特許第6073208号(P6073208)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6073208
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】トナー添加剤
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/08 20060101AFI20170123BHJP
【FI】
   G03G9/08 374
   G03G9/08 375
【請求項の数】19
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-238618(P2013-238618)
(22)【出願日】2013年11月19日
(65)【公開番号】特開2014-115645(P2014-115645A)
(43)【公開日】2014年6月26日
【審査請求日】2016年11月18日
(31)【優先権主張番号】13/705,524
(32)【優先日】2012年12月5日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】596170170
【氏名又は名称】ゼロックス コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
(73)【特許権者】
【識別番号】595006223
【氏名又は名称】ナショナル リサーチ カウンシル オブ カナダ
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】リチャード・ピー・ヴェアジン
(72)【発明者】
【氏名】キンビン・リー
(72)【発明者】
【氏名】アンドリー・コバレンコ
(72)【発明者】
【氏名】セルゲイ・グサロフ
【審査官】 野田 定文
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−184274(JP,A)
【文献】 特開2004−93783(JP,A)
【文献】 特開2011−8162(JP,A)
【文献】 特開2006−301615(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G9/00−9/16
G02F1/15−1/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂および着色剤を含むトナー粒子と、
前記トナー粒子表面に付与された1種類以上の表面添加剤とを含み、
前記1種類以上の表面添加剤が、チタニアナノチューブ、又はチタニアナノシートとチタニアナノチューブとの混合物を含み、
前記チタニアナノチューブの平均粒子直径が5nm〜100nmである、トナー組成物。
【請求項2】
前記1種類以上の表面添加剤が、粒子状シリカ、粒子状チタニアおよびこれらの混合物をさらに含む、請求項1に記載のトナー組成物。
【請求項3】
前記粒子状チタニアがアナターゼ構造またはルチル構造を有する、請求項2に記載のトナー組成物。
【請求項4】
前記チタニアナノチューブまたは前記チタニアナノシートが、前記トナー組成物の合計重量の0.1重量%〜5重量%の量で存在する、請求項2に記載のトナー組成物。
【請求項5】
前記粒子状シリカ、前記粒子状チタニアおよびこれらの混合物が、前記トナー組成物の合計重量の0.1重量%〜5重量%の量で存在する、請求項2に記載のトナー組成物。
【請求項6】
前記チタニアナノチューブまたは前記チタニアナノシートが、前記トナー組成物の合計重量の0.1重量%〜5重量%の量で存在する、請求項1に記載のトナー組成物。
【請求項7】
前記チタニアナノチューブは、平均粒子直径が5nm〜50nmである、請求項1に記載のトナー組成物。
【請求項8】
前記チタニアナノチューブは、平均粒子長さが50nm〜2μmである、請求項1に記載のトナー組成物。
【請求項9】
前記チタニアナノチューブは、平均粒子長さが100nm〜1μmである、請求項8に記載のトナー組成物。
【請求項10】
前記チタニアナノチューブの表面が、ヒドロキシル基を実質的に含まない、請求項1に記載のトナー組成物。
【請求項11】
前記チタニアナノチューブの表面の大部分が[001]面を含む、請求項1に記載のトナー組成物。
【請求項12】
樹脂および着色剤を含むトナー粒子と、
前記トナー粒子の表面に付与された1種類以上の表面添加剤とを含み、
前記1種類以上の表面添加剤が、チタニアナノチューブを含む、トナー組成物。
【請求項13】
前記チタニアナノチューブは、平均粒子直径が5nm〜100nmである、請求項12に記載のトナー組成物。
【請求項14】
前記チタニアナノチューブは、平均粒子長さが50nm〜2μmである、請求項12に記載のトナー組成物。
【請求項15】
前記チタニアナノチューブの表面に存在するヒドロキシル基の個数が、前記チタニアナノチューブの表面1ナノメートル平方あたり3個未満である、請求項12に記載のトナー組成物。
【請求項16】
前記チタニアナノチューブの表面の10%〜100%が[001]面を含む、請求項12に記載のトナー組成物。
【請求項17】
電荷が−15マイクロクーロン/グラム〜−80マイクロクーロン/グラムであり、かつ相対湿度感受性比が1〜2である、請求項12に記載のトナー組成物。
【請求項18】
ナー組成物と、トナー担体とを含み、
前記トナー担体が、担体コアと、前記担体コアの上に配置された担体コーティングとを含み、
前記トナー組成物が、
樹脂および着色剤を含むトナー粒子と、
前記トナー粒子表面に付与された1種類以上の表面添加剤とを含み、
