(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記計算処理において、前記閾値を下回る状態が一定の時間を超えて継続した場合にのみ筋活動が停止しているとして、筋活動の前記開始時刻、前記終了時刻及び前記継続時間を計算することを特徴とする請求項5に記載の嚥下筋活動測定方法。
【背景技術】
【0002】
口腔内の飲食物を胃に送り込む嚥下においては、嚥下に関連する複数の筋肉(筋群)が順次活動を行う。加齢等による活動順序の乱れは、誤嚥つまり正常に嚥下ができずに飲食物が気管へ入ることの原因となる。
【0003】
誤嚥を防ぐためには、嚥下する人の嚥下機能に応じた嚥下しやすい食品、つまり誤嚥の起こりづらい食品を摂取することが有効である。
【0004】
これらの課題を解決するために、被験者が嚥下を行った際の前頚部の動きを、筋電図、振動ピックアップ等の各種のセンサにより測定することによって、被験者に大きな負担をかけることなく嚥下能力を評価する方法が試みられている(例えば、特許文献1、非特許文献1)。
特許文献1に述べられている通り、嚥下機能の評価においては喉頭部の上下運動の検出が重要である。これは、嚥下時に飲食物が気管へ入ることを防いで食道へ入るためには、飲食物が咽頭部を通過する前に気管の入り口を蓋状の喉頭蓋により塞ぐことが必要であり、そのための動作として喉頭部(甲状軟骨)の上昇が必要なためである。つまり、被験者の嚥下機能の評価のためには、飲食物が咽頭部を通過する前に、喉頭部を上昇させるための筋群が適切な順序で活動し、かつ、通過後に下降させる筋群が適切な順序で活動していることを調査する必要がある。
【0005】
そこで、このような被験者の嚥下機能を評価する装置において用いられている、喉頭部の上下移動または筋群の活動を検出する方法について以下に述べる。特許文献1では前頚部に設置した複数の光センサにより喉頭部の上下を測定している。非特許文献1等では、前頚部の複数位置で筋電図として測定した電圧の時間軸波形から筋群の活動順序を算出している。筋電図による筋群の活動順序算出の基本的な手順は、予め閾値となる電圧を求めておき、電圧のピークの前または後の時間において、ピーク時刻前に最初に閾値を超えた時刻を活動開始時刻、ピーク時刻以後で最初に閾値を下回った時刻を活動終了時刻とし、各筋群の活動開始時刻及び活動終了時刻を比較することにより行う。特許文献2においては、被験者の嚥下機能の調査に利用する特徴量として、飲食物が喉頭を通過する時刻付近での、筋群の活動時間を筋電図から求めている。
【0006】
また、前述のとおり、嚥下機能の評価には、筋群の活動順序のみでなく、飲食物が喉頭を通過する時刻(通過時刻)を求める必要がある。特許文献1、特許文献2及び非特許文献1等の装置や方法においては、嚥下時の音(嚥下音)を測定する1つのマイクロフォンまたは振動を測定する1つの振動ピックアップを前頚部に貼り付けて、時間軸波形がピークとなる時刻を通過時刻として算出している。
【0007】
一方、振動ピックアップを複数利用する従来技術としては、前頚部皮膚表面の動きに基づいて嚥下運動を測定するために複数の振動センサを利用する摂食機能の測定装置が特許文献3に述べられている。この装置では、咀嚼と嚥下時の前頚部の振動を測定して、振動波形及びその演算結果の時間軸波形を表示し、波形の特徴や違いにより被験者の咀嚼と嚥下時の機能を評価しようとする。しかし、特許文献1、特許文献2及び非特許文献1で行われる通過時刻の算出や、筋群の活動順序の算出、並びにそれらに基づいた嚥下障害の有無や嚥下機能の評価は、特許文献3では行っていない。
【0008】
また、被験者の嚥下機能の評価とは異なる目的として、誤嚥の起こりづらい食品、嚥下機能が低下していても嚥下しやすい食品(易嚥下性食品)をはじめとする食品や飲料の開発においては、易嚥下性や「のどごし」等示す指標として、嚥下時における筋群の運動の計測結果に基づいた指標が検討されている。
これらの方法においても、食品等の開発を目指す点で目的は異なるものの、嚥下に関連する筋群の活動の様子をとらえるための方法及び装置が利用されている(例えば、特許文献4)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の発明では次のような3つの課題があった。
【0012】
1点目は、複数の筋電図電極及び複数の振動ピックアップの被験者への取り付けに関する課題である。特許文献2、非特許文献1等では、前頚部の複数位置での筋電図として測定した電圧の時間軸波形から筋群の活動順序を算出している。筋電図測定では1か所あたり、1対2個の電極の貼り付けが必要となる。各貼り付け位置は、測定しようとする筋肉の位置に合わせて取り付けを行う必要があるので、嚥下に関連する筋肉並びにその位置に関する解剖学的な知識のある専門家が測定を行う必要があった。すなわち、筋の位置や前頚部の形状は被験者の年齢や性別によって異なるために、被験者にあわせて貼り付けるために、1つ1つの電極ごとに、専門知識を用いて貼り付ける位置を決定する作業が必要である。特許文献2、非特許文献1等の筋電図電極を複数個所へ取り付ける装置や方法では、それらの位置の決定作業が必要である。以上は、複数の筋電図電極の貼り付けについて述べているが、特許文献3等における複数の振動ピックアップの取り付けにおいても同様の課題がある。
