(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6072938
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体およびその使用
(51)【国際特許分類】
C07D 211/72 20060101AFI20170123BHJP
C07D 401/12 20060101ALI20170123BHJP
A61K 31/501 20060101ALI20170123BHJP
A61K 31/4545 20060101ALI20170123BHJP
C07D 405/12 20060101ALI20170123BHJP
A61K 31/4525 20060101ALI20170123BHJP
A61K 31/445 20060101ALI20170123BHJP
A61K 38/00 20060101ALI20170123BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20170123BHJP
A61P 7/02 20060101ALI20170123BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20170123BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20170123BHJP
C07K 5/06 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
C07D211/72CSP
C07D401/12
A61K31/501
A61K31/4545
C07D405/12
A61K31/4525
A61K31/445
A61K37/02
A61P9/10
A61P7/02
A61P43/00 111
A61K45/00
C07K5/06
【請求項の数】19
【全頁数】50
(21)【出願番号】特願2015-552723(P2015-552723)
(86)(22)【出願日】2014年1月6日
(65)【公表番号】特表2016-511229(P2016-511229A)
(43)【公表日】2016年4月14日
(86)【国際出願番号】US2014010348
(87)【国際公開番号】WO2014109987
(87)【国際公開日】20140717
【審査請求日】2015年7月9日
(31)【優先権主張番号】61/750,633
(32)【優先日】2013年1月9日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507238218
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミシガン
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ツァン,ハオミン
(72)【発明者】
【氏名】ホレンバーグ,ポール
【審査官】
前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2006/126676(WO,A1)
【文献】
国際公開第2002/102380(WO,A1)
【文献】
特開2008−156343(JP,A)
【文献】
特開2005−179350(JP,A)
【文献】
Journal of Medicinal Chemistry,2012年,55(7),p.3342-3352
【文献】
Chemical Research in Toxicology,2010年,23(7),p.1268-1274
【文献】
Chemical Research in Toxicology,2009年,22(2),p.369-373
【文献】
Drug Metabolism and Disposition,2007年,35(7),p.1096-1104
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 211/00
A61K 31/00
C07D 401/00
C07D 405/00
C07K 5/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I:
【化1】
(式中、
R1は、H、−CO−OCH3、および
【化2】
からなる群から選択され、
R2は、
【化3】
からなる群から選択され、
R3は、塩素またはフッ素である。)
で示される化合物、薬学的に許容される
その塩
または溶媒和物
。
【請求項2】
【化4】
からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
【化5】
からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
請求項1に記載の化合物と、薬学的に許容される担体とを含むことを特徴とする、医薬組成物。
【請求項5】
静脈内投与用に構成されることを特徴とする、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
患者における心血管疾患を治療、改善または予防するための医薬品の製造における、請求項1に記載された化合物の使用。
【請求項7】
投与が経口投与および静脈内投与からなる群から選択されることを特徴とする、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
前記心血管疾患は、冠動脈疾患、末梢血管疾患、アテローム血栓症、および脳血管疾患からなる群から選択されることを特徴とする、請求項6に記載の使用。
【請求項9】
前記化合物は、血小板の凝集を低減することを特徴とする、請求項6に記載の使用。
【請求項10】
前記血小板の凝集の前記低減は、P2Y12受容体への不可逆的結合を介して生じることを特徴とする、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記血小板の凝集の前記低減は、ADP受容体の遮断を介して生じることを特徴とする、請求項9に記載の使用。
【請求項12】
前記化合物は、P450による生体内活性化を必要とせずに内因性グルタチオンの存在下で活性チエノピリジン代謝物を生成することができることを特徴とする、請求項9に記載の使用。
【請求項13】
HMG−CoA還元酵素阻害剤、ACE阻害剤、カルシウムチャネルブロッカー、血小板凝集阻害剤、多価不飽和脂肪酸、フィブリン酸誘導体、胆汁酸封鎖剤、酸化防止剤、血栓溶解剤、および抗狭心症薬からなる群から選択される少なくとも1つの薬剤の同時投与をさらに含むことを特徴とする、請求項9に記載の使用。
【請求項14】
患者における血管上の血小板の凝集を治療、改善または予防するための医薬品の製造における、請求項1に記載された化合物の使用。
【請求項15】
投与が経口投与および静脈内投与からなる群から選択されることを特徴とする、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
前記血小板の前記凝集の治療、改善または予防は、P2Y12受容体への不可逆的結合を介して生じることを特徴とする、請求項14に記載の使用。
【請求項17】
前記血小板の前記凝集の前記治療、改善または予防は、ADP受容体の遮断を介して生じることを特徴とする、請求項14に記載の使用。
【請求項18】
前記化合物は、P450による生体内活性化を必要とせずに内因性グルタチオンの存在下で活性チエノピリジン代謝物を生成することができることを特徴とする、請求項14に記載の使用。
【請求項19】
HMG−CoA還元酵素阻害剤、ACE阻害剤、カルシウムチャネルブロッカー、血小板凝集阻害剤、多価不飽和脂肪酸、フィブリン酸誘導体、胆汁酸封鎖剤、酸化防止剤、血栓溶解剤、および抗狭心症薬からなる群から選択される少なくとも1つの薬剤の同時投与をさらに含むことを特徴とする、請求項14に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載〕
本発明は、国立衛生研究所により授与されたAA020090およびCA016954の下で、政府支援によりなされた。米国政府は、本発明においてある特定の権利を有する。
【0002】
〔技術分野〕
本発明は、医薬品化学の分野に含まれる。特に、本発明は、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体、ならびに心血管疾患の治療、改善、および予防のための治療剤としてのそれらの使用に関する。
【0003】
〔緒言〕
チエノピリジニル化合物は、心臓発作および脳卒中を予防するために、抗血小板剤として広く使用されている。このカテゴリーにおいて、クロピドグレル(プラビックス)、チクロピジン(チクリド)およびプラスグレル(エフィエント)が、3つの一般的に使用されるプロドラッグである。これらの薬剤は、多型シトクロム(P450)媒介酸化的生体内活性化を必要とする。そのような酸化的生体内活性化は、遅い治療効果の開始、ならびに好中球減少症および血栓性血小板減少性紫斑病を含むいくつかの副作用をもたらす。
【0004】
多型シトクロム(P450)媒介酸化的生体内活性化を必要としない改善された抗血小板剤が必要とされている。
【0005】
〔発明の概要〕
クロピドグレル(プラビックス)、チクロピジン(チクリド)およびプラスグレル(エフィエント)は、心臓発作および脳卒中を防止するための抗血小板剤として広く使用されるチエノピリジニル化合物のクラスに属する。しかしながら、応答の欠如、毒性および過度の出血を含むいくつかの重大な欠点が、これらの薬剤に関連している。これらの欠点は、それらが全て多型シトクロムP450酵素(P450)による酸化的生体内活性化を必要とするプロドラッグであるという事実に密接に関連している。
【0006】
チエノピリジン化合物(クロピドグレル(プラビックス)、チクロピジン(チクリド)およびプラスグレル(エフィエント))に関連した欠点を克服するために、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体が開発された。実際に、本発明の実施形態を開発する過程で行われた実験では、本発明のチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体が、P450の生体内活性化を必要とせず、内因性グルタチオン(GSH)の存在下で活性チエノピリジン代謝物(例えば、抗血小板活性が可能な活性チエノピリジン代謝物)を生成することができることが実証された。このアプローチは、P450による酸化的生体内活性化プロセスを避けるだけでなく、チエノピリジニル薬に関連する欠点の多くを回避する。例えば、本発明のチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体は、結合体からの活性代謝物の生成が予測可能であるため、投与の一貫性を改善する。さらに、本発明のチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体の抗血小板剤としての使用は、チオール交換反応により毒性反応性代謝物が生成されないため、毒性を低減する。さらに、本発明のチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体の治療開始時間が短縮され、これは、急性心血管イベントを経験する患者に大きな利益をもたらす。例えば、摂取されたチエノピリジンのごくわずかな割合が活性代謝物に変換されるため、チエノピリジンの標準的な投薬計画は、患者に3〜5日間連続的に投薬することを必要とする。対照的に、本発明のチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体は、30分未満で高収率で活性代謝物を放出する。さらに、本発明のチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体は、活性代謝物に対する優れた安定性を有し、したがってそれらを使用して、インビトロの基礎的および臨床的研究のために活性代謝物を定量的に生成することができる。
【0007】
したがって、ある特定の実施形態において、本発明は、抗血小板剤として広く使用されるチエノピリジニル化合物(例えば、クロピドグレル(プラビックス)、チクロピジン(チクリド)およびプラスグレル(エフィエント))に関連したそのような欠点を克服することができる、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体を提供する。本発明は、チエノピリジン化合物の特定の混合ジスルフィド結合体に限定されない。いくつかの実施形態において、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体は、その薬学的に許容される塩、溶媒和物および/またはプロドラッグを含む、式I:
