(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6073724
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】ろう付け装置及びろう付け方法
(51)【国際特許分類】
B23K 31/02 20060101AFI20170123BHJP
B23K 1/008 20060101ALI20170123BHJP
B23K 1/005 20060101ALI20170123BHJP
B23K 1/00 20060101ALI20170123BHJP
B23K 1/19 20060101ALI20170123BHJP
B23K 101/14 20060101ALN20170123BHJP
B23K 103/10 20060101ALN20170123BHJP
【FI】
B23K31/02 310H
B23K1/008 C
B23K1/005 B
B23K1/00 330K
B23K31/02 310B
B23K1/19 A
B23K101:14
B23K103:10
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-64433(P2013-64433)
(22)【出願日】2013年3月26日
(65)【公開番号】特開2014-188535(P2014-188535A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2016年3月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098361
【弁理士】
【氏名又は名称】雨笠 敬
(72)【発明者】
【氏名】門 浩隆
(72)【発明者】
【氏名】石井 裕
(72)【発明者】
【氏名】飯野 祐介
(72)【発明者】
【氏名】大澤 剛士
(72)【発明者】
【氏名】岩澤 直孝
(72)【発明者】
【氏名】江島 正一
(72)【発明者】
【氏名】登山 隆
(72)【発明者】
【氏名】森野 孝之
【審査官】
竹下 和志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−159218(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0056068(US,A1)
【文献】
特開2003−80366(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0164088(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 1/00 − 3/08
B23K 31/02
B23K 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気を不活性ガスと置換する前室と、ワークを加熱するろう付け室とを順次備え、前記ろう付け室内にて前記ワークを構成するアルミニウム部材をろう付けするろう付け装置において、
前記前室に設けられ、前記ワークの昇温速度が遅い部位を加熱する補助加熱手段を備えたことを特徴とするろう付け装置。
【請求項2】
ワークに塗布された加工油を蒸発させる乾燥室と、大気を不活性ガスと置換する前室と、ワークを加熱するろう付け室とを順次備え、前記ろう付け室内にて前記ワークを構成するアルミニウム部材をろう付けするろう付け装置において、
前記乾燥室に設けられ、前記ワークの昇温速度が遅い部位を優先的に加熱する補助加熱手段を備えたことを特徴とするろう付け装置。
【請求項3】
前記補助加熱手段は、近赤外線を照射することにより前記ワークの昇温速度が遅い部位を加熱することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のろう付け装置。
【請求項4】
前記ワークの昇温速度が遅い部位の温度が+420℃又は略+420℃、昇温速度が速い部位の温度が+400℃又は略+400℃となった時点で当該ワークを前記ろう付け室に移送することを特徴とする請求項1乃至請求項3のうちの何れかに記載のろう付け装置。
【請求項5】
前記ろう付け室で加熱される前記ワークの温度が少なくとも+450℃以上+500℃未満の範囲では、前記昇温速度が遅い部位と前記昇温速度が速い部位の温度差を20deg以内とし、前記ワークの温度が+500℃以上の範囲では、前記昇温速度が遅い部位と前記昇温速度が速い部位の温度差を10deg以内とすることを特徴とする請求項4に記載のろう付け装置。
【請求項6】
