(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ディスクブレーキ装置は、車軸に固定されるディスクロータと、このディスクロータに対峙して配置されるトルク受けプレートのディスクロータ側の面にライニング部材を組み付けたディスクブレーキ用摩擦パッド組立て体と、トルク受けプレートをディスクロータに向かって進退駆動するアクチュエータを内蔵して車体フレームに固定されるブレーキキャリパとを具備し、トルク受けプレートをディスクロータ側に進出させてライニング部材がディスクロータへ押圧された時の摺動摩擦によって制動力を発生する。
【0003】
鉄道車両用のディスクブレーキ装置では、ディスクロータやディスクブレーキ用摩擦パッド組立て体が大型であるため、ディスクロータに押圧させるライニング部材を一体部品で形成すると、摩擦熱等でディスクロータに発生するうねり等のために非接触の領域が多くなり、安定した摩擦面積を維持できず、安定した制動特性が得られない。
また、ディスクロータとの接触によってライニング部材が不用意に回転すると、それにより制動トルクの伝達にロスが発生したり、ブレーキノイズが発生したりしてしまう。そのため、ライニング部材の回転を規制する手段が必要になり、部品の増加がコストアップを招くと同時に、部品の増加に伴う組み立て工程数の増加が生産性の低下を招く。
【0004】
そこで、このような問題を解決するために、ガイドプレートに旋回自在(揺動自在)に支持されてディスクロータへ押圧されるライニング組立体が、摩擦材の裏面に固着された裏板部に、外周面がガイドプレートのガイド孔部に旋回自在に嵌合するプレート嵌合部と、ガイド孔部よりも大きな外径の抜け止めフランジ部とを備え、ディスクロータと摩擦材との接触時に作用する制動トルクをプレート嵌合部からガイドプレートに伝達し、裏板部との間に間隙を開けてガイドプレートに固着されたトルク受けプレートと裏板部との間には、複数のライニング組立体に跨って配備されてトルク受けプレートからの押圧力をこれらのライニング組立体に作用させる複数のリンクプレートが設けられた構成のディスクブレーキ用摩擦パッド組立て体が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
このような構成のディスクブレーキ用摩擦パッド組立て体では、リンクプレートが、トルク受けプレートのリンク支持部に当接して旋回可能に支持される単一のプレート当接曲面部と、各ライニング組立体の裏板部の中心のリンク当接部に当接してライニング組立体を旋回可能に支持する複数個の裏板当接曲面部と、各ライニング組立体の裏板部の中心から離れた位置に形成された係合孔に遊嵌して各ライニング組立体の旋回挙動を規制する回転規制部と、を備えている。
即ち、ライニング組立体から制動トルクを受ける部材と、ライニング組立体へ押圧力を作用させる部材とが別個に設定されており、ライニング組立体へ押圧力を作用させるプレート当接曲面部及び裏板当接曲面部とトルク受けプレートとの各接触部には、大きい負荷となる制動トルクが作用しない。そのため、押圧力を伝達する各接触部は、制動トルクを受け止める玉継手等の堅牢な係合にする必要がなく、加工精度の緩和によるコストの節減、生産性の向上を実現することができる。
【0006】
また、各ライニング組立体の旋回挙動を規制する回転規制部が、裏板部に形成された係合孔と、リンクプレートに突設された回転規制部との嵌合によって行われるため、部品の増加に起因したコストアップや組立工程数の増加による生産性の低下といった不都合の発生を回避できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記特許文献1等に記載のディスクブレーキ用摩擦パッド組立て体では、プレート嵌合部に嵌着された板ばねが、ガイドプレートと抜け止めフランジ部との間に挟まれるように、ガイドプレートの裏面側からガイド孔部に挿入装着されて、ディスクロータと摩擦材との接触時に作用する制動トルクをプレート嵌合部からガイドプレートに伝達する。板ばねは、ライニング組立体の厚さ方向の寸法公差を吸収するため、ディスクロータに対する各ライニング組立体の接触性にばらつきが生じることを防止している。
しかしながら、板ばねは、外径がガイド孔部よりも大きく設定され、プレート嵌合部の外周に嵌着されて、ガイドプレートと抜け止めフランジ部との間に挟まれる。このため、プレート嵌合部に板ばねが嵌着されたライニング組立体は、旋回性の自由度が低く、制動時の高温状態等によりライニング面に偏摩耗が生じる可能性があった。
