特許第6073452号(P6073452)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6073452自動的な技術監督操作を実行して製造システムの性能を向上するための、半自動製造構成における各運転者特有のトライバルナレッジの特定、取込
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6073452
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】自動的な技術監督操作を実行して製造システムの性能を向上するための、半自動製造構成における各運転者特有のトライバルナレッジの特定、取込
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/418 20060101AFI20170123BHJP
   G06Q 50/04 20120101ALI20170123BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
   G05B19/418 Z
   G06Q50/04
   G05B23/02 V
【請求項の数】17
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-501052(P2015-501052)
(86)(22)【出願日】2013年3月18日
(65)【公表番号】特表2015-518593(P2015-518593A)
(43)【公表日】2015年7月2日
(86)【国際出願番号】IN2013000162
(87)【国際公開番号】WO2013150541
(87)【国際公開日】20131010
【審査請求日】2014年11月18日
(31)【優先権主張番号】3571/CHE/2011
(32)【優先日】2012年3月18日
(33)【優先権主張国】IN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】514237839
【氏名又は名称】マニュファクチャリング システム インサイツ (デービーエー システム インサイツ)
(73)【特許権者】
【識別番号】399031078
【氏名又は名称】ケンナメタル インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Kennametal Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】ビジャヤラガバン アスラン
(72)【発明者】
【氏名】ソベル ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】サウス アダム
(72)【発明者】
【氏名】ミュラー トーマス オーウェン
(72)【発明者】
【氏名】ティルジー コリン
【審査官】 後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−097458(JP,A)
【文献】 特開2011−159103(JP,A)
【文献】 国際公開第02/003156(WO,A1)
【文献】 特開平10−187228(JP,A)
【文献】 特開平9−330860(JP,A)
【文献】 特開2002−149221(JP,A)
【文献】 特開平9−101803(JP,A)
【文献】 特開2011−90509(JP,A)
【文献】 特開2010−176331(JP,A)
【文献】 特開2006−343838(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0332008(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/418
G05B 23/02
G06Q 50/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製造システムにおける、データ収集、データ解析、トライバルナレッジ特定、及びトライバルナレッジ展開のためのシステムであって、
前記製造システムの運転者が全体実行計画に従って加工物に対して運転を実行中に、前記製造システムからデータを取り込むための複数のセンサ入力と、
前記データを収集するためのデータ収集ユニットと、
前記収集されたデータを送信するための第1のデータ送信ユニットと、
前記第1のデータ送信ユニットから送信された前記データを受信し収集するためのサーバと、
前記サーバ上に配置されたデータ記憶ユニットと、
前記送信されたデータに基づいて製造性能に関する製造性能パラメータを決定するための、前記サーバ上に配置された解析ユニットと、
前記送信されたデータ及びそれに備えられる運転データと、運転履歴データ、運転者入力履歴データ、及び加工物履歴データの一つ以上を含む、前記製造システムの過去の実行により送信された履歴データ及びそれに対応する製造性能パラメータと、を長期保存するための、前記サーバ上に配置された履歴データリポジトリユニットと、
前記送信されたデータを、前記履歴データリポジトリユニット内の対応する履歴データと比較するための、前記サーバ上に配置された評価ユニットと、
前記製造システムと同一または類似の製造システムに関する対応する履歴データ及び前記全体実行計画からの前記送信されたデータの中の前記運転者によって入力された運転者入力データ及び運転データの各々の偏差を決定し、かつ前記製造性能パラメータの改良をもたらし得る代替運転データに対応する一つ以上の推奨案を生成するための、前記サーバ上に配置された論理ユニットと、
前記製造性能パラメータの改良をもたらし得る代替運転データに対応する、前記一つ以上の推奨案を送信するための、第2のデータ送信ユニットと、
を備え、
前記複数のセンサ入力は、
前記加工物に対する運転実行中に前記製造システムから運転データを取り込むための、製造システムセンサ入力と、
前記運転者入力データを取り込むための、運転者センサ入力と、
前記製造システムにより処理中の前記加工物に関するデータを取り込むための計測設備と、
の一つ以上を備え、
前記送信されたデータは、
前記製造システムセンサ入力からの前記運転データと、
前記運転者センサ入力から入力された前記運転者入力データと、
前記計測設備から取り込まれた前記加工物に関する加工物データと、
前記全体実行計画に関するデータと、
の一つ以上を備え、
前記論理ユニットは、
前記運転者入力データの、前記同一又は類似の製造システムに関する対応する前記履歴データ及び前記全体実行計画からの偏差を決定するための、第1の論理ユニットと、
前記運転データ及び前記加工物データの、前記同一又は類似の製造システムに関する対応の前記履歴データ及び前記全体実行計画の仕様からの偏差を決定するための、前記サーバ上に配置された第2の論理ユニットと、
前記運転者入力データの決定された偏差と、前記運転データ及び前記加工物データの決定された偏差との間の関係の特定と解析のための、前記サーバ上に配置された第3の論理ユニットと、
前記第3の論理ユニットによって決定される前記関係に基づいて、前記製造システムの一つ以上の運転パラメータ、前記製造性能パラメータ、及び前記加工物における改良を決定するための、前記サーバ上に配置された学習ユニットと、
