特許第6073146号(P6073146)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6073146
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】アンカー
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/80 20060101AFI20170123BHJP
   E02D 5/54 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
   E02D5/80 102
   E02D5/54
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-20126(P2013-20126)
(22)【出願日】2013年2月5日
(65)【公開番号】特開2014-152444(P2014-152444A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2016年1月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】304023352
【氏名又は名称】株式会社日本コムダック
(73)【特許権者】
【識別番号】000110664
【氏名又は名称】ナンカイ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148138
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡
(72)【発明者】
【氏名】毛利 隆一
(72)【発明者】
【氏名】望月 秀之
(72)【発明者】
【氏名】杉本 隆行
【審査官】 西田 光宏
(56)【参考文献】
【文献】 実公昭37−018736(JP,Y1)
【文献】 米国特許第05975808(US,A)
【文献】 特開2005−009295(JP,A)
【文献】 実公昭35−019247(JP,Y1)
【文献】 特開平04−166511(JP,A)
【文献】 実公昭32−008178(JP,Y1)
【文献】 特開2005−226288(JP,A)
【文献】 実開昭63−126444(JP,U)
【文献】 特開昭61−261518(JP,A)
【文献】 実開昭59−089134(JP,U)
【文献】 特開平02−279819(JP,A)
【文献】 特開昭54−021009(JP,A)
【文献】 特開昭55−081935(JP,A)
【文献】 特公昭48−019162(JP,B1)
【文献】 米国特許第04592178(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/80
E02D 5/54
E02D 17/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
杭本体(1)の下端に連結されるアンカーであって、
円管状のケース(2)と、ケース(2)に収容される収容位置と、ケース(2)から進出する拡開位置との間で姿勢変位可能に構成される一対の拡翼(3・3)と、両拡翼(3)を拡開位置と収容位置との間で変位操作するための拡開構造(4)とを備えており、
ケース(2)の対向周面には、両拡翼(3・3)を進退案内するための一対の開口(7・7)が形成されており、
拡翼(3)は、断面V字状に形成される翼本体(11)と、翼本体(11)の基端に設けられる連結腕(12)とを備えており、連結腕(12)が拡開構造(4)に連結されており、
拡翼(3)の全体は、拡翼(3)の谷線が断面V字の開口の側へ向かって外突状に湾曲する状態でアーチ状に折曲げられており、
各拡翼(3)の谷線同士が対向する状態で、一対の拡翼(3・3)がケース(2)に収容してあることを特徴とする基礎杭のアンカー。
【請求項2】
開口(7)は下向きの矢羽状に形成されており、
開口(7)の上縁と下縁に、V字状の突起からなる上ガイド部(8)と、V字状の切欠きからなる下ガイド部(9)とが形成されており、
