伝動部材と各プーリとの間の滑りを抑制可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1実施形態による伝動システムを示す模式図。
図2】本発明の第1実施形態による伝動システムのオートテンショナのテンショナ本体、付勢手段および規制手段を示す模式図。
図3】本発明の第1実施形態による伝動システムを適用した内燃機関、および、その近傍を示す模式図。
図4】本発明の第1実施形態による伝動システムを適用した内燃機関を示す模式図。
図5】本発明の第1実施形態による伝動システムを適用した内燃機関の各気筒の行程の順序を示す図。
図6】本発明の第1実施形態による伝動システムの作動例を示すタイムチャート。
図7】本発明の第2実施形態による伝動システムを適用した内燃機関を示す模式図。
図8】本発明の第3実施形態による伝動システムを適用した内燃機関を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の複数の実施形態による伝動システムを図面に基づき説明する。なお、複数の実施形態において実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
(第1実施形態)
【0021】
本発明の第1実施形態による伝動システムを図1に示す。伝動システム1は、図示しない車両に搭載され、内燃機関(以下、「エンジン」という)2の動力を特定補機11、および、特定補機11以外の補機13、15に伝達する。
【0022】
図1に示すように、伝動システム1は、エンジン2近傍に設けられる。伝動システム1は、駆動プーリ4、特定補機プーリ5、補機プーリ6、7、無端伝動部材としてのベルト9、オートテンショナ20、および、制御部としての電子制御ユニット(以下、「ECU」という)70等を備えている。
【0023】
駆動プーリ4は、円板状に形成され、中心部がエンジン2の駆動軸3に接続されるようにして取り付けられている。これにより、駆動プーリ4は、駆動軸3とともに回転可能である。特定補機プーリ5は、円板状に形成され、中心部が特定補機11の軸12に接続されるようにして取り付けられている。これにより、特定補機プーリ5は、軸12とともに回転可能である。補機プーリ6、7は、それぞれ、円板状に形成され、中心部が補機13の軸14、補機15の軸16に接続するようにして取り付けられている。これにより、補機プーリ6、7は、それぞれ、軸14、16とともに回転可能である。
【0024】
駆動軸3の駆動プーリ4とは反対側は、例えば、図3に示すように、クラッチ手段30を経由して、駆動対象としての変速機31の入力軸32に接続されている。変速機31の出力軸33は、図示しないデフを経由して車軸に接続されている。そのため、クラッチ手段30により駆動軸3と変速機31の入力軸32とが接続されると、駆動軸3の回転は、出力軸33、デフおよび車軸を経由して、車軸の両端に設けられた駆動輪に伝達する。これにより、車両が走行する。
【0025】
ベルト9は、例えばゴムおよびワイヤー等により、端部を有しない環状に形成されている。ベルト9は、外力が作用すると弾性変形し伸縮する。ベルト9は、駆動プーリ4、特定補機プーリ5、補機プーリ6、7に掛け回されるようにして設けられている。これにより、例えば駆動プーリ4が回転すると、当該回転が補機プーリ7、6、特定補機プーリ5に伝達し、補機プーリ7、6、特定補機プーリ5が回転する。すなわち、各プーリの回転は、ベルト9を経由して他のプーリに伝達する。本実施形態では、エンジン2の通常運転時、駆動軸3、すなわち、駆動プーリ4の回転方向は、図1において時計回り方向である。よって、ベルト9および各プーリも時計回り方向に回転する。なお、本実施形態では、時計回り方向の回転を「正回転」、反時計回り方向の回転を「逆回転」という。
【0026】
本実施形態では、特定補機11は、例えば電力が供給されることにより軸12が回転駆動(力行作動)し、軸12にトルクが入力されることで発電(回生作動)するモータジェネレータである。よって、特定補機11は、例えば、エンジン2が停止しているとき、回転駆動(力行作動)することにより駆動プーリ4を回転させ、すなわち、エンジン2をクランキングし、エンジン2を始動させることができる。ここで、特定補機11は、スタータとして機能する。
【0027】
また、特定補機11は、例えば、エンジン2の運転時、すなわち、ベルト9が回転しているとき、回転駆動(力行作動)することにより駆動プーリ4をさらに回転させ、駆動軸3の回転をアシストする。ここで、特定補機11は、アシストモータとして機能する。
【0028】
一方、特定補機11は、例えば、エンジン2の運転時、すなわち、ベルト9が回転しているとき、特定補機プーリ5にトルクが入力されることにより発電(回生作動)する。ここで、特定補機11は、ジェネレータ(発電機)として機能する。
このように、本実施形態では、特定補機11は、複数の機能を統合した補機、例えばISG(Integrated Starter Generator)である。
【0029】
補機13、15は、例えばウォーターポンプ、空調用コンプレッサ等であって、軸14、16にトルクが入力されることにより駆動する。つまり、補機13、15は、ベルト9が回転すると駆動する。ここで、補機13、15は、特許請求の範囲における「その他補機」に対応している。
【0030】
伝動システム1では、特定補機11の作動によって、ベルト9の最緩み位置(最も張力が小さい位置)が変化する。例えば、特定補機11の力行作動時、ベルト9の最緩み位置は、特定補機プーリ5と補機プーリ6との間になる。一方、特定補機11の回生作動時、ベルト9の最緩み位置は、駆動プーリ4と特定補機プーリ5との間になる。また、特定補機11の作動により、ベルト9の張力が変化する。