前記1種類以上の表面添加剤が、チタニアナノチューブ、又はチタニアナノシートとチタニアナノチューブとの混合物を含み、
前記チタニアナノチューブの平均粒子直径が5nm〜100nmである、現像剤。
【請求項19】
前記トナー組成物が乳化凝集トナー組成物である、請求項18に記載の現像剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般的に、トナー添加剤に関し、特に、望ましい高いトナー電荷と、低い相対湿度(RH)感受性を与えるトナー添加剤に関する。トナー添加剤は、一般的に用いられるアナターゼ型またはルチル型の結晶性チタニアと組み合わせて、またはこれらの代わりにチタニアナノチューブまたはチタニアナノシートを含む。
【背景技術】
【0002】
トナーは、バインダー樹脂と、着色剤と、1種類以上の外部表面添加剤とを少なくとも含んでいてもよい。外部表面添加剤を少量加えてもよい。外部表面添加剤の例としては、例えば、シリカ、二酸化チタン、ステアリン酸亜鉛などが挙げられる。トナーの性質は、トナー材料およびトナー材料の量に影響を受ける。トナーの電荷特性もまた、現像剤組成物に使用される担体(例えば、担体コーティング)によって変わり得る。
【0003】
トナー組成物の環境条件の変化に対する電荷の良好な相対湿度(RH)感受性を有しつつ、高い電荷を与えるには、依然として問題がある。多くのトナーは、高い電荷を与えるための表面添加剤としてシリカを含むが、シリカは、RH感受性であることが知られている。したがって、高い電荷を維持しつつ、RH感受性を高め得る新しいトナー添加剤を提供することが最終目標である。
【0004】
表面添加剤は、一次粒径が7〜160nmと小さいため、多くの添加剤の嵌入を受ける。もっと大きな粒径を用いることによって嵌入を減らすことができるが、粒径を大きくすると、トナー表面に接着する添加剤が少なくなり、他の表面(例えば、感光体およびBCR)に混入してしまう場合がある。
【0005】
したがって、トナー表面への添加剤の接着性を高めつつ、高い電荷、低いRH感受性を与え、添加剤の嵌入を減らすことができる新しい表面添加剤が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本実施形態は、樹脂および着色剤を含むトナー粒子と、トナー粒子表面に塗布される1種類以上の表面添加剤とを含み、この1種類以上の表面添加剤が、チタニアナノチューブ、チタニアナノシートおよびこれらの混合物を含むトナー組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、正方晶構造、アナターゼ型およびルチル型のチタニアをあらわした図を示す。
図2図2は、担体樹脂およびトナー添加剤を接触させる前に分離しているときに、担体樹脂およびトナー添加剤のHOMOエネルギーおよびLUMOエネルギーの模式図を示す。
図3図3は、担体樹脂およびトナー添加剤が接触した状態にあるとき、担体樹脂およびトナー添加剤のHOMOエネルギーおよびLUMOエネルギーの模式図を示し、負のトナー電荷のフォワードエネルギーギャップと、正のトナー電荷のリバースギャップの両方を示す。
図4図4は、本実施形態にしたがって製造されたチタニアナノチューブについて、初期構造と、求電子性(f)および求核性(f)を予測する福井関数、電荷移動のしやすさを調べるために設計された/(TiO2)36の[100]、[010]、[001]面に対するPMMAの接近の最大値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示は、望ましい高いトナー電荷と、低い相対湿度(RH)感受性を与えるトナー添加剤に関する。トナー添加剤は、一般的に用いられるアナターゼ型またはルチル型の結晶性チタニアと組み合わせて、またはこれらの代わりにチタニアナノチューブ(TiNT)またはナノシートを含む。これらの新規添加剤は、管状構造であってもよく、または、粒子が一方向の寸法で球状であってもよく、他の寸法ではもっと線形であってもよい管状構造のシートを含む。
【0009】
粒子状のチタニアおよびシリカは、2種類の一般的に用いられるゼログラフィー式トナー表面添加剤である。シリカは、非結晶性であり、高い電荷という望ましい性質を有するが、一部にはシリカヒドロキシル基の水吸収性が高いため、高いRH感受性が悩ましい。シリカはアモルファスであるが、チタニアは、2つの正方晶構造、アナターゼ構造およびルチル構造を有し(すなわち、結晶性である一方向に伸びる立方体構造)、両者とも図1に示すような顕著な[101]面を特徴とする。従来の添加剤に関するこれらの構造は、一般的に、球状粒子または球状粒子の塊で構成されており、一方、ある種の従来からあるルチル粒状添加剤は、単離された針形状の結晶または針形状の結晶の束で構成されていてもよい。
【0010】
粒子状チタニアは、さらに、表面をヒドロキシル基によって濃く覆われた[101]面も特徴とする。チタニアは、シリカと比べて、低い電荷を与える一方、改良されたRH感受性を与えるが、チタニアはまた顕著なRH感受性を有する。これらの問題に対処するために、電荷およびRH感受性を合理的にあわせもつために、トナー現像剤の設計において、チタニアおよびシリカを両方とも加えることが一般的であった。しかし、まだこの解決法には問題がある。例えば、シリカを含むことで、どこでも、望ましい値である1に近いRH感受性を達成することが困難になる。しかし、シリカがなければ、電荷は低すぎる。
【0011】
