特許第6073194号(P6073194)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6073194
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】磁気記録媒体、磁気記憶装置
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/738 20060101AFI20170123BHJP
   G11B 5/65 20060101ALI20170123BHJP
   G11B 5/64 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
   G11B5/738
   G11B5/65
   G11B5/64
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-139825(P2013-139825)
(22)【出願日】2013年7月3日
(65)【公開番号】特開2015-15061(P2015-15061A)
(43)【公開日】2015年1月22日
【審査請求日】2016年4月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】神邊 哲也
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 和也
(72)【発明者】
【氏名】村上 雄二
(72)【発明者】
【氏名】張 磊
【審査官】 中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−511946(JP,A)
【文献】 特開2012−014750(JP,A)
【文献】 特開2001−101651(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/738
G11B 5/64
G11B 5/65
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
L1構造を有する合金を含む磁性層と、
前記基板と、前記磁性層との間に配置された複数の下地層と、
を有しており、
前記複数の下地層のうち少なくとも1層が、(11・0)面が前記基板面と平行となるように配向した、Co金属またはCoを主成分とした六方最密充填構造を有する合金により構成された軟磁性下地層であることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
前記軟磁性下地層が、Fe、Ni、Cr、Mn、V、Ru、Re、Pt、Pdからなる元素群から選択される少なくとも一種類の元素を含有していることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記複数の下地層が、Cr金属またはCrを主成分としてBCC構造を有する合金により構成された下地層を含んでおり、
前記軟磁性下地層が、前記Cr金属またはCrを主成分としてBCC構造を有する合金により構成された下地層の上に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記Crを主成分としてBCC構造を有する合金が、Mn、V、Ti、Mo、W、Nb、Ruからなる元素群から選択される少なくとも一種類の元素を含有していることを特徴とする請求項3に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
前記複数の下地層が、B2構造を有するNiAl合金またはRuAl合金により構成された下地層を含んでおり、
前記軟磁性下地層が、前記B2構造を有するNiAl合金またはRuAl合金により構成された下地層の上に形成されていることを特徴とする請求項1乃至4いずれか一項に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
磁性層がL1構造を有するFePt合金、もしくはL1構造を有するCoPt合金を含んでおり、かつ、SiO、TiO、Cr、Al、Ta、ZrO、Y、CeO、MnO、TiO、ZnO、C、B、B、BNから選択される少なくとも一種類の物質を含有していることを特徴とする請求項1乃至5に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
請求項1乃至6いずれか一項に記載の磁気記録媒体を有する磁気記憶装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体、磁気記憶装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハードディスクドライブHDDに対する大容量化の要求が益々強まっている。この要求を満たす手段として、熱アシスト記録方式や、高周波アシスト記録方式が提案されている。