拡翼(3)を拡開構造(4)で拡開操作するとき、拡翼(3)の谷面(3a)が上ガイド部(8)で拡開案内され、
拡翼(3)を拡開構造(4)で収容操作するとき、拡翼(3)の山面(3b)が下ガイド部(9)で収容案内されるようになっている請求項1に記載のアンカー。
【請求項3】
拡開構造(4)は、ケース(2)の軸心位置に配置されるねじ軸(16)と、ねじ軸(16)と噛合ってねじ軸(16)の軸心方向に沿って変位操作されるナット体(17)とを備えており
ねじ軸(16)は、ケース(2)に設けた上下の軸受体(20・21)で軸回りに回転自在に支持されており、
一対の拡翼(3・3)の連結腕(12)は、ナット体(17)に設けたピン(28)に回転自在に連結されており、
ねじ軸(16)を回転操作してナット体(17)を上下に変位操作することにより、拡翼(3)が拡開位置と収容位置とに往復変位できる請求項1または2に記載のアンカー。
【請求項4】
ナット体(17)が、下軸受体(21)とナット体(17)との間に配置した付勢部材(33)で押上げ付勢されている請求項3に記載のアンカー。
【請求項5】
上ガイド部(8)が内方に向かって折り曲げられており、
一対の拡翼(3・3)は、翼本体(11)の先端がそれぞれ上ガイド部(8)に当接する状態で収容位置に収容されており、
付勢部材が、圧縮コイル型のばね(33)で構成されており、
一対の拡翼(3・3)の下側に、ばね(33)の上端を受止めるばね受板(34)が配置されており、
収容位置における一対の拡翼(3・3)の連結腕(12)が、ばね受板(34)で受止められており、
ナット体(17)が、ばね(33)でばね受板(34)と一対の連結腕(12・12)を介して押上げ付勢されている請求項4に記載のアンカー。
【請求項6】
一対の開口(7・7)が、ケース(2)の周面に設けた封口体(37)で塞がれており、拡翼(3)が封口体(37)を貫通しながら拡開位置に変位操作されるように構成されている請求項1から5のいずれかに記載のアンカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中に打ち込まれる杭の下端に固定されるアンカーに関する。本発明に係るアンカーは、進退可能に構成された拡翼を備える。
【背景技術】
【0002】
この種のアンカーを備える杭の従来例としては、例えば特許文献1を挙げることができる。特許文献1の杭は、拡開翼ガイドを介して連結された上下一対のケースを備え、下方側のケースに翼ヘッドと3個の拡開翼(拡翼)とが収容されている。拡開翼は平板状に形成されており、翼ヘッドに対して拡開可能に取付けられている。翼ヘッドには操作部材が設けられており、上方側のケースに設けたスクリュージャッキなどの押引手段で操作部材を介して翼ヘッドを引上げ操作することで、拡開翼をケースの外側(地中)へ進出させることができる。また、逆の手順で拡開している状態から翼ヘッドを押下げ操作することで、拡開翼をケース内に収容することができる。
【0003】
特許文献2にも同様の杭が開示されている。特許文献2の杭は、角管状の杭本体の内部に一対の張り出し部材(拡翼)と、張り出し部材を押出し操作するための押圧棒とを備える。張り出し部材は、部分円弧状の羽根部と、円弧内面側に固定される補強リブとで断面T字状に形成されており、張り出し部材と押圧棒とは、蝶番およびリンク部材で連結されている。杭本体の側壁にはT字状の開口部が形成されており、その内側に案内補強部材が設けられている。案内補強部材には、先の張り出し部材を開口部へ向かって案内する案内面が形成されている。押圧棒を押込み操作すると、張り出し部材が案内補強部材の案内面にガイドされながら杭本体の外(地中)へ進出し(拡開し)、また、拡開している状態から押圧棒を引上げ操作すると、張り出し部材を杭本体内に収容することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−23620号公報(段落番号0012〜0016、図1図6
【特許文献2】特開2005−9295号公報(段落番号0047〜0051、0112〜0117、図26図27
