特許第6072689号(P6072689)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6072689
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0525 20100101AFI20170123BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20170123BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20170123BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20170123BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20170123BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
   H01M10/0525
   H01M4/525
   H01M4/505
   H01M4/131
   H01M4/62 Z
   H01M4/36 E
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-526839(P2013-526839)
(86)(22)【出願日】2012年7月25日
(86)【国際出願番号】JP2012068796
(87)【国際公開番号】WO2013018607
(87)【国際公開日】20130207
【審査請求日】2015年7月8日
(31)【優先権主張番号】特願2011-167620(P2011-167620)
(32)【優先日】2011年7月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000039
【氏名又は名称】特許業務法人アイ・ピー・ウィン
(72)【発明者】
【氏名】山本 諭
【審査官】 瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−202702(JP,A)
【文献】 特開2003−142101(JP,A)
【文献】 特開2006−228515(JP,A)
【文献】 特開2005−317266(JP,A)
【文献】 特開2012−028313(JP,A)
【文献】 特開2007−095443(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/058717(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62、10/05−10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンの吸蔵・放出が可能な正極活物質を含む正極活物質合剤層を備えた正極極板と、リチウムイオンの吸蔵・放出が可能な負極活物質を含む負極活物質合剤層を備えた負極極板と、非水電解質と、を備える非水電解質二次電池において、
前記負極活物質として、黒鉛を含有し、
前記正極活物質として、LiNiCoMn1−x−y(0.9≦a≦1.1、0<x<1、0<y<1、2x≧1−y)で表されるニッケルコバルトマンガン酸リチウムを、少なくとも1質量%以上含有し、
前記正極活物質合剤層には、酸化モリブデン(MoO;2≦z≦3)をニッケルコバルトマンガン酸リチウムに対して0.01〜3.0質量%含有している、ことを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記正極活物質は、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムと、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム及びニッケルコバルト酸リチウムから選ばれる少なくとも1種との混合物であることを特徴とする、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記負極活物質が黒鉛である請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記正極極板の充電電位がリチウム基準で4.40V以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池に関し、特にニッケルコバルトマンガン酸リチウムを正極活物質として有すると共に正極活物質合剤中に酸化モリブデンを含有した、充電電圧が高くても高温サイクル特性に優れた非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電子機器の駆動電源やハイブリッド電気自動車(HEV)や電気自動車(EV)用の電源として、リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池が広く利用されている。