【0009】
(式中、R1、R2、およびR3は、独立して、得られた化合物を、内因性グルタチオン(GSH)(例えば、抗血小板活性が可能な活性チエノピリジン代謝物)との相互作用の後に活性チエノピリジン代謝物を生成することができるようにする任意の化学的部分を含む)により記述される。
【0010】
いくつかの実施形態において、R1は、H、−CO−OCH3および
【0013】
いくつかの実施形態において、R3は、塩素またはフッ素である。
【0014】
いくつかの実施形態において、R2は、
【0017】
ある特定の実施形態において、本発明は、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物を提供する。
【0018】
ある特定の実施形態において、本発明は、静脈内(IV)投与用に構成されるチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体を含む医薬組成物を提供する。いくつかの実施形態において、静脈内(IV)投与用に構成されるチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体を含むそのような医薬組成物は、アテローム血栓症の治療、改善および予防に使用される。いくつかの実施形態において、静脈内(IV)投与用に構成されるチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体を含むそのような医薬組成物は、血小板凝集の迅速な阻害のために使用される。いくつかの実施形態において、静脈内(IV)投与用に構成されるチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体を含むそのような医薬組成物は、経皮的冠動脈インターベンション処置(例えば、冠動脈形成術)中に、血小板凝集の迅速な阻害のために使用される。
【0019】
ある特定の実施形態において、本発明は、心血管疾患を治療、改善、または予防する方法であって、治療有効量のチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体を患者に投与することを含む方法を提供する。いくつかの実施形態において、投与は、静脈内投与である。いくつかの実施形態において心血管疾患は、冠動脈疾患、末梢血管疾患、および脳血管疾患からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、化合物は、血小板の凝集を低減する(例えば、P2Y
12受容体への不可逆的結合を介して)(例えば、ADP受容体の遮断を介して)。いくつかの実施形態において、化合物は、P450による生体内活性化を必要とせずに内因性グルタチオンの存在下で活性チエノピリジン代謝物を生成することができる。いくつかの実施形態において、方法は、HMG−CoA還元酵素阻害剤、ACE阻害剤、カルシウムチャネルブロッカー、血小板凝集阻害剤、多価不飽和脂肪酸、フィブリン酸誘導体、胆汁酸封鎖剤、酸化防止剤、および抗狭心症薬からなる群から選択される少なくとも1つの薬剤の同時投与をさらに含む。
【0020】
ある特定の実施形態において、本発明は、患者における血管上の血小板の凝集を治療、改善または予防する方法であって、治療有効量のチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体を患者に投与することを含む方法を提供する。いくつかの実施形態において、投与は、静脈内投与である。いくつかの実施形態において、患者は、心血管疾患(例えば、冠動脈疾患、末梢血管疾患、および脳血管疾患)を有する、またはそのリスクを有する。いくつかの実施形態において、血小板の凝集の治療、改善または予防は、P2Y
12受容体への不可逆的結合を介して生じる。いくつかの実施形態において、血小板の凝集の治療、改善または予防は、ADP受容体の遮断を介して生じる。いくつかの実施形態において、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体は、P450による生体内活性化を必要とせずに内因性グルタチオンの存在下で活性チエノピリジン代謝物を生成することができる。
【0021】
〔図面の簡単な説明〕
図1は、クロピドグレルの活性代謝物(AM)の形成に対するチオール還元剤の効果を示すグラフである。AMは、0.2mg/mlのHLM、0.1mMの2−オキソクロピドグレル、NADPH再生系、およびチオール還元剤を含有する0.1mlの50mM KP緩衝液(pH7.4)中で生成された。チオール還元剤の濃度は1mMであったが、但しCPT、DFTおよびNPTはそれぞれ0.3mMであった。5単位のG6PDの添加により反応を開始させ、37℃で20分間インキュベートした。次いで、活性代謝物を、材料および方法の項に記載のようにMP誘導体として定量した。報告された率は、3回の別個の測定にわたり平均化した。チオール化合物に関する略語は、表1に記載されている。
【0022】
図2は、クロピドグレルの代表的混合ジスルフィド結合体の抽出イオンクロマトグラム(EIC)である。混合ジスルフィド結合体は、1mg/mlのHLM、0.1mMの2−オキソクロピドグレル、各種チオール還元剤、およびNADPH再生系を含有する0.2mlの50mM KPi緩衝液(pH7.4)中で、37℃で30分間生成された。MS分析は、材料および方法の項に記載のように行った。(A)m/z 432.06でのBME結合体のEIC;(B)m/z 482.08でのDFT結合体のEIC;(C)m/z 499.99でのCPT結合体のEIC;(D)m/z 510.08でのNPT結合体のEIC。
【0023】
図3は、HLMにより生成されたクロピドグレルのAMおよびチオール結合体の相対量を示すグラフである。
図2で説明したように、AMおよび結合体は、0.2mlの50mM KP(pH7.4)中で生成された。これらの分析のために、50pモルの(S)−クロピドグレルをISとして各試料に注入した。材料および方法の項に記載のように、AMおよびチオール結合体は両方とも、依存スキャンモードでLC−MS/MSを使用して分析した。凡例:白抜きのバー、m/z 322(IS)に対するm/z 356(AM)のAUC比;黒のバー、ISのそれぞれの結合体のAUC比。
【0024】
図4は、CPTの混合ジスルフィド結合体のMSおよびMS
2スペクトルである。結合体は、
図2で説明したように生成された。材料および方法の項に記載のように、MSおよびMS
2スペクトルは、依存スキャンモードでLC−MS/MSを使用して得られた。(A)CPT結合体のMSスペクトル;(B)CPT結合体の親イオンのm/z 499.99のMS
2スペクトル;(C)CPT結合体の親イオンm/z 501.94のMS
2スペクトル;(D)
図4Bに示される断片化パターンの帰属。
【0025】
図5は、GSHによるクロピドグレルの混合ジスルフィド結合体の還元の反応速度を示すグラフである。混合ジスルフィド結合体は、材料および方法の項に記載のように、1mg/mlのHLM、0.1mMの2−オキソクロピドグレル、NADPH再生系、および各種チオール還元剤を含有する反応混合物から調製され、SPE C18カートリッジを使用して精製された。精製された結合体は、次いで、1mMのGSHおよび0.2mg/mlの細胞質ゾル(存在する場合)と混合された。残りの結合体および形成されたAMは、LC−MS/MSを使用して分析した。凡例:(A)0.2mg/mlの細胞質ゾルの存在下での1mM GSHによる、BME(白丸)、CPT(黒四角)、NAC(黒逆三角)、DFT(黒三角)、およびNPT(白四角)の結合体の還元。(B)0.2mg/mlの細胞質ゾルの存在下および非存在下での1mMのGSHによるCPT結合体の還元。凡例:(白丸)細胞質ゾルの非存在下でのAMの形成;(白三角)、細胞質ゾルの存在下でのAMの形成;(黒丸)細胞質ゾルの非存在下での結合体の還元;(黒三角)細胞質ゾルの存在下での結合体の還元。実線および破線は、単一指数関数への非線形曲線フィッティングである。
【0026】
図6は、クロピドグレルの混合ジスルフィド結合体からの活性代謝物H4の形成を示す、m/z504において観察される抽出イオンクロマトグラムである。混合ジスルフィド結合体は、
図3において説明したように、HLM中で生成され、SPEカートリッジで精製された。MS分析の前に、混合ジスルフィド結合体は、AMを放出するようにDTTで処理され、次いでAMはその後MPBで誘導体化された。AM−MP誘導体は、材料および方法の項に記載のように、LC−MS/MSを使用して分析した。凡例:A、trans−(破線)およびcis−クロピドグレル−MP(実線)標準;B、1mMのGSH(破線)および1mMのアスコルビン酸(実線)の存在下で得られたAM−MP;C、CPT結合体から得られたAM−MP;D、NPT結合体から得られたAM−MP;E、DFT結合体から得られたAM−MP。振幅は2倍された。
【0027】
図7は、クロピドグレルの混合ジスルフィド結合体による血小板凝集の阻害を示すグラフである。混合ジスルフィド結合体は、1mMのGSHを含有する、チオール還元剤を含有しない、またはG6PDを含有しない3つの対照試料と共に、0.3mMのCPTおよびNPTの存在下で反応混合物から調製および精製された。全ての試料は0.5mLのPPPに再懸濁され、その一部は、AMを放出するために1mMのGSHに処理された。血小板凝集は、10μMのADPの添加により開始し、血小板凝集計で記録した。凝集の割合は、PRPの割合に対して正規化し、4回の別個の測定にわたり平均化した。詳細については、材料および方法の項を参照されたい。凡例:PRP、未処理多血小板血漿;GSH、PRP中1mMのGSH;−G6PD、G6PDの非存在下で生成された代謝物;−SH、任意のチオール還元剤の非存在下で生成された代謝物;GSH、1mMのGSHの存在下で生成された代謝物;CPT、0.3mMのCPTの存在下で生成された代謝物;CPT+GSH、0.3mMのCPTの存在下で生成され、次いで1mMのGSHで処理された代謝物;NPT、0.3mMのNPTの存在下で生成された代謝物;NPT+GSH、0.3mMのNPTの存在下で生成され、次いで1mMのGSHで処理された代謝物。
【0028】
図8は、実施例10に記載のような再構成系においてバイオ合成された純粋(S)−clopNPTの全イオンクロマトグラムである。(S)−clopNPTの3つのジアステレオマーは、7.9、8.6および9.5分で溶出された。
【0029】
図9は、実施例10に記載のような(S)−clopNPTのIV注射後の雄NZ白ウサギの血小板活性を示すグラフである。
【0030】
〔定義〕
「チエノピリジン化合物」という用語は、本明細書において使用される場合、その抗血小板活性のために使用されるADP受容体/P2Y12阻害剤のクラスを指す。その例は、クロピドグレル(プラビックス)、チクロピジン(チクリド)、およびプラスグレル(エフィエント)を含むが、これらに限定されない。
【0031】
「チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体」という用語は、本明細書において使用される場合、内因性グルタチオン(GSH)との相互作用の後に活性チエノピリジン代謝物を生成することができる修飾チエノピリジン化合物を指す。
【0032】
「プロドラッグ」という用語は、本明細書において使用される場合、プロドラッグを放出する、またはそれを活性薬物に変換する(例えば、酵素的、生理学的、機械的、電磁的に)ために標的の生理学系内の生体内変化(例えば、自発的または酵素的)を必要とする親「薬物」分子の薬理学的に不活性な誘導体を指す。プロドラッグは、安定性、水溶性、毒性、特異性の欠如、または限定された生物学的利用能に関連した問題を克服するように設計される。例示的プロドラッグは、活性薬物分子自体、および化学マスキング基(例えば、薬物の活性を可逆的に抑制する基)を含む。いくつかのプロドラッグは、代謝条件下で切断可能な基を有する化合物の変形型または誘導体である。プロドラッグは、当該技術分野において知られている方法、例えばA Textbook of Drug Design and Development, Krogsgaard−Larsen and H.Bundgaard (eds.),Gordon & Breach, 1991、特にChapter 5: ”Design and Applications of Prodrugs”;Design of Prodrugs, H.Bundgaard (ed.),Elsevier, 1985;Prodrugs: Topical and Ocular Drug Delivery, K.B.Sloan (ed.),Marcel Dekker, 1998;Methods in Enzymology, K.Widder et al. (eds.),Vol. 42, Academic Press, 1985、特にpp. 309−396;Burger’s Medicinal Chemistry and Drug Discovery, 5th Ed., M.Wolff (ed.),John Wiley & Sons, 1995、特に Vol. 1ならびにpp. 172−178およびpp. 949−982;Pro−Drugs as Novel Delivery Systems, T.Higuchi and V.Stella (eds.),Am. Chem.Soc., 1975;ならびにBioreversible Carriers in Drug Design, E.B.Roche (ed.),Elsevier, 1987に記載の方法を使用して、親化合物から容易に調製され得る。