前記運転者入力データを、前記製造システムの運転パラメータ、前記製造性能パラメータ及び前記加工物において改良がもたらされた、前記同一又は類似の製造システムに関する前記運転者入力履歴データと比較するための、前記サーバ上に配置された第4の論理ユニットと、
前記製造性能パラメータの改良をもたらし得る代替運転者入力を決定するための、前記サーバ上に配置された第5の論理ユニットと、
前記製造性能パラメータの改良をもたらし得る代替運転者入力に対応する推奨案を生成するための、前記サーバ上に配置された教示ユニットと、
備える、システム。
【請求項2】
前記運転者へ情報を伝達するための表示ユニットを更に備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記運転者が前記製造システムに命令を入力するための入力インタフェースを更に備える、請求項1又は請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記データ記憶ユニットは、
前記第1のデータ送信ユニットから送信されたデータを短期保存するための、前記サーバ上に配置された第1のデータ記憶ユニットと、
前記製造システムの運転パラメータ、前記製造性能パラメータ及び/又は前記加工物における決定された改良を示すデータを、前記製造システムの運転時のすべての送信されたデータ並びに前記製造性能パラメータの改良をもたらし得る代替運転者入力に対応する推奨案とともに保存するための、前記サーバ上に配置された第2のデータ記憶ユニットと、
の一つ以上を備える、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載のシステム。
【請求項5】
前記製造システムセンサ入力は、コンピュータ数値制御装置(CNC)、数値制御装置(NC)とプログラマブル・ロジック・コントローラ(PLC)、加速度計、ジャイロスコープ、サーミスタ、熱電対、振動センサ、光学ゲージ、渦電流センサ、静電容量センサ、電力計、エネルギ計、電流計、電圧計、アナログ/デジタルセンサ及びデジタルセンサの一つ以上を含む、請求項1〜請求項4の何れか1項に記載のシステム。
【請求項6】
前記運転データは、加速度、振動、温度、位置、エネルギ使用量、通電電流、電圧、力率、磁場、距離、静電容量などの運転パラメータの一つ以上に関するデータと、軸位置、軸送り速度、表面速度、経路送り速度、軸加速度、軸加加速度、スピンドル速度、軸荷重、スピンドル荷重、実行中のプログラムブロック、実行中のプログラム行、CNCメモリ内の現在のマクロ変数、アラーム、メッセージ、その他の通知、の一つ以上を含むCNC及び/又はPLCコントローラによって報告されるデータと、を含む、請求項1〜請求項5の何れか1項に記載のシステム。
【請求項7】
前記計測設備は、ゲージブロック、座標測定機、ゴー/ノーゴーゲージ、静電容量プローブ、レーザ系のシステム、空気マイクロメータ、線形可変差動変圧器プローブ、多関節アーム、干渉分光器、顕微鏡及び表面形状測定装置の一つ以上の機器を備える、請求項1〜請求項6の何れか1項に記載のシステム。
【請求項8】
前記サーバは前記製造システムとは異なる場所にあるリモートサーバである、請求項1〜請求項7の何れか1項に記載のシステム。
【請求項9】
前記製造性能パラメータは、生産性、効率、利用率、故障率、不良率、一次品質、全体装置効率、運転コスト、製品コスト、生産効率、不良率ppm、リワーク率、可用率、稼働時間、サイクルタイム、可用時間、修繕時間、計画停止時間、計画外停止時間、全停止時間のパラメータの一つ以上を含む、請求項1〜請求項8の何れか1項に記載のシステム。
【請求項10】
前記履歴データリポジトリユニットと前記データ記憶ユニットとは同一ユニットである、請求項1〜請求項9の何れか1項に記載のシステム。
【請求項11】
前記履歴データリポジトリユニットは、
所与のプロセスステップ、及び/又は全体実行計画の間に送信されたすべてのデータの長期保存と、
前記製造システムの運転パラメータ、前記製造性能パラメータ、及び/又は前記加工物のすべての決定された改良を示すデータの長期保存と、
前記製造性能パラメータの改良をもたらし得る代替運転者入力に対応するすべての推奨案の長期保存と、
前記長期保存されたデータに対して遂行されるすべての解析運転の長期保存と、
請求項1に記載のシステムにより収集されるすべてのデータとその結果の情報の長期保存と、
の一つ以上の機能を遂行するデータ保管庫を備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
前記一つ以上の推奨案は、前記製造システムの運転の実行中に、前記製造システムの運転者又は他の任意の者にリアルタイムで送信される、請求項1〜請求項11の何れか1項に記載のシステム。
【請求項13】
前記第2のデータ送信ユニットは、
前記製造システムセンサ入力からの運転データと、
前記運転者センサ入力からの前記製造システムの運転者による入力データと、
前記処理中の前記加工物に関する前記計測設備から読み出されたデータと、
前記全体実行計画に関するデータと、
前記送信された運転データに基づく製造性能パラメータと、
前記製造システムの過去の実行から送信された履歴データと対応する製造性能パラメータと、
前記運転者入力データの、前記同一又は類似の製造システムに関する対応履歴データからの決定された偏差と、
前記運転データ及び前記加工物データの、対応履歴データ及び/又は前記全体実行計画の仕様からの決定された偏差と、
前記運転者入力データの決定された偏差と前記運転データ及び前記加工物データの決定された偏差との間の関係と、
前記製造システムの運転パラメータ、前記製造性能パラメータ、及び/又は前記加工物における改良を示すデータと、
前記製造性能パラメータの改良をもたらし得る代替運転者入力と、
前記製造性能パラメータの改良をもたらし得る代替運転者入力に対応する推奨案と、
のうちの少なくとも一つを、任意の者に対して任意の時点で送信可能である、請求項1〜請求項12の何れか1項に記載のシステム。
【請求項14】
製造システムにおける、データ収集、データ解析、トライバルナレッジ特定、及びトライバルナレッジ展開の方法であって、
データ収集ユニットによりデータを収集し、
第1のデータ送信ユニットによって、前記収集されたデータをサーバに送信し、
前記送信されたデータをデータ記憶ユニットに保存し、
前記送信されたデータに基づいて製造性能に関する製造性能パラメータを決定するために、解析ユニットによって前記送信されたデータを解析し、
評価ユニットによって、前記送信されたデータを履歴データリポジトリにある対応する履歴データと比較し、
前記製造システムと同一または類似の製造システムに関する対応の履歴データ及び全体実行計画からの、前記送信されたデータの偏差を決定し、前記製造性能パラメータの改良をもたらし得る代替運転者入力に対応する一つ以上の推奨案を生成し、
前記一つ以上の推奨案を前記製造システム及び/又は出力装置へ送信する、
ことを含み、
前記データを収集することが、
製造システムセンサ入力からの運転データと、
運転者によって運転者センサ入力から入力された運転者入力データと、
計測設備から読み出された、処理中の加工物に関する加工物データと、
前記全体実行計画に関するデータと、
の一つ以上を収集することを含み、
前記送信されたデータの偏差を決定することが、
第1の論理ユニットによって、前記同一又は類似の製造システムに関する対応の前記履歴データ及び前記全体実行計画からの、前記運転者入力データの偏差を決定し、
