特許第6073321号(P6073321)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6073321
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】ウルトラキャパシタのための電解質合成
(51)【国際特許分類】
   H01G 11/62 20130101AFI20170123BHJP
   H01G 11/84 20130101ALI20170123BHJP
   H01G 11/60 20130101ALI20170123BHJP
【FI】
   H01G11/62
   H01G11/84
   H01G11/60
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-528470(P2014-528470)
(86)(22)【出願日】2012年8月24日
(65)【公表番号】特表2014-529191(P2014-529191A)
(43)【公表日】2014年10月30日
(86)【国際出願番号】US2012052180
(87)【国際公開番号】WO2013032875
(87)【国際公開日】20130307
【審査請求日】2015年7月27日
(31)【優先権主張番号】13/220,865
(32)【優先日】2011年8月30日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100090468
【弁理士】
【氏名又は名称】佐久間 剛
(72)【発明者】
【氏名】ガドカリー,キショアー プルショタム
(72)【発明者】
【氏名】コダリ,サチャナラヤナ
【審査官】 佐久 聖子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2006−505120(JP,A)
【文献】 特開2009−269917(JP,A)
【文献】 特開2002−047255(JP,A)
【文献】 特表2005−521257(JP,A)
【文献】 特開平08−008147(JP,A)
【文献】 特開2005−272366(JP,A)
【文献】 米国特許第05418682(US,A)
【文献】 国際公開第2005/003108(WO,A1)
【文献】 特表2003−532619(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 11/00−11/86、
C07B 31/00−409/44、
H01M 6/00− 6/22、10/36−10/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質溶液を調製する方法であって、
アセトニトリル中でテトラフルオロホウ酸アンモニウムと臭化テトラエチルアンモニウムを組み合わせて、テトラフルオロホウ酸テトラエチルアンモニウムおよび化アンモニウムを形成する工程であって、前記テトラフルオロホウ酸アンモニウムの量が前記臭化テトラエチルアンモニウムに対して化学量論的に過剰である、工程、および
前記化アンモニウムを前記アセトニトリルから除去して、テトラフルオロホウ酸テトラエチルアンモニウムを含む電解質溶液を調製する工程であって、前記除去を20℃より下の温度で行う、工程、
を有してなる、方法。
【請求項2】
前記組み合わせる工程が一定の撹拌条件下で行われる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記組み合わせる工程が、前記アセトニトリルへの前記テトラフルオロホウ酸アンモニウムと前記臭化テトラエチルアンモニウムの段階的な添加を含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記電解質溶液の25℃での伝導率が少なくとも45mS/cmである、請求項1から3いずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【優先権】
【0001】
本出願は、その内容が依拠され、ここに全てが引用される、2011年8月30日に出願された米国特許出願第13/220865号の米国法典第35編第120条の下での優先権の恩恵を主張するものである。
