(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
回転軸に固定されたボトムプレートと、該ボトムプレートの外周に基部が固定された複数のブレードと、前記ボトムプレートと同軸的に設けられ、前記ブレードの先端部を連結する環状のリムとから成るファンと、
該ファンを収納すると共に、前記回転軸の軸方向一端側に吸込口を有するスクロールケーシングと、
該スクロールケーシング内における前記ファンの周囲に構成された渦巻状流路と、
該渦巻状流路の巻き終わりから巻き始めへの空気の流入を抑制する舌部とを備え、
前記舌部の前記回転軸の軸方向他端側の部分は、当該回転軸の軸方向他端側に向かうに従って前記ファンの反回転方向に張り出す寸法が増大するよう傾斜しており、前記舌部の前記回転軸の軸方向における寸法をH、前記舌部の前記回転軸の軸方向他端側の端部から張り出し始める点までの前記回転軸の軸方向における寸法をZ1とした場合に、
0.1≦Z1/H≦0.4
とされていることを特徴とする遠心送風機。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ファンから吹き出される空気がこの舌部に衝突する際に発生する騒音が問題となっている。その理由を
図8の模式図で説明する。ファンから流出した空気の速度分布を見ると、一般的に電動モータ側(
図8中LWRで示すボトムプレート側)の速度の方が高くなる。また、ファンから流出する空気の流れには、多くの渦が含まれているので、この渦が舌部に衝突した際に騒音が発生することになる。
【0006】
一方、先端が電動モータの回転軸と平行とされた通常の舌部100の場合、舌部100の吸込口側(
図8にUPRで示す)の隅100Aと、電動モータ側(LWR)の隅100Bには、よどみ領域が存在している。そのため、ファンから流出する空気の流れとこのよどみ領域との干渉によるせん断乱れや、2次流れによる騒音が発生するので、上述した渦による騒音とあいまって、舌部に起因する騒音が全体として増大する問題があった。
【0007】
また、ベルマウスからファンに空気が流入する際の騒音も問題である。それを
図14の模式図で説明する。
図14において、回転軸の一端側におけるスクロールケーシング101に形成された吸込口102の周囲にはベルマウス103が形成されており、ファン104の回転によりこのベルマウス103から流入した空気の流れは、ブレード106の下方(電動モータ側)に向かって流れ、集中する。
【0008】
他方、ブレード106の上方(吸込口側)では、ベルマウス103の先端における剥離により、ブレード106への流入は殆ど無く、よどんだ状態となる(
図14)。そのため、ブレード106の下方に集中した空気の流れは局所的に流速が高い分布となる。そして、この種遠心送風機の場合、空気の流速の6乗に比例して騒音が大きくなる(Lighthillの理論)。
【0009】
本発明は、係る従来の技術的課題を解決するためになされたものであり、スクロールケーシングに形成された舌部やベルマウスの形状に起因する騒音を効果的に抑制することができる遠心送風機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、請求項1の発明の遠心送風機は、回転軸に固定されたボトムプレートと、このボトムプレートの外周に基部が固定された複数のブレードと、ボトムプレートと同軸的に設けられ、ブレードの先端部を連結する環状のリムとから成るファンと、このファンを収納すると共に、回転軸の軸方向一端側に吸込口を有するスクロールケーシングと、このスクロールケーシング内におけるファンの周囲に構成された渦巻状流路と、この渦巻状流路の巻き終わりから巻き始めへの空気の流入を抑制する舌部とを備え、舌部の回転軸の軸方向他端側の部分は、当該回転軸の軸方向他端側に向かうに従ってファンの反回転方向に張り出す寸法が増大するよう傾斜して
