(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
実質的に不溶性の窒素含有物質は、官能基としてニトロ脂肪族部分を有する高分子電解質、ポリニトロスチレン、ニトロセルロースおよびオクチルニトレートからなる群から選択されるN-O官能基を含む一つ以上の化合物;ポリエチレンイミン、ポリアクリルアミド、ポリアニリン、ポリアリルアミン、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリドおよびポリアミドからなる群から選択されるアミン官能基を含む化合物;ならびにN−Oもしくはアミン官能基を含むミセル型構造;を含む、請求項1に記載の電気化学電池。
実質的に不溶性の窒素含有物質は、ポリニトロスチレン、ニトロセルロースおよびオクチルニトレートからなる群から選択される化合物を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の電気化学電池。
非水電解質はさらに、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、アルミニウム塩、芳香族炭化水素およびエーテルからなる群から選択される化合物を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の電気化学電池。
実質的に不溶性の窒素含有物質は、最初はアノード、カソードおよびセパレーターのうちの1つ以上のものの一部を形成する、請求項1〜3のいずれかに記載の電気化学電池。
実質的に不溶性の窒素含有物質は、カチオン、モノマー、オリゴマーおよびポリマーからなる群から選択される不溶性の物質に付加した窒素基を含む、請求項1に記載の電気化学電池。
電解質は、電解質の成分総量に対して、30重量%から90重量%までの1種以上の非水溶媒、0.1重量%から10重量%までのN−O添加剤、1重量%以下の実質的に不溶性の窒素含有物質、および20重量%以下のLiTFSIを含む、請求項14に記載の電気化学電池。
電解質は、電解質の成分量に対して、50重量%から85重量%までの1種以上の非水溶媒、0.5重量%から7.5重量%までのN-O添加剤、1重量%以下の実質的に不溶性の窒素含有物質、および4重量%から20重量%までのLiTFSIを含む、請求項14に記載の電気化学電池。
該添加剤は、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、アルミニウム塩、芳香族炭化水素およびエーテルからなる群から選択される化合物を含む、請求項18に記載の電気化学電池。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に示す本発明の典型的な態様についての説明は単に典型例にすぎず、例示する目的だけのものであることが意図されていて、以下の説明はここで開示する本発明の範囲を限定することを意図していない。
【0022】
様々な典型的な態様によれば、本発明は様々な用途、特に自動車、医療機器、携帯用電子装置、航空、軍事および航空宇宙を含めた用途に適した、改良された電気化学電池およびその様々な構成要素を提供する。
【0023】
本発明の様々な態様に係る電気化学電池は、減少した自己放電、増大した充電容量、増大した再充電率、増大した利用度のうちの1つ以上を示し、また典型的なリチウムアノード電池と比較して過充電の保護性を与える。以下でさらに詳しく示すように、典型的な電気化学電池は、1つ以上の実質的に固定した、または実質的に不溶性の窒素含有化合物を含む。1つ以上の窒素含有化合物を提供することは一般に、例えば電池の充電容量を増大させるためや、高い再充電率を達成するため、および電池の自己放電を減少させるために望ましいだろう。しかし、窒素含有化合物の移動性および/または可溶性が制限されない場合は、窒素含有化合物は電池の充電または放電が行われる間に望ましくない量の窒素ガスおよび/または電池の濃縮を形成するかもしれず、それに対応して電池の容積エネルギー密度が低下するだろう。従って、電気化学電池とその構成要素は、本発明の様々な態様によれば、実質的に固定した、および/または実質的に不溶性の窒素含有化合物を含む。
【0024】
図1は、本発明の様々な典型的な態様に従う、窒素含有化合物を含む電気化学電池100を例示している。電池100は、カソード102(これは場合により、カソード被覆またはカソード層110を含む)、アノード104、電解質106、セパレーター108を含み、また場合により集電体112、114を含む。
【0025】
カソード102は活物質を含む。カソード102およびここで説明する電気化学電池において用いるための適当なカソード活物質には、(これらに限定はされないが)電気活性な遷移金属カルコゲニド、電気活性な導電性ポリマー、および電気活性な硫黄含有物質、およびこれらの組み合わせが含まれる。様々な典型的な態様によれば、カソード活性層は電気活性な導電性ポリマーを含む。適当な電気活性な導電性ポリマーの例としては、(これらに限定はされないが)ポリピロール、ポリアニリン、ポリフェニレン、ポリチオフェンおよびポリアセチレンからなる群から選択される電気活性かつ導電性のポリマーがある。後に詳しく説明するが、本発明の様々な態様によれば、カソード102は1種以上の窒素含有物質をさらに含む。
【0026】
これらの態様の見地によれば、カソード102は1種以上の電気活性な硫黄物質を含み、そして場合により、1種以上の窒素含有物質を含む。ここで言う「電気活性な硫黄含有物質」とは、元素状の硫黄を任意の形態で含むカソード活物質と関連するものであり、この場合、電気化学的な活性には硫黄−硫黄共有結合の分断または形成が含まれる。適当な電気活性な硫黄含有物質としては、(これらに限定はされないが)元素状の硫黄および硫黄原子と炭素原子を含む有機物質(これは高分子であっても、そうでなくてもよい)がある。適当な有機物質としては、ヘテロ原子、導電性ポリマーのセグメント、複合材料、および導電性ポリマーをさらに含むものがある。追加の態様によれば、電気活性な硫黄含有物質には元素状の硫黄が含まれる。他の例によれば、電気活性な硫黄含有物質には元素状の硫黄と硫黄含有ポリマーの混合物が含まれる。
【0027】
本発明の様々な典型的な態様に係る「窒素含有物質」には、N-O官能基(例えばニトロ)および/またはアミン官能基を含む化合物が含まれる。これらの態様の様々な典型的な面によれば、1種以上の窒素含有化合物には、1種以上のモノマー、オリゴマーおよび/または次のものからなる群から選択されるポリマーが含まれる:ポリエチレンイミン、ポリホスファゼン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリアニリン、高分子電解質(例えば、官能基としてニトロ脂肪族部分を有するもの)、およびアミン基を有するもの、例えばポリアクリルアミド、ポリアリルアミドおよびポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ポリイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリアミド、その他同種類のもの。様々な典型的な態様に従って用いるための高分子電解質は、例えば硝酸および芳香族基を有するモノマー、オリゴマーおよび/またはポリマーを用いる直接のニトロ化反応によって合成することができ、それにより、例えばニトロ官能基はモノマー、オリゴマーおよび/またはポリマーの中に組み入れられる。典型的な高分子電解質のために適した典型的なモノマー、オリゴマーおよび/またはポリマーには、ポリスチレン、ポリアリーレン、例えばポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリフェニレン、その他同種類のものが含まれる。
【0028】
追加として、あるいは代替として、窒素含有物質は実質的に不溶性の化合物(例えば、電解質中で不溶性のもの)であってもよい。ここで言う「実質的に不溶性」とは、電解質中の化合物の溶解度が1%未満または0.5%未満であることを意味し、ここで示すパーセントは、特に言及しない限り、全て重量パーセントまたは質量パーセントである。実質的に不溶性の化合物は、例えば、不溶性のカチオン、モノマー、オリゴマーまたはポリマー、例えばポリスチレンまたはセルロースを窒素含有化合物に付加させ、それによりポリニトロスチレンまたはニトロセルロースを形成することによって、形成することができる。一つのそのような実質的に不溶性の化合物はオクチルニトレート(硝酸オクチル)である。追加として、あるいは代替として、K、Mg、Ca、Sr、Alの塩、芳香族炭化水素、またはエーテル(例えばブチルエーテル)のような化合物を電解質に添加してもよく、それによって無機硝酸塩、有機硝酸塩、無機亜硝酸塩、有機亜硝酸塩、有機ニトロ化合物、その他同種類のものなどの窒素含有化合物の溶解度が低下し、それにより可溶性または移動性の窒素含有物質が電解質中で実質的に不溶性および/または実質的に不動性になる。
【0029】
窒素含有物質の移動度および/または溶解度を低下させて実質的に不溶性の窒素含有化合物を形成するための別の方法は、例えば約8〜約25個の炭素原子を有する長い炭素鎖にN-O官能基(例えばニトロ)および/またはアミン官能基を付加させることであり、それにより活性な基(例えばニトレート)が電解質溶液に面しているミセル型構造を形成する。
【0030】
カソード102はさらに、電気活性な遷移金属カルコゲニド、そして場合により結合剤、電解質および導電性添加剤を含んでいてもよい。本発明の様々な典型的な態様によれば、遷移金属カルコゲニド、結合剤、電解質および/または導電性添加剤は(例えばニトロ官能基またはアミン官能基で)官能化されていて、それらは窒素含有化合物である。電気活性な物質は遷移金属カルコゲニドによって封入または含浸されていてもよい。別の態様においては、電気活性な硫黄含有カソード物質のコーティングが、カチオン輸送性でアニオン還元生成物輸送抑制性の遷移金属カルコゲニド組成物の薄い凝集フィルムのコーティングによって封入または含浸されている。さらに別の態様においては、カソードは、カチオン輸送性でアニオン還元生成物輸送抑制性の遷移金属カルコゲニド組成物からなる封入層で個々に被覆された粒状の電気活性な硫黄含有カソード物質を含んでいる。その他の構成も可能である。
【0031】
特定の態様によれば、複合カソードは粒状で多孔質の電気活性遷移金属カルコゲニド組成物であって、場合によりシリカ、アルミナおよびシリケートのような非電気活性な金属酸化物を含んでいて、これはさらに、可溶性で電気活性な硫黄含有カソード物質で含浸されている。これは、電気活性な硫黄含有カソード物質(例えば、電気活性な有機硫黄および炭素-硫黄カソード物質)だけを含むカソードと比較して、エネルギー密度と容量を増大させるのに有益であるかもしれない。これらの態様の様々な面によれば、遷移金属カルコゲニドおよび/または金属酸化物は窒素を含む基で官能化されていて、窒素含有化合物となっていてもよい。
【0032】