表面添加剤は、一次粒径が7〜160nmと小さいため、多くの添加剤の嵌入を受ける。もっと大きな粒径を用いることによって嵌入を減らすことができるが、粒径を大きくすると、トナー表面に接着する添加剤が少なくなり、他の表面(例えば、感光体およびBCR)に混入してしまう場合がある。したがって、7nmの一次粒子が嵌入に最も感受性であり、一方、150nmの一次粒子は、嵌入への感受性は最小であるが、ほとんどがトナー粒子から失われると思われる。
【0012】
(トナー添加剤)
本実施形態は、従来から用いられているトナー添加剤が直面する問題に対処する。本実施形態は、チタニアナノチューブをトナー添加剤として提供する。これらのチタニアナノチューブは、一般的に製造される粒子状チタニアとは異なる結晶性表面を有している。モデリングは、新しいチタニアナノチューブが、さらに高い電荷を与えるヒドロキシル基を含まない表面によって粒子状チタニアよりも水にあまり強く引き寄せられないことを示した。いくつかの実施形態では、ナノチューブは、水親和性が約0〜約20kcal/moleまたは約1〜約15kcal/moleまたは約4〜約15kcal/moleである。それに加え、ナノチューブの形状(円筒形)は、1つの寸法において表面の高い湾曲を与え、ナノチューブは、トナー表面との接触面積を高め、嵌入を減らす高いアスペクト比を有しつつ、小さな粒子のように作用することができる。いくつかの実施形態では、ナノチューブは、1つの方向および2つの方向での表面湾曲が約0.01/nm〜約0.2/nm、または約0.02/nm〜約0.1/nmまたは約0.015/nm〜約0.15/nmである。他の方向および寸法において、表面湾曲はほぼゼロであり、したがって、ナノチューブは、第3の寸法においてほぼ線状である。現像剤粒子は多くの回数にわたって再利用されるが、ゼログラフィー機中でトナー担体粒子と他の表面との間で起こる多くの衝突によって、担体粒子の表面上に保持されたトナー粒子が溶融するか、または他の方法で担体表面に押しつけることができる。担体表面に衝突したトナー粒子が徐々に蓄積(すなわち、トナーが嵌入)すると、担体の摩擦帯電値が変化し、担体のトナー保有力を最終的に破壊することによってコピーの品質の悪化に直接寄与する。いくつかの実施形態では、チタニアのナノシート(薄いシート)は、トナー粒子表面に平らに存在する傾向があるだろう。トナー表面の面積が大きいことに起因して、ナノシートは、トナーへの嵌入に非常に耐性があると思われ、ナノチューブよりもさらに耐性があるだろう。いくつかの実施形態では、ナノシートは、任意の寸法において実質的な表面湾曲を与えない。
【0013】
本発明のナノチューブの別の利点は、トナー表面に対するチタニアナノチューブの接着性が高く、他のゼログラフィーサブシステム(例えば、感光体またはバイアス帯電ローラー(BCR))に混入されることがほとんどないと思われることである。添加剤の引き離し力は、その質量に比例し(F=ma)、一方、接着力は、接触面積および特定の化学結合がない状態での化学的な相互作用の性質に比例し、後者は、単純に、材料組成によってそれほど大きく変わるわけではないファンデルワールス力であろう。したがって、その添加剤がトナー表面にどれほどよく付着するかは、すべての場合について密度が同じであるため、大部分が接触状態にある表面積と質量との比率によって変わるだろう(チタニア添加剤の場合、表面積と質量との比率)。したがって、例えば、以下に記載するような直径12nm、長さ500nmのナノチューブは、17mmの球状のチタニア粒子と同じ表面積/質量比を有する。その結果、チタニアナノチューブは、小さなチタニアのようにトナー表面に接着する。さらに、1つの寸法において半径が小さいため、トナーの流れのような性質について、ナノチューブは、小さな粒子のように作用するため、大きな粒子よりも良好に流れる(結合力が粒子の半径に比例するため)。しかし、添加剤の嵌入という観点において、ナノチューブと接触する面積は、大きな粒子の接触面積と等しい。したがって、ナノチューブに衝突するのはさらに困難である。したがって、嵌入について、上のチタニアナノチューブは、55mmの球状のチタニアと等価である。ナノチューブが大きくなるにつれて、これらの効果は大きくなる。最終的な効果は、トナーの電荷、流れおよび接着性に関する効果であり、ナノチューブは、望ましくは低分子のように作用するだけではなく、嵌入について望ましくは大きな粒子のように作用すると予想される。ナノシートの場合、表面積が大きいが、その薄さに起因して体積が小さいため、添加剤の嵌入および添加剤の接着性の両方についてナノチューブについて予想されるのと同じ利点が予想される。しかし、ナノシートは、実質的な湾曲をもたないため、トナーの流れについてナノチューブと同じ利点を有するとは予想されない。
【0014】
チタニアナノチューブが、一般的に製造される粒子状チタニアとは異なる結晶性表面を与えることが示されている。従来のチタニアナノ粒子とは異なり、チタニアナノチューブの表面は、典型的には、脱ヒドロキシル化され、ヒドロキシル基によって修飾されていない酸化物である。これによって表面の極性が低下し、チタニア表面で水がきわめて良好に結合する部位が除かれる。さらに、チタニアナノチューブ内に露出される表面は、異なるあり得るチタニア表面のうち、水について最も親和性が低い表面の1つであることが示されている。したがって、チタニアナノチューブは、RH感受性が低い。いくつかの実施形態では、本実施形態から製造されるトナーは、RH感受性が約1〜約2または約1〜約1.5または約1〜約1.3である。しかし、本実施形態のトナーは、約−15〜約−80マイクロクーロン/グラムまたは約−20〜約−70マイクロクーロン/グラムまたは約−20〜約−60マイクロクーロン/グラムといった高い電荷をいまだ維持している。
【0015】
