(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6073610
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】エンジンカバー
(51)【国際特許分類】
F02B 77/13 20060101AFI20170123BHJP
F02B 77/11 20060101ALI20170123BHJP
F16B 5/00 20060101ALI20170123BHJP
F16B 5/06 20060101ALI20170123BHJP
F16B 5/12 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
F02B77/13 D
F02B77/11 A
F16B5/00 E
F16B5/06 Q
F16B5/12 Y
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-199529(P2012-199529)
(22)【出願日】2012年9月11日
(65)【公開番号】特開2014-55529(P2014-55529A)
(43)【公開日】2014年3月27日
【審査請求日】2015年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000219668
【氏名又は名称】東海化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【弁理士】
【氏名又は名称】東口 倫昭
(72)【発明者】
【氏名】近藤 裕之
(72)【発明者】
【氏名】石井 喜美男
【審査官】
瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】
特表2006−522890(JP,A)
【文献】
特開2004−190810(JP,A)
【文献】
特開2008−196587(JP,A)
【文献】
特開2008−298084(JP,A)
【文献】
特開2012−037001(JP,A)
【文献】
特開2006−183571(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0162008(US,A1)
【文献】
米国特許第06206604(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 77/11
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウレタンフォーム製のカバー本体と、
該カバー本体の表面に配置される表皮層と、
弾性体からなり、該カバー本体と一体成形される取付部材と、
を備え、
該取付部材は、エンジン部材に突設される取付ピンが嵌合される凹部と、該凹部の開口端面において該凹部の開口部の周囲に該凹部とは反対方向に環状に突設される突条と、を有し、
一体成形時において該取付部材の該突条は、その頂部が成形型の一面に弾接するように配置され、該カバー本体を形成する発泡ウレタン樹脂原料の発泡圧により該一面方向に押圧されることにより、該発泡ウレタン樹脂原料が該凹部へ浸入するのを抑制することを特徴とするエンジンカバー。
【請求項2】
ウレタンフォーム製のカバー本体と、
該カバー本体の表面に配置される表皮層と、
弾性体からなり、該カバー本体と一体成形される取付部材と、
を備え、
該取付部材は、エンジン部材に突設される取付ピンが嵌合される凹部と、該凹部の開口端部側の側面に突設されるシール用フランジと、を有し、
該取付部材の該シール用フランジは、一体成形時に少なくとも側周面が成形型の一面に弾接されることにより、該カバー本体を形成する発泡ウレタン樹脂原料が該凹部へ浸入するのを抑制することを特徴とするエンジンカバー。
【請求項3】
前記取付部材は、前記凹部の周囲に肉抜き部を有する請求項1または請求項2に記載のエンジンカバー。
【請求項4】
前記取付部材は、前記凹部の周囲から前記肉抜き部を通って延設される補強リブを有する請求項3に記載のエンジンカバー。
【請求項5】
前記取付部材は、前記凹部の前記開口端部とは反対側の端部に固定用フランジを有する請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のエンジンカバー。
【請求項6】
