(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6073446
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】スポットカラーデータベースを計算するための方法
(51)【国際特許分類】
B41M 1/14 20060101AFI20170123BHJP
B41C 1/00 20060101ALI20170123BHJP
H04N 1/46 20060101ALI20170123BHJP
G06T 1/00 20060101ALI20170123BHJP
H04N 1/60 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
B41M1/14
B41C1/00
H04N1/46 Z
G06T1/00 510
H04N1/40 D
【請求項の数】12
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-206218(P2015-206218)
(22)【出願日】2015年10月20日
(65)【公開番号】特開2016-82598(P2016-82598A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2015年10月20日
(31)【優先権主張番号】10 2014 221 207.3
(32)【優先日】2014年10月20日
(33)【優先権主張国】DE
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390009232
【氏名又は名称】ハイデルベルガー ドルツクマシーネン アクチエンゲゼルシヤフト
【氏名又は名称原語表記】Heidelberger Druckmaschinen AG
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ギュンター ベストマン
【審査官】
藏田 敦之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−151506(JP,A)
【文献】
特開2006−121186(JP,A)
【文献】
特開2010−213120(JP,A)
【文献】
特開2013−223107(JP,A)
【文献】
特表2012−525766(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41C 1/00 − 1/18
B41M 1/00 − 1/42
B41J 2/525
H04N 1/40
H04N 1/60
G06T 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータを用いてスポットカラーのためのスペクトル形式のデータセット(5)を計算するための方法において、
・印刷プロセスのスペクトル形式の特性化データを作成又は選択するステップと、
・カラーテーブル(1)から、測色的に規定されているスポットカラーを選択するステップと、
・白色の被印刷物上における前記スペクトル形式の特性化データと、黒色の被印刷物上における前記スペクトル形式の特性化データとから、前記スポットカラーのスペクトル(5)を計算するステップと、
・白色の被印刷物上における前記スポットカラーのスペクトルと、黒色の被印刷物上における前記スポットカラーのスペクトルとから、スクリーニングされた前記スポットカラーのスペクトル(5)を計算するステップと、
・前記スポットカラーのスペクトルを、規定された白色の被印刷物に適合させ、適合されたスペクトル形式のデータセット(5’)を作成するステップと、
・前記スポットカラーのスペクトルを、前記カラーテーブルからの予め定められた値に適合させ、適合されたスペクトル形式のデータセット(5’’)を作成するステップと、
・前記スポットカラーのスペクトルを、規定された黒色の被印刷物に適合させ、適合されたスペクトル形式のデータセット(5’’’)を作成するステップと、
・スペクトル形式のトーンバリューインクリースを、規定された標準に適合させ、適合されたスペクトル形式のデータセット(5’’’’)を作成するステップと、
・計算されたスペクトル形式のデータセット(5’’’’)を、印刷機(2)の色制御のために使用するステップと、
を有することを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記スポットカラーの、前記計算されたスペクトル形式のデータセット(5’’’’)を、前記印刷機(2)の制御コンピュータに接続されたデータベース(4)内に格納及び保存する、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
目標とするスポットカラーのカラーテーブル(1)を使用し、
前記方法によって、全ての目標とするスポットカラーに対して1つのスペクトル形式のデータセット(5’’’’)を作成し、該スペクトル形式のデータセット(5’’’’)を、前記データベース(4)内に保存する、