【0031】
オートテンショナ20は、テンショナプーリ21、アーム22、テンショナ本体40、付勢手段25および規制手段50を有している。
テンショナプーリ21は、円板状に形成され、ベルト9の駆動プーリ4と特定補機プーリ5との間に当接可能に設けられている。
【0032】
アーム22は、略L字状に形成され、軸部23、24を有している。軸部23は、例えばエンジン2近傍の車体壁面に固定され、アーム22の中央を軸受けする。これにより、アーム22は、軸部23を中心にエンジン2に対し相対回転可能である。軸部24は、アーム22の一方の端部に設けられ、テンショナプーリ21の中心を回転可能に支持している。この構成により、テンショナプーリ21は、ベルト9の駆動プーリ4と特定補機プーリ5との間に当接しながら回転可能、かつ、軸部23を中心にエンジン2に対し相対移動(回転)可能に設けられる。
【0033】
図2に示すように、テンショナ本体40は、上本体41、下本体42、延伸部43、44、軸部45、46、筒部47、ピストン部48等を有している。
上本体41は、有底筒状に形成されている。下本体42は、有底筒状に形成され、底部とは反対側の端部の外壁が上本体41の内壁に当接するよう、かつ、上本体41に対し軸方向に相対移動可能なよう設けられている。延伸部43は、上本体41の底部から下本体42とは反対側へ延びるよう形成されている。延伸部44は、下本体42の底部から上本体41とは反対側へ延びるよう形成されている。
【0034】
軸部45は、例えばエンジン2近傍の車体壁面に固定され、延伸部43の上本体41とは反対側の端部を軸受けする。これにより、テンショナ本体40は、軸部45を中心にエンジン2に対し相対回転可能である。軸部46は、延伸部44の下本体42とは反対側の端部に設けられ、アーム22の他方の端部を回転可能に支持している。この構成により、上本体41と下本体42とが相対移動することでテンショナ本体40が軸方向に伸縮すると、アーム22が軸部23を中心に回転し、テンショナプーリ21のエンジン2に対する相対位置が変化する。これにより、ベルト9の駆動プーリ4と特定補機プーリ5との間の張力が変化する。
【0035】
筒部47は、下本体42の内側において底部から上本体41側へ延びるよう筒状に形成されている。ピストン部48は、上本体41の内側において底部から下本体42側へ延びるよう形成されている。ここで、ピストン部48は、上本体41の底部とは反対側の端部外壁が筒部47の内壁に当接するよう形成されている。これにより、上本体41と下本体42とが相対移動するとき、ピストン部48と筒部47とは摺動する。
【0036】
付勢手段25は、例えばコイルスプリングであり、一端が上本体41の底部に当接するよう、他端が下本体42の底部に当接するよう、上本体41および下本体42の内側に設けられている。付勢手段25は、軸方向に伸びる力を有している。そのため、付勢手段25は、上本体41と下本体42とが離れる方向、すなわち、テンショナ本体40が伸長する方向に上本体41および下本体42を付勢している。つまり、付勢手段25は、アーム22が反時計回り方向に回転することでベルト9の駆動プーリ4と特定補機プーリ5との間の張力が増大するよう、テンショナプーリ21を付勢している。
【0037】
規制手段50は、第1流体室51、第2流体室52、流体53、連通路54、55、弁座部56、57、弁部材58、制御弁60等を有している。
第1流体室51は、下本体42の筒部47の内側に、下本体42の底部と筒部47とピストン部48とに囲まれるようにして形成されている。そのため、第1流体室51は、テンショナ本体40が収縮するのに従い容積が減少し、テンショナ本体40が伸長するのに従い容積が増大する。
【0038】
第2流体室52は、下本体42の内側かつ筒部47の外側、および、上本体41の内側に形成されている。
流体53は、例えばオイルまたはガス等の流体であり、第1流体室51および第2流体室52に封入されている。
【0039】
連通路57、58は、それぞれ、第1流体室51と第2流体室52とを連通するよう、下本体42の底部に形成されている。テンショナ本体40が軸方向に伸縮するとき、第1流体室51の容積が増減するため、このとき、流体53は、連通路57、58を経由して第1流体室51と第2流体室52とを行き来する。
【0040】
弁座部56は、連通路54に形成されている。弁座部56は、第1流体室51に向かうに従い径が大きくなるようテーパ状に形成されている。弁座部57は、連通路55に形成されている。弁座部57は、第1流体室51に向かうに従い径が大きくなるようテーパ状に形成されている。
【0041】
弁部材58は、球状に形成され、弁座部56に着座、および、弁座部56から離座可能なよう連通路54に設けられている。テンショナ本体40が収縮するとき、連通路54を経由して第1流体室51から第2流体室52に流体53が流れるため、弁部材58は、流体53に押され弁座部56に着座する。これにより、連通路54による第1流体室51と第2流体室52との連通が遮断される。一方、テンショナ本体40が伸長するとき、連通路54を経由して第2流体室52から第1流体室51に流体53が流れるため、弁部材58は、流体53に押され弁座部56から離座する。これにより、連通路54による第1流体室51と第2流体室52との連通が許容される。
【0042】
制御弁60は、テンショナ本体40の下本体42に設けられている。制御弁60は、固定子61、コイル62、可動子63、スプリング64、弁部材65、接続部66等を有している。
