(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態について、説明する。
【0011】
<基板>
本実施形態において、基板とは、水、有機溶媒のうち少なくとも一方を含む溶媒と、金属粒子と、絶縁性高分子と、を含有する導電性インクを、基材の所定の領域に塗布し、上記基材に張力を加えながら上記領域に通電し、上記領域を発熱させて、上記金属粒子同士を融着させることにより、導電パターンを有する基板である。
【0012】
導電パターンを有する基板は、例えば、有機ELディスプレイ、太陽電池、電子ペーパー、フレキシブル基板等の電子デバイスに用いられる。
【0013】
<基材>
本実施形態において、上記基板の形成に用いる基材は、使用目的等により、ガラス等の無機基材、各種プラスチック基材が使用可能である。
【0014】
プラスチック基材としては、例えば、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート等の熱可塑性の合成高分子樹脂が挙げられる。耐熱性、機械的特性、熱的特性などの面からポリイミド、ポリアミドイミド、又はポリエステルを用いるのが好ましい。
【0015】
また、基材の形状としては、平板、立体物、フィルム等が挙げられ、フィルム状のものが好適に用いられる。上記合成高分子樹脂からなる樹脂フィルムを用いることで、ロールツーロール方式での製造が可能となり、高い製造効率で生産することができる。
【0016】
これらの基材は、導電性インクを塗布する前に、純水や超音波等を用いて塗布面を洗浄することが好ましい。
【0017】
<導電性インク>
本実施形態において、導電性インクとは、水、有機溶媒のうち少なくとも一方を含む溶媒と、導電性を有する金属粒子と、絶縁性高分子と、を含有するものである。
【0018】
上記導電性インクは、導電性を有する金属粒子と、絶縁性高分子を、水、有機溶媒のうち少なくとも一方を含む溶媒に分散させた液体である。
【0019】
上記導電性インクを、例えば、インクジェット法やスクリーン印刷法等により基材上に塗布して、乾燥後、張力を加えながら通電して、金属粒子含有配線、薄膜等の導電部材とする。
【0020】
上記導電性インクは、金属粒子(A)と、絶縁性高分子(B)と、水、有機溶媒のうち少なくとも一方を含む溶媒(C)と、を含むものであって、該導電性インク中には金属粒子(A)と絶縁性高分子(B)と溶媒(C)の割合(A/B/C)が10質量%〜94質量%/1質量%〜10質量%/5質量%〜80質量%(質量%の合計は100質量%)となるように配合されている。
【0021】
本実施形態において、導電性インクの形態は、エマルジョンでもよいし、サスペンションでもよく、使用する溶媒は、一般に用いられる溶媒であればなんでもよい。
【0022】
また、本実施形態において、基材に塗布する導電性インクは、導電性ペーストや、金属ペーストであってもよい。また、導電性インクとして、例えば、金属粒子含有インク、金属ナノ粒子含有インクを使用できる。特に、銅粒子含有インク、銅ナノ粒子含有インクを好適に使用できる。
【0023】
[金属粒子]
本実施形態の導電性インクに含有される金属粒子は、銅、銀、金、ニッケル、コバルト、鉄、亜鉛、スズ、アルミニウム、ビスマス、白金、ロジウム、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、マンガン、クロム、バナジウム、及びチタンの中から、目的・用途に合わせて適宜選定すればよい。
上記金属粒子のうち、導電性に優れる点で、金、銀及び銅が好ましく、特に、銀に比べマイグレーションの問題が少なく、材料コストも抑えられる点から銅粒子が好ましい。
【0024】
本実施形態における金属粒子の製造方法は、例えば、ポリオール法や不均化反応法等が用いられる。
【0025】
上記金属粒子は、好ましくは平均粒子径が1nm以上500nm以下の金属ナノ粒子であり、より好ましくは、1nm以上300nm以下の金属ナノ粒子であり、特に好ましくは、微細な配線パターンの形成の点から、1nm以上100nm以下の金属ナノ粒子である。
【0026】
特に、上記金属ナノ粒子が銅ナノ粒子であると、微細な配線パターンを形成でき、さらに抵抗値の低減を安定的に行うことができる。