カソード102はさらに、増大した電子伝導性を与えるために1種以上の導電性充填剤を含んでいてもよい。導電性充填剤は物質の電気伝導性を増大させることができ、これは例えば、カーボンブラック(例えば、Vulcan XC72Rカーボンブラック、Printex XE2、またはAkzo Nobel Ketjen EC-600 JD)、黒鉛繊維、黒鉛フィブリル、黒鉛粉末(例えば、Fluka #50870)、活性炭繊維、炭素織物、非活性炭素ナノファイバーなどの導電性炭素を含んでいてもよい。導電性充填剤の他の非限定的な例としては、金属を被覆したガラス粒子、金属粒子、金属繊維、ナノ粒子、ナノチューブ、ナノワイヤ、金属フレーク、金属粉末、金属繊維、および金属メッシュがある。幾つかの態様において、導電性充填剤は導電性ポリマーを含んでいてもよい。適当な電気活性な導電性ポリマーの例としては、(これらに限定はされないが)ポリピロール、ポリアニリン、ポリフェニレン、ポリチオフェンおよびポリアセチレンからなる群から選択される電気活性かつ導電性のポリマーがある。当業者に知られたその他の導電性物質を導電性充填剤として用いることもできる。(これが存在する場合の)導電性充填剤の量は、カソード活性層の2〜30重量%の範囲で存在してもよい。本発明の様々な典型的な態様によれば、充填剤はN-O基またはアミン基のような窒素の基で官能化されている。カソード102はさらに、(これらに限定はされないが)金属酸化物、アルミナ、シリカおよび遷移金属カルコゲニドを含めたその他の添加剤を含んでいてもよく、これらはアミン基またはN-O基のような窒素を含有する基で追加的にかまたは代替的に官能化されていてもよい。
【0033】
カソード102は結合剤も含んでいてもよい。幾つかの態様において、結合剤の物質はポリマー材料であってもよい。ポリマー結合剤物質の例としては、(これらに限定はされないが)ポリフッ化ビニリデン(PVDF)をベースとするポリマー、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、PVF2およびそのヘキサフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンとのコポリマーおよびターポリマー、ポリ(フッ化ビニル)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、ポリブタジエン、シアノエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースおよびそのスチレン-ブタジエンゴムとの配合物、ポリアクリロニトリル、エチレン-プロピレン-ジエン(EPDM)ゴム、エチレンプロピレンジエンターポリマー、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリイミドまたはエチレン酢酸ビニルコポリマーがある。幾つかの場合において、結合剤物質は水性流体キャリヤー中で実質的に可溶性であってもよく、また(これらに限定はされないが)セルロース誘導体、典型的にはメチルセルロース(MC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)およびヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリル酸塩、ポリアクリルアミド(PA)、ポリビニルピロリドン(PVP)およびポリエチレンオキシド(PEO)を含んでいてもよい。ひと組の態様において、結合剤物質はポリ(エチレン-コ-プロピレン-コ-5-メチレン-2-ノルボルネン)(EPMN)であり、これはポリスルフィドを含めた電池の構成要素に対して化学的に中性(例えば不活性)であってもよい。UV硬化性のアクリレート、UV硬化性のメタクリレート、および熱硬化性のジビニルエーテルも用いることができる。(これが存在する場合の)結合剤の量は、カソード活性層の2〜30重量%の範囲で存在してもよい。本発明の様々な典型的な態様によれば、結合剤はN-O基(例えばニトロ基)またはアミン基のような窒素の基で官能化されている。
【0034】
幾つかの態様において、カソードは導電性の多孔質支持体構造と実質的にこの支持体構造の細孔の内部に含まれる(例えば、活性な化学種としての)硫黄を含む多数の粒子を含んでいる。
【0035】
多孔質支持体構造は任意の適当な形態を有することができる。幾つかの場合において、多孔質支持体構造は個々の粒子からなる多孔質の凝集物を含むことができ、その中で粒子は多孔質であっても、あるいは非孔質であってもよい。例えば、多孔質支持体構造は、多孔質または非孔質の粒子を結合剤とともに混合することによって形成することができ、それにより多孔質の凝集物が形成される。(多孔質の粒子が用いられる場合)粒子および/または粒子の内部の細孔の間の隙間の中に電極活物質が配置されてもよく、それによってここで説明している本発明の電極が形成される。
【0036】
幾つかの態様において、多孔質支持体構造は「多孔質の連続した」構造体であってもよい。ここで言う多孔質の連続した構造体とは、内部に細孔を含む連続した固体構造体であって、細孔を画定する固体の領域どうしの間に比較的連続した表面を有するものを指す。多孔質の連続した構造体の例としては、例えば、その容積の内部に細孔を有する物質(例えば、多孔質の炭素粒子、金属フォーム(金属気泡体)など)がある。当業者であれば、多孔質の連続した構造体と、例えば多孔質の連続した構造体ではないが、しかし個々の物体からなる多孔質凝集体(この場合、個々の粒子どうしの間の隙間および/またはその他の空孔が細孔であるとみなされるだろう)とを、例えばそれら二つの構造体のSEM画像を比較することによって区別することができるだろう。本発明の様々な態様によれば、多孔質支持体はN-O基および/またはアミン基のような官能性の窒素の基を含み、そしてそれは窒素含有化合物である。
【0037】
多孔質支持体構造は、いかなる適当な形状またはサイズのものであってもよい。例えば、支持体構造は任意の適当な最大断面寸法(例えば、約10mm未満、約1mm未満、約500ミクロン未満など)を有する多孔質の連続した粒子であってよい。幾つかの場合において、多孔質支持体構造(これは多孔質で連続したもの、あるいはそうではないもの)は、比較的大きな最大断面寸法(例えば、少なくとも約500ミクロン、少なくとも約1mm、少なくとも約10mm、少なくとも約10cm、約1mmと約50cmの間、約10mmと約50cmの間、または約10mmと約10cmの間)を有していてもよい。幾つかの態様において、電極の内部の多孔質支持体構造の最大断面寸法は、多孔質の連続した構造体を用いて形成される電極の最大断面寸法の少なくとも約50%、少なくとも約75%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%であってもよい。
【0038】
より特定した例として、カソード102は、約40%よりも多いか、または約45%〜約95%、または約55%〜約75%の電気活性な硫黄含有物質および約20%以下、約0.5%〜約4%、または約1%〜約2%の窒素含有物質を含んでいてもよく、例えば、官能性のN-O基またはアミン基を有する物質と、約40%以下、約2%〜約30%、または約10%〜約20%の充填剤、および約40%以下、約2%〜約30%、または約10%〜約20%の結合剤を含んでいてもよい。
【0039】
前述したように、窒素含有物質は官能化されたポリマー、遷移金属カルコゲニド、金属酸化物、充填剤、および/または結合剤であってもよい。追加してか、または代替として、窒素含有物質は層110の形態であってもよく、これは例えば、1種以上のモノマー、オリゴマーおよび/または次のものからなる群の1種以上から選択されるポリマーで形成されている:ポリエチレンイミン、ポリホスファゼン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリアニリン、高分子電解質(例えば、官能基としてニトロ脂肪族部分を有するもの)、およびアミン基を有するもの、例えばポリアクリルアミド、ポリアリルアミドおよびポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ポリイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリアミド、その他同種類のもの。
【0040】
アノード104は、所定のカソードを有する所定の電気化学電池において用いるのに適したいかなる構造のものであってもよい。アノード104のためのリチウムを含む適当な活物質としては、(これらに限定はされないが)リチウム金属、例えばリチウム箔や基材(例えばプラスチックフィルム)の上に堆積されたリチウム、およびリチウム合金、例えばリチウム・アルミニウム合金やリチウム・スズ合金がある。
【0041】
特定の態様において、アノードの厚さは、例えば約2ミクロンから200ミクロンまで変化するだろう。例えば、アノードは200ミクロン未満、100ミクロン未満、50ミクロン未満、25ミクロン未満、10ミクロン未満、または5ミクロン未満の厚さを有するだろう。厚さの選択は電池の設計パラメーター、例えば望ましいリチウムの過剰量、サイクル寿命、およびカソード電極の厚さに依存するだろう。一つの態様において、アノード活性層の厚さは約2〜100ミクロン(例えば、約5〜50ミクロン、約5〜25ミクロン、または約10〜25ミクロン)の範囲である。
【0042】
アノードの層は、物理的または化学的蒸着法、押出しまたは電気めっきなどの当分野で一般的に知られている任意の様々な方法によって堆積させることができる。適当な物理的または化学的蒸着法の例としては、(これらに限定はされないが)熱蒸発(これには、(これらに限定はされないが)抵抗加熱、誘導加熱、輻射加熱および電子ビーム加熱がある)、スパッタリング(これには、(これらに限定はされないが)ダイオード、DCマグネトロン、RF、RFマグネトロン、パルス、デュアルマグネトロン、AC、MFのそれぞれを用いるもの、および反応性スパッタリングがある)、化学蒸着、プラズマ加速化学蒸着、レーザー加速化学蒸着、イオンプレーティング、カソードアーク、噴射蒸着およびレーザーアブレーションがある。
【0043】
層の堆積は、堆積層における副反応を最小限にするために真空中または不活性雰囲気中で行うことができる。そのような副反応によって層の中に不純物が導入されるか、あるいは層の望ましい形態に影響が及ぶであろう。幾つかの態様において、アノード活性層および多層構造の層は、多段階式堆積装置において連続的なやり方で堆積される。
【0044】
あるいは、アノードがリチウム箔を含むか、あるいはリチウム箔と基材を含む場合、アノード層を形成するために、これらを当分野で知られた積層プロセスによって一緒に積層することができる。
【0045】
図2は、本発明の様々な典型的な態様に係る、ベース(基材)の電極物質層202(これは例えば、リチウムのような電気活性物質を含む)および多層構造204を含むアノード104を例示する。ここでの幾つかの場合において、アノードは「アノードベース材料」、「アノード活物質」などと称し、何らかの保護構造を伴うアノードは包括的に「アノード」と言う。そのような記述の全てが本発明の一部を形成するものと理解されるべきである。この特定の態様において、多層構造204は、単一イオン伝導性物質206、ベース電極物質と単一イオン伝導性物質の間に配置されたポリマー層208、および電極とポリマー層の間に配置された分離層210(例えば、電極のプラズマ処理によって得られる層)を含む。以下で詳しく説明するが、アノード104の様々な構成要素は、本発明の様々な典型的な態様に従って窒素の基で官能化されていてもよい。
【0046】
多層構造204はリチウムイオンを通過させることができ、そしてアノードを損傷するかもしれない他の成分の通過を妨げるだろう。多層構造204は欠陥の数を減らすことができ、それによってベース電極物質の表面の少なくとも幾分かを電流の伝導にあずからせ、高い電流密度によって誘起される表面の損傷を防ぎ、そして/またはアノードを特定の種(例えば、電解質および/またはポリスルフィド)から保護するための有効なバリヤーとして作用する。これについては、後にもっと詳しく説明する。