【0003】
熱アシスト記録とは、レーザー光源を搭載した磁気ヘッドで磁気記録媒体を加熱して記録を行う方式である。一方、高周波アシスト記録とは、STO(スピン・トルク・オシレーター)を搭載したヘッドから発生する高周波磁界を印加して記録する方式である。
【0004】
熱アシスト記録や高周波アシスト記録では、熱、もしくは高周波によって反転磁界を大幅に低減できるため、記録媒体の磁性層に結晶磁気異方定数Kuの高い材料を用いることができる。このため、熱安定性を維持したまま磁性粒径の微細化が可能となり、1Tbit/inch級の面密度を達成できる。
【0005】
高Ku磁性材料としては、L1型FePt合金、L1型CoPt合金、L1型CoPt合金等の規則合金等が提案されている。
【0006】
また、磁性層には、上記規則合金からなる結晶粒を分断するため、粒界相材料としてSiO、TiO等の酸化物、もしくはC、BN等が添加されている。磁性結晶粒が粒界相で分離されたグラニュラー構造とすることにより、粒界相材料を含まない場合と比較して、磁性粒子間の交換結合を低減し、媒体SN比(signal−to−noise ratio)を改善できることが知られている。
【0007】
一方、軟磁性下地層(軟磁性裏打ち層)を形成することにより書き込み特性や重ね書き特性が改善することが知られている。
【0008】
軟磁性下地層としては例えば、特許文献1にFeCoTaZr非晶質合金を用いることが開示されている。また、特許文献2、3には、NiFe、CoF合金等の結晶質構造の軟磁性下地層や、FeTaC合金等の微結晶構造の軟磁性下地層を用いることが開示されている。磁性層にL1型FePt合金を用いる高Ku媒体の場合、L1型結晶構造の規則度改善のため、一般的には500℃以上の基板加熱を行う必要がある。このため、軟磁性下地層には、500℃以上の加熱によっても軟磁気特性が劣化しない材料が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−158053号公報
【特許文献2】特開2010−182386号公報
【特許文献3】特開2011−146089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、近年磁気記録媒体には、媒体SN比や重ね書き特性のさらなる向上が求められており、磁性層に粒界相材料を添加する方法や、特許文献に開示された軟磁性下地層を設けるのみでは、要求される性能を満たすことができなくなっている。
【0011】
本発明は、上記従来技術が有する問題に鑑み、媒体SN比が高く、重ね書き特性に優れた磁気記録媒体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、基板と、
L1構造を有する合金を含む磁性層と、
前記基板と、前記磁性層との間に配置された複数の下地層と、
を有しており、
前記複数の下地層のうち少なくとも1層が、(11・0)面が前記基板面と平行となるように配向した、Co金属またはCoを主成分とした六方最密充填構造を有する合金により構成された軟磁性下地層であることを特徴とする磁気記録媒体を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、媒体SN比が高く、重ね書き特性に優れた磁気記録媒体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第2の実施形態における磁気記録装置の構成図。
図2】本発明の第2の実施形態における磁気ヘッドの構成図。
図3】実験例1で作製した磁気記録媒体の層構成の断面模式図。
図4】実験例2で作製した磁気記録媒体の層構成の断面模式図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
[第1の実施態様]
本実施形態の磁気記録媒体の構成例について以下に説明する。
【0016】
本実施形態の磁気記録媒体は、基板と、L1構造を有する合金を含む磁性層と、基板と、磁性層との間に配置された複数の下地層と、を有している。そして、複数の下地層のうち少なくとも1層が、(11・0)面が基板面と平行となるように配向した、Co金属またはCoを主成分とした六方最密充填構造を有する合金により構成された軟磁性下地層により構成することができる。
【0017】
ここで、各層について説明する。
【0018】
基板としては特に限定されるものではないが、例えばガラス基板を用いることができ、特に耐熱ガラス基板を好ましく用いることができる。
