(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基準部材(11)は、一方の側面が平らな基準面(A)に属するように方形に組まれた枠部材(12)と、前記枠部材(12)の内側を格子状に仕切るように前記枠部材(12)の他方の側面に重合して前記基準面(A)に平行に設けられた一又は二以上のレール(13a,13b)と、前記レール(13a,13b)に基端が移動可能に取り付けられ先端又は中間が前記枠部材(12)に離脱可能に取り付けられた可動部材(14)とを備え、
前記可動部材(14)に支持脚(17)の基端が取り付けられた請求項1記載の車両用開閉部材の板金修理装置。
基準部材(11)が傾動可能に枢支された基台(19)と、前記基台(19)に対する前記基準部材(11)の傾動を許容可能に禁止する禁止機構(21,22)とを備えた請求項1又は2記載の車両用開閉部材の板金修理装置。
基準部材(11)にシリンダ本体(23a)の基端が取り外し可能に取り付けられて流体の給排により前記シリンダ本体(23a)の先端からロッド(23b)を出没させる流体圧シリンダ(23)と、
前記ロッド(23b)の突出端に設けられ車両用開閉部材(50)の板金矯正必要箇所を把持するか又は前記板金矯正必要箇所に接続される連結具(26,31)と、
前記流体圧シリンダ(23)に前記流体を供給可能な流体ポンプ(24)と
を更に備えた請求項1ないし3いずれか1項に記載の車両用開閉部材の板金修理装置。
基準面(A)を形成する基準部材(11)に取り付けられた1又は2以上の支持脚(17)に車両用開閉部材(50)を支持し、前記基準面(A)を基準として矯正の程度を計測しつつ前記開閉部材(50)の板金矯正必要箇所(50a,50b,50c)を矯正させる車両用開閉部材の板金修理方法であって、
前記板金矯正必要箇所(50a,50b,50c)の矯正が、前記基準部材(11)に取り付けられた流体圧シリンダ(23)により行われることを特徴とする車両用開閉部材の板金修理方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、ボディから開閉部材を取り外すと、作業者は、その取り外された開閉部材を片手で支持し、他方の手でその開閉部材を構成するアウタパネルやインナパネルを引っ張り又はハンマー等の工具により叩いて矯正することになる。このため、その作業は実際に片手によって行われることになり、その作業時間が比較的延びて修理単価が高騰する傾向にある。この点を解消するためには、複数の作業者を用い、一方の作業者がその開閉部材を支持し、他方の作業者が実際の矯正作業を行うことも考えられる。けれども、複数の作業者により単一の開閉部材を修理させると、その修理時間が短縮できても、作業者の増加により、結果的に修理単価が高騰することになる。
【0008】
また、アウタパネルやインナパネルを引っ張り又はハンマー等の工具により叩いて矯正する作業者は、その矯正の程度を目視により行っており、ボディの開閉部材を取り外した状態で目視により矯正すると、その開閉部材が全体的に歪んで再びボディに取り付けることが困難になる場合もある。また、ハンマー等の工具により叩いて矯正する場合には、叩いた後でなければ矯正の程度が判らず、叩いた後に予定した矯正の程度を越えて矯正されたことが判明した場合、それを元に戻す修復が困難になる不具合もあった。更に、目視による作業者の感覚で矯正すると、矯正して修理する作業者によりその矯正の程度が異なり、仕上がりにばらつくが生じる不具合もある。
【0009】
更に、このような車両用開閉部材における周囲は、一般的に、アウタパネルの周囲を折り返して、その折り返し部によりインナパネルの周縁を覆うような構造になっている。このため、アウタパネルやインナパネルを引っ張り又はハンマー等の工具により叩いて矯正しているときに、そのインナパネルの周縁からアウタパネル周囲の折り返し部が離脱するようなことがあれば、それを復元することは著しく困難となる。このような事態が生じると、新たな開閉部材に取り替える費用を超えた修理費用を生じさせ、板金修理を行うことなく、その開閉部材を取り替えた方が安価になるような事態を生じさせる。よって、車両用開閉部材の修理にあっては、インナパネルの周縁からアウタパネル周囲の折り返し部を離脱させることなく行って、その修理費用を新たな開閉部材に取り替える費用未満に押さえる必要もある。
