特許第6073129号(P6073129)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6073129
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】ベルトのバックル
(51)【国際特許分類】
   A44B 11/12 20060101AFI20170123BHJP
【FI】
   A44B11/12
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-289477(P2012-289477)
(22)【出願日】2012年12月28日
(65)【公開番号】特開2014-128529(P2014-128529A)
(43)【公開日】2014年7月10日
【審査請求日】2015年12月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】513015728
【氏名又は名称】別所 信▲頼▼
(74)【代理人】
【識別番号】100119035
【弁理士】
【氏名又は名称】池上 徹真
(74)【代理人】
【識別番号】100141036
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 章
(74)【代理人】
【識別番号】100088487
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 允之
(72)【発明者】
【氏名】別所 信▲頼▼
【審査官】 田中 尋
(56)【参考文献】
【文献】 実公昭46−035410(JP,Y1)
【文献】 国際公開第2012/049739(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0131451(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44B11/00−11/28,99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スリットの長さが15〜45mmのスリット状の空隙部を設けた下面板、下面板上に設けた一対の側面板、前記一対の側面板と垂直をなす軸まわりに起倒可能な留め具からなり、留め具には倒した時に下面板のスリット状の空隙部に向かって突き出す高さ3〜15mmの凸部を設け、一対の側面板には前記留め具を倒した状態で係合するための係合部を設け、スリット状の空隙部の上面に重ねたベルトの基端部を下面板の上部面に固定し、
下面板の上部面よりベルトの基端部から先端部へ延びる方向とはスリット状の空隙部を挟んで反対側の下面板の上部面に、ベルトの基端部を固定する事を特徴とするベルトのバックル。
【請求項2】
留め具を倒した状態で、留め具に設けた凸部の先端が、下面板の上部面より上方に5mm、下方に5mmの範囲に位置する事を特徴とする請求項1記載のベルトのバックル。
【請求項3】
一対の側面板と垂直をなす軸を、側面板に設けた溝の中で一対の側面板と平行に移動可能とすることで、前記留め具を平行に移動、揺動させ、側面板のストッパーとの係合を行うことを特徴とする請求項1又は2記載のベルトのバックル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、係合位置を無段階に調節可能なベルトのバックルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
係合位置を無段階に調節可能なベルトのバックルに関する特許は既に多数出願されており、これらの中でも布製ベルトを使った安価なGIタイプや、バックルの中に取り付けられた歯により皮革製ベルトを噛み込むビジネスタイプが洋装用として多く市販されている。これらのバックルの長所は思い通りの位置で係合できる事であり、近年問題となっているメタボリックシンドローム対策や、シェイプアップ中のために、ウェストサイズが変動しやすい人には、便利で使いやすいバックルである。なお、これらのバックルに対して、人体を損傷する程の力を受けてもベルトが緩まない締結性能を要求されるものは安全帯用として区別されている。
【0003】
しかしながら、従来技術による無段階調節可能なバックルの大部分は、ベルトを緩める時の動作が目立つため、食事中などマナーが要求される状況下において、さりげなくベルトを緩める事ができなかった。
【0004】
