【文献】
BIOMAT., ART. CELLS & IMMOB. BIOTECH.,1993年,Vol.21, No.5,p.583-595
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0001】
エマルション製剤は、皮膚病学の分野において重要な役割を果たし、その分野でエマルション製剤は多くの肌に優しい局所用薬用の担体を提供する。時折、エマルションは、経口および非経口医薬用に用いられ、特にプロポフォール(例えばジソプリバン(Disoprivan)(登録商標)またはジプリバン(Diprivan)(登録商標)として販売)およびエトミデート(エトミダト(Etomidat)(登録商標)リプロ(Lipuro)として販売)などの非常に難水溶性の有効成分の静脈内投与にも使用される。
【0002】
プロポフォール(2,6−ジイソプロピルフェノール、MW178.27)は、強力な静脈麻酔薬である。これは麻酔の導入と維持の両方に常套的に使用される。さらに、プロポフォールは、集中治療中の患者の鎮静のため、または外科的処置および診断手順のための局部または局所麻酔の調製に使用することができる。プロポフォールは、その急速な作用発現およびその比較的穏やかな副作用を特徴とする。
【0003】
物理的に、プロポフォールは高親油性化合物であり、約19℃で溶融する。室温では、その外見は油である。水または水性緩衝液への溶解度は無視できるほどであり、それによりプロポフォールは、特に静脈内投与用に、また他の経路用にも処方することが非常に困難な化合物となっている。この分子の唯一のイオン性基はそのヒドロキシル基であるが、そのpKaが11であるためにそれは水溶性塩を形成するのには適していない。プロポフォールのオクタノール/水分配係数は、6〜8.5のpHで6761:1である。
【0004】
プロポフォールは、最初にイギリスの製薬会社ICI(現アストラゼネカ)によって可溶化された静脈内製剤として開発された。これはあまり耐容性のよくない賦形剤である可溶化剤クレモフォール(Cremophor)(登録商標)ELをかなりの量含んでいた。市場導入の直後、数件のアナフィラキシー反応の報告によって、この製剤は販売中止に至った。数年後、アストラゼネカは、ジプリバン(登録商標)という商標の新しいプロポフォール製剤を売り出した。これは現在でもなお使用されている。この製品は、1%のプロポフォールと、分散相として10%の大豆油と、乳化剤として1.2%の精製卵レシチンを含むo/wエマルションである。凝集性の水相は、2.25%のグリセロールおよび少量のEDTAおよび水酸化ナトリウムを含有する。近年、ジェネリックのエマルション製剤もいくつかの国で入手できるようになった。
【0005】
プロポフォールは、全身麻酔の導入および維持、人工換気されている成人の鎮静、および処置上の鎮静に適応される。まだ実験的なその他の臨床用途としては、てんかん重積状態の管理、頭痛、特に片頭痛の治療、不安症の管理、および急性脳損傷における神経保護のためのものがある。これらの用途は、例えば、国際公開第00/54588A1号に教示されるように、催眠量以下の用量のプロポフォールしか必要としない場合が多い。
【0006】
麻酔で使用されるその他の化合物と比較して、プロポフォールは、顕著な安全性プロフィールを有する。その有害作用は通常軽度で対処が容易である。単一用量のプロポフォールの催眠作用は、一般に数分以内に消失する。その健忘作用とともに急速な発現および回復が、この化合物を鎮静および麻酔に非常によく用いられるものにしている。同様の薬剤とは対照的に、プロポフォールは悪心を誘発しないと思われる。
【0007】
典型的な有害作用の中に、導入用量の後の血圧低下および一過性の無呼吸がある。軽度のミオクローヌス性運動が一般に観察される。プロポフォールエマルションのもう一つのよく起こる問題は、それが注射または注入された部位に局所疼痛を生じることであり、その理由のために一部の患者はリドカインなどの局所麻酔薬で前処置される。エマルションの水相に溶解した少量のプロポフォールがこの疼痛の原因であると思われる。稀であるがより深刻なものが、失調症、高脂血症、膵炎およびいわゆるプロポフォール注入症状群である。この致死性である可能性のある代謝異常は、カテコールアミンおよび/またはコルチコステロイドと併用した高用量プロポフォールの長期の注入の後に危篤状態の患者に起こった。
【0008】
ごく最近、他のプロポフォールの静脈内製剤が臨床試験または市場に導入された。例えば、5%のダイズ油および0.6%レシチンしか含まない1%プロポフォールエマルション(アンポフォール(Ampofol)(登録商標))が試験された。この製剤は、高脂血症および膵炎のより低いリスクに関連している可能性がある。同時に、注射部位の疼痛は、ジプリバン(登録商標)によるよりもさらに明白であることが見出された。
【0009】
プロポフォール−リプロ(登録商標)およびIDD−D(登録商標)プロポフォールなどのその他のエマルション製剤は、エマルションの油成分中の長鎖トリグリセリド(LCT)をより多くの量の中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)に置換することに依っている。MCT製剤のほうが、成人にも小児患者にもLCT製剤よりもより良好に耐容されると仮定される。しかし、それらはまた、アセトアセテート、β−ヒドロキシ酪酸およびオクタノエートなどの有毒化合物を放出する可能性がある。
【0010】
しかし、プロポフォールエマルションを使用することに関わる高脂血症および膵炎のリスクがなおある。これらのエマルションの薬剤負荷量が比較的低いことにより、独自のリスクプロフィールを有する、かなりの量のトリグリセリドおよび乳化剤(すなわち、リン脂質)の投与が必要とされる。
【0011】
