(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6073301
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】多孔質層を含むグレージングの製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/06 20060101AFI20170123BHJP
C23C 14/08 20060101ALI20170123BHJP
C23C 14/58 20060101ALI20170123BHJP
C03C 17/22 20060101ALI20170123BHJP
G02B 1/113 20150101ALI20170123BHJP
B01J 35/02 20060101ALI20170123BHJP
G02B 1/18 20150101ALI20170123BHJP
C23C 14/10 20060101ALN20170123BHJP
【FI】
C23C14/06 K
C23C14/08 E
C23C14/58 A
C03C17/22 Z
G02B1/113
B01J35/02 J
G02B1/18
!C23C14/10
【請求項の数】11
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-515268(P2014-515268)
(86)(22)【出願日】2012年6月15日
(65)【公表番号】特表2014-522906(P2014-522906A)
(43)【公表日】2014年9月8日
(86)【国際出願番号】FR2012051348
(87)【国際公開番号】WO2012172266
(87)【国際公開日】20121220
【審査請求日】2015年4月15日
(31)【優先権主張番号】1155329
(32)【優先日】2011年6月17日
(33)【優先権主張国】FR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500374146
【氏名又は名称】サン−ゴバン グラス フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100170874
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100193404
【弁理士】
【氏名又は名称】倉田 佳貴
(72)【発明者】
【氏名】アンドリー カルシェンコ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン−ポール ルソー
(72)【発明者】
【氏名】アンティエ ユンク
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン ベルンハルト ペテルセン
【審査官】
安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】
欧州特許出願公開第01679291(EP,A1)
【文献】
特表2005−528313(JP,A)
【文献】
特表2002−521247(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
C23C 16/00−16/56
B01J 35/02
C03C 17/22
G02B 1/10−1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質材料から成る少なくとも1つの層を含むコーティングを備えたガラス基材を含むグレージングを製造する方法であって、以下の工程、すなわち、
−真空チャンバーにおいて物理蒸着(PVD)法により、チタン又はチタンを主に含む元素の混合物、酸素及び炭素を含む材料の層を含むコーティングを基材上に堆積させる工程と、
−このようにして堆積された層を、炭素の少なくとも一部を除去すること及び多孔質材料の層を得ることを可能とする条件下で熱処理する工程と
を含み、該堆積が1つ又は複数の元素の少なくとも1つの前駆体を含む反応性プラズマ雰囲気下で炭素のターゲットをスパッタリングすることにより、チャンバーを通過する基材上で実施されること、及び前記層の前記熱処理を、300〜800℃の温度で1時間未満の間加熱することにより実施することを特徴とする、方法。
【請求項2】
カソードに印加される電力が0.5〜20kw/mである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