また特許文献1などのようにバックルの中で、ベルトが受ける張力により摩擦力を発生させて締結する方式では、大げさな動作を伴わずにベルトを緩められるが、人体からバックルを引き離す方向に外力を受けた場合、図5のようにベルトが2次曲線形状となり、ベルトとバックルの間に発生している摩擦力が低下して緩む事が問題である。(図が必要)
【0005】
さらに、従来型の多くのバックルではベルトをバックルの端部に固定しているため、装着時にバックルのバランスが崩れ、傾いて飛び出たバックルの端部が手などに当たり不快である点が問題である。
【0006】
また、特許文献2などの過去の出願には、ベルトの表面を爪部により圧縮して締結すると説明が有る。しかし実際にこのようなタイプのバックルを皮革製のベルトに使用した場合には、ベルトに爪痕を付けるため美観を損ない、寿命が短くなる点なども問題である。
【0007】
さらに、特許文献3などのストラップの止め具などは、本発明に近い方式であるが、これも止め爪により痕を付けるものであり、さらに、この止め爪を固定するための機構も無いため、不用意に止め爪が解除されると、ベルトの締結まで解除され、洋装用途の皮革製ベルトを確実に締結できない問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−296552号公報
【特許文献2】特開2004−154383号公報
【特許文献3】実開 昭56−106625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
大部分の無段階調節可能なベルトのバックルの問題点は、人前でも目立たずにさりげなくベルトを緩めることができない点であり、さりげなくベルトを緩めることのできる少数のバックルは、バックルが人体より引き離す方向の力を受けた場合にベルトが緩む点が問題である。さらに、強く締結できる他のベルトは、ベルトの表面に圧痕を付け美観を損ない、ベルトを局部的に損傷させる点や、人体に対してバックルが均等に密着せず装着感が良くないなどの問題点がある。つまり、このような問題点を全て解決したバックルが存在しておらず、本発明の解決しようとする課題は、これら全ての問題点を解決したバックルを提供する事である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
1.スリットの長さが15〜45mmのスリット状の空隙部を設けた下面板、下面板上に設けた一対の側面板、前記一対の側面板と垂直をなす軸まわりに起倒可能な留め具からなり、留め具には倒した時に下面板のスリット状の空隙部に向かって突き出す高さ3mm〜15mmの凸部を設け、一対の側面板には前記留め具を倒した状態で係合するための係合部を設け、スリット状の空隙部の上面に重ねたベルトの基端部を下面板の上部面に固定し、
下面板の上部面よりベルトの基端部から先端部へ延びる方向とはスリット状の空隙部を挟んで反対側の下面板の上部面に、ベルトの基端部を固定することを特徴とするベルトのバックル。
2.留め具を倒した状態で、留め具に設けた凸部の先端が、下面板の上部面より上方に5mm、下方に5mmの範囲に位置する事を特徴とする1.記載のベルトのバックル。
.一対の側面板と垂直をなす軸を、側面板に設けた溝の中で一対の側面板と平行に移動可能とすることで、前記留め具を平行に移動、揺動させ、側面板のストッパーとの係合を行うことを特徴とする1.又は2.に記載のベルトのバックル。
ある。
【0011】
本発明は、胴に巻付けて使用する洋装用のベルトのバックルであり、締結位置を無段階に調節するため摩擦力を利用している。特に、使用時にベルトの受ける張力(設計最大荷重)により、ベルトの先端部がバックルより引き抜かれないために、ベルトの先端部と基端部を重ね合わせたうえで、倒し込んだ留め具の凸部によりスリット状の空隙の中に押し込み、あえて人体側に向かって凸となるよう屈曲させて摩擦力を発生させている。
【0012】
この留め具に設けた凸部の高さは、低すぎるとベルトがあまり屈曲せず十分な摩擦力を発生させられないが、高すぎると操作が困難になるため、3mm〜15mmの範囲とする必要があり、好ましくは3mm〜10mmの範囲とすべきである。
【0013】
なお、このようにベルトを屈曲させる場合には、凸部の先端の位置が最も重要である。ベルトが厚く剛性が高い場合にはあまり下まで押し込む必要が無く下面板の上部面より上方に5mmとなる。逆に薄く剛性も低いベルトの場合には上部面の下5mmまでベルトを押し込む必要が有り、一般的に使用されるベルトの厚さや剛性などの物性より、実際には下面板の上部面の上3mmから、上部面から下に3mmの範囲とすることが好ましい。