非経口プロポフォールエマルションのさらなる欠点は、水性環境中のトリグリセリド油および乳化剤としてのリン脂質の含有量に起因して、それらが、汚染後に実質的な微生物の増殖を起こしやすいことである。したがって、ジプリバン(登録商標)の現在の製剤は、たとえ製品がバイアルごとに同一患者の使用に制限されているとしても、エデト酸(二)ナトリウムを抗菌剤として含む。
【0012】
注射製剤用のその他の微生物の防腐剤(microbial preservatives)は原則として利用可能であるが、それらは耐容性の低下および特に過敏症反応を誘発するリスクに関連している。国際公開第00/24376号では、ベンジルアルコールを、単独で(0.0175〜0.9重量%)、あるいはナトリウム・エダート(sodium edate)(0.005重量%)または安息香酸ナトリウム(0.07重量%)と組み合わせて、プロポフォール、溶媒として植物油、および乳化剤として卵リン脂質を含有する水中油型エマルションを微生物的に安定させるために使用している。
【0013】
国際公開第2007/052288号には、トリグリセリド油(5〜20% w/v)、1.2重量%天然リン脂質、例えば精製大豆もしくは卵リン脂質など、浸透圧調節剤として2.25重量%グリセロールならびに防腐剤系としてラウリン酸およびカプリン酸のモノグリセリルエステル(0.025〜0.05重量%)、エデト酸二ナトリウム(0.0025〜0.001重量%)および/またはカプリン酸(0.025〜0.05重量%)を含有する水中油型エマルションの形態のプロポフォール製剤が記載されている。この系は、少なくとも24時間の間に、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、大腸菌(Eschericha coli)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginose)およびカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)のそれぞれについてわずか10倍の増加しか示さない。
【0014】
あるいは、プロポフォールについて提案されたことのある非エマルション製剤には、原薬がシクロデキストリンを用いて可溶化された形態で存在する水溶液が含まれる。シクロデキストリンは、ゲスト分子と包接錯体を形成することのできる水溶性の環状オリゴ糖である。特に、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンを含むプロポフォール溶液、およびスルホブチルエーテル−β−シクロデキストリンを含むプロポフォール溶液がそれぞれ研究されている。しかし、これらの製剤の薬物動態がプロポフォールエマルションに匹敵するかどうかは確立されていない。さらに、高用量のシクロデキストリンは、溶血作用および腎毒性に関連する場合が多い。
【0015】
よって、プロポフォールなどの難水溶性化合物のさらに改良された製剤に対する必要性が残っている。さらに、エマルション製剤の処方の改良の必要性がある。例えば、より高い薬剤負荷量および/またはより良い安全性プロフィールを有するエマルションが必要とされている。
【0016】
米国特許第6,113,919号は、水性連続相と油性分散相を含む水中油型エマルションを開示している。その分散相は、少なくとも2つのフッ素化液体を含み、その一つが油性溶媒もしくは担体であり分散相の大部分を構成し、もう一つが分散相の10% w/vまでの量のフッ素化共界面活性剤である。フッ素化共界面活性剤は、フッ素化油性担体とは異なる。油性担体は、全フッ素化液体、特にパーフルオロオクチルブロミドであり、分散相に対して約90% w/vの量で使用される。
【0017】
しかし、全フッ素化化合物は、エマルション中、特にそれらが大量に組み込まれているか、または油相の担体または溶媒として使用される場合に多少問題を含む。例えば、その密度が極めて高いので、分散相の沈降による物理的な相分離の危険性が常にあり、それは制御が困難である。通常、パーフルオロカーボンに基づいてエマルションを安定化させるために大量の界面活性剤が必要である。これらのエマルションは、一般に機械的応力、例えばポンピング、調剤、遠心分離(centrifigation)などに関連する応力に敏感である。さらに、全フッ素化化合物は非常に疎油性かつ疎水性であり、したがって少なくとも多少の親油性および/または親水性を必要とするような多くの有効成分の溶媒としてあまり適していない。
【発明を実施するための形態】
【0027】
発明の詳細な説明
本発明は、(a)式RFRHまたはRFRHRFに従う部分フッ素化アルカンを含む分散相、(b)水性連続相、および(c)少なくとも1つの界面活性剤を含む、物理的に安定なO/Wエマルション形態の新規な液体組成物を提供し、ここで、RFは、20個以下の炭素原子を含む全フッ素化炭化水素セグメントであり、RHは、3〜20個の炭素原子を含む非フッ素化炭化水素セグメントである。全フッ素化化合物は、分散相には存在しない。この組成物は、分散相の平均液滴径が約1μmよりも小さいことをさらに特徴とする。
【0028】
もう一つの態様では、本発明は、(a)式RFRHに従う部分フッ素化アルカンを含む分散相;(b)水性連続相、および(c)少なくとも1つの界面活性剤を含む、物理的に安定なO/Wエマルションの形態の液体組成物を提供し;ここで、RFは、4〜12個の炭素原子を含む直鎖状全フッ素化炭化水素セグメントであり、RHは、4〜8個の炭素原子を含む直鎖状アルキル基である。この場合もやはり、分散相の平均液滴径は約1μmよりも小さい。
【0029】
本明細書において、エマルションは、分散した(または内部の、または乳化した、または不連続の)液相を、連続する(または外部の、または凝集性の)液相の内部に含む液体系である。この2つの液相は混和性でない。O/Wエマルション(水中油型エマルションとも呼ばれる)では、水非混和性の有機液体相(どのような特定の定義によっても「油」である必要はない)は、水自体で実質的に成っていてもいなくてもよい水混和性連続相中に分散している。
