(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記活性物質または対象の物質が、小化学分子、ペプチドもしくはポリペプチド、タンパク質、抗原、抗体もしくは抗体の一部、核酸もしくはオレゴヌクレオチド、リボザイム、マーカーまたはトレーサーから選択されることを特徴とする、請求項11に記載のコンジュゲート化合物。
Dが、Vと、VのN−末端および/もしくはC−末端の1つまたは両方において、ならびに/またはVのアミノ酸構築物の側鎖によって担持されている1つ以上の反応基において、カップリングしていることを特徴とする、請求項9〜13のいずれか1項に記載のコンジュゲート化合物。
【背景技術】
【0002】
IMS Healthによると、中枢神経系(CNS、脳および脊髄)病態を治療するための薬物の世界市場は、2007年には約700億ドルであり、この総額のうちの90億ドルが薬物送達技術から生まれた製品に相当した(Jain, 2008, Jain PharmaBiotech Report,Drug Delivery in CNS disorders)。このように、今日、CNSは、心臓血管内科および腫瘍学と共に、三大治療領域の1つである。世界中のCNS障害および病態罹患者数は、心血管疾患または癌患者数よりも多いが、神経病学は、依然として未開拓市場である。これは、CNS病態を治療するための可能性のある治療薬の98%が、血液脳関門すなわちBBBを横断しないことによって説明される(Pardridge, 2003,Mol. Interv., 3, 90-105)。
【0003】
実際、脳は、2つの主要生理的障壁システム、つまり、BBBおよび血液脳脊髄液関門(BCSFB)の存在によって潜在的毒性物質から保護されている。BBBは、血漿リガンドの取り込みの主要経路と考えられている。その表面積は、BCSFBの表面積よりも約5000倍大きい。BBBの構成血管の全長は、約600kmである。大脳皮質各1cm
3が、血管1km相当を含有する。BBBの全表面積は、20m
2と概算される(De Boer et al., 2007, Clin. Pharmacokinet., 46(7), 553-576)。したがって、BBBを構成する脳内皮は、多くのCNS障害に対して可能性のある薬物を使用するには主な障害となっているが、血液と神経組織との間の大きな潜在的交換面でもある。
【0004】
原則として、約450から600ダルトンの少数の小さな親油性分子しか(薬物候補の2%しか)BBBを通過できない、すなわち、血液から脳へ移ることができない。CNS障害の治療についてのインビトロでの研究および動物研究において有望な結果を示す多くの薬物候補の分子量およびサイズは、相当大きい。したがって、治療用ペプチドまたはタンパク質などの大部分の分子は、このタイプの薬物候補についての脳毛細血管内皮細胞(BCEC)に対する経細胞透過性が低いので、血液から脳への通行/輸送から一般に排除される。血管内で構成されるBCECは、基底板、星状膠細胞終足、周皮細胞、小膠細胞およびニューロン細胞に取り囲まれている。内皮細胞と星状膠細胞終足の緊密な会合が、大部分の分子に対するBBB不透過性の特性の発生および維持の原因であり、したがって、脳の恒常性を維持するための血液と脳との間の分子交換の精密なおよび有効な制御を保証する。BCECは、有窓性である、他の器官の他の内皮細胞と比較して、密着結合により密接に結合している。それ故、これらの密着結合は、BBBを横断する一切の傍細胞輸送を防止する。
【0005】
BBBは、脳病態を治療するための、およびとりわけCNS障害を治療する分子の使用のための、新規療法の開発の際に克服する主な障害と考えられている(Neuwelt et al.,2008, Lancet Neurol., 7, 84-96)。
【0006】
主要脳病態(脳癌、パーキンソンおよびアルツハイマー病、脳血管発作(CVA)など)のための有効な治療が現在なぜないのかを説明することができる理由の1つは、脳病態を治療するための薬物候補の開発者が、社内研究プログラム(脳創薬プログラム)を実行するが、BBB通過の問題、および、特に脳の、CNSの優先的ターゲッティング(脳薬物ターゲッティングプログラム)には、殆ど努力を注ぎ込んでいないことである(Pardridge, 2003,Mol. Interv., 3, 90-105)。薬物候補は、CNS病態または障害を治療するための薬物になる最高の機会を有するために一定の構造的、物理化学的、薬化学的および薬理学的規則に従わなければならない(Pajouhesh et al.,2005, NeuroRx, 2(4), 541-553)。したがって、薬物候補の開発の際、分子のそのターゲットに対する選択性および特異性(薬理学的プロファイリング)は、その治療活性(効力)に不可欠である。分子のバイオアベイラビリティーおよび潜在的毒性(製薬プロファイリング)は、薬物としてのその未来にとって重要である。言い換えると、CNS病態または障害を治療するための薬物になる可能性が高いいずれの分子も、BBBを横断して移動しなければならず、その生物活性を維持しなければならず、そして低い毒性(Tox)で、適する薬物動態(PK)特性、適する吸収・分布・代謝・排除(ADME)特性および適する薬力学(PD)特性を示さなければならない。実際、CNS治療分野の医化学者には開発中の分子の親水性/親油性バランスを見つけることが特に難しい。