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1および2の拡翼を備える杭では、地中に埋め込んだ状態で拡翼を拡開することで、打ち込み方向に直交する面の投影面積を大きくすることができ、杭の鉛直支持力および引抜抵抗力の向上を図ることができる。また、拡翼を収納することで、引抜抵抗力を廃して、簡単に地中から引き抜いて杭を除去することが可能となり、杭の撤去に要する手間を軽減できる利点もある。
【0006】
しかし、特許文献1の杭では、拡翼が平板状であるため強度が不足しやすく、地中の石などに接触したときに拡翼が変形するおそれがある。このように拡翼が変形すると、意図した通りの投影面積を地中に確保することができず、設計通りの鉛直支持力および引抜抵抗力を得ることができない。加えて、変形した拡翼がアンカー内に収容できないと、杭を除去する際に引抜抵抗力を廃することができず、杭を引き抜くことが困難となる不利もある。
【0007】
一方、特許文献2の杭では、拡翼は、円弧状の羽根部に補強リブを固定して断面T字状とされている。このため、拡翼の強度は高く、羽根部が変形するおそれは少ない。しかし、断面T字状の拡翼を杭の内部に収容するためには、大きな収容スペースが不可欠となり、特に杭が円管である場合には、その内部に大きな拡翼を収容することが困難となる。具体的には、角管で形成した杭本体と、同杭と同じ断面積の円管で形成した杭本体とでは、拡翼を収納する上下方向のスペースが同じ場合、後者の方が拡翼の長さが短くなることが避けられない。これは、円管基礎杭の場合には、円弧状に形成された羽根部の両端の角部が、円管状の杭本体の内壁と干渉することに拠る。かかる不都合は、羽根部の長さ方向の寸法を短くし、または羽根部の幅方向の寸法を小さくすることで解消できる。しかしこの場合には、拡翼を拡開したときの投影面積が小さくなることが避けられず、鉛直支持力および引抜抵抗力の低下を招く。
【0008】
本発明は、杭の下端に連結され、拡開可能に構成された拡翼を備えるアンカーであって、拡翼の構造強度の向上と、拡翼の幅方向の寸法および長さ寸法の拡大という、相反する課題を同時に解決することを目的とする。
本発明の目的は、円管状のケース内に収容されるものでありながら、幅方向の寸法および長さ寸法が大きな拡翼を備えており、従って、高度な鉛直支持力と引抜抵抗力を具備するとともに、必要に応じて拡翼をケース内に収容でき、容易に地中から引き抜くことができるアンカーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は杭本体1の下端に連結されるアンカーを対象とする。アンカーは、円管状のケース2と、ケース2に収容される収容位置と、ケース2から進出する拡開位置との間で姿勢変位可能に構成される一対の拡翼3・3と、両拡翼3を拡開位置と収容位置との間で変位操作するための拡開構造4とを備える。ケース2の対向周面には、両拡翼3・3を進退案内するための一対の開口7・7が形成されている。拡翼3は、断面V字状に形成される翼本体11と、翼本体11の基端に設けられる連結腕12とを備えており、連結腕12が拡開構造4に連結されている。そして、拡翼3の全体は、拡翼3の谷線が断面V字の開口の側へ向かって外突状に湾曲する状態でアーチ状に折曲げられており、各拡翼3の谷線同士が対向する状態で、一対の拡翼3・3がケース2に収容されていることを特徴とする。
【0010】
開口7は下向きの矢羽状に形成し、開口7の上縁と下縁に、V字状の突起からなる上ガイド部8と、V字状の切欠きからなる下ガイド部9とを形成する。拡翼3を拡開構造4で拡開操作する過程では、拡翼3の谷面3aを上ガイド部8で拡開案内する。拡翼3を拡開構造4で収容操作する過程では、拡翼3の山面3bを下ガイド部9で収容案内する。
【0011】
拡開構造4は、ケース2の軸心位置に配置されるねじ軸16と、ねじ軸16と噛合ってねじ軸16の軸心方向に沿って変位操作されるナット体17とを備えている。ねじ軸16は、ケース2に設けた上下の軸受体20・21で軸回りに回転自在に支持する。一対の拡翼3・3の連結腕12は、ナット体17に設けたピン28に回転自在に連結する。ねじ軸16を回転操作してナット体17を上下に変位操作することにより、拡翼3を拡開位置と収容位置とに往復変位できるようにする。