【0013】
2点目は、嚥下時において飲食物が咽頭部を通過する時刻(通過時刻)の算出に関する課題である。特許文献1、特許文献2及び非特許文献1等の装置や方法においては、嚥下時の音(嚥下音)の測定を、前頚部に取り付けた振動測定用の振動ピックアップまたは音の測定用のマイクロフォンにより行っている。振動ピックアップは、一般的には、小さな振動でも測定可能とするために、測定の感度が大きい。そのため、嚥下時の前頚部の振動のような目視ではほとんど知覚できない微小な振動を検出することができる。一方、そのように感度が大きいために、例えば振動ピックアップに軽く手を触れたことにより生じる小さな振動も検出してしまう。そのため、飲食物を口に運ぶ際に頭部を傾けたり、頭部の向きを変えたりといった嚥下と直接関係のない動きに伴って前頚部に振動(ノイズとなる振動)が発生した場合も、飲食物が喉頭を通過したことにより生じる振動として検出してしまうことがある。このような場合には、実際には通過時刻でない時刻を通過時刻として誤って計算してしまったり、実際には飲食物が咽頭部を通過したのは1回であるにもかかわらず、複数回通過したと計算されてしまうという問題がある。より具体的な例としては、従来技術において一般的な振動ピックアップを1つのみ利用して通過時刻を算出する場合には、基本的にはその振動ピックアップにおける波形の最大値となる時刻を通過時刻と算出する。したがって、ノイズにより、実際の通過時刻と異なる時刻が波形の最大値となった場合には、当該最大値を誤った通過時刻として算出することになる。なお、以上は前頚部の振動を直接測定する振動ピックアップを例に述べたが、空気を介して前頚部の振動を測定するマイクロフォンにおいても、嚥下と直接関係のない音を測定してしまうという点で同様の課題が存在する。
【0014】
3点目は、嚥下時における筋群の活動時間の算出に関する課題である。特許文献2、及び非特許文献1では筋電図の電圧の時間軸波形により筋群の活動時間の算出を行っている。その際には、筋肉が活動している期間は、測定した筋電図の波形データは、常に閾値を超えているという前提で行っている。しかし、筋活動が継続していたとしても、その振動や電位がセンサシート110へ到達する間に減衰することや、嚥下とは直接関係のない姿勢の変化等の被験者の動作による振動や電気的なノイズ等の混入により、一時的に閾値を下回る波形が計測されることが考えられる。そのような場合は、本来は筋活動が継続している時間帯であっても、波形からは筋活動が行われていないと判断されてしまうために、筋活動を正しく計測できない場合がある。
【0015】
本発明は、このような従来の構成が有した問題を解決しようとするものである。筋電図電極及び振動ピックアップを前頚部に貼り付ける際に、嚥下に関連する筋肉並びにその位置に関する解剖学的な知識のある専門家でなくても、筋活動の測定に適した位置に1回の貼り付け作業で同時に複数の筋電図電極及び複数の振動ピックアップを貼り付けることができるセンサシートを提供することを目的とする。
性別や年齢に応じた前頚部形状及び筋肉の位置が異なることから、前頚部の適切な位置に筋電図電極及び振動ピックアップを貼り付けられるよう、センサシートは、性別や年齢に応じて大きさや筋電図電極及び振動ピックアップの取り付け位置を変更した複数の種類のセンサシートの実現と、センサシートにより測定された波形に振動や電気的なノイズ等が混入しても、それらの影響を防ぎ、筋活動の有無を正確に計算できる嚥下活動測定装置の実現を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
複数の筋電図電極
、複数の振動ピックアップ
及び粘着シートから構成され、食物や飲料を飲み込むときの喉頭部における筋活動を測定するためのセンサシートであって、被験者の性別
及び年齢
のいずれかに応じた筋群の位置にあうように
、前記複数の筋電図電極及び前記複数の振動ピックアップが前
記粘着シートに
予め固定され、
前記複数の筋電図電極及び前記複数の振動ピックアップの形態が円形の形状を有する形態に構成され、前記粘着シートは、被験者への取り付けの位置を決める取り付け指標を持ち、前記取り付け指標は、前記各筋電図電極及び前記各振動ピックアップ
の形態である円形の形状とは異なる形態
である三角形の形状に構成されて、前記粘着シートの両面に設けられ
、前記複数の筋電図電極は、前記取り付け指標と被験者の甲状軟骨の位置とが一致するように前記粘着シートを被験者の前頚部に貼り付けたときに被験者の前頚部皮膚表面の中心から左側における咽頭及び前頚部の筋群の位置と一致するように前記粘着シートに予め固定され、前記振動ピックアップは、前記取り付け指標と被験者の甲状軟骨の位置とが一致するように前記粘着シートを被験者の前頚部に貼り付けたときに被験者の前頚部皮膚表面の中心から右側における咽頭及び前頚部の筋群の位置と一致するように前記粘着シートに予め固定されているセンサシートである。
