特許第6073125号(P6073125)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6073125-虚血性疾患の予防又は治療剤 図000003
  • 特許6073125-虚血性疾患の予防又は治療剤 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6073125
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】虚血性疾患の予防又は治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/05 20060101AFI20170123BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20170123BHJP
   A61K 31/196 20060101ALI20170123BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
   A61K31/05
   A61P9/10
   A61K31/196
   A61P9/04
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-278633(P2012-278633)
(22)【出願日】2012年12月20日
(65)【公開番号】特開2014-122174(P2014-122174A)
(43)【公開日】2014年7月3日
【審査請求日】2015年11月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 賢
(72)【発明者】
【氏名】王 静
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 恵治
【審査官】 吉田 佳代子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/089103(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/098160(WO,A1)
【文献】 Br. J. Pharmacol.,2012年 4月,Vol. 165 Issue 7,pp. 2354-2364
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−31/327
A61K 45/00
A61P 9/04
A61P 9/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/WPIDS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分として治療有効量の9-phenanthrolまたはflufenamic acidを含有する、心筋梗塞、狭心症、心不全からなる群から選ばれる虚血性疾患の予防または治療剤。
【請求項2】
有効成分が9-phenanthrolである、請求項1記載の予防または治療剤。
【請求項3】
虚血性疾患が心筋梗塞である、請求項1又は2に記載の予防または治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、虚血性疾患の予防又は治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の高齢化に伴い虚血性疾患が大きな問題になっている。特に循環器疾患である心臓疾患のうち心臓血管障害により生じる心筋梗塞、狭心症、心不全あるいは脳の血流障害による脳梗塞は、血管の一時的又は持続的な閉塞もしくは急激な血流減少により心筋細胞、神経細胞などの細胞の虚血性壊死を生じて心機能、脳機能の低下をもたらす生死にかかわる重篤な疾患である。虚血性疾患の直接的原因は、動脈硬化や動脈もしくは静脈内の血栓形成による細胞、例えば心筋細胞、神経細胞への血流減少又は停止である。結果的に急性又は慢性の心機能不全、脳機能不全が惹起される。
【0003】
虚血性疾患の治療においては、閉塞した動脈又は静脈を血管内挿入バルーンにより拡張させたり、ステントを血管内に挿入することにより血流を確保したり、血管内に生じた血栓を血栓溶解剤により溶解除去する方法が採用されている。このような治療においては、冠状動脈内に血流が再開されるに伴いCa過負荷やフリーラジカルが発生し、細胞の壊死領域が広がることが知られているが、このような虚血再灌流障害の発生を予防するのは困難であり、有効な治療方法が定まっていないのが現状である。
【0004】
代表的な虚血性疾患である虚血性心疾患を治療する方法として遺伝子導入を行う方法(特許文献1)や、薬物の導入に特殊な担体を用いる方法などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2004/074494