前記取付部材は、一体成形により前記カバー本体と接着可能な熱可塑性ウレタンエラストマー製である請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のエンジンカバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のエンジンルームに配置され、シリンダヘッドカバー等のエンジン部材を着脱可能に覆うエンジンカバーに関する。
【背景技術】
【0002】
車両のエンジンルームには、エンジンカバーが配置される。エンジンカバーは、エンジンのシリンダヘッドカバーに取り付けられる。エンジンカバーでシリンダヘッドカバーを上方から覆うことにより、エンジンの騒音が外部に漏出するのを抑制することができる。また、エンジンルームの意匠性を向上させることができる。
【0003】
例えば、特許文献1、2には、カバー材と、カバー材から延設される取付台座と、取付台座に係止されるゴム製のグロメットと、を備えるエンジンカバーが開示されている。シリンダヘッドカバーには取付ピンが突設される。グロメットは、取付ピンと嵌合する凹部を有する。エンジンカバーは、取付ピンをグロメットに嵌合させることにより、シリンダヘッドカバーに取り付けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−336743号公報
【特許文献2】特開2011−21486号公報
【特許文献3】特表2006−522890号公報
【特許文献4】国際公開第2008/055806号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来は、まずカバー材を製造し、次にグロメットを取付台座に取り付けて、エンジンカバーを製造している。このため、工数が多くなり、その分コスト高であった。また、メンテナンス等のためにエンジンカバーを取り外す際、グロメットが取付台座から外れてしまい、取付ピン側に残ってしまうことがあった。この場合、再度グロメットを取付台座に取り付けるという、面倒な作業が必要になる。また、カバー材は、ポリプロピレンやポリアミド製であり、硬質である。よって、エンジンの振動がエンジンカバーに伝達しやすい。このため、エンジンカバーから二次的な放射音が発生するおそれがある。
【0006】
この点、特許文献3、4には、発泡樹脂製の吸音層を備えるエンジンカバーが開示されている。特許文献3、4に開示されたエンジンカバーにおいて、取付ピンと嵌合する取付部材(グロメット)は、吸音層中に配置される。取付部材を吸音層中に配置するには、例えば、成形型に取付部材を配置して、発泡樹脂原料を発泡成形すればよい。しかし、上述した通り、取付部材は、取付ピンと嵌合する凹部を有する。よって、取付部材を覆うように発泡樹脂原料を発泡成形すると、発泡圧により、発泡樹脂原料が凹部に浸入しやすい。その結果、凹部の開口部周縁に、ばりが発生してしまう。ばりの除去作業は煩雑であると共に、小型の取付部材においては、ばりを完全に除去することは困難である。このため、凹部の寸法精度が低下して、取付不具合が発生するおそれがある。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、容易かつ低コストに製造することができ、取付部材の品質が高く、かつ取付部材が脱落しにくいエンジンカバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記課題を解決するため、本発明のエンジンカバーは、ウレタンフォーム製のカバー本体と、該カバー本体の表面に配置される表皮層と、弾性体からなり、該カバー本体と一体成形される取付部材と、を備え、該取付部材は、エンジン部材に突設される取付ピンが嵌合される凹部と、該凹部の開口端面および該凹部の開口端部側の側面の少なくとも一方に突設され、一体成形時に該カバー本体を形成する発泡ウレタン樹脂原料が該凹部へ浸入するのを抑制するシール部と、を有することを特徴とする。
【0009】
本発明のエンジンカバーにおいて、エンジン部材側の取付ピンと嵌合する取付部材は、カバー本体と一体成形される。したがって、カバー本体を製造した後に取付部材を取り付ける作業は、不要である。また、取付部材を係止する取付台座も、不要である。これにより、従来よりも工数を削減することができ、エンジンカバーを低コストに製造することができる。
【0010】
また、取付部材は、一体成形によりカバー本体に接着される。このため、メンテナンス等のためにエンジンカバーを取り外す際にも、カバー本体から取付部材が脱落しにくい。
【0011】
さらに、取付部材は、弾性体からなる。このため、エンジンの振動を、取付部材およびカバー本体により吸収することができる。よって、本発明のエンジンカバーは、吸音性能に優れる。