固定子61は、例えば鉄等の金属により筒状に形成され、軸が連通路55に重なるよう、下本体42の底部近傍に設けられている。コイル62は、固定子61に巻き回されるようにして設けられている。可動子63は、例えば鉄等の金属により柱状に形成され、固定子61の内側において軸方向に往復移動可能に設けられている。スプリング64は、例えばコイルスプリングであり、可動子63の下本体42とは反対側に設けられている。スプリング64は、可動子63を下本体42側に付勢している。弁部材65は、球状に形成され、弁座部57に着座、および、弁座部57から離座可能なよう連通路55に設けられている。接続部66は、可動子63と弁部材65とが相対移動不能となるよう可動子63と弁部材65とを接続している。ここで、可動子63がスプリング64により下本体42に押し付けられているとき、弁部材65は、弁座部57から離座した状態である(図2参照)。
【0043】
コイル62に電力が供給されると、固定子61および可動子63に磁束が流れ、可動子63は、スプリング64の付勢力に抗し、下本体42から離れるようにしてスプリング64側に吸引される。そのため、弁部材65が弁座部57に着座する。これにより、連通路55による第1流体室51と第2流体室52との連通が遮断される。一方、コイル62への電力の供給が断たれると、固定子61および可動子63の磁束が消失し、可動子63は、スプリング64の付勢力により下本体42側に付勢され、下本体42に押し付けられる。そのため、弁部材65が弁座部57から離座する。これにより、連通路55による第1流体室51と第2流体室52との連通が許容される。
【0044】
本実施形態では、コイル62に電力が供給されて弁部材65が弁座部57に着座しているとき、第1流体室51から第2流体室52へ向かう流体53の流れは弁部材58および弁部材65によって遮断されるものの、連通路54を経由して第2流体室52から第1流体室51に向かう流体53の流れは許容されるため、テンショナ本体40は、収縮不能、かつ、伸長可能である。
【0045】
一方、コイル62への電力の供給が断たれて弁部材65が弁座部57から離座しているとき、連通路54を経由して第1流体室51から第2流体室52へ向かう流体53の流れは弁部材58によって遮断されるものの、流体53は連通路55を経由して第1流体室51と第2流体室52との間を行き来可能なため、テンショナ本体40は、収縮可能、かつ、伸長可能である。
このように、制御弁60は、コイル62への通電により、連通路55における第1流体室51と第2流体室52との連通を遮断することによって、テンショナ本体40の収縮を規制することができる。
【0046】
上述のように、本実施形態では、テンショナ本体40は、軸方向に伸縮することによりテンショナプーリ21がエンジン2に対し相対移動するようテンショナプーリ21を駆動可能である。付勢手段25は、テンショナ本体40が軸方向に伸長するようテンショナ本体40を付勢する。規制手段50は、テンショナ本体40の収縮を規制可能である。
【0047】
オートテンショナ20は、テンショナ本体40が伸縮することによりテンショナプーリ21がエンジン2に対し相対移動することでベルト9の張力を調整可能である。オートテンショナ20により、例えば、特定補機11が回生作動するときのベルト9の駆動プーリ4と特定補機プーリ5との間の緩みを解消することができる。
【0048】
ECU70は、演算手段としてのCPU、記憶手段としてのROMおよびRAM、ならびに、入出力手段等を有する小型のコンピュータである。ECU70は、車両の各部に取り付けられた各種センサからの信号等に基づき、ROMに記憶されたプログラムに従い処理を行い、車両の各種装置の駆動を制御することで車両を統合的に制御する。
【0049】
図4に示すように、エンジン2は、気筒80を有している。本実施形態では、エンジン2は、4つの気筒80を有している。すなわち、エンジン2は、4気筒エンジンである。4つの気筒80内には、それぞれ、ピストン81が往復移動可能に設けられている。駆動軸3が回転すると、ピストン81が気筒80内で往復移動する。
気筒80の開口端は、エンジンヘッド90により塞がれている。これにより、気筒80内のピストン81とエンジンヘッド90との間に燃焼室82が形成されている。
【0050】
エンジンヘッド90には、吸気管91が接続されている。吸気管91およびエンジンヘッド90には、吸気を燃焼室82に導く吸気通路92が形成されている。また、エンジンヘッド90には、燃焼室82で生成された燃焼ガスを含む空気、すなわち、排気を大気側へ排出する排気通路93が形成されている。
吸気通路92には、回転することで吸気通路92を開閉可能なスロットルバルブ94が設けられている。スロットルバルブ94は、アクチュエータ95により回転駆動されることにより吸気通路92を開閉する。
【0051】
また、エンジンヘッド90には、燃焼室82と吸気通路92との間を開閉可能な吸気弁83が設けられている。また、エンジンヘッド90には、燃焼室82と排気通路93との間を開閉可能な排気弁84が設けられている。
【0052】
吸気弁83の燃焼室82とは反対側の端部には、吸気カムシャフト85が設けられている。また、排気弁84の燃焼室82とは反対側の端部には、排気カムシャフト87が設けられている。吸気カムシャフト85には、吸気弁83に当接可能な吸気カム86が設けられている。これにより、吸気カムシャフト85が回転し、吸気カム86のカム山が吸気弁83の端部を乗り越えると、吸気弁83が開弁する。排気カムシャフト87には、排気弁84に当接可能な排気カム88が設けられている。これにより、排気カムシャフト87が回転し、排気カム88のカム山が排気弁84の端部を乗り越えると、排気弁84が開弁する。駆動軸3、吸気カムシャフト85および排気カムシャフト87には、図示しないベルト部材が巻き掛けられている。これにより、駆動軸3が回転すると、ベルト部材を経由して駆動軸3の回転が吸気カムシャフト85および排気カムシャフト87に伝達される。その結果、吸気弁83および排気弁84が開弁または閉弁する。