【0007】
したがって、CNS障害および病態を治療する際の大きな問題は、投与する分子がBBBを通過せず、それ故、CNS内のそれらの1つまたは複数のターゲットに到達できないことである。BBBを構成する、CNSの血管および毛細血管の内皮細胞は、血液から神経組織へ移ることができない分子にとって障害物である。実際、上述のとおり、これらの内皮細胞およびそれらを取り囲む星状膠細胞終足は、傍細胞経路による一切の通行/輸送を制限/防止する内皮細胞間の密着結合の存在にとりわけ関係する物理的バリアを構成し、そしてこれらの細胞は経細胞経路による一切の通行/輸送を抑止する有効な排出システムを有するので、生理的障壁も構成する。したがって、これらの特性は、血漿から脳細胞外空間に向かっての物質の通行を強く制限する。
【0008】
実際、BBBを横断することができる一部の分子は、多剤耐性(MDR)輸送タンパク質により脳から血液系に向かって能動的に放出/排出される。これらの能動排出輸送(AET)系は、脳から血液系に向かっての小分子の能動排出を一般に制御する。BBBにおけるモデルAET系は、ATP結合カセット(ABC)輸送体、すなわちP−糖タンパク質(P−gp)であるが、他のAET系、例えばMDR関連タンパク質1(MRP1)がBBBには存在する。脳毛細血管内皮細胞の管腔表面に主として位置するP−gpは、大部分の生体異物の脳への侵入を防止するがCNSにおいて活性であることができる薬物候補および治療上対象の他の分子の脳への侵入も防止するBBBの生理的障壁の機能における必須要素である。
【0009】
したがって、脳障害または病態を治療、診断またはイメージングするための分子の開発における研究の優先事項の1つは、活性物質のBBBを横断する通行の有効性を増すための手段を見つけることである。
【0010】
この点に関して、治療上対象の分子がCNSに到達できるようにするために薬物候補の開発者によって現在研究されており、そして用いられている、BBBを横断する分子のベクター化のための戦略を、2つの主な戦略、つまり、薬理学的アプローチと、生理学的なアプローチとに分けることができる(
図1)、(Pardridge, 2007,Pharm. Res., 24(9), 1733-1744; DeBoer et al., 2007, Clin. Pharmacokinet., 46(7), 553-576; De Boer et al., 2007,Annu. Rev. Pharmacol. Toxicol., 47, 327-355; Jones et al., 2007, Pharm. Res.,24(9), 1759-1771)。
【0011】
侵襲的アプローチ
侵襲的アプローチは、活性物質の脳への直接脳室内注射、脳内注射もしくは髄腔内注射により、またはBBBの分解(BBBの完全性の一時的破壊)により遂行され得る。
【0012】
脳神経外科手順に関係する費用に加えて、脳室内注射による脳神経外科的アプローチの主な問題は、薬物が脳実質に直接送達されず、脳脊髄液に送達されることである。脳室内注入のためには、脳室内にカテーテルを留置する必要がある(Aird, 1984, Exp.Neurol., 86, 342-358)。この非常に侵襲的な技術は、脳実質における活性物質の輸送には有効でない。実際、脳は実質内体積流量を有さないので、脳室内注入による薬物送達中の脳脊髄液から脳実質への流量は、その対流の異常に遅い拡散(輸送)によって支配される。
【0013】
同様に、脳内注射については、脳内での活性物質の拡散が注射部位から病変部位までに非常に急速に減少する。実際、活性物質の脳内濃度は、その注射部位から500μmの距離で90%減少する。
【0014】
髄腔内注入のためには、カテーテルを脳内に留置する必要がある。このカテーテルは、活性物質を既定流速で送達するポンプに接続されている。脳は、細胞外液を全身循環に輸送する役割を通常果たすリンパ系を有さない唯一の器官であるという事実のため、脳内の髄腔内注入による活性物質の分布は非常に遅い。これが、病変部位での活性物質の濃度を低下させる。
【0015】
さらに、そのような脳神経外科手順の間の、特にカテーテルの存在による、感染のリスクは有意である。これらの条件下で患者の快適さは最適ではない。