モデリングから、チタニアナノチューブ表面からの電荷移動のためのエネルギーギャップは、小さなエネルギーギャップおよび小さな水接着性に起因して、典型的なチタニア表面のエネルギーギャップよりも小さいことも示されている。したがって、電荷はもっと高いだろう。
【0016】
本発明の実施形態において、チタニアナノチューブまたはチタニアナノシートを含むトナー組成物が提供される。トナーは、任意の従来のトナーであってもよい。いくつかの実施形態では、トナーは、乳化凝集トナーであってもよい。いくつかの実施形態では、これらのチタニアナノチューブまたはチタニアナノシートは、トナー表面の添加剤としてトナー表面に含まれる。チタニアナノチューブまたはナノシートは、他の従来のトナー表面添加剤(例えば、粒子状シリカまたはチタニア)に代えて、またはこれらと組み合わせて含まれる。
【0017】
上述のように、ナノチューブは、1つの寸法において球状であり、他の寸法において、もっと線状であってもよい構造を有する。ナノシートは、血小板のような形状または薄い平らなシートまたは凝集物のようなものから作られてもよい構造を有する。いくつかの実施形態では、ナノシートは、シートの長さが約100〜約2000nm、または約100〜約1000nm、または約200〜約500nmであってもよい。ナノシートは、シートの幅が約100〜約2000nm、または約100〜約1000nm、または約200〜約500nmであってもよい。さらなる実施形態では、ナノシートは、厚みが約0.5〜約50nm、または約1〜約20nm、または約2〜約10nmであってもよい。いくつかの実施形態では、ナノシートの長さと幅の比率は、約1:1〜約5:1であってもよく、シートの面積の比率は、幅に長さ(単位nm)で掛け算し、これを厚み(単位nm)で割ることによって計算され、約500/nm〜約20,000,000/nmであってもよい。
【0018】
いくつかの実施形態では、チタニアナノチューブは、平均粒子直径が約5nm〜約100nm、または約5〜約50nm、または約6〜約20nmである。いくつかの実施形態では、チタニアナノチューブは、平均粒子長さが約50nm〜約2ミクロン、または約100nm〜約1ミクロン、または約150nm〜約500nmである。チタニアナノチューブの表面は、実質的にヒドロキシル基を含まない。例えば、チタニアナノチューブの表面は、表面1ナノメートル平方あたり、3個未満のヒドロキシル基を有するか、表面1ナノメートル平方あたり、約0.02〜約2個のヒドロキシル基を有するか、または表面1ナノメートル平方あたり、約0.05〜約1個のヒドロキシル基を有する。さらに、チタニアナノチューブまたはチタニアナノシートの表面は、図1に示されるように、主に[001]面を有する。具体的な実施形態では、チタニアナノチューブまたはチタニアナノシートの表面は、約1〜約100%、または約5〜約90%、または約50〜約100%の[001]面を含む。
【0019】
さらなる実施形態では、チタニアナノチューブまたはチタニアナノシートを、従来の粒子状トナー表面添加剤の代わりに用いる。このような実施形態では、チタニアナノチューブまたはチタニアナノシートは、トナー粒子の合計重量の約0.1〜約5重量%、または約0.5〜約3重量%、または約1〜約4重量%の量で存在する。他の実施形態では、チタニアナノチューブまたはチタニアナノシートを、従来の粒子状トナー表面添加剤と組み合わせて使用する。このような実施形態では、チタニアナノチューブまたはチタニアナノシートは、トナー粒子の合計重量の約0.1〜約5重量%、または約0.5〜約3重量%、または約1〜約4重量%の量で存在するが、一方、従来のトナー表面添加剤は、トナー粒子の合計重量の約0.1〜約5重量%、または約0.5〜約3重量%、または約1〜約4重量%の量で存在する。従来のトナー表面添加剤は、粒子状チタニア、粒子状シリカおよびこれらの混合物からなる群から選択される。粒子状チタニアは、アナターゼ構造またはルチル構造であってもよい。
【0020】
(乳化凝集トナー)
いくつかの実施形態では、樹脂コーティングされた担体とトナーとを含む現像剤が開示されており、トナーは、限定されないが、ラテックス樹脂、ワックス、ポリマーシェルを含有する乳化凝集トナーであってもよい。
【0021】
いくつかの実施形態では、ラテックス樹脂は、第1のモノマー組成物と第2のモノマー組成物とで構成されていてもよい。第1のモノマー組成物および第2のモノマー組成物を調製するために、任意の適切なモノマーまたはモノマー混合物を選択してもよい。第1のモノマー組成物のためのモノマーまたはモノマー混合物の選択は、第2のモノマー組成物のための選択と独立しており、逆もまた成り立つ。ある実施形態では、第1のモノマー組成物および第2のモノマー組成物は、互いに独立して、2種類、3種類またはそれより多い異なるモノマーを含んでいてもよい。したがって、ラテックスポリマーは、コポリマーを含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、第1のモノマー組成物および第2のモノマー組成物は、実質的に水不溶性(例えば、疎水性)であってもよく、反応容器に加えたとき、十分に攪拌させて水相に分散させてもよい。
【0022】
第1のモノマー組成物と第2のモノマー組成物の重量比は、約0.1:99.9〜約50:50の範囲であってもよい(約0.5:99.5〜約25:75、約1:99〜約10:90を含む)。
【0023】
