(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明におけるハイブリッド自動車の制御システムが適用されるハイブリッド自動車を概略的に示す図である。
【
図2】モータの回転速度に対する最大トルク及び車速を示すグラフである。
【
図4】モータによりトルクアシストされない場合のCVTの変速比(i_cvt)のシフトマップを示す図である。
【
図5】モータによってトルクアシストする場合のCVTの変速比(i_cvt´)のシフトマップを示す図である。
【
図6】
図5のi_cvt´のシフトマップを、モータのトルク性能に基づいて再設計したi_cvt´のシフトマップを示す図である。
【
図7】
図6に示したi_cvt´のシフトマップを、アクセル開度毎に所定の車速が同一となるように再設計したi_cvt´のシフトマップを示す図である。
【
図8】本実施形態に係るハイブリッド自動車の制御フローチャートである。
【0025】
以下、本発明に係るハイブリッド自動車の制御システムの実施形態を
図1ないし
図6を参照して説明する。
【0026】
図1は、本発明におけるハイブリッド自動車の制御システムが適用されるハイブリッド自動車を概略的に示す図である。
車両10は、動力源であるエンジン12と、エンジン12を始動させるためのスタータ11と、エンジン12の駆動力を前輪29L、29Rの車軸に伝達させるための駆動系20と、を備えている。
【0027】
駆動系20は、エンジン12の出力側に接続されたトランスミッション22と、トランスミッション22の出力が伝達されるCVT(無段変速機)24と、CVT24からの出力を補助(トルクアシスト)するモータ26と、モータ26の出力を前輪29L、29Rへ伝達するための差動ギア28と、を備えている。
【0028】
CVT24は、トランスミッション22からの出力が伝達されるプライマリプーリ24aと、プライマリプーリ24aの回転及びトルクを受動するセカンダリプーリ24bと、プライマリプーリ24aの回転及びトルクをセカンダリプーリ24bに伝達するためのプーリベルト24cとを備えている。CVT24は、プライマリプーリ24aとセカンダリプーリ24bのプーリ径が調節されることで、CVTの変速比を連続的に変化させることができる。
また、車両10は、CVT24のプライマリプーリ24aの回転速度を検知するCVT回転センサ62を備えている。CVT回転センサ62は、検知したプライマリプーリ24aの回転速度を後述するトランスミッション制御手段56へ送信する。
【0029】
エンジン12からの駆動力は、トランスミッション22を介してCVT24に伝達され、CVT24のプライマリプーリ24a及びセカンダリプーリ24bのプーリ径に従って、エンジン12のトルク及び回転数が変化される。その後、セカンダリプーリ24bの駆動力が、必要に応じてモータ26によりトルクアシストされて、差動ギア28へ伝達される。差動ギア28へ伝達されたエンジン12の駆動力は、前輪29L、29Rを駆動させる。
【0030】
モータ26は、セカンダリプーリ24bをトルクアシストするときは、バッテリ32によって駆動され、車両10の減速時などには発電機として機能して、バッテリ32に充電する。バッテリ32の充電状態(SOC:State Of Charge)は、バッテリコントローラ34により読み取られ、その情報が後述するハイブリッドコントローラ50へ送られる。
【0031】
車両10は、さらに、アクセルの開度を検知するアクセル開度センサ64と、車両10の車速を検知する車速センサ66と、これら2つのセンサによって検知されたアクセル開度データ及び車速データを受信するハイブリッドコントローラ50と、ハイブリッドコントローラ50によって夫々制御されるインバータ52、エンジン制御手段54、及びトランスミッション制御手段56とを備えている。
【0032】
ハイブリッドコントローラ50は、検知されたアクセル開度及び車速、ならびにバッテリコントローラ34からのバッテリ32のSOC等に基づいて、インバータ52、エンジン制御手段54及びトランスミッション制御手段56を制御する。
インバータ52は、アクセル開度、車速、ドライバが要求するトルク、及びバッテリ32のSOCに基づいて、モータ26の回転速度及びトルクを制御する。
エンジン制御手段54は、ドライバの要求トルクに応じてスタータ11及びエンジン12を制御する。