【0033】
例示的プロドラッグは、生理学的条件下で加溶媒分解を受ける、または酵素分解もしくは他の生化学的変換(例えば、リン酸化、水素化、脱水素化、グリコシル化)を受けると、インビボまたはインビトロで薬学的に活性となる。プロドラッグは、しばしば、哺乳類生物において、水溶性、組織適合性または遅延放出の利点を提供する。(例えば、Bundgard, Design of Prodrugs, pp. 7−9, 21−24, Elsevier, Amsterdam (1985);およびSilverman, The Organic Chemistry of Drug Design and Drug Action, pp. 352−401, Academic Press, San Diego, CA (1992)を参照されたい。)一般的なプロドラッグは、酸誘導体、例えば親の酸と好適なアルコール(例えば、低級アルコール)との反応により調製されるエステル、もしくは親のアルコールと好適なカルボン酸(例えば、アミノ酸)との反応により調製されるエステル、親の酸化合物とアミンとの反応により調製されるアミド、反応してアシル化塩基誘導体(例えば、低級アルキルアミド)を形成する塩基性基、またはリン含有誘導体、例えば、環状ホスフェート、ホスホネート、およびホスホルアミデートを含む、ホスフェート、ホスホネートおよびホスホルアミデートエステル(例えば、米国特許出願公開第2007/0249564A1号を参照されたい)を含む。
【0034】
「薬学的に許容される塩」という用語は、本明細書において使用される場合、標的動物(例えば、哺乳類)において生理学的に忍容性である本発明の化合物の任意の塩(例えば、酸または塩基との反応により得られる)を指す。本発明の化合物の塩は、無機または有機酸および塩基から得られてもよい。酸の例は、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、過塩素酸、フマル酸、マレイン酸、リン酸、グリコール酸、乳酸、サリチル酸、コハク酸、トルエン‐p‐スルホン酸、酒石酸、酢酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ギ酸、安息香酸、マロン酸、スルホン酸、ナフタレン‐2‐スルホン酸、ベンゼンスルホン酸等を含むが、これらに限定されない。シュウ酸等の他の酸は、それら自体は薬学的に許容されないが、本発明の化合物およびそれらの薬学的に許容される酸付加塩を得る際に、中間物として有用な塩の調製において利用されてもよい。
【0035】
塩基の例は、アルカリ金属(例えば、ナトリウム)水酸化物、アルカリ土類金属(例えば、マグネシウム)水酸化物、アンモニア、および式NW
4+(式中、Wは、C
1−4アルキルである)の化合物等を含むが、これらに限定されない。
【0036】
塩の例は、酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、重硫酸塩、酪酸塩、クエン酸塩、ショウノウ酸塩、ショウノウスルホン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、フマル酸塩、フルコヘプタン酸塩、グリセロリン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物、2−ヒドロキシエタンスルホン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、2−ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、シュウ酸塩、パルモエート、ペクチン酸塩、過硫酸塩、フェニルプロピオン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、トシル酸塩、ウンデカン酸塩等を含むが、これらに限定されない。塩の他の例は、Na
+、NH
4+、およびNW
4+(式中、Wは、C
1−4アルキル基である)等の好適なカチオンと配合される、本発明の化合物のアニオンを含む。本発明の化合物の塩は、治療的使用に薬学的に許容されることが企図される。しかしながら、薬学的に許容されない酸および塩基の塩もまた、例えば、薬学的に許容される化合物の調製または精製において使用されてもよい。
【0037】
「溶媒和物」という用語は、本明細書において使用される場合、本発明の化合物の、有機または無機を問わない1種以上の溶媒分子との物理的会合を指す。この物理的会合は、しばしば、水素結合を含む。ある特定の場合において、溶媒和物は、例えば1種以上の溶媒和分子が結晶固体の結晶格子内に組み込まれている場合、単離が可能である。「溶媒和物」は、溶液相および単離可能な溶媒和物の両方を包含する。例示的溶媒和物は、水和物、エタノレート、およびメタノレートを含む。
【0038】
「治療有効量」という用語は、本明細書において使用される場合、障害の1つ以上の症状の寛解をもたらす、または障害の進行を防止する、または障害の退行を引き起こすのに十分な治療薬剤の量を指す。例えば、血管上の血小板凝集の治療および/または予防に関して、一実施形態において、治療有効量は、血小板凝集を少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも100%減少、低減および/または予防する治療薬剤(例えば、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体)の量を指す。
【0039】
「薬学的に許容される担体」または「薬学的に許容されるビヒクル」という用語は、標準的な医薬担体、溶媒、界面活性剤、またはビヒクルのいずれかを包含する。好適な薬学的に許容されるビヒクルは、水性ビヒクルおよび非水性ビヒクルを含む。標準的な薬学的担体およびそれらの製剤は、Remington’s Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co., Easton, PA, 19th ed. 1995に記載されている。
【0040】
〔発明を実施するための形態〕
チエノピリジニル抗血小板剤は、3つの臨床的に使用される薬物、クロピドグレル(プラビックス)、チクロピジン(チクリド)、およびプラスグレル(エフィエント)を含む。クロピドグレル(プラビックス)、チクロピジン(チクリド)、およびプラスグレル(エフィエント)の化学構造およびIUPAC名は、以下の通りである:
【0042】
チエノピリジニル抗血小板剤は、急性心血管症候群および末梢血管疾患を有する患者、特に心臓発作および脳卒中を予防するために経皮的冠動脈インターベンション(例えば、冠動脈血管形成術)を受けている者の間で、広く使用されている。米国では毎年約2百万人の患者が、冠状動脈および頸動脈ステントを受け、プラビックスの年間売上高は2010年だけで65億ドルに相当した。
【0043】
広範な使用にもかかわらず、クロピドグレルは、その効率において著しい個体間変動を示している(例えば、Freedman JE and Hylek EM (2009) New Engl J Med 360(4):411−413;Gurbel PA and Tantry US (2007) Thromb Res 120(3):311−321;Sofi F, et al., (2011) Pharmacogenomics J 11(3):199−206を参照されたい)。患者の約3分の1は、クロピドグレル療法に応答しない(例えば、Mason PJ, Jacobs AK and Freedman JE (2005) J Am Coll Cardiol 46(6):986−993を参照されたい)。この個体間変動を克服する目的で、応答の欠如と相関する遺伝子マーカーを同定することを試みて、多くの研究が行われている。クロピドグレルは、突然変異CYP2C19
*2遺伝子を有する患者においてはより効果的でないことが示されている(例えば、Dick RJ, Dear AE and Byron KA (2011) Heart Lung Circ 20(10):657−658;Shuldiner AR, et al., (2009) JAMA 302(8):849−857;Sofi F, et al., (2011) Pharmacogenomics J 11(3):199−206を参照されたい)。しかしながら、CYP2C19
*2突然変異遺伝子は、応答における変動のわずか12%を占める(例えば、Shuldiner AR, et al., (2009) JAMA 302(8):849−857を参照されたい)。他の要因も関与している可能性があるが、同定されていない。
【0044】
実際、抗血小板剤として広く使用されているものの、チエノピリジニル抗血小板剤に関連する欠点が存在する。クロピドグレルの主な欠点は、投薬の非一貫性である。例えば、患者の約3分の1は、クロピドグレル治療に応答しない。チクロピジンは、皮膚の発疹や下痢の中程度の症状から、好中球減少症および骨髄形成不全等の重篤な、時には致命的なものに至るまでの、一連の副作用を引き起こす可能性がある。稀なケースでは、無顆粒球症の重度の特異イベントをもたらす。過度の出血は、特に高齢患者において、プラスグレルの使用に関連している。
【0045】
チエノピリジニル抗血小板剤に関連するそのような欠点は、これら3つの薬物が全て、スキーム1に示されるように、多型シトクロムP450(P450)による活性代謝物(AM)への酸化的生体内活性化を必要とするプロドラッグであるという事実に密接に関連している。この酸化的生体内活性化プロセスにより、P450により生成される活性代謝物の量は、各患者の肝臓P450の遺伝子構成に応じて変動する。さらに、これらの薬物は、P450により広範囲に代謝されて複数の代謝物を生成し、そのいくつかは極めて反応性であり、潜在的に毒性である。チクロピジンに起因する重度の特異イベントは、反応性代謝物の生成と関連していることが報告されている。
【0047】
前述のように、クロピドグレル療法に対する変動する応答は、クロピドグレルが、シトクロムP450(P450)によるその薬理学的活性代謝物(AM)への酸化的生体内活性化を必要とするプロドラッグであるという事実に密接に関連している(例えば、Kazui M, et al., (2010) Drug Metab Dispos 38(1):92−99;Savi P, et al., (2000) Thromb Haemost 84(5):891−896を参照されたい)。P450媒介生体内活性化には、2つの連続した酸化ステップが関与することが十分に説明されており(例えば、Dansette PM, Thebault S, Bertho G and Mansuy D (2010) Chem Res Toxicol 23(7):1268−1274;Dansette PM, Rosi J, Bertho G and Mansuy D (2012) Chem Res Toxicol 25(2):348−356を参照されたい)、クロピドグレルはまず2−オキソクロピドグレルに一酸化され、一方でこれが第2ステップにおいてAMに酸化される。エステラーゼPON1が2−オキソクロピドグレルからAMへの変換を担うことが議論されている(例えば、Bouman HJ, et al., (2011) Nat Med 17(1):110−116を参照されたい)が、2−オキソクロピドグレルは、スキーム2に示されるように、スルフェン酸中間体を介してAMに変換されるという考えを裏付ける証拠が増えてきている(例えば、Dansette PM, Libraire J, Bertho G and Mansuy D (2009) Chem Res Toxicol 22(2):369−373;Dansette PM, Rosi J, Bertho G and Mansuy D (2012) Chem Res Toxicol 25(2):348−356;Dansette PM, Rosi J, Debernardi J, Bertho G and Mansuy D (2012) Chem Res Toxicol 25(5):1058−1065;Dansette PM, Thebault S, Bertho G and Mansuy D (2010) Chem Res Toxicol 23(7):1268−1274を参照されたい)。
