特許第6073197号(P6073197)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6073197
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】軽油製造システムおよび軽油製造方法
(51)【国際特許分類】
   C10G 3/00 20060101AFI20170123BHJP
   C10G 69/04 20060101ALI20170123BHJP
   C10G 11/10 20060101ALI20170123BHJP
   C10G 45/36 20060101ALI20170123BHJP
   C10G 45/40 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
   C10G3/00 Z
   C10G69/04
   C10G11/10
   C10G45/36
   C10G45/40
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-156317(P2013-156317)
(22)【出願日】2013年7月29日
(65)【公開番号】特開2015-25089(P2015-25089A)
(43)【公開日】2015年2月5日
【審査請求日】2016年5月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000133032
【氏名又は名称】株式会社タクマ
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 一毅
(72)【発明者】
【氏名】鮫島 良二
(72)【発明者】
【氏名】藤平 弘樹
【審査官】 ▲来▼田 優来
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−162649(JP,A)
【文献】 特開2011−032408(JP,A)
【文献】 特表2012−509955(JP,A)
【文献】 特開昭57−205484(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマスを原料として含む原料油を貯留する原料タンクと、該原料油をろ過するろ過器と、該ろ過器でろ過された前記原料油を予熱する予熱器と、該予熱器で予熱された前記原料油を接触させて、炭化水素からなる分解油に変換する固体触媒を有する反応器と、該反応器から供出された該分解油から重質留分を凝縮させて、該重質留分以外の炭化水素油をガス状態で供出する高温分留塔と、該高温分留塔から供出された該炭化水素油から軽質留分を凝縮させ、該軽質留分以外のガス成分・ナフサ成分および灯油成分を供出する低温分留塔と、該低温分留塔で凝縮されて分離された前記軽質留分を冷却する冷却塔と、該冷却塔で冷却された該軽質留分を回収する軽油回収部と、を有するとともに、
前記反応器から供出された前記分解油の全量あるいはその一部、または前記高温分留塔から供出された前記炭化水素油の全量あるいはその一部が供給され、該分解油または炭化水素油に含まれる不飽和化合物中の不飽和結合部を飽和結合に変換する還元触媒が配設された安定化処理部を有し、該安定化処理部において、前記高温分留塔および低温分留塔の内部圧力と略同等の圧力条件下で該分解油または炭化水素油を安定化させて、前記高温分留塔または前記低温分留塔に供出することを特徴とする軽油製造システム。
【請求項2】
前記高温分留塔で凝縮されて分離された前記重質留分を前記反応器に供給する第1循環流路と、前記低温分留塔から排出された前記ガス成分・ナフサ成分および灯油成分の一部を前記安定化処理部へ供給する第2循環流路と、をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の軽油製造システム。
【請求項3】
前記反応器の上方に前記高温分留塔または前記安定化処理部が設置され、前記反応器の上部開口部と、前記高温分留塔または前記安定化処理部の底部開口部が、直線状の第1連結管で連結された構造を有するとともに、前者においては、さらに前記高温分留塔の上方に前記安定化処理部が設置され、前記高温分留塔の上部開口部と前記安定化処理部の底部開口部が、直線状の第2連結管で連結された構造を有し、後者においては、さらに前記安定化処理部の上方に前記高温分留塔が設置され、前記安定化処理部の上部開口部と前記高温分留塔の底部開口部が、直線状の第2連結管で連結された構造を有することを特徴とする請求項1または2に記載の軽油製造システム。
【請求項4】
前記還元触媒としてニッケル系触媒を用い、前記反応器から供出された前記分解油が前記高温分留塔に供給され、前記高温分留塔から供出された前記炭化水素油が前記安定化処理部において前記ニッケル系触媒によって安定化処理され、前記安定化処理部から供出された安定化処理された安定成分が前記低温分留塔に供給されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の軽油製造システム。
【請求項5】
前記還元触媒として白金系やパラジウム系あるいは白金−パラジウム系触媒を用い、前記反応器から供出された前記分解油が前記安定化処理部において前記白金系やパラジウム系あるいは白金−パラジウム系触媒によって安定化処理され、前記安定化処理部から供出された安定化処理された安定成分が前記高温分留塔に供給され、前記高温分留塔から供出された前記炭化水素油が前記低温分留塔に供給されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の軽油製造システム。
【請求項6】
