特許第6073023号(P6073023)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6073023-自動車ステアリングシステム用押圧装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6073023
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】自動車ステアリングシステム用押圧装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 3/12 20060101AFI20170123BHJP
【FI】
   B62D3/12 501F
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-516656(P2015-516656)
(86)(22)【出願日】2013年4月11日
(65)【公表番号】特表2015-519258(P2015-519258A)
(43)【公表日】2015年7月9日
(86)【国際出願番号】FR2013050791
(87)【国際公開番号】WO2013190192
(87)【国際公開日】20131227
【審査請求日】2016年3月7日
(31)【優先権主張番号】12/55676
(32)【優先日】2012年6月18日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】511110625
【氏名又は名称】ジェイテクト ユーロップ
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パトリス ブロショ
【審査官】 粟倉 裕二
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−507445(JP,A)
【文献】 特開2007−290683(JP,A)
【文献】 特開昭49−135329(JP,A)
【文献】 特開2000−313342(JP,A)
【文献】 特開昭60−053465(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 3/00−12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のラックアンドピニオン式ステアリングシステム用偏心押圧部材装置であって、
上記偏心押圧部材装置は、外周面(12)と、該外周面(12)に対して偏心した内周面(11)とを有する弧状回転パッド(10)を備え、
上記回転パッド(10)は、ステアリングケース(2)内に、ラック(3)の長手方向軸に平行な回転軸回りに回転可能に取り付けられており、
上記パッドの外周面(12)は、上記ステアリングケース(2)内に取り付けられた支持部(13)に設けられた弧状架台(14)に支持され、
上記偏心した内周面(11)は、上記ラックをステアリングピニオン(5)の歯に向けて押し返すように上記ラック(3)の背面(9)に当接し、
上記パッドは、バネ手段(19)を備えるクリアランス補償機構(17)によって、回転可能に位置決め及び/又は付勢されており、
上記回転パッド(10)の外周面(12)と上記弧状架台(14)とが、上記パッドの回転軸に平行な2本の離間された接触線(20,21)に沿って互いに当接していることを特徴とする偏心押圧部材装置。
【請求項2】
請求項1において、
上記回転パッド(10)の外周面(12)は、半径(R)が一定の円筒形状を有し、
上記外周面(12)が上記2本の離間された接触線(20,21)に沿って当接する上記弧状架台(14)は、異なる半径(R1,R2,R3)を有する複数の区域が接合点において互いに接して連続することによって生じた形状を有し、
上記弧状架台(14)の形状は、上記回転パッド(10)と支持部(13)との間の力の伝達の平均軸と実質的に合致する軸(D)について対称であることを特徴とする偏心押圧部材装置。
【請求項3】
請求項2において、
上記軸(D)のどちら側においても、上記弧状架台(14)の形状は、異なる半径(R1,R2,R3)を有する3つの区域が連続することによって形成され、
上記半径が、
R2>R3>R>R1
