(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明にかかる実施の形態を図面と共に説明する。
[本実施形態の構成]
本発明が適用された距離検出システム1は、例えば乗用車等の車両に搭載されており、この車両(自車両)の側方や後方に位置する壁面や周囲の車両等の障害物を検出し、車両の走行に支障がある場合に、制動等の制御を行うシステムである。距離検出システム1は、
図1に示すように、音波センサ10と、ソナー制御部30と、衝突回避制御部40と、ブレーキアクチュエータ50と、温度・湿度センサ55と、シフトポジションセンサ60と、を備えている。
【0012】
そして、音波センサ10およびソナー制御部30は、例えばLINプロトコルで通信が実施される通信線4で接続されており、ソナー制御部30、衝突回避制御部40、ブレーキアクチュエータ50、温度・湿度センサ55、およびシフトポジションセンサ60は、例えばCANプロトコルで通信が実施される通信線5で接続されている。
【0013】
音波センサ10は、超音波等の音波を送受信することによって音波を反射した物標までの距離を検出する周知の音波センサとしての機能を備えている。特に、本実施形態の音波センサ10は、検出する物標の距離や対象に応じて感度を変更する機能を備えている。なお、感度を変更する機能については後述する。
【0014】
また、音波センサ10は、
図2に示すように、車両の左右側方の前方および後方を検出範囲とするようそれぞれ配置されている。ただし、
図1では複数の音波センサ10のうちの1つを表記している。
【0015】
音波センサ10は、演算部11と、送受信部12と、第1増幅部13と、可変増幅部14と、第2増幅部15と、比較部16と、閾電圧生成部17と、通信部18とを備えている。
【0016】
演算部11は、CPU11aやメモリ11b等を備えたコンピュータとして構成され、音波センサ10を構成する各部に対して各種指令を送信する。なお、演算部11は、後述する検出処理等の処理を実施する。また、メモリ11bには、本発明でいう距離検出プログラムが格納されており、CPU11aによって実行される。
【0017】
送受信部12は、演算部11からの指令に応じて音波を送信し、物標によるその反射波を受信する。そして、反射波の受信レベルの大きさに応じて信号を生成し、第1増幅部に送る。なお、送受信部12は、例えば、圧電素子から構成されている。
【0018】
第1増幅部13および第2増幅部15は、アンプ等の増幅回路から構成されている。第1増幅部13は、送受信部12にて出力された信号を所定の増幅率で増幅する。
可変増幅部14は、演算部11によってその都度設定された任意の増幅率で第1増幅部13から出力された信号を増幅する。そして、第2増幅部15は、可変増幅部14にて出力された信号を所定の増幅率で増幅する。
【0019】
閾電圧生成部17は、演算部11による指令に従って比較用の閾電圧を生成する。そして比較部16は、閾電圧生成部17によって生成された閾電圧と、第2増幅部15にて出力された信号の電圧とを比較し、信号の電圧が閾電圧を超えたときに演算部11に信号を出力する。
【0020】
演算部11では、比較部16からの信号を受信したタイミングに従って、音波を反射した物標が存在する距離を演算する。なお、演算部11は、物標までの距離の演算結果を通信部18および通信線4を介してソナー制御部30に対して送信する。ただし、通信部18(後述する通信部38,48も同様)は、通信線4,5を介して通信を実施する周知の通信モジュールとして構成されている。
【0021】
次に、ソナー制御部30は、ソナー制御部30は、CPU31と、メモリ32と、通信部38とを備えている。CPU31は、メモリ32に格納されたプログラムに応じて処理を実施し、具体的には、複数の音波センサ10に対する設定等、音波センサ10を制御する処理と、物標までの距離の演算結果を衝突回避制御部40に送信する処理とを実施する。
【0022】
また、衝突回避制御部40は、物標の検出結果に応じてブレーキアクチュエータ50等の被制御対象を制御する機能を有する。衝突回避制御部40は、CPU41と、メモリ42と、通信部48とを備えている。これらのCPU41、メモリ42、通信部48は、ソナー制御部30に備えられたCPU31、メモリ32、通信部38と同様のハードウェア構成である。なお、衝突回避制御部40のCPU41は、音波センサ10によって得られる物標までの距離や自車両速度に応じて自車両に対する制動付与を行う。