【0003】
これらの非水電解質二次電池の正極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵・放出することが可能なLiMO(但し、MはCo、Ni、Mnの少なくとも1種である)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物、すなわち、LiCoO、LiNiO、LiNiCo1−y(y=0.01〜0.99)、LiMnO、LiCoMnNi(x+y+z=1)や、LiMn又はLiFePOなどが一種単独もしくは複数種を混合して用いられている。
【0004】
このうち、電池特性が他のものに対して優れていることから、リチウムコバルト複合酸化物や異種金属元素添加リチウムコバルト複合酸化物が多く使用されている。しかしながら、コバルトは高価であると共に資源としての存在量が少ない。そのため、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムなどを代表とする、コバルト酸リチウムの代替となるより安価な正極活物質材料の研究開発が精力的に行われている。
【0005】
例えば下記特許文献1には、正極材料として、LiNi1−x−yCoMn(式中、x,yは、0.5<x+y<1.0,0.1<y<0.6の条件を満たす。)で表されるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物にフッ素を添加したものと、Li(1+a)Mn2−a−b(式中、MはAl,Co,Ni,Mg,Feからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素であり、0≦a≦0.2,0≦b≦0.1の条件を満たす。)で表されるスピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物と、を混合させることで、熱安定性及び放電容量の向上を両立させる技術が開示されている。
【0006】
また、下記特許文献2には、非水電解液中に特定の環状炭酸エステルを含有させることで、負極活物質としての炭素材料の表面に被膜を形成させて、充放電サイクル特性の向上を図った非水電解質二次電池において、正極活物質として、スピネル構造を有する組成式LiMn2−y1M1y24+z(式中、M1はAl,Co,Ni,Mg,Feからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0≦x≦1.5,0≦y1≦1.0,0≦y2≦0.5,−0.2≦z≦0.2の条件を満たす。)で表されるリチウムマンガン系複合酸化物と、組成式LiNiCoMn(但し、0≦a≦1.2,b+c+d=1の条件を満たす。)で表されるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物とを組み合わせることで、出力特性と充放電サイクル寿命が向上された非水電解質二次電池が得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−267956号公報
【特許文献2】特開2004−146363号公報
【特許文献3】特開2000−106174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一方、近年の移動情報端末における動画再生、ゲーム機能といった娯楽機能の充実に伴う消費電力の増大化及び長時間駆動の要望から、安価でかつ高容量な非水電解質二次電池の開発が求められており、コバルト酸リチウムよりも安価であるニッケルコバルトマンガン酸リチウムを正極活物質として用いた場合の、非水電解質二次電池の高容量化に関する技術の開発が進められている。
【0009】
非水電解質二次電池を高容量化する方法としては、
(1)活物質の容量を高くする、
(2)充電電圧を高くする、
(3)活物質の充填量を増やし充填密度を高くする、
などの方法が考えられる。
【0010】
充電電圧を高くした非水電解質二次電池が抱える問題として、一般的に、サイクル特性の低下やガス発生による電池厚みの増加が挙げられる。本発明者がニッケルコバルトマンガン酸リチウムを正極活物質として用い、かつ、正極の充電電位をリチウム基準で4.4Vよりも高くした場合の高温環境下におけるサイクル特性について調査したところ、コバルト酸リチウムに比べてサイクル初期の容量低下は小さいものの、一定のサイクル数を経過すると急激な容量低下が見られるという問題があることが判明した。
【0011】
更に、本発明者がサイクル特性の調査に用いた電池を分析した結果、正極活物質としてのニッケルコバルトマンガン酸リチウムは、コバルト酸リチウムに比べて電解液中への遷移金属の溶解量は少ないが、電解液の分解によるガス発生量や負極上への金属リチウムの析出量が多いことがわかった。