【0030】
部分フッ素化アルカン類は、その水素原子の一部がフッ素で置き換えられている直鎖または分枝状のアルカン類である。好ましい実施形態では、本発明で使用される部分フッ素化アルカン類(SFA’s)は、少なくとも1つの非フッ素化炭化水素セグメントおよび少なくとも1つの全フッ素化炭化水素セグメントで構成される。特に有用なものは、一般式F(CF2)n(CH2)mHに従う1つの全フッ素化炭化水素セグメントに結合した1つの非フッ素化炭化水素セグメント、または一般式F(CF2)n(CH2)m(CF2)oFに従う1つの非フッ素化炭化水素セグメントによって分離された2つの全フッ素化炭化水素セグメントを有するSFA’sである。
【0031】
本明細書において使用される別の命名法では、2または3つのセグメントを有する上述のSFA’sを、それぞれRFRHおよびRFRHRFと呼び、ここで、RFは全フッ素化(perfluorated)炭化水素セグメントを示し、RHは、非フッ素化セグメントを示す。あるいは、本化合物は、それぞれFnHmおよびFnHmFoと呼ぶことができ、ここで、Fは全フッ素化(perfluorated)炭化水素セグメントを意味し、Hは非フッ素化セグメントを意味し、n、mおよびoはそれぞれのセグメントの炭素原子の数である。例えば、F3H3は、パーフルオロプロピルプロパンに使用される。さらに、この種類の命名法は、通常、直鎖状セグメントを有する化合物に使用される。したがって、特に明記しない限り、F3H3は、2−パーフルオロプロピルプロパン、1−パーフルオロイソプロピルプロパンまたは2−パーフルオロイソプロピルプロパンよりも、1−パーフルオロプロピルプロパンを意味するとみなされるべきである。
【0032】
好ましくは、一般式F(CF2)n(CH2)mHおよびF(CF2)n(CH2)m(CF2)oFに従う部分フッ素化アルカン類のセグメントサイズは、3〜20炭素原子の範囲である、すなわち、n、mおよびoは、独立に3〜20の範囲内で選択される。本発明の状況において有用なSFA’sは、EP−A965334号、EP−A965329号およびEP−A2110126号にも開示され、その文書の開示は本明細書に援用される。
【0033】
さらなる実施形態では、部分フッ素化アルカンは、そのセグメントRFおよびRHが直鎖状であり、各々、しかし相互に独立に、3〜20個の炭素原子を有する、式RFRHに従う化合物である。別の特定の実施形態では、完全フッ素化セグメントは直鎖状であり、4〜12個の炭素原子を含み、かつ/または、非フッ素化セグメントは直鎖状であり、4〜8個の炭素原子を含む。好ましいSFA’sには、特に、化合物F4H5、F4H6、F4H8、F6H4、F6H6、F6H8、およびF6H10が含まれる。本発明を実施するために現在最も好ましいものは、F4H5、F4H6、F4H8、F6H6およびF6H8である。
【0034】
所望により、エマルションの分散相は、2以上のSFAを含むことができる。例えば、ある種の密度、粘度、または特定の有効成分の可溶化能などの特定の目標特性を実現するために、SFA’sを組み合わせることが有用でありうる。SFA’sの混合物を使用する場合、混合物は、F4H5、F4H6、F6H4、F6H6、F6H8、およびF6H10の少なくとも1つ、特に、F4H5、F4H6、F6H6およびF6H8のうちの1つを含むことがさらに好ましい。もう一つの実施形態では、混合物は、F4H5、F4H6、F6H4、F6H6、F6H8、およびF6H10から選択される少なくとも2つのメンバー、特に、F4H5、F6H6およびF6H8から選択される少なくとも2つのメンバーを含む。一部の好ましい実施形態では、全フッ素化化合物は存在しない。
【0035】
液体SFA’sは、化学的かつ生理学的に不活性であり、無色で安定している。それらの典型的な密度は、1.1〜1.7g/cm3の範囲であり、それらの表面張力は、19mN/mと同程度に低い可能性がある。RFRH型のSFA’sは、水不溶性であるが、多少両親媒性でもあり、非フッ素化セグメントのサイズの増加と相関して親油性は増加する。この場合もやはり、本発明の実施のために、少なくとも1.2g/cm3の密度を有するSFAを選択するべきである。
【0036】
RFRH型の液体SFA’sは、長期タンポン充填のための硝子体液代用物として(H.Meinert et al.,European Journal of Ophthalmology,Vol.10(3),pp.189−197,2000)、および網膜硝子体手術後の残留シリコンオイルの洗浄液として、網膜を展開および再適用するために商業的に使用されている。実験的に、それらは代用血液として使用されたこともある(H.Meinert et al.,Biomaterials,Artificial Cells,and Immobilization Biotechnology,Vol.21(5),pp.583−95,1993)。これらの用途は、SFA’sを生理学的に耐容性のよい化合物として定着させた。一方、SFA’sは、今日現在認可された製剤中に賦形剤として使用されたことはない。
【0037】
エマルションの分散相は、その他の構成要素、例えば1以上の有機希釈剤(例えば、トリグリセリド油)、浸透圧安定剤、着色剤、抗酸化薬(例えば、α−トコフェロール)、あるいは、意図する製品用途またはもしあるとすれば組み込まれた有効成分を考慮して有用である可能性のある別の化合物を含んでよい。他方、分散相は、パーフルオロオクチルブロミドまたはパーフルオロデカリンなどの全フッ素化化合物を含まないことが好ましい。
【0038】
本組成物は界面活性剤をさらに含む。部分フッ素化アルカン類はある程度の両親媒性を示すが、本発明の組成物は、部分フッ素化アルカンでない界面活性剤の存在を必要とする。その界面活性剤は選択され、エマルションを物理的に安定化させることのできる量で組み込まれる。界面活性剤は、分散した液滴と連続相の界面に、さらに、所望により連続相自体の中に存在すると思われる。