【技術分野】
【0002】
本開示は、広く、電解質組成物を調製する方法に関し、より詳しくは、ウルトラキャパシタに使用するための電解質溶液の合成に関する。
【背景技術】
【0003】
ウルトラキャパシタなどのエネルギー貯蔵装置が、不連続電力パルスが必要とされる多くの用途に使用されているであろう。そのような用途は、携帯電話からハイブリッド車までに亘る。ウルトラキャパシタの重要な特徴は、提供できるエネルギー密度である。多孔質セパレータおよび/または有機電解質によって隔てられている2つ以上のカーボン系電極を備えることができるエネルギー貯蔵装置のエネルギー密度は、電解質の性質によっておおむね決まる。市販のウルトラキャパシタに利用されている典型的な電解質は、アセトニトリルなどの溶媒中に溶解したテトラフルオロホウ酸テトラエチルアンモニウム(TEA−TFB)塩を含む。この電解質系は、塩溶解度およびイオン伝導度を含む数多くの有益な性質を有する。
【0004】
電解質溶液の開発において重要な要因の1つは費用である。合成と精製が比較的高価であるために、市販のTEA−TFBは高価である。TEA−TFBの例示の合成が特許文献1に開示されている。この例示のプロセスは、水性媒質中においてハロゲン化テトラアルキルアンモニウムを金属テトラフルオロホウ酸塩と反応させ、その後、膜を使用した透析を行って、金属ハロゲン化物を除去する工程を含む。別の合成手法が特許文献2に開示されており、この文献には、アセトニトリル中において金属ハロゲン化物をハロゲン化テトラアルキルと組み合わせ、その後、金属ハロゲン化物を濾過する工程が開示されている。このプロセスの生成物は、典型的に、塩化物イオンなどの高濃度のハロゲン化物イオン(例えば、0.71質量%または7100ppm)並びに関連する金属イオンを含んでいる。ハロゲン化物イオンのそのような濃度は、ウルトラキャパシタの性能にとって有害であると理解されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5705696号明細書
【特許文献2】米国特許第7641807号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したことに鑑みて、高純度のTEA−TFB塩およびTEA−TFB塩を含む電解質溶液を製造するための単純で経済的な合成プロセスが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
電解質溶液を調製する方法は、液体溶媒中でテトラフルオロホウ酸アンモニウムおよびハロゲン化第四級アンモニウム塩を組み合わせて、テトラフルオロホウ酸第四級アンモニウムおよびハロゲン化アンモニウムを形成する工程、およびハロゲン化アンモニウムを溶媒から除去して、電解質溶液を調製する工程を有してなる。この反応は、ほぼ室温で完全に行うことができる。あるいは、室温より低い温度で濾過工程を行ってもよい。実施の形態において、室温より低い温度での濾過工程により、臭化物イオンの含有量が少なくなる。実施の形態において、化学量論的に過剰なテトラフルオロホウ酸アンモニウムを使用して、生成物中のハロゲン化物イオンの濃度を最小にすることができる。
ある実施形態では、ハロゲン化アンモニウムの溶媒からの除去を20℃より下の温度で行う
【0008】
得られた生成物は、溶媒中に溶解したテトラフルオロホウ酸第四級アンモニウム塩を含む電解質溶液であり、この電解質溶液中の塩化物イオンの濃度は1ppm未満であり、電解質溶液中の臭化物イオンの濃度は1000ppm未満、500ppm未満、200ppm未満、100ppm未満、80ppm未満または50ppm未満であり、電解質溶液中のアンモニウムイオンの濃度は1ppm超である。
【0009】
本発明の追加の特徴および利点は、以下の詳細な説明に述べられており、一部は、その説明から当業者には容易に明白となるか、または以下の詳細な説明、特許請求の範囲、並びに添付図面を含む、ここに記載された本発明を実施することによって認識されるであろう。
【0010】