おり、舌部の回転軸の軸方向における寸法をH、舌部の回転軸の軸方向他端側の端部から張り出し始める点までの回転軸の軸方向における寸法をZ1とした場合に、0.1≦Z1/H≦0.4としたことを特徴とする。
【0011】
請求項2の発明の遠心送風機は、上記発明においてZ1/H=0.2としたことを特徴とする。
【0012】
請求項3の発明の遠心送風機は、上記各発明において舌部の回転軸の軸方向一端側の部分も、当該回転軸の軸方向一端側に向かうに従ってファンの反回転方向に張り出す寸法が増大するよう傾斜していることを特徴とする。
【0013】
請求項4の発明の遠心送風機は、上記発明において舌部の回転軸の軸方向における寸法をH、舌部の回転軸の軸方向他端側の端部から舌部の回転軸の軸方向一端側において張り出し始める点までの回転軸の軸方向における寸法をZ2とした場合に、0.4≦Z2/H≦0.9としたことを特徴とする。
【0014】
請求項5の発明の遠心送風機は、上記発明においてZ2/H=0.6としたことを特徴とする。
【0015】
請求項6の発明の遠心送風機は、上記各発明において舌部の端部及び張り出し始める点の角部を、滑らかに湾曲させたことを特徴とする。
【0016】
請求項7の発明の遠心送風機は、上記各発明において吸込口周囲のスクロールケーシングには起立壁が形成され、この起立壁の吸込口側の面はベルマウス状に湾曲されており、回転軸の軸中心からブレードの内端までの寸法をRf1、回転軸の軸中心から起立壁の吸込口側の面の先端までの寸法をR1、回転軸の軸中心から起立壁の吸込口側の面の内端までの寸法をR2とした場合に、0.95≦R1/Rf1≦1.05、且つ、0.94≦R2/R1≦1としたことを特徴とする。
【0017】
請求項8の発明の遠心送風機は、
上記発明においてR1/Rf1=1、且つ、R2/R1=1としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明によれば、回転軸に固定されたボトムプレートと、このボトムプレートの外周に基部が固定された複数のブレードと、ボトムプレートと同軸的に設けられ、ブレードの先端部を連結する環状のリムとから成るファンと、このファンを収納すると共に、回転軸の軸方向一端側に吸込口を有するスクロールケーシングと、このスクロールケーシング内におけるファンの周囲に構成された渦巻状流路と、この渦巻状流路の巻き終わりから巻き始めへの空気の流入を抑制する舌部とを備えた遠心送風機において、舌部の回転軸の軸方向他端側の部分を、当該回転軸の軸方向他端側に向かうに従ってファンの反回転方向に張り出す寸法が増大するよう傾斜させたので、舌部の回転軸の軸方向他端側における隅に生じるよどみ領域が消滅し、それにより発生するせん断乱れや2次流れによる騒音を低減することが可能となる。
【0019】
特に、舌部の回転軸の軸方向における寸法をH、舌部の回転軸の軸方向他端側の端部から張り出し始める点までの回転軸の軸方向における寸法をZ1とした場合に、0.1≦Z1/H≦0.4と
しているので、効果的に騒音を低減でき、
請求項2の発明の如くZ1/H=0.2とすることで、より効果的な騒音低減を図ることができるようになる。
【0020】
また、
請求項3の発明の如く舌部の回転軸の軸方向一端側の部分も、当該回転軸の軸方向一端側に向かうに従ってファンの反回転方向に張り出す寸法が増大するよう傾斜させれば、舌部の回転軸の軸方向一端側における隅に生じるよどみ領域も消滅させて一層の騒音低減を図ることができるようになる。
【0021】
この場合、
請求項4の発明の如く舌部の回転軸の軸方向における寸法をH、舌部の回転軸の軸方向他端側の端部から舌部の回転軸の軸方向一端側において張り出し始める点までの回転軸の軸方向における寸法をZ2とした場合に、0.4≦Z2/H≦0.9とすれば、より効果的に騒音を低減でき、
