(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記チューブを構成するアルミニウム合金が、Si:0.1〜0.6質量%、Fe:0.1〜0.6質量%、Mn:0.1〜0.6質量%を更に含むことを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金製熱交換器組立体。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のアルミニウム合金製熱交換器は、Si粉末:1〜5g/m
2、Zn含有フラックス:3〜20g/m
2、バインダ:0.2〜8.3g/m
2からなるろう付用塗膜が表面に形成されたアルミニウム合金製のチューブと、Mn:0.8〜2.0質量%、Si:Mn量の1/2.5〜1/3.5、Fe:0.30質量%未満であり、Znの含有量が前記ろう付塗膜中のZn含有フラックス量との関係において、
図5に示す点A、B、C、D、E、Fで囲まれる範囲内となるアルミニウム合金フィンとを組合せてろう付されたアルミニウム合金製熱交換器であって、
前記ろう付け後に前記チューブと前記アルミニウム合金フィンとの間に前記ろう付用塗膜の溶融凝固物からなるフィレットが生成され、該フィレットにおいて、前記フィンとチューブを接合する初晶部が生成され、該初晶部以外の部分に共晶部が生成されるとともに、前記初晶部の電位が前記アルミニウム合金フィンの電位と同等又は前記アルミニウム合金フィンの電位よりも高くされてなるアルミニウム合金製熱交換器である。
なお、初晶部の電位をアルミニウム合金フィンの電位と同等とする場合、実質的に同等であればよく、初晶部の電位がアルミニウム合金フィンの電位より低い場合も、電位差が5mVまでであれば許容される。
【0015】
発明者らは、チューブ、フィン及びヘッダーパイプを主構成要素とし、これらのろう付によって製造されるアルミニウム合金製熱交換器における構成要素の接合部の腐食機構について研究した。その結果、フィン接合部のフィレットが優先的に腐食し、フィンがチューブから分離することを防止するため、ろう付用塗膜中のZn含有フラックス量とフィンのZn量との関係を研究し、両者を適正な関係になるように規定すれば、上述の問題を解決できることを見出した。
フィレットの優先腐食は、犠牲陽極フィンの電位よりフィレットの電位が低く(卑)なることが原因である。そこで、詳細にフィレットの腐食機構について研究した。
【0016】
この研究の結果、この種のろう付け接合される熱交換器において、フィンとチューブ3との接合部に形成されるフィレット9は、初晶部9a、9bと共晶部9cとから形成されていることが判明した。
フィレット9において、ろう付過程の冷却時に液相ろうが最初に凝固し始めた部位が初晶部9a、9bであり、初晶部9a、9bが生成している際に溶融していた部位が冷却の進行に応じ共晶部9cとなる。本発明者らの研究により、このようにフィレット9に形成された初晶部9a、9bは、共晶部9cに比べZn濃度が低くなり、電位的に高い(貴)状態にできることが分かった。即ち、フィレット9において共晶部9cは初晶部9a、9bよりZn濃度が高く腐食され易く、初晶部9a、9bは共晶部9cよりZn濃度が低く腐食され難いことになる。
【0017】
本発明者の研究により、Znを含んだフィレット9が優先的に腐食される場合であっても、フィレット9の共晶部9cのみを優先的に腐食させ、Znが少なく、電位の高い初晶部9a、9cを腐食させなければ、熱交換器においてフィン4とチューブ3の接合を長期間維持できることが分かった。
また、フィレット9の初晶部9a、9bを腐食し難くするには、フィン4とチューブ3の接合部近傍の犠牲陽極となるフィン4よりも初晶部9a、9bを電位的に実質的に同等もしくは高くすれば良く、そのためには、ろう付用塗膜中のZn含有フラックス量と、犠牲陽極効果を効率よく発揮できる組成としたフィン4のZn量をそれぞれ適正な範囲内に調整することで実現可能であることを知見した。