いくつかの実施形態では、第1のモノマー組成物と第2のモノマー組成物は同じであってもよい。第1の/第2のモノマー組成物の例は、スチレンおよびアクリル酸アルキルを含む混合物、例えば、スチレン、アクリル酸n−ブチル、β−CEAを含む混合物であってもよい。モノマーの合計重量を基準として、スチレンは、約1%〜約99%、約50%〜約95%、約70%〜約90%の量で存在してもよいが、これより多い量または少ない量で存在していてもよく、アクリル酸アルキル(例えば、アクリル酸n−ブチル)は、約1%〜約99%、約5%〜約50%、約10%〜約30%の量で存在していてもよいが、これより多い量または少ない量で存在していてもよい。
【0024】
(界面活性剤)
本開示のラテックスおよびワックス分散物を調製するために、任意の適切な界面活性剤を使用してもよい。乳化系によっては、任意の望ましい非イオン系界面活性剤またはイオン系界面活性剤(例えば、アニオン系界面活性剤またはカチオン系界面活性剤)を想定してもよい。
【0025】
アニオン系界面活性剤を任意の望ましい量または有効な量で、例えば、ラテックスポリマーを調製するために使用される合計モノマーの少なくとも約0.01重量%、ラテックスポリマーを調製するために使用される合計モノマーの少なくとも約0.1重量%、ラテックスポリマーを調製するために使用される合計モノマーの約10重量%未満、ラテックスポリマーを調製するために使用される合計モノマーの約5重量%未満の量で使用してもよいが、その量は、これらの範囲からはずれていてもよい。
【0026】
(開始剤)
ラテックスプロセスおよびトナープロセスにおいて、任意の適切な開始剤、または開始剤の混合物を選択してもよい。いくつかの実施形態では、開始剤は、既知の遊離ラジカル重合開始剤から選択される。遊離ラジカル開始剤は、遊離ラジカル重合プロセスを開始することができ、約30℃より高い温度まで加熱したときに遊離ラジカル種を与えることができる任意の遊離ラジカル重合開始剤、およびこれらの混合物(例えば、遊離ラジカル開始剤)であってもよい。
【0027】
乳化重合反応に水溶性遊離ラジカル開始剤を使用するが、他の遊離ラジカル開始剤も使用可能である。
【0028】
重合するモノマーの合計重量を基準として、開始剤は、約0.1%〜約5%、約0.4%〜約4%、約0.5%〜約3%の量で存在していてもよいが、これより多い量またはこれより少ない量で存在していてもよい。
【0029】
場合により、ラテックスの重合度を制御するために連鎖移動剤を使用してもよく、それによって、本開示のラテックスプロセスおよび/またはトナープロセスのラテックス生成物の分子量および分子量分布を制御してもよい。理解することができるように、連鎖移動剤は、ラテックスポリマーの一部となってもよい。
【0030】
(連鎖移動剤)
いくつかの実施形態では、連鎖移動剤は、炭素−硫黄共有結合を有する。炭素−硫黄共有結合は、赤外線吸収スペクトルにおいて、500〜800cm−1の範囲の波数領域に吸収ピークを有する。連鎖移動剤をラテックスおよびラテックスから作られるトナーに組み込む場合、吸収ピークは、例えば、400〜4,000cm−1の波数領域に変わってもよい。
【0031】
重合するモノマーの合計重量を基準として、連鎖移動剤は、約0.1%〜約7%、約0.5%〜約6%、約1.0%〜約5%の量で存在していてもよいが、これより多い量またはこれより少ない量で存在していてもよい。
【0032】
いくつかの実施形態では、場合により、標的ラテックスの分岐構造を制御するために、第1の/第2のモノマー組成物に分岐剤が含まれていてもよい。例示的な分岐剤としては、限定されないが、デカンジオールジアクリレート(ADOD)、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、トリメリット酸、ピロメリット酸およびこれらの混合物が挙げられる。
【0033】
重合するモノマーの合計重量を基準として、分岐剤は、約0%〜約2%、約0.05%〜約1.0%、約0.1%〜約0.8%の量で存在していてもよいが、これより多い量またはこれより少ない量で存在していてもよい。
【0034】
本開示のラテックスプロセスおよびトナープロセスにおいて、任意の適切なプロセスによって、例えば、高温で混合することによって乳化を行ってもよい。例えば、約200〜約400rpmに設定したホモジナイザーで、約40℃〜約80℃の温度で約1分〜約20分かけてエマルション混合物を混合してもよい。
【0035】
任意の種類の反応器を制限なく使用してもよい。反応器は、中で組成物を攪拌するための手段(例えば、インペラー)を含んでいてもよい。反応器は、少なくとも1つのインペラーを含んでいてもよい。ラテックスおよび/またはトナーを作成するために、インペラーを約10〜約1,000rpmの有効な混合速度で操作可能なプロセスによって反応器を操作することができる。
【0036】
モノマーの添加を終了した後に、冷却する前にこの条件を所定時間、例えば、約10〜約300分維持することによって、ラテックスを安定化させてもよい。場合により、上のプロセスによって作られるラテックスを当該技術分野で既知の標準的な方法によって、例えば、凝集、溶解および沈殿、濾過、洗浄、乾燥などによって単離してもよい。
【0037】
既知の方法によってトナー、インクおよび現像剤を作成する乳化−凝集−融着プロセスのために、本開示のラテックスが選択されてもよい。本開示のラテックスを、種々のトナー成分、例えば、ワックス分散物、凝固剤、任意要素のシリカ、任意要素の電荷向上添加剤または電荷制御添加剤、任意要素の界面活性剤、任意要素の乳化剤、任意要素の流動添加剤などを溶融ブレンドしてもよく、または他の方法によって混合してもよい。場合により、トナー組成物に配合する前に、ラテックス(例えば、固形分が40%付近)を、望ましい固形分保有量(例えば、固形分が約12〜約15重量%)になるまで希釈してもよい。
【0038】