先の一般的な説明および以下の詳細な説明の両方とも、本発明の実施の形態を提示しており、特許請求の範囲に記載された本発明の性質および特徴を理解するための概要または骨子を提供することが意図されているのが理解されよう。添付図面は、本発明のさらなる理解を与えるために含まれており、本明細書に包含され、その一部を構成する。その図面は、本発明の様々な実施の形態を図解しており、説明と共に、本発明の原理および作動を説明する働きをする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】1つの実施の形態によるボタン電池の説明図
図2】化学量論比の反応体を使用して調製した電解質溶液のCV曲線を示すグラフ
図3】化学量論的に過剰のテトラフルオロホウ酸アンモニウムを使用して調製した電解質溶液のCV曲線を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0012】
テトラフルオロホウ酸第四級アンモニウムを製造する方法は、有機溶媒中で1種類以上のハロゲン化第四級アンモニウムをテトラフルオロホウ酸アンモニウムと反応させる工程を含む。その反応生成物は、テトラフルオロホウ酸第四級アンモニウムおよび臭化アンモニウムである。テトラフルオロホウ酸第四級アンモニウムは有機溶媒中に可溶性であるのに対し、臭化アンモニウムは沈殿物を形成する。沈殿したNH4Brを濾過して、例えば、アセトニトリルなどの有機溶媒中のTEA−TFBの溶液を調製することができる。いくつかの実施の形態において、完全な反応は、一定の撹拌条件下で、ほぼ室温で行われる。
【0013】
いくつかの実施の形態において、その反応は、一定の撹拌条件下で、ほぼ室温で行われ、次いで、室温より低い温度で濾過工程が行われる。いくつかの実施の形態において、室温より低い温度は、電解質塩が沈殿しない最低の可能な温度に相当する温度を含む。いくつかの実施の形態において、室温より低い温度は、臭化物イオンが最小となる温度に相当する温度を含む。いくつかの実施の形態において、室温より低い温度は、電解質塩が沈殿せず、臭化物イオンが最小となる、最低の可能な温度に相当する温度を含む。いくつかの実施の形態において、室温より低い温度は、電解質塩および不純物の溶解度パラメータにおける差を最大にする温度を含む。
【0014】
いくつかの実施の形態において、室温より低い温度は、約20℃から約−30℃、約15℃から約−30℃、約10℃から約−30℃、約5℃から約−30℃、約0℃から約−30℃、約−5℃から約−30℃、約−10℃から約−30℃、約−15℃から約−30℃、約−20℃から約−30℃、約−25℃から約−30℃、約20℃から約−25℃、約15℃から約−25℃、約10℃から約−25℃、約5℃から約−25℃、約0℃から約−25℃、約−5℃から約−25℃、約−10℃から約−25℃、約−15℃から約−25℃、約−20℃から約−25℃、約20℃から約−20℃、約15℃から約−20℃、約10℃から約−20℃、約5℃から約−20℃、約0℃から約−20℃、約−5℃から約−20℃、約−10℃から約−20℃、約−15℃から約−20℃、約20℃から約−15℃、約15℃から約−15℃、約10℃から約−15℃、約5℃から約−15℃、約0℃から約−15℃、約−5℃から約−15℃、約−10℃から約−15℃、約20℃から約−10℃、約15℃から約−10℃、約10℃から約−10℃、約5℃から約−10℃、約0℃から約−10℃、約−5℃から約−10℃、約20℃から約−5℃、約15℃から約−5℃、約10℃から約−5℃、約5℃から約−5℃、約0℃から約−5℃、約20℃から約0℃、約15℃から約0℃、約10℃から約0℃、約5℃から約0℃、約20℃から約5℃、約15℃から約5℃、約10℃から約5℃、約20℃から約10℃、約15℃から約10℃、または約20℃から約15℃を含む。いくつかの実施の形態において、室温より低い温度は、約−30℃、約−25℃、約−20℃、約−15℃、約−10℃、約−5℃、約0℃、約5℃、約10、約15℃、または約20℃を含む。
【0015】
反応体として金属テトラフルオロホウ酸塩が使用されている数多くの公知の合成経路とは対照的に、本発明の方法では、反応体としてテトラフルオロホウ酸アンモニウムを使用する。従来使用されている金属化合物に由来する不純物は、電解質を汚染し、ファラデー反応により装置の性能を低下させ得るのに対し、テトラフルオロホウ酸アンモニウム反応体からの残留アンモニウムイオンは、コンデンサの性能にとって有害ではない。