第2の論理ユニットによって、前記同一又は類似の製造システムに関する対応の前記履歴データ及び前記全体実行計画の仕様からの、前記運転データ及び前記加工物データの偏差を決定し、
第3の論理ユニットによって、前記運転者入力データの決定された偏差と、前記運転データ及び前記加工物データの決定された偏差との間の関係を特定して解析し、
学習ユニットによって、前記第3の論理ユニットによって決定される関係に基づいて、前記製造システムの運転パラメータ、前記製造性能パラメータ、及び前記加工物における改良を決定し、
第2のデータ記憶ユニットによって、前記製造システムの運転パラメータ、前記製造性能パラメータ、及び前記加工物における決定された前記改良を示すデータを、前記製造システムの運転時のすべての送信されたデータと共に保存し、
第4の論理ユニットによって、前記運転者入力データを、前記製造システムの運転パラメータ、製造性能パラメータ、及び前記加工物において改良がもたらされた、前記同一又は類似の製造システムに関する運転者入力履歴データと比較し、
第5の論理ユニットによって、前記製造システムの運転パラメータ及び前記加工物に改良をもたらし得る代替運転者入力を決定し、
教示ユニットによって、前記製造システムの前記運転パラメータ及び前記加工物に改良をもたらし得る代替運転者入力に対応する推奨案を生成し、
第2の記憶ユニットによって、前記製造システムの運転パラメータ及び前記加工物に改良をもたらし得る代替運転者入力に対応する推奨案を保存する、
ことを含む、方法。
【請求項15】
前記データ収集ユニットにより前記データを収集することが、前記製造システムの運転を実行中にリアルタイムで行われる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記推奨案は、前記製造システムの運転の実行中に、前記製造システムの運転者又は他の任意の者にリアルタイムで送信される、請求項14又は請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記製造システムセンサ入力からの運転データと、
前記運転者センサ入力からの前記製造システムの前記運転者による入力データと、
処理中の前記加工物に関する前記計測設備から読み出されたデータと、
前記全体実行計画に関するデータと、
前記送信された前記運転データに基づく製造性能パラメータと、
前記製造システムの過去の実行から送信された履歴データと対応する製造性能パラメータと、
前記運転者入力データの、前記同一または類似の製造システムに関する対応履歴データからの決定された偏差と、
前記運転データ及び前記加工物データの、対応履歴データ及び/又は前記全体実行計画の仕様からの決定された偏差と、
運転者入力データの決定された偏差と、前記運転データ及び前記加工物データの決定された偏差との間の関係と、
前記製造システムの運転パラメータ、前記製造性能パラメータ、及び/又は前記加工物における改良を示すデータと、
製造性能に関するパラメータに改良をもたらし得る代替運転者入力と、
前記製造性能に関するパラメータに改良をもたらし得る代替運転者入力に対応する推奨案と、
のうちの少なくとも一つを、任意の者に対して任意の時点で送信可能である、請求項14又は請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業プロセス、製造システム及びその一部を構成する製造設備で運転する運転者からの入力を管理し、そのような入力から得られるデータを収集、解析するためのシステム及び方法に関する。本発明はまた、そのような入力データを解析し、その工業プロセス又は製造システムに係わるプロセスステップの実行のための新しいパラメータ及びインストラクションを生成するためのシステムと方法に関する。より具体的には、本発明は熟練運転者及び半熟練運転者に対する製造プロセスのノウハウを、現場で学習、保存、教示、訓練するためのシステムと方法に関する。本発明はまた、製造プロセスノウハウを必要とする任意の者へ任意の時点で、製造プロセスノウハウを提供するシステムと方法に関する。
【0002】
本発明は工業プロセスと製造システムの分野に向けられたものである。そこでは、熟練及び半熟練の製造設備運転者により実行される工業活動が、製造システムにより実行される活動と、製造システム、製造設備及び製造中の加工物から受信される状態入力と併せて取り込まれ、時系列に記録され、解析される。このシステムは、製造システム及び設備に関する運転データ、運転者入力、製造性能パラメータ、加工物データ、与えられた条件における製造性能改良をもたらし得る入力、そのようなデータ及び関連性に対し行われる解析運転、及び製造システムの性能改良のための運転者又は任意の人へのこのナレッジの展開、に関するナレッジベース生成を含む。
【0003】
製造システムは、これに限定されるものではないが、機械工具(machine tool、工作機械)及び製造設備、計測装置、センサ、アクチュエータ、補助設備、などを含む、複数の異種の個別製造設備から成っている。製造企業は一つ又は複数の製造システムを備えている。製造システムの性能は、これに限るものではないが、生産性、安全性、品質、効率及び保全性を含む属性によって決定される。
【背景技術】
【0004】
製造部門における漸進的高度化及び自動化により、製造設備の運転や手動、半自動運転の実行には熟練運転者を必要とし、その熟練運転者が製造事業の効率決定に死活的な役割を果たす。機械に関連する仕事(機械への命令指示、機械性能の監視、資源を最適活用した所望の出力品質の獲得、機械や環境や運転者の安全の確保、機械を良好な状態に維持するための予防措置などを含むがこれに限定されない)を実行する運転者の「技能」は、訓練や運転経験から修得したナレッジと直感的洞察力の組み合わされたものである。ある工業的プロセス又は製造手順における運転者集団におけるそのような技能の集積を、トライバルナレッジ(tribal knowledge)と称する。多くの製造システムにおいて、運転者は全体実行計画の実施にあたって、一つ以上のプロセスステップを改変する裁量が与えられている。熟練運転者であれば、そのような裁量を行使して一つ以上の製造性能パラメータに利するようにすることができる。
【0005】
この状況の一つの顕著な例として、これは決して本発明の範囲を制限するものとみなすべきではないが、高速フライス加工の例がある。高速フライス加工には、特に航空機用又は医療用の装置の製造に使用される場合に、チタン、インコネル、アルミニウムなどの難加工材料で高精度精密部品を製造するための設備(「機械工具」)と工具とを備えた製造システムが含まれる。加工プロセスの計画(「工程計画」)は高度に専門化した業務であり、一般に製造施設における熟練運転者によって実施される。高速フライス加工の工程計画の実行には、周到な計画とフライス加工プロセスに対する正確な理解を必要とする。高速フライス加工運転に対するプロセスパラメータの選択方法については標準的なやり方がいくつかあるが、運転者は一般的に複数のプロセスパラメータを展開して、製造システムに対する自分の観察と自分自身のナレッジ、経験に基づいてその選択を行う。運転者は、観察と経験を通して得たナレッジを応用して部品生成のための工程計画を開発する。効果的な工程計画の開発には、適切な工具の選択と、それを適用して、指示されたプロセスパラメータで種々の部品形状を形成することとが含まれる。高速フライス加工におけるこのパラメータとしては、スピンドル速度、経路送り速度、軸送り速度、表面速度、切削深さ、切削幅、半径方向切込み量、軸方向切込み量、などがある。プロセスパラメータはまた、その部品を作製する機械工具の種類と性能に基づいて選択される。このように、同じ部品であっても異なる工具とプロセスパラメータを用いて様々な方法で製造することができるし、また同様に、同じ工具でも異なるパラメータで部品を作製することができる。