【0023】
温度・湿度センサ55は、車両の外部の温度および湿度を検出し、検出結果をソナー制御部30に対して送信する。シフトポジションセンサ60は、車両のシフトポジションを検出し、検出結果をソナー制御部30に対して送信する。
【0024】
[本実施形態の処理]
このような距離検出システム1において、音波センサ10の感度を設定する感度設定処理およびセンサ処理について、
図3を用い説明する。感度設定処理およびセンサ処理は、例えばイグニッションスイッチ等の車両の電源が投入されると開始される処理である。
【0025】
詳細には、
図3に示すように、まず、感度設定処理において、初期値(例えば補正量を最小としたもの)を音波センサ10に送信する(S110)。ここで、ソナー制御部30から音波センサ10に送信されるデータとして、例えば
図4に示すように、温度や湿度に応じた補正量(空気減衰補正)や、距離に応じた補正量(距離減衰補正)、或いは、これらの両方を加味した補正量(距離空気減衰補正)に関する値が含まれる。
【0026】
また、このデータには、補正する範囲(音波センサ10からの距離の範囲)の情報を含めることができる。なお、本実施形態では、説明を簡素化するために、補正する範囲については考慮しないものとする。
【0027】
音波センサ10では、この初期値の補正量をメモリ11bに記録する(S210)。続いて、ソナー制御部30では、自車両の車速(自車両の走行速度)を周知の車速センサ等から取得し、ある車速X1以上の時間がY1秒以上継続したか否かを判定する(S120)。ここで、X1、Y1は、自車両が停車状態を脱することで外気が温度・湿度センサ55に当たるようになり、正確な温度や湿度が測定できる状態になるときの値に設定される。
【0028】
X1以上の車速がY1秒以上継続していれば(S120:YES)、温度・湿度センサ55による検出結果を取得し(S130)、シフトポジションを周知のシフトポジションセンサ60から取得する(S135)。ここで、シフトポジションを取得するのは、音波センサ10によって検出しようとする検出対象物を特定するためである。
【0029】
例えば、シフトポジションがD等、車両の前進を示す位置では、駐車位置を探すため等に比較的遠くの車両や障害物等が検出対象物となる。また、シフトポジションがR等、車両の後退を示す位置では、衝突を抑制するために近くにある車両や歩行者等が検出対象物となる。
【0030】
続いて、補正量を計算する(S140)。この処理では、温湿度情報を加味して補正値を決定する。例えば、
図5(a)に示すように、温度や湿度と、距離に比例した補正量とが対応付けられたマップをソナー制御部30のメモリ32内に準備しておき、このマップを用いて補正値を決定する。
【0031】
また、距離による減衰の補正も行う。例えば、
図5(b)に示すように、距離の対数表示に比例する補正値が複数備えられたマップをソナー制御部30のメモリ32内に準備しておき、このマップから利用する補正値を選択する。この際、何れの補正値を選択するかについては、シフトポジションによって決定する。つまり、検出対象物までの距離が比較的大きいと推定できる場合(前進時)には、より補正量を大きくして感度を高くし、検出対象物までの距離が比較的小さいと推定できる場合(後退時)には、補正量を小さくして感度をそれほど高くしない。
【0032】
そして、これらの複数のマップを利用して、設定された値を
図4に示すデータとして書き込み、このデータ(計算した補正量)を音波センサ10に送信する(S150)。音波センサ10は、この補正量を受けると、補正量を更新する(S220)。
【0033】
次に、ソナー制御部30では、車速がX2以上の時間がY2秒以上継続したか否かを判定する(S160)。ここで、車速X2はX1と同程度かX1以上の値を示し、時間Y2はY1よりも大きな値を示す。つまり、この処理では、車両が高速道路等において安定走行して移動することによって環境の変化が生じたときに対応できるようにする。
【0034】
車速X2以上の状態がY2秒以上継続していなければ(S160:NO)、S160の処理を繰り返す。また、車速X2以上の状態がY2秒以上継続していれば(S160:YES)、S130の処理に戻る。
【0035】