【0049】
スキーム2によれば、2−オキソクロピドグレルは、まずP450によりスルフェン酸中間体に酸化される。次いで、極めて不安定なスルフェン酸は、グルタチオン(GSH)により急速に還元されて、混合ジスルフィド結合体(RS−SG)を形成し、これがその後別のGSH分子により還元されてAMを形成する。これは、GSHがヒト肝ミクロソーム(HLM)におけるAMの形成に必要であるという観察と一致している(例えば、Kazui M, et al., (2010) Drug Metab Dispos 38(1):92−99を参照されたい)。AMは、血小板P2Y
12受容体の共有結合修飾を介した血小板凝集の阻害を担うことが広く認められている(例えば、Ding Z, et al., (2003) Blood 101(10):3908−3914;Algaier I, et al., (2008) J Thromb Haemost 6(11):1908−1914を参照されたい)。混合ジスルフィド結合体RS−SGの抗血小板活性は、依然として試験されていない。
【0050】
N−アセチル−L−システイン(NAC)およびL−システインの存在下での2−オキソクロピドグレルの代謝は、AMおよび混合ジスルフィド結合体の両方の形成をもたらす(例えば、Zhang H, Lau WC and Hollenberg PF (2012) Mol Pharmacol 82:302−309を参照されたい)。さらに、NACおよびL−システインの混合ジスルフィド結合体は、チオールをGSHと交換すること、ならびにAM、AM結合体およびGSHの間の平衡は、それらの酸化還元電位により左右されることが実証された。スルフェン酸中間体は反応性酸化剤であるため、その酸化還元電位が高くなる可能性がある。
【0051】
チエノピリジン化合物に関連する欠点を克服するために、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体が開発された。本発明の実施形態を開発する過程で行われた実験では、本発明のチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体が、スキーム3に示されるように、P450による生体内活性化を必要とせず、内因性グルタチオン(GSH)の存在下で活性代謝物を生成することができることが実証された。このアプローチは、P450による酸化的生体内活性化プロセスを避けるだけでなく、チエノピリジニル薬の欠点の多くを回避する。例えば、本発明のチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体は、結合体からの活性代謝物の生成が予測可能であるため、投与の一貫性を改善する。さらに、本発明のチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体の抗血小板剤としての使用は、チオール交換反応により毒性反応性代謝物が生成されないため、毒性を低減する。さらに、本発明のチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体の治療開始時間が短縮され、これは、急性心血管イベントを経験する患者に大きな利益をもたらす。摂取されたチエノピリジンのごくわずかな割合が活性代謝物に変換されるため、チエノピリジンの標準的な投薬計画は、患者に3〜5日間連続的に投薬することを必要とする。対照的に、本発明のチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体は、30分未満で高収率で活性代謝物を放出し得る。さらに、本発明のチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体は、活性代謝物に対する優れた安定性を有し、したがってそれらを使用して、インビトロの基礎的および臨床的研究のために活性代謝物を定量的に生成することができる。
【0056】
したがって、本発明は、P450による生体内活性化を必要とせずに内因性グルタチオン(GSH)の存在下で活性チエノピリジン代謝物を生成することができる、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体に関する。本発明は、さらに、患者における心血管障害、例えば抗血小板剤(クロピドグレル、チクロピジン、およびプラスグレル等)に応答性であるものを治療、改善、または予防する方法であって、本発明のチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体を患者に投与することを含む方法に関する。そのような障害は、冠動脈疾患、末梢血管疾患、および脳血管疾患を含むが、それらに限定されない。いくつかの実施形態において、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体は、例えばADP受容体を遮断することにより血小板膜の機能を改変することによって血小板凝集を阻害する(例えば、それにより、フィブリノゲンへの血小板結合を可能にする糖タンパク質IIb/IIIaの構造変化を防止する)ために使用される。いくつかの実施形態において、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体は、P2Y
12受容体への不可逆的な結合により血小板の凝集(「クランピング」)を低減する。いくつかの実施形態において、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体は、静脈内(IV)投与用に構成される医薬組成物内に使用される(例えば、抗血小板剤のIV投与を必要とする医学的状況(例えば、冠動脈血管形成術)において)。
【0057】
本発明は、チエノピリジン化合物の特定の混合ジスルフィド結合体に限定されない。いくつかの実施形態において、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体は、その薬学的に許容される塩、溶媒和物、および/またはプロドラッグを含む、式I:
【0060】
式Iは、R1、R2、およびR3に関して特定の化学的部分に限定されない。いくつかの実施形態において、R1、R2、R3は、それぞれ独立して、得られた化合物を、P450による生体内活性化を必要とせずに内因性グルタチオン(GSH)の存在下で活性チエノピリジン代謝物を生成することができるようにする、任意の化学的部分を含む。いくつかの実施形態において、R1、R2、R3は、それぞれ独立して、得られた化合物を、患者における心血管障害(例えば、冠動脈疾患、末梢血管疾患、および脳血管疾患)、例えば抗血小板剤(クロピドグレル、チクロピジン、およびプラスグレル等)に応答性のものを治療、改善、または予防することができるようにする、任意の化学的部分を含む。いくつかの実施形態において、R1、R2、R3は、それぞれ独立して、得られた化合物を、例えばADP受容体を遮断することにより血小板膜の機能を改変することによって血小板凝集を阻害する(例えば、それにより、フィブリノゲンへの血小板結合を可能にする糖タンパク質IIb/IIIaの構造変化を防止する)ことができるようにする、任意の化学的部分を含む。いくつかの実施形態において、R1、R2、R3は、それぞれ独立して、得られた化合物を、P2Y
12受容体への不可逆的な結合により血小板の凝集(「クランピング」)を低減することができるようにする、任意の化学的部分を含む。
【0061】
いくつかの実施形態において、R1は、H、−CO−OCH3、または
【0064】
いくつかの実施形態において、R3は、塩素またはフッ素である。
【0065】
いくつかの実施形態において、R2は、
【0067】
から選択されるが、それらに限定されない。いくつかの実施形態において、以下のチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体が式Iに企図される:
【0069】
いくつかの実施形態において、以下のチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体が式Iに企図される:
【0071】
またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはプロドラッグ。
【0072】
いくつかの実施形態において、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体は、動物(例えば、ヒトおよび獣医学的動物を含むがそれらに限定されない哺乳動物患者)における心血管障害、例えば抗血小板剤(クロピドグレル、チクロピジン、およびプラスグレル等)に応答性のものを治療、改善、または予防するために使用され、本発明のチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体を患者に投与することを含む。そのような障害は、冠動脈疾患、末梢血管疾患、アテローム血栓症、および脳血管疾患を含むが、それらに限定されない。実際に、いくつかの実施形態において、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体は、血小板凝集を減少させる、および/または血栓形成を阻害するために使用される。この点で、そのような疾患および病状は、本発明の方法およびチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体を使用した治療または予防に適している。
【0073】
いくつかの実施形態において、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体は、症候性アテローム性動脈硬化症を有する患者における血管の虚血性イベントの予防において使用される。いくつかの実施形態において、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体は、ST上昇のない急性冠症候群の治療または予防に使用される。いくつかの実施形態において、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体は、冠動脈内ステント留置後の血栓症の予防に使用される。いくつかの実施形態において、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体は、例えばADP受容体を遮断することにより血小板膜の機能を改変することによって血小板凝集を阻害する(例えば、それにより、フィブリノゲンへの血小板結合を可能にする糖タンパク質IIb/IIIaの構造変化を防止する)ために使用される。いくつかの実施形態において、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体は、P2Y
12受容体への不可逆的な結合により血小板の凝集(「クランピング」)を低減する。いくつかの実施形態において、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体は、出血時間を延長するために使用される。いくつかの実施形態において、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体は、高リスク患者における発作の発生率を減少させるために使用される。
【0074】
