【実施例2】
【0099】
メタノール資化性酵母Pichia pastorisの遺伝子レパートリーの拡張
非天然アミノ酸による蛋白質突然変異誘発の有用性を増すために、メタノール資化性酵母Pichia pastorisにおける組換え発現システムを開発した。8種類の非天然アミノ酸に特異的なアミノアシルtRNAシンテターゼ/サプレッサーtRNA(aaRS/tRNA
CUA)対を真核転写制御因子間に挿入し、P. pastorisゲノムに安定的に組込んだ。メタノール資化性酵母からの突然変異体蛋白質の収率は150mg l
−1を上回り、出芽酵母で報告されている収率よりも一桁以上良好であった。更に、ケトアミノ酸(p−アセチルフェニルアラニン,
図11,構造1)を組込んだヒト血清アルブミン突然変異体をこのシステムで効率的に発現させることができ、スロンボスポンジンペプチドミメティックと選択的に高収率で結合できることを示す。この手法によると、既存システムでは発現が実際的でない非天然アミノ酸との複合蛋白質を高収率で生産できると思われる。
【0100】
最近、本発明者らは新規性質を有する多様な非天然アミノ酸(フルオロフォア、金属イオンキレート基、フォトケージド基、光架橋基、NMR、結晶構造分析及びIR用プローブ、並びに翻訳後修飾アミノ酸)を原核生物と真核生物の両者で遺伝的にコードさせることが可能な手法を開発した
1−3。これはナンセンス又はフレームシフトコドンに応答して所望の非天然アミノ酸を選択的に挿入するように意図された直交アミノアシルtRNAシンテターゼ/サプレッサーtRNA(aaRS/tRNA
CUA)対の進化により達成される。これまでに、40種類を越える非天然アミノ酸を大腸菌、出芽酵母、及び数種類の哺乳動物細胞株の遺伝子レパートリーに追加するためにこの手法が利用されている
1,2,4。これらのシステムにおける直交性は、(翻訳における機能を維持しながら)宿主アミノアシル化機構と移植されるaaRS/tRNA対の間に交差アミノアシル化が生じないように別個のtRNA因子を有する直交aaRS/tRNA
CUA対を宿主生物に移植することにより達成される。現在のシステムでは、大腸菌
5ではMethanococcus jannaschiiチロシルRS/tRNA
CUA対から誘導され、出芽酵母
2,6又は哺乳動物細胞
4では大腸菌チロシル又はロイシルRS/tRNA
CUA対から誘導されるaaRS/tRNA
CUA対を使用した場合にこれは最も成功することが立証されている。その後、該当非天然アミノ酸を認識し且つ20種類の標準アミノ酸の1種を認識しないように直交aaRSの特異性を改変するために指向的進化を使用する。
【0101】
細菌宿主で容易に発現されない蛋白質を大量生産するようにこの手法を拡張するためには、低コストで拡張性があり、複雑な翻訳後修飾蛋白質を生産できる組換えシステムが望ましい。このような宿主の1例は大腸菌と同等の収率で哺乳動物蛋白質を産生することが可能なPichia pastorisである
7。腫瘍壊死因子(TNF)、破傷風毒素Cフラグメント(TTC)、及びヒト血清アルブミン(HSA)等の治療用蛋白質は高密度発酵で発現レベルが>10g l
−1であった
8−11。P. pastorisがこのような収率で蛋白質を産生できるのは、最も高度に制御される最強の公知プロモーターの1種であるそのアルコールオキシダーゼ1プロモーター(P
AOX1)によると考えられる
12。更に、P. pastorisは大腸菌で発現される治療用蛋白質を汚染する可能性のある内毒素を含まず、出芽酵母のように抗原性のα1,3グリカン結合を生じない
13。更に、抗炎症性抗体における重要な糖結合であるシリル化の制御を含め、P. pastorisにおけるグリコシル化パターンを調節することが可能になった
14。これらの理由から、本発明者らは非天然アミノ酸をP. pastorisで遺伝的にコードさせるための手法の開発に着手した。本願では、この宿主で発現される組換えヒト血清アルブミン(rHSA)に8種類の非天然アミノ酸を高い収率と忠実度で部位特異的に導入したことを報告する。
【0102】
結果
2遺伝子カセット発現システムの設計。P. pastorisで自律的に複製するプラスミドは相対的に不安定である
15ため、該当標的遺伝子とaaRS/tRNA
CUA対を2個の異なるプラスミドでカセット内にコードさせ、安定的にゲノムに組込んだシステムを考案した。二重栄養要求株GS200(arg4,his4)を蛋白質発現用宿主株として使用し、該当遺伝子を市販pPIC3.5kプラスミド(HIS4,Gen
R)に挿入した(
図6a)
16。短命な治療用ポリペプチドの血清半減期を延長する融合蛋白質又はペプチドバイオコンジュゲートを作製するのに有用であるため、rHSAをモデル蛋白質として使用した
17−19。大腸菌と出芽酵母におけるrHSAの発現は蛋白質の複雑なジスルフィド架橋により実際的ではない。PCR突然変異誘発法によりGlu37TAG突然変異体rHSA(rHSA
E37X)を作製し、AOX1プロモーター及びターミネーター下で発現させ、pPIC3.5k−rHSA
E37Xを作製した。Glu37は溶媒接触可能な螺旋に含まれるので、この部位に導入した化学的に反応性の非天然アミノ酸(即ちp−アセチルフェニルアラニン,
図11,構造1)とペプチドの結合を容易にし、比較的嵩高な基を組込んだ場合にも天然蛋白質構造及びフォールディングの妨害を最小にできると考えられる。HSAの24アミノ酸哺乳動物「プレプロ」リーダー配列(
図6e)はP. pastorisにおける発現に完全に適合可能であり、培地への成熟蛋白質の放出を可能にする
20。蛋白質発現の陽性対照として、野生型rHSA(rHSA
WT)を使用して同様にpPIC3.5k−HSA
WTを作製した。このプラスミドを5’AOX1プロモーターで直鎖化すると、カセットの1コピー以上のゲノム組込みが可能になり、一般にコピー数が多いほど標的蛋白質の総収率も高くなる
21。このような組込みではAOX1遺伝子は無傷のままであり、酵母はメタノールを迅速に利用する能力(Mut
+表現型)を維持する。あるいは、AOX1カセットのいずれかの側の直鎖化により遺伝子置換を実施し、AOX1遺伝子をpPIC3.5kベクターで置換することもできる
16。AOX1をもたない酵母はメタノール利用に弱いほうのAOX2遺伝子に依存し、表現型はmut
Sである。rHSAの発現は一般にmut
S酵母で実施される
22ので、pPIC3.5k−HSA
E37Xを直鎖化してAOX1遺伝子に代用し、GS200−rHSA
E37X(HIS4,arg4,Gen
R,mut
S)を得た。成功した形質転換体はヒスチジン不含最少培地プレートと、0.25mg ml
−1までのアミノグリコシド抗生物質ゲネチシンを含有するリッチ培地プレートで正常に増殖した。
【0103】
直交aaRS/tRNA
CUA対をゲノムに組込むために、先に開発した出芽酵母での組換え過剰発現用のpPR1−P
PGK1+3SUP4−tRNA
TyrCUAベクター
23(
図6b)を改変した。先に出芽酵母
24で進化させたp−アセチルフェニルアラニン(pApa,
図11,構造1)に特異的なアミノアシルtRNAシンテターゼ(pApaRS)をHis
6タグと共にアルコール脱水素酵素1プロモーター(P
ADH1)及びターミネーター(T
ADH1)の間に挿入し、その発現をアッセイした。5’CCAをもたないコグネイト大腸菌tRNA
TyrCUAを3個のタンデム反復配列としてホスホグリセリン酸キナーゼ1プロモーター(P
PGK1)の背後に挿入した。転写後プロセシングを助長するために、先述したようにtRNAを酵母サプレッサーtRNA遺伝子SUP4に由来する領域で挟んだ
23。真核下流プロセシングによりtRNA機能に必要な5’CCAを付加する。pPR1−P
PGK1+3SUP4−tRNA
tyrCUAの2μ起点とオロチジン5−リン酸脱炭酸酵素(URA3)マーカーをアルギノコハク酸リアーゼ(ARG4)コーディング領域で置換し、組換え真核ARG4ベクター(pREAV−P
ADH1−pApaRS)(
図6c)を得た。このカセットは真核複製起点をもたないので、このカセットの複製はゲノム組込みの場合のみに可能である。ARG4コーディング領域におけるpREAV−P
ADH1−pApaRSの直鎖化とその後のGS200−HSA
E37Xへの形質転換により、完全に原栄養性のP. pastoris GS200−HSA
E37X/pREAV−P