前記ワークは、ヘッダー部とチューブ部とより成る熱交換器であり、前記補助加熱手段は前記ヘッダー部を加熱することを特徴とする請求項1乃至請求項5のうちの何れかに記載のろう付け装置。
【請求項7】
前室にて大気を不活性ガスと置換する前工程と、ワークを加熱する加熱工程とを順次実行し、前記ワークを構成するアルミニウム部材をろう付けするろう付け方法において、
前記前工程において、前記ワークの昇温速度が遅い部位を加熱することを特徴とするろう付け方法。
【請求項8】
乾燥室にてワークに塗布された加工油を蒸発させる乾燥工程と、前室にて大気を不活性ガスと置換する前工程と、ワークを加熱する加熱工程とを順次実行し、前記ワークを構成するアルミニウム部材をろう付けするろう付け方法において、
前記乾燥工程において、前記ワークの昇温速度が遅い部位を優先的に加熱することを特徴とするろう付け方法。
【請求項9】
前記前工程において、近赤外線を照射することにより前記ワークの昇温速度が遅い部位を加熱することを特徴とする請求項7又は請求項8に記載のろう付け方法。
【請求項10】
前記前工程において前記ワークの昇温速度が遅い部位の温度が+420℃又は略+420℃、昇温速度が速い部位の温度が+400℃又は略+400℃となった時点で前記加熱工程に移行することを特徴とする請求項7乃至請求項9のうちの何れかに記載のろう付け方法。
【請求項11】
前記加熱工程において前記ワークの温度が少なくとも+450℃以上+500℃未満の範囲では、前記昇温速度が遅い部位と前記昇温速度が速い部位の温度差を20deg以内とし、前記ワークの温度が+500℃以上の範囲では、前記昇温速度が遅い部位と前記昇温速度が速い部位の温度差を10deg以内にすることを特徴とする請求項10に記載のろう付け方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークを構成するアルミニウム部材をろう付けするろう付け装置
及びろう付け方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より例えば車両や冷却装置等にて使用される熱交換器は、アルミニウム製のヘッダー部とチューブ部とにより構成されているが、近年の省エネと高効率化の要望からこの種熱交換器においても軽量化と薄肉化の傾向が顕著なものとなっている。また、係る熱交換器(ワーク)をろう付けする場合には、高温とされた不活性ガスをろう付け室内に強制対流させることで、高速ろう付けする方法が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図6は係る従来のろう付け炉100の全体構成を示し、
図8はこのろう付け炉100でろう付けされた一般的なこの種熱交換器(ワーク)Wの正面図を示している。ろう付けするワークとしての熱交換器Wは、両端のアルミニウム製ヘッダー部1、1と、それらの間に構成されたチューブ部2とから成る。チューブ部2はヘッダー部1、1間に渡って並列にろう付けされた複数本のアルミニウム製マイクロチューブ3と、これらマイクロチューブ3の間にろう付けされたアルミニウム製のフィン4とから構成されている。
【0004】
図8において、ワークとしての熱交換器Wは全体としては従来製品よりも薄肉化と軽量化が図られたものであるが、ヘッダー部1はチューブ部2を構成するマイクロチューブ3やフィン4よりも厚み寸法が大きく、熱容量は大きい。従って、同様に加熱した場合、ヘッダー部1の温度は上がり難く、昇温速度は遅くなり、チューブ部2の温度は上がり易く、昇温速度は速くなる。
【0005】
次に、
図6のろう付け炉100は、内部に乾燥室101が構成された乾燥炉102と、前室103と、内部にろう付け室104が構成された加熱炉106と、内部に冷却室107が構成された冷却炉108と、後室109とから構成され、それらが順次連続して配置されており、通気性のトレー111上に載置された熱交換器Wを搬送手段112(メッシュベルトやローラ)により、乾燥室101、前室103、ろう付け室104、冷却室107、後室109の順で搬送する構成とされている。
【0006】
前記乾燥室101にはヒータ105が設けられ、このヒータ105の加熱により熱交換器Wに塗布されたイソプロピレンアルコール(IPA)等の加工油を蒸発させる。この乾燥室101と前室103の間にはメタルカーテン113が設けられている。この前室103、ろう付け室104及び冷却室107には窒素ガス導入パイプ114により、不活性ガスとしての窒素ガスが導入される。前室103内では大気が窒素ガスと置換されるが、メタルカーテン113は前室103内と乾燥室101とを仕切り、前室103内における大気を窒素ガスとの置換を助ける役割を果たす。
【0007】
