特許第6073143号(P6073143)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6073143
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】有機EL装置
(51)【国際特許分類】
   H05B 33/12 20060101AFI20170123BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20170123BHJP
   H05B 33/06 20060101ALI20170123BHJP
   H05B 33/08 20060101ALI20170123BHJP
   F21S 2/00 20160101ALI20170123BHJP
   F21Y 115/15 20160101ALN20170123BHJP
【FI】
   H05B33/12 B
   H05B33/14 A
   H05B33/06
   H05B33/08
   F21S2/00 250
   F21Y115:15
【請求項の数】8
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2013-13083(P2013-13083)
(22)【出願日】2013年1月28日
(65)【公開番号】特開2014-146643(P2014-146643A)
(43)【公開日】2014年8月14日
【審査請求日】2015年11月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 隆
(72)【発明者】
【氏名】松田 国治
【審査官】 本田 博幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−173520(JP,A)
【文献】 特開2004−253383(JP,A)
【文献】 特表2010−508669(JP,A)
【文献】 特開2010−044399(JP,A)
【文献】 特開2005−158483(JP,A)
【文献】 特開2007−173424(JP,A)
【文献】 特開2010−245032(JP,A)
【文献】 特開2011−029164(JP,A)
【文献】 特開2009−016186(JP,A)
【文献】 特開2013−097984(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/50 − 51/56
F21Y 115/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円形又は楕円形状の基材上に、第1電極層、有機発光層、及び第2電極層が積層された積層体を有する断面構造を備え、前記基材を平面視したときに、全灯時に発光する発光領域を有した有機EL装置において、
発光領域は、内側に位置する内側発光領域と、外側に位置する外側発光領域を有し、
当該外側発光領域は、前記内側発光領域の周りを囲むように位置するものであり、
内側発光領域に位置する積層体は、外側発光領域に位置する積層体と電気的に直列に接続されていることを特徴とする有機EL装置。
【請求項2】
前記基材を平面視したときに、全灯時に発光しない非発光領域を有し、
当該非発光領域は、内側発光領域と外側発光領域の間に介在していることを特徴とする請求項1に記載の有機EL装置。
【請求項3】
内側発光領域の発光面積Siは、外側発光領域の発光面積Soの0.8倍以上1.2倍以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機EL装置。
【請求項4】
前記基材を平面視したときに、全灯時に発光しない非発光領域を有し、
前記非発光領域は、外側発光領域の外側であって、外側発光領域の外周を囲むように位置する外周非発光領域を有し、
外部電源と電気的に接続可能な第1導電フィルムを有し、
当該第1導電フィルムは、前記外側発光領域と前記外周非発光領域に跨がって配されており、かつ、外周非発光領域内の第1電極層を経由して前記外側発光領域内の積層体と電気的に接続されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の有機EL装置。
【請求項5】
外側発光領域よりも内側の領域において、
前記第1導電フィルムに給電可能な第1端子部と、前記内側発光領域内の積層体に給電可能な第2端子部を備えていることを特徴とする請求項4に記載の有機EL装置。
【請求項6】
外側発光領域よりも内側の領域に中間端子部を有し、
当該中間端子部は、内側発光領域内の積層体と外側発光領域の積層体との電気的な接続部位であって同電位部位と導通可能であることを特徴とする請求項5に記載の有機EL装置。
【請求項7】
前記第1端子部及び前記第2端子部から選ばれる群からなる1以上の端子と、前記中間端子部との間に可変抵抗を備えることを特徴とする請求項6に記載の有機EL装置。
【請求項8】
全灯時における内側発光領域の発光色と外側発光領域の発光色が異なることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の有機EL装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL(Electro Luminescence)装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、白熱灯や蛍光灯に代わる照明装置として有機EL装置が注目され、多くの研究がなされている。
【0003】
ここで、有機EL装置は、ガラス基板や透明樹脂フィルム、金属シート等の基材に、有機EL素子を積層し、この有機EL素子に給電するための給電構造を形成したものである。
そして、有機EL素子は、一方又は双方が透光性を有する2つの電極を対向させ、この電極の間に有機化合物からなる発光層を積層したものである。有機EL装置は、電気的に励起された電子と正孔との再結合のエネルギーによって発光する。
すなわち、有機EL装置は、自発光デバイスであり、発光層の材料を適宜選択することにより、種々の波長の光を発光することができる。
【0004】
また、有機EL装置は、白熱灯や蛍光灯、LED照明に比べて厚さが極めて小さくて軽量であり、且つ面状に発光するので、設置場所の制約が少ないという特長を有している。さらに、有機EL装置は、白熱灯や蛍光灯に比べて発光効率が高いので消費電力が少なく、発熱が少ないという特長も有している。
【0005】
ところで、従来から家や会議室等の日常空間の照明装置は、蛍光灯、LED照明を用いて円盤形状をした照明装置が使用されてきた。それに伴い、家や会議室等の日常空間の設計も円盤型の照明装置に合わせて設計されている場合が多い。しかしながら、現在開発されている有機EL装置は、方形形状に設計されている場合が多い。そのため、このような方形形状の有機EL装置などは、既設の家等の構造物になじみにくいという問題があり、有機EL装置を使用した照明装置においても、従来のような既設空間になじむ円盤形状の有機EL装置が市場から望まれていた。
【0006】
また、有機EL装置は、上記したように面発光であるため、有機EL素子内に流れる電流密度によって、輝度が異なり発光むらが生じる。すなわち、発光面積が所定の大きさを超えると、面内において流れる電圧の分布が顕著となり、電流密度に分布が生じて明らかな発光むらが発生する場合がある。そのため、有機EL装置の発光面を発光むらなく発光させるためには、電流密度の分布をできる限り均一にすることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−245032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような背景から、近年では、円盤形状をした有機EL装置が開発されている(例えば、特許文献1)。この特許文献1に記載の有機EL装置は、円盤形状であるため、従来の既設空間になじみやすい。また、外周側から中心側に向けて均等に電流が流れるため、電流は周方向のどの位置においても均一に流れ、周方向の発光むらの発生を低減できる。しかしながら、円の径方向については、発光むらの発生について対策が施されておらず、発光面積が大きくなり、半径が所定の大きさを超えると、円の径方向において局所的に有機EL素子を通過する電流に過多が生じ、発光むらが発生するという問題があった。また、発光面積が大きくなると、有機EL素子内で熱が発生し、有機EL素子が発生した熱によって劣化しやすいという問題もあった。