ADH1−pApaRS(HIS4,ARG4,Gen
R,mut
S)を得た。陽性対照として、pREAV−P
ADH1−pApaRSベクターを同様にGS200−HSA
WTにクローニングし、完全に原栄養性のmut
S,rHSA
WTを発現するP. pastoris株を得た。
【0104】
P. pastorisにおけるアンバー抑圧。GS200−HSA
WT/pREAV−P
ADH1−pApaRSから単離したクローンはメタノール誘導条件下で増殖させた場合に2〜3日後にドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)ゲルでクーマシー染色により検出可能な全長rHSA
WTを産生した。他方、GS200−HSA
E37X/pREAV−P
ADH1−pApaRSからのクローンは主炭素源としてメタノールとpApaアミノ酸補充下に6日間増殖させた場合に全長rHSA
E37pApaを産生することができなかった。全構築物のゲノムの組込みをゲノムPCR(
図12)により確認した処、tRNA
CUAの転写は出芽酵母における同一カセットの転写の約1.5倍であることがノーザンブロット分析により判明した(
図7a)。他方、His
6xタグではウェスタンブロットによりpApaRSを検出できなかった(
図13)。これらの結果から、アンバー抑圧の欠如はpApaRSの組込み不良に関係があることが分かった。従って、強力なP
AOX1プロモーターでpApaRSの発現を誘導するようにpREAVを更に改変し、強化型コザックコンセンサス配列(ACCATGG)
25をpApaRS遺伝子の5’末端に付加した。更にADH1ターミネーター(T
ADH1)をAOX1ターミネーター(T
AOX1)で置換し、pREAV−P
AOX1−pApaRS(
図6d)を得た。GS200−rHSA
E37Xに形質転換し、上記と同一の表現型を有するGS200−rHSA
E37X/pREAV−P
AOX1−pApaRSを得た。この形質転換からのクローンはメタノールとpApaアミノ酸の存在下のみに、rHSA
WTを保有する同一クローンの約10〜20%のレベルで全長rHSA
E37pApaを産生した。メタノール誘導から2〜3日後にSDS−PAGEゲルにより蛋白質が検出可能になり、24時間おきに0.5%までメタノール補充下の発現から6日後にピークを示した(
図7b)。pREAVカセット、pPIC3.5kカセット、メタノール補充、又はpApaアミノ酸を含まない酵母はクーマシー染色により検出可能な蛋白質を産生することができなかった。pApaアミノ酸の不在下では蛋白質発現が生じないことから、pApaRS/tRNA
tyrCUA対と内在アミノアシル化機構の間に交差アミノアシル化は生じないと判断される。rHSA
E37XへのpApaの部位特異的組込みをトリプシン消化、LC−MS/MSにより確認した(
図7c)。観測されたフラグメントイオンから、この非天然アミノ酸は残基37に特異的に組込まれたと判断される。
【0105】
発現の最適化。rHSA
E37pApaの発現を最適化する目的で、pPIC3.5k−rHSA
E37XをAOX1遺伝子の5’領域の遺伝子座に挿入する(こうしてAOX1遺伝子の完全性を維持する)ことによりGS200−rHSA
E37X/pREAV−P
AOX1−pApaRS(HIS4,ARG4,Gen
R)迅速メタノール利用(Mut
+)突然変異体を作製した。このようなゲノム挿入により多量化が可能になり、Gen
Rと該当遺伝子のタンデムコピーが得られる
7。得られたクローン1.0mg ml
−1までのゲネチシンに耐性を示したが、上記mut
Sクローンはゲネチシンが0.25mg ml
−1を越えると死滅し、カセットのマルチコピーの組込みに一致した
7,16。単離したクローンからの全長rHSA
E37pApa発現をメタノールとpApaアミノ酸の存在下で分析した処、mut
Sクローンに比較して約1.5〜2.0倍の蛋白質が産生されることが分かった(
図14)。rHSA
E37pApaの収率を更に増すために、pREAVベクターでpApaRS転写を誘導する能力について(P
AOX1を含む)6種類の異なるプロモーターを比較した。転写産物mRNAレベルと、pApaRS蛋白質レベルと、総rHSA
E37pApa収率をアッセイした。酵母GTP結合蛋白質I(YPT1)
26,27及びグリセルアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素(GAP)
12,28に由来する2種類の構成的プロモーターと、アルコールオキシダーゼII(AOX2)
29、ホルムアルデヒド脱水素酵素I(FLD1)
12、イソクエン酸リアーゼI(ICL1)
12に由来する3種類のメタノール誘導性プロモーターをそれらのメタノール誘導適合性に基づいて選択した。2個のリプレッサー結合配列の一方を欠失させることによりプロモーターを強化する短縮型P
AOX2を使用した。シンテターゼの過剰産生が酵母に有害な場合又はrHSA
E37Xの産生から細胞エネルギーを奪う場合には、多少弱いP
YPT1及びP
GAPプロモーター
26を使用すると有用であると思われる。全プロモーターをその5’非翻訳領域と共にP. pastorisゲノムDNAからPCRにより増幅した(
図15)。配列確認後に、各プロモーターをP
AOX1の代わりにpApaRSの5’側でpREAVベクターに挿入し、先に作製したMut
+ GS200−HSA
E37Xに形質転換した(
図8a)。ターミネーターはT
AOX1のままとした。6日間メタノール誘導後にP
Promoter−pApaRS発現レベルをノーザンブロットとウェスタンブロットによりモニターし、P
AOX1−pApaRSと比較した(
図8b〜d)。P. pastorisの固有の発現変動により、クローン2株をウェスタンブロット分析に選択し、産生能の高いほうのクローンをノーザンブロットにより分析した。P
FLD1はmRNAレベルでP
AOX1よりも4倍良好なpApaRS転写を誘導し、5倍のpApaRS蛋白質を産生した。P
GAP、P
YPT1、P
ICL1、及びP
AOX2はいずれもP
FLD1よりもpApaRS発現が低かった。この結果と一致し、培地へのrHSA
E37pApa発現により測定した場合に総アンバー抑圧はP
FLD1−pApaで最高であった(
図9)。最大収率は>150mg l
−1であり、即ちrHSA
WT収率(352mg l
−1)の約43%であった(
図16,17)。
【0106】
rHSA
E37pApaとのオキシムライゲーション。この改変型rHSAが生理活性ペプチドのキャリヤーとして有用であることを立証するために、rHSA
E37pApaのユニークなケト側鎖と抗血管新生ペプチドABT−510のオキシムライゲーションを実施した(
図10)。このスロンボスポンジン−1(TSP−I)プロペルジンタイプ1反復配列ミメティックはヒトで強力な抗腫瘍活性を示すが、静脈内投与した場合に腎クリアランスが速い
30−32。6番目のL−ノルバリン残基の代わりにユニークなε−(2−(アミノオキシ)アセチル)−L−リジンUAAを有する9アミノ酸ペプチドミメティックを合成した。TSP−1の既知構造−活性関係によると、この位置の修飾は生物学的活性を有意に変化させないと予想される
33。pH<5のとき、アミノオキシ基はpApaのケト基と選択的なオキシムライゲーションを生じ、ABT−510ペプチドをrHSA
E37pApaの残基37と共有結合させる(
図10a,上段)。従来の結合プロトコルは効率的なライゲーションのためにアニリン触媒を使用していた
34,35が、75μM rHSA
E37pApaと30倍過剰のペプチドを使用して一晩反応させると、rHSA
E37pApaとのオキシムカップリングはアニリンを使用せずに約77%進行した。
マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析法によりペプチドによるrHSA
E37pApaの誘導体化の程度を確認した(
図10b)。同一条件下でrHSA
WT(残基37のグルタミン酸)をアミノオキシ修飾ABT−510ペプチドで処理した場合にはMALDI質量分析法により結合は観測されなかった。
【0107】
遺伝子レパートリーへの8種類のUAAの追加。この新規に作製された組換え発現システムの汎用性を立証するために、出芽酵母法により進化させた非天然aaRSをpREAV−P