【0012】
取付部材は、凹部の開口端面(凹部の開口部がある取付部材の端面)、および凹部の開口端部(凹部の開口部がある方の取付部材の端部)側の側面、の少なくとも一方に、シール部を有する。シール部は、一体成形時に、カバー本体を形成する発泡ウレタン樹脂原料が、取付部材の凹部へ浸入するのを抑制する役割を果たす。これにより、凹部の開口部周縁に発生するばりを、低減することができる。このため、凹部の寸法精度を維持しやすい。したがって、本発明のエンジンカバーによると、取付部材の品質が高く、取付不具合が発生しにくい。
【0013】
(2)好ましくは、上記(1)の構成において、前記シール部は、前記凹部の前記開口端面において、該凹部の開口部の周囲に環状に配置される突条を含む構成とする方がよい。
【0014】
本発明のエンジンカバーを製造する場合、成形型に取付部材を配置して、発泡ウレタン樹脂原料を発泡成形する。例えば、取付部材を、凹部の開口端面を上にして上型に取り付けて、発泡ウレタン樹脂原料を下型に注入して発泡成形する。この場合、取付部材は、発泡ウレタン樹脂原料の発泡圧により、下方から上型方向に押圧される。本構成によると、凹部の開口端面に、突条が配置される。突条は、上型に弾接する。突条と上型との接触面積は、開口端面全体が上型に接触する場合の接触面積と比較して、小さい。このため、発泡圧が加わると、突条は、大きな力で上型に圧接される。その結果、突条と上型との密着性が高くなり、優れたシール性が発揮される。したがって、本構成によると、発泡ウレタン樹脂原料の凹部への浸入を、効果的に抑制することができる。
【0015】
(3)好ましくは、上記(1)または(2)の構成において、前記シール部は、前記凹部の前記開口端部側に配置されるシール用フランジを含む構成とする方がよい。
【0016】
上記(2)の構成で説明したように、取付部材を、凹部の開口端面を上にして上型に取り付けて、発泡成形した場合、シール用フランジは、下方から膨張する発泡ウレタン樹脂原料の流れを阻止する障壁になる。これにより、発泡ウレタン樹脂原料の凹部への浸入を、効果的に抑制することができる。
【0017】
(4)好ましくは、上記(1)ないし(3)のいずれかの構成において、前記取付部材は、前記凹部の周囲に肉抜き部を有する構成とする方がよい。
【0018】
取付部材をカバー本体から脱落しにくくするためには、取付部材とカバー本体との接着力を大きくすることが望ましい。本構成の取付部材は、肉抜き部を有する。このため、一体成形時に、発泡ウレタン樹脂原料が肉抜き部に浸入する。したがって、取付部材とカバー本体との接着面積が大きくなり、接着力が大きくなる。また、肉抜き部を設けることにより、取付部材を軽量化することができる。
【0019】
(5)好ましくは、上記(4)の構成において、前記取付部材は、前記凹部の周囲から前記肉抜き部を通って延設される補強リブを有する構成とする方がよい。
【0020】
エンジンカバーを取り外す際には、エンジンカバーを動かして、取付部材の凹部から、圧入されている取付ピンを抜き出す必要がある。肉抜き部が配置され、凹部の周囲の剛性が小さくなると、エンジンカバーの動きに追従して取付部材が変形してしまい、取付ピンが抜けにくくなるおそれがある。この点、本構成によると、凹部の周囲の肉抜き部に、補強リブが配置される。これにより、肉抜き部を設けても、凹部の周囲の剛性を維持することができる。
【0021】
また、エンジンカバーを取り付ける際、作業者は、エンジンカバーの裏面側を見ることはできない。すなわち、取付部材と取付ピンの嵌合状態を、視認することはできない。本構成によると、補強リブにより、凹部の周囲の剛性が大きくなる。このため、取付ピンが取付部材の凹部に圧入された時のセット感を得ることができる。したがって、エンジンカバーが確実に取り付けられたか否かの判断が、容易になる。
【0022】
(6)好ましくは、上記(1)ないし(5)のいずれかの構成において、前記取付部材は、前記凹部の前記開口端部と反対側の端部に固定用フランジを有する構成とする方がよい。
【0023】
上記(4)の構成で説明したように、取付部材をカバー本体から脱落しにくくするためには、取付部材とカバー本体との接着力を大きくすることが望ましい。本構成の取付部材の一端部には、拡径方向に延出する固定用フランジが配置される。このため、取付部材とカバー本体との接着面積が大きくなり、接着力が大きくなる。
【0024】
(7)好ましくは、上記(1)ないし(6)のいずれかの構成において、前記取付部材は、一体成形により前記カバー本体と接着可能な熱可塑性エラストマー製である構成とする方がよい。
【0025】