バイオマスを原料として含む原料油をろ過するろ過工程と、該ろ過工程でろ過された前記原料油を予熱する予熱工程と、該予熱工程で予熱された前記原料油を固定触媒に接触させて、炭化水素からなる分解油に変換する触媒反応工程と、該触媒反応工程で得られた前記分解油から重質留分を凝縮させて、該重質留分以外の炭化水素油をガス状態で後段へ送る高温分留工程と、該高温分留工程から送られた該炭化水素油から軽質留分を凝縮させ、該軽質留分以外のガス成分・ナフサ成分および灯油成分を後段へ供出する低温分留工程と、該低温分留工程で凝縮されて分離された前記軽質留分を冷却する冷却工程と、該冷却工程で冷却された該軽質留分を回収する軽油回収工程と、を有するとともに、
前記触媒反応工程で得られた前記分解油の全量あるいはその一部、または前記高温分留工程で得られた前記炭化水素油の全量あるいはその一部が供給され、該分解油または炭化水素油に含まれる不飽和化合物中の不飽和結合部を飽和結合に変換する還元触媒が配設された安定化処理工程を有し、該安定化処理工程において、前記高温分留工程および低温分留工程の操作圧力と略同等の圧力条件下で該分解油または炭化水素油を安定化させて、前記高温分留工程または前記低温分留工程に供給されることを特徴とする軽油製造方法。
【請求項7】
前記低温分留工程から排出された前記ガス成分・ナフサ成分および灯油成分の一部を、前記安定化処理工程の還元成分あるいは水素源として利用する工程を、さらに含むことを特徴とする請求項6に記載の軽油製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体触媒を用いて製造する軽油製造システムおよび軽油製造方法に関する。特に、軽油の製造原料として、廃食油、植物系油脂、動物系油脂、各種鉱物油を単体または混合して用いることが可能な、接触分解法による軽油(以下「バイオ軽油」ということがある)の製造システムおよび軽油の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
廃食油等の油脂類を用いて軽油を製造する方法として、接触分解法がある(例えば特許文献1参照)。ゼオライト等の固体触媒の作用により、油脂のエステル結合部を開裂する脱炭酸分解反応によって、軽質留分の炭化水素を得ることができる。また、こうした接触分解法を用いた工業レベルの燃料油の製造装置では、バイオマスの処理に伴うコーク生成量が増大することから、原料油を反応帯域においてゼオライト等の特定の触媒を用いて接触分解反応処理を行い、かつ、処理に供された触媒を再生帯域において特定条件下で処理することによって、コークの生成量の増大が十分に抑制される。そのため、接触分解によりバイオマスを処理する方法において、バイオマスを効率よく且つ安定的に処理することができる流動接触分解装置が開示されている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−032408号公報
【特許文献2】特開2007−177193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、こうして従前のシステムによって作製された軽油等は、バイオ燃料として実用する場合において、いくつかの課題や要請があった。
(i)上記軽油等は、市販軽油と異なりオレフィンやカルボン酸等の二重結合や含酸素不飽和結合等を含むため、品質の安定性が低い傾向にあった。従って、こうした不飽和結合は、上記軽油等に対して、さらに水素化処理等を行うことによって取り除く必要があり、別途水素供給源を準備し、高圧条件下での水素化反応のための高圧反応装置や安全防爆装置を準備することが必要であった。従来のバイオマスからの軽油製造システムには、設備の拡大や付加設備の設置等を伴うため、設備面および経済面でも、そうした処理工程を付加し、燃料の酸化安定性を向上させることは事実上できなかった。
(ii)また、従来システムでバイオマスから製造される軽油は、主に大気中で保管する場合、燃料としての品質劣化が懸念された。窒素などの不活性ガスを充填した容器内であれば劣化を抑制できるが、取扱いが煩雑になることや、燃料製造コストアップに繋がるという課題があった。
【0005】
そこで、本発明は、上記状況に鑑みてなされたものであって、その目的は、こうした課題を解決し、長期的に品質の安定したバイオ軽油を製造し、さらにバイオ軽油の収率を向上させることができる軽油製造システムおよび軽油製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の軽油製造システムは、原料油を貯留する原料タンクと、該原料油をろ過するろ過器と、該ろ過器でろ過された前記原料油を予熱する予熱器と、該予熱器で予熱された前記原料油を接触させて、炭化水素からなる分解油に変換する固体触媒を有する反応器と、該反応器から供出された該分解油から重質留分を凝縮させて、該重質留分以外の炭化水素油をガス状態で供出する高温分留塔と、該高温分留塔から供出された該炭化水素油から軽質留分を凝縮させ、該軽質留分以外のガス成分・ナフサ成分および灯油成分(以下「ガス成分等」ということがある)を供出する低温分留塔と、該低温分留塔で凝縮されて分離された前記軽質留分を冷却する冷却塔と、該冷却塔で冷却された該軽質留分を回収する軽油回収部と、を有するとともに、前記反応器から供出された前記分解油の全量あるいはその一部、または前記高温分留塔から供出された前記炭化水素油の全量あるいはその一部が供給され、該分解油または炭化水素油に含まれる不飽和化合物中の不飽和結合部を飽和結合に変換する還元触媒が配設された安定化処理部を有し、該安定化処理部において、前記高温分留塔および低温分留塔の内部圧力と略同等の圧力条件下で該分解油または炭化水素油を安定化させて、前記高温分留塔または前記低温分留塔に供出することを特徴とする。
【0007】