請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記スポットカラーの、前記データベース(4)内に保存された前記スペクトル形式のデータセット(5’’’’)を、印刷プロセス中に前記スペクトルを中間保存することなく、前記スポットカラーと1つ以上の別の印刷インキとの掛け合わせの挙動を計算するために使用する、
請求項2又は3記載の方法。
【請求項5】
前記データベース(4)内の目標とするスポットカラーのために、複数の異なる用紙色値に対してそれぞれ複数のデータセット(5’’’’)を格納する、及び/又は、複数の異なる印刷プロセスに対してそれぞれ複数のデータセット(5’’’’)を格納する、
請求項2から4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
複数の異なる印刷プロセスにおいて、該印刷プロセスを記述しているそれぞれの前記スペクトル形式の特性化データを使用する、
請求項5記載の方法。
【請求項7】
用紙色値が変化した場合に、前記スペクトル形式のデータセット(5)を、スペクトル的手法及び測色的手法によって適合させる、
請求項5又は6記載の方法。
【請求項8】
前記印刷プロセスを記述している前記スペクトル形式の特性化データを、ISO12642−2に準拠したテストエレメントから線形補間によって計算する、
請求項1から7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
前記印刷プロセスを記述している前記スペクトル形式の特性化データを、少数のカラーパッチを有する最適化されたテストエレメントから、修正されセグメント化されたスペクトル形式のノイゲバウアの方程式を用いて計算する、
請求項1から8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
スクリーニングされた前記スポットカラーのスペクトル(5)の計算を、高明度の被印刷物上と、低明度の被印刷物上とにおいて、スペクトル形式のユール・ニールセンの方程式を用いて実施する、
請求項1から9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
前記スポットカラー(5)のスペクトルを、規定された白色の被印刷物と、前記カラーテーブルからの予め定められた値と、規定された黒色の被印刷物とに適合させることを、前記スポットカラーのスペクトルのそれぞれの実際の色値と目標の色値との間の差を最小化するための反復型プロセスによって実施する、
請求項1から10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
前記スポットカラーの前記スペクトル形式のトーンバリューインクリースを、規定された標準に適合させるために、前記スペクトル形式のデータセット(5’’’)から、補正されたトーンバリューを計算し、
この際には2つのステップで、最初に前記スペクトル形式のデータセット(5’’’)を、前記スペクトル形式の特性化データのトーンバリューに換算し、次に該トーンバリューを、セグメント化されたスペクトル形式のノイゲバウアの方程式を用いて換算する、
請求項1から11のいずれか一項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念に記載の、スポットカラーデータベースを計算するための方法に関する。
【0002】
本発明は、電子的な再現技術の技術分野に関する。
【0003】
スポットカラーは、印刷版下の作成時に使用される。課題は、一義的かつ検証可能な色再現性を実現することである。スポットカラーは、カラーチャートから決定されるか、又は、カラーサンプルの測定値から決定される。スポットカラーは、色値によって特性化される。この場合には一般的にCIELABカラーシステムが使用され、色は3つの座標L
*、a
*、b
*によって特徴付けられる。公知のスポットカラーカラーシステムは、RALシステム、HKSシステム、又は、PANTONEシステムである。
【0004】
プロセスカラーとスポットカラーとの重ね刷り(Uebereinanderdruck)を計算するため、及び、2つ以上のスポットカラーの重ね刷りを計算するため、及び、印刷時の設定、調整、制御のためには、スペクトル形式で特性化されたスポットカラー(spektral charakterisierte Sonderfarben)そのものが必要である。しかしながら、スポットカラーのスペクトルを校正刷り(Andruck)によって実験的に求めるのは手間が掛かる。
【0005】
スペクトル形式で特性化されたスポットカラーを記述するために、種々の数学的モデルが使用される。このようなモデルの1つは、スペクトル形式のクベルカ・ムンク・モデルである。このモデルは、2つのスペクトル形式のパラメータ、すなわち散乱S(λ)と吸収K(λ)とによって色(スポットカラー又はプロセスカラー)の再現を記述している。パラメータが既知の場合には、被印刷物上に複数の異なる膜厚を有する印刷に対する予測を行うことができる。この場合、被印刷物は有色でもよいが、スペクトルによって記述されなければならない。