【0047】
幾つかの態様において、単一イオン伝導性の層206の物質は非ポリマー物質である。特定の態様において、単一イオン伝導性物質の層は、その一部または全体が、リチウムに対して高い伝導性を示し、そして電子に対しては最小限の伝導性を示す金属層によって構成される。言い換えると、単一イオン伝導性物質は、この層をリチウムイオンは通過させるが、しかし電子またはその他のイオンの通過を妨げるように選択されるものとすることができる。この金属層は合金の層(例えばリチウム化金属の層)を含んでいてもよい。合金層のリチウム含有量は、例えば特定の金属の選択、望ましいリチウムイオンの伝導度、および合金層の所望の可撓性に応じて、約0.5重量%から約20重量%まで変化してもよい。単一イオン伝導性物質において用いるのに適した金属としては、(これらに限定はされないが)Al、Zn、Mg、Ag、Pb、Cd、Bi、Ga、In、Ge、Sb、AsおよびSnがある。しばしば、ここに挙げたもののような金属の組み合わせを、単一イオン伝導性物質において用いてもよい。
【0048】
他の態様において、単一イオン伝導性の層206の物質はセラミック層、例えばリチウムイオンに対して伝導性の単一イオン伝導性ガラスを含んでいてもよい。適当なガラスとしては、(これらに限定はされないが)当分野で知られた「改質剤」の部分と「網状構造」の部分を含むものとして特徴づけられるものがある。改質剤はガラス中で伝導性の金属イオンの金属酸化物を含んでいてもよい。網状構造の部分は、例えば金属酸化物または金属硫化物のような、金属カルコゲニドを含んでいてもよい。単一イオン伝導性の層は次のものからなる群から選択されるガラス質物質を含むガラス質の層を含んでいてもよい:窒化リチウム、ケイ酸リチウム、ホウ酸リチウム、アルミン酸リチウム、リン酸リチウム、亜リン酸オキシ窒化リチウム、リチウムシリコスルフィド、リチウムゲルマノスルフィド、酸化リチウム(例えば、Li
2O、LiO、LiO
2、LiRO
2、ここでRは希土類金属)、酸化ランタンリチウム、酸化チタンリチウム、リチウムボロスルフィド、リチウムアルミノスルフィド、およびリチウムホスホスルフィド、およびこれらの組み合わせ。一つの態様において、単一イオン伝導性の層は電解質の形で亜リン酸オキシ窒化リチウムを含む。
【0049】
(例えば、多層構造の中での)単一イオン伝導性物質の層206の厚さは約1nmから約10ミクロンまでの範囲にわたって変化してもよい。例えば、単一イオン伝導性物質の層の厚さは1〜10nmの間の厚さ、10〜100nmの間の厚さ、100〜1000nmの間の厚さ、1〜5ミクロンの間の厚さ、あるいは5〜10ミクロンの間の厚さであってよい。単一イオン伝導性物質の層の厚さは、例えば10ミクロン以下の厚さ、5ミクロン以下の厚さ、1000nm以下の厚さ、500nm以下の厚さ、250nm以下の厚さ、100nm以下の厚さ、50nm以下の厚さ、25nm以下の厚さ、あるいは10nm以下の厚さであってよい。幾つかの場合において、単一イオン伝導性の層は多層構造の中でのポリマー層と同じ厚さを有する。
【0050】
単一イオン伝導性の層206は、スパッタリング、電子ビーム蒸発、真空熱蒸発、レーザーアブレーション、化学蒸着(CVD)、熱蒸発、プラズマ加速化学真空堆積(PECVD)、レーザー加速化学蒸着、および噴射蒸着のような任意の適当な方法によって堆積させることができる。用いられる方法は、堆積される物質の性質または層の厚さなど、堆積される層に関係するあらゆる因子に依存するだろう。
【0051】
幾つかの態様において、多層構造において用いるための適当なポリマー層(例えば、層208のような)は、リチウムに対して高い伝導性を示し、そして電子に対しては最小限の伝導性を示すポリマーを含む。そのようなポリマーの例としては、イオン伝導性ポリマー、スルホン化ポリマー、および炭化水素ポリマーがある。ポリマーの選択は、電池において用いられる電解質やカソードの特性を含めた、多くの因子に依存するだろう。適当なイオン伝導性ポリマーとしては、例えば、固体ポリマー電解質において用いるものとして知られたイオン伝導性ポリマーおよびリチウム電気化学電池のためのゲルポリマー電解質(例えば、ポリエチレンオキシド)がある。
【0052】
適当なスルホン化ポリマーとしては、例えば、スルホン化シロキサンポリマー、スルホン化ポリスチレン-エチレン-ブチレンポリマー、およびスルホン化ポリスチレンポリマーがある。適当な炭化水素ポリマーとしては、例えば、エチレン-プロピレンポリマー、ポリスチレンおよび/またはポリマーがある。
【0053】
多層構造204のポリマー層208はまた、アルキルアクリレート、グリコールアクリレート、ポリグリコールアクリレート、ポリグリコールビニルエーテルおよび/またはポリグリコールジビニルエーテルのようなモノマーの重合によって形成された架橋ポリマー物質をも含んでいてもよい。例えば、一つのそのような架橋ポリマー物質はポリジビニルポリ(エチレングリコール) である。架橋ポリマー物質はさらに、イオン伝導性を高めるために塩(例えばリチウム塩)を含んでいてもよい。一つの態様において、多層構造のポリマー層は架橋ポリマーを含む。
【0054】
ポリマー層において用いるのに適しているであろう、その他の種類のポリマーとしては、(これらに限定はされないが)次のものがある:ポリアミン(例えば、ポリ(エチレンイミン) およびポリプロピレンイミン(PPI));ポリアミド(例えば、ポリアミド(ナイロン)、ポリ(e-カプロラクタム)(ナイロン6)、ポリ(ヘキサメチレンアジパミド)(ナイロン66))、ポリイミド(例えば、ポリイミド、ポリニトリルおよびポリ(ピロメリットイミド-1,4-ジフェニルエーテル)(カプトン));ビニルポリマー(例えば、ポリアクリルアミド、ポリ(2-ビニルピリジン)、ポリ(N-ビニルピロリドン)、ポリ(メチルシアノアクリレート)、ポリ(エチルシアノアクリレート)、ポリ(ブチルシアノアクリレート)、ポリ(イソブチルシアノアクリレート)、ポリ(ビニルアセテート)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルクロリド)、ポリ(ビニルフルオリド)、ポリ(2-ビニルピリジン)、ビニルポリマー、ポリクロロトリフルオロエチレン、およびポリ(イソヘキシルシアノアクリレート));ポリアセタール;ポリオレフィン(例えば、ポリ(ブテン-1)、ポリ(n-ペンテン-2)、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン);ポリエステル(例えば、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヒドロキシブチレート);ポリエーテル(例えば、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポリ(プロピレンオキシド)(PPO)、ポリ(テトラメチレンオキシド)(PTMO));ビニリデンポリマー(例えば、ポリイソブチレン、ポリ(メチルスチレン)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリ(ビニリデンクロリド)、およびポリ(ビニリデンフルオリド));ポリアラミド(例えば、ポリ(イミノ-1,3-フェニレンイミノイソフタロイル)、およびポリ(イミノ-1,4-フェニレンイミノテレフタロイル));ポリヘテロ芳香族化合物(例えば、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリベンゾビスオキサゾール(PBO)、およびポリベンゾビスチアゾール(PBT));ポリ複素環式化合物(例えば、ポリピロール);ポリウレタン;フェノールポリマー(例えば、フェノール-ホルムアルデヒド);ポリアルキン(例えば、ポリアセチレン);ポリジエン(例えば、1,2-ポリブタジエン、シスまたはトランス-1,4-ポリブタジエン);ポリシロキサン(例えば、ポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)、ポリ(ジエチルシロキサン)(PDES)、ポリ(ジフェニルシロキサン)(PDPS)、およびポリ(メチルフェニルシロキサン)(PMPS));および無機ポリマー(例えば、ポリホスファゼン、ポリホスホネート、ポリシラン、ポリシラザン)。
【0055】
上に挙げたポリマー物質および本明細書に記載しているポリマー物質はさらに、イオン伝導性を高めるために塩(例えばリチウム塩(これは例えば、LiSCN、LiBr、LiI、LiClO
4、LiAsF
6、LiSO
3CF
3、LiSO
3CH
3、LiBF
4、LiB(Ph)
4、LiPF
6、LiC(SO
2CF
3)
3、およびLiN(SO
2CF
3)
2))を含んでいてもよい。
【0056】
ポリマー層208の厚さは、例えば約0.1ミクロンから約100ミクロンまでの範囲にわたって変化してもよい。ポリマー層の厚さは、例えば、それがアノードまたはカソードに隣接して配置されているか、バッテリーの中にセパレーターも存在するか、および/またはバッテリー内でのポリマー層の数、に依存するだろう。例えば、ポリマー層の厚さは0.1〜1ミクロンの間の厚さ、1〜5ミクロンの間の厚さ、5〜10ミクロンの間の厚さ、10〜30ミクロンの間の厚さ、あるいは30〜50ミクロンの間の厚さ、50〜70ミクロンの間の厚さ、あるいは50〜100ミクロンの間の厚さであってよい。幾つかの態様において、ポリマー層の厚さは、例えば50ミクロン以下の厚さ、25ミクロン以下の厚さ、10ミクロン以下の厚さ、5ミクロン以下の厚さ、2.5ミクロン以下の厚さ、1ミクロン以下の厚さ、0.5ミクロン以下の厚さ、あるいは0.1ミクロン以下の厚さであってよい。
【0057】
ポリマー層は、電子ビーム蒸発、真空熱蒸発、レーザーアブレーション、化学蒸着、熱蒸発、プラズマ加速化学真空堆積、レーザー加速化学蒸着、噴射蒸着および押出しのような方法によって堆積させることができる。ポリマー層は回転塗布法によって堆積させることもできる。ポリマー層を堆積させるために用いられる方法は、堆積させる物質のタイプまたは層の厚さなどの任意の適当な変数に依存するだろう。本発明の様々な態様によれば、ポリマー層は本明細書で説明している窒素の基で官能化される。
【0058】
図2に例示したアノード104に関する説明で言及したように、一つの特定の態様において、ベースの電極物質層202を電解質106から分離させている保護構造204は、ベースの電極物質層202と分離層210のいずれかに隣接するポリマー層208を含む。他の配置においては、ポリマー層はベースの電極物質層または分離層に隣接する第一の層である必要はない。様々な多層構造を含めて、層の様々な配置が以下で説明されるが、それにおいてはベースの電極物質層に隣接する第一の層はポリマー層であっても、あるいはそうでなくてもよい。層の何らかの特定の配置が示される場合の全ての配置において、層を交互の順序にすることは本発明の範囲内のことであることを理解すべきである。このことにもかかわらず、本発明の一つの見地は、ベースの電極物質層と分離層のいずれかに直接隣接する脆くないポリマー層によって実現する特定の利益を含む。
【0059】