【0009】
そこで、本発明は、既設空間に容易に適応でき、発光面積の大きさが大きい場合でも発光むらを抑制可能な有機EL装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための請求項1に記載の発明は、円形又は楕円形状の基材上に、第1電極層、有機発光層、及び第2電極層が積層された積層体を有する断面構造を備え、前記基材を平面視したときに、全灯時に発光する発光領域を有した有機EL装置において、発光領域は、内側に位置する内側発光領域と、外側に位置する外側発光領域を有し、当該外側発光領域は、前記内側発光領域の周りを囲むように位置するものであり、内側発光領域に位置する積層体は、外側発光領域に位置する積層体と電気的に直列に接続されていることを特徴とする有機EL装置である。
【0011】
本発明の構成によれば、円形又は楕円形状の基材上に発光領域が位置している。すなわち、円形又は楕円形状の基材上で発光領域が発光するため、既設の構造物に対して取り付けやすく、なじみやすい。
本発明の構成によれば、発光領域は、少なくとも、内側に位置する内側発光領域と、外側に位置する外側発光領域を有している。すなわち、本発明の有機EL装置は、発光面が複数の発光領域に区分けされて発光する。そのため、特許文献1のような1つの発光領域からなる有機EL装置に比べて、単位面積当たりの電流値に分布が生じにくい。また、局所的に熱が蓄積することも防止できる。
また、本発明の構成によれば、外側発光領域は、内側発光領域の周りを囲むように位置するものである。すなわち、外側発光領域は内側発光領域からみて、周方向に連続的又は断続的に環状を形成しており、周方向における電圧分布が均等となり、電流が均一に流れる。そのため、外側発光領域は、周方向における電流密度分布が生じにくく、発光むらが発生しにくい。
本発明の構成によれば、内側発光領域に位置する積層体は、外側発光領域に位置する積層体と電気的に直列に接続されている。すなわち、内外方向(径方向)において、内側発光領域内の積層体と外側発光領域内の積層体が直列接続されているため、全灯時において、内側発光領域内の積層体と外側発光領域内の積層体間で発光むらが発生しにくい。
以上のように、本発明の有機EL装置によれば、発光面積の大きさが大きくなっても、全灯時に周方向及び径方向において発光むらが発生しにくい
【0012】
請求項2に記載の発明は、前記基材を平面視したときに、全灯時に発光しない非発光領域を有し、当該非発光領域は、内側発光領域と外側発光領域の間に介在していることを特徴とする請求項1に記載の有機EL装置である。
【0013】
本発明の構成によれば、非発光領域は、内側発光領域と外側発光領域の間に介在しているため、例えば、非発光領域に内側発光領域と外側発光領域のそれぞれに対する給電構造を形成することによって、給電構造の設置が発光の妨げにならない。
【0014】
請求項3に記載の発明は、内側発光領域の発光面積Siは、外側発光領域の発光面積Soの0.8倍以上1.2倍以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機EL装置である。
【0015】
本発明の構成によれば、内側発光領域の発光面積Siは、外側発光領域の発光面積Soの0.8倍以上1.2倍以下である。すなわち、内側発光領域の発光面積Siは、外側発光領域の発光面積Soに比べて、大きくかけ離れていない。そのため、全灯時において、径方向において、内側発光領域と外側発光領域のうち、一方にだけ極端に発光面積が大きくなることによる発光むらが生じることはない。
【0016】
ところで、家等の日常空間に使用する照明装置は、天井に設けられた引掛けシーリング等の固定具によって取り付けられ、当該固定具内の給電線から電流が供給される場合が多い。このような固定具は、照明装置の面積に対してかなり小さく、照明装置の一部に取り付けて給電線を接続し、当該取り付け部位から集中的に電流が供給される構造となっている。
しかしながら、有機EL装置は、上記したように面発光であるため、全面を光らすためには、一方の端部から反対側の端部まで電流を流さなければならない。そのため、有機EL装置を従来の構造物に適用させるためには、一部からの給電で全体に電流を供給可能な給電構造を備えている必要がある。
【0017】
そこで、請求項4に記載の発明は、前記基材を平面視したときに、全灯時に発光しない非発光領域を有し、前記非発光領域は、外側発光領域の外側であって、外側発光領域の外周を囲むように位置する外周非発光領域を有し、外部電源と電気的に接続可能な第1導電フィルムを有し、当該第1導電フィルムは、前記外側発光領域と前記外周非発光領域に跨がって配されており、かつ、外周非発光領域内の第1電極層を経由して前記外側発光領域内の積層体と電気的に接続されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の有機EL装置である。
【0018】
本発明の構成によれば、第1導電フィルムは、前記外側発光領域と前記外周非発光領域に跨がって配されている。すなわち、第1導電フィルムは、外周非発光領域から外周発光領域の内側に向かって延びている。
そして、本発明の構成によれば、外周非発光領域側から延びた第1導電フィルムは、外周非発光領域内の第1電極層を経由して前記外側発光領域内の積層体と電気的に接続されている。すなわち、第1導電フィルムによって、外周非発光領域内の第1電極層に外周非発光領域の内側から給電することが可能である。そのため、外部電源からの給電部位を一部にまとめやすい。
【0019】
請求項5に記載の発明は、外側発光領域よりも内側の領域において、前記第1導電フィルムに給電可能な第1端子部と、前記内側発光領域内の積層体に給電可能な第2端子部を備えていることを特徴とする請求項4に記載の有機EL装置である。
【0020】
本発明の構成によれば、内側発光領域に位置する積層体と外側発光領域に位置する積層体と電気的に直列に接続されており、第1端子部から外側発光領域に位置する積層体に、第2端子部から内側発光領域に位置する積層体に給電可能であるため、内側発光領域と外側発光領域のそれぞれを外側発光領域よりも内側(中央側)の領域から給電して発光させることができる。すなわち、有機EL装置の中央側への集中給電が可能であり、既設の構造物に取り付けやすい。
【0021】
ところで、特許文献1に記載された有機EL装置は、単なる全灯・消灯の単純な切換しかできない。そのため、朝の日差しなどの別の光源があり、照明装置として明るすぎる場合においても、明るさの調節ができない。それ故に、使用者からは、朝の日差しなどの別の光源がある場合には、明るさを調節したいという要望があった。
【0022】
そこで、請求項6に記載の発明は、外側発光領域よりも内側の領域に中間端子部を有し、当該中間端子部は、内側発光領域内の積層体と外側発光領域の積層体との電気的な接続部位であって同電位部位と導通可能であることを特徴とする請求項5に記載の有機EL装置である。
【0023】
本発明の構成によれば、外側発光領域よりも内側の領域に位置する中間端子部は、内側発光領域内の積層体と外側発光領域の積層体との電気的な接続部位であって同電位部位と導通可能である。すなわち、中間端子部を介して内側発光領域内の積層体と外側発光領域の積層体のそれぞれに個別に電気を供給することができる。具体的には、第1端子部と中間端子部間で電流を流すことによって、外側発光領域のみを発光させることが可能であり、中間端子部と第2端子部間で電流を流すことによって、内側発光領域のみを発光させることが可能である。このように、本発明の構成によれば、朝の日差しなどの別の光源がある場合などでは、外側発光領域又は内側発光領域の一方を発光させ、他方を消灯状態とすることによって、明るさを調節することができる。
【0024】