【0006】
2つ以上のインキの掛け合わせ(Zusammendruck)は、以下の個別ステップに分けられる:
1.被印刷物上に、第1インキが印刷される、
2.第1インキ及び/又は被印刷物上に、第2インキが印刷される、
3.第1インキ及び/又は第2インキ及び/又は被印刷物上に、第3インキが印刷される。
【0007】
これらのステップは、さらなる別のインキに反復的に拡張することができる。
【0008】
散乱S(λ)及び吸収K(λ)のパラメータは、高明度(hell)の被印刷物(紙白)上と、低明度(dunkel)の被印刷物(紙黒)上とにおけるインキの校正刷りによって求められる。低明度の被印刷物は、高明度の被印刷物上に黒色インキを印刷することによってシミュレーションすることができる。クベルカ・ムンク・モデルの種々の形態が公知である。ここでは、被印刷物上におけるインキの反射のスペクトルを計算するために、以下の方程式が使用される:
【数1】
但し、
R(λ)=被印刷物上におけるインキの反射係数
Rg(λ)=被印刷物の反射係数
S(λ)=インキの散乱係数
K(λ)=インキの吸収係数
X=インキの相対的な膜厚
である。
【0009】
高明度の被印刷物上と、低明度の被印刷物上とにおけるインキの校正刷りから、反復計算(2つの未知数を有する2つの方程式)によって散乱係数S(λ)及び吸収係数K(λ)が求められる。
【0010】
インキのスペクトルは一般的には使用できず、校正刷りによって求めなければならない。クベルカ・ムンク・モデルに即してインキの重ね刷りを計算するためには、高明度の被印刷物のスペクトル及び低明度の被印刷物のスペクトルと、高明度の被印刷物上及び低明度の被印刷物上におけるインキのスペクトルとが必要である。しかしながら、高明度の被印刷物上及び低明度の被印刷物上におけるインキの校正刷りは、手間が掛かり、高コストである。
【0011】
クベルカ・ムンク・モデルは、色のグラデーションを作成するためや、スクリーニングされた(gerastert)インキの重ね刷りを計算するためにはあまり適していない。膜厚Xと、インキのトーンバリューとは、互いに全く相関していないか、又は非常に僅かしか相関していない。例えばインキの、スクリーニングされたトーンバリュー=80%は、膜厚XR=0.8Xには相当しない。相関は、スクリーニングされたインキの校正刷りによって実験的に求める必要がある。これも手間が掛かり、高コストである。
【0012】
従って、高明度の被印刷物上及び低明度の被印刷物上におけるスクリーニングされたインキを決定するための別の公知のアプローチは、ユール・ニールセン・モデルを提案するものである。
【0013】
以下に挙げる基礎となる仮定:
・インキの反射率は、網点面積率(Flaechendeckung)に比例して変化する
・反射率は、網点セル(Rasterzelle)内で加法的に挙動する
・網点セルは、肉眼では解像できない
に基づき、個々のインキに対してマーレイ・デービス・モデルが適用される:
【数2】
【0014】
網点トーン(Rasterton)のスペクトルは、原色のスペクトルの割合と、紙白のスペクトルの割合とから組み合わせられている。係数aは、網点の面積の割合を表している。印刷中には一般的に、機械的トーンバリューインクリース又は光学的トーンバリューインクリースの形態で網点面積率が変化するので、上記の式は多かれ少なかれエラーを引き起こす。従って、ユールとニールセンは、上記の方程式に追加的な係数nを挿入して、トーンバリューインクリースをモデリングしようとしている:
【数3】
【0015】
係数nは、実験的に求めなければならない。これは通常、計算されたスペクトルと、印刷及び測定されたテストデータセット(ステップウェッジ)とを比較することによって実施される。計算されたスペクトルから色値が決定され、測定された色値と比較される(ΔE評価)。色差が最小となるまでこの係数が変化される。このことが不可能である場合には、値n=2が良好な近似値である。残っているエラーは、トーンバリューインクリースの補正によって解消される。
【0016】
トーンバリューインクリースは、印刷プロセスの設定及び制御のためのさらなる重要なパラメータである。典型的なプロセスカラーCMYKの場合には、測定及び計算のため、並びに、個々のトーンバリューのトーンバリューインクリースの大きさのための、一義的な規定値が存在する。用紙のスペクトルと、スクリーニングされたプロセスカラー値のスペクトルと、プロセスカラーのベタ部(Vollton)のスペクトルとから、相応の濃度値が計算される。これに加えて、測色密度(farbmetrische Dichte)及びスペクトル密度を計算することも可能である。測色密度は、XYZ色値から計算され、スペクトル密度は、最大吸収を示すスペクトル値から計算される。後者は、特にスポットカラーの場合には有利である。
【0017】
密度値から、印刷におけるトーンバリューA
Dを求めることができる:
【数4】
但し、D
0は、用紙の密度値であり、D
nは、ベタ部の密度値であり、Dは、スクリーニングされたトーンバリューの密度であり、このスクリーニングされたトーンバリューに対して、印刷におけるトーンバリューを求めるべきである。トーンバリューインクリースは、版下のトーンバリューA
Vを減算した後に得られる。
トーンバリューインクリース=A
D−A
V
【0018】
印刷プロセスのための目標トーンバリューインクリースは、対応するプロセス標準にて規定されている。特にISO12647−2は、種々異なる中間調の値と、種々異なるグラデーションとによって一連のトーンバリューインクリースを規定している。測定された実際トーンバリューインクリースと、目標トーンバリューインクリースとの比較から、トーンバリューのための補正値を求めることができる。スクリーニングされたスポットカラーの一義的な予測及び再現のために、スポットカラーの、規定されたトーンバリューインクリースが必要である。
【0019】
クベルカ・ムンク・モデルと、ユール・ニールセン・モデルと、印刷におけるトーンバリューインクリースとに対する上記の考察から、ベタのトーンバリューの色スペクトルと、スクリーニングされたトーンバリューの色スペクトルとを保存するためのデータフォーマットが作成される:色のスペクトルは、例えば、高明度の被印刷物上と、低明度の被印刷物上とにおいて階調0%、10%、20%、・・・100%で決定及び保存される。より多く又はより少ないパッチ、又は、別のトーンバリューによる別の階調も可能である。個々のステップの間の中間値は、線形補間によって求められる。
【0020】
それぞれ4つの対応するカラーパッチ(Farbfeld)(例えば、高明度の被印刷物上の0%及び40%と、低明度の被印刷物上の0%及び40%)から、クベルカ・ムンクの方程式のスペクトル係数を計算することができる。
【0021】
高明度の被印刷物のカラーパッチから、スペクトル形式のトーンバリューインクリースを計算することができる。計算が実施された各波長は、データフォーマットに保存することができる。同様にして、最良のプロセスカラー表現CMYKを、データフォーマットに保存することができる。
【0022】
プロセスカラーCMYKとスポットカラーとの重ね刷りの計算は、従来技術から知られた適用である。実際に印刷する際には、印刷順序に関して複数の実施形態が存在する:
1.最初にプロセスカラーを印刷し、その後、スポットカラーを印刷する(CMYKを最初に)
2.最初にスポットカラーを印刷し、その後、プロセスカラーを印刷する(SPOTを最初に)
3.プロセスカラー及びスポットカラーを、明度の昇順で(mit aufsteigender Helligkeit)印刷する。
【0023】
“CMYKを最初に”の実施形態の場合には、まず、スペクトル形式の特性化データセットから線形補間によって、重ね刷りされたプロセスカラーのスペクトルが求められる。このスペクトルは、その後、クベルカ・ムンクの方程式のための被印刷物Rg(λ)となる。スポットカラーの効果は、その後、今や有色となった被印刷物に対して計算される。
【0024】
“SPOTを最初に”の実施形態の場合には、まず、スポットカラーデータセットから線形スペクトル補間によって、スペクトルが求められる。そして、クベルカ・ムンクの方程式を用いて、被印刷物上のプロセスカラーが順次計算される。これに加えて、特性化データセットから、プロセスカラーCMYKに対してスペクトル形式のスポットカラーデータセットが抽出される。
【0025】
第3の実施形態の場合には、まず、スポットカラーより先に印刷されるプロセスカラーのために、線形スペクトル補間によってスペクトルが求められる。そして、クベルカ・ムンクの方程式を用いて、今や有色となった被印刷物の上にスポットカラーが印刷され、次いで、残りのプロセスカラーが印刷される。これに加えて、特性化データセットから、プロセスカラーCMYKに対してスペクトル形式のスポットカラーデータセットが抽出される。
【0026】
全ての実施形態とも共通して、インキのトラッピング挙動は無視される。まず、膜厚係数X=1.0で計算される。実際の膜厚がスポットカラーの特性に相当する場合には、このことが許容される。ウェットオンウェットをシミュレーションするためには、可変の膜厚Xを採用して拡張する。Xの典型的な値は、トーンバリューに依存して0.82(高トーンバリュー)から0.96(低トーンバリュー)の間にある。
【0027】
つまり、適切なスポットカラーを計算及び選択するための既存の従来技術からは、主に時間及びコストに関して多くの問題が生じる。特に重ね刷りを計算するために、スポットカラーのスペクトル形式の特性化とプロセスカラーのスペクトル形式の特性化とを、スポットカラー及びプロセスカラーが黒色の被印刷物上及び白色の被印刷物上において統一的なトーンバリューステップで保存されている1つのデータフォーマットでまとめる必要がある。しかしながら、高明度の被印刷物上と低明度の被印刷物上とにおける全てのスポットカラーの校正刷り、及び、スペクトルの測定、及び、スポットカラーのスペクトル形式の特性化への測定値の処理は、極めて手間が掛かり、高コストである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
