【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、樹脂シートの接合を行なう場合にかかる溶着を用いることができない場合もある。それは、接合の対象となる両樹脂シートを形成する樹脂、例えば、両樹脂シートの接合される面に露出した樹脂の融点が異なる場合である。
両樹脂シートを形成する樹脂の融点が異なる場合、例えば、融点が高い方の樹脂の融点よりも低い温度で接合を行なうのであれば、融点が高い方の樹脂にて形成されている方の樹脂シートの樹脂は溶融しないので、溶着の強度は不十分となり、融点が高い方の樹脂の融点よりも高い温度で接合を行なうのであれば、融点が低い方の樹脂にて形成されている方の樹脂シートの樹脂は完全に溶融してしまい、場合によってはその樹脂シートの全体が溶融するなどして、接合ができない事態が生じてしまうことすら考えられる。
【0005】
このような事情があるため、両樹脂シートを形成する樹脂の融点が異なる場合の接合は、もっぱら接着剤を用いて行なわれている。
しかしながら、接着剤を用いての接合では、接着剤の塗布が人的作業となるため接合部の強度にバラツキが出る可能性が高く、信頼度が低いなりがちである。また、接着剤が硬化するまでに時間がかかるため、接着作業に非常に時間がかかることがある。更に、接着剤のほうがシートよりも早く経年劣化することがあり、特にシートに張力が付与される膜構造物に使用するにあっては、接合部が剥離しやすくなり易い。これらの不具合があるため、融点が異なる樹脂でできたシート同士の接合であっても、溶着による接合を行なえるのであればその方が好ましい。
【0006】
本願発明は、接合の対象となる両樹脂シートを形成する樹脂の融点が異なる場合であっても、溶着によりそれらを接合できるようにするための技術を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するため、本願発明者は以下の発明を提案する。
本願発明は、接合される側の面が所定の樹脂である第1樹脂にて形成された樹脂製のシートである第1樹脂シートと、前記第1樹脂よりも融点の高い所定の樹脂である第2樹脂にて主に形成された樹脂製のシートである第2樹脂シートとを、接合する範囲である接合範囲で互いに重ね合わせて接合する、樹脂シートの接合方法である。
この樹脂シートの接合方法では、前記第2樹脂シートとして、少なくともその前記接合範囲に複数の孔が穿たれているものを用いる。そして、前記第2樹脂シートの前記第1樹脂シートと反対側に、前記第2樹脂シートと対向する側の面が前記第1樹脂と熱溶着可能な樹脂である第3樹脂にて形成された第3樹脂シートを、前記接合範囲にある前記孔の少なくとも1つを覆うようにして配し、その状態で、前記第2樹脂の融点の温度よりも低く、且つ前記第1樹脂の融点及び前記第3樹脂の融点のうちの高温のものよりも高い温度で加熱して、前記第1樹脂シートと前記第3樹脂シートを溶着することで、前記第1樹脂シートと前記第2樹脂シートの接合をなす。
この樹脂シートの接合方法では、第1樹脂シートと第2樹脂シートの溶着をなす代わりに、孔の穿たれた第2樹脂シートを挟み込む第1樹脂シート及び第3樹脂シートを第2樹脂シートに穿たれた孔を介して溶着することとしている。その結果、第2樹脂シートは、第1樹脂シートと接合されるのである。
【0008】
上述の課題を解決するため、本願発明者はまた、以下の発明を提案する。
その発明は、接合される側の面が所定の樹脂である第1樹脂にて形成された樹脂製のシートである第1樹脂シートと、前記第1樹脂よりも融点の高い所定の樹脂である第2樹脂にて主に形成された樹脂製のシートである第2樹脂シートとを、接合する範囲である接合範囲で互いに重ね合わせて接合する、樹脂シートの接合方法である。
