(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6073059
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】手術器用高周波電流提供器及び方法
(51)【国際特許分類】
A61B 18/12 20060101AFI20170123BHJP
【FI】
A61B18/12
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-525424(P2011-525424)
(86)(22)【出願日】2009年8月10日
(65)【公表番号】特表2012-501696(P2012-501696A)
(43)【公表日】2012年1月26日
(86)【国際出願番号】EP2009005797
(87)【国際公開番号】WO2010025807
(87)【国際公開日】20100311
【審査請求日】2012年6月14日
【審判番号】不服2015-2438(P2015-2438/J1)
【審判請求日】2015年2月9日
(31)【優先権主張番号】102008046247.0
(32)【優先日】2008年9月8日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】102008058737.0
(32)【優先日】2008年11月24日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】592245823
【氏名又は名称】エルベ エレクトロメディジン ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Erbe Elektromedizin GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】シャル、ハイコ
(72)【発明者】
【氏名】アイゼレ、フロリアン
【合議体】
【審判長】
長屋 陽二郎
【審判官】
関谷 一夫
【審判官】
宮下 浩次
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−254142(JP,A)
【文献】
特開2002−360712(JP,A)
【文献】
特開2007−111529(JP,A)
【文献】
特表2005−513450(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 18/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
整流された電気エネルギを供給するための、降圧コンバータを備える電源(3)と、
前記供給された電気エネルギに基づく高周波電流を手術器に提供するための電力発振器(10)と、
前記電源(3)から前記電力発振器(10)に供給される電流の値が所望の目標値となるように前記電源(3)の降圧コンバータを制御する制御装置(20)と、
を備える、手術器用高周波電流提供器。
【請求項2】
幹線交流電圧を本質的に一定な直流電圧に変換するための幹線整流装置(2)を更に備える、ことを特徴とする、請求項1に記載の手術器用高周波電流提供器。
【請求項3】
前記電力発振器(10)は、半導体回路素子(T1o、T1uとT2o、T2u)として構成されたパワーエレクトロニクス駆動回路を備える、ことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の手術器用高周波電流提供器。
【請求項4】
前記半導体回路素子に直列にダイオードが設けられている、ことを特徴とする、請求項3に記載の手術器用高周波電流提供器。
【請求項5】
前記パワーエレクトロニクス駆動回路は、前記半導体回路素子(T1o、T1uとT2o、T2u)がふたつひと組で、位相同期共振して制御されるように構成されている、ことを特徴とする、請求項3又は請求項4に記載の手術器用高周波電流提供器。
【請求項6】
整流された電気エネルギを供給するための、降圧コンバータを備える電源(3)と、
前記供給された電気エネルギに基づく電流を手術器に提供するための電力発振器(10)と、
制御装置(20)と、
を備える手術器用高周波電流提供器において、高周波電流を提供させる方法であって、
前記制御装置(20)が、前記電源(3)から前記電力発振器(10)に供給される電流の値が目標値となるように前記電源(3)の降圧コンバータを制御する、
ことを特徴とする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の導入部に記載の手術器用高周波発生器、および手術器用高周波発生器における高周波電圧発生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