の関係を満たすことを特徴とする偏心押圧部材装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、自動車のラックアンドピニオン式ステアリングシステムに関する。本発明は、特に、そのようなステアリングシステムの「押圧部材」装置と呼ばれる装置に焦点を当てるものである。この装置は、ラックを、それ自体がステアリングコラムと接続されたステアリングピニオンと噛み合った状態に保持するとともに、歯の不具合と摩耗を補償する機能を有する。本発明は、とりわけ、「偏心」押圧部材装置と呼ばれるタイプの押圧部材装置に関する。この装置は、ステアリングピニオンとラックとの間のクリアランス(隙間)を自動的に補償する手段を備える回転パッドを有する。
【背景技術】
【0002】
ラックアンドピニオン式ステアリングシステムにおいては、ステアリングピニオンが、自動車のステアリングホイールによって操作可能なステアリングコラムに回転可能に接続されている。そして、このステアリングピニオンは、細長いステアリングケース内にスライド可能に取り付けられたラックと係合している。ラックの両端はステアリングケースの外に位置しており、自動車の左右のホイールにそれぞれ連係するステアリングタイロッドに連結されている。したがって、各方向へのステアリングホイールの回転は、ステアリングコラムによってステアリングピニオンに伝達され、次いで、ラックの対応する並進運動に変換される。上記ラック自体が、ステアリングタイロッドを介して自動車の2つのホイールを連係配向させ、右又は左方向への「ステアリング」が行われる。
【0003】
このようなステアリングシステムにおいて、押圧部材装置は、ステアリングピニオンの領域内において、ラックの背面に弾性的に作用してラックの歯を上記ピニオンに対して強く押圧し、歯が非接触となる危険を回避している。押圧部材装置は、通常、「押圧部材ライン」の形状であり、摩擦パッドを構成する可動部を備え、並進運動するようガイドされ、弾性手段によってラック背面に向けて付勢されている。
【0004】
また、「偏心」押圧部材装置も公知である。この装置は、従来の「線状」押圧部材の概念を回転概念に置き換えるものである。このような装置には、環状又は弧状の回転パッドが設けられる。この回転パッドの外周面と内周面は共に円状であるが、内周面は外周面に対して偏心している。回転パッドは、ステアリングケース内に上記ラックの長手方向軸に平行な回転軸回りに回転可能に取り付けられる。このパッドの偏心した内周面は上記ラックの背面に当接して支持している。回転パッドは、回転可能に付勢されるか又は角度を付けて位置決めされ、その内周面が上記ラックの背面に当接しつつ、この背面を上記ピニオンの歯に向けて押し返し、歯同士の係合を維持するよう構成されている。
【0005】
特に、本願出願人による仏国特許発明第2951797号明細書、又はその対応の国際公開第2011/048328号には、上述のような偏心押圧部材装置が記載されている。この押圧装置においては、クリアランス(隙間)補償機構が、回転パッドの径方向アームに当接する押圧部材を備え、上記回転パッドは、上記押圧部材と回転パッドの固定支持部材又はこの固定支持部材と一体的な要素との間に挿入された圧縮バネの作用を受ける。上記支持部材又は要素に対して回転可能に取り付けられた可動ストッパは、押圧部材のノッチと協働する階段状の歯を備える。上記可動ストッパは、捩りバネを介して上記支持部材又は支持部材と一体的な要素に接続されている。このように、上記ノッチは上記可動ストッパの階段状の歯と連続的に協働し、特に摩耗に起因する機械的クリアランスが「埋め合わせ」される。
【0006】
上記文献の実施形態では、回転パッドは、それ自体がステアリングケース内に取り付けられた支持部材上に回転可能に取り付けられてガイドされる。この支持部材は、弧状の架台を備え、この架台に上記回転パッドの外周面がスライド可能に当接している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記支持部材の弧状の架台と上記回転パッドの外周面が共に円筒状であり、一方は凹状で他方は凸状であることは自明である。このような実施形態では、上記パッドの外周面と架台との間の相対的なスライド運動に加えて、製造時のクリアランスに起因する相対的な回転運動も起こるという欠点がある。この理由で、特に上記パッドにかかる負荷の方向と振幅が変化する場合に、異音が発生するとともに、クリアランス補償機構の運動が妨害されることがある。
【0008】