【0012】
この分析調査結果から、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムを正極活物質として用いた場合に上述した充放電サイクル特性が見られる原因は、次のように推測される。すなわち、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムのサイクル初期の容量低下が小さいのは、その遷移金属成分の溶出量が少なく、正極活物質自体の容量低下が少ないためであると考えられる。一方、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムのガス発生量の多さは、充電時に副反応が生じていることを示すものであり、その分だけ負極側では正極に比べて過剰に充電されることになる。
【0013】
この過剰充電量は放電に寄与することなく、不可逆容量として負極側で蓄積することになる。本来非水電解質二次電池では、正極よりも負極の充電容量が大きくなるように設計されているが、上記のように負極側で不可逆容量が徐々に蓄積すると、所定のサイクル数が経過したときに正負極間の充電容量が逆転する容量バランス崩れが発生してしまう。そのため、所定のサイクル数が経過した後には、充電時に負極側では金属リチウムが析出することとなるため、急激な容量低下が生じてしまうものと推測される。
【0014】
本発明は上述のような従来技術の問題点を解決すべくなされたものであり、正極活物質としてニッケルコバルトマンガン酸リチウムを用い、かつ、正極の充電電位をリチウム基準で4.4Vよりも高くした場合であっても、高温サイクル特性に優れた非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【0015】
なお、上記特許文献3には、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiMn等のリチウムと可逆的に反応する正極活物質を主構成材料とし、かつアルカリ性を示す正極合剤ペーストを、アルカリに対し腐蝕性を有する金属集電体に塗着した正極板を用いた非水電解液二次電池であって、前記正極活物質に対して重量比で100〜10000ppmのMoOを添加した非水電解液二次電池の発明が開示されている。
【0016】
上記特許文献3における正極合剤ペーストへのMoOの添加は、金属集電体の腐蝕の軽減及び正極合剤ペーストの塗着性の向上のためになされているものであり、正極活物質としてニッケルコバルトマンガン酸リチウムを用い、かつ、正極の充電電位をリチウム基準で4.40Vよりも高くした場合において、正極活物質合剤中に特定量の酸化モリブデンを添加した際の高温サイクル特性については何も検討されていない。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するため、本発明の非水電解質二次電池は、
リチウムイオンの吸蔵・放出が可能な正極活物質を含む正極活物質合剤層を備えた正極極板と、リチウムイオンの吸蔵・放出が可能な負極活物質を含む負極活物質合剤層を備えた負極極板と、非水電解質とを備える非水電解質二次電池において、
前記負極活物質として、炭素材料を含有し、
前記正極活物質として、LiNiCoMn1−x−y(0.9≦a≦1.1、0<x<1、0<y<1、2x≧1−y)で表されるニッケルコバルトマンガン酸リチウムを、少なくとも1質量%以上含有し、
前記正極活物質合剤層には、酸化モリブデン(MoO;2≦z≦3)をニッケルコバルトマンガン酸リチウムに対して0.01〜3.0質量%含有している、ことを特徴とする。
【0018】
本発明の非水電解質二次電池によれば、正極活物質としてニッケルコバルトマンガン酸リチウムを用い、かつ、正極の充電電位をリチウム基準で4.4Vよりも高くした場合であっても、充電時の副反応が抑制されて、高温環境下における充放電サイクル後の容量維持率が向上すると共に電池厚みの増加も抑制されるという、優れた高温サイクル特性を備えた非水電解質二次電池が得られる。
【0019】
本発明の上記効果は、以下のような作用メカニズムによって生じるものと推測される。
すなわち、2酸化モリブデン、3酸化モリブデン、及びその非化学両論組成体はリチウム基準の電位で1.0〜2.5Vあたりに反応電位が存在するため、正極活物質合剤中に混合された酸化モリブデンは、充放電反応そのものには寄与しないが、徐々に化学的に溶解する特徴がある。
【0020】
電解液中に溶解したモリブデンイオンは負極側へ拡散し、やがて負極上で還元される。この還元反応には正極上でのガス発生を原因とする、正極と負極の容量比(=負極充電容量/正極充電容量)が1未満になるという容量バランス崩れを補正する働きがある。すなわち、酸化モリブデンの溶解・析出により、負極側で蓄積する過剰充電量が消費されるような作用が生じることで容量バランス崩れが補正されるため、サイクル特性が向上するものと考えられる。
【0021】