トナーの合計重量を基準として、ラテックスは、約50%〜約100%、約60%〜約98%、約70%〜約95%の量で存在していてもよいが、これより多い量またはこれより少ない量で存在していてもよい。このようなラテックス樹脂を製造する方法を、米国特許第7,524,602号(その全体が本明細書に参考として組み込まれる)の開示に記載されるように行ってもよい。
【0039】
(着色剤)
種々の既知の適切な着色剤、例えば、染料、顔料、染料混合物、顔料混合物、染料と顔料の混合物などがトナーに含まれていてもよい。着色剤が、トナーに例えば、トナーの約0.1〜約35重量%、トナーの約1〜約15重量%、トナーの約3〜約10重量%の量で含まれていてもよいが、これらの範囲からはずれる量を用いてもよい。
【0040】
(ワックス)
ポリマー樹脂に加え、本開示のトナーは、さらに、ワックスを含んでいてもよく、1種類のワックスまたは2種類以上の異なるワックスの混合物であってもよい。例えば、トナー粒子の形状、トナー粒子表面のワックスの有無および量、帯電特性および/または融合特性、光沢、剥離性、オフセット性などの特定のトナー特性を改良するために、トナー配合物に1種類のワックスを加えてもよい。または、トナー組成物に複数の特性を与えるために、ワックスの組み合わせを加えてもよい。
【0041】
ワックスが含まれる場合、ワックスは、例えば、トナー粒子の約1wt%〜約25wt%、いくつかの実施形態では、トナー粒子の約5wt%〜約20wt%の量で存在していてもよい。
【0042】
(担体)
本開示の担体および現像剤に、種々の適切な固体コアまたは粒子材料を利用してもよい。特徴的な粒子特性としては、いくつかの実施形態では、トナー粒子が正電荷または負電荷を獲得することができる特性が挙げられ、現像剤容器中で望ましい流動特性を与える担体コアが、電子写真式画像化装置中に存在する。コアの他の望ましい特性としては、例えば、磁気ブラシ現像プロセスで磁気ブラシを生成することができる適切な磁気特性;望ましい機械的な劣化特性;および担体と適切なトナーとを含む任意の現像剤の高い導電性を可能にする望ましい表面形状が挙げられる。
【0043】
いくつかの実施形態では、コーティングの被覆率は、担体コアの約10%〜約100%を包含する。金属担体コアのうち、選択した領域がコーティングされていないままか、または露出したままであるとき、コア材料が金属である場合、担体粒子は導電性を有していてもよい。
【0044】
いくつかの実施形態では、本開示の担体は、コアを含んでいてもよく、いくつかの実施形態では、フェライトコアを含んでいてもよく、粒径は約20μm〜約100μm、いくつかの実施形態では、約30μm〜約75μmであり、約0.5%〜約10重量%、いくつかの実施形態では、約0.7%〜約5重量%の本開示のポリマーコーティングによってコーティング、場合により、カーボンブラックを含んでいてもよい。
【0045】
したがって、本開示の担体組成物およびプロセスを用い、選択した高い摩擦帯電特性および/または多くの異なる組み合わせを利用する導電性値を有する現像剤を配合してもよい。
【0046】
(現像剤)
このようにして作られたトナー粒子を現像剤組成物に配合してもよい。トナー粒子を担体粒子と混合し、二成分系現像剤組成物を達成してもよい。現像剤中のトナー濃度は、現像剤の合計重量の約1%〜約25重量%、いくつかの実施形態では、現像剤の合計重量の約2%〜約15重量%であってもよい。
【0047】
(画像形成)
米国特許第4,295,990号(その開示内容は、全体的に本明細書に参考として組み込まれる)に開示されることを含む電子写真式プロセスにトナーを利用してもよい。
【0048】
本開示のトナーを利用し、可撓性基材を含む基材の上に画像を作成してもよく、トナーの山の高さは約1μm〜約6μm、いくつかの実施形態では、約2μm〜約4.5μm、いくつかの実施形態では、約2.5〜約4.2μmであってもよい。
【0049】
いくつかの実施形態では、特に、商業的な印刷用途において、限定されないが、熱および光に対する安定性、耐汚れ性を含む重ね塗りコーティング特性を与えるゼログラフィー印刷物保護組成物のために本開示のトナーを使用してもよい。さらに具体的には、このような想定している重ね塗りコーティングは、重ね書きを可能にする能力、熱による割れを減らすか、または防ぐ能力、融合を向上させる能力、書類の裏移りを減らすか、または防ぐ能力、印刷性能を高める能力、日光、熱から画像を保護する能力などが挙げられる。いくつかの実施形態では、重ね塗り組成物を使用し、この組成物がゼログラフィー基材およびトナーの粗さを埋める能力に起因して、ゼログラフィー印刷物の全体的な外観を高めてもよく、それによって、平坦な膜を作成し、光沢を高めてもよい。
【実施例】
【0050】
(実施例1)
(チタニアナノチューブの合成および特性決定)
チタニアナノチューブ(TiNT)の合成は、チタニアナノ粒子から直接進行する。例えば、合成は、Q.Chen、G.Mogilevsky、G.W.Wagner、J.Forstater、A.KleinhammesおよびY.Wu、Chemical Physics Letters 48:134−138(2009);およびG.Mogilevsky、Q.Chen、A.Kleinhammes、Y.Wu、Chemical Physics Letters 460:517−520(2008)に報告されており、その全体が本明細書に参考として組み込まれる。1つめの文献において、これらの熱水分解によって合成されたチタニアナノチューブが空気に安定な材料であり、大量の活性なアナターゼ(001)状表面部位を含むと結論づけた。2つめの文献において、ナノチューブの合成が記載されている。特に、4グラムのアナターゼ二酸化チタンナノ粒子(32nm直径、Aldrichから市販されている)を400mLの10M NaOH溶液と合わせ、Teflonで処理した鋼鉄製オートクレーブ中、130℃で72時間熟成させた。その後、この材料を蒸留水および0.1M HClで洗浄し、材料のpHを5〜6まで下げ、過剰なナトリウムを洗い流した。沈殿をパイレックス(登録商標)皿に入れ、50℃で一晩放置して乾燥させ、種々の技術によるさらなる特性決定のために集めた。得られたTEMデータから、チタニアナノチューブは、多層であることが示されており、内側および外側の平均直径は、それぞれ5〜6nmおよび10〜12nmであり、それぞれのナノチューブは、3〜5層を含み、長さは500nm程度であった。