本発明は、この欠点を排除することを目的とする。すなわち、本発明は、上記機構の弧状架台の形状及び/又は回転パッドの外周面の形状を、これらの部分の回転運動を回避するのに適した特殊で改良されたものとし、異音の発生を抑えて機構の運動を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的のために、本発明は、以下のような自動車のラックアンドピニオン式ステアリングシステム用偏心押圧部材装置を提供するものである。すなわち、上記偏心押圧部材装置は、外周面と、該外周面に対して偏心した内周面とを有する弧状回転パッドを備え、上記回転パッドは、ステアリングケース内に、ラックの長手方向軸に平行な回転軸回りに回転可能に取り付けられており、上記パッドの外周面は、上記ステアリングケース内に取り付けられた支持部に設けられた弧状架台に支持され、上記偏心した内周面は、上記ラックをステアリングピニオンの歯に向けて押し返すように上記ラックの背面に当接し、上記パッドは、バネ手段を備えるクリアランス補償機構によって、回転可能に位置決め及び/又は付勢されており、偏心押圧部材装置は、上記回転パッドの外周面と上記弧状架台とが、上記パッドの回転軸に平行な2本の離間された接触線に沿って互いに当接していることを実質的に特徴とする。
【0010】
本発明は、上記パッドの外周面及び/又はこのパッドの支持部に設けられた架台が、互いに十分に離間された2本の平行な線に沿って接触するように、これらの部分の弧状形状を決定することを提案する。これらの2本の接触線は適切に配置されているので、上記回転パッドとその支持部の間に作用する力の方向は、これら2本の接触線同士の間に位置する。したがって、特に上記パッドにかかる負荷の方向と振幅が変化する場合にも、上記回転パッドとその支持部の間では相対的回転運動は起こらない。
【0011】
本発明の一実施形態によると、上記回転パッドの外周面は、半径が一定の円筒形状を有し、上記外周面が上記2本の離間された接触線に沿って当接する上記弧状架台は、異なる半径を有する複数の区域が接合点において互いに接して連続することによって生じた形状を有し、上記弧状架台の形状は、上記回転パッドと支持部との間の力の伝達の平均軸と実質的に合致する軸について対称である。このような構成により、上記接触は、上記形状の対称軸について対称な2本の接触線に沿って起こる。上記対称軸は力の伝達の平均軸でもあり、これらの力の横切る区域は上記2本の接触線同士の間に位置する。
【0012】
いずれにしても、添付の概略図を参照した以下の説明によって、本発明がより理解されるであろう。当該の概略図には、本発明に係る自動車のステアリングシステム用偏心押圧部材装置の実施形態が一例として示されている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明に係る偏心押圧部材装置を備える電動アシスト付ステアリングの外観図である。
図2図2は、偏心押圧部材装置を通る図1のII−II線における断面図である。
図3図3は、回転パッドとその支持部により構成されるサブアセンブリをより詳細に示す断面図であり、2本の接触線が示されている。
図4図4は、架台の形状縦断面の特定の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は自動車の電動アシスト付ステアリングを示し、(本例の場合は)ステアリングピニオンがアシストされている。このステアリングは、長手方向軸に延びるステアリングケース2を備える。このステアリングケース2内には、ラック3がスライド可能に取り付けられている。このラック3の両端は上記ステアリングケース2の外に位置し、ステアリングタイロッド(図示せず)に連結されている。アシスト電気モータ4が、上記ラック3の歯6(図2も参照のこと)と係合するステアリングピニオン5に歯車減速機を介して連結されている。このステアリングピニオン5は、ステアリングコラム(図示せず)が連結された入力シャフト7に接続されている。上記ステアリングコラムは、自動車のステアリングホイールによって操作可能である。
【0015】
全体を符号8で示す押圧部材装置は、ラック3の歯6をステアリングピニオン5に対して押圧するために、ステアリングピニオン5の近傍に設けられている。押圧部材装置8を図2及び以下に詳細に説明する。
【0016】
上記押圧部材装置8は、上記ラック3の背面9側に配置されている。換言すれば、押圧部材装置8は、上記ラック3の歯6とは反対側でかつ上記ステアリングピニオン5とも反対側に配置されている。押圧部材装置8は、上記ステアリングケース2の対応する部分に収容されている。