外科手術用高周波装置は、外科手術においてますます利用されるようになってきている。この目的のために使用される発生器は、一般的に300kHz〜4MHzの範囲にある基本周波数を供給する。発生器には、電力発振器が設けられ、幹線電力網から供給され、整流された電気エネルギを、前述の基本周波数を有する、電位フリー、直流電圧フリーの出力電圧へ変換する。高電圧での凝固、あるいは凝固併用切断などのような非常に多くの応用事例において、この周波数は、一般的に50kHzのオ−ダの「変調周波数」で重畳される。限られた数の正弦波発振、極端な場合には、単一の正弦波発振が生成され、エネルギ伝搬のないパルス中断がその後に続く。変調期間が終了すると、パルスパケットの供給が再開される。
【0003】
このことから、出力電圧の瞬時開始が要請されることは明白である。1半周期、あるいは長くとも2半周期の後に、出力電圧は、最終値に到達していなければならず、それが、処置する組織に求めようとしている効果に影響を及ぼす。
【0004】
通常、上記のエネルギ変換は、
図7に示すように、連続する2つのステップで実現される。第1に、幹線1から供給される電気エネルギは、整流器2で整流され、一定の直流電圧が得られるようになる。この直流定電圧は、電源3(直流/直流コンバータ)によって、中間的な回路電圧U
Zに変換される。この中間回路電圧U
Zは、調整可能である。この第1のエネルギ変換ユニットを、以下では電源と称する。
【0005】
そこへ第2のエネルギ変換ユニットが接続され、これは、以下では電力発振器10と称する。電力発振器10は、インバータであり、患者の回路からの電位分離機能も含む。電力発振器10の出力端子は、一方が電気手術器4に、もう一方が中性電極5に接続される。また、この電力発振器10の出力端子には、実効値センサ22も接続されており、電力発振器10の出力における電圧を検知し、この電圧を設定値発生器21からの目標電圧と比較する。そうして、システムの偏差がコントローラ20を介して電源3にフィードバックされ、電力発振器10の出力電圧振幅が設定値発生器21の設定に従って制御されるように、中間回路電圧U
Zが調節される。
【0006】
図8、9に示すように、電力発振器10は通常、パワー半導体装置を有する駆動回路11と、変圧器12(これは並列に接続されたコンデンサC
Pとで並列共振回路となっているが)と、変圧器12の出力側にある、患者の回路に対して直列共振回路となる、コイルL
SAとコンデンサC
SAとを含む直列回路と、を含む。
図9に示す従来の実施形態においては、駆動回路11の出力端子と、変圧器12と並列コンデンサC
Pとで構成される並列共振回路との間に、コイルL
SEとコンデンサC
SEとで構成される直列共振回路をさらに含む。
【0007】
最高の変調機能を確保し、従って出力電圧の発振が瞬時に開始されるようにするために、入力直列共振回路(
図9のような)は、省略されることが多い(
図8に示すように)。全体の共振回路の入力は、従って並列共振回路である。駆動回路もまた電圧源、特に電源3の出力コンデンサC
Aからの供給を受けているので、駆動パワー半導体装置11は、充電されたコンデンサ(C
A)と未充電コンデンサ(C
P)との間での短絡を表している。その結果、流れる電流の大きさは、半導体回路の導線インダクタンスや経路抵抗などのような寄生的なものの発現によってのみ決定される。これらの寄生値は、実際の部品の値に比べて通常小さいので、非常に大きな不確定の電流値が生じる。この、しばしば非常に高いパルス電流は、望ましくない(病院環境においては許容されないような)電磁干渉を放射する可能性がある。さらには、駆動回路11のパワー半導体装置の容量が経済的でないことが多い。
【0008】
この課題を解決するために、
図9に示す、駆動電流が入力インダクタンスL
SEによって決定される回路が利用される。しかし、この回路では、フィルタが瞬時に発振開始しないという欠点が生じ、従って前述の変調に対しては好適ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、良好な変調機能が実現でき、前述の不利な点、とりわけ過電流が防止できるような、手術器用高周波発生器、および手術器用高周波発生器における高周波電圧発生方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、請求項1による手術器用高周波発生器と、請求項11による方法とで達成される。
【0011】
特に本目的は、整流された電気エネルギを供給するための電源と、電位フリー、直流電流フリー、または直流電圧フリーの高周波電圧を提供するための電力発振器と、高周波電圧を制御するための制御装置と、を備える手術器用高周波発生器であって、その電源は、負荷に依存しない出力電流を供給するための電流源として構成され、その目標値は、前記電源の負荷に依存しない出力電流が高周波電圧を制御するための制御変数として作用するように制御装置によって予め定められている、手術器用高周波発生器によって得られる。