【0010】
本発明の目的は、作業者の作業性を向上させてその修理費用を低廉とすると共に、その矯正される開閉部材のゆがみを防止しつつ、作業者による
ばらつきも減少させて比較的正確にその開閉部材を矯正して修理し得る車両用開閉部材の板金修理装置及びその板金修理方法を提供することにある。
【0011】
本発明の別の目的は、インナパネルの周縁からアウタパネル周囲の折り返し部を離脱させることなく矯正が可能な車両用開閉部材の板金修理装置及びその板金修理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の車両用開閉部材の板金修理装置は、平らな基準面を形成する基準部材と、基準部材に基端が取り付けられ
伸縮自在に構成された1又は2以上の支持脚と、1又は2以上の支持脚の基準面から突出した先端にそれぞれ設けられ車両用開閉部材を支持可能な支持具とを備える。
【0013】
この
場合、基準部材は、一方の側面が平らな基準面に属するように方形に組まれた枠部材と、枠部材の内側を格子状に仕切るように枠部材の他方の側面に重合して基準面に平行に設けられた一又は二以上のレールと、レールに基端が移動可能に取り付けられ先端又は中間が枠部材に離脱可能に取り付けられた可動部材とを備え、その可動部材に支持脚の基端が取り付けられることが好ましい。
【0014】
また、基準部材が傾動可能に枢支された基台と、基台に対する基準部材の傾動を許容可能に禁止する禁止機構とを備えることが好ましく、基準部品にシリンダ本体の基端が取り外し可能に取り付けられて流体の給排によりシリンダ本体の先端からロッドを出没させる流体圧シリンダと、ロッドの突出端に設けられ車両用開閉部材の板金矯正必要箇所を把持するか又は板金矯正必要箇所に接続される連結具と、流体圧シリンダに流体を供給可能な流体ポンプとを備えることが更に好ましい。
【0015】
一方、本発明の車両用開閉部材の板金修理方法は、基準面を形成する基準部材に取り付けられた1又は2以上の支持脚に車両用開閉部材を支持し、基準面を基準として矯正の程度を計測しつつ
開閉部材の板金矯正必要箇所を矯正させる方法である。
【0016】
この場合の、板金矯正必要箇所の矯正は、基準部品に取り付けられた流体圧シリンダにより行われることが好ましい。
【0017】
ここで、「車両用開閉部材」とは、車両におけるボディの開口部にその開口部を解放可能に閉止するものであって、ボディから取り外して修理可能なものを意味する。具体的には、乗員が乗降するボディ開口部に設けられるサイドドアや、ボディ後方の荷物の積載の為に設けられるバックドアのみならず、エンジンルームを開放可能に閉止するボンネットも含むものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の車両用開閉部材の板金修理装置及びその板金修理方法では、基準面を形成する基準部材に取り付けられた1又は2以上の支持脚に車両用開閉部材を支持させる。このため、その車両用開閉部材を矯正する作業者は、その取り外された開閉部材を片手で支持することなく、その両手を用いて矯正作業を行うことができ、片手により行われていた従来に比較して、その矯正作業を容易に行うことができる。
【0019】
特に、車両用開閉部材を支持する基準部材を基台に対して傾動可能にすれば、その開閉部材を任意の角度に固定した状態で矯正することが可能になり、作業者の作業性は更に向上して、その修理費用を低廉とすることができる。
【0020】
また、支持脚に車両用開閉部材を支持させることにより、矯正に起因してその開閉部材の全体が歪んでしまうような事態を回避することができ、そのような歪みの発生を防止し得る結果、矯正された開閉部材のボディへの再取り付けが困難になるようなことを回避することができる。
【0021】
また、車両用開閉部材の矯正は、基準部材における基準面を基準として矯正の程度を計測しつつ行うことにより、矯正して修理する作業者によりその矯正の程度が異なるようなことを防止することができる。特に、流体圧シリンダ等を用いて、矯正の程度を計測しつつその矯正を徐々に行うことにより、ハンマー等の工具により叩いて矯正する場合に比較して、予定した矯正の程度を越えて矯正される事態を防止すると共に、矯正の程度のばらつきを減少させることができる。この結果、その矯正による板金修理の信頼性を向上させることもできる。