【0051】
チタニアナノシートは、Q.Chen、G.Mogilevsky、G.W.Wagner、J.Forstater、A.KleinhammesおよびY.Wu、Chemical Physics Letters 482:134−138(2009)に記載されるように合成することができ、その全体が本明細書に参考として組み込まれる。
【0052】
(実施例2)
(チタニアナノチューブの評価−水の吸着を含む帯電特性のコンピューター計算)
担体コーティング樹脂からトナー添加剤への電子移動をモデリングするために、担体樹脂とシリカまたはチタニア表面モデルのトリマー単位で構成される担体樹脂シリカ複合物を調べた。
【0053】
通常の分子内電子移動において、単一の材料の中では、光子または衝突または熱エネルギーからの十分なエネルギーの吸着によって、最高被占軌道(HOMO)から最低空軌道(LUMO)へと電子が移動することができることが当該技術分野で知られている。電子および正孔(電子がHOMOから出ると残る)が両方とも同じ電子にあるため、分子には正味の電荷は存在しない。エネルギーギャップの大きさは、起動間を電子が移動するのに必要なエネルギー量を決定づける。図2に示されるように、担体樹脂およびトナー添加剤の両者は、これらが接触する前には、HOMOおよびLUMOと、関連するギャップとを有する。LUMOより上にある他のエネルギーレベル(エネルギーが増えていくLUMO+1、LUMO+2などとして知られる)と、HOMOより下にある他のエネルギーレベル(エネルギーが低くなっていくHOMO−1、HOMO−2などとして知られる)も潜在的に存在することを注記すべきである。一般的に、HOMO−nからLUMO+mへと電子が移動することが可能である(1つの材料の中で、n,m≧0)。単純にするために、HOMOn=0は、通常HOMOと書かれ、LUMOm=0はLUMOと書かれることに注意。
【0054】
本実施形態のコンピューターモデリングにおいて、2種類の材料(例えば、トナー添加剤および担体)が接触すると、HOMO−nおよびLUMO+mの位置に多くの異なる可能性が生じることが示されている。したがって、電荷移動の結果は、多くの異なる可能性を有する。2種類の材料が接触すると、HOMO−nが担体樹脂の上にあり、LUMO+mがトナー添加剤の上にある場合がある。この状況で、負に帯電するトナーにとって望ましいように、電子移動によって担体樹脂が正に帯電し、トナー添加剤が負に帯電するだろう。この状況は、図3に示されるように、順方向のエネルギーギャップと呼ばれる。一方、LUMO+mが担体樹脂の上にあり、HOMO−nがトナー添加剤の上にある場合、電子移動によって、トナー添加剤が正に帯電し、担体樹脂が負に帯電し、負に帯電するトナーにとって、この逆が望ましい。この状況は、図3に示されるように、逆方向のエネルギーギャップと呼ばれる。HOMOおよびLUMOが、図2に示されるように、たった1つの分子の上にあってもよく、または、両方の分子に部分的にあってもよい。これらのフロンティア分子軌道の変化は、2つの材料の性質および材料間の相互作用によるものであり、相互作用は、接触状態にある2つの分子の位置関係にも依存する。材料の塊サンプルにおいて、接触時には、分子の異なる位置関係が無作為に与えられるだろう。したがって、全体的な移動した電荷は、これらの異なるプロセスの合計である。電荷移動について重要なプロセスは、最低エネルギーの移動であり、そのため、モデリングデータの集合体において、このプロセスは、異なる接触位置関係を見て、望ましい順方向の電荷移動(負のトナー電荷)のための最低エネルギーギャップと、逆方向の電荷移動(正のトナー電荷)のための最低エネルギーギャップを特定することである。したがって、モデリングは、トナー添加剤と担体を含み、ポリマー樹脂コーティングを有するトナーの帯電において、優れた高い負のトナー電荷のために、以下の2種類の鍵となる属性があることを示している。
(1)順方向の電荷移動のための最低エネルギーギャップが小さい必要がある。
(2)最低の逆方向のエネルギーギャップは、順方向のギャップより大きい((2)から(1)を引いた差が負である)。
【0055】
表1は、コーティング材料としてのメタクリル酸メチル(MMA)およびメタクリル酸ジメチルアミノエチル(DMAEMA)の繰り返し単位について、トナー添加剤への電子電荷移動(望ましい)から、ポリマーへの電子電荷移動(望ましくない)までのモデリングデータを示す。

【表1】
モデリングデータは、MMA繰り返し単位を用いると、順方向の移動のためのギャップは、逆方向の移動のためのギャップよりも小さく(4.793 対 6.236eV)、望ましいように、MMAに正電荷、トナーシリカに負電荷があると予測されることを示す。その次の項目は、DMAEMAを用いると、順方向の移動のためのギャップは、さらに3.73eVまで低下するのに対し、逆方向のギャップは5.23eVであることを示す。少量であってもDMAEMAをMMAに加えると、トナー上のシリカにもっと大きな電荷を与える担体樹脂が得られることは、実験的に観察され、これは、順方向のエネルギーギャップが低いことに起因する。