【特許文献2】特開2011-26220
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、虚血性疾患の予防又は治療剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の虚血性疾患の予防又は治療剤を提供するものである。
項1. 有効成分として治療有効量のTRPM4阻害剤を含有する虚血性疾患の予防または治療剤。
項2. TRPM4阻害剤が9-phenanthrolまたはflufenamic acidである、項1記載の予防または治療剤。
項3. 虚血性疾患が心臓、脳、肝臓もしくは腎臓の虚血性疾患である項1又は2に記載の予防または治療剤。
項4. 虚血性疾患が、心筋梗塞、狭心症、心不全、脳梗塞、肝虚血障害または腎虚血障害である、項3に記載の予防または治療剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、心筋梗塞、狭心症、心不全、脳梗塞、肝虚血障害、腎虚血障害などの虚血性疾患を予防又は治療することができる。本発明の虚血性疾患の予防又は治療剤は、虚血プレコンディショニング現象によって虚血性疾患の予防効果が得られる。虚血プレコンディショニング現象による予防効果は、心筋梗塞、狭心症などの心臓血管疾患だけでなく、脳梗塞、あるいは肝虚血障害、腎虚血障害を含むあらゆる臓器及び組織の虚血性疾患の予防又は治療に有効である(Curr Drug Targets 2012 February; 13(2); 173-187)。
【0009】
例えば、TRPM4阻害剤を心筋梗塞に適用することで、虚血後の心臓収縮力がほぼ回復し、壊死部位が顕著に小さくなる、薬物を静脈内投与することにより効果が得られる、などの効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】心筋の収縮力を示す。30分、60分、90分では、DPが100%を超えており、TRPM4阻害剤により収縮力が増強されることが示された。
図2】心筋壊死の割合を示す。TRPM4阻害剤投与群において有意な心筋壊死予防効果が認められた。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明で用いられるTRPM4阻害剤としては、下記式(1)〜(5)の化合物が挙げられる。
【0012】
【化1】
【0013】
(式中、Rは置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいアラルキル基または置換基を有してもよいヘテロアリール基を示す。
【0014】
はアルキル基、シクロアルキル基または置換基を有してもよいアリール基を示す。
【0015】
はアルキル基、シクロアルキル基または置換基を有してもよいアリール基を示す。
【0016】
、R及びRは、同一又は異なって置換基を有してもよいアリール基を示す。
【0017】
Rは、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、CF、C、アルキルカルボニル基、アミノ、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、COOHまたはOHである。
【0018】
n1は1,2,3または4である。
【0019】
n2は1,2,3または4である。
【0020】
n3は1,2,3または4である。
【0021】
n4は1,2,3または4である。
【0022】
n5は1,2または3である。
【0023】
n6は1,2,3または4である。
【0024】
n7は1,2または3である。
【0025】
ZはCまたはNである。
【0026】
は、−CONH−、−NHCO−、−COO−、−O−CO−、−S−、−SO−、−SO−、−NH−または−O−を示す。
【0027】
は、−CONH−、−NHCO−、−COO−、−O−CO−、−S−、−SO−、−SO−、−NH−または−O−を示す。)
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられ、フッ素、塩素、臭素が好ましい。
【0028】
アルキル基としては、直鎖状又は分枝鎖状のいずれでもよく、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、ヘキシルなどのC〜Cアルキル基、好ましくはC〜Cアルキル基が挙げられる。
【0029】
シクロアルキル基としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロ
アルコキシとしては、直鎖状又は分枝鎖状のいずれでもよく、例えば、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、tert−ブトキシ、n−ペンチルオキシ、イソペンチルオキシ、ヘキシルオキシなどのC〜Cアルコキシ基、好ましくはC〜Cアルコキシ基が挙げられる。
【0030】
モノアルキルアミノ基としては、メチルアミノ、エチルアミノ、n−プロピルアミノ、イソプロピルアミノ、n−ブチルアミノ、イソブチルアミノ、tert−ブチルアミノ、n−ペンチルアミノ、イソペンチルアミノ、ヘキシルアミノが挙げられる。
【0031】
ジアルキルアミノ基としては、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジn−プロピルアミノ、ジイソプロピルアミノ、ジn−ブチルアミノ、ジイソブチルアミノ、ジtert−ブチル、ジn−ペンチルアミノ、ジイソペンチルアミノ、ジヘキシルアミノが挙げられる。
【0032】
アリール基は、5又は6員の芳香族炭化水素環からなる単環又は多環系の基を意味し、具体例としては、フェニル、ナフチル、フルオレニル、アントリル、ビフェニリル、テトラヒドロナフチル、クロマニル、2,3−ジヒドロ−1,4−ジオキサナフタレニル、インダニル及びフェナントリルが挙げられる。
【0033】
ヘテロアリール基は、N、O及びSから選択される1〜3個のヘテロ原子を含む、5又は6員の芳香環からなる単環又は多環系の基を意味し、多環系の場合には少なくとも1つの環が芳香環であればよい。具体例としては、フリル、チエニル、ピロリル、イミダゾリル、ピラゾリル、オキサゾリル、チアゾリル、イソオキサゾリル、イソチアゾリル、ピリジル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、インドリル、キノリル、イソキノリル、ベンゾ[b]チエニル及びベンズイミダゾリルが挙げられる。
【0034】
アルキルカルボニルとしては、メチルカルボニル、エチルカルボニル、n−プロピルカルボニル、イソプロピルカルボニル、n−ブチルカルボニル、イソブチルカルボニル、tert−ブチルカルボニル、n−ペンチルカルボニル、イソペンチルカルボニル、ヘキシルカルボニルが挙げられる。
【0035】
アルコキシカルボニルとしては、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、n−プロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、n−ブトキシカルボニル、イソブトキシカルボニル、tert−ブトキシカルボニル、n−ペンチルオキシカルボニル、イソペンチルオキシカルボニル、ヘキシルオキシカルボニルが挙げられる。
【0036】
アルキルチオ基としては、直鎖状又は分枝鎖状のいずれでもよく、例えば、メチルチオ、エチルチオ、n−プロピルチオ、イソプロピルチオ、n−ブチルチオ、イソブチルチオ、tert−ブチルチオ、n−ペンチルチオ、イソペンチルチオ、ヘキシルチオが挙げられる。
【0037】
アラルキル基としては、ベンジル、ナフチルメチル、フルオレニルメチル、アントリルメチル、ビフェニリルメチル、テトラヒドロナフチルメチル、クロマニルメチル、2,3−ジヒドロ−1,4−ジオキサナフタレニルメチル、インダニルメチル及びフェナントリルメチル、フェネチル、ナフチルエチル、フルオレニルエチル、アントリルエチル、ビフェニリルエチル、テトラヒドロナフチルエチル、クロマニルエチル、2,3−ジヒドロ−1,4−ジオキサナフタレニルエチル、インダニルエチル及びフェナントリルエチルが挙げられる。
【0038】
ヘテロアリール基としては、フリル、チエニル、ピロリル、イミダゾリル、ピラゾリル、オキサゾリル、チアゾリル、イソオキサゾリル、イソチアゾリル、ピリジル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、インドリル、キノリル、イソキノリル、ベンゾ[b]チエニル及びベンズイミダゾリルが挙げられる。
【0039】
置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいアラルキル基、置換基を有してもよいヘテロアリール基の置換基の数は1〜5個、好ましくは1〜3個であり、置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、CF、C、アルキルカルボニル基、アミノ、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、COOH、OHが挙げられる。
【0040】
好ましいTRPM4阻害剤は、フルフェナム酸、9−フェナンスロール、MPB−104、グリベンクラミド、クロトリマゾール、デカバナデート、BPT2である。
【0041】
上記(1)〜(5)の化合物は、公知の化合物であるか、公知の化合物から常法に従い容易に調製できる。
【0042】