【0039】
好ましくは、界面活性剤は、使用目的および投与経路を考慮して生理学的に許容される。好ましい一実施形態では、8以上のHLB値を示す少なくとも1つの界面活性剤が組み込まれる。さらなる実施形態では、組み込まれた界面活性剤は、約12以上、または約14以上のHLB値を示す。本明細書において、HLB値とは、界面活性剤などの両親媒性分子が、親水性または親油性である程度を表すために一般に使用される親水性−親油性バランスをさす。W.グリフィンによって最初に提案されたように(Classification of Surface−Active Agents by‘HLB’;Journal of the Society of Cosmetic Chemists 1,311,1949)、HLB値は、その分子の異なる領域の相対サイズに基づいて計算することができる。
【0040】
界面活性剤は、イオン性であっても非イオン性であってもよい。特定の実施形態では、組成物は、好ましくはリン脂質のクラスから選択されたイオン性界面活性剤を含む。リン脂質は、リン酸基(負の電荷を与える)からなる界面活性剤であり、それは、一方の側では、コリンまたはエタノールアミンなどの小型の塩基性残基(通常正の電荷を与える)と結合し、もう一方の側ではグリセロールまたはスフィンゴシンと結合している。グリセロール残基は、大部分のリン脂質分子の親油性部分に相当する2つの脂肪酸残基によってエステル化される。
【0041】
好ましいリン脂質の中には、天然、水和および/または精製レシチン、例えば卵または大豆に由来するレシチンなどがあり、一般に大量のホスファチジルコリンを含む。同様に好ましいのは、その天然源において見出されるかまたは水和によって生成した混合脂肪酸残基を有する、天然、精製、合成もしくは半合成ホスファチジルコリン;あるいは、例えばジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、およびジステアロイルホスファチジルコリンの場合のような特定の脂肪酸組成物である。さらに、肺などの動物の器官から抽出したリン脂質、例えば、製品Curosurf(登録商標)に含まれるようなブタ由来の肺のリン脂質を使用してよい。特に好ましい界面活性剤は、精製されて所望により水和された、卵または大豆から抽出したレシチンである。
【0042】
代わりとなる好ましい実施形態では、界面活性剤は、生理学的に許容される非イオン性界面活性剤のクラスから選択される。そのような界面活性剤の例としては、特に:
−ペグ化グリセリド、例えばマクロゴール−15−ヒドロキシステアレート(例、ソルトール(Solutol)(登録商標)HS15)、マクロゴールグリセロールリシノレエート−35(例、クレモフォール(Cremophor)(登録商標)EL)、マクロゴールグリセロールヒドロキシステアレート−40(例、クレモフォール(登録商標)RH40)、マクロゴール−1000−グリセロールモノラウレート、マクロゴール−1000−グリセロールモノステアレート、およびマクロゴール−1000−グリセロールモノオレエートなど;
−ペグ化脂肪酸、例えばマクロゴールステアレート400、ポリオキシル40ステアレート、およびポリオキシル60ステアレートなど;
−ペグ化脂肪アルコール、例えばマクロゴールラウリルエーテル、ポリオキシル20セトステアリルエーテル、およびポリオキシル10オレイルエーテルなど;
−ペグ化ソルビタン脂肪酸エステル、例えばポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、およびポリソルベート80(例、Tween(登録商標)20/40/60/80)など;ならびに
−ポリオキシエチレンおよびポリオキシプロピレンのトリブロック共重合体、例えばポロキサマー124、ポロキサマー188、ポロキサマー237、ポロキサマー338、およびポロキサマー407などが挙げられる。上記から、ポリソルベートが特に好ましい。
【0043】
2以上の界面活性剤を本発明の組成物の中に組み込むことも可能である。例えば、レシチンなどのイオン性界面活性剤と、ポリソルベートまたはポロキサマーなどの非イオン性界面活性剤の組合せは、連続相がかなりの量の塩またはその他の電解質を含む場合に、エマルションを安定させるために有用でありうる。
【0044】
さらなる実施形態では、非イオン性界面活性剤は、塩化ナトリウムまたは別の塩をエマルションの連続相に含む組成物中の唯一の界面活性剤として選択される。もう一つの実施形態では、レシチンまたはホスファチジルコリンなどのイオン性界面活性剤は、唯一の界面活性剤として選択され、エマルションの連続相は、塩化ナトリウムなどの塩を実質的に含まない。浸透圧剤がこの場合に必要とされるならば、そのような薬剤は、好ましくは、糖類(例、グルコース)または糖アルコール類(例えばマンニトールまたはソルビトールなど)などの非イオン性の生理学的に許容される浸透圧剤から選択される。
【0045】
分散相、連続相および界面活性剤の成分の選択に関して上に記載される指針に基づいて、エマルション系は、物理的に安定な一般的な乳化系によって調製することができることが本発明者らによって見出された。この文脈において、物理的に安定なとは、エマルションの液滴径分布の大きな変化に対して、特に凝集に対して、安定していることを意味する。好ましくは、物理的安定性には、加熱下(例えば、エマルションが低温殺菌されるかまたは殺菌さえされる温度まで)でさえも、実質的な粒度増加への抵抗性が挙げられる。先行技術の教示に反して、本発明者らは、このようにして塩の存在下でさえも加熱殺菌可能な部分フッ素化アルカンを含むO/Wエマルションを見出した。本明細書において、実質的な粒度増加とは、エマルションの平均液滴径が出発値からその値の約150%超まで増加することと理解される。