【0016】
適切なテトラフルオロホウ酸第四級アンモニウムとしては、テトラフルオロホウ酸テトラメチルアンモニウム(Me4NBF4)、テトラフルオロホウ酸テトラエチルアンモニウム(Et4NBF4)、テトラフルオロホウ酸テトラプロピルアンモニウム(Pr4NBF4)、テトラフルオロホウ酸テトラブチルアンモニウム(Bu4NBF4)、テトラフルオロホウ酸トリエチルメチルアンモニウム(Et3MeNBF4)、テトラフルオロホウ酸トリメチルエチルアンモニウム(Me3EtNBF4)、およびテトラフルオロホウ酸ジメチルジエチルアンモニウム(Me2Et2NBF4)が挙げられる。
【0017】
様々な実施の形態において、例示の有機溶媒としては、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、γ−ブチロラクトン、アセトニトリル、プロピオニトリル、およびメトキシアセトニトリルなどの二極性非プロトン性溶媒が挙げられる。
【0018】
実施の形態において、ハロゲン化第四級アンモニウムは、化学量論的に過剰のテトラフルオロホウ酸アンモニウムと組み合わせることができる。それゆえ、電解質溶液は、化学量論量のテトラフルオロホウ酸アンモニウムを使用することにより、または150%(モル)まで過剰のテトラフルオロホウ酸アンモニウムを使用することにより、調製することができる。テトラフルオロホウ酸アンモニウムに対するハロゲン化第四級アンモニウムのモル比は、1:1から1:1.5(例えば、1:1、1:1.1、1:1.2、1:1.3、1:1.4または1:1.5)に及んで差し支えない。過剰のテトラフルオロホウ酸アンモニウムを使用することによって、結果として得られた溶液は、BF4イオンおよびNH4イオンを過剰に含み得る。テトラフルオロホウ酸アンモニウムからの過剰のアンモニウムイオンは、合成中にハロゲン化物イオンを有益に除去することができる。ハロゲン化物イオンは、結果として得られた電解質における望ましくないファラデー反応に寄与し得る。
【0019】
ある実施の形態による電解質溶液は、溶媒中に溶解したテトラフルオロホウ酸第四級アンモニウム塩を含み、ここで、電解質溶液中の塩化物イオンの濃度は1ppm未満であり、電解質溶液中の臭化物イオンの濃度は1000ppm未満、500ppm未満、200ppm未満、100ppm未満、80ppm未満または50ppm未満であり、電解質溶液中のアンモニウムイオンの濃度は1ppm超である。25℃での電解質溶液の導電率は、少なくとも45mS/cm(例えば、少なくとも45、50、55または60mS/cm)であり得る。電解質溶液中のテトラフルオロホウ酸第四級アンモニウム塩の総濃度は0.1Mから2M(例えば、0.1、0.2、0.5、1、1.5または2M)に及び得る。
【0020】
本発明のある実施の形態による電解質溶液は、ウルトラキャパシタにおいて優れた性能を示す。いくつかの実施の形態において、ある実施の形態の溶液を利用した電解質セルは、65℃および2.5Vで、20%未満しか静電容量の減退を示さない。
【0021】
電解質溶液は、一度調製されたら、ウルトラキャパシタ中に含ませることができる。典型的なウルトラキャパシタにおいて、一対の電極が多孔質セパレータにより隔てられ、電極/セパレータ/電極の積層体に電解質溶液が浸透させられる。電極は、必要に応じて他の添加剤と混合された活性炭を含んでよい。電極は、電極原材料を薄板に圧縮し、これを随意的な導電性接着層および随意的な溶融炭素層を介して積層して、集電子に積層することによって、形成することができる。電気二重層コンデンサなどのウルトラキャパシタに加え、開示された電解質は、蓄電池(batteries)や燃料電池などの他の電気化学電極/装置構造に組み込むこともできる。
【0022】
使用してよい活性炭の特別な例としては、ココナツの殻に基づく活性炭、石油コークス系活性炭、ピッチ系活性炭、ポリ塩化ビニリデン系活性炭、ポリアセン系活性炭、フェノール樹脂系活性炭、ポリアクリロニトリル系活性炭、および石炭、木炭または他の天然有機源などの天然源からの活性炭が挙げられる。適切な多孔質材料または活性炭材料の様々な態様が、ここに全てを引用する、同一出願人の米国特許出願第12/970028号および同第12/970073号の各明細書に開示されている。
