(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6073008
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】貫通スリーブ装置
(51)【国際特許分類】
E04B 1/92 20060101AFI20170123BHJP
【FI】
E04B1/92
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-85997(P2012-85997)
(22)【出願日】2012年4月5日
(65)【公開番号】特開2013-217024(P2013-217024A)
(43)【公開日】2013年10月24日
【審査請求日】2015年2月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】舟久保 亜美
(72)【発明者】
【氏名】鉛口 清文
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 滿
(72)【発明者】
【氏名】菅野 明人
【審査官】
津熊 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−297187(JP,A)
【文献】
特開昭56−148100(JP,A)
【文献】
実開昭49−150723(JP,U)
【文献】
特開昭60−233593(JP,A)
【文献】
実開昭59−157187(JP,U)
【文献】
特開平07−151270(JP,A)
【文献】
特開2007−009980(JP,A)
【文献】
特開2004−027554(JP,A)
【文献】
特開2002−174365(JP,A)
【文献】
特開平02−126191(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/92
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物に形成された間仕切部を貫通して前記間仕切部に設けられ、内部に貫通する管材が配置される中空スリーブと、前記中空スリーブを密封する充填材とを有し、
前記中空スリーブは、前記中空スリーブの中心軸に平行で前記中空スリーブの両端の外径よりも小さい外径を有する円筒部を、前記中空スリーブの軸方向の中央部に形成し、さらに、前記中空スリーブの両端のそれぞれから前記円筒部の両端のそれぞれに掛けて徐々に断面積が減少しており、
前記円筒部の両端が、前記中空スリーブの両端と前記円筒部の間にそれぞれ形成された、前記中空スリーブの前記断面積が減少する部分の、前記断面積が最も小さい部分につながっており、
前記充填材が、前記中空スリーブの前記断面積が減少する部分で前記管材と前記中空スリーブの間に配置されていることを特徴とする貫通スリーブ装置。
【請求項2】
前記中空スリーブのそれぞれの前記断面積が減少する部分は円錐台からなる請求項1に記載の貫通スリーブ装置。
【請求項3】
前記充填材として、放射線遮蔽材を含む請求項1または2に記載の貫通スリーブ装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の貫通スリーブ装置を間仕切部に設置したことを特徴とする構造物。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の貫通スリーブ装置を前記構造物の前記間仕切部に設ける貫通スリーブ装置の施工方法であって、
前記中空スリーブ内に前記管材である短管を設置する工程と、
前記中空スリーブと前記短管の間の隙間に前記充填材を充填して前記短管を固定する工程と、
前記中空スリーブを前記間仕切部に設置する工程と、
前記短管を外部配管と接続する工程と
を備えたことを特徴とする貫通スリーブ装置の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スリーブ両端部とスリーブ中央部とで断面積が異なる構造を持つ、構造物等の間仕切部に設ける貫通スリーブ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