【0018】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
図1は、本発明に係わる熱交換器の一例を示すものである。この熱交換器100は左右に離間し平行に配置されたヘッダーパイプ1、2と、これらのヘッダーパイプ1、2の間に相互に間隔を保って平行に、かつ、ヘッダーパイプ1、2に対して直角に接合された複数の扁平状のチューブ3と、各チューブ3に付設された波形のフィン4を主体として構成されている。ヘッダーパイプ1、2、チューブ3及びフィン4は、後述するアルミニウム合金から構成されている。
【0019】
より詳細には、ヘッダーパイプ1、2の相対向する側面に複数のスリット6が各パイプの長さ方向に定間隔で形成され、これらヘッダーパイプ1、2の相対向するスリット6にチューブ3の端部を挿通してヘッダーパイプ1、2間にチューブ3が架設されている。また、ヘッダーパイプ1、2間に所定間隔で架設された複数のチューブ3、3の間にフィン4が配置され、これらのフィン4がチューブ3の表面側あるいは裏面側にろう付されている。即ち、
図2に示す如く、ヘッダーパイプ1、2のスリット6に対してチューブ3の端部を挿通した部分においてろう材によりフィレット8が形成され、ヘッダーパイプ1、2に対してチューブ3がろう付されている。また、波形のフィン4において波の頂点の部分を隣接するチューブ3の表面または裏面に対向させてそれらの間の部分に生成されたろう材によりフィレット9が形成され、チューブ3の表面と裏面に波形のフィン4がろう付されている。
この形態の熱交換器100は、後述する製造方法において詳述するように、ヘッダーパイプ1,2とそれらの間に架設された複数のチューブ3と複数のフィン4とを組み付けて
図3に示す如く熱交換器組立体101を形成し、これをろう付けすることにより製造されたものである。
【0020】
ろう付前のチューブ3には、フィン4が接合される表面と裏面に、Si粉末:1〜5g/m
2、Zn含有フラックス(KZnF
3):3〜20g/m
2、バインダ(例えば、アクリル系樹脂):0.2〜8.3g/m
2からなるろう付用塗膜7が形成されている。
本実施形態のチューブ3は、その内部に複数の通路3cが形成されるとともに、平坦な表面(上面)3A及び裏面(下面)3Bと、これら表面3A及び裏面3Bに隣接する側面とを具備する偏平多穴管として構成されている。そして、一例としてろう付前のチューブ3の表面3Aと裏面3Bにろう付用塗膜7が形成されている。
【0021】
以下、ろう付用塗膜を構成する組成物について説明する。
<Si粉末>
Si粉末は、チューブ3を構成するAlと反応し、フィン4とチューブ3を接合するろうを形成するが、ろう付時にSi粉末が溶融してろう液となる。このろう液にフラックス中のZnが拡散し、チューブ3の表面に均一に広がる。液相であるろう液内でのZnの拡散速度は固相内の拡散速度より著しく大きいので、チューブ3表面のZn濃度がほぼ均一となり、これにより均一なZn拡散層が形成され、チューブ3の耐食性を向上することができる。
【0022】
Si粉末塗布量:1〜5g/m
2
Si粉末の塗布量が1g/m
2未満であると、ろう付性が低下する。一方、Si粉末の塗布量が5g/m2を超えると、過剰なろう形成によりフィレットにZnが濃縮しやすく、未反応Si残渣が発生するとともに、チューブの腐食深さが大きくなり、フィンの分離を防止しようとする目的の効果が得られない。このため、塗膜におけるSi粉末の含有量は1〜5g/m
2とする。好ましくは、塗膜におけるSi粉末の含有量は、1.5〜4.5g/m
2、より好ましくは2.0〜4.0g/m
2である。ここで用いるSi粉末の粒径は、一例としてD(99)で15μm以下である。D(99)は小径粒側からの体積基準の積算粒度分布が99%となる径である。
【0023】
<Zn含有フラックス>
