特許第6073160号(P6073160)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6073160
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】波形変換装置および波形変換方法
(51)【国際特許分類】
   G01H 17/00 20060101AFI20170123BHJP
   G01H 3/00 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
   G01H17/00 Z
   G01H3/00 A
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-56160(P2013-56160)
(22)【出願日】2013年3月19日
(65)【公開番号】特開2014-181984(P2014-181984A)
(43)【公開日】2014年9月29日
【審査請求日】2016年1月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000145806
【氏名又は名称】株式会社小野測器
(74)【代理人】
【識別番号】100094330
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 正紀
(74)【代理人】
【識別番号】100079175
【弁理士】
【氏名又は名称】小杉 佳男
(72)【発明者】
【氏名】大▲高▼ 政祥
(72)【発明者】
【氏名】三浦 雄文
(72)【発明者】
【氏名】坪山 睦
(72)【発明者】
【氏名】末吉 克行
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宏知
(72)【発明者】
【氏名】大越 勝
【審査官】 山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−271485(JP,A)
【文献】 特開2004−286634(JP,A)
【文献】 特開平11−108806(JP,A)
【文献】 特開2008−180620(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/010678(WO,A1)
【文献】 特開2009−106574(JP,A)
【文献】 特開平09−021691(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 1/00 − 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時間的に変化する第1の時間波形の中の、複数の周波数帯域の中から選択された選択周波数帯域内の波形成分であって、該波形成分のエンベロープを抽出することにより、第1のエンベロープ波形を生成する第1のエンベロープ抽出部と、
前記第1のエンベロープ抽出部で生成された第1のエンベロープ波形の中の、複数の変動周波数帯域の中から選択された選択変動周波数帯域内の波形成分を抽出することにより第2のエンベロープ波形を生成する第2のエンベロープ抽出部と、
前記第1の時間波形に、前記選択周波数帯域を除く非選択周波数帯域のゲインを固定したまま該選択周波数帯域のゲインを時間的に変化させる時変フィルタを用いて、前記第1の時間波形に、該非選択周波数帯域のゲインを固定するとともに該選択周波数帯域のゲインを前記第2のエンベロープ抽出部で生成された前記第2のエンベロープ波形の時間的変化に応じて時間的に変化させるフィルタリング処理を施すことにより第2の時間波形を生成するフィルタリング部とを備えたことを特徴とする波形変換装置。
【請求項2】
前記第1のエンベロープ抽出部が、前記選択周波数帯域の波形成分を抽出する第1のフィルタとヒルベルト変換用の第2のフィルタとが複合された第3のフィルタを表わす、周波数を変数とする第1のフィルタ関数と、前記第1の時間波形をフーリエ変換して得た第1の周波数関数との乗算、該乗算により得られた第2の周波数関数の逆フーリエ変換、および該逆フーリエ変換により得られた時間関数の絶対値の算出を含む処理により、前記第1のエンベロープ波形を生成するものであることを特徴とする請求項1記載の波形変換装置。
【請求項3】