化学プラントまたは発電所等の建物・構築物内に配管やケーブル、ダクト等の管材を敷設する際、最短ルートで引き廻す必要があるため、壁や床又は天井等の間仕切部を貫通させるのが一般的である。この貫通部には、円状または角状に設けた貫通穴に円筒型や角筒等の中空形状のスリーブが設置される。貫通スリーブ内側の隙間には、部屋やセル等の空間に対する水密、気密、油密や防火等の機能要求に応じて配管やケーブル、ダクト等との間に適切な充填材が詰められ、穴仕舞が行われ密閉される。
【0003】
特許文献1には、床へ設置する貫通スリーブにおいて、貫通スリーブ内への充填材が劣化等により階下ヘ落下してしまうことを防ぐ目的で考案された、下端を小径とする錘状の貫通スリーブ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭58−151762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の、コンクリートの壁や床、天井等の間仕切部に設置される中空円筒型もしくは中空四角筒型の貫通スリーブは、要求仕様に応じて気密、水密の機能を具備しているが、構造自体は気密・水密等の密閉性を高める機能を持たない。そのため、充填材の劣化や荷重が掛かることによる充填材の抜け落ちの可能性、貫通対象の間仕切部の内外の過大な圧力差による充填材とスリーブとの微細な隙間からの気体、液体の漏出の可能性がある。
【0006】
部屋やセル等の空間に対して気密・水密等の密閉性を高める機能要求としては、例えば原子力発電設備の災害対策が挙げられる。津波・洪水等による災害時に、機器が設置されているエリアヘの津波による海水等の侵入を防ぐため、間仕切部の内外の圧力差が津波の水圧により過大となった場合にも、貫通スリーブの水密性を保持することが要求されている。またこれは、流体を内包する機器等が破損し、内包流体が機器外へ漏洩した場合にも隣接空間への拡散防止のためにも水密性を保持することが要求されている。また、機器等が破損し放射性物質を含む気体が機器外に漏出した場合に、隣接空間への拡散を防止するため、気密性を保持することが要求されている。
【0007】
特許文献1には、重力による充填材の抜け落ちを防ぐ効果を持った、下端を小径とする錘状のスリーブ構造が記載されている。しかし、充填材へ鉛直上向きの力が掛かる場合に気密・水密等の密閉性を高める構造にはなっていない。
【0008】
そこで本発明は、貫通対象の間仕切部の内外に圧力差が生じた際に、圧力の正負によらず部屋やセル等の空間に対して双方向的に気密、水密等の密閉性を確保できる貫通スリーブ装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、構造物の間仕切部に設けられて、中空スリーブの内部に管材を貫通させて充填材で密閉した貫通スリーブ装置において、中空スリーブの両端における断面積よりも中空スリーブの中央部における断面積を小さく設定したことを特徴とする。
【0010】
また、請求項1に記載の貫通スリーブ装置において、中空スリーブは、両端から中央部に掛けて徐々に断面積が減少することを特徴とする。
【0011】
また貫通スリーブ装置において、中空スリーブは一対の円錐台からなることを特徴とする。
【0012】
また、貫通スリーブ装置において、中空スリーブは一対の角錐台からなることを特徴とする。
【0013】
また、貫通スリーブ装置において、中空スリーブは、中央部においてスリーブ中心軸に平行な筒状部を有することを特徴とする。
【0014】
また、貫通スリーブ装置において、中空スリーブは、スリーブ両端における断面積の大きい大径筒状体と、スリーブ中央部における大径筒状体より断面積の小さい小径筒状体からなることを特徴とする。
【0015】
また、貫通スリーブ装置において、中空スリーブは円筒からなることを特徴とする。
【0016】
また、貫通スリーブ装置において、充填材として、放射線遮蔽材を含むことを特徴とする。
【0017】
また、貫通スリーブ装置を構造物の間仕切部に設置したことを特徴とする。
【0018】