【0018】
また、本発明の他の形態は、前記センサシートと、前記複数の筋電図電極により検出した嚥下時の複数箇所の振動波形に基づき、飲食物が咽頭部を通過する時刻を算出する筋活動分析部とを持つことを特徴とする嚥下活動測定装置である。
本発明の他の形態は、前記センサシートと、前記複数の筋電図電極により検出した嚥下時の複数箇所の筋電図波形に基づき、各波形がある閾値を超えた時刻である時刻1、及び下回った時刻である時刻2を計算すると共に、当該計算した時刻1及び時刻2に基づき、少なくとも嚥下に関連する筋活動の開始時刻、終了時刻、継続時間、開始順序及び終了順序を計算する処理を行う筋活動分析部を持つことを特徴とする嚥下活動測定装置である。
【0019】
本発明の他の形態は、前記のセンサシートにおける前記複数の振動ピックアップにより研修した、嚥下時の複数個所の振動波形に基づき、飲食物が咽頭を通過する時刻を計算する処理を行う嚥下活動測定方法である。
本発明の他の形態は、前記のセンサシートにおける前記複数の筋電図電極により検出した、嚥下時の複数個所の筋電図の波形に基づき、各波形がある閾値を超えた時刻である時刻1、及び下回った時刻である時刻2を計算すると共に、当該計算した時刻1及び時刻2に基づき、少なくとも嚥下に関連する筋活動の開始時刻、終了時刻、継続時間を計算する計算処理を行う嚥下活動測定方法である。
本発明の他の形態は、前記計算処理において、閾値を下回る状態が一定の時間を超えて継続した場合にのみ筋活動が停止しているとして、筋活動の前記開始時刻、前記終了時刻及び前記活動継続時間を計算することを特徴とする嚥下活動測定方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明のセンサシートによれば、センサシートを前頚部表面に貼り付けた際に筋電図電極及び振動ピックアップが測定しようとする筋の位置にあうように、予め筋電図電極及び振動ピックアップを粘着シートに固定したセンサシートを用意されているので、貼り付ければよい。センサシートは、被験者の性別や年齢に応じて前頚部の適切な位置に筋電図電極と振動ピックアップを貼り付けできるよう、粘着シートの大きさや粘着シート内の筋電図電極及び振動ピックアップの取り付け位置を変更した複数の種類のセンサシートが用意されている。よって、測定の際は被験者の年齢及び性別のいずれかに応じたセンサシートを選択して被験者へ取り付けることにより、筋電図電極及び振動ピックアップの被験者への取り付けにあたり、測定者は、年齢や性別によって異なる筋群の位置を詳細に把握していなくても、適切な位置に筋電図電極及び振動ピックアップを取り付けることができる。
【0021】
また、センサシートには複数の筋電図電極及び複数の振動ピックアップが固定されているので、センサシートを被験者に取り付ける作業を1回行えば、同時に複数の筋電図電極及び複数の振動ピックアップを測定に適した位置に取り付けることができ、従来のような複数の筋電図電極と複数の振動ピックアップを、1つずつ位置を決定しながら貼り付ける作業は不要となる。
【0022】
センサシートを前頚部に貼り付ける際には、センサシートの取り付け指標と、甲状軟骨(咽喉仏)中央部等のあらかじめ定めた前頚部の目印となる部位をあわせて、被験者に貼り付ける作業のみで、個々の電極や振動ピックアップを貼り付ける作業が不要となり、筋電図電極や振動ピックアップを容易に貼り付けることができる。
【0023】
また、前記の2点目の課題に対して、本発明の嚥下活動測定装置及び嚥下活動測定方法では、飲食物の咽頭通過時刻を算出する際に、前頚部の複数の箇所に取り付けた複数の振動ピックアップにより測定した波形に基づいて計算を行う。発明者の調査により、飲食物が咽頭を通過する際には、前頚部に貼り付けた複数の振動ピックアップのうち大部分の振動ピックアップの測定波形において同時にピークが発生することが分かっている。また、例えば、飲食物を容器から口に運ぶ動作や、口腔内に飲食物を取り込む準備として頭部を傾ける等の、嚥下とは直接関係のない動きにおいても、前頚部に振動が発生すれば、振動ピックアップの波形でピークが発生することがある。しかし、その場合は、ピークが発生するのは大部分の振動ピックアップの波形ではなく、一部の振動ピックアップの測定波形に限定されることが分かっている。よって、複数の振動ピックアップのうち一定数以上のものにおいてピークが発生していることが計算できれば、その時刻を咽頭通過時刻として計算することで、通過時刻を正確に求めることができる。この計算方法によれば、飲食物が咽頭部を通過したのは1回であるにもかかわらず、「複数回の通過が行われた、つまり通過時刻が存在する」と誤って計算されることを防ぐことができる。なお、「発明の効果」における前記センサシートは、センサシートを前頚部に貼り付けることで、嚥下音が発生すると考えられている軟口蓋の付近に振動ピックアップが貼り付けられる構造となっている。したがって、前記の通りセンサシートを前頚部に貼り付けることで、筋電図電極と同時に、複数の振動ピックアップも適切な位置に貼り付けることができる。本発明の嚥下活動測定装置及び嚥下活動測定方法においては、筋電図電極と別に、複数の振動ピックアップのみを貼り付ける作業は必要ない。