【0019】
そして、本実施形態の磁気記録媒体においては、基板と、後述するL1構造を有する合金を含む磁性層との間に、複数の下地層を設けることができる。
【0020】
そして、複数の下地層のうち少なくとも1層を軟磁性下地層により構成することができる。係る軟磁性下地層について説明する。
【0021】
ここで、軟磁性下地層の磁気異方性は、膜面内方向に向いていることが望ましい。また、後述する磁性層中のL1構造を有する合金は(001)配向をとっていることが好ましい。このため、軟磁性下地層には、L1構造を有する合金の(001)配向を妨げない材料を用いることが好ましい。
【0022】
上記軟磁性下地層は、(11・0)面が前記基板面と平行となるように配向した、Co金属またはCoを主成分とした六方最密充填構造(以下、「HCP構造」とも記載する)を有する合金(以下、「Co合金」とも記載する)により構成することができる。
【0023】
軟磁性下地層に用いるCo金属、Co合金は、結晶質であるが、媒体SN比や書き込み特性、重ね書き特性OWを改善させる機能を有している。また、上述のように(11・0)面が基板面と略平行となる配向をとっているため、磁化方向は膜面内となり、信号再生時に再生ヘッドに大きな影響を及ぼさない。
【0024】
軟磁性下地層は高い磁化を有することが望ましいので、Co合金に含まれる添加元素の添加量は少ないことが望ましい。ただし、格子ミスフィットを緩和するため、あるいは磁化を高めるため、軟磁性下地層は、Fe、Ni、Cr、Mn、V、Ru、Re、Pt、Pdからなる元素群から選択される少なくとも一種類の元素を含有することが好ましい。Co合金のHCP構造を劣化させない範囲であれば、上記添加元素の添加量に特に制限はないが、概ね30at%以下とするのが望ましい。
【0025】
軟磁性下地層は、上記した所定のCo金属またはCo合金からなる単層構造でもよいが、非磁性中間層を介した積層構造としてもよい。非磁性中間層は、特に限定されるものではないが、例えばV、Cr、Ru、Cu、Ir、Nb、Mo、Re、Rh、Ta、W、Re、Ir等により構成することができる。上記非磁性中間層を介して、Co金属またはCo合金からなる軟磁性下地層を反強磁性結合させることにより、漏洩磁化が相殺され、媒体ノイズを低減することができる。
【0026】
軟磁性下地層は、上述のように(11・0)面が基板面と平行となる配向性を有している。軟磁性下地層をこのような配向とする方法は特に限定されるものではないが、例えば、第1の配向制御下地層を設け、第1の配向制御下地層上に軟磁性下地層を形成する方法が挙げられる。すなわち、複数の下地層が、配向制御下地層を含んでおり、軟磁性下地層が配向制御下地層の上に形成されていることが好ましい。
【0027】
第1の配向制御下地層の構成は特に限定されるものではなく、HCP構造を有するCo金属またはCo合金からなる軟磁性下地層を(11・0)配向とすることができるものであればよい。また、複数の層により構成することもできる。第1の配向制御下地層としては例えば、Cr金属またはCrを主成分としてBCC構造を有する合金により構成された下地層を好ましく用いることができる。
【0028】
Crを主成分としてBCC構造を有する合金は、Mn、V、Ti、Mo、W、Nb、Ruからなる元素群から選択される少なくとも一種類の元素を含有していることが好ましい。すなわち、Crを主成分としてBCC構造を有する合金としては例えば、CrTi、CrV、CrMn、CrMo、CrW、CrRu等の合金を好ましく用いることができる。
【0029】
なお、ここで、Crを主成分とする合金とは、該合金に含まれる成分(元素)のうちCrが物質量比で最も多いことを意味している。
【0030】
また、第1の配向制御下地層としては例えば、B2構造を有するNiAl合金またはRuAl合金により構成された下地層も好ましく用いることができる。また、第1の配向制御下地層としては、MgOにより構成された下地層も好ましく用いることもできる。
【0031】
このような第1の配向制御下地層を形成する場合、上述のように軟磁性下地層は、第1の配向制御下地層の上に形成することが好ましく、特に、第1の配向制御下地層の直上に形成することが好ましい。
【0032】
なお、第1の配向制御下地層は、例えばヒートシンク層や熱バリア層等を設ける場合に、軟磁性下地層以外のこれらの層についても、所望の配向とすることができる。
【0033】