トランスミッション制御手段56は、ドライバの要求トルクに応じた適切なトルクで車両10が駆動するように、トランスミッション22及びCVT24の変速比を制御する。
【0033】
また、ハイブリッドコントローラ50は、後述するCVT24のシフトマップデータを格納する図示しない記憶装置を備えており、このシフトマップデータに基づいて、トランスミッション制御手段56を介してCVT24の変速比を制御する。
【0034】
次に、本ハイブリッド自動車の制御システムにおいて、モータ26がCVT24の出力のトルクアシストを行う場合の車速条件について説明する。本実施形態に係るハイブリッド自動車の制御システムでは、車両10の車速が所定の車速以下の場合に、モータ26によってCVT24の出力のトルクアシストを行い、車速が所定の車速超の場合はCVT24のトルクアシストを行わない(停止する)ように制御する。
【0035】
図2は、モータ26の回転速度に対する最大トルク及び車速を示すグラフである。
本グラフの縦軸はモータ26のトルク(Nm)を示し、横軸はモータ26の回転速度(rpm)及び車速(km/h)を示す。このグラフは、
図1に示したハイブリッドコントローラ50の記憶装置に格納される。
【0036】
図示のように、モータ26のトルクは、回転速度が上がるにつれて上昇し、最大トルク(停動トルク)となる。その後、ある回転速度(基底速度:Base Speed)でトルクが減少し始める。
上述したように、本実施形態では、車速が所定の車速以下の場合に、モータ26によってCVT24の出力のトルクアシストを行う。本実施形態では、モータ26の基底速度に対応する車速、即ちモータ26の基底速度から算出される車速を、所定の車速とすることができる。
【0037】
以上で説明したように所定の車速を決定することで、車速がモータ26の基底速度に対応する車速以下のときに、モータ26によってCVT24の出力のトルクアシストを行うので、モータ26が最大トルクで運転しうる条件、即ちモータ26によるCVT24のトルクアシストを最大限に行うことができる運転条件において、トルクアシストを行うことができる。このため、大きいトルクが必要な車速での走行時(高変速比での加速時)であっても、モータ26の最大トルク又はこれに近いトルクでCVT24の出力をアシストすることができるので、ドライバに要求されたトルクで車両を走行させることができる。これにより、高変速比での加速時に発生するCVT24の機械的な損失を低減することができる。
【0038】
次に、本ハイブリッド自動車の制御システムにおいて、モータ26がCVT24の出力のトルクアシストを行う場合の別の車速条件について説明する。
図3は、車両10のエンジン12のけん引力曲線図である。
図示のように、本けん引力曲線図の縦軸は車両10のエンジン12のけん引力(N)を示し、横軸は車速(km/h)を示す。このけん引力曲線図は、
図1に示したハイブリッドコントローラ50の記憶装置に格納される。また、本図においては、最ロー変速比であり且つアクセル開度100%の状態におけるけん引力曲線が示されている。
【0039】
図示のように、このけん引力曲線では、車両が発進してから車速が大きくなるにつれてけん引力は増加し、所定の車速において最大けん引力に達した後、減少する。本実施形態では、モータ26がCVT24の出力のトルクアシストを行うための車速条件として、エンジン12が最大けん引力を発生させるときの車速を車速条件(所定の車速)とすることができる。
【0040】
以上で説明したように所定の車速を決定することで、エンジン12が最大けん引力を発生させるときの車速条件、即ちCVT24の高変速比(高トルク)が必要とされる運転条件において、モータ26でCVT24の出力をトルクアシストすることができるので、高変速比での加速時に発生するCVT24の機械的な損失を低減することができる。
【0041】
本実施形態では、
図2において説明した車速条件と、
図3において説明した車速条件とを比較して、より小さい車速条件を所定の車速(閾値)として採用することができ、車両10の車速がこの所定の車速以下の場合に、モータ26によってCVTの出力のトルクアシストを行うようにする。これにより、CVT24の高変速比(高トルク)が必要とされる運転条件であって、且つモータ26の最大トルク又はこれに近いトルクを発揮しうる運転条件で、モータ26によりCVT24の出力をアシストすることができ、高変速比での加速時に発生するCVT24の機械的な損失を低減することができる。
【0042】