【0016】
BBBの不透過性の一時的中断は、脳毛細血管内皮細胞の密着結合の一過性の解放を伴う。これは、ロイコトリエンまたはブラジキニンなどの血管作用物質についてそうである(Baba et al., 1991, J. Cereb. Blood Flow Metab., 11, 638-643)。この戦略は、同じく侵襲的であり、鎮静剤を飲ませた被験者/患者における頸動脈への動脈アクセスを必要とする。頸動脈へのアクセスのための放射線医学手順に関係する出費に加えて、BBBの完全性の一時的破壊により遭遇する主な問題は、BBBが解放したままであるのは短期間だけなので長期間に亘って薬物を送達する可能性が制限されることである。さらに、BBBの一時的破壊は、血漿タンパク質を脳に進入させ(ところがこれらのタンパク質は脳にとって毒性であり得る)、そして感染性物質の進入も助長し得る。したがって、BBBのこのタイプの破壊は、慢性神経病理学的破壊につながり、そして高い感染リスクを伴う(Salahuddin et al.,1988, Acta Neuropathol.,76, 1-10)。
【0017】
ベクター化への薬理学的アプローチ
分子を輸送するための薬理学的戦略は、活性物質に脂質または親油基を付加させることによってより疎水性にした分子の経細胞拡散(経細胞親油性拡散すなわちTLD)またはリポソームの使用(Zhou et al., 1992, J. Control. Release, 19, 459-486)、および正電荷を有するベクター分子によるイオン吸着による輸送または活性分子のカチオン化(吸着媒介輸送すなわちAMT)による輸送を含む。
【0018】
脂質または脂質基を付加させることにより、とりわけプロドラッグアプローチによる親水性分子のより疎水性の分子への化学的変換が可能となる。しかし、そのような化合物の合成は、BBBを横断するために最適な輸送閾値を超える、とりわけ分子量に関しては450ダルトンの至適限度より大きくなる、分子をもたらす(Pajouhesh et al.,2005, NeuroRx, 2(4), 541-553)。同じ理由で、リポソームは、または小さい小胞(ミセルなど)もしくはナノ粒子(ナノスフェア、ナノカプセル)でさえ、一般には大きすぎ、BBBに対して十分特異的でなく、そしてその結果、治療上対象の分子(またはイメージング用もしくは診断用の薬剤、または任意の他の分子、例えば分子プローブ)のBBBを横断する輸送に比較的効果がない(Levin, 1980, J. Med. Chem., 23, 682-684; Schackertet al., 1989, Selective Cancer Ther., 5, 73-79)。さらに、このタイプの小胞系は、一般的に、大脳において無視できない毒性を有している。したがって、脂質化技術によって遭遇する主な問題は、他の細胞膜と比較してBBBの特異的ターゲッティングおよび横断に関するそれらの低い特異性、薬物の曲線下面積(AUC)の血漿値の低下、ならびにそれらの使用が一般的には小分子のベクター化のために限られていることである。
【0019】
AMTアプローチ(共有結合を介したカチオン基の付加または薬物の直接的なカチオン化)の場合、遭遇する主な問題は、他の細胞膜と比較してBBBの特異的ターゲッティングおよび横断に関する低い特異性である。実際、AMTは、負に帯電した膜を有する細胞(殆どの細胞がそうである)へのカチオン性分子吸着に基づく。薬物のAUCの血漿値の低下、小分子のベクター化のためのそれらの一般的に限定される使用、およびそれらの細胞毒性は、AMTベクター化アプローチを不利にするさらなる要因である。
【0020】
ベクター化への生理的アプローチ
ベクター化への生理的アプローチに基づく戦略は、BBBの様々な自然輸送メカニズムの活用に存する。分子のBBBを横断する能動輸送のこれらのメカニズムは、特異的受容体基質とのカップリングにより、または特異的受容体基質との分子的擬態(担体媒介輸送すなわちCMT)によって、または受容体を特異的にターゲッティングするリガンドとのカップリングもしくは融合(受容体媒介輸送すなわちRMT)により作用する。
【0021】
一例として、L−DOPA(パーキンソン病)、メルファラン(脳の癌)、α−メチル−DOPA(動脈性高血圧)およびガバペンチン(癲癇)などの分子は、大型中性アミノ酸輸送体1および2(LAT1およびLAT2)を介したCMTによって脳へ移る(Pardridge, 2003,Mol. Interv., 3, 90-105)。これらの分子は、LAT1/2の天然基質の1つであるフェニルアラニンに近い化学構造を有する。しかし、CMTアプローチにより遭遇する主な問題は、内因性受容体/輸送体の基質を厳密に模倣する/擬態するコンジュゲートに対するそれらの広い選択性/特異性であり、そしてその結果として、それらの使用が小分子のベクター化に限定されたままであることである。