従って、本発明の課題は、印刷プロセスのためのスポットカラーのスペクトル形式の特性化を計算するための、従来公知の方法よりも効率的かつ低コストの方法を提示することである。本方法を、スペクトル形式で特性化された印刷プロセスに基づくように、さらに、種々異なる被印刷物を使用するためにフレキシブルに適合されるようにすべきである。
【課題を解決するための手段】
【0029】
上記課題は、本発明によれば、独立請求項1の特徴を有する方法によって解決される。コンピュータを用いてスポットカラーのためのスペクトル形式のデータセットを計算するための方法は、以下のステップからなる:
1.印刷プロセスのスペクトル形式の特性化データを作成又は選択するステップ、
2.カラーテーブルから、測色的に規定されているスポットカラーを選択するステップ、
3.白色の被印刷物上における前記スペクトル形式の特性化データと、黒色の被印刷物上における前記スペクトル形式の特性化データとから、前記スポットカラーのスペクトルを計算するステップ、
4.白色の被印刷物上における前記スポットカラーのスペクトルと、黒色の被印刷物上における前記スポットカラーのスペクトルとから、スクリーニングされた前記スポットカラーのスペクトルを計算するステップ、
5.前記スポットカラーのスペクトルを、規定された白色の被印刷物に適合させるステップ、
6.前記スポットカラーのスペクトルを、前記カラーテーブルからの予め決められた値に適合させるステップ、
7.前記スポットカラーのスペクトルを、規定された黒色の被印刷物に適合させるステップ、
8.スペクトル形式のトーンバリューインクリースを、規定された標準に適合させるステップ、
9.計算されたスペクトル形式のデータセットを、印刷機の色制御のために使用するステップ。
【0030】
スポットカラーのスペクトルを、印刷プロセスのスペクトル形式の特性化データから高精度で計算可能にする方法が記載される。このことは、従来技術に比べて格別の利点である。なぜなら、スポットカラーのスペクトルを、校正刷されたスポットカラーの測定によって実験的に求める必要性がもはやなくなるからである。スペクトルは、重ね刷りと、印刷の設定、調整、制御とを簡単かつ精確に計算可能にするフォーマットで、スペクトル形式のデータセット内に保存される。
【0031】
本方法の有利な、つまり好ましい発展形態は、添付した従属請求項と、添付した図面を含む本明細書とから明らかになる。
【0032】
この場合における好ましい1つの発展形態は、前記スポットカラーの、前記計算されたスペクトル形式のデータセットを、前記印刷機の制御コンピュータに接続されたデータベース内に格納及び保存することである。
【0033】
スペクトル形式のスポットカラーデータセットが計算されている場合には、このデータセットを、スポットカラーデータベース内に保存するのが適当である。このスポットカラーを再び使用する場合にはデータベースから対応するデータセットを呼び出すことができるので、改めて計算する必要性はもはやなくなる。
【0034】
この場合におけるさらに好ましい1つの実施形態は、目標とするスポットカラーのカラーテーブルを使用し、上述した方法によって、全ての目標とするスポットカラーに対して1つのスペクトル形式のデータセットを作成し、該スペクトル形式のデータセットを、前記データベースに記憶することである。
【0035】
このようなスポットカラーデータベースを構築するための最も効率的な方法は、所期の全てのスポットカラーを含む1つのカラーテーブルを作成し、その後、本開示の方法によって、該カラーテーブルの全てのスポットカラーに対して1つのスペクトル形式のデータセットを前記データベース内に作成することである。
【0036】
この場合における好ましい1つの発展形態は、前記スポットカラーの、前記データベース内に保存された前記スペクトル形式のデータセットを、印刷プロセス中に前記スペクトルを中間保存することなく、前記スポットカラーと1つ以上の別の印刷インキとの掛け合わせの挙動を計算するために使用することである。
【0037】
この場合、スポットカラーのスペクトルは、該スポットカラーと別のインキとの重ね刷りを計算するために、印刷プロセス中にスペクトルをデータベースに中間保存することなく直接使用される。スポットカラーの、データベース内に保存されたスペクトル形式のデータセットは、当該プロセスの出力データとして利用される。しかしながら、本開示の方法に引き続いて重ね刷りを実施することも可能である。この場合には、このようにして作成されたスペクトル形式のデータセットが直接使用され、データベース内にエントリは作成されない。
【0038】
別の好ましい1つの発展形態は、前記データベース内の目標とするスポットカラーのために、複数の異なる用紙色値に対してそれぞれ複数のデータセットが格納されており、及び/又は、複数の異なる印刷プロセスに対してそれぞれ複数のデータセットが格納されていることである。