また、本発明の軽油製造方法は、原料油をろ過するろ過工程と、該ろ過工程でろ過された前記原料油を予熱する予熱工程と、該予熱工程で予熱された前記原料油を固定触媒に接触させて、炭化水素からなる分解油に変換する触媒反応工程と、該触媒反応工程で得られた前記分解油から重質留分を凝縮させて、該重質留分以外の炭化水素油をガス状態で後段へ送る高温分留工程と、該高温分留工程から送られた該炭化水素油から軽質留分を凝縮させ、該軽質留分以外のガス成分・ナフサ成分および灯油成分を後段へ供出する低温分留工程と、該低温分留工程で凝縮されて分離された前記軽質留分を冷却する冷却工程と、該冷却工程で冷却された該軽質留分を回収する軽油回収工程と、を有するとともに、前記触媒反応工程で得られた前記分解油の全量あるいはその一部、または前記高温分留工程で得られた前記炭化水素油の全量あるいはその一部が供給され、該分解油または炭化水素油に含まれる不飽和化合物中の不飽和結合部を飽和結合に変換する還元触媒が配設された安定化処理工程を有し、該安定化処理部において、前記高温分留工程および低温分留工程の操作圧力と略同等の圧力条件下で該分解油または炭化水素油を安定化させて、前記高温分留工程または前記低温分留工程に供給されることを特徴とする。
【0008】
以上の構成によれば、高圧反応装置等の大掛かりな装置を用いずに、簡便な構成によって長期的に品質の安定したバイオ軽油を製造し、さらにバイオ軽油の収率を向上させることができる軽油製造システムおよび軽油製造方法を提供することが可能となった。具体的には、接触反応によって得られた分解油に含まれるオレフィンやカルボン酸等の二重結合や含酸素不飽和結合等を有する不飽和化合物中の不飽和結合を、還元触媒を用い、低圧条件下において取り除くことによって、分解油(または高温分留された炭化水素油)に含まれる不飽和化合物を安定化させることができる。さらに、こうして安定化された炭化水素油(安定化処理前の分解油から高温分留後に安定化された炭化水素油を含む)を低温分留することによって、品質の安定したバイオ軽油を効率よく作製することが可能となる。なお、ここでいう「高温」とは、約250〜300℃以上をいい、「低温」とは、約150〜200℃あるいはそれ以下をいう。
【0009】
本発明は、上記軽油製造システムであって、前記高温分留塔で凝縮されて分離された前記重質留分を前記反応器に供給する第1循環流路と、前記低温分留塔から排出された前記ガス成分・ナフサ成分および灯油成分の一部を前記安定化処理部へ供給する第2循環流路と、をさらに有することを特徴とする。
また、本発明は、上記軽油製造方法であって、前記低温分留工程から排出された前記ガス成分・ナフサ成分および灯油成分の一部を、前記安定化処理工程の還元成分あるいは水素源として利用する工程を、さらに含むことを特徴とする。
【0010】
上記のような還元触媒を用いた不飽和化合物の安定化には、水素等の還元成分が必要となる。本発明においては、基本的に接触分解反応によって発生する水素等の還元成分を利用することによって、バイオ軽油の安定性が確保できることを見出した。しかしながら、原料油の組成中に特に不飽和化合物が多い場合等、こうした還元成分の発生量が十分でない場合がある。一方、低温分留塔から排出されたガス成分・ナフサ成分および灯油成分(ガス成分等)中には、水素等の還元成分が含まれている。本発明は、こうしたガス成分等中の還元成分を安定化処理に利用することによって、別途還元成分を準備し供給することなく、所望の安定化処理を確保することを可能とした。
【0011】
本発明は、上記軽油製造システムであって、前記反応器の上方に前記高温分留塔または前記安定化処理部が設置され、前記反応器の上部開口部と、前記高温分留塔または前記安定化処理部の底部開口部が、直線状の第1連結管で連結された構造を有するとともに、前者においては、さらに前記高温分留塔の上方に前記安定化処理部が設置され、前記高温分留塔の上部開口部と前記安定化処理部の底部開口部が、直線状の第2連結管で連結された構造を有し、後者においては、さらに前記安定化処理部の上方に前記高温分留塔が設置され、前記安定化処理部の上部開口部と前記高温分留塔の底部開口部が、直線状の第2連結管で連結された構造を有することを特徴とする。
【0012】
こうした構成よって、全体の設置面積が小さくなり、かつ反応器,高温分留塔,安定化処理部を接続するガス導入ラインと還流ラインを同一構造にできるため、全体の構造をシンプルにできる。また、前者の構成によれば、反応器の上方に高温分留塔が対向して設置されるため、反応器からはガス状態の分解油が、上昇して高温分留塔へ導入される。一方、高温分留塔で凝縮された重質留分は、自重によって下方の反応器へ自然に移動(還流)し、再び接触分解される。また、さらに高温分留塔の上方に安定化処理部が対向して設置されるため、ガス状態の炭化水素油(残留する重質留分を含む)が、高温分留塔から安定化処理部へ導入される一方、安定化処理部で安定化された炭化水素油中になお残留する重質留分は、凝縮されて自重によって下方の高温分留塔へ自然に移動(還流)し、上昇するガスと分離される。本構成は、大半の重質留分が分離されたガス状態の炭化水素油を選択的に安定化処理することができるとともに、重質留分が効率よく接触分解され、効率的な軽質留分の抽出を行うことができる。
さらに、後者の構成によれば、反応器の上方に安定化処理部が対向して設置されるため、反応器からはガス状態の分解油が上昇して安定化処理部へ導入され、分解油の大半が安定化処理される。一方、安定化処理部で安定化された分解油中の一部は、凝縮されて自重によって下方の反応器へ自然に移動(還流)し、再び接触分解される。また、さらに安定化処理部の上方に高温分留塔が対向して設置されるため、ガス状態の分解油(重質留分を含む)が安定化処理部から高温分留塔へ導入される。高温分留塔で凝縮された重質留分は、自重によって下方の安定化処理部へ自然に移動(還流)し、再び安定化処理され、一部は軽質化されて上昇し高温分留塔へ移動する。こうした構成は、反応器−安定化処理部−高温分留塔実質的に2段階の重質留分の分離機能を有することから効率的な軽質留分の抽出を行うことができる。
【0013】