【0053】
本実施形態では、駆動軸3に巻き掛けられたベルト部材と吸気カムシャフト85との間にバルブタイミング調整装置98が設けられている。バルブタイミング調整装置98は、吸気カムシャフト85に取り付けられ、駆動軸3と吸気カムシャフト85との相対的な回転位置を変更することにより、吸気弁83と排気弁84との開閉作動に関する位相差を変更することで吸気弁83および排気弁84の開閉タイミングを調整可能である。
【0054】
エンジンヘッド90には、インジェクタ96および点火プラグ97が設けられている。インジェクタ96は、吸気通路92に燃料を噴射可能である。点火プラグ97は、燃焼室82内に流入した燃料を点火可能である。
【0055】
図3に示すように、クラッチ手段30には、圧力発生手段34が接続されている。圧力発生手段34は、例えば、作動油をクラッチ手段30に圧送可能である。これにより、クラッチ手段30は、駆動軸3と変速機31の入力軸32とを接続可能である。
【0056】
ECU70は、各種センサからの信号等に基づき、アクチュエータ95、バルブタイミング調整装置98、インジェクタ96、点火プラグ97、圧力発生手段34の作動を制御可能である。つまり、ECU70は、アクチュエータ95を制御することにより、スロットルバルブ94による吸気通路92の開閉を制御し、燃焼室82に供給する吸気の量を調整することができる。また、ECU70は、バルブタイミング調整装置98を制御することにより、吸気弁83および排気弁84の開閉タイミングを調整可能である。また、ECU70は、インジェクタ96を制御することにより、インジェクタ96からの燃料の噴射タイミングを制御することができる。また、ECU70は、点火プラグ97を制御することにより、点火プラグ97による燃料の点火タイミングを制御することができる。また、ECU70は、圧力発生手段34を制御することにより、クラッチ手段30による駆動軸3と変速機31の入力軸32との接続の許容または遮断を制御することができる。
また、ECU70は、各種センサからの信号等に基づき、特定補機11および制御弁60の作動を制御する。
【0057】
本実施形態では、エンジン2に回転センサ71が設けられている。回転センサ71は、駆動プーリ4(駆動軸3)の回転位置を検出し、検出した回転位置に対応する信号をECU70に出力する。これにより、ECU70は、駆動プーリ4の回転位置および回転数を検出可能である。
【0058】
また、本実施形態では、車両の運転席にブレーキスイッチ72が設けられている。ブレーキスイッチ72は、車両の運転者により、図示しないブレーキペダルが踏み込まれている状態か否かを検出し、検出した状態に対応する信号をECU70に出力する。これにより、ECU70は、運転者によりブレーキペダルが踏み込まれている状態か否かを検出することができる。
【0059】
本実施形態では、ECU70は、逆回転制御ステップ、規制ステップ、始動ステップ、規制解除ステップを含む。
逆回転制御ステップでは、エンジン2の停止条件の成立時または成立後、特定補機11が力行作動時の回転方向とは反対方向に回転、すなわち、逆回転することでベルト9が伸び、駆動プーリ4と特定補機プーリ5との間でベルト9が緩むことによってテンショナ本体40が軸方向に伸長するよう特定補機11の作動を制御する。ここで、本実施形態では、「エンジン2の停止条件」は、例えば「車両の走行が停止し、回転センサ71により駆動プーリ4(駆動軸3)の回転数が所定値以下となったことを検出した場合」が設定されている。
【0060】
規制ステップでは、規制手段50の制御弁60の作動を制御することによりテンショナ本体40の収縮を規制する。
始動ステップでは、特定補機11を力行作動させることによりエンジン2を始動させる。
規制解除ステップでは、規制手段50の制御弁60の作動を制御することによりテンショナ本体40の収縮の規制を解除する。
【0061】
本実施形態では、ECU70は、逆回転制御ステップにおいて、駆動軸3が逆回転する方向の力に抗する力である抗力を増大させる抗力増大手段として機能する。そして、ECU70は、逆回転制御ステップにおいて、抗力増大手段として機能し前記抗力を増大させた状態で特定補機11の作動を制御する。
【0062】
次に、ECU70が抗力増大手段として機能するときの作動について図4、5に基づき説明する。
本実施形態では、ECU70は、4つの気筒80のうちのある気筒80の吸気弁83が閉じて所定期間経過後にエンジン2(駆動軸3)が停止するよう特定補機11の作動を制御する。ここで、前記所定期間は、時間的に極短い期間である。すなわち、ECU70は、4つの気筒80のうちのある気筒80の吸気弁83が閉じた直後にエンジン2が停止するよう特定補機11の作動を制御する。例えば、図5にL1で示すように、ECU70は、第1(#1)の気筒80が圧縮行程に入った直後にエンジン2が停止するよう特定補機11の作動を制御する。これにより、第1(#1)の気筒80およびその近傍は、図4に示す状態となる。ここで、吸気カム86は、カム山が吸気弁83の端部を乗り越えた直後の状態で停止している。これにより、駆動軸3(エンジン2)が逆回転する場合、吸気カム86は通常とは反対方向に回転しカム山が吸気弁83の端部を乗り越える必要があるため、カム反力が増大する。その結果、駆動軸3が逆回転する方向の力に抗する力である抗力が増大する。
なお、ECU70は、回転センサ71からの信号に基づき、各気筒80の行程、および、各ピストン81の気筒80内における位置を判別することができる。
【0063】