Zn含有フラックスは、ろう付に際し、チューブ3の表面にZn拡散層を形成し、耐孔食性を向上させる効果がある。また、ろう付時にチューブ3の表面の酸化物を除去し、ろの広がり、ぬれを促進してろう付性を向上させる作用を有する。このZn含有フラックスは、Znを含まないフラックスに比べ活性度が高いので、比較的微細なSi粉末を用いても良好なろう付け性が得られる。
【0024】
Zn含有フラックス塗布量:3〜20g/m
2
Zn含有フラックスの塗布量が3g/m
2未満であると、Zn拡散層の形成が不十分になり、チューブ3の耐食性が低下する。また、被ろう付材(チューブ3)の表面酸化皮膜の破壊除去が不十分なためにろう付不良を招く。一方、塗布量が20g/m
2を超えると、フィレットの初晶部9a、9bでもZn濃縮が顕著になり、フィレットの耐食性が低下して、フィン分離を加速する。このため、Zn含有フラックスの塗布量を3〜20g/m
2とする。好ましくは、Zn含有フラックスの塗布量は、4〜18g/m
2、より好ましくは5〜15g/m
2とする。
なお、ろう付塗膜7中のZn含有フラックス量については、後述する如くフィン4におけるZn含有量との間に密接な相関関係を有するので、その関係については後に詳述する。
Zn含有フラックスは、KZnF
3を主体として用いることが好ましいが、KZnF
3に、必要に応じて、K
1−3AlF
4−6、Cs
0.02K
1−2AlF
4−5、AlF
3、KF、K
2SiF
6などのZnを含有しないフラックスを混合した混合型のフラックスを用いても良い。塗布量はZn含有フラックスが3〜20g/m
2の範囲であれば良い。
Zn含有フラックス中のZn含有量は、35〜45質量%の範囲内とすることが好ましい。
【0025】
<バインダ>
塗布物には、Si粉末、Zn含有フラックスに加えてバインダを含む。バインダの例としては、好適にはアクリル系樹脂を挙げることができる。
バインダ塗布量:0.2〜8.3g/m
2
バインダの塗布量が0.2g/m
2未満であると、加工性(耐塗膜剥離性)が低下する。一方、バインダの塗布量が8.3g/m
2を超えると、ろう付性が低下する。このため、バインダの塗布量は、0.2〜8.3g/m
2とする。なお、バインダは、通常、ろう付の際の加熱により蒸散する。好ましくは、バインダの塗布量は0.4〜6.0g/m
2、より好ましくは0.5〜5.0g/m
2とする。
【0026】
Si粉末、フラックス及びバインダからなるろう付組成物の塗布方法は、本発明において特に限定されるものではなく、スプレー法、シャワー法、フローコータ法、ロールコータ法、刷毛塗り法、浸漬法、静電塗布法などの適宜の方法によって行うことができる。また、ろう付組成物の塗布領域は、チューブ3の全表面としてもよく、また、チューブ3の一部表面とするものであってもよく、要は、少なくともフィン4をろう付するのに必要なチューブ3の表面領域に塗布されていればよい。
【0027】
チューブ3は、質量%で、Cu:0.1%未満、残部がアルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなるが、更に必要に応じ、質量%で、Si:0.1〜0.6%、Fe:0.1〜0.6%、Mn:0.1〜0.6%を含有するアルミニウム合金からなるものでも良い。チューブ3は、これらのアルミニウム合金を押出し加工することによって作製されたものである。
以下、チューブ3を構成するアルミニウム合金の各構成元素の限定理由について説明する。
【0028】
<Cu:0.1%未満>
Cuは、チューブ3の耐食性に影響を与える元素であり、0.1%未満では問題ないが0.1%を超えて含有させると耐食性が低下する傾向となる。他方、Cuを添加すれば、チューブ3の強度が向上するので、0.1%未満の量で添加してもよい。
<Mn:0.1〜0.6%>