真空チャンバー中の気体の全圧が0.1〜2Paである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
チャンバー中の1つ又は複数の前駆体の分圧が0.05〜1.5Paである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
反応性プラズマ雰囲気が、アルゴンのような中性気体から本質的に成り、前駆体の少なくとも1つが酸素を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
反応性プラズマ雰囲気が、アルゴンのような中性気体と酸素のような酸化性気体の混合物を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
反応性プラズマ雰囲気が、少なくとも1つが酸素を含む複数の前駆体から本質的に成る、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
熱処理工程が、炭素の少なくとも一部を除去することを可能とする条件下で、炭素の含有量が15at%未満である多孔質層が得られるまで実施される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
熱処理工程が、炭素の少なくとも一部及び水素の少なくとも一部を除去することを可能とする条件下で、2.30未満の屈折率を有する多孔質層が得られるまで実施される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
チタンの1つ又は複数の前駆体が、チタンの有機金属化合物又はチタンアルキル化合物及び/又はチタンアルコラートから選択される、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
多孔質層が汚れ防止タイプの光触媒活性を有する、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質層、特に反射防止又は汚れ防止の性質を有し、ケイ素又はチタンのような金属、酸素並びに任意選択で少量の炭素及び水素から本質的に成る多孔質材料から成る多孔質層を含むグレージングを得る方法に関する。グレージングは、特に建物又は自動車の分野において適用される。グレージングはまた、太陽光エネルギーの収集のために用いられる装置、特に光起電セル若しくはソーラーコレクターの分野、又は光触媒特性を有する自浄グレージングの分野にも適用される。
【背景技術】
【0002】
基材、特にガラス基材を通過する光の一部が基材の表面で反射されることはよく知られている。そのような反射は、基材で保護されている太陽光発電システム又はソーラーコレクターの効率を大いに低下させる。建物又は自動車の分野においては、光の反射の低減が望まれることもある。
【0003】
透明な基材、通常はガラス基材に反射防止コーティングを堆積する原理は、技術からよく知られている。それは、基材の表面で反射した光の百分率R
Lを減らし、光の透過率T
Lを増やすことを可能とする1つの干渉層又は干渉層のスタックの、n=1.5付近の屈折率を有する基材への配置の問題である。
【0004】
スタックの種々の連続する層の数、化学的性質(それゆえ光学指数)及び厚さを調整することで、可視領域(350〜800nm)であろうと近赤外領域(800〜2500nm)であろうと、光の反射を極めて低い値まで減らすことが可能である。
【0005】
例えば、反射防止の性質を有するグレージングを得ることを可能とする、低指数及び高指数の層の連続を含む反射防止スタックは、すでに出願人が、特に欧州特許出願公開第1206715号明細書の中で説明している。スタックを形成する各種干渉薄層は、通常はスパッタリングタイプの真空堆積技術により堆積される。
【0006】
別の技術によれば、多孔質のケイ素酸化物から本質的に成る材料の単層から成る反射防止コーティングも、特に欧州特許第1181256号明細書で提案されている。この先行技術によれば、入射放射線の波長の関数として層の厚さが調整されたこのような多孔質材料を使用することで、屈折率を1.22付近の値まで低減すること及びその後1.5の屈折率を有するガラス基材の表面でほとんどゼロの反射を得ることが可能となり、この層は少なくとも630℃の焼結の間、殆どの多孔性を保持している。そのような層の合成方法は、RSiX
4タイプのケイ素化合物をソルーゲル法によって加水分解縮合する必須の工程を含む。
【0007】