【0006】
ただし、そのような運転の遂行において運転者が適用するナレッジは、その場の状況に大きく依存し、しかも後で展開するために記録して解析することが不可能である。さらには、工業的/製造上のトライバルナレッジ、特に製造システムに関するトライバルナレッジを取り込み、保存し、読み出すことのできる科学的かつ信頼性のある方法は、技術的にまだ得られていない。その結果、会社が運転者の技術レベル向上のために何百時間もかけた訓練は、その運転者が会社を定年退職するか転職すると失われてしまう。
【0007】
ビデオ録画やインタビュー/アンケートやその他の文書化などの従来の方法による試みでは、トライバルナレッジを取り込むことには成功しなかった。その失敗の大きな理由の一つは、最初に具体的なトライバルナレッジを特定するためのしっかりしたシステムと方法が欠如していることである。仮にトライバルナレッジを取り込む(仮想的な)方法があるとしても、それを保存し、必要な時に利用可能とする方法はさらに少ない。そして、高速フライス加工の分野を包含する具体的な製造システムに関しては、現状技術として以下の技術の一つ又はその組み合わせが利用されている。
−運転者の経験
−製造設備の製造元により提示される指針/推奨案
−切削工具の製造元により提示される指針/推奨案
−コンピュータ支援設計(CAD)及び/又はコンピュータ支援製造(CAM)のソフトウェアツール/システムの一部であるエキスパートシステム
−プロセスパラメータ選択の標準ハンドブック(切削工具ハンドブック、機械加工ハンドブックなど)の利用
【0008】
上に述べた技術は以下の理由によりその魅力が非常に限られている。
−これらは規範的であり、実際のプロセス実行からのフィードバックを考慮していない。
−極めて限られた実験室内の試行に基づいている。
−最新の製造設備で可能なプロセスの全範囲を扱っていない。
−異なる種類の製造設備や切削工具の性能の違いを考慮していない。
【0009】
したがって、(i)工業プロセスと、運転者入力及び環境因子を含む機械運転データとを取り込んで保存し、(ii)その中のトライバルナレッジの要素を特定するためにそのデータを解析し、(iii)そのようなトライバルナレッジを特に製造システムにおいて展開するための、科学的で信頼性のあるシステムと方法に対する要求が、長い間満たされないままである。
【0010】
発明者らは、(i)工業プロセスと、運転者入力及び環境因子を含む機械運転データとを取り込んで保存し、(ii)そのデータを解析してその中のトライバルナレッジの要素を特定し、(iii)そのようなトライバルナレッジを特に製造システムにおいて展開する、ためのシステムと方法を発明した。そのようなシステムは、(i)訓練用として、また解析とナレッジ共有のために、必要な時に使用可能とする、また(ii)更に解析するためにその取り込まれたデータでデータ保管庫を構築する、という目的で活用することが可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の主目的は、(i)工業プロセスと、運転者入力及び環境因子を含む機械運転データとを取り込んで保存し、(ii)その中のトライバルナレッジの要素を特定するためにそのデータを解析し、(iii)そのようなトライバルナレッジを特に工業プロセスにおいて展開する、ことである。
【0012】
本発明の別の目的は、技術運転と、工業プロセスの効率を上げるオーバーライド(override)とを実行するシステムを提供することである。
【0013】
本発明の更に別の目的は、工業プロセス及び/又は製造システムによるすべての変形とそれに関係する加工物の、すべての変形の原因となる先行因子のシーケンス記録を含む、取り付け時からの時系列に配列されたナレッジベースを提供することである。
【0014】
本発明の更なる目的は、上記の参照されたナレッジベースを解析し、そのナレッジベースとそこから導出される解析物とを工業プロセス及び/又は製造システムに展開することである。
【0015】
本発明の更なる目的は、その原因となる先行する出来事に基づく具体的な変形パターンを特定して認定し、それらをその(相対的及び絶対的な)資源の集約度(電力消費、原材料、時間、出力品質などのような)とその性能を決定する所望のパラメータとによって分類するシステムを提供することである。
【0016】
本発明の別の目的は、工業プロセスにおける既知入力と他の知覚可能因子との複雑な原因と結果の線形及び非線形関係を計算して、現実的かつ科学的な予測をもたらすシステムを提供することである。
【0017】
本発明の別の目的は、取り込まれたトライバルナレッジを、製造者と最終使用者のいずれもが予想しなかった工業プロセスと設備の鍵となる性能属性の識別に向けて適用することである。
【0018】
本発明の別の目的は、運転者の行動/入力に対して、与えられた計画との一致/偏差(ずれ、deviation)という観点で、リアルタイムでの評価と解析を提供することである。
【0019】
本発明の別の目的は、本発明の実施日から永続的に、インデックス付けされたデータの保管庫を発展させ、維持することである。このデータにはあらゆる変形が含まれ、それらは(これに限定されるものではないが)、材料の除去;材料の除去速度;表面特性;機械的な磨耗;単位時間に伝導、吸収、消費、放散された熱;誘導/放電された静電気を含む電気;質量;体積;寸法;加工物品質;構成部品の振動;プロセス実行能力;プロセス実行時の設備の部品と副部品の位置、速度、加速度;消耗品と資源の消費速度;プロセスステップとプロセスステップの間に経過した時間;プロセスステップの実行順序;プロセス設備により実行された命令、が含まれる。
【0020】
本発明の更なる目的は、製造プロセス中の与えられたジョブ運転に対する運転者の能力と適性を評価することと、それを、ジョブプロトコル;プロセスコンプライアンスへの遵守;資源と消耗品の消費効率;納期の遵守性;出力品質と出力量;材料処理効率;製造システムの保守と機能寿命、を含むパラメータ(これに限定されるものではない)に対して非侵入的又はその他の方法で、継続的にランク付けと再ランク付けを行うことである。
【0021】
本発明の更なる目的は、運転者の当面のニーズの評価に基づいて運転者へ通信(伝達)すべきナレッジの種類を特定する際に、取り込まれたトライバルナレッジベースを解析することである。本発明の更なる目的は、適切な通信インタフェースを用いて、そのようなトライバルナレッジを運転者にリアルタイムで通信することである。
【0022】
本発明の更なる目的は、運転者又は他の者が後で参照し、解析するために、集積されたトライバルナレッジのナレッジデータベースを開発することである。
【0023】
本発明の更なる目的は、製造システムやそのステップや部品の製造性能パラメータの改良に向けた保守や運転や最適化に興味を持つすべての者に対して、使用に関する分析結果を提供するために、与えられた製造システム、製造システム内の部品、又は製造システムの組み合わせの性能属性のデータベースを解析することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
