【実施例】
【0038】
実施例に係る無端ベルトについて、図面を用いて具体的に説明する。
図3、
図4に示すように、無端ベルト1は、電子写真方式の画像形成装置に用いられる。本例では、無端ベルト1は、電子写真方式の画像形成装置に転写ベルトとして組み込まれて使用される。無端ベルト1は、筒状に形成された樹脂製の基層2と、基層2の外周に積層されたゴム弾性層3とを有している。本例では、具体的には、無端ベルト1は、基層2の外周面に沿ってゴム弾性層3が積層された二層構造とされている。なお、
図3は、詳細なベルト層構成を省略して記載してある。基層2は、電子導電剤、難燃剤を含有するポリアミドイミドより形成されている。ゴム弾性層3は、イオン導電剤と、難燃剤とを含有する架橋ゴムより形成されており、ゴム弾性層3の表面は、光照射処理または表面処理液による表面処理が施されている。本例では、光照射処理は、具体的には、紫外線照射処理であり、表面処理液は、含塩素化合物を含む表面処理液、含フッ素化合物を含む表面処理液、イソシアネートを含む表面処理液のいずれかである。
【0039】
ここで、無端ベルト1は、基層2の3%伸長モジュラスをm[MPa]、基層2の厚みをt[mm]とした場合に、m/tで表されるM値が3500[MPa/mm]以下である。さらに、無端ベルト1は、ベルト軸10方向における座屈荷重Nが6[N]以上である。
【0040】
以下、異なる構成を有する無端ベルトの試料を複数作製し、評価を行った。その実験例について説明する。
【0041】
(実験例)
<基層形成用材料の調製>
攪拌機、窒素導入管、温度計、冷却管を備えた反応容器に、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)(日本ポリウレタン工業(株)製、「ミリオネートMT」)22質量部と、トリジンジイソシアネート(TODI)(日本曹達(株)製、「TODI/R203」)29質量部と、無水トリメリット酸(三菱ガス化学(株)製、「TMA」)36質量部と、α、ω−ポリブタジエンジカルボン酸(日本曹達(株)製、「C−1000」)20質量部と、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)250質量部とを仕込み、窒素気流下、撹拌しながら1時間かけて130℃まで昇温し、そのまま130℃で約5時間反応させた後に反応を停止し、ポリアミドイミド溶液(固形分濃度:26質量%)を調製した。
次いで、後述の表1〜表3に示す配合割合(質量部)となるように、上記ポリアミドイミド溶液中のポリアミドイミド(PAI)と、有機系難燃剤(ホスファゼン誘導体)((株)伏見製薬所製、「ラビトルFP−110」)と、電子導電剤(カーボンブラック)(三菱化学(株)製、「#2300」)と、溶媒A(N−メチル−2−ピロリドン)とを配合し、羽撹拌にて混合することにより、液状の各基層形成用材料を調製した。
【0042】
<ゴム弾性層形成用材料の調製>
ゴム弾性層形成用材料の調製に用いる各材料として以下のものを準備した。
−ゴム成分−
・アクリロニトリル−ブタジエンゴムA(NBR A)(日本ゼオン(株)製、「ニポールDN101」」)
・アクリロニトリル−ブタジエンゴムB(NBR B)(日本ゼオン(株)製、「ニポールDN401」」)
−無機系難燃剤−
・水酸化マグネシウム(堺化学工業(株)製、「MGZ−3」)
−有機系難燃剤−
・有機系難燃剤A(亜リン酸ナトリウム:Na
2HPO
3・5H
2O)(太平化学産業(株)製)
・有機系難燃剤B(ホスファゼン誘導体)((株)伏見製薬所、「ラビトルFP−390」)
−樹脂架橋剤−
・フェノールで変性したレゾールタイプのキシレン樹脂(フドー(株)製、「ニカノールGRL」)
−イオン導電剤−
・ポリアルキレングリコール化合物と過塩素酸リチウムの複合物(日本カーリット(株)製、「PEL−20A」)
以上の各材料を、後述の表1〜表3に示す配合割合(質量部)となるように配合し、バンバリミキサーを用いて十分に混練した。次いで、得られたゴム混練物を、溶媒B(シクロヘキサノン)に分散、溶解させることにより、液状の各ゴム弾性層形成用材料を調製した。
【0043】
<表面処理液の調製>