【0024】
また、前記の3点目の課題に対して、本発明の嚥下活動測定装置及び嚥下活動測定方法では、筋活動の順序を計算するために、筋群の活動開始と活動終了の時刻を求める。筋活動の有無を筋電図の測定結果の時間軸波形の電圧が、事前に求めた閾値を超えた状態を維持した時間帯を筋活動が行われている時間帯として計算する。
嚥下の動作の所要時間は、個人差があり状況によっても変化するものの1秒程度が一般的である。筋電図において閾値を超えた状態が続いている際に、1秒よりも十分に短い時間で瞬間的に波形が閾値を下回る場合は、1秒程度の継続時間が一般的であることを考えると、その短い時間内で嚥下の動きが停止し、その直後に再度嚥下の動きが再開する状況は少なく、嚥下とは直接関係のないノイズ等による影響による場合が多いと考えられる。
従って、閾値を下回る時間が一定の期間を超えて継続した場合にのみ筋活動が停止していると考えて、筋活動の開始及び終了の時刻を算出する。これにより、筋活動は継続しているにもかかわらず、ノイズ等により瞬間的に波形が閾値を下回る場合において、筋活動が停止しているという誤判断を防ぐことが期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1は、本発明の実施形態に係る嚥下時の筋活動を測定する嚥下活動測定装置のブロック構成図である。本実施形態の嚥下活動測定装置100は、センサシート110、レコーダ部120、測定データ分析部130、筋活動分析部140、記録・表示部150から構成される。センサシート110は
図2のとおり粘着シート111、n対の筋電図電極112、m個の振動ピックアップ(マイクロフォン)113、取り付け指標114により構成される。
図2は、nが4、mが6となる場合の例である。粘着シート110は、少なくとも片側の面が粘着面となっている。筋電図電極112、振動ピックアップ113は粘着シート110のいずれかの面に両面テープ、接着剤等により固定される。この固定の位置は、取り付け指標114が、所定の位置と一致するように粘着シート110を被験者の前頚部皮膚表面に貼りつけた際に、筋電図電極112及び振動ピックアップ113が測定しようとする筋と一致するように決める。
【0027】
例えば、筋活動の測定対象がオトガイ舌骨筋、甲状舌骨筋、胸骨舌骨筋および胸骨甲状筋である場合には、図
2の取り付け指標114が甲状軟骨の位置と一致するように粘着シート111を前頚部に貼り付けた時に、被験者の前頚部皮膚表面の中心から左側で対象となる筋の位置と一致するように複数の筋電図電極112を、右側でそれらの筋の位置と一致するように振動ピックアップ113を、粘着シート111に予め取り付けておく。粘着シートを被験者に貼り付ける際には、粘着シート111の上下方向を指定の方向に合わせつつ、取り付け指標114を甲状軟骨先端に一致させて貼り付ける作業のみで、筋電図電極112及び振動ピックアップ113を指定の位置に貼り付けることができる。
図2には粘着シート111の片方の面の取り付け指標が見えるが、センサシートの被験者への貼り付け時にも取り付け指標が見えるようにするため、粘着シートの反対側の対応する位置にも取り付け指標114を取り付ける。被験者の性別や年齢に応じて前頚部形状及び筋肉の位置が異なることから、前頚部の適切な位置に筋電図電極及び振動ピックアップを貼り付けられるよう、性別や年齢に応じて粘着シート111の形状や大きさ、並びに筋電図電極及び振動ピックアップの取り付け位置を変更した複数の種類のセンサシートを用意する。
【0028】
図1の筋電図電極112、振動ピックアップ(マイクロフォン)113は、レコーダ部へ接続され、筋電図電極112、振動ピックアップ113が検出した波形のアナログ信号をレコーダ部120へ出力する。筋電図電極112、振動ピックアップ113は、それぞれレコーダ部120内蔵されたアンプ1
121(筋電図用)、アンプ2 122(振動ピックアップ用)に接続され、アンプが出力したアナログ電圧は記憶装置123内に保存される。レコーダ部のスイッチ124へ測定開始信号が入力されることにより、測定が開始され、アンプ121、122が出力した信号が記憶装置123へ保存される。保存は、測定開始信号が入力されている間は継続する。測定開始信号が繰り返し入力されると、入力された回数だけ、記憶装置123への保存を繰り返す。
【0029】
測定データ分析部130は、記憶装置123に保存した測定結果から、特定の周波数帯域の信号のみを取り出す等のフィルタ処理を行い出力する。測定時に被験者の身体全体の揺れや動きといった嚥下と直接関係のない振動やノイズにより生じた不要な信号の周波数成分を取り除き、記憶装置123に保存した測定結果から、嚥下活動の評価に適した信号を取出すためにフィルタ処理が必要となる。
