特許第6073285号(P6073285)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社デンソーの特許一覧 ▶ 株式会社日本自動車部品総合研究所の特許一覧

<>
  • 特許6073285-制御装置 図000002
  • 特許6073285-制御装置 図000003
  • 特許6073285-制御装置 図000004
  • 特許6073285-制御装置 図000005
  • 特許6073285-制御装置 図000006
  • 特許6073285-制御装置 図000007
  • 特許6073285-制御装置 図000008
  • 特許6073285-制御装置 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6073285
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02N 11/00 20060101AFI20170123BHJP
   F02D 13/02 20060101ALI20170123BHJP
   F02D 9/02 20060101ALI20170123BHJP
   F02B 67/06 20060101ALI20170123BHJP
   F16H 7/12 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
   F02N11/00 N
   F02D13/02 H
   F02D9/02 325
   F02D9/02 351M
   F02B67/06 A
   F16H7/12 A
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-247114(P2014-247114)
(22)【出願日】2014年12月5日
(65)【公開番号】特開2016-109035(P2016-109035A)
(43)【公開日】2016年6月20日
【審査請求日】2016年3月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社日本自動車部品総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100093779
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】野口 仁志
(72)【発明者】
【氏名】岡田 弘
(72)【発明者】
【氏名】木村 英樹
(72)【発明者】
【氏名】清水 伸二郎
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 優佳
(72)【発明者】
【氏名】山本 陽介
(72)【発明者】
【氏名】岩出 純
【審査官】 小笠原 恵理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−194200(JP,A)
【文献】 特開2007−292079(JP,A)
【文献】 特開2006−214332(JP,A)
【文献】 特開2004−204746(JP,A)
【文献】 特開2007−120368(JP,A)
【文献】 特開2005−282538(JP,A)
【文献】 特開2005−315220(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0048734(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02N 11/00
F02B 67/06
F02D 9/02
F02D 13/02
F16H 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関(11)の駆動軸(31)に取り付けられている駆動軸プーリ(21)と、電子制御可能なモータ(13)と、前記モータのモータ軸(16)に取り付けられているモータ軸プーリ(25)と、少なくとも前記駆動軸プーリと前記モータ軸プーリとに掛け回されているベルト(26)と、前記ベルトの回転方向において前記駆動軸プーリから前記モータ軸プーリまでの間で前記ベルトに当接し、かつ、当該ベルトに接近および離間する方向へ移動可能な第1テンショナプーリを有する第1テンショナ(29)と、を備える前記内燃機関を制御する制御装置(51)であって、
前記モータの回転数をモータ回転数とし、前記モータが出力可能なトルクの最大値を最大モータトルクとし、前記内燃機関および前記モータが共に作動停止しているときの前記第1テンショナプーリの位置を基準位置とすると、