【0046】
本発明の組成物の平均液滴径は、レーザー回折または動的光散乱によって測定されるz平均液滴径と理解される。それは約1μm未満であるが、具体的な製品の適用に応じて、それは、組成物が静脈注射もしくは注入を目的とする場合に好ましい約500nm未満であるように選択されてもよい。さらなる実施形態によれば、平均液滴径は、それぞれ、約400nmまで、または約300nmまで、または約150nm〜約400nmである。
【0047】
そのような平均液滴径を示す部分フッ素化アルカンに基づくエマルションは、通常公知の技法によって、場合によってはそれを適合させて調製することができる。例えば、エマルションの成分は、高剪断(high−sheer)均質化、高圧均質化、超音波均質化、静的混合、および同類のものによって混合および乳化させることができる。O/Wエマルションの分散相と連続相をそれぞれ構成することになる親水性溶液および親油性溶液を最初に別々に調製することが推奨される。界面活性剤(類)および所望により任意のさらなる親水性添加剤は、連続相に適したビヒクル、例えば水または水性緩衝液などに溶解させてよい。同様に、分散相の成分、すなわち選択された部分フッ素化アルカン(類)は、親油性もしくは疎水性原薬などの任意のさらなる随意化合物とともに、溶液として準備することができる。その後、これら2つの溶液を混合して所望の液滴径分布が得られるまで均質化すればよい。所望により、混合物は、均質化の間に冷却される。
【0048】
エマルションは、バイアルまたは任意のその他の適した容器に充填してよい。滅菌エマルションが必要な場合は、エマルションを無菌の構成要素から無菌処理によって調製すればよい。あるいは、エマルションは、例えば、孔径が約0.2μmの適切なフィルターを通る濾過によって滅菌することができる。好ましい一実施形態では、エマルションは、熱により、例えば低温殺菌法を用いることにより、より好ましくは例えば121℃でオートクレーブ滅菌することにより殺菌される。本発明の特別な利点の1つは、それが室温だけでなく、オートクレーブ滅菌中などの高温下でも物理的に安定なエマルションを提供することである。実際に、好ましい一実施形態によれば、本発明の組成物は、無菌であるか、または加熱殺菌可能である。
【0049】
無菌性は、ある種の製品用途において、特に非経口投与または眼適用のための製品に関して重要な要件であるが、製品が使用中にその微生物純度を失わないことを確保することも重要であろう。例えば、米国食品医薬品局(FDA)および疾病管理予防センター(CDC)は、内容物の即時非経口使用のための滅菌容器の開封後24時間の間のどんな微生物の増殖も10倍未満であることを求めている。例えば、トリグリセリド油を含む従来のエマルションでは微生物が増殖するものの、予想外に、本発明により提供されるエマルションでは、微生物の増殖が起こらないことが本発明者らによって見出された。この微生物の増殖に対する抵抗性は、レシチン(やはり微生物の増殖を支持する傾向がある)を乳化剤として使用した場合に、さらに顕著である。したがって、好ましい一実施形態では、本発明の組成物は、防腐剤を実質的に含まない。もう一つの実施形態では、組成物は、少量の防腐剤を含むが、それは部分フッ素化アルカンの不在下で微生物の増殖を抑制しないレベルである。
【0050】
組成物中の分散相の含有量は、意図する製品用途によって決まることになる。例えば、それは約1〜約80重量%に及びうる。本発明のエマルションにより達成される部分フッ素化アルカン類の優れた生理的耐容性および高い物理的安定性により、驚くほど大量の、特に50重量%以上、またはさらに60重量%よりも多くの、例えば約60重量%〜約80重量%の分散相を含む組成物の調製および使用が可能となる。そのような高濃度のエマルションは、使用前に特定の水性液で希釈することのできる前濃縮物として使用するのに特に適している。さらに、それらは大量の水不溶性の原薬またはその他の疎水性活性剤を受け入れるのに有用である。そのようなエマルションは、局所(例えば、経皮)投与にも使用することができる。
【0051】
本発明は、ヒトまたは動物用の医薬として特に有用である。部分フッ素化アルカンに基づくエマルションの分散相は、難水溶性または疎水性または親油性の医薬品有効成分に非常に適した担体である。好ましい一実施形態では、この組成物は、少なくとも1つのそのような有効成分を分散相の中に溶解した形で含む。
【0052】
本明細書において、医薬品有効成分は、ヒトまたは動物の疾患または状態の診断、予防、管理、および/または治療に有用な化合物または化合物の混合物である。それはまた、有効成分、活性薬剤、活性化合物、原薬、および同類のものとも称される。
【0053】
この場合もやはり、組成物の中に組み込まれる有効成分は、好ましくは難水溶性である。特に、その水溶性は、好ましくは約1mg/mL以下である。その他の好ましい実施形態では、水溶性はそれぞれ約0.1mg/mL以下、またはせいぜい約10μg/mLである。本発明は、比較的少量での有効量の投与を可能にするので、そのような有効成分を送達するのに特に有用である。これは、一部分は、多くの難水溶性原薬に対する部分フッ素化アルカン類の驚くほど高い可溶化能と、大量の分散相を含む製剤または組成物を可能にするエマルションの高い物理的安定性の有益な効果にも起因する。
【0054】
特定の実施形態では、本組成物は、プロポフォールおよびエトミデートなどの候補化合物を含む、全身麻酔薬のクラスから選択される難水溶性の有効成分を含む。特に好ましいものは、2,6−ジイソプロピルフェノールとしても公知のプロポフォールであり、その特性および用途はすでに上に記載されている。
【0055】