このような処理によって補正量が設定されると、音波センサ10では、音波を送受信することによって物標までの距離を検出する際に、音波を送信してから反射波を受信するまでの時間の経過に従って、前述の増幅率を、可変増幅部14を介して連続的に補正する。なお、ソナー制御部30から取得されるデータには、距離と補正値との関係しか含まれていないが、距離については反射波を受信するまでの時間を音速で除すことで得られる。
【0036】
すると、
図6(a)に示すように、温度や湿度に依存することなく、概ね一定強度の反射波を得ることができる。なお、本実施形態のような補正を行わない場合には、
図6(b)に示すように、例えば閾電圧を階段状に変更する構成が考えられるが、温度や湿度の変化によって反射波の強度が変化するので、良好に物標が検出できない場合があることが分かる。
【0037】
[本実施形態による効果]
以上のように詳述した距離検出システム1において音波センサ10は、送信した音波が物標に反射して得られた反射波を予め設定された感度で受信することによって物標の有無および物標までの距離を判定する。そして、演算部11は、音波センサ10の感度を補正するための補正値を、音波センサ10の外部から取得し、この補正値を用いて感度を補正する。
【0038】
このような距離検出システム1によれば、感度の補正値を外部から取得するので、自身で複数の周波数を送受信することで感度を補正する音波センサ10と比較して、音波センサ10の構成を簡素化することができる。
【0039】
また、ソナー制御部30のCPU31は、音波センサ10が物標の有無および物標までの距離を判定する際の感度を補正するための補正値を音波センサ10に送信することによって、補正値を音波センサ10において設定させる。
【0040】
このような距離検出システム1によれば、音波センサ10における補正値を設定する機能をソナー制御部30が担うことによって、音波センサ10の構成を簡素化することができる。また、音波センサ10の使用環境(設置位置、設置角度など)に応じて適切な補正値を設定することができるので、音波センサ10を異なる環境で容易に使い回すことができる。
【0041】
さらに、上記ソナー制御部30においてCPU31は、音波センサ10の周囲における温度および湿度のうちの少なくとも一方を表す温湿度情報を取得し、温湿度情報を加味して補正値を決定する。そして、CPU31は、決定された補正値を、音波センサ10において設定させる。
【0042】
このような距離検出システム1によれば、温度または湿度に応じて音波の減衰量が変化することを考慮して、適切な補正値を設定することができる。
また、上記ソナー制御部30においてCPU31は、音波センサ10によって検出しようとする検出対象物に関する情報を表す検出対象情報を取得し、検出対象情報も加味して補正値を決定する。
【0043】
このような距離検出システム1によれば、音波センサ10を、検出対象物に応じて適切な検出領域の広さ、または感度を有するセンサとすることができる。
さらに、上記ソナー制御部30においてCPU31は、予め複数準備された補正値から検出対象情報に応じて利用する補正値を選択する。
【0044】
このような距離検出システム1によれば、複数の補正値から補正値を選択するので、補正値を演算する構成と比較して補正値を決定する際の処理を簡素化することができる。
また、上記ソナー制御部30においてCPU31は、自車両の車速が基準時間以上継続して基準速度以上である場合に、補正値を求める演算を行い、その後、補正値を音波センサ10に送信することによって、補正値を音波センサ10において設定させる。すなわち、車両に設置されている温度センサは、搭載位置によっては、停車時にはエンジンの熱で、実際の外気温より高く検知されてしまう場合がある。そのため、走行風で冷却され正確な外気温が検知可能になった段階で、補正値を決定する。それまでは、起動直後の値を仮に使用するか、予め設定された固定値を使用する。
【0045】
このような距離検出システム1によれば、より適正な補正値を音波センサ10に設定することができる。
[その他の実施形態]
本発明の実施の形態は、上記の実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採りうる。
【0046】
例えば、上記実施形態においては、感度を補正する構成として増幅率(ゲイン)を補正したが、同様の特性が得られるように閾電圧を補正してもよい。
また、上記実施形態では、補正を行う距離の上限値や下限値を設定しなかったが、これらの値を設定するようにしてもよい。例えば、補正を行う距離の上限値を設定する場合には、