また、金属陽イオンの析出形態を考察すると、核生成反応よりも成長反応の方が速い場合は集中析出を起こし、成長反応よりも核生成反応が速い場合は、比較的分散した状態で析出する。この析出形態の違いは元素(イオン種)に特有のもので、例えば銅イオンやニッケルイオンなどは比較的集中析出しやすい。
【0022】
このような集中析出を起こした場合、負極の活性サイトを閉塞し、リチウムインターカレーション反応を阻害してしまい、更に析出が進行した場合には、セパレータを貫通し、正負極が局部的にショートする現象が見られる。このような状態になった電池は、正常に充放電できなくなる。
【0023】
一方、モリブデンは分散した状態で析出するため、負極の活性サイトを閉塞しにくく、インターカレーション反応の阻害が抑制されているものと考えられる。すなわち、正極合剤中に混合する酸化物は何でも良いわけではなく、析出形態を考慮に入れる必要がある。この点において酸化モリブデンは、他の酸化物または金属と比較して優れるものであると考えられる。
【0024】
なお、上記と同様の理由で、正極材料中に混合された酸化モリブデンは均一に分散された状態であることが好ましく、粒子径は適度に小さいことが良い。具体的にはレーザー回折法により測定される粒度分布において、D50が5〜10μmであり、D90が30μm以下であることが好ましい。
【0025】
また、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムはコバルト酸リチウムに比べて、真密度が低く充填性が劣る。そのため、高エネルギー密度と正極活物質材料のコストダウンの両立を図ろうとした場合、充填性の高いコバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム及びニッケルコバルト酸リチウムのうちの少なくとも1種との混合物を正極活物質とすることが有効である。
【0026】
また、本発明においては、負極活物質としてリチウムイオンを可逆的に吸蔵・放出することが可能な黒鉛、コークスなどの炭素材料や、酸化スズ、金属リチウム、珪素などのリチウムと合金化し得る金属及びそれらの合金等を使用することができるが、中でも黒鉛を用いることが好ましい。さらに、負極の芯体としては銅又は銅合金からなるものを用いることができる。
【0027】
また、本発明においては、正極合剤中に、従来から普通に使用されている導電剤や結着剤等を含んでいてもよい。また、正極の芯体としてはアルミニウム又はアルミニウム合金からなるものを用いることができる。
【0028】
また、本発明においては非水電解質の非水溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)などの環状炭酸エステル、フッ素化された環状炭酸エステル、γ−ブチロラクトン(BL)、γ−バレロラクトン(VL)などの環状カルボン酸エステル、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、ジブチルカーボネート(DBC)などの鎖状炭酸エステル、フッ素化された鎖状炭酸エステル、ピバリン酸メチル、ピバリン酸エチル、メチルイソブチレート、メチルプロピオネートなどの鎖状カルボン酸エステル、N、N'−ジメチルホルムアミド、N−メチルオキサゾリジノンなどのアミド化合物、スルホランなどの硫黄化合物、テトラフルオロ硼酸1−エチル−3−メチルイミダゾリウムなどの常温溶融塩などを使用し得る。これらは2種以上混合して用いることが好ましい。特に、イオン伝導度を高めるために、誘電率の高い環状炭酸エステルと粘度の低い鎖状炭酸エステルを混合して用いることがより好ましい。
【0029】
なお、本発明においては、非水電解質中に電極の安定化用化合物として、更に、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチルカーボネート(VEC)、無水コハク酸(SUCAH)、無水マイレン酸(MAAH)、グリコール酸無水物、エチレンサルファイト(ES)、ジビニルスルホン(VS)、ビニルアセテート(VA)、ビニルピバレート(VP)、カテコールカーボネート、ビフェニル(BP)などを添加してもよい。これらの化合物は、2種以上を適宜に混合して用いることもできる。
【0030】
また、本発明においては、非水溶媒中に溶解させる電解質塩として、非水電解質二次電池において一般に電解質塩として用いられるリチウム塩を用いることができる。このようなリチウム塩としては、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiC(CFSO、LiC(CSO、LiAsF、LiClO、Li10Cl10、Li12Cl12など及びそれらの混合物が例示される。これらの中でも、LiPF(ヘキサフルオロリン酸リチウム)が特に好ましい。前記非水溶媒に対する電解質塩の溶解量は、0.8〜1.5mol/Lとするのが好ましい。
【0031】