【0030】
筋活動分析部140は、測定データ分析部130の出力した信号を入力として受け取り、筋電図および振動ピックアップそれぞれの測定結果に基づいて、筋群の活動開始、活動終了時刻及び活動継続時間を計算するとともに、筋群の活動開始及び活動終了の順序を計算する。
【0031】
また、嚥下運動を測定する際に振動ピックアップを利用する方法や装置は非特許文献1等で行われており、1つの振動ピックアップの出力電圧の最大の時刻を飲食物が咽頭部を通過する時刻として計算している。本発明では、複数の振動ピックアップの測定結果を用いて、飲食物が咽頭部を通過する時刻つまり通過時刻を計算する。この計算を行うのが筋活動分析部140における時刻計算部141であり、時刻計算部141は、記憶装置123に保存された振動ピックアップの測定結果を測定データ分析部130でフィルタ処理したフィルタ済み波形データAi(t)(i=1,2,…,m)を入力として受け取り、通過時刻を計算する。tは時刻を表し、測定開始から測定終了までの時刻の値を取る。iは振動ピックアップの番号であり、センサシート100における取り付け位置と対応する番号となる。通過時刻を計算する手順(手順1)としては、A1(t)からA6(t)のそれぞれのピーク(最大値)の時刻を算出し、その平均時刻を計算して通過時刻tphとする方法がある。また、別の計算手順(手順2)として、複数の波形データAi(t)から、1つの時刻計算用波形V(t)を計算し、V(t)の最大値を通過時刻として計算する手順がある。飲食物が喉頭部を通過する際には、その通過音(いわゆる嚥下音)により、多くの点で振動ピックアップの出力が大きくなることが考えられる。したがって、後者の手順2では、V(t)は多くの波形データAi(t)がより大きな値となった際に、大きな値となり、多くの点のAi(t)がより小さな値となった際には、小さな値となるよう計算される必要がある。V(t)の計算手順の例としては、時刻tにおいて各測定位置(i=1,2,…,m)のAi(t)(i=1,2,…,m)を加算した結果すなわちV(t)=A1(t)+A2(t)+…+Am(t)、並びに積を計算した結果すなわちV(t)=A1(t)×A2(t)×…×Am(t)等が考えられる。V(t)を計算した結果から、V(t)が最大となる時刻t=tphを通過時刻計算の結果とする。計算した通過時刻tphが、時刻計算部141の出力となる。以上の2つの計算手順のうち、前者の手順1はピーク時刻の検出とその平均値計算のみで通過時刻が計算できるので、計算が簡単である。一方、ノイズなどにより実際の通過時刻と異なる時刻にピークがある波形が1つでも存在する場合には、平均値計算によりある程度はその影響を低減できるものの、その影響を全くなくすことはできない。後者の手順2は、前者の手順1よりも計算が複雑である反面、実際の通過時刻と異なる時刻にピークがある波形の影響を全く無くせる可能性があり、通過時刻の計算精度向上が期待できる。
【0032】
嚥下時において筋が活動すると、対応する振動ピックアップや筋電図波形の値が大きくなる。すなわち筋の活動時はそれらの波形がある値(閾値)を超えて大きくなる。閾値計算部142は、記憶装置123に保存された振動ピックアップの測定結果を測定データ分析部130でフィルタ処理したフィルタ済み波形データAi(t)(i=1,2,…,m)及び同じく記憶装置123に保存された筋電図の測定結果を測定データ分析部130でフィルタ処理したフィルタ済み測定結果信Ej(t)(j=1,2,…,n)を入力として受け取り、各Ai(t)及びEj(t)について、筋活動の有無を判断するための閾値を計算する。iとjはそれぞれ振動ピックアップと筋電図電極の番号であり、センサシート100における取り付け位置と対応する番号となる。
【0033】
位置iの振動ピックアップ波形Ai(t)を例に閾値Athiを計算する手順を述べる。閾値は、嚥下の活動を行っていない安静時のAi(t)の測定データに基づいて計算する。例えば、安静時における時刻t(t0<t<t1)の測定データの平均値とばらつき(標準偏差)に基づいて計算することができ、その手順はAthi=C1×mean(Ai(t))+C2×std(Ai(t))+C3の計算を行う。Athiが閾値である。ここで、mean()は括弧内の測定データの平均を、std()は括弧内の測定データの標準偏差を求める計算を示す。
【0034】
同様に、位置jの筋電図波形Ej(t)から、閾値Ethj=C4×mean(Ej(t))+C5×std(Ej(t))+C6を計算できる。C1からC6は事前に定めた定数である。m箇所の振動ピックアップの波形の閾値Athiと、n箇所の筋電図波形の閾値Ethjが閾値計算部142の出力である。
【0035】
開始時刻計算部143は、フィルタ済みの振動ピックアップの波形データA
i(t)(i=1,2,…,m)と、フィルタ済みの筋電図の測定結果信E
j(t)(i=1,2,…,n)と、計算した通過時刻tphと、m箇所の振動ピックアップの波形の閾値Ath