加熱炉106のろう付け室104内には、電気ヒータ116と炉内ファン117が設けられており、この電気ヒータ116で高温に加熱された窒素ガスが炉内ファン117によってろう付け室104内に強制対流される構成とされている。このとき、高温の窒素ガスは炉内ファン117により一旦上に吹き上げられ、外方に向かった後、加熱炉106の内側を降下し、再び内方に向かった後上昇し、トレー111を通過して熱交換器Wに下から吹き付けられ、更に上昇して再び炉内ファン117に吸い込まれる(
図6に矢印で示す強制対流)。
【0008】
トレー111上に載置された熱交換器Wは、搬送手段112により搬送され、乾燥室101で表面のIPAや加工油が蒸発処理される。その後、前室103に移送され、そこを通過する過程で熱交換器Wの周囲は窒素ガス雰囲気とされる。前室103からはろう付け室104に移送され、上述の如き高温窒素ガスの強制対流と電気ヒータ116からの直接の輻射熱によって加熱される。ろう付け室104内では+400℃程で熱交換器Wの表面に腐り代を構成する亜鉛の拡散が始まり、その後、熱交換器Wは+570℃〜600℃まで加熱され、ヘッダー部1とチューブ部2(マイクロチューブ3とフィン4)とがろう付けされる。熱交換器Wはその後、冷却室107に移送され、この冷却室107内で窒素ガス雰囲気中における徐冷が行われた後、最終的に後室109に至る。
【0009】
図7は係る従来のろう付け炉100によってろう付けされる熱交換器W各部の温度推移を示している。図中破線は理想の温度推移、一点鎖線は昇温速度が速い部位(前記チューブ部2)の温度推移、また、実線は昇温速度が遅い部位(前記ヘッダー部1)の温度推移を示している。
【0010】
前述した如く熱交換器Wをろう付けする場合、熱容量の大きいヘッダー部1は温度が上がり難く、熱容量の小さいチューブ部2は温度が上がり易い。そのため、ろう付け室104にて係る熱交換器(ワーク)Wを加熱した場合には、
図7に示すようにヘッダー部1の昇温速度は遅く(実線)、理想の温度推移(破線)より温度が低くなり、チューブ部2の昇温速度は速く(一点鎖線)、理想の温度推移(破線)より高くなる。
【0011】
このように、ヘッダー部1とチューブ部2の昇温速度は異なるため、従来のろう付け炉100のように高温の窒素ガスを強制対流させて加熱する方式では、熱容量の小さいチューブ部2が先に昇温していき、熱容量の大きいヘッダー部1の昇温は遅れる。そのため、ヘッダー部1とチューブ部2を均一に昇温させることができず、過剰に加熱される箇所P1(
図8に示すチューブ部2)には変形や過剰な腐り代の生成が発生し、逆に加熱が不足する箇所P2(
図8に示すヘッダー部1)にはろう付け不良や腐り代生成不足が発生してしまう。
【0012】
特に、薄肉化された熱交換器Wの場合、チューブ部2の昇温速度が速くなると過剰な腐り代が生成されてしまう。また、それを防止するために加熱温度や時間を制限すると、ヘッダー部1において十分な腐り代の生成が行われなくなり、耐食性が悪化してしまう。そのため、この種熱交換器Wのろう付けには、従来よりも高速な加熱と均一な昇温が要求されることになる。
【0013】
そこで、チューブ部2の温度が所定値に上昇した時点でそこに覆いを置いて昇温を抑制し、ヘッダー部1の昇温速度に合わせる方法が開発されている(例えば、特許文献2参照)。尚、ろう付けには係る高温ガスの強制対流の他に、近赤外線をワーク全体に照射するものもある(例えば、特許文献3、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特許第4592645号公報
【特許文献2】特開2010−196931号公報
【特許文献3】特開2004−358484号公報
【特許文献4】特開2004−358483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、前記特許文献2のように昇温速度が速いチューブ部2の昇温を遅らせて昇温速度が遅いヘッダー部1に温度上昇を合わせる方法は、高速ろう付けに反することになる。また、前記特許文献3、4のように近赤外線で熱交換器(ワーク)W全体を加熱すれば極めて高速なろう付けが可能となるが、赤外線照射領域は非常に狭いため、ヘッダー部1とチューブ部2の均一な昇温を実現するためには、多数の近赤外線照射装置を高密度で配置しなければならなくなり、コスト的に実現性が乏しくなる。
【0016】
本発明は、係る従来の技術的課題を解決するために成されたものであり、比較的簡単な構成でワーク各部の昇温の均一化を図り、且つ、高速ろう付けを実現することができるろう付け装置
及びろう付け方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