【0009】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、その目的は、ライニング組立体の旋回自由度を高めて、偏摩耗が抑止されるディスクブレーキ用摩擦パッド組立て体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る上記目的は、下記構成により達成される。
(1) 制動トルクを受けるガイドプレートに旋回自在に支持されディスクロータへ押圧される複数のライニング組立体と、前記ライニング組立体の摩擦材の裏面に固着された裏板部の外周面に設けられ、前記ガイドプレートに設けられたガイド孔部に旋回自在に嵌合するプレート嵌合部と、前記ライニング組立体に設けられ前記ガイド孔部よりも大きな外径の抜け止めフランジ部と、前記裏板部との間に間隙を開けて前記ガイドプレートに固着されたトルク受けプレートと、前記トルク受けプレートと前記裏板部との間に設けられ、複数のライニング組立体に跨って配備されて前記トルク受けプレートからの押圧力を前記ライニング組立体に作用させるリンクプレートと、前記リンクプレートに設けられ、前記トルク受けプレートのリンク支持部に当接して前記リンクプレートを旋回可能に支持する単一のプレート当接曲面部と、前記リンクプレートに設けられ、それぞれの前記ライニング組立体の裏板部の中心のリンク当接部に当接して前記ライニング組立体を旋回可能に支持する複数個の裏板当接曲面部と、前記リンクプレートに設けられ、それぞれの前記ライニング組立体の裏板部の中心から離れた位置に形成された係合孔に遊嵌してそれぞれのライニング組立体の旋回挙動を規制する回転規制部と、前記リンクプレートと前記裏板部との間に挟まれ前記ライニング組立体を前記ガイドプレート側に付勢された状態に支持するばね部材と、を備えることを特徴とするディスクブレーキ用摩擦パッド組立て体。
【0011】
上記(1)の構成のディスクブレーキ用摩擦パッド組立て体によれば、リンクプレートに設けられた単一のプレート当接曲面部がトルク受けプレートのリンク支持部に当接して、リンクプレートがトルク受けプレートに対して旋回可能に支持される。また、リンクプレートに設けられた裏板当接曲面部がそれぞれのライニング組立体の裏板部のリンク当接部に当接して、ライニング組立体がリンクプレートに対して旋回可能に支持される。
そこで、非制動時のライニング組立体は、リンクプレートに対向する裏板部とリンクプレートの正面との間に圧縮状態で装着されるばね部材によって、ガイドプレート側に付勢された状態に支持される。ばね部材は、リンクプレートと裏板部との間に挟まれた圧縮状態では、抜け止めフランジ部がガイド孔部の周縁部に当接した状態に維持されるように、ライニング組立体をガイドプレート側に付勢する。
そして、制動開始時、ディスクロータへライニング組立体を押圧する押圧力は、トルク受けプレートから、リンクプレート及びばね部材を介してライニング組立体に作用する。ディスクロータからの反力が増大すると、ばね部材とリンクプレートのプレート可撓部とが弾性変形され、ライニング組立体を押圧する押圧力は、トルク受けプレートからリンクプレートのみを介してライニング組立体に作用する。この際、ガイド孔部の周縁部から抜け止めフランジ部が離反し、ライニング組立体は裏板当接曲面部によってリンクプレートに対して旋回可能に支持され、位置調整が可能となる。従って、旋回自由度が高いライニング組立体は、それぞれ個別の旋回動作でディスクロータ表面のうねりに追従して、ディスクロータ表面に接触するため、安定した摩擦面積を維持して、安定した制動特性を維持できる。
ライニング組立体の位置調整をするリンクプレートは、ばね部材を圧縮してライニング組立体と当接するよう配設される。即ち、ばね部材のセット荷重はガイドプレートとリンクプレートとで受けられる。制動時に位置調整されたライニング組立体は、制動が解除されると、ばね部材のセット荷重によって抜け止めフランジ部がガイド孔部の周縁部に当接した位置(つまり、リセット位置)となる。従って、制動時の高温状態等によりライニング面に偏摩耗が生じた場合であっても、制動が解除されると、ライニング組立体は、偏摩耗の生じた姿勢からフランジ部がガイド孔部の周縁部に当接するリセット位置に戻される。これにより、次の制動時には、ライニング組立体は、ライニング面の凸部からディスクロータ表面に接触し始めるので、偏摩耗の成長が抑止される。
【0012】
(2) 上記(1)の構成のディスクブレーキ用摩擦パッド組立て体であって、前記ばね部材が皿ばねからなり、前記皿ばねは、内径部が前記リンクプレートに当接し、外径部が前記裏板部に当接することを特徴とするディスクブレーキ用摩擦パッド組立て体。