さらに、構造物の間仕切部に設けられて、中空スリーブの内部に管材を貫通させて充填材で密閉した貫通スリーブ装置の施工方法において、中空スリーブに短管を設置する工程と、中空スリーブと短管の隙間部分に充填材を充填して短管を固定する工程と、中空スリーブを間仕切部に設置する工程と、短管を外部配管と接続する工程を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の貫通スリーブ装置は、構造物の間仕切部に設けられて、中空スリーブの内部に管材を貫通させて充填材で密閉した貫通スリーブ装置において、中空スリーブの両端における断面積よりも中空スリーブの中央部における断面積を小さく設定したことにより、壁や床、天井等の間仕切部の内外に圧力差が生じた際に、圧力の力を利用して充填材がスリーブヘ密着する構造となっているため、密閉性に優れている。さらに、スリーブの断面積が、両端は広く中央部は狭い構造であるため、間仕切部を中心にどちら側が高い圧力になっても密閉性の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施例1による貫通スリーブ装置を示す断面図。
【
図2】本発明の実施例1による貫通スリーブ装置を示す斜視図。
【
図3】本発明の実施例2による貫通スリーブ装置を示す断面図。
【
図4】本発明の実施例2による貫通スリーブ装置を示す斜視図。
【
図5】本発明の実施例3による貫通スリーブ装置を示す断面図。
【
図6】本発明の実施例3による貫通スリーブ装置を示す斜視図。
【
図7】本発明の実施例4による貫通スリーブ装置を示す断面図。
【
図8】本発明の実施例4による貫通スリーブ装置を示す斜視図。
【
図9】本発明を施工した建築物の構成例を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明を、実施例および図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0022】
図1は実施例1の貫通スリーブ装置を示す断面図であり、
図2はその斜視図である。実施例1では、貫通対象の壁や床、天井などの間仕切部の内外に圧力差が生じた際に気密、水密等の密閉性を確保できる貫通スリーブ装置の例を説明する。
【0023】
貫通スリーブ装置10は間仕切部1に設けられ、スリーブ開口両端部からスリーブ中央部にかけて断面広さが円錐状に狭まっていく形状である中空スリーブ31と、中空スリーブ31内を通じて間仕切部1を貫通する配管2を持ち、配管2と中空スリーブ31との隙間を埋めるために詰め込む充填材4を有する。
【0024】
配管2の代わりに、機器やケーブル、ダクト等が設置される場合がある。充填材4は、モルタルやシリコンなどを用いる。充填材4及び中空スリーブ31中には放射線遮蔽のために鉛等の充填や、防火対策としてロックウール等の充填が施される場合もある。
【0025】
間仕切部1の内外に過大な圧力差が生じた場合に、充填材4に圧力が掛かり、中空スリーブ31の傾斜部分において傾斜斜面に垂直な方向へ圧力の分力が働く。これにより充填材4と中空スリーブ31とを密着させる力及び中空スリーブ31と間仕切部1とを密着させる力が得られるため、貫通スリーブ装置の密閉性を向上させることができる。
【0026】
また、中空スリーブ31の傾斜角度については、スリーブの最大径と最小径の差が、充填材4の伸縮量に比べて十分大きくなる角度として設計することで、充填材4が劣化等により収縮した場合でも、中空スリーブ31からの抜け落ちを防止できる。
【0027】
中空スリーブ31の製造は、円錐状あるいは円錐台状の構造物2つを溶接または接着し、あるいは当該形状を鋳造、鍛造、切削、絞り加工すること等で実現可能である。
【0028】
ここで、中空スリーブ31を建物の間仕切部1に設置する施工方法(穴仕舞)の例について説明する。始めに間仕切部を形成する鉄筋と仮設部材の型枠を設置し、コンクリートを流す前の壁や天井を形作る。このときに、予め製造しておいた所定形状の中空スリーブ31を鉄筋又は、型枠に固着する。次に、壁や天井を形作る型枠にコンクリートを流しこみ、中空スリーブ31の内部に配管を貫通させる。最後に、配管をモルタル等の充填材によって中空スリーブ31に固着密閉する。
【0029】
既に間仕切部が形成されている場合は、その適当な位置に貫通孔を開け、中空スリーブを設置(必要に応じ、コンクリート欠損部を充填・補修)して、配管を貫通させ、充填材で充填密閉する。