次亜塩素酸tert−ブチル:2質量部と、酢酸エチル:9.8質量部と、ターシャリーブチルアルコール(TBA):88.2質量部とを混合し、Cl含有表面処理液(固形分:2%)を調製した。また、濃度50質量%となるように酢酸エチルにジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を溶解することにより、イソシアネート含有表面処理液を調製した。
【0044】
<無端ベルト試料の作製>
基体として、アルミニウム製の円筒状金型を準備した。また、2つのノズルを有するディスペンサ(液体定量吐出装置)を準備した。このディスペンサのノズルは、内径φ=1mmのニードルノズルである。次いで、上記調製した基層形成用材料とゴム弾性層形成用材料とを、それぞれ別のエアー加圧タンクに収容し、金型の外周面とノズルとのクリアランスを1mmとして、金型およびノズルをセットした。次いで、金型を垂直にした状態で、回転数60rpmで軸中心に回転させながら、基層形成用材料を吐出するノズルを、1mm/secの移動速度で軸方向下方に移動させるとともに、エアー加圧タンクに所定の圧力をかけて基層形成用材料をノズルに圧送し、ノズルから基層形成用材料を吐出させ、金型の外周面上にらせん状に塗工し、らせん状塗膜の連続体からなる全体塗膜を形成した。次いで、形成された全体塗膜に対して、3時間で常温から240℃まで昇温し、0.5時間で240℃から250℃まで昇温し、250℃で1時間保持するという条件にて熱処理を施した。これにより、金型の外周面上に、電子導電性を有するポリアミドイミド製の筒状の基層(筒径φ420mm)を形成した。なお、各試料における基層の厚みは、エアー加圧タンクにかける圧力を0.5〜3.0MPaの範囲で変化させることにより、ノズルから出る材料の吐出量を変化させて調節した。
【0045】
次に、上記基層が形成された金型を、回転数60rpmで軸中心に回転させながら、ゴム弾性層形成用材料を吐出するノズルを、1mm/secの移動速度で軸方向下方に移動させるとともに、エアー加圧タンクに1.5MPaの圧力をかけてゴム弾性層形成用材料をノズルに圧送し、ノズルからゴム弾性層形成用材料を吐出させ、金型の外周面上にある基層表面にらせん状に塗工し、らせん状塗膜の連続体からなる全体塗膜を形成した。次いで、形成された全体塗膜に対して、2.5時間で常温から170℃まで昇温し、170℃で1時間保持するという条件にて熱処理(架橋処理)を施した。これにより、筒状の基層の外周面に沿ってゴム弾性層を積層した。なお、各試料におけるゴム弾性層の厚みは、エアー加圧タンクにかける圧力を0.5〜3.0MPaの範囲で変化させることにより、ノズルから出る材料の吐出量を変化させて調節した。
【0046】
次に、後述の表1〜表3に示すように、ゴム弾性層の表面に以下の表面処理のいずれかを施した。
【0047】
すなわち、試料1〜試料15、試料18〜試料25については、ゴム弾性層の表面に、次の手順に従って紫外線を照射するUV処理を施した。
【0048】
−UV処理−
周速570〜590mm/secでベルトを回転させながら、紫外線照射機[アイグラフィックス(株)製、「UB031−2A/BM」(水銀ランプ形式)]を用いて、照射強度120mW/cm
2、照射時間30秒、光源とゴム弾性層表面との距離40mmという条件にて、ゴム弾性層表面に紫外線を照射した。
【0049】
また、試料16については、ゴム弾性層の表面に、次の手順に従って上記Cl含有表面処理液による表面処理(以下、「Cl処理」という。)を施した。
【0050】
−Cl処理−
大気雰囲気中、室温下にて、反応時間30秒となるように、ゴム弾性層の表面に、Cl含有表面処理液をローラー塗工した後、水で洗浄し、エアブローにより水滴を除去した。
【0051】
また、試料17については、ゴム弾性層の表面に、次の手順に従って上記イソシアネート含有表面処理液による表面処理(以下、「イソシアネート処理」という。)を施した。
【0052】
−イソシアネート処理−
大気雰囲気中、室温下にて、ゴム弾性層の表面に、イソシアネート含有表面処理液を塗工時間30秒程度でローラー塗工した後、80℃に保持されたオーブンで1時間加熱した。
【0053】
次に、上記表面処理を施した後、基層の一端縁と金型の外周面との間に高圧エアーを吹き込むことにより、無端ベルトと金型とを分離した。以上のようにして、試料1〜試料25の無端ベルトを作製した。