請求項5の発明の如くZ2/H=0.6とすることで、最も効果的な騒音低減を実現することが可能となる。
【0022】
更に、
請求項6の発明の如く舌部の端部及び張り出し始める点の角部を、滑らかに湾曲させれば、より一層の騒音低減が期待できる。
【0023】
また、
請求項7の発明によれば、吸込口周囲のスクロールケーシングに起立壁が形成され、この起立壁の吸込口側の面はベルマウス状に湾曲されており、回転軸の軸中心からブレードの内端までの寸法をRf1、回転軸の軸中心から起立壁の吸込口側の面の先端までの寸法をR1、回転軸の軸中心から起立壁の吸込口側の面の内端までの寸法をR2とした場合に、0.95≦R1/Rf1≦1.05、且つ、0.94≦R2/R1≦1としたので、ファンの回転により吸込口から流入する空気は、コアンダ効果により起立壁の吸込口側のベルマウス状の面に沿って流入し、ブレードの回転軸の軸方向一端側に流入し易くなる。
【0024】
これにより、ブレードの回転軸の軸方向他端側に流入空気が集中することが無くなり、各ブレード間で当該ブレードの回転軸の軸方向に対して空気の流速が均一化されるようになる。従って、局所的に高い速度が解消されるので、騒音が低減される。
【0025】
尚、R1/Rf1を大きくすれば騒音は低下するものの、遠心送風機の運転効率が低下する状況となるが、
請求項8の発明の如くR1/Rf1=1、且つ、R2/R1=1とすれば、運転効率も良好な状態に維持することが可能となるものである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。実施例の遠心送風機1は、車両用空調装置の送風ユニットに用いられるもので、図示しない内外気切換ダンパと熱交換器(蒸発器)との間に配置されるものである。
【0028】
図1乃至
図4において、遠心送風機1は、駆動手段となる電動モータ2とこの電動モータ2によって回転駆動される円筒状のファン3と、スクロールケーシング4から構成される。ファン3はボトムプレート6を有し、ボトムプレート6の中央には、ファン3の軸線方向に膨出した略円錐状のコーン部6Aが形成されている。このコーン部6Aの中央にはボス部6Bが形成されており、このボス部6Bは、電動モータ2の回転軸7に嵌合されている。
【0029】
ボトムプレート6の外周部は鍔状を呈し、この外周部上には複数のブレード(翼)8の基端が固定されている。これらのブレード8は、電動モータ2の回転軸7を中心とした同心上に配列されており、実施例の場合各ブレード8は電動モータ2の回転軸7と平行に延在している。これらのブレード8の間には所定の間隔が確保されており、ブレード8の先端部はボトムプレート6と同軸的に設けられた環状のリム9によって連結されている。
【0030】
そして、このファン3は、例えば硬質樹脂製の前記スクロールケーシング4内に収納されており、スクロールケーシング4は、前記送風ユニットのダクトの一部を構成する。即ち、スクロールケーシング4は、吸込口11、吹出口12及び内部の流路を有し、この内部の流路中にファン3は介挿されている。
【0031】
スクロールケーシング4はファン3の径方向に位置する外周壁13を有し、吹出口12はこの外周壁13の端部にて開口している。
図1、
図2、
図4に示すように外周壁13は、所定の螺旋状に延在するスクロール壁部14を備え、このスクロール壁部14は、螺旋の巻き始めからファン3の回転方向への角度が増大するに従って回転軸7の中心(ファン3の中心)からの径方向の距離が徐々に拡大するように湾曲している。
【0032】
更に外周壁13は、螺旋の巻き始めに位置する舌部16と、この舌部16の外側に連続する平面部17と、螺旋の巻き終わりに連続する接線部18を備え、この接線部18と平面部17の端部の間に前記吹出口12が形成されている。外周壁13はファン3の周囲に螺旋状に延在する渦巻状流路19を画成し、この渦巻状流路19はスクロールケーシング4内部の流路の一部を構成する。