いくつかの実施形態において、本発明は、静脈内(IV)投与用に構成されるチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体を含む医薬組成物を提供する。いくつかの実施形態において、静脈内(IV)投与用に構成されるチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体を含むそのような医薬組成物は、アテローム血栓症の治療、改善および予防に使用される。いくつかの実施形態において、静脈内(IV)投与用に構成されるチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体を含むそのような医薬組成物は、血小板凝集の迅速な阻害のために使用される。いくつかの実施形態において、静脈内(IV)投与用に構成されるチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体を含むそのような医薬組成物は、経皮的冠動脈インターベンション処置(例えば、冠動脈形成術)中に、血小板凝集の迅速な阻害のために使用される。実際に、抗血小板療法は、アテローム血栓症の予防および治療の基礎である。プラーク破裂やステントからのせん断圧力応力などのアゴニストによる血小板活性化は、アテローム血栓症の発症に重要な役割を果たす。患者が急性心血管症候群に罹患している、または経皮的心血管インターベンションを受けているある特定の臨床状況下では、血小板凝集の迅速かつ完全な阻害が、心血管死および虚血性合併症を予防するために必要である。そのような医療シナリオは、短い開始時間を有する抗血小板剤の静脈内投与を必要とする。しかしながら、現在使用されている抗血小板剤は、遅い開始時間を有するか、または静脈内投与できないため、これはまだ満たされていない医学的必要性である(例えば、Silvain, J., and Montalescot, G., (2012) Circ.Cariovasc.Interv.5:328−331を参照されたい)。本発明のチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体は、経口的および静脈内の両方で投与され得、短い開始時間を有し得るため、そのような化合物はこの満たされていない医学的必要性を満足させる。
【0075】
本発明のいくつかの実施形態は、有効量の本発明のチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体および少なくとも1種の追加の治療薬剤(心血管障害を治療、改善または予防することが知られている治療薬剤を含むが、それに限定されない)を投与するための方法、ならびに/または治療技術(例えば、外科的介入)を提供する。心血管障害を治療、改善、または予防することが知られているいくつかの治療薬剤が、本発明の方法における使用に企図される。実際に、本発明は、心血管障害を治療、改善、または予防することが知られているいくつかの治療薬剤の投与を企図するが、それらに限定されない。その例は、HMG−CoAレダクターゼ阻害剤(例えば、アトルバスタチン(リピトール)、プラバスタチン(プラバコール)
、シンバスタチン(ゾコール)、ロスバスタチン(クレストール)、ピタバスタチン(リバロ)、ロバスタチン(メバコール、アルトコール)、フルバスタチン(レスコール))、ACE阻害剤(例えば、ラミプリル(アルテース)、キナプリル(ACCUPRIL)、カプトプリル(カポテン)、エナラプリル(バソテック)、リシノプリル(ゼストリル))、カルシウムチャネル遮断薬(例えば、アムロジピン(ノルバスク)、ニフェジピン(プロカルディア)、ベラパミル(カラン)、フェロジピン(プレンジル)、ジルチアゼム(カルディゼム))、血小板凝集阻害剤(チクロピジン、クロピドグレル以外と、プラスグレル)(例えば、アブシキシマブ(レオプロ)、アスピリン、ワルファリン(ワーファリン)、ヘパリン)、多価不飽和脂肪酸(例えば、オメガ−3多価不飽和脂肪酸(フィッシュオイル))、フィブリン酸誘導体(例えば、フェノフィブラート(TRICOR)、ゲムフィブロジル(ロピッド))、胆汁酸金属イオン封鎖剤(例えば、コレスチポール(コレスチド)、コレスチラミン(クエストラン))、酸化防止剤(例えば、ビタミンE)、ニコチン酸誘導体(例えば、ナイアシン(NIASPAN)、血栓溶解剤(例えば、アルテプラーゼ(アクチバーゼ))、および抗狭心症薬(例えば、ラノラジン(ラネクサ)を含むが、それらに限定されない。
【0076】
本発明のいくつかの実施形態において、本発明のチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体および1種以上の追加の治療薬剤が、以下の条件の1つ以上において患者に投与される:異なる周期性、異なる期間、異なる濃度、異なる投与経路等。いくつかの実施形態において、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体は、追加の治療薬剤の前、例えば、追加の治療薬剤の投与の0.5、1、2、3、4、5、10、12、もしくは18時間、1、2、3、4、5、もしくは6日、または1、2、3、もしくは4週間前に投与される。いくつかの実施形態において、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体は、追加の治療薬剤の後、例えば、追加の治療薬剤の投与から0.5、1、2、3、4、5、10、12、もしくは18時間、1、2、3、4、5、もしくは6日、または1、2、3、もしくは4週間後に投与される。いくつかの実施形態において、チエノピリジン化合物化合物の混合ジスルフィド結合体および追加の治療薬剤は、同時ではあるが異なるスケジュールで投与され、例えば、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体は毎日投与されるが、追加の治療薬剤は、週1回、2週間に1回、3週間に1回、または4週間に1回投与される。他の実施形態において、チエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体は、週1回投与されるが、追加の治療薬剤は、毎日、週1回、2週間に1回、3週間に1回、または4週間に1回投与される。
【0077】
本発明の範囲内の組成物は、本発明のチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体が意図される目的を達成するために効果的な量で含有される全ての組成物を含む。個々の必要性は変動するが、各成分の有効量の最適範囲の決定は、当該分野の技術内である。典型的には、化合物は、哺乳動物、例えばヒトに、1日当たり0.0025から50mg/kg(アポトーシスの誘導に応答性の障害の治療を受けている哺乳動物の体重)の用量で、またはその薬学的に許容される塩の相当量で経口的に投与され得る。一実施形態において、約0.01から約25mg/kgが、そのような障害を治療、改善、または予防するために経口投与される。筋肉内注射の場合、用量は一般に経口用量の約半分である。例えば、好適な筋肉内用量は、約0.0025から約25mg/kg、または約0.01から約5mg/kgとなる。
【0078】
単位経口用量は、約0.01から約1000mg、例えば、約0.1から約100mgのチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体を含んでもよい。単位用量は、それぞれ約0.1から約10mg、好都合には約0.25から50mgの化合物またはその溶媒和物を含有する1つ以上の錠剤またはカプセルとして1日に1回以上投与されてもよい。
【0079】
局所製剤においては、化合物は、担体1グラム当たり約0.01から100mgの濃度で存在してもよい。一実施形態において、チエノピリジン化合物化合物の混合ジスルフィド結合体は、約0.07〜1.0mg/ml、例えば約0.1〜0.5mg/mlの濃度で、また一実施形態においては約0.4mg/mlの濃度で存在する。
【0080】
未加工化学物質としてチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体を投与することに加えて、本発明の化合物は、薬学的に使用することができる調製物への化合物の処理を促進する賦形剤および助剤を含む好適な薬学的に許容される担体を含有する薬学的調製物の一部として投与されてもよい。調製物、特に経口的または局所的に投与され得、また1つの種類の投与に使用され得る調製物、例えば錠剤、糖衣錠、徐放性トローチおよびカプセル、口内洗浄液およびマウスウォッシュ、ゲル、懸濁液、ヘアリンス、ヘアジェル、シャンプー、さらに直腸投与され得る調製物、例えば座剤、ならびに、静脈内注入、注射、局所または経口による投与に好適な溶液は、賦形剤と共に、約0.01から99パーセント、一実施形態において約0.25から75パーセントの活性化合物(複数種可)を含有する。
【0081】
本発明の医薬組成物は、本発明のチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体の有益な効果を経験し得る任意の患者に投与され得る。何よりも、哺乳動物、例えばヒトがそのような患者に含まれるが、本発明はそのように限定されることを意図しない。他の患者は、獣医学的動物(ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマ、イヌ、ネコ等)を含む。
【0082】
化合物およびその医薬組成物は、それらの意図される目的を達成する任意の手段によって投与され得る。例えば、投与は、非経口、皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内、経皮、口腔内、髄腔内、頭蓋内、鼻腔内または局所経路によるものであってもよい。代替として、または同時に、投与は経口経路によるものであってもよい。投与される用量は、受容者の年齢、健康状態、および体重、該当する場合には併用治療の種類、治療の頻度、ならびに所望の効果の性質に依存する。
【0083】
本発明の医薬調製物は、それ自体知られている様式で、例えば従来の混合、顆粒化、糖衣錠製造、溶解、または凍結乾燥プロセスを用いて製造される。したがって、活性化合物を固体賦形剤と合わせ、得られた混合物を随意に粉砕し、所望または必要な場合には好適な助剤の添加後に顆粒の混合物を処理して、錠剤または糖衣錠コアを得ることによって、経口使用のための医薬調製物を得ることができる。
【0084】
好適な賦形剤は、特に、充填剤、例えば糖、例えばラクトースまたはスクロース、マンニトールまたはソルビトール、セルロース調製物および/またはリン酸カルシウム、例えばリン酸三カルシウムまたはリン酸水素カルシウム、ならびに結合剤、例えば、トウモロコシデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、および/またはポリビニルピロリドン等を使用したデンプンペーストである。所望により、上述のデンプンおよびカルボキシメチル−デンプン、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸もしくはその塩、例えばアルギン酸ナトリウム等の崩壊剤が添加されてもよい。助剤は、とりわけ、流動調節剤および滑沢剤、例えばシリカ、タルク、ステアリン酸もしくはその塩、例えばステアリン酸マグネシウムもしくはステアリン酸カルシウム、および/またはポリエチレングリコールである。糖衣錠コアには、所望により、胃液に耐性のある好適なコーティングが提供される。この目的のため、アラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、および/または二酸化チタン、ラッカー溶液、ならびに好適な有機溶媒または溶媒混合物を随意に含有してもよい濃縮糖溶液が使用されてもよい。胃液に耐性のコーティングを生成するために、アセチルセルロースフタレートまたはヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート等の好適なセルロース調製物の溶液が使用される。例えば識別のため、または活性化合物用量の組合せを特徴付けるために、錠剤または糖衣錠コーティングに染料または顔料が添加されてもよい。
【0085】
経口的に使用され得る他の医薬調製物は、ゼラチンで作製された押込嵌めカプセル、ならびに、ゼラチンおよびグリセロールまたはソルビトール等の可塑剤で作製された軟質密封カプセルを含む。押込嵌めカプセルは、ラクトース等の充填剤、デンプン等の結合剤、および/またはタルクもしくはステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤、および随意に安定剤と混合されてもよい顆粒の形態の活性化合物を含有してもよい。軟質カプセルにおいて、活性化合物は、一実施形態において、好適な液体、例えば脂肪油または流動パラフィン中に溶解または懸濁される。さらに、安定剤が添加されてもよい。
【0086】
直腸内に使用することができる可能な医薬調製物は、例えば、座剤基材を有する活性化合物の1種以上の組合せからなる座剤を含む。好適な坐剤基材は、例えば、天然または合成トリグリセリド、またはパラフィン炭化水素である。さらに、活性化合物と基材との組み合わせからなるゼラチン直腸カプセルを使用することも可能である。可能な基材の材料は、例えば、液体トリグリセリド、ポリエチレングリコール、またはパラフィン炭化水素を含む。
【0087】
非経口投与に好適な製剤は、水溶性形態の活性化合物の水溶液、例えば、水溶性塩およびアルカリ溶液を含む。さらに、適切な油性注射懸濁液としての活性化合物の懸濁液が投与されてもよい。好適な親油性溶媒またはビヒクルは、脂肪油、例えば、ゴマ油、または合成脂肪酸エステル、例えば、オレイン酸エチルまたはトリグリセリドまたはポリエチレングリコール−400を含む。水性注入懸濁液は、カルボキシルメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、および/またはデキストラン等の懸濁液の粘度を増加させる物質を含有してもよい。随意に、懸濁液はまた安定剤を含有してもよい。