【0022】
また、アウタパネルの周囲を折り返して、その折り返し部によりインナパネルの周縁を覆うような車両用開閉部材の周囲の矯正にあっては、その開閉部材の周囲を把持して行うことにより、インナパネルの周縁からアウタパネル周囲の折り返し部が離脱することを防止できる。よって、インナパネルの周縁からアウタパネル周囲の折り返し部が離脱することに起因する修理費の高騰は防止でき、その修理費用を新たな開閉部材に取り替える費用未満に押さえることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0025】
図1〜
図3に示すように、本発明の板金修理装置10は、平らな基準面A(
図1及び
図2)を形成する基準部材11を備える。この基準部材11は、一方の側面が平らな基準面Aに属するように方形に組まれた枠部材12と、その枠部材12の内側を格子状に仕切るように枠部材12の他方の側面に重合して基準面Aに平行に設けられた一又は二以上のレール13a,13bと、それらのレール13a,13bに基端が移動可能に取り付けられ先端又は中間が枠部材12に離脱可能に取り付けられた可動部材14とを備える。
【0026】
図3及び
図4に示すように、この実施の形態における枠部材12は、断面が長方形状を成す長尺の鋼管を同一平面内において長方形状に組むことにより作られる。その枠部材12が描く長方形状の内側を格子状に仕切る一又は二以上のレール13a,13bにあっては、断面がC字状を成して長手方向に溝が形成されるいわゆるチャンネル鋼材が用いられる。図における一又は二以上のレール13a,13bは、枠部材12の長辺12aと平行な一対の長レール13a,13aと、枠部材12の短辺12bと平行な一対の短レール13b,13bが用いられる場合を示す。
【0027】
図4に詳しく示すように、一対の長レール13a,13aは、その溝を互いに外側に向けた状態で張り合わされ、その状態で長辺12aと平行になるように枠部材12の短辺12bに、その短辺12bを略2分する位置に架設される。一対の短レール13b,13bは、その溝を互いに外側に向けた状態で、短辺12bと平行になるように枠部材12の長辺12aに、その長辺12aを略3等分する位置に架設される。このため、一対の長レール13a,13aと一対の短レール13b,13bは互いに交差することになるけれども、その交差部分は互いに嵌め込まれて、この一対の長レール13a,13aと一対の短レール13b,13bは同一平面において組み付けられる。そして、このように組み付けられた一対の長レール13a,13aと一対の短レール13b,13bは、枠部材12の他方の側面に重合してその枠部材12に溶接される。ここで、枠部材12は、その一方の側面が基準面A(
図1及び
図2)を形成するので、この一対の長レール13a,13aと一対の短レール13b,13bはその基準面Aに平行に設けられることになる。
【0028】
可動部材14は、断面が長方形状を成す長尺の鋼管であって、その厚さhがレール13a,13bを構成するチャンネル鋼材の内寸Hよりも僅かに小さなものが用いられる。可動部材14は、このような鋼管を一対用いることにより一つの可動部材14が構成され、
図3では、このような可動部材14が5箇所設けられた基準部材11を示す。この一対の鋼管からなる可動部材14は、その基端がレール13a,13bの溝に、レール13a,13bの長手方向に移動可能に挿入される。また、この一対の鋼管からなる可動部材14は、その先端又は中間が枠部材12に離脱可能に取り付けられる。この実施の形態では、中間が枠部材12に取り付け部材16により取り付けられる場合を示す。
【0029】
図4及び
図5に示すように、この実施の形態における取り付け部材16は、先端のフック部16aaが枠部材12に係止され、胴部16abが可動部材14を構成する一対の鋼管の間に挿通されるフック部材16aと、可動部材14を構成する一対の鋼管に掛け渡される座板16bと、フック部材16aの基端に螺合して先端が座板16bに当接するアイボルト16cを備える。そして、