なお、
図3に示したけん引力曲線は、アクセル開度100%の状態における曲線であるが、アクセル開度が100%より小さいときは、車速に対するエンジン12のけん引力曲線は異なり得る。即ち、アクセル開度が100%より小さいときは、最大けん引力を発生させるときの車速(所定の車速)は、
図3に示した車速条件よりも大きくなり得る。言い換えれば、アクセル開度100%の状態におけるけん引力曲線に基づいて決定される上記所定の車速は、アクセル開度毎に変動する所定の車速の中で最小の値となる。
そこで、本実施形態では、トルクアシスト制御を容易に行うため、トルクアシストを行うための車速条件として、
図3に示したアクセル開度100%の状態におけるけん引力曲線に基づいて決定される上記所定の車速を採用する。
【0043】
このように所定の車速を一つに決定することで、トルクアシスト制御を容易に行うことができる。また、アクセル開度100%の状態における上記所定の車速は、アクセル開度毎に変動する所定の車速の中で最小の値であるので、アクセル開度によってエンジン12のけん引力曲線が変化しても、少なくとも車両10の低速領域におけるCVT24の高変速比(高トルク)が必要とされる運転条件において、トルクアシストを行うことができる。
【0044】
なお、上記アクセル開度毎に変動する所定の車速に応じてトルクアシスト制御を行ってもよい。具体的には、上記アクセル開度毎に変動する所定の車速と
図2において説明した所定の車速とのうち、小さいほうの車速を所定の車速(閾値)として採用して、このアクセル開度毎に採用された所定の車速に基づいてトルクアシストを行うようにする。この場合は、トルクアシスト制御が複雑になるが、モータ26の使用効率をより向上させることができる。
【0045】
次に、本ハイブリッド自動車の制御システムにおいて、
図1に示したハイブリッドコントローラ50の記憶装置に格納されるCVT24の変速比のシフトマップについて説明する。
図4は、モータ26がトルクアシストしない場合のCVT24の変速比i_cvtのシフトマップを示す図である。本シフトマップの縦軸はCVT24のプライマリプーリ24aの回転速度(rpm:Rotation Per Minute)を示し、横軸は車速(km/h)を示す。
【0046】
本シフトマップでは、アクセル開度毎(20%、40%、70%、100%)の変速線がマップされており、各変速線は、対応するアクセル開度において加速する車速に対するプライマリプーリ24aの回転数を示している。
【0047】
CVT24の変速比は一般的に「プライマリプーリ24aの回転速度/セカンダリプーリ24bの回転速度」で表すことができる。ここで、セカンダリプーリ24bは変速手段としての差動ギア28のみを介して前輪29L、29Rを駆動させているので、車速はセカンダリプーリ24bの回転速度と比例関係にある。従って、本シフトマップにおける変速線の傾き(プライマリプーリ24aの回転速度/車速)は、CVT24の変速比と比例関係にある。このため、本シフトマップの変速線の傾きの大小関係は、CVT24の変速比の大小関係と一致する。
【0048】
図示のように、本実施形態にかかるCVT24の変速比のシフトマップは、ハイブリッド自動車のアクセル開度毎に変速比の変化が異なるように設計されている。例えば、アクセル開度100%の場合、プライマリプーリ24の回転速度が約3600rpmに達するまで最ロー変速比(最大変速比)にて加速し、その後車速の上昇に伴って変速比を徐々に小さくしていく。
【0049】
以上で説明したように、本ハイブリッド自動車の制御システムでは、
図1に示したモータ26がトルクアシストしない場合には、アクセル開度に応じた本シフトマップの車速とプライマリプーリ24aの回転速度の関係を満たすように、トランスミッション制御手段56がCVT24の変速比を制御する。
【0050】
図5は、本ハイブリッド自動車の制御システムにおいて、
図2及び
図3において説明した所定の車速のうちのいずれか小さい所定の車速に基づいて設計した、モータ26がトルクアシストする場合のCVT24の変速比i_cvt´のシフトマップを示す図である。
本シフトマップでは、便宜上、アクセル開度100%、70%、40%及び20%の場合における
図2に示したCVT変速比i_cvtのシフトマップを破線により併記している。
【0051】
図示のように、実線で示されている本シフトマップは、ハイブリッド自動車のアクセル開度(本実施形態では100%、70%、40%、20%)毎に変速比が異なるように、車速0(km/h)の開始位置から、