【0039】
計算すべき1つのスポットカラーにつき2つ以上のスペクトル形式のデータセットを作成して、データベース内に格納することも可能である。このことは、複数の異なる用紙色値又は複数の異なる印刷プロセスに対して複数のデータセットが必要となる場合に実施される。この場合には、1つのスポットカラーにつき複数のデータベースエントリを、相応に構造化して整理しなければならない。
【0040】
この場合における好ましい1つの発展形態は、複数の異なる印刷プロセスにおいて、該印刷プロセスを記述しているそれぞれの前記スペクトル形式の特性化データを使用することである。
【0041】
複数の異なる印刷プロセスに対して複数のデータセットが必要とされる場合には、これらの印刷プロセスを記述している、対応するスペクトル形式の特性化データを使用又は計算すべきである。
【0042】
この場合における別の好ましい1つの発展形態は、用紙色値が変化した場合に、前記スペクトル形式のデータセットを、スペクトル的手法及び測色的手法によって適合させることである。
【0043】
ここでも、複数の異なる用紙色値に対して複数のデータセットが必要とされる場合には、それぞれの計算されたスペクトル形式のデータセットを、新しい用紙色値に適合させるべきである。
【0044】
この場合における好ましい1つの発展形態は、前記印刷プロセスを記述している前記スペクトル形式の特性化データを、ISO12642−2に準拠したテストエレメントから線形補間によって計算することである。
【0045】
印刷プロセスを記述しているスペクトル形式の特性化データを最初に計算しなければならない場合に、該スペクトル形式の特性化データを、ISO12642−2に準拠したテストエレメントから計算することができる。
【0046】
この場合における別の好ましい1つの発展形態は、前記印刷プロセスを記述している前記スペクトル形式の特性化データを、少数のカラーパッチを有する最適化されたテストエレメントから、修正されセグメント化されたスペクトル形式のノイゲバウアの方程式を用いて計算することである。
【0047】
さらなる別の手段は、前記印刷プロセスを記述している前記スペクトル形式の特性化データを、少数のカラーパッチを有する最適化されたテストエレメントから計算することである。
【0048】
この場合における好ましい1つの発展形態は、スクリーニングされた前記スポットカラーのスペクトルの計算を、高明度の被印刷物上と、低明度の被印刷物上とにおいて、スペクトル形式のユール・ニールセンの方程式を用いて実施することである。
【0049】
スクリーニングされたスポットカラーのスペクトルを、高明度の被印刷物上と、低明度の被印刷物上とにおいて計算するためには、スペクトル形式のユール・ニールセンの方程式の使用が適当である。
【0050】
この場合における別の好ましい1つの発展形態は、前記スポットカラーのスペクトルを、規定された白色の被印刷物と、前記カラーテーブルからの予め定められた値と、規定された黒色の被印刷物とに適合させることを、前記スポットカラーのスペクトルのそれぞれの実際の色値と目標の色値との間の差を最小化するための反復型プロセスによって実施することである。
【0051】
スポットカラーのスペクトルを、規定された白色の被印刷物と、カラーテーブルから予め定められた値と、規定された黒色の被印刷物とに適合させるためには、スポットカラーのスペクトルのそれぞれの実際の色値と目標の色値との間の差を最小化するための反復型プロセスが適当である。
【0052】
この場合における好ましい1つの発展形態は、前記スポットカラーの前記スペクトル形式のトーンバリューインクリースを、規定された標準に適合させるために、前記スペクトルから、補正されたトーンバリューを計算することであり、この場合には2つのステップで、最初に前記スペクトルを、前記特性化データセットのトーンバリューに換算し、次に該トーンバリューを、セグメント化されたスペクトル形式のノイゲバウアの方程式を用いて元々のトーンバリューに換算する。
【0053】
補正されたトーンバリューを計算できるようにするためには、まず、スペクトルからトーンバリューを計算する必要があり、そうして、該トーンバリューを、セグメント化されたスペクトル形式のノイゲバウアの方程式を用いて、規定された標準に適合させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【
図1】カラーチャートの形態のスポットカラーデータベースの一例を示す図である。
【
図2】必要なインフラストラクチャの構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
図1には、カラーチャート1の形態のスポットカラーデータベース4が一例として図示されている。これは、各スポットカラー値をそれぞれ印刷された色値(Farbwert)として含んでいるカラーデータベースである。このカラーデータベースは、計算すべきスポットカラーがまとめられたスポットカラーテーブル1のための基礎として使用することができ、これらの計算すべきスポットカラーに対してスペクトル形式のデータセット5を作成したい。