図5に示すように、可動部材14の中間は枠部材12に重合し、アイボルト16cを締め付けると、重合した可動部材14と枠部材12を、フック部材16aの先端におけるフック部16aaと座板16bにより挟むように構成される。これにより枠部材12に対する可動部材14の自由な移動は制限され、その可動部材14の中間が枠部材12に取り付けられる。その一方で、アイボルト16cの締め付けを緩めると、フック部材16aの先端におけるフック部16aaと座板16bの間が広がることにより可動部材14は枠部材12の長手方向に移動可能になり、可動部材14の基端にあってもレール13a,13bに沿って移動可能であるので、この可動部材14は基準部材11の任意の位置に固定可能に構成されたものとなる。
【0030】
図1〜
図3に示すように、本発明の板金修理装置10は、このように構成された基準部材11に基端が取り付けられた1又は2以上の支持脚17を備える。この実施の形態における支持脚17は、基準面Aに対して垂直に立設されるように、基準部材11を構成する可動部材14にその基端が取り付けられる場合を示す。
図5に示すように、支持脚17は実際に基端が可動部材14に取り付けられる外筒17aと、その外筒17aに挿入されて外周に螺旋状の雄ねじ山が形成された内筒17bと、外筒17aの中心軸を中心とする回転が可能であって軸方向に移動不能に外筒17aの突出端に設けられた回転体17cとを備える。そして、内筒17bの外周に形成された雄ねじ山に螺合する雌ねじ山がその回転体17cの内周に形成される。このため、この支持脚17は、回転体17cを回転させることにより外筒17aの突出端から内筒17bが出没して、その全体が伸縮することにより全長を変更可能に構成される。
【0031】
支持脚17を構成する外筒17aの基端には、可動部材14を構成する一対の鋼管に掛け渡される台座17dが設けられ、その台座17dからは一対の鋼管の間を通過する雄ねじ棒17eが設けられる。そして、可動部材14を構成する一対の鋼管の間を通過した雄ねじ棒17eに座金17fを介して雌ねじ17gを螺着することにより、支持脚17は、基準部材11を構成する可動部材14にその基端が取り付けられる。よって、この支持脚17は、その可動部材14に長手方向の任意の位置に取り付けることが可能となる。5本の可動部材14を有するこの実施の形態では、それらの内の4本の可動部材14に一本の支持脚17がそれぞれ取り付けられる場合を示す(
図3)。
【0032】
図1に示すように、基準面Aから突出した1又は2以上の支持脚17の先端には、車両用開閉部材50(
図6,
図8及び
図9)を支持可能な支持具18がそれぞれ設けられる。伸縮可能な支持脚17を用いるこの実施の形態では、内筒17bの先端に、支持具18が取り外し可能に取り付けられる。支持具18は車両用開閉部材50を支持可能なものであるので、その開閉部材50の種類によって異なり、最適な支持具18が支持脚17の先端に取り付けられるものとする。具体的に、
図6,
図8及び
図9に示すように、例えば、車両用開閉部材50がボディ後方の荷物の積載の為に設けられるバックドア50であるとすると、そのバックドア50に支持するヒンジに設けられた雄ねじが挿通可能な取り付孔を有する支持具18と、そのバックドア50を両側から支持する部分を支持する支持具18とが用いられ、これら種類の異なる支持具18が支持脚17の先端にそれぞれ設けられる。
【0033】
図1及び
図2に示すように、本発明の板金修理装置10は、基準部材11が傾動可能に枢支された基台19と、基台19に対する基準部材11の傾動を許容可能に禁止する禁止機構21,22とを備える。基台19は、鋼材が井形に組まれて設置場所に設置される井形基材19aと、その井形基材19aに立設された一対の支柱19bとを備える。井形基材19aには、ストッパ機構付きの複数のキャスタ19cが設けられ、このキャスタ19cにより基台19の移動を許容し、所望の場所にまで移動させた後にストッパ機構によりその移動を禁止することにより、その基台19を所望の場所に設置可能に構成される。
【0034】
図4に示すように、基準部材11を構成する長レール13a,13bと短レール13a,13bの交差位置には、支柱19bの上端を長レール13a,13bの長手方向から挟む一対の挟持片11a,11bが設けられる。