本発明者らは、驚いたことに、部分フッ素化アルカン類がプロポフォールを可溶化する注目すべき能力を有することを発見した。実際に、プロポフォールは、ある種の非常に好ましい部分フッ素化アルカン類、例えばF4H5、F4H6およびF6H8などと、広い温度範囲で完全に混和性であり、その他ではそれは非常に高い溶解性を示す。部分フッ素化アルカン類がある種の親油性化合物に有用な溶媒であり得ることはこれまでに提案されているが、この並外れたレベルの可溶化能は、プロポフォールに関して予想することができなかった。部分フッ素化アルカンへのプロポフォールの高い溶解度のおかげで、高い力価(またはプロポフォール濃度)を有し、そのために少ない投与量しか必要としない注射可能なプロポフォール製剤を提供することが現在可能である。このことはまた、改良された耐容性ももたらすことになる。より少ない投与量は本質的に賦形剤(乳化剤など)の摂取量が少ないことを意味するためである。その上、これらの組成物はトリグリセリド油を含まない、そのため高脂血症および膵炎のリスクを含むトリグリセリドに関連する不利点を示さない。
【0056】
本発明によるプロポフォールエマルションを処方するのに好ましい部分フッ素化アルカン類としては、特に化合物F4H5、F4H6、F6H4、F6H6、F6H8、およびF6H10が挙げられる。現在最も好ましいものは、F4H5、F4H6およびF6H8である。所望により、本組成物は、2以上のSFAを含むことができる。例えば、ある種の密度または粘度などの特定の目標特性を実現するために、SFA’sを組み合わせることが有用でありうる。SFA’sの混合物を使用する場合、混合物がF4H5、F4H6、F6H4、F6H6、F6H8、およびF6H10の少なくとも1つ、特にF4H5、F4H6およびF6H8のうちの1つを含むことがさらに好ましい。もう一つの実施形態では、混合物は、F4H5、F4H6、F6H4、F6H6、F6H8、およびF6H10から選択される少なくとも2つのメンバー、特にF4H5、F4H6およびF6H8から選択される少なくとも2つのメンバーを含む。
【0057】
安全かつ簡便な投薬および投与を可能にするために、本発明の組成物は、約0.1重量%〜約50重量%の範囲内の力価(すなわち、プロポフォール濃度)を有するべきである。さらなる実施形態では、力価は約1重量%以上、例えば少なくとも約2重量%、5重量%、10重量%または20重量%などである。分散相中のプロポフォール濃度は、1重量%から99重量%まで変動しうる。特定の実施形態では、分散相は、部分フッ素化アルカン(類)に溶解した約10〜50重量%、例えば、約10重量%、20重量%、30重量%、40重量%、または50重量%のプロポフォールをそれぞれ含有する。
【0058】
乳化剤は、好ましくは、非経口使用について安全性が証明された化合物である。ある種の実施形態では、乳化剤は、一般に本発明による部分フッ素化アルカンに基づくエマルションにおいて上に記載される通り選択される。その他の具体的な実施形態では、乳化剤は、レシチン、ホスファチジルコリン、ポリソルベート、およびポロキサマーから選択される。界面活性剤の量は、エマルション中の分散相の量を考慮して選択される。それは、例えば、分散相の重量に対して約0.5重量%から約100重量%に及びうる。さらなる実施形態では、界面活性剤は、分散相に対して約2重量%〜約50重量%、または約2重量%〜約20重量%、または約4重量%〜約10重量%の量でそれぞれ存在する。2以上の界面活性剤を使用する場合、これらの百分率は、界面活性剤の総量に関する。
【0059】
プロポフォールエマルションは、特に、好ましくは水に基づく連続相中に、さらなる賦形剤を含むことができる。賦形剤または賦形剤混合物は、例えば、組成物の浸透圧が確実に生理学的に許容される範囲内、例えばそれぞれ約200〜約500mOsmol/kgの範囲内、より好ましくは約250〜約400mOsmol/kgの範囲内、または約280〜約350mOsmol/kgであるようにするために組み込まれることが好ましい。重量モル浸透圧濃度は、生理学的に許容される慣用の賦形剤、例えば塩化ナトリウム、グルコースなどの糖類、マンニトールまたはソルビトールなどの糖アルコール類、および同類のものなどで調節することができる。塩化ナトリウムまたはその他の塩をこの目的に使用する場合、界面活性剤、または2以上の界面活性剤を使用する場合には、界面活性剤の少なくとも1つは、非イオン性界面活性剤のクラスから選択されるべきである。
【0060】
さらなる好ましい実施形態では、プロポフォール組成物のpHを生理学的に許容される範囲内に保つために1以上の賦形剤が組み込まれる。特に、組成物のpHは、pH4〜pH9、より好ましくはpH5〜pH8の範囲内、例えばpH6〜pH7.5に調節されうる。pH値を調節および所望により緩衝するために、生理学的に許容される酸、塩基、塩、およびこれらの組合せを使用することができる。pH値を低下させるために、または緩衝系の酸性成分として適した賦形剤は、強無機酸、特に、硫酸および塩酸である。さらに、中力価の無機酸および有機酸ならびに酸性塩、例えば、リン酸、クエン酸、酒石酸、コハク酸、フマル酸、メチオニン、酸性リン酸水素ナトリウムもしくはカリウム、乳酸、グルクロン酸などを使用することができる。しかし、硫酸と塩酸が最も好ましい。pH値を上昇させるために、または緩衝系の塩基性成分として適しているのは、特に、水酸化ナトリウム、または、特に水酸化マグネシウムおよび水酸化カルシウムなどのその他のアルカリおよびアルカリ土類水酸化物および酸化物などの無機塩基、水酸化アンモニウムおよび酢酸アンモニウムなどの塩基性アンモニウム塩、ならびにリジンなどの塩基性アミノ酸、炭酸ナトリウムまたはマグネシウム、炭酸水素ナトリウムなどの炭酸塩、クエン酸ナトリウムなどのクエン酸塩などである。さらに、すぐに入手できる緩衝等張水溶液を連続相の調製の土台として使用することができる。
【0061】
本発明によるプロポフォールエマルションは、従来のプロポフォール組成物と同じ方法で、かつ同じ目的で、すなわち全身麻酔の導入および維持のため、または鎮静のために使用されてよい。本組成物は、好ましくは滅菌形態で提供され、静脈に注射または注入される。