前記第2のエンベロープ抽出部が、前記選択変動周波数帯域の波形成分を抽出する第4のフィルタを表わす、周波数を変数とする第2のフィルタ関数と、前記第1のエンベロープ波形をフーリエ変換して得た第3の周波数関数との乗算、および該乗算により得られた第4の周波数関数の逆フーリエ変換を含む処理により、前記第2のエンベロープ波形を生成するものであることを特徴とする請求項1又は2記載の波形変換装置。
【請求項4】
前記第1の時間波形を複数のフレームに分割したときの各フレームと、前記選択周波数帯域のゲインが前記第2のエンベロープ波形の時間変化に応じて該フレームごとに調整された前記時変フィルタを表わす、時間を変数とする第3のフィルタ関数との畳み込み積分、および該畳み込み積分により得られた各フレームの繋ぎ合わせを含む処理により、該第2の時間波形を生成するものであることを特徴とする請求項1から3のうちのいずれか1項記載の波形変換装置。
【請求項5】
時間的に変化する第1の時間波形の中の、複数の周波数帯域の中から選択された選択周波数帯域内の波形成分であって、該波形成分のエンベロープを抽出することにより、第1のエンベロープ波形を生成する第1のエンベロープ抽出ステップと、
前記第1のエンベロープ抽出ステップで生成された第1のエンベロープ波形の中の、複数の変動周波数帯域の中から選択された選択変動周波数帯域内の波形成分を抽出することにより第2のエンベロープ波形を生成する第2のエンベロープ抽出ステップと、
前記第1の時間波形に、前記選択周波数帯域を除く非選択周波数帯域のゲインを固定したまま該選択周波数帯域のゲインを時間的に変化させる時変フィルタを用いて、前記第1の時間波形に、該非選択周波数帯域のゲインを固定するとともに該選択周波数帯域のゲインを前記第2のエンベロープ抽出ステップで生成された前記第2のエンベロープ波形の時間的変化に応じて時間的に変化させるフィルタリング処理を施すことにより第2の時間波形を生成するフィルタリングステップとを備えたことを特徴とする波形変換方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動や騒音等の時間波形を変換する波形変換装置および波形変換方法に関する。
【背景技術】
【0002】
振動や騒音などを発生するおそれのある製品を開発するメーカはその製品の振動や騒音によってユーザに不快感を与えることのないように、振動解析や騒音解析を行なって不快な振動や不快な騒音が抑制された製品を開発するよう努めている。振動解析や騒音解析を行なうにあたっては、振動や騒音を表わす波形の中の特定の周波数帯域の波形成分を増大させあるいは減少させて振動や音がどのように変化するかを調べることが行なわれる。(特許文献1参照)。
【0003】
ただし振動や騒音などは、特定の周波数帯域の波形成分が周期的に振幅が変動していることも多く、特許文献1の技術では、その特定の周波数帯域の波形成分を残しつつその周波数帯域の時間変動分のみを消去した波形や音を生成して調べることは困難である。
【0004】
特許文献2では、これを解決して特定の周波数成分の時間変動分のみを消したり、特定の周波数成分の時間変動分を強調したりする技術が提案されている。
【0005】
すなわち、この特許文献2には、原波形を、特定の周波数帯域の波形成分と、その周波数帯域の波形成分を除いた残りの波形成分とに分離し、特定の周波数帯域の波形成分の振幅変動を抑えてフラットな波形成分に変換し、あるいはその振幅変動を強調した波形成分に変換し、そのように変換した波形成分と、一旦分離した残りの波形成分とを合成するという手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−311659号公報
【特許文献2】特開2008−180620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上掲の特許文献2の提案内容は、原波形を特定の周波数帯域の波形成分と残りの波形成分に分けて一方を加工し、その後合成するため、2つの波形成分の位相調整等が困難であり、合成した波形に大きな誤差が含まれてしまうおそれがある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、入力された原波形の中の特定の周波数帯域の波形成分の時間変動分の強調や消去が可能であって、かつ誤差の混入を低減させた波形変換装置および波形変換方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する本発明の波形変換装置は、
時間的に変化する第1の時間波形の中の、複数の周波数帯域の中から選択された選択周波数帯域内の波形成分であって、その波形成分のエンベロープを抽出することにより、第1のエンベロープ波形を生成する第1のエンベロープ抽出部と、