【0033】
また、外周壁13とファン3との間の径方向の距離は、舌部16において最も小さくなり、舌部16は渦巻状流路19の上流端に位置してこの渦巻状流路19の巻き終わりから巻き始めへの空気の流入を抑制する役割を果たす。尚、この舌部16の詳細については後述する。そして、この渦巻状流路19の巻き終わりの下流端に前記吹出口12が位置する。
【0034】
また、スクロールケーシング4は
図1乃至
図3に示すように回転軸7の軸方向一端側(先端側)に位置する第1端壁21と、回転軸7の軸方向他端側(電動モータ2側)に位置する第2端壁22を備えており、外周壁13はこれら第1端壁21及び第2端壁22の外縁間に渡り、それらと共に前記渦巻状流路19を形成する。
【0035】
電動モータ2側の第2端壁22は、ファン3の軸線(回転軸7の軸方向)に直交する平面に平行な壁であり、ファン3の軸線方向から見てファン3のボトムプレート6の近傍に位置している。第2端壁22には電動モータ2の本体23が嵌合するモータ取付孔24が形成されており、このモータ取付孔24を囲む第2端壁22の壁がファン3のボトムプレート6と対向し、それに連続する渦巻状流路19の下流側に位置する壁が接線部18と平面部17間に渡っている。
【0036】
一方、回転軸7の軸方向一端側に位置する第1端壁21には前記吸込口11が形成されており、この吸込口11はファン3と同軸に位置している。この吸込口11の周囲には、第1端壁21からファン3より離間する方向に略垂直(回転軸7の軸方向)に起立した後、吸込口11側に折り返された形状の起立壁26が形成されており、この起立壁26の吸込口11側の面は、ベルマウス状に湾曲されている。以下、この湾曲する部分をベルマウス27と称する。そして、このベルマウス27の内側に吸込口11が構成され、その内径はリム9の内径よりも少許小さく設定される。尚、このベルマウス27の詳細についても後述する。
【0037】
また、第1端壁21の回転軸7の軸方向における高さ(第2端壁22との間の距離)は、
図1乃至
図3に示すように渦巻状流路19の巻き始めから吹出口12に向かって徐々に拡大するように所定の角度で傾斜している。これにより、渦巻状流路19の流路断面積が、上流(巻き始め)から下流(巻き終わり)に向けて徐々に拡大するように構成されている。
【0038】
そして、遠心送風機1の電動モータ2に電力が供給されると、電動モータ2はファン3を
図4中時計回りに回転駆動する。ファン3が駆動されてブレード8が回転すると、ブレード8は各ブレード8間に規定された間隔内の空気を径方向外側に押し出す。これにより、ファン3の径方向内側から間隔を通じて径方向外側に向かう空気流が生成される。この空気流の生成に伴い、スクロールケーシング4内には吸込口11のベルマウス27を経て空気が流入し、この流入した空気はファン3のブレード8間の間隔、渦巻状流路19及び吹出口12を経てスクロールケーシング4の外部に流出する。
【0039】
このとき、渦巻状流路19の巻き始めには舌部16が存在し、外周壁13とファン3との間の径方向の距離は、この舌部16において最も小さく設定されているので、渦巻状流路19の巻き終わりから巻き始めへの空気の流入が抑制される。これにより、巻き終わり側と巻き始め側との間で多くの空気が流通することによる送風量の低下と比騒音の増大が解消されることになる。
【0040】
ここで、吸込口11のベルマウス27から流入した空気はファン3のブレード8のボトムプレート6に向かって流れて集中するため、ファン3から流出する空気の流速は、第1端壁21側より第2端壁22側が高い傾向となる。但し、ファン3から流出する空気の流速は周方向の成分と径方向の成分を有しており、そのうち周方向の成分は、第1端壁21側で高く、第2端壁22側で低い傾向となる。また、径方向の成分は、第2端壁22側で高く、第1端壁21側では低くなる。