多層構造は、必要に応じて様々な数のポリマーと単一イオン伝導性物質の対を含みうる。一般に、多層構造はn個のポリマーと単一イオン伝導性物質の対を有することができて、ここで、nは電池についての特定の性能基準に基づいて決定することができる。例えば、nは1以上の整数であるか、あるいは2、3、4、5、6、7、10、15、20、40、60、100または1000などの各数値以上であってもよい。
【0060】
他の態様において、多層構造は単一イオン伝導性の層よりも多くの数のポリマー層を含んでいてもよく、あるいはポリマー層よりも多くの数の単一イオン伝導性の層を含んでいてもよい。例えば、多層構造はnのポリマー層とn+1の単一イオン伝導性の層を含んでいてもよく、あるいはnの単一イオン伝導性の層とn+1のポリマー層を含んでいてもよく、ここでnは2以上である。例えば、nは2、3、4、5、6または7であるか、あるいはそれ以上であってもよい。しかし、上で説明したように、それは少なくとも一つのポリマー層と直接隣接していて、またイオン伝導性の層の少なくとも50%、70%、90%または95%において、そのような層はポリマー層のいずれかの側で直接隣接している。
【0061】
別の態様は、ベースの電極物質からなる二つの層の間に配置された埋め込み層(例えば、単一イオン伝導性物質の層のような保護層からなるもの)を含む。これは「ラマノード(lamanode)」構造と称される。
図3はベースの電極物質層からなる第一の層202(例えばリチウム、これはLiリザーバとも称される)、埋め込み層302、およびベースの電極物質を含む第二の層304(作用Li層)を有する典型的なアノード104を例示する。
図3に例示するように、第二の層304はベースの電極物質層202と電解質106の間に配置されている。第二の層304は電解質と直接接触しているか、あるいは何らかの形態の表面層(例えば、電極安定化構造またはここで説明しているもののような多層構造)を介して電解質と間接的に接触している。埋め込み層302によって分離された各々のベースの電極物質層を有する二層アノードの機能は、以下の説明から明らかになるであろう。層302が例示されていて、この説明においては「埋め込み」と記述されているが、この層は部分的または完全に埋め込まれている必要はないことに言及しておく。多くの場合または大部分の場合において、層302は実質的に薄くて二面のある構造であり、それぞれの面がベースの電極物質で被覆されているが、しかしその端部においてはベースの電極物質で覆われていない。
【0062】
一般に、
図3に示す配置の操作において、アノードの第二の層304の幾らかまたは全部は、放電すると(それが電解質の中へ移動するリチウムイオンに転換されるときに)アノードから「失われる」。充電されると、リチウムイオンがアノードの上にリチウム金属としてめっきされるときに、それは層302の上に304の部分(または第二の層304の少なくとも幾らかの部分)としてめっきされる。当業者であれば、ここで説明しているもののような電気化学電池においては、電池の各々の充電/放電のサイクルにおいて少量の総体的なリチウムの喪失があることを知っている。
図3に例示する配置において、層304の厚さ(または層304の質量)は、電池が完全に放電したときに層304の大部分または全部が失われることとなるように選択することができる(すなわち、カソードの完全な「充足」。これは、当業者であれば理解するであろう制限によって充電のプロセスにカソードがもはや参加できなくなった時点をいう)。
【0063】
特定の態様において、層302はリチウムイオンに対して伝導性のものになるように選択される。埋め込み層は、最初のサイクルの高いLi+フラックスがLi層の最上面を損傷するときに下のLi層が損傷するのを遮蔽することができる。従って、特定の放電サイクルにおいて層304の全部が消費されると、さらなる放電によって層202からのリチウムの酸化が生じ、層302をリチウムイオンが通過して、電解質の中へリチウムイオンが放出される。当然のことながら、層304は、それの全部またはほとんど全部が最初の放電時に消費されるものであって、特定の質量を有する必要はない。何回かの放電/充電のサイクルを行うことができ、各々のサイクルを通して本質的に少量のリチウムの損失があり、それにより202の部分からリチウムを取り出して層302を介して電解質の中へ送る必要が生じる。
【0064】
幾つかの態様において、埋め込み層302は0.01〜1ミクロンの間の厚さを有することができ、そしてそれは、例えば埋め込み層を形成するのに用いられる物質のタイプおよび/またはその物質を堆積させる方法に依存するだろう。例えば、埋め込み層の厚さは0.01〜0.1ミクロンの間、0.1〜0.5ミクロンの間、または0.5〜1ミクロンの間であってよい。他の態様において、もっと厚い埋め込み層が考えられる。例えば、埋め込み層は1〜10ミクロンの間、10〜50ミクロンの間、または50〜100ミクロンの間の厚さを有することができる。
【0065】
幾つかの場合において、埋め込まれる物質はポリマー(例えば、リチウムイオン伝導性である上に挙げたものを含むポリマー)で形成することができる。ポリマーの膜を、減圧を用いるPML法、VMT法またはPECVD法などの技術を用いて堆積させることができる。他の場合においては、埋め込み層は金属または半導体物質を含みうる。金属と半導体は、例えばスパッタリングすることができる。
【0066】
特定の例として、アノード104はリチウムを含み、そして窒素含有物質からなる少なくとも一つの層を含む。窒素含有物質は官能化された表面であってもよく、この表面は例えばアミン基またはニトロ基を有し、あるいは1種以上のモノマー、オリゴマーおよび/または次のものからなる群から選択されるポリマーを含む:ポリエチレンイミン、ポリホスファゼン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリアニリン、高分子電解質(例えば、官能基としてニトロ脂肪族部分を有するもの)、およびアミン基を有するもの、例えばポリアクリルアミド、ポリアリルアミドおよびポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ポリイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリアミド、その他同種類のもの。アノードの窒素含有化合物の部分のパーセントは、約20%以下、約0.5%から約5%までの範囲、あるいは約1%から約2%までの範囲とすることができる。
【0067】
電解質106はイオンを貯蔵して輸送するための媒質として機能することができ、また固体電解質およびゲル状電解質の特殊な場合には、これらの物質はさらにアノード104とカソード102の間のセパレーター(例えばセパレーター108)として機能するかもしれない。アノードとカソードの間でイオンを貯蔵して輸送することのできる、あらゆる適当な液体、固体またはゲル物質を用いてもよい。電解質106は、アノード104とカソード102の間の短絡を防ぐために電子非伝導性であってもよい。
【0068】
電解質はイオン伝導性を与えるための1種以上のイオン性電解質の塩と1種以上の液体電解質の溶媒、ゲル状ポリマー物質またはポリマー物質を含むことができる。
【0069】
適当な非水電解質は、液体電解質、ゲル状ポリマー電解質および固体ポリマー電解質からなる群から選択される1種以上の物質を含む有機電解質を含んでいてもよい。
【0070】
有用な非水液体電解質溶媒の例としては、(これらに限定はされないが)非水有機溶媒、例えばN-メチルアセトアミド、アセトニトリル、アセタール、ケタール、エステル、カーボネート、スルホン、スルフィット、スルホラン、脂肪族エーテル、非環式エーテル、環式エーテル、グリム、ポリエーテル、ホスフェートエステル、シロキサン、ジオキソラン、N-アルキルピロリドン、これらの置換された形のもの、およびこれらの混合物がある。用いることのできる非環式エーテルの例としては、(これらに限定はされないが)ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジメトキシメタン、トリメトキシメタン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、1,2-ジメトキシプロパン、および1,3-ジメトキシプロパンがある。用いることのできる環式エーテルの例としては、(これらに限定はされないが)テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソラン、およびトリオキサンがある。用いることのできるポリエーテルの例としては、(これらに限定はされないが)ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグリム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグリム)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(テトラグリム)、高級グリム、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、およびブチレングリコールエーテルがある。用いることのできるスルホンの例としては、(これらに限定はされないが)スルホラン、3-メチルスルホラン、および3-スルホレンがある。上記のもののフッ素化誘導体も液体電解質溶媒として有用である。ここに記載した溶媒の混合物も用いることができる。
【0071】
幾つかの態様において、アノード104について有利であるかもしれない具体的な液体電解質溶媒としては、(これらに限定はされないが)1,1-ジメトキシエタン(1,1-DME)、1,1-ジエトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、ジエトキシメタン、ジブチルエーテル、アニソールまたはメトキシベンゼン、ベラトロールまたは1,2-ジメトキシベンゼン、1,3-ジメトキシベンゼン、t-ブトキシエトキシエタン、2,5-ジメトキシテトラヒドロフラン、シクロペンタノンエチレンケタール、およびこれらの組み合わせがある。カソード102について有利であるかもしれない具体的な液体電解質溶媒(例えば、比較的高いポリスルフィド溶解度を有し、そして/または高率の容量および/または高い硫黄の利用度を可能とするもの)としては、(これらに限定はされないが)ジメトキシエタン(DME、1,2-ジメトキシエタン)またはグリム、ジグリム、トリグリム、テトラグリム、ポリグリム、スルホラン、1,3-ジオキソラン(DOL)、テトラヒドロフラン(THE)、アセトニトリル、およびこれらの組み合わせがある。
【0072】
溶媒の特定の混合物としては、(これらに限定はされないが)1,3-ジオキソランとジメトキシエタン、1,3-ジオキソランとジエチレングリコールジメチルエーテル、1,3-ジオキソランとトリエチレングリコールジメチルエーテル、および1,3-ジオキソランとスルホランがある。混合物中の二つの溶媒の重量比は、およそ5対95から95対5まで変化しうる。幾つかの態様において、溶媒の混合物はジオキソラン(例えば、40重量%よりも多いジオキソラン)を含む。
【0073】
液体電解質溶媒はゲル状ポリマー電解質のための可塑剤としても有用になりうる。有用なゲル状ポリマー電解質の例としては、(これらに限定はされないが)ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリアクリロニトリル、ポリシロキサン、ポリイミド、ポリホスファゼン、ポリエーテル、スルホン化ポリイミド、ペルフルオロ膜(NAFION樹脂)、ポリジビニルポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、これらの誘導体、これらのコポリマー、これらの架橋した網状構造体、およびこれらの混合物からなる群から選択される1種以上のポリマーを含むもの(場合により、1種以上の可塑剤)がある。