したがって本発明によれば、工業プロセスにおけるデータを取込み、その取り込まれたデータをトライバルナレッジの特定のために解析し、そのようなトライバルナレッジを展開することが可能となる、システムと方法が提供される。
【0025】
このシステムは以下のような要素から構成される。
i.プロセスステップを実行中の製造設備及び製造設備の一部を構成する計測設備からの運転データと、運転者のアクション及び関連する環境因子からの運転データと、を読み出して取り込むための、製造システムセンサ入力を含むデータ取り込み手段。製造システムが本システムへインタフェース接続する計測設備を持たない場合には、任意選択により、製造システムと本システムとの間を情報送信するためのインタフェースを持った独立した計測設備が含まれていてもよい。
ii.製造設備運転者からの入力を取り込むための、運転者入力センサを含む手段。
iii.全体実行計画を含む情報を運転者に通信(伝達)するための手段。
iv.運転者が入力信号を送信するための入力インタフェース(キーボード、タッチスクリーン、ボタンなど)。
v.送信されたデータを取り込み、保存したデータを収集するための、データ収集ユニット。
vi.そのような収集されたデータを送信するためのデータ送信ユニット。
vii.そのような送信されたデータを収集するためのサーバ。
viii.そのような送信されたデータを短期保存するためのデータ記憶ユニット。
ix.送信されたデータと対応する運転データパラメータ、並びに製造設備の過去の実行時に送信された履歴データと対応する製造性能パラメータを長期保存するための、履歴データリポジトリ。
x.送信されたデータに基づいて製造性能パラメータを決定し、それを処理された情報に変換するための解析ユニット。
xi.そのような送信されたデータを、履歴データリポジトリ内の対応する履歴データと比較するための、サーバ上に配置された評価ユニット。
xii.運転者の入力データの、同一又は類似の製造設備に関する対応する履歴データ及び/又は全体実行計画からの偏差を決定するための、サーバ上に配置された第1の論理ユニット。
xiii.運転データ及び加工物データの、同一又は類似の製造設備に関する対応する履歴データ及び/又は全体実行計画の仕様からの偏差を決定するための、サーバ上に配置された第2の論理ユニット。
xiv.運転者入力データの決定された偏差と、運転データ及び加工物データの決定された偏差との間の関係の特定及び解析のための、サーバ上に配置された第3の論理ユニット。
xv.第3の論理ユニットによって決定される関係に基づいて、製造設備の運転パラメータ、製造性能パラメータ、及び/又は加工物における改良を決定するための、サーバ上に配置された学習ユニット。
xvi.運転者入力データを、製造設備の運転パラメータ、製造性能パラメータ、及び/又は加工物における改良がもたらされた、同一又は類似の製造設備に関する運転者入力履歴データと比較するための、サーバ上に配置された第4の論理ユニット。
xvii.製造性能に関するパラメータに改良をもたらし得る、代替運転者入力を決定するための、サーバ上に配置された第5の論理ユニット。
xviii.製造性能に関するパラメータに改良をもたらし得る、代替運転者入力に対応する推奨案を生成するための、サーバ上に配置された教示ユニット。
xix.製造設備の運転パラメータ、製造性能パラメータ及び/又は加工物におけるそのような決定された改良を、製造設備の運転時のすべての送信されたデータ並びに製造性能に関するパラメータの改良をもたらし得る代替運転者入力に対応するそのような推奨案とともに保存するための、サーバ上に配置された第2のデータ記憶ユニット。
xx.製造性能パラメータにおける改良をもたらし得る代替運転者入力に対応するそのような推奨案を、製造設備運転者又は他の任意の者へ、リアルタイム又はそれ以降の任意の時点において、送信するためのデータ送信ユニット。
【0026】
システムが運転のある反復の間にデータを取り込み、トライバルナレッジを特定するためにその取り込まれたデータを解析し、そのデータを展開する方法は、以下の通りである。
1.システムがデータを取り込む方法は以下の通りである。
a.運転者が製造設備に命令を入力する。
b.データ収集ユニットが、製造設備センサ入力からの運転データと、運転者センサ入力からの製造設備運転者による入力データと、処理中の加工物に関する計測設備から読み出されたデータと、全体実行計画に関するデータとを収集する。
c.運転者が、計測設備の入力インタフェースを用いて、加工物が処理されるとそれを計測するように命令を入力する。あるいは、製造設備センサ入力が、計測設備を持つインタフェースを介してその部品の品質をモニタする。
d.プロセス実行/計測データがローカルサーバ上のデータ記憶ユニットに保存され、次いで長期保存/読み出しのために、第1のデータ送信ユニットを介してリモートサーバ上の履歴データリポジトリへ送信される。
e.履歴データリポジトリは、製造システムに関する全データ、運転者入力、関連する環境因子に関するデータ及び処理された加工物に関するデータを保存する。
2.トライバル情報を特定するためにシステムがデータを解析する方法は以下の通りである。
a.解析ユニットが、履歴データリポジトリから運転のある反復に関する保存されたデータを読み出し、生産性、効率、活用度、品質、不合格率(PPM)などを含む製造性能指標を計算し、それらを他のデータと共に保存する。
b.解析ユニットは、運転者に関する情報を作成するためにデータ解析を以下のように行う。
i.解析ユニットは、全体実行計画の実行中における運転者入力を解析する。
ii.解析ユニットは、生産性、効率、活用度、品質、不合格PPMなどを含む製造性能指標を計算し、それを他のデータと共に保存する。
iii.評価ユニットがそれらの運転者入力を履歴データリポジトリ内の対応する履歴データと比較する。
iv.第1の論理ユニットが、運転者の入力データの、同一又は類似の製造設備に関する対応する履歴データ及び/又は全体実行計画からの偏差を決定する。
v.第2の論理ユニットが、運転データ及び加工物データの、同一又は類似の製造設備に関する対応する履歴データ及び/又は全体実行計画の仕様からの偏差を決定する。
vi.第3の論理ユニットが、運転者入力データの決定された偏差と運転データ及び加工物データの決定された偏差との間の関係を特定して解析する。
vii.学習ユニットが、前記第3の論理ユニットによって決定された関係に基づいて、製造設備の運転パラメータ、製造性能パラメータ、及び/又は加工物における改良を決定する。
viii.そのように決定された改良が、履歴データリポジトリでもあり得る第2の記憶ユニットによって長期メモリ内に保存される。
ix.次に第4の論理ユニットが、そのような運転者の入力データを、製造設備の運転パラメータ、製造性能パラメータ、及び/又は加工物において改良がもたらされた、同一又は類似の製造設備に関する運転者入力履歴データと比較する。
x.次に第5の論理ユニットが、製造設備の運転パラメータ及び/又は加工物における改良をもたらし得る代替運転者入力を決定する。
xi.次に教示ユニットが、製造設備の運転パラメータ及び/又は加工物における改良をもたらし得る代替運転者入力に対応する推奨案を生成する。
xii.第2のデータ記憶ユニットがそのような推奨案を保存する。