このように、ECU70は、抗力増大手段として機能し、エンジン2の気筒80の吸気弁83が閉じた直後にエンジン2が停止するよう特定補機11の作動を制御することにより、駆動軸3が逆回転する場合のカム反力を増大させることで前記抗力を増大させる。これにより、逆回転制御ステップにおいて、「駆動軸3が逆回転し始める程度のトルク」の値を大きくすることができる。
【0064】
本実施形態では、「逆回転制御ステップ」においてテンショナ本体40が軸方向に伸長するよう特定補機11の作動を制御し、「規制ステップ」においてテンショナ本体40の収縮を規制することにより、「始動ステップ」において特定補機11を力行作動させるとき、ベルト9は張力が増大した状態となる。これにより、エンジン2を始動するとき、ベルト9と各プーリとの間の滑りを抑制することができる。
【0065】
また、本実施形態では、ECU70は、「始動ステップ」の後、「規制解除ステップ」を実行することにより、制御弁60をオフすることでテンショナ本体40の収縮の規制を解除する。これにより、テンショナ本体40の伸縮位置が「逆回転制御ステップ」実行前の位置に戻るため、「規制解除ステップ」以降、「逆回転制御ステップ」で増大したベルト9の張力は低減した状態となる。
【0066】
次に、本実施形態の伝動システム1の作動例を図6に基づき説明する。
時刻t0で車両の運転者がブレーキペダルを踏み込むと、ブレーキスイッチ72がオンになる。これにより、車速が低減し、時刻t1で車両が停止する。時刻t2で駆動軸3の回転数が所定値以下になると、エンジン2の停止条件が成立し、ECU70は、インジェクタ96からの燃料の噴射を停止する。これにより、駆動軸3の回転数がさらに低下し、時刻t3で駆動軸3の回転が停止する。
【0067】
一方、時刻t2でエンジン2の停止条件が成立すると、ECU70は、逆回転制御ステップを実行する。これにより、特定補機11から逆回転方向のトルクが出力される。時刻t2から時刻t3にかけて、特定補機11の逆回転方向の回転数が増大するとともに、テンショナ本体40の伸縮位置が伸長方向に増大する。なお、図6に一点鎖線で示すT0は「テンショナ本体40が軸方向に伸長可能な程度のトルク」を表し、T1は「駆動軸3が逆回転し始める程度のトルク」を表す。なお、本実施形態では、ECU70が抗力増大手段として機能することで、「駆動軸3が逆回転し始める程度のトルク」(T1)が、前記抗力を増大しない場合の「駆動軸3が逆回転し始める程度のトルク」(図6に一点鎖線で示すT2)と比べ、大きくなっている。
【0068】
時刻t3でベルト9が十分に伸びた状態、すなわち、テンショナ本体40が十分に伸長した状態になると、ECU70は、制御弁60をオンすることによりテンショナ本体40の収縮を規制し、特定補機11の逆回転制御を停止する。これにより、ベルト9は、張力が増大した状態となる。
【0069】
時刻t5で運転者がブレーキペダルの踏み込みを解除するとブレーキスイッチ72がオフになり、エンジン2の始動条件が成立し、ECU70は、始動ステップを実行する。これにより、特定補機11がスタータとして力行作動し、特定補機11から正回転方向のトルクが出力される。その結果、エンジン2がクランキングされる。時刻t6において、ECU70は、インジェクタ96からの燃料の噴射を再開する。これにより、エンジン2が完爆する。また、時刻t6において、ECU70は、制御弁60をオフし、テンショナ本体40の収縮の規制を解除する。これにより、時刻t7において、テンショナ本体40の伸縮位置が、逆回転制御ステップ実行前(時刻t2以前)の位置に戻る。時刻t7で運転者が図示しないアクセルペダルを踏み込むことにより、車速が増大する。
【0070】
なお、時刻t7においてテンショナ本体40の伸縮位置が逆回転制御ステップ実行前の位置に戻るため、時刻t7以降、時刻t3で増大したベルト9の張力は低減した状態となる。よって、時刻t7以降、エンジン2が回転し特定補機11が回生作動しているときのベルト9の摩擦抵抗の増大を抑制しつつ、ベルト9の摩耗および損傷を抑制可能である。
【0071】
次に、比較例による伝動システムの作動例を図6に基づき説明する。
比較例による伝動システムは、物理的な構成は本実施形態と同じであるものの、逆回転制御ステップにおいて抗力増大手段により前記抗力を増大しない点が本実施形態と異なる。比較例では、抗力増大手段により前記抗力を増大しないため、「駆動軸3が逆回転し始める程度のトルク」(図6に一点鎖線で示すT2)が、本実施形態での「駆動軸3が逆回転し始める程度のトルク」(図6に一点鎖線で示すT1)と比べ、小さい。そのため、図6に破線で示すように、比較例の場合、逆回転制御ステップ(時刻t2以降)における特定補機11から出力する逆回転方向のトルクの大きさが本実施形態と比べ小さく、時刻t4においてテンショナ本体40の伸長が完了する。このように、本実施形態では、比較例と比べ、より早くテンショナ本体40の伸長が完了する。
【0072】
また、比較例では、逆回転制御ステップにおいて、特定補機11から出力するトルクが「テンショナ本体40が軸方向に伸長可能な程度のトルク」(T0)以上、かつ、「駆動軸3が逆回転し始める程度のトルク」(T2)以下の所定範囲内になるよう、特定補機11の作動を高精度に制御する必要がある。また、比較例では前記所定範囲が狭いため、逆回転制御ステップにおいて、特定補機11から出力するトルクが前記所定範囲内になるよう特定補機11の作動を制御するのが困難になるおそれがある。一方、本実施形態では、抗力増大手段により前記抗力を増大させるため、「テンショナ本体40が軸方向に伸長可能な程度のトルク」(T0)以上、かつ、「駆動軸3が逆回転し始める程度のトルク」(T1)以下の所定範囲が比較例よりも広くなり、逆回転制御ステップにおける特定補機11の作動の制御が容易になる。