【0014】
特に、このように、ベルトを屈曲させて摩擦力を発生させる目的は、ベルトの張力の方向と摩擦力を発生させる面が平行に近づいて滑り出さなくするためである。
つまり、特許文献1にあるようにな方式のバックルは通常人体とは逆向きに凸となるようにベルトを屈曲させて摩擦力を発生させているが、このような方向にベルトを屈曲させていると、バックルが人体から引き離される方向の力を受けた時に、図5(b)のようにベルトが2次曲線形状となり摩擦面に対してベルトが受ける張力の方向が平行に近づいて滑り出す。
【0015】
そこで本発明では、あえて人体側に向かって凸となるようにベルトを屈曲させている。これにより、バックルが人体から引き離される方向の外力を受けた時にも、摩擦面に対してベルトが受ける張力の方向が平行にならずベルトの先端部が滑り出さない。つまり、このような力を受けた時に、ベルトが形成させられる2次曲線形状とは逆の傾きを、バックルによってベルトに強制するために、あえてバックルにより人体に向かって凸となるようにベルトの先端部を屈曲させている。
【0016】
さらに、このように人体に向かって屈曲させることにより、張力に比例して摩擦力も強化させることができるので、より強力にベルトを締結できる利点が生まれた。
つまり、スリット状の空隙の中でベルト先端部の下側となったベルトの基端部がバックルから引き出される張力を利用して、ベルトの先端部を留め具の凸部に押し付けて摩擦力をさら強化することまで可能となった。このように摩擦力を増加させるためには、図1のようにスリット状の空隙を挟んで、締結時にベルトの先端部を引き出した側とは逆側に、ベルトの基端部をネジなどで固定するだけでよい。
【0017】
このように重要な部位であるスリット状の空隙部のスリットの長さは、基本的に使用するベルトの厚さに比例させて、薄い場合には短く、厚い場合には長く設計する。
さらに、留め具の軸を側面板に固定する場合には短く、軸を側面板の中でスライドさせる場合には長く設計する。
【0018】
ゆえに市販されている大体2〜4mm厚さの皮革製ベルト等を使用する場合には、スリット状の空隙の幅は15mm〜45mmの範囲になる必要がある。例えば、ベルトの厚さが2.5mmで軸を固定する場合にはスリット状の空隙の幅を20mmで設計し、同じくベルトの厚さが2.5mmで軸を平行に移動させる場合であれば、この幅に平行に移動する部分の12mmを足して32mmで設計、製作できる。つまりスリット状の空隙の幅はベルトの厚さや剛性、軸の平行移動や係合機構などによって15mm〜45mmの範囲で調節しなければならず、一般的な市販のベルトであれば20mm〜35mmの範囲が好ましい。
また、上記のようにベルトの両端部を屈曲させるための必須条件として、ベルトの基端部はこのスリット状の空隙の上に被せた状態で下面板の上部面で固定しなければならない。
【0019】
また、下面板上方に位置する一対の側面板では、この一対の側面板と垂直をなす軸まわりに、起倒可能な留め具を設けており、この起倒可能な留め具によりテコの原理を応用し、小さな力でも重ねた2枚のベルトを屈曲させる操作が容易となる。
また、留め具には、倒した時にスリット状の空隙に向かって突き出す高さ3mm〜15mmの凸部を設けてあり、この凸部の高さも使用するベルトの厚さと剛性、デザイン等により、この範囲内で調整する必要があるが一般的な皮革製ベルトの場合、好ましくはこの凸部の高さは5〜10mmの範囲で良い。しかし、例えば剛性が高く、厚さも4mmのベルトの場合には凸部の高さは3mmと低くし、厚さ2.5mmで一般的な剛性の皮革製ベルトの場合にはこの高さを12mmで設計、製作した。
【0020】
ベルトを締結する際には、この留め具を起こす事でベルトの先端部を差し込む空間をつくり出し、ベルトの先端部を留め具の下に通し、下面板の上部面に固定しているベルトの基端部の上に重ねた状態で引き出し、締結する位置を決め、留め具を倒してベルトの両端部を重ね合わせた状態でスリット状の空隙の中で屈曲させ、スリット状の空隙を形成する下面板の部材と、留め具の凸部との間で、痕が残らない程度の強さにてベルトの両端部を圧縮する。
【0021】