図1に戻って、一対の支柱19bは長レール13a,13bと短レール13a,13bの交差位置に相応して立設される。そして、
図1の拡大図に示すように、この挟持片11a,11bには支柱19bの上部を貫通する枢支軸11cが挿通され、これにより、基準部材11は、
図2の実線矢印で示すように、この枢支軸11c(
図1)を回転中心として基台19に対して傾動可能に枢支される。
【0035】
図2に示すように、一方の支柱19bには鎖22を移動可能に係止するラッチ装置21が設けられ、そのラッチ装置21を通過してその長手方向の移動が禁止される鎖22の両端が基準部材11を構成する枠部材12の両側の長辺12aに接続される。このため、ラッチ装置21により鎖22の係止を解除して鎖22の移動を許容すると、基台19に対して基準部材11を傾動させることが可能になり、基準部材11が所望の角度に傾いた状態で、ラッチ装置21により鎖22の移動を禁止すると、所望の角度に傾いた基準部材11のそれ以上の傾動は禁止されるように構成される。よって、この鎖22及びラッチ装置21は、基台19に対する基準部材11の傾動を許容可能に禁止する禁止機構を構成するものである。
【0036】
図1〜
図3に示すように、本発明の板金修理装置10は、基準部材11にシリンダ本体23aの基端が取り外し可能に取り付けられて流体の給排によりシリンダ本体23aの先端からロッド23bを出没させる流体圧シリンダ23と、その流体圧シリンダ23に流体を供給可能な流体ポンプ24(
図6,
図8及び
図9)とを更に備える。この実施の形態における流体圧シリンダ23は、油圧により数トン又は数十トンの力でロッド23bを出没可能ないわゆる油圧シリンダである。そして、
図6,
図8及び
図9に示す流体ポンプ24は、レバー24aを往復移動させることにより油圧を生じさせる、いわゆる手動のものを示す。
【0037】
図7に示すように、シリンダ本体23aの基端には、基準部材11を構成する枠部材12や可動部材14に載置される台座23dが設けられる。その台座23dからは可動部材14を構成する一対の鋼管の間や、枠部材12を構成する各辺12a,12bの近傍を通過する雄ねじ棒23eが設けられる。そして、可動部材14を構成する一対の鋼管の間を通過した雄ねじ棒23eや、枠部材12を構成する各辺12a,12bの近傍を通過した雄ねじ棒23eに座金23fを介して雌ねじ23gを螺着することにより、流体圧シリンダ23は、基準面Aから垂直に突出した状態で、基準部材11を構成する枠部材12や可動部材14に取り付け可能に構成される。
【0038】
流体圧シリンダ23のロッド23bの突出端には、車両用開閉部材50の板金矯正必要箇所50aを把持するか又は板金矯正必要箇所50bに接続される連結具が設けられる。この実施の形態では、
図6に、車両用開閉部材50の周囲における板金矯正必要箇所50aを厚さ方向に矯正する場合の連結具26を示し、
図8に、車両用開閉部材50の凹みからなる板金矯正必要箇所50bに接続される連結具31を示し、
図9に、車両用開閉部材50の周囲における板金矯正必要箇所50cをその周辺に引っ張り矯正する場合の連結具41を示す。
【0039】
図7に示すように、図示しないボディの開口部から取り外された車両用開閉部材50は、その外表面を構成するアウタパネル51と、そのアウタパネル51を内側から補強して内装材が取り付けられるインナパネル52とにより構成される。このような車両用開閉部材50における周囲50aは、アウタパネル51の周囲を折り返して、その折り返し部51aによりインナパネル52の周縁52aを覆うような構造になっており、
図7における板金矯正箇所はこのような車両用開閉部材50における周囲50aである場合を示す。そして、この板金矯正必要箇所50aを把持する連結具26は、ロッド23bの突出端にネジ止めされた土台26aと、その板金矯正必要箇所50aを挟む一対の挟持金具26b,26cと、その板金矯正必要箇所50aを挟んだ一対の挟持金具26b,26cを土台26aに取り付ける取り付ねじ26dとを備える。
【0040】
一方、
図8に示す板金矯正必要箇所は、車両用開閉部材50のアウタパネル51に形成された凹み50bである。この板金矯正必要箇所50bに接続される連結具31は、そのロッド23bの突出端にそのロッド23bと直交するように一端が取り付けられた第一リンク材31aと、第一リンク材31aを含みかつ基準面A(