【0023】
活性炭は、高表面積により特徴付けることができる。高表面積の電極は、エネルギー密度の高い装置を可能にできる。高表面積の活性炭は、少なくとも100m2/g(例えば、少なくとも100、500、1000または1500m2/g)の表面積を有する活性炭を意味する。
【0024】
ウルトラキャパシタを形成するために使用される電極は、互いに同一にまたは互いに異なるように構成して差し支えない。実施の形態において、少なくとも1つの電極は活性炭を含む。質量の大半が活性炭である電極を、ここでは、活性炭電極と称する。実施の形態において、活性炭電極は、約50質量%超の活性炭(例えば、少なくとも50、60、70、80、90または95質量%の活性炭)を含む。
【0025】
実施の形態において、活性炭は、0.3cm3/g以上の総細孔容積を与える1nm以下のサイズを有する細孔;0.05cm3/g以上の総細孔容積を与える1nm超から2nm以下のサイズを有する細孔;および0.15cm3/g未満の総細孔容積を与える2nm超のサイズを有する細孔を含む。
【0026】
活性炭に加え、結合剤および導電率向上剤などの添加剤を使用して、電極の性質を制御しても差し支えない。電極は、1種類以上の結合剤を含んで差し支えない。結合剤は、ゆるく集まった粒状材料における凝集を促進することによって、電極に機械的安定性を与えるように機能できる。結合剤としては、ポリマー、コポリマー、または活性炭(および他の随意的な成分)を一緒に結合させて多孔質構造を形成できる類似の高分子量物質が挙げられる。特別な例示の結合剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン、または他のフルオロポリマー粒子;ポリプロピレン、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂;スチレンブタジエンゴム(SBR)などのゴム系結合剤;およびそれらの組合せが挙げられる。実施の形態において、PTFEを結合剤として利用できる。さらに別の実施の形態において、繊維状PTFEを結合剤として利用できる。一例として、電極は約20質量%まで(例えば、約5、約10、約15、または約20質量%まで)の結合剤を含有し得る。
【0027】
電極は、1種類以上の導電率向上剤も含有し得る。導電率向上剤は、電極の全体的な導電率を上昇させるように機能する。例示の導電率向上剤としては、カーボンブラック、天然黒鉛、人工黒鉛、黒鉛状炭素、カーボンナノチューブまたはカーボンナノワイヤ、金属繊維または金属ナノワイヤ、グラフェン、およびそれらの組合せが挙げられる。実施の形態において、カーボンブラックを導電率向上剤として使用して差し支えない。実施の形態において、電極は、約10質量%までの導電率向上剤を含んで差し支えない。例えば、電極は、約1質量%から約10質量%(例えば、1、2、4、または10質量%)の導電率向上剤を含んで差し支えない。
【0028】
例示のウルトラキャパシタは、1つの活性炭電極または2つの活性炭電極を含んで差し支えない。例えば、一方の電極は、大半が活性炭であって差し支えなく、他方の電極は大半が黒鉛であって差し支えない。
【0029】
電解質溶液は、電解質溶液自体について行った測定により、並びに電解質溶液を含む試験電池に行った測定により、特徴付けることができる。
【0030】
EDLCの実施の形態であるボタン電池が図1に示されている。ボタン電池10は、2つの集電子12、2つの封止部材14、2つの電極16、セパレータ18、および電解質溶液20を含む。各々の周りに封止部材14が配置された2つの電極16は、電極16が集電子12との接触を維持するように配置される。セパレータ18は2つの電極16の間に配置されている。電解質溶液20は2つの封止部材の間に収容されている。
【0031】