FLD1に挿入した。p−ベンゾイルフェニルアラニン(pBpa,光架橋基,
図11,構造3)
2、p−アジドフェニルアラニン(pAzapa,光架橋基,化学反応性,
図11,構造4)
36、p−(プロパルギルオキシ)フェニルアラニン(pPpa,化学反応性,
図11,構造5)
36、p−メトキシフェニルアラニン(pMpa,構造/機能プローブ,
図11,構造6)
2、及びp−ヨードフェニルアラニン(pIpa,重原子,
図11,構造7)
2に特異的なaaRSを最適化pREAV−P
FLD1ベクターでいずれもP
FLD1の後方に挿入した(
図11a,b)。比較のために、野生型大腸菌チロシルRS(wt,
図11,構造2)も新規発現ベクターに挿入した。GS200−HSA
E37X(HIS4,arg4,Gen
R,Mut
+)に形質転換後、rHSA
E37Xの37位のアンバー突然変異を抑圧するその能力についてpREAV−P
FLD1−pApaRSを保有する株と選択したクローンを比較した。抑圧効率はpApa及びpAzapa突然変異体で同等(rHSA
WTの効率の40〜45%)であり、pIpa以外の他の全突然変異体はrHSA
WTの効率の>25%を発現した。コグネイトアミノ酸の不在下で蛋白質発現は認められず、この新規システムの高度の直交性が立証された(
図11c)。
【0108】
最近、出芽酵母で蛋白質に他の非天然アミノ酸を組込むために第2の直交大腸菌ロイシル由来RS/tRNA
CUA対(aaRSをLeuRSと呼ぶ)を作製した
37,38。
この直交対に由来する非天然LeuRSを新規P. pastoris発現システムに適応させるために、pREAV−P
FLD1プラスミドのtRNA領域を改変した。P
PGK1の下流の既存のtRNA
TyrCUAカセットを切除し、先述したように、5’CCAをもたず、SUP4セグメントにより分離されたtRNA
Leu5CUAの3個のタンデム反復配列に対応するコーディング領域で置換し、pREAV
leu−P
FLD1を作製した。4,5−ジメトキシ−2−ニトロベンジルセリン(DMNB−S,フォトケージドセリン,
図11,構造8)
37と2−アミノ−3−(5−(ジメチルアミノ)ナフタレン−1スルホンアミド)プロパン酸(ダンシルアラニン,ダンシルフルオロフォア,
図11,構造9)
38に特異的なLeuRS突然変異体をP
FLD1の後方に挿入し、pREAV
leu−P
FLD1−LeuRS(
図11d〜f)を作製した。Mut
+ GS200−rHSA
E37Xに形質転換後に、選択したクローンを使用し、対応する変異体HSA
E37Xを発現させた(
図11f)。DMNB−Sに特異的なLeuRS突然変異体はDMNB−Sのシステインアナログ(DMNB−C)を受容することが最近示されており、これらの発現実験では合成し易いことからこのアナログを使用している。コグネイトアミノ酸の不在下でも少量の全長蛋白質が産生されたが、トリプシン消化物のLC−MS/MSの結果、対応する非天然アミノ酸の存在下におけるシステムの高い忠実度が確認された(
図18)。抑圧効率は3日間発現後にrHSA
E37DMNB−CではrHSA
WTの効率の約37%であり、rHSA
E37dansylではrHSA
WTの効率の23%であった。
【0109】
考察
出芽酵母で非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質の発現を最適化しようとする従来の試みの結果、モデルシステムで8〜15mg l
−1の最大収率が得られたが、これは本発明で開発されたP. pastorisシステムで実証された収率よりも一桁以上低い。Wang研究所の研究の結果、酵母におけるナンセンス変異依存mRNA分解(NMD)経路のノックダウンにより蛋白質発現を2倍まで増加できることが最近明らかになった
39。tRNA
CUA転写を誘導するためにSNR52に由来するプロモーターの使用と組合せると、出芽酵母で従来産生された約15mg l
−1という突然変異体蛋白質収率の300倍の収率に達することができた
39。このように、NMD経路のUPF1遺伝子のノックダウンとSNR52−tRNA
CUAプロモーターシステムの使用を組合せると、P. pastorisにおける収率を更に増加することができる。更に、Kobayashi研究所における研究の結果、P. pastorisからのrHSA
WTの収率は標準振盪フラスコよりも流加発酵で発現させた場合のほうが一桁以上良好(>10g l
−1)であることが判明した
10。
【0110】
結論として、本発明者らはメタノール資化性酵母への非天然アミノ酸の生合成的組込み方法を拡張した。2種類のaaRS/tRNA
CUA対がP. pastorisで直交性であることが判明したため、rHSA
E37Xの残基37のアンバーコドンに応答して8種類の異なる非天然アミノ酸を組込んだ突然変異体蛋白質を発現させるために使用した。この汎用性レベルから、この発現システムは出芽酵母で現在進化中のシンテターゼと共に多数の他の非天然アミノ酸に利用でき、本明細書に記載する非天然アミノ酸又はaaRS/tRNA
CUA対に限定されないと予想される。この新規システムは収率と忠実度が高いため、ユニークな生物学的及び薬理的性質を有する治療用蛋白質を有用な量で得られると考えられる。例えば、蛋白質を部位特異的にペグ化又は架橋するためにはオキシムライゲーションや銅触媒1,3−シクロ付加反応(「クリックケミストリー」)等の化学反応を利用することができ、放射性同位体と結合させるためには金属イオン結合性アミノ酸を組込むことができ、夫々HSA等のキャリヤー蛋白質又は抗体等のターゲティング蛋白質とペブチド又は毒素コンジュゲートを形成することができる。更に、上記rHSA
E37pApa−ABT−510コンジュゲートはインビトロ抗血管新生アッセイで現在試験中である。グルコーゲン様ペブチド1ミメティック(GLP−1)や副甲状腺ホルモン(PTH)ペブチドを含む他の迅速に清澄化されたペブチドにも、内在非免疫原性キャリヤーとしてのrHSA
E37pApaの使用を拡大する試みが現在進行中である。
【0111】
方法
pPIC3.5k−rHSAの構築。rHSA遺伝子は哺乳動物遺伝子コレクション(NIH)遺伝子アクセションBC034023から入手した。pPIC3.5k直鎖化
16に適合できるように、プライマー(IDT)として、BglII(781)にはBglII 1F,5’−GAC AGA CCT TAC CAA AGT CCA CAC GGA ATG CTG CCA TG−3’及びBglII 1R,5’−GGT AAG GTC TGT CAC TAA CTT GGA AAC TTC TGC AAA CTC AGC TTT GGG−3’を使用し、BglII(817)にはBglII 2F,5’−CAT GGA GAC CTG CTT GAA TGT GCT GAT GAC AGG GCG G−3’及びBglII 2R,5’−CAA GCA GGT CTC CAT GGC AGC ATT CCG TGT GGA C−3’を使用し、改変Quik Change突然変異誘発(Stratagene)プロトコル
40によりrHSAからBglII部位を除去し、rHSA
WTを作製した。改変Quik Changeプロトコルと、プライマーとしてGlu37 F’,5’−GAT TGC CTT TGC TCA GTA TCT TCA GCA GTG TCC ATT TTA GGA TCA T−3’及びGlu37 R’,5’−GTT TTT GCA AAT TCA GTT ACT TCA TTC ACT AAT TTT ACA TGA TCC TAA AAT GG−3’を使用して37番目のGlu残基をアンバーコドンTAGで置換し、rHSA
E37Xを作製した。プライマーとしてHSAフォワード,5’−ATC CGA GGA TCC AAA CGA TGA AGT GGG TAA CCT TTA TTT CCC TTC TTT TTC−3及びHSAリバース,5’−GCT AAC GAA TTC ATT ATA AGC CTA AGG CAG CTT GAC TTG CAG C−3’を使用してrHSA
WTとrHSA
E37XrHSA
WTを増幅し、EcoRIとBamHI(NEB)で消化し、同様に消化したpPIC3.5kベクター(Invitrogen,ベクターマップはhttp://tools.invitrogen.com/content/sfs/manuals/ppic3.5kpao man.pdfで閲覧可能)にライゲーションし、pPIC3.5k−rHSA