取付部材は、弾性体からなる。しかし、広くグロメット材料として用いられるエチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、ニトリルゴム(NBR)等のゴム材料から取付部材を作製すると、一体成形により、取付部材をウレタンフォーム製のカバー本体に接着することはできない。この点、本構成によると、取付部材をカバー本体に接着することができる。
【0026】
(8)好ましくは、上記(7)の構成において、前記熱可塑性エラストマーは、ウレタンエラストマーである構成とする方がよい。
【0027】
熱可塑性ウレタンエラストマーとウレタンフォームとの接着性は、良好である。本構成によると、取付部材とカバー本体との接着力が大きいため、取付部材は、カバー本体から脱落しにくい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】エンジン部材に取り付けた状態の第一実施形態のエンジンカバーの前後方向断面図である。
【
図10】第二実施形態のエンジンカバーにおける取付部材の断面図である。
【
図11】同取付部材の一部切り欠き斜視断面図である。
【
図12】配置工程における取付部材近傍の断面拡大図である。
【
図13】第三実施形態のエンジンカバーにおける取付部材の断面図である。
【
図15】同取付部材の一部切り欠き斜視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明のエンジンカバーの実施の形態について説明する。
【0030】
<第一実施形態>
[構成]
まず、本実施形態のエンジンカバーの構成について説明する。
図1に、エンジン部材に取り付けた状態の本実施形態のエンジンカバーの前後方向断面図を示す。
図2に、同エンジンカバーの前後方向断面図を示す。
図3に、取付部材の断面図を示す。
図4に、取付部材の一部切り欠き斜視断面図を示す。
図1、
図2においては、説明の便宜上、取付部材を誇張して示す。また、
図2は、
図1のエンジンカバーを、上下反対にして示す。このため、
図1と
図2とでは、上下方向の方位が反対になっている。
【0031】
図1に示すように、エンジンカバー1は、シリンダヘッドカバー80の上面に取り付けられている。シリンダヘッドカバー80は、本発明の「エンジン部材」の概念に含まれる。シリンダヘッドカバー80の上面には、前後方向に二つの取付ピン81が突設されている。二つの取付ピン81は、各々、金属製である。二つの取付ピン81は、各々、シリンダヘッドカバー80に固定される脚部810と、脚部810よりも大径の球形状の頭部811と、を有している。
【0032】
図2に示すように、エンジンカバー1は、カバー本体2と、表皮層3と、二つの取付部材4と、を備えている。カバー本体2は、密度100kg/m
3のウレタンフォーム製であって、板状を呈している。表皮層3は、ウレタン樹脂系塗料から形成されている。表皮層3は、カバー本体2の下面(
図1においては上面)を覆うように配置されている。表皮層3は、エンジンルーム内に表出している。
【0033】
二つの取付部材4は、各々、カバー本体2の上部に埋設されている。二つの取付部材4は、円柱に近い形状を呈し、各々、シリンダヘッドカバー80の取付ピン81に対応する位置に、配置されている。二つの取付部材4は、いずれも、熱可塑性ウレタンエラストマー(TPU)製である。二つの取付部材4の構成は同じである。よって、以下は、一方の取付部材4について説明する。
【0034】
図3、
図4に示すように、取付部材4は、凹部40と、突条41と、固定用フランジ42と、を有している。凹部40は、取付部材4の上端面430の中央に、下方に向かって形成されている。凹部40の開口部は、カバー本体2の上面に表出している。凹部40は、テーパ部400と、収容部401と、を有している。テーパ部400は、取付部材4の上端面430から下方に向かって縮径するように配置されている。収容部401は、略球形状を呈し、テーパ部400の下方に配置されている。収容部401の内径は、取付ピン81の頭部811の外径と略同じである。エンジンカバー1がシリンダヘッドカバー80に取り付けられた状態(前出
図1)においては、取付ピン81の頭部811が、収容部401に収容される。
【0035】
突条41は、取付部材4の上端面430に突設されている。取付部材4の上端面430は、本発明の「凹部の開口端面」の概念に含まれる。突条41は、断面半円状を呈し、凹部40の開口部の周囲に環状に配置されている。
【0036】