【0012】
ナット体17を、下軸受体21とナット体17との間に配置した付勢部材33で押上げ付勢する。
【0013】
上ガイド部8を内方に向かって折り曲げ、一対の拡翼3・3は、翼本体11の先端がそれぞれ上ガイド部8に当接した状態で収容位置に収容する。付勢部材を、圧縮コイル型のばね33で構成し、一対の拡翼3・3の下側に、ばね33の上端を受止めるばね受板34を配置する。収容位置における一対の拡翼3の連結腕12はばね受板34で受止めるようにする。ナット体17を、ばね33でばね受板34と一対の連結腕12・12を介して押上げ付勢する。
【0014】
一対の開口7・7を、ケース2の周面に設けた封口体37で塞ぎ、拡翼3を封口体37を貫通しながら拡開位置に変位操作できるようにする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るアンカーにおいては、拡翼3の翼本体11を断面V字状に形成し、さらに拡翼3の全体を外突状に湾曲する状態でアーチ状に形成した。これによれば拡翼3を平板状とする形態に比べて、拡翼3の構造強度の格段の向上を図ることができるため、拡開時に翼本体11が変形すること、或いは、拡開後に周囲の土砂から受ける荷重で翼本体11が変形することを確実に防ぐことができ、該アンカーと杭本体1とで構成される基礎杭の鉛直支持力および引抜抵抗力を長期に亘って良好に維持することができる。また、拡翼3の変形に起因するケース2内への拡翼3の収納不良問題を効果的に防ぐことができるので、必要に応じて拡翼3をケース2内に収容して、地中からの基礎杭の引き抜き操作を容易に進めることが可能となる。
【0016】
加えて、各拡翼3の谷線同士が対向する状態で、一対の拡翼3・3をケース2に収容するとともに、翼本体11を断面V字状に形成したので、拡翼3の前後の縁部を円形のケース2の内壁面から遠ざけて、拡翼3と内壁面とが干渉することを回避できる。これにて円管状のケース2内に収容する拡翼3の幅方向の寸法を大きく設定することができる。また、拡翼3をアーチ状に形成したので、拡翼3の収容空間の高さ寸法よりも拡翼3の長さ寸法を長くすることができる。したがって、拡翼3を拡開したときの投影面積を大きなものとして、鉛直支持力および引抜抵抗力を増強できる。
【0017】
下向きの矢羽状に開口7を形成し、開口7の上縁と下縁に、上ガイド部8と下ガイド部9とを形成したので、別途、案内部材を設けることなく拡翼3を拡開または収容案内することができ、案内部材が必要であった従来のアンカーに比べて、アンカーの構造を簡素化できる。また、拡翼3の拡開時には、拡翼3の谷面3aをV字状の突起からなる上ガイド部8で拡開案内し、拡翼3の収容時には、拡翼3の山面3bをV字状の切欠きからなる下ガイド部9で収容案内するので、拡翼3を前後にぶれることなく確実に案内することができる。また、開口7と拡翼3との隙間を小さくすることができるので、ケース2内に土砂が流入することを効果的に防ぐことができる。
【0018】
拡開構造4を、上下の軸受体20・21で軸回りに回転自在に支持したねじ軸16と、ねじ軸16と噛合って変位操作されるナット体17などで構成したので、ねじの倍力作用で拡翼3を地中へ向かって確実に進出させ、拡開させることができる。また、拡翼3をケース2に収容した状態では、図4および図5に示すように、断面V字状の谷面3aがねじ軸16に密着し、さらに前後縁が近接対向する状態で拡翼3を収容できるので、一対の拡翼3と拡開構造4をコンパクトに収容できる。
【0019】
下軸受体21とナット体17との間に配置した付勢部材33でナット体17を押上げ付勢したので、ナット体17のねじ山をねじ軸16のねじ山に押し付けて、バックラッシを無くすことができる。これにより、ねじ軸16を回転操作する際に、ナット体17ががたつくのを防止して、拡翼3に駆動力を確実に作用させることができる。また、基礎杭は、電動ハンマーなどで地中に打ち込まれるが、打ち込み時の振動によりねじ軸16が回転するおそれがある。しかし、ナット体17のねじ山をねじ軸16のねじ山に押し付けることで、両者の摩擦力でねじ軸16をロックすることができ、打ち込み時の振動でねじ軸16が不用意に回転するのを防止できる。