【0056】
しかしながらスペクトル形式のデータセット5は、印刷機の色制御において使用するためにはデジタル形式でなければならない。このために所定のインフラストラクチャが必要とされる。従って、このデータセット5並びに本発明の方法を使用するための相応のシステムの全体が、
図2に概略的に図示されている。このシステムは一般的に、印刷機2そのものと、該印刷機2にネットワーク6を介して接続された、該印刷機2を制御するための、コンピュータ支援されたワークフローシステム3とから構成されている。これに加えて、スペクトル形式のデータセット5を保存するため又は呼び出すために、デジタルのデータベース4を設ける必要がある。但し、必要なハードウェアの詳細な構造は、ユーザの要求に応じて異なっていてもよい。
【0057】
好ましい1つの実施形態に基づく本方法のフローが、
図3に図示されている。本発明は、印刷プロセスのためのスポットカラー及びプロセスカラーのスペクトル形式の特性化を、当該印刷プロセスのスペクトル形式の特性化から計算可能にする方法を提示する。デジタルカラーマネジメント、及び、印刷におけるドキュメントのデジタルデータ変換は、デジタルのトーンバリュー(Tonwert)と印刷された色値(Farbwert)との間に一義的な関係を必要とする。デジタルのトーンバリューは、基本的にプロセスカラーCMYKとして存在する。印刷される色値は、印刷プロセス(オフセット枚葉印刷、オフセット輪転印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷)と、プロセス標準(色相、トーンバリューインクリース)と、使用される材料(被印刷物、印刷インキ)とに依存する。デジタルのトーンバリューと、対応する色値とは、特性化データなる用語で呼ばれる。特性化データセットは、テストチャート及び印刷ターゲットを用いて求められる。規定されたプロセスカラーCMYKのカラーパッチからなるISO12642−2に準拠したテストチャートが知られている。
【0058】
印刷プロセスの特性化を実施することは一般的に時間がかかり、高コストのタスクである。印刷プロセスの特性化は、印刷プロセスに関係する装置(印刷機2及びプレートセッター)を考慮して実施される。一般的に、未知の特性化データが存在する場合にのみ特性化が実施される。今日では、特性化データは、一般的にCIEXZY形式及びCIELAB形式の測色データとして存在している。スペクトルは基本的に存在しない。この適用のためには、スペクトル形式の特性化データが必要である。従来技術から、スペクトル形式の特性化データを、極めて少数のカラーパッチで凌ぐ最適化されたテストエレメントから計算する方法が公知である。このテストエレメントから、修正されセグメント化された、スペクトル形式のノイゲバウアの方程式を用いて、標準化された特性化データセットを計算することができる。このデータセットは、個々の色値に対してスペクトルが提示され、これらのスペクトルを、任意のトーンバリューの組み合わせから計算できるという点で優れている。また、入手した印刷プロセスのスペクトル形式の特性化データを、予め定められた基準値に適合させることも、従来技術から公知である。
【0059】
印刷プロセスの特性化データが選択又は作成されると、次いで、目標とするスポットカラーが選択され、これらの目標とするスポットカラーに対してスペクトル形式のデータセット5を計算したい。上述したように、特性化データは、相応の測色データを有するスポットカラーテーブル1から取得される。テーブル1は、色名称及び色値を含む。いくつかのケースでは、規定された印刷プロセスに関連したCMYK表示も存在する。スペクトルは存在せず、存在したとしても色値のスペクトルとしてのみである。
【0060】
スポットカラーテーブル1から選択された色値に対して、印刷プロセスのスペクトル形式の特性化データセットから補間法又は計算法によって、該当するスペクトルを計算することができる。このことに関しては、以下のように進められる:
【0061】
1.特性化データは、印刷プロセスのフォワードモデルを記述しており、すなわちトーンバリューCMYKから色値及びスペクトルへのマッピングを記述している。規則的な階段状のトーンバリューCMYの部分集合において、反復法により、スポットカラーの所与の色値に対して、検出された色との色差が最小となるトーンバリューの組み合わせCMYが検出される。これに必要な反復法は、独国特許出願公開第102011012806号明細書に記載されている。
【0062】
2.K=0%において検出されたトーンバリューの組み合わせCMYに対して、特性化データから、高明度(hell)の被印刷物上におけるベタ部(Vollton)のスペクトルが求められる。
【0063】
3.K=100%において検出されたトーンバリューの組み合わせCMYに対して、特性化データから、低明度(dunkel)の被印刷物上におけるベタ部のスペクトルが求められる。
【0064】