さらに、欧州特許出願第1676291号明細書は、ガラスの屈折率より小さい屈折率を有する多孔質のケイ素酸化物層を得るため、第一の工程に従った、気相(CVDすなわち化学蒸着)又は物理蒸着(PVD)による、酸素、ケイ素、炭素及び水素を含む原料の下塗層の基材への堆積を含む方法を説明している。第二の工程に従い、下塗層は、下塗層の中に存在する炭素及び水素の少なくとも一部を取り除くことにより、1ナノメートル程度の多孔性を有する多孔質層を得ることを可能とする熱処理(加熱)にさらされる。
【0008】
CVD法によれば、反応物質を含む気体は、通常は高温にされた基材による入熱の存在下で基材に運ばれ、次いで基材の表面に反応生成物を生成するため、基材の表面で反応する。
【0009】
PVD法は、異なる方法で、堆積させる材料又はその前駆体を、その後基材に堆積させるためにプラズマ又はイオンビームのような物理的方法により気相に導入する高真空被覆法を包含する。これらの方法の間では、マグネトロンスパッタリングが薄膜を基材に堆積させるために最も広く使用されている。この方法によれば、定圧のプラズマ発生ガス、例えばアルゴン下のチャンバー中で、プラズマが2つの電極の間で、直流電圧又は高周波電圧により生み出される。プラズマ内で生み出された気体の陽イオンは加速し、ターゲットと呼ばれるカソードの上に位置する固体に衝突する。アルゴンイオンの衝突により固体から引きはがされた原子はプラズマ中を拡散し、アノードの上に位置する基材に堆積する。カソードの固体の原子はプラズマ中に導入された追加種と反応することもできる。それゆえ、これは反応性スパッタリングと呼ばれている。したがって、最終層は、ターゲットから引きはがされた元素とプラズマ中に含まれる気体との間の化学反応から生じる材料から成る。
【0010】
さらに具体的には、欧州特許出願第1676291号明細書は、可能性のある態様として、アルケンの混合物又はアルケン/酸素の混合物を含む反応雰囲気下で、アルゴン又はアルゴン/酸素の混合物のプラズマ気体中で、ケイ素金属製又はシリカ製のターゲットのスパッタリングが用いられる上記のPVD法を説明している。基材への層の堆積速度を高めるため、追加のケイ素源をプラズマ気体に導入してもよい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、このような実施態様は最終的に得られる層についての問題を引き起こす。純粋なケイ素製のターゲットを使用することを選択した場合、実行された試験は多孔質でない材料の光学指数と比較して低い光学指数を有する層を得ることは可能でなかったことを示した。「「低い」光学指数を有する多孔質材料」という表現は、本発明の意味の範囲内において非多孔質の材料の既知の指数に対して少なくとも3%、5%又は10%の上記指数の低減をもたらす多孔性を有する材料を意味するものと理解される。「光学指数」という表現は、本発明の意味の範囲内において550nmで測定された光学指数(屈折率)を意味するものと理解される。
【0012】
同様に、ケイ素酸化物製のターゲットの使用も、材料に導電性がないことから、非常に低い堆積速度及び装置内の電気アークの存在をもたらす非常に質の低いカソードを形成するため問題がある。
【0013】
さらに、使用するターゲット(ケイ素酸化物又はケイ素金属)を問わず、堆積した材料の必然的に大部分は、屈折率が高い(1.47)高密度のケイ素二酸化物である。それゆえ、そのような製造技術に従って、最終的に全体として多孔質である層を得て、その結果理論的に可能な最も低い屈折率の値を得ることが可能であるとは思われない。
【0014】
別の利点によると、ガラス基材に堆積させた単層の場合、簡単で安価に堆積させることができ、かつ、基材の表面での反射を制限するため、屈折率がガラス基材の屈折率より低い材料を有することが有益である。あるいは、反射防止機能を有する層のスタックの場合、本発明により得られた、調節可能な屈折率、すなわち、特に層を形成する非多孔質の材料の屈折率より数パーセント低い屈折率を有する少なくとも1つの多孔質層のスタックを提供することで、反射防止効果の調整に対する追加の自由度を得ることが可能となる。
【0015】
あるいは、反射防止効果以外の機能性を有する外側のコーティングを得ることも有益となり得る。特に、出願人は、本発明の対象である方法も、金属元素として少なくともチタン、酸素及び任意選択で炭素を含み、例えば欧州特許第850204号明細書で説明された意味の範囲内の光触媒特性を有する多孔質層を得ることを可能とすることを見出した。
【0016】
知られているように、チタン酸化物、特に最も活性な形態であるアナターゼ型で結晶化されたもので構成されるチタン酸化物を基礎材料とする光触媒層を得ることができる。アナターゼ相とルチル相との混合も考え得る。本発明による多孔質層を得ることは、さらにグレージングの表面に堆積した汚れと光触媒粒子であるTiO