【0020】
一対の拡翼3・3を翼本体11の先端の上ガイド部8に当接し、連結腕12をばね33の上端に配置したばね受板34で受止めると、翼本体11の先端をケース2の外郭線の内側に位置させて、拡翼3を収容位置に確りと保持することができる。また、ばね33の上端をばね受板34で受止めると、拡翼3の姿勢とは無関係に、1個のばね33のみで一対の拡翼3・3とナット体17とを付勢できるので、拡開構造4の構造を簡素化して基礎杭全体の製造コストを削減することができる。
【0021】
一対の開口7・7をケース2の周面に設けた封口体37で塞ぎ、封口体37を貫通しながら拡翼3を拡開位置へ変位操作すると、基礎杭を地中に打ち込む際に、開口7からケース内に土砂が流入するのを防止できる。また、拡翼3の拡開操作時や拡翼3が拡開位置に変位した状態でも、拡翼3と開口7の隙間を封口体37で封止でき、ケース2内に土砂が流入するのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明に係るアンカーの拡翼が拡開位置にあるときの要部縦断正面図である。
図2】本発明に係るアンカーの全体構造を示す縦断正面図である。
図3】本発明に係るアンカーの分解斜視図である。
図4】本発明に係るアンカーの拡翼が収容位置にあるときの要部縦断正面図である。
図5図4におけるX−X線断面図である。
図6図1におけるY−Y線断面図である。
図7】開口の形状を示す側面図である。
図8】拡翼の拡開過程を示す部分縦断正面図である。
図9】本発明に係るアンカーの使用状態を示す概略図である。
図10】本発明に係るアンカーの開口に封口体を設けた要部縦断正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(実施例) 図1から図10に本発明に係るアンカーの実施例を示す。なお、本実施例における前後、左右、上下とは、図1から図3に示す矢印と、各矢印の近傍に表記した前後、左右、上下の表示に従う。図2に示すように、アンカーは、円管状の杭本体1の下端に固定されるものであり、杭本体1とアンカーとで基礎杭が構成されている。アンカーは、杭本体1の下端に固定される円管状の拡翼管(ケース)2と、拡翼管2に収容される左右一対の拡翼3・3と、拡翼3を拡開位置と収容位置とに変位操作する拡開構造4とを備えている。杭本体1は足場用鋼管(単管パイプ)で構成してあり、同様に拡翼管2は杭本体1と同じ直径の足場用鋼管で構成してある。拡翼管2の下端には、地中への打ち込みを容易にするための円錐状の先端ヘッドHが差し込み固定してある。足場用鋼管は、JISで規定される肉厚が2.3mm、外径が48.6mmの一般構造用炭素鋼鋼管に亜鉛めっきを施したものである。
【0024】
図9に示すように、基礎杭は、電動ハンマーなどで杭本体1の上端部が地上に露出する状態で地中に打ち込まれたのち、拡開構造4で拡翼3を拡開位置に変位させた状態で地盤に固定される。本実施例における架台Bは太陽電池パネルPが取付られるものであり、足場用鋼管をパイプジョイントを使用してトラス状に組付けて構築してあり、架台Bの柱材を杭本体1にパイプジョイントで固定して設置される。
【0025】
図1に示すように、拡翼管2の対向周面には、一対の拡翼3・3を地中へ向かって進出案内する左右一対の開口7・7が形成されている。図7に示すように、開口7は下向きの矢羽状に形成されており、その上縁と下縁に、V字状の突起からなる上ガイド部8と、V字状の切欠きからなる下ガイド部9とが形成されている。上ガイド部8は、その先端が内方に向かって折り曲げてあり、開口7の前後方向の寸法は、後述する翼本体11の幅方向の寸法よりも僅かに大きく設定してある。このように、開口7を下向きの矢羽状に形成し、開口7の上縁と下縁に、上ガイド部8と下ガイド部9とを形成すると、別途、案内部材を設けることなく拡翼3を拡開または収容案内することができ、案内部材が必要であった従来のアンカーに比べて、アンカーの構造を簡素化できる。