【0073】
以上説明したように、(1)本実施形態では、駆動プーリ4は、エンジン2の駆動軸3に取り付けられ、駆動軸3とともに回転可能である。特定補機プーリ5は、力行作動または回生作動可能な特定補機11の軸12に取り付けられ、特定補機11の軸12とともに回転可能である。補機プーリ6、7は、補機13、15の軸14、16に取り付けられ、軸14、16とともに回転可能である。ベルト9は、駆動プーリ4、特定補機プーリ5および補機プーリ6、7に掛け回される。これにより、各プーリの回転は、ベルト9を経由して他のプーリに伝達する。
【0074】
オートテンショナ20は、テンショナプーリ21、テンショナ本体40、付勢手段25および規制手段50を有している。テンショナプーリ21は、ベルト9の駆動プーリ4と特定補機プーリ5との間に当接しながら回転可能、かつ、エンジン2に対し相対移動可能に設けられる。テンショナ本体40は、軸方向に伸縮することによりテンショナプーリ21がエンジン2に対し相対移動するようテンショナプーリ21を駆動可能である。付勢手段25は、テンショナ本体40が軸方向に伸長するようテンショナ本体40を付勢する。規制手段50は、テンショナ本体40の収縮を規制可能である。
【0075】
オートテンショナ20は、テンショナ本体40が伸縮することによりテンショナプーリ21がエンジン2に対し相対移動することでベルト9の張力を調整可能である。オートテンショナ20により、例えば、特定補機11が回生作動するときのベルト9の駆動プーリ4と特定補機プーリ5との間の緩みを解消することができる。
【0076】
ECU70は、特定補機11および規制手段50の作動を制御可能である。ECU70は、エンジン2の停止条件の成立時または成立後、特定補機11が力行作動時の回転方向とは反対方向に回転することでベルト9が伸び、駆動プーリ4と特定補機プーリ5との間でベルト9が緩むことによってテンショナ本体40が軸方向に伸長するよう特定補機11の作動を制御する逆回転制御ステップ、規制手段50の作動を制御することによりテンショナ本体40の収縮を規制する規制ステップ、特定補機11を力行作動させることによりエンジン2を始動させる始動ステップ、および、規制手段50の作動を制御することによりテンショナ本体40の収縮の規制を解除する規制解除ステップを含んでいる。
【0077】
ECU70は、逆回転制御ステップにおいて、駆動軸3が逆回転する方向の力に抗する力である抗力を増大させる抗力増大手段として機能する。ECU70は、逆回転制御ステップにおいて、抗力増大手段として機能し前記抗力を増大させた状態で特定補機11の作動を制御する。
【0078】
本実施形態では、逆回転制御ステップにおいてベルト9が伸びテンショナ本体40が軸方向に伸長するよう特定補機11の作動を制御することにより、始動ステップにおいて特定補機11を力行作動させるとき、ベルト9は張力が増大した状態となる。これにより、エンジン2を始動するとき、ベルト9と各プーリとの間の滑りを抑制することができる。
【0079】
また、エンジン2の始動後、規制解除ステップでテンショナ本体40の収縮の規制を解除し、逆回転制御ステップで増大したベルト9の張力を低減することにより、ベルト9の摩擦抵抗の増大を抑制しつつ、ベルト9の摩耗および損傷を抑制可能である。
【0080】
また、本実施形態では、ECU70は、逆回転制御ステップにおいて、駆動軸3が逆回転する方向の力に抗する力である抗力を増大させる抗力増大手段として機能し、逆回転制御ステップにおいて、前記抗力を増大させた状態で特定補機11の作動を制御する。これにより、逆回転制御ステップにおいて、「駆動軸3が逆回転し始める程度のトルク」の値を大きくすることができる。そのため、「テンショナ本体40が軸方向に伸長可能な程度のトルク」以上、かつ、「駆動軸3が逆回転し始める程度のトルク」以下の所定範囲が広くなり、ECU70は、逆回転制御ステップにおける特定補機11の作動の制御が容易になる。その結果、特定補機11の作動を高精度に制御することなく、駆動軸3の逆回転を防止しつつ、テンショナ本体40を軸方向に伸長させることができる。したがって、本実施形態では、エンジン2を始動するとき、特定補機11の作動を高精度に制御することなしにベルト9と各プーリとの間の滑りを抑制可能である。
【0081】
また、(2)本実施形態では、規制手段50は、第1流体室51、第2流体室52、流体53、および、制御弁60を有している。第1流体室51は、テンショナ本体40が収縮するのに従い容積が減少し、テンショナ本体40が伸長するのに従い容積が増大するようテンショナ本体40内に形成される。第2流体室52は、第1流体室51に連通するようテンショナ本体40内に形成される。流体53は、第1流体室51および第2流体室52に封入される。制御弁60は、ECU70に制御されることにより、第1流体室51と第2流体室52との連通を許容または遮断可能である。
【0082】
ECU70は、規制ステップにおいて、第1流体室51と第2流体室52との連通が遮断されるよう制御弁60の作動を制御することによりテンショナ本体40の収縮を規制する。本実施形態は、規制手段50の構成を具体的に例示するものである。
【0083】
また、(3)本実施形態では、ECU70は、抗力増大手段として機能するとき、エンジン2の気筒80の吸気弁83が閉じて所定期間経過後にエンジン2が停止するよう特定補機11の作動を制御することにより、駆動軸3が逆回転する場合のカム反力を増大させることで前記抗力を増大させる。本実施形態は、ECU70が抗力増大手段として機能するときの具体的な作動について例示するものである。