Mnは、チューブ3の耐食性を向上するとともに、機械的強度を向上させる元素である。また、Mnは、押出し成形時の押出性を向上する効果をも有する。更にMnは、ろうの流動性を抑制し、フィレットとチューブ表面のZn濃度差を小さくする効果がある。
Mnの含有量が0.1%未満では、耐食性及び強度向上の効果が不十分であり、ろうの流動性を抑制する効果も低下する。一方、Mnを0.6%を超えて含有させると、押出圧力増により押出性が低下する。従って本発明におけるMn含有量は、0.1〜0.6%にすることが好ましい。より好ましいMn含有量は0.15〜0.5%、さらに好ましい含有量は、0.2〜0.4%である。
【0029】
<Si:0.1〜0.6%>
SiもMnと同様に強度と耐食性向上効果を有する元素である。
Siの含有量が0.1%未満では、耐食性及び強度向上の効果が不十分である。一方、Siが0.6%を超えて含有されると、押出性が低下する。従って本発明におけるチューブ3のSi含有量は、0.1〜0.6%にすることが好ましい。より好ましいSi含有量は、0.15〜0.5%、さらに好ましくは0.2〜0.45%である。
<Fe:0.1〜0.6%>
FeもMnと同様に強度と耐食性向上効果を有する元素である。Fe含有量が0.1%未満では耐食性及び強度向上の効果が不十分であり、一方、Feが0.6%を超えて含有されると、押出性が低下する。従って本発明におけるチューブ3のFe含有量は、0.1〜0.6%の範囲にすることが好ましい。より好ましいFe含有量は、0.15〜0.5%、さらに好ましくは0.2〜0.4%である。
<Ti:0.005〜0.2%、Cr:0.05〜0.2%>
TiとCrは必要に応じ含有させても良い元素であり、チューブ3の耐食性を向上させる。しかし、これらの含有量が上記の範囲を超えると合金の押出性が低下する傾向となる。
【0030】
次に、フィン4について説明する。
チューブ3に接合されるフィン4は、質量%で、Mn:0.8〜2.0%、Si:Mn量の1/2.5〜1/3.5、Zn:
図5に示す点A、B、C、D、E、Fで囲まれる範囲、Fe:0.3%未満を含有し、更に、必要に応じて、Zr:0.05〜0.2%、V:0.01〜0.2%、Ti:0.05〜0.2%、及びCr:0.01〜0.2%の1種又は2種以上を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金から構成される。ここで、
図5に示す点A、B、C、D、E、Fで囲まれる範囲については後に詳述する。
フィン4は、上記組成を有するアルミニウム合金を常法により溶製し、熱間圧延工程、冷間圧延工程などを経て、波形形状に加工される。なお、フィン4の製造方法は、本発明としては特に限定をされるものではなく、既知の製法を適宜採用することができる。以下、フィン4を構成するアルミニウム合金の各構成元素の限定理由について説明する。
【0031】
<Mn:0.8〜2.0%>
Mnはフィン4の高温強度及び室温強度を向上させる。
Mnの含有量が0.8%未満では、高温及び室温強度向上効果が不十分であり、一方、Mnの含有量が2.0%を超えると、フィン4を作製する際に加工性が不足する。したがって、フィンを構成する合金におけるMnの含有量は、0.8〜2.0%にする。好ましいMn含有量は0.9〜1.9%、より好ましくは1.0〜1.8%である。
<Si:Mn量の1/2.5〜1/3.5>
Siを含有することによって、Mnとの化合物を形成し、前述のZnの効果と強度向上効果を奏し得るようにする。Si含有量が上記範囲を外れると、フィンの分離が発生し易くなる。好ましいSi含有量は、Mn量の1/2.6〜1/3.4、より好ましくは、1/2.8〜1/3.2である。
<Fe:0.30%未満>
Feの含有量が0.30%を超えると、フィン4を作製する際に加工性やフィン4自身の耐食性を低下させる。他方、Feはフィン4の高温強度及び室温強度を向上させるので、0%を超え0.30%未満の範囲でフィン4に含有されていてもよい。
【0032】
<Zn含有量>