請求項1の発明のろう付け装置は、大気を不活性ガスと置換する前室と、ワークを加熱するろう付け室とを順次備え、ろう付け室内にてワークを構成するアルミニウム部材をろう付けするものであって、前室に設けられ、ワークの昇温速度が遅い部位を加熱する補助加熱手段を備えたことを特徴とする。
【0018】
請求項2の発明のろう付け装置は、ワークに塗布された加工油を蒸発させる乾燥室と、大気を不活性ガスと置換する前室と、ワークを加熱するろう付け室とを順次備え、ろう付け室内にてワークを構成するアルミニウム部材をろう付けするものであって、乾燥室に設けられ、ワークの昇温速度が遅い部位を優先的に加熱する補助加熱手段を備えたことを特徴とする。
【0019】
請求項3の発明のろう付け装置は、上記発明において補助加熱手段は、近赤外線を照射することによりワークの昇温速度が遅い部位を加熱することを特徴とする。
【0020】
請求項4の発明のろう付け装置は、上記各発明においてワークの昇温速度が遅い部位の温度が+420℃又は略+420℃、昇温速度が速い部位の温度が+400℃又は略+400℃となった時点で当該ワークをろう付け室に移送することを特徴とする。
【0021】
請求項5の発明のろう付け装置は、上記発明においてろう付け室で加熱されるワークの温度が少なくとも+450℃以上+500℃未満の範囲では、昇温速度が遅い部位と昇温速度が速い部位の温度差を20deg以内とし、ワークの温度が+500℃以上の範囲では、昇温速度が遅い部位と昇温速度が速い部位の温度差を10deg以内とすることを特徴とする。
【0022】
請求項6の発明のろう付け装置は、上記各発明においてワークは、ヘッダー部とチューブ部とより成る熱交換器であり、補助加熱手段はヘッダー部を加熱することを特徴とする。
【0023】
請求項7の発明のろう付け方法は、前室にて大気を不活性ガスと置換する前工程と、ワークを加熱する加熱工程とを順次実行し、ワークを構成するアルミニウム部材をろう付けする際に、前工程において、ワークの昇温速度が遅い部位を加熱することを特徴とする。
【0024】
請求項8の発明のろう付け方法は、乾燥室にてワークに塗布された加工油を蒸発させる乾燥工程と、前室にて大気を不活性ガスと置換する前工程と、ワークを加熱する加熱工程とを順次実行し、ワークを構成するアルミニウム部材をろう付けする際に、乾燥工程において、ワークの昇温速度が遅い部位を優先的に加熱することを特徴とする。
【0025】
請求項9の発明のろう付け方法は、請求項7又は請求項8の発明において前工程において、近赤外線を照射することによりワークの昇温速度が遅い部位を加熱することを特徴とする。
【0026】
請求項10の発明のろう付け方法は、請求項7乃至請求項8の発明において前工程においてワークの昇温速度が遅い部位の温度が+420℃又は略+420℃、昇温速度が速い部位の温度が+400℃又は略+400℃となった時点で加熱工程に移行することを特徴とする。
【0027】
請求項11の発明のろう付け方法は、上記発明において加熱工程においてワークの温度が少なくとも+450℃以上+500℃未満の範囲では、昇温速度が遅い部位と昇温速度が速い部位の温度差を20deg以内とし、ワークの温度が+500℃以上の範囲では、昇温速度が遅い部位と昇温速度が速い部位の温度差を10deg以内にすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
請求項1及び請求項7の発明によれば、前室にて大気を不活性ガスと置換する前工程を行い、次にろう付け室内でワークを加熱する加熱工程を実行してワークを構成するアルミニウム部材をろう付けする場合に、前室に補助加熱手段を設け、前工程においてワークの昇温速度が遅い部位を補助加熱手段により加熱するようにしたので、ろう付け室でワークを加熱する以前に、前室における前工程で予め昇温速度が遅い部位の温度を上げておくことができる。
【0029】
これにより、ろう付け室内における加熱工程中に、ワークの昇温速度が速い部位の昇温に、昇温速度が遅い部位の昇温を合わせ、ろう付け中にワーク全体を均一に昇温させることができるようになり、
請求項6の発明の如くヘッダー部とチューブ部とより成る熱交換器をろう付けする際の過剰な腐り代の発生や耐食性の低下を未然に回避することが可能となる。
【0030】
特に、前室における前工程にて昇温速度が遅い部位の温度を先に上げておくものであり、従来の如く昇温速度が遅い部位の昇温に昇温速度が速い部位を合わせるものでは無いので、高速化の要望も満たすことができる。この場合、前室内での補助加熱手段による温度上昇は依然低いので、大気を不活性ガスに置換する前工程であっても、酸素による悪影響は無視することができると共に、比較的簡単な構成にて実現することができるものである。