2との接触面積を広げるという利点を有する。
【0017】
チタン酸化物は、純粋なものであってもよいし、あるいは遷移金属(特にW,Mo,V,Nb)、ランタノイドイオン若しくは貴金属(例えば白金、パラジウムのようなもの)又はフッ素でドープされたものであってもよい。これらの各種ドープ形は材料の光触媒活性を高めること又はチタン酸化物のバンドギャップを可視領域の近く若しくは可視領域の範囲内の波長にシフトすることのいずれかを可能とする。好ましくは、チタン酸化物を基礎材料とする光触媒層は、その層の光の透過率の減少への寄与から、窒素原子を含まない。
【0018】
チタン酸化物に基づく層は、通常は基材に堆積されるスタックのうちの最終層であり、換言すれば、スタックのうち基材から最も遠い層である。これは、光触媒層にとって、大気及びその汚染物質と接触することが重要だからである。しかし、光触媒層の上に非常に薄い層、一般的に非連続性又は多孔性の層を堆積させることは可能である。
【0019】
すでに説明してきた技術によれば、チタン酸化物を基礎材料とする層の下に、追加で又は代わりに各種の層を堆積させることができる。
−基材から発生するアルカリ金属イオンの移動に対するバリアとして機能する1以上の層。そのような層は光触媒層の前にCVDにより堆積させることができる。それらは、次の元素、すなわち、Si,Al,Sn,Zn,Zrの少なくとも1つの酸化物、窒化物、酸窒化物又は酸炭化物を基礎材料とするか又はこれらで構成されることが好ましい。これらの材料の中では、シリカ又はケイ素酸炭化物がそのCVD技術による堆積の容易さから好ましい。
−フッ素でドープされた又はアンチモンでドープされた錫酸化物製の層のような、1以上の低放射率層。そのような層は、多重グレージングの表面での凝縮(曇り及び/又は霜)を、特にそれが傾いた時(例えば、それが屋根又はベランダと一体となった時)に制限することを可能とする。表面1上の低放射率層の存在は、夜間の外部との熱交換を制限し、その結果ガラスの表面温度を露点よりも上に維持することを可能とする。曇り又は霜の出現はその結果大幅に減らされ、又は完全になくなる。光触媒層はドープされた錫酸化物の層の上に直接堆積させることができる。ドープされた錫酸化物の層は、通常はより活性が低いルチル型を求めるが、本発明による方法により得られる気相結晶化はこの欠点を克服することを可能とする。それゆえ、この場合の本発明による方法の追加の利点は、チタン酸化物層が(最も活性な)アナターゼ型でもって結晶化し、かつドープされた錫酸化物の層の上に直接堆積される層の堆積を可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、その最も一般的な形において、少なくとも1つの多孔質層を含むコーティング、特には該少なくとも1つの多孔質層により屈折率が低減されたコーティングを備えた基材、特にはガラス基材を含むグレージングを製造する方法であって、以下の工程、すなわち、
−真空チャンバーにおいて物理蒸着(PVD)法により、Si,Ti,Sn,Al,Zr,In,Zn,Nb,W,Ta,Bi,特にSi若しくはTiから選択した少なくとも1つの元素又はこれらの元素の少なくとも2つの混合物、酸素及び炭素を含む材料の層を含むコーティングを基材上に堆積させる工程であって、該層が任意選択で水素をさらに含み、該堆積が1つ又は複数の元素の少なくとも1つの前駆体を含む反応性、好ましくは酸化性プラズマ雰囲気下で炭素のターゲットをスパッタリングすることにより、チャンバーを通過する基材上で実施される工程と、
−このようにして堆積された層を、炭素の少なくとも一部を除去すること及び前記多孔質層を得ることを可能とする条件下で熱処理する工程と
を含む方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
「低減された屈折率」という表現は、層を構成する多孔質の材料の屈折率が、非多孔質の同じ材料に対し、少なくとも3%、好ましくは少なくとも5%、非常に好ましくは少なくとも10%少ないことを意味するものと理解される。
【0022】
「1つ又は複数の元素の前駆体」という表現は、反応性のプラズマ雰囲気中で気化させることができ、かつ上記1つ又は複数の元素を含む任意の化合物を意味するものと理解される。
【0023】
「熱処理」という表現は、本発明の意味の範囲内において最初に上記層に存在している炭素の少なくとも一部が除去されるまで層の温度の部分的な上昇を可能とする任意の方法を意味するものと理解される。
【0024】