【0088】
本発明の局所用組成物は、一実施形態において、適切な担体の選択により、油、クリーム、ローション、軟膏等として製剤化される。好適な担体は、植物油または鉱物油、白色ワセリン(白色軟パラフィン)、分岐鎖脂肪または油、動物性脂肪および高分子量アルコール(C
12より高級)を含む。担体は、活性成分が可溶性であるものであってもよい。所望により、乳化剤、安定剤、湿潤剤および酸化防止剤もまた、色または香りを付与する薬剤と同様に含まれてもよい。さらに、経皮浸透促進剤が、これらの局所製剤において使用され得る。そのような促進剤の例は、米国特許第3,989,816号および米国特許第4,444,762号に見出すことができる。
【0089】
軟膏は、アーモンド油等の植物油中の活性成分と暖かい軟パラフィンとの溶液を混合し、混合物を冷却することによって製剤化され得る。そのような軟膏の典型的な例は、約30重量%のアーモンド油および約70重量%の白色軟パラフィンを含むものである。ローションは、好都合に、プロピレングリコールまたはポリエチレングリコール等の好適な高分子量アルコール中に活性成分を溶解することによって調製され得る。
【0090】
上記は、単に本発明のある特定の好ましい実施形態の詳細な説明を表すものであることが、当業者には容易に理解される。上述の組成物および方法の様々な修正および変更は、当該技術分野において利用可能な専門知識を使用して容易に達成され得、また本発明の範囲内である。
【0091】
〔実施例〕
以下の実施例は、本発明の化合物、組成物、および方法の例示であり、限定するものではない。臨床治療において通常遭遇し、また当業者に明らかである様々な条件およびパラメータの他の好適な修正および適合は、本発明の精神および範囲内にある。
【0092】
〔実施例1〕
本実施例は、クロピドグレルおよびチクロピジンの混合ジスルフィド結合体の合成を説明する。
【0093】
スキーム4に従い、ヒト肝ミクロソーム(HLM)を使用して、クロピドグレルおよびチクロピジンの混合ジスルフィド結合体の合成を、50mMリン酸カリウム緩衝液中で行った。
【0095】
スキーム4内において、RS(または−SR)は、
【0097】
から選択されるがそれらに限定されないチオール含有試薬である。スキーム4内において、AM−SRは、本発明の混合ジスルフィド結合体を表す。
【0098】
結果は、10種類のRS化合物のすべてが、それぞれの結合体を形成することを示した。さらに、タンデム質量分析法を使用して、反応体RSが混合ジスルフィド結合を介して活性代謝物と結合体を形成することが確認された。結合体は、逆相クロマトグラフィーを使用して、反応混合物から精製された。
【0099】
〔実施例2〕
本実施例は、混合ジスルフィド結合体化合物からの活性代謝物の生成を説明する。結合体Clop−CPT
【0101】
[(Z)−2−(1−(2−クロロフェニル)−2−メトキシ−2−オキソエチル)−4−((6−クロロピリダジン−3−イル)ジスルファニル)ピペリジン−3−イリデン)酢酸]およびTic−NPT
【0103】
[(Z)−2−(1−(2−クロロベンジル)−4−((3−ニトロピリジン−2−イル)ジスルファニル)ピペリジン−3−イリデン)酢酸]を、さらなる研究に選択した。
【0104】
次に、グルタチオンの存在下で活性代謝物(AM)を生成する混合ジスルフィド結合体Clop−CPTおよびTic−NPTの能力を試験した。Clop−CPTは、1mMのGSHにより、クロピドグレルのAMの量の同時増加と共に急速に還元された。clop−CPT結合体からのクロピドグレルのAMの生成の半減期は、わずか1.8分であった。tic−NPT結合体に対しても同様であったが、半減期は14.7分であった。
【0105】
〔実施例3〕
本実施例は、本発明のチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体による血小板凝集の阻害を説明する。
【0106】
本発明のチエノピリジン化合物の混合ジスルフィド結合体は、GSHの存在下で血小板凝集を阻害することができることを実証するために、血小板凝集アッセイを行った。約20mlの血液をウサギから採取して、遠心分離により血小板を回収し、一方上清を乏血小板血漿(PPP)として回収した。阻害アッセイの前に、Clop−CPTおよびTic−NPTの結合体を0.5mlのPPP中に溶解し、1mMのGSHと共に37℃で30分間インキュベートして、活性代謝物を生成した。次いで、活性代謝物を含有するPPP中に、血小板を穏やかに再懸濁させた。37℃で1時間インキュベートした後、5μMのアゴニストADPの添加により、血小板凝集を開始した。次いで、凝集計を使用して血小板凝集を記録した。
【0107】
Clop−CPTおよびTic−NPTの結合体は、結合体を含有しない陰性対照と比較して、1mMのGSHの存在下で、約60%血小板凝集を阻害した。この阻害レベルは、ヒト肝ミクロソーム(HLM)から生成された活性代謝物含有する陽性対照とほぼ同じであった。
【0108】
〔実施例4〕
本実施例は、実施例5〜9のための材料および方法を説明する。
【0109】
化学薬品。(S)−クロピドグレル、ラセミ2−オキソクロピドグレル、およびcis−クロピドグレル−MPを、Toronto Research Company(Ontario、Canada)から購入した。グルタチオン(GSH)、γ−L−グルタミル−L−システイン(GC)、Cys−Gly(CG)、L−システイン、β−メルカプトエタノール(BME)、N−アセチル−L−システイン(NAC)、システアミン(CYA)塩酸塩、2,5−ジメチルフラン−3−チオール、6−クロロピリダジン−3−チオール、3−ニトロピリジン−2−チオール、および2−ブロモ−3’−メトキシアセトフェノン(MPB)を、Sigma−Aldrich社(St. Louis、MO)から購入した。プールされたHLMおよび細胞質ゾルは、XenoTech(Lenexa、KS)から購入した。
【0110】
各種チオール還元剤の存在下でのHLMによるAMの形成速度の決定。活性代謝物(AM)の形成に対する各種チオール還元剤の効果を検査するために、AMが生成される速度を決定した。0.2mg/mLのHLM、0.1mMの2−オキソクロピドグレル、NADPH再生系、および1mMの各チオール還元剤(但し、CPT、DFT、またはNPTは0.3mMを使用)を含有する0.1mlの50mMリン酸カリウム(KPi)緩衝液(pH7.4)中で、AMの生成を行った。5単位のグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PD)の添加により反応を開始し、37℃で20分間インキュベートした。次いでAMを室温で10分間、4mMのMPBで誘導体化し、続いて酢酸により3%(v/v)まで酸性化した。定量化のために、内部標準(IS)として50pモルの(S)−クロピドグレルを各反応混合物に添加した。LC−MS/MSを使用して、誘導体化されたAM(AM−MP)を定量した。
【0111】
以前に報告されたように(Zhang et al., 2012)、イオントラップ質量分析計(LCQ DecaXP、Thermo Fisher Scientific、Waltham、MA)で反応混合物のMS分析を行った。簡潔に説明すると、2−オキソクロピドグレルの代謝物を、0.2ml/分の流量で2成分移動相を使用して逆相C18カラム(2×100mm、3μm、Phenemonex、CA)で分離した。C18カラムの温度は、カラムヒーター(Restek Corporation、Lancaster、PA)を使用して40℃に維持した。以下の設定により、質量分析計をポジティブエレクトロスプレーイオン化モードで操作した:加熱キャピラリー温度、200℃、スプレー電圧、+4.5kV;、シースガス流量、60(任意単位);補助ガス、20(任意単位)。AM−MPおよびISは、35%のエネルギーレベルでの衝突誘起解離(CID)を介してMS中で断片化した。AM−MPに対するm/z 504→m/z 354、およびISに対するm/z 322→m/z 212の遷移を使用して、様々な濃度のcis−クロピドグレル−MPからなる較正曲線に基づいてAM−MPの量を定量化した。
【0112】
LC−MS/MSを使用したクロピドグレルの混合ジスルフィド結合体の分析。構造的および半定量的分析の両方のために、HLMにより混合ジスルフィド結合体を生成した。上述のように0.2mlの50mM KP緩衝液(pH7.4)中で、2−オキソクロピドグレルの代謝を行ったが、但し、HLMの濃度を1mg/mlに増加させた。反応物を37℃で30分間インキュベートし、次いで、0.1mlのアセトニトリル中10%酢酸の添加によりクエンチした。クエンチした試料を13,000×gで10分間遠心分離して、HLMを除去した。50μlの上清のアリコートを、質量分析計に投入し、活性および結合体代謝物の両方を分析した。
【0113】
上述のようにMS分析を行ったが、但し、MS検出器は依存スキャンモードで操作した。前駆体イオンは、m/z 300〜700でスキャンし、一方MS
2スペクトルは、4つの最も豊富なイオンに対してm/z 100〜700で得られた。半定量的分析のために、50pモルのISを、クエンチされた各試料に注入した。AMおよび各結合体の相対量を、ISのAUCに対する代謝物のAUC比として計算した。
【0114】
混合ジスルフィド結合体からAMへの変換の反応速度の決定。混合ジスルフィド結合体の反応性を検査するために、GSHによる混合ジスルフィド結合体の還元の反応速度を決定した。1mg/mlのHLM、0.1mMの2−オキソクロピドグレルおよび0.3または1mMのチオール還元剤を含有する1mlの50mM KPi緩衝液(pH7.4)緩衝液中で、混合ジスルフィド結合体を生成した。G6PDの添加により開始した後、反応物を37℃で50分間インキュベートした。次いで、反応混合物を13,000×gで遠心分離してHLMを除去し、事前に調整されたSPEカートリッジ(C18、100mg/1ml、Agilent Technologies、CA)に上清を投入し、混合ジスルフィド結合体を2mlのメタノールで溶出した。次いで、Speedvac濃縮器を使用して溶出液を乾燥させ、乾燥試料を使用するまで−80℃で保存した。反応速度測定の前に、乾燥試料をまず0.5mlの50mM KPi緩衝液(pH7.4)中に再溶解し、次いで37℃で5分間平衡化した。ストックGSHおよび細胞質ゾル(存在する場合)溶液の少量のアリコート(1〜5μl)を、それぞれ1mMおよび0.2mg/mlで結合体試料に添加し、チオール−ジスルフィド交換反応を開始した。指定された時間に、50μlの反応混合物のアリコートを採取し、25μlのアセトニトリル中10%酢酸と混合して、チオール−ジスルフィド交換反応を停止させた。t=0試料は、GSHの添加の直前に調製した。上述のようにLC−MS/MSを使用して、混合ジスルフィド結合体およびAMの量を分析した。
【0115】
クロピドグレルの混合ジスルフィド結合体からの活性代謝物H4の形成。AMの抗血小板活性はその立体化学と密接に関連しているため、CPT、DFTまたはNPTの存在下で形成された混合ジスルフィド結合体の立体化学を、それらの比較的高い酸化還元電位のために調査した。AMの立体異性体の真の標準の欠如のために、GSHとの混合ジスルフィド結合体を、まずAMを放出するように処理し、次いで、AM−MP誘導体をcis−クロピドグレル−MP標準と比較するために、MPBでAMを誘導体化した。GSHとの結合体の調製および還元を、上述のように行った。1mMのGSHとの37℃で20分間のインキュベーション後、MPBを4mMで添加し、AMをアルキル化した。アセトニトリル中10%酢酸の半分の体積の添加により、アルキル化反応を10分で停止させた。AMの定量化に関して上述したように、50μlの反応混合物のアリコートを、LC−MS/MS分析に供した。
【0116】