図2及び
図3において説明した所定の車速まで設計されている。即ち、本シフトマップは、
図2及び
図3において説明した所定の車速のうちのいずれか小さい所定の車速(閾値となる車速)に達するまで、アクセル開度毎に異なる一定の変速比(最ロー変速比:i_cvt´_low)に従ってプライマリプーリ24aの回転速度が増加し、この閾値となる車速に達したときに、
図4に示したシフトマップとプライマリプーリ24aの回転速度が一致するように設計されている。
なお、この閾値となる車速に達した後は、
図4に示したシフトマップに従って、車両10が加速される。
【0052】
本実施形態に係るハイブリッド自動車の制御システムでは、車速が
図2及び
図3において説明した所定の速度以下の場合に、
図5に示したシフトマップに基づいて、CVT24の変速比を制御するとともにモータ26によってCVT24からの出力のトルクアシストを行い、車速が上記所定の速度超の場合は
図4に示したシフトマップに基づいてCVT24の変速比を制御するとともにモータ26によるCVT24からの出力のトルクアシストを停止する。
言い換えれば、最ロー変速比i_cvt´_lowにおけるプライマリプーリ24aの回転速度が、
図4に示したシフトマップの変速線i_cvtにおけるプライマリプーリ24aの回転速度以下であるときの車速での走行時において、モータ26によりCVT24の出力のトルクアシストを行う。
【0053】
本シフトマップにおけるCVT24の最ロー変速比i_cvt´_lowは、
図4に示したCVT変速比シフトマップの最ロー変速比i_cvt_lowよりも小さくなるように設計される。即ち、本シフトマップの最ロー変速比i_cvt´_lowにおけるCVT駆動トルクは、
図4に示したCVT変速比シフトマップの最ロー変速比i_cvt_lowにおけるCVT駆動トルクよりも小さくなるように設計される。このため、本シフトマップに従ってCVT24の変速比を制御することで、より小さいCVT駆動トルクで車両を加速するため、CVT24の機械的な損失を低減することができる。
【0054】
本シフトマップに基づいてCVT24の変速比を制御するときは、
図4に示したCVT変速比シフトマップに基づいて制御される場合のCVT24のトルクに比べて不足しているトルクを、モータ26によってCVT24の出力トルクをアシストすることで補うことができる。このため、本シフトマップに基づいてCVT24の変速比を制御した場合でも、
図4に示したCVT変速比シフトマップに基づいて制御される場合のCVT24の出力トルクと同等の出力トルクを実現できるようにしている。
【0055】
以上で説明したように、
図2及び
図3で説明した所定の車速(閾値の車速)以下の場合には、比較的小さい最ロー変速比i_cvt´_lowで加速するように設計されているので、
図4に示したシフトマップの高変速比(最ロー変速比)を必要とする車速領域において、モータ26でトルクアシストしてCVT24の変速比を小さくすることができる。したがって、高変速比での加速時に発生するCVT24の機械的な損失を低減し、簡単な構造でCVTの伝達効率を向上することができる。
【0056】
また、本実施形態に係るハイブリッド車両の制御システムによれば、CVT24の最高設計変速比(最ロー変速比)を小さくすることができるので、CVT24のプライマリプーリ24a及びセカンダリプーリ24bやその他の部品を小さく又は軽くすることができ、CVT24を小型化又は軽量化することができる。
さらに、本実施形態に係るハイブリッド車両の制御システムによれば、変速比幅を拡大するために従来用いられていた副変速機を不要とすることができる。
加えて、モータ26が上記所定の車速以下の車速での走行時にのみトルクアシストを行うように制御されるので、モータ26によりトルクアシストが実行される頻度を下げることができ、ハイブリッド車両のバッテリ32を従来に比べて小型化することができる。
【0057】
ところで、
図5に示したi_cvt´のシフトマップに基づいてCVT24が制御される場合に、モータ26が、
図4に示したCVT変速比シフトマップに基づいて制御されるときのCVT24の出力トルクに比べて不足しているトルクを補うことができるトルク性能(最大トルク)を有しているときは、上述したように、
図4に示したCVT変速比シフトマップに基づいて制御される場合のCVT24の出力トルクと同等の出力トルクを実現できる。