固定用フランジ42は、円形状を呈している。固定用フランジ42は、取付部材4の下端部の周囲に、拡径方向に延出して配置されている。取付部材4の下端部は、本発明の「凹部の開口端部と反対側の端部」の概念に含まれる。
【0037】
[取付方法]
次に、本実施形態のエンジンカバー1の取付方法について説明する。まず、取付ピン81と凹部40との水平方向位置が合うように、エンジンカバー1をシリンダヘッドカバー80の上方に配置する。次に、エンジンカバー1をシリンダヘッドカバー80に押し付ける。すると、取付ピン81の頭部811が凹部40のテーパ部400を通って、収容部401に圧入される。このようにして、エンジンカバー1は、シリンダヘッドカバー80に取り付けられる。
【0038】
[製造方法]
次に、本実施形態のエンジンカバー1の製造方法について説明する。本実施形態のエンジンカバー1の製造方法は、配置工程と、型締め工程と、成形工程と、型開き工程と、を有している。
図5に、配置工程における成形型の断面図を示す。
図6に、型締め工程における成形型の断面図を示す。
図7に、成形工程における成形型の断面図を示す。
図8に、
図7の円VIII内の拡大図を示す。
図9に、型開き工程における成形型の断面図を示す。
【0039】
図5に示すように、成形型5は、上型50と、中型51と、下型52と、を備えている。上型50の下面には、取付ピン81と同じ形状、大きさの突起500が配置されている。配置工程においては、まず、下型52の型面に、ウレタン樹脂系塗料をスプレーにて塗布する。そして、塗膜を乾燥させて、下型の型面に表皮層3を形成する。また、中型51は、上型50に固定しておく。次に、取付部材4の凹部40に突起500を圧入して、取付部材4を上型50に取り付ける。この際、取付部材4の突条41は、上型50の下面501に弾接される。
【0040】
型締め工程においては、
図6に示すように、上型50および中型51を、表皮層3が配置された下型52に被せて、型締めする。
【0041】
成形工程においては、
図7に示すように、発泡ウレタン樹脂原料20を、キャビティ53に注入して発泡成形する。これにより、カバー本体2が成形される。この際、
図8に拡大して示すように、取付部材4の突条41は、上型50の下面501に弾接される。加えて、突条41は、発泡ウレタン樹脂原料20の発泡圧により、下方から上型50の下面501に向かって押圧される。突条41が下面501に圧接して障壁となることにより、発泡ウレタン樹脂原料20の凹部40への浸入は、抑制される。
【0042】
型開き工程においては、
図9に示すように、まず、上型50を取り外す。次に、中型51を取り外す。そして、カバー本体2と表皮層3と取付部材4とが一体化されたエンジンカバー1を、取り出す。このようにして、前出
図2に示すエンジンカバー1は、製造される。
【0043】
[作用効果]
次に、本実施形態のエンジンカバー1の作用効果について説明する。本実施形態のエンジンカバー1によると、取付部材4は、熱可塑性ウレタンエラストマー製である。カバー本体2は、ウレタンフォーム製である。熱可塑性ウレタンエラストマーとウレタンフォームとの接着性は、良好である。よって、一体成形により、取付部材4をカバー本体2に接着することができる。また、取付部材4とカバー本体2との接着力が大きいため、メンテナンス等のためにエンジンカバー1を取り外す際にも、カバー本体2から取付部材4が脱落しにくい。また、取付部材4およびカバー本体2により、シリンダヘッドカバー80を介して伝達されるエンジンの振動を、吸収することができる。よって、エンジンカバー1は、吸音性能に優れる。
【0044】
本実施形態のエンジンカバー1によると、カバー本体2を製造した後に、取付部材4を取り付ける作業は、不要である。また、取付部材4を係止する取付台座も、不要である。よって、従来よりも工数を削減することができ、エンジンカバー1を低コストに製造することができる。
【0045】
本実施形態のエンジンカバー1は、硬質なカバー材ではなく、ウレタンフォーム製のカバー本体2と、ウレタン樹脂系塗料から形成される表皮層3と、を備える。このため、エンジンカバー1は軽量である。ここで、カバー本体2は、密度100kg/m
3のウレタンフォームから形成される。カバー本体2は、従来のエンジンカバーの吸音層と比較して、硬い。こうすることにより、カバー本体2に、吸音性を損なうことなく、適度な剛性が付与される。したがって、エンジンカバー1の吸音性と形状保持性とを、両立させることができる。また、表皮層3は、カバー本体2と同じウレタン系の材料から形成される。このため、カバー本体2との接着性が良好で、カバー本体2への影響も少ない。また、ウレタン樹脂系塗料によると、例えばアクリル樹脂系塗料と比較して、伸びが良く耐寒性に優れた塗膜を形成することができる。したがって、表皮層3は、伸びおよび耐寒性に優れる。