ところで、近年の照明機器は、単なる直接照明としての機能だけではなく、空間のデザイン性を高めるといった付加的な機能が求められている。しかしながら、上記したように特許文献1に記載された有機EL装置は、単なる全灯・消灯の単純な切換しかできないため、照明装置としては、特にアクセントのない立体感に欠ける単調なものであり、照明に華やかな演出効果等を引き出させるものではない。
【0025】
そこで、請求項7に記載の発明は、前記第1端子部及び前記第2端子部から選ばれる群からなる1以上の端子と、前記中間端子部との間に可変抵抗を備えることを特徴とする請求項6に記載の有機EL装置である。
【0026】
本発明の構成によれば、前記第1端子部及び前記第2端子部から選ばれる群からなる1以上の端子と、前記中間端子部との間に可変抵抗を備える。すなわち、第1端子部と中間端子部の間に可変抵抗を備える場合には、当該可変抵抗の抵抗値を制御することによって、外側発光領域を調光することが可能である。第2端子部と中間端子部の間に可変抵抗を備える場合には、当該可変抵抗の抵抗値を制御することによって、内側発光領域を調光することが可能である。
このように、第1端子部と中間端子部との抵抗値、又は、第2端子部と中間端子部との抵抗値を制御するようによって、内側発光領域と外側発光領域との相対的に調光することが可能であり、第1端子部と中間端子部との抵抗値、及び、第2端子部と中間端子部との抵抗値を制御することによって、全体として調光を行うことが可能である。それ故に、照明を設置することによるインテリア性が華やかに引き出され、照明を設置した空間の雰囲気を高めることができる。
【0027】
請求項8に記載の発明は、全灯時における内側発光領域の発光色と外側発光領域の発光色が異なることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の有機EL装置である。
【0028】
本発明の構成によれば、全灯時における内側発光領域の発光色と外側発光領域の発光色が異なるため、例えば、内側発光領域と外側発光領域のうち少なくとも一方を調光することによって、調色機能を得ることが可能である。そのため、より設置空間を華やかにすることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の構成によれば、既設空間に容易に適応でき、発光面積の大きさが大きくなっても発光むらを抑制可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の第1実施形態における有機EL装置の斜視図である。
図2図1の有機EL装置のA−A断面図である。
図3図1の有機EL素子の断面斜視図である。
図4図2の有機EL装置を基板側からみた際の各領域の説明図であり、全灯時に発光する部位にドットを示している。
図5図1の有機EL装置から導電性基材を分解した分解斜視図である。
図6図5の導電性基材の別方向から見た斜視図である。
図7図5の導電性基材の分解斜視図である。
図8図1の有機EL装置の各製造工程の説明図であり、(a)〜(h)は各製造工程における平面図である。
図9図1の有機EL装置の各製造工程の説明図であり、(i)〜(m)は各製造工程における平面図である。
図10図1の有機EL装置を外部電源に接続した場合の説明図であり、(a)は電気回路図であり、(b)は(a)を有機EL装置の断面図を用いてさらに説明した図である。
図11図10の電気回路図の説明図であり、(a)は全灯時における電流の流れを表す説明図であり、(b)は(a)を有機EL装置の断面図を用いてさらに説明した図である。
図12図10の電気回路図の説明図であり、(a)は外側発光領域のみを点灯した際の電流の流れを表す説明図であり、(b)は(a)を有機EL装置の断面図を用いてさらに説明した図である。
図13図10の電気回路図の説明図であり、(a)は内側発光領域のみを点灯した際の電流の流れを表す説明図であり、(b)は(a)を有機EL装置の断面図を用いてさらに説明した図である。
図14図10の電気回路図の説明図であり、(a)は外側発光領域の輝度を落とした際の電流の流れを表す説明図であり、(b)は(a)を有機EL装置の断面図を用いてさらに説明した図である。
図15図10の電気回路図の説明図であり、(a)は内側発光領域の輝度を落とした際の電流の流れを表す説明図であり、(b)は(a)を有機EL装置の断面図を用いてさらに説明した図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
なお、以下の説明において、特に断りがない限り、有機EL装置1の上下の位置関係は、図1の姿勢を基準に説明する。また、図面は、理解を容易にするために全体的に実際の大きさ(長さ、幅、厚さ)に比べて極端に描写している。
【0032】
本実施形態の有機EL装置1は、主に居住空間の照明装置として使用される有機EL装置である。
本実施形態の有機EL装置1は、図1図2図3のようにドーナツ状の基板2(基材)上に有機EL素子10(積層体)を積層し、その上から無機封止層7(封止層)を積層して、封止している。さらに無機封止層7の上に、導電性基材11を載置し、軟質接着層8及び硬質接着層9で接着させたものである。有機EL装置1は、図2図3のように取出電極13,14,15によって、導電性基材11と有機EL素子10が電気的に接続されている。
有機EL素子10は、図2のように透光性を有した基板2側から順に第1電極層3と、機能層5と、第2電極層6が積層されたものである。本実施形態の有機EL装置では、基板2側から光を取り出す、いわゆるボトムエミッション方式を採用している。
【0033】
そして、本実施形態の有機EL装置1は、図4のように基板2を平面視したときに、その面内において、全灯時に発光する発光領域20と、全灯時に発光しない非発光領域21とを有している。
【0034】
発光領域20は、図2のように第1電極層3と、機能層5と、第2電極層6の重畳部位に当たる領域である。
発光領域20は、図2図4のように中央側に位置する内側発光領域22と、内側発光領域22よりも外側に位置する外側発光領域23から形成されている。
内側発光領域22と外側発光領域23は、それぞれ有機EL素子10を内蔵している。
内側発光領域22は、図4のように基板2の中央に位置する中央開口12に沿うようにして周方向に連続した円環状の領域である。内側発光領域22は、ドーナツのように、所定の幅で内外方向(径方向)に広がりを持っている。
【0035】
外側発光領域23は、内側発光領域22の周りを囲むように周方向に連続した円環状の領域である。外側発光領域23も、ドーナツのように、所定の幅で内外方向(径方向)に広がりを持っている。
外側発光領域23の中心は、内側発光領域22の中心と同心の関係となっており、基板2の中央開口12の開口中心と同心となっている。
内側発光領域22の発光面積Siは、外側発光領域23の発光面積Soの0.8倍以上1.2倍以下であることが好ましく、0.85倍以上1.15倍以下であることがより好ましい。
【0036】
非発光領域21は、図4のように、内側発光領域22のさらに内側に位置する内側給電領域25と、内側発光領域22と外側発光領域23との間に位置する中間給電領域26と、外側発光領域23のさらに外側に位置する外側給電領域27から形成されている。
内側給電領域25は、発光領域20への給電する際に、陰極機能を担う領域である。
中間給電領域26は、内側発光領域22と外側発光領域23間を電気接続する領域である。中間給電領域26は、内側発光領域22外縁に沿って囲むように周方向に連続した領域であって、外側発光領域23の内縁に沿って連続した領域である。
外側給電領域27は、発光領域20への給電する際に、陽極機能を担う領域である。外側給電領域27は、外側発光領域23の外縁に沿って囲むように周方向に連続した領域であって、基板2の縁の沿って延びた領域である。
【0037】
内側給電領域25の面積は、内側発光領域22の面積Siの1/50以上1/10以下であることが好ましい。すなわち、内側給電領域25の面積は内側発光領域22の面積Si及び外側発光領域23の面積Soに比べてかなり小さいことが好ましい。