【0074】
有用な固体ポリマー電解質の例としては、(これらに限定はされないが)ポリエーテル、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリイミド、ポリホスファゼン、ポリアクリロニトリル、ポリシロキサン、これらの誘導体、これらのコポリマー、これらの架橋した網状構造体、およびこれらの混合物からなる群から選択される1種以上のポリマーを含むものがある。
【0075】
電解質の溶媒、ゲル化剤および電解質を形成するために当分野で知られているポリマーに加えて、電解質はさらに、イオン伝導性を高めるために、やはり当分野で知られている1種以上のイオン性電解質の塩を含んでいてもよい。
【0076】
ここで説明している電解質において用いるためのイオン性電解質の塩の例としては、(これらに限定はされないが)LiSCN、LiBr、LiI、LiClO
4、LiAsF
6、LiSO
3CF
3、LiSO
3CH
3、LiBF
4、LiB(Ph)
4、LiPF
6、LiC(SO
2CF
3)
3、およびLiN(SO
2CF
3)
2 がある。有用であるかもしれないその他の電解質の塩としては、リチウム多硫化物(Li
2S
x)、および有機イオン性多硫化物のリチウム塩(LiS
xR)
nがあり、ここでxは1〜20の整数であり、nは1〜3の整数であり、そしてRは有機基であり、そして溶媒中のイオン性リチウム塩について約0.2mから約2.0mまで(mは溶媒のモル/kg)といった濃度の範囲を用いることができる。幾つかの態様において、約0.5mから約1.5mまでの間の範囲の濃度が用いられる。溶媒へのイオン性リチウム塩の添加は選択的なものであり、Li/S電池を放電したときに、形成されるリチウムの硫化物または多硫化物は電解質にイオン伝導性を典型的に与え、このことがイオン性リチウム塩の添加を不要にするかもしれない。さらに、無機硝酸塩、有機硝酸塩、無機亜硝酸塩または高分子電解質のようなイオン性N-O添加剤が用いられる場合、それが電解質にイオン伝導性を与えることができ、その場合はイオン性リチウム電解質の塩を添加する必要はないだろう。
【0077】
本明細書で説明しているように、電気化学電池の充電と放電を行う間に不純物の形成および/または電極と電解質物質を含めた電気化学的な活物質の消耗を低減または防止することのできる添加剤を、ここで説明している電気化学電池に組み入れてもよい。
【0078】
幾つかの場合において、有機金属化合物のような添加剤を電解質の中に組み入れてもよく、それにより電池の少なくとも二つの構成要素または化学種の間の相互作用を低下または防止して、電池の効率および/または寿命を増大させることができる。典型的に、電気化学電池(例えば再充電可能なバッテリー)は充電/放電のサイクルを受け、それに伴って、充電するときにはアノード(例えばベースの電極材料)の表面上に金属(例えばリチウム金属)が堆積し、また放電するときにはアノードの表面でその金属が反応して金属イオンを形成する。その金属イオンはアノードの表面から、カソードとアノードを接続する電解質物質の中へ拡散するかもしれない。このようなプロセスの効率と一様性は電池の性能に影響するだろう。例えば、リチウム金属は電解質の1種以上の化学種と相互作用して、リチウムを含有する不純物を実質的に不可逆的に形成し、その結果、電池の1つ以上の活性要素(例えば、リチウム、電解質の溶媒)の望ましくない消耗が起きるかもしれない。ここで説明している特定の態様によれば、電池の電解質の中に特定の添加剤を組み入れることによって、そのような相互作用が減少して、電池のサイクル寿命および/または性能が向上することが見いだされた。
【0079】
幾つかの態様において、添加剤は電池の内部での活物質(例えば電極、電解質)の消耗を低下または防止することのできる任意の適当な化学種またはその塩であってもよく、これは例えば、電池の内部でのリチウムを含有する不純物の形成(これはリチウムと電解質物質との間の反応を介して形成されるだろう)を低減させることによって行われる。幾つかの態様において、添加剤は有機化合物または有機金属化合物、ポリマー、その塩、またはこれらの組み合わせであってよい。幾つかの態様において、添加剤は中性の化学種であってもよい。幾つかの態様において、添加剤は荷電した化学種であってもよい。ここで説明している添加剤は電池の1つ以上の構成要素(例えば電解質)に対して可溶性であってもよい。幾つかの場合において、添加剤は電気化学的に活性な種であってもよい。例えば、添加剤はリチウムおよび/または電解質の消耗を低下または防止することのできるリチウム塩であってもよく、それは電気化学的に活性なリチウム塩として用いてもよい。
【0080】
添加剤は電気化学電池の中に、電池の中での不純物の形成および/または活物質の消耗を抑制(例えば、低下または防止)するのに十分な量で存在していてもよい(例えば、添加される)。ここでの説明において「電池の中での不純物の形成および/または活物質の消耗を抑制するのに十分な量」とは、添加剤のない実質的に同一の電池と比較して、不純物の形成および/または活物質の消耗に影響する(例えば、低下させる)のに十分なほどに多くの量で添加剤が存在することを意味する。例えば、痕跡量の添加剤は、電池の中での活物質の消耗を抑制するのに十分ではないだろう。当業者であれば、電気化学デバイスの中で活物質の消耗に影響するほどに十分な量で添加剤が存在するかどうかを判断できるだろう。例えば、電気化学電池の構成要素(例えば電解質)の中に添加剤を組み入れることができ、そして多くの充電/放電のサイクルを通して電気化学電池をモニターし、それにより電極または電解質の量、厚さまたは形態の何らかの変化あるいは電池性能の何らかの変化を観察することができる。
【0081】
多くの充電/放電のサイクルを通しての活物質における変化量を測定することにより、不純物の形成および/または活物質の消耗を抑制するのに十分な量で添加剤が存在するか否かを判定することができる。幾つかの場合において、充電/放電のサイクルの本質的に同一のセットを通して、添加剤のない本質的に同一の電池と比較して、電池における不純物の形成および/または活物質の消耗を少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、あるいは幾つかの場合においては100%抑制するのに十分な量で電気化学電池に添加剤が添加されるだろう。
【0082】
幾つかの場合において、添加剤は、アノードのリチウムと電解質中の溶媒(例えば、エステル、エーテル、アセタール、ケタール、またはその種の他のもの)との間の反応の生成物と同じ化学構造を有するだろう。
【0083】
幾つかの場合において、ここで説明している添加剤はポリマーと結びつけられるだろう。例えば、添加剤を、ポリマーの分子と組み合わせることができ、あるいはポリマーの分子に結合させることができる。幾つかの場合においては、添加剤はポリマーであってもよい。例えば、添加剤はR’-(O-Li)n の式を有していてもよく、ここでR’ はアルキルまたはアルコキシアルキルである。幾つかの態様において、添加剤は電気化学電池に添加され、このとき添加剤は電気化学的に活性な種である。例えば、添加剤は電解質の塩として用いることができ、そして電池の充電および/または放電を行う間に1つ以上のプロセスを促進することができる。幾つかの場合において、添加剤は電池の1つ以上の構成成分と実質的に可溶性または混和性であってもよい。幾つかの場合において、添加剤は電解質に対して実質的に可溶性の塩であってもよい。添加剤は電池の中での不純物の形成および/または活物質の消耗を低減させるか、または防止するために用い、ならびに電池の中での充電と放電のプロセスを促進させるために用いることができる。
【0084】
ここで説明している添加剤を組み入れることにより、添加剤のない本質的に同一の電池において用いられる量と比較して、より少ない量のリチウムおよび/または電解質を電気化学電池の中で用いることが可能になるかもしれない。上で説明したように、ここで説明している添加剤のない電池においては、電池の充電と放電のサイクルを行う間にリチウムを含む不純物が生成し、また活物質(例えばリチウム、電解質)の消耗を被るかもしれない。幾つかの場合において、多くの充電と放電のサイクルを行った後に、リチウムを含む不純物を生成する反応は安定化し、そして/または自己抑制が始まるかもしれず、それにより実質的に何らの追加の活物質も消耗しなくなり、そして電池は残りの活物質で機能するかもしれない。ここで説明している添加剤のない電池については、この「安定化」は、かなりの量の活物質が消費されて電池の性能が低下した後にだけ達する場合がある。従って、幾つかの場合において、活物質が消費される間に物質が失われることに適応して電池の性能を保護するために、比較的に大量のリチウムおよび/または電解質を電池の中に組み入れる場合があった。
【0085】
従って、ここで説明している添加剤を組み入れることにより、活物質の消耗を低下および/または防止させることができ、それにより電気化学電池の中に大量のリチウムおよび/または電解質を含める必要がなくなるだろう。例えば、電池を使用する前に、あるいは電池の寿命における早い段階で(例えば、5回の充電と放電のサイクル未満において)、添加剤を電池の中に組み入れてもよく、それにより電池の充電または放電を行ったときに活物質の消耗がほとんど生じないか、あるいは実質的に全く生じないだろう。電池の充電と放電を行う間に活物質の喪失に適応する必要性が低下および/または解消することによって、ここで説明している電池とデバイスを製作するのに用いるリチウムの量は比較的少なくなるだろう。幾つかの態様において、ここで説明しているデバイスは、その寿命の中で5回よりも少ない回数で充電と放電を行った電気化学電池を含むものであり、このとき、電池はリチウムを含むアノード、カソードおよび電解質を含み、アノードはリチウムを電池の1回の完全な放電のサイクルを行う間にイオン化することのできる量の5倍以下の量で含んでいる。幾つかの場合において、アノードは電池の1回の完全な放電のサイクルを行う間にイオン化することのできるリチウムの量の4倍以下、3倍以下または2倍以下を含む。
【0086】
幾つかの態様において、製作する間に電気化学電池に添加される電解質の中に添加剤が添加される場合、その添加剤を、電解質の中に入ることのできるものとは別の電池の成分の一部として電池の中に最初に導入してもよい。添加剤を液体、ゲルまたは固体のポリマー電解質の中に組み入れてもよい。幾つかの態様において、添加剤を、製作プロセスにおいてカソードの配合物の中またはセパレーターの中に組み入れてもよく、ただしこの場合は、それが電解質の中に十分な濃度で入っていくようなやり方で含めるようにする。従って、電池の放電と充電を行う間に、カソードの配合物またはセパレーターの中に組み入れた添加剤は、少なくとも部分的に電解質の中に溶解してもよい。
【0087】
幾つかの態様において、添加剤としてN-O化合物を用いることができる。添加剤として用いるためのN-O化合物としては、(これらに限定はされないが)無機硝酸塩、有機硝酸塩、無機亜硝酸塩、有機亜硝酸塩、有機ニトロ化合物、負に帯電した、中性の、および正に帯電したNO