【0056】
チタニア[101]を有するポリメチルメタクリレート(PMMA)をアナターゼであるとしてモデリングすると、非常に低いエネルギーギャップが予想されるが、チタニアは、シリカより大きな帯電はみられず、電荷は小さい。この理由は、チタニアは、シリカ表面よりかなり極性が高いため、相対湿度が低い状態でさえ表面にかなりの水を有しているからだと思われる。チタニアは、すでに表面に多量の水を有しているため、比較的RH感受性がなく、そのため、表面にある水の変化は、シリカよりもかなり小さい。チタニアに大きな帯電をさせる1つの鍵は、最も顕著には、表面からヒドロキシル基を除去することによって、水の吸着を減らすことである。
【0057】
チタニア[001]を有し、ヒドロキシル基を含まないPMMA電荷移動のモデリングは、電荷移動のためのギャップがほんの1.09eVとさらに低いことを示す。したがって、この表面では順方向の電荷移動がきわめて起こりやすく、チタニアナノチューブ表面にみられる面である。したがって、水の吸着が減らされていない状態であっても、エネルギーギャップから、チタニアナノチューブは、典型的なチタニア表面よりも大きく帯電すると予測される。電荷移動は、水が存在する状態でも分析することができる。PMMA/(TiO36/水クラスターについて計算したHOMOおよびLUMOの電子密度分布は、PMMAおよび水が両方ともチタニアナノチューブ(TiO36の[001]面に吸着することを示していた。水が存在する状態であっても、エネルギーギャップは1.12eVであり、通常のチタニアよりもかなり小さく、したがって、電荷が増大すると予測された。
【0058】
異なる表面に対する水の吸着親和性は、表2にまとめたように、モデリングからも予想することができる。
【表2】
【0059】
Ti−O−Ti基を有し、ヒドロキシル基を含まない表面はすべて、ヒドロキシル基を含む通常のアナターゼ型またはルチル型の[101]表面よりも水の吸着が少ないだろう。しかし、Ti−O−Ti表面のうち、チタニアナノチューブの[001]表面は、[010]を除き、任意の表面の水に対し、最も低い親和性を有する1つの表面である。したがって、チタニアナノチューブの[001]表面は、水の吸着が低いことについて、チタニア中に存在する可能な最良の表面に近い。したがって、ヒドロキシル基がなく、[001]表面の性質がないことは、水の吸着を減らすため、電荷は大きくなり、RH感受性が低くなることが予想される。
【0060】
(コンピューターモデリングの手順)
電気特性に対して表面が及ぼす影響について調べるために、結晶構造の単位セルを切断することによって、アナターゼ型クラスター(TiO36モデルを構築する。アナターゼ型クラスターモデルを作成するとき、純粋な結晶構造のみ(すなわち、ダングリングボンドの飽和が存在しない)が許容された。他の基準としては、中性クラスター、すべての酸素原子が少なくとも2個のチタン原子に配位され、すべてのチタン原子が少なくとも4個の酸素原子に配位された高配位が挙げられる。すべてが置換されたメタクリレートの場合、トリマーを使用してポリマーをあらわした。ポリマー中でCが多い官能基およびOが多い官能基(アルキル/芳香族およびアシル)についてあり得る影響を区別するために、3種類のアシル基がすべて同じ側に配位するように設計した。
【0061】
PMMAおよび(TiO2)36クラスターに関する表面反応性の指標は、密度汎関数理論を用いて計算される福井関数によって予想された。次いで、図4に示すように、異なるチタニア表面に近づいているPMMAの比較にしたがって、一連の初期の複合体構造を作成した。福井関数は、求電子性(f)、求核性(f)、/(TiO2)36の[100]、[010]、[001]表面に対するPMMAの最大接近を予測した。
【0062】
PMMAを水に置き換え、同じ様式でチタニアへの水の吸着を調べた。複合体と、単離した水およびチタニアのエネルギー差を比較することによって、親和性を計算した。
【0063】
シリカモデルの表面ヒドロキシル基を模倣するために、一層の円筒形状シリカモデルを用い、式Si123216を有する表面処理されたシリカを設計した。このモデルでは、すべてのケイ素は、四面体形状であり、酸素に結合していた。この円筒形の縁は、2ジェミナルシラノール[Si(OH)]をあらわす2個のヒドロキシル基で終わっており、これはβ−クリストバライトの(100)表面に典型的であり、未処理シリカの2種類の表面ヒドロイシル基の1つとして、アモルファスシリカ表面上で実験によって特定された。
【0064】
すべての計算は、Accelrys Materials Studio 4.2の市販のソフトウェアパッケージからDMol3モジュールを用いて行った。すべてのモデルおよび接続したトナー/担体複合体について表面電気特性を研究するために密度汎関数理論(DFT)を使用した。この研究において、Perdewの91一般化勾配近似(PW91PW91)を密度汎関数法として使用した。基本的な関数として、d分極関数(DND)を用いた2重数値基底関数(DND)をすべての計算に使用した。
【0065】
シリカ上に吸着したポリマー複合体の初期構造、最適化した構造、電気特性を調べた。エネルギー、勾配、変化が、それぞれ2×10−5Ha、4×10−3Ha/Å、5×10−3Åよりも小さいときに、幾何最適化の収束を達成した。ここで、Haは、ハートリー原子単位(au)であり、1au=4.359×10−18ジュールである。
図1
図2
図3
図4