【0046】
取付部材4の上端面430には、突条41が配置される。突条41は、上型50の下面501に弾接する。突条41と下面501との接触面積は、上端面430全体が下面501に接触する場合の接触面積と比較して、小さい。このため、発泡成形時に発泡圧が加わると、突条41は、大きな力で下面501に圧接される。その結果、突条41と下面501との密着性が高くなり、優れたシール性が発揮される。したがって、発泡成形時における、発泡ウレタン樹脂原料20の凹部40への浸入は、抑制される。これにより、凹部40の開口部周縁に発生するばりは、低減される。よって、凹部40の寸法精度を維持しやすい。したがって、エンジンカバー1によると、取付部材4の品質が高く、取付不具合が発生しにくい。
【0047】
本実施形態のエンジンカバー1の製造には、上型50、中型51、および下型52からなる成形型5を使用する。取付部材4は、上型50の下面501に取り付けられる。型開き工程においては、まず上型50を取り外し、次に中型51を取り外す。上型50を取り外す際に、中型51で成形品(エンジンカバー1)を押さえておくことにより、上型50と共に成形品も取り出されてしまうのを、防止することができる。また、中型51を用いることにより、上型50と中型51との間から、ガス抜きをすることができる。このため、発泡ウレタン樹脂原料20の充填不良を、抑制することができる。
【0048】
本実施形態のエンジンカバー1は、取付部材4の下端部側の側面に、固定用フランジ42を有する。このため、取付部材4とカバー本体2との接着面積が大きくなり、接着力が大きくなる。
【0049】
<第二実施形態>
本実施形態のエンジンカバーと第一実施形態のエンジンカバーとの相違点は、取付部材が、突条ではなく、シール用フランジを有している点である。ここでは、相違点についてのみ説明する。
図10に、本実施形態のエンジンカバーにおける取付部材の断面図を示す。
図11に、同取付部材の一部切り欠き斜視断面図を示す。
図10中、
図3と対応する部位については、同じ符号で示す。
図11中、
図4と対応する部位については、同じ符号で示す。
【0050】
図10、
図11に示すように、取付部材4は、凹部40と、シール用フランジ44と、固定用フランジ42と、を有している。シール用フランジ44は、円形状を呈している。シール用フランジ44は、取付部材4の上端部431の周囲に、拡径方向に延出して配置されている。取付部材4の上端部431は、本発明の「凹部の開口端部」の概念に含まれる。
【0051】
本実施形態のエンジンカバーは、第一実施形態のエンジンカバーと同様の工程により、製造される。
図12に、成形工程における取付部材近傍の断面拡大図を示す。
図8と対応する部位については、同じ符号で示す。
【0052】
図12に示すように、上型50の下面501は、取付部材4が配置される領域に段差部502を有している。シール用フランジ44の側周面は、段差部502に弾接している。発泡成形時において、シール用フランジ44は、段差部502を含む上型50の下面501に圧接される。シール用フランジ44が障壁となることにより、発泡ウレタン樹脂原料20の凹部40への浸入は、抑制される。
【0053】
本実施形態のエンジンカバーは、構成が共通する部分については、第一実施形態のエンジンカバーと同様の作用効果を有している。また、本実施形態の取付部材4の上端部431の周囲には、シール部として、シール用フランジ44が配置されている。シール用フランジ44は、発泡成形時において、下方から膨張する発泡ウレタン樹脂原料20の流れを阻止する障壁になる。これにより、発泡ウレタン樹脂原料20の凹部40への浸入が、抑制される。
【0054】
<第三実施形態>
本実施形態のエンジンカバーと第一実施形態のエンジンカバーとの相違点は、取付部材が、肉抜き部および補強リブを有している点である。ここでは、相違点についてのみ説明する。
図13に、本実施形態のエンジンカバーにおける取付部材の断面図を示す。
図14に、同取付部材の底面図を示す。
図15に、同取付部材の一部切り欠き斜視断面図を示す。
図13中、
図3と対応する部位については、同じ符号で示す。
図15中、
図4と対応する部位については、同じ符号で示す。
【0055】
図13〜