前記内燃機関の始動要求に先立ち、前記第1テンショナプーリの移動可能範囲のうち前記基準位置に対して前記ベルトから離間する方向にある所定位置に前記第1テンショナプーリが位置するよう前記モータを力行作動させるプーリ移動手段(72)と、
前記内燃機関を始動するとき前記駆動軸が回転するよう前記モータを力行作動させるスタータ制御手段(73)と、
前記スタータ制御手段による前記モータの力行作動開始時点から所定時間経過するまでの間にモータ回転数が前記最大モータトルクに対応する回転数を超えないよう前記モータ軸の回転を抑制する回転抑制手段(71)と、
を備えることを特徴とする制御装置。
【請求項2】
前記回転抑制手段は、少なくとも前記スタータ制御手段による前記モータの力行作動開始時点における前記駆動軸の回転抵抗を増大させて、前記モータ軸の回転を抑制することを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記回転抑制手段は、前記内燃機関が作動停止するとき、少なくとも1つの気筒の吸気弁および排気弁が閉じた状態で当該気筒のピストンが下死点から上死点に向かって移動している最中に前記駆動軸の回転が止まるよう前記モータを制御することによって、前記駆動軸の回転抵抗を増大させることを特徴とする請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記内燃機関は、気筒内に空気を導く吸気通路を開閉可能なスロットル弁を備え、
前記回転抑制手段は、前記内燃機関が作動停止するとき、少なくとも1つの気筒の排気弁が閉じた状態、当該気筒の吸気弁が開いた状態、かつ、前記スロットル弁が開いた状態で当該気筒のピストンが下死点から上死点に向かって移動している最中に前記駆動軸の回転が止まるよう前記モータを制御し、前記内燃機関が作動停止してから所定の待ち時間経過後に前記スロットル弁を閉じることによって、前記駆動軸の回転抵抗を増大させることを特徴とする請求項2に記載の制御装置。
【請求項5】
前記回転抑制手段は、前記内燃機関が作動停止するとき、少なくとも1つの気筒の吸気弁のバルブリフト量が最小リフト量から最大リフト量に向かって増加し始めるとき、または、当該気筒のバルブリフト量が最小リフト量から最大リフト量に向かって増加している最中に前記駆動軸の回転が止まるよう前記モータを制御することによって、前記駆動軸の回転抵抗を増大させることを特徴とする請求項2に記載の制御装置。
【請求項6】
前記内燃機関は、気筒の吸気弁のバルブタイミングを調整可能なバルブタイミング調整装置を備え、
前記回転抑制手段は、前記内燃機関が作動停止するとき、少なくとも1つの気筒の排気弁が閉じた状態、かつ、当該気筒の吸気弁が開いた状態で当該気筒のピストンが下死点から上死点に向かって移動している最中に前記駆動軸の回転が止まるよう前記モータを制御し、前記内燃機関が作動停止してから所定の待ち時間経過後に前記バルブタイミング調整装置を遅角作動させて前記吸気弁を閉じることによって、前記駆動軸の回転抵抗を増大させることを特徴とする請求項2に記載の制御装置。
【請求項7】
前記内燃機関に加えて、前記駆動軸と当該駆動軸により駆動される駆動対象との接続および遮断を切り替え可能なクラッチ装置を制御する前記制御装置であって、
前記回転抑制手段は、前記駆動軸と前記駆動対象とが接続されるよう前記クラッチ装置を制御することによって、前記駆動軸の回転抵抗を増大させることを特徴とする請求項2〜6のいずれか一項に記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関の駆動軸とモータと補機との間でベルトを用いて動力を伝達するベルト伝動システムが知られている。特許文献1には、2つのテンショナを用いてベルトの張力を調整するベルト伝動システムが開示されている。モータは、内燃機関を始動するとき力行作動して駆動軸を回転駆動するスタータ機能と、回生作動して発電する発電機能とを併せ持っている。また、近年では、モータを力行作動させて内燃機関の駆動を補助するアシスト機能にも注目が集まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−59555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ベルト伝動システムに用いられるモータは、回転数が比較的低いとき出力トルクが最大となるトルク特性を持っているものが多い。そのため、内燃機関を始動するためにベルト伝動システムのモータを力行作動させるとき、内燃機関の駆動軸にトルクが伝達され始める前の段階でベルトの伸びやテンショナの揺動に起因してモータの回転数が比較的高くなってしまうと、モータが最大トルクを出力することができなくなるおそれがある。また、駆動軸にトルクが伝達され始めるとき、モータ軸がスムーズに回転し過ぎてモータの回転数が速く上昇してしまうと、モータが最大トルクを出力することができなくなるおそれがある。