WT又はpPIC3.5k−rHSA
E37Xを作製した。構築物をDNAシーケンシングにより確認し、大腸菌DH10B(Invitrogen)で増幅した。
【0112】
pREAVの構築。プライマーとしてpESC F,5’−TAC CAC TAG AAG CTT GGA GAA AAT ACC GCA TCA GGA AAT TGT AAA CGT−3’及びpESC R,5’−GTG AGG GCA GGT ACC GTT CTG TAA AAA TGC AGC TCA GAT TCT TTG TTT G−3’を使用し、TRP及び2μ起点領域を除いてpApaRSを保有するpPR1−P
PGK1+3SUP4−tRNA
tyrCUAベクター
23をPCRにより増幅し、制限部位KpnI及びHindIIIを付加し、HindIII及びKpnI(NEB)で消化した。プライマーとしてARG4 F new,5’−AAA TAT GGT ACC TGC CCT CAC GGT GGT TAC GGT−3’及びARG4 R new,5’−CAT TTC AAG CTT CTA GTG GTA GGA ATT CTG TAC CGG TTT AC−3’を使用してARG4コーディング領域をpBLARG(Keck Graduate Institute,Claremont,CAのJames Cregg研究所の寄贈品)から増幅し、KpnI及びHindIIIで消化し、同様に消化したpPR1−P
PGK1+3SUP4−tRNA
tyrCUA PCR産物にライゲーションし、組換え真核ARG4ベクターpREAV−P
ADH1−pApaRSを作製した。pREAV−P
AOX1−pApaRSを作製するために、AOX1プロモーター及びターミネーター配列をpPIC3.5kから誘導した。プライマーとしてKETO−Koz−F,5’−TTC TGA GAA TTC ACC ATG GCA AGC AGT AAC TTG ATT AAA CAA TTG C−3’及びKetoRS R 6xHis,5’−TAG GCT CGG CCG CTT AGT GGT GGT GGT GGT GGT GTT TCC AGC AAA TCA GAC AGT AAT TCT TTT TAC−3’を使用してpApaRSを増幅し、EcoRI及びNotI(NEB)で消化し、同様に消化したpPIC3.5kにライゲーションし、pPIC3.5k−pApaRSを作製した。プライマーとしてpESC−AOX−KETO F,5’−ATC GTA CTT AAG GAA AGC GTA CTC AAA CAG ACA ACC ATT TCC−3’及びpESC−AOX−KETO R,5’−TTC TCA GGC GCG CCA TCG CCC TTC CCA ACA GTT GCG−3’を使用し、P
ADH1−pApaRS−T
ADH1領域を除いてpREAV−P
ADH1−pApaRSをPCRにより増幅し、制限部位AscI及びAflIIを付加した。プライマーとしてpPIC−keto AOX5 F,5’−ATC GTA CTT AAG AGA TCT AAC ATC CAA AGA CGA AAG GTT GAA TGA AAC−3’及びpPIC−keto AOXTT R,5’−TGC ACA GGC GCG CCA AGC TTG CAC AAA CGA ACT TCT CAC TTA ATC TTC−3’を使用してpPIC3.5k−pApaRSからP
AOX1−pApaRS−T
AOX1コーディング領域を増幅し、AscIとAflII(NEB)で消化し、同様に消化したpREAV−P
ADH1−pApaRS PCR産物にライゲーションし、pREAV−P
AOX1−pApaRSを作製した。サイズマッピングとシーケンシングにより構築物を確認した。
【0113】
P. pastorisへのカセットの形質転換。Keck Graduate InstituteのJames Cregg研究所の寄贈品である二重栄養要求株GS200(his4,arg4)を宿主P. pastoris株として使用した。酵母コンピテンシー、形質転換、及び培地組成に関するプロトコルはマルチコピーピキア発現キット−バージョンF
16(Invitrogen,http://tools.invitrogen.com/content/sfs/manuals/pichmulti_man.pdfでマニュアルを閲覧可能)に記載されている。要約すると、GS200−rHSA
E37X(HIS4,arg4,Gen
R,mut
S)を作製するために、pPIC3.5k−rHSA
E37X 20μgをBglII(NEB)で直鎖化し、エタノール沈殿により10μlまで濃縮し、2mmエレクトロポレーションキュベット(Fisher)で新たにコンピテントになった80μlのGS200に加え、GenePulser Xcell(BioRad)でP. pastoris設定(2000V,25μF,200Ω)下にエレクトロポレーションした。細胞を1M冷ソルビトール1mlで回収した。
L−アルギニン(arg)4mg ml
−1を添加した再生デキストロースバクト寒天(RDB)プレート(15cm)に回収した細胞250μlを撒き、30℃でインキュベートした。3日後に、酵母ペプトンデキストロース(YPD)培地1mlを加えた96ウェル2mlブロック(Nunc)にコロニーを釣菌し、一晩増殖させた(29.2℃,300r.p.m.)。培養液を100倍に希釈し、ゲネチシン(Invitrogen)0.25ml
−1を添加したYPD寒天プレートに1〜2μlレプリカを撒き、30℃でインキュベートした。4日後に、コロニーG3は良好な増殖を示したので、釣菌し、コンピテントにした。回収した細胞をL−ヒスチジン(his)とargを含まないRDBプレートに撒いた以外はコンピテントG3で上記プロトコルを使用して形質転換を実施し、GS200−rHSA
E37X/pREAV−P
AOX1−pApaRSとGS200−rHSA
E37X/pREAV−P
AOX1−pApaRS(HIS4,ARG4,Gen
R,mut
S)を作製した。3日後に、96ウェル2mlブロックにコロニーを釣菌し、0.25mg ml
−1ゲネチシンに対する耐性について上記のように再スクリーニングした。同様にGS200−rHSA
WT/pREAV−P
ADH1−pApaRS(HIS4,ARG4,Gen
R,mut
S)を作製し、コロニーF2を単離した。pREAV−P
AOX1−pApaRSをGS200に形質転換させることによりGS200−pREAV−P
AOX1−pApaRS(his4,ARG4,Gen
R,mut
S)を作製したが、his4mg ml
−1を添加したRDBプレートに撒き、ゲネチシン耐性についてそれ以上スクリーニングしなかった。
【0114】
試験蛋白質発現。全蛋白質発現実験はマルチコピーピキア発現キット
16に記載されているmut
Sのプロトコルに従った。要約すると、ゲネチシン0.25mg ml
−1を添加したプレートからGS200−rHSA
E37X/pREAV−P
ADH1−pApaRS、GS200−rHSA
E37X/pREAV−P
ADH1−pApaRS又はGS200−rHSA
WT/pREAV−P
ADH1−pApaRSのコロニー14株を釣菌し、緩衝グリセロール複合培地(BMGY)(29.2℃,300r.p.m.)10ml中でほぼ飽和(OD
600〜12〜18)まで増殖させた。培養液を1500g(10分間)で遠心し、2mM pApaアミノ酸(SynChem)を添加した緩衝メタノール複合培地(BMMY)2mlに再懸濁した。0.5%となるように24時間おきにメタノールを補充しながら6日間増殖を続けた。蒸発を考慮して培地又は滅菌水200μl(培養液容量の10%)を24時間おきに加えた。24時間おきに培地50μlを取出し、3000g(5分間)で遠心により細胞を分離した。清澄化培地25μlをSDSローディングバッファー12.5μlに加え、1分間95℃に加熱し、4−20%トリス−グリシンSDS−PAGEゲル(Invitrogen)上で泳動させた(150V 1時間)。3日後にGS200−rHSA
E37X/pREAV−P
AOX1−pApaRS及びGS200−rHSA
WT/pREAV−P