上記ベルトの締結方法について、さらに詳しく図1を使って説明する。下面板の上部面では、ベルトの基端部から先端部へ延びる方向とはスリット状の空隙部を挟んで反対側の下面板の上部面に、ベルトの基端部を固定しておき、締結時には下面板に設けたスリット状の空隙部の上でベルトの基端部とベルトの先端部を重ね合わせ、この状態で留め具を倒し凸部により2枚重ねしたベルトの両端部を、スリット状の空隙に押し込む事により人体に向かって凸に屈曲させるが、この時2枚重ねしたベルトの両端部は二つの逆V字を含む形状に屈曲させられる。この時スリット状の空隙を形成する下面板の部材は逆V字形状に屈曲させられたベルトの両端部のどちらか一つかもしくは両方の逆V字形状部を圧縮することにより発生させた摩擦力によってベルトの先端部を締結することが本発明の基本原理である。
【0022】
さらに、前記のようにベルトを屈曲させて摩擦力により締結した後で、操作しやすく不用意に解除されない係合機構にて、この留め具を確実に固定する必要があるが、バックルの設計上簡素かつ単純な機構が望ましく、本発明では基本的にスライド(平行移動)機構により留め具を係合する機構を採用しているが、テコの原理や永久磁石によって構成する機構により係合する設計も可能である。
【0023】
また本発明のバックルは通常はステンレス鋼などの金属製とする事が好ましいが、エンジニアリングプラスティックなど他の材料で製作する事も可能である。
【発明の効果】
【0024】
体調が急に悪化した場合など、人前でベルトを緩めたい時に、本発明によるバックルであれば指で軽く操作するだけで、目立たずにベルトを緩めることが可能である。さらに、バックルに対して人体より引き離す方向の力が加わっても、屈曲された部分でのベルトの摩擦力が維持されるため確実に締結できる。特に使用中想定される最大荷重(最大張力)が加えられた場合には、下面板に固定されているベルトの基端部がベルトが受ける張力によりベルトの先端部を留め具に押し付けるため、より強い摩擦力により締結される。また、本発明によるバックルにおいて、ベルトの両端部(基端部と先端部)は重ね合わせて摩擦力によりループ状として一体化するため、下面板の下面が人体に対しほぼ均等に密着され、ベルトの装着時にはバックルの端部が人体側より浮かず、自然で安定した心地良い装着感が得られる。 さらに、本発明によるバックルではベルト先端部に対して留め具の凸部で押すことにより緩やかに屈曲させているだけなので、ベルトの表面に爪痕など残さずに締結する事ができる。これよりベルト表面の美観が良く、さらにベルトの局部的な損傷を防ぐことでベルトの寿命を延ばす事にもなる。 さらに、従来型には無い斬新なデザインが可能で有り、男性用のファッショナブルなバックルから女性用のバックルまでデザインすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態を示す断面図である。(実施例1)
図2】本発明の一実施形態を示す斜視図である。(実施例1)
図3】本発明の一実施形態を示す断面図である。(実施例2)
図4】本発明の一実施形態を示す断面図である。(実施例3)
図5】摩擦力を利用した従来型バックルと外力との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1のように、バックルの内部にてベルトの基端部を下面板に固定しておき、締結時にはベルトの先端部をバックルに差込み、両端部を重ね合わせた状態で、留め具によりスリット状の空隙部の側壁に押し当て、逆V字を2箇所含んだ形状となるよう緩やかに屈曲させることで、ベルトの表面に爪痕などを付けずに締結する。さらに、指先でこの留め具を操作すれば容易に係合を解除できるが、逆にバックルが張力を含む外力を受けた場合にも、容易に解除されることの無い係合機構により、使いやすいバックルを実現した。
【実施例1】
【0027】
図1は、幅34mmで厚さが2.5mmの牛皮製のベルトを使った本発明によるバックルの一例の断面図、図2が斜視図である。下面板1にはベルトが通る幅でスリットの長さが20mmのスリット状の空隙部2を設けておき、この下面板の上には一対の側面板3を設け、予めベルトの基端部4をこの一対の側面板3の間に通し、スリット状の空隙部2の上に重ねた状態で組ネジ11aにより下面板1の上部面に固定する。
【0028】
使用時にはベルトの先端部6をバックル内に差込み、ベルトの基端部4の上に重ねるようにして留め具7の下を通し、バックル本体から引き出して係合したい位置に合わせる。
【0029】
次に留め具7を倒して高さ7mmの凸部8を、ベルトの先端部6の上からスリット状の空隙部2に向かって5mm押し込み、下面板の上部面まで凸部8の先端を下げ、ベルトの先端部6を屈曲させる事で、重ね合わせたベルトの基端部4とベルトの先端部6を、スリット状の空隙部2を形成する下面板1の2箇所の側壁に押し当て、逆V字形状を2箇所で形成するように屈曲させる事でベルトの表面に爪痕などを残さずに締結する。