一方で、モータ26が、
図4に示したCVT変速比シフトマップに基づいて制御される場合のCVT24の出力トルクに比べて不足しているトルクを補うことができないトルク性能を有する、即ちモータ26のトルク性能が不十分である場合は、モータ26のトルク性能に基づいて所定の車速を決定し、
図5のCVT変速比シフトマップを再設計する必要がある。
【0058】
具体的には、例えば、
図5に示したCVT変速比シフトマップにおけるi_cvt´_lowと、
図4に示したCVT変速比シフトマップにおけるi_cvtとのプライマリプーリ回転速度の差が最大である車速において、
図4に示したCVT変速比シフトマップに比べて不足しているCVT24のトルク値と、モータ26がアシスト可能なトルク値(最大トルク値)とを比較する。なお、上記プライマリプーリ回転速度の差が最大である車速において、モータ26によってアシストされるトルクが最も大きくなる。
【0059】
モータ26の最大トルク値が、上記不足しているCVT24のトルク値以上の場合は、モータ26のトルクアシストにより、
図4に示したCVT変速比シフトマップに基づいて制御される場合のCVT24が出力するトルクと同等のトルクを出力できることになり、
図5に示したCVT変速比シフトマップの再設計は不要である。ただし、モータ26の最大トルク値が、上記不足しているCVT24のトルク値に比べて過剰に大きい場合は、モータ26のトルク性能が過剰に大きいことを示すので、よりトルク性能の小さいモータに変更してもよい。
【0060】
一方で、モータ26の最大トルク値が、上記不足しているCVT24のトルク値よりも小さい場合は、
図4に示したCVT変速比シフトマップに基づいて制御される場合のCVT24が出力するトルクと同等のトルクを出力できるように、即ちモータ26の最大トルク値が
図4のシフトマップに対して不足しているトルク値以上になるように、所定の車速を決定し、
図5に示したCVT変速比シフトマップを再設計する、即ち、i_cvt´_lowを示す直線の傾きを大きくする(最ロー変速比を大きくする)。
【0061】
図6は、
図5に示したi_cvt´のシフトマップを、モータ26のトルク性能に基づいて再設計したi_cvt´のシフトマップを示す図である。
図示のように、モータ26の最大トルク値に基づいて所定の車速を決定し、再設計したi_cvt´のシフトマップは、
図5に示したi_cvt´のシフトマップに比べて、アクセル開度毎のi_cvt´_lowとi_cvtとの交点における車速(所定の車速)が小さくなるように再設計されている。これにより、i_cvt´_lowを示す直線の傾きが大きくなるように再設計される。また、本実施形態の場合は所定の車速がアクセル開度毎に異なるように設計されている。
【0062】
車両10は、車速0(km/h)の開始位置から、所定の車速に達するまで、アクセル開度毎に異なる一定の変速比(最ロー変速比:i_cvt´_low)に従ってプライマリプーリ24aの回転速度を増加させる。このとき、モータ26によりトルクアシストをすることで、i_cvtに基づいて制御される場合と同等のトルクが実現される。
アクセル開度毎に異なる所定の車速に達した後は、モータ26によるトルクアシストを停止するとともに、i_cvtに基づいてCVT24が制御される。
【0063】
このようにシフトマップを再設計することで、
図4に示したCVT変速比シフトマップに基づいて制御される場合のCVT24のトルクに比べて不足しているトルクを、モータ26によって確実にアシストすることができる。このため、本シフトマップに基づいてCVT24の変速比を制御した場合でも、
図4に示したCVT変速比シフトマップに基づいて制御される場合のCVT24の出力トルクと同等のトルクを確実に出力することができる。
【0064】
図6に示したCVT変速比シフトマップでは、モータ24がトルクアシストできる範囲で、アクセル開度毎のi_cvt´lowを、所定の車速が異なるように設計したが、トルクアシスト制御を容易に行うため、所定の車速がアクセル開度毎に同一となるように所定の車速を決定し、i_cvt´lowを設計してもよい。
【0065】
図7は、
図6に示したi_cvt´のシフトマップを、アクセル開度毎に所定の車速が同一となるように再設計したi_cvt´のシフトマップである。
図示のように、本i_cvt´のシフトマップにおける所定の車速は、