クロピドグレルの混合ジスルフィド結合体の抗血小板活性。十分な量の混合ジスルフィド結合体を生成するために、1mg/mlのHLM、0.1mMの2−オキソクロピドグレル、NADPH再生系、および0.3mMのCPTもしくはNPTまたは1mMのGSHを含有する2mlの反応混合物中で、2−オキソクロピドグレルの代謝を行った。10単位のG6PDの添加により反応を開始させ、37℃で50分間インキュベートした。2つの対照試料を並行して調製した。1つの対照試料はいかなるG6PD(−G6PD)も含有せず、これは、2−オキソクロピドグレルおよびHLM中に存在する他の成分が抗血小板活性に寄与するかどうかを検査するために設計された。他方の対照(−SH)はいかなるチオール還元剤も含有せず、これは、AMおよび結合体以外の任意の代謝物が、抗血小板活性アッセイに干渉するかどうかを検査することを意図していた。50分のインキュベーションの後、反応混合物を13,000×gで遠心分離して、HLMを除去した。上清をSPE C18カートリッジに投入して、混合ジスルフィド結合体を濃縮した。水で十分に洗浄して塩および他の水溶性代謝物を除去した後、結合体試料を2mlのメタノールで溶出した。Speedvac濃縮器を使用してメタノール画分を乾燥させ、次いで乾燥試料を1mlの乏血小板血漿(PPP)中に再懸濁した。抗血小板活性アッセイの前に、再懸濁した結合体を2つの等量(各0.5ml)に分割し、その一方を37℃で30分間1mMのGSHで処理してAMを生成した。次いで、両方の試料を、使用するまで氷上に設置した。
【0117】
生体外での抗血小板活性を決定するために使用される手順は、以前に報告されている(例えば、Abell LM and Liu EC (2011) J Pharm Exp Ther 339(2):589−596)を参照されたい)。
【0118】
雄ニュージーランド白ウサギ(2.2〜2.9キロ)を血液ドナーとして使用した。抗凝固剤として3.7%クエン酸ナトリウムを含有する(クエン酸対血液の体積比1:10)プラスチックシリンジ内に、中央耳動脈から全血を採取した。全血球数を、Medonic CA620血液分析器(Clinical Diagnostic Solutions, Inc.、Plantation、FL、USA)で決定した。100×gで10分間の全血の遠心分離後に存在する上清である多血小板血漿(PRP)を、約300,000/μlの血小板数に達するようにPPPで希釈した。残りの血液を1,500×gで10分間遠心分離し、底部の細胞層を廃棄することにより、乏血小板血漿を調製した。希釈したPRPを0.5ml試料に分割し、170×gで10分間再度遠心分離し、得られた上清を廃棄した。上述のように調製された様々な化学阻害剤を含有する貧血小板血漿中に血小板ペレットを再懸濁し、穏やかに振盪しながら37℃で60分間インキュベートして、P2Y
12受容体を修飾した。生体外での血小板凝集を、4チャネル血小板凝集計(BioData PAP−4;BioData Corp.、Horsham、PA、USA)を用いて、37℃に維持されたPRPの撹拌懸濁液を通る光透過率の増加を記録することによって、確立された比濁法により評価した。血小板凝集は、ADP(10μM)で誘導した。エピネフリンの凝集下濃度(550nM)を使用して、アゴニストの添加前に血小板をプライミングした。
【0119】
〔実施例5〕
本実施例は、クロピドグレルの活性代謝物(AM)の形成に対するチオール還元剤の効果を説明する。チオール還元剤の効果を検査するために、各種チオール還元剤の存在下でのAMの形成のための定常状態の速度を決定した。代謝反応物中に存在するチオール還元剤の濃度は、CPT、DPTおよびNPTを除いて1mMであった。その代わりに、これらの3種類のチオール還元剤の濃度は、それらの低いK
m値のために0.3mMであった。
図1に示されるように、AMは、3種類のチオール還元剤を除く全ての存在下で形成される。AMの形成のための最高速度は、人体中の内因性還元剤であるGSHの存在下で観察された。具体的には、1mMのGSHの存在下、AMは、167pモルAM/分/mg HLMの速度で生成される。同様に、L−システインは、AMの生成においてGSHの約84%活性である。以前に観察されたように(例えば、Zhang H, et al., (2012) Mol Pharmacol 82:302−309を参照されたい)、ごく低レベルのAMが1mMのNACの存在下で形成された。速度は、1mMのGSHの存在下で観察されるもののわずか約7%である。CPT、DFT、およびNPTの存在下ではAMは観察されなかった。AMの形成速度は、全体的にGSH>CYS>CG>GC>CYA>BME>NAC>CPTまたはDFTまたはNPTの順で減少した。この広範な速度は、AMの形成におけるチオール還元剤の重要な役割を強調している。
【0120】
〔実施例6〕
本実施例は、クロピドグレルの混合ジスルフィド結合体の分析を説明する。AMの形成は、存在するチオール還元剤により大きく影響された。本実施例において、混合ジスルフィド結合体の形成に対するチオール還元剤の効果を検査した。これは、CPT、DFT、およびNPTの存在下で形成された任意のAMの不足の原因を理解するために特に重要である。AMに関して観察されたものとは著しく対照的に、混合ジスルフィド結合体は、検査された全てのチオール還元剤の存在下で形成された。親イオンMH
+のm/zおよびこれらの混合ジスルフィド結合体の保持時間は表1に要約され、4つの選択された混合ジスルフィド結合体の抽出イオンクロマトグラム(EIC)は
図2に示される。観察された親イオンMH
+は、これらの結合体の理論値とよく一致している。β−メルカプトエタノール(BME)の存在下では、4つの結合体のピークは、m/z 432で観察され、8.9から9.72分で溶出した(
図2A)。これらの4つのAMピークは、以前に報告されたように(例えばPereillo JM, et al. (2002) Drug Metab Dispos 30(11):1288−1295を参照されたい)、クロピドグレルの複数の立体異性体の形成に起因し得る。2つの主要な結合体ピークが、CPTおよびNPTの存在下で観察された(それぞれ
図2Cおよび
図4D)。しかしながら、DFTの存在下では、m/z 482の1つの優勢な結合体ピークが15.8分で観察された(
図2B)。CPT、NPTおよびDFT結合体の形成のK
m値は、それぞれ23、51および30μMと決定されたが、これは、以前に報告されたGSHの300μMのK
mより大幅に低い(例えば、Zhang H, et al., (2012) Mol Pharmacol 82:302−309を参照されたい)。
【0122】
結合体の各EICに対する曲線下面積(AUC)の積分により、生成された混合ジスルフィド結合体の相対量が得られた。
図3に示されるように、混合ジスルフィド結合体の相対量は、互いに大きく変動した。低レベルのグルタニオニル結合体のみが形成されたが、これは、GSHの存在下での2−オキソクロピドグレルの代謝がAMの形成に極めて有利であることを示している。AMおよび混合ジスルフィド結合体の両方がBMEの存在下で形成されたが、結合体の形成がAMよりも有利であることが明らかである。AMの形成の欠如にもかかわらず、CPT、DFTおよびNPTの混合ジスルフィド結合体は、大量に形成された。これらの結合体の真の標準がないことにより、これらの結合体の絶対量を定量することはできなかった。これらの結合体は、MS検出器に対して異なる応答を示す可能性があるため、AUC比に基づいて結合体の絶対量を比較する際には注意すべきである。
【0123】
これらの結合体の化学構造を決定するために、MSおよびMS
2スペクトルを得た。10個全ての結合体のMSスペクトルは、表1において要約されるように、クロピドグレル中の1つのCl原子の存在の特徴である
35Cl/
37Cl同位体ピークの対と共に、予測されるm/z比で主要なMH
+ピークを示した。この唯一の例外は、2個の塩素原子を含有するCPT結合体である。そのMSおよびMS
2スペクトルを、
図4に示す。この結合体は、500.03の予測m/z値の80ppmの実験誤差の範囲内であるm/z 499.99で観察された。さらに、501.94において、この結合体中の2つの塩素原子の存在を示す強力な同位体ピークがまた、ベースピークの強度の約75%で観察された。m/z 499.99における親イオンのMS
2は、複数の娘イオンの形成を示した。優勢な娘イオンは、m/z 465.90、211.93および183.34における他の小さなものと共に、m/z 353.99で観察された。この断片化パターンは、
35Cl/
37Cl同位体ピークの存在に加えて、
図4Dに示される混合ジスルフィド結合を有する結合体の化学構造と一致している。優勢な娘イオンm/z 353.99は、以前にGSH、NACおよびL−システインとクロピドグレルとの結合体に関して報告したように (例えば、Zhang H, et al., (2012) Mol Pharmacol 82:302−309を参照されたい)、混合ジスルフィド結合において切断されたより大きな断片に帰属された。m/z 212および183における娘イオンもまた、クロピドグレルの特徴である(例えば、Dansette PM, et al., (2010) Chem Res Toxicol 23(7):1268−1274; Pereillo JM, et al., (2002) Drug Metab Dispos 30(11):1288−1295)を参照されたい。m/z 501.94における同位体ピークのMS
2スペクトルは、この帰属のためのさらなる証拠を提供する。
図4Cに示されるように、単一イオンの代わりに、娘イオンの対が2質量単位離れて観察されたが、これは2個の塩素原子の存在を裏付けている。結合体の残りのMS
2スペクトルは、m/z 354において特徴的な娘イオンと非常に類似した断片化パターンを示した。
【0124】
〔実施例7〕
本実施例は、GSHによるクロピドグレルの混合ジスルフィド結合体の還元の反応速度を説明する。様々な混合ジスルフィド結合体とGSHとの間のチオール−ジスルフィド交換反応の反応速度を決定したが、その結果を
図5に示す。結合体のGSHおよび細胞質ゾルとのインキュベーションは、混合ジスルフィド結合体の量における時間依存性の減少をもたらした(
図5A)。反応速度データを単一指数関数にフィッティングすると、BME、PT、NAC、DFTおよびNPTの混合ジスルフィド結合体の損失に対して、それぞれ0.07、0.79、0.43、1.65および0.13分
−1の一次速度定数が得られた。これらの反応速度は、過剰のGSH(1mM)による擬似1次条件下で決定されたため、これらの速度定数は、それぞれ1.2、13、7.2、28および2.2M
−1s
−1の2次速度定数に等しい。データはまた、GSHに対するこれらの結合体の可変の反応性を実証した。DFTおよびCPT結合体は、BME結合体よりもそれぞれ10倍から20倍反応性が高い。例えば、40分間のインキュベーション後であってもBME結合体の約50%がまだ残っていたようであり、これは、例えば、この結合体のためのチオール−ジスルフィド交換が平衡に達したことを示している。
【0125】
細胞質ゾルの効果を検査するために、ならびに結合体およびAMを同時に監視するために、AMの形成、ならびに細胞質ゾルの存在および非存在下でのCPT結合体の還元の両方の反応速度を決定した。
図5Bに示されるように、CPT結合体の量の減少は、ほぼ同一の速度定数で、AMの量の同時増加と共に生じた。細胞質ゾルの存在下では、結合体の還元およびAMの形成の速度定数は、それぞれ0.73および0.50分
−1である。細胞質ゾルの非存在下では、CPT結合体の還元は、結合体の還元に対して0.39分
−1、AMの形成に対して0.35分
−1の速度定数で約半分の速さである。これは、以前に観察されたように(例えば、Hagihara K, et al., (2012) Drug Metab Dispos 40(9):1854−1859;Hagihara K, et al., (2011) Drug Metab Dispos 39(2):208−214を参照されたい)、チオール−ジスルフィド交換反応の還元を促進する。
【0126】
〔実施例8〕
本実施例は、クロピドグレルの混合ジスルフィド結合体からの活性代謝物H4の形成を説明する。スキーム2に示されるように、活性代謝物は、2つのキラル中心(C7およびC4)ならびに1つの二重結合(C3−C16)を含有する。したがって、ラセミ2−オキソクロピドグレルの代謝は、潜在的に8つまでの立体異性体を生成し得る。しかしながら、歴史的にH1、H2、H3およびH4と呼ばれるジアステレオマーの4つのみが、従来の逆相C18カラムで分離され得、一方他の4つの立体異性体は、鏡像異性体として共溶出する。H4は、人間における抗血小板活性を担い、H4の二重結合は、シス配置にあることが確立されている(例えば、Pereillo JM, et al., (2002) Drug Metab Dispos 30(11):1288−1295;Savi P, et al., (2000) Thromb Haemost 84(5):891−896;Tuffal G, et al., (2011) Thromb Haemost 105(4):696−705を参照されたい)。これらの結合体の治療可能性を評価するために、H4が混合ジスルフィド結合体において形成されるかどうかを検査したが、その結果を
図6に示す。
【0127】