中間給電領域26の面積は、内側発光領域22の面積Siの1/50以上1/10以下であることが好ましい。すなわち、中間給電領域26の面積は、内側発光領域22の面積Si及び外側発光領域23の面積Soに比べてかなり小さいことが好ましい。
外側給電領域27の面積は、内側発光領域22の面積Siの面積の1/50以上1/10以下であることが好ましい。すなわち、外側給電領域27の面積は内側発光領域22の面積Si及び外側発光領域23の面積Soに比べてかなり小さいことが好ましい。
このように、内側給電領域25と中間給電領域26と外側給電領域27の面積をそれぞれ内側発光領域22の面積Si及び外側発光領域23の面積Soに比べて小さくすることで、狭額縁化が可能であり、十分な発光面積を確保することができる。
【0038】
以下、有機EL装置1の積層構造について説明し、有機EL装置1の各層構成については後述する。
なお、上記したように、内側発光領域22と外側発光領域23は、ともに有機EL素子10を内蔵しており、内側発光領域22内の有機EL素子10と外側発光領域23内の有機EL素子10を明確に区別するために、以下の説明においては、内側発光領域22内の有機EL素子10を有機EL素子10aと表し、外側発光領域23内の有機EL素子10を有機EL素子10bと表す。
【0039】
有機EL装置1は、上記したように、基板2上に有機EL素子10の大部分が積層されており、有機EL素子10を覆うように無機封止層7(封止層)を積層しており、図2のように深さの異なる複数の溝によって、複数に区切られている。
具体的には、有機EL装置1は、図2のように部分的に第1電極層3を除去した第1電極分離溝30,31と、部分的に機能層5を除去した電極接続溝32,33と、部分的に第2電極層6と機能層5の双方を除去した領域分離溝34,35,36と、部分的に機能層5と第2電極層6と無機封止層7を除去した取出電極接続溝37,38,39と、を有しており、これらの溝によって複数の区画に分離されている。
【0040】
各溝について詳説すると、第1電極分離溝30,31は、図2のように基板2上に積層された第1電極層3を分離する溝である。
第1電極分離溝30は、内側給電領域25と内側発光領域22に分離する溝である。
第1電極分離溝31は、中間給電領域26と外側発光領域23に分離する溝である。
第1電極分離溝30,31は、図8(b)のように基板2の中央に位置する中央開口12を中心として円環状に形成されている。
また、第1電極分離溝30内には、図2のように内側給電領域25と内側発光領域22に跨った機能層5の一部が進入しており、機能層5は第1電極分離溝30の底部で基板2と直接接触している。第1電極分離溝31内には、図2のように中間給電領域26と外側発光領域23に跨った機能層5の一部が進入しており、機能層5は第1電極分離溝31の底部で基板2と直接接触している。
【0041】
電極接続溝32,33は、図2図3のように機能層5のみを複数の領域分離する溝である。また電極接続溝32は、図2のように、内側給電領域25において、内側発光領域22内の有機EL素子10aから延びた第2電極層6と内側給電領域25内の第1電極層3を物理的に接続する溝である。
電極接続溝32は、図8(d)のように第1電極分離溝30の内側であって、基板2の中央を中心として円環状に形成されており、第1電極分離溝30と同心円上に形成されている。
【0042】
電極接続溝33は、図2のように中間給電領域26において、外側発光領域23内の有機EL素子10bから延びた第2電極層6と内側発光領域22内の有機EL素子10aから延びた第1電極層3を物理的に接続する溝である。すなわち、外側発光領域23内の有機EL素子10bと内側発光領域22内の有機EL素子10aを電気的に直列に接続する溝である。
電極接続溝33は、外側発光領域23内の有機EL素子10bから延びた第2電極層6と内側発光領域22内の有機EL素子10aから延びた第1電極層3とを中間給電領域26内で接触させることによって、当該接触部位を同電位にすることが可能となっている。
電極接続溝33は、図8(d)のように第1電極分離溝31の内側であって、基板2の中央を中心として円環状に形成されており、第1電極分離溝31と同心円上に形成されている。
【0043】
領域分離溝34,35,36は、図2図3のように機能層5と第2電極層6の双方を複数の領域に分離する溝である。領域分離溝34は、無機封止層7と第1電極層3との接続部として機能する溝である。
領域分離溝34は、図2図8(f)のように電極接続溝32の内側であって、基板2の中央を中心として円環状に形成されており、電極接続溝32と同心円上に形成されている。領域分離溝34は、基板2の中央開口12の内縁に沿っており、切り欠きであるともいえる。
領域分離溝35は、図2図8(f)のように内側発光領域22と中間給電領域26に分離する溝である。
領域分離溝35は、電極接続溝33の内側であって、基板2の中央を中心として円環状に形成されており、電極接続溝33と同心円上に形成されている。
領域分離溝36は、図2図8(f)のように外側発光領域23と外側給電領域27に分離する溝である。
領域分離溝36は、基板2の外周縁近傍に位置しており、基板2の中央を中心として円環状に形成されている。
【0044】
また、領域分離溝34,35,36内には、図2のように無機封止層7の一部が進入しており、無機封止層7は領域分離溝34,35,36の底部でそれぞれ第1電極層3と直接接触している。すなわち、領域分離溝35は、内側発光領域22内の第2電極層6と、外側発光領域23から中間給電領域26に跨がった第2電極層6を無機封止層7によって電気的に切り離している。領域分離溝36は、外側発光領域23内の第2電極層6と、外側給電領域27内の第2電極層6を無機封止層7によって電気的に切り離している。
【0045】
取出電極接続溝37,38,39は、図2図3のように機能層5と第2電極層6と無機封止層7を複数の領域に分離する溝である。
取出電極接続溝37は、図2図9(i)のように内側給電領域25内であって、第1電極層3と第2電極層6とが同電位となる部位に設けられる溝である。具体的には、取出電極接続溝37は、基板2の中央を中心として円環状に形成されており、電極接続溝32と領域分離溝34の境界部位であって、電極接続溝32と同心円上に形成されている。
取出電極接続溝38は、図2図9(i)のように中間給電領域26内であって、第1電極層3と第2電極層6とが同電位となる部位に設けられる溝である。具体的には、取出電極接続溝38は、基板2の中央を中心として円環状に形成されており、電極接続溝33の内側に一部が重なるように、電極接続溝33と同心円上に形成されている。
取出電極接続溝39は、図2図9(i)のように外側給電領域27内であって、第1電極層3と第2電極層6とが同電位となる部位に設けられる溝である。具体的には、取出電極接続溝39は、基板2の中央を中心として円環状に形成されており、領域分離溝36の外側であって、領域分離溝36と同心円上に形成されている。
【0046】
また、取出電極接続溝37,38,39内には、取出電極13,14,15を装着可能となっており、取出電極13,14,15を装着することによって、それぞれの給電領域25,26,27内の第1電極層3及び/又は第2電極層6に給電可能となっている。
【0047】
各溝の位置関係について説明すると、有機EL装置1は、中央開口12側から外側に向けて、領域分離溝34、取出電極接続溝37、電極接続溝32、第1電極分離溝30、領域分離溝35、取出電極接続溝38、電極接続溝33、第1電極分離溝31、領域分離溝36、取出電極接続溝39の順に同心円状に形成されている。
【0048】
以上のように、有機EL装置1は、いずれの溝も同心円状に形成されている。
【0049】
有機EL素子10よりもさらに上の層に注目すると、有機EL装置1は、上記したように無機封止層7上に導電性基材11が載置されており、軟質接着層8、硬質接着層9で接着されている。
軟質接着層8は、図5のように、板状又はシート状の接着材によって形成されるものであり、導電性基材11と無機封止層7を接着するものである。
軟質接着層8は、図2図5のように内側発光領域22の大部分を覆う内側軟質接着層28と、外側発光領域23の大部分を覆う外側軟質接着層29から形成されている。