図1及び
図2)に平行な平面内に存在しその第一リンク材31aの他端に一端が枢支された第二リンク材31bと、その第二リンク材31bの他端に一端が設けられたワイヤ31cと、そのワイヤ31cの他端に設けられて板金矯正必要箇所50bに溶接される接合部材32とを有する。図に示す接合部材32は、実際に板金矯正必要箇所である凹み50bに一端が実際の溶接される複数の溶接片32aと、それら複数の溶接片32aの他端の全てを支持してワイヤ31cの他端に連結する本体部32bとを備えるものを示す。
【0041】
また、
図9における板金矯正箇所は、車両用開閉部材50における周囲50cである。そして、この板金矯正必要箇所50cを把持する連結具41は、その板金矯正必要箇所50cを挟む一対の挟持金具41a,41bと、その一対の挟持金具41a,41bを板金矯正必要箇所50cを挟んだ状態に維持する挟持ねじ41cとを有する。この板金矯正必要箇所50cを挟持する連結具41にはワイヤ42の一端が接続される。一方、油圧シリンダ23におけるロッド23bの突出端にはそのワイヤ42が掛け回される第一プーリ43が設けられる。また、油圧シリンダ23におけるシリンダ本体23aには、ワイヤ42の他端が係止可能な係止片44と、その係止片44に他端が係止されて第一プーリ43に掛け回されたワイヤ42が更に掛け回される第二プーリ45とが設けられるものを示す。
【0042】
次に、本発明の車両用開閉部材の板金修理方法について説明する。
【0043】
本発明の車両用開閉部材の板金修理方法は、基準面Aを形成する基準部材11に取り付けられた1又は2以上の支持脚17に車両用開閉部材50を支持し、その基準面Aを基準として矯正の程度を計測しつつ
開閉部材50の板金矯正必要箇所50a,50b,50cを矯正させる方法である。
【0044】
車両用開閉部材50の支持脚17への支持は、支持脚17の先端に取り付けられた支持具18を介して行われ、この支持具18は、支持しようとする開閉部材50により取り替えられる。例えば、
図6,
図8及び
図9に示すように、車両用開閉部材50がボディ後方の荷物の積載の為に設けられるバックドア50であるとすると、そのバックドア50に支持するヒンジに設けられた雄ねじが挿通可能な取り付孔を有する支持具18と、そのバックドア50を両側から支持する部分を支持する支持具18とが用いられる。そして、これら種類の異なる支持具18を支持脚17の先端に取り付け、それらの支持具18を車両用開閉部材50の取り付孔等に取り付けることにより、その開閉部材50を支持脚17に支持させることができる。
【0045】
また、この支持脚17は、可動部材14に長手方向の任意の位置に取り付けることが可能であり、この可動部材14は基準部材11の任意の位置に固定可能であるので、結果的に支持脚17は、基準部材11の任意の位置に取り付けることができる。また、支持脚17にあっても、伸縮することにより全長を変更可能であるので、その突出端に設けられた支持具18が基準面Aから突出する量も変更させることができる。このため、種類の異なる開閉部材50であって、その取り付孔等が形成された位置が異なるようなものであっても、基準部材11に対する支持脚17の固定位置や支持脚17の全長を変更することにより、確実に支持させることが可能となる。
【0046】
このように、基準面Aを形成する基準部材11に取り付けられた1又は2以上の支持脚17に車両用開閉部材50を支持させた状態でその開閉部材50を矯正することになる。このため、その車両用開閉部材50を実際に矯正する作業者は、従来のようにその取り外された開閉部材50を片手で支持することを必要としない。即ち、作業者は、その両手を用いて開閉部材50の矯正作業を行うことができ、片手により矯正作業が行われていた従来に比較して、その矯正作業を容易に行うことが可能となる。特に、車両用開閉部材50を支持する基準部材11を傾動させれば、その開閉部材50を作業に適した任意の角度に固定した状態で矯正することが可能になり、作業者の作業性は更に向上して、結果的に、矯正時間が短縮されることにより、その修理費用を低廉とすることができる。