本発明は、上記軽油製造システムであって、前記還元触媒としてニッケル系触媒を用い、前記反応器から供出された前記分解油が前記高温分留塔に供給され、前記高温分留塔から供出された前記炭化水素油が前記安定化処理部において前記ニッケル系触媒によって安定化処理され、前記安定化処理部から供出された安定化処理された安定成分が前記低温分留塔に供給されることを特徴とする。
本発明者は、不飽和化合物に対する還元反応において、ニッケル系触媒を用いると、低温条件(具体的には150〜250℃)で高い反応効率を確保することができ、また、安定化処理前の分解油や炭化水素油について、凝縮温度が高いほど不飽和結合を有する化合物(不飽和化合物)が多く含まれるとの知見を得た。本発明は、高温条件(具体的には300〜400℃)の接触分解で得られた分解油を、高温分留(具体的には250〜350℃)によって重質留分を分離し、分離された炭化水素油に対して低温条件での安定化処理(還元反応)を行い、さらに低温分留(具体的には150〜250℃)によって、効率よく軽質留分を取り出すことを可能とした。つまり、重質留分が分離された炭化水素油を安定化処理することによって、これに含まれる不飽和化合物を効率的に還元処理することができることから、安定性の高い軽油留分を得ることができる。また、各処理を高温条件から順次低温条件に移行することによって、各処理における加熱−冷却に必要なエネルギーを最小量にすることができる。
【0014】
本発明は、上記軽油製造システムであって、前記還元触媒として白金系やパラジウム系あるいは白金−パラジウム系触媒を用い、前記反応器から供出された前記分解油が前記安定化処理部において前記白金系やパラジウム系あるいは白金−パラジウム系触媒によって安定化処理され、前記安定化処理部から供出された安定化処理された安定成分が前記高温分留塔に供給され、前記高温分留塔から供出された前記炭化水素油が前記低温分留塔に供給されることを特徴とする。
本発明者は、不飽和化合物に対する還元反応において、白金系やパラジウム系等の還元触媒を用いると、高温条件(具体的には300〜400℃)で高い反応効率を確保することができ、また、安定化処理前の分解油や炭化水素油について、凝縮温度が高いほど不飽和結合を有する化合物(不飽和化合物)が多く含まれるとの知見を得た。本発明は、高温条件の接触分解で得られた分解油を、その高温条件のまま安定化処理を行い、凝縮温度が高い不飽和化合物(重質留分を含む)に対しても還元処理を行うことによって、量的に多くの軽質留分を効率よく取り出すことを可能とした。つまり、不飽和化合物が多く含まれる分解油を高温で効率よく還元処理を行うことで、安定化処理後の分解油中の不飽和化合物を大幅に減少させ、実質的に重質留分を減少させて分解油の軽質化を図ることができる。重質留分が減少した分解油の高温分留を行い、さらに低温分留を行うことによって、安定性の高い軽油留分を量的に多く得ることができる。また、各処理を高温条件から順次低温条件に移行することによって、各処理における加熱−冷却に必要なエネルギーを最小量にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る軽油製造システムの基本構成例を示す概略図
図2】本発明に係る軽油製造システムの第2構成例を示す概略図
図3】本発明に係る軽油製造システムの第3構成例を示す概略図
図4】本発明に係る反応器,安定化処理部および高温分留塔の構成例を示す説明図
図5】本発明に係る軽油製造工程を例示するフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る軽油製造システムと軽油製造方法の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
<本発明に係る軽油製造システム>
本発明に係る軽油製造システム(以下「本製造システム」という)は、少なくとも、原料油を接触させて、炭化水素からなる分解油に変換する固体触媒を有する反応器と、反応器から供出された分解油から重質留分を凝縮させて、重質留分以外の炭化水素油をガス状態で供出する高温分留塔と、高温分留塔から供出された該炭化水素油から軽質留分を凝縮させ、軽質留分以外のガス成分・ナフサ成分および灯油成分(ガス成分等)を供出する低温分留塔と、低温分留塔で凝縮されて分離された軽質留分を冷却する冷却塔と、冷却塔で冷却された軽質留分を回収する軽油回収部と、分解油または炭化水素油に含まれる不飽和化合物中の不飽和結合部を飽和結合に変換する還元触媒が配設された安定化処理部を有する。安定化処理部において、高温分留塔および低温分留塔の内部圧力と略同等の圧力条件下で分解油または炭化水素油を安定化させて、高温分留塔または低温分留塔に供出することによって、高圧反応装置等の大掛かりな装置を用いずに、簡便な構成によって長期的に品質の安定したバイオ軽油を製造し、さらにバイオ軽油の収率を向上させることができる。
【0018】
ここで、原料油は、例えば廃食油、植物系油脂、動物系油脂、各種鉱物油を単体または混合したものである。廃食油としては、例えばてんぷら油、から揚げ油等である。植物系油脂としては、菜種油、大豆油、ゴマ油、紅花油、綿実油、米油、落花生油、ひまわり油、とうもろこし油、オリーブ油、パーム油、ココナッツ油、ジャトロファ油、ピーナッツ油等が挙げられる。動物系油脂としては、例えば牛脂(ヘット)、豚油(ラード)等が挙げられる。鉱物油としては、炭化水素系の各種鉱物油が挙げられる。
【0019】
〔本製造システムの基本構成例〕