原則と考えられるものではないが、出願人が実行した多孔度測定試験では、本発明による技術により堆積された多孔質層において、このようにして得られた材料中の孔の平均のサイズは10nm未満、又は5nm未満であることが示された。
【0025】
本発明による方法は、有利には以下の好ましい実施態様の1つに従って実施することができ、これらの実施態様は必要に応じて組み合わせることができることが明らかに理解される。
−炭素のカソードに印加される電力は0.5〜20kw/m、特に0.5〜5kw/mである。カソードに与えられる分極は直流電流でも交流電流でもよい。
−真空チャンバー中の気体の全圧は0.1〜2Paである。
−チャンバー中の1つ又は複数の前駆体の分圧は0.05〜1.5Paである。
−第1の実施態様によれば、反応性プラズマ雰囲気は、アルゴンのような中性気体から本質的に成り、前駆体の少なくとも1つは酸素を含む。
−代替的な実施態様によれば、反応性プラズマ雰囲気は、アルゴンのような中性気体と酸素のような酸化性気体の混合物を含む。
−別の代替的な実施態様によれば、反応性プラズマ雰囲気は、少なくとも1つが酸素を含む複数の前駆体から本質的に成る。
−熱処理工程は、炭素の少なくとも一部及び水素の少なくとも一部を除去することを可能とする条件下で、残留する炭素の含有量が15at%未満であり、好ましくは10at%未満であり、非常に好ましくは5at%未満である多孔質層が得られるまで実施される。
−層の熱処理は300〜800℃の温度で、1時間未満の間実施される。
−熱処理は、欧州特許出願第2118031号明細書に定義される条件に従って実施される。
−元素としては、ケイ素又はケイ素を主に含む元素の混合物が使用される。「主に含む」という表現は、存在する元素の合計の50at%を上回り、好ましくは存在する元素の合計の80at%を上回り、又は存在する元素の合計の90at%を上回ることを意味するものと理解される。
−元素としては、ケイ素又はケイ素を主に含む元素の混合物が使用され、かつ熱処理工程が、炭素の少なくとも一部及び水素の少なくとも一部を除去することを可能とする条件下で、1.42未満、好ましくは1.40未満又は1.35未満の屈折率を有する多孔質層が得られるまで実施される。
−元素としては、ケイ素又はケイ素を主に含む元素の混合物が使用され、かつ熱処理後における多孔質層の厚さが30〜150nmであり、好ましくは50〜120nmである。
−元素としては、チタン又はチタンを主に含む元素の混合物が使用される。「主に含む」という表現は、存在する元素の合計の50at%を上回り、好ましくは存在する元素の合計の80at%を上回り、又は存在する元素の合計の90at%を上回ることを意味するものと理解される。
−元素としては、チタン又はチタンを主に含む元素の混合物が使用され、かつ熱処理工程が、炭素の少なくとも一部及び水素の少なくとも一部を除去することを可能とする条件下で、2.30未満、好ましくは2.20未満の屈折率を有する多孔質層が得られるまで実施される。
−元素としては、チタン又はチタンを主に含む元素の混合物が使用され、かつ熱処理後における多孔質層の厚さが5〜120nmであり、特に5〜25nm又は80〜120nmである。
−元素としては、チタン又はチタンを主に含む元素の混合物が使用され、かつ多孔質層が汚れ防止タイプの光触媒活性を有する。
【0026】
一般的に、本発明によれば、前駆体として、上記のリストから選択した1つ又は複数の元素のうちから少なくとも1つの原子と、アルキル基(特にメチル基又はエチル基)、塩素、酸素、水素、アルコキシ基、芳香(フェニル)環、アルケニル基及びアルキニル基のうちから選択した少なくとも1つの基とを含む任意の有機金属化合物を使用することが可能である。
【0027】
特に幾つかの本発明の特定の実施態様によれば、
−元素として、ケイ素又はケイ素を主に含む元素の混合物が使用され、1つ又は複数の前駆体はケイ素の有機金属化合物から選択され、特にシロキサン、例えばヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)又はTDMSO(テトラメチルジシロキサン)から選択される。
−元素として、ケイ素又はケイ素を主に含む元素の混合物が使用され、1つ又は複数の前駆体はアルキルシラン及びケイ素アルコラート、例えばジエトキシメチルシラン(DEMS)、Si(OC
2H
5)
4(TEOS)、Si(OCH
3)
4(TMOS)、(Si(CH
3)
3)
2(HMDS)、Si(CH
3)
4(TMS)、(SiO(CH
3)
2)
4、(SiH(CH
3)
2)
2から選択される。
−元素として、ケイ素又はケイ素を主に含む元素の混合物が使用され、1つ又は複数の前駆体はケイ素水素化物、特にSiH