ADH1−pApaRS発現における66.5kDaのバンドがクーマシー染色(40%メタノール,10%酢酸,50%水,0.1%(w/v)クーマシーブリリアントブルーR250(Sigma−Aldrich))により明白に検出可能になり、6日後にピークを示した。GS200−rHSA
E37X/pREAV−P
AOX1−pApaRSのクローンG3−2とGS200−rHSA
WT/pREAV−P
ADH1−pApaRSのF2−wtが最高の発現を示したのでその後の比較に使用した。GS200−rHSA
E37X/pREAV−P
ADH1−pApaRSからのクローンでクーマシー染色により発現を示したものは皆無であった。アンバー抑圧がpApaに特異的であることを確認するために、GS200、G3、GS200−pREAV−P
AOX1−pApaRS、G3−2、及びF2−wtからのクローンを2mM pApaと0.5%メタノールの存在下又は不在下で上記のように発現させた(
図7b)。
【0115】
tRNAノーザンブロット。G3−2及びGS200のP. pastorisクローン2株と、SCY4−pPR1−P
PGK1+2SUP4−tRNA及びSCY4の出芽酵母クローン2株を夫々の発現条件下で増殖させ、Purelink miRNA Isolation Kit(Invitrogen)に同梱のプロトコルと試薬によりマイクロRNA(miRNA)を回収した。各サンプルからのRNA 2μgを6% Novex TBE-Ureaゲル(Invitrogen)2枚にロードし、180Vで1時間泳動させた。0.5×TBEバッファー(Invitrogen)中でXCeIl Surelock Mini−Cell(Invitrogen)と同梱プロトコルを使用してRNAをBiodyne Bナイロンメンブレン(Pall Life Science)に転写した。メンブレンをUV Stratalinker 2400(Stratagene)で自己架橋させた。North2South Chemiluminescent Hybridization and Detection Kit(Pierce)に同梱のプロトコルと試薬を使用してハイブリダイゼーションと検出を行った。要約すると、tRNA
serに特異的なビオチン化プローブ:tRNAser cere 1,5’−/5Biosg/CAT TTC AAG ACT GTC GCC TTA ACC ACT CGG CCA T−3’、tRNAser cere 2,5’−/5Biosg/GAA CCA GCG CGG GCA GAG CCC AAC ACA TTT CAA G−3’、tRNAser pich 1,5−/5Biosg/CTG CAT CCT TCG CCT TAA CCA CTC GGC CAT CGT A−3’、tRNAser pich 2,5’−/5Biosg/ACA CGA GCA GGG TTC GAA CCT GCG CGG GCA GAG C−3’の存在下で第1のブロットをインキュベートし、tRNA
tyrCUAに特異的なビオチン化プローブ:tRNA 5’biot,5’−/5Biosg/GGA AGG ATT CGA ACC TTC GAA GTC GAT GAC GG−3’及びtRNA 3’biot,5’−/5Biosg/TCT GCT CCC TTT GGC CGC TCG GGA ACC CCA CC−3’の存在下で第2のブロットをインキュベートした。プローブを55℃で一晩インキュベートし、ストレプトアビジン−西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲートに結合させ、ルミノール/エンハンサー安定性ペルオキシド溶液(Pierce)で検出した(
図7a)。Photoshop CS2(Adobe)を使用してバンド密度により相対tRNA量を測定した。
【0116】
rHSA
E37Xの拡張発現、精製及び質量分析。rHSA
E37pApaの拡張発現のために、試験発現プロトコルを改変した。YPDでの飽和G3−2培養液20mlをBMGY 1Lに接種し、OD
600〜12〜18まで増殖させた(〜24h,29.2℃,300r.p.m.)。培養液を1500gで遠心し、10% BMMYと2mM pApaを添加した緩衝最少メタノール(BMM)200mlに再懸濁した。6日間増殖(メタノール及び容量補充下に29.2℃,300r.p.m.)後に、培養液を3000gで遠心し、細胞を捨て、培地を0.22μmフィルター(Milipore)に流した。4℃で50%飽和(58.2g)までゆっくりと撹拌下にNH
4SO
4を添加することにより培地を硫安(NH
4SO)沈殿させ、20,000gで20分間遠心し、再び75%飽和(31.8g)までNH
4SO
4を加え、20,000gで20分間遠心した。2回目の沈殿はrHSA
E37pApaを含有していたので、FPLCバッファーA(25mM Tris−HCl,25mM塩化ナトリウム,1mM EDTA,1×プロテアーゼインヒビターカクテル(Roche),pH=8.5)に再懸濁させた。再可溶化した蛋白質をAKTA FPLC精製装置(Amersham Biosciences)(20−35%バッファーB(バッファーA+1M NaCl)で溶出)でMonoQ 5/5カラム(GE Healthcare)により精製した。画分をSDS−PAGEゲルにより分析し、一緒にし、30MWCO透析カセット(Pierce)によりPBSで透析し、AKTA FPLC精製装置(0.5ml min
−1のPBS中に14分後に溶出)でSuperdex 200 10/300 GL(GE Healthcare)により精製した。画分をSDS−PAGEゲルにより分析し、一緒にし、Dynamax HPLC(Rainin)(水中40−46% MeCN,0.1% TFAで溶出)でC8 Vydac HPLCカラム(300mm,200Å,5μm,Grace)により精製した。画分をSDS−PAGEゲルにより分析し、rHSA
E37pApaを含有する画分を瞬間凍結し、凍結乾燥して白色粉末とした。同様にF2−wtからrHSA
WTの精製を行った。
【0117】
トリプシン消化,ナノRPLC−MS/MS。精製したrHSA
E37Xを還元条件(10mM TCEP,1MグアニジニウムHCl,100mMトリエタノールアミンHCl,pH=7.8)下に一晩トリプシンで消化した。消化物を逆相固相抽出法(Sep−Pak,C18,Waters)により精製し、凍結乾燥した。凍結乾燥したペプチドを氷上で過ギ酸(濃ギ酸9部+30% H
2O
2 1部)
41の存在下に1時間インキュベートすることによりシステインからシステイン酸及びメチオニンからメチオニンスルホンへの酸化を実施した。過剰のメルカプトエタノールの添加と水で20倍に希釈することにより反応をクエンチした。LTQ Orbitrapハイブリッド質量分析計(ThermoElectron)を装着したHPLCシステム(Agilent Technologies)を使用してナノRPLC−MS/MSを実施した。トリプシン消化物を通気カラム装置
42のプレカラム(4cm,100μm i.d.,5μm,Monitor C18,Column Engineering)に流速〜2μl min
−1でロードした。10分間のロード/洗浄時間後に、プレカラムを分析用カラム(10cm,75μm i.d.,5μm C18)に交換することにより溶出を開始した。クロマトグラフィープロファイルは40分間〜100ml min
−1で100%溶媒A(0.1%酢酸水溶液)→50%溶媒B(アセトニトリル中0.1%酢酸)とした。先ず高分解能Orbitrapスキャン(m/z500〜2,000)を記録した後に10データ依存性MS/MSスキャン(相対衝突エネルギー=35%;3Da単離窓)を記録するように質量分析計をプログラムしたトップテンスキームに従ってデータ依存性MS/MS獲得を実施した。変動修飾としてpApaによる蛋白質同定用にMASCOT(Matrixscience, London, UK)を使用して生データをSwissProt 51.6データベースで検索した。
【0118】
Mut
+表現型の創製。GS200−rHSA
E37X/pREAV−P
AOX1−pApaRS(HIS4,ARG4,Gen
R,Mut
+)を作製するために、pPIC3.5k−rHSA
E37X 20μgをSacI又はSalI(NEB)で直鎖化し、先述したように新たにコンピテントになったGS200に形質転換した。細胞を1M冷ソルビトール1mlに回収し、arg 0.4mg ml