そして、この樹脂シートの接合方法では、前記第2樹脂シートの、少なくともその前記接合範囲に複数の孔を穿ち、前記第2樹脂シートの前記第1樹脂シートと反対側に、前記第2樹脂シートと対向する側の面が前記第1樹脂と熱溶着可能な樹脂である第3樹脂にて形成された第3樹脂シートを、前記接合範囲にある前記孔の少なくとも1つを覆うようにして配し、その状態で、前記第2樹脂の融点の温度よりも低く、且つ前記第1樹脂の融点及び前記第3樹脂の融点のうちの高温のものよりも高い温度で加熱して、前記第1樹脂シートと前記第3樹脂シートを溶着することで、前記第1樹脂シートと前記第2樹脂シートの接合をなす。
つまり、第2樹脂シートの孔は、第1樹脂シートと第2樹脂シートの接合が行なわれるときに、例えば接合の作業が行なわれる現場で穿たれていてもよいのである。もちろん、第2樹脂シートの孔は予め穿たれていても構わない。
【0009】
本願発明における第1樹脂シート、第2樹脂シート、第3樹脂シートはいずれも、一層又は多層の樹脂のみからなるフィルム、繊維製の布(織物、編物を問わない。)の少なくとも接合される側の面に樹脂を一層又は多層被覆したシート、合成繊維による織物を用いることができる。
本願発明の第1樹脂、第2樹脂、第3樹脂として用いることのできる樹脂としては、例えば、フッ素樹脂、PVC、PE、PP、EVA、PUを挙げられる。また、上記フッ素樹脂としては、PTFE、FEP、PFA、ETFE、PVDF、PVF等を挙げられる。また、上記合成繊維としては、以上に挙げた合成樹脂を繊維にしたものを挙げられる。
上述したように、第1樹脂シートは、少なくとも接合される側の面が第1樹脂にて形成され、第3樹脂シートは、少なくとも接合される側の面が第3樹脂にて形成される。これらの樹脂としては、上記樹脂のうち例示したような熱可塑性樹脂が使用される。
これに対し、第2樹脂シートは、第2樹脂にて主に形成される。本願において、「第2樹脂にて主に形成される」という文言は、「第2樹脂シートを構成する樹脂のうち、第2樹脂が重量比で最も大きい」ことを意味することとする。特に、「第2樹脂シートを構成する樹脂のうち、第2樹脂が50重量%以上含まれる」という条件が満足されるのであれば、「第2樹脂にて主に形成される」という条件が間違いなく満足されるものとする。
例えば、第2樹脂シートが樹脂のみからなる多層のシートであり、各層が異なる樹脂でできている場合、異なる樹脂のうち最も含まれる重量の大きなものが第2樹脂となる。また、第2樹脂シートが、繊維製の布の少なくとも接合される側の面に樹脂を一層又は多層被覆したシートである場合には、布を除いた樹脂のうち最も含まれる重量の大きなものが第2樹脂となる。
【0010】
本願発明では、第2樹脂シートの孔は、第2樹脂シートのうちの第1樹脂シートと接合される範囲である接合範囲に穿たれていれば足り、また、接合範囲外にも穿たれていてもよい。孔が、接合作業が行なわれる際に穿たれるか否かを問わずこれは同様である。なお、孔の形状、大きさ等は適当に決定することができる。孔の形状の例として、矩形、円形を挙げることができる。
本願発明では、第3樹脂シートを、接合範囲にある前記孔の少なくとも1つを覆うようにして配する。第3樹脂シートで覆われた孔を介して、第1樹脂シートと、第2樹脂シートが溶着されるのであるから、第3樹脂シートで覆われる孔の数がより多ければ、第1樹脂シートと第3樹脂シートの溶着の強度が、ひいては第1樹脂シートと第2樹脂シートの接合の強度が大きくなる。もっとも、孔の数や面積があまりに大であると第2樹脂シートの強度自体に影響が生じることもありうるので、その点も考慮して、孔の形状、大きさ、数、配置方法などを決定するのがよい。第3樹脂シートが覆う第2樹脂シートの孔の数は、第1樹脂シートと第2樹脂シートの接合の強度が十分になる範囲で決定されることになる。