xiii.そのような推奨案が次に、機械設備運転者又は他の任意の者へ、リアルタイムで、又はその後の任意の時点において送信されてよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】トライバルナレッジの学習方法を示す。
図2】トライバルナレッジの教示方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、データ収集とデータ解析とトライバルナレッジ特定と製造システムにおけるトライバルナレッジの展開のためのシステムを提供する。本発明には、本発明によるシステム、機器、装置及び方法が含まれる。本発明は、システムから送信されるインストラクションに従う、製造システムセンサ入力の管理に係わる。本システムは、機械の運転データと運転者ユニットからの入力と環境因子とを含む、収集と解析を行う。収集されたデータの解析により、全体実行計画を実行するための新しいパラメータとインストラクションをシステムが生成可能となる。
【0029】
本発明では、「リアルタイム」で特定のステップを遂行することを狙っている。この発明の目的のための、時間とプロセス間隔の記述、及び「リアルタイム」という用語の説明は以下の通りである。
【0030】
全体実行計画とは、加工物に対して単独または一連の変形を遂行するための、規定されたプロセスステップを配列したインストラクションのリストである。全体実行計画は、紙又は視覚的表示装置上のインストラクションのように記録媒体上に書き込まれたり、運転者に口頭で指示されたり、又は単に運転者の記憶の中に入れ込まれてもよい。全体実行計画は複数のプロセスステップ又は運転に分割される。運転者は、プロセスステップの実行の仕方を変化させたり、その順序を変えたり、特定のプロセスステップを省略したり、また全体実行計画中に新しいプロセスステップを追加したりする裁量を有している。
【0031】
プロセスステップは、加工物に変形を行うために、機械工具、システム又は運転者が実行しなければならない、規定されたタスクである。
【0032】
一つのプロセスステップにおいてある機能に属するデータが収集され終わり、後続のプロセスステップが始まる前にその機能が遂行される場合に、その機能は本発明又はその任意の部分によってリアルタイムで実行されたと称する。
【0033】
製造システムセンサ入力は、コンピュータ数値制御装置(CNC)、数値制御装置(NC)とプログラマブル・ロジック・コントローラ(PLC)、加速度計、ジャイロスコープ、サーミスタ、熱電対、振動センサ、光学ゲージ、渦電流センサ、静電容量センサ、電力計及びエネルギ計から構成されるような装置からの入力を介して、運転データを取り込む。
【0034】
システムによって取り込まれる運転データとしては、加速度、振動、温度、位置、エネルギ使用量、通電電流、電圧、力率、磁場、距離、位置、静電容量などの運転パラメータのすべて又は任意のものに関するデータと、軸位置、軸送り速度、表面速度、経路送り速度、軸加速度、軸加加速度、スピンドル速度、軸荷重、スピンドル荷重、実行されるプログラムブロック、実行されるプログラム行、CNCメモリ内の現在のマクロ変数、アラーム、メッセージ、その他の通知、を含むCNC及び/又はPLCコントローラによって報告されるデータと、を含む。
【0035】
取り込むことのできる環境因子としては、日付、時刻、製造システム特性(年数、メーカ、型式など)、メンテナンス状態、運転者状態及び運転状態が含まれる。
【0036】
加工物とは、製造システムによって変形される物理的対象物である。
【0037】
システムは、製造設備運転実行中の全期間に亘る製造設備運転者の入力データを取り込む、運転者センサ入力を提供する。
【0038】
システムのデータ取込みに利用される計測設備は、ゲージブロック、座標測定機(固定型及び携帯型)、ゴー/ノーゴーゲージ、静電容量プローブ、レーザ系システム、干渉分光法、顕微鏡法、表面形状測定法、空気マイクロメータ、LVDTプローブ、多関節アームを含む。
【0039】
運転の開始前に適切な手段を用いて、全体実行計画が運転者に通信(伝達)される。その手段としては、ビデオ表示ユニット、オーディオプレーヤー、文書インストラクション及び口頭インストラクションがある。運転者に、製造設備運転方法の全体が知らされる。
【0040】
運転者にインストラクションを伝えるために使用される表示ユニットには、ビデオモニタ、ビデオスクリーンなどが含まれる。
【0041】
運転者は、キーボードやタッチスクリーンやボタンを含む入力インタフェースを用いて機械工具に命令を入力する。
【0042】
データ収集ユニットが製造設備の運転からデータを収集する。収集されたデータには、製造設備センサ入力からの運転データと、運転者センサ出力から読み出した製造設備運転者による入力データと、計測設備から読み出した加工物に関するデータと、全体実行計画に関するデータが含まれる。データ収集ユニットによって収集されたデータは、第1のデータ送信ユニットを介して送信される。第1のデータ送信ユニットを介して送信された収集データは、次にサーバへ送られる。送信されたデータはサーバ上の第1のデータ記憶ユニットに保存される。この記憶ユニットは短期保存用である。解析ユニットはサーバ上にある。解析ユニットは、取り込まれたデータから運転パラメータを読み出して選択する、特定のプログラムセットである。選択された運転パラメータは、生産性、効率、利用率、故障率、不良率、一次品質、全体装置効率、運転コスト、製品コスト、生産効率、不良率、不良率ppm、リワーク率、可用率、稼働時間、サイクルタイム、可用時間、修繕時間、計画停止時間、計画外停止時間、全停止時間を含む製造性能パラメータである。送信されたデータの長期保存は、第2のデータ記憶ユニットによって行われ、これはサーバ上に配置された履歴データリポジトリユニットであってもよい。送信されたデータの他に、履歴データリポジトリユニットは次のものも含む。
a.そのような送信された運転データに基づく製造性能パラメータ。
b.製造設備の過去の実行時に送信された履歴データ及び対応する製造性能パラメータ。
c.運転者入力データの、同一物に関する対応の履歴データからの決定された偏差。
d.運転データ及び加工物データの、対応する履歴データ及び/又は全体実行計画の仕様からの決定された偏差。
e.運転者入力データの決定された偏差と運転データ及び加工物データの決定された偏差との間の関係。
f.製造設備の運転パラメータ、製造性能パラメータ、及び/又は加工物、における改良。
g.製造性能に関するパラメータの改良をもたらし得る代替運転者入力。
h.製造性能に関するパラメータの改良をもたらし得る代替運転者入力に対応する推奨案。
【0043】