【0084】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態による伝動システムを図7に基づき説明する。第2実施形態は、ECU70が抗力増大手段として機能するときの作動が第1実施形態と異なる。
【0085】
第2実施形態では、ECU70は、抗力増大手段として機能するとき、エンジン2の気筒80の吸気弁83および排気弁84が閉じた状態で気筒80のピストン81が上死点と下死点との中間位置近傍に位置するときエンジン2が停止するよう特定補機11の作動を制御する。例えば、図5にL2で示すように、ECU70は、第1(#1)の気筒80が膨張行程に入り、ピストン81が上死点と下死点との中間位置近傍に位置したときにエンジン2が停止するよう特定補機11の作動を制御する。これにより、第1(#1)の気筒80およびその近傍は、図7に示す状態となる。この状態で駆動軸3(エンジン2)が逆回転する場合、ピストン81は上死点側へ移動するため、気筒80内の圧力が増大する。その結果、駆動軸3が逆回転する方向の力に抗する力である抗力が増大する。
【0086】
以上説明したように、(4)本実施形態では、ECU70は、抗力増大手段として機能するとき、エンジン2の気筒80の吸気弁83および排気弁84が閉じた状態で気筒80のピストン81が上死点と下死点との中間位置近傍に位置するときエンジン2が停止するよう特定補機11の作動を制御することにより、駆動軸3が逆回転する場合の気筒80内の圧力を増大させることで前記抗力を増大させる。これにより、逆回転制御ステップにおいて、「駆動軸3が逆回転し始める程度のトルク」の値を大きくすることができる。
【0087】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態による伝動システムを図8に基づき説明する。第3実施形態は、ECU70が抗力増大手段として機能するときの作動が第1実施形態と異なる。
【0088】
第3実施形態では、ECU70は、抗力増大手段として機能するとき、エンジン2の気筒80の排気弁84が閉じた状態、かつ、気筒80の吸気弁83が開いた状態、かつ、スロットルバルブ94が吸気通路92を開いた状態で気筒80のピストン81が下死点に向かって移動しているときエンジン2が停止するよう特定補機11の作動を制御する。例えば、図5にL3で示すように、ECU70は、第1(#1)の気筒80が吸入行程に入り、ピストン81が下死点に向かって移動しているときエンジン2が停止するよう特定補機11の作動を制御する。これにより、第1(#1)の気筒80およびその近傍は、図8に示す状態となる。
【0089】
そして、ECU70は、エンジン2が停止して所定期間経過後に吸気通路92を閉じるようスロットルバルブ94を制御する。ここで、前記所定期間は、時間的に極短い期間である。すなわち、ECU70は、エンジン2が停止した直後に吸気通路92を閉じるようスロットルバルブ94を制御する。これにより、気筒80内(燃焼室82)、および、吸気通路92の燃焼室82とスロットルバルブ94との間は、圧力が大気圧より大きい状態になる。この状態で駆動軸3(エンジン2)が逆回転する場合、ピストン81は上死点側へ移動するため、気筒80内の圧力がさらに増大する。その結果、駆動軸3が逆回転する方向の力に抗する力である抗力が増大する。
【0090】
以上説明したように、(5)本実施形態では、ECU70は、抗力増大手段として機能するとき、エンジン2の気筒80の排気弁84が閉じた状態、かつ、気筒80の吸気弁83が開いた状態、かつ、スロットルバルブ94が吸気通路92を開いた状態で気筒80のピストン81が下死点に向かって移動しているときエンジン2が停止するよう特定補機11の作動を制御し、エンジン2が停止した直後に吸気通路92を閉じるようスロットルバルブ94を制御することにより、駆動軸3が逆回転する場合の気筒80内の圧力を増大させることで前記抗力を増大させる。これにより、逆回転制御ステップにおいて、「駆動軸3が逆回転し始める程度のトルク」の値を大きくすることができる。
【0091】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態による伝動システムを図8に基づき説明する。第4実施形態は、ECU70が抗力増大手段として機能するときの作動が第3実施形態と異なる。
【0092】
第4実施形態では、ECU70は、抗力増大手段として機能するとき、第3実施形態と同様、エンジン2の気筒80の排気弁84が閉じた状態、かつ、気筒80の吸気弁83が開いた状態、かつ、スロットルバルブ94が吸気通路92を開いた状態で気筒80のピストン81が下死点に向かって移動しているときエンジン2が停止するよう特定補機11の作動を制御する。例えば、図5にL3で示すように、ECU70は、第1(#1)の気筒80が吸入行程に入り、ピストン81が下死点に向かって移動しているときエンジン2が停止するよう特定補機11の作動を制御する。これにより、第1(#1)の気筒80およびその近傍は、図8に示す状態となる。
【0093】
そして、ECU70は、エンジン2が停止して所定期間経過後に吸気通路92を閉じるようスロットルバルブ94を制御する。ここで、前記所定期間は、時間的に極短い期間である。すなわち、ECU70は、エンジン2が停止した直後に吸気通路92を閉じるようスロットルバルブ94を制御する。これにより、気筒80内(燃焼室82)、および、吸気通路92の燃焼室82とスロットルバルブ94との間は、圧力が大気圧より大きい状態になる。
【0094】
さらに、ECU70は、駆動軸3と吸気カムシャフト85との相対的な回転位置を変更することにより気筒80の吸気弁83が閉じるようバルブタイミング調整装置98を制御する。これにより、気筒80内(燃焼室82)は、圧力が大気圧より大きい状態に維持される。この状態で駆動軸3(エンジン2)が逆回転する場合、ピストン81は上死点側へ移動するため、気筒80内の圧力がさらに増大する。その結果、駆動軸3が逆回転する方向の力に抗する力である抗力が増大する。