内側軟質接着層28は、基板2の中央開口12を中心とした円環状となっている。
外側軟質接着層29は、内側軟質接着層28の外側であって、内側軟質接着層28と同心の円環状となっている。
なお、本実施形態では、図2のように内側軟質接着層28は、内側発光領域22内の有機EL素子10aの部材厚方向の投影面を全面覆っており、外側軟質接着層29は、外側発光領域23内の有機EL素子10bの部材厚方向の投影面を全面を覆っている。
【0050】
硬質接着層9は、流動性を有した接着材が硬化することによって形成されるものであり、図5のように基板2と導電性基材11を接着するものである。
硬質接着層9は、取出電極13の一部を覆う内側硬質接着層16と、取出電極14の一部を覆う中間硬質接着層17と、取出電極15の一部を覆う外側硬質接着層18から形成されている。
【0051】
内側硬質接着層16は、図5のように内側軟質接着層28の内周縁から基板2の中央開口12に亘って設けられており、内側軟質接着層28の内周縁の一部及び取出電極13の一部を被覆している。取出電極13の内側面が中央開口12側に露出している。
中間硬質接着層17は、図5のように内側軟質接着層28と外側軟質接着層29の間に位置する取出電極14の外周面を被覆している。言い換えると、中間硬質接着層17を取出電極14が挿通した状態となっている。
外側硬質接着層18は、図5のように外側軟質接着層29の外周縁から基板2の外周に亘って設けられており、外側軟質接着層29の外周縁の一部及び取出電極15の一部を被覆している。
【0052】
導電性基材11は、図5図7のように基板2側から順に第2導電フィルム44と、第2絶縁フィルム43と、第1導電フィルム42と、第1絶縁フィルム41と、が重ね合わされて形成されている。
【0053】
導電性基材11の一方の面(基板2と逆側)には、図2図5のように第1絶縁フィルム41から第1導電フィルム42が露出した第1露出部45と、第2絶縁フィルム43から第2導電フィルム44が露出した第2露出部46が存在する。
第2露出部46は、基板2の中央開口12の縁に沿うように形成されている。
第1露出部45は、第2露出部46の外側であって、第2露出部46の周りを囲むように形成されている。第1露出部45と第2露出部46は、第2絶縁フィルム43によって所定の間隔が空いており、第1露出部45と第2露出部46は絶縁されている。
第1露出部45及び第2露出部46は、ともに基板の中央を中心とした同心の円環状となっている。
【0054】
導電性基材11の他方の面(基板2側)には、図6のように第2導電フィルム44が露出した第3露出部47と、第2絶縁フィルム43から第1導電フィルム42が露出した第4露出部48が存在する。
第3露出部47は、第2導電フィルム44の下面全体が露出して形成されている。
第4露出部48は、第2絶縁フィルム43の開口49(図7参照)によって第1導電フィルム42の一部が露出して形成されている。
また、図1のように有機EL装置1を組み立てた場合において、第3露出部47は、図2のように取出電極接続溝38の部材厚方向の投影面上に位置し、取出電極14が直接接触している。第4露出部48は、取出電極接続溝39の部材厚方向の投影面上に位置し、取出電極15が直接接触している。
このように、第1導電フィルム42は、取出電極15と電気的に接続可能となっており、第2導電フィルム44は、取出電極14と電気的に接続可能となっている。
【0055】
第2導電フィルム44は、図2図6のように下面(基板2側)の一部が内側軟質接着層28と中間硬質接着層17との間、及び外側軟質接着層29と中間硬質接着層17との間で無機封止層7と接触している。すなわち、第2導電フィルム44の内側軟質接着層28と中間硬質接着層17との間、及び外側軟質接着層29と中間硬質接着層17との間への進入部位によって中間硬質接着層17の外側からの水等の進入経路を遮断している。そのため、封止性能が高い。
なお、図2等では、作図の関係上、極端に描写しているため、第2導電フィルム44の一部が突起となっているように見えるが、実際には図7のように第1導電フィルム42や第2導電フィルム44は、平滑なフィルムである。
【0056】
続いて、有機EL装置1の各層構成について説明する。
【0057】
基板2は、透光性及び絶縁性を有したものである。基板2の材質については特に限定されるものではなく、例えば、フレキシブルなフィルム基板やプラスチック基板などから適宜選択され用いられる。特にガラス基板や透明なフィルム基板は透明性や加工性の良さの点から好適である。
基板2は、円形又は楕円形状をしており、円形であることが好ましい。本実施形態では、円形状のガラス基板を採用している。
そして、基板2は中心に部材厚方向に貫通した貫通孔が設けられており、中央開口12が形成されている。この中央開口12の開口形状は基板と相似形状又は円形である。
【0058】
第1電極層3の素材は、透明であって、導電性を有していれば、特に限定されるものではなく、例えば、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、酸化錫(SnO2)、酸化亜鉛(ZnO)等の透明導電性酸化物などが採用される。本実施形態では、ITOを採用している。
【0059】
機能層5は、第1電極層3と第2電極層6との間に設けられ、少なくとも一つの発光層を有している層である。機能層5は、主に有機化合物からなる複数の層から構成されている。この機能層5は、一般的な有機EL装置に用いられている低分子系色素材料や、共役系高分子材料などの公知のもので形成することができる。また、この機能層5は、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層などの複数の層からなる積層多層構造であってもよい。
【0060】
第2電極層6の材料は、特に限定されるものではなく、例えば銀(Ag)やアルミニウム(Al)などの金属が挙げられる。本実施形態の第2電極層6は、Alで形成されている。また、これらの材料はスパッタ法又は真空蒸着法によって堆積されることが好ましい。
また、第2電極層6の電気伝導率及び熱伝導率は、第1電極層3よりも大きい。言い換えると、第2電極層6は、第1電極層3よりも電気伝導性及び熱伝導性が高い。
【0061】
無機封止層7の材質は、絶縁性及び封止性を有していれば、特に限定されるものではないが、酸素、炭素、窒素の中から選ばれた1種類以上の元素と、ケイ素元素とからなるシリコン合金により形成されていることが好ましく、Si−O、Si−N、Si−H、N−H等の結合を含む窒化珪素や酸化珪素、及び両者の中間固溶体である酸窒化珪素であることが特に好ましい。
また、無機封止層7は、所定の条件で有機EL素子10と離反する方向に圧縮応力が発生する層であることが好ましい。
ここでいう「所定の条件」とは、有機EL素子10の熱膨張などに起因して発生する押圧力を受けた場合などである。
【0062】
そして、本実施形態では、多層構造の無機封止層を使用している。
具体的には、無機封止層7は、図2のように有機EL素子10側から乾式法によって形成される第1無機封止層50と、湿式法によって形成される第2無機封止層51がこの順に積層されて形成されている。
【0063】
第1無機封止層50は、化学気相蒸着によって形成される層であり、さらに詳細にはシランガスやアンモニアガス等を原料としてプラズマCVD法で成膜される層である。第1無機封止層50は、後述するように有機EL装置1の製造工程において、水分含量が少ない雰囲気下で、有機EL素子10の形成工程に連続して成膜できるため、空気や水蒸気に晒さずに成膜でき、使用直後の初期ダークスポットの発生を低減することができる。
【0064】
第2無機封止層51は、液体状又はゲル状の原料を塗布した後、化学反応を介して成膜される層である。第2無機封止層51は、より詳細には、緻密性を有したシリカを素材としている。また、第2無機封止層51はポリシラザン誘導体を原料とするのが好ましい。ポリシラザン誘導体を用いてシリカ転化によって第2無機封止層51を成膜した場合、シリカ転化時に重量増加を生じ、体積収縮が小さい。また、シリカ膜転化時(固化時)に樹脂の耐え得る温度で十分にしかもクラックを生じ難くすることができる。