第1のエンベロープ抽出部で生成された第1のエンベロープ波形の中の、複数の変動周波数帯域の中から選択された選択変動周波数帯域内の波形成分を抽出することにより第2のエンベロープ波形を生成する第2のエンベロープ抽出部と、
上記第1の時間波形に、上記選択周波数帯域を除く非選択周波数帯域のゲインを固定したまま選択周波数帯域のゲインを時間的に変化させる時変フィルタを用いて、上記第1の時間波形に、非選択周波数帯域のゲインを固定するとともに選択周波数帯域のゲインを第2のエンベロープ抽出部で生成された第2のエンベロープ波形の時間的変化に応じて時間的に変化させるフィルタリング処理を施すことにより第2の時間波形を生成するフィルタリング部とを備えたことを特徴とする。
【0010】
本発明の波形変換装置では、非選択周波数帯域のゲインを固定したまま選択周波数帯域のゲインを、第2のエンベロープ抽出部とで生成された第2のエンベロープ波形の時間的変化に応じて時間的に変化させる時変フィルタを用いて、波形変換が行なわれる。すなわち、変換前の波形である第1の時間波形は、異なる周波数帯域の波形成分に分離されてから再び合成されるという過程を経ることなく、第2の時間波形に変換される。これにより、誤差を抑えた上で特定の周波数帯域(選択周波数帯域)の波形成分の時間変動分の強調や消去を可能としている。
【0011】
ここで、本発明の波形変換装置において、第1のエンベロープ抽出部が、選択周波数帯域の波形成分を抽出する第1のフィルタとヒルベルト変換用の第2のフィルタとが複合された第3のフィルタを表わす、周波数を変数とする第1のフィルタ関数と、上記第1の時間波形をフーリエ変換して得た第1の周波数関数との乗算、その乗算により得られた第2の周波数関数の逆フーリエ変換、およびその逆フーリエ変換により得られた時間波形の絶対値の算出を含む処理により、第1のエンベロープ波形を生成するものであることが好ましい。
【0012】
また、第2のエンベロープ抽出部についても、選択変動周波数帯域の波形成分を抽出する第4のフィルタを表わす、周波数を変数とする第2のフィルタ関数と、第1のエンベロープ波形をフーリエ変換して得た第3の周波数関数との乗算、およびその乗算により得られた第4の周波数関数の逆フーリエ変換を含む処理により、第2のエンベロープ波形を生成するものであることが好ましい。
【0013】
時変フィルタのゲインの決定の基になるエンベロープ波形の生成については、ヒルベルト変換を含む周波数空間での演算を採用することで、高速かつ正確な演算が可能である。
【0014】
また、本発明の波形変換装置において、上記第1の時間波形を複数のフレームに分割したときの各フレームと、選択周波数帯域のゲインが第2のエンベロープ波形の時間変化に応じてフレームごとに調整された時変フィルタを表わす、時間を変数とする第3のフィルタ関数との畳み込み積分、およびその畳み込み積分により得られた各フレームの繋ぎ合わせを含む処理により、第2の時間波形を生成するものであることが好ましい。
【0015】
また、時変フィルタは、フレームごとにゲインが異なるため、第1の時間波形をフーリエ変換することなく畳み込み演算をすることにより、周波数空間でフィルタリング処理を行なうよりも処理効率が向上する。
【0016】
また、上記目的を達成する本発明の波形変換方法は、
時間的に変化する第1の時間波形の中の、複数の周波数帯域の中から選択された選択周波数帯域内の波形成分であって、その波形成分のエンベロープを抽出することにより、第1のエンベロープ波形を生成する第1のエンベロープ抽出ステップと、
第1のエンベロープ抽出ステップで生成された第1のエンベロープ波形の中の、複数の変動周波数帯域の中から選択された選択変動周波数帯域内の波形成分を抽出することにより第2のエンベロープ波形を生成する第2のエンベロープ抽出ステップと、
上記第1の時間波形に、上記選択周波数帯域を除く非選択周波数帯域のゲインを固定したまま選択周波数帯域のゲインを時間的に変化させる時変フィルタを用いて、上前記第1の時間波形に、非選択周波数帯域のゲインを固定するとともに選択周波数帯域のゲインを第2のエンベロープ抽出ステップで生成された第2のエンベロープ波形の時間的変化に応じて時間的に変化させるフィルタリング処理を施すことにより第2の時間波形を生成するフィルタリングステップとを備えたことを特徴とする。
【0017】
尚、ここには、本発明の波形変換方法の基本形態のみ記述したが、本発明の波形変換方法には、上述の本発明の波形変換装置の各種形態に相当する各種形態が含まれる。
【発明の効果】