図15に示すように、取付部材4は、凹部40と、突条41と、固定用フランジ42と、肉抜き部45と、補強リブ46と、を有している。肉抜き部45は、凹部40の周囲を囲うように、配置されている。補強リブ46は、合計四本配置されている。補強リブ46は、取付部材4の下端面(底面)432から見て、収容部401の周囲の肉抜き部45を四分割するように、配置されている。補強リブ46は、各々、肉抜き部45を通って、収容部401の周囲と側壁47とを結ぶように配置されている。本実施形態のエンジンカバーは、第一実施形態のエンジンカバーと同様の工程により、製造される。
【0056】
本実施形態のエンジンカバーは、構成が共通する部分については、第一実施形態のエンジンカバーと同様の作用効果を有している。また、本実施形態の取付部材4は、肉抜き部45を有している。よって、その分だけ、取付部材4を軽量化することができる。また、発泡成形時に、発泡ウレタン樹脂原料20は、肉抜き部45に浸入する。このため、取付部材4とカバー本体2との接着面積が、大きくなる。したがって、両者をより強固に接着することができる。さらに、本実施形態の取付部材4は、補強リブ46を有している。これにより、凹部40の周囲に肉抜き部45が配置されていても、凹部40の周囲の剛性を、維持することができる。また、凹部40の周囲の剛性が大きいため、エンジンカバーの取り付け時に、作業者は、取付ピン81の頭部811が凹部40の収容部401に圧入された時のセット感を、得ることができる。したがって、エンジンカバーが確実に取り付けられたか否かの判断が、容易になる。
【0057】
<その他>
以上、本発明のエンジンカバーの実施の形態について説明した。しかしながら、実施の形態は上記形態に特に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
【0058】
例えば、取付部材の材質は、弾性を有し、一体成形によりカバー本体と接着可能な材料であれば、特に限定されない。また、取付部材のシール部として、上記第一、第三実施形態においては、凹部の開口端面に突条を配置し、第二実施形態においては、凹部の開口端部にシール用フランジを配置した。突条およびシール用フランジの大きさ、形状等は、特に限定されない。取付部材は、シール部として、凹部の開口端面に配置される突条と、凹部の開口端部に配置されるシール用フランジと、の両方を有していてもよい。
【0059】
上記第三実施形態においては、取付部材に、肉抜き部および補強リブを配置した。しかし、肉抜き部や補強リブの配置形態については、特に限定されるものではない。例えば、肉抜き部のみを配置して、補強リブを配置しなくてもよい。また、補強リブを配置する場合、形状や本数については、凹部の周囲の剛性等を考慮して、適宜決定すればよい。
【0060】
上記実施形態におては、凹部の開口端部とは反対側の端部に、固定用フランジを配置した。しかし、固定用フランジは、必ずしも必要ではない。また、取付部材とカバー本体との接着面積を大きくして、両者の接着性を向上させるという観点から、取付部材の側面や底面に突起等を配置してもよい。
【0061】
カバー本体をなすウレタンフォームの密度は、特に限定されない。上記実施形態のように、塗料から表皮層を形成する場合には、カバー本体の吸音性と形状保持性とを両立させるという観点から、ウレタンフォームの密度を、80kg/m
3以上120kg/m
3以下とすると良い。
【0062】
表皮層を形成する塗料については、ウレタン樹脂系塗料に限定されない。表皮層には、例えば、アクリル樹脂系塗料等、カバー本体と接着可能な種々の塗料を用いることができる。なお、表皮層は、塗料からではなく、別途樹脂を成形して形成されたものでもよい。この場合、樹脂を成形して形成された表皮層を、成形型に配置して、発泡ウレタン樹脂原料を発泡成形すればよい。また、樹脂を成形して形成された表皮層を、取付部材が一体化されたカバー本体に、接着してもよい。
【0063】
エンジンカバーの取り付け対象であるエンジン部材は、シリンダヘッドカバーの他、インテークマニホールド、ワイヤーハーネス、ブラケット等でもよい。
【符号の説明】
【0064】
1:エンジンカバー、2:カバー本体、20:発泡ウレタン樹脂原料、3:表皮層、4:取付部材、40:凹部、41:突条、42:固定用フランジ、44:シール用フランジ、45:肉抜き部、46:補強リブ、47:側壁、400:テーパ部、401:収容部、430:上端面(凹部の開口端面)、431:上端部(凹部の開口端部)、432:下端面。
5:成形型、50:上型、51:中型、52:下型、53:キャビティ、500:突起、501:下面、502:段差部。
80:シリンダヘッドカバー(エンジン部材)、81:取付ピン、810:脚部、811:頭部。