【0095】
以上説明したように、(6)本実施形態では、ECU70は、抗力増大手段として機能するとき、エンジン2の気筒80の排気弁84が閉じた状態、かつ、気筒80の吸気弁83が開いた状態、かつ、スロットルバルブ94が吸気通路92を開いた状態で気筒80のピストン81が下死点に向かって移動しているときエンジン2が停止するよう特定補機11の作動を制御し、エンジン2が停止した直後に吸気通路92を閉じるようスロットルバルブ94を制御し、さらに気筒80の吸気弁83が閉じるようバルブタイミング調整装置98を制御することにより、駆動軸3が逆回転する場合の気筒80内の圧力を増大させることで前記抗力を増大させる。これにより、逆回転制御ステップにおいて、「駆動軸3が逆回転し始める程度のトルク」の値を大きくすることができる。
【0096】
なお、本実施形態では、ECU70は、気筒80内の圧力が大気圧より大きくなった状態で吸気弁83が閉じるようバルブタイミング調整装置98を制御するため、第3実施形態と比べ、駆動軸3が逆回転する場合の気筒80内の圧力をさらに増大させることができる。
また、(7)本実施形態では、バルブタイミング調整装置98は、エンジン2の停止時においても吸気弁83と排気弁84との開閉作動に関する位相差を変更可能、すなわち、駆動軸3と吸気カムシャフト85との相対的な回転位置を変更可能である。
【0097】
(第5実施形態)
本発明の第5実施形態による伝動システムを図3に基づき説明する。第5実施形態は、ECU70が抗力増大手段として機能するときの作動が第1実施形態と異なる。
【0098】
第5実施形態では、ECU70は、抗力増大手段として機能するとき、駆動軸3と変速機31の入力軸32との接続状態が許容されるようクラッチ手段30(圧力発生手段34)を制御する。この状態で駆動軸3(エンジン2)が逆回転する場合、駆動軸3は変速機31の入力軸32を回転させる必要があるため、入力軸32から駆動軸3に作用する力が増大する。その結果、駆動軸3が逆回転する方向の力に抗する力である抗力が増大する
【0099】
以上説明したように、(8)本実施形態では、ECU70は、抗力増大手段として機能するとき、駆動軸3と変速機31の入力軸32との接続状態が許容されるようクラッチ手段30を制御することにより、駆動軸3が逆回転する場合に変速機31の入力軸32から駆動軸3に作用する力を増大させることで前記抗力を増大させる。これにより、逆回転制御ステップにおいて、「駆動軸3が逆回転し始める程度のトルク」の値を大きくすることができる。
【0100】
(他の実施形態)
上述の実施形態では、規制手段50が第1流体室51、第2流体室52、流体53および制御弁60を有し、ECU70が制御弁60の作動を制御することによりテンショナ本体40の収縮を規制する例を示した。これに対し、本発明の他の実施形態では、規制手段は、ECU70により制御されることによりテンショナ本体40の収縮を規制可能であれば、どのように構成されていてもよい。
【0101】
また、上述の実施形態では、内燃機関の停止条件として、「車両の走行が停止し、駆動プーリ4(駆動軸3)の回転数が所定値以下となった場合」が設定される例を示した。これに対し、本発明の他の実施形態では、内燃機関の停止条件として、例えば「車両の走行が停止、すなわち、車速が0になって所定時間経過後」等を設定することとしてもよい。
【0102】
また、上述の実施形態では、内燃機関の始動条件として、「運転者がブレーキペダルの踏み込みを解除することでブレーキスイッチがオフになったとき」が設定される例を示した。これに対し、本発明の他の実施形態では、内燃機関の始動条件として、例えば「ブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキペダルセンサ、または、ブレーキ圧を検出するブレーキ圧センサによる検出値が所定値以下になったとき」等を設定することとしてもよい。
【0103】
また、上述の実施形態では、吸気カムシャフトにバルブタイミング調整装置を取り付ける例を示した。これに対し、本発明の他の実施形態では、排気カムシャフトにもバルブタイミング調整装置を取り付けることとしてもよい。
また、本発明の他の実施形態では、その他補機、および、補機プーリは、それぞれ、2個に限らず、いくつ設けられていてもよい。
【0104】
また、本発明の他の実施形態では、例えばテンショナプーリと特定補機プーリとの間に補機プーリが設けられていてもよい。
また、本発明の他の実施形態では、無端伝動部材として、ゴム製のベルトの代わりに、例えば金属製のチェーン等を採用してもよい。
【0105】
また、上述の実施形態では、車両の変速機を、内燃機関の駆動軸の回転の出力先、すなわち、内燃機関の駆動対象とする例を示した。これに対し、本発明の他の実施形態では、例えば、車両以外のその他乗り物の変速機、または、回転が入力されることにより駆動するその他装置等を内燃機関の駆動対象としてもよい。
このように、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0106】
1 ・・・・伝動システム
4 ・・・・駆動プーリ
5 ・・・・特定補機プーリ
6、7 ・・・補機プーリ
9 ・・・・ベルト(無端伝動部材)
20 ・・・オートテンショナ
21 ・・・テンショナプーリ
25 ・・・付勢手段
40 ・・・テンショナ本体
50 ・・・規制手段
70 ・・・ECU(電子制御ユニット、制御部、抗力増大手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8