【0018】
以上の本発明によれば、原波形を特定の周波数帯域の波形成分と残りの波形成分に分けて一方を加工し、その後合成するという前掲の特許文献2の手法と比べ、誤差を低減させた上で第1の時間波形の中の特定の周波数帯域の波形成分の時間変動分が強調又は消去された第2の時間波形が生成される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態としての波形変換方法の概要を示した図である。
図2】本実施形態で使用されるPCに表示される表示画面の一例を示した図である。
図3図1に示すエンベロープ処理(ステップS01)の詳細フローを示した図である。
図4】臨界帯域成分の抽出とヒルベルト変換のステップ(ステップS11)で使用されるフィルタの説明図である。
図5】臨界帯域成分の抽出とヒルベルト変換のステップ(ステップS11)における処理手順を示した図である。
図6】変動周波数の抽出ステップ(ステップS12)で採用されるバンドパスフィルタを表わした図である。
図7】変動周波数成分の抽出(ステップS12)の処理手順を示した図である。
図8】オフセットの調整処理を示した図である。
図9】平均化処理の説明図である。
図10】最小値リミット処理の説明図である。
図11】平均値リミット処理の説明図である。
図12図1に示すフィルタリング処理(ステップS12)の詳細フローを示した図である。
図13】フレームへの分割処理(ステップS21)の説明図である。
図14】畳込み総和演算処理(ステップS22)で用いられるフィルタの説明図である。
図15】畳込み総和演算処理(ステップS22)の処理手順を示した図である。
図16】フレームの合成処理(ステップS23)の説明図である。
図17】クリッピング処理(ステップS24)の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0021】
以下に説明する実施形態は、汎用的なパーソナルコンピュータ(以下、「PC」と略記する)内での演算処理により実現するものである。汎用的なPCのハードウェアは広く知られており、ここでの説明は省略する。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態としての波形変換方法の概要を示した図である。
【0023】
この図1に示す波形変換方法に相当する演算がPC内で実行されたときのPCが、本発明の一実施形態としての波形変換装置に相当する。
【0024】
この図1に示すように、本実施形態では、エンベロープ処理(ステップS01)とフィルタリング処理(ステップS02)が実行される。エンベロープ処理(ステップS01)では、時間的に変化する時変ゲインが生成され、フィルタリング処理(ステップS02)では、特定の周波数帯域のゲインを時間的に変化させる時変フィルタを用いたフィルタリング処理が実行される。エンベロープ処理(ステップS01)は、本発明の波形変換装置にいう第1のエンベロープ抽出部と第2のエンベロープ抽出部との双方の一例に相当し、また、本発明の波形変換方法にいう、第1のエンベロープ抽出ステップと第2のエンベロープ抽出ステップとの双方の一例に相当する。また、フィルタリング処理(ステップS02)は、本発明の波形変換装置にいうフィルタリング部の一例に相当し、また本発明の波形変換方法にいうフィルタリングステップの一例に相当する。
【0025】
これらエンベロープ処理(ステップS01)およびフィルタリング処理(ステップS02)の詳細は後述する。
【0026】
図2は、本実施形態で使用されるPCに表示される表示画面の一例を示した図である。
【0027】
ここには、時間波形1と、その時間波形1の分析結果を表わす画面2が示されている。
【0028】
この画面2は、横軸が周波数(Hz)、縦軸が変動周波数(Hz)である。横軸の周波数(Hz)は、時間波形1を複数の周波数帯域(ここでは、複数の臨界帯域)に分けたときの、その時間波形1の各周波数帯域(各臨界帯域)の成分を表わしている。
【0029】
臨界帯域とは、人間の聴覚の周波数分解能に基づく帯域幅に分けたときの1つ1つの帯域をいう。この臨界帯域の帯域幅はほぼ1/3オクターブバンド幅に一致するが、500Hzよりも低い音域では1/3オクターブよりも幅が大きいという性質を有する。
【0030】