【0027】
本実施形態における金属粒子の「平均粒子径」は、定方向接続径の測定によって求めた粒度分布における積算値50%での粒子径を意味する。粒子径分布はSEM像から無作為に約300個の測定を行い求めることができる。
【0028】
さらに、上記銅粒子または上記銅ナノ粒子は、それらの凝集を抑制するためにハロゲン元素を含有してもよい。ハロゲン元素としてはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのイオン化するものであれば何でもよい。また、ハロゲンイオン源として使用するものは、塩化ナトリウムなどのように水、有機溶媒のうち少なくとも一方を含む溶媒中(以下、「反応溶液」とも云う。)で溶解し、イオンの形で溶液中に分散するものであればどのような物質を使用してもよい。反応溶液中のハロゲンイオン濃度は、好ましくは0.04mmol/L以上であり、さらに好ましくは0.4mmol/L以上である。
【0029】
[絶縁性高分子]
本実施形態において、導電性インクは絶縁性高分子を含有する。この絶縁性高分子は、金属粒子のバインダーとして機能する。
【0030】
なお、上記導電性インクは、金属粒子分散液を用いて調製される。上記絶縁性高分子を、この金属粒子分散液に含有させて、金属粒子の凝集を防止する分散剤の機能を有してもよい。この場合、上記金属粒子は少なくともその表面の一部が上記絶縁性高分子に覆われていればよい。
【0031】
上記絶縁性高分子は、水、有機溶媒のうち少なくとも一方を含む溶媒に対して、溶解性を有するものが好ましい。こうすることで、バインダーとしてインク化の際に溶媒中に金属粒子とともに均一に分散しやすいため、好ましい。
【0032】
上記絶縁性高分子の導電性インク中における存在形態は、溶媒に対して溶解していてもよいし、エマルジョン、またはサスペンションであってもよい。上記絶縁性高分子としては、例えば、疎水性ウレタン、塩化ビニル、ポリアミド及びポリエステル等を用いることもできるが、金属との親和性が高い水溶性高分子が好適に用いられる。
【0033】
本実施形態における水溶性高分子としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース類、デキストリン、デンプン、アルギン酸、キトサンなどの多糖類、アラビアゴムなどの各種天然ゴム、アルブミン、グロブリン、プロラミンなどの単純タンパク質の他、ゼラチン、アルブモース、ペプトン、核タンパク質、糖タンパク質などの各種タンパク質、またはこれらの誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアミンなどのビニル系合成高分子とその誘導体、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリエーテルとその誘導体などが挙げられる。なお、本実施形態に係る水溶性高分子は、天然高分子及びその誘導体、合成高分子及びその誘導体から成る群より選択される1種または2種以上の成分を組み合わせて用いることが好ましい。
【0034】
本実施形態における天然高分子とその誘導体としては、アルギン酸とその誘導体、でんぷんとその誘導体、キトサンとその誘導体の中から1種類以上を組み合わせて用いることが好ましい。
また、本実施形態における合成高分子とその誘導体としては、例えば、ポリビニルピロリドンとその誘導体、ポリビニルアルコールとその誘導体、ポリエチレングリコールとその誘導体の中から1種類以上を組み合わせて使用することが好ましい。特に好ましいのは、銅との親和性が高いポリビニルピロリドンとその誘導体である。
【0035】
[有機溶媒]
本実施形態における有機溶媒は、疎水性溶媒、親水性溶媒のいずれであってもよいが、親水性溶媒を好適に用いることができる。
【0036】
疎水性溶媒としては、一般的にインク等に使用されるものであればよい。例えば、鉱物油、脂肪酸、アルコール、炭化水素などが挙げられる。
【0037】