本明細書において、「虚血性疾患」は、動脈硬化や動脈もしくは静脈内の血栓形成による血流の低下又は停止が臓器、組織などで生じることにより生じる疾患、さらに、心筋梗塞の治療における血管バイパス手術など外科手術などで人為的に血流を止めることにより生じる虚血状態に起因して生じる虚血性の組織障害を含む。虚血性疾患に関与する臓器又は組織としては、心臓、脳、肝臓、腎臓などが挙げられ、特に心臓及び脳が挙げられる。虚血性疾患としては、具体的には、心筋梗塞、狭心症、心不全、脳梗塞、肝虚血障害、腎虚血障害が挙げられる。
【0043】
TRPM4は、細胞膜の脱分極を媒介するCa2+で活性化される非選択的カチオンチャネルである。
【0044】
TRPM4阻害剤は、虚血部位の壊死を予防することができ、心筋においては収縮力の増強が可能である。
【0045】
本発明の虚血性疾患の予防または治療剤は、経口的に、あるいは静脈内、皮下、筋肉内、経皮、吸入、直腸内等に非経口的に投与することができる。
【0046】
経口投与のためには、固形製剤あるいは、液体製剤とすることができる。製剤としては、例えば錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、液剤、懸濁液あるいはカプセル剤などがある。錠剤を調製する際には、常法に従ってラクトース、スターチ、炭酸カルシウム、結晶性セルロース、あるいはケイ酸などの賦形剤;カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、リン酸カルシウム、あるいはポリビニルピロリドンなどの結合剤;アルギン酸ナトリウム、重ソウ、ラウリル硫酸ナトリウムやステアリン酸モノグリセライドなどの崩壊剤;グリセリン等の潤滑剤;カオリン、コロイド状シリカなどの吸収剤;タルク、粒状ホウ酸などの潤滑剤などの添加剤が用いられる。丸剤、散剤、または顆粒剤も上記と同様添加剤を用いて常法に従って製剤化される。
【0047】
液剤および懸濁剤などの液体製剤も常法に従って製剤化される。担体としては例えばトリカプリリン、トリアセチン、ヨード化ケシ油脂肪酸エステル等のグリセロールエステル類;水;エタノール等のアルコール類;流動パラフィン、ココナッツ油、大豆油、ゴマ油、トウモロコシ油等の油性基剤が用いられる。
【0048】
経皮投与用薬剤の剤形としては、軟膏、クリーム、ローション、液剤等が挙げられる。軟膏の基剤としては、例えばヒマシ油、オリーブ油、ゴマ油、サフラワー油などの脂肪油;ラノリン;白色、黄色もしくは親水ワセリン;ロウ;オレイルアルコール、イソステアリルアルコール、オクチルイドデカノール、ヘキシルデカノールなどの高級アルコール類;グリセリン、ジグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ソルビトール、1,3−ブタンジオールなどのグリコール類などが挙げられる。また薬効成分の可溶化剤としてエタノール、ジメチルスルホキシド、ポリエチレングリコールなどを用いてもよい。また、必要に応じて、パラオキシ安息香酸エステル、安息香酸ナトリウム、サリチル酸、ソルビン酸、ホウ酸などの保存剤;ブチルヒドロキシアニソール、ジブチルヒドロキシトルエンなどの酸化防止剤などを用いてもよい。また、経皮吸収促進を図るため、ジイソプロピルアジペート、ジエチルセバケート、エチルカプロエート、エチルラウレートなどの吸収促進剤を加えてもよい。さらに、安定化を図るため、薬効成分はα,βまたはγ−シクロデキストリンあるいはメチル化シクロデキストリン等と包接化合物を形成させて使用することもできる。軟膏は通常の方法によって製造することができる。
【0049】
クリーム剤としては水中油型クリーム剤の形態が薬効成分の安定化を図るうえで好ましい。またその基剤としては、前述したように、脂肪油、高級アルコール類、グリコール類などが用いられ、またジエチレングリコール、プロピレングリコール、ソルビタンモノ脂肪酸エステル、ポリソルベート80、ラウリル硫酸ナトリウムなどの乳化剤が用いられる。さらに、必要に応じて前述した保存剤、酸化防止剤などを添加してもよい。また、軟膏剤の場合と同様に、有効成分の化合物(TRPM4阻害剤)をシクロデキストリン、メチル化シクロデキストリンの包接化合物として用いることもできる。クリーム剤は通常の方法によって製造することができる。
【0050】
ローション剤としては、懸濁型、乳剤型、溶液型ローション剤が挙げられる。懸濁型ローション剤は、アルギン酸ナトリウム、トラガント、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどの懸濁化剤を用い、必要に応じて酸化防止剤、保存剤などを加えて得られる。乳化型ローション剤は、ソルビタンモノ脂肪酸エステル、ポリソルベート80、ラウリル硫酸ナトリウムなどの乳化剤を用い、通常の方法で得られる。溶剤としては、本発明化合物をエタノールなどのアルコール溶液に溶解し、必要に応じて酸化防止剤、保存剤などを添加したものが挙げられる。