【0041】
このような状況から、スクロールケーシング4内の渦巻状流路19には第2端壁22から外周壁13に沿って第1端壁21に向かう2次流れが発生するが、実施例のようにスクロールケーシング4の第1端壁21は、渦巻状流路19の流路断面積が上流から下流に向かって徐々に拡大されるように傾斜しているので、渦巻状流路19におけるファン3の周方向での流速が第1端壁21側で抑制される。これにより、流速は第1端壁21側と第2端壁22側との間で略等しくなり、第2端壁22から第1端壁21に向かう2次流れが抑制され、渦巻状流路19の軸線方向(回転軸7の軸方向)での流れが安定し、騒音が低減され、効率の向上も図られることになる。尚、計測した結果、係る形状のスクロールケーシング4による比騒音の低減量は−1.0dBであった。
【0042】
(舌部16の形状)
次に、
図5乃至
図9を用いて、実施例のスクロールケーシング4の舌部16の形状について説明する。発明者は舌部16における騒音を低減するために、その形状について検証した。
図5は
図4のA−A線断面図を示しており、
図6及び
図7は検証結果を示している。また、
図9は検証結果を説明するための模式図である。
【0043】
前述した如くファン3から流出する空気の速度分布は、電動モータ2側(
図8や
図9中にLWRで示すボトムプレート6側)の速度の方が高くなる。また、ファン3から流出する空気の流れには、多くの渦が含まれているので、この渦が舌部16に衝突した際に騒音が発生する。また、
図8に示すような先端が電動モータ2の回転軸7と平行とされた通常の舌部100であった場合、舌部100の吸込口側(
図8にUPRで示す)の隅100Aと、電動モータ2側(LWR)の隅100Bによどみ領域が生じる。そのため、ファン3から流出する空気の流れとこのよどみ領域と干渉によるせん断乱れや、2次流れによる騒音が発生するので、上述した渦による騒音とあいまって、舌部16に起因する騒音が全体として増大してしまう。
【0044】
そこで、先ず舌部16の第2端壁22側(回転軸7の軸方向他端側)の部分に、当該第2端壁22側に向かうに従ってファン3の反回転方向(
図4中反時計回りの方向)に張り出す寸法が増大するように傾斜した第1張出部16Aを形成してみた。そして、この第1張出部16Aの形状を変更した場合の比騒音を計測した。尚、形状の変更に当たり、
図5中に示すように舌部16の回転軸7の軸方向における寸法をH(即ち、舌部16の回転軸7の軸方向における全体寸法)、舌部16の第2端壁22側(回転軸7の軸方向他端側)の端部P1から当該第2端壁22側で張り出し始める点P2までの回転軸7の軸方向における寸法をZ1(即ち、第1張出部16Aの回転軸7の軸方向における寸法)とした。
【0045】
そして、上記舌部16の回転軸7の軸方向における全体寸法Hに対する第1張出部16Aの回転軸7の軸方向における寸法Z1の比Z1/Hを変化させた場合の比騒音の変化を計測した。その結果が
図6に示されている。第1張出部16Aを形成することで、
図9にLWRで示す電動モータ2側の隅におけるよどみ領域(
図8の100B)が消滅するため、比騒音はZ1/H=0の場合に比して低下するが、0.1以上0.4以下(0.1≦Z1/H≦0.4)の範囲で特に良好となり、Z1/H=0.2のときに最も比騒音は小さくなり、−0.45dBになることが分かった。そこで、本発明ではZ1/Hを0.2に設定した。
【0046】
次に、係る第1張出部16Aを形成すること無く、舌部16の第1端壁21側(回転軸7の軸方向一端側)の部分に、当該第1端壁21側に向かうに従ってファン3の反回転方向(