【0005】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、内燃機関を始動するためにベルト伝動システムのモータを力行作動させるとき、モータが最大モータトルクを出力することができる制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、内燃機関の駆動軸に取り付けられている駆動軸プーリと、電子制御可能なモータと、モータのモータ軸に取り付けられているモータ軸プーリと、少なくともモータ軸プーリと駆動軸プーリとに掛け回されているベルトと、ベルトの回転方向において駆動軸プーリからモータ軸プーリまでの間でベルトに当接し、かつ、ベルトに接近および離間する方向へ移動可能な第1テンショナプーリを有する第1テンショナと、を備える内燃機関を制御する制御装置である。制御装置は、プーリ移動手段、スタータ制御手段および回転抑制手段を有する。
【0007】
内燃機関およびモータが共に作動停止しているときの第1テンショナプーリの位置を基準位置とすると、プーリ移動手段は、内燃機関の始動要求に先立ち、第1テンショナプーリの移動可能範囲のうち基準位置に対してベルトから離間する方向にある所定位置に第1テンショナプーリが位置するようモータを力行作動させる。スタータ制御手段は、内燃機関を始動するとき駆動軸が回転するようモータを力行作動させる。モータの回転数をモータ回転数とし、モータが出力可能なトルクの最大値を最大モータトルクとすると、回転抑制手段は、スタータ制御手段によるモータの力行作動開始時点から所定時間経過するまでの間にモータ回転数が最大モータトルクに対応する回転数を超えないようモータ軸の回転を抑制する。
【0008】
このように構成することで、内燃機関を始動するためにモータを力行作動し始めるときのベルトの伸びやテンショナの揺動が抑制される。また、駆動軸にトルクが伝達され始めるときのモータ軸のスムーズな回転が抑制される。そのため、モータトルクが最大モータトルクに到達する前にモータ回転数が最大モータトルクに対応する回転数を超えて上昇することを抑制可能である。したがって、内燃機関を始動するためにベルト伝動システムのモータを力行作動させるとき、モータが最大モータトルクを出力することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1実施形態による制御装置が制御するエンジンを示す図である。
図2図1のエンジンが設けられた車両のドライブトレーンの一部を示す図である。
図3図1の制御装置により実行される処理を説明するフローチャートである。
図4図1のモータのトルク特性図である。
図5】本発明の第2実施形態による制御装置により実行される処理を説明するフローチャートである。
図6】本発明の第3実施形態による制御装置により実行される処理を説明するフローチャートである。
図7】本発明の第4実施形態による制御装置により実行される処理を説明するフローチャートである。
図8】本発明の第5実施形態による制御装置により実行される処理を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の複数の実施形態を図面に基づき説明する。実施形態同士で実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態による制御装置は、図1に示す内燃機関としてのエンジンに用いられる。エンジン11は、駆動軸としてのクランク軸31と、モータ13と、補機14、15との間でベルト伝動により動力伝達を行うベルト伝動システム12を備えている。
【0011】
(ベルト伝動システム)
先ず、ベルト伝動システム12の構成について図1および図2を参照して説明する。
図1に示すように、ベルト伝動システム12は、駆動軸プーリ21、補機プーリ22、23、モータ13、モータ軸プーリ25、ベルト26、アイドラプーリ27、第1テンショナ29および第2テンショナ28を備えている。
【0012】
駆動軸プーリ21は、クランク軸31に固定されており、クランク軸31と一体に回転可能である。図2に示すように、クランク軸31はクラッチ装置17に連結されている。クラッチ装置17は、クランク軸31と変速機18との接続および遮断を切り替え可能である。変速機18は、特許請求の範囲に記載の「駆動対象」に相当するものであって、車両のドライブトレーンの一部を構成しており、図示しないドライブシャフト等を介して車両の駆動輪に連結される。
【0013】
図1に示すように、補機プーリ22は、補機14の入力軸32に固定されており、入力軸32と一体に回転可能である。本実施形態では補機14はウォーターポンプである。
補機プーリ23は、補機15の入力軸33に固定されており、入力軸33と一体に回転可能である。本実施形態では補機15は空調用コンプレッサである。