−1を添加したRDBプレートに撒いた。YPD 1mlを加えた2ml 96ウェルブロックにコロニーを釣菌し、飽和まで(29.2℃,300r.p.m.)増殖させ、100倍に希釈し、ゲネチシン0〜3.0mg ml
−1を添加したプレートにレプリカを撒いた。ゲネチシン1.0mg ml
−1まで生存したクローン1D12をコンピテントにし、先述したようにpREAV−P
AOX1−pApaRSで形質転換し、Arg又はHisを含まないRDBプレートに撒いた。1ml 96ウェルブロックにコロニーを釣菌し、飽和まで増殖させ、100倍に希釈し、ゲネチシン1.0mg ml
−1プレートで再スクリーニングした。生存クローン14株を釣菌し、pApaアミノ酸とメタノールの存在下でrHSA
E37pApa発現について試験した。一貫性のために、上記のようなmut
Sプロトコルを使用した。
クローンK5は最大の蛋白質発現を示したため、試験発現でG3−2と比較した(
図14)。Photoshop CS2(Adobe)を使用してバンド密度により蛋白質の相対量を測定した。
【0119】
pREAV−P
Promoter−pApaRSの構築。夫々以下のプライマー:PAOX2 F,5’−GTA TCG CTT AAG TCC AAG ATA GGC TAT TTT TGT CGC ATA AAT TTT TGT C−3’及びPAOX2 R,5’−CGT TAG CCA TGG TTT TCT CAG TTG ATT TGT TTG TGG GGA TTT AGT AAG TCG−3’;PYPT1 F,5’−GTA TCG CTT AAG CAT ATG ATG AGT CAC AAT CTG CTT CCA CAG ACG AG−3’及びPYPT1 R,5’−CGT TAG CCA TGG GAC TGC TAT TAT CTC TGT GTG TAT GTG TGT ATT GGG C−3’;PICL1 F,5’−GTA TCG CTT AAG GAA TTC GGA CAA ATG TGC TGT TCC GGT AGC TTG−3’及びPICL1 R,5’−CGT TAG CCA TGG TCT TGA TAT ACT TGA TAC TGT GTT CTT TGA ATT GAA AG−3’;PFLD1 F,5’−GTA TCG CTT AAG GCA TGC AGG AAT CTC TGG CAC GGT GCT AAT GG−3’及びPFLD1 R,5’−CGT TAG CCA TGG TGT GAA TAT CAA GAA TTG TAT GAA CAA GCA AAG TTG G−3’;PGAP1 F,5’−GTA TCG CTT AAG GGA TCC TTT TTT GTA GAA ATG TCT TGG TGT CCT CGT C−3’及びPGAP1 F,5’−CGT TAG CCA TGG TGT GTT TTG ATA GTT GTT CAA TTG ATT GAA ATA GGG AC−3’(
図15)を使用してP
AOX2、P
YPT1、P
ICL1、P
FLD1、P
GAPの5種類のプロモーターをゲノムDNA(P. pastoris GS200)から別々にPCR増幅した。PCR増幅フラグメントをAflIIとNcoI(NEB)で消化し、(アガロースゲル精製によりP
AOX2コーディング領域の除去後に)同様に消化したpREAV−P
AOX1−pApaRSにライゲーションし、pREAV−P
Promoter−pApaRSを作製した。配列確認後、(先に構築したpREAV−P
AOX1−pApaRSを含む)プラスミドをAatIIで直鎖化し、新たにコンピテントになったGS200−rHSA
E37X(クローン1D12)に形質転換し、先述したようにArg又はHis不含RDBプレートに撒き、GS200−rHSA
E37X/pREAV−P
Promoter−pApaRS(HIS4,ARG4,Gen
R,Mut
+)を作製した。生存クローンを0.75及び1.0mg ml
−1でゲネチシン耐性についてスクリーニングした。BMGYを加えた1mL 96ウェルプレートに各プロモーターに対応するクローン48株を釣菌し、飽和まで増殖させた(29.2℃,24h,300r.p.m.)。飽和培養液を1500gで10分間遠心し、細胞をBMMY 200μL+2mM pApaアミノ酸に再懸濁した。6日(補充下に29.2℃,300r.p.m.)後に、3000gで10分間遠心することにより培地を清澄化し、96ウェルピンツールを使用して清澄化培地1〜2μLを0.45ミクロンニトロセルロースメンブレン(Bio−Rad)にスポットした。標準ウェスタンブロット法
43を使用してメンブレンをHSA抗体[1A9]HRPコンジュゲート(Abcam)でプローブし、ECL HRP化学発光検出試薬及びプロトコル(GE Healthcare)により検出した。各プロモーターに対応する最高発現度のクローン2株(AOX2:A6,B7;YPT1:D11,B7;ICL1:E5,H3;FLD1:E11,F3;GAP:B7,B10;及びAOX1:E3,E7)を平行試験発現に選択した(
図8)。
【0120】
pApaRSノーザンブロット。最高発現度のAOX2,B7;YPT1,D11;ICL1,H3;FLD1,E11;GAP,B7;及びAOX1,E3を試験発現条件下で6日間増殖させた。細胞3×10
8個(OD
600=1.0で2.5ml)を採取し、RiboPure−Yeast Kit(Ambion)試薬及びプロトコルにより全RNAを単離した。各RNAサンプル13μgを2%ホルムアルデヒドゲル(2%アガロース,20mM MOPS,8mM酢酸ナトリウム,2.2mMホルムアルデヒド,pH=7.0)にロードした。NorthernMaxホルムアルデヒドロード色素(Ambion)3容量をRNA1容量と混合し、65℃まで15分間加熱し、5分間氷冷後、ロードした。ゲルを電気泳動(50Vで2時間)させ、18S及び28S rRNAの臭化エチジウム染色により均等なローディングを確認した(
図8c,上段)。RNAを標準ブロット装置により10×SSCバッファー(1.5M塩化ナトリウム,0.15Mクエン酸ナトリウム,pH=7.0)中でBiodyne Bナイロンメンブレン(Pall Life Science)に吸着させた。メンブレンを2×SSCバッファーでリンスし、乾燥し、UV Stratalinker 2400(Stratagene)で自己架橋させた。North2South Chemiluminescent Hybridization and Detection Kit(Pierce)に同梱のプロトコルと試薬を使用してハイブリダイゼーションと検出を行った。要約すると、400〜500μgのビオチン化プローブ:ketoRS3 biot 5’−/5Biosg/TGA GAC GCT GCT TAA CCG CTT C−3’及びketoRS4 biot 5’−/5Biosg/TAA AGA AGT ATT CAG GAT CGG ACT G−3’を55℃で一晩インキュベートし、ストレプトアビジン−HRPコンジュゲートに結合させ、ルミノール/エンハンサー安定性過酸化物溶液(Pierce)で検出した(
図8c,下段)。Photoshop CS2を使用してバンド密度により相対mRNA力価を測定した。
【0121】
pApaRSウェスタンブロット。クローンAOX2:A6,B7;YPT1:D11,B7;ICL1:E5,H3;FLD1:E11,F3;GAP:B7,B10;及びAOX1:E3,E7を試験発現条件下で培養し、ペレット化し(3000g,10分間)、YeastBuster(Novagen)2ml+10mM β−メルカプトエタノール及びComplete(Roche)プロテアーゼインヒビタータブレットで溶解させた。サンプルを20,000gで清澄化し、溶解液15μlを4−20% SDS−PAGEゲル上で泳動させた(1:15h,150V)。トビンの転写バッファー(24mMトリス塩基,192mMグリシン,20%エタノール)中でTrans−Blot SDセミドライ転写セル(Bio−Rad)を使用して蛋白質を0.45ミクロンニトロセルロースメンブレン(Bio−Rad)に転写した(2h,20V,100mAmp)。ゲル上の残留蛋白質をクーマシー染色し(
図8b,上段)、均等なローディングを確認した。標準ウェスタンブロット法
43と抗His
6x−HRP標識抗体(Sigma−Aldrich)を使用してメンブレンをブロットし、ECL(GE Healthcare)HRP化学発光検出試薬及びプロトコルにより検出した(