図7に示すように、一定の距離を超える場合に、補正量を一定とする。このようにすると、物標を検出する範囲を適切に設定することができ、補正を行う必要がある距離範囲内でだけ感度を補正することができる。
【0047】
また、路面を検出した場合には、路面を検出しない程度に感度を低く設定するようにしてもよい。この場合、例えば
図8に示す対路面補正処理を実施すればよい。
対路面補正処理では、
図8に示すように、まず、システム作動条件が成立しているか否かを判定する(S310)。ここで、システム作動条件とは、車速が一定以上であることや、シフトポジションがPやN以外であること等が挙げられる。
【0048】
システム作動条件が成立していなければ(S310:NO)、S310の処理を繰り返す。また、システム作動条件が成立していれば(S310:YES)、音波センサ10に物標を検出する作動(音波の送受信)を指示し(S320)、音波センサ10からの距離情報を取得する(S330)。この際、車速の情報も周知の車速センサから取得する。
【0049】
続いて、取得された距離毎に距離情報をデータとして格納する(S340)。そして、ある音波センサ10から得られた検出結果について、同一距離となる頻度が基準値(例えば40%程度)以上であるか否かを判定する(S350)。
【0050】
同一距離となる頻度が基準値未満である場合(S350:NO)、S310の処理に戻る。また、同一距離となる頻度が基準値以上である場合(S350:YES)、他の音波センサ10についてもこの音波センサ10による検出結果と概ね同一距離となるか否かを判定する(S360)。
【0051】
他の音波センサ10で概ね同一距離の検出結果が得られていなければ(S360:NO)、S310の処理に戻る。また、他の音波センサ10でも概ね同一距離の検出結果が得られていれば(S360:YES)、感度が低くなるよう(例えば10段階中の1段階分低くするなどして)前述の増幅率または閾値を変更する(S370)。そして、変更前の感度に基づく衝突回避制御部40による報知や制御を中止させ(S380)、距離情報のデータをクリアし(S390)、S310の処理に戻る。
【0052】
以上のような距離検出システムにおいて、上記ソナー制御部30のCPU31は、音波センサ10による検出値を繰り返し取得し、検出値が一定回数(一定頻度)以上同じ距離を示す値である場合に、音波センサ10の感度がより低くなるように補正値を設定する。
【0053】
このような距離検出システムによれば、一定回数以上検出された物標を地面であるものとし、音波センサ10の感度を、地面が検出されない程度の感度に設定することができる。
【0054】
また、上記ソナー制御部30においてCPU31は、複数の音波センサ10による検出値を取得し、複数のセンサからの検出値が同じ距離を示す値である場合に、音波センサ10の感度がより低くなるように補正値を設定する。
【0055】
このような距離検出システムによれば、複数の音波センサ10により同じ距離に検出された物標を地面であるものとし、音波センサ10の感度を、地面が検出されない程度の感度に設定することができる。
【0056】
なお、上記実施形態では、シフトセンサによって検出されるシフトポジションによって検出対象物を特定したが、検出対象物に関する情報を別途検出または取得するようにしてもよい。
【0057】
また、音波センサ10の感度を補正するタイミングについては、任意のタイミングを取り得る。上記実施形態では音波センサ10の起動時に感度を補正したが、検出しようとする物標を変更するとき、或いは、音波を送信する毎等であってもよい。
【0058】
[実施形態の構成と本発明の手段との関係]
本実施形態における音波センサ10の主要構成(演算部11、送受信部12、第1増幅部13、可変増幅部14、第2増幅部15、比較部16、閾電圧生成部17)は本発明でいう物標判定手段に相当し、ソナー制御部30は本発明でいう補正値設定装置に相当する。また、本実施形態の処理のうちの、S130の処理は本発明でいう温湿度情報取得手段に相当し、S135の処理は本発明でいう検出対象情報取得手段に相当する。
【0059】
さらに、本実施形態のS140の処理は本発明でいう補正値決定手段に相当し、S150、S350〜S370の処理は本発明でいう補正値設定手段に相当する。また、S210、S220の処理は本発明でいう補正値取得手段に相当し、S330の処理は本発明でいう第1センサ値取得手段および第2センサ値取得手段に相当する。