【0047】
また、板金矯正必要箇所50a,50b,50cの実際の矯正は、基準部材11に取り付けられた流体圧シリンダ23により行うことができる。
図7に示すように、板金矯正箇所が車両用開閉部材50における周囲50aであり、そこを厚さ方向に矯正するには、その板金矯正必要箇所50aを一対の挟持金具26b,26cにより挟んで取り付ねじ26dにより土台26aに取り付け、その状態で流体圧シリンダ23のロッド23bを出没させることにより可能となる。具体的には、
図6に示すように、流体ポンプ24のレバー24aを往復移動させてその流体ポンプ24から流体圧シリンダ23に流体を供給して、シリンダ本体23aの先端からロッド23bを出没させる。流体圧シリンダ23のロッド23bを出没させると、その先端に設けられた連結具26は、その連結具26が挟持する板金矯正必要箇所である開閉部材50における周囲50aとともに、基準面Aから遠ざかり又はその基準面Aに近づくことになる。これにより、その周囲50aは車両用開閉部材50の厚さ方向に矯正されることになる。
【0048】
ここで、その板金矯正必要箇所50aである開閉部材50の周囲が、アウタパネル51の周囲を折り返して、その折り返し部51aによりインナパネル52の周縁52aを覆うような構造になっていると、そのアウタパネル51とインナパネル52の双方が同時に矯正されることになる。そして、このように、板金矯正必要箇所である開閉部材50の周囲50aを把持して矯正することにより、インナパネル52の周縁52aからアウタパネル51周囲の折り返し部51aを離脱させることなく矯正することができる。よって、インナパネル52の周縁52aからアウタパネル51周囲の折り返し部51aが離脱することに起因する修理費の高騰は防止でき、その修理費用を新たな開閉部材50に取り替える費用未満に押さえることが可能となる。
【0049】
一方、
図8に示すように、板金矯正必要箇所が車両用開閉部材50のアウタパネル51に形成された凹み50bであれば、その板金矯正必要箇所50bに接合部材32を溶接してワイヤ31cに連結し、そのワイヤ31cを介してその板金矯正必要箇所である凹み50bを引っ張り出すことができる。具体的には、流体ポンプ24のレバー24aを往復移動させてその流体ポンプ24から流体圧シリンダ23に流体を供給して、シリンダ本体23aの先端からロッド23bを突出させる。すると、ロッド23bの先端に設けられた第一及び第二リンク部材31a,31bを有する連結具31は、そのロッド23bとともに基準面Aから遠ざかり、第二ロッド31bの他端に設けられたワイヤ31cを接合部材32とともに基準面Aから遠ざける。これにより、その板金矯正必要箇所である凹み50bを引っ張り出して、その凹み50bを矯正することができる。
【0050】
ここで、この連結具31を構成する第一及び第二リンク部材31a,31bは、基準面A(
図1及び
図2)に平行な平面内に存在し、その第一リンク材31aの他端に第二リンク材31bの一端が枢支されているので、第一及び第二リンク部材31a,31bを相対的に回転させることにより、ワイヤ31cが連結される第二リンク材31bの他端を、その基準面A(
図1及び
図2)に平行な平面内の任意の位置にまで移動させることが可能となる。このため、板金矯正必要箇所である凹み50bが開閉部材50のアウタパネル51の何処に形成されたものであっても、確実に引っ張り出すことができる。また、図示しないが、アウタパネル51を基準面A側にして、車両用開閉部材50を支持脚17に支持させれば、上記連結具31を用いることにより、同様にして、板金矯正必要箇所である凹み50bが開閉部材50のインナパネル52の何処に形成されたものであっても、確実に引っ張り出すことができる。
【0051】
更に、
図9に示すように、板金矯正必要箇所50cが開閉部材50の周囲にあって、その板金矯正必要箇所50cを周辺に引っ張り出す場合には、その板金矯正必要箇所50cを連結具41により挟み、その連結具41に一端が接続されたワイヤ42を第一及び第二プーリ43,45に掛け回して他端を係止片44に係止させる。この状態で流体ポンプ24から流体圧シリンダ23に流体を供給して、シリンダ本体23aの先端からロッド23bを突出させる。すると、ロッド23bとともに第一プーリ43が突出して、係止片44と第二プーリ45の間の第一プーリ43に掛け回されたワイヤ42の長さは増加し、板金矯正必要箇所50cを挟む連結具41が油圧シリンダ23に近づくことになる。これにより、その板金矯正必要箇所50cを開閉部材50の周辺に引っ張り出すことができる。そして、この場合であっても、開閉部材50の板金矯正必要箇所である周囲50cを把持して矯正することにより、