【0062】
さらなる実施形態では、本発明の組成物は、高含有量の分散相、例えば約40重量%以上、または約50重量%以上、好ましくは少なくとも約60重量%、または約60重量%〜約80重量%未満などをそれぞれ有するエマルションとして提供され、HTK(ヒスチジン−トリプトファン−ケトグルタル酸)液またはUW(ウィスコンシン大学)液などの水性の臓器保存液に希釈するための前濃縮物としての使用に適合している。部分フッ素化アルカンは、酸素を溶解し運搬する高い能力を示し、そのことがこれらの化合物を臓器または組織保存に非常に魅力的にする。部分フッ素化アルカンはそれ自体従来の水性臓器保存液と混和性でないが、本発明により提供されるエマルションは、物理的に非常に安定し、そのような溶液との相溶性が高い。部分フッ素化アルカンの薬効を従来の臓器保存液の有益作用と組み合わせるために、部分フッ素化アルカンは使用前に容易かつ簡便に臓器保存液で希釈することができる。当然ながら、臓器または組織保存を目的とする濃縮エマルションの中に医薬品有効成分を組み込むことも可能である。
【0063】
そのような組成物は、好ましくは無菌であり、非経口投与に適合している。それは特に希釈後に、前処置および虚血損傷の予防のために移植提供者に全身または局所に投与することもでき、あるいは、冷保存障害を最小限に抑えるために、インビトロで同種移植片をフラッシングおよび保存するために使用することもできる。
【0064】
その他の有効成分および製品用途も検討される。例えば、本組成物は、皮膚または粘膜の疾患または状態の予防または治療に有用であり、かつ、局所に、例えば、経皮または粘膜(口内および舌下を含む)投与に適合している難水溶性有効成分を含むことができる。たとえ特定の医薬品有効成分を組み込まなくても、本組成物は、皮膚に関する優れた耐容性および良好な延展性を示すことが見出されたので、化粧品目的で使用することができる。
【0065】
本発明の範囲を制限するものでない以下の実施例によって、本発明をさらに説明する。
実施例
【実施例1】
【0066】
10gのプロポフォールを、10gのF6H8に溶解した。この混合物を、水中979.2gのデキストロース水溶液(5重量%)中、800mgのS75(大豆レシチン、Lipoid AG)の溶液に添加し、2000rpmで1時間撹拌した。次に、Avestin C3装置を1100バールの圧力で用いる高圧均質化法によって1時間の連続法でエマルションを調製した。pH値は、水酸化ナトリウム溶液を添加することにより、pH7.3〜7.5に調節した。最終のエマルションをバイアルに充填し、閉じ、窒素でブランケットした後に密封した。その後、バイアルを121℃で10分間滅菌した。
【0067】
平均液滴径は212nmであった。驚くことに、23℃で貯蔵した最初の6ヶ月の間、平均液滴径はあまり変化を示さなかった。このバッチから、20本のバイアルをPh.Eur.6に従って試験し、無菌であることが分かった。
【実施例2】
【0068】
0.1gプロポフォールを、0.1gのF6H8に溶解した。この混合物を、水中9.784gのデキストロース溶液(5重量%)中16mgのS75の溶液に添加し、2000rpmで1時間撹拌した。プレエマルションを240秒間(1秒パルス、1秒中断)振幅100%(Hilcher sonifier、チップ1/4インチ)で氷冷下で超音波処理することによってエマルションを形成した。pH値は、水酸化ナトリウム溶液を添加することにより、pH7.3〜7.5に調節した。最終のエマルションをバイアルに充填し、閉じ、窒素でブランケットした後に密封した。その後、バイアルを121℃で10分間滅菌した。
【実施例3】
【0069】
実施例2の場合と本質的に同じ方法で、滅菌エマルションを、0.1gのプロポフォール、0.5gのF6H8、および、9.72gのデキストロース溶液(5重量%)中80mgのS75の溶液から調製した。
【実施例4】
【0070】
実施例2の場合と本質的に同じ方法で、滅菌エマルションを、0.2gのプロポフォール、0.2gのF6H8、およびHEPES(10mmol/L)を含有する9.568gのデキストロース溶液(5重量%)中32mgのS75の溶液から調製した。
【実施例5】
【0071】
実施例2の場合と本質的に同じ方法で、滅菌エマルションを、1gのプロポフォール、1gのF6H8、および、7.84gのデキストロース溶液(5重量%)中160mgのS75の溶液から調製した。
【実施例6】
【0072】
実施例2の場合と本質的に同じ方法で、滅菌エマルションを、0.1gのプロポフォール、0.3gのF6H8、および、9.784gのデキストロース溶液(5重量%)中16mgのS75の溶液から調製した。
【実施例7】
【0073】
実施例2の場合と本質的に同じ方法で、滅菌エマルションを、0.1gのプロポフォール、0.8gのF6H8、0.2gのオリーブ油(シグマ・アルドリッチ)、および、9.792gのデキストロース溶液(5重量%)中8mgのS75の溶液から調製した。
【実施例8】
【0074】
実施例2の場合と本質的に同じ方法で、滅菌エマルションを、0.1gのプロポフォール、0.1gのF6H8、ならびに、9.784gのデキストロース溶液(5重量%)中8mgのS75および8mgのオレイン酸ナトリウムの溶液から調製した。
【実施例9】
【0075】
実施例2の場合と本質的に同じ方法で、滅菌エマルションを、0.2gのプロポフォール、0.2gのF6H8、ならびに、9.568gのデキストロース溶液(5重量%)中32mgのS75および8mgのオレイン酸ナトリウムの溶液から調製した。
【実施例10】
【0076】
実施例2の場合と本質的に同じ方法で、滅菌エマルションを、0.1gのプロポフォール、0.067gのF6H8、0.033gのF4H5、および、9.784gのデキストロース溶液(5重量%)中16mgのEPCS(Lipoid AG)の溶液から調製した。