4又はSi
2H
6から選択される。
−元素として、ケイ素又はケイ素を主に含む元素の混合物が使用され、1つ又は複数の前駆体はケイ素塩化物、特にSiCl
4、CH
3SiCl
3、(CH
3)
2SiCl
2から選択される。
【0028】
本発明の別の特定の実施態様によれば、
−元素として、チタン又はチタンを主に含む元素の混合物が使用され、チタンの1つ又は複数の前駆体はチタンの有機金属化合物又はチタンアルキル化合物及び/又はチタンアルコラート、特にTiテトライソプロピラート、ジイソプロポキシチタンビス(アセチルアセトネート)及びチタンテトラオクチレングリコラート、チタンアセチルアセトネート、チタンメチルアセトアセテート、チタンエチルアセトアセテート並びに塩化チタンTiCl
4から選択される。
【0029】
本発明は、前に開示した方法に従って得ることができるグレージングにも関する。
【0030】
特に、本発明は前に記載した方法により得ることができる、ケイ素、酸素及び任意選択で炭素及び水素から本質的に成る多孔質材料の少なくとも1つの層から成るコーティングを含み、1.40未満の屈折率を有するグレージングに関する。
【0031】
本発明はさらに、チタン、酸素及び任意選択で炭素及び水素から本質的に成る多孔質材料の少なくとも1つの層から成るコーティングを含み、光触媒特性を有し、前に記載した方法により得ることができるグレージングに関する。
【0032】
本発明及びその利点は、次の限定的でない例を読むことでよく理解されるだろう。
【実施例】
【0033】
本発明による各種の層を、出願人がPLANILUX(登録商標)の呼称で販売している4mmの厚さを有するソーダ石灰ガラス製の基材の上に、マグネトロンスパッタリングのチャンバー中で堆積させた。当該分野においてよく知られている技術により、それぞれの堆積の前に0.5ミリパスカル(mPa)の値が達成されるまでチャンバー内に残留真空を作り出す。本発明により、炭素のターゲットを、カソードの上に設置する。ケイ素の有機金属化合物(HMDSO:ヘキサメチルジシロキサン)をケイ素源として含み、混合物として任意選択でアルゴン又はアルゴン/酸素混合物を搬送ガスとして備える各種混合気体を、2〜10mTorr(0.27〜1.33Pa)の気体の全圧が得られるまでチャンバー中に導入する。
【0034】
Ar及びO
2ガスの流量は次の表1に示す。前駆体の流量はチャンバー中の分圧を0.05〜1Paに維持するように調整する。
【0035】
プラズマを点火し、520W/m〜1110W/mの電力を、パルス周波数50kHz、反転パルス持続時間10μsで炭素カソードに印加する。
【0036】
ガラスリボンがカソードの反対側を通過する。ターゲットからスパッタした炭素原子と反応性のプラズマ中のHDMSOとの反応により生み出された材料の層は最終的に基材に堆積し、基材の速度は、数十ナノメートルの層の厚さを得るために調整する。
【0037】
このようにコーティングした基材は、次いで620℃で10分間加熱する熱処理にさらす。
【0038】
次の表1は、本発明により得られたそれぞれのグレージングについての実験データをまとめている。
【0039】
【表1】
【0040】
全ての例について、基材に堆積した層の屈折率を620℃での熱処理工程の前後で測定した。屈折率は、本発明に従って550nmで、DIN67507規格に従って測定する。
【0041】
結果を下の表2に示す。
【0042】
【表2】
【0043】
驚くべきことには、表2に示す結果は、極めて新規には炭素のターゲットをケイ素の有機金属化合物を含むプラズマと組み合わせて使用する本発明によるスパッタリング技術を経由する方法を使用することで低い屈折率、すなわち1.42未満、又は1.40未満又は1.35未満の屈折率を有する本質的に多孔質のシリカ製の層を得ることが可能となることを示している。
【0044】
ここまで本発明を一例として説明してきた。とはいえ当業者は、特許請求の範囲に定義された特許の範囲から逸脱することなく、本発明の変形態様を実施できるということが理解される。
本発明の実施態様の一部を以下の項目〈1〉−〈20〉に記載する。
〈1〉 多孔質材料から成る少なくとも1つの層を含むコーティング、特には該少なくとも1つの層により屈折率が低減されたコーティングを備えた基材、特にはガラス基材を含むグレージングを製造する方法であって、以下の工程、すなわち、
−真空チャンバーにおいて物理蒸着(PVD)法により、Si,Ti,Sn,Al,Zr,Inから選択した少なくとも1つの元素又はこれらの元素の少なくとも2つの混合物、酸素及び炭素を含む材料の層を含むコーティングを基材上に堆積させる工程であって、該層が任意選択で水素をさらに含む工程と、