親水性溶媒としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルカンジオール、グリセリンなどの多価アルコール類、糖アルコール類、エタノール、メタノール、プロパノールなどの低級アルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルなどのグリコールエーテル類、メチルアミン、トリエチルアミンなどの脂肪族アミン類、エタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミン類、N−メチルアセトアミド、N−メチルホルムアミドなどのアミド類等が挙げられる。本実施形態における親水性溶媒としては、これらの中から一種類以上を組み合わせて使用する。また、親水性溶媒としては、好ましくはアルコール類であり、さらには低分子量であり水との親和性があることで水溶性物質との相性も良いメタノールやエタノールなどの低級アルコール類を用いることが好ましい。
【0038】
<基板の製造方法>
本実施形態では、ロールツーロール方式を適用する。ロールツーロール方式とは、巻出ロールから巻き出して所定の加工を施し、その後、再度巻取ロールに巻き取る加工方式をいう。ロールツーロール方式では、各製造装置は互いに連結され、基板は各装置間を連続的に搬送されるので、搬送に伴う手間等を大幅に省くことができる。また、製造ラインの自動化が容易となり、基板等を高い製造効率で生産することができる。
【0039】
本実施形態の基板の製造方法は、導電性インクを基材の所定の領域に塗布する塗布工程と、上記基材に張力を加えながら上記領域に通電し、上記領域を発熱させて、金属粒子同士を融着させ、導電パターンを形成するパターン形成工程と、を有する。これにより、上記基板は、抵抗値が十分に低減され、安定的に製造される。
【0040】
長尺状の上記基材を巻出ロールから巻き出し、上記基材をロールツーロールで搬送しながら上記塗布工程および上記パターン形成工程を実施し、次いで上記基材を巻取ロールに巻き取る工程を有し、上記塗布工程において、上記基材を巻出ロールから巻き出し、上記導電性インクを上記基材の所定の領域に塗布し、上記パターン形成工程において、搬送中の上記基材に張力を加えながら、上記領域に通電し、上記領域を発熱させて、上記金属粒子同士を融着させ、上記導電パターンを形成し、さらに、上記パターン形成工程の後に、上記基材を巻取ロールに巻き取る工程を有する。
【0041】
上記パターン形成工程において、一対の通電ロールが上記基材の搬送中に上記基材と接触し、上記一対の通電ロールのうち、第1の通電ロールに第1の電位を印加し、第2の通電ロールに第2の電位を印加することで、上記領域に通電し、上記領域を発熱させて、上記金属粒子同士を融着させ、上記導電パターンを形成する。
【0042】
上記一対の通電ロールが、上記基材と面接触している。また、上記パターン形成工程において、さらに上記基材を加熱しながら、上記基材に張力を加えながら上記領域に通電する。あるいは、上記パターン形成工程の前に、上記基材を加熱する工程を有し、加熱された上記基材を用いて、上記パターン形成工程を行う。上記パターン形成工程を、不活性ガスまたは還元性ガス下で行う。
【0043】
本実施形態の基板は具体的に以下のように製造される。
図1〜3を用いて詳細に説明する。なお、
図1〜8は、ロール軸方向から見た模式的な断面図である。そして、図面の説明においては、同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0044】
図1は、本実施形態の基板の製造方法を示す模式図である。基材11の搬送路の前後に配設される一対のロール21、22と、このロール間に設置される、インクジェットヘッド41と、ステージ42と、温度制御可能な乾燥炉51と、パターン形成装置31と、を備え、製造された基板の表面を離型シート61で保護する。
【0045】
長尺状の基材11を、巻出ロール21から
図1中の右矢印方向に巻き出し、複数の微細なノズルを有するインクジェットヘッド41を、基材11に対して相対移動させ、インクジェットヘッド41から
図1中の下矢印方向に、ステージ42上の基材11に導電性インクを吐出させることにより、所定の領域に塗布する。
【0046】
基材11に塗布された導電性インク中の不要な溶媒を除去するため、乾燥炉51内を通過させて乾燥させる。乾燥後の基材11を、パターン形成装置31へ搬送する。