【0022】
RMTには、受容体依存性輸送系が求められる。ベクター化は、脳毛細血管内に存在する内因性受容体/輸送体をターゲッティングすることによるエンドサイトーシスのメカニズムによって遂行される。RMTに関与する様々なヒトBBB受容体の注目に値する例は、トランスフェリン受容体(TfR);インスリン受容体(IR);LDL受容体(LDLR)および低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質(LRP)ファミリーのメンバーをはじめとする、コレステロール輸送を可能にする低密度リポタンパク質(LDL)受容体;もしくはインスリン様成長因子受容体(IGFR);ジフテリア毒素受容体(DTR);またはヘパリン結合上皮成長因子様成長因子(HB−EGF);ならびにスカベンジャー受容体クラスBタイプI(SR−BI)を含むスカベンジャー受容体(SCAV−R)を含む。RMTの場合、BBB内皮細胞の膜上の受容体は、それらのリガンドに結合し、これにより、受容体/輸送体とそのリガンドとから成る複合体は、細胞表面で形成してBBB内皮細胞を透過する小胞体内にエンドサイトーシスされる。前記リガンド/受容体複合体は、内皮細胞を通過すること(トランスサイトーシス)ができ、そしてそれ故、その結果として、BBBを横断して神経組織において作用することができる。このRMTプロセスは、エンドサイトーシスに関与する分子のサイズに依存しない。したがって、RMTは、インスリン、鉄輸送タンパク質、コレステロール、様々なペプチド誘導体およびタンパク質などの分子の血液から脳への輸送を可能にするメカニズムである。例えば、トランスフェリンをBBB上に存在するTfRのリガンドベクターとして使用し(Jefferies et al., 1984, Nature, 312, 162-163; Fridenet al., 1983, Science, 259, 373-377; Friden, 1994,Neurosurgery, 35, 294-298)、そして輸送すべき分子(活性物質)をトランスフェリン(リガンドベクター)とカップリングさせる。高分子を使用するこのベクター化戦略は、対象のコンジュゲート分子のBBBを横断する通行を増すことができるが、いくつかの不利な点を有する。第一に、一般に、前記分子を遺伝子発現法(融合)によって前記ベクターにカップリングさせるので、輸送される分子の数をポリペプチドまたはタンパク質のみに限定する。第二に、前記分子と前記ベクターとをカップリングさせるための系は、相当複雑である;従来の化学的または生化学的カップリングは、構造的および分子的観点から明確に定義された高分子系を生じさせない。また、標的受容体についてのコンジュゲートと内因性リガンドとの間の潜在的競合は、RMTの生理学的プロセスの阻害、または、脳の正常な働きに必要な内因性リガンドの濃度の低下につながる可能性がある。RMT受容体は、大脳における細胞シグナル伝達過程に関与しており、コンジュゲートは、この伝達過程を潜在的に阻害するであろう。
【0023】
国際公開第2010/046588号に、ヒトLDLRに結合し、重さおよび/または体積が大きいこともある物質をBBBを横断させて運ぶことのできるペプチドまたは疑似ペプチドが初めて記載されている。
【0024】
本願は、分子の輸送のために最適化された、ヒトLDLRに結合する新しいペプチドに関する。
【発明を実施するための形態】
【0050】
本発明は、ヒトLDLRを結合することができるペプチド誘導体および製薬分野におけるそれらの使用、とりわけ、治療上または診断上対象の分子を、BBB細胞内で、輸送するための使用に関する。
【0051】
ヒトLDLRは、3つの領域、つまり、細胞外領域(1−768)と、膜貫通領域(768−790)と、細胞質領域(790−839)とを含む839アミノ酸の膜貫通型タンパク質である。前記細胞外領域は、2つの小領域、つまり、LDL結合領域(1−322)およびLDL結合領域外の領域(322−768)に分けられる(国際公開第2007/014992号を参照)。
【0052】
脳は、正しく機能するためにLDLを大いに必要とする。LDLRの天然リガンドは、LDLであり、より詳細には、LDL粒子のアポリポタンパク質B(ApoB)およびアポリポタンパク質E(ApoE)成分であり、したがって、前記粒子は、これらの粒子内に含有されるコレステロールの細胞膜を横断する、より詳細にはBBBを横断する輸送を可能にする。
【0053】