図8b,下段)。Photoshop CS2を使用してバンド密度により相対発現率を測定した。
【0122】
rHSA
E37X−ABT−510オキシムライゲーション。6番目のL−ノルバリン残基の代わりにε−(2−(アミノオキシ)アセチル)−L−リジンを使用してABT−510ペプチドミメティックを合成した(Anaspec)(配列:Ac−Sar−Gly−Val−D−aloIle−Thr−Lys(Aoa)−Ile−Arg−Pro−NEt MW=1097.3 Da)。オキシムライゲーションバッファー(1.5M塩化ナトリウム,500mM酢酸ナトリウム,pH=4.4)200μl中で75μM rHSA
E37pApa又はrHSA
WT(1.0mg)にペプチド2.25mM(0.5mg)を加え、一晩37℃でインキュベートした。反応混合物をDynamax HPLC(Rainin)(水中40−46%アセトニトリル,0.1%で溶出)でC8 Vydac HPLCカラム(300mm,200Å,5μm,Grace)により精製した。画分を分取し、一緒にし、クーマシー染色SDS−PAGEゲルにより分析した。シナピン酸マトリックスと共にリニアMALDI−TOF MS Biflex III(Burker Daltonics)計器を使用して無傷の蛋白質質量測定を実施した。E37pApa突然変異によるrHSA
WT+ペプチドとrHSA
E37pApa+ペプチドの−60Daの質量差(905Da−60Da=845Da)を使用し、ライゲーション効率を測定した(〜77%)。蛋白質による処理前後でrHSA
WTの質量は殆ど変わらなかった。
【0123】
pREAV−P
FLD1−(シンテターゼ
tyr)構築及び形質転換:プライマーとしてKETO−Koz−F及びKetoRS R 6xHis(上記)を使用してチロシン(wt)、pBpa、pAzapa、pPpa、pMpa、及びpIpaに特異的な非天然aaRSをPCRにより増幅し、NcoIとEagI(NEB)で消化し、(アガロースゲル精製によりpApaRS領域の除去後に)同様に消化したpREAV−P
FLD1−pApaRSにライゲーションした。配列確認後、先述したようにプラスミドをGS200−rHSA
E37Xクローン1D12に形質転換し、GS200−rHSA
E37X/pREAV−P
FLD1−(シンテターゼ
tyr)(HIS4,ARG4,Gen
R,Mut
+)を作製した。各形質転換からクローン12株を選択し、先述したように96ウェルフォーマットでドットブロットによりスクリーニングした。各々から最良産生株(tyr,A9;pBpa,B7;pAzapa C9;pPpa,D6;pMpa,E6;及びpIpa,F6)を選択し、試験発現でFLD1,E11と比較した(
図11c)。
Photoshop CS2を使用してバンド密度により相対蛋白質収率を測定した。
【0124】
pREAV−P
FLD1−(シンテターゼ
leu)構築及び形質転換:pREAV
leu−P
FLD1を作製するために、5’CCAをもたず、SUP4セグメントにより分離されたtRNA
Leu5CUAの3個のタンデム反復配列に対応するセクションをを合成し(DNA2.0)、プライマーとしてLeu tRNA F,5’−AAG GAA GCT AGC CTC TTT TTC AAT TGT ATA TGT G−3’及びLeu tRNA R,5’−CGT ACA CGC GTC TGT ACA GAA AAA AAA GAA AAA TTT G−3’を使用してPCR増幅した。得られた643bp産物をNheIとMluI(NEB)で消化し、(アガロースゲル精製によりチロシルtRNAの除去後に)同様に消化したpREAV−P
FLD1−pApaRSにライゲーションし、pREAV
leu−P
FLD1−pApaRSを作製した。プライマーとしてLeuRS F,5’−ATT CAC ACC ATG GAA GAG CAA TAC CGC CCG GAA GAG−3’及びLeuRS R,5’−TTA ATT CGC GGC CGC TTA GCC AAC GAC CAG ATT GAG GAG TTT ACC TG−3’を使用してDMNB−S及びダンシル非天然アミノ酸に特異性を有するaaRSを増幅し、NcoIとNotI(NEB)で消化し、(アガロースゲル精製によりpApaRSコーディング領域の除去後に)同様に消化したpREAV
leu−P
FLD1−pApaRSにライゲーションし、pREAV
leu−P
FLD1−DMNB−S又はpREAV
leu−P
FLD1−ダンシルを作製した(
図11d)。配列確認後、プラスミドをGS200−rHSA
E37X(クローン1D12)に形質転換し、上記のように96ウェルドットブロットフォーマットでスクリーニングした。緩衝最少メタノール(BMM)培地中で誘導後3日間試験発現条件下に増殖させた場合にクローンA:A5(DMNB−S)及びB:G12(ダンシル)が成功産生株と同定された。比較のためにrHSA
WTをBMMY中で3日間発現させた(
図11f)。上記のようにLC−MS/MSによりダンシル及びDMNB−S(アミノ酸アナログ)の組込みを更に確認した(
図18)。Photoshop CS2により相対バンド密度を測定した。
【0125】
図面の説明
図6:真核生物におけるアンバー抑圧用ベクターであり、マーカー(栗色)、複製起点(黒)、標的蛋白質(オレンジ色)、制御因子(緑色)、及びサプレッサーtRNA(「tRNA(CUA)」,淡青色)を示す。(a)P. pastorisへのインビボマルチコピー組込み及び発現用の市販pPIC3.5kシャトルベクター
16のマップ。rHSA
E37X(オレンジ色)をAOX1プロモーター及びターミネーター間にサブクローニングする。(b)P
ADH1制御下のpApaRS/tRNA
tyrCUA対を保有する出芽酵母の最適化アンバー抑圧ベクター
23。tRNA
CUA反復配列はSUP4遺伝子に由来する領域(図示せず)により分離され、P
PGK1により誘導される。(c)pREAV−P
ADH1−pApaRSを作製するように2μ真核起点とTRPマーカーをARG4で置換した改変型pPR1−P
PGK1+3SUP4−tRNAプラスミド。(d)P
ADH1とT
ADH1をAOX1に対応するもので置換し、pREAV−P
AOX1−pApaRSを作製した。(e)rHSA
E37Xの最初から61個のアミノ酸。プレプロリーダーペプチド(青,緑)は培地へのrHSA
E37Xの放出を可能にし、輸送中に開裂され、アスパラギン酸から開始する成熟蛋白質(rHSA,オレンジ色)を生じる。成熟rHSAの37番目の残基(X,赤)はアンバーコドンに応答して組込まれた非天然アミノ酸を表す。
【0126】
図7:P. pastorisにおけるpApaによるアンバー抑圧。(a)ノーザンブロット(下段ゲル)を使用して出芽酵母+pPR1−P
PGK1−3SUP4−tRNA(レーン1)とP. pastoris+pREAV−P
ADH1−pApaRS(レーン2)におけるサプレッサーtRNA
TyrCUA転写をアッセイした。陰性対照として、レーン3及び4は夫々ベクターを導入しない出芽酵母及びP. pastoris株である。上段ゲルは内在セリンtRNAのノーザンブロットを示し、全サンプルで等量のmiRNAが作製されることを実証する。(b)システムの忠実度をアッセイするために、6日間増殖からの清澄化培地25μlを変性SDS−PAGEゲル上で分析し、クーマシー染色した。レーン2はGS200であり;レーン3はGS200−HSA
E37Xであり;レーン4はGS200−pREAV−P
AOX1−pApaRSであり;レーン5〜7はGS200−HSA
E37X/pREAV−P
AOX1−pApaRSであり;レーン8はGS200−HSA
WT/pREAV−P
ADH1−pApaRSである。両方のベクターを導入し、メタノールとpApaアミノ酸(pApaAA)の存在下で増殖させた酵母のみでアンバー抑圧が生じる。(c)成熟rHSA
E37pApaの残基37に非天然アミノ酸pApa(E*で示す)を組込んだトリプシン処理ペプチドのMS/MS断片化(上段)。観測されるフラグメントイオン系列により置換が明白に裏付けられる。配列イオンを標準命名法
44で表す。
【0127】
図8:最適化アンバー抑圧に関するpApaRSプロモーターの比較。(a)プロモーター領域(緑,赤輪郭)の変動を示すpREAV−P