フィン4にZnを含有させることによってフィン4の電位を下げて、フィン4に犠牲防食効果を付与することができる。
フィン4におけるZn含有量については、質量%において0.5%以上、6%以下とする必要がある。フィン4におけるZn含有量が0.5%未満ではフィン4の分離が発生し易くなり、Zn含有量が6%を超えるようであると、自己耐食性が低下する傾向となる。
更に、Zn含有量については、前述のろう付塗膜7中のZn含有フラックス量との相関関係において以下の理由から、
図5に示す点A、B、C、D、E、Fで囲まれる特別な範囲を満足させる必要がある。
【0033】
図4はろう付け後にチューブ3とフィン4の接合部分にフィレット9が形成された状態を示す部分拡大断面図である。フィレット9においてチューブ3側の部分に初晶部9aが形成され、フィン4側の部分に初晶部9bが形成されるとともに、初晶部9a、9bの間の領域に共晶部9cが形成されている。これは、ろう付け時の加熱によりろう付け用塗膜7が溶融され、液体のろうを形成しフィン4とチューブ3の接合部へ流動してフィレット9を形成する。
従って、ろう付時はフィレット9が液体であり、フィン4とチューブ3が固体である。 その後の冷却過程において液体のフィレット9が凝固していくが、まずは固体であるフィン4やチューブ3に接している部位から初晶を形成し固まり始め、初晶部9a、9bを生成し、最終的にフィン4やチューブ3から離れた部位が共晶部9cとなり凝固する。
【0034】
従って、チューブ3とフィン4が最接近している中心部4a部分においてはほとんどが初晶部9a、9bからなり、チューブ3とフィン4が離間しているフィレット9の周辺部分側に向いて共晶部9cの部分の体積が増加する金属組織を呈する。また、ろう付け時の加熱によって生じたろう液の成分の一部がチューブ3の表面側とフィン4の表面側にも拡散するので、初晶部9aはフィレット9の下縁側からチューブ3の表面側にわずかに侵食した状態で生成し、初晶部9bはフィレット9の上縁側からフィン4の表面側にわずかに侵食した状態で生成する。
本発明では、上述のフィレット9において初晶部9a、9bと共晶部9cとが区分けされるように形成されることに鑑み、フィン4の分離を効果的に防止するためには、初晶部9a、9bに適切な量のZnを拡散させることが有効であるとの知見を得た。本実施形態では、上記知見に基づき、ろう付塗膜7中のZn含有フラックス量とフィン4のZn含有量を特定の関係に制御している点が重要である。
【0035】
具体的には、
図5に示す如く横軸にZn含有フラックス量(単位:g/m
2)を示し、縦軸にフィン4のZn含有量(単位;質量%)を示した場合、Zn含有フラックス量:3g/m
2、フィン4のZn含有量0.5質量%を示す点Aと、Zn含有フラックス量:10g/m
2、フィン4のZn含有量2質量%を示す点Bと、Zn含有フラックス量:20g/m
2、フィン4のZn含有量3質量%を示す点Cと、Zn含有フラックス量:20g/m
2、フィン4のZn含有量6質量%を示す点Dと、Zn含有フラックス量:10g/m
2、フィン4のZn含有量5質量%を示す点Eと、Zn含有フラックス量:3g/m
2、フィン4のZn含有量3質量%を示す点Fとで囲まれる範囲内になるように、Zn含有フラックス量とフィン4のZn含有量を規定する必要がある。
【0036】
この
図5に示す点A、B、C、D、E、Fで囲まれる範囲にZn含有フラックス量とフィン4のZn含有量を規定することにより、フィレット9の初晶部9a、9bに適切な量のZnを拡散することができ、初晶部9a、9bを腐食し難くすることができる。
また、
図5に示す点A、B、C、D、E、Fで囲まれる範囲内であっても、Zn含有フラックス量:3g/m
2、フィン4のZn含有量2.6質量%を示す点Gと、Zn含有フラックス量:15g/m
2、フィン4のZn含有量2.6質量%を示す点Iと、Zn含有フラックス量:15g/m