xの群を伴う化合物、およびその他の有機N-O化合物のような系統のものがある。用いることのできる無機硝酸塩の例としては、(これらに限定はされないが)硝酸リチウム、硝酸カリウム、硝酸セシウム、硝酸バリウムおよび硝酸アンモニウムがある。用いることのできる有機硝酸塩の例としては、(これらに限定はされないが)硝酸ジアルキルイミダゾリウムおよび硝酸グアニジンがある。用いることのできる無機亜硝酸塩の例としては、(これらに限定はされないが)亜硝酸リチウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸セシウムおよび亜硝酸アンモニウムがある。用いることのできる有機亜硝酸塩の例としては、(これらに限定はされないが)亜硝酸エチル、亜硝酸プロピル、亜硝酸ブチル、亜硝酸ペンチルおよび亜硝酸オクチルがある。用いることのできる有機ニトロ化合物の例としては、(これらに限定はされないが)ニトロメタン、ニトロプロパン、ニトロブタン、ニトロベンゼン、ジニトロベンゼン、ニトロトルエン、ジニトロトルエン、ニトロピリジンおよびジニトロピリジンがある。用いることのできるその他の有機N-O化合物の例としては、(これらに限定はされないが)ピリジンN-オキシド、アルキルピリジンN-オキシドおよびテトラメチルピペリジンN-オキシル(TEMPO)がある。これらの添加剤およびその他の添加剤は、リチウムと電解質の反応性を安定化させるか、ポリスルフィドの溶解速度を増大させるか、そして/または硫黄の利用度を高めるだろう。
【0088】
電解質106の中に含まれる場合、その電解質の中のN-O添加剤の濃度は約0.02mから約2.0mまで(例えば、約0.1mから約1.5mまで、あるいは約0.2mから約1.0mまで)とすることができる。添加されるリチウム塩を含まない態様において用いられる場合、イオン性N-O添加剤の濃度は約0.2mから約2.0mまで変化するだろう。
【0089】
幾つかの態様において、ここで説明している電気化学電池は、電解質組成物が電池の異なる部分に分離されるように改変されて配置される。そのような分離により、電気化学電池の一部から特定の化学種が隔離されるか、あるいはその化学種にその部分が晒される量が、少なくとも減少するかもしれない。それは、このタイプのデバイスの電極の上またはその内部に特定の固体が堆積するのを防ぐことを含めて、様々な目的のために行われる。
【0090】
ここで説明している電解質組成物の分離は様々なやり方で行うことができる。ひと組の方法においては、デバイスの中のある位置にポリマー(これはゲルであってもよい)が配置され、その位置は、ポリマーに対して比較的高い親和性を有する特定の電解質の溶媒が存在するのが望ましい位置である。別の組の方法においては、二つの異なるポリマーがデバイスの中の特定の位置に配置され、その特定の位置とは、二つの異なる電解質溶媒がポリマーのうちの1つに対して比較的大きな親和性をそれぞれが有するような位置であるのが望ましい。同様の配置は、二つよりも多いポリマーを用いることによっても考えられる。お互いに対して、またデバイスの他の構成要素に対して比較的不混和性の電解質溶媒を使用して配置して、それによりデバイスの少なくとも一つの構成要素の特定の化学種への曝露を制御するようにしてもよく、これは、その化学種が他の溶媒の中よりもある一つの溶媒の中で可溶性が高いかもしれないという事実を利用するものである。この一般的な分離の方法論については、上で概略的に説明した方法、または他の方法、または任意の組み合わせを用いることができる。
【0091】
ここで説明しているように、電気化学電池は、活性なアノード種としてリチウム(例えば、リチウム金属、リチウム挿入化合物、またはリチウム合金)を有するアノードと活性なカソード種として硫黄を有するカソードを含んでいてもよい。これらの態様および他の態様において、リチウムバッテリーのための適当な電解質は、アノードの方へ分配(partitioning)されてアノードに対して有利な第一の電解質溶媒(例えば、ジオキソラン(DOL))(ここでは「アノード側の電解質溶媒」と呼ぶ)とカソードの方へ分配されてカソードに対して有利な第二の電解質溶媒(例えば、1,2-ジメトキシエタン(DME))(ここでは「カソード側の電解質溶媒」と呼ぶ)を含む不均質な電解質を含んでいてもよい。幾つかの態様において、アノード側の電解質溶媒はリチウム金属に対して比較的低い反応性を有し、そしてカソード側の電解質溶媒よりもポリスルフィド(例えば、Li
2S
x、ここでx>2)への溶解性が低いだろう。カソード側の電解質溶媒はポリスルフィドに対して比較的高い溶解性を有するかもしれないが、しかしリチウム金属に対しては反応性が高いだろう。電気化学電池を操作する間に、アノード側の電解質溶媒がアノードにおいて不均衡に存在し、カソード側の電解質溶媒がカソードにおいて不均衡に存在するように電解質溶媒を分離させることによって、電気化学電池は両方の電解質溶媒の望ましい特性(例えば、アノード側の電解質溶媒の比較的低いリチウム反応性とカソード側の電解質溶媒の比較的高いポリスルフィド溶解性)からの利益を得ることができる。特に、アノードの消耗を低減させることができ、カソードでの不溶性のポリスルフィド(すなわち「スレート」、これはLi
2S
xなどの低次のポリスルフィド、ここでx<3、例えばLi
2S
2やLi
2S)の付着を減少させることができ、その結果、電気化学電池は長いサイクル寿命を有するだろう。さらに、ここで説明しているバッテリーは高い比エネルギー(出力密度)(例えば、400Wh/kgを超える)と向上した安全性を有し、そして/または広範囲の温度(例えば、−70℃から+75℃まで)において動作可能となるだろう。電池の中での特定の位置において他の種に対して一つの種または溶媒が不均衡に存在するということは、第一の種または溶媒がその位置に(例えば、電池の電極の表面に)少なくとも2:1のモル比または重量比で、あるいは5:1、10:1、50:1、または100:1あるいはもっと大きな比率で存在することを意味する。
【0092】
ここで用いるとき、「不均質な電解質」とは、少なくとも二つの異なる液体溶媒を含む電解質である(本明細書では、第一および第二の電解質溶媒、またはアノード側およびカソード側の電解質溶媒と言うこともある)。それら二つの異なる液体溶媒は互いに混和性または不混和性であってもよいが、もっとも本発明の多くの面においては、電解質の系は、溶媒の大部分が分離して、少なくともその1種類は電池の少なくとも一つの構成成分から隔離されうるという程度に不混和性であるような(あるいは電池の中で不混和性になりうるような)1種以上の溶媒を含む。不均質な電解質は液体、ゲルまたはこれらの組み合わせの形態であってよい。
【0093】
ここで説明している特定の態様が、電気化学電池を動作させる間に分配しうる少なくとも二つの電解質溶媒を有する不均質な電解質を含むとき、一つの目的は、自然発生的な溶媒の混合、すなわち、二つの不混和性の液体からなる乳濁液の生成が起こる可能性を防止または低下させることであろう。以下でもっと詳しく説明するが、このことは、幾つかの態様においては、電極(例えばアノード)において、例えばその電極に不均衡に存在するポリマーゲル電解質、ガラス状のポリマーまたは高粘度の液体を形成することによって、少なくとも1つの電解質溶媒を「固定する」ことによって達成されるだろう。
【0094】
幾つかの態様において、アノードは、そのアノードの多層構造に隣接するポリマー層を含む(例えば、外側の層として配置されるもの)。そのポリマー層は、幾つかの場合には、ポリマーゲルまたはガラス状のポリマーの形態であってもよい。ポリマー層は不均質な電解質のうちの一つの電解質溶媒に対して親和性を有していてもよく、それにより、電気化学電池を動作させる間に、第一の電解質溶媒はアノードにおいて不均衡に存在し、一方、第二の電解質溶媒はポリマー層から実質的に排除されて、カソードにおいて不均衡に存在する。例えば、第一の電解質溶媒は主として、アノードに隣接するポリマー層において存在することができる。第一の電解質溶媒はアノードの近くに存在するので、それは一般に、リチウムに対する低い反応性(これは例えば、高いリチウムのサイクル性を可能にする)、合理的なリチウムイオンの伝導性、および第二の電解質溶媒よりも比較的低いポリスルフィドの溶解性(ポリスルフィドはリチウムと反応できるので)といった1つ以上の特性を有するように選択される。第二の電解質溶媒はカソードにおいて不均衡に存在していてもよく、それは例えば、実質的にセパレーター、カソードに隣接するポリマー層、および/またはカソードのベースの電極物質層(例えば、カソード活物質の層)の中に存在していてもよい。例えば、第二の電解質溶媒は、主としてカソードに隣接するポリマー層、主としてベースの電極物質層の中、またはこれらを組み合わせたものの中に存在していてもよい。幾つかの場合において、第二の電解質溶媒は本質的にアノードと接触していない。第二の電解質溶媒は、カソードの性能に対して有利な特性、例えば高いポリスルフィドの溶解性、高率の能力、高い硫黄の利用度、および高いリチウムイオンの伝導性を有していてもよく、そして広い液体状態の温度範囲を有していてもよい。幾つかの場合においては、第二の電解質溶媒は第一の電解質溶媒よりもリチウムに対して高い反応性を有する。従って、電気化学電池を動作させる間は、第二の電解質溶媒をカソードにおいて(すなわち、アノードから離して)存在させるのが望ましく、それによってアノードにおけるその濃度と反応性が効果的に低下するだろう。
【0095】
上で説明したように、不均質な電解質の第一の電解質溶媒は、多層構造体に隣接して配置されるポリマー層の中に存在することによってアノードにおいて不均衡に存在していてもよい。従って、ポリマー層の物質の組成は、そのポリマーが第二の電解質溶媒よりも第一の電解質溶媒に対して比較的高い親和性(第一の電解質溶媒の中での高い溶解性)を有するように選択してもよい。例えば、幾つかの態様において、ポリマー層は、モノマー、第一の電解質溶媒、そして場合により他の成分(例えば、架橋剤、リチウム塩など)を混合し、そしてこの混合物をアノード上に配置することによって、ゲルの形態で調製される。ゲル状電解質を形成するために、モノマーを様々な方法(例えば、ラジカル開始剤、紫外線放射、電子ビームまたは触媒(例えば、酸、塩基または繊維金属触媒)を用いる方法)によって重合させてもよい。重合は混合物をアノード上に配置する前と後のいずれで行なってもよい。電池のその他の構成要素を組み付けた後に、電池に第二の電解質溶媒を充満させてもよい。第二の電解質溶媒をポリマー層から排除させてもよい(その理由は、例えば、ポリマー層の中にすでに存在する第一の電解質溶媒とのポリマーの高い親和性のため、および/または第一の電解質溶媒と第二の電解質溶媒との間の不混和性のためである)。幾つかの場合において、第二の電解質溶媒はセパレーターおよび/またはカソードの中の空間(例えば細孔)を充満してもよい。幾つかの態様において、このプロセスを容易にするために、電気化学電池を組み立てる前にカソードを乾燥させてもよい。追加として、および/または代替として、カソード(例えば、カソードのベース電極物質層)は、第二の電解質溶媒に対して高い親和性を有するポリマーを含んでいてもよい。ベース電極物質層におけるポリマーは粒子の形態であってもよい。幾つかの場合において、第二の電解質は、少なくとも一部は、カソードに隣接して配置されるポリマー層の中に存在していてもよい。
【0096】