GSHの存在下でのHLMによる2−オキソクロピドグレルの代謝は、8から11分の間で溶出する4つの立体異性体の形成をもたらした(破線、
図6B)。逆相C18カラムでのAM−MP誘導体の溶出順序に基づいて(例えば、Tuffal G, et al., (2011) Thromb Haemost 105(4):696−705を参照されたい)、10.2分で溶出する異性体はH4のシス異性体と考えられる。これは、
図6A(実線)に示されるcis−クロピドグレル−MP標準の保持時間と一致する。同様に、DFT結合体のMP誘導体もまた、GSHの存在下で観察されたものと類似した4つのピークを示したが、これは、DFT結合体がチオール交換反応後にAMのシス異性体を生成したことを示している。対照的に、CPTおよびNPT結合体のMP誘導体は、9.4および10.2分に2つの主要なピークを示したが、これは、活性異性体H4の選択的形成と一致している(
図6CおよびD)。
【0128】
〔実施例9〕
本実施例は、CPTおよびNPTの混合ジスルフィド結合体の抗血小板活性を説明する。概念の実証として、2つの混合ジスルフィド結合体、CPTおよびNPT結合体の抗血小板活性を、いくつかの理由から検査した。第一に、両方の結合体は、いかなるAMの形成もなしに生成され得る、これにより抗血小板活性アッセイ中にAMからのいかなる干渉も排除される。第二に、両方の結合体は、比較的速い速度でGSHとチオールを交換し、これによりAMの電位減衰が回避される。第三に、2つの結合体の還元は、ヒトにおける抗血小板活性を担うものとして知られているH4異性体を生成する。生体外抗血小板活性アッセイの結果を、
図7に示す。凝集のパーセンテージは、血液源、PRP調製物等の環境因子に起因する任意の変化を補償するために、PRPのものに対して正規化した。示されるように、3つの対照試料は、血小板凝集の阻害を示さなかった。第1の対照は、遊離GSHが1mMの濃度では血小板凝集に影響を与えないことを示し(GSH、
図7)、第2の対照は、2−オキソクロピドグレルおよび関連不純物等の反応混合物中に存在する非代謝物成分が、血小板凝集を阻害しないことを示した(−G6PD、
図7)。クロピドグレルは、非酵素的酸化により副生成物に分解し得ることが知られている(例えば、Mohan A, et al., (2008) J Pharm Biomed Anal 47(1):183−189;Fayed AS, et al., (2009) J Pharm Biomed Anal 49(2):193−200を参照されたい)。これらの副生成物は、血小板凝集に対していかなる阻害効果も有さないようである。第3の対照Iにおいて、任意のチオール還元剤の非存在下での反応混合物からの代謝物も、血小板凝集に対する影響を有さないことが実証された。しかしながら、GSHを含有する反応混合物から調製された試料中の血小板凝集の約60%の阻害が観察された(AM、
図7)。1mMのGSHの存在下での2−オキソクロピドグレルの代謝は、
図1に示されるようにAMを生成するため、これは予期されるものである。CPTおよびNPT結合体とのPRPのインキュベーションは、血小板凝集を阻害しなかったが、これは、結合体自体は抗血小板活性を有さないことを示している(CPT&NPT、
図7)。著しく対照的に、1mMのGSHで処理されたCPTおよびNPT結合体とのPRPのインキュベーションは、それぞれ約50および70%血小板凝集を大きく阻害した。この阻害活性は、GSHにより結合体から放出されたAMから生じる可能性が最も高い。これらの結果は、クロピドグレルの結合体が、抗血小板活性を有さないことを実証しており、またAMのみが血小板凝集の阻害を担うことを確証した。さらに、これらの結果は、多型P450による生体内活性化を必要とせずにAMを提供することが可能であることを実証している。GSH、CPT+GSH、およびNPT+GSH試料において観察された凝集のパーセンテージの変化は、AMの濃度の変化に起因する可能性が最も高いことが指摘されるのが注目に値する。これらの試料中のAMの濃度は、1〜4μMの範囲内であると推定された。
【0129】
〔実施例10〕
本実施例は、クロピドログレルの混合ジスルフィド結合体のインビボ抗血小板活性を説明する。クロピドグレルの混合ジスルフィド結合体の抗血小板活性は、雄のニュージーランド(NZ)白ウサギにおいて、静脈内注射により決定した。混合ジスルフィド結合体は、以下の技術を使用して生合成した。
【0130】
〔第1部 クロピドグレルの混合ジスルフィド結合体の生合成〕
組換えシトクロムP450 2C19(CYP2C19)および他の必須成分を含有する再構成系において、クロピドグレルの混合ジスルフィド結合体を合成した。CYP2C19は、再構成系において、各チオール化合物の存在下で2−オキソクロピドグレルを混合ジスルフィド結合体に変換した。スキーム5は、clopNPTと呼ばれる、クロピドグレルと3−ニトロピリジン−2−チオールとの間の混合ジスルフィド結合体の生合成を示す。
【0131】
〔スキーム5 クロピドグレルの混合ジスルフィド結合体clopNPTの生合成〕
【0133】
典型的な反応において、50nモルのCYP2C19、150nモルのP450還元酵素および250nモルのシトクロムb5がリン脂質小胞内で再構成され、活性タンパク質複合体を形成した。2−オキソクロピドグレルおよび3−ニトロピリン−2−チオールを、それぞれ0.05および0.3mMの最終濃度で添加した。clopNPTの生合成は、1mMのNADPHの添加により開始させた。反応物を37℃で2時間インキュベートした。
【0134】
clopNPTを精製するために、clopNPTを含有する反応混合物を、まず10kDaのカットオフを有する膜を通して濾過し、すべてのタンパク質成分を除去した。次いで、clopNPTを含有する濾液を、固相抽出(SPE)カートリッジで濃縮した。ClopNPTを、80%メタノール/20%水でSPEカートリッジから溶出させた。真空下、50℃で、溶出液を約5mlに濃縮した。濃縮混合物を分取逆相C18カラムに投入し、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用してClopNPTを精製した。ClopNPTは、42%メタノール/35%アセトニトリル/22.9%水/0.1%ギ酸からなるアイソクラチック移動相により、3ml/分の流量で分取C18カラムから溶出された。clopNPTを含有するHPLC画分をプールし、真空下で乾燥させた。最終収率は約25%であった。clopNPTの純度は、液体クロマトグラフィー−タンデム質量分析(LC−MS/MS)により推定され、
図8に示すように>90%であった。
【0135】
〔第2部 クロピドグレルの混合ジスルフィド結合体の抗血小板活性〕
クロピドグレルの混合ジスルフィド結合体の抗血小板活性を、雄のNZ白ウサギ(1.2〜1.25kg)を使用して決定した。
【0136】
静脈注射用溶液を調製するために、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)、ポリエチレングリコール(PEG)400、および生理食塩水の5、15および80(v/v)比の混合物中に、(S)−clopNPTを0.7mg/mlで溶解した。雄のNZ白ウサギに、2つの異なる方法を使用して(S)−clopNPTを2mg/kgで投薬した。方法1では、静脈注射用溶液を、まず5mMのグルタチオンと混合した。(S)−clopNPTを活性化するために37℃で15分インキュベーションした後、頸静脈を介してウサギに混合物を静脈注射した。方法2では、細胞グルタチオン濃度を増加させるために、雄のNZ白ウサギに3日間1日1回、Readisorbグルタチオン溶液5mlを与えた。3日目に、DMA/PEG400/生理食塩水に溶解した(S)−clopNPTを、Readisorb処理したウサギに静脈内注射した。陰性対照として、(S)−クロピドグレルも同様に2mg/kgで雄NZ白ウサギに静脈内投薬した。(S)−clopNPTの投薬前、ならびに投薬から1および2時間後、抗凝固剤として3.7%クエン酸ナトリウムを含有するプラスチックシリンジ内に、頸動脈から全血を採取した(1:10体積比のクエン酸塩対血液)。全血球数を、Medonic CA620血液分析器(Clinical Diagnostic Solutions, Inc.、Plantation、FL、USA)で決定した。100×gで10分間の全血の遠心分離後に存在する上清である多血小板血漿(PRP)を、約300,000/μlの血小板数に達するように乏血小板血漿(PPP)で希釈した。残りの血液を1,500×gで10分間遠心分離し、底部の細胞層を廃棄することにより、乏血小板血漿を調製した。希釈したPRPを0.5ml試料に分割し、170×gで10分間再度遠心分離し、得られた上清を廃棄した。血小板凝集を、4チャネル血小板凝集計(BioData PAP−4;BioData Corp.、Horsham、PA、USA)を用いて、37℃に維持されたPRPの撹拌懸濁液を通る光透過率の増加を記録することによって、確立された比濁法により評価した。血小板凝集は、ADP(10μM)で誘導した。エピネフリンの凝集下濃度(550nM)を使用して、アゴニストの添加前に血小板をプライミングした。
【0137】
結果を
図9に示す。示されるように、(S)−クロピドグレルは、2mg/kgの用量では血小板凝集を阻害しなかった。しかしながら、(S)−clopNPTがグルタチオンまたはReadisorbグルタチオンと共に投薬されたかとは無関係に、血小板凝集の50%超が(S)−clopNPTにより阻害されたため、(S)−clopNPTは血小板凝集を強く阻害した。これらの結果は、(S)−clopNPT結合体が、外因性グルタチオンまたは内因性グルタチオンにより活性化され得ることを実証している。Readisorb処理されたウサギの血小板活性は、IV注射から1時間以内に約70%阻害されるため、内因性グルタチオンは(S)−clopNPTを活性化する上でより効果的であることが明らかである。多くの研究が、心臓病および脳卒中、抗酸化ストレス、加齢等におけるグルタチオンの有益な効果を示している。グルタチオンおよびクロピドグレルの混合ジスルフィド結合体の同時投与は、抗血小板剤としての(S)−clopNPTの利益だけでなく、グルタチオン単独の使用に関連した利益も提供し得る。
【0138】
これらの結果は、クロピドグレルの混合ジスルフィド結合体が、クロピドグレルよりも効果的な抗血小板剤であることを実証している。
【0139】
本発明を十分に説明したが、本発明の範囲またはその任意の実施形態に影響を与えることなく、条件、製剤、およびその他のパラメータの広範かつ同等の範囲内で同様のことが実行され得ることが、当業者に理解される。本明細書において引用されるすべての特許、特許出願および出版物は、参照によりそれらの全体が本明細書に完全に組み込まれる。
【0140】
〔参照による組み込み〕
本明細書において言及される特許文献および科学論文のそれぞれの開示全体は、全ての目的において参照により組み込まれる。
【0141】
〔均等物〕
本発明は、その精神または本質的な特徴から逸脱することなく、他の特定の形態で具現化され得る。したがって、前述の実施形態は、全ての点において、本明細書に記載の本発明を限定するのものではなく、例示的とみなされるべきである。したがって、本発明の範囲は、前述の説明によってではなく、添付の特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲の均等性の意味および範囲内となる全ての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0142】
【
図1】クロピドグレルの活性代謝物(AM)の形成に対するチオール還元剤の効果を示すグラフである。
【
図2】クロピドグレルの代表的混合ジスルフィド結合体の抽出イオンクロマトグラム(EIC)である。
【
図3】HLMにより生成されたクロピドグレルのAMおよびチオール結合体の相対量を示すグラフである。
【
図4】CPTの混合ジスルフィド結合体のMSおよびMS
2スペクトルである。
【
図5A】GSHによるクロピドグレルの混合ジスルフィド結合体の還元の反応速度を示すグラフである。
【
図5B】GSHによるクロピドグレルの混合ジスルフィド結合体の還元の反応速度を示すグラフである。
【
図6】クロピドグレルの混合ジスルフィド結合体からの活性代謝物H4の形成を示す、m/z504において観察される抽出イオンクロマトグラムである。
【
図7】クロピドグレルの混合ジスルフィド結合体による血小板凝集の阻害を示すグラフである。
【
図8】実施例10に記載のような再構成系においてバイオ合成された純粋(S)−clopNPTの全イオンクロマトグラムである。
【
図9】実施例10に記載のような(S)−clopNPTのIV注射後の雄NZ白ウサギの血小板活性を示すグラフである。