【0030】
さらに、留め具7の上面に組ネジ11bとスプリングワッシャー11cにて取り付けておいた係合部9を12mmスライドさせて側面板に設けたストッパー10に差し込む事で、留め具7を係合しベルトの先端部6を確実に締結する。
【0031】
ただし、この実施例1では留め具7を固定している組ネジ11bが、ベルトの先端部6に接触していないので、ベルトの先端部6が張力により引き抜かれる方向とは逆の方向にスライドさせてストッパー10に差し込む設計としているが、係合部9を固定している組ネジ11bが、ベルトの先端部6の表面に接触していて、ベルトの先端部6が引き抜かれるような場合には、係合部9がベルトに引きずられて係合が解除される危険性があるため留め具7を逆方向にスライドさせてストッパー10に差し込む設計にしなければならない。
【0032】
ただし、ベルトの先端部6が摩擦力により強力に締結されており、ベルトの先端部6が引き抜かれる事の無い場合には、図1のように係合部9をベルトの先端部6が引き抜かれる方向と逆にスライドさせて固定する設計としても良い。
【0033】
前記、図1の実施例1により本発明によるバックルの基本的な構造について解説する。まずバックル本体の内部で重ね合わせたベルトの両端部を、スリット状の空隙部2の中で留め具7の凸部8により人体側に押し出し屈曲させているが、このように人体側に押し出してベルトを屈曲させる設計方針には、ベルトの先端部が受ける張力によりバックルから引き抜かれず、確実に締結するために重要な設計方針によるものである。
【0034】
つまり、特許文献1のように人体側とは反対方向に向かってベルトを屈曲させる設計とした場合、バックルが人体より引き離される方向の力を受けた時に、ベルトは図5のように2次曲線的な形状となり、屈曲させる事により摩擦力を発生させているベルトの先端部6に、張力が直線的に作用するためベルトが抜ける。
【0035】
これに対して、本発明では人体に向かってベルトを凸状に屈曲させており、バックルが人体側より引き離すような力を受けた場合には、ベルトがバックル内部で形成する2箇所での逆V字的な形状がより強調され、摩擦力を発生させている摩擦面に張力が直線的に作用せずベルトが抜けない。
【0036】
つまり、本発明のように胴に巻きつけて使用するベルトのバックルを設計する場合、ベルトが受ける張力が最も大きな外力であるが、常時張力を受けるとは限らない。さらに、バックルの上部にせり出した腹部などからバックルが受ける力や、外部の物体と接触することで受ける力も想定し、これらの外力によってベルトの締結が解除されないように設計しなくてはならない。
【0037】
そこで本発明では、ベルトが受ける大きな張力によって、ベルトが簡単に緩まないことは最低限の設計条件とし、ベルトが殆ど張力を受けない状態や、張力を間欠的に受ける場合、せりだした腹部によってバックルが押される場合、腕または他の物体がバックルに接触した場合においても、確実にベルトを締結し続ける事を必須条件としてバックルを設計した。
【0038】
また、本発明では摩擦力を効率的に発生させているので、さらに強力にベルトを締結したい場合には、摩擦係数が高いウレタン樹脂や変性シリコン樹脂などをベルトの摩擦面に塗布することで、容易に締結性能の強化が可能である。
【実施例2】
【0039】
図3は実施例1と同じく、幅が34mmで厚さ2.5mmの牛革製ベルトを使った本発明によるバックルの断面図である。下面板1には人体側に幅が35mm、スリットの長さが24mmのスリット状の状の空隙部2と、このスリット状の状の空隙部2と組み合わせて、ベルトの基端部4の上に重ねたベルトの先端部6を屈曲させるための留め具7を設け、予めベルトの基端部4はスリット状の状の空隙部2を跨ぐようにして、組ネジ11aにより下面板1の上部面に固定している。
【0040】
ベルトを締結する際には、ベルトの先端部6をベルトの基端部4の上に差し込み、重ねるようにして留め具7の下に通して、係合する位置まで引き出した後で、留め具7をベルト先端部6の上に倒しベルトの基端部4の上に重ねたままスリット状の状の空隙部2に向かって5mm押し込み、高さ10mmの凸部8の先端を下面板1の上部面から下側(人体側)2mmまで下げ、ベルトの先端部6とその下のベルトの基端部4を屈曲させる。
【0041】