また、縦軸の変動周波数(Hz)は、横軸に示した各周波数帯域(各臨界帯域)の波形成分の時間変動の周波数を5Hzきざみで区切った帯域を表わしたものである。ここでは、5Hzきざみで区切ったときの代表周波数でその変動周波数帯域を表わすものとし、それに合わせて、5Hz幅の変動周波数帯域を変動周波数と称する。これら横軸の周波数帯域(臨界帯域)と縦軸の変動周波数とで区切られた各升目の色(図2では各升目内のポイントの数と大きさ)は、その升目に相当する波形成分の強さを表わしている。
【0031】
例えば、升目2aは臨界帯域710〜800Hz、変動周波数20Hzの升目であり、升目2bは臨界帯域2kHz、変動周波数65Hzの升目である。
【0032】
ここでは、これら2つの升目a,bに波形成分の強さのピークがあらわれている。
【0033】
臨界帯域と変動周波数を指定すると、その指定された臨界帯域かつ変動周波数に関する、図1に示す処理が実行される。
【0034】
PCの表示画面上には、処理前の時間波形に関する表示と処理後の時間波形に関する表示とが切り替えて表示される。また、そのPCのスピーカで処理前と処理後の時間波形に基づく音を鳴らして聞き比べることができる。
【0035】
図3は、図1に示すエンベロープ処理(ステップS01)の詳細フローを示した図である。
【0036】
この図3に示すエンベロープ処理では、臨界帯域成分の抽出とヒルベルト変換(ステップS11)、変動周波数成分の抽出(ステップS12)、および平滑化(ステップS13)が実行される。
【0037】
図4は、図3に示す臨界帯域成分の抽出とヒルベルト変換のステップ(ステップS11)で使用されるフィルタの説明図である。
【0038】
図4(A)は、この臨界帯域の波形成分の抽出とヒルベルト変換のステップ(ステップS01)で使用されるフィルタの一例である。
【0039】
この図4(A)に示すフィルタは、図4(B)に示すフィルタと図4(C)に示すフィルタとが複合されたフィルタである。第4(A)に示すフィルタは、本発明にいう第3のフィルタの一例に相当する。図4(B)は、指定された臨界帯域(周波数f〜f)の波形成分を抽出するバンドパスフィルタであり、本発明にいう第1のフィルタの一例に相当する。また、図4(C)は、周波数f≧0において値2,周波数f<0において値0を持つヒルベルト変換フィルタであり、本発明にいう第2のフィルタの一例に相当する。
【0040】
図4(B)に示すバンドパスフィルタと図4(C)に示すヒルベルト変換フィルタとを複合して双方のフィルタの作用を成すように構成すると、図4(A)に示す複合フィルタとなる。
【0041】
図3のステップS11では、図4(A)の複合フィルタが採用され臨界帯域の波形成分の抽出とヒルベルト変換によるエンベロープの抽出の処理が行なわれる。
【0042】
図5は、図3の臨界帯域成分の抽出とヒルベルト変換のステップ(ステップS11)における処理手順を示した図である。
【0043】
(a)ここでは先ず、図4(A)に示す複合フィルタに逆フーリエ変換(IFFT)処理を施してデータ列{a}を生成する。そしてそれらのデータ列{a}の後に原時間波形(本発明にいう第1の時間波形の一例)を所定の時間長ずつに区切ったときの時間長と同じ時間長(同じ数)の‘0’を追加して、データ列{a,a,…a,0,…,0}を生成する。
【0044】
(b)そして、このデータ列{a,a,…a,0,…,0}にフーリエ変換(FFT)処理を施して、周波数fを変数とする複合フィルタH(f)に戻す。
【0045】
(c)また、原波形の、上記の時間長に区切った1つ分のデータ{d,d,…,d}に{0,…,0}を追加する前の複合フィルタを表わすデータ列{a,a,…a}と同じ長さの{0,…,0}を追加して、追加後のデータ列にFFT処理を施し、I(f)を生成する。ここでの時間長は、後述するフレーム(図11参照)よりも十分に短い時間長である。
【0046】
これにより、互いに時間長が一致したH1(f)とI(f)とが生成される。
【0047】
このような時間長を一致させる処理は広く知られた処理内容であり、以下では、この時間長を一致させる処理のステップは省略して説明する。
【0048】
(d)上記のようにして生成したH(f)とI(f)とを乗算してY(f)を生成する。
【0049】
(e)そのY(f)にIFFT処理を施してY(t)を生成する。
【0050】
(f)そのY(t)の絶対値を算出する。この絶対値は、原波形の、時刻tで代表される時刻における1つの時間長分のデータの、臨界領域内の波形成分の包絡線(エンベロープEnv1(t))を表わしている。
【0051】
ここで、複合フィルタは原波形全域について共通に使用されるため、上記(a),(b)の処理は初回の1回だけ行なえばよく、上記の(c)〜(f)の処理を、原波形を所定の時間長に区切ったときの各時間長分のデータについて順次繰り返すことにより、原波形全体についてのエンベロープEnv1(t)が生成される。このエンベロープEnv1(t)は、本発明にいう第1のエンベロープの一例に相当するものである。