【0014】
モータ13は、力行作動および回生作動が可能なモータジェネレータである。モータ13は、エンジン11を始動するとき力行作動してクランク軸31を回転駆動するスタータ機能、力行作動してエンジン11の駆動を補助するアシスト機能、および、回生作動して発電する発電機能を併せ持っている。
モータ軸プーリ25は、モータ13のモータ軸16に固定されており、モータ軸16と一体に回転可能である。
【0015】
ベルト26は、環状であり、駆動軸プーリ21、モータ軸プーリ25および補機プーリ22、23に掛け回されている。各プーリの回転は、ベルト26を介して他のプーリに伝達される。本実施形態では、ベルト26の回転方向において駆動軸プーリ21、補機プーリ22、モータ13および補機プーリ23がその順で設けられている。ベルト26は、ゴム製であり、外力が作用すると弾性変形して伸縮する。
アイドラプーリ27は、駆動軸プーリ21と補機プーリ22との間に設けられている。
【0016】
第1テンショナ29は、ベルト26の回転方向において駆動軸プーリ21からモータ軸プーリ25までの間でベルト26の張力を調整可能である。本実施形態では、第1テンショナ29は、補機プーリ22とモータ軸プーリ25との間に設けられており、ベース34、アーム41、テンショナプーリ42および付勢部材37を有する。ベース34は、モータ13のハウジングに固定されている。アーム41は、基端部43がベース34にモータ軸16まわりに回転可能に支持されている。テンショナプーリ42は、補機プーリ22とモータ軸プーリ25との間でベルト26に当接しているアイドラプーリであって、アーム41の先端部44に回転可能に支持されており、ベルト26に接近および離間する方向へ移動可能である。付勢部材37は、アーム41の先端部44と後述のアーム35の先端部39との間に設けられているばねであり、テンショナプーリ42をベルト26に押し付けて当該ベルト26の張力が増すようアーム41を付勢している。
【0017】
第2テンショナ28は、ベルト26の回転方向においてモータ軸プーリ25から駆動軸プーリ21までの間でベルト26の張力を調整可能である。本実施形態では、第2テンショナ28は、モータ軸プーリ25と補機プーリ23との間に設けられており、ベース34、アーム35、テンショナプーリ36および付勢部材37を有する。アーム35は、基端部38がベース34にモータ軸16まわりに回転可能に支持されている。テンショナプーリ36は、モータ軸プーリ25と補機プーリ23との間でベルト26に当接しているアイドラプーリであって、アーム35の先端部39に回転可能に支持されており、ベルト26に接近および離間する方向へ移動可能である。付勢部材37は、テンショナプーリ36をベルト26に押し付けて当該ベルト26の張力が増すようアーム35を付勢している。
【0018】
以上のように構成されたベルト伝動システム12は、モータ13のスタータ機能およびアシスト機能を発揮するとき、モータ13の力行作動によるモータ軸16の出力トルク(モータトルク)をモータ軸プーリ25およびベルト26を介して駆動軸プーリ21に伝達して、クランク軸31を回転駆動する。
また、ベルト伝動システム12は、モータ13の発電機能を発揮するとき、クランク軸31の出力トルク(エンジントルク)を駆動軸プーリ21およびベルト26を介してモータ軸プーリ25に伝達して、モータ軸16を回転駆動する。
【0019】
ベルト伝動システム12が備える電子制御機器すなわちモータ13は、制御装置51に制御される。制御装置51は、モータ13を制御してベルト伝動システム12の作動状態を制御する。
【0020】
(制御装置)
次に、制御装置51について図1図4を参照して説明する。
図1に示す制御装置51は、マイクロコンピュータを主体として構成されており、車両に設けられる各種電子制御機器および各種センサと電気的に接続される。
図1図2に示すように、上記各種電子制御機器には、モータ13、クラッチ装置17、スロットル弁52、バルブタイミング調整装置53、54、図示しない燃料噴射装置および点火装置などが含まれる。クラッチ装置17、スロットル弁52およびバルブタイミング調整装置53、54は、エンジン11の作動停止中であっても作動可能である。例えば、クラッチ装置17およびバルブタイミング調整装置53、54は、電動オイルポンプ55が吐出して油圧回路56が調圧した作動油が供給されて作動する。
【0021】
上記各種センサには、ブレーキペダルの操作量を検出可能なブレーキペダルセンサ61、アクセルペダルの操作量を検出可能なアクセルペダルセンサ62、クランク角センサ63、カム角センサ64および車速センサ65などが含まれる。
制御装置51は、各種センサの検出信号に基づき所定の処理を実行して各種電子制御機器を制御する。