更に、本発明の非水電解質二次電池においては、非水電解質は液状のものだけでなく、ゲル化されているものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】実施例1及び比較例1に関してサイクル回数と容量維持率との関係を表したグラフである。
図2】比較例5及び6に関してサイクル回数と容量維持率との関係を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明を実施するための形態を実施例及び比較例を用いて詳細に説明する。ただし、以下に示す実施例は、本発明の技術思想を具体化するための非水電解質二次電池を例示するものであって、本発明をこの実施例に特定することを意図するものではなく、本発明は特許請求の範囲に示した技術思想を逸脱することなく種々の変更を行ったものにも均しく適用し得るものである。
【0034】
[実施例1]
[正極活物質]
正極活物質としてのニッケルコバルトマンガン酸リチウムは以下のようにして得た。出発原料として、リチウム源には水酸化リチウム(LiOH・HO)を用いた。遷移金属源にはニッケル、コバルト及びマンガンの共沈水酸化物(Ni0.33Co0.34Mn0.33(OH))を用いた。これらをリチウムと遷移金属(ニッケル、コバルト及びマンガン)のモル比が1:1になるように秤量し混合した。得られた混合物を酸素雰囲気下において400℃で12時間焼成し乳鉢で解砕した後、さらに酸素雰囲気下において900℃で24時間焼成し、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムを得た。これを乳鉢で平均粒径15μmになるまで粉砕して、本実施例で用いる正極活物質とした。なお、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムの化学組成はICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合プラズマ発光分析)により測定した。
【0035】
[正極活物質合剤スラリーの調製]
上記のようにして得られた正極活物質としてのニッケルコバルトマンガン酸リチウムに対して、三酸化モリブデン(MoO)を0.1質量%添加した後混合し、正極活物質と三酸化モリブデンとの混合物を得た。
この混合物96質量部に対し、導電剤としての炭素粉末が2質量部、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン粉末が2質量部となるよう混合し,これをN−メチルピロリドン(NMP)溶液と混合して正極活物質合剤スラリーを調製した。
【0036】
[正極極板の作製]
上記のようにして得られた正極活物質合剤スラリーを厚さ15μmのアルミニウム製正極芯体の両面にドクターブレード法により、塗布質量が片面で21.2mg/cm、両面で42.4mg/cm、一方の面の塗布部分が277mm、未塗布部分が57mm、他方の面の塗布部分が208mm、未塗布部分が126mmとなるように塗布した。その後、乾燥機中を通過させて乾燥させることにより、正極芯体の両面に正極活物質合剤層を形成した。次いで、圧縮ローラーを用いて両面塗布部分の厚みが132μmになるように圧縮することで、本実施例に用いる正極極板を得た。
【0037】
[負極極板の作製]
負極活物質としての黒鉛97.5質量部と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)1.0質量部と、結着剤としてのスチレンブタジエンゴム(SBR)1.5質量部とを、適量の水と混合して負極活物質合剤スラリーとした。この負極活物質合剤スラリーを厚さ10μmの銅製負極芯体の両面にドクターブレード法により、塗布質量が片面で11.3mg/cm、両面で22.6mg/cm、一方の面の塗布部分が284mm、未塗布部分が33mm、他方の面の塗布部分が226mm、未塗布部分が91mmとなるように塗布した。その後、乾燥機中を通過させて乾燥させることにより、負極芯体の両面に負極活物質合剤層を形成した。次いで圧縮ローラーを用いて両面塗布部分の厚みが155μmとなるように圧縮しすることで、本実施例に用いる負極極板を得た。
【0038】
なお、充電時の黒鉛の電位はLi基準で約0.1Vである。また、正極及び負極の活物質充填量は、設計基準となる正極活物質の電位において、正極と負極の充電容量比(負極充電容量/正極充電容量)を1.1となるように調整した。
【0039】
[電解液の調製]
エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比3:7で混合した溶媒に対し、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を、濃度が1mol/Lとなるように溶解させた後、ビニレンカーボネート(VC)を1質量%添加することで本実施例に用いる電解液を調製した。