本製造システムの基本構成例(第1構成例)を、図1に示す。原料タンク1に貯留された原料油が、これをろ過するろ過器2およびこれを予熱する予熱器3を介して、反応器4に導入される。反応器4には、固体触媒41が充填され、予熱された原料油が、これと接触して炭化水素からなる分解油に変換される。反応器4から供出された分解油は、高温分留塔5に導入され、重質留分を凝縮させて、重質留分と重質留分以外の炭化水素油に分離される。凝縮して分離された重質留分は、高温分留塔5の塔底部から回収される。高温分留塔5からガス状態で供出された炭化水素油は、安定化処理部6に導入される。安定化処理部6には、還元触媒61が充填され、炭化水素油に含まれる不飽和化合物中の不飽和結合部が飽和結合に変換される。安定化処理部6から供出された安定化処理済みの炭化水素油(以下「安定HC油」という)は、低温分留塔7に導入され、軽質留分を凝縮させて、軽質留分とそれ以外のガス成分等に分離される。凝縮して分離された軽質留分は、冷却塔8に導入されて冷却された後、軽油回収部9から回収される。分離されたガス成分等は、低温分留塔7の塔頂部から回収される。なお、ここでは、反応器4から供出された分解油が高温分留塔5に導入され、高温分留塔5から供出された炭化水素油の全量が安定化処理部6に導入され、さらに安定化処理部6から供出された安定HC油が低温分留塔7に導入される構成を示すが、これに限定されるものではなく、後述する構成例のように、種々の変形例を構成することが可能である。
【0020】
原料油は、ポンプPによって、原料タンク1からろ過器2に給送され、ろ過器2で不純物および異物を除去される。異物が固体触媒41や還元触媒61に付着することによって生じる接触分解反応や還元反応(安定化処理)の効率低下を、原料油中の異物を除去することで防止することができる。ろ過器2は、0.5〜5μm程度のフィルターで構成することで、所望のろ過機能を確保することができ、さらに1μm程度が好ましい。異物としては、例えば原料油がてんぷら油の場合の天カス等が挙げられる。なお、原料油を予めろ過器2でろ過してから原料油タンクに貯蔵しておいてもよい。
【0021】
ろ過された原料油は、予め予熱器3で加熱される。加熱温度は、原料油が気化しない温度範囲であって、効率良く触媒反応が行われる温度範囲が好ましく、例えば200〜400℃の温度範囲、好ましくは300〜350℃の温度範囲である。原料油を予熱して液体のまま触媒反応温度域にしているため、気化による酸化劣化がないので好ましい。予熱器3の熱源としては、後述するように、低温分留塔7で分離されたガス成分等の成分を用いることができる。
【0022】
加熱された原料油は、反応器4の上部から下部の固体触媒41へ噴霧ノズルによって噴霧供給される。噴霧された原料油は、固体触媒41に接触し、炭化水素混合物が主成分である分解油に連続的に変換される。分解油は、炭素9〜20のオレフィン・パラフィンを主成分とし、含酸素不飽和結合等を有する不飽和化合物を含有する。分解油は、ガス状態で後段の高温分留塔5に導入される。このとき、反応器4から出るガス状態の分解油の温度は、例えば350〜400℃である。
【0023】
接触分解法で用いられる固体触媒41としては、例えば活性化されたAl触媒や、ゼオライト、イオン交換樹脂、石灰、クレー、金属酸化物、金属炭酸塩、SiO−MgOやSiO−CaO等の複合酸化物または担持金属酸化物等が挙げられ、特に活性化されたAl触媒やSiO−MgOの担持金属酸化物が好ましい。この活性化されたAl触媒やSiO−MgOの担持金属酸化物を用いた場合、得られるディーゼル燃料の収率が60%以上となり好ましい。また、固体触媒を固定する方法は、特に制限されず、例えば固定部材に固体触媒を固定した固定床触媒層等が構成される。
【0024】
接触分解反応された分解油は、高温分留塔5に導入され、重質留分を凝縮させて、重質留分とそれ以外の炭化水素油に分離される。高温分留塔5の分留温度範囲は、軽油以上の沸点成分を分離させるのに好ましい温度範囲であり、例えば250〜350℃が好ましい。凝縮して分離された重質留分は、高温分留塔5の塔底部から回収される。分離されたガス状態の炭化水素油は、高温分留塔5上部から供出され、安定化処理部6に導入される。高温分留塔5での分留機能の詳細は、後述する。また、ここでは、高温分留塔5から供出された炭化水素油の全量が、安定化処理部6に導入され、さらに安定化処理部6から供出された安定HC油が、低温分留塔7に導入される構成を示すが、炭化水素油の一部を安定化処理部6に導入し、その他を安定化処理部6をバイパスして低温分留塔7に導入する構成とすることができる。炭化水素油中の不飽和成分が少ない場合等、軽質留分中に残存する不飽和成分が所定量以下となるように、必要量のみ安定化処理を行うことによって、所望の特性の軽油として回収することができる。
【0025】
250〜350℃に減温されたガス状態の炭化水素油は、安定化処理部6の底部から導入され、安定化処理部6に充填された還元触媒61と接触し、炭化水素油に含まれる不飽和化合物中の不飽和結合部が、飽和結合に変換され、安定性の高い炭化水素(安定HC油)を形成することができる。安定HC油は、炭素9〜20のパラフィンを主成分とし、一部飽和の含酸素化合物を含有する。安定HC油は、ガス状態で後段の低温分留塔7に導入される。従前の高圧条件下での水素化処理あるいは還元処理と異なり、高温分留塔および低温分留塔の内部圧力と略同等の圧力条件下において安定化処理することによって、簡便な構成によって長期的に品質の安定した還元処理を行うことができる。
【0026】
安定化処理に必要な還元成分としては、水素が挙げられる。還元触媒61を用いて、オレフィンやカルボン酸等の二重結合や含酸素不飽和結合等を有する不飽和化合物中の不飽和結合を、飽和結合に変換させることによって、化学的に安定な炭化水素あるいは含酸素炭化水素の飽和化合物を形成することができる。本製造システムにおいては、高温条件の接触分解反応によって得られたガス状態の分割油中には、水素等の還元成分が含まれることから、これらを還元成分として用いることができる。従前の過剰量の水素の供給が必要となる水素化処理と異なり、分解油中の不飽和化合物の安定化には十分な量の還元成分を確保することができる。しかしながら、原料油の組成中に特に不飽和化合物が多い場合等、こうした還元成分の発生量が十分でない場合がある。かかる場合は、後述するように、安定化処理された炭化水素油を低温分留によって得られるガス成分等中の水素等の一部を利用することができる。なお、ガス成分等でも不十分でない場合には、さらに必要最小量の水素等が外部から供給される。