【0022】
ところで、モータ13は、モータ回転数が比較的低いときモータトルクが最大となるトルク特性を持っている。そのため、エンジン11を始動するためにモータ13を力行作動させるとき、クランク軸31にトルクが伝達され始める前の段階でベルト26の伸びやテンショナ28、29の揺動に起因してモータ回転数が比較的高くなってしまうと、モータが最大トルクを出力することができなくなるおそれがある。また、クランク軸31にモータトルクが伝達され始めるときモータ軸16がスムーズに回転し過ぎてモータ回転数が速く上昇してしまうことによっても、モータが最大トルクを出力することができなくなるおそれがある。具体的には、図4に示すように横軸がモータ回転数Nmを表し縦軸がモータトルクTmを表す直交座標系にてモータ13が出力可能なトルクの最大値をモータ回転数Nmごとにプロットしたトルク特性曲線を含むトルク特性図において、モータ回転数Nmが0からNm1まで速く上昇して動作点がaからbまで移動すると、動作点bにて出力可能なモータトルクTmは最大モータトルクTm−maxに満たないモータトルクTm1までであり、最大モータトルクTm−maxを出力することができない。
【0023】
そこで、本実施形態では、制御装置51は、図3に示す処理を実行することによって、図4においてモータ回転数Nmが最大モータトルクTm−maxに対応する回転数Nm−tmmaxを超えないようにして動作点をaからcまで移動させ、モータ13が最大モータトルクTm−maxを出力することができるようにする。以下に示す一連のステップの処理は、制御装置51が起動されている間に繰り返し実行される。
【0024】
図3の処理の実行が開始されると、先ずステップS1では、エンジン11が作動中か否かが判定される。ステップS1の判定が肯定された場合(S1:Yes)、処理はステップS2に移行する。一方、ステップS1の判定が否定された場合(S1:No)、処理はステップS4に移行する。
【0025】
ステップS2では、エンジン11の作動停止要求があるか否かが判定される。本実施形態では、例えばアクセルOFFで惰性走行しているときなどにフューエルカットを実施する場合、および、車両が走行停止しておりブレーキの操作量が最大操作量近傍であるときにアイドリングストップを実施する場合などにエンジン11の作動停止が要求される。ステップS2の判定が肯定された場合(S2:Yes)、処理はステップS3に移行する。一方、ステップS2の判定が否定された場合(S2:No)、処理は図3のルーチンを抜ける。
【0026】
ステップS3では、エンジン11の作動停止制御が実施される。本実施形態では、エンジン11が作動停止するとき、少なくとも1つの気筒の吸気弁および排気弁が閉じた状態で当該気筒のピストンが下死点から上死点に向かって移動している最中にクランク軸31の回転が止まるようモータ13が制御される。これにより、上記気筒内の圧縮空気をさらに圧縮しようとするときピストンに作用する反力によってクランク軸31の回転抵抗が増大し、次回のエンジン11の始動時にモータ13の力行作動開始時点から所定時間経過するまでの間にモータ回転数が最大モータトルクTm−maxに対応する回転数Nm−tmmaxを超えないようモータ軸16の回転が抑制される。所定時間は、例えば、エンジン回転数が0から始動可能最低回転数に到達するまでにかかる時間である。始動可能最低回転数とは、エンジン11が始動可能なエンジン回転数の最低値である。ステップS3のあと、処理はステップS4に移行する。
【0027】
ステップS4では、エンジン11の始動要求に先立ちテンショナプーリ42を所定位置に移動させるタイミング、すなわち所定位置移動タイミングであるか否かが判定される。エンジン11およびモータ13が共に作動停止しているときのテンショナプーリ42の位置を基準位置とすると、所定位置は、テンショナプーリ42の移動可能範囲のうち基準位置に対してベルト26から離間する方向にある。本実施形態では、所定位置は、テンショナプーリ42の移動可能範囲のうちベルト26から離間する方向の端部である。そして、本実施形態では、フューエルカット実施中であれば、例えばエンジン回転数が始動可能最低回転数を下回ったときに所定位置移動タイミングであると判定される。また、ブレーキペダルの操作量Bが0からB1、B2、B3、B4、B5(最大操作量)と順に増加する場合、アイドリングストップ実施中であれば、例えば操作量Bが「B3≦B≦B4」の関係を満たす値になったときに所定位置移動タイミングであると判定される。ステップS4の判定が肯定された場合(S4:Yes)、処理はステップS5に移行する。一方、ステップS4の判定が否定された場合(S4:No)、処理はステップS6に移行する。
【0028】