【0047】
図2は、本実施形態の加熱通電ロールを用いたパターン形成装置31の詳細な模式図である。パターン形成装置31は、雰囲気制御カバー16で覆われており、パターン形成装置31内に、不活性ガスまたは還元性ガス導入口17から、
図2中の下矢印方向に不活性ガスまたは還元性ガスが導入される。そして、パターン形成装置31において、基材11の入口および出口から、不活性ガスまたは還元性ガスが排出される。不活性ガスまたは還元性ガスの導入、排出が繰り返され、パターン形成装置31内は不活性ガスまたは還元性ガスで満たされている。
【0048】
乾燥後の基材11を、ガイドロール13aで搬送し、加熱通電ロール14a、14bによって加熱し、さらに、加熱通電ロール14a、14bによって送られる送り方向、すなわち機械的送り方向(以下、MD方向という)に張力を加える。
【0049】
図3は、基板の製造時に加わる張力を示す模式図である。張力を示す矢印方向が、MD方向である。ただし、
図3では、一対の加熱通電ロール14a、14bのうち、加熱通電ロール14aのみを示しているが、加熱通電ロール14b上の基材11にも、MD方向に、張力が加わる。
【0050】
基材11に張力を加えながら、加熱通電ロール14a、14bのそれぞれに、第1の電位と第2の電位を印加する。導電性インクに含有される絶縁性高分子の絶縁破壊が起こり、この絶縁破壊と通電による発熱によって、金属粒子同士を融着させ、導電パターンを形成する。そして、ガイドロール13bで搬送し、離型シート61で、形成された導電パターンを保護し、基材11を巻取ロール22に巻き取り、本実施形態の基板の製造方法が実現される。
【0051】
本実施形態の効果を説明する。塗布工程では、インクジェット法を適用しており、微細な配線パターンを形成することができる。
また、導電性インクに含有される絶縁性高分子が、バインダーとして機能するため、基材11を乾燥させて、基材11に塗布された導電性インク中の不要な溶媒を除去すると、金属粒子と絶縁性高分子が結合し、膜の形態を維持することができる。
そして、パターン形成工程において、加熱通電ロール14a、14b間に電圧を印加することで、導電性インクに含有される絶縁性高分子の絶縁破壊が起こり、該絶縁破壊と通電による発熱によって、金属粒子同士を融着することができる。基材11に張力を加えながら通電した後、張力から解放されると、金属粒子同士が凝集して、金属粒子間の隙間が少ない金属薄膜になると考えられる。その結果、抵抗値の低減具合にばらつきがなく、抵抗値が十分に低減された基板を安定的に得ることができる。さらに、基材11を加熱しながら張力を加え、通電すると、抵抗値が十分に低減された基板をより安定的に得ることができる。
【0052】
なお、絶縁破壊は、自由に動き回れる電荷担体をほとんど持たない絶縁体に高電圧を印加することにより、絶縁体内に電荷担体が急増して導体になる構造変化をいう。絶縁性高分子中に印加される電圧により、電流が流れて発熱し(ジュール熱)、放熱を上回ると、絶縁性高分子中の温度が上昇し、高分子構造が変化し破壊に至る。
【0053】
ここで、導電性インクを基材に塗布する塗布量としては、所定の領域の所望する膜厚に応じて適宜調整すればよく、インクジェット法では乾燥後の導電性インクの膜厚が0.01〜10μmの範囲が好ましく、特に好ましくは0.1〜10μmの範囲となるよう塗布すればよい。スクリーン印刷法では、インクジェット法に比べ厚膜化が容易なため、乾燥後の導電性インクの膜厚が0.1〜100μmの範囲が好ましく、特に好ましくは1〜50μmの範囲となるよう塗布すればよい。
【0054】
また、導電性インクを基材に印刷して、導電膜を形成してもよい。この場合、ロールツーロール方式であれば、導電膜を連続的に形成することができる。
【0055】
乾燥炉51での乾燥は、基材の熱変形及び変性、溶媒の沸点等を考慮し、任意の温度と時間で行えばよい。
パターン形成工程における基材11への加熱は、基材の熱変形及び変性等を考慮し、任意の温度で行えばよい。また、パターン形成工程の前に、基材を加熱する工程を有し、加熱された基材を用いて、パターン形成工程を行うこともできる。加熱された基材を用いて、パターン形成工程を行うとき、基材をさらに加熱しながら張力を加え、通電してもよい。