別の態様において、ポリマー層はアノードにおいて形成され、そして電池を組み立てる前に乾燥される。次いで、第一および第二の電解質溶媒を含む不均質な電解質を電池に充填することができる。ポリマー層が第一の電解質溶媒に対して高い親和性を有するように(そして/または、セパレーターおよび/またはカソードが第二の電解質溶媒に対して高い親和性を有するように)選択される場合、第一および第二の電解質溶媒の少なくとも一部は、それらを電池の中に導入したときに分配させてもよい。さらに別の態様において、第一および第二の電解質溶媒の分配は、電池の最初の放電が開始した後に行われてもよい。例えば、バッテリーを動作させる間に熱が生成するので、ポリマー層と第一の電解質溶媒との間の親和性は増大しうる(そして/または、セパレーターおよび/またはカソードと第二の電解質溶媒との間の親和性も増大しうる)。従って、電池を動作させる間に電解質溶媒のかなりの程度の分配が生じうる。さらに、低い温度においては、この効果は不可逆的になるかもしれず、そのため第一の電解質溶媒はポリマー層の中に閉じ込められ、そして第二の電解質溶媒はセパレーターおよび/またはカソードの細孔の中に閉じ込められる。
【0097】
幾つかの場合において、電気化学電池の構成要素(例えばポリマー層)を、使用する前に(例えば、熱を用いて)予備処理してもよく、それにより望ましい程度のポリマーと電解質溶媒との相互作用を行わせる。電解質溶媒を分配させるための他の方法も可能である。
【0098】
別の態様において、ポリマー層はアノードにおいて堆積され、そして(ポリマー層を含めた)アノードは第一の電解質溶媒に晒される。この曝露によって、第一の電解質溶媒をポリマーの中に吸収させることができる。カソードをアノードに隣接して配置させることによって電池を形成してもよく、それによりポリマー層はアノードとカソードの間に配置される。次いで、例えば、カソードを第二の電解質溶媒に晒すことができ、それにより第二の電解質溶媒の少なくとも一部がカソードの中に吸収される。他の態様において、アノードとカソードの組み立てを行う前に、カソードを第二の電解質溶媒に晒すことができる。場合により、カソードは、第一の電解質溶媒よりも第二の電解質溶媒を優先的に吸収するポリマー層を含んでいてもよい。幾つかの態様において、例えば、適当なポリマーおよび/またはアノードおよび/またはカソードを形成するために用いられる物質を選択することによって、第一および第二の電解質溶媒の少なくとも一部を電池の中で分離させることができる。例えば、高い割合の第一の電解質溶媒がアノードにおいて存在し、そして高い割合の第二の電解質溶媒がカソードにおいて存在していてもよい。
【0099】
さらに別の態様において、電気化学電池はアノードまたはカソードにおける分配のために特に用いられるポリマー層を含んでいなくてもよい。セパレーターは、このセパレーターのカソード側よりもアノード側に近い位置で別の組成物を含んでいてもよく、このときアノード側は第一の溶媒に対して高い親和性を有し、そしてカソード側は第二の溶媒に対して高い親和性を有するようにする。追加として、および/または代替として、例えばカソードを第二の電解質溶媒に対して高い親和性を有する成分を含むようにして組み立てることによって、第二の電解質溶媒がカソードにおいて不均衡的に存在するようにしてもよい。
【0100】
ここで説明している態様の幾つかのものにおいて、電気化学電池には、第一および第二の電解質溶媒を含む不均質な電解質が充填されていてもよく、そして電解質溶媒の分配(partitioning)は、例えば電解質溶媒の中のポリスルフィドの異なる溶解度によって、電池の最初の放電が開始した後に起こりうる。例えば、電池を動作させる間により多くのポリスルフィドが生成すると、より有利な第二の電解質溶媒の中にポリスルフィドが溶解することにより、その溶媒は第一の溶媒とは不混和性になる場合がある。従って、幾つかの態様において、第一および第二の電解質溶媒は、バッテリーの最初の放電が開始する前には混和性であり、それが開始した後には不混和性であるかもしれない。例えば、第一の電解質溶媒と優先的に結びつくアノードにおいてポリマー層を有するような、および/または、第二の電解質溶媒と優先的に結びつくカソードにおいてポリマー層を有するような、ここで説明している態様によって、溶解したポリスルフィドを含む第二の電解質溶媒はカソードにおいて不均衡的に存在するかもしれない。他の態様においては、第一および第二の電解質溶媒は、電池の最初の放電が開始する前には混和性であるが、しかしそれらの電解質溶媒は、電池が動作する間に電解質溶媒が加熱されることにより、不混和性になる。さらに別の態様においては、第一および第二の電解質溶媒は、電池の最初の放電が開始する前と後で不混和性である。例えば、第一および第二の電解質溶媒は室温において本質的に不混和性であり、バッテリーが動作する間も不混和性であるかもしれない。好ましくは、幾つかの態様において、電池のサイクルが行われる間に固体の膜が電極の体積変化を生じさせるときに、一方がアノードにおいて不均衡的に存在し、他方がカソードにおいて不均衡的に存在するような二つの不混和性の液体電解質溶媒はバッテリーに付加的な機械的応力を生じさせない。
【0101】
ここで説明しているように、幾つかの態様において、電解質溶媒に対して親和性を有するポリマーをカソードの中に(例えば、ベースの電極物質層の中に)分散させることができる。例えば、カソードの活物質層は、その中に含有させる粉末の形態でポリマー物質を含んでいてもよい。幾つかの場合において、そのポリマー物質はカソード層の中にある不溶性の成分である。例えば、ポリマー物質は、カソードの活物質を溶解させるために用いられる溶媒に不溶性であってもよい。ポリマーは、適当な粒子サイズを有するように、そしてカソードのスラリー中に含ませることによってカソードの全体に分散させるようにして得ることができるか、あるいはそのように改質される。不溶性のポリマーをカソードの活物質層に組み入れることの一つの利点は、ポリマーを、活性な炭素の部位を被覆しない、それを吸着しない、および/またはそれを遮断しないような分離した粒子として残すことができることである。しかし、他の場合においては、ポリマー物質をカソード層の中のカソード結合剤として溶解させるか、あるいは部分的に溶解させてもよい。
【0102】
層の中に分散させた1種以上のポリマー(例えば、カソードの中に分散させた不溶性のポリマー粒子)を含む特定の態様において、そのポリマーは任意の適当な粒子サイズを有することができる。ポリマー粒子の平均の直径は、例えば、100ミクロン以下、70ミクロン以下、50ミクロン以下、30ミクロン以下、15ミクロン以下、10ミクロン以下、または5ミクロン以下であってよい。当然であるが、ある範囲のポリマー粒子サイズを用いてもよい。例えば、一つの態様において、ポリマー粒子は、d10=5ミクロン、d50=12ミクロン、およびd97=55ミクロンのサイズを有していてもよく、これらは、粒子の10%が5ミクロン未満であること、粒子の50%が12ミクロン未満であること、そして粒子のわずか3%が55ミクロンよりも大きいことを意味する。
【0103】
電解質溶媒を分配(partitioning)するための適当なポリマー物質は、ここで説明しているポリマー、例えばポリマー層(例えば、多層の保護構造体の一部としてのポリマー層)のための適当なポリマー物質に関して前述したものを含んでいてもよい。幾つかの態様において、単一のポリマー層が電気化学電池のアノードまたはカソードと接触している。しかし、他の態様においては、一つよりも多いポリマー層がアノードまたはカソードと結合していてもよい。例えば、アノード(またはカソード)と接触しているポリマー層が、順にコーティングされた1つよりも多いポリマー層で形成されていてもよい。その連続したポリマーは、例えば、第一のポリマーと第二のポリマーを含み、それら第一および第二のポリマーは同じものであるか、または異なるものであってもよい。追加のポリマー、例えば4番目、5番目または6番目のポリマー層を用いることもできる。場合により、各々のポリマー層は1種以上の充填剤またはその他の成分(例えば、架橋剤、リチウム塩など)を含んでいてもよい。
【0104】
ポリマー層の厚さは、例えば約0.1ミクロンから約100ミクロンまでの範囲にわたって変化してもよい。ポリマー層の厚さは、例えば、それがアノードまたはカソードに隣接して配置されているか、バッテリーの中にセパレーターも存在するか、および/または電池内でのポリマー層の数、に依存するだろう。例えば、ポリマー層の厚さは0.1〜1ミクロンの間の厚さ、1〜5ミクロンの間の厚さ、5〜10ミクロンの間の厚さ、10〜30ミクロンの間の厚さ、あるいは30〜50ミクロンの間の厚さ、50〜70ミクロンの間の厚さ、あるいは50〜100ミクロンの間の厚さであってよい。幾つかの態様において、ポリマー層の厚さは、例えば50ミクロン以下の厚さ、25ミクロン以下の厚さ、10ミクロン以下の厚さ、5ミクロン以下の厚さ、2.5ミクロン以下の厚さ、1ミクロン以下の厚さ、0.5ミクロン以下の厚さ、あるいは0.1ミクロン以下の厚さであってよい。
【0105】
前述したように、本発明のさらなる典型的な態様によれば、電解質106は不溶性のカチオン、モノマー、オリゴマーまたはポリマーに付加した窒素を含有する基を含み、それにより電解質中で不溶性の窒素含有物質を形成している。追加として、あるいは代替として、K、Mg、Ca、Sr、Alの塩、芳香族炭化水素、またはエーテル(例えばブチルエーテル)のような化合物を電解質に添加してもよく、それによって無機硝酸塩、有機硝酸塩、無機亜硝酸塩、有機亜硝酸塩、有機ニトロ化合物、その他同種類のものなどの窒素含有化合物の溶解度が低下し、それにより、ここで説明しているいずれの窒素含有化合物も、本明細書で定義された実質的に不溶性の窒素含有化合物になる。
【0106】
本発明の様々な典型的な態様によれば、電解質106は約30%〜約90%、または約50%〜約85%、または約60%〜約80%の溶媒、約0.1%〜約10%、または約0.5%〜約7.5%、または約1%〜約5%のN-O添加剤、および約1%〜約20%、または約1%〜約10%、または約1%〜約5%の実質的に不溶性の窒素含有物質、および約20%以下、または約4%〜約20%、または約6%〜約16%、または約8%〜約12%のLiTFSIを含む。
【0107】
再び
図1を参照すると、本発明の様々な態様によれば、電気化学電池100はカソード102とアノード104の間に置かれたセパレーター108を含む。このセパレーターは、短絡を防ぐためにアノードとカソードを互いに分離または絶縁する固体の比導電性または絶縁性の物質であってもよい。セパレーターの細孔は部分的にか、または大部分が電解質で満たされていてもよい。
【0108】
セパレーターは、電池を組み立てる間にアノードとカソードとともに挿入される多孔質で自立性のフィルムとして供給されてもよい。あるいは、多孔質のセパレーター層が電極のうちの一方の表面に直接付与されてもよい。
【0109】
様々なセパレーター物質が当分野で知られている。適当な固体で多孔質のセパレーター物質の例としては、(これらに限定はされないが)例えばポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、ガラス繊維の濾紙、およびセラミック材料がある。本発明において用いるのに適したセパレーターおよびセパレーター物質のさらなる例は、微孔質キセロゲル層(例えば、微孔質の擬似ベーマイト層)を含むものであり、これは自立性のフィルムとして、あるいは電極のうちの一方に直接塗布することによって付与することができる。固体電解質とゲル状電解質も、それらの電解質の機能に加えてセパレーターとしても機能し、これはアノードとカソードの間でイオンを輸送させるだろう。