ステップS5では、エンジン11の始動要求に先立ちテンショナプーリ42が所定位置に移動するようモータ13が力行作動させられる。このとき、モータ13は、テンショナプーリ42を移動させることは可能であるが駆動軸プーリ21を回転させることはできない程度のトルクを出力する。ステップS5のあと、処理はステップS6に移行する。
【0029】
ステップS6では、エンジン11の始動要求があるか否かが判定される。本実施形態では、アイドリングストップ実施中であれば、例えばブレーキの操作量Bが「B1≦B≦B2」の関係を満たす値になったときにエンジン11の始動要求が出力される。ステップS6の判定が肯定された場合(S6:Yes)、処理はステップS7に移行する。一方、ステップS6の判定が否定された場合(S6:No)、処理は図3のルーチンを抜ける。
【0030】
ステップS7では、エンジン11の始動制御が実施される。例えば、フューエルカット実施中であってエンジン回転数が始動可能最低回転数以上である場合には、モータ13が用いられることなく燃料噴射装置および点火装置が用いられてエンジン11が始動させられる。一方、フューエルカット実施中であってエンジン回転数が始動可能最低回転数を下回る場合、および、アイドリングストップ実施中である場合には、先ずクランク軸31が回転するようモータ13が力行作動させられ、続いてエンジン回転数が始動可能最低回転数以上となったときに燃料噴射装置および点火装置が用いられてエンジン11が始動させられる。ステップS7のあと、処理は図3のルーチンを抜ける。
【0031】
制御装置51は、ステップS3に対応する回転抑制部71と、ステップS5に対応するプーリ移動部72と、ステップS7に対応するスタータ制御部73とを有する。上記各部は、ROM等に予め記憶されたプログラムをCPUで実行することによるソフトウェア処理で実現されてもよいし、専用の電子回路によるハードウェア処理で実現されてもよい。
回転抑制部71は、特許請求の範囲に記載の「回転抑制手段」に相当する。プーリ移動部72は、特許請求の範囲に記載の「プーリ移動手段」に相当する。スタータ制御部73は、特許請求の範囲に記載の「スタータ制御手段」に相当する。
【0032】
(効果)
以上説明したように、本実施形態では、制御装置51は、プーリ移動部72、スタータ制御部73および回転抑制部71を有する。プーリ移動部72は、エンジン11の始動要求に先立ち、テンショナプーリ42が所定位置に位置するようモータ13を力行作動させる。スタータ制御部73は、エンジン11を始動するときクランク軸31が回転するようモータ13を力行作動させる。回転抑制部71は、スタータ制御部73によるモータ13の力行作動開始時点から所定時間経過するまでの間にモータ回転数が最大モータトルクTm−maxに対応する回転数Nm−tmmaxを超えないようモータ軸16の回転を抑制する。
【0033】
このように構成することで、エンジン11を始動するためにモータ13を力行作動し始めるときのベルト26の伸びやテンショナ28、29の揺動が抑制される。また、クランク軸31にモータトルクが伝達され始めるときのモータ軸16のスムーズな回転が抑制される。そのため、モータトルクが最大モータトルクTm−maxに到達する前にモータ回転数が最大モータトルクTm−maxに対応する回転数Nm−tmmaxを超えて上昇することを抑制可能である。したがって、エンジン11を始動するためにモータ13を力行作動させるとき、エンジン回転数が0から始動可能最低回転数に到達するまでの間、モータ13が最大モータトルクTm−maxを出力することができる。
【0034】
また、第1実施形態では、制御装置51の回転抑制部71は、少なくともスタータ制御部73によるモータ13の力行作動開始時点におけるクランク軸31の回転抵抗を増大させて、モータ軸16の回転を抑制する。これにより、スタータ制御部73によるモータ13の力行作動開始時点から所定時間経過するまでの間にモータ回転数が最大モータトルクTm−maxに対応する回転数Nm−tmmaxを超えないようにすることができる。
【0035】
また、第1実施形態では、制御装置51の回転抑制部71は、エンジン11が作動停止するとき、少なくとも1つの気筒の吸気弁および排気弁が閉じた状態で当該気筒のピストンが下死点から上死点に向かって移動している最中にクランク軸31の回転が止まるようモータ13を制御する。これにより、スタータ制御部73によるモータ13の力行作動開始時点におけるクランク軸31の回転抵抗を増大させることができる。
【0036】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態では、図5に示すように、ステップS2の判定が肯定されたあとのステップS11にて、エンジン作動停止制御においてエンジン11が作動停止するとき、少なくとも1つの気筒の排気弁が閉じた状態、当該気筒の吸気弁が開いた状態、かつ、スロットル弁52が開いた状態で当該気筒のピストンが下死点から上死点に向かって移動している最中にクランク軸31の回転が止まるようモータ13が制御される。ステップS11のあと、処理はステップS12に移行する。