【0051】
これらの剤形以外でも、パスタ剤、パップ剤、エアゾール剤等の剤形が挙げられる。かかる製剤は通常の方法によって製造することができる。
【0052】
注射による投与の製剤は、無菌の水性あるいは非水溶性液剤、懸濁剤、または乳化剤として与えられる。非水溶性の溶液または懸濁剤は、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコールまたはオリーブ油のような植物油、オレイン酸エチル、ヨード化ケシ油脂肪酸エステルのような注射しうる有機エステル類を薬学的に許容しうる担体とする。このような製剤はまた、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定剤のような補助剤を含むことができ、徐放性にしてもよい。これらの溶液剤、懸濁剤、および乳化剤は、例えばバクテリア保留フィルターを通す濾過、殺菌剤の配合、あるいは照射等の処理を適宜行うことによって無菌化できる。また無菌の固形製剤を製造し、使用直前に無菌水または無菌の注射用溶媒に溶解して使用することができる。また、本発明化合物は、α,β、または、γ−シクロデキストリンあるいはメチル化シクロデキストリン等と包接化合物を形成させて使用することもできる。またリポ化の形態にした注射剤でもよい。
【0053】
本発明の予防又は治療剤の有効成分であるTRPM4阻害剤の治療有効量は、投与経路、患者の年齢、性別、疾患の程度によって異なるが、成人1日当たり、通常1mg〜5g程度、好ましくは5mg〜1g程度であり、投与回数は通常1−4回/日である。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例に基づきより詳細に説明する。
【0055】
実施例1
本実験ではラット心臓のLangendorff灌流標本を用いた。具体的には、ペントバルビタール麻酔下においてラットの心臓を摘出し、大動脈に灌流チューブを接続した。チューブから灌流液の灌流を開始した。灌流液にはKrebs-Henseleit液(NaCl 118.5 mM, KCl 4.7 mM, MgSO4 1.2 mM, NaHCO3 25 mM, CaCl22.5 mM, Glucose 11 mM)を用いた。左心室内圧を記録するため、左心房からバルーンカテーテルを挿入して左心室内に設置した。
【0056】
TRPM4チャネルの阻害薬である9-phenanthrolはdimethyl sulfoxide (DMSO)を溶媒として灌流液中に溶解させた(灌流液中のDMSO濃度は0.0065%)。20 μMの9-phenanthrolを15分間灌流させた後通常の灌流液で5分間灌流し、その後30分間灌流を停止して虚血状態を作出した。虚血による心筋壊死をより確実に起こすため、灌流停止中は右心房に対して2 msec、5 Vの電気刺激を5 Hzで与えた。虚血操作の後に灌流を再開した。
【0057】
心臓の収縮力の指標として、左心室の収縮期圧と拡張期圧との差で定義されるdeveloped pressure (DP)を用いた。図1に示すように、虚血前のDPを100%とすると、DMSO投与群において、虚血30分後は26.0±11.4%(平均値±標準誤差、以下同様)、180分後は17.2±7.9%であった(n=6)。これに対し、9-phenanthrol投与群におけるDPは虚血30分後は120.9±20.5%、180分後は75.2±10.2%であった(n=8)。
【0058】
心筋梗塞の程度を数値化するため、triphenyltetrazolium chloride (TTC)染色を行った。具体的には、実験終了後に心臓を-20℃の冷凍庫で凍らせた後、約2 mmの厚さでスライスしてTTC試薬を反応させた。反応は37℃で20分間行った。この後、反応を停止させるため心臓スライスを4%-paraformaldehyde液中に10分間静置した。TTC染色により、生きている組織は赤色を、壊死部位は白色を示す。デジタルカメラにて心臓スライスを撮影し、画像解析ソフトウエアImage Jを用いて白色の領域を検出した。領域検出における実験者の主観を排除するため、画素の輝度の閾値を設定して白色部位の検出を行った。心臓全体に対する白色部位の割合を%で表し、壊死領域の割合を定義した。図2に示すように、DMSO投与群においては壊死領域の割合が54.5±13.4% (n=6)であったのに対し、9-phenanthrol投与群においては19.3±4.2% (n=8)であった(図2)。
【0059】
上記の実験に関し、TRPM4チャネルの阻害薬として20 μMの9-phenanthrolの代わりに10 μMのflufenamic acidを用いたところ、9-phenanthrol投与群と同様なDPの回復および心臓の壊死領域の減少が認められた。
図1
図2