【0056】
パターン形成工程は、金属粒子の酸化を防ぐために、不活性ガスまたは還元性ガス下で行う。不活性ガスとしては、例えば、希ガス、窒素ガス等が挙げられ、希ガスとしては、ヘリウムガス、アルゴンガス等が挙げられる。また、還元性ガスとしては、水素ガス、アンモニアガス等が挙げられる。
【0057】
本実施形態では、張力の程度を適切に設定して、基材11に張力を加える。また、基材11の巻取速度を、巻出速度より速くすることで、基材11に張力を加えることができる。
【0058】
基材11に加える張力は、基材の種類や厚み等に応じても適宜調整する。例えば、基材11がポリイミドフィルムで、平均厚みが3〜200μmである場合、フィルムの歪みを抑制し、かつ、抵抗値を十分に低減する点から、MD方向の張力は100N/m〜400N/mが好ましい。張力は、例えば、ロードセル式のセンサーを用いて測定することができる。
【0059】
パターン形成工程では、加熱通電ロール14a、14bが、
図2のように基材11と面接触する形態であると、加熱通電ロール14a、14bと基材11の接触面積が大きく、通電を効率的に行うことができる。
【0060】
加熱通電ロール14a、14bが基材11と面接触するような形態は、
図2に限定されない。加熱通電ロールやガイドロールを何本用いてもよく、これらのロールがどのような形態で配設されてもよい。
【0061】
通電は、所定の領域に所定の電圧を印加して行うことができる。また、所定の領域に電気的に導通させて行うこともでき、さらに、所定の領域を電気的に接続させて行うこともできる。なお、通電は、直流電圧を印加してもよいし、変圧器を用いて交流電圧を印加してもよい。
【0062】
通電による発熱温度は、基材が熱変形及び変性せず、導電パターンが形成されるような温度となるように、印加する電圧、電流を適宜調整して印加すればよい。また、所定の領域に通電し、この領域を、局所的に、金属粒子の融点以上の温度に加熱することもできる。
【0063】
また、本実施形態は、所定の領域に、通電加熱(ジュール加熱)をして、金属粒子同士を融着させてもよい。すなわち、上記融着は、金属粒子を溶融し、金属粒子同士を結合(接合)させてもよい。上記融着は、球状の金属粒子を熱によって変形させ、金属粒子同士を面接触させて結合させてもよい。
【0064】
本発明による基板の製造方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【0065】
図4は、
図2に示したパターン形成装置31の第1の変形例を示す模式図である。乾燥後の基材11を、パターン形成装置31内の加熱ヒーター18を用いて予備加熱し、その後、ガイドロール13aで搬送し、一対の通電ロール19a、19bで張力を加えながら通電する。予備加熱をすると、抵抗値が十分に低減された基板をさらに安定的に得ることができる。また、加熱ヒーター18を用い、ヒーターに接触することなく基板11を加熱することで、インク塗布面12の損傷が少ない。
【0066】
図5は、
図2に示したパターン形成装置31の第2の変形例を示す模式図である。乾燥後の基材11を、同期して回転するガイドロール13aと加熱ロール20を用いて、予備加熱しながら搬送する。こうすることによって、
図4の加熱ヒーター18より省スペースで予備加熱を行うことができる。
【0067】
図6は、
図2に示したパターン形成装置31の第3の変形例を示す模式図である。
図4が、パターン形成工程において、一対の通電ロール19a、19bを適用した例であったのに対し、
図6は、同期して回転する一対のロールを適用した例である。同期して回転する一対のロールを2箇所配設し、この一対のロールのうち、インク塗布面12に接触するロールが通電ロール19c、19dで、基材側に接触するロールがガイドロール13c、13dとなっている。このとき通電ロール19c、19dは、基材11と線接触している。これにより、基材11を連続的に搬送でき、搬送中の基材11に張力を加えながら通電し、導電パターンを形成することができる。
【0068】
図7は、
図2に示したパターン形成装置31の第4の変形例を示す模式図である。
図5が同期して回転するガイドロール13aと加熱ロール20で予備加熱しながら搬送し、さらに一対の通電ロール19a、19bを適用した例であったのに対し、