なお、ここでいうポリシラザン誘導体は、珪素−窒素結合を持つポリマーであり、Si−N、Si−H、N−H等からなるSiO2、Si34、及び両者の中間固溶体SiOxNy等のセラミック前駆体ポリマーである。また、このポリシラザン誘導体は、Siと結合する水素部分が一部アルキル基等で置換された誘導体も含む。
ポリシラザン誘導体の中でも特に側鎖が全て水素であるペルヒドロポリシラザンや、珪素と結合する水素部分が一部メチル基に置換された誘導体が好ましい。
【0065】
また、このポリシラザン誘導体は、有機溶媒に溶解した溶液状態で塗布し使用することが好ましい。この溶解する有機溶媒としては、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素等の炭化水素溶媒、ハロゲン化炭化水素溶媒、脂肪族エーテル、脂環式エーテル等のエーテル類が使用できる。
【0066】
第2無機封止層51は、第1無機封止層50とは異なる材料を封止層として積層したものであり、相互の欠陥を補完することにより、封止性能を高め、経時的な新たなダークスポットの発生を防止したり、発生したダークスポットの拡大化を抑制したりすることができる。
【0067】
無機封止層7の平均厚みは、1μmから10μmであることが好ましく、2μmから5μmであることがより好ましい。
無機封止層7の一部を担う第1無機封止層50の厚みは、1μmから5μmであることが好ましく、1μmから2μmであることがより好ましい。
また、無機封止層7の一部を担う第2無機封止層51の厚みは、好ましくは1μmから5μmであることが好ましく、1μmから3μmであることがより好ましい。
【0068】
軟質接着層8に目を移すと、軟質接着層8は、柔軟性を有し、所定の条件によって塑性変形又は弾性変形する層である。本実施形態では、軟質接着層8は、無機封止層7の圧縮応力などを受けた場合に、その応力にほとんど逆らわずに、塑性変形可能となっている。
JIS K 6253に準じた軟質接着層8のショア硬さは、ショア硬さがA30以上A70以下であり、A40以上A65以下であることが好ましく、A45以上A63以下であることがより好ましい。
軟質接着層8のショア硬さがA70より大きい場合、軟質接着層8の剛性が大きすぎて、膨らみや衝撃が十分吸収できない。また、導電性基材11として例えばフィルム等の剛性が低いものを採用する際に、軟質接着層8のショア硬さがA30より小さい場合には、導電性基材11の形状を維持できない。
軟質接着層8の曲げ弾性率は、3MPa以上、30MPa以下であることが好ましく、3MPa以上、25Pa以下であることがより好ましく、3.9MPa以上23MPa以下であることが特に好ましい。
【0069】
軟質接着層8の具体的な材質としては、アクリルゴム(ACM)、エチレンプロピレンゴム(EPM,EPDM)、シリコーンゴム(Q)、ブチルゴム(IIR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、フッ素ゴム(FKM)、ニトリルゴム(NBR)、イソプレンゴム(IR)、ウレタンゴム(U)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、エピクロルヒドリンゴム(CO,ECO)、クロロプレンゴム(CR)等のゴム材料が使用できるが、一定の水蒸気バリア性を有し、安価に入手可能である点から、アクリルゴム系樹脂、エチレンプロピレンゴム系樹脂、シリコーンゴム系樹脂、及びブチルゴム系樹脂から選ばれる1種以上であることが好ましく、その中でもフィルムとして入手が容易な、ブチルゴム系樹脂がより好ましい。
なお、本実施形態の内側軟質接着層28、外側軟質接着層29では、いずれもブチルゴム系樹脂の粘着材を採用している。
また、軟質接着層8は、接着性を有しており、複数部材を互いに接着可能となっている。本実施形態の軟質接着層8は、上記したようにシート状又は板状の部材であり、表面に粘着性加工を施されている。
【0070】
硬質接着層9は、いずれも軟質接着層8よりも剛性が高く硬い材料となっている。
具体的には、硬質接着層9は、いずれも、JIS K 6253に準じたショア硬さ(及び対応する曲げ弾性率の概算値)は、ショアA80以上、即ち、ショアD30以上(25MPa以上)であることが好ましく、より高信頼性の有機EL装置とする観点からショアD55以上(250MPa以上)、ショアD95以下(6000MPa以下)とすることがより好ましく、ショアD80以上(1500MPa以上)、ショアD90以下(4000MPa以下)とすることがさらに好ましい。
【0071】
また、硬質接着層9は、いずれも防水性及び接着性(粘着性)を有しており、複数部材を互いに接着可能となっている。具体的には、本実施形態の硬質接着層9は、いずれも溶液又はゲル状の流動体を固化して形成されるものである。
硬質接着層9の具体的な材質としては、例えば、エポキシ樹脂などが採用できる。
なお、本実施形態の内側硬質接着層16、中間硬質接着層17、外側硬質接着層18では、いずれもエポキシ樹脂(エポキシ接着材)を採用している。
【0072】
導電性基材11は、防湿性及び導電性を有した板状又はシート状の部材であり、電流の導電経路を備えた基材である。すなわち、導電性基材11は、有機EL素子10への給電部材として機能する部材である。
導電性基材11は、上記したように箔状の第1絶縁フィルム41と、箔状の第1導電フィルム42と、箔状の第2絶縁フィルム43と、箔状の第2導電フィルム44が積層したものである。
【0073】
第1導電フィルム42及び第2導電フィルム44の材質は、均熱性又は放熱性と、水蒸気バリア性を有していれば特に限定されるものではなく、例えば、銅やアルミニウム、ステンレスなどが採用でき、その中でもアルミニウムで形成されていることが好ましい。また、アルミニウムは、耐腐食性があり、伝熱性が高いので伝熱機能が高く、かつ、水分の透過性が低いので封止機能も高い。そのため、本実施形態では第1導電フィルム42及び第2導電フィルム44としてアルミニウム箔を採用している。
【0074】
第1絶縁フィルム41及び第2絶縁フィルム43の材質は、絶縁性を有していれば特に限定されるものではないが、封止性が高い観点からポリエチレンテレフタレート(PET)とポリ塩化ビニリデン(PVDC)とポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のうち、いずれかであることが好ましい。
【0075】
本実施形態では、導電性基材11は、図2のように少なくとも内側発光領域22、中間給電領域26、並びに、外側発光領域23に跨がって覆っており、さらに、内側給電領域25及び外側給電領域27の一部又は全部を覆っている。本実施形態では、導電性基材11は、図2のように基板2全面に敷設されている。
そのため、導電性基材11は、第1導電フィルム42及び第2導電フィルム44の均熱機能によって、内側発光領域22及び外側発光領域23全体の熱を均等にすることができ、内側発光領域22及び外側発光領域23内の発光むらの発生を防止することができる。
また、導電性基材11は、内側給電領域25及び外側給電領域27まで延在しているため、外部と、内側発光領域22及び外側発光領域23内の有機EL素子10との距離を遠くすることができ、内側発光領域22及び外側発光領域23内の有機EL素子10への水等の進入を効果的に防止することができる。
【0076】
取出電極13,14,15に目を移すと、取出電極13,14,15は、導電性を有した板状又は箔状の部材であり、有機EL素子10と導電性基材11とを電気的に接続する部材である。取出電極13,14,15は、基板2を平面視すると、図5のようにいずれも円環状となっており、同心となっている。
【0077】
取出電極13,14,15の材質は、導電性を有していれば特に限定されるものではなく、例えば、銅やアルミニウム、ステンレスなどが採用でき、その中でも銅で形成されていることが好ましい。
【0078】
次に、本実施形態に係る有機EL装置1の製造方法について説明する。
有機EL装置1は、図示しない真空蒸着装置及びCVD装置によって成膜し、図示しないパターニング装置、本実施形態では、レーザースクライブ装置を使用してパターニングを行い、製造される。