【0012】
従って既知の方法と違って、本質的な特徴は、電源が負荷に依存しない出力電圧を持つのではなく、負荷に依存しない制御された出力電流を有する点にある。この出力電流の目標値は、(それ自体は既知の)外科手術器用高周波装置の制御システムによって前以って決定される。従って、負荷に依存しない電流は、高周波出力電圧および組織に及ぼす高周波の効果を制御するための制御変数として作用する。
【0013】
この電源は、好ましくは、幹線交流電圧を本質的に一定な直流電圧へ変換するための幹線整流装置と、調整可能な整流エネルギを供給するための出力側に接続された中間回路と、を備える。電源は、好ましくは、降圧コンバータ、又は電位分離順方向コンバータのいずれかを備える。この場合には、出力コンデンサは、含まれない。従って、電源の出力は、インダクタンスであり、電源の制御システムは、出力電流を制御する。ここで、出力電圧は、負荷の状況に応じて自由に調節可能である。
【0014】
本明細書で必要とされる電流制御システムで制御されるシステムは、少なくとも、構造的な大きさ/費用と電流リップルとの間の折り合いを反映した好適な出力インダクタンスの選択をした後には、非常に速い時定数を持つので、電流コントローラは、好適には“有限の調節時間を有する制御システム”として実現され、さらに好ましくは、特にデジタル信号プロセッサまたは他の集積回路における「デッドビート制御器」として実現される。
【0015】
これに関連して、電力が配電されていない電源の状態は、出力において短絡状態であるということに留意されたい。従って、この装置は、短絡に耐えられるものである。負荷なしで運転している時は、誘導過電圧によって部品が破壊するまで電圧が上昇する可能性がある。従って、(電力発振器の)下流の回路部品の動作によって、電源の誘導出力が決して負荷なしで運転されることがないようにされなければならない。
【0016】
電力発振器は、好ましくは、半導体回路要素のHブリッジとして構成されたパワーエレクトロニクス駆動回路を備える。負荷なしでの運転中に、望ましくない電力の短絡を防ぐために、好ましくは、半導体回路要素にダイオードが直列に設けられる。
【0017】
駆動回路は、好ましくは、エネルギ回復操作において、リアクタンス部品に蓄積されたエネルギが電源にフィードバックされ、回路構成の効率が向上するように構成されている。さらに、エネルギの回復によって、出力電圧の後振動が防止され、出力電圧の曲線形状が可及的速やかにゼロに減少する。
【0018】
また、駆動回路は、好ましくは、半導体回路要素がふたつひと組で、位相同期共振の形で制御される。2*50%の比較的高速のスイッチング時間であるために、パワー半導体部品には中間的な電流強度が生成され、これが非常に好都合に利用される。
【0019】
エネルギ回復能力なしで済む場合には、パワー半導体装置を(4つと比べて)2つ割愛することができる。電力供給に関しては、相互に独立して制御される2つの電流源(電源)を構築するか、あるいは、1つの電流制限された電源を回路に供給して、誘導電流分割器により2つに分岐するかのいずれかである。
【0020】
本発明による、手術器用高周波発生器に高周波電圧を発生させる方法は、電源に整流された電気エネルギを生成するステップと、電位フリー、直流電流フリー、または直流電圧フリーの制限された高周波電圧を生成するステップとを含み、この電源は、電源の負荷に依存しない出力電流が制御変数として高周波電圧を制限するように、所定の目標値を有する負荷に依存しない出力電流を供給する。
【0021】
本発明の好適な実施形態は、複数の従属請求項と以下の例示的実施形態の説明において開示される。その詳細を次に図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】手術器用高周波発生器を模式的に表示した図である。
【
図2A】
図1による手術器用高周波発生器用の電源の第1の実施形態を示す図である。
【
図2B】
図1による手術器用高周波発生器用の電源の第2の実施形態を示す図である。
【
図3】
図1による手術器用高周波発生器用の電力発振器の第1の実施形態を示す図である。
【
図4】
図3による電力発振器のパワー半導体装置のスイッチング機能を、生成される電圧/電流と共に表示した図である。
【
図5】電力発振器の第2の実施形態を示す図である。
【
図6】電力発振器の第3の実施形態を示す図である。
【
図7】既知の手術器用高周波発生器を示す図である。
【
図8】既知の電力発振器の実施形態を示す図である。
【
図9】既知の電力発振器の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下の説明においては、同一および類似の作用をする部品に関しては同一の参照符号および表示を用いている。