サーバ上にある評価ユニットは、運転データ、運転者入力データ、加工物データなどの解析ユニットによって選択された運転パラメータを、履歴データリポジトリ内に保存された対応する履歴データと比較する。第1の論理ユニットはサーバ上にある。第1の論理ユニットは、送信されたデータの運転者入力が同一または類似の機械工具の対応する履歴データ及び全体実行計画から逸脱し偏差ているか否かを判定する。第2の論理ユニットもサーバ上に配置されている。第2の論理ユニットは、送信されたデータの運転者入力と加工物データの、同一または類似の機械工具の対応する履歴データと全体実行計画からの偏差の有無を判定する。第3の論理ユニットは、これもまたサーバ上にあるが、運転者入力から決定された偏差と、運転データ及び加工物データから決定された偏差との間の関係を決定する。学習ユニットはサーバ上にあり、第3の論理ユニットによってそのように決定された関係が、機械工具の運転パラメータ、製造性能パラメータ、及び/又は加工物の改良につながるかどうかを判定する。第4の論理ユニットは、これもまたサーバ上に配置されているが、運転者入力データを運転者履歴データと比較する。比較されたデータの組は、機械工具の運転パラメータ、製造性能パラメータ、及び/又は加工物の改良につながった、同一または類似の製造機械からのデータに属する。サーバ上にある第5の論理ユニットは、製造性能パラメータの改良をもたらし得る代替運転者入力を決定する。教示ユニットもまたサーバ上に配置されている。教示ユニットは、製造性能に関するパラメータを改良すると想定される代替運転者入力に基づいて、推奨案を生成する。サーバ上にある第2のデータ記憶ユニットは、論理ユニットによって決定された改良を保存する。これらの決定は、機械工具の運転時の送信されたデータを含む、機械工具の運転パラメータ、製造性能パラメータ、及び/又は加工物の改良に関係する。第2のデータ記憶ユニットは、代替運転者入力の結果として達成される製造性能パラメータの改良に対応する推奨案も保存する。このシステムには、代替運転者入力に関する推奨案を機械工具の運転者又は他の任意の者へ送信するための、第2のデータ送信ユニットも含まれる。推奨案は、製造性能パラメータが改良されるように考案されている。これらの他に、製造システムのある場所から遠隔の位置にサーバが配置される実施形態もあり得る。遠隔配置されたサーバは、製造システムとは違う場所に配置され、物理的に近接した範囲にはない。
【0044】
第2のデータ記憶ユニットが履歴データリポジトリユニットと同一である実施形態もあり得る。
【0045】
上記の第2のデータ送信ユニットからの推奨案の送信は、機械工具運転者を含む一人又は複数の者へ送ることができる。機械工具運転者は推奨案をリアルタイムで受信して、機械工具運転の実行中に適用可能である。
【0046】
データ収集、データ解析、トライバルナレッジの特定及びトライバルナレッジの展開を実施する方法は、最初に、製造システムセンサ入力、機械工具運転者、計測設備及び全体実行計画から運転データを収集する。収集されたデータは次に、第1の送信ユニットを介してサーバへ送られる。そうしてデータは第1のデータ記憶ユニットに保存される。送信されたデータは次に解析ユニットによって解析され、そこで加工物を製造するための製造性能パラメータが決定される。解析ユニットによって選別されたデータは、代替運転者入力による運転パラメータの任意の偏差を含んでいる。送信されたデータは次に評価ユニットによって履歴データと比較される。評価ユニットは、送信されたデータの内の運転データと運転者入力データと加工物データを、既に履歴データリポジトリにある対応する履歴データと比較する。評価ユニットは送信されたデータの変化を履歴データからのずれとして検出する。次に第1の論理ユニットが運転者入力データの偏差を検出する。同一又は類似の機械工具に関する、対応の履歴データとの比較によってこの決定が行われる。偏差は全体実行計画を利用しても決定される。第2の論理ユニットが次に、運転データ及び加工物データの偏差を決定する。この決定は、同一又は類似の機械工具に関する、対応の履歴データとの比較によって行われる。次いで、第3の論理ユニットが、運転者入力データの決定された偏差と運転データ及び加工物データの決定された偏差との間の関係を特定して解析する。次に学習ユニットが機械工具の運転パラメータ、製造性能、及び/又は加工物の改良を決定する。学習ユニットは上記の第3の論理ユニットにより決定される関係によってこれらの改良を決定する。学習ユニットは後の実行計画で利用するために、これらの運転パラメータの改良を保存する。第2のデータ記憶ユニットが次に運転時に取り込まれた送信されたデータと決定されたデータを保存する。決定されたデータには、機械工具の運転パラメータ、製造性能、及び/又は加工物の改良が含まれる。第4の論理ユニットを用いて、運転者により入力されたデータをそれ以前になされた運転者入力履歴データと比較する。比較されたデータ入力は、データ入力によって機械工具の運転パラメータ、製造性能、及び/又は加工物の改良が行われた、同一又は類似の機械工具に属する。第5の論理ユニットが、全体実行計画からの偏差などの代替運転者入力すなわちトライバルナレッジが、機械工具の運転パラメータ及び/又は加工物の改良につながるかどうかを判定する。教示ユニットを用いて、収集されたトライバルナレッジが他の運転者へ分配される。教示ユニットは、機械工具の運転パラメータ及び/又は加工物を改良すると想定される代替運転者入力に関して、運転者に推奨案を生成する。教示ユニットによって生成される上記の推奨案は、前述の第2のデータ記憶ユニット内に保存される。教示ユニットによって生成された推奨案は、次にリアルタイムで機械工具の運転者へ送信される。本発明の第15番目の態様は、製造システムセンサ入力からの運転データ、機械工具の運転者が運転者センサユニットに入力したデータ、計測設備から読み出された製造加工物に関するデータ、及び全体実行計画に関するデータを、データ収集ユニットが収集する手段に関する。データ収集ユニットはリアルタイムで作動する。本発明の一態様においては、参照するサーバは製造システムの位置から離れた場所にあって、製造システムとは物理的に近接していない。本発明の別の態様においては、第2のデータ記憶ユニットが前述した履歴データリポジトリユニットと同一である。本発明の更なる態様では、前述の学習ユニットによる推奨案を複数の者に送信することが行われる。学習ユニットは、代替運転者入力に基づく推奨案を機械工具運転者又は他の任意の者に送信し、それらの者も機械工具の運転パラメータ及び/又は加工物の改良を達成できるようにする。本発明の別の態様は、推奨案のリアルタイムでの送信に関する。機械工具運転者は推奨案をリアルタイムで受信して、機械設備プロセスステップの実行中にそれを適用可能となる。
【0047】
実施例
以下の実施例では、高速フライス加工を含む特定の製造システムに関連して本発明の利用法を説明する。運転データが収集され、トライバルナレッジを特定するために処理され、製造システム内に関連するアルゴリズムと共に展開されるステップを以下に概説する。
【0048】
A.データ収集
1.運転者が5軸高速フライス加工機械工具(「機械工具」)に隣接するパソコンに近づき、CAMのような市販のコンピュータ支援モデル化ソフトウェアで生成されるフォーマットで全体工程計画を機械工具にロードする。
2.運転者がチタンのワークピースを機械工具に装填する。
3.運転者が、機械工具の隣のコンピュータ上に開いているユーザインタフェースへ、プロセスステップを入力する。
4.運転者が、以下のものを含む適切なメタデータをユーザインタフェースに入力する。
a.ワークピース材料
b.切削工具のメーカ、型式、タイプ
c.運転の予想サイクルタイム
d.予定の経路送り速度
e.予定のスピンドル速度
f.予想の部品品質測定
5.運転者がプログラムの設定を確認し、加工プロセスを開始する。
6.リアルタイムで次のものに関するデータを機械工具から収集する。
a.音
b.振動
c.消費電力
d.経路送り速度
e.軸荷重
f.スピンドル荷重
g.アラーム
h.状態
i.プログラムのブロックと行
j.経路位置
k.軸位置
l.マクロ変数
7.サーバは、運転者が加工開始時に機械工具の送り速度オーバーライドを125%へ変更することを具体的に取り込む。