【0017】
上記押圧部材装置8は、「偏心」押圧部材装置と呼ばれるタイプの装置であって、回転パッド10を備える。この回転パッド10は丸みを帯びた形状の部材であり、特に、「くさび」形を有する弧状部材である。回転パッド10は、円弧形状の外周面12と、この外周面に対して偏心した円弧形状の内周面11とを有する。上記回転パッド10の偏心内周面11は、ラック3の背面9に当接するベアリング面を形成し、ラック3の歯6をステアリングピニオン5の歯に対して押し返す。
【0018】
上記回転パッド10は、支持部13上に取り付けられてガイドされる。この支持部13自体は、上記ステアリングケース2の関連する領域に取り付けられている。支持部13の構成については、図3及び図4に明瞭に示す。支持部13は弧状の架台14(arcuate cradle)を備え、この架台14上に上記回転パッド10の外周面12がスライド可能に当接して支持される。上記支持部13の一端には、ステアリングケース2の対応する凹部16に係合する長方形突出部15が設けられている(図2も参照のこと)。
【0019】
上記回転パッド10は径方向アーム18を備え、この径方向アーム18にクリアランス補償機構17によって押圧を加えることにより、上記支持部13に対して回転する。図2に示すこのクリアランス補償機構17は、特に圧縮バネ19を備える。このクリアランス補償機構17の構造と動作の詳細については、本願出願人による仏国特許発明第2951797号明細書を参照されたい。
【0020】
図3に示すように、上記回転パッド10の外周面12は、厳密に円弧状の形状であり、したがって、その半径Rは一定である。この外周面12は、2本の接触線20,21のみに沿って、上記支持部13の架台14に当接する。これらの接触線20,21は互いに平行でかつ離間されており、また、上記ケースの長手方向軸及び上記回転パッド10の回転軸とも平行である。
【0021】
上記支持部13の架台14を独特の凹弧状とすることによって、上記2本の接触線20,21が得られる。この架台14の形状の一例を、図4に示す。
【0022】
ここで、上記弧状架台14の形状は、略径方向の軸Dについて対称である。この対称軸は、略径方向において、上記回転パッド10とその支持部13との間の力の伝達の平均軸に該当する。上記軸Dのどちら側においても、架台14の形状は、それぞれ異なる半径R1,R2,R3を有する3つの区域が連続することによって形成されている。これらの区域は、それら区域の接合点において互いに接している。
【0023】
上記各半径の値は、次の関係を満たすように選択される。
【0024】
R2>R3>R>R1
【0025】
角度A1(軸Dを起点に計測される)は、半径R2から半径R3への推移を規定する。この角度A1は、回転パッド10とその支持部13との間の力が横切る(sweep)角状区域の半分よりも大きくなるよう選択される。角度A2(軸Dを起点に計測される)は、半径R1から半径R2への推移を規定する。この角度A2は、先に規定された上記角度A1の半分に任意に固定される。半径R1及び半径R2の値は、上記2本の接触線20,21の接触が製造時の許容誤差の如何に拘わらず保証されるようにするために、上記回転パッド10と支持部13との間に十分に有意なクリアランスが得られるように調節される。したがって、上記2本の接触線20,21に沿った上記回転パッド10の外周面12と架台14との接触は、軸Dのどちら側においても、半径R1の区域と半径R2の区域との接合点において起こる。そのため、上記力が横切る区域はこれらの接合点同士の間となる。半径R3の区域は、軸Dから最も遠く、上記回転パッド10と支持部13との間に間隙を形成しており、上記2本の接触線20,21を超えた他の接触が回避される。
【0026】
以上から明らかなように、本発明は、一例として上述された偏心押圧部材装置の実施形態のみに限定されるものではない。反対に、本発明は、同一の原則にあてはまる代替可能な実施形態と応用のすべてを包含する。特に、次の事項が、本発明の範囲から逸脱することはない。
【0027】
上記回転パッド及び支持部の間に2本の接触線が存在する限りにおいて、回転パッド及び支持部の形状の細部を改変すること。
【0028】
ステアリングシステムの様々な部位において作用し得るアシストを備える、マニュアルステアリング、電動アシスト付ステアリング、液圧動力アシスト付ステアリングの、すべての種類のステアリングシステムに上記の偏心押圧部材装置を使用すること。
図1
図2
図3
図4