【0037】
ステップS12では、エンジン11が作動停止してから所定の待ち時間経過したか否かが判定される。ステップS12の判定が肯定された場合(S12:Yes)、処理はステップS13に移行する。一方、ステップS12の判定が否定される間(S12:No)、処理はステップ12を繰り返す。
【0038】
ステップS13では、スロットル弁52が閉じられる。これにより、上記気筒内および吸気通路内の一部の空気を圧縮しようとするときピストンに作用する反力によってクランク軸31の回転抵抗が増大し、次回のエンジン11の始動時にモータ13の力行作動開始時点から所定時間経過するまでの間にモータ回転数が最大モータトルクTm−maxに対応する回転数Nm−tmmaxを超えないようモータ軸16の回転が抑制される。ステップS13のあと、処理はステップS4に移行する。
【0039】
このように、制御装置51は、ステップS11〜S13に対応する回転抑制部71を有するように構成されてもよい。第2実施形態によれば、第1実施形態と同様に、エンジン11を始動するためにモータ13を力行作動させるとき、モータ13が最大モータトルクTm−maxを出力することができる。
【0040】
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態では、図6に示すように、ステップS2の判定が肯定されたあとのステップS21にて、エンジン作動停止制御においてエンジン11が作動停止するとき、少なくとも1つの気筒の吸気弁のバルブリフト量が最小リフト量から最大リフト量に向かって増加し始めるときクランク軸31の回転が止まるようモータ12が制御される。これにより、上記吸気弁に対応するカムのカムノーズ部がバルブエンドを乗り越えようとするときカムシャフトに作用する反力によってクランク軸31の回転抵抗が増大し、次回のエンジン11の始動時にモータ13の力行作動開始時点から所定時間経過するまでの間にモータ回転数が最大モータトルクTm−maxに対応する回転数Nm−tmmaxを超えないようモータ軸16の回転が抑制される。ステップS21のあと、処理はステップS4に移行する。
【0041】
このように、制御装置51は、ステップS21に対応する回転抑制部71を有するように構成されてもよい。第3実施形態によれば、第1実施形態と同様に、エンジン11を始動するためにモータ13を力行作動させるとき、モータ13が最大モータトルクTm−maxを出力することができる。
【0042】
[第4実施形態]
本発明の第4実施形態では、図7に示すように、ステップS2の判定が肯定されたあとのステップS31にて、エンジン作動停止制御においてエンジン11が作動停止するとき、少なくとも1つの気筒の排気弁が閉じた状態、かつ、当該気筒の吸気弁が開いた状態で当該気筒のピストンが下死点から上死点に向かって移動している最中にクランク軸31の回転が止まるようモータ13が制御される。ステップS31のあと、処理はステップS32に移行する。
【0043】
ステップS32では、エンジン11が作動停止してから所定の待ち時間経過したか否かが判定される。ステップS32の判定が肯定された場合(S32:Yes)、処理はステップS33に移行する。一方、ステップS32の判定が否定される間(S32:No)、処理はステップ32を繰り返す。
【0044】
ステップS33では、バルブタイミング調整装置53が遅角作動させられて吸気弁が閉じられる。これにより、上記吸気弁に対応するカムのカムノーズ部がバルブエンドを乗り越えようとするときカムシャフトに作用する反力、および、上記気筒内の空気を圧縮しようとするときピストンに作用する反力によってクランク軸31の回転抵抗が増大し、次回のエンジン11の始動時にモータ13の力行作動開始時点から所定時間経過するまでの間にモータ回転数が最大モータトルクTm−maxに対応する回転数Nm−tmmaxを超えないようモータ軸16の回転が抑制される。ステップS33のあと、処理はステップS4に移行する。
【0045】
このように、制御装置51は、ステップS31〜S33に対応する回転抑制部71を有するように構成されてもよい。第4実施形態によれば、第1実施形態と同様に、エンジン11を始動するためにモータ13を力行作動させるとき、モータ13が最大モータトルクTm−maxを出力することができる。
【0046】
[第5実施形態]
本発明の第5実施形態では、図8に示すように、ステップS2の判定が肯定されたあとのステップS41にて、エンジン11の作動停止制御が実施される。ステップS41のあと、処理はステップS4に移行する。