【0031】
請求項2及び請求項8の発明によれば、乾燥室にてワークに塗布された加工油を蒸発させる乾燥工程を行い、次に前室にて大気を不活性ガスと置換する前工程を行い、次にろう付け室内でワークを加熱する加熱工程を実行してワークを構成するアルミニウム部材をろう付けする場合に、乾燥室に補助加熱手段を設け、乾燥工程においてワークの昇温速度が遅い部位を補助加熱手段により優先的に加熱するようにしたので、ろう付け室でワークを加熱する以前に、乾燥室における乾燥工程で予め昇温速度が遅い部位の温度を上げておくことができる。
【0032】
これにより、ろう付け室内における加熱工程中に、ワークの昇温速度が速い部位の昇温に、昇温速度が遅い部位の昇温を合わせ、ろう付け中にワーク全体を均一に昇温させることができるようになり、
請求項6の発明の如くヘッダー部とチューブ部とより成る熱交換器をろう付けする際の過剰な腐り代の発生や耐食性の低下を未然に回避することが可能となる。
【0033】
特に、乾燥室における乾燥工程にて昇温速度が遅い部位を優先的に加熱してその温度を先に上げておくものであり、従来の如く昇温速度が遅い部位の昇温に昇温速度が速い部位を合わせるものでは無いので、高速化の要望も満たすことができる。この場合、乾燥室内での補助加熱手段による温度上昇は依然低いので、大気を不活性ガスに置換する乾燥工程であっても、酸素による悪影響は無視することができると共に、比較的簡単な構成にて実現することができるものである。
【0034】
また、請求項3及び請求項9の発明の如く前工程や乾燥工程で補助加熱手段により、近赤外線を照射してワークの昇温速度が遅い部位を加熱するようにすれば、昇温速度が遅い部位の温度を速い部位の温度よりも的確に上げておくことが可能となる。
【0035】
特に、請求項4及び請求項10の発明の如く前工程において、ワークの昇温速度が遅い部位の温度が+420℃又は略+420℃、昇温速度が速い部位の温度が+400℃又は略+400℃となった時点で当該ワークをろう付け室に移送し、加熱工程に移行するようにすれば、前室での前工程や乾燥室での乾燥工程における酸素の影響も問題無く、また、その後のろう付け室における加熱工程では、ワーク全体の温度を+570℃〜600℃まで迅速且つ均一に昇温させることが可能となる。
【0036】
そして、請求項5及び請求項11の発明の如くろう付け室での加熱工程で加熱されるワークの温度が少なくとも+450℃以上+500℃未満の範囲では、昇温速度が遅い部位と昇温速度が速い部位の温度差を20deg以内とし、ワークの温度が+500℃以上の範囲では、昇温速度が遅い部位と昇温速度が速い部位の温度差を10deg以内とすることで、ワーク全体を一層均一に昇温させ、良好なろう付けを実現することが可能となるものである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明を適用した実施例のろう付け装置の全体構成と、当該ろう付け装置で熱交換器をろう付けしたときの各部の温度推移を示す図である。
【
図2】
図1のろう付け装置でろう付けするワークとしての熱交換器の正面図である。
【
図3】
図1のろう付け装置の前室の構成を示す図である。
【
図4】
図1のろう付け装置のろう付け室の構成を示す図である。
【
図5】
図1のろう付け装置でろう付けされた熱交換器の正面図である。
【
図6】従来のろう付け炉の全体構成を示す図である。
【
図7】
図6のろう付け炉で熱交換器をろう付けしたときの各部の温度推移を示す図である。
【
図8】
図6のろう付け炉でろう付けされた熱交換器の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の実施の形態について、
図1〜
図5を参照して詳細に説明する。
【0039】
図1は本発明を適用した一実施例としてのろう付け装置SBの全体構成を示し、
図2はろう付け対象のワークの実施例としての熱交換器Wの正面図を示している。ろう付けするワークとしての熱交換器Wは、車両や冷却装置等でラジエターやエバポレータとして使用されるものであり、その構造は
図8の場合と同様である。即ち、熱交換器Wは、両端のアルミニウム製ヘッダー部1、1と、それらの間に構成されたチューブ部2とから構成されており、チューブ部2はヘッダー部1、1間に渡って並列にろう付けされた複数本のアルミニウム製マイクロチューブ3と、これらマイクロチューブ3の間にろう付けされたアルミニウム製のフィン4とから構成されている。
【0040】