【実施例11】
【0077】
追加として、3mgの染料パテントブルーVを使用することを除いて、実施例1の場合と本質的に同じ方法で、滅菌した青色のエマルションを調製した。
【実施例12】
【0078】
実施例2の場合と本質的に同じ方法で、滅菌エマルションを、0.1gのプロポフォール、0.01gのα−トコフェロール、0.1gのF6H8、および、9.792gのデキストロース溶液(5重量%)中8mgのS75の溶液から調製した。
【実施例13】
【0079】
USP32<51>のものに類似する抗菌防腐剤有効性試験を実施した。実施例1、3および4に従って調製したサンプルバイアルに、大腸菌、緑膿菌、黄色ブドウ球菌、カンジダ・アルビカンスおよびクロコウジカビを接種し、約22.5℃でインキュベートした。商業的に入手したジソプリバン(登録商標)のサンプルをコンパレータとして試験した。結果を表1〜4に示す。
【0080】
驚くことに、24および48時間のコロニー形成単位(cfu)の濃度の増加は観察されなかったが、実質的な低下が部分フッ素化アルカンを含むエマルションの場合に観察された。明らかに、本発明によるエマルションは、微生物の増殖を支持せず、むしろ有効量の抗菌防腐剤が添加されたのと同じようにそれを抑制する。対照的に、ジソプリバン(登録商標)サンプルは、大腸菌、黄色ブドウ球菌およびカンジダ・アルビカンスに関してcfu/mLの顕著な増加を示した。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【0081】
観察した本発明のエマルションにおける微生物の増殖の抑制が、部分フッ素化アルカンの作用であるかまたはプロポフォールの作用であるかを決定するために、プロポフォールは含有しないが、より高い濃度(40重量%)のF6H8およびS75だけをデキストロース溶液中に含有するプラセボエマルションを用いてこの試験を繰り返した。F6H8およびF4H5の純粋溶液も試験した。結果を表5〜7に示す。これらの結果は、プロポフォールを含まないエマルションも大腸菌、緑膿菌および黄色ブドウ球菌の濃度を低下させる能力があることを示す。クロコウジカビの場合、cfu濃度の初期の低下が観察されたが、48時間後、それは出発レベルに戻った。カンジダ・アルビカンスの濃度だけが、おそらくレシチンの存在に起因して、実質的に増加した。
【表5】
【表6】
【表7】
【実施例14】
【0082】
エマルションを、基本的に実施例2の場合と同じように調製し、ヒト赤血球へのその溶血作用について、ヒト血清の存在下および不在下で試験した。エマルションの連続相は、グルコース水溶液(5重量%)からなった。エマルションのその他の構成要素は表8に示す。要するに、リン酸緩衝生理食塩水溶液中のヒト赤血球の懸濁液のアリコートを、マイクロタイタープレート中の試験サンプルおよびコンパレータのアリコートと混合し、さらに段階的に希釈して256の希釈係数までの希釈系列を得た。陽性対照として、緩衝液を含む赤血球懸濁液の類似の(analogue)希釈系列を調製した。その後、界面活性剤溶液を用いてその中の赤血球を完全に溶解させた。各々の希釈に関して、分光光度測定によりヘモグロビンの光学濃度を測定することによって溶血の程度を定量化した。
【0083】
その結果、血清の不在下で、部分フッ素化アルカンを含まないプロポフォールから調製したエマルション(ST174)だけが、有意な濃度依存性の溶血を引き起こすことが見出された。その他のエマルション組成物は全て、濃度に関わらず、溶血を示さなかったかまたは無視できるほどの溶血しか示さなかった(
図1参照)。
【0084】
血清の存在下、部分フッ素化アルカンを含まないプロポフォールエマルション(ST174)は、やはり有意な濃度依存性の溶血を引き起こしたが、部分フッ素化アルカンを含む、被験エマルション(ST245、ST311)は両方とも溶血を示さなかった。ジソプリバン(登録商標)もこの時に試験し、中程度の溶血を示した(
図2参照)。
【表8】
1:S75の百分率は分散相の重量に関する;その他の百分率は全てエマルション全体に関する
【0085】
これらの結果は、本発明により提供される部分フッ素化アルカンに基づくプロポフォールエマルションが、優れた耐容性プロフィールに相当するはずである優れた血液相溶性を示すことを実証する。これは、プロポフォール自体が赤血球との低い相溶性を示し、かなりの溶血をもたらすという事実に関わらず、である。明らかに、本発明の組成物中の部分フッ素化アルカンの含量が、溶血に対する保護をもたらしている。
【実施例15】
【0086】
1重量%の力価を有するF6H8を含むプロポフォールエマルション(バッチコードST245、表8参照)の鎮静効果を、ジソプリバン(登録商標)のものとラット鎮静モデルにおいて比較した。要するに、各々の製剤の体重1kgあたりプロポフォール10mgに相当する用量の静脈注射後の発生時刻とともに以下のパラメータを観察し記録した:正向反射の喪失(ta)、足指を挟む(すなわち、疼痛)刺激に対する反応の喪失(tb)、励起相の開始(tex)、正向反射の回復(trr)。
【0087】
その結果、注射後の類似の時間に同じ作用が生じた、そしてジソプリバン(登録商標)と被験エマルションとの間の、励起相の開始および正向反射の回復に関するわずかな相違は統計上有意でなかった(
図3参照)。
【実施例16】
【0088】
1重量%のプロポフォール力価を有するF6H8を含むプロポフォールエマルション(バッチコードST129、表8参照)のウィスターラットへの静脈注射後の薬物動態を、ジソプリバン(登録商標)のものと比較した。
図4に示されるように、血漿濃度プロフィールは、両製剤についてやや類似し、最大血漿濃度に関してわずかな相違があった。このことは、被験エマルションが用量調整を必要とせずにジソプリバン(登録商標)と同様の方法で使用することができることを示した。