【0013】
上記(2)の構成のディスクブレーキ用摩擦パッド組立て体によれば、皿ばねの内径部がリンクプレートに当接し、外径部がライニング組立体の裏板部に当接するので、制動中の熱等によるディスクロータ表面の変形にライニング面が追従する際、ライニング組立体に傾きが生じようとすると、ばね定数の高い皿ばねによるライニング組立体の傾きに対する拘束力が増加する。これにより、振動の誘発が抑制され、ブレーキ鳴きの発生が低減される。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るディスクブレーキ用摩擦パッド組立て体によれば、ライニング組立体の旋回自由度を高めて、偏摩耗を抑止できる。
【0015】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る実施形態を図面を参照して説明する。
本発明の一実施形態に係るディスクブレーキ用摩擦パッド組立て体11は、鉄道車両用ディスクブレーキ装置に使用されるもので、車軸上の不図示のディスクロータの周方向に、
図1及び
図2に示すように、隣接配置される2つの第1摩擦パッド組立て体13と第2摩擦パッド組立て体15とから構成されている。
第1摩擦パッド組立て体13及び第2摩擦パッド組立て体15は、同様の構成を有しており、車軸上のディスクロータに対峙して配置されて車体フレームに固定されたブレーキキャリパに内蔵のアクチュエータによってディスクロータのディスクロータ表面に向かって進退駆動される。
【0018】
第1摩擦パッド組立て体13及び第2摩擦パッド組立て体15は、
図4乃至
図7に示すように、不図示のブレーキキャリパに内蔵されたアクチュエータによってディスクロータに向かって進退駆動されるトルク受けプレート17と、このトルク受けプレート17のディスクロータ側の面の上に略平面上に敷設される2種のリンクプレートである第1リンクプレート21及び第2リンクプレート23と、トルク受けプレート17のディスクロータ側で、トルク受けプレート17に連結固定されるガイドプレート25と、ガイドプレート25に旋回可能に嵌合支持された5個のライニング組立体27とから構成されている。
【0019】
トルク受けプレート17の裏面には、
図3に示すように、アンカープレート29がリベット32により固定装備されている。このアンカープレート29が、ブレーキキャリパに内蔵されたアクチュエータに連結されて、第1摩擦パッド組立て体13及び第2摩擦パッド組立て体15のディスクロータへの進退駆動が可能になる。
【0020】
トルク受けプレート17は、
図7に示すライニング組立体27の裏板部33との間に間隙35を開けるため、平板材の周縁部に周壁37を突出形成して裏板部33の背面側を密封する薄皿状に成形されている。そして、トルク受けプレート17は、ライニング組立体27の裏板部33との間に間隙35を開けて、リベット31によりガイドプレート25の外周部に固着される。
【0021】
第1リンクプレート21及び第2リンクプレート23は、
図5に示すように、複数のライニング組立体27に跨って配備されて、トルク受けプレート17からの押圧力をこれらのライニング組立体27に作用させる。
トルク受けプレート17の第1リンクプレート21及び第2リンクプレート23の側の面には、それぞれの第1リンクプレート21と第2リンクプレート23とを旋回自在に支持するための平滑面であるリンク支持部39が、第1リンクプレート21と第2リンクプレート23のそれぞれの略重心位置に対応するように、形成されている。
一方、第1リンクプレート21と第2リンクプレート23の略重心位置には、トルク受けプレート17に形成されたリンク支持部39に当接して旋回可能に支持される単一のプレート当接曲面部41が形成されている。本実施形態の場合、プレート当接曲面部41は、リンク支持部39に対して旋回自在に当接する凸湾曲面に形成されている。
なお、本実施形態の場合、第1リンクプレート21及び第2リンクプレート23は略重心位置のプレート当接曲面部41がトルク受けプレート17に当接して旋回自在に支持されているので、このプレート当接曲面部41を除いて、第1リンクプレート21及び第2リンクプレート23のトルク受けプレート側の面とトルク受けプレート17との間には、旋回を許容する隙間が形成されている。
【0022】
ガイドプレート25は、ガイド孔部43が所定の離間間隔で5つ形成されており、それぞれのガイド孔部43には、ライニング組立体27が装着される。
【0023】
ライニング組立体27は、略円板状に成型された摩擦材45と、この摩擦材45の裏面に固着された裏板部33とから構成されている。裏板部33には、
図6及び
図7に示すように、外周面がガイドプレート25に貫通形成された円形のガイド孔部43に旋回自在に嵌合するプレート嵌合部47と、ガイド孔部43よりも大きな外径の抜け止めフランジ部49とが設けられている。ライニング組立体27は、ディスクロータと摩擦材45との接触時に作用する制動トルクをプレート嵌合部47からガイドプレート25に伝達する。
【0024】
ここで、第1リンクプレート21及び第2リンクプレート23と各ライニング組立体27の裏板部33との間には、ライニング組立体27をガイドプレート側に付勢された状態に支持するばね部材が挟まれている。
【0025】
本実施形態におけるばね部材は、
図7に示す皿ばね51からなる。皿ばね51は、内径部53が第1リンクプレート21又は第2リンクプレート23に当接し、外径部55が裏板部33に当接する向きで、第1リンクプレート21又は第2リンクプレート23と裏板部33との間に挟装されている。皿ばね51は、内径部53が第1リンクプレート21又は第2リンクプレート23の裏板当接曲面部57に係合して位置規制される。皿ばね51は、0.3〜0.8N/mm/mm
2程度のばね定数を有することが望ましい。
【0026】
それぞれのライニング組立体27の裏板部33は、中心に凹曲面形状のリンク当接部59が形成されると共に、中心から離れた位置に
図5に示す回り止め用の係合孔61が形成されている。
これに対応して、第1リンクプレート21及び第2リンクプレート23には、係合孔61に遊嵌してそれぞれのライニング組立体27の回転挙動を規制する回転規制部63が備えられている。
【0027】
本実施形態の場合、裏板当接曲面部57はリンク当接部59が回転自在に当接する凸湾曲面に形成されている。回転規制部63は、第1リンクプレート21と第2リンクプレート23の端部に延出した突片を、係合孔側に折り曲げたものである。
【0028】
次に、第1摩擦パッド組立て体13及び第2摩擦パッド組立て体15の組立手順を第1摩擦パッド組立て体13を例に説明する。
先ず、
図5に示すように、背面を上方に向けてセットされたガイドプレート25のガイド孔部43に、摩擦材45がガイドプレート25の正面側(
図6の下側)に突出するようにライニング組立体27が挿入装着される。ガイド孔部43に挿入装着されたライニング組立体27は、抜け止めフランジ部49がガイド孔部43の周縁部に当接した状態とされる。
【0029】
次に、皿ばね51がそれぞれのライニング組立体27における裏板部33に載置される。更に、裏板当接曲面部57が裏板部33の背面中心に対面するようにして、皿ばね51の内径部53に係合される。同時に、第1リンクプレート21及び第2リンクプレート23の回転規制部63が回り止め用の係合孔61に係合し、第1リンクプレート21及び第2リンクプレート23が皿ばね51の上に載置される。
【0030】
これら皿ばね51と第1リンクプレート21及び第2リンクプレート23とをライニング組立体27の背面側に装着した状態で、トルク受けプレート17がリベット31によりガイドプレート25の外周部に固着される。更に、トルク受けプレート17とガイドプレート25の中央部近傍は、ガイドプレート25とトルク受けプレート17とを貫通するリベット34によって、挟持固定される。また、
図6に示すように、トルク受けプレート17とガイドプレート25の外周部の一部は、ガイドプレート25及びトルク受けプレート17と共にアンカープレート29を貫通するリベット36によって、挟持固定される。なお、これらリベット34,36により挟持固定されるガイドプレート25とトルク受けプレート17との間には、両部材の間隔を保持するためのスペーサ部材38が介装されている。
【0031】
次に、上記の構成を有するディスクブレーキ用摩擦パッド組立て体11の作用を説明する。
本実施形態に係るディスクブレーキ用摩擦パッド組立て体11において、トルク受けプレート17上での各ライニング組立体27の位置規制は、ライニング組立体27のディスクロータ表面と平行な方向に対しては、ライニング組立体27のプレート嵌合部47とガイドプレート25のガイド孔部43との嵌合によって行われ、ディスクロータ表面と直交する方向に対しては、ライニング組立体27のリンク当接部59と第1リンクプレート21及び第2リンクプレート23の裏板当接曲面部57との当接によって行われる。
従って、制動時にライニング組立体27に作用する制動トルクは、ガイドプレート25に伝達され、ガイドプレート25が固定されているトルク受けプレート17にダイレクトに伝達される。
また、ディスクロータへライニング組立体27を押圧する押圧力は、トルク受けプレート17から、トルク受けプレート17のリンク支持部39と第1リンクプレート21及び第2リンクプレート23のプレート当接曲面部41との接触部を介して第1リンクプレート21及び第2リンクプレート23に伝達され、第1リンクプレート21及び第2リンクプレート23の裏板当接曲面部57とライニング組立体27のリンク当接部59との接触部を介してライニング組立体27に作用する。
【0032】
即ち、ライニング組立体27から制動トルクを受ける部材(ガイドプレート25)と、ライニング組立体27へ押圧力を作用させる部材(第1リンクプレート21及び第2リンクプレート23とトルク受けプレート17)とが別個に設定されている。そこで、ライニング組立体27へ押圧力を作用させるライニング組立体27と第1リンクプレート21及び第2リンクプレート23との接触部や、第1リンクプレート21及び第2リンクプレート23とトルク受けプレート17との接触部には、大きい負荷となる制動トルクが作用しない。
そのため、押圧力を伝達するそれぞれの接触部は、制動トルクを受け止める玉継手等の堅牢な係合にする必要がなく、加工精度の緩和によるコストの節減、生産性の向上を実現することができる。
【0033】
また、以上に説明したディスクブレーキ用摩擦パッド組立て体11では、摩擦材45がディスクロータに押圧された時の押圧力の反力が通常範囲の大きさの場合には、ライニング組立体27から第1リンクプレート21及び第2リンクプレート23の裏板当接曲面部57、プレート当接曲面部41を経て伝達されて、トルク受けプレート17で受け止められる。しかし、過大な反力がディスクロータから入力された場合には、プレス加工によって製作されている第1リンクプレート21及び第2リンクプレート23が、トルク受けプレート17との間で旋回可能な隙間を埋めるように変形してトルク受けプレート17に強く当接する。
そのため、第1リンクプレート21及び第2リンクプレート23は、裏板当接曲面部57の近傍及びプレート当接曲面部41のそれぞれをトルク受けプレート17に接触させて、過大な反力をトルク受けプレート17に伝達すると同時に、破損が防止される。
【0034】
また、以上に説明したディスクブレーキ用摩擦パッド組立て体11では、ライニング組立体27の裏板部33に形成した抜け止めフランジ部49の外径をガイドプレート25のガイド孔部43よりも大きく設定して、抜け止めフランジ部49の引っかかりによりライニング組立体27がガイドプレート25から脱落しないようにしており、高い安全性が得られる。
また、ライニング組立体27のガイドプレート25からの脱落防止のために、独立した専用部品を追加していないため、部品の増加に起因したコストアップや組み立て工程数の増加による生産性の低下といった不都合の発生を回避できる。
【0035】
また、以上に説明したディスクブレーキ用摩擦パッド組立て体11では、ディスクロータにライニング組立体27が接触したときの制動トルクの伝達効率を高めるために、ディスクロータ表面に平行な面内でのライニング組立体27の回転規制が、ライニング組立体27の裏板部33に形成した係合孔61と、第1リンクプレート21及び第2リンクプレート23に突設された回転規制部63との嵌合によって行われている。即ち、ディスクロータ表面に平行な面内でのライニング組立体27の回転規制には、独立した専用部品を追加していないため、ライニング組立体27の回転規制のために部品が増加することがなく、部品の増加に起因したコストアップや組み立て工程数の増加による生産性の低下といった不都合の発生を回避できる。
【0036】
更に、以上に説明したディスクブレーキ用摩擦パッド組立て体11では、複数個のライニング組立体27を平面状に敷き並べた形態であるが、各ライニング組立体27の裏板部33とガイドプレート25との間に挟まれるように配置された皿ばね51が、ライニング組立体27の厚さ方向の寸法公差を吸収するため、ディスクロータに対するライニング組立体27の接触性にばらつきが生じることを防止できる。
従って、ライニング組立体27の厚さ方向の寸法公差の影響を受けずに、安定した制動特性を維持することができる。
【0037】
また、本実施形態のディスクブレーキ用摩擦パッド組立て体11では、ガイドプレート25とトルク受けプレート17とをリベット31,34,36による締結によって、一体の筐体構造としたことで、振動等で緩みが生じることのない堅牢な筐体構造を安価に得ることができる。
【0038】
以上の基本作用に加え、本実施形態に係るディスクブレーキ用摩擦パッド組立て体11は、皿ばね51を備えることで更に以下の作用を奏する。
即ち、本実施形態のディスクブレーキ用摩擦パッド組立て体11では、上記のように、第1リンクプレート21及び第2リンクプレート23にそれぞれ設けられた単一のプレート当接曲面部41がトルク受けプレート17のリンク支持部39に当接して、第1リンクプレート21及び第2リンクプレート23がトルク受けプレート17に対してそれぞれ旋回可能に支持される。また、第1リンクプレート21及び第2リンクプレート23に設けられた裏板当接曲面部57がそれぞれのライニング組立体27の裏板部33のリンク当接部59に当接して、ライニング組立体27が第1リンクプレート21又は第2リンクプレート23に対して旋回可能に支持される。
【0039】
そこで、
図8(a)に示す非制動時、ライニング組立体27は、第1リンクプレート21又は第2リンクプレート23に対向する裏板部33とこれら第1リンクプレート21又は第2リンクプレート23の正面との間に圧縮状態で装着される皿ばね51によって、ガイドプレート25側に付勢された状態に支持される。皿ばね51は、第1リンクプレート21又は第2リンクプレート23と裏板部33との間に挟まれた圧縮状態では、抜け止めフランジ部49がガイド孔部43の周縁部に当接した状態に維持されるように、ライニング組立体27をガイドプレート25側に付勢する。
【0040】
そして、
図8(b)に示す制動開始時、ディスクロータへライニング組立体27を押圧する押圧力は、トルク受けプレート17から、第1リンクプレート21及び第2リンクプレート23と皿ばね51を介してライニング組立体27に作用する。
図8(c)に示すように、ディスクロータからの反力が増大すると、皿ばね51と、第1リンクプレート21及び第2リンクプレート23のプレート可撓部65とが弾性変形され、ライニング組立体27を押圧する押圧力は、トルク受けプレート17から、第1リンクプレート21及び第2リンクプレート23のみを介してライニング組立体27に作用する。この際、ガイド孔部43の周縁部から抜け止めフランジ部49が離反し、ライニング組立体27は裏板当接曲面部57によって第1リンクプレート21又は第2リンクプレート23に対して旋回可能に支持され、位置調整が可能となる。
【0041】
従って、旋回自由度が高いライニング組立体27は、それぞれ個別の旋回動作でディスクロータ表面のうねりに追従して、ディスクロータ表面に接触するため、安定した摩擦面積を維持して、安定した制動特性を維持できる。
【0042】
ライニング組立体27の位置調整をする第1リンクプレート21及び第2リンクプレート23は、皿ばね51を圧縮してライニング組立体27と当接するよう配設される。即ち、皿ばね51のセット荷重はガイドプレート25と第1リンクプレート21及び第2リンクプレート23とで受けられる。制動時に位置調整されたライニング組立体27は、制動が解除されると、皿ばね51のセット荷重によって抜け止めフランジ部49が再びガイド孔部43の周縁部に当接した位置(つまり、リセット位置)となる。従って、制動時の高温状態等によりライニング面に偏摩耗が生じた場合であっても、制動が解除されると、ライニング組立体27は、偏摩耗の生じた姿勢から抜け止めフランジ部49がガイド孔部43の周縁部に当接するリセット位置に戻される。これにより、次の制動時には、ライニング組立体27は、ライニング面の凸部からディスクロータ表面に接触し始めるので、偏摩耗の成長が抑止される。
【0043】
また、本実施形態のディスクブレーキ用摩擦パッド組立て体11では、皿ばね51の内径部53が第1リンクプレート21又は第2リンクプレート23に当接し、外径部55がライニング組立体27裏板部33に当接するので、制動中の熱等によるディスクロータ表面の変形にライニング面が追従する際、ライニング組立体27に傾きが生じようとすると、ばね定数の高い皿ばね51によるライニング組立体27の傾きに対する拘束力が増加する。これにより、振動の誘発が抑制され、ブレーキ鳴きの発生が低減される。
【0044】
従って、本実施形態に係るディスクブレーキ用摩擦パッド組立て体11によれば、ライニング組立体27の旋回自由度を高めて、偏摩耗を抑止できる。
【0045】
なお、本発明のディスクブレーキ用摩擦パッド組立て体は、前述した実施形態に限定されるものでなく、適宜な変形,改良等が可能である。
例えば、1つのディスクブレーキ用摩擦パッド組立て体を複数の単位摩擦パッド組立て体から構成する場合に、構成する単位摩擦パッド組立て体の数量は、1つ又は3つ以上としても良い。また、リンクプレートの数量も、上記実施形態の2つに限らず、1つ又は3つ以上とすることができる。