図2において、実施例のワークとしての熱交換器Wは前述同様に全体としては従来製品よりも薄肉化と軽量化が図られたものであり、ヘッダー部1には実際には冷媒等が流入、流出する図示しない入口管及び出口管が接続されることになる。また、ヘッダー部1はチューブ部2を構成するマイクロチューブ3やフィン4よりも厚み寸法が大きく、熱容量は大きい。従って、同様に加熱した場合、ヘッダー部1の温度は上がり難く、昇温速度は遅くなり、チューブ部2の温度は上がり易く、昇温速度は速くなることとなる。
【0041】
次に、本発明のろう付け装置の実施例としての
図1のろう付け装置SBは、所謂高速ろう付け炉であり、内部に乾燥室11が構成された乾燥炉12と、前室13と、内部にろう付け室14、16がそれぞれ構成された加熱炉17、18と、内部に冷却室19が構成された冷却炉21と、後室22とから構成され、それらが順次連続して配置されており、通気性のトレー23上に載置され、保持された熱交換器Wを通気性の搬送手段(メッシュベルトやローラ)24により、乾燥室11、前室13、ろう付け室14、16、冷却室19、後室22の順で搬送する構成とされている。
【0042】
前記乾燥室11にはヒータ10が設けられており、このヒータ10の加熱により熱交換器Wに塗布されたイソプロピレンアルコール(IPA)等の加工油を蒸発させる。この乾燥室11と前室13の間にはメタルカーテン26が設けられている。この前室13、ろう付け室14、16及び冷却室19には窒素ガス導入パイプ27により、不活性ガスとしての窒素ガスが導入される。
【0043】
前室13内では大気が窒素ガスと置換されるが、メタルカーテン26は前室13内と乾燥室11とを仕切り、前室13内における大気を窒素ガスとの置換を助ける役割を果たす。また、この前室13内には
図3に示すように補助加熱手段としての近赤外線照射装置31が配設されている。この近赤外線照射装置31は、近赤外線を発生する近赤外線ランプとこの近赤外線ランプが発生する近赤外線を照射対象に向けて集光する反射鏡等から構成されており、本発明では熱交換器(ワーク)Wの熱容量が大きく、昇温速度が遅くなる両端のヘッダー部1、1に近赤外線を照射するように設けられている。尚、この近赤外線照射装置31の位置、及び/又は、近赤外線の照射方向は、ワーク(熱交換器)の寸法や形状、昇温速度が遅くなる部位の位置に応じて
図3に破線で示すように変更可能とされている。
【0044】
加熱炉17、18のろう付け室14、16内には、
図4に示す如く主加熱手段としての電気ヒータ28と強制対流手段としての炉内ファン29がそれぞれ設けられており、この電気ヒータ28により高温に加熱された窒素ガスが炉内ファン29によってろう付け室14、16内にそれぞれ強制対流される構成とされている。このとき、炉内ファン29の下側にはフード32が設けられ、このフード32の下端は搬送手段24の上方にて開口しており、加熱炉17、18の内壁面との間に間隔を存して立ち上がり、徐々に上に行くに従って窄まった後、上端が炉内ファン29の直下にて開口する構造とされている。
【0045】
これにより、高温の窒素ガスは炉内ファン29により一旦上に吹き上げられ、加熱炉17、18の上壁に当たって外方に向かい、フード32の外側(加熱炉17、18の側壁内側)を降下し、底壁に当たって再び内方に向かった後、上昇して搬送手段24及びトレー23を通過し、熱交換器Wに下から吹き付けられる。そして、熱交換器Wを通過した後、フード32の内側を更に上昇して再び炉内ファン29に吸い込まれることになる(
図4に矢印で示す強制対流)。
【0046】
以上の構成で、次に実施例のろう付け装置SBによる熱交換器Wのろう付け作業について説明する。先ず、熱交換器(ワーク)Wを所定の治具にセットし、ヘッダー部1、1とチューブ部2が
図2の如き状態に配置された状態とする。その状態の熱交換器(ワーク)Wをトレー23上に載置し、トレー23ごと搬送手段24上に載せる。
【0047】
トレー23上に載置された熱交換器(ワーク)Wは、搬送手段24により搬送され、乾燥室11で表面のIPAや加工油が蒸発処理される(乾燥工程)。その後、メタルカーテン26を介して前室13に移送され、そこを通過する過程で熱交換器Wの周囲は窒素ガス雰囲気とされる(前工程)。
【0048】
この前室13内では、
図3に示すように近赤外線照射装置31から熱交換器(ワーク)Wのヘッダー部1、1に向けて近赤外線が照射される。この前室13から熱交換器(ワーク)Wは、加熱炉17のろう付け室14に順次移送され、前述の如き炉内ファン29による高温窒素ガスの強制対流と電気ヒータ28からの直接の輻射熱によって加熱される。
【0049】