第1の配向制御下地層は、上記軟磁性下地層を(11・0)配向とするため、(100)配向を有していることが好ましい。そして、係る第1の配向制御下地層上にCo金属またはCo合金により軟磁性下地層を形成することにより、該Co金属またはCo合金により形成された軟磁性下地層を(11・0)配向とすることができる。これは、Co金属またはCo合金が第1の配向制御下地層上にエピタキシャル成長するためである。この際、良好なエピタキシャル成長を促進するため特に、Co金属またはCo合金下地層の(11・0)面と、第1の配向制御下地層の(100)面の格子ミスフィットは概ね10%以下とすることが好ましい。第1の配向制御下地層の格子定数は、例えば第1の配向制御下地層がCr合金により構成される場合、Crに添加する元素の添加量により調整することができる。
【0034】
複数の下地層にはさらに、ヒートシンク層を含むこともできる。ヒートシンク層の構成は特に限定されるものではないが、例えばCu、Ag、Au、Al、もしくはこれらを主成分とする材料により構成することができる。
【0035】
ヒートシンク層の配置は特に限定されるものではないが、例えば、上記第1の配向制御下地層を複数層設け、該第1の配向制御下地層の層間に配置することもできる。
【0036】
次に、磁性層について説明する。
【0037】
磁性層は、L1構造を有する合金を含む構成とすることができる。ここで、L1構造を有する合金としては特に限定されるものではないが、例えば、L1構造を有するFePt合金またはL1構造を有するCoPt合金を好ましく用いることができる。磁性層中において、L1構造を有する合金は主成分として含まれていることが好ましい。ここで、主成分とは、磁性層中において物質量比率において、最も含有量が多い成分である場合を意味している。
【0038】
そして、磁性層中において、L1構造を有する合金の結晶粒は磁気的に孤立しているこが好ましいため、磁性層は粒界相を含有していることが好ましい。具体的には磁性層は粒界相としては例えば、SiO、TiO、Cr、Al、Ta、ZrO、Y、CeO、MnO、TiO、ZnO、C、B、B、BNから選択される少なくとも一種類の物質を含有していることが好ましい。磁性層は粒界相を含有していることにより、結晶粒間の交換結合が分断され、媒体ノイズを低減することができる。
【0039】
L1構造を有する合金の規則化を促進するため、磁性層形成時の基板温度は600℃以上とすることが望ましい。また、規則化温度を低減するため、L1構造を有する合金に、Ag、Au、Cu、Ni等を添加してもよい。この場合、磁性層形成時の基板温度を400〜500℃程度まで低減できる。なお、基板は、上記温度まで加熱できるように耐熱ガラス基板を用いることが好ましい。
【0040】
そして、磁性層は、軟磁性下地層上に熱バリア層を介して形成されることが好ましい。熱バリア層は、磁性層が記録時にレーザー加熱された際、磁性層から基板方向への熱拡散を抑制し、磁性層の温度を高めることができる。また、熱バリア層を設けることにより。磁性層に用いられるL1構造を有する合金が(001)配向をとり易くすることもできる。
【0041】
熱バリア層を設ける場合、熱バリア層の材料としては、熱伝導率が比較的低く、L1構造を有する合金の(001)面と格子定数が近い材料を好ましく用いることができる。具体的には、例えばNaCl構造を有するTiN、TaN、TiC、MgO、NiO等を好ましく用いることができる。
【0042】
L1構造を有する合金を(001)配向とするため、熱バリア層を設ける場合、熱バリア層は(100)配向とすることが好ましい。そして、熱バリア層を良好な(100)配向をするため、軟磁性下地層と熱バリア層との間にさらに第2の配向制御下地層を配置することもできる。
【0043】
軟磁性下地層と熱バリア層との間に第2の配向制御下地層を設ける場合、第2の配向制御下地層の材料は特に限定されるものではないが、軟磁性下地層および熱バリア層の双方との格子ミスフィットが小さい材料を好ましく用いることができる。また、熱バリア層の膜面内方向に引っ張り応力を導入できるように格子定数の高い材料を用いることもできる。熱バリア層の結晶格子を膜面内方向に拡大させることにより、L1構造を有する合金の結晶格子も膜面内方向に拡大され、L1構造を有する合金の規則度を更に改善できる。また、第2の配向制御下地層に熱伝導率の高い材料を用い、ヒートシンク層として機能させてもよい。
【0044】
以上の観点から、軟磁性下地層と熱バリア層との間に第2の配向制御下地層を配置する場合、第2の配向制御下地層の材料としては、例えば、Cr、V、Mo、W、Ta、Nbから選択されるいずれかの金属、または、Cr、V、Mo、W、Ta、Nbから選択される1以上の金属(元素)を主成分としたBCC構造を有する合金を好ましく用いることができる。また、軟磁性下地層と熱バリア層との間に配置する第2の配向制御下地層の材料としては、AgまたはAgを主成分とするFCC構造を有する合金等も好ましく用いることができる。