iと、n箇所の筋電図波形の閾値Eth
jとを入力として受け取る。そして、A
i(t)及びE
j(t)の測定位置(iまたはj)ごとに、時刻が通過時刻tph以前であり、かつ、A
i(t)及びE
j(t)が閾値Ath
i及びEth
j未満からそれ以上の値となる時刻As
i及びEs
jを取り出す。ここで、As
iは(As1、As2,…,Asm)のm個の数字の列のうちi番目の数字を示し、同様にEs
jはn個の数字のうちj番目の数字を示す。ピークが複数の回数出現する場合等では、各測定位置で時刻As
i及びEs
jとして複数の時刻が取り出されることがある。そこで、各位置で複数の時刻が取り出された場合は、As
i及びEs
jのうち最後の時刻のみを残す。そして、開始時刻計算部143から開始時刻As
i及びEs
jを出力する。これにより時刻が通過時刻tph以前、つまり飲食物が咽頭を通過する際に各筋が活動し始めた開始時刻を得ることができる。
【0036】
終了時刻計算部144は、フィルタ済みの振動ピックアップの波形データAi(t)(i=1,2,…,m)と、フィルタ済みの筋電図の測定結果信Ej(t)(i=1,2,…,n)と、計算した通過時刻tphと、m箇所の振動ピックアップの波形の閾値Athiと、n箇所の筋電図波形の閾値Ethjとを入力として受け取り、Ai(t)及びEj(t)の測定位置(iまたはj)ごとに、時刻が通過時刻tph以降であり、かつ、Ai(t)及びEj(t)が閾値Athi及びEthjを下回る時の最初の時刻Aei及びEejを取り出す。ピークが複数の回数出現する場合等では、各測定位置で時刻Aei及びEejとして複数の時刻が取り出されることがある。そこで、各位置で複数の時刻が取り出された場合は、Aei及びEejのうち最後の時刻のみを残す。そして、終了時刻計算部144からAei及びEejを出力する。これにより時刻が通過時刻tph以後、つまり飲食物が咽頭を通過する以降において各筋が活動を終了した時刻を得ることができる。
【0037】
開始時刻計算部143、終了時刻計算部144での計算は、筋が活動している期間、測定した波形データは、常に閾値を超えているという前提で行っている。しかし、筋活動が継続していたとしても、その振動や電位がセンサシート110へ到達する間に減衰することや、嚥下とは直接関係のない姿勢の変化等の被験者の動作による振動や電気的なノイズ等の混入により、一時的に閾値を下回る波形が計測されることが考えられる。そこで、時刻補正部145において、閾値を下回る波形が一定以下の期間のみの場合には、その間は筋活動が継続しているとみなして、筋活動の開始時刻及び終了時刻を補正し、補正後開始時刻及び補正後終了時刻を算出する。
【0038】
補正後開始時刻及び補正後終了時刻を算出する手順は以下のとおりである。時刻補正部145は振動ピックアップ及び筋電図の波形データA
i(t)及びEj(t)、並びに開始時刻計算部143及び終了時刻計算部144が出力した各波形の開始時刻As
i及びEs
j、終了時刻Ae
i及びEe
jを入力として受け取る。
【0039】
開始時刻を補正する手順を筋電図波形により求めた開始時刻Es
jを例に説明する。まず、補正後開始時刻Es’
jに補正されていない開始時刻Es
jを入力する。次に、開始時刻の更新処理として、位置jのEs’
jから予め定めた時間Csだけ前の時間t(Es’
j−Cs<t<Es’
j)において、E
j(t)が閾値Eth
jを越える点がある場合には、それらの時刻を取り出し、そのうちの最も小さな時刻を新たに補正後開始時刻Es’
jとする。この開始時刻の更新処理は、時刻Es’
j−CsからEs’
jの間に閾値Eth
jを越える点が無くなるまで繰り返す。
【0040】
次に終了時刻を補正する手順では、補正後終了時刻Ee’jにEejを入力する。次に、開始時刻の更新処理として、位置jの開始時刻Ee’jから予め定めた時間Ceだけ後の時間t(Ee’
j<t<Ee’j+Ce)において、Ej(t)が閾値Ethjを越える点がある場合には、それらの時刻を取り出し、そのうちの最も小さな時刻を新たに開始時刻Ee’jとする。この終了時刻の更新処理は、時刻Ee’iからEe’i+Ceの間に閾値Ethiを越える点が無くなるまで繰り返す。
【0041】
前記の補正済開始時刻および補正済終了時刻の計算は、取り付け位置iおよびjで表される各位置の振動ピックアップ及び筋電図の波形データについて処理を実施する。また、手順のうち筋電図の波形データEj(t)についてのみ述べた部分については、振動ピックアップの波形データAi(t)についても同様に計算が可能である。波形データAi(t)及びEj(t)について、補正済開始時刻As’i及びEs’j、補正済終了時刻Ae’i及びEe’jを計算し、時刻補正部145から出力する。
【0042】
図3は、フィルタされた位置iの振動ピックアップの波形データAi(t)、その開始時刻、並びに補正済み開始時刻の計算例である。時刻計算部141において通過時刻tphが計算され、閾値計算部142おいて閾値Athiが計算され、tphとAthiに基づいて開始時刻計算部143において開始時刻Asiが計算される。