【0026】
図1図3および図5に示すように、拡翼3は、断面V字状に形成される翼本体11と、翼本体11の基端に設けられる前後一対の連結腕12・12とを備えるプレス成形品からなる。両連結腕12には、拡開構造4に連結するための長穴状の連結穴13がそれぞれ形成されている。拡翼3の全体は、拡翼3の谷線がV字開口の側へ向かって外突状に湾曲する状態でアーチ状に折曲げてある。翼本体11の先端両角部には、斜めにカットしたテーパー面14が形成してあり、これにより、拡翼3を地中へ向かって拡開操作する際に土砂から受ける抵抗を減少させている。一対の拡翼3・3は、同一部材からなり、各拡翼3の谷線同士が対向する状態で拡翼管2に収容される。本実施例では、翼本体11の前後方向の寸法Wは約30mm(図7参照)、V字断面の内角θは140度に設定してある(図5参照)。
【0027】
一対の拡翼3・3は、後述する拡開構造4で拡開位置と収容位置とに変位操作される。拡翼3を拡開構造4で拡開操作する過程では、拡翼3の谷面3aが上ガイド部8で拡開案内され、拡翼3を拡開構造4で収容操作する過程では、拡翼3の山面3bが下ガイド部9で収容案内される。このように、拡翼3の拡開時に、拡翼3の谷面3aを上ガイド部8で拡開案内し、拡翼3の収容時に、拡翼3の山面3bを下ガイド部9で収容案内すると、拡翼3が前後にぶれるのを規制しながら、拡翼3を確実に出退案内できる。また、開口7と拡翼3との隙間を小さくできるので、拡翼3を地盤内に拡開させた状態において、拡翼管2内に土砂が流入するのを軽減することができる。
【0028】
図1および図3に示すように、拡開構造4は、拡翼管2の軸心位置に配置されるねじ軸16と、ねじ軸16と噛合ってねじ軸16の軸心方向に沿って変位操作される可動ブロック(ナット体)17とを備えている。ねじ軸16の上端には、六角柱状の操作頭部18が形成してあり、ねじ軸16の下端は、ねじ軸16より小径の固定ねじ軸19を設けて段付きねじ状に形成してある。ねじ軸16および固定ねじ軸19は、右ねじで形成してある。図5に示すように、拡翼3が収容位置にあるときには、断面V字状の谷面3aがねじ軸16に密着し、さらに前後縁が近接対向する状態で拡翼3を収容できるので、一対の拡翼3と拡開構造4をコンパクトに収容できる。
【0029】
図1図3および図6に示すように、可動ブロック17の中央には、上下に貫通する雌ねじ部27が形成してあり、その前後面には、前後一対のピン28・28が固定してある。ピン28には、一対の拡翼3・3が回転自在に連結してある。詳しくは、拡翼3を可動ブロック17の左右に谷線同士が対向する状態で対向配置し、連結腕12を可動ブロック17の前後面にあてがう。この状態で、ピン28のねじ軸を可動ブロック17のねじ穴にねじ込んで、一対の拡翼3・3をピン28に対して回転自在に連結する。このように、ねじ軸16と可動ブロック17とを含む拡開構造4によれば、ねじの倍力作用で拡翼3を地中へ向かって確実に進出させ、拡開させることができる。
【0030】
図1および図3に示すように、ねじ軸16は、拡翼管2に設けた上下の軸受体20・21で軸回りに回転自在に支持してある。上軸受体20および下軸受体21は同一の部材であり、固定プレート22と、固定プレート22の中央に一体に固定される軸受ボス23とで構成し、その軸心位置に軸受穴24が上下に貫通するように形成してある。軸受穴24の内径寸法は、ねじ軸16の外径寸法より僅かに大きく設定してある。上下の軸受体20・21は、軸受ボス23が対向する状態でそれぞれの固定プレート22・22が拡翼管2の内面に溶接固定される。ねじ軸16は、固定ねじ軸19にワッシャー29を介して固定ナット30をねじ込むことで、操作頭部18とワッシャー29および固定ナット30が、上軸受体20と下軸受体21に受止められて上下動が規制され、軸心回りにのみ回転自在に支持してある。
【0031】