図7は、加熱ロール20で予備加熱しながら搬送し、さらに同期して回転する一対のロールを適用して通電した例である。
【0069】
図8は、
図1に示した塗布工程の変形例を示す模式図である。
図1が塗布工程においてインクジェット法を適用した例であったのに対し、
図8は、スクリーン印刷法を適用した例である。所定のパターンの開口部を有するマスク45を用いて、導電性インクを基材11へ供給する。マスク45の周りを引っ張った状態で版枠44に固定し、マスク45を基材11上の所定の領域内に配置し、そのマスク45上に適量の導電性インクを供給する。次に、スキージ装置43を導電性インクが供給されたマスク45に押し付けながら移動させることにより、導電性インクを基材11に塗布することができる。導電性インクを塗布後、マスク45は基材11から除去され、導電パターンが形成される。
【0070】
本実施形態において、導電性インクを基材に塗布する方法としてインクジェット法とスクリーン印刷法を適用したが、そのほかに、例えば、ディップコーティング法、スプレー塗布法、スピンコーティング法、ディスペンサーでの塗布法等が挙げられる。特に微細な配線パターンを形成するために、インクジェット法またはスクリーン印刷法が好ましい。
【0071】
そして、本実施形態において、導電性インク中の不要な溶媒を除去する方法として乾燥炉を適用したが、ロールの外周面を加熱する方法等も用いることができる。
【0072】
基材11に張力を加えながら通電する方法は、
図1〜8に限定されない。ガイドロール、加熱通電ロールおよび通電ロールは、何本用いてもよく、どのような形態で配設されてもよい。また、MD方向の両端部を把持グリップで把持し、MD方向に張力を加えながら、導電性インクが塗布された所定の領域の両端に、複数の電極を接続し、電圧を印加して、通電することもできる。
【0073】
また、基材に導電性インクを塗布した後、基材の搬送中にインク塗布面を摩擦等によって損傷しないように、ガイドロール、加熱通電ロールまたは通電ロールの表面粗さや、基材搬送速度などを適宜調整してもよい。
【0074】
基材として導電性材料を用いるときは、基材に導電性インクを塗布した後に、インク塗布面を損傷しないように、ガイドロール、加熱通電ロールまたは通電ロールが、基材側にのみ接触するように、ロールを配設することもできる。
【0075】
さらに、本実施形態において、基材を搬送する方法としてロールツーロール方式を適用したが、枚葉方式でもよい。
基板を一枚ずつ製造する枚葉方式の場合、例えば、該基材のMD方向の両端部を把持グリップで把持し、MD方向に張力を加えながら、導電性インクが塗布された所定の領域の両端に、複数の電極を接続し、直流電圧を印加して、通電することができる。
以下、参考形態の例を付記する。
<1>
所定の導電パターンを有する基板の製造方法であって、
水、有機溶媒のうち少なくとも一方を含む溶媒と、金属粒子と、絶縁性高分子と、を含有する導電性インクを、基材の所定の領域に塗布する塗布工程と、
前記基材に張力を加えながら前記領域に通電し、前記領域を発熱させて、前記金属粒子同士を融着させ、導電パターンを形成するパターン形成工程と、
を有する、
基板の製造方法。
<2>
<1>記載の基板の製造方法であって、
長尺状の前記基材を巻出ロールから巻き出し、前記基材をロールツーロールで搬送しながら前記塗布工程および前記パターン形成工程を実施し、次いで前記基材を巻取ロールに巻き取る工程を有し、
前記塗布工程において、前記基材を前記巻出ロールから巻き出し、前記導電性インクを前記基材の所定の領域に塗布し、
前記パターン形成工程において、搬送中の前記基材に張力を加えながら、前記領域に通電し、前記領域を発熱させて、前記金属粒子同士を融着させ、前記導電パターンを形成し、
さらに、前記パターン形成工程の後に、前記基材を前記巻取ロールに巻き取る工程を有する、
基板の製造方法。
<3>
<2>記載の基板の製造方法において、
前記パターン形成工程において、一対の通電ロールが前記基材の搬送中に前記基材と接触し、前記一対の通電ロールのうち、第1の通電ロールに第1の電位を印加し、第2の通電ロールに第2の電位を印加することで、前記領域に通電し、前記領域を発熱させて、前記金属粒子同士を融着させ、前記導電パターンを形成する、