【0045】
上述した第2の配向制御下地層を構成する材料は、(11・0)配向した軟磁性下地層上にエピタキシャル成長して(100)配向をとるため、その上に形成される熱バリア層を(100)配向とすることができる。第2の配向制御下地層には上記金属または合金を単層で用いてもよいし、上記金属または合金から構成される複数の層から構成される多層構成としてもよい。多層構造とする場合、構成する一部または全部の層をヒートシンク層としても機能させることもできる。
【0046】
磁性層上にはさらに、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)保護膜を形成することが好ましい。
【0047】
DLC保護膜の形成方法は特に限定されるものではない。例えば、炭化水素からなる原料ガスを高周波プラズマで分解して膜を形成するRF−CVD法、フィラメントから放出された電子で原料ガスをイオン化して膜を形成するIBD法、原料ガスを用いずに固体Cターゲットを用いて膜を形成するFCVA法等によって形成できる。
【0048】
DLC保護膜の膜厚は特に限定されるものではないが、例えば1nm以上6nm以下とすることが好ましい。DLC保護膜の膜厚が1nm未満の場合、磁気ヘッドの浮上特性が劣化する場合があり好ましくない。また、DLC保護膜の膜厚が6nmより厚くなると磁気スペーシングが大きくなり、媒体SN比が劣化する場合があり好ましくない。
【0049】
DLC保護膜上にはさらに、パーフルオロポリエーテル系のフッ素樹脂からなる潤滑剤を塗布することもできる。
【0050】
また、上述した層以外にも、シード層や、接着層等を必要に応じて任意に設けることができる。
【0051】
本実施形態の磁気記録媒体は、Co金属またはCo合金から構成される所定の軟磁性下地層を有するため、媒体SN比が高く、重ね書き特性に優れた磁気記録媒体とすることができる。また、本実施形態の磁気記録媒体は、例えば熱アシスト記録方式の磁気記録媒体や、高周波アシスト記録方式の磁気記録媒体として好ましく用いることができる。
[第2の実施形態]
本実施形態の磁気記憶装置の構成例について以下に説明する。なお、本実施形態では熱アシスト記録方式による磁気記憶装置の構成例について説明するが、係る形態に限定されるものではなく、第1の実施形態で説明した磁気記録媒体は、マイクロ波アシスト記録方式による磁気記憶装置とすることもできる。
【0052】
本実施形態の磁気記憶装置は、第1の実施形態で説明した磁気記録媒体を有する磁気記憶装置とすることができる。
【0053】
磁気記憶装置においては例えば、さらに、磁気記録媒体を回転させるための磁気記録媒体駆動部と、先端部に近接場光発生素子を備えた磁気ヘッドとを有する構成とすることができる。また、磁気記録媒体を加熱するためのレーザー発生部と、レーザー発生部から発生したレーザー光を近接場光発生素子まで導く導波路と、磁気ヘッドを移動させるための磁気ヘッド駆動部と、記録再生信号処理系と、を有することができる。
【0054】
磁気記憶装置の具体的な構成例を図1に示す。
【0055】
例えば本実施形態の磁気記憶装置100は図1に示す構成とすることができる。具体的には、磁気記録媒体101と、磁気記録媒体を回転させるための磁気記録媒体駆動部102と、磁気ヘッド103と、磁気ヘッドを移動させるための磁気ヘッド駆動部104と、記録再生信号処理系105等により構成できる。
【0056】
そして、磁気ヘッド103として、例えば図2に示した熱アシスト記録用ヘッド200を用いることができる。係る熱アシスト記録用ヘッド200は、記録ヘッド208、再生ヘッド211を備えている。記録ヘッド208は、主磁極201、補助磁極202、磁界を発生させるためのコイル203、レーザー発生部となるレーザーダイオード(LD)204、LDから発生したレーザー光205を近接場光発生素子206まで伝達するための導波路207を有する。再生ヘッド211はシールド209で挟まれた再生素子210を有する。
【0057】
そして、磁気記録媒体212(101)として、上述のように第1の実施形態で説明した磁気記録媒体を用いている。このため、エラーレートが低い磁気記憶装置とすることができる。
【実施例】
【0058】
以下に具体的な実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実験例1)
図3に本実施例で作製した磁気記録媒体300の層構成の一例を示す。
【0059】
2.5インチ耐熱ガラス基板301上に、膜厚が30nmのTi−45at%Alにより構成される接着層302を形成したのち、300℃の基板加熱を行った。
【0060】