例えば、LDLRが、リポソームとの融合を防止する特定のエンドソーム小胞において、RMTプロセスにより、BBBを横断するLDL粒子のトランスサイトーシスを可能にするということが分かっている(Dehouck et al.,1997, J. Cell Biol., 138(4), 877-889)。トランスサイトーシスによってBBBを横断したこれらのリポタンパク質は、その後、ニューロンおよび/または星状膠細胞によって取り込まれる(Spencer et al., 2007, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 104(18), 7594-7599)。この特性は、全アポリポタンパク質(LDL成分)とコンジュゲートしているナノ粒子により治療上対象の分子をベクター化するために用いられた(Kreuter et al.,2007, J. Control. Release, 118, 54-58)。しかし、この研究において、全アポリポタンパク質は、使用されたが、LDL粒子構造を擬態するためにナノ粒子にカップリングさせた形態で使用された。
【0054】
国際公開第2010/046588号には、ヒトLDLRを結合し、重さおよび/または体積が大きいこともある物質をBBBを横断して運ぶことのできるペプチドまたは疑似ペプチドが初めて記載されている。
【0055】
本願は、分子の輸送のために最適化された、ヒトLDLRを結合する新しいペプチドに関する。ペプチドまたは疑似ペプチドベクターは、容易に化学合成することができ、そして治療上対象の殆どの分子またはイメージング用もしくは診断用の薬剤と前記ペプチドまたは擬似ペプチドとを、スペーサーを介してのプロドラッグ戦略(リンカーを介した合成)により、またはこれら2つの実体間の直接カップリング(タンデムでの合成)により、簡単におよび有効にカップリングさせることができる(
図2)。本発明のペプチドおよび擬似ペプチドを、環状構造をとるように、したがって、タンパク質分解に対してより耐性があるように設計する。さらに、本発明のペプチドおよび擬似ペプチドは、天然リガンドと競合することなくLDLRを結合する。
【0056】
本発明のペプチドまたは擬似ペプチドを、神経性病態ならびに脳または他の組織の感染性または癌性病態の治療、イメージングおよび/または診断の際に、治療上対象の分子のための、またはイメージング用もしくは診断用の薬剤のための、または分子プローブなどの任意の他の分子のためのベクターとして使用することができる。
【0057】
本発明において説明するペプチドまたは擬似ペプチドは、細胞受容体/輸送体および特定の細胞型をターゲッティングする能力、ならびに/または、細胞膜、とりわけ脳の生理的障壁の膜、より詳細にはBBBもしくは血液網膜関門(BRB)を横断する能力を有する。
【0058】
本発明において説明するペプチドまたは擬似ペプチドは、細胞受容体/輸送体および特定の細胞型、とりわけ癌細胞、神経もしくは非神経組織をターゲッティングする能力、ならびに/または、細胞膜、とりわけCNSの生理的障壁の膜、より詳細には神経組織腫瘍の血液腫瘍関門(BTB)を横断する能力を有する。
【0059】
本発明において説明するペプチドまたは擬似ペプチドは、より詳細には感染性脳病変または細菌、ウイルス、寄生虫もしくは真菌性の他の病変を治療するために、細胞受容体/輸送体および特定の細胞型をターゲッティングする能力、ならびに/または、細胞膜、とりわけCNSの生理的障壁の膜を横断する能力を有する。
【0060】
本発明において説明するペプチドまたは擬似ペプチドは、細胞膜のネズミまたはヒトLDLRに結合する能力、および、この受容体を介してトランスサイトーシスによって前述の膜を横断する能力を有する。
【0061】
本発明において説明するペプチドまたは擬似ペプチドは、ネズミおよびヒトの脳の生理的障壁の細胞膜の表面でLDLRに結合する能力、および、該LDLRを介してRMTによって前述の生理的障壁を横断する能力を有する。
【0062】
したがって、本発明の一目的は、以下の一般式(I)であることにより特徴付けられるペプチドまたは疑似ペプチドに関する。
【0063】
A1−Met−A2−Arg−Leu−Arg−A3−Cys (I)
ただし、
−A1は、システイン、またはその類似体、またはその同配体を表し、
−A2は、プロリン、またはその類似体、またはその同配体を表し、
−A3は、グリシン、またはその類似体、またはその同配体を表す。
【0064】
より具体的には、グループA1は、DもしくはL立体配置のシステイン(Cys、C)から選択される残基、または、2−アミノ−3−メルカプトプロパン酸およびそのS−置換誘導体、S−アセチルシステインもしくは2−アミノ−3−(アセチルチオ)プロパン酸、セレノシステイン(Sec、U)もしくは2−アミノ−3−(セレノ)プロパン酸、システイノール、3−メルカプトプロパン酸(Mpa)、もしくはLもしくはD立体配置のペニシラミン(Pen)から選択されるその誘導体である。
【0065】