【0054】
<M値の算出>
作製した試料1〜試料25の無端ベルトについて、全自動引張り試験装置((株)東洋精機製作所製、「ストログラフAE」)を用い、上述した方法に従って各M値を算出した。
【0055】
<座屈荷重Nの測定>
作製した試料1〜試料25の無端ベルトについて、上述した方法に従って座屈荷重N[N]を測定した。
【0056】
<基層およびゴム弾性層の厚み>
作製した試料1〜試料25の無端ベルトについて、マイクロスコープを用いて断面観察を行い、得られたマイクロスコープ写真から基層およびゴム弾性層の厚みを測定した。
【0057】
<ベルト表面の微小硬度>
作製した試料1〜試料25の無端ベルトについて、上述した方法に従ってベルト表面の微小硬度を測定した。
【0058】
<ベルト厚みの偏差>
【0059】
作製した試料1〜試料25の無端ベルトについて、非接触レーザー測定機((株)キーエンス、「レーザ寸法測定器LS−3000」)を用いて、ベルト軸方向に2mmピッチでベルト厚みを測定した。なお、上記測定は、一軸についてのみ行った。測定したベルト軸方向におけるベルト厚みの最大値と最小値との差をベルト厚みの偏差として求めた。
【0060】
<二次転写性>
作製した試料1〜試料25の無端ベルトは、電子写真方式を採用する複合機における中間転写ベルトとして組み込んで用いられる。そのため、中間転写ベルトの基本性能であるトナーの二次転写性を以下のようにして調べた。
【0061】
すなわち、各無端ベルトを、電子写真方式を採用する複合機(キヤノン(株)製、「imageRUNNER ADVANCE C5051i」)の中間転写ベルトとして組み込み、23.5℃×53%RHの環境下にて、テストパターンをA4紙で1000枚出力した後、ベタ画像およびハーフトーン画像を出力した。得られた画像に白点抜けが見られず、かつトナーの薄い部分が見られなかった場合を二次転写性に優れるとして「A」、白点抜けまたはトナーの薄い部分のいずれか一方が僅かに見られたが、許容範囲内であった場合を二次転写性が良好であるとして「B」、白点抜けおよびトナーの薄い部分の双方が見られた場合を二次転写性が悪いとして「C」と判断した。
【0062】
<画像ずれ>
作製した試料1〜試料25の無端ベルトを、電子写真方式を採用する複合機における中間転写ベルトとして組み込み、画像ずれの評価を行った。上述したように、駆動ローラの回転駆動時に無端ベルトに伸びが発生すると、感光体に担持されたトナー像をベルト表面に一次転写させる際に転写トナーの位置ずれが生じ、その結果、画像ずれのある画像が形成される。したがって、この画像ずれの有無を確認することによって、駆動ローラの回転駆動時における無端ベルトの伸びの有無を間接的に確認することができる。そこで、本例では、具体的に以下のようにして画像ずれの評価を行った。
【0063】
すなわち、上記<二次転写性>と同様に1000枚出力した後、細線の格子画像(マゼンタとイエローの2色の細線)をA4で出力した。得られた画像に格子ゆがみ(レッドの細線格子画像においてレッドを形成するマゼンタとイエローの細線のずれ)が見られず、かつ各色の細線の重なりにずれがない場合を、画像ずれの抑制効果に優れるとして「A」、格子ゆがみまたは細線の重なりにおけるずれのいずれか一方が僅かに見られたが、許容範囲内であった場合を画像ずれの抑制効果が良好であるとして「B」、格子ゆがみおよび細線の重なりにおけるずれの双方が見られた場合を許容できない画像ずれが発生するとして「C」と判断した。
【0064】
<ベルト側縁部の耐座屈性>
図5に示すように、直径10mmの駆動ローラ6および従動ローラ7に、試料1〜試料25の無端ベルト1(層構成は省略して記載)を、荷重2kgを片側にかけた状態で張架した。駆動ローラ6および従動ローラ7は、ローラ軸方向に対して、2°の傾斜角で傾斜させてある。つまり、ベルト回転中、駆動ローラ6の両端部にある樹脂製の蛇行規制部材(不図示)のうちの片方が、片側のベルト側縁部に常に接触し続けるように構成してある。また、互いのローラ軸方向が平行となるように従動ローラ7に近接させて外部ローラ8を配置し、ベルト回転時に従動ローラ7と外部ローラ8との間を無端ベルト1がS字状に進行するように構成した。これは、本例の無端ベルト1は、中間転写ベルトとしての使用を想定しているため、外部ローラ8を二次転写時の二次転写ローラとして模擬したものである。