次いで、膜厚が30nmのCr−10at%Mnにより構成される第1の配向制御下地層303を形成した。さらに、膜厚が100nmの軟磁性下地層304を形成した。軟磁性下地層は表1に示した材料を用いて形成した。具体的には、実施例1.1はCo−10at%Feを、実施例1.2はCo−20at%Niを、実施例1.3はCo−5at%Fe−5at%Niを、実施例1.4はCo−15at%Mnを、実施例1.5はCo−25at%Vを、実施例1.6はCo−20at%Ruを、実施例1.7はCo−10at%Fe−10at%Ruを、実施例1.8はCo−20at%Reを、実施例1.9はCo−6at%Ptを、実施例1.10はCo−12at%Pdをそれぞれ用いて形成した。なお、比較例1として軟磁性下地層を形成せずに、第1の配向制御下地層303上に、第2の配向制御下地層305を直接形成した磁気記録媒体も作製した。
【0061】
次いで、膜厚10nmのCr−30at%Moにより構成される第2の配向制御下地層305と、膜厚が30nmのAg−10%Pdにより構成されるヒートシンク層306と、膜厚が4nmのTiNにより構成される熱バリア層307と、を形成し、600℃で基板加熱を行った。そしてさらに、膜厚が8nmの(Fe−50%Pt)−30at%C−5mol%BNにより構成される磁性層308、膜厚が3nmのDLC膜である保護膜309を形成した。
【0062】
作製した実施例1.1〜実施例1.10の磁気記録媒体のX線回折測定を行った。これによると、何れの媒体においても、TiAl接着層302からは明瞭な回折ピークが観察されなかった。よって、TiAl接着層は非晶質構造と考えられる。また、CrMn第1の配向制御下地層303からは、BCC(200)ピークのみが観察され、軟磁性下地層304からは、HCP(11・0)回折ピークのみが観察された。これは、(100)配向したCrMn第1の配向制御下地層303上に、HCP構造を有するCo合金がエピタキシャル成長して(11・0)配向をとっていることを示している。また、軟磁性下地層304上に形成された、CrMo第2の配向制御下地層305、AgPdヒートシンク層306からは、(200)ピークのみが観察された。よって、これらの層もエピタキシャル成長により、共に(100)配向をとっていることがわかる。TiN熱バリア層307は膜厚が薄いため、明瞭な回折ピークが観察されなかった。ただし、磁性層308からは、L1−FePt(001)回折ピークと、L1−FePt(002)とFCC−FePt(200)の混合回折ピークのみが観察されたため、TiN熱バリア層307は(100)配向したNaCl型構造を有すると推認される。
【0063】
上記磁性層308のL1−FePt(002)とFCC−FePt(200)との混合ピークに対するL1−FePt(001)ピーク強度比は1.8と高い値を示しており、FePt合金のL1規則度は極めて良好であることが確認できた。
【0064】
作製した実施例1.1〜実施例1.10、比較例1の磁気記録媒体の表面にパーフルオルエーテル系の潤滑剤を塗布し、図2に示した熱アシスト記録用ヘッドを用いて記録再生特性を評価した。
【0065】
本実験例で使用した熱アシスト記録用ヘッド200は図2に示すように、記録ヘッド208、再生ヘッド211を備えている。記録ヘッド208は、主磁極201、補助磁極202、磁界を発生させるためのコイル203、レーザーダイオード(LD)204、LDから発生したレーザー光205を近接場光発生素子206まで伝達するための導波路207を有する。再生ヘッド211はシールド209で挟まれた再生素子210を有する。近接場光素子から発生した近接場光により媒体212を加熱し、媒体の保磁力をヘッド磁界以下まで低下させて記録できる。
【0066】
上記熱アシスト記録用ヘッド200を用いて記録再生特性として、実施例1.1〜実施例1.10、比較例1の磁気記録媒体の媒体SN比および重ね書き特性OWの評価を行った。評価は線記録密度を1600kFCIとし、トラックプロファイルの半値幅が55nmとなるようにレーザーダイオード(LD)204のパワーを調整して行った。結果を表1に示す。
【0067】
【表1】
実施例1.1〜実施例1.10の磁気記録媒体は、いずれも10.5dB以上の高い媒体SN比を示し、重ね書き特性OWも36dB以上であった。
【0068】
特にRu、Re、PtもしくはPdを含有した軟磁性下地層304を用いた実施例1.6〜実施例1.10の磁気記録媒体は、媒体SN比が12dB以上と特に高い媒体SN比を示した。
【0069】
また、FeまたはNiを含有する軟磁性下地層304を用いた実施例1.1、実施例1.2、実施例1.7の磁気記録媒体は40dB以上の特に高い重ね書き特性OWを示した。一方、軟磁性下地層304を形成しない比較例1の磁気記録媒体は、実施例1.1〜1.10の磁気記録媒体に比べて、媒体SN比および重ね書き特性OWが著しく低くなっている。