2、フィン4のZn含有量5質量%を示す点Hとで囲まれる3角形領域が最も好ましい範囲である。また、Zn含有フラックス量:3g/m
2、フィン4のZn含有量2.6質量%を示す点Gと、Zn含有フラックス量:3g/m
2、フィン4のZn含有量1.6質量%を示す点Jと、Zn含有フラックス量:7.5g/m
2、フィン4のZn含有量2.6質量%を示す点Kとで囲まれる3角形の範囲が、前記点GHIで囲まれる範囲の次に好ましい範囲である。
【0037】
<Zr:0.05〜0.2%>
Zrは必要に応じてフィン4に含有させることができる元素であり、Feと同様にフィン4の高温強度及び室温強度を向上させる。
Zrの含有量が0.05%未満では、高温強度及び室温強度向上効果が得られず、一方、Zrの含有量が0.2%を超えると、フィン4を作製する際に加工性が不足する。従って本実施形態におけるZrの含有量は、0.05以上、0.2%以下の範囲にすることができる。
<V:0.01〜0.2%>
Vは必要に応じてフィン4に含有させることができる元素であり、Feと同様にフィン4の高温強度及び室温強度を向上させる。
Vの含有量が0.01%未満では、高温強度及び室温強度向上効果が得られず、一方、Vの含有量が0.2%を超えると、フィン4を作製する際に加工性が不足する。従って本実施形態におけるVの含有量は、0.01以上、0.2%以下の範囲にすることができる。好ましいVの含有量は0.05〜0.18%、より好ましくは、0.10〜0.15%である。
【0038】
<Cr:0.01〜0.2%>
Crは必要に応じてフィン4に含有させることができる元素であり、Feと同様にフィン4の高温強度び室温強度を向上させる。
Crの含有量が0.01%未満では、高温強度及び室温強度向上効果が得られず、一方、Crの含有量が0.2%を超えると、フィン4を作製する際に加工性が不足する。従って本実施形態におけるCrの含有量は、0.01以上、0.2%以下の範囲にすることができる。好ましいCrの含有量は、0.05〜0.18%、より好ましくは、0.10〜0.15%である。
本実施形態において、Zr、V、Ti及びCrは、1種又は2種以上を必要に応じて含有させることができる。
【0039】
次に、ヘッダーパイプ1について説明する。
ヘッダーパイプ1は、
図2、
図3に示すように、芯材層11と、芯材の外周側に設けられた犠牲材層12と、芯材の内周側に設けられたろう材層13とからなる3層構造をなしていることが好ましい。
芯材層11の外周側に犠牲材層12を設けることにより、フィン4による防食効果に加えてヘッダーパイプ1による防食効果も得られるため、ヘッダーパイプ1近傍のチューブ3の犠牲防食効果をより高めることができる。
【0040】
芯材層11は、Al−Mn系をベースとした合金から構成することが好ましい。
例えば、Mn:0.05〜1.50%を含有することが好ましく、他の元素として、Cu:0.05〜0.8%、Zr:0.05〜0.15%を含有することができる。
芯材層11の外周側に設けられる犠牲材層12は、Zn:0.6〜1.2%、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金から構成されることが好ましい。犠牲材層12は、クラッド圧延により芯材層11と一体化されている。
なお、本実施形態において例示したヘッダーパイプ1の構造と組成は一例であって、一般的な熱交換器に適用されるヘッダーパイプ1の構造と組成を適宜選択して本実施形態の構造に適用できる。
【0041】
次に、以上説明したヘッダーパイプ1、2チューブ3及びフィン4を主たる構成要素とする熱交換器100の製造方法について説明する。
図3は、フィン4との接合面にろう付用塗膜7を塗布したチューブ3を使用して、ヘッダーパイプ1、2、チューブ3及びフィン4を組み立てた状態を示す熱交換器組立体101の部分拡大図であって、加熱ろう付する前の状態を示している。
図3に示す熱交換器組立体101において、チューブ3はその一端をヘッダーパイプ1に設けたスリット6に挿入し取り付けられている。