次にこの留め具7をベルトの先端部6が張力により引き抜かれる方向に8mmスライドさせ、留め具7の凸部8とベルトの先端部6が張力により引き抜かれる側のスリット状の状の空隙部を形成する側壁によりベルトを圧縮するとともに、係合部9を側面板3に設けたストッパー10に差し込む事で固定するようにした。
【0042】
このように、留め具7が支点の軸5ごと8mmスライドできるように設計すると、ベルトの先端部6がバックルから引き抜かれる方向に張力を受けた時に、摩擦力によりベルトの先端部6と一体化した留め具7が同じ方向にスライドするため、ストッパー10に差し込んだ留め具7の係合部9が抜けない上に、張力によりベルトの先端部6が引き抜かれ始めると、留め具7の係合部9がストッパー10に引き込まれて強くベルトが締結されるため、これ以上ベルトが引き抜かれない。
【実施例3】
【0043】
図4は実施例2と同じ、幅が34mmで厚さ2.5mmの牛革製ベルトを使ったバックルの断面図である。バックルには人体側に幅が35mmで、スリットの長さが24mmのスリット状の状の空隙部2と、このスリット状の状の空隙部2と組み合わせて、ベルトの基端部4の上に重ねたベルトの先端部6を屈曲させるための留め具7を設け、予めベルトの基端部4はスリット状の状の空隙部2を跨ぐようにしバックルの内部に通した状態で組ネジ11aにより下面板1に固定しておく。
【0044】
ベルトを締結する際には、ベルトの先端部6をバックルの中に差し込み、ベルトの基端部4に重ねるようにして留め具7の下に通し、締結する位置まで合わせた後で、留め具7をベルト先端部6の上に倒し、スリット状の状の空隙部2の上で重ね合わせたベルトの基端部4と先端部6を、スリット状の状の空隙部2に向かって3mm押し込み、高さ6mmの凸部8の先端を下面板2の上部面の上2mmまで下げ、重ね合わせた2枚のベルトを人体側に凸となるように屈曲させることで、スリット状の状の空隙部を形成する下面板2の2箇所の側壁に押し当てて、逆V字形状を2箇所で形成するようにして屈曲させる。
【0045】
次に、留め具7をベルトの先端部6が張力により引き抜かれる方向に8mmスライドさせ、留め具7とスリット状の状の空隙部2を形成する側壁によりベルトを圧縮するとともに、留め具7の先端部を一対の側面板3と垂直となるストッパー12とベルトの先端部6との間に設けた隙間に差し込んだ後で起こす事により爪部13を使い留め具7を係合した。
【0046】
このように留め具7の支点となる軸5を8mmスライドできるように設計すると、ベルトの先端部6がバックルから引き抜かれる方向に張力を受けても、摩擦力により一体化した留め具7が同じ方向にスライドするため、ストッパー12とベルトの先端部6との隙間に差し込んだ留め具7の先端部がさらに深く引き込まれてより強固にベルトを締結する。故にベルトの先端部が張力により引き抜かれはじめると、実施例2と同じようにより強く締結されるため、それ以上ベルトの先端部が引き抜かれない長所を有している。
【実施例4】
【0047】
実施例1のように留め具7によりベルトの先端部6を人体側に屈曲させた上で固定し、さらにこの固定用の留め具の先端部を、第二の留め金具と磁石を組み合わせて係合する事により、ベルトを締結するバックル。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によるバックルによれば、市販されている大部分のベルトでは不可能である人前でさりげなくベルトを緩める動作が可能になる上、バックルに張力以外の外力が加わってもベルトが緩むことが無く、無段階に係合位置を調節できるベルトの製造が可能となる。さらに、装着感が自然で安定しており、皮革製ベルトの表面に傷など付けないため男性用のファッショナブルな服装や、女性の服装にも合わせることのできる特異で異国的な新しいデザインのバックルも可能となる。
【比較例1】
【0049】
特許文献1のような方式のバックルでは、図5のように本発明と同様に摩擦力によりベルトを締結しているが、バックルが人体側より引き離される方向に外力を受けると、ベルトの締結が緩む欠点が有る。
【符号の説明】
【0050】
1 下面板
2 スリット状の空隙部
3 側面板
4 ベルトの基端部
5 軸(留め具を起倒させるための支点)
6 ベルトの先端部
7 留め具
8 凸部
9 係合部
10 ストッパー
11a 組ネジ(下面板1にベルトの基端部4を固定するため)
11b 組ネジ(留め具7に係合部9を固定するため)
11c スプリングワッシャー(留め具7に係合部9を固定するため)
12 ストッパー(横棒)
13 爪部
14 一対の側面板に設けた溝
15 揺動部材
16 支持部
図1
図2
図3
図4
図5