【0110】
本発明の様々な態様によれば、セパレーター108は1種以上の窒素含有物質、例えば、1種以上のモノマー、オリゴマーおよび/または次のものからなる群から選択されるポリマーを含んでいてもよい:ポリエチレンイミン、ポリホスファゼン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリアニリン、高分子電解質(例えば、官能基としてニトロ脂肪族部分を有するもの)、およびアミン基を有するもの、例えばポリアクリルアミド、ポリアリルアミドおよびポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ポリイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリアミド、その他同種類のもの。
【0111】
セパレーター108における窒素含有物質の組成は、100%以下または約30%〜約60%であってよい。セパレーターは電気化学電池の重量の約20%以下または約4%〜約6%であってよい。
【0112】
電気化学電池は任意の適当な集電体112、114を有していてもよい。集電体は、電極の全体を通して発生した電流を効率的に集めるのに、また外部回路に通じる電気接点を取り付けるための効率的な表面を与えるのに有用である。広範囲の集電体が当分野で知られている。適当な集電体には、例えば、金属箔(例えばアルミニウム箔)、ポリマーフィルム、金属化ポリマーフィルム(例えば、アルミニウムで被覆したポリエステルフィルムなどのアルミニウムで被覆したプラスチックフィルム)、導電性ポリマーフィルム、導電性コーティングを有するポリマーフィルム、導電性金属コーティングを有する導電性ポリマーフィルム、および中に導電性粒子が分散したポリマーフィルムが含まれるだろう。
【0113】
幾つかの態様において、集電体は、アルミニウム、銅、クロム、ステンレス鋼およびニッケルまたはこれらの金属の合金または複数の合金のような1種以上の導電性金属を含む。その他の集電体としては、例えば、エキスパンデッドメタル、金属メッシュ、金属グリッド、エキスパンデッドメタルグリッド、金属ウール、炭素繊維織物、炭素メッシュ織物、炭素メッシュ不織布、または炭素フェルトがあるだろう。さらに、集電体は電気化学的に不活性であるか、あるいは電気活性な物質を含んでいてもよい。例えば、集電体は電気活性物質層として(例えば、本明細書で説明しているもののようなアノードまたはカソードとして)用いられる物質を含んでいてもよい。
【0114】
集電体は積層法、スパッタリングまたは蒸着のような任意の適当な方法によって表面上に配置させてもよい。幾つかの場合において、集電体は、電気化学電池の1つ以上の構成要素とともに積層させた市販のシートとして供給される。他の場合において、集電体は、電極を組み立てる間に、適当な表面上に導電性物質を堆積させることによって形成される。側部または端部の集電体を、本明細書で説明している電気化学電池の中に組み入れてもよい。
【0115】
集電体は任意の適当な厚さを有していてもよい。例えば、集電体の厚さは0.1〜0.5ミクロンの間の厚さ、0.1〜0.3ミクロンの間の厚さ、0.1〜2ミクロンの間の厚さ、1〜5ミクロンの間の厚さ、5〜10ミクロンの間の厚さ、5〜20ミクロンの間の厚さ、あるいは10〜50ミクロンの間の厚さであってよい。特定の態様において、集電体の厚さは、例えば約20ミクロン以下、約12ミクロン以下、約10ミクロン以下、約7ミクロン以下、約5ミクロン以下、約3ミクロン以下、約1ミクロン以下、約0.5ミクロン以下、あるいは0.3ミクロン以下である。幾つかの態様において、電極を組み立てる間に剥離層(release layer)を用いることによって、極めて薄い集電体の形成または使用が可能になり、それにより電池の全体的な重量を少なくすることができ、それによって電池のエネルギー密度が増大する。
【0116】
前述したように、本発明の様々な態様に係る電気化学電池は、電池の1つ以上の構成要素の中に1種以上の窒素含有化合物を含んでいてもよい。例えば、電池はカソード、アノード、アノードとカソードの間のセパレーター、非水電解質、およびアノードとカソードとセパレーターからなる群のうちの1つ以上のものの中の窒素含有物質を含んでいてもよい。あるいは、電池はカソード、アノード、アノードとカソードの間の任意のセパレーター、非水電解質、およびアノード、カソード、セパレーターおよび電解質からなる群のうちの1つ以上のものの中の窒素含有物質を含んでいてもよく、窒素含有化合物は電解質の中で実質的に不溶性であり、そしてその化合物は1種以上のモノマー、オリゴマーおよび/またはポリマーからなる群から選択することができ、そのポリマーは次のものからなる群から選択される:ポリエチレンイミン、ポリホスファゼン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリアニリン、高分子電解質(例えば、官能基としてニトロ脂肪族部分を有するもの)、およびアミン基を有するもの、例えばポリアクリルアミド、ポリアリルアミドおよびポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ポリイミド、ポリベンゾイミダゾール、およびポリアミド。窒素含有物質は電解質の中で実質的に不溶性であってもよく、あるいは電解質の中で実質的に不溶性な部分に付加していて、そして/またはカソード、アノード、セパレーター、またはこれらの一部のうちの一部分を形成していて、それにより電池の一部は窒素を含む官能基を含み、その部分は電解質の中で実質的に不溶性であってもよい。典型的な電池はさらに、電解質の中にN-O添加剤を含んでいてもよい。例として、アノード;カソード;セパレーター;電解質;アノードとカソード;セパレーターおよびアノードとカソードのうちの一方または両方;電解質およびアノードとカソードのうちの一方または両方;アノード、カソードおよびセパレーター;アノード、カソードおよび電解質;アノード、カソード、電解質およびセパレーターは、ここで説明している窒素含有物質を含んでいてもよい。
【0117】
バッテリーは、本発明の様々な典型的な態様によれば、本明細書で説明している1つ以上の電池、集電体(例えば、集電体112、114)、この集電体に電気的に結合した導線または端子(例えば、正の導線と負の導線)、および電池の少なくとも一部を封入しているケーシングまたはハウジングを含む。
【0118】
本発明を以上で多くの典型的な態様と実施例を参照して説明した。ここで示して説明した特定の態様は本発明の好ましい態様とその最良の形態を例示したものであり、それらは特許請求の範囲において示す本発明の範囲を限定することを意図していないことを理解すべきである。ここで説明した態様に、本発明の範囲から逸脱することなく変更と修正をなしうることを認識すべきである。これらの変更または修正およびその他の変更または修正は、添付する特許請求の範囲およびその法律上の同等物に表された本発明の範囲の中に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0119】
100 電気化学電池、 102 カソード、 104 アノード、 106 電解質、 108 セパレーター、 110 カソード被覆、 112、114 集電体、 202 ベースの電極物質層、 204 多層構造、 206 単一イオン伝導性物質、 208 ポリマー層、 210 分離層、 302 埋め込み層、 304 第二のベースの電極物質層。
以下、出願時の特許請求の範囲の内容を記載する。
[請求項1]
電気化学電池であって:
電気活性な硫黄含有物質を含むカソード;
リチウムを含むアノード;
アノードとカソードの間のセパレーター;ならびに
1種以上の非水溶媒、1種以上のリチウム塩および実質的に不溶性の窒素含有物質を含む非水電解質;
を含む前記電気化学電池。
[請求項2]
非水電解質に実質的に不溶性の窒素含有物質の溶解度は0.5パーセント未満である、請求項1に記載の電気化学電池。
[請求項3]
実質的に不溶性の窒素含有物質は、N-Oおよびアミンからなる群から選択される官能基を含む、請求項1に記載の電気化学電池。
[請求項4]
実質的に不溶性の窒素含有物質は、ポリニトロスチレン、ニトロセルロースおよびオクチルニトレートからなる群から選択される化合物を含む、請求項1に記載の電気化学電池。
[請求項5]
実質的に不溶性の窒素含有物質は高分子電解質を含む、請求項1に記載の電気化学電池。
[請求項6]
カソードは実質的に不溶性の窒素含有物質を含む、請求項1に記載の電気化学電池。
[請求項7]
アノードは実質的に不溶性の窒素含有物質を含む、請求項1に記載の電気化学電池。
[請求項8]
セパレーターは実質的に不溶性の窒素含有物質を含む、請求項1に記載の電気化学電池。
[請求項9]
カソードは実質的に不溶性の窒素含有物質を含む結合剤を含む、請求項1に記載の電気化学電池。
[請求項10]
非水電解質はさらに、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、アルミニウム塩、芳香族炭化水素およびエーテルからなる群から選択される化合物を含む、請求項1に記載の電気化学電池。
[請求項11]
実質的に不溶性の窒素含有物質はN−Oおよびアミンからなる群から選択される官能基を含み、炭素鎖に付加したその官能基は約8個から約25個までの炭素原子を有する、請求項1に記載の電気化学電池。
[請求項12]
実質的に不溶性の窒素含有物質は、最初はアノード、カソードおよびセパレーターのうちの1つ以上のものの一部を形成する、請求項1に記載の電気化学電池。
[請求項13]
実質的に不溶性の窒素含有物質は、カチオン、モノマー、オリゴマーおよびポリマーからなる群から選択される不溶性の物質に付加した窒素基を含む、請求項1に記載の電気化学電池。
[請求項14]
電解質はさらにN−O添加剤を含む、請求項1に記載の電気化学電池。
[請求項15]
電解質は約30%から約90%までの1種以上の非水溶媒、約0.1%から約10%までのN−O添加剤、1%以下の実質的に不溶性の窒素含有物質、および約20%以下のLiTFSIを含む、請求項14に記載の電気化学電池。
[請求項16]
電解質は約50%から約85%までの1種以上の非水溶媒、約0.5%から約7.5%までのN-O添加剤、1%以下の実質的に不溶性の窒素含有物質、および約4%から約20%までのLiTFSIを含む、請求項14に記載の電気化学電池。
[請求項17]
ハウジング;
正の導線;
負の導線;および
請求項1で定義される1つ以上の電気化学電池;
を含むバッテリー。
[請求項18]
電気化学電池であって:
電気活性な硫黄含有物質を含むカソード;
リチウムを含むアノード;
窒素含有化合物;ならびに
1種以上の非水溶媒、前記窒素含有化合物の少なくとも一部および1種以上のリチウム塩を含む非水電解質を含み、ここで、前記窒素含有物質は前記電解質に実質的に不溶性である;
前記電気化学電池。
[請求項19]
非水電解質はさらに、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、アルミニウム塩、芳香族炭化水素およびエーテルからなる群から選択される化合物を含む、請求項18に記載の電気化学電池。
[請求項20]
ハウジング;
正の導線;
負の導線;および
請求項18で定義される1つ以上の電気化学電池;
を含むバッテリー。