図7に示すインナパネル52の周縁52aからアウタパネル51周囲の折り返し部51aを離脱させることなく矯正することができる。
【0052】
このような矯正は、その程度を計測しつつ行う。具体的に、矯正の程度の計測は、基準面Aを基準として行う。例えば、
図6に示すように、板金矯正箇所が車両用開閉部材50における周囲50aであれば、基準面Aを形成する枠部材12の片面と車両用開閉部材50における周囲50aとの間にスケール36をあてがって、そのスケール36に刻まれた目盛りを目視により読み取ることにより計測することができる。スケール36をあてがうべき箇所に枠部材12が存在しない場合には、基準面Aを形成する枠部材12の片面に測定用基準棒37を載せ、その測定用基準棒37と車両用開閉部材50における周囲50aとの間にスケール36をあてがって、そのスケール36に刻まれた目盛りを目視により読み取ることにより計測することができる。
【0053】
一方、
図8及び
図9に示すように、板金矯正必要箇所が車両用開閉部材50のアウタパネル51に形成された凹み50bやその周囲50cであれば、その板金矯正必要箇所50bに溶接された接合部材32に連結されたワイヤ31cや、その板金矯正必要箇所50cを挟持する連結具41に連結されたワイヤ42を、引き上げるロッド23bの突出量を、スケール36等の計測器により計測することにより、矯正の程度を計測することができる。
【0054】
このように、車両用開閉部材50の矯正を、基準部材11における基準面Aを基準として矯正の程度を計測しつつ行うことにより、矯正して修理する作業者によりその矯正の程度が異なるようなことを防止することができる。特に、流体圧シリンダ23を用いて、矯正の程度を計測しつつその矯正を徐々に行うことにより、ハンマー等の工具により叩いて矯正する場合に比較して、予定した矯正の程度を越えて矯正される事態を防止すると共に、矯正の程度のばらつきを減少させることができる。即ち、ハンマー等の工具により叩いて矯正する場合は、叩いた後でなければ、それによる矯正の程度が判明しないけれども、流体圧シリンダ23を用いて徐々に矯正することにより、矯正の程度を所望の値に確実に近づけることが可能になる。この結果、その矯正による板金修理の信頼性を向上させることもできる。
【0055】
そして、本発明では、支持脚17に車両用開閉部材50を支持させることにより、開閉部材50の全体が歪んでしまうような事態を回避することができる。このような歪みの発生を防止し得る結果、矯正された開閉部材50の図示しないボディへの再取り付けが困難になるようなことを防止することができる。
【0056】
なお、上述した実施の形態では、流体圧シリンダ23を基準面Aから垂直に立ち上げるように立設させる場合を示したけれども、これに限定されるものではない。この流体圧シリンダは、連結具を介して板金矯正必要箇所を徐々に矯正しうる限り、例えば、基準面Aに平行に設けても良く、その基準面Aに対して傾斜するように設けても良い。
【0057】
また、上述した実施の形態では、流体圧シリンダ23に流体を供給可能な流体ポンプ24として、手動のものを用いて説明したけれども、この流体ポンプは、電動モータにより駆動するいわゆる電動式の物であっても良い。
【0058】
更に、上述した実施の形態では、鎖22及びラッチ装置21からなる禁止機構を説明したけれども、この禁止機構は、基台19に対する基準部材11の傾動を許容可能に禁止するものである限り、これに限られない。例えば、挟持片11a,11bとともに支柱19bの上部を貫通する枢支軸11cとしてボルトとナットを用い、このボルトとナットを禁止機構としても良い。即ち、この場合、ボルトに対してナットを締結すると、基台19に対する基準部材11の傾動が禁止され、そのボルトに対してナットを緩めると、基台19に対する基準部材11の傾動は許容されることになる。