【0040】
[扁平状巻回電極体の作製]
上記のようにして作製した正極極板と負極極板とを、正極極板にはアルミニウム製のリード線を、負極極板にはニッケル製のリード線を溶接した後、ポリエチレン製微多孔膜から成るセパレータを介して扁平型に巻回することで、本実施例に用いる渦巻状の電極体を作製した。
【0041】
[非水電解質電池の作製]
上記のようにして作製した扁平状巻回電極体をラミネート容器に封入し、Arを満たしたグローブボックス内で、上記のようにして得られた電解液を注液した。その後、注液口を塞ぐことで、本実施例にかかる非水電解質二次電池(設計容量:800mAh)を作製した。
【0042】
[実施例2及び3]
実施例2及び3においては、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム中のニッケル、コバルト、マンガンの組成比を変更した点以外は、実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0043】
[実施例4〜6]
実施例4〜6においては、実施例1ないし2で用いたニッケルコバルトマンガン酸リチウムとコバルト酸リチウムとを所定の混合比で混合した混合物を正極活物質として用い、更に、実施例6においては、MoOの混合量を正極活物質に対して、0.01質量%に変更した点以外は、実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0044】
正極活物質としてのコバルト酸リチウムは以下のようにして得た。出発原料として、リチウム源には炭酸リチウム(LiCO)を用いた。コバルト源には、炭酸コバルトを550℃で焼成し、熱分解反応によって得られた四酸化三コバルト(Co)を用いた。これらをリチウムとコバルトのモル比が1:1になるように秤量し乳鉢で混合した。得られた混合物を空気雰囲気下において850℃で20時間焼成し、コバルト酸リチウムを得た。これを乳鉢で平均粒径15μmまで粉砕することで、正極活物質とした。なお、コバルト酸リチウムの化学組成はICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合プラズマ発光分析)により測定した。
【0045】
[実施例7、8及び比較例4]
実施例7、8及び比較例4においては、正極活物質合剤中のMoOの含有量を変更した点以外は実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0046】
[実施例9]
実施例9においては、正極活物質合剤中に添加する酸化モリブデンを、MoOに変更した点以外は実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0047】
[比較例1〜3]
比較例1〜3においては、酸化モリブデンを添加しない点以外は、それぞれ実施例1、2及び4と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0048】
[比較例5及び6]
比較例5及び6においては、正極活物質としてニッケルコバルトマンガン酸リチウム用いず、コバルト酸リチウムのみを用いて、非水電解質二次電池を作製した。両者の差異は、酸化モリブデンの添加の有無の違いである。
【0049】
[高電圧高温サイクル特性試験]
上記のようにして作製された各実施例及び比較例にかかる非水電解質二次電池について、下記の条件で高電圧高温サイクル特性試験を行った。
・充電:1.0It(800mA)の電流で電池電圧が4.4V(正極電位はリチウム基準で4.5V)となるまで定電流充電を行い、その後4.4Vの定電圧で電流値が1/20It(40mA)となるまで充電した。
・放電:1.0Itの電流で電池電圧が3.0V(正極電位はリチウム基準で3.1V)となるまで定電流放電を行った。
・休止:充電完了から放電開始、放電終了から充電開始の間の休止間隔は、それぞれ10分間とした。
・環境温度:45℃の恒温槽内で実施した。
上記の条件での充電−休止−放電−休止を、1サイクルの充放電とし、充放電サイクルを200サイクル繰り返し、1回目の放電容量及び200回目の放電容量から、以下の計算式によって得られる値を200サイクル後容量維持率(%)として求めた。
200サイクル後容量維持率(%)
=(200サイクル目放電容量/1サイクル目放電容量)×100
【0050】
また、上記サイクル特性試験の前と後のそれぞれにおいて、各実施例及び比較例について電池厚みを測定し、連続充放電200サイクルによる電池厚みの増加量(サイクル試験後の電池厚み − サイクル試験前の電池厚み)を求めた。
これらの結果を表1に纏めて示す。
【0051】
【表1】
【0052】
また、実施例1、比較例1、5及び6については、充放電サイクル毎に放電容量を測定して各サイクル後における容量維持率を算出し、充放電の繰り返しに伴う容量低下の遷移を確認した。実施例1と比較例1との比較を図1に示し、比較例5と比較例6との比較を図2に示す。