このろう付け室14内で熱交換器(ワーク)Wは予熱された後、次に、加熱炉18のろう付け室16に移送され、同じく炉内ファン29による高温窒素ガスの強制対流と電気ヒータ28からの直接の輻射熱によって更に加熱される。係るろう付け室14における予熱からろう付け16における加熱までの加熱工程でヘッダー部1とチューブ部2(マイクロチューブ3とフィン4)とがろう付けされた後、熱交換器Wは冷却室19に移送され、この冷却室19内で窒素ガス雰囲気中における徐冷が行われた後(冷却工程)、最終的に後室22に至り、ろう付けが終了する。
【0050】
上記ろう付け装置SBの制御、即ち、搬送手段24による熱交換器(ワーク)Wの搬送速度、前室13内での近赤外線照射装置31による近赤外線の照射量、各ろう付け室14、16内の電気ヒータ28の発熱量及び炉内ファン29の運転等は、各室13、14、16内の窒素ガス温度、及び/又は、熱交換器(ワーク)W各部の温度をそれぞれ検出する温度検出装置(熱電対等)K1〜K3の出力に基づき、コントローラCにより実行される。このコントローラCはマイクロコンピュータにより構成され、下記に説明する熱交換器(ワーク)Wの各部の温度推移を実現するための制御プログラムが予め組み込まれている。
【0051】
次に、
図1の下側に示す温度グラフを参照しながら、ろう付け装置SBでろう付けされる熱交換器(ワーク)W各部の温度推移を説明する。
図1下に示すグラフ中の破線は熱交換器Wにおいて昇温速度が速いチューブ部2の温度を、実線は昇温速度が遅いヘッダー部1の温度推移をそれぞれ示している。前述したように本発明では前室13内での前工程では、熱交換器(ワーク)Wのヘッダー部1、1に近赤外線照射装置31から近赤外線を照射するので、前室13ではヘッダー部1の温度(実線)がチューブ部2の温度(破線)よりも先に上昇していく。
【0052】
そして、この前室13内における前工程が終了する時点で、熱交換器(ワーク)Wのヘッダー部1の温度を+420℃又は略+420℃、チューブ部2の温度を+400℃又は略+400℃まで上昇させる。このようにヘッダー部1の温度が+420℃付近、チューブ部2の温度が+400℃付近となった時点で、熱交換器(ワーク)Wをろう付け室14に移送し、加熱工程に入る。
【0053】
このろう付け室14では前述の如く炉内ファン29による高温の窒素ガスの強制循環と電気ヒータ28からの輻射熱によって熱交換器(ワーク)Wを所定時間予熱する。このとき、チューブ部2は熱容量が小さいので、温度は急峻に上昇するが(破線)、ヘッダー部1は熱容量が大きいため、温度の上昇はそれよりも緩やかなものとなる(実線)。しかしながら、本発明では前室13における前工程で予めヘッダー部1の温度がチューブ部2より高くなるように近赤外線により加熱されているので、予熱の途中でチューブ部2の温度(破線)はヘッダー部1の温度(実線)を追い越すものの、それらは近似した温度で推移する。
【0054】
ろう付け室14における予熱が終了すると、次に熱交換器(ワーク)Wはろう付け16に移送される。ここで、熱交換器(ワーク)Wを前述の如く炉内ファン29による高温の窒素ガスの強制循環と電気ヒータ28からの輻射熱によって所定時間加熱する。そして、最終的に+570℃以上+600℃以下まで加熱する。更に、係るろう付け室14、16における加熱工程中(冷却工程に入るまでの間)、熱交換器(ワーク)Wの温度が少なくとも+450℃以上(+440℃〜+450℃の範囲の温度以上)+500℃未満の範囲では、ヘッダー部1とチューブ部2の温度差を実施例では5deg以内に保つ。また、+500℃以上の範囲では、ヘッダー部1とチューブ部2の温度差を実施例では2.5deg以内に保つものとする。尚、実施例では熱交換器(ワーク)Wの温度が+450℃以上+500℃未満の範囲でヘッダー部1とチューブ部2の温度差を5deg以内に保ち、+500℃以上の範囲では該温度差を2.5deg以内に保つようにしたが、少なくとも熱交換器(ワーク)Wの温度が+440℃以上+500℃未満の範囲でヘッダー部1とチューブ部2の温度差を20deg以内に保ち、+500℃以上の範囲では該温度差を10deg以内に保てば、亜鉛の拡散量と歪みの発生を許容範囲内とすることができると考えられる。これにより、ヘッダー部1とチューブ部2(マイクロチューブ3とフィン4)とをろう付けする。
【0055】
このように発明によれば、前室13にて大気を窒素ガスと置換する前工程を行い、次にろう付け室14、16内で熱交換器(ワーク)Wを予熱及び加熱する加熱工程を実行して熱交換器(ワーク)Wを構成するアルミニウム製のヘッダー部1とチューブ部2(アルミニウム部材)をろう付けする場合に、前室13に近赤外線照射装置31を設け、前工程において熱交換器(ワーク)Wの昇温速度が遅い部位であるヘッダー部1を近赤外線照射装置31により加熱するようにしたので、ろう付け室14、16で熱交換器(ワーク)Wを加熱する以前に、前室13における前工程で予め昇温速度が遅いヘッダー部1の温度を上げておくことができる。