4.高明度の被印刷物のスペクトルが、特性化データの紙白C=M=Y=K=0%から取り出される。
【0065】
5.低明度の被印刷物のスペクトルが、特性化データのブラック値C=M=Y=0%かつK=100%から取り出される。スペクトルの計算は、ISO12642−2の印刷ターゲット場合には、線形補間法によって実施され、最小化された印刷ターゲットの場合には、スペクトル形式のセグメント化されたノイゲバウアの方程式を用いて実施される。
【0066】
高明度及び低明度の被印刷物上におけるスポットカラーのグラデーションの、スクリーニングされたトーンバリュー(例えば10%〜90%の、トーンバリューの10%刻みでの階調)が選択される場合には、スペクトル形式のユール・ニールセンの方程式が使用される。
【0067】
印刷プロセスのスペクトル形式の特性化データは、規定された印刷条件内における規定された被印刷物に関連している。この被印刷物は、例えばISO12647−2:2013で規定された被印刷物とすることができるが、これとは異なる被印刷物でもよい。印刷条件内において、別の紙白を有する、スペクトル形式の特性化データとは異なる被印刷物を使用すべき場合には、スポットカラーの特性化データの換算が必要である。上記の計算を開始する前に、印刷プロセスの特性化データを一時的に換算するか、又は、スポットカラーの特性化データを換算することができる。
【0068】
特に、スポットカラーの色値が印刷プロセスの色空間の外側に位置する場合には、スポットカラーのスペクトルが正しく求められていない可能性があるので、正確な色値にスペクトルを適合させる次の方法ステップが設けられている。
【0069】
スペクトル形式の特性化データとは異なる黒色を他の色値と共に使用したい場合には、さらなる適合が必要である。というのは、印刷プロセスのスペクトル形式の特性化データは、黒色の印刷インキの規定された色値に関連している。この値は、被印刷物に安定的に転移させることが可能なインクの最大量に関する、印刷プロセスの技術的限界に基づいている。従って、スペクトル形式の特性化データとは異なる黒色のためには、スポットカラーの特性化データの換算が必要である。
【0070】
これに加えて、正しいプロセス制御のためには、スポットカラーの統一的なトーンバリューインクリース(Tonwertzunahme)、又は、スポットカラーの少なくとも正確に把握されたトーンバリューインクリースが必要である。トーンバリューインクリースは、高明度の被印刷物上におけるスポットカラーの特性化データから計算することができる。統一的なトーンバリューインクリースが望まれている場合には、スポットカラーの特性化データを用いてこれを実施することができる。この場合には、トーンバリューは変化されるがスペクトルは変化されないので、全ての特性化データにおいて統一的なトーンバリュー階調を保証するために、スペクトルを、補正されたトーンバリューに換算する必要がある。
【0071】
この方法ステップの後、選択されたスポットカラーに対して作成及び適合されたスペクトル形式のデータセット5’’’を、印刷機2の色制御のために使用することができる。このことは、スポットカラーそのものの色制御と、スポットカラーと別のプロセスカラーとの掛け合わせの挙動(Zusammendruckverhalten)との両方を含む。
【0072】
作成されたデータセット5’’’’は、ネットワーク6を有するデータベース4にも同時に格納され、これにより、このスポットカラーを再び使用する場合に、改めて計算することなく直接使用することが可能となる。スポットカラーテーブル1及びプロセスカラーの全ての色値に対して、上述したように、被印刷物に対する統一的な色値と、被印刷物上における黒色に対する統一的な色値と、統一的なスペクトル形式のトーンバリューインクリースとを有する統一的なデータフォーマットで、スペクトル形式の特性化データがデータベース内に保存される場合には、スペクトル形式のスポットカラーデータセット5に関して完全なデータベース4を作成することができる。この場合、データベース4は、特性化データによって予め定められた印刷プロセスと、スポットカラーテーブル1と、場合により実施される適合とに関連している。
【0073】
スポットカラーデータベース4は、印刷条件内の種々異なる用紙色相に対して作成することができる。スポットカラーデータベース4は、種々異なる印刷プロセスに対して作成することができる。従って、同じスポットカラーテーブル1の場合には、印刷におけるスポットカラーのシミュレーション時の高い一致が保証されている。
【符号の説明】
【0074】
1 カラーテーブル(Farbentabelle)
2 印刷機
3 ワークフローシステム
4 スポットカラーデータベース(Sonderfarbendatenbank)
5 スペクトル形式のスポットカラーデータセット(spektraler Sonderfarbendatensatz)
5,5’,5’’’,5’’’’ 適合されたスペクトル形式のスポットカラーデータセット
6 ネットワーク
7 目標とする印刷プロセス
8 選択されたスポットカラー
9 個々の色値