【0024】
本明細書で説明し
図1に示す手術器用高周波発生器の例示的実施形態の基本構造は、
図7〜9を参照して説明されている従来技術に、本質的に対応するものである。しかしながら、電源3には本質的な違いがある。従来技術では、出力に並列に接続されたコンデンサC
Aに定電圧U
Zを与えるのに対し、本発明による電源3は、出力インダクタンスL
Aを介して、負荷に依存しない出力電流を電力発振器10に供給する。
【0025】
図2Aは、電源3の第1の実施形態を示し、この電源は、出力側にフィルターコンデンサを有する整流器2から一定の入力直流電圧を受取る。この電源3は、降圧コンバータとして設計されていて(出力側にコンデンサを持たないが)、スイッチングトランジスタT1とダイオードとの直列接続で構成される。その接続点に、電力発振器10が出力インダクタンスLAを介して結合される。電流は、実効値センサ22’通って、減算回路へ流れ、そこでこの実効電流値が、前述の既知のコントローラ20から来る目標電流値と比較される。この比較値がシステムの偏差を表し、コントローラ20’に通知される。このコントローラがトランジスタT1を制御して、所望の出力電流を設定する。
【0026】
図2Bに示す電源3の一変形は、それ自体は既知の、電位分離電流コンバータである。この場合には、4つのスイッチングトランジスタT
1、T
2、T
3、T
4が設けられ、H型回路を構成している。各変圧器の一次巻線は、トランジスタT
1とT
3、およびT
2とT
4のそれぞれの接続点に接続され、相互に結合する変圧器の二次巻線は、ダイオードを介して出力インダクタンスL
Aに接続されている。二次巻線の接続点が、電源3の第2の出力端子を形成する。
図2Aによる場合と同様に制御が実行される。
【0027】
次に、電力発振器用駆動回路のパワーエレクトロニクスについて、
図3、4を参照して説明する。
【0028】
電力発振器11は、Γフィルタとして構成されている。
図3によれば、駆動回路のパワーエレクトロニクスは、2つのトランジスタの組T
1oとT
1u、T
2oとT
2uを有するHブリッジとして構成されている。そして、負荷フリーの動作中における、望ましくない負荷の短絡を防止するために、パワートランジスタと直列にダイオードが設けられている。トランジスタの組(T
1oとT
1u、T
2oとT
2u)の接続点へは、コンデンサC
Pを並列に有する変圧器12の一次巻線が接続される。変圧器12の出力、即ち二次巻線には、出力直列共振回路L
SAとC
SAが接続される。変圧器12の二次巻線と共に、この直列共振回路には患者の電流回路部分が含まれる。
【0029】
この回路の動作は、
図4に示すように、2つの対角的に向き合ったパワー半導体装置がいつも同時に通電される。従って、H回路の出力側の並列共振回路に通電するために、トランジスタT
1oとT
2u、またはT
2oとT
1uに同時に電流を流す。負荷なしの状態で、電源から電力発振器へエネルギが出力されていない場合、ブリッジのそれぞれ半分であるT
1oとT
1u、またはT
2oとT
2uのいずれかが、同時にスイッチオンされることが必要である。
【0030】
第3の可能な動作モードは、4つのトランジスタ全てを同時にスイッチオンさせて、電力発振器11のリアクタンス部品中のエネルギを電源3の出力インダクタンスL
Aへエネルギ回復動作をさせる。このタイプのエネルギ回復で、出力電圧がポストパルス発振することが防止され、出力電圧曲線の形状が、可及的速やかにゼロとなる。
【0031】
この回路はさらに、その容量で興味ある性質を有している。とりわけ、相対スイッチング時間(デューティサイクル)をほぼ100%として、この回路を駆動することが可能である。このためには、並列共振回路(12/C
P)の電圧が正である限り、スイッチT
1oとT
2uとが閉じられる。これにより位相同期スイッチングが確保され、
図4に示すようにこれによって回路が共振動作する。この相対的に大きなスイッチング時間2*50%は、パワー半導体部品に中程度の電流強度をもたらし、従って非常に経済的に利用される。
【0032】
図5に示す電力発振器10の実施形態においては、2つの半導体部品T
1、T
2(と負荷フリー動作ダイオード)しかなく、この部品は相互に独立して制限される2つの電流源を有している。
図6に示す変形例では、単一の電流制限電源しか与えられていないが、パワー半導体部品T
1、T
2を有する2つの分岐へ、誘導電流分割器を介して配電される。
【0033】
上記より、本発明は、多くの異なる回路構成で実現可能であることが明白である。
【符号の説明】
【0034】
1 幹線
2 整流器
3 電源または直流/直流コンバータ
4 機器
5 中性電極
10 電力発振器
11 駆動回路
12 変圧器
20 コントローラ
21 設定値発生器
22 実効値検出器