【0052】
次に、図3に示す変動周波数成分の抽出のステップ(ステップS12)が実行される。
【0053】
図6は、この変動周波数の抽出ステップで採用されるバンドパスフィルタを表わした図である。
【0054】
図6(A)は周波数帯域f11〜f12の波形成分を抽出するフィルタである。このフィルタを採用したときは、周波数帯域f11〜f12が本発明にいう選択変動周波数帯域に相当する。
【0055】
図6(B)は、周波数帯域f21〜f22の波形成分をカットするフィルタである。このフィルタを採用したときは、周波数帯域0〜f21、f22〜が本発明にいう選択周波数帯域に相当する。
【0056】
図6(A)のフィルタを採用したときは、指定された臨界帯域における、周波数f11〜f12内の変動周波数の強調や消去が行なわれ、図6(B)のフィルタを採用したときは、指定された臨界帯域における、周波数f21〜f22を除く変動周波数の強調や消去が行なわれる。
【0057】
図7は、変動周波数成分の抽出ステップ(ステップS12)における処理手順を示した図である。
【0058】
また、図8は、オフセットの調整処理の説明図である。
【0059】
(a)ここでは先ず、図3のステップS11における、臨界帯域成分の抽出とヒルベルト変換の処理により算出されたエンベロープEnv1(t)(図5(f)参照)からその平均値(オフセット)が引き算され(図8(A)参照)、オフセットのないエンベロープEnv2(t)が生成される。
【0060】
(b)次いでそのオフセットのないエンベロープEnv2(t)にFFT処理が施されてEnv2(f)が算出される。
【0061】
(c)次いで、このEnv2(f)と、図6(A)又は図6(B)に示すフィルタH(f)との間での乗算により、エンベロープEnv2(f)のうちのフィルタH(f)で決定される変動周波数成分である新たなエンベロープEnv3(f)が算出される。
【0062】
(d)この新たなエンベロープEnv3(f)にIFFT処理が施されて時間関数としての新たなエンベロープEnv3(t)が算出される。
【0063】
(e)さらに、この新たなエンベロープEnv3(f)に最初に引き算したオフセットが足し算されて(図8(B)参照)、オフセットを含む新たなエンベロープEnv4(t)が生成される。このエンベロープEnv4(t)は、原時間波形の、指定を受けた臨界帯域の、指定された変動周波数のエンベロープである。ただし、本実施形態では、さらに、このエンベロープに対する平滑化の処理(図3、ステップS13参照)が実行される。
【0064】
この平滑化ステップ(ステップS13)では、以下に説明するいくつかの処理が実行される。
【0065】
図9は、平均化処理の説明図である。
【0066】
グラフaは、図3のステップS12で生成されたエンベロープの一部を示している。グラフbは、そのエンベロープの、各フレーム(ここではフレーム1とフレーム2のみ図示)ごとの平均値である。ここで、「フレーム」は、原時間波形を、図1に示すフィルタリング処理(ステップS02)で採用される時変フィルタを用いての1回のフィルタリング処理に用いられる時間長に区切ったときの1つ1つをいう。詳細は後述する。
【0067】
図3のステップS13では、平滑化処理の1つとして、図9に示すようにエンベロープ波形の、フレームごとの平均値が算出され、各フレームに各平均値が対応づけられる。
【0068】
後述するフィルタリング処理では、時間的にゲインを変化させる時変フィルタが採用される。この時変フィルタのゲインは、エンベロープ波形に基づいて調整される。
【0069】
また、この時変フィルタを用いたフィルタリング処理は、フレーム単位に順次行なわれる。このため、1回の処理すなわち1つのフレームに対する処理で用いられる時変フィルタのゲインはフレームごとに固定しておく必要がある。この図9に示す平均化処理は、この要請に基づくものである。
【0070】
図10は、最小値リミット処理の説明図である。
【0071】
ここでは、エンベロープ波形がグラフのように最小値εを下回って変化したとき、グラフbに示すようにその最小値εを下回った区間のエンベロープ波形を最小値εに固定する。
【0072】