【0047】
ステップS5のあとのステップS42では、クランク軸31と変速機18とが接続されるようクラッチ装置17が制御される。これにより、変速機18の回転体の重量分だけクランク軸31の回転抵抗が増大し、次回のエンジン11の始動時にモータ13の力行作動開始時点から所定時間経過するまでの間にモータ回転数が最大モータトルクTm−maxに対応する回転数Nm−tmmaxを超えないようモータ軸16の回転が抑制される。ステップS42のあと、処理はステップS6に移行する。
【0048】
このように、制御装置51は、ステップS42に対応する回転抑制部71を有するように構成されてもよい。第5実施形態によれば、第1実施形態と同様に、エンジン11を始動するためにモータ13を力行作動させるとき、モータ13が最大モータトルクTm−maxを出力することができる。
【0049】
[他の実施形態]
本発明の他の実施形態では、所定位置は、テンショナプーリの移動可能範囲のうち、基準位置と当該基準位置に対してベルトから離間する方向の端部との間の位置であってもよい。
本発明の他の実施形態では、テンショナプーリの位置を所定位置で保持する保持機構を設けてもよい。保持機構でテンショナプーリの位置を所定位置で保持している間、モータの作動を停止することによって電力消費量の低減を図ることができる。
【0050】
本発明の他の実施形態では、アイドリング実施中であれば、エンジンが作動停止してから所定のプーリ移動待機時間が経過したとき所定位置移動タイミングであると判定されてもよい。また、所定位置移動タイミングは、ブレーキペダルの操作量に限らず、例えばブレーキ圧、過去にエンジンが作動停止してから始動要求が出力されるまでの時間を学習した情報、車間距離に関する情報、または、渋滞および信号機等に関する交通情報、などに基づき判定されてもよい。
本発明の他の実施形態では、エンジンが作動停止してから始動要求が出力されるまでの間、テンショナプーリの位置を所定位置に移動させるためにモータの作動および停止を繰り返してもよい。この形態によると、モータを作動し続ける形態と比べて電力消費量の低減を図ることができる。
【0051】
第3実施形態では、吸気弁のバルブリフト量が最小リフト量から最大リフト量に向かって増加し始めるときクランク軸31の回転が止まるようモータ12が制御されていた。これに対して、本発明の他の実施形態では、吸気弁のバルブリフト量が最小リフト量から最大リフト量に向かって増加している最中にクランク軸の回転が止まるようモータが制御されてもよい。この形態であっても、カムのカムノーズ部がバルブエンドを乗り越えようとするときカムシャフトに作用する反力によってクランク軸の回転抵抗が増大する。
【0052】
本発明の他の実施形態では、制御装置は、第2テンショナを備えていないベルト伝動システムに用いられてもよい。
本発明の他の実施形態では、第1テンショナおよび第2テンショナは、振り子式に限らず、他の形式のテンショナであってもよい。
第1実施形態および第2実施形態では、第1テンショナおよび第2テンショナは、共通の付勢部材を有していた。これに対して、本発明の他の実施形態では、第1テンショナの付勢部材および第2テンショナの付勢部材が個別に設けられてもよい。
【0053】
本発明の他の実施形態では、第1テンショナは、駆動軸プーリと補機プーリとの間に設けられてもよい。要するに、ベルトの回転方向においてモータ軸プーリから駆動軸プーリまでの間でベルトの張力を調整可能なよう設けられればよい。
本発明の他の実施形態では、第2テンショナは、駆動軸プーリと補機プーリとの間に設けられてもよい。要するに、ベルトの回転方向において駆動軸プーリからモータ軸プーリまでの間でベルトの張力を調整可能なよう設けられればよい。
【0054】
第1実施形態では、制御装置51は、モータ13だけでなくエンジンの他の電子制御機器も制御するよう構成されていた。これに対して、本発明の他の実施形態では、モータを制御する制御装置とエンジンの他の電子制御機器を制御する制御装置とを分けて構成してもよい。
本発明の他の実施形態では、ベルトは、ゴム製に限らず、例えば金属製等であってもよい。
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0055】
11・・・ベルト伝動システム 12・・・エンジン(内燃機関)
13・・・モータ 16・・・モータ軸
21・・・駆動軸プーリ 25・・・モータ軸プーリ
26・・・ベルト 29・・・第1テンショナ
31・・・クランク軸(駆動軸) 51・・・制御装置
71・・・回転抑制部(回転抑制手段)
72・・・プーリ移動部(プーリ移動手段)
73・・・スタータ制御部(スタータ制御手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8