図1図3および図4に示すように、拡翼3と下軸受体21との間には、圧縮コイル型のばね(付勢部材)33と、ばね33の上端を受止めるばね受板34とが配置してある。ばね受板34は、中央に貫通穴を設けたリング状に形成してある。ばね33は、その下端が下軸受体21の固定プレート22で受止められている。ばね受板34が一対の拡翼3・3と当接することで、可動ブロック17はばね受板34と一対の拡翼3・3を介して押上げ付勢される。これにより、1個のばね33のみで一対の拡翼3・3と可動ブロック17とを付勢できるので、拡開構造4の構造を簡素化して基礎杭全体の製造コストを削減することができる。
【0032】
上記のように、可動ブロック17をばね33の付勢力で押上げ付勢すると、雌ねじ部27のねじ山をねじ軸16のねじ山に押し付けて、バックラッシを無くしながら、ねじ軸16をロックすることができる。これにより、ねじ軸16を回転操作する時に可動ブロック17ががたつくのを防止して、拡翼3に駆動力を確実に作用させることができ、また、基礎杭を打ち込む際の振動でねじ軸16が不用意に回転するのを防止できる。さらに、ばね33の上端をばね受板34で受止めてあるので、拡翼3の姿勢とは無関係に、ばね受板34と一対の連結腕12を介して可動ブロック17を押上げ付勢できる。
【0033】
収容位置における一対の拡翼3・3を翼本体11の先端の上ガイド部8に当接し、連結腕12をばね33の上端に配置したばね受板34で受止めると、翼本体11の先端を拡翼管2の外郭線の内側に位置させて、拡翼3を収容位置に確りと保持することができる。
【0034】
ここで、アンカーの組立て手順を説明する。まず、拡翼管2に一対の拡翼3・3と拡開構造4とを組付ける。図3に示すように、一対の開口7・7を形成した拡翼管2の上側から上軸受体20を管内に挿入して、所定の位置で点付け溶接により上軸受体20を仮固定し、仮固定した上軸受体20の軸受穴24に上方からねじ軸16を挿通する。次に、一対の拡翼3・3を可動ブロック17にピン28で組付け、これらを拡翼管2の下側から挿入する。このとき、一対の拡翼3・3どうしを近接させて、ピン28を長穴で形成された連結穴13の基端寄りに位置させると、組付けた一対の拡翼3・3の左右方向の寸法を小さくすることができ、拡翼管2の内壁面と干渉せずに組付けることができる。挿入した可動ブロック17の雌ねじ部27にねじ軸16をねじ込み、拡翼3の先端が上ガイド部8に当接する位置まで、可動ブロック17を上昇させる。
【0035】
可動ブロック17を所定の位置まで上昇させたのち、ばね受板34とばね33とを順に拡翼管2内に挿入する。下軸受体21でばね33を圧縮しながら拡翼管2内に挿入して、下軸受体21の軸受穴24にねじ軸16を挿通し、固定ねじ軸19にワッシャー29を差込み、固定ナット30を軽くねじ込む。この状態から、操作頭部18が回転しないように支持し、固定ナット30を締め込み限界まで締めこむことで、一対の拡翼3・3と拡開構造4の仮組みが完了する。このとき、ばね33は、僅かな線間隙間を残した状態まで圧縮されている。最後に、上下の軸受体20・21を拡翼管2に確りと溶接して拡翼管2の組付けを完了する。こののち、組付けが完了した拡翼管2の上端に杭本体1を溶接し、拡翼管2の下端に先端ヘッドHを差し込むことで基礎杭の組立てが完了する。
【0036】
次に、拡翼の変位操作について説明する。一対の拡翼3・3は、拡開構造4のねじ軸16を回転操作することにより、拡翼3が拡翼管2内に収納される収容位置と、拡翼3が開口7から地中へ向かって拡開する拡開位置とに変位操作できる。変位操作は、地上に露出した基礎杭の上端から、長いシャフトの先端に六角穴を有するソケットを設けたT字レンチなどを用いて操作する。図4に示すように、一対の拡翼3・3が収容位置にあるときには、各拡翼3は、その先端が上ガイド部8に当接した状態で、連結腕12がばね受板34で受止められて、収容位置に保持されている。このときの各拡翼3は、連結穴13の基端寄りの穴端がピン28で保持され、一対の拡翼3・3は、拡翼管2の外郭線の内側に位置している
【0037】