【0042】
図3に示すように組み立てられたヘッダーパイプ1、2、チューブ3及びフィン4からなる熱交換器組立体101をろう材の融点以上の温度に加熱し、加熱後に冷却すると、
図2に示すように、ろう材層13、ろう付用塗膜7が溶けてヘッダーパイプ1とチューブ3、チューブ3とフィン4が各々接合され、
図1と
図2に示す構造の熱交換器100が得られる。この時、ヘッダーパイプ1の内周面のろう材層13は溶融してスリット6近傍に流れ、フィレット8を形成してヘッダーパイプ1とチューブ3とが接合される。また、チューブ3の表面のろう付用塗膜7は溶融して毛管力によりフィン4近傍に流れ、フィレット9を形成してチューブ3とフィン4とが接合される。
【0043】
ろう付に際しては、不活性雰囲気などの適切な雰囲気で適温に加熱して、ろう付用塗膜7、ろう材層13を溶解させる。そうすると、フラックスの活性度が上がって、フラックス中のZnが被ろう付材(チューブ3)表面に析出し、その肉厚方面に拡散するのに加え、ろう材及び被ろう付材の双方の表面の酸化皮膜を破壊してろう材と被ろう付材との間のぬれを促進する。
ろう付の条件は特に限定されない。一例として、炉内を窒素雰囲気とし、熱交換器組立体101を昇温速度5℃/分以上でろう付温度(実体到達温度)580〜620℃に加熱し、ろう付温度で30秒以上保持し、ろう付温度から400℃までの冷却速度を10℃/分以上として冷却してもよい。
【0044】
ろう付に際しては、チューブ3及びフィン4を構成するアルミニウム合金のマトリックスの一部がチューブ3に塗布されたろう付用塗膜7の組成物と反応してろうとなって、チューブ3とフィン4とがろう付される。チューブ3の表面ではろう付によってフラックス中のZnが拡散してチューブ3内側よりも卑になる。また、フィレット9において初晶部9a、9bにおいてはZn濃度が共晶部9cよりも低くなり、フィレット9において初晶部9a、9bの方が共晶部9cよりも電位的に貴となるので、初晶部9a、9bの方が腐食され難くなる。
更に、前述の如くろう付塗膜7中のZn含有フラックス量とフィン4におけるZn量との関係を
図5に示す点A、B、C、D、E、Fで囲まれた範囲内に制限しているので、フィン4よりも初晶部9a、9bが電位的に貴となるので、初晶部9a、9bが腐食され難い構造となる。更に、ろう付時において、前記初晶部9a、9bに拡散するZnの量を過剰にならないように制御できるので、前記初晶部9a、9bの電位が前記アルミニウム合金フィン4の電位よりも高くなる。
【0045】
本実施の形態によれば、ろう付に際して、Si粉末の残渣もなく、良好なろう付がなされ、チューブ3とフィン4との間に確実にフィレット9が形成され、初晶部9a、9bも腐食され難くなる。
得られた熱交換器100は、チューブ3の表面に適度なZn層が形成されて孔食が防止され、また、フィレット9の初晶部9a、9bの腐食が抑制され、長期に亘ってチューブ3とフィン4とが確実に接合されたままとなり、良好な熱交換性能が維持される。
【実施例】
【0046】
表1に示す組成のチューブ用Al合金、表2に示す組成のフィン用Al合金試料を溶製した。
チューブ用Al合金を均質加熱処理後、熱間押出で
図8に示す横断面形状(肉厚t:0.30mm×幅W:18.0mm×全体厚T:1.5mm、コーナー部の曲率半径R:0.75mm)の扁平状のチューブ30を作製した。
フィン用Al合金を均質加熱処理後、熱間圧延、冷間圧延することにより厚さ0.08mmの板材を得た。この板材をコルゲート加工することにより、
図6に示すフィン40を作製した。
次に、チューブ30の表面に、ろう材組成物をロール塗布し、乾燥させた。
ろう材組成物は、Si粉末(D(50)粒度2.8μm)、フラックス(KZnF