なお、第2樹脂シートに設けられる本願発明における孔は、例えば第2樹脂シートの少なくとも接合される部分が合成繊維による織物である場合には、繊維間に当初から存在している空隙を孔に流用することができる。もちろんこのような場合には、本願発明における孔を新たに設けるには及ばない。この場合には、第2樹脂シートの全体に孔が開いている場合も当然に生じうる。上述の如き織物である第2樹脂シートが、繊維間の隙間が大きいメッシュ状の織物である場合、メッシュの目を本願発明における孔として流用することは容易である。
前記第3樹脂シートの形状、大きさは、第2樹脂シートのどの孔を覆うようにするかということに照らして適宜決定することができるが、第3樹脂シートは、前記複数の孔を略すべて覆うようになっていてもよい。また、複数の孔が接合範囲外にまである場合には接合範囲外のものまで含めて複数の孔を略すべて覆うようになっていてもよい。
前記第3樹脂シートの形状、大きさは、例えば、前記接合範囲に対応した大きさ、形状とすることができる。この場合、第3樹脂シートは、前記第2樹脂シートの前記第1樹脂シートと反対側に配されるとき、前記接合範囲のすべてを覆うようにして配されてもよい。そうすれば、第3樹脂シートは、第2樹脂シートの接合範囲にある孔を、事実上すべて覆うことになる。
また、前記第3樹脂シートは、前記接合範囲のすべてを覆い、且つ第2樹脂シートの先端側から食み出すことのできる大きさ、形状とされていてもよい。この場合第3シートは、前記第2樹脂シートの前記第1樹脂シートと反対側に配されるとき、前記接合範囲のすべてを覆い、且つ第2樹脂シートの先端側から食み出すようにして配されてもよい。こうすると、前記第1樹脂シートと前記第3樹脂シートを溶着する際に、第3樹脂シートの第2樹脂シートの先端側から食み出した部分を、前記第1樹脂シートと溶着することができる。このようにすることで、第1樹脂シートと第3樹脂シートの接合をより強固なものとすることができるようになる。
【0011】
本願発明では、上述のように、第1樹脂と第3樹脂は、熱溶着可能であればよく、そのためには共に熱可塑性樹脂であれば良い。また、より好ましくは、第1樹脂と第3樹脂の融点を略等しくするのが良い。本願において、第1樹脂と第3樹脂の融点が略等しいとは、両者の温度差が20℃以下程度であることを意味するものとする。第1樹脂と第3樹脂の融点がこの程度の温度差であれば、第1樹脂シートと第2樹脂シートの溶着によって、相互の樹脂に悪影響を及ぼす可能性を低くすることが可能だからである。
本願発明における前記第1樹脂と、前記第3樹脂は同種の樹脂であってもよい。この場合、第1樹脂と、第3樹脂の融点は、添加物の違いなどにより多少異なることはあるであろうが、基本的に同じになるため、一番効率よく溶着することが可能となる。
また、本願発明は、第1樹脂と第2樹脂の融点の温度差が大きい場合に特に有用である。融点の温度差が大きい場合ほど、両者の溶着による接合が難しくなるからである。第1樹脂と第3樹脂の融点が異なる場合まで考慮すれば、本願発明は、前記第1樹脂と前記第3樹脂のうちその融点が高い方の融点の温度と、前記第2樹脂の融点の温度の差が40℃以上である場合に特にその作用効果を発揮するといえる。
第1樹脂シートと第3樹脂シートを加熱するときの温度は、上述したように、第1樹脂と第3樹脂のうちその融点が高い方の融点の温度よりも高く、且つ第2樹脂の融点の温度よりも低い温度とする。第1樹脂と第3樹脂のうちその融点が高い方の融点の温度と、第2樹脂の融点の温度の差が40℃以上である場合には、第1樹脂シートと第3樹脂シートを加熱するときの温度を、第1樹脂と第3樹脂のうちその融点が高い方の融点の温度よりも、5℃〜70℃高い範囲、かつ第2樹脂の融点の温度よりも低い温度とするのが好ましい。このような温度条件で加熱を行なうと、第1樹脂シートと第3樹脂シートの溶着を確実に行なえる。