図4中反時計回りの方向)に張り出す寸法が増大するように傾斜した第2張出部16Bを形成してみた。そして、同様にこの第2張出部16Bの形状を変更した場合の比騒音を計測した。尚、形状の変更に当たり、
図5中に示すように舌部16の第2端壁22側(回転軸7の軸方向他端側)の端部P1から第1端壁21側で張り出し始める点P3までの回転軸7の軸方向における寸法をZ2(即ち、舌部16の回転軸7の軸方向における全体寸法−第2張出部16Bの回転軸7の軸方向における寸法)とした。
【0047】
そして、上記舌部16の回転軸7の軸方向における全体寸法Hに対するZ2(舌部16の回転軸7の軸方向における全体寸法−第2張出部16Bの回転軸7の軸方向における寸法)の比Z2/Hを変化させた場合の比騒音の変化を計測した。その結果が
図7に示されている。第2張出部16Bを形成することで、
図9にUPRで示す吸込口11側の隅におけるよどみ領域(
図8の100A)が消滅するため、比騒音はZ2/H=1の場合に比して低下するが、0.4以上0.9以下(0.4≦Z2/H≦0.9)の範囲で特に良好となり、Z2/H=0.6のときに最も比騒音は小さくなり、−0.48dBになることが分かった。そこで、本発明ではZ2/Hを0.6に設定した。
【0048】
そして、
図5に示す実施例の如く上記第1張出部16A及び第2張出部16Bの双方を舌部16に形成し、それらの上記寸法比Z1/H、及び、Z2/Hを上記最も良好な値、即ち、Z1/H=0.2、且つ、Z2/H=0.6とした場合、比騒音の低減量は−0.52dBとなり、最も大きな低減量となることが分かった。これは第1及び第2張出部16A、16Bの形成により、
図8に示すよどみ領域100A及び100Bの双方が
図9に示すように消滅したことによるものである。
【0049】
尚、
図5に示す舌部16の端部P1や吸込口11側の端部(P4で示す)、各張出部16A、16Bが貼りだし始める点P2やP3は鈍角ではあるが角部となる。従って、この角部に空気が衝突すると乱れが生じることが懸念されるが、これらの点P1〜P4に作られる角部を、滑らかに湾曲させてつなげば、これらと空気が衝突するときに生じる乱れを抑制し、尚一層の騒音低減を実現できる。
【0050】
(起立壁26とベルマウス27の形状)
次に、
図10乃至
図15を用いて、実施例のスクロールケーシング4の起立壁26とベルマウス27の形状について説明する。発明者は起立壁26とベルマウス27の形状によりファン3に空気が流入する際の騒音を低減できないか否か検証した。
図10はスクロールケーシング4の吸込口11部分の拡大縦断側面図であり、
図11乃至
図13は検証結果を示している。また、
図15は検証結果を説明するための模式図である。
【0051】
前述した如くファン3の回転によりベルマウス27の内側の吸込口11から流入した空気の流れは、ブレード8の基部側(電動モータ2のあるボトムプレート6側)に向かって流れて集中する。そして、
図14に示すような通常のベルマウスとした場合には、ブレード8の吸込口11側では、ベルマウスの先端における剥離により、ブレード8への流入は殆ど無く、よどんだ状態となってしまい、ブレード8の基部側に集中した空気の流れは局所的に流速が高い分布となって、空気の流速の6乗に比例した騒音の増大に繋がる。
【0052】
そこで、先ず吸込口11の周囲に実施例のような起立壁26を形成し、その高さ寸法Lを変更して比騒音とファン効率を測定してみた。
図11がその結果を示す図である。ここで、Lは起立壁26が第1端壁21から起立する寸法、Dはファン3の直径(ボス部6Bの軸中心を通ってブレード8の外端間に渡る線の寸法)であり、ファン直径Dに対する起立壁26の起立寸法Lの比L/Dを変化させた場合の比騒音とファン効率の変化を計測した。
【0053】