約50〜300マイクロメートルの範囲の厚さを有する活性炭系電極は、80〜90質量%の微孔性活性炭、0〜10質量%のカーボンブラックおよび5〜20質量%の結合剤(例えば、PTFEまたはPVDFなどのフルオロカーボン結合剤)を含む粉末混合物を圧延し、プレスすることによって調製できる。必要に応じて、粉末混合物を、板にプレスし、乾燥させることのできるペーストに形成するために、液体を使用しても差し支えない。活性炭含有板をカレンダー加工し、打ち抜き加工するか、または他の様式でパターンを形成し、導電性接着層に積層させて、電極を形成することができる。
【0032】
このボタン電池は、活性炭電極を使用して製造した。これらの活性炭電極は、最初に、85:5の比率で活性炭をカーボンブラックと混合することによって製造した。PTFEを加えて、85:5:10の比率の活性炭:カーボンブラック:PTFEにした。この粉末混合物をイソプロピルアルコールに加え、混合し、次いで、乾燥させた。乾燥した材料を10ミル(約0.254mm)厚のプリフォームにプレスした。次いで、このプリフォームを導電性接着層(50質量%の黒鉛、50質量%のカーボンブラック)上に積み重ね、これを、溶融炭素被覆集電子上に形成した。
【0033】
ボタン電池について、集電子は白金箔から形成し、セパレータはセルロース紙から形成した。組立ての前に、活性炭電極とセパレータを電解質中に浸漬した。この集合体の周りに、熱硬化性ポリマーリングを形成して、アセトニトリル中のテトラフルオロホウ酸テトラエチルアンモニウム(TEA−TFB)などの有機電解質が充填された電池を封止する。電池の封止前に、電池に電解質の追加の一滴を加えた。
【0034】
サイクリック・ボルタンメトリー(CV)、電気化学インピーダンス分光法(EIS)、および定電流充電/放電を含む電気化学実験を使用して電池を試験した。サイクリック・ボルタンメトリー実験は、0から4.5Vの最大範囲に亘り様々な電位範囲内において20mV/sの掃引速度で行った。EIS試験は、0.01〜10,000Hzの周波数範囲に亘り0Vの一定DC電圧で10mVの振幅のAC摂動を印加しながら、インピーダンスを測定する工程を含んだ。定電流充電/放電実験は、10mAの大きさの電流で行った。
【0035】
この装置のエネルギー密度は、積分エネルギー法(the Integrated Energy Method)を使用して計算した。定電流データ(電位対時間のデータ)を数値積分し、放電電流で乗じて、2つの電位V1とV2との間で装置により供給されるエネルギー(ワット)を得た。
【0036】
【数1】
【0037】
この装置の静電容量(ファラドで表されたC装置)は、以下の関係式によるエネルギーから計算できる:
【0038】
【数2】
【0039】
次いで、装置の静電容量を炭素電極の総体積で割ることによって、比静電容量(F/cm3)を計算した。
【0040】
感知できるほどのファラデー反応を生じずに装置が耐えられる最大電圧である安定電圧を、いくつかの異なる電圧領域に亘り行った一連のサイクリック・ボルタンメトリー(CV)実験から測定した。CVデータから、以下の式を使用して、ファラデー比を測定した:
【0041】
【数3】
【0042】
陽極掃引と陰極掃引の最中の電荷(Q)は、CV曲線を積分し、その結果を、CVを行った掃引速度で割ることによって、計算した。安定電圧は、ファラデー比が約0.1である電位として定義した。
【0043】
感知できるほどのファラデー反応を生じずに装置が耐えられる最大電圧である安定電圧でのエネルギー密度は、以下の関係(式中、C装置は、装置の静電容量(ファラド)であり、V1は安定電圧であり、V2はV1/2であり、体積はリットルで表された装置の体積である)を使用して計算した:
【0044】
【数4】
【0045】
本開示の追加の態様が以下の非限定的実施例に述べられている。そこには、テトラフルオロホウ酸アンモニウムおよび臭化テトラエチルアンモニウムからの、アセトニトリル中のTEA−TFBの合成例が開示されている。
【実施例1】
【0046】
100mlのアセトニトリル中に31.3329gの臭化テトラエチルアンモニウム(TEA−Br)を加え、この懸濁液を1時間に亘り撹拌し、その後、15.642gのテトラフルオロホウ酸アンモニウム(NH4BF4)を加えた。この反応体の量は、化学量論量に相当する。懸濁液を撹拌し、この混合物の温度を、合成中ずっと25℃に維持した。
【0047】