グループA2は、より優先的には、プロリン(Pro、P)またはピロリジン−2−カルボキシル酸、ホモプロリンまたは2−(2−ピロリジニル)エタン酸、3−ヒドロキシプロリン(3Hyp)、4−ヒドロキシプロリン(4Hyp)、3−メチルプロリン、3,4−デヒドロプロリン、3,4−メタノプロリン、4−アミノプロリン、4−オキソプロリン、チオプロリンまたはチアゾリジン−4−カルボキシル酸(Thz)、2−オキソチアゾリジン−4−カルボキシル酸、インドリン−2−カルボキシル酸(Idc)、ピペコリン酸(Pip)またはピペリジン−2−カルボキシル酸、ニペコ酸(Nip)またはピペリジン−3−カルボキシル酸、4−オキソピペコリン酸、4−ヒドロキシピペコリン酸、アミノ−1−シクロヘキサンカルボン酸、プロリノールから選択される残基である。
【0066】
好ましい実施形態において、グループA2は、プロリン、ピペコリン酸(Pip)、またはチアゾリジン−4−カルボキシル酸(Thz)から選択される。
【0067】
グループA3は、より優先的には、グリシン(Gly、G)もしくは2−アミノエタン酸、サルコシン(Sar)もしくはN−メチルグリシン(MeGly)、N−エチルグリシン(EtGly)、アリルグリシン(allylGly)もしくは2−アミノペント−4−エン酸、2−シクロペンチルグリシン(Cpg)、2−シクロヘキシルグリシン(Chg)、2,2−ジプロピルグリシン(Dpg)、2−(3−インドリル)グリシン(IndGly)、2−インダニルグリシン(Igl)、2−ネオペンチルグリシン(NptGly)、2−オクチルグリシン(OctGly)、2−プロパルギルグリシン(Pra)もしくは2−アミノペント−4−イン酸、2−フェニルグリシン(Phg)、2−(4−クロロフェニル)グリシン、アザグリシン(AzGly)、または、グリシノールもしくは2−アミノエタノールから選択される残基である。
【0068】
好ましい実施形態において、グループA3は、グリシンおよびサルコシンから選択される。
【0069】
式(I)のペプチドまたは疑似ペプチドのうち、特に好ましいのは、グループ3Aがグリシンであるペプチドである。したがって、本発明の特定の目的は、以下の式(I’)のペプチドに関する。
【0070】
A1−Met−A2−Arg−Leu−Arg−Gly−Cys (I’)
ただし、A1は、システイン、またはその類似体、またはその同配体を表し、好ましくは、A1は、Cys、(D)−cys、Pen、または(D)−Penを表し;A2は、プロリン類似体を表し、好ましくは、A2は、PipまたはThzを表している。
【0071】
本発明のペプチドの特定の例を以下に示す。
【0072】
配列番号1、(D)−cys−Met−Pip−Arg−Leu−Arg−Gly−Cys;
配列番号2、(D)−pen−Met−Pip−Arg−Leu−Arg−Gly−Cys;
配列番号3、Pen−Met−Pip−Arg−Leu−Arg−Gly−Cys;
配列番号4、(D)−cys−Met−Thz−Arg−Leu−Arg−Gly−Cys;
配列番号5、(D)−pen−Met−Thz−Arg−Leu−Arg−Gly−Cys;
配列番号6、Pen−Met−Thz−Arg−Leu−Arg−Gly−Cys;
配列番号7、(D)−cys−Met−Thz−Arg−Leu−Arg−Sar−Cys;
配列番号8、(D)−pen−Met−Thz−Arg−Leu−Arg−Sar−Cys;
配列番号9、Pen−Met−Thz−Arg−Leu−Arg−Sar−Cys;
配列番号10、(D)−cys−Met−Pro−Arg−Leu−Arg−(D)−ala−Cys。
【0073】
出願者が得た結果は、本発明のペプチドはLDLRに対する親和性が向上している、ということを示している。したがって、基準ペプチド配列番号17と比較して、テストした式(I)の全てのペプチドは、表1において分かるように、向上した親和性を示す(実施例III)。これらの結果は、配列中の他の残基の修飾、例えば、アルギニン残基の置換などは、親和性の実質的な低下につながるので、いっそう顕著である(基準ペプチド配列番号11−16を参照)。
【0074】
配列番号11、(D)−Cys−Met−Pro−hArg−Leu−Arg−Gly−Cys;
配列番号12、(D)−Cys−Met−Pro−Agb−Leu−Arg−Gly−Cys;
配列番号13、(D)−Cys−Met−Pro−Agp−Leu−Arg−Gly−Cys;
配列番号14、(D)−Cys−Met−Pro−Cit−Leu−Arg−Gly−Cys;
配列番号15、(D)−Cys−Met−Pro−Arg−Leu−Cit−Gly−Cys;
配列番号16、(D)−Cys−Met−Pro−Arg−Leu−Arg(NO2)−Gly−Cys;
配列番号17、(D)−Cys−Met−Pro−Arg−Leu−Arg−Gly−Cys。