【0070】
以上の本実験例の結果より、所定の軟磁性下地層を形成することにより、媒体SN比および重ね書き特性OWを大幅に改善できることが確認できた。
(実験例2)
図4に本実験例で作製した磁気記録媒体400の層構成の一例を示す。
【0071】
2.5インチ耐熱ガラス基板401上に、膜厚が30nmであり、Cr−50at%Tiにより構成される接着層402を形成後、300℃の基板加熱を行い膜厚が20nmのCr−20at%Moから構成される第1の配向制御下地層403を形成した。
【0072】
その後、膜厚が50nmのAg−1at%Biにより構成されるヒートシンク層404と、膜厚が10nmのCr−20at%Moにより構成される第2の配向制御下地層405と、膜厚が30nmの軟磁性下地層406と、を形成した。軟磁性下地層406は表2に示した材料を用いて形成した。具体的には、実施例2.1はCo−10at%Fe−10at%Crを、実施例2.2はCo−10at%Fe−10at%Ruを、実施例2.3はCo−20at%Fe−10at%Ptを、実施例2.4はCo−20at%Fe−15at%Pdを、実施例2.5はCo−15at%Ni−10at%Vを、実施例2.6はCo−20at%Ni−8at%Pdをそれぞれ用いて形成した。
【0073】
更に、膜厚が20nmのCr−20at%Moにより構成される第3の配向制御下地層407と、膜厚が2nmのMgOにより構成される熱バリア層408と、膜厚が7nmの(Fe−45%Pt)−30at%Cにより構成される磁性層409とを形成した。
【0074】
磁性層409の上に保護膜410として膜厚が3nmのDLC膜を形成した。
なお、比較例2として、軟磁性下地層406を形成せずに、第2の配向制御下地層405上に第3の配向制御下地層407を形成した磁気記録媒体も作製した。
【0075】
作製した実施例2.1〜実施例2.6、比較例2の磁気記録媒体の表面にパーフルオルエーテル系の潤滑剤を塗布し、実施例1で示した熱アシスト記録用ヘッドを用いて記録再生特性である媒体SN比と重ね書き特性OWの評価を行った。結果を表2に示す。なお、測定条件は、実験例1の場合と同様にして行った。
【0076】
【表2】
実施例2.1〜実施例2.6の磁気記録媒体はいずれも10dB以上の高い媒体SN比と、33dB以上の高い重ね書き特性OWを示した。
【0077】
特に、軟磁性下地層406にCo−Fe−Ru合金を用いた実施例2.2の磁気記録媒体が特に高い媒体SN比と重ね書き特性OWを示した。
【0078】
一方、軟磁性下地層406を形成しなかった比較例2の磁気記録媒体の媒体SN比は9dB以下で、重ね書き特性OWは30dB以下であり、実施例2.1〜実施例2.6の磁気記録媒体と比較して、媒体SN比、重ね書き特性OWが劣ることが確認された。
【0079】
以上より、所定の軟磁性下地層を形成することにより、媒体SN比および重ね書き特性OWを大幅に改善できることが確認できた。
(実施例3)
実験例1で示した実施例1.1〜実施例1.10と、比較例1の磁気記録媒体を、図2に示した磁気記憶装置に組み込んだ。
【0080】
本実験例で用いた磁気記憶装置100は、既述のように磁気記録媒体101と、磁気記録媒体を回転させるための磁気記録媒体駆動部102と、磁気ヘッド103と、磁気ヘッドを移動させるための磁気ヘッド駆動部104と、記録再生信号処理系105から構成される。なお、磁気ヘッド103には、実験例1で示した熱アシスト記録用磁気ヘッドを用いた。
【0081】
表3に線記録密度1600kFCI、トラック密度500kFCI(面記録密度800Gbit/inch)の条件で評価したビットエラーレート(BER)の値を示す。実施例1.1〜実施例1.10の磁気記録媒体を組み込んだ磁気記憶装置は、何れも1×10−7以下の低いビットエラーレートを示すことが確認された。
【0082】
実験例1で特に高い媒体SN比を示した実施例1.6〜実施例1.10の磁気記録媒体は、LogBERが−7.5〜−7.8と、特に低いエラーレートを示した。
【0083】
一方、比較例1の磁気記録媒体を組み込んだ磁気記憶装置のビットエラーレートは、1×10−4台であり、ビットエラーレートが特に高くなっていることが確認できた。
【0084】
以上より、所定の軟磁性下地層を配置した磁気記録媒体を有する磁気記憶装置においては、ビットエラーレートを低減できることが確認できた。
【表3】
【符号の説明】
【0085】
100 磁気記憶装置
101、212 磁気記録媒体
301、401 ガラス基板
304、406 軟磁性下地層
308、409 磁性層
図1
図2
図3
図4