【0056】
これにより、ろう付け室14、16内における加熱工程中に、熱交換器(ワーク)Wの昇温速度が速いチューブ部2の昇温に、昇温速度が遅いヘッダー部1の昇温を合わせ、ろう付け中に
図5に破線Xで示す熱交換器(ワーク)Wのろう付けが必要な全領域(ヘッダー部1とチューブ部2との接合部からチューブ部2全域に渡る範囲)を均一に昇温させることができるようになる。従って、ヘッダー部1とチューブ部2とより成る熱交換器Wをろう付けする際の過剰な腐り代の発生や耐食性の低下を未然に回避することが可能となる。
【0057】
特に、前室13における前工程にて昇温速度が遅いヘッダー部1の温度(実線)を先に上げておくものであり、従来の如く昇温速度が遅い部位の昇温に昇温速度が速い部位を合わせるものでは無いので、高速化の要望も満たすことができる。この場合、前室13内での近赤外線照射装置31による温度上昇は依然低い(+400℃〜+420℃)ので、大気を窒素ガスに置換する前工程であっても、酸素による悪影響は無視することができる。また、前室13に近赤外線照射装置31を設けるという比較的簡単な構成で実現することができると共に、前室13における加熱であるため、補助加熱手段として耐熱温度が比較的低い加熱手段(実施例の近赤外線照射装置31等)を採用することも可能となる。
【0058】
また、前工程で近赤外線照射装置31により、近赤外線を照射して熱交換器(ワーク)Wの昇温速度が遅いヘッダー部1を加熱するので、昇温速度が遅いヘッダー部1の温度を昇温速度が速いチューブ部2の温度よりも的確に上げておくことが可能となる。
【0059】
特に、前工程において、熱交換器(ワーク)Wの昇温速度が遅いヘッダー部1の温度が+420℃又は略+420℃、昇温速度が速いチューブ部2の温度が+400℃又は略+400℃となった時点で熱交換器(ワーク)Wをろう付け室14に移送し、加熱工程に移行するようにしたので、前室13での前工程における酸素の影響も問題無く、また、その後のろう付け室14、16における加熱工程では、熱交換器(ワーク)W全体の温度を+570℃〜600℃まで迅速且つ均一に昇温させることが可能となる。
【0060】
そして、ろう付け室14、16での加熱工程で加熱される熱交換器(ワーク)Wの温度が少なくとも+450℃以上+500℃未満の範囲では、昇温速度が遅いヘッダー部1と昇温速度が速いチューブ部2の温度差を20deg以内、望ましくは5deg以内とし、熱交換器(ワーク)Wの温度が+500℃以上の範囲では、昇温速度が遅いヘッダー部1と昇温速度が速いチューブ部2の温度差を10deg以内、望ましくは2.5deg以内とするので、熱交換器(ワーク)W全体を一層均一に昇温させ、良好なろう付けを実現することが可能となる。
【0061】
尚、上記実施例では前室13の前工程において、近赤外線照射装置31により熱交換器(ワーク)Wの昇温速度が遅いヘッダー部1を加熱するようにしたが、請求項1及び請求項6の発明ではそれに限らず、補助加熱手段としては例えば高温の不活性ガス(窒素ガス)をヘッダー部1にスポット的に吹き付ける装置でも有効である。但し、実施例のように近赤外線を照射するようにすれば、ヘッダー部1をより局所的/集中的に加熱することが可能となる。
【0062】
また、実施例では前室13に近赤外線照射装置31を設けてヘッダー部1を加熱したが、それに限らず、乾燥室11に近赤外線照射装置を設け、或いは、ヒータ10を近赤外線照射装置(補助加熱手段)とし、熱交換器(ワーク)Wの昇温速度が遅いヘッダー部1を昇温速度が速いチューブ部2に比して優先的に加熱し、前室13からろう付け室14に移送される時点で、熱交換器(ワーク)Wの昇温速度が遅いヘッダー部1の温度が+420℃又は略+420℃、昇温速度が速いチューブ部2の温度が+400℃又は略+400℃となるようにしてもよい。
【0063】
更に、実施例では熱交換器をワークとして説明したが、それに限らず、請求項5の発明以外は、ろう付けにて製造されるアルミニウム部材全般に有効である。
【符号の説明】
【0064】
SB ろう付け装置
W 熱交換器(ワーク)
1 ヘッダー部(昇温速度が遅い部位)
2 チューブ部(昇温速度が速い部位)
3 マイクロチューブ
4 フィン
13 前室
14、16 ろう付け室
17、18 加熱炉
23 トレー
24 搬送手段
28 電気ヒータ
29 炉内ファン
31 近赤外線照射装置(補助加熱手段)