【0075】
これらの結果は、同様に、ペプチドの産業上の利用において付加的利点となる、ペプチドのサイズが小さい(上記ペプチドは、8個のアミノ酸を含んでいる)ということを考慮すると特に顕著である。
【0076】
上に示したように、本発明の環状ペプチドまたは擬似ペプチドは、ペプチド、非ペプチドおよび/または修飾ペプチド結合を含む場合がある。好ましい実施形態において、前記ペプチドまたは擬似ペプチドは、メチレン(−CH
2−)またはホスファート(−PO
2−)基、二級アミン(−NH−)または酸素(−O−)、アルファ−アザペプチド、アルファ−アルキルペプチド、N−アルキルペプチド、ホスホンアミダート、デプシペプチド、ヒドロキシメチレン、ヒドロキシエチレン、ジヒドロキシエチレン、ヒドロキシエチルアミン、レトロインベルソペプチド、メチレンオキシ、セトメチレン、エステル、ホスフィナート、ホスフィン酸、ホスホンアミドおよびカルバ類似体のインターカレーションの中から好ましくは選択される少なくとも1つのペプチド様結合を含む。
【0077】
さらに、特定の実施形態において、本発明のペプチドまたは擬似ペプチドは、例えばアシル化またはアミド化またはエステル化によってそれぞれ保護された、N−末端および/またはC−末端の官能基を含む。
【0078】
本発明のペプチドまたは擬似ペプチドは、当業者に公知の任意の技術(化学的、生物学的、または遺伝子的な合成など)によって合成することができる。それらをそのまま保存することができ、または対象の物質もしくは任意の許容される賦形剤の存在下で調合することができる。
【0079】
化学合成については、天然ならびに非天然アミノ酸、例えば、それらの天然ホモログ(いわゆる外来の、すなわちコードされていないアミノ酸)とは疎水性および立体的障害が異なる側鎖を有するDエナンチオマーおよび残基、または、特にメチレン(−CH
2−)基もしくはホスファート(−PO
2−)基、二級アミン(−NH−)または酸素(−O−)またはN−アルキルペプチドのインターカレーションを含み得る1つ以上のペプチド様結合を含有するペプチド配列を取り込むことができる市販の装置を使用する。
【0080】
本発明のペプチドまたは擬似ペプチドを、脂質膜、例えば1つ以上の脂質層もしくは二重層から成るリポソームの脂質膜、または、ナノ粒子の脂質膜の中に取り込むことができるように、合成中に、例えば、脂質(もしくはリン脂質)誘導体、または、リポソームもしくはナノ粒子の成分を、N−末端もしくはC−末端の位置に、または側鎖上に置くなどの様々な化学的修飾を導入することが可能である。
【0081】
本発明のペプチドまたはそのタンパク質部分を、それらをコードする核酸配列から得ることもできる。本発明は、上記で定義したようなペプチドをコードする核酸配列を含む、または該核酸配列によって構成される、酸分子にも関する。より詳細には、本発明は、一般式(I)のペプチドをコードする少なくとも1つの配列を含む核酸分子に関する。これらの核酸配列は、DNAまたはRNAであることもあり、これらの核酸配列を、対照配列と組み合わせる、および/または、生物学的発現ベクターに挿入することができる。
【0082】
使用する生物学的発現ベクターは、それを移入する宿主に応じて選択する。それは、例えば、プラスミド、コスミド、ウイルスなどであり得る。本発明は、特に、これらの核酸と、本発明のペプチド、またはそのタンパク質部分を宿主細胞において産生するために使用することができる生物学的発現ベクターとに関する。当業者に周知の分子生物学および遺伝子工学技術によって、これらの生物学的発現ベクターを作製し、そして前記ペプチドを宿主において産生するまたは発現させることができる。
【0083】
本発明の他の目的は、治療上対象の分子、またはイメージング用もしくは診断用の薬剤、または任意の他の分子の移入/輸送のためのベクターとしての、上記で定義したような環状ペプチドまたは擬似ペプチドの使用に関する。
【0084】
本発明は、BBBを横断することができる薬物を調製するための、上記で定義したような環状ペプチドまたは擬似ペプチドの使用にも関する。
【0085】
本発明は、分子のBBBを横断する通行を可能にするまたは増進するための方法であって、本発明のペプチドまたは擬似ペプチドに前記分子をカップリングさせることを含む方法にも関する。
【0086】
したがって、本発明は、特に、下記の式(II)のコンジュゲート化合物に関する。
【0087】
VxDy (II)
ただし、Vは、本発明のペプチドまたは擬似ペプチドを表し、Dは、活性物質または対象の物質を表し、xおよびyは、1〜5の整数である。特定の実施形態において、xおよびyは1に等しい、または、xはyよりも大きい、または、yはxよりも大きい。
【0088】
本発明は、下記の式(III)のコンジュゲート化合物にも関する。
【0089】