図3では、Asiから、そのCsだけ前までの間に、閾値を超過する部分があるために、時刻補正部145においては、開始時刻Asiと異なる時刻を補正済開始時刻As’iとして計算し出力する。
【0043】
活動継続時間計算部146は、開始時刻計算部143及び終了時刻計算部144が出力した各波形の開始時刻Asi及びEsj、終了時刻Aei及びEejと、時刻補正部145が出力した補正済開始時刻As’i及びEs’j、補正済終了時刻Ae’i及びE’j入力として受け取る。補正をしていない開始時刻および終了時刻に基づいて、取り付け位置iに対応する筋の活動の継続時間を計算する例を述べると、活動継続時間EajはEej−Esjにより計算できる。位置jに対応する筋の活動継続時間としてEajを出力する。
【0044】
以上の活動継続時間の計算は、取り付け位置iおよびjで表される各位置毎に処理を実施する。活動時間の計算に補正済の開始・終了時刻を用いる場合も、計算手順は同様である。また、手順のうち筋電図の波形データEj(t)についてのみ述べた部分については、振動ピックアップの波形データAi(t)についても同様に計算が可能である。波形データAi(t)及びEj(t)について、活動継続時間Aai及びEajを計算し、活動継続時間計算部146から出力する。
【0045】
活動開始順序計算部147は、開始時刻Asi及びEsjと、補正済開始時刻As’i及びEs’jとを入力として受け取る。活動開始順序の計算の手順を、筋電図の波形データに基づく開始時刻であるEsjに基づいて行う場合を例に説明する。開始時刻Esjはn個の数字からなる配列である。この配列を、値の小さな順に並び替える。並び替え後に、配列の各数字に対応する位置番号を並べた数字の列Eorが筋活動の始まった順に位置番号を並べた数字列となり、活動開始順序としてEorを出力する。具体的な例としてn=3、で開始時刻(Es1、Es2,Es3)を値の小さな順に並び替えた結果が(Es2、Es1,Es3)の場合、Eor=(2,1,3)となり、このEorを筋電図の波形データに基づく活動開始順序として出力する。同様の手順により、補正済開始時刻についても計算が可能である。また、以上の手順のうち筋電図の波形データEj(t)の開始・終了時刻についてのみ述べた部分については、振動ピックアップの波形データAi(t)についても同様に計算が可能である。
【0046】
活動終了順序計算部148は、終了時刻Aei及びEejと、補正済終了時刻Ae’i及びEe’jとを入力とし受け取る。活動終了順序の計算の手順は、前記の活動開始順序計算部147の計算手順において、開始時刻及び補正済開始時刻を、終了時刻及び補正済終了時刻に置き換えて計算を行ったものである。筋活動の終わった順に位置番号を並べた数字列を出力する。
記録・表示部150は、140筋活動分析部における計算結果を記録・表示するとともに、測定データ分析部130においてフィルタ処理等を行った結果の出力を記録・表示する。
【0047】
図4は、筋電図電極及び振動ピックアップを実際に被験者に取り付けて水の嚥下を行った際の測定波形並びに開始時刻と終了時刻を補正した場合の例である。ここでは、測定位置j=3の筋電図電極の測定結果に対して、100Hzから200Hzの帯域を取り出し、全波整流するフィルタ処理を行った。閾値の計算では、安静時(t0<t<t1)の波形から閾値Eth3を計算し、補正済み開始時刻Es’3と補正済み終了時刻 Ee’3とを計算した。Es’3とEe’3との間の時刻において、閾値よりも電圧値が小さい時間帯があるので、従来の技術であれば、閾値を下回った時間帯は筋活動が停止していると判断される。
閾値を下回る時間が、予め定めた時間CsまたはCeよりも長い時間継続していないために、本発明の補正済開始時刻及び補正済み終了時刻の計算方法により、それらの時間帯は活動が継続していると判断される。具体的な例として、予めCsを0.2秒と設定し、0.2秒以上連続して閾値を下回る時間帯は筋活動が停止していると計算する場合について、
図4の波形により説明する。
図4の通過時刻から補正済み開始時刻までの間は、概ね0.1秒から0.2秒の間隔で閾値を超える波形となっている。この時間帯には、Csすなわち0.2秒を超えて連続して閾値を下回る時間は無いので、従来技術では筋活動が断続的に活動と停止を繰り返している状態と計算される。これに対して、本発明ではこの時間帯は筋活動が連続して活動している時間帯であると計算される。別の時間帯として、補正済み開始時刻の前の時間帯は少なくとも0.5秒以上連続して閾値を下回る波形となっている。この時間帯は、従来技術においても、本発明においても、筋活動が停止している時間帯であると計算される。
【0048】
次に、本発明の装置の使用方法について述べる。
【0049】
はじめにセンサシートの被験者への取り付け手順について述べる。嚥下機能を評価する被験者に、