【0079】
まず、有機EL素子10を積層する有機EL素子形成工程を行う。
具体的には、まず、スパッタ法やCVD法によって基板2の大部分に第1電極層3を成膜する(図8(a))。
【0080】
その後、第1電極層3が成膜された基板に対して、レーザースクライブ装置によって第1電極分離溝30,31を形成する(図8(a)から図8(b))。
このとき、第1電極分離溝30,31は、第1電極層3の外周縁と平行に形成されており、基板2の中心と同心円弧上に形成されている。また、第1電極分離溝30,31の底部から基板2が露出している。
【0081】
次に、真空蒸着装置によって、この基板に正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層などを順次積層し、機能層5を成膜する(図8(c))。
このとき、第1電極分離溝30,31内に機能層5が積層されて満たされる。
【0082】
その後、機能層5が成膜された基板に対して、レーザースクライブ装置によって電極接続溝32,33を形成する(図8(c)から図8(d))。
このとき、電極接続溝32,33は、基板2の中心と同心円上に形成されている。電極接続溝32は、有機EL装置1が形成された際に中間給電領域26に形成されており、電極接続溝33は、有機EL装置1が形成された際に内側給電領域25に形成されている。電極接続溝32,33は、周方向に基板2の外周縁と平行に延びている。また、電極接続溝32,33の底部から第1電極層3が露出している。
【0083】
その後、機能層5が成膜された基板に対して、真空蒸着装置によってほぼ全面に第2電極層6を成膜する(図8(e))。
このとき、内側給電領域25内の第1電極層3及び中間給電領域26内の第1電極層3上に第2電極層6が接触した状態で固着し、内側給電領域25内の第1電極層3と第2電極層6、中間給電領域26内の第1電極層3と第2電極層6がそれぞれ物理的に接続される。また、電極接続溝32,33内に第2電極層6が積層されて満たされる。
【0084】
その後、第2電極層6が成膜された基板に対して、レーザースクライブ装置によって、領域分離溝34,35,36を形成する(図8(e)から図8(f))。
このとき、領域分離溝34,35,36は、いずれも同心円上に形成されている。領域分離溝34,35,36の底部から第1電極層3が露出している。
以上が、有機EL素子形成工程である。
【0085】
続いて、無機封止層7を形成する無機封止層積層工程を行う。
まず、基板の一部をマスクで覆い、CVD装置によって、第1無機封止層50を成膜する(図8(g))。
このとき、第1無機封止層50は、少なくとも内側発光領域22及び外側発光領域23内の第2電極層6を覆っており、さらに、領域分離溝34,36の部材厚方向の投影面上まで延びている。すなわち、領域分離溝34,35,36内に、第1無機封止層50が積層されて満たされる。そのため、封止機能を十分に確保することができる。
【0086】
その後、第1無機封止層50を成膜したCVD装置から取り出して、第2無機封止層51の原料を塗布し、第2無機封止層51を形成し、無機封止層7が形成される(図8(h))。
このとき、第1無機封止層50上の全面を第2無機封止層51が覆っている。
このようにして、第1無機封止層50上に第2無機封止層51が積層されて無機封止層7が形成される。
【0087】
続いて、上記した手順によって形成された基板に取出電極13,14,15を装着する取出電極装着工程を行う。
【0088】
まず、無機封止層7が成膜された基板に対して、レーザースクライブ装置によって、取出電極接続溝37,38,39を形成する(図9(i))。
このとき、取出電極接続溝37は、内側給電領域25に位置しており、電極接続溝32と離れて形成されている。取出電極接続溝38は、中間給電領域26に位置しており、電極接続溝33と一部が重なるように形成されている。すなわち、取出電極接続溝37,38の内壁には、第2電極層6が露出する部位がある。また、取出電極接続溝37,38,39の底部には、第1電極層3が露出している。
取出電極接続溝39は、外側給電領域27に位置しており、領域分離溝36と離れて形成されている。
【0089】
その後、取出電極接続溝37,38,39内に円環状の取出電極13,14,15をそれぞれ装着する(図9(j))。
このとき、取出電極13,14,15の一部が取出電極接続溝37,38,39内から張り出した状態となっている。
【0090】
その後、基板の中央開口12側に位置する取出電極13を内側(中央開口12側)に折り曲げて中央開口12の投影面上に取出電極13の一部を露出させる。
このとき、内側給電領域25内の無機封止層7の一部の上面は取出電極13によって被覆されている。
【0091】
続いて、上記した手順によって形成された取出電極13,14,15に導電性基材11を接続する導電性基材接続工程を行う。
導電性基材接続工程では、軟質接着層8及び硬質接着層9によって無機封止層7に導電性基材11を接着するとともに導電性基材11と取出電極13,14,15を接続する。
具体的には、無機封止層7上に内側軟質接着層28及び外側軟質接着層29を真空ラミネーターで貼り合わせて、内側硬質接着層16、中間硬質接着層17、及び外側硬質接着層18の原料をディスペンサーによって塗布する(図9(k)から図9(l))。
そして、別工程によって、ラミレート加工により第1導電フィルム42、第1絶縁フィルム41、第2導電フィルム44、第2絶縁フィルム43が一体化された導電性基材11を載置し、取り付ける(図9(m))。
このとき、第1導電フィルム42は、第4露出部48によって取出電極15と直接接触することによって電気的に接続されており、第2導電フィルム44は、第3露出部47によって取出電極14と直接接触することによって電気的に接続されている。
取出電極13は、折り曲げ部分が基板の中央開口12側に露出しており、取出電極接続溝37の部材厚方向の投影面上には、第2露出部46が露出している。また、内側発光領域22の部材厚方向の投影面上には、第1露出部45が露出している。
【0092】
このようにして導電性基材接続工程を終了し、後述する電気回路を接続して有機EL装置1が完成する。
【0093】
最後に、本実施形態の有機EL装置1を図10のように外部電源に接続した場合における電流の流れについて説明する。
まず、本実施形態の有機EL装置1に内蔵される電気回路の接続関係について説明すると、図10のように第1露出部45に外部電源の陽極と接続される第1配線55が接続されており、取出電極13の露出部位に外部電源の陰極と接続される第2配線56が接続されている。すなわち、外部電源、第1配線55、外側発光領域23内の有機EL素子10b、内側発光領域22内の有機EL素子10a、第2配線56の閉回路が形成されている。
また、第2露出部46に第3配線57が接続されている。第3配線57は、第2露出部46との接続部位と反対側の端部で、第1配線55と接続される第1分岐配線59と、第2配線56と接続される第2分岐配線60とに分岐されている。
第1分岐配線59の電気の流れ方向の中流には第1可変抵抗53が設けられており、第2分岐配線60の電気の流れ方向の中流には第2可変抵抗54が設けられている。
すなわち、第1可変抵抗53は、外側発光領域23内の有機EL素子10bと電気的に並列の関係となっており、第2可変抵抗54は、内側発光領域22内の有機EL素子10aと電気的に並列の関係となっている。
第1可変抵抗53は、抵抗値を変更可能な抵抗であり、公知の可変抵抗である。
第2可変抵抗54は、抵抗値を変更可能な抵抗であり、公知の可変抵抗である。
【0094】
続いて、全灯時における電気の流れについて説明する。
すなわち、第1可変抵抗53及び第2可変抵抗54の抵抗値を最大にしたときの電流の流れについて説明すると、外部電源から供給された電流は、図11のように第1配線55から第1露出部45に至り、第1露出部45から第1導電フィルム42を通過して外側給電領域27の取出電極15に至る。外側給電領域27の取出電極15に至った電流は、第1電極層3を介して外側発光領域23内に至り、外側発光領域23内で第1電極層3から機能層5を経由して第2電極層6に伝わる。このとき、有機EL素子10bの機能層5が発光し、外側発光領域23全体が発光する。