基板の製造方法。
<4>
<3>に記載の基板の製造方法において、
前記一対の通電ロールが、前記基材と面接触している、
基板の製造方法。
<5>
<1>乃至<4>のいずれか一に記載の基板の製造方法において、
前記パターン形成工程において、さらに前記基材を加熱しながら、前記基材に張力を加えながら前記領域に通電する、
基板の製造方法。
<6>
<1>乃至<4>のいずれか一に記載の基板の製造方法において、
前記パターン形成工程の前に、前記基材を加熱する工程を有し、
加熱された前記基材を用いて、前記パターン形成工程を行う、
基板の製造方法。
<7>
<1>乃至<6>のいずれか一に記載の基板の製造方法において、
前記パターン形成工程を、不活性ガスまたは還元性ガス下で行う、
基板の製造方法。
<8>
<1>乃至<7>のいずれか一に記載の基板の製造方法において、
前記基材は樹脂フィルムである、基板の製造方法。
<9>
<1>乃至<8>のいずれか一に記載の基板の製造方法において、
前記金属粒子は、平均粒子径が1nm以上500nm以下の金属ナノ粒子である、
基板の製造方法。
<10>
<1>乃至<9>のいずれか一に記載の基板の製造方法において、
前記金属粒子が銅粒子である、基板の製造方法。
<11>
<10>記載の基板の製造方法において、
前記銅粒子がハロゲン元素を含む、基板の製造方法。
<12>
<1>乃至<11>のいずれか一に記載の基板の製造方法において、
前記絶縁性高分子が水溶性高分子である、基板の製造方法。
【実施例】
【0076】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0077】
以下の実施例において、金属原料として亜酸化銅粉(関東化学株式会社製、酸化銅(I),3N、平均粒子径1μm)を使用し、硫酸としては濃度96%の濃硫酸(関東化学株式会社製、硫酸特級)を使用し、ハロゲンイオン源としては塩化ナトリウム(和光純薬工業(株)製、試薬特級)を使用し、絶縁性高分子としてはポリビニルピロリドンK25(和光純薬工業(株)製、和光特級)を使用し、溶媒としては蒸留水を使用した。
【0078】
[実施例1]
(1)導電性インクの調製
特開2012−138349号公報の実施例1に記載の導電性インクの作製方法に従って、下記の手順で行った。
はじめに水溶性高分子(バインダーとして機能し、さらに分散剤としても機能する)で表面の一部が覆われた銅微粒子を次の手順で調製した。銅微粒子の原料として酢酸銅((CH
3COO)
2Cu・1H
2O)0.2gを蒸留水10mlに溶解させた酢酸銅水溶液10mlと、金属イオン還元剤として5.0mol/リットル(L)となるように水素化ホウ素ナトリウムと蒸留水とを混合した水素化ホウ素ナトリウム水溶液100mlを調製した。その後、上記水素化ホウ素ナトリウム水溶液に、水溶性高分子としてポリビニルピロリドン(PVP、数平均分子量約3500)0.5gを添加して、攪拌溶解させた後、窒素ガス雰囲気中で、上記酢酸銅水溶液10mlを滴下した。
【0079】
この混合液を約60分間よく攪拌しながら反応させた結果、平均一次粒子径5〜10nmの銅微粒子が水溶液中に分散した微粒子分散液が得られた。次に、上記方法で得られた銅微粒子が分散した分散液100mlに、凝集促進剤としてクロロホルムを5ml添加してよく攪拌した。数分間攪拌した後、反応液を遠心分離機に入れ、銅微粒子を沈殿回収した。その後、得られた銅微粒子と30mlの蒸留水とを試験管に入れ、超音波ホモジナイザーを用いてよく攪拌した後、遠心分離機で銅微粒子成分を回収する水洗浄を3回、続いて、同じく試験管中で、得られた銅微粒子と30mlの1−ブタノールとを入れよく攪拌した後、遠心分離機で銅微粒子を回収するアルコール洗浄を3回行った。以上の工程により回収された銅微粒子を、混合有機溶媒としてN−メチルアセトアミド60体積%、トリエチルアミン2体積%、1−プロパノール10体積%、及びエチレングリコール28体積%からなる混合有機溶媒10mlに分散させ、1時間、超音波ホモジナイザーを用いて分散液中に超音波振動を与えることで調製した導電性インクを調製した。
【0080】