【実施例2】
【0030】
図3は実施例2の貫通スリーブ装置を示す断面図であり、
図4は斜視図である。実施例2は、貫通スリーブ装置10に円錐台状ではなく角錐台状の中空スリーブを用いた場合を示したものである。
【0031】
中空スリーブ32は角錐台状の構造物2つを溶接等により接合して形成される。実施例2は、建屋の設計条件として貫通スリーブ装置10の断面の形状が角形であることを要求される場合、例えば小径管を複数本設置する場合等においても、効率的に配管を収納配置でき、かつ密閉性を向上させることができる。
【実施例3】
【0032】
図5は実施例3の貫通スリーブ装置を示す断面図であり、
図6は斜視図である。実施例3は、貫通スリーブ装置10を構成する中空スリーブ33において、開口両端から中央に向かって外径が小さくなる傾斜部33Aが貫通スリーブ装置10の両端に形成され、中央部は中空スリーブ33の中心軸に対して平行に円筒部33Bが形成されている。
【0033】
実施例3の貫通スリーブ装置10は、スリーブ中央部に傾斜がなく中空スリーブ33の中心軸に平行な円筒部33Bを挟むことにより、実施例1に比較して同じ傾斜角度を保持しながらも中央部の径を大きくとることができる。従って貫通部の活用可能領域を大きく取れるため、小径管を複数設置すること等が可能となる。
【0034】
実施例3においては、複数の配管2が施工誤差により干渉する事態や、貫通スリーブ装置から外れた位置に設置される事態が懸念される。そのため、施工方法として例えば、中空スリーブ33にあらかじめ短管5を設置し充填材4を流し込んで短管5を固定する。その後、間仕切部1に短管5を設置した中空スリーブ33を埋め込み、そののちに短管5と配管2とを溶接して一体に接続するという手順を実施することができる。
【実施例4】
【0035】
図7は実施例4の貫通スリーブ装置を示す断面図であり、
図8は斜視図である。実施例4は、中空スリーブ34について、中心軸に対して平行な異なる外径を持つ円筒を組合わせている。貫通スリーブ装置10の両端部には大径円筒部34Aが形成され、中央部には小径円筒部34Bが形成され、円筒部34Aと円筒部34Bの間に大径円筒部34Aの外径と小径円筒部34Bの内径に合う孔の空いた円盤部34Cで段差が形成される。すなわち貫通スリーブ装置10の開口両端の断面外径と中央部との断面外径が異なるものである。
中空スリーブ34が円筒で構成されることにより、錘状の傾斜を持った中空スリーブを施工する必要がなく、製造コストを低減することができる。従って、錘状の中空スリーブの製作が困難な場合にも、密閉性を向上させた貫通スリーブ装置を実現することが可能である。
【0036】
図9は、本発明の各実施例を原子力発電所の建物に適用した場合の概略図である。
図9では、各実施例に記載の貫通スリーブ装置の、気密・水密等の密閉性が要求される部屋やセル等の空間を持つ建築物への適用について説明する。
【0037】
図9において、鉄筋コンクリート構造等からなる建屋6を持ち、建屋6外に設置されたタンク7や、建屋6内のポンプ室11に設置されたポンプ8を備えている。さらに、タンク7とポンプ8同士を繋ぐ配管9が、貫通スリーブ装置10を通じて建屋6の間仕切部1を貫通して設置されており、隣接するポンプ室11と放射性物質又は放射線源機器を格納する格納室12の間仕切部1には貫通スリーブ装置10が設置されている。
【0038】
上記の構造によれば、津波や洪水等により建屋外が建屋内より高圧になり、貫通スリーブ装置10に建屋6外から建屋6内に向かう力が掛かった場合でも、貫通スリーブ装置10は間仕切部1に密閉されるため、建屋6内のポンプ室11に海水類が浸入することを防止できる。
【0039】
また、放射性物質格納室12で放射性物質が飛散してその圧力が高まった場合でも、貫通スリーブ装置10は間仕切壁1に対して密閉されるため、隣接する部屋への放射性物質の飛散防止・汚染拡大防止が図れる。
【符号の説明】
【0040】
1 間仕切部
2 配管
31、32、33、34 中空スリーブ
33A 傾斜部
33B 円筒部
34A 大径円筒部
34B 小径円筒部
34C 円盤部
4 充填材
5 短管
6 コンクリート建屋
7 タンク
8 ポンプ
9 配管
10 貫通スリーブ装置
11 ポンプ室
12 格納室