図6に示したアクセル開度毎の所定の車速のうち最小であるアクセル開度40%におけるi_cvt´_lowの所定の車速であり、この所定の車速に合わせてアクセル開度100%、70%、20%のi_cvt´_lowが再設計されている。
即ち、アクセル開度100%、70%、20%のi_cvt´_lowは、アクセル開度40%におけるi_cvt´_lowの所定の車速に達するまでは、アクセル開度毎に異なる一定の変速比に従ってプライマリプーリ24aの回転速度が増加し、この所定の車速に達したときに、
図4に示したシフトマップとプライマリプーリ24aの回転速度が一致するように再設計されている。
【0066】
このようにアクセル開度毎に異なる所定の車速のうち最小の車速を所定の車速として、i_cvt´のシフトマップを再設計することで、確実にモータ26がトルクアシストでき、且つトルクアシスト制御を容易に行うことができる。
【0067】
次に、本実施形態に係るハイブリッド車両の制御方法について説明する。
図8は、本実施形態に係るハイブリッド自動車の制御フローチャートである。
まず、ハイブリッド車両の制御に先立ち、
図5ないし
図7に示したモータ26によりトルクアシストする場合の変速比(i_cvt´)のシフトマップを予め設計しておく。即ち、
図2及び
図3において説明した所定の車速のうち小さい車速に基づいて、アクセル開度毎の最ロー変速比(i_cvt´_low)を設計し(S101)、これに基づいて、
図5に示した、アクセル開度に応じたプライマリプーリ24aと車速との関係を示すCVT24の変速比(i_cvt´)のシフトマップを設計する(S102)。なお、モータ24のトルク性能に応じて、必要であれば、
図5に示した変速比シフトマップを
図6又は
図7に示した変速比シフトマップのように再設計する(S103)。
このように設計した変速比(i_cvt´)のシフトマップデータと、
図2に示したモータ26によるトルクアシストをしない場合の変速比(i_cvt)のシフトマップデータをハイブリッドコントローラ50の記憶装置に格納しておく(S104)。
【0068】
以上で説明した事前準備が行われた上で、本実施形態に係るハイブリッド車両の制御が行われる。まず、車両走行時において、ハイブリッドコントローラ50は、アクセル開度センサ64からアクセル開度信号を読み込み、車速センサ66から車速データを読み込み、バッテリコントローラ34からバッテリ32のバッテリ残量を読み込む(S105)。
【0069】
次に、ハイブリッドコントローラ50は、車両の走行状態がハイブリッド制御条件を満たしているか否かを判断する(S106)。即ち、ハイブリッドコントローラ50は、上記読み込んだアクセル開度と、予め格納されたi_cvtのシフトマップデータ及びi_cvt´のシフトマップデータに基づいて、
図5ないし
図7において説明した所定の車速を読み出す。
この読み出された所定の車速に基づいて、現在の車速が上記所定の車速以下であるか否かを判断する。また、ハイブリッドコントローラ50は、上記読み込んだバッテリ残量が、トルクアシストするために充分な残量があるか否かを判断する。
【0070】
ハイブリッドコントローラ50が、車速が上記所定の車速以下であると判断し、かつバッテリ残量が上記充分な残量であると判断したとき(S106、YES)、
図5ないし
図7のいずれかに示したi_cvt´のシフトマップデータにおいて、上記読み込んだ車速とアクセル開度に基づいて、i_cvt´のシフトマップ上のプライマリプーリ24aの回転速度、即ち目標値としてのプライマリプーリ24aの回転速度を読み取る(S107)。
【0071】
続いて、ハイブリッドコントローラ50は、上記読み込んだ車速におけるCVT24の出力軸の回転数、即ちセカンダリプーリ24bの回転速度と、上記目標値としてのプライマリプーリ24aの回転速度から、CVT24の変速比i_cvt´を算出する(S108)。
ここで、上述したように車速とセカンダリプーリ24bの回転速度とは比例関係にあるので、CVT24の変速比i_cvt´は、以下の式により算出することができる。
i_cvt´=C´*(上記目標値としてのプライマリプーリ24aの回転速度)/(車速)
なお、ここでC´は比例定数である。
【0072】
ハイブリッドコントローラ50は、トランスミッション制御手段56を介して、CVT24の変速比が上記算出された変速比i_cvt´となるように制御し、(S109)、これと共にモータ26によりCVT24の出力トルクをアシストする。