得られた導電性インク中の銅微粒子を、走査型電子顕微鏡(以下、SEMと記載。(株)日立製作所製、FE−SEM S−4700)で観察したところ、この銅微粒子の平均粒子径は9nmであった。尚、銅微粒子の粒子径は、SEM観察(撮影倍率25万倍)において、視野から約300個の粒子を無作為に選択して測定した。
【0081】
(2)塗布工程
基材であるポリイミドフィルム上に、上記(1)で調製した導電性インクを、1kHz〜50kHzでノズル開口50μmのインクジェットヘッドから吐出し、ライン幅5000μm及び500μmの各ライン2本ずつを該基材に塗布した。ライン長は6cmであった。
【0082】
(3)乾燥工程
上記(2)において基材に塗布された導電性インク中の不要な溶媒を除去するため、窒素雰囲気下、150℃の乾燥炉内で1時間乾燥させた。銅微粒子と水溶性高分子が結合し、膜の形態を維持したものが得られた。
【0083】
(4)予備加熱工程
上記(3)で得られた基材を、170℃に設定した加熱ヒーターで予備加熱した。
【0084】
(5)パターン形成工程
窒素雰囲気下、常温において、上記(4)で得られた基材のMD方向の両端部を把持グリップで把持して、MD方向に張力200N/mを加えながら、直流電圧を印加した。印加時の電圧及び電流は、5000μmのラインでは約3V,1.1A〜約4V,2.0A、500μmのラインでは約3V,0.1A〜約4V,2.0Aであった。ライン幅5000μmの通電前後を、それぞれ実験番号1,2、ライン幅500μmの通電前後を、それぞれ実験番号3,4とし、表1に結果を示す。
【0085】
[実施例2]
実施例1において、以下の手順で作製した導電性インクを用いて、スクリーン印刷法によって基材に塗布を行った以外は、実施例1と同様にして行った。実験番号を5,6として表1に結果を示す。また、得られた基板表面(実験番号6)のSEM写真図を
図9に示す。
(1)導電性インクの調製
まず、200mlビーカーに純水60.0gを入れ、マグネチックスターラーで攪拌を開始した。この純水に対し、塩化ナトリウムを0.05g(0.85mmol)、アルギン酸プロピレングリコールを0.3gおよび亜酸化銅を10.0g加え、攪拌することにより亜酸化銅粉スラリーを得た。
また、100mlビーカーに純水20.0gを入れ、濃硫酸25.0gを添加することにより希硫酸を調整した。
次に、室温(加熱又は冷却なし)において、撹拌しつづけている亜酸化銅粉スラリーに対し、希硫酸を30秒かけて混合した。なお、希硫酸の添加方法は、ビーカーから直接滴下して混合する方法を用いた。亜酸化銅粉スラリーに希硫酸を混合した後、1時間撹拌を続けることにより銅微粒子を析出させた。得られた銅微粒子を、SEMで観察したところ、この銅微粒子の平均粒子径は270nmであった。尚、銅微粒子の粒子径は、SEM観察(撮影倍率2万5千倍)において測定した。
得られた銅微粒子をイオン交換水中に再分散させた後、遠心分離を行うことで、銅微粒子を回収した。次に、回収した銅微粒子の洗浄を行った。洗浄後、銅微粒子を秤量し、銅濃度が85重量%になるように、トリエタノールアミン15重量%を添加し、乳鉢を用いて混錬することにより導電性インクを得た。
(2)塗布工程以降は、実施例1と同様にして行った。
【0086】
[比較例1]
実施例1において、張力を加えない以外は、実施例1と同様に行なった。実験番号7〜10とし、表1に結果を示す。
【0087】
[評価方法]
抵抗値の測定は、日置電機株式会社製のミリオームハイテスター3540により、四端子法により測定を行った。
シート抵抗(10
−3Ω)は、抵抗値(Ω)×ライン幅(cm)÷ラインの長さ(cm)で求めた。体積抵抗値(μΩ・cm)は、シート抵抗(10
−3Ω)×ラインの厚さ(cm)で求めた。
【0088】
【表1】
【0089】
表1の実験番号1〜6より、張力を加えながら通電することで、
図9のように金属粒子間の隙間が少ない金属薄膜を得ることができ、体積抵抗値が通電前後で十分に低減した。また、表1の数値は、n=3の平均値であり、体積抵抗値の低減具合にばらつきはなかった。一方、実験番号7〜10の比較例1では、金属粒子間の隙間が多く、良好な金属薄膜を得ることができなかった。また、体積抵抗値の低減具合は悪く、ばらつきがあった。