−このようにして堆積された層を、炭素の少なくとも一部を除去すること及び多孔質材料の層を得ることを可能とする条件下で熱処理する工程と
を含み、該堆積が1つ又は複数の元素の少なくとも1つの前駆体を含む反応性、好ましくは酸化性プラズマ雰囲気下で炭素のターゲットをスパッタリングすることにより、チャンバーを通過する基材上で実施されることを特徴とする、方法。
〈2〉 カソードに印加される電力が0.5〜20kw/mである、項目1に記載の方法。
〈3〉 真空チャンバー中の気体の全圧が0.1〜2Paである、項目1又は2に記載の方法。
〈4〉 チャンバー中の1つ又は複数の前駆体の分圧が0.05〜1.5Paである、項目1〜3のいずれか1項に記載の方法。
〈5〉 反応性プラズマ雰囲気が、アルゴンのような中性気体から本質的に成り、前駆体の少なくとも1つが酸素を含む、項目1〜4のいずれか1項に記載の方法。
〈6〉 反応性プラズマ雰囲気が、アルゴンのような中性気体と酸素のような酸化性気体の混合物を含む、項目1〜4のいずれか1項に記載の方法。
〈7〉 反応性プラズマ雰囲気が、少なくとも1つが酸素を含む複数の前駆体から本質的に成る、項目1〜4のいずれか1項に記載の方法。
〈8〉 熱処理工程が、炭素の少なくとも一部を除去することを可能とする条件下で、炭素の含有量が15at%未満であり、好ましくは10at%未満であり、さらに好ましくは5at%未満である多孔質層が得られるまで実施される、項目1〜7のいずれか1項に記載の方法。
〈9〉 層の熱処理が、300〜800℃の温度で1時間未満の間加熱することにより実施される、項目1〜8のいずれか1項に記載の方法。
〈10〉 元素としてケイ素又はケイ素を主に含む元素の混合物が使用される、項目1〜9のいずれか1項に記載の方法。
〈11〉 熱処理工程が、炭素の少なくとも一部及び水素の少なくとも一部を除去することを可能とする条件下で、1.42未満、好ましくは1.40未満又は1.35未満の屈折率を有する多孔質層が得られるまで実施される、項目10に記載の方法。
〈12〉 1つ又は複数の前駆体がケイ素の有機金属化合物から選択され、特にシロキサン、例えばヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)又はTDMSO(テトラメチルジシロキサン)、アルキルシラン、例えばジエトキシメチルシラン(DEMS)、(Si(CH3)3)2(HMDS)、Si(CH3)4(TMS)、(SiO(CH3)2)4、(SiH(CH3)2)2、ケイ素アルコラート、例えばSi(OC2H5)4(TEOS)、Si(OCH3)4(TMOS)、又はケイ素水素化物、特にSiH4若しくはSi2H6又はケイ素塩化物、特にSiCl4、CH3SiCl3、(CH3)2SiCl2から選択される、項目10又は11に記載の方法。
〈13〉 熱処理後における多孔質層の厚さが30〜150nmであり、好ましくは50〜120nmである、項目10〜12のいずれか1項に記載の方法。
〈14〉 元素として、チタン又はチタンを主に含む元素の混合物が使用される、項目1〜9のいずれか1項に記載の方法。
〈15〉 熱処理工程が、炭素の少なくとも一部及び水素の少なくとも一部を除去することを可能とする条件下で、2.30未満、好ましくは2.20未満の屈折率を有する多孔質層が得られるまで実施される、項目14に記載の方法。
〈16〉 チタンの1つ又は複数の前駆体が、チタンの有機金属化合物又はチタンアルキル化合物及び/又はチタンアルコラート、特にTiテトライソプロピラート、ジイソプロポキシチタンビス(アセチルアセトネート)及びチタンテトラオクチレングリコラート、チタンアセチルアセトネート、チタンメチルアセトアセテート及びチタンエチルアセトアセテートから選択される、項目14又は15に記載の方法。
〈17〉 多孔質層が汚れ防止タイプの光触媒活性を有する、項目14〜16のいずれか1項に記載の方法。
〈18〉 項目1〜17のいずれか1項により得ることができる多孔質材料の少なくとも1つの層から成るコーティングを含むグレージング。
〈19〉 項目10〜13のいずれか1項に記載の方法により得ることができる、ケイ素、酸素及び任意選択で残留炭素及び水素から本質的に成る多孔質材料の少なくとも1つの層から成るコーティングを含み、1.40未満の屈折率を有するグレージング。
〈20〉 項目14〜17のいずれか1項に記載の方法により得ることができる、チタン、酸素及び任意選択で残留炭素及び水素から本質的に成る多孔質材料の少なくとも1つの層から成るコーティングを含むグレージング。