【0073】
また、ハイブリッドコントローラ50は、ドライバの要求トルクfd_trqと変速比i_cvt´とに基づいて、エンジントルクice_trq´を制御する(S110)。即ち、ハイブリッドコントローラ50は、アクセル開度データから公知の方法でドライバ要求トルクfd_trqを算出し、
図2に示したグラフから、インバータ52が制御しているモータ26の回転速度に基づいてモータ26の最大トルクmot_trqを読み出す。
続いて、ハイブリッドコントローラ50は、ドライバ要求トルクfd_trq、モータ26の最大トルクmot_trqおよび変速比i_cvt´とから、目標値となるエンジントルクice_trq´を算出する。目標値となるエンジントルクice_trq´は、以下の式により算出することができる。
fd_trq=ice_trq´*i_cvt´+mot_trq
ハイブリッドコントローラ50は、算出した目標値となるエンジントルクice_trq´となるように、エンジン制御手段54を介してエンジン12を制御する。
【0074】
一方で、ハイブリッドコントローラ50が、車速が上記所定の車速以下ではない、即ち車速が上記所定の車速超であると判断し、又はバッテリ残量が上記充分な残量でないと判断したときは(S106、No)、
図4に示した変速比i_cvtのシフトマップデータにおいて、上記読み込んだ車速とアクセル開度に基づいて、変速比i_cvtのシフトマップ上のプライマリプーリ24aの回転速度、即ち目標値としてのプライマリプーリ24aの回転速度を読み取る(S111)。
【0075】
続いて、ハイブリッドコントローラ50は、上記車速におけるCVT24の出力軸の回転数、即ちセカンダリプーリ24bの回転速度と、上記目標値としてのプライマリプーリ24aの回転速度から、CVT24の変速比i_cvtを算出する(S112)。
ここで、上述したように車速とセカンダリプーリ24bの回転速度とは比例関係にあるので、CVT24の変速比i_cvtは、以下の式により算出することができる。
i_cvt=C*(上記目標値としてのプライマリプーリ24aの回転速度)/(車速)
なお、ここでCは比例定数である。
【0076】
ハイブリッドコントローラ50は、トランスミッション制御手段56を介して、CVT24の変速比が上記算出されたi_cvtとなるように制御する(S113)。
【0077】
また、ハイブリッドコントローラ50は、ドライバの要求トルクfd_trqと変速比i_cvtとに基づいて、エンジントルクice_trqを制御する(S110)。即ち、ハイブリッドコントローラ50は、アクセル開度データからドライバ要求トルクfd_trqを算出し、ドライバ要求トルクと変速比i_cvtとから、目標値となるエンジントルクice_trqを算出する。目標値となるエンジントルクice_trqは、以下の式により算出することができる。
fd_trq=ice_trq*i_cvt
ハイブリッドコントローラ50は、算出した目標値となるエンジントルクとなるように、エンジン制御手段54を介してエンジン12を制御する。
【0078】
以上で説明したように、本実施形態に係るハイブリッド車両の制御方法によれば、モータ26が所定の車速以下の領域でCVT24のトルクのアシストをすることができるので、CVT伝達効率が最も低い高変速比(低速発進)となる車速で変速比を小さくして、CVT24の機械損失を低減でき、車両10全体としての機械効率を向上させることができる。
【0079】
なお、以上の実施形態では、
図2に示したモータ26のトルク曲線、及び
図3に示したエンジン12のけん引力曲線に基づいて所定の車速を決定し、この所定の車速に基づいて
図5に示すシフトマップを設計する例を説明した。この例は、モータ26及びエンジン12の性能値が予め決定されていることを前提としたシフトマップの設計方法である。一方で、モータ26及びエンジン12の性能値が決定されていない場合は、例えば、所定の車速を任意に定めて
図5に示すシフトマップを設計し、この任意に定められた所定の車速に基づいて、モータ26及びエンジン12を選定するようにしてもよい。この場合は、任意に定められた所定の車速が基底速度以下となるようなモータ26を選定するか、又は最大けん引力を発生させるときの車速以下となるようなエンジン12を選定すればよい。また、モータ26については、トルクアシストするために充分な最大トルク値を有するモータ26を選定する必要がある。