【0027】
安定化処理に用いられる還元触媒61としては、例えば活性アルミナや珪藻土等の担体に担持されたニッケル化合物や多孔質状に成形された金属ニッケル等のニッケル系触媒、あるいは、同様の構成を有する白金系やパラジウム系あるいは白金−パラジウム系触媒等が挙げられ、特にニッケル系触媒は、比較的低温条件で高い還元機能を有することから好ましい。安定化処理部6の処理温度範囲は、不飽和化合物中の不飽和結合部が飽和結合に変換されるのに好ましい温度範囲であり、使用する還元触媒によって異なる。例えばニッケル系の触媒を用いた場合には、100〜300℃、好ましくは150〜250℃である。また、白金系やパラジウム系あるいは白金−パラジウム系触媒を用いた場合には、300〜400℃、好ましくは300〜350℃である。
【0028】
前者のニッケル系触媒を用いた場合には、高温分留(具体的には250〜350℃)によって重質留分を分離し、分離された炭化水素油に対して低温条件での安定化処理(還元反応)を行い、さらに低温分留(具体的には150〜250℃)によって、効率よく軽質留分を取り出すことを可能とした。つまり、重質留分が分離された炭化水素油を安定化処理することによって、これに含まれる不飽和化合物を効率的に還元処理することができることから、安定性の高い軽油留分を得ることができる。また、各処理を高温条件から順次低温条件に移行することによって、各処理における加熱−冷却に必要なエネルギーを最小量にすることができる。後者の白金系等を用いた場合には、後述するように、反応器4の下流側に安定化処理部6を設けることによって、反応器4から供出される高温(例えば350〜400℃)の分解油の温熱を利用することができることから、エネルギー効率が高い本製造システムを構成することができる。
【0029】
原料油が反応器4で接触分解反応することで得られた分解油は、安定化処理部6における安定化処理を介在させて高温分留塔5と低温分留塔7による2段階の分留が行われる。高温分留塔5の分留温度範囲は、上記のように、例えば250〜350℃で好ましく、低温分留塔7は、高温分留塔5の分留温度範囲よりも低い分留温度範囲であって、軽油以下の沸点成分を分離させるのに好ましい温度範囲であり、例えば120〜200℃の温度範囲が好ましく、110〜150℃の温度範囲がより好ましい。
【0030】
上記2段階の分留によって、分解油から、重質留分、軽質留分、燃焼性のガス成分・ナフサ成分および灯油成分(ガス成分等)、残渣(コーク)等の炭化水素油を連続的に分留する。そして、低温分留塔7で得られた液化成分の軽質留分を、冷却塔8において低温条件下(例えば常温〜数10℃)で冷却して低温の軽質留分(軽油)を得て、これを回収部9(例えば貯蔵タンクなど)で回収する。本発明によって製造された軽油は、JIS K2204規格に合致した軽油であり、従来のバイオディーゼル燃料(BDF(登録商標))、軽油代替燃料とは区別される。
【0031】
低温分留塔7で分離されたガス成分等は、ガス状態で排出される。低温分留塔7から出たガス成分等の温度は、例えば120〜200℃であり、予熱器3あるいは反応器4へ供給され熱源として利用することができる。また、その顕熱を利用するのみならず、ガス成分等を燃やし、その熱を利用する構成でもよい。外部から供給される熱源を低減することによって、エネルギー効率の高い軽油製造システムを形成することができる。また、後述するように、ガス成分中に水素が含まれる場合があることから、その一部は安定化処理部へ供給され水素源(還元成分)として利用される。
【0032】
〔本製造システムの第2構成例〕
本製造システムの第2構成例を、図2に示す。基本的な構成は、第1構成例と同様であるが、反応器4から供出された分解油の全量あるいはその一部が、安定化処理部6に導入される。安定化処理部6において、分解油に含まれる不飽和化合物中の不飽和結合部が飽和結合に変換される。図2では、分解油の全量が安定化処理部6に導入される構成を例示するが、これに限定されないことは既述の通りである。安定化処理部6から供出された安定化処理済みの分解油(以下「安定分解油」という)は、高温分留塔5に導入され、重質留分を凝縮させて、重質留分とそれ以外の炭化水素油に分離される。凝縮して分離された重質留分は、高温分留塔5の塔底部から回収される。回収された重質留分は、不飽和化合物が少なく、安定性の高い良質の重質燃料として利用することができる。高温分留塔5からガス状態で供出された炭化水素油は、低温分留塔7に導入され、軽質留分を凝縮させて、軽質留分とそれ以外のガス成分等と分離される。凝縮して分離された軽質留分は、冷却塔8に導入されて冷却された後、軽油回収部9から回収される。分離されたガス成分等は、低温分留塔7の塔頂部から回収される。なお、ここでは、反応器4から供出された分解油の全量が、安定化処理部6に導入され、さらに安定化処理部6から供出された安定分解油が、高温分留塔5に導入される構成を示すが、分解油の一部を安定化処理部6に導入し、その他を安定化処理部6をバイパスして高温分留塔5に導入する構成とすることができる。分解油中の不飽和成分が少ない場合等、軽質留分中に残存する不飽和成分が所定量以下となるように、必要量のみ安定化処理を行うことによって、所望の特性の軽油として回収することができる。
【0033】
このとき、安定化処理に用いられる還元触媒61としては、反応器4の下流側に安定化処理部6が設けられ、反応器4から供出される高温(例えば350〜400℃)の分解油の温熱を利用することができることから、比較的高温条件で高い還元機能を有する白金系やパラジウム系あるいは白金−パラジウム系触媒等を用いることが好ましい。上流側の反応器4から下流の冷却塔8まで、各処理を高温条件から順次低温条件に移行することによって、各処理における加熱−冷却に必要なエネルギーを最小量にすることができることから、エネルギー効率が高い本製造システムを構成することができる。