VxLzDy (III)
ただし、Vは、本発明のペプチドまたは擬似ペプチドを表し、Lは、スペーサーを表し、Dは、活性物質または対象の物質を表し、xおよびyは、1〜5の整数であり、zは、1〜10の整数である。特定の実施形態において、x=z=y=1、またはx=z>y、またはy=z>x、またはz>x>yである。
【0090】
前記活性物質または対象の物質は、製薬上、とりわけ治療上対象の任意の分子、診断用もしくは医療イメージング用の薬剤、または分子プローブである場合がある。詳細には、それは、生物学上対象の任意の化学的実体、例えば小化学分子(抗生物質、抗ウイルス薬、免疫修飾物質、抗腫瘍薬、抗炎症薬など)、ペプチドまたはポリペプチド、タンパク質(酵素、ホルモン、サイトカイン、アポリポタンパク質、成長因子、抗原、抗体または抗体の一部)、核酸(サイズが、単一オリゴヌクレオチドのサイズからゲノムまたはゲノムフラグメントのサイズに亘り得る、ヒト、ウイルス、動物、真核生物もしくは原核生物、植物または合成起源などのリボ核酸またはデオキシリボ核酸)、ウイルスゲノムもしくはプラスミド、リボザイム、マーカーまたはトレーサーであり得る。一般に、「対象の物質」は、化学的化合物であろうと、生化学的化合物であろうと、天然化合物であろうと、または合成化合物であろうと、任意の医薬品有効成分であればよい。「小化学分子」という表現は、分子量が最大で1000ダルトンの、典型的には300ダルトンを上回り700ダルトン未満の製薬上対象の分子を示す。
【0091】
本発明は、下記の式(IV)の化合物にも関する。
【0092】
VxLz (IV)
ただし、Vは、本発明のペプチドまたは擬似ペプチドを表し、Lは、スペーサーを表し、xは、1〜5の整数であり、zは、1〜10の整数である。特定の実施形態において、x=z=1またはz>xである。
【0093】
本発明のコンジュゲート化合物において、VとDとの間の、または一方でVとLとの間、および他方でLとDとの間のカップリングは、会合させる活性物質およびペプチドまたは擬似ペプチドの化学的性質、障害および数を考慮に入れて任意の許容される結合手段により行うことができる。したがって、生理的媒体中でまたは細胞内で開裂可能なまたは開裂不能な1つ以上の共有結合、イオン結合、水素結合、疎水結合、またはファン・デル・ワールス結合によってカップリングを行うことができる。さらに、DをVと、必要な場合にはLを介して、様々な反応基において、とりわけVの1つ以上のN−末端および/もしくはC−末端において、ならびに/またはVを構成する天然もしくは非天然アミノ酸側鎖によって担持されている1つ以上の反応基において、カップリングさせることができる。
【0094】
−OH、−SH、−CO
2H、−NH
2、−SO
3Hまたは−PO
2Hなどの官能基が自然に存在するまたは導入された、前記ペプチドまたは擬似ペプチドの任意の部位で、カップリングを行うことができる。したがって、対象の治療用分子、または診断用(もしくは医療イメージング用)の薬物、または任意の他の分子、例えば分子プローブを、ペプチドまたは擬似ペプチドベクターに、そのN−末端もしくはC−末端、またはこのペプチド配列の天然もしくは非天然アミノ酸側鎖により担持されている反応基のどちらかにおいて、共有結合により連結させる(カップリングさせる)ことができる。
【0095】
同様に、例えば−OH、−SH、−CO
2H、−NH
2、−SO
3Hまたは−PO
2Hなどの官能基が自然に存在するまたは導入された、活性物質または対象の物質(治療上対象の分子、診断用または医療イメージングの薬物、任意の他の分子、例えば分子プローブ)の任意の部位で、カップリングを行うことができる。
【0096】
前記相互作用は、前記ペプチドが、その作用部位に到達してしまう前に活性物質から解離されないために十分に強いことが好ましい。この理由のため、本発明の好ましいカップリングは共有結合性カップリングであるが、とはいえ非共有結合性カップリングを用いてもよい。対象の物質を、前記ペプチドと、これらの末端の一方(N−末端もしくはC−末端)において、またはその配列の構成的アミノ酸の1つについての側鎖において、直接カップリングさせること(タンデムでの合成)ができる(Majumdar and Siahaan, Med Res Rev., Epub aheadof print)。対象の物質を、前記ペプチドの末端の一方で、またはその配列の構成的アミノ酸の1つについての側鎖で、リンカーまたはスペーサーにより間接的にカップリングさせることもできる(
図2)。スペーサーを要するまたは要さない、共有結合性化学的カップリングの手段は、エステル、アルデヒドまたはアルキルもしくはアリール酸によるアルキル、アリールまたはペプチド基、無水物、スルフヒドリルまたはカルボキシル基、臭化もしくは塩化シアン、カルボニルジイミダゾール