【0065】
上記の状態にて駆動ローラを回転駆動させ、無端ベルトを回転数990rpmにて400,000回転させるという耐久試験後のベルト外観を目視にて確認した。耐久試験終了後、蛇行規制部材と接触させていた方のベルト側縁部に座屈によるシワ、破断部がない場合を、ベルト側縁部の耐座屈性に優れるとして「A」、耐久試験終了後、蛇行規制部材と接触させていた方のベルト側縁部に微小な座屈によるシワが見られるが、画像形成にほとんど影響がなく許容範囲内のものを、ベルト側縁部の耐座屈性が良好であるとして「B」、耐久試験終了後、蛇行規制部材と接触させていた方のベルト側縁部に座屈によるシワ、破断部がある場合を、ベルト側縁部の耐座屈性が悪いとして「C」と判断した。
【0066】
表1〜表3に、作製した無端ベルト試料の詳細な配合割合(単位:質量部)、ゴム弾性層の表面処理の種類、ベルト特性、評価結果等をまとめて示す。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
表1〜表3によれば以下のことがわかる。すなわち、試料21〜試料23の無端ベルトは、基層と、基層の外周に積層されたゴム弾性層とを有しているが、M値が3500[MPa/mm]を超えている。そのため、駆動ローラの回転駆動によってベルトが伸び、その伸び分だけ無端ベルトの回転が遅れて転写トナーの位置ずれが発生し、許容できない画像ずれが生じることがわかる。なお、M値が3500[MPa/mm]を超えていたのは、基層の厚みが30μm未満と薄く設定されていたことが大きな原因の一つである。
【0071】
試料24および試料25の無端ベルトは、基層と、基層の外周に積層されたゴム弾性層とを有しているが、座屈荷重Nが6[N]未満である。そのため、蛇行規制部材に無端ベルトのベルト側縁部が接触し続けた場合に、ベルト側縁部が座屈し、ベルト側縁部に生じた座屈部に起因して不良画像が形成されることがわかる。また、中間転写ベルトとして用いる場合にゴム弾性層の厚みが比較的薄めに設定されていると、二次転写性が低下する傾向があることもわかる。なお、試料24の無端ベルトに比べ、試料25の無端ベルトの二次転写性が悪化したのは、基層の厚みが77μmと大きかったため、基層の剛直性が高まってベルト全体の柔軟性が低下したことも原因のひとつとして挙げられる。また、試料25の無端ベルトは、ベルト表面の微小硬度が0.80[N/mm
2]と高かったため、上記<二次転写性>の試験後に、ベルト表面に亀裂が確認された。
【0072】
これらに対し、試料1〜20の無端ベルトは、基層と、基層の外周に積層されたゴム弾性層とを有しており、上記M値が3500[MPa/mm]以下であり、上記座屈荷重Nが6[N]以上である。そのため、試料1〜20の無端ベルトは、駆動ローラの回転駆動によって無端ベルトが伸び難い。それ故、試料1〜20の無端ベルトは、感光体に担持されたトナー像をベルト表面に一次転写させる際に、転写トナーの位置ずれが発生し難く、画像ずれのない画像を形成しやすいことがわかる。また、無端ベルトを張架するローラが有する蛇行規制部材にベルト側縁部が接触し続けた場合に、ベルト側縁部が座屈するのを抑制することができる。それ故、ベルト側縁部に生じた座屈部に起因する不良画像の発生を抑制することが可能となり、長期にわたって良好な画像を形成しやすいことがわかる。
【0073】
また、試料1〜20の無端ベルトは、ゴム弾性層の厚みが6〜510μmの範囲内とされている。そのため、試料1〜20の無端ベルトは、柔軟なゴム弾性層による二次転写性の向上と、ベルト軸方向におけるベルト厚みの偏差低減とに有利であることがわかる。また、試料1〜20の無端ベルトは、ベルト表面の微小硬度が0.40〜0.77[N/mm
2]の範囲内とされていたため、上記<二次転写性>の試験後、トナーフィルミングおよびベルト表面に亀裂が確認されなかった。
【0074】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲内で種々の変更が可能である。