Promoter−pApaRSの直線マップ。ゲノムDNAからプロモーターをPCR増幅した(
図12)。(b)各々GS200−rHSA
E37XをpREAV−P
Promoter−pApaRSで形質転換したクローン2株を主炭素源としてのメタノールの存在下に6日間増殖させ、溶解させ、SDS−PAGEゲル上で分離した(上段ゲル)。ゲルをクーマシー染色し、均等なローディングを確認した。溶解液をpApaRs−His
6xについてウェスタンブロットにより分析した(下段ゲル)。(c)bで大半の蛋白質を産生したクローンをpApaRS mRNA転写についてノーザンブロットにより分析した(下段ゲル)。18s及び28sリボソームRNAのバンドを臭化エチジウムで染色し(上段ゲル)、RNA完全性と均等なローディングを確認した。(d)染色したバンドの密度の2回平均により測定したbの棒グラフ。誤差線は分散を表す。
【0128】
図9:培地中でrHSA
E37pApaによりアッセイしたP
AOX2、P
YPT1、P
ICL1、P
FLD1、P
GAP、又はP
AOX1で誘導したaaRSによるアンバー抑圧レベル。各プロモーターシステムからのクローン2株を主炭素源としてのメタノールとpApaアミノ酸の存在下に個々に6日間増殖させた。清澄化培地25μlを変性SDS−PAGEゲル上で泳動させ、クーマシー染色した。BSA対照によるバンド密度(
図17)によりrHSA
WT(レーン15)を計算した処、351.6mg l
−1であった。密度によると、P
FLD1(レーン9及び10の平均)は43%ないし151.2mg l
−1の蛋白質を発現した(
図16)。
【0129】
図10:ABT−510ペプチドとrHSA
E37pApaのオキシムライゲーション。(a)ライゲーションの模式図。ABT−510ペプチドは6番目の残基としてε−(2−(アミノオキシ)アセチル)−L−リジンを有する。75μM rHSA
E37pApa(青)を2.25mMペプチドの存在下に37℃で一晩インキュベートすると、オキシム結合が形成される(右上)。同一条件下でrHSA
WT(赤)と反応は生じない。(b)MALDI質量分析により結合の程度を示す。ペプチドをケト含有rHSA
E37pApa(青)の存在下にインキュベートすると、rHSA
WT(赤)の存在下でインキュベートした場合に比較して905Daの質量シフトを生じ、rHSA
E37pApaの約77%がABT−510と結合していると判断される。
【0130】
図11:遺伝子レパートリーへの8種類の非天然アミノ酸の追加。(a)大腸菌チロシルRS遺伝子(オレンジ色)とチロシルサプレッサーtRNAカセット(tRNA(CUA),淡青色)を含む最適化pREAV−P
FLD1ベクターの模式図。(b)特異的な大腸菌チロシルRSを有する6種類の非天然アミノ酸(1,3〜7,本文に記載)とチロシン(2)の構造。(c)非天然アミノ酸1,3〜7とその対応するaaRSの存在下(+)及び不在下(−)におけるrHSA
E37X(ここで、Xは非天然アミノ酸として定義される)の発現。未精製清澄化培地25μlをSDS−PAGEゲル上で泳動させ、クーマシー染色した。レーン2は野生型(wt)チロシルRSによるrHSA
E37Y発現である。レーン15はrHSA
WTの発現である。(d)大腸菌ロイシルRS遺伝子(LeuRS,オレンジ色)とロイシルサプレッサーtRNAカセット(leu−tRNA(CUA),淡青色,赤輪郭)を含む最適化pREAV
leu−P
FLD1ベクターの模式図。(e)特異的大腸菌ロイシルaaRSを有するDMNB−C及びダンシル非天然アミノ酸(8,9,本文に記載)の構造。(f)非天然アミノ酸8,9とその対応するLeuRSの存在下(+)及び不在下(−)におけるrHSA
E37Xの発現。各蛋白質発現からの未精製清澄化培地25μlをSDS−PAGEゲル上で分析し、クーマシー染色した。レーン4は同じく3日後のrHSA
WTの発現である。
【0131】
図12:非天然アミノ酸抑圧システムの3成分のゲノムDNAからのPCR増幅であり、pPIC3.5k及びpREAVカセットをGS200−rHSA
E37X/pREAV−P
ADH1−pApaRSに組込むのに成功したことを示す。1回の形質転換からクローン4株を選択し、1〜4とした。予想PCR産物はrHSA 1851bp、pApaRS 1317bp、及びtRNAカセット1100bpであった。クローン2にpApaRS増幅が生じないのは技術的アーチファクトであると思われる。
【0132】
図13:1回の形質転換からのGS200−rHSA
E37X/pREAV−P
ADH1−pApaRSのクローン4株におけるpApaRS−
His6xのウェスタンブロット。pApaRS蛋白質は検出できなかった。
【0133】
図14:GS200−rHSA
E37X/pREAV−P
AOX1−pApaRS(Mut
+)培養液(レーン1)又はGS200−rHSA
E37X/pREAV−P
AOX1−pApaRS(mut
S)培養液(レーン2)からの清澄化培地25μlをSDS−PAGEゲル上で分析し、クーマシー染色した。Mut
+クローンはバンド密度により測定した場合に約1.5〜2.0倍の量のrHSA
E37Xを発現する。
【0134】
図15:5種類の異なるプロモーターに特異的なプライマーを使用し、その対応するプロモーターをゲノムDNAからPCR増幅した。臭化エチジウム染色したゲルを示し、PCR産物の両側に1kb+ラダーを示す。PCRの予想長はPAOX2 342bp、PYPT1 508bp、PICL1 683bp、PFLD1 597bp、及びPGAP 493bpである。
【0135】
図16:
図9の棒グラフであり、プロモーター誘導によるpApaRS産生の関数としてrHSA
E37pApaのアンバー抑圧を示す。
図9に示すSDS−PAGEゲル上のクーマシーバンド密度により蛋白質産生を測定した。rHSA
WTを
図17に示すように定量した。
【0136】
図17:BSA標準又は試験蛋白質発現からの未精製rHSA
WT培地25μlをSDS−PAGEゲル上で泳動させた。レーン7はrHSA
WT試験蛋白質発現培地の1倍希釈液とした。BSA標準バンド密度(レーン1〜4)をプロットし、直線フィットした。
rHSA
WTバンドの密度(2×レーン7及びレーン8)は平均で83.33又は351.55mg ml
−1であった。同一rHSA
WTサンプルの百分率として非天然蛋白質(他の図ではrHSA
E37X)の収率を求めた。
【0137】
図18:消化でトリプシンの代わりにキモトリプシンを使用した以外は方法のセクションに記載したように
図11fのレーン2からのrHSA
E37DMNB−C蛋白質をトリプシン消化後にLC−MS/MS分析した。最上段クロマトグラム(黒)は24.45分〜60.05分に泳動したLC−MS/MSの合計イオンカウント数(TIC)を示す。3段目(緑)と4段目(青)のクロマトグラムはキモトリプシン処理ペプチドXDHVKLVNEVTEFに対応する夫々2+及び3+荷電種のイオン抽出であり、ここでX(rHSAの37番目の残基)はDMNB−C(ピーク下総面積「MA」=224582204)である。5段目(芥子色)と6段目(紫)のクロマトグラムはキモトリプシン処理ペプチドXDHVKLVNEVTEFに対応する夫々2+及び3+荷電種のイオン抽出であり、ここでXはロイシンのイソロイシンである(ピーク下総面積「MA」=20029397)。次のように計算を行った:百分率E37DMNB−C=224582204/(224582204+20029397)*100=91.8%及び百分率E37L=20029397/(224582204+20029397)*100=8.2%。Xにおける他の天然アミノ酸の組込みに対応する測定可能な量のイオン種は検出されなかった。
【0138】
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【0139】
以上、明確に理解できるように本発明を多少詳細に記載したが、本発明の真の範囲を逸脱することなく形態や細部に種々の変更が可能であることは以上の開示から当業者に自明である。例えば、上記全技術及び装置は種々に組合せて使用することができる。本明細書に引用する全刊行物、特許、特許出願、及び/又は他の文献はその開示内容全体を全目的で本明細書に援用し、各刊行物、特許、特許出願、及び/又は他の文献を全目的で本明細書に援用すると個々に記載しているものとみなす。