3:D(50)粒度3.0μm:D(50)は小粒径側からの体積基準の積算粒度分布が50%となる径である。)及びバインダ(アクリル樹脂)と溶剤(イソプロピルアルコール等のアルコールを含む)からなる塗料である。このろう付組成物は、塗布し乾燥した後のろう付塗膜の各要素の塗布量が表3、表4、表5に示す値となるように混合量を定めた。
【0047】
次に、チューブ30及びフィン40を
図6に示すように熱交換器組立体の一部として組み立て、600℃まで加熱して2分間保持し、その後冷却する条件にてろう付を行った。
なお、いずれもろう付は、窒素ガス雰囲気の炉中で行った。
ろう付け後のチューブ及びフィンをSWAAT30日間の腐食試験に供した。試験後にチューブ30に生じた最大腐食深さを測定した。また、試験後に生成している腐食生成物を除去し、
図7に示す如くフィン40が分離するか消滅した部位45の面積率(%)を求めた。
【0048】
フィン分離率(%)は、(腐食試験後のフィン分離率合計面積:
図7の符号45で示す部位の合計面積)/(腐食前フィン合計面積:
図6のL1+L2+L3の領域面積)×100で求められる値である。
ろう付け後の試料No.1〜57について、フィレット初晶部の電位、フィンの電位、チューブ腐食深さ、及びフィン分離率を表6、表7、表8に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
【表5】
【0054】
【表6】
【0055】
【表7】
【0056】
【表8】
【0057】
表3、表4、表5に示す各試料の構成と、表6、表7、表8に示す結果から、本発明で規定した
図5に示す点A、B、C、D、E、Fで囲まれる範囲内にろう付用塗膜のZnフラックス量とフィンのZn含有量を規定した各試料(No.4〜9、11〜18、20〜24、26、28〜30、32、34〜36)においては、
図5に示す点A、B、C、D、E、Fで囲まれる範囲を外れたZnフラックス量あるいは同様範囲を外れたフィンZn量の試料(No.1〜3)に対し、最大腐食深さが小さく、同様範囲を外れた試料(No.10、19、25、27、31、33、38、39)に対し、SWAAT30日間試験後のフィン分離率が低くなった。
また、Si粉末含有量が少ない表5、表8に示すNo.54の試料とSi粉末含有量が多い表5、表8に示すNo.55の試料はいずれもフィン分離率が高くなった。次に、バインダを含んでいない表5、表8に示すNo.56の試料とバインダ含有量が多い表5、表8に示すNo.57の試料は、いずれもチューブ腐食深さが深く、フィン分離率も高くなった。
【0058】
また、表3、表4、表5に示す各試料の構成と、表6、表7、表8に示す結果から、
図5に示す点A、B、C、D、E、Fで囲まれる範囲内にろう付用塗膜のZnフラックス量とフィンのZn含有量を規定する場合の条件として、以下の条件もやや影響があることが判明した。
表1に示すチューブ2のCu含有量は0.15%であり、0.1%を超える試料であるが、チューブ2を用いた表4のNo.50の試料はチューブ腐食深さがやや深くなった。
【0059】
表2のNo.25のフィンは本発明範囲よりMn含有量が多く、No.26のフィンはMn含有量が少ないが、これらのフィンを用いた表5、表8のNo.48、49の試料はフィン分離率が高い。表2のNo.21のフィンは本発明範囲よりSi含有量が多く、No.22のフィンはSi含有量が少ないが、これらのフィンを用いた表5、表8のNo.44、45の試料はフィン分離率が高い。表2のNo.17のフィンは本発明範囲よりFe含有量が多いが、このフィンを用いた表5、表8のNo.40の試料はフィン分離率が高い。
表2のNo.16のフィンは本発明範囲よりZn含有量が多いが、このフィンを用いた表4、表7のNo.37の試料はフィン分離率が高い。
以上説明の如く表3、表4、表5に示す各試料の構成と、表6、表7、表8に示す結果から、本発明に係る条件を満足している熱交換器であるならば、耐食性に優れ、耐食試験後においてもフィンの分離が発生し難い熱交換器を提供できることが明らかとなった。