図1のセンサシート110を取り付ける。センサシートは、前記の通り測定しようとする被験者の年齢や性別に応じて複数の種類のものが用意されている。その中から、当該被験者に適合するものを選び、粘着シート111を被験者側に向けて、被験者の前頚部に取り付ける。被験者の前頚部にセンサシートの位置を合わせて、前頚部とセンサシートが密着するようにセンサシートの全域にわたって軽く押し当てることにより、センサシート110の粘着シート面111が前頚部に自ら密着し固定され、同時にセンサシートを構成する複数の筋電図電極及び複数の振動ピックアップが固定される。センサシートの位置合わせは、センサシートの取り付け指標と、被験者の甲状軟骨(咽喉仏)中央部等の前頚部の目印となる部位をあわせて貼り付けることにより行う。以上がセンサシートの取り付け手順であり、本手順においては、測定者が嚥下に関連する前頚部筋群の位置について専門的な知識を利用することなく、適切な位置に複数の筋電図電極及び複数の振動ピックアップを固定することができる。
【0050】
次に嚥下時の筋電図及び振動ピックアップの波形の測定方法について述べる。センサシートを取り付けた後で、測定者は
図1のスイッチ124へ測定実施信号を入力する。この入力で、レコーダ部120の記憶装置に複数の筋電図電極及び複数の振動ピックアップの測定波形の記録が開始される。その際に、測定データ分析部の出力波形を記録・表示部150で確認することができる。その後に被験者に嚥下開始を測定者から合図し、被験者が嚥下を行う。被験者の嚥下が終了したのを確認し、スイッチ124への測定実施信号の入力を停止すると、レコーダ部120における記録が停止する。以上の測定により、複数の筋電図電極及び複数の振動ピックアップが検出した波形が、レコーダ部に記録される。測定実施信号の入力を繰り返すことで複数回の測定が可能である。
【0051】
次に
図1の筋活動分析部140における筋群の筋活動継続時間、活動開始順序及び活動終了順序の計算について述べる。測定者は、記憶装置123において記録された測定結果から、計算の対象となる測定結果を1つ選択する。1つの測定結果には、複数の筋電図及び複数の振動ピックアップの測定波形が含まれる。
図2のセンサシートを利用した場合は、筋電図波形が4個、並びに振動波形が6個が1つの測定結果に含まれる。
これらの測定結果は測定データ分析部130でフィルタ処理等が行われ、その結果を筋活動分析部140が受け取る。つまり、筋活動分析部140は、選択した測定結果の複数の筋電図波形と複数の振動波形についてフィルタ処理等が行われた結果を入力として受け取る。その後、振動ピックアップ波形により時刻計算部141で通過時刻を計算する。ここで、ある波形のピーク値を検出する処理のみでは、当該波形にノイズが含まれる場合には、実際の通過時刻ではなく、ノイズの混入した時刻を検出してしまう可能性がある。そのようなノイズの影響を防ぐために、時刻計算部141では、複数の波形に基づいた時刻計算を行う。時刻計算部141の処理手順としては、入力された各振動ピックアップの波形データに基づいて、1つの時刻計算用波形を計算し、その時刻計算用波形において最大値となる時刻を通過時刻として計算する。
次に、各筋電図波形について閾値を計算する。閾値は、筋電図波形において、安静時として指定した時間帯の値に基づいて前記のとおり閾値計算部142が計算する。
図4の例では時刻t0からt1までの0.5秒間程度の時間が安静時として指定した時間である。
【0052】
続いて、嚥下時の複数個所の筋電図の波形に基づき、各波形について、ある閾値を超えた時刻、及び下回った時刻を計算すると共に、当該計算した2種類の時刻に基づき、嚥下に関連する筋活動の開始時刻、終了時刻及び継続時間を計算する計算処理について述べる。この計算処理は、筋活動分析部140内部における開始時刻計算部143、終了時刻計算部144、時刻補正部145、活動継続時間計算部146、活動開始順序計算部147及び活動終了順序計算部148において行われる処理である。
はじめに、筋電図の各波形について、開始時刻計算部143、終了時刻計算部144において、それぞれ筋活動の開始時刻、終了時刻を計算する。時刻補正部145は、筋電図の各波形並びに各波形の開始時刻及び終了時刻の計算結果を入力として受け取り、それぞれ時刻を補正するために、前期の通り計算を行い、その結果として、補正済開始時刻、補正済み終了時刻を算出する。
【0053】
活動継続時間計算部146では、開始時刻計算部143、終了時刻計算部144及び時刻補正部145の出力、並びに測定データ分析部130が出力した波形データを入力として受け取り、各波形についてその波形の測定している筋肉の活動時間を計算する。前期の通り、補正前の開始・終了時刻の差、並びに補正後の開始・終了時刻の差を計算し、それぞれの計算結果を出力する。
【0054】
活動開始順序計算部147では、開始時刻計算部143、終了時刻計算部144及び時刻補正部145の出力、並びに測定データ分析部130が出力した波形データを入力として受け取り、前記の通り、筋群の活動開始順序を計算し出力する。また、活動終了順序計算部148においても同様に、前記の通り筋群の活動終了順序を計算し出力する。