【0034】
また、高温条件の反応器4において接触分解された分解油を、その高温条件のまま安定化処理部6において安定化処理を行い、凝縮温度が高い不飽和化合物(重質留分を含む)に対しても還元処理を行うことによって、量的に多くの軽質留分を効率よく取り出すことができる。つまり、不飽和化合物が多く含まれる分解油を高温で効率よく還元処理を行うことで、安定化処理後の分解油中の不飽和化合物を大幅に減少させ、実質的に重質留分を減少させて分解油の軽質化を図ることができる。重質留分が減少した分解油の高温分留を行い、さらに低温分留を行うことによって、安定性の高い軽油留分を量的に多く得ることができる。
【0035】
〔本製造システムの第3構成例〕
本製造システムの第3構成例を、図3に示す。基本的な構成は、第1構成例と同様であるが、低温分留塔7から供出されたガス成分等の一部が、安定化処理部6に導入される。安定化処理部6において、炭化水素油中の還元成分だけでは不十分な場合に、ガス成分等に含まれる水素等を利用することによって、不飽和化合物中の不飽和結合部が、飽和結合に変換される。別途還元成分を準備し供給することなく、所望の安定化処理を確保することができる。なお、ガス成分等でも不十分でない場合には、さらに必要最小量の水素等が外部から供給される。また、本構成は、第2構成例における安定化処理部6対して適用することも可能である。
【0036】
また、図3に示すように、反応器4の上方に高温分留塔5が対向して配置され、反応器4と高温分留塔5が直線状の第1連結管L1で連結された構造を有し、さらに、高温分留塔5の上方に安定化処理部6が設置され、高温分留塔5と安定化処理部6が、直線状の第2連結管L2で連結された構造を有する。詳細には、図4(A)に示すように、反応器4の上方に高温分留塔5が対向して配置され、反応器4の上部開口部4aと、高温分留塔5の底部開口部5bとが直線状の第1連結管L1で連結された構造を有する。反応器4からはガス状態の分解油が、上昇して高温分留塔5へ導入され高温分留塔5で分留された重質留分が、その自重で下方に自然に流れ、反応器4へ戻る(還流される)。重質留分は、反応器4で固体触媒41と再度反応し、軽質留分、ガス成分、ナフサ成分、灯油成分に分解される。これにより、システム全体として軽油の収率が向上する。さらに、高温分留塔5の上方に安定化処理部6が設置され、高温分留塔5の上部開口部5aと安定化処理部6の底部開口部6bが、直線状の第2連結管L2で連結された構造を有する。高温分留塔5で分離されたガス状態の炭化水素油(残留する重質留分を含む)が、安定化処理部6へ導入される一方、安定化処理部6で安定化された炭化水素油中になお残留する重質留分は、凝縮されて自重によって下方の高温分留塔5へ自然に移動(還流)し、上昇するガスと分離される。大半の重質留分が分離されたガス状態の炭化水素油を選択的に安定化処理することができるとともに、重質留分が効率よく接触分解され、効率的な軽質留分の抽出を行うことができる。
【0037】
〔本製造システムの第4構成例〕
上記第3構成例の構成を第2構成例に適用した場合の詳細を、図4(B)に例示する。基本的な構成は、第2構成例と同様であるが、上記第3構成例同様、低温分留塔7から供出されたガス成分等の一部が、安定化処理部6に導入される。また、反応器4の上方に安定化処理部6が対向して配置され、反応器4と安定化処理部6が直線状の第1連結管L1で連結された構造を有し、さらに、安定化処理部6の上方に高温分留塔5が設置され、安定化処理部6と高温分留塔5が、直線状の第2連結管L2で連結された構造を有する。反応器4の上方に安定化処理部6が対向して配置され、反応器4の上部開口部4aと、安定化処理部6の底部開口部6bとが直線状の第1連結管L1で連結された構造を有する。反応器4からはガス状態の分解油が、上昇して安定化処理部6へ導入され安定化処理部6で分解油に含まれる不飽和化合物中の不飽和結合部が飽和結合に変換される(安定分解油)。安定分解油の一部は、凝縮されて自重によって第1連結管L1を介して下方の反応器4へ自然に移動(還流)し、再び接触分解される。これにより、システム全体として軽油の収率が向上する。さらに、安定化処理部6の上方に高温分留塔5が設置され、安定化処理部6の上部開口部6aと安定化処理部6の底部開口部5bが、直線状の第2連結管L2で連結された構造を有する。ガス状態の安定分解油が、高温分留塔5へ導入されて重質留分が凝縮され、重質留分とそれ以外の炭化水素油に分離される。凝縮された重質留分は、自重によって下方の安定化処理部6へ自然に移動(還流)し、再び安定化処理される。高温条件で固体触媒41による接触分解反応と還元触媒61による安定化処理を連続的に行い、かつ還流による循環系を形成することによって、安定性の高い安定分解油を後段の高温分留塔5に供給することができるとともに、有用性の高い安定性の高い重質留分を分離し、安定性の高い軽質留分の効率的な抽出を行うことができる。
【0038】
<本発明の軽油製造方法>
本発明の軽油製造方法(以下「本製造方法」)について以下に説明する。本製造方法は、上記本製造システムを用いて好適に実行される。本製造方法は、原料油をろ過するろ過工程と、ろ過工程でろ過された原料油を予熱する予熱工程と、予熱工程で予熱された原料油を固定触媒に接触させて、炭化水素からなる分解油に変換する触媒反応工程と、触媒反応工程で得られた分解油から重質留分を凝縮させて、重質留分以外の炭化水素油をガス状態で後段へ送る高温分留工程と、高温分留工程から送られた炭化水素油から軽質留分を凝縮させ、軽質留分以外のガス成分・ナフサ成分および灯油成分を後段へ供出する低温分留工程と、低温分留塔で凝縮されて分離された軽質留分を冷却する冷却工程と、冷却工程で冷却された軽質留分を回収する軽油回収工程と、触媒反応工程で得られた分解油の全量あるいはその一部、または高温分留工程で得られた炭化水素油の全量あるいはその一部が供給され、分解油または炭化水素油に含まれる不飽和化合物中の不飽和結合部を飽和結合に変換する還元触媒が配設された安定化処理工程を含む。安定化処理工程において、高温分留工程および低温分留工程の操作圧力と略同等の圧力条件下で該分解油または炭化水素油を安定化させて、高温分留工程または低温分留工程に供給されることによって、高圧反応装置等の大掛かりな装置を用いずに、簡便な構成によって長期的に品質の安定したバイオ軽油を製造し、さらにバイオ軽油の収率を向上させることができる。