後述する時変フィルタを用いたフィルタリング処理において、例えば指定された臨界帯域の、指定された変動周波数の波形成分の振幅を一定に保つようにゲインを調整した処理を行なおうとした場合、振幅が大きい領域については振幅を圧縮し振幅が小さい領域については大きく増幅する処理を行なうことになる。この場合、エンベロープ波形が最小値εよりも小さいと極めて大きく増幅されることになり、安定的なフィルタリング処理が損なわれるおそれがある。そこでここでは、エンベロープ波形が最小値ε以下の領域の値を最小値εに固定する処理が行なわれる。
【0073】
図11は、平均値リミット処理の説明図である。
【0074】
図9図10に示す平均化処理および最小値リミット処理によりフレームごとに変化するエンベロープ波形が生成される。ここでは、フレームごとのエンベロープの値をenv(fno)と称する。ただし、fnoは、フレームの番号を表わしている。また、原時間波形の全長に亘る全てのフレームのエンベロープ波形の平均値をaverage_allと称する。また、フレームごとのゲインをgain(fno)と称する。
【0075】
指定された臨界帯域の、指定された変動周波数の波形成分の時間変動を強調するときは、例えば
gain(fno)=env(fno)/average_all
によりゲイン列gain(fno)が算出される。また、時間変動を除去するときは、例えば
gain(fno)=average_all/env(fno)
によりゲイン列gain(fno)が算出される。
【0076】
尚、ここに示したゲイン列gain(fno)は例示であって、強調の程度、減衰(消去)の程度に応じたゲイン列gain(fno)が生成される。
【0077】
図3、ステップS13の平滑化処理では、このようにしてゲイン列gain(fno)が算出され、さらにこの算出したゲイン列gain(fno)が以下のようにして評価される。
【0078】
算出したゲイン列gain(fno)のうちの最大値をgainMax、最小値をgainMinとし、ゲイン列gain(fno)の全フレームに亘る平均値をgainAverageとする。
【0079】
このとき、
maxDiff=gainMax−gainAverage
minDiff=gainAverage−gainMin
を算出する。図11(A)は、部分的に
maxDiff/minDiff=10
を越えている場合を示している。この場合、図11(B)に示すように、gainAverageを越えるgain(fno)をgainAverageに制限する。
【0080】
図10に示す最小値リミット処理により、処理能力を越えるような、あるいは明らかにノイズと判断される巨大ゲインの発生は防止されるが、ここでは安全のため、ゲイン列gain(fno)について評価し、万一、巨大ゲインが発生したときは、その巨大ゲインを取り除く処理が準備されている。
【0081】
図3、ステップS13の平滑化ステップでは、以上の処理により、フレームfnoごとのゲインgain(fno)が算出される。このゲイン列gain(fno)は時間的に(フレームごとに)変化するゲインであり、ここでは時変ゲインと称する。
【0082】
以上の処理が、図1および図3に示すステップS01のエンベロープ処理である。
【0083】
次に、図1、ステップS02のフィルタリング処理について説明する。
【0084】
図12は、図1に示すフィルタリング処理(ステップS12)の詳細フローを示した図である。
【0085】
この図12に示すフィルタリング処理(ステップS02)では、フレームへの分割処理(ステップS21)畳込み総和演算処理(ステップS22)、フレームの合成処理(ステップS23)、およびクリッピング処理(ステップS24)が実行される。
【0086】
図13は、フレームへの分割処理(ステップS21)の説明図である。
【0087】
ここでは、処理対象となる原時間波形(A)が、所定の時間長の複数のフレーム(B)に分割される。このフレームの時間長は、あらかじめ定められていてもよく、ユーザが指定する構成としてもよい。
【0088】
図12、ステップS22の畳込み総和演算処理では、以下のようにして畳込み総和演算が行なわれる。
【0089】
図14は、この畳込み総和演算処理で用いられるフィルタの説明図である。
【0090】
図14(A)は、原時間波形から指定した臨界帯域f〜fのみを抽出してその臨界帯域内の波形成分を加工する場合に用いるフィルタである。このフィルタでは、臨界帯域f〜fについては、フレームごとにゲインが調整され、その臨界帯域f〜fを除く周波数帯域のゲインは固定的に0.0に設定されている。臨界帯域f〜fのゲインは、エンベロープ処理(ステップS01)で生成されたフレームごとのゲイン列gain(fno)に従い、フレームごとに調整される。このフィルタは、フレームごとのゲイン列gain(fno)の作成の仕方により、その臨界帯域f〜fの、指定された変動周波数の時間変化を強調することも、減衰させ又は消去することも可能である。