図11からも明らかなように、L/Dが0〜0.3の範囲では、L/Dが大きい方が比騒音は低下し、ファン効率は向上することが分かった。特に、比騒音は計測範囲では−1.6dBの低減効果があった。これは起立壁26が高い分、ベルマウス27の湾曲した上下寸法が大きくなり、吸込口11から流入した空気がコアンダ効果によってベルマウス27に沿って流れ、
図15に示すようにファン3のブレード8の吸込口11側(第1端壁21側)に流入し易くなったためと考えられる。
【0054】
即ち、ブレード8間ではブレード8の長手方向(回転軸7の軸方向)に対して空気の流速が均一化され、局所的に大きな速度となる箇所が解消され、騒音が低減したものと考えられる。但し、L/Dが大きいほうがよいといっても、起立壁26の起立寸法Lが大き過ぎれば遠心送風機1自体の寸法拡大に繋がってしまうので、自ずと限界があることは云うまでもない。
【0055】
このように、起立壁26を起立形成したときのベルマウス27が効果的であることは分かったが、次に、ベルマウス27そのものの形状についても検証した。この場合のファクタとしては、回転軸7の軸中心からブレード8の内端までの寸法(ファン3の内寸)Rf1と、回転軸7の軸中心からベルマウス27(起立壁26の吸込口11側の面)の先端(ファン3側の端部)までの寸法(ベルマウス27先端の内寸)R1と、回転軸7の軸中心からベルマウス27の内端までの寸法(ベルマウス27の最小内寸)R2を採用した。
【0056】
そして、先ず上記ファン3の内寸Rf1に対するベルマウス27先端の内寸R1の比R1/Rf1を変化させた場合の比騒音とファン効率を測定した。その結果が
図12に示されている。尚、この図において太線で示すR1/Rf1=1.1の縦線は、リム9との最小隙間寸法による限界点を示しており、これ以上R1を大きくとると、ベルマウス27とリム9とが干渉してしまうので、この値以下で設定しなければならない。
【0057】
この図からも明らかな如く、比騒音はR1/Rf1が大きくなる程低減される。しかしながら、ファン効率についてはR1/Rf1=1までは上昇し、その後は低下する傾向を示す。これはR1がRf1より大きくなると、ベルマウス27に沿って流れて来た空気のうち、当該ベルマウス27の先端とブレード8との隙間からリム9の外側に漏れてしまう量が増えるためと考えられる。そこで、比騒音が大き過ぎない0.95以上でファン効率が大きく低下し過ぎない1.05以下の範囲(0.95≦R1/Rf1≦1.05)でR1/Rf1を設定することがよいことが分かり、実施例ではファン効率が最も良くなるR1/Rf1=1に設定した。
【0058】
次に、上記ベルマウス27の先端の内寸R1に対するベルマウス27の最小内寸R2の比R2/R1を変化させた場合の比騒音とファン効率を測定した。その結果が
図13に示されている。この図からR2/R1が0.9〜1の範囲では、比騒音及びファン効率共にR2/R1が大きくなる程低減される傾向となり、そのうちの0.94以上1以下(0.94≦R2/R1≦1)の範囲でR2/R1を設定すれば良いことが分かる。そこで、実施例ではR2/R1=1に設定した。これはR2/R1が1より大きくなると、ベルマウス27の先端よりその手前の湾曲面が外側にあることになり、係る特異な形状から空気の乱れが発生するためと考えられる。
【0059】
以上詳述した構成により、通常の遠心送風機(
図8や
図14)における比騒音に比べて、実施例の起立壁26とベルマウス27により比騒音は1.92dB低下した。更に、これに加えて第1端壁21の回転軸7の軸方向における高さを渦巻状流路19の巻き始めから吹出口12に向かって徐々に拡大させた場合、通常の遠心送風機に比べて比騒音は2.89dB低下した。更にまた、それらに加えて舌部16の形状を前記実施例のような形状とした場合、通常の遠心送風機に比べて比騒音は3.13dB低下したことが確かめられた。