収容位置にある状態から、操作頭部18にソケットを嵌め込んで締め込み方向(時計回り)に回転操作すると、可動ブロック17は、上方に向かって変位操作され、これに伴い両拡翼3は、その谷面3aが上ガイド部8で拡開案内されながら、地中へ向かって拡開していく(図8参照)。図1に示すように、ねじ軸16の回転操作により、可動ブロック17が上軸受体20の軸受ボス23に当接すると、ねじ軸16はそれ以上回転操作できなくなり、一対の拡翼3・3は拡開位置に変位される。このときの各拡翼3は、連結穴13の先端寄りの穴端がピン28で保持されている。そのため、ばね33の付勢力を受けた拡翼3には、ピン28を中心にして上向きの回転モーメントが作用するので、確りと拡開位置に保持される。
【0038】
拡開位置にある状態から、操作頭部18を緩み方向(反時計回り)に回転操作すると、可動ブロック17は下降移動し、これに伴って、各拡翼3の山面3bが下ガイド部9で収容案内されながら、拡翼管2内へ向かって収容される。収容操作時のねじ軸16の回転限界は、ばね33の隣接するコイル部が密着して完全に圧縮された位置である。その時には、可動ブロック17および一対の拡翼3・3は、組立て時のばね33の線間隙間分だけ、収容位置が下方に位置する。これにより、拡翼3を拡翼管2内に確実に収容して、基礎杭を地中からスムーズに引き抜くことができる。
【0039】
本発明のアンカーは、図10に示すように、一対の開口7・7を封口体37で塞ぐことができる。封口体37は、拡翼管2の周面に設けた厚みの薄い円筒状のプラスチック成形品からなり、拡翼管2に圧嵌または接着して固定することができる。拡翼3が拡開位置に変位するときには、拡翼3の先端で封口体37を突き破り、貫通しながら変位操作される。このように、封口体37で一対の開口7・7を塞ぐと、基礎杭を地中に打ち込む際に、開口7から拡翼管2内に土砂が流入するのを防止できる。また、拡翼3は封口体37を貫通しながら変位操作されるので、拡翼3の拡開操作時に拡翼3と開口7の隙間を封口体37で封止でき、拡翼管2内に土砂が流入するのを防止できる。拡翼3が拡開位置に変位した状態においても同様である。
【0040】
以上のように、拡翼3の翼本体11を断面V字状に形成し、さらに拡翼3の全体を、外突状に湾曲する状態でアーチ状に形成すると、拡翼3の構造強度を高めることができるので、拡翼3が地中へ向かって進出し拡開する際に、翼本体11が変形するのを確実に防止できる。また、拡開後においても、周囲の土砂から受ける荷重で翼本体11が変形するのを確実に防止して、鉛直支持力および引抜抵抗力を維持することができる。
【0041】
また、各拡翼3の谷線同士が対向する状態で、一対の拡翼3・3を拡翼管2に収容すると、翼本体11が断面V字状に形成してあるので、拡翼3の前後の縁部を円形の拡翼管2の内壁面から遠ざけて、拡翼3と内壁面との干渉を回避できる。これにより、円管内に収容する拡翼3の幅方向の寸法を大きく設定することができる。また、拡翼3がアーチ状に形成してあるので、拡翼3の収容空間の高さ寸法よりも拡翼3の長さ寸法を長くすることができる。したがって、拡翼3を拡開したときの投影面積を大きなものとして、鉛直支持力および引抜抵抗力を増強することができる。
【0042】
拡翼管2は、その上下に杭本体1を固定して、基礎杭の中途部に設けても良い。拡翼管2は、杭本体1の下端に天地を逆に固定することができる。この場合には、ねじ軸16を上記の実施例とは逆に組付けておけば、操作頭部18が上側に位置することになる。封口体37はゴムを素材として形成してもよく、また、細いワイヤーを拡翼管2の周囲に密に巻き付けて開口7を塞いでも良い。アンカーを含む基礎杭は、太陽電池パネルPが取付られる架台Bの基礎以外に、仮設住宅、建設足場、仮設柵などの基礎として広く適用できる。
【符号の説明】
【0043】
1 杭本体
2 ケース(拡翼管)
3 拡翼
3a 谷面
3b 山面
4 拡開構造
7 開口
8 上ガイド部
9 下ガイド部
11 翼本体
12 連結腕
16 ねじ軸
17 ナット体(可動ブロック)
20 上軸受体
21 下軸受体
28 ピン
33 付勢部材(ばね)
34 ばね受板
37 封口体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10