【0039】
具体的には、図5(A)および(B)に示すように、原料油を適正な条件が設定された各工程において処理することによって、重質留分およびガス成分等が分離され、安定性の高い軽質留分を回収することができる。ここで、図5(A)は、上記第1または第3構成例に相当する本製造システムを用いた場合の工程を示し、図5(B)は、上記第2または第4構成例に相当する本製造システムを用いた場合の工程を示す。
【0040】
具体的に各工程を概説する。
(1)ろ過工程
原料油中の不純物や異物を、0.5〜5μm程度のフィルターを備えたろ過器によってろ過処理する。これによって、後段の固体触媒や還元触媒の汚染等を防止することができる。
(2)予熱工程
ろ過工程でろ過された原料油を、予め接触分解反応に適した温度条件(例えば200〜400℃)になるように予熱する。これによって、後段の固体触媒を活性化させ、接触分解機能を有効に利用することができる。
(3)触媒反応工程
予熱工程で予熱された原料油を固定触媒に接触させて、炭化水素からなる分解油に変換する。分解油は、炭素9〜20のオレフィン・パラフィンを主成分とし、含酸素不飽和結合等を有する不飽和化合物を含有する。分解油(分解ガスを含む)以外に残渣、コーク等が発生する。分解油は、例えば温度350〜400℃の、ガス状態で供出される。
(4)高温分留工程
触媒反応工程で得られたガス状態の分解油を、高温条件下(例えば250〜350℃)において、重質留分を凝縮させて、重質留分とそれ以外の炭化水素油に分離する。分離された重質留分は回収され、炭化水素油はガス状態で供出される。
(5)安定化処理工程
触媒反応工程で得られた分解油の全量あるいはその一部、または高温分留工程で得られた炭化水素油の全量あるいはその一部を還元触媒と接触させて、分解油または炭化水素油に含まれる不飽和化合物中の不飽和結合部を飽和結合に変換する。還元触媒として、例えばニッケル系の触媒を用いた場合には100〜300℃、白金系やパラジウム系あるいは白金−パラジウム系触媒を用いた場合には300〜400℃で処理することが好ましい。
(6)低温分留工程
高温分留工程から送られた炭化水素油を、低温条件(例えば110〜150℃)において、軽質留分を凝縮させて、軽質留分とそれ以外のガス成分等に分離する。分離されたガス成分等は回収されて本製造工程における燃料や還元成分として利用され、軽質留分は気液混合状態で供出される。
(7)冷却工程
低温分留工程で凝縮されて分離された軽質留分を、低温条件下(例えば常温〜数10℃)で冷却する。冷却され、液化した軽質留分は、安定化された軽油として回収される。
【0041】
また、低温分留工程から排出されたガス成分・ナフサ成分および灯油成分(ガス成分等)の一部を、安定化処理工程の還元成分あるいは水素源として利用する工程を、さらに含むことが好ましい。こうした工程によって、原料油の組成中に特に不飽和化合物が多い場合であっても、ガス成分等に含まれる安定性の高い水素等の還元成分を利用して、別途還元成分を準備し供給することなく、所望の安定化処理を確保することができる。
【0042】
<実施例>
上記本製造システムの第1および第2構成例を使用し、廃食油を製造原料として軽油を製造し、その機能を検証した。
【0043】
(i)検証条件
廃食油として1週間使用後のサラダ油を用いた。この実施例では、廃食油100Lに対し、12.5L/hの処理速度で軽油を製造した。固体触媒として、活性化されたAl触媒を用い、還元触媒として、第1構成例では、アルミナにニッケルを担持したニッケル系触媒(Ni−Al)を用いた。第2構成例では、アルミナに白金を担持したジ白金系触媒(Pt−Al)を用いた。
【0044】
(ii)検証方法
まず、廃食油を1μフィルターのろ過器で異物を除去した。次いで、予熱器で300℃程度まで加熱し原料液を得た。次いで、固定式触媒の反応器に、予熱された原料液を噴霧し、固体触媒に接触させて、分解油を得た。
(ii−1)第1構成例においては、分解油を高温分留塔に導入して250〜350℃で分留を行ない、重質留分とそれ以外の炭化水素油に分離し、ガス状態の炭化水素油を安定化処理部に導入し、還元触媒に接触させて、安定HC油を得た。次いで、安定HC油を低温分留塔に導入し、110〜150℃で分留した。
(ii−2)第2構成例においては、分解油を安定化処理部に導入し、還元触媒に接触させて、安定分解油を得た。次いで、安定分解油を高温分留塔に導入し、250〜350℃で分留を行ない、低温分留塔において110〜150℃で分留した。
以上から、重質留分、軽質留分およびガス成分等(ガス成分,ナフサ成分および灯油成分)を連続的に得た。
【0045】
このときの、各段階での温度条件、および生成した成分の組成を分析し、重量収支を算出した。その結果を表1,2に示す。表1は、上記第1構成例による場合、表2は、上記第2構成例による場合を示す。いずれも、良質の安定性の高い軽質留分(軽油)を収率よく回収することができた。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【符号の説明】
【0048】
1 原料油タンク
2 ろ過器
3 予熱器
4 反応器
41 固体触媒
5 高温分留器
6 安定化処理部
61 還元触媒
7 低温分留器
8 冷却塔
9 軽油回収部
P ポンプ
図1
図2
図3
図4
図5