懸濁液を濾過して、沈殿物を除去した。電解質溶液の導電率は、64mS/cmであった。結果として得られた電解質溶液を、1800m2/gの表面積を有する活性炭を使用した上述したようなボタン電池に取り入れた。
【0048】
このボタン電池のエネルギー密度は、15Wh/lであった。しかしながら、図2を参照すると、電解質に著しいファラデー反応が見られる。イオンクロマトグラフィーにより決定された電解質溶液中の臭化物イオン含有量は、7123ppmであった。臭化物イオンにより、ファラデー反応が生じ、他のハロゲン化物イオンと共に、電池のESRを望ましくなく増加させ、サイクル寿命を減少させた。
【実施例2】
【0049】
100mlのアセトニトリル中に31.3329gの臭化テトラエチルアンモニウムを加え、この懸濁液を1時間に亘り撹拌し、その後、25.642gのテトラフルオロホウ酸アンモニウムを加えた。この反応体の量は、化学量論的に過剰なテトラフルオロホウ酸アンモニウムに相当する。懸濁液を撹拌し、実施例1におけるように、温度を25℃に維持した。
【0050】
懸濁液を濾過して、沈殿物を除去した。電解質溶液の導電率は、64mS/cmであった。結果として得られた電解質溶液を、1800m2/gの表面積を有する活性炭を使用した上述したようなボタン電池に取り入れた。
【0051】
このボタン電池のエネルギー密度は、17Wh/lであった。図3を参照すると、CV曲線はファラデー反応を示さなかった。イオンクロマトグラフィーデータにより決定された電解質溶液中の臭化物イオン含有量は、751ppmであった。塩化物イオン含有量は0.05ppm未満であり、アンモニウムイオンの濃度は245ppmであった。
【実施例3】
【0052】
実施例2と同じ全体量の反応体を有する電解質溶液を、反応体の段階的な添加によって調製した。ここに定義されるように、反応体の段階的な添加は、反応体の内の少なくとも一方(好ましくは両方)を、他方の反応体の導入の前と後の両方で混合物に導入することを意味する。それゆえ、反応体AおよびBの段階的な添加は、以下の例示の順序での反応体の導入を含んで差し支えない:ABA、BAB、ABAB、BABA、ABABA、BABABなど。
【0053】
100mlのアセトニトリル中に、反応体の添加の間に1時間おいて、25℃で一定の撹拌条件下で、以下のものを順番に加えた:5gのNH4BF4、10gのTEA−Br、5gのNH4BF4、10gのTEA−Br、5.642gのNH4BF4、11.332gのTEA−Br、および10gのNH4BF4。最後の添加後、この溶液を一晩撹拌し、次いで、Whitmann42、110mmペーパーで濾過し、次いで、0.02マイクロメートルのシリンジフィルタで再度濾過し、0.02マイクロメートルのシリンジフィルタでさらに濾過した。
【実施例4】
【0054】
200mlの高純度アセトニトリルを500mlのエルレンマイヤー・フラスコに加えることによって、電解質溶液を調製した。撹拌しながら、臭化テトラエチルアンモニウム(63g)をゆっくりと加えた。この溶液に、33.4グラムのテトラフルオロホウ酸アンモニウムをゆっくりと加えた。フラスコを密封して、混合プロセス中のアセトニトリルの損失を防ぎ、温度を22〜23℃に維持した。
【0055】
この反応混合物を24時間に亘り完全に混ぜ合わせて、反応を完了した。次いで、臭化アンモニウム副生成物を有する溶液を室温で濾過した。得られた電解質を、Gentech Scientific systemによるElectron−Spray IC/MS装置を使用して測定して、電解質溶液中のBF4イオンに対する相対的な臭化物イオン濃度を決定した。室温での濾過により得られた電解質は、100〜150ppmの臭化物イオン濃度を示した。
【実施例5】
【0056】
濾過を−5℃で行ったことを除いて、実施例4におけるように、電解質溶液を調製した。この溶液を、Brookfield Medel TC202冷却装置を使用して冷却し、濾過の前に45分間に亘り−5℃に維持した。得られた冷却溶液を、Ertel Alsop加圧濾過システムを使用して濾過した。得られた電解質は、Gentech Scientific systemによるElectron−Spray IC/MS装置を使用して測定して、電解質溶液中のBF4イオンに対する相対的な臭化物イオン濃度を決定した。低温での濾過により得られた電解質は、50〜80ppmの臭化物イオン濃度を有した。