【0053】
表1及び図1、2に示した結果より、以下のことが分かる。
すなわち、正極活物質としてニッケルコバルトマンガン酸リチウムを用い、かつ、正極活物質合剤中に酸化モリブデンを含有する実施例1〜3、7及び8の非水電解質二次電池は、酸化モリブデンを含まない比較例1及び2と比べて、200サイクル後の容量維持率が高く、電池厚みの増加量も少ない。
【0054】
図1を参照すると、正極活物質合剤中に酸化モリブデンが含まれていない比較例1においては50〜100サイクルで急激に容量が劣化している。この変極点は正極と負極の容量比(=負極充電容量/正極充電容量)が1を割ったタイミングを示すものであり、ここを境に負極上へLi金属が析出し始めているものと推測される。
【0055】
一方、実施例1においては急激な容量低下が生じておらず、良好なサイクル特性を示しいる。このことから、酸化モリブデンを正極活物質合剤中に添加することにより、正極と負極の容量比が1を割ってしまうという容量バランスの崩れが抑制されることによって、本発明の上記効果が生じているものと考えられる。
【0056】
また、正極活物質としてコバルト酸リチウムのみを用いた比較例5及び6においては、モリブデン添加の有無によって、200サイクル後の容量維持率に差は生じていない。図2を参照すると、正極活物質合剤中に酸化モリブデンが含まれていない比較例5においても、比較例1で見られたような急激な容量低下が生じていないことが確認でき、比較例5及び6ではサイクル特性に違いが生じていない。
【0057】
このことは、コバルト酸リチウムはニッケルコバルトマンガン酸リチウムと比較して充電時の副反応が少なく、そのため、コバルトが溶解して負極上に還元析出するためニッケルコバルトマンガン酸リチウムのような容量バランスの崩れが発生していないものと推測される。従って、正極活物質としてコバルト酸リチウムのみを用いた場合には、正極活物質合剤へのモリブデン添加による上記効果は生じない。
【0058】
また、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムとコバルト酸リチウムとを混合して正極活物質として用いた実施例4〜6においては、比較例3と比べて良好なサイクル特性を示しており、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムとコバルト酸リチウムの混合物を正極活物質として用いた場合であっても上記効果は奏されることがわかる。従って、正極活物質として、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムを少なくとも含有していれば、ニッケル酸リチウム、ニッケルコバルト酸リチウムといった、他のリチウム遷移金属複合酸化物との混合物を用いた場合であっても、正極活物質合剤へのモリブデン添加による上記効果が奏されることが示唆される。
【0059】
また、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムは、コバルト酸リチウムに比べて真密度が低く充填性が劣るため、高エネルギー密度と正極活物質材料のコストダウンの両立を図ろうとした場合、充填性の高いコバルト酸リチウムや、ニッケル酸リチウムないしニッケルコバルト酸等と、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムを混合して正極活物質として用いることが有用であり、そのような場合において本発明を適用することが可能である。
【0060】
また、実施例9の結果より、添加する酸化モリブデンはMoOであっても本発明の上記効果が有効に奏されることがわかる。
【0061】
正極活物質合剤中への酸化モリブデンの添加量については、実施例6の結果より、正極活物質に対して0.01質量%以上であれば本発明の効果が奏されることが分かる。一方、比較例4では200サイクル後の電池膨れに関しては比較例1〜3に対して抑制効果が認められるものの、200サイクル後の容量維持率が極端に低下しており、正極活物質に対して5.0質量%以上といったような過剰量の酸化モリブデンの添加は好ましくないことが分かる。
【0062】
これは、酸化モリブデンの添加量が過剰であるために、正極から溶解した酸化モリブデン(モリブデンイオン)が負極へ大量に析出することによって負極材料の活性サイトを閉塞してしまい、リチウムインターカレーション反応を阻害してしまっているものと推測される。
【0063】
また、実施例7及び8の結果より、酸化モリブデンの添加量が正極活物質に対して2.0質量%以下であれば、上記のような容量維持率の極端な低下は生じないことが分かる。
【0064】
従って、実施例8と比較例4の結果から内挿すると、正極活物質合剤中への酸化モリブデンの添加量は正極活物質に対して正極活物質に対して3.0質量%程度に留めておくことが好ましい。
図1
図2