8.このデータは、リアルタイムでローカル処理システムに送信され、それからリモートサーバへ送信される。
9.リモートサーバは送信された全データをモニタし、プログラムが完了し、部品が機械工具から外されるまで待機する。
10.運転者は部品加工が終了したことを合図し、近くの計測システムでキーパラメータを測定する。
11.計測データもまた取り込まれて、ローカルサーバとリモートサーバに送信される。
【0049】
データ処理と従来ナレッジの特定
1.この情報がすべて受信されると、リモートサーバが以下の指標を計算する。
a.平均経路送り速度=100インチ/分(2.54m/分)
b.実際の処理時間/予定処理時間=80%
c.実際の品質/予定品質=100%
d.平均スピンドル速度=6000rpm
e.平均使用電力=5kW
f.平均振動=0.1g
2.リモートサーバはこれらのすべてのデータを、入手可能な全履歴データ(「コミュニティ」データ)の中の、同一ワークピース材料に対して同一タイプの機械工具と同一切削工具を用いた5軸機械の他の場合と比較する。
a.コミュニティデータの経路送り速度=80インチ/分(2.03m/分)
b.平均使用電力=8kW
c.平均実際処理時間/予定処理時間=120%
3.上記の値に基づいて、運転者が加工の開始時に機械工具の送り速度オーバーライドを125%へ変更した動作をトライバルナレッジとして記録する。
【0050】
製造性能パラメータからサイクルタイムと平均経路送り速度を求める計算を示すアルゴリズム例を次に示す。
アルゴリズム:部品の平均経路送り速度の計算
入力:
−現在時刻T_nowまでタイムスタンプでインデックスが付けられた、機械工具mからみた経路送り速度の全実測値のベクトルV
−部品pに対して機械が運転開始した時刻T_start
−部品pに対して機械が運転終了した時刻T_end
出力:
−平均経路送り速度f
ステップ:
−T_startからT_endまでの実測値を含む、Vの部分集合vを抽出
−f=mean(v)
−return f
【0051】
送信された運転データと履歴データの比較と、そのデータをトライバルナレッジとしてマークすることを示すアルゴリズム例を次に示す。
アルゴリズム:コミュニティデータとの比較及びトライバルナレッジとしての記録
入力:
−コミュニティからの、すべての時間的インデックスが付けられたデータの集合D。Dは複数の時間インデックス付けされたベクトルd1,...,dNから成り、それぞれがコミュニティからの一つの種類の実測値に属する。
−[機械工具の種類,切削工具の種類,ワークピースの種類]を特定する、検索基準s。
−モニタ中のプロセスからのすべての時間インデックス付けされたデータの集合P。Pは複数の時間インデックス付けされたベクトルp1,...,pNから成り、それぞれがコミュニティからの一つの種類の実測値に属する。
出力:
−ブール変数isImproved
−ブール変数recordastribalknowledge
ステップ:
−D内の各ベクトルdiに対して、
−性能指標dm_iを計算
−end
−P内の各ベクトルpiに対して、
−性能指標pm_iを計算
−end
−if Count(pm_i>dm_i) for all i>N/2
(すべてのi>N/2に対して計数(pm_i>dm_i)であれば、)
−return {islmproved=TRUEとrecordastribalknowledge=TRUE}
−else return {islmproved=FALSEとrecordastribalknowledge=FALSE}
−end
【0052】
トライバルナレッジの展開
1.運転者が5軸高速フライス加工機械工具(「機械工具」)に隣接するパソコンに近づき、CAMのような市販のコンピュータ支援モデル化ソフトウェアで生成されるフォーマットで全体工程計画を機械工具にロードする。
2.運転者がチタンのワークピースを機械工具に装填する。
3.運転者が、機械工具の隣のコンピュータ上に開いているユーザインタフェースへ、プロセスステップを入力する。
4.運転者が、以下のものを含む適切なメタデータをユーザインタフェースに入力する。
a.ワークピース材料
b.切削工具のメーカ、型式、タイプ
c.運転の予想サイクルタイム
d.予定の経路送り速度
e.予定のスピンドル速度
f.予想の部品品質測定
5.運転者がプログラムの設定を確認し、加工プロセスを開始する。
6.リアルタイムで次のものに関するデータを機械工具から収集する。
g.音
h.振動
i.消費電力
j.経路送り速度
k.軸荷重
l.スピンドル荷重
m.アラーム
n.状態
o.プログラムのブロックと行
p.経路位置
q.軸位置
r.マクロ変数
7.このデータは、リアルタイムでローカル処理システムに送信され、それからリモートサーバへ送信される。
8.ユーザインタフェースデータ及び機械からのリアルタイムのデータストリーミングに基づいて、リモートサーバは以下のものを決定する。
s.計画された経路送り速度は50インチ/分(1.27m/分)
t.機械は送り速度のオーバーライド100%で運転中
u.機械工具の現在の送り速度は50インチ/分(1.27m/分)
9.これらのすべてのデータを、入手可能な全履歴データ(「コミュニティ」データ)の中の、同一ワークピース材料に対して同一タイプの機械工具と同一切削工具を用いた5軸機械の他の場合と比較し、関連するトライバルナレッジ:「XYZ性の固体炭化物エンドミルとチタンのワークピースを用いたABC製5軸機械工具上で、負の逆効果なしに送り速度100インチ/分(2.54m/分)で加工プロセスを実行可能である」を特定する。
10.さらにリモートサーバは機械工具上のリアルタイムパラメータを解析し、100%の送り速度のオーバーライドを200%に上げて、運転者を傷つけることなしに、また運転者の安全性に全く影響を与えることなし、100インチ/分(2.54m/分)の送り速度を実現可能であることを特定する。
11.リモートサーバは視覚表示ユニットにメッセージを送信して、送り速度のオーバーライドを200%にして経路送り速度を100インチ/分(2.54m/分)にせよ、と伝える。これで生産性が100%向上する。
【0053】
トライバルナレッジの特定とそれを運転者に教示することを示す、アルゴリズム例を次に示す。
アルゴリズム:特定と運転者への教示
入力:
−コミュニティからのすべての時間インデックス付けされたデータの集合D。Dは複数の時間インデックス付けされたベクトルd1,...,dNから成り、それぞれがコミュニティからの一つの種類の実測値に属する。
−[機械工具の種類,切削工具の種類,ワークピースの種類]を特定する検索基準s。これはモニタ中の製造プロセスの現在の状態に関し、それに対する推奨案が探索される。
−モニタ中のプロセスからのすべての時間インデックス付けされたデータの集合P。Pは複数の時間インデックス付けされたベクトルp1,...,pNから成り、それぞれがコミュニティからの一つの種類の実測値に属する。
出力:
−可変推奨案パラメータ
ステップ:
−コミュニティからの実測値が検索基準sに一致するものだけとなるようにDにフィルタをかける
−D内の各ベクトルdiに対して:
−性能指標dm_iを計算する
−最高性能max(dm_i)の場合に属するbiを計算する
−end
−P内の各ベクトルpiに対して:
−if (bi>pi) biに対応するdm_iを配列Rにコピーする
−end
−if 長さ(R)>0
−return (R)
−else return (0)
−end
図1
図2