【0091】
また、図14(B)は、原時間波形の、指定した臨界帯域f〜fだけでなく、全周波数帯域の波形成分を残しつつ、指定した臨界帯域内の波形成分を加工する場合に用いるフィルタである。このフィルタでは、指定された臨界帯域f〜fについては、図14(A)のフィルタの場合と同じくゲインがフレームごとに調整され、その臨界帯域f〜fを除く周波数帯域へのゲインは固定時に1.0に設定されている。この図14(B)のフィルタにおいても、図14(A)のフィルタと同様、臨界帯域f〜fのゲインは、エンベロープ処理(ステップS01)で生成されたフレームごとのゲイン列gain(fno)に従い、フレームごとに調整される。このフィルタにおいても、フレームごとのゲイン列gain(fno)の作成の仕方により、その臨界帯域f〜fの、指定された変動周波数の時間変化を強調することも、減衰させ又は消去することも可能である。
【0092】
図12に示すフィルタリング処理中の畳込み総和演算処理(ステップS22)では、各フレーム1,2,…,N(図13参照)のそれぞれについて、以下の畳込み総和演算が行なわれる。この畳込み総和演算は本発明にいう畳み込み積分の一例に相当する。
【0093】
図15は、図12、ステップS22における畳込み総和演算処理の処理手順を示した図である。
【0094】
ここでは、図15(a),(b)の処理が各フレームごとに実行される。
【0095】
(a)図14(A)又は図14(B)のフィルタH(f)のゲインをgain(fno)に調整し、このゲインを調整したフィルタH(f)にIFFT処理が施されて時間変数としてのフィルタ関数H(t)が生成される。
【0096】
(b)そのフィルタ関数H(t)と、今回対応しているフレームの時間列データI(t)との間で、(b)に示す式に従う畳込み総和演算が行なわれて、演算結果としての時間関数Y(t)を生成する。
【0097】
これら(a),(b)の処理が、フィルタH(f)の臨界帯域f〜fのゲインを調整しながら、フレームごとに行なわれる。
【0098】
次に、フレームの合成処理(図12、ステップS23)が行なわれる。
【0099】
図16は、フレームの合成処理の説明図である。
【0100】
図15(b)の演算で生成される1フレーム分の時間関数Y(t)は、図13に示す、原時間波形をフレームごとに区切ったときの1つのフレームの時間長の2倍の時間長を有する。
【0101】
そこで、ここでは、図15(b)の演算結果としての時間関数Y(t)が1/2の時間長(すなわち原波形を区切ったときの1つのフレームの時間長と同じ時間長)ずつ足し合わせる処理を行なう。これにより、ここでの波形処理後の連続波形が生成される。
【0102】
図12に示すフィルタリング処理(ステップS02)では、さらに、クリッピング処理(ステップS24)が実行される。
【0103】
図17はクリッピング処理(ステップS24)の説明図である。
【0104】
ここでは、フレームの合成処理(図12、ステップS23)で生成された連続波形(図16参照)に対し、上下の閾値THH、THLを設定しておき、各閾値THH、THLを超える波形部分(図17(A)参照)が各閾値THH、THLにクリッピングされる(図17(B)参照)。ここでは連続波形の平均値からの幅が原時間波形の平均値と最大値又は最小値との間の幅の√2倍となるように、閾値THH、THLが設定される。これ以上の過大な振幅はノイズと考えられるからである。
【0105】
このようにして最終的に生成された連続波形は、周波数分析および変動周波数分析が行なわれて、図2と同様にしてPCの表示画面上に表示される。
【0106】
ここでは、この最終的に生成された連続波形が本発明にいう第2の時間波形の一例に相当する。
【0107】
尚、ここに例示した本発明の波形変換装置や波形変換方法は、それらの適用分野が限定されるものではなく、異音を特定して対策すべき音か否かを判定したり、異音対策を行なった後の音をシミュレーションして事前に確認するなど様々な分野に適用可能である。また、製品の付加価値向上のために、製品のイメージに合った音づくり(例えばスポーツカーにふさわしい音づくり)等、音のデザインの分野にも適用可能である。
【符号の説明】
【0108】
1 時間波形
2 画面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17