【0057】
ここに用いたように、単数形は、その内容がそうではないと明らかに示さない限り、複数の対象を含む。それゆえ、例えば、「金属」への言及は、その内容がそうではないと明らかに示さない限り、そのような「金属」を2種類以上有する例を含む。
【0058】
範囲は、「約」ある特定の値から、および/または「約」別の特定の値まで、としてここに表すことができる。そのような範囲が表された場合、実施例は、そのある特定値から、および/または他の特定の値までを含む。同様に、値が、「約」という先行詞を使用して、近似として表されている場合、特定の値は別の態様を形成することが理解されよう。範囲の各々の端点は、他方の端点に関してと、他方の端点とは独立しての両方で有意であることがさらに理解されよう。
【0059】
開示された方法および組成物に使用できる、それと共に使用できる、その調製に使用できる、またはその実施の形態である材料、化合物、組成物、および成分が開示されている。これらと他の材料がここに開示されており、これらの材料の組合せ、サブセット、相互作用、群などが開示されている場合、これらの化合物の各様々な個々と集合的な組合せと順列の特定な参照が明白に開示されていなくとも、各々は具体的に考えられここに記載されていることが理解されよう。それゆえ、置換基A、BおよびCの部類、並びに置換基D、E、およびFの部類、および組合せの態様の例、A−Dが開示されていたら、各々は、個々と集合的に考えられる。それゆえ、この例において、組合せA−E、A−F、B−D、B−E、B−F、C−D、C−EおよびC−Fの各々が、具体的に考えられ、A、BおよびC;D、EおよびF;および組合せ例A−Dの開示から、開示されていると考えるべきである。同様に、これらの任意のサブセットまたは組合せも具体的に考えられ、開示されている。それゆえ、例えば、A−E、B−F、およびC−Eのサブグループが具体的に考えられ、A、BおよびC;D、EおよびF;および組合せ例A−Dの開示から、開示されていると考えるべきである。この概念は、以下に限られないが、組成物の任意の成分並びに開示された組成物を製造する方法および使用する方法における工程を含む、この開示の全ての態様に適応される。それゆえ、実施できる様々な追加の工程がある場合、これらの追加の工程の各々は、開示された方法の任意の特定の態様または態様の組合せで実施することができ、そのよう組合せの各々は具体的に考えられ、開示されていると考えるべきであることが理解されよう。
【0060】
そうではないと明白に述べられていない限り、ここに述べられたどの方法も、その工程が特定の順序で行われることを要求するものと解釈することは決して意図されていない。したがって、方法の請求項が、工程がしたがうべき順次を実際に列挙していない場合、または工程は特定の順序に制限されるべきであると、請求項または説明に他に具体的に述べられていない場合、どの特定の順序も推測されることは決して意図されていない。
【0061】
ここでの列挙は、特定の様式で機能するように「構成されている」または「適合されている」本発明の構成要素を称することも留意すべきである。この点に関して、そのような構成要素は、特定の性質を体現するように、または特定の様式で機能するように、「構成されている」または「適合されている」。ここで、そのような列挙は、意図する使用の列挙とは反対に、構造的な列挙である。より詳しくは、構成要素が「構成されている」または「適合されている」様式へのここでの言及は、その構成要素の既存の物理的条件を意味し、それゆえ、その構成要素の構造的特徴の明確な列挙として解釈すべきである。
【0062】
本発明の精神および範囲から逸脱せずに、本発明の様々な改変および変更を行えることが当業者には明白であろう。本発明の精神および本質を含む開示された実施の形態の改変、組合せ、下位の組合せおよび変更は、当業者に思い浮かぶであろうから、本発明は、付随の特許請求の範囲およびその同等物の範囲に全てを含むと解釈されるべきである。
【符号の説明】
【0063】
10 ボタン電池
12 集電子
14 封止部材
16 電極
18 セパレータ
20 電解質溶液
図1
図2
図3