外側発光領域23の第2電極層6に至った電流は、中間給電領域26内で、第2電極層6から電極接続溝33内(又は取出電極14)を通過して第1電極層3に伝わる。中間給電領域26から第1電極層3を介して内側発光領域22内に至り、内側発光領域22内で第1電極層3から機能層5を経由して第2電極層6に伝わる。このとき、有機EL素子10a内の機能層5が発光し、内側発光領域22全体が発光する。
内側発光領域22の第2電極層6に至った電流は、第2電極層6を介して内側給電領域25内に伝わり、内側給電領域25内の第2電極層6から取出電極13を介して第2配線56に伝わって外部電源に戻る。
このように全灯時においては、内側発光領域22と外側発光領域23の双方が発光する。
【0095】
続いて、外側発光領域23のみを発光させたい場合には、第2可変抵抗54の抵抗値を0にする。
このときの電流の流れについて説明すると、外部電源から供給された電流は、図12のように第1配線55から第1露出部45に至り、第1露出部45から第1導電フィルム42を通過して外側給電領域27の取出電極15に至る。外側給電領域27の取出電極15に至った電流は、第1電極層3を介して外側発光領域23内に至り、外側発光領域23内で第1電極層3から機能層5を経由して第2電極層6に伝わる。このとき、有機EL素子10b内の機能層5が発光し、外側発光領域23全体が発光する。
外側発光領域23の第2電極層6に至った電流は、第2電極層6を介して中間給電領域26に至り、中間給電領域26内で取出電極14を介して第3配線57に伝わる。そして、第3配線57に至った電流は、第2分岐配線60に至り。第2分岐配線60で第2可変抵抗54を通過して第2配線56に伝わり、外部電源に戻る。
【0096】
一方、内側発光領域22のみを発光させたい場合には、第1可変抵抗53の抵抗値を0にする。
このときの電流の流れについて説明すると、外部電源から供給された電流は、図13のように第1配線55から第1分岐配線59の第1可変抵抗53を通過して、第3配線57に伝わり、第2露出部46に伝わる。第2露出部46に伝わった電流は、取出電極14を介して中間給電領域26内の第2電極層6及び第1電極層3に伝わり、内側発光領域22内の第1電極層3に至る。内側発光領域22内で第1電極層3から機能層5を経由して第2電極層6に伝わる。このとき、有機EL素子10b内の機能層5が発光し、内側発光領域22全体が発光する。
そして、内側発光領域22内の第2電極層6に伝わった電流は、第2電極層6を介して内側給電領域25に伝わり、取出電極13を経由して、第2配線56に伝わる、そして、第2配線56を介して外部電源に戻る。
このように、本実施形態の有機EL装置1によると、内側発光領域22と外側発光領域23を個別に発光させることができる。
【0097】
また、本実施形態の有機EL装置1には調光機能も備えている。
具体的には、調光する際には、第1可変抵抗53及び第2可変抵抗54の抵抗値を変更する。例えば、外側発光領域23の輝度を下げたい場合には、図14のように、第1可変抵抗53の抵抗値を小さくすると、第1配線55を流れる電流の一部が、第1配線55から第1分岐配線59に流れて、第1可変抵抗53を通過して、第3配線57に伝わり、中間給電領域26内の取出電極14を介して中間給電領域26内の第2電極層6に伝わる。このとき、中間給電領域26内の第2電極層6で、第1可変抵抗53を通過した電流と外側発光領域23を通過した電流が合流する。
このように有機EL装置1に供給される電流が、外側発光領域23内の有機EL素子10b側と第1可変抵抗53側に分流されるため、外側発光領域23内の有機EL素子10bの電流通過量が減少し、外側発光領域23の輝度が低下する。
【0098】
また例えば、内側発光領域22の輝度を下げたい場合には、図15のように、第2可変抵抗54の抵抗値を小さくすると、外側発光領域23を通過した電流の一部が、取出電極14を介して第3配線57に伝わり、第2分岐配線60に流れる。第2分岐配線60に至った電流は、第2可変抵抗54を通過して、第2配線56に伝わる。このとき、第2配線56で、第2可変抵抗54を通過した電流と内側発光領域22を通過した電流が合流する。
このように外側発光領域23を通過した電流が、内側発光領域22内の有機EL素子10a側と第2可変抵抗54側に分流されるため、内側発光領域22内の有機EL素子10aの電流通過量が減少し、内側発光領域22の輝度が低下する。
【0099】
このように、本実施形態の有機EL装置1は、可変抵抗53,54を調整することで、それぞれの発光領域22,23において調光機能を有している。そのため、照明を設置することによるインテリア性が華やかに引き出され、照明を設置した空間の雰囲気を高めることができる。
【0100】
本実施形態の有機EL装置1は、上記したように内側発光領域22と外側発光領域23が円環状であるため、内側発光領域22と外側発光領域23のそれぞれは、点灯時において周方向に均等に電流が流れ込んで発光し、発光領域20内での発光むらが抑制できる。さらに本実施形態の有機EL装置1は、これらの発光領域22,23を電気的に直列接続することによって、電流密度分布がなるため、発光むらがなく、均一に発光することが可能である。
【0101】
本実施形態の有機EL装置1は、導電性基材11を構成する均熱性又は放熱性を有した第1導電フィルム42及び第2導電フィルム44によって、各発光領域22,23内で発生した熱を全体に均熱又は放熱することができるため、発光むらが生じにくい。
【0102】
上記した実施形態では、内側発光領域22の機能層5と外側発光領域23の機能層5に同一種類の機能層を用いたが、本発明はこれに限定されるものではなく、内側発光領域の機能層と外側発光領域の機能層に異なる種類の機能層を用いてもよい。例えば、異なる発光色を発する機能層を組み合わせてもよい。
具体的には、内側発光領域の機能層に寒色系の発光色を発する発光層を用い、外側発光領域の機能層に暖色系の発光色を発する発光層を用いることによって、内側発光領域の光と外側発光領域の光が混ざりあって、白色の発光色を得ることができる。さらに詳細には、内側発光領域の機能層に青色系の発光色を発する発光層を用い、外側発光領域の機能層に橙色系の発光色を発する発光層を用いることによって、内側発光領域の光と外側発光領域の光が混ざりあって、白色の発光色を得ることができる。
またこの有機EL装置を用いて、調光することによって、調色機能を付加することもできる。
なお、ここでいう「寒色系の発光層」とは、570nm未満の波長にのみ発光ピークを有する発光層であり、「暖色系の発光層」とは、570nm以上の波長にのみ発光ピークを有する発光層である。
なお、「青色系の発光層」とは、寒色系の中でも400nm以上500nm未満の波長にのみ発光ピークを有する青色系発光色となるように設計した発光層である。「橙色系の発光層」とは、暖色系の中でも570nm以上620nm未満の波長にのみ発光ピークを有する橙色系発光色となるように設計した発光層である。
【0103】
上記した実施形態では、基板2として円形状のガラス基板を用いた場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく楕円形状であってもよい。
【0104】
上記した実施形態では、発光の制御に可変抵抗を使用したが、本発明はこれに限定されるものではなく、スイッチでもよい。また、PWM制御によって調節してもよい。
【符号の説明】
【0105】
1 有機EL装置
2 基板(基材)
3 第1電極層
5 機能層(有機発光層)
6 第2電極層
7 無機封止層(封止層)
10,10a,10b 有機EL素子(積層体)
13 取出電極(第2端子部)
20 発光領域
21 非発光領域
22 内側発光領域
23 外側発光領域
27 外側給電領域(外周非発光領域)
42 第1導電フィルム
45 第1露出部(第1端子部)
46 第2露出部(中間端子部)
53 第1可変抵抗(可変抵抗)
54 第2可変抵抗(可変抵抗)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15