特許第6073651号(P6073651)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6073651
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】車両用空気調和装置
(51)【国際特許分類】
   B60H 1/22 20060101AFI20170123BHJP
   B60H 1/32 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
   B60H1/22 651C
   B60H1/32 624H
【請求項の数】2
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-247513(P2012-247513)
(22)【出願日】2012年11月9日
(65)【公開番号】特開2014-94674(P2014-94674A)
(43)【公開日】2014年5月22日
【審査請求日】2015年10月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098361
【弁理士】
【氏名又は名称】雨笠 敬
(72)【発明者】
【氏名】宮腰 竜
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 謙一
(72)【発明者】
【氏名】武居 秀憲
(72)【発明者】
【氏名】山下 耕平
【審査官】 土屋 正志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−176659(JP,A)
【文献】 特開平05−272817(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/063289(WO,A1)
【文献】 特開2012−007856(JP,A)
【文献】 特開2009−115324(JP,A)
【文献】 特開2011−178372(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/22
B60H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を圧縮する圧縮機と、
車室内に供給する空気が流通する空気流通路と、
該空気流通路に設けられて冷媒を放熱させる放熱器と、
前記空気流通路に設けられて冷媒を吸熱させる吸熱器と、
前記車室外に設けられて冷媒を放熱又は吸熱させる室外熱交換器と、
該室外熱交換器に流入する冷媒を減圧させる膨張弁と、
制御手段とを備え、
該制御手段により、
前記圧縮機から吐出された冷媒を前記放熱器にて放熱させ、放熱した当該冷媒を減圧した後、前記室外熱交換器にて吸熱させる暖房モードと、
前記圧縮機から吐出された冷媒を前記放熱器にて放熱させ、放熱した当該冷媒を減圧した後、前記吸熱器と前記室外熱交換器にて吸熱させる除湿暖房モードと、
前記室外熱交換器への冷媒の流入と当該室外熱交換器からの冷媒の流出を阻止し、前記圧縮機から吐出された冷媒を前記放熱器にて放熱させ、放熱した当該冷媒を減圧した後、前記吸熱器にて吸熱させる内部サイクルモードと、
前記圧縮機から吐出された冷媒を前記放熱器及び室外熱交換器にて放熱させ、放熱した当該冷媒を減圧した後、前記吸熱器にて吸熱させる除湿冷房モードと、
前記圧縮機から吐出された冷媒を前記室外熱交換器にて放熱させ、放熱した当該冷媒を減圧した後、前記吸熱器にて吸熱させる冷房モードとを切り換えて実行する車両用空気調和装置において、
前記制御手段は、前記内部サイクルモードにおいて、前記放熱器の冷媒過冷却度が所定の閾値以上となった場合、循環冷媒量が過多であると判断して前記室外熱交換器に冷媒を封入する冷媒封入モードを実行し、前記圧縮機の運転状態が安定している状態で、前記圧縮機の吐出冷媒過熱度がもう一つの所定の閾値以上となっている場合、循環冷媒量が不足していると判断して前記室外熱交換器から冷媒を放出する冷媒放出モードを実行することを特徴とする車両用空気調和装置。
【請求項2】
冷媒を圧縮する圧縮機と、
車室内に供給する空気が流通する空気流通路と、
該空気流通路に設けられて冷媒を放熱させる放熱器と、
前記空気流通路に設けられて冷媒を吸熱させる吸熱器と、
前記車室外に設けられて冷媒を放熱又は吸熱させる室外熱交換器と、
該室外熱交換器に流入する冷媒を減圧させる膨張弁と、
制御手段とを備え、
該制御手段により、
前記圧縮機から吐出された冷媒を前記放熱器にて放熱させ、放熱した当該冷媒を減圧した後、前記室外熱交換器にて吸熱させる暖房モードと、
前記圧縮機から吐出された冷媒を前記放熱器にて放熱させ、放熱した当該冷媒を減圧した後、前記吸熱器と前記室外熱交換器にて吸熱させる除湿暖房モードと、
前記室外熱交換器への冷媒の流入と当該室外熱交換器からの冷媒の流出を阻止し、前記圧縮機から吐出された冷媒を前記放熱器にて放熱させ、放熱した当該冷媒を減圧した後、前記吸熱器にて吸熱させる内部サイクルモードと、
前記圧縮機から吐出された冷媒を前記放熱器及び室外熱交換器にて放熱させ、放熱した当該冷媒を減圧した後、前記吸熱器にて吸熱させる除湿冷房モードと、
前記圧縮機から吐出された冷媒を前記室外熱交換器にて放熱させ、放熱した当該冷媒を減圧した後、前記吸熱器にて吸熱させる冷房モードとを切り換えて実行する車両用空気調和装置において、
前記制御手段は、前記内部サイクルモードにおいて、前記室外熱交換器に流入する冷媒を減圧する膨張弁を閉じて当該室外熱交換器への流入を阻止すると共に、
所定時間毎のタイミングで前記室外熱交換器から冷媒を放出し、且つ、冷媒流量が多いときは前記室外熱交換器から放出される冷媒の量を多くし、冷媒流量が少ないときは前記室外熱交換器から放出される冷媒の量を少なくすることを特徴とする車両用空気調和装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の車室内を空調するヒートポンプ方式の空気調和装置、特にハイブリッド自動車や電気自動車に適用可能な空気調和装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の環境問題の顕在化から、ハイブリッド自動車や電気自動車が普及するに至っている。そして、このような車両に適用することができる空気調和装置として、冷媒を圧縮して吐出する圧縮機と、車室内側に設けられて冷媒を放熱させる放熱器と、車室内側に設けられて冷媒を吸熱させる吸熱器と、車室外側に設けられて冷媒を放熱又は吸熱させる室外熱交換器を備え、圧縮機から吐出された冷媒を放熱器において放熱させ、この放熱器において放熱した冷媒を室外熱交換器において吸熱させる暖房サイクルと、圧縮機から吐出された冷媒を放熱器において放熱させ、放熱器において放熱した冷媒を吸熱器のみ、又は、この吸熱器と室外熱交換器において吸熱させる除湿暖房サイクルと、圧縮機から吐出された冷媒を室外熱交換器において放熱させ、吸熱器において吸熱させる冷房サイクルと、圧縮機から吐出された冷媒を放熱器及び室外熱交換器において放熱させ、吸熱器において吸熱させる除湿冷房サイクルの各運転モードを実行するものが開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、上記公報では暖房サイクルと冷房サイクルの切り換えの際、内部サイクルを経由して切り換えていた。この内部サイクルでは室外熱交換器への冷媒流入が阻止され、冷媒は放熱器で放熱し、吸熱器で吸熱する状態となるので、除湿暖房サイクルや除湿冷房サイクルに比べて、より除湿能力は高くなり、より暖房能力は小さくなる。そこで、環境や設定温度等の条件に応じてこのような他種類の運転モード(サイクル)を切り換えることで、快適な車室内空調を行うようにしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−295506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、係る内部サイクルの運転モード(以下、内部サイクルモードと称する)では、基本的に室外熱交換器への冷媒の流入と室外熱交換器からの冷媒の流出を阻止するように制御されるため、除湿暖房サイクルの運転モード(以下、除湿暖房モードと称する)から内部サイクルモードへ、或いは、除湿冷房サイクルの運転モード(以下、除湿冷房モードと称する)から内部サイクルモードへのモード切換直前に室外熱交換器内を流れている冷媒の状態によって室外熱交換器に封じ込まれる冷媒量が変化し、そのために内部サイクルモードにおける冷媒回路内の循環冷媒量に過不足が生じる。
【0006】
内部サイクルモードで冷媒不足(冷媒過少)が発生すると、放熱器の温度は上昇するものの、暖房能力自体は不足するようになる。一方、冷媒過多が発生すると、高圧圧力が異常に上昇してしまう。これらにより、内部サイクルモードへの切り換え後、所望の車室内空調性能を発揮できなくなり、他の運転モードに直ぐに切り換わってしまうハンチング現象が発生する問題があった。
【0007】
本発明は、係る従来の技術的課題を解決するために成されたものであり、内部サイクルモードにおける循環冷媒量の過不足の発生を効果的に解消することができる車両用空気調和装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明の車両用空気調和装置は、冷媒を圧縮する圧縮機と、車室内に供給する空気が流通する空気流通路と、この空気流通路に設けられて冷媒を放熱させる放熱器と、空気流通路に設けられて冷媒を吸熱させる吸熱器と、車室外に設けられて冷媒を放熱又は吸熱させる室外熱交換器と、この室外熱交換器に流入する冷媒を減圧させる膨張弁と、制御手段とを備え、この制御手段により、圧縮機から吐出された冷媒を放熱器にて放熱させ、放熱した当該冷媒を減圧した後、室外熱交換器にて吸熱させる暖房モードと、圧縮機から吐出された冷媒を放熱器にて放熱させ、放熱した当該冷媒を減圧した後、吸熱器と室外熱交換器にて吸熱させる除湿暖房モードと、室外熱交換器への冷媒の流入と当該室外熱交換器からの冷媒の流出を阻止し、圧縮機から吐出された冷媒を放熱器にて放熱させ、放熱した当該冷媒を減圧した後、吸熱器にて吸熱させる内部サイクルモードと、圧縮機から吐出された冷媒を放熱器及び室外熱交換器にて放熱させ、放熱した当該冷媒を減圧した後、吸熱器にて吸熱させる除湿冷房モードと、圧縮機から吐出された冷媒を室外熱交換器にて放熱させ、放熱した当該冷媒を減圧した後、吸熱器にて吸熱させる冷房モードとを切り換えて実行するものであって、制御手段は、内部サイクルモードにおいて、放熱器の冷媒過冷却度が所定の閾値以上となった場合、循環冷媒量が過多であると判断して室外熱交換器に冷媒を封入する冷媒封入モードを実行し、圧縮機の運転状態が安定している状態で、圧縮機の吐出冷媒過熱度がもう一つの所定の閾値以上となっている場合、循環冷媒量が不足していると判断して室外熱交換器から冷媒を放出する冷媒放出モードを実行することを特徴とする。
【0009】
請求項2の発明の車両用空気調和装置は、冷媒を圧縮する圧縮機と、車室内に供給する空気が流通する空気流通路と、この空気流通路に設けられて冷媒を放熱させる放熱器と、空気流通路に設けられて冷媒を吸熱させる吸熱器と、車室外に設けられて冷媒を放熱又は吸熱させる室外熱交換器と、この室外熱交換器に流入する冷媒を減圧させる膨張弁と、制御手段とを備え、この制御手段により、圧縮機から吐出された冷媒を放熱器にて放熱させ、放熱した当該冷媒を減圧した後、室外熱交換器にて吸熱させる暖房モードと、圧縮機から吐出された冷媒を放熱器にて放熱させ、放熱した当該冷媒を減圧した後、吸熱器と室外熱交換器にて吸熱させる除湿暖房モードと、室外熱交換器への冷媒の流入と当該室外熱交換器からの冷媒の流出を阻止し、圧縮機から吐出された冷媒を放熱器にて放熱させ、放熱した当該冷媒を減圧した後、吸熱器にて吸熱させる内部サイクルモードと、圧縮機から吐出された冷媒を放熱器及び室外熱交換器にて放熱させ、放熱した当該冷媒を減圧した後、吸熱器にて吸熱させる除湿冷房モードと、圧縮機から吐出された冷媒を室外熱交換器にて放熱させ、放熱した当該冷媒を減圧した後、吸熱器にて吸熱させる冷房モードとを切り換えて実行するものであって、制御手段は、内部サイクルモードにおいて、室外熱交換器に流入する冷媒を減圧する膨張弁を閉じて当該室外熱交換器への流入を阻止すると共に、所定時間毎のタイミングで室外熱交換器から冷媒を放出し、且つ、冷媒流量が多いときは室外熱交換器から放出される冷媒の量を多くし、冷媒流量が少ないときは室外熱交換器から放出される冷媒の量を少なくすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明の車両用空気調和装置によれば、室外熱交換器への冷媒の流入と当該室外熱交換器からの冷媒の流出を阻止し、圧縮機から吐出された冷媒を放熱器にて放熱させ、放熱した当該冷媒を減圧した後、吸熱器にて吸熱させる内部サイクルモードにおいて、循環冷媒量が過多である場合、室外熱交換器に冷媒を封入する冷媒封入モードを実行し、循環冷媒量が不足している場合は、室外熱交換器から冷媒を放出する冷媒放出モードを実行するようにしたので、内部サイクルモードへのモード切り換え直前の状態によって室外熱交換器に封じ込まれる冷媒量が変化し、循環冷媒量に過不足が生じた場合にも、適切に循環冷媒量を調整して必要な空調性能を確保し、又は、過多な冷媒による高圧異常の発生を回避することが可能となる。
【0011】
これらにより、内部サイクルモードにおける必要な空調性能を確保し、所謂ハンチング現象の発生も回避することができるようになる。
【0012】
特に、制御手段は、放熱器の冷媒過冷却度が所定の閾値以上となった場合、循環冷媒量が過多であると判断して室外熱交換器に冷媒を封入する冷媒封入モードを実行し、圧縮機の運転状態が安定している状態で、圧縮機の吐出冷媒過熱度がもう一つの所定の閾値以上となっている場合、循環冷媒量が不足していると判断して室外熱交換器から冷媒を放出する冷媒放出モードを実行するので、循環冷媒量の過不足を的確に判断し、内部サイクルモードにおける循環冷媒量を精度良く調整することが可能となる。
【0013】
請求項2の発明の車両用空気調和装置によれば、室外熱交換器への冷媒の流入と当該室外熱交換器からの冷媒の流出を阻止し、圧縮機から吐出された冷媒を放熱器にて放熱させ、放熱した当該冷媒を減圧した後、吸熱器にて吸熱させる内部サイクルモードにおいて、制御手段が所定時間毎のタイミングで室外熱交換器から冷媒を放出するようにしたので、室外熱交換器に流入する冷媒を減圧する膨張弁を閉じて室外熱交換器への冷媒の流入を阻止するときの、膨張弁の漏れによって生じる室外熱交換器への冷媒流入による循環冷媒量の不足を、所定時間毎の冷媒放出によって解消し、必要な空調性能を確保することが可能となる。
【0014】
特に、制御手段は、冷媒流量が多いときは室外熱交換器から放出される冷媒の量を多くし、冷媒流量が少ないときは室外熱交換器から放出される冷媒の量を少なくするので、室外熱交換器からの冷媒放出量をより的確に制御し、精度良く循環冷媒量を調整することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明を適用した一実施形態の車両用空気調和装置の構成図である。
図2図1の車両用空気調和装置のコントローラの電気回路のブロック図である。
図3図2のコントローラの圧縮機制御に関する制御ブロック図である。
図4図2のコントローラの圧縮機制御に関するもう一つの制御ブロック図である。
図5図2のコントローラの室外膨張弁制御に関する制御ブロック図である。
図6図2のコントローラの運転モードの切換制御を説明する図である。
図7図2のコントローラによる内部サイクルモードにおける循環冷媒量調整制御の一例としての通常運転と冷媒封入モードと冷媒放出モードの遷移を説明する図である。
図8図7における各部の動作を説明するタイミングチャートである。
図9図2のコントローラによる内部サイクルモードにおける循環冷媒量調整制御の他の例を説明する図である。
図10図2のコントローラによる内部サイクルモードにおける循環冷媒量調整制御の更に他の例を説明する図である。
図11】同じく図2のコントローラによる内部サイクルモードにおける循環冷媒量調整制御の更に他の例を説明する図である。
図12図2のコントローラによる内部サイクルモードにおける循環冷媒量調整制御の更にもう一つの他の例を説明する図である。
図13】同じく図2のコントローラによる内部サイクルモードにおける循環冷媒量調整制御の更にもう一つの他の例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。
【0017】
図1は本発明の一実施例の車両用空気調和装置1の構成図を示している。この場合、本発明を適用する実施例の車両は、エンジン(内燃機関)を有さない電気自動車(EV)であって、バッテリに充電された電力で走行用の電動モータを駆動して走行するものであり(何れも図示せず)、本発明の車両用空気調和装置1も、バッテリの電力で駆動されるものとする。
【0018】
即ち、実施例の車両用空気調和装置1は、エンジン廃熱による暖房ができない電気自動車において、冷媒回路を用いたヒートポンプ運転により暖房を行い、更に、除湿暖房や冷房除湿、冷房等の各運転モードを選択的に実行するものである。尚、車両として電気自動車に限らず、エンジンと走行用の電動モータを供用する所謂ハイブリッド自動車にも本発明は有効であり、更には、エンジンで走行する通常の自動車にも適用可能である。
【0019】
実施例の車両用空気調和装置1は、電気自動車の車室内の空調(暖房、冷房、除湿、及び、換気)を行うものであり、冷媒を圧縮して昇圧する電動式の圧縮機2と、車室内空気が通気循環されるHVACユニット10の空気流通路3内に設けられて圧縮機2から吐出された高温高圧の冷媒を車室内に放熱させる放熱器4と、暖房時に冷媒を減圧膨張させる電動弁から成る室外膨張弁6と、冷房時には放熱器として機能し、暖房時には蒸発器として機能すべく冷媒と外気との間で熱交換を行わせる室外熱交換器7と、冷媒を減圧膨張させる電動弁から成る室内膨張弁8と、空気流通路3内に設けられて冷房時及び除湿暖房時に車室内外から冷媒に吸熱させる吸熱器9と、吸熱器9における蒸発能力を調整する蒸発能力制御弁11と、アキュムレータ12等が冷媒配管13により順次接続され、冷媒回路Rが構成されている。尚、室外熱交換器7には、車両の停止時に外気と冷媒とを熱交換させるための室外送風機15が設けられている。
【0020】
また、室外熱交換器7は冷媒下流側にヘッダー部14と過冷却部16を順次有し、室外熱交換器7から出た冷媒配管13Aは冷房時に開放される電磁弁(開閉弁)17を介してヘッダー部14に接続され、過冷却部16の出口が逆止弁18を介して室内膨張弁8に接続されている。尚、ヘッダー部14及び過冷却部16は構造的に室外熱交換器7の一部を構成しており、逆止弁18は室内膨張弁8側が順方向とされている。
【0021】
また、逆止弁18と室内膨張弁8間の冷媒配管13Bは、吸熱器9の出口側に位置する蒸発能力制御弁11を出た冷媒配管13Cと熱交換関係に設けられ、両者で内部熱交換器19を構成している。これにより、冷媒配管13Bを経て室内膨張弁8に流入する冷媒は、吸熱器9を出て蒸発能力制御弁11を経た低温の冷媒により冷却(過冷却)される構成とされている。
【0022】
また、室外熱交換器7から出た冷媒配管13Aは分岐しており、この分岐した冷媒配管13Dは、暖房時に開放される電磁弁(開閉弁)21を介して内部熱交換器19の下流側における冷媒配管13Cに連通接続されている。更に、放熱器4の出口側の冷媒配管13Eは室外膨張弁6の手前で分岐しており、この分岐した冷媒配管13Fは除湿時に開放される電磁弁(開閉弁)22を介して逆止弁18の下流側の冷媒配管13Bに連通接続されている。
【0023】
また、圧縮機2の吐出側の冷媒配管13Gは分岐し、この分岐した冷媒配管13Hは室外熱交換器7の除霜時に開放されて圧縮機2から吐出された高温冷媒(ホットガス)を直接室外熱交換器7に流入させるための電磁弁(開閉弁)23及び逆止弁24を介して室外膨張弁6と室外熱交換器7間の冷媒配管13Iに連通接続されている。尚、逆止弁24は冷媒配管13I方向を順方向とされている。
【0024】
また、吸熱器9の空気上流側における空気流通路3には、内気吸込口と外気吸込口の各吸込口(図1では代表して吸込口25で示す)が形成されており、この吸込口25には空気流通路3内に導入する空気を車室内の空気である内気(内気循環モード)と、車室外の空気である外気(外気導入モード)とに切り換える吸込切換ダンパ26が設けられている。更に、この吸込切換ダンパ26の空気下流側には、導入した内気や外気を空気流通路3に送給するための室内送風機(ブロワファン)27が設けられている。
【0025】
また、放熱器4の空気上流側における空気流通路3内には、内気や外気の放熱器4への流通度合いを調整するエアミックスダンパ28が設けられている。更に、放熱器4の空気下流側における空気流通路3には、フット、ベント、デフの各吹出口(図1では代表して吹出口29で示す)が形成されており、この吹出口29には上記各吹出口から空気の吹き出しを切換制御する吹出口切換ダンパ31が設けられている。
【0026】
次に、図2において32はマイクロコンピュータから構成された制御手段としてのコントローラ(ECU)であり、このコントローラ32の入力には車両の外気温度を検出する外気温度センサ33と、外気湿度を検出する外気湿度センサ34と、吸込口25から空気流通路3に吸い込まれる温度を検出するHVAC吸込温度センサ36と、車室内の空気(内気)の温度を検出する内気温度センサ37と、車室内の空気の湿度を検出する内気湿度センサ38と、車室内の二酸化炭素濃度を検出する室内CO2濃度センサ39と、吹出口29から車室内に吹き出される空気の温度を検出する吹出温度センサ41と、圧縮機2の吐出冷媒圧力を検出する吐出圧力センサ42と、圧縮機2の吐出冷媒温度を検出する吐出温度センサ43と、圧縮機2の吸込冷媒圧力を検出する吸込圧力センサ44と、放熱器4の温度(放熱器4自体の温度、又は、放熱器4にて加熱された空気の温度)を検出する放熱器温度センサ46と、放熱器4の冷媒圧力(放熱器4内、又は、放熱器4を出た冷媒の圧力)を検出する放熱器圧力センサ47と、吸熱器9の温度(吸熱器9自体、又は、吸熱器9にて冷却された空気の温度)を検出する吸熱器温度センサ48と、吸熱器9の冷媒圧力(吸熱器9内、又は、吸熱器9を出た冷媒の圧力)を検出する吸熱器圧力センサ49と、車室内への日射量を検出するための例えばフォトセンサ式の日射センサ51と、車両の移動速度(車速)を検出するための車速センサ52と、温度や運転モードの切り換えを設定するための操作部53と、室外熱交換器7の温度を検出する室外熱交換器温度センサ54と、室外熱交換器7の冷媒圧力を検出する室外熱交換器圧力センサ56の各出力が接続されている。
【0027】
コントローラ32の出力には、前記圧縮機2と、室外送風機15と、室内送風機(ブロワファン)27と、吸込切換ダンパ26と、エアミックスダンパ28と、吹出口切換ダンパ31と、室外膨張弁6、室内膨張弁8と、各電磁弁23、22、17、21と、蒸発能力制御弁11が接続されている。また、コントローラ32の出力には、放熱器4による暖房を補完するために放熱器4の空気下流側における空気流通路3に設けられた電気ヒータ57も接続され、コントローラ32は各センサの出力と操作部53にて入力された設定に基づいてこれらを制御する。
【0028】
以上の構成で、次に実施例の車両用空気調和装置1の動作を説明する。コントローラ32は実施例では大きく分けて暖房モードと、除湿暖房モードと、内部サイクルモードと、除湿冷房モードと、冷房モードの各運転モードを切り換えて実行する。先ず、各運転モードにおける冷媒の流れについて説明する。
【0029】
(1)暖房モード
コントローラ32により或いは操作部53へのマニュアル操作により暖房モードが選択されると、コントローラ32は電磁弁21を開放し、電磁弁17、電磁弁22及び電磁弁23を閉じる。そして、圧縮機2、及び、各送風機15、27を運転し、エアミックスダンパ28は室内送風機27から吹き出された空気が放熱器4に通風される状態とする。これにより、圧縮機2から吐出された高温高圧のガス冷媒は放熱器4に流入する。放熱器4には空気流通路3内の空気が通風されるので、空気流通路3内の空気は放熱器4内の高温冷媒により加熱され、一方、放熱器4内の冷媒は空気に熱を奪われて冷却され、凝縮液化する。
【0030】
放熱器4内で液化した冷媒は冷媒配管13Eを経て室外膨張弁6に至り、そこで減圧された後、室外熱交換器7に流入する。室外熱交換器7に流入した冷媒は蒸発し、走行により、或いは、室外送風機15にて通風される外気中から熱を汲み上げる(ヒートポンプ)。そして、室外熱交換器7を出た低温の冷媒は冷媒配管13D及び電磁弁21を経て冷媒配管13Cからアキュムレータ12に入り、そこで気液分離された後、ガス冷媒が圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。放熱器4にて加熱された空気は吹出口29から吹き出されるので、これにより車室内の暖房が行われることになる。
【0031】
コントローラ32は吐出圧力センサ42又は放熱器圧力センサ47が検出する冷媒回路Rの高圧圧力に基づいて圧縮機2の回転数を制御すると共に、放熱器温度センサ46が検出する放熱器4の温度及び放熱器圧力センサ47が検出する放熱器4の冷媒圧力に基づいて室外膨張弁6の弁開度を制御し、放熱器4の出口における冷媒の過冷却度を制御する。
【0032】
(2)除湿暖房モード
次に、除湿暖房モードでは、コントローラ32は上記暖房モードの状態において電磁弁22を開放する。これにより、放熱器4を経て冷媒配管13Eを流れる凝縮冷媒の一部が分流され、電磁弁22を経て冷媒配管13F及び13Bより内部熱交換器19を経て室内膨張弁8に至るようになる。室内膨張弁8にて冷媒は減圧された後、吸熱器9に流入して蒸発する。このときの吸熱作用で室内送風機27から吹き出された空気中の水分が吸熱器9に凝結して付着するので、空気は冷却され、且つ、除湿される。
【0033】
吸熱器9で蒸発した冷媒は蒸発能力制御弁11、内部熱交換器19を経て冷媒配管13Cにて冷媒配管13Dからの冷媒と合流した後、アキュムレータ12を経て圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。吸熱器9にて除湿された空気は放熱器4を通過する過程で再加熱されるので、これにより車室内の除湿暖房が行われることになる。
【0034】
コントローラ32は吐出圧力センサ42又は放熱器圧力センサ47が検出する冷媒回路Rの高圧圧力に基づいて圧縮機2の回転数を制御すると共に、吸熱器温度センサ48が検出する吸熱器9の温度に基づいて室外膨張弁6の弁開度を制御する。
【0035】
(3)内部サイクルモード
次に、内部サイクルモードでは、コントローラ32は上記除湿暖房モードの状態において室外膨張弁6を全閉とする(全閉位置)と共に、電磁弁21も閉じる。この室外膨張弁6と電磁弁21が閉じられることにより、室外熱交換器7への冷媒の流入、及び、室外熱交換器7からの冷媒の流出は阻止されることになるので、放熱器4を経て冷媒配管13Eを流れる凝縮冷媒は電磁弁22を経て冷媒配管13Fに全て流れるようになる。そして、冷媒配管13Fを流れる冷媒は冷媒配管13Bより内部熱交換器19を経て室内膨張弁8に至る。室内膨張弁8にて冷媒は減圧された後、吸熱器9に流入して蒸発する。このときの吸熱作用で室内送風機27から吹き出された空気中の水分が吸熱器9に凝結して付着するので、空気は冷却され、且つ、除湿される。
【0036】
吸熱器9で蒸発した冷媒は蒸発能力制御弁11、内部熱交換器19を経て冷媒配管13Cを流れ、アキュムレータ12を経て圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。吸熱器9にて除湿された空気は放熱器4を通過する過程で再加熱されるので、これにより車室内の除湿暖房が行われることになるが、この内部サイクルモードでは室内側の空気流通路3内にある放熱器4(放熱)と吸熱器9(吸熱)の間で冷媒が循環されることになるので、外気からの熱の汲み上げは行われず、圧縮機2の消費動力分の暖房能力が発揮される。除湿作用を発揮する吸熱器9には冷媒の全量が流れるので、上記除湿暖房モードに比較すると除湿能力は高いが、暖房能力は低くなる。
【0037】
コントローラ32は吸熱器9の温度、又は、前述した冷媒回路Rの高圧圧力に基づいて圧縮機2の回転数を制御する。このとき、コントローラ32は後述する如く吸熱器9の温度によるか高圧圧力によるか、何れかの演算から得られる圧縮機目標回転数の低い方を選択して圧縮機2を制御する。
【0038】
(4)除湿冷房モード
次に、除湿冷房モードでは、コントローラ32は電磁弁17を開放し、電磁弁21、電磁弁22、及び、電磁弁23を閉じる。そして、圧縮機2、及び、各送風機15、27を運転し、エアミックスダンパ28は室内送風機27から吹き出された空気が放熱器4に通風される状態とする。これにより、圧縮機2から吐出された高温高圧のガス冷媒は放熱器4に流入する。放熱器4には空気流通路3内の空気が通風されるので、空気流通路3内の空気は放熱器4内の高温冷媒により加熱され、一方、放熱器4内の冷媒は空気に熱を奪われて冷却され、凝縮液化していく。
【0039】
放熱器4を出た冷媒は冷媒配管13Eを経て室外膨張弁6に至り、開き気味で制御される室外膨張弁6を経て室外熱交換器7に流入する。室外熱交換器7に流入した冷媒はそこで走行により、或いは、室外送風機15にて通風される外気により空冷され、凝縮する。室外熱交換器7を出た冷媒は冷媒配管13Aから電磁弁17を経てヘッダー部14、過冷却部16と順次流入する。ここで冷媒は過冷却される。
【0040】
室外熱交換器7の過冷却部16を出た冷媒は逆止弁18を経て冷媒配管13Bに入り、内部熱交換器19を経て室内膨張弁8に至る。室内膨張弁8にて冷媒は減圧された後、吸熱器9に流入して蒸発する。このときの吸熱作用で室内送風機27から吹き出された空気中の水分が吸熱器9に凝結して付着するので、空気は冷却され、且つ、除湿される。
【0041】
吸熱器9で蒸発した冷媒は蒸発能力制御弁11、内部熱交換器19を経て冷媒配管13Cを介し、アキュムレータ12に至り、そこを経て圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。吸熱器9にて冷却され、除湿された空気は放熱器4を通過する過程で再加熱(暖房時よりも放熱能力は低い)されるので、これにより車室内の除湿冷房が行われることになる。
【0042】
コントローラ32は吸熱器温度センサ48が検出する吸熱器9の温度に基づいて圧縮機2の回転数を制御すると共に、前述した冷媒回路Rの高圧圧力に基づいて室外膨張弁6の弁開度を制御し、放熱器4の冷媒圧力(後述する放熱器圧力PCI)を制御する。
【0043】
(5)冷房モード
次に、冷房モードでは、コントローラ32は上記除湿冷房モードの状態において室外膨張弁6を全開(弁開度を制御上限)とし、エアミックスダンパ28は放熱器4に空気が通風されない状態とする。これにより、圧縮機2から吐出された高温高圧のガス冷媒は放熱器4に流入する。放熱器4には空気流通路3内の空気は通風されないので、ここは通過するのみとなり、放熱器4を出た冷媒は冷媒配管13Eを経て室外膨張弁6に至る。
【0044】
このとき室外膨張弁6は全開であるので冷媒はそのまま室外熱交換器7に流入し、そこで走行により、或いは、室外送風機15にて通風される外気により空冷され、凝縮液化する。室外熱交換器7を出た冷媒は冷媒配管13Aから電磁弁17を経てヘッダー部14、過冷却部16と順次流入する。ここで冷媒は過冷却される。
【0045】
室外熱交換器7の過冷却部16を出た冷媒は逆止弁18を経て冷媒配管13Bに入り、内部熱交換器19を経て室内膨張弁8に至る。室内膨張弁8にて冷媒は減圧された後、吸熱器9に流入して蒸発する。このときの吸熱作用で室内送風機27から吹き出された空気中の水分が吸熱器9に凝結して付着するので、空気は冷却される。
【0046】
吸熱器9で蒸発した冷媒は蒸発能力制御弁11、内部熱交換器19を経て冷媒配管13Cを介し、アキュムレータ12に至り、そこを経て圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。吸熱器9にて冷却され、除湿された空気は放熱器4を通過すること無く吹出口29から車室内に吹き出されるので、これにより車室内の冷房が行われることになる。
【0047】
この冷房モードにおいては、コントローラ32は吸熱器温度センサ48が検出する吸熱器9の温度に基づいて圧縮機2の回転数を制御するが、次に、図3乃至図5に上述した各運転モードにおけるコントローラ32による圧縮機2と室外膨張弁6の制御ブロック図を示す。図3は前記暖房モードと除湿暖房モード用の圧縮機2の目標回転数(圧縮機目標回転数)TGNChを決定するコントローラ32の制御ブロック図である。コントローラ32のF/F(フィードフォワード)操作量演算部58は外気温度センサ33から得られる外気温度Tamと、室内送風機27のブロワ電圧BLVと、SW=(TAO−Te)/(TH−Te)で得られるエアミックスダンパ28のエアミックスダンパ開度SWと、放熱器4の出口における過冷却度SCの目標値である目標過冷却度TGSCと、放熱器4の温度の目標値である目標放熱器温度TCOと、放熱器4の圧力の目標値である目標放熱器圧力PCOに基づいて圧縮機目標回転数のF/F操作量TGNChffを演算する。
【0048】
尚、TAOは吹出口29からの空気温度の目標値である目標吹出温度、THは放熱器温度センサ46から得られる放熱器4の温度(放熱器温度)、Teは吸熱器温度センサ48から得られる吸熱器9の温度(吸熱器温度)であり、エアミックスダンパ開度SWは0≦SW≦1の範囲で変化し、0で放熱器4への通風をしないエアミックス全閉状態、1で空気流通路3内の全ての空気を放熱器4に通風するエアミックス全開状態となる。
【0049】
前記目標放熱器圧力PCOは上記目標過冷却度TGSCと目標放熱器温度TCOに基づいて目標値演算部59が演算する。更に、F/B(フィードバック)操作量演算部60はこの目標放熱器圧力PCOと放熱器4の冷媒圧力である放熱器圧力PCIに基づいて圧縮機目標回転数のF/B操作量TGNChfbを演算する。そして、F/F操作量演算部58が演算したF/F操作量TGNCnffとF/B操作量演算部60が演算したTGNChfbは加算器61で加算され、リミット設定部62で制御上限値と制御下限値のリミットが付けられた後、圧縮機目標回転数TGNChとして決定される。前記暖房モードと除湿暖房モードにおいては、コントローラ32はこの圧縮機目標回転数TGNChに基づいて圧縮機2の回転数を制御する。
【0050】
一方、図4は前記冷房モードと除湿冷房モード用の圧縮機2の目標回転数(圧縮機目標回転数)TGNCcを決定するコントローラ32の制御ブロック図である。コントローラ32のF/F操作量演算部63は外気温度Tamと、ブロワ電圧BLVと、吸熱器9の温度の目標値である目標吸熱器温度TEOに基づいて圧縮機目標回転数のF/F操作量TGNCcffを演算する。
【0051】
また、F/B操作量演算部64は目標吸熱器温度TEOと吸熱器温度Teに基づいて圧縮機目標回転数のF/B操作量TGNCcfbを演算する。そして、F/F操作量演算部63が演算したF/F操作量TGNCcffとF/B操作量演算部64が演算したF/B操作量TGNCcfbは加算器66で加算され、リミット設定部67で制御上限値と制御下限値のリミットが付けられた後、圧縮機目標回転数TGNCcとして決定される。冷房モードと除湿冷房モードにおいては、コントローラ32はこの圧縮機目標回転数TGNCcに基づいて圧縮機2の回転数を制御する。
【0052】
尚、前記内部サイクルモードにおいては、コントローラ32は前述した如く暖房モードと除湿暖房モード用に演算された圧縮機目標回転数TGNChと冷房モードと除湿冷房モード用に演算された圧縮機目標回転数TGNCcのうちの小さい方の操作量を用いて圧縮機2の回転数を制御する。
【0053】
次に、図5は除湿冷房モードにおける室外膨張弁6の目標開度(室外膨張弁目標開度)TGECCVpcを決定するコントローラ32の制御ブロック図である。コントローラ32のF/F操作量演算部68は外気温度Tamと、ブロワ電圧BLVと、目標放熱器温度TCOと、目標放熱器圧力PCOに基づいて室外膨張弁目標開度のF/F操作量TGECCVpcffを演算する。
【0054】
また、F/B操作量演算部69は目標放熱器圧力PCOと放熱器圧力PCIに基づいて室外膨張弁目標開度のF/B操作量TGECCVpcfbを演算する。そして、F/F操作量演算部68が演算したF/F操作量TGECCVpcffとF/B操作量演算部69が演算したF/B操作量TGECCVpcfbは加算器71で加算され、リミット設定部72で制御上限値と制御下限値のリミットが付けられた後、室外膨張弁目標開度TGECCVpcとして決定される。除湿冷房モードにおいては、コントローラ32はこの室外膨張弁目標開度TGECCVpcに基づいて室外膨張弁6の弁開度を制御する。
【0055】
空気流通路3内を流通される空気は上記各運転モードにおいて吸熱器9からの冷却や放熱器4からの加熱作用(エアミックスダンパ28で調整)を受けて吹出口29から車室内に吹き出される。コントローラ32は外気温度センサ33が検出する外気温度Tam、内気温度センサ37が検出する車室内の温度、前記ブロワ電圧、日射センサ51が検出する日射量等と、操作部53にて設定された車室内の目標車室内温度(設定温度)とに基づいて目標吹出温度TAOを算出し、後述する如く各運転モードを切り換えて吹出口29から吹き出される空気の温度をこの目標吹出温度TAOに制御するものである。
【0056】
(6)運転モードの切換制御
次に、図6を参照しながらコントローラ32による上記各運転モードの切換制御について説明する。コントローラ32は起動時に図6に示すように運転モードを選択する。即ち、この実施例でコントローラ32は、外気温度センサ33が検出する外気温度Tamと目標吹出温度TAOとに基づいて運転モードを選択する。この図6において破線L1は目標吹出温度TAO=外気温度Tamの線であり、実線L2は目標吹出温度TAO=HVAC吸込温度(吸込口25から空気流通路3に吸い込まれる温度)の線である。また、破線L3はそれより所定値(3deg)上に設定したヒステリシスの線である。
【0057】
図6の外気温度Tamが0℃以下の場合、コントローラ32は暖房モードを選択する。また、外気温度Tamが0℃より高く、目標吹出温度TAOがHVAC吸込温度以下の場合、冷房モードを選択する。更に、外気温度Tamが0℃より高く所定値(例えば20℃等)以下の場合であって、目標吹出温度TAOがHVAC吸込温度より高い場合、除湿暖房モードとし、更に外気温度Tamが所定値より高い場合には除湿冷房モードとする。尚、除湿暖房モードを選択する条件で、外気湿度センサ34が検出する外気湿度が所定値(例えば50%等)以下の場合は暖房モードを選択する。
【0058】
そして、起動後は前記外気温度Tamや目標吹出温度TAO等の環境や設定条件の変化に応じて図6における各運転モードを選択し、切り換えていく。この場合、コントローラ32は基本的には暖房モードから除湿暖房モードへ、或いは、除湿暖房モードから暖房モードへと移行し、除湿暖房モードから除湿冷房モードへ、或いは、除湿冷房モードから除湿暖房モードへと移行し、除湿冷房モードから冷房モードへ、或いは、冷房モードから除湿冷房モードへと移行するものであるが、除湿暖房モードから除湿冷房モードへ移行する際、及び、除湿冷房モードから除湿暖房モードへ移行する際には、前記内部サイクルモードを経由して移行する。また、冷房モードから内部サイクルモードへ、内部サイクルから冷房モードへ移行する場合もある。
【0059】
(7−1)内部サイクルモードにおける循環冷媒量調整制御(その1)
しかしながら、この内部サイクルモードでは室外膨張弁6が全閉位置とされ、電磁弁21も閉じられ、室外熱交換器7への冷媒の流入と室外熱交換器7からの冷媒の流出が阻止されるため、除湿暖房モードから内部サイクルモードへ、或いは、除湿冷房モードから内部サイクルモードへの運転モードの切換直前に室外熱交換器7内を流れている冷媒の状態によって、当該室外熱交換器7内に封じ込まれる冷媒の量が変わってくる。そのために運転モードの切換後に実行される内部サイクルモードにおける冷媒回路R内の循環冷媒量に過不足が生じてくる。
【0060】
尚、この出願において「循環冷媒量」とは、室外熱交換器7以外(実際には室外膨張弁6から電磁弁21までの領域)の領域にあって圧縮機2により循環される冷媒の量を意味するものとする。
【0061】
そこで、この実施例ではコントローラ32は放熱器4の出口における冷媒過冷却度SCと圧縮機2の吐出冷媒過熱度SHdに基づき、室外膨張弁6と電磁弁21を制御することにより、冷媒回路Rから室外熱交換器7に冷媒を封入する冷媒封入モードと、室外熱交換器7から冷媒回路Rに冷媒を放出する冷媒放出モードを実行する。図7は係る内部サイクルモードにおける通常運転と冷媒封入モードと冷媒放出モードの遷移を説明する図であり、図8はその場合の各部の動作を説明するタイミングチャートである。尚、内部サイクルモードにおける通常運転では、コントローラ32は前述した如く室外膨張弁6を全閉位置とし、電磁弁21を閉じている。
【0062】
ここで、放熱器4の冷媒過冷却度SCは放熱器温度センサ46が検出する放熱器温度THと、放熱器圧力センサ47が検出する放熱器圧力PCIから得られる。また、圧縮機2の吐出冷媒過熱度SHdは吐出温度センサ42が検出する圧縮機2の吐出冷媒温度と吐出圧力センサ43が検出する圧縮機2の吐出冷媒圧力から得られる。そして、この内部サイクルモードにおける循環冷媒量が過多となっている場合、冷媒回路Rの高圧圧力が上昇し、放熱器4内で凝縮する冷媒量も多くなるので、放熱器4における冷媒過冷却度SCも大きくなる。逆に循環冷媒量が不足(過少)してくると、圧縮機2に吸い込まれる冷媒量少なくなるので、圧縮機2の吐出冷媒過熱度SHdが大きくなる。
【0063】
そこで、コントローラ32は内部サイクルモードにおいて、動作状態が通常運転であるときに、放熱器4の冷媒過冷却度SCが大きくなってSC第1閾値(所定の閾値:例えば6deg)以上となったと場合、循環冷媒量が過多となっているものと判定し、冷媒封入モードに移行する(図7の(I))。この冷媒封入モードでは、コントローラ32は電磁弁21を閉じた状態で、室外膨張弁6を制御上の最低開度で開く(制御下限値での開位置)。これにより、放熱器4を出て冷媒配管13Eを流れる冷媒の一部が電磁弁22方向に向かうものから分流され、室外膨張弁6を経て室外熱交換器7内に流入するようになる。
【0064】
これにより、冷媒回路R内を循環する冷媒量が減少してくるので、放熱器4の冷媒過冷却度SCも小さくなる。そして、この冷媒過冷却度SCがSC第2閾値(例えば2deg)未満に低下した場合、コントローラ32は循環冷媒量が適量に下がったと判定して室外膨張弁6を全閉位置に戻し、通常運転に戻る(図7の(II))。これにより、室外熱交換器7内に封じ込められた冷媒量が増大し、過多であった循環冷媒量は適正量に調整される。
【0065】
一方、この通常運転であるときに、目標放熱器圧力PCO−放熱器圧力PCIとの差の絶対値が所定値(例えば0.05MPa)未満であり、即ち、圧縮機2の運転状態が安定している状態で、且つ、圧縮機2の吐出冷媒過熱度SHdが大きくなってSHd閾値(もう一つの所定の閾値:例えば、10deg)以上となった状態が所定時間(例えば30秒)経過した場合、コントローラ32は循環冷媒量が不足(過少)しているものと判定し、冷媒放出モードに移行する(図7の(III))。この冷媒放出モードでは、コントローラ32は室外膨張弁6を全閉位置とした状態で、電磁弁21を所定時間(例えば、500ms)だけ開く。これにより室外熱交換器7内に閉じ込められていた冷媒が冷媒配管13Dに流出し、冷媒配管13Cを流れる冷媒に合流してアキュムレータ12から圧縮機2に吸い込まれるようになる。
【0066】
これにより、冷媒回路R内を循環する冷媒量が増えるので、圧縮機2の吐出冷媒過熱度SHdも小さくなる。尚、電磁弁21は上記所定時間開放された後、再び閉じられるので、この冷媒放出モードは上述した所定時間で終了し、通常運転に復帰するものであるが(図7の(IV))、1回の冷媒放出モードの実行でも循環冷媒量が適正量に戻らず、圧縮機2の吐出冷媒過熱度SHdが前述した判定条件に再び合致した場合には、コントローラ32は再度冷媒放出モードを実行する(図7の(III))。これにより、室外熱交換器7内に封じ込まれていた冷媒が冷媒回路R内に放出され、不足(過少)していた循環冷媒量は適正量に調整されることになる。
【0067】
(7−2)内部サイクルモードにおける循環冷媒量調整制御(その2)
次に、図9のタイミングチャートは、コントローラ32による内部サイクルモードにおける循環冷媒量調整制御の他の例を示している。電動弁から構成される室外膨張弁6は、全閉位置としても僅かに冷媒漏れが生じる。従って、循環冷媒量が適正の状態(前述した通常運転の状態)で内部サイクルモードが実行され、室外膨張弁6を全閉位置に制御していたとしても、室外熱交換器7には冷媒が封入されていき、やがては循環冷媒量が不足(過少)する状態に陥る危険性がある。
【0068】
そこで、この実施例ではコントローラ32は内部サイクルモードにおいて、所定時間(図9の所定時間2)毎のタイミングで定期的に所定時間(図9の所定時間1)、電磁弁21を開放し、室外熱交換器7から冷媒回路Rに冷媒を放出する。これにより、室外膨張弁6を閉じて室外熱交換器7への冷媒の流入を阻止するときの、室外膨張弁6の漏れによって生じる室外熱交換器7への冷媒流入による循環冷媒量の不足を解消し、必要な空調性能を確保することができるようになる。
【0069】
尚、上記所定時間1(冷媒の放出量)や所定時間2(冷媒を放出するタイミング)は、冷媒回路R内の冷媒流量に相関のある物理量、例えば、圧縮機2の回転数(前述したTGNCh又はTGNCc)等に基づいて調整してもよい。例えば、冷媒流量が多いとき(圧縮機2の回転数高)には放出される冷媒量が多くなるように所定時間1を長くし、及び/又は、所定時間2を短くし、逆に冷媒流量が少ないとき(圧縮機2の回転数低)には所定時間1を短くし、及び/又は、所定時間2を長くして放出される冷媒量が少なくなるようにする。
【0070】
このように冷媒回路R内の冷媒流量に基づいて室外熱交換器7から冷媒を放出するタイミング、及び/又は、放出量を調整するようにすれば、室外熱交換器7からの冷媒放出量をより的確に制御し、精度良く循環冷媒量を調整することが可能となる。
【0071】
(7−3)内部サイクルモードにおける循環冷媒量調整制御(その3)
次に、図10及び図11のタイミングチャートは、コントローラ32による内部サイクルモードにおける循環冷媒量調整制御の更に他の例を示している。前記図7及び図8の例では放熱器4の冷媒過冷却度と圧縮機2の吐出冷媒過熱度に基づいて室外熱交換器7への冷媒の封入と室外熱交換器7からの冷媒の放出を制御したが、冷媒不足のみを回避すればよい場合には、図10及び図11に示すように電磁弁21を閉じるタイミングを遅延させればよい。
【0072】
図10でコントローラ21は、冷房又は除湿冷房モードから室外膨張弁6を全閉位置とし、電磁弁22を開放し、電磁弁17を閉じて内部サイクルモードに移行する際、それまで閉じていた電磁弁21を、室外膨張弁6が全閉位置となってから所定時間(実施例では2sec)開放する。また、図11でコントローラ21は、除湿暖房モードから室外膨張弁6を全閉位置とし、電磁弁21を閉じて内部サイクルモードに移行する際、室外膨張弁6が全閉位置となってから所定時間(実施例では2sec)遅延して電磁弁21を閉じる。
【0073】
これにより、冷房又は除湿冷房モードや除湿暖房モードから内部サイクルモードに移行する際に、室外熱交換器7からの冷媒の流出を阻止するタイミングが遅延されるので、内部サイクルモードへ移行した後に生じる循環冷媒量の不足を未然に回避し、必要な空調性能を確保することが可能となる。
【0074】
(7−4)内部サイクルモードにおける循環冷媒量調整制御(その4)
次に、図12及び図13のタイミングチャートは、コントローラ32による内部サイクルモードにおける循環冷媒量調整制御の更にもう一つの他の例を示している。上記実施例とは逆に冷媒過多のみを回避すればよい場合には、図12及び図13に示すように室外膨張弁6を全閉位置とするタイミングを遅延させればよい。
【0075】
図12でコントローラ21は、冷房又は除湿冷房モードから室外膨張弁6を全閉位置とし、電磁弁22を開放し、電磁弁17を閉じて内部サイクルモードに移行する際、電磁弁22及び17の切り換えから所定時間(実施例では2sec)遅延して室外膨張弁6を全閉位置とする。また、図13でコントローラ21は、除湿暖房モードから室外膨張弁6を全閉位置とし、電磁弁21を閉じて内部サイクルモードに移行する際、電磁弁21を閉じてから所定時間(実施例では2sec)遅延して室外膨張弁6を全閉位置とする
【0076】
これにより、冷房又は除湿冷房モードや除湿暖房モードから内部サイクルモードに移行する際に、室外熱交換器7への冷媒の流入を阻止するタイミングが遅延されるので、内部サイクルモードへ移行した後に生じる循環冷媒量の過多を未然に回避し、高圧異常の発生を解消することが可能となる。
【0077】
尚、上記実施例で説明した冷媒回路Rの構成や各数値はそれに限定されるものでは無く、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更可能であることは云うまでもない。
【符号の説明】
【0078】
1 車両用空気調和装置
2 圧縮機
3 空気流通路
4 放熱器
6 室外膨張弁
7 室外熱交換器
8 室内膨張弁
9 吸熱器
11 蒸発能力制御弁
17、21、22、23 電磁弁
26 吸込切換ダンパ
27 室内送風機(ブロワファン)
28 エアミックスダンパ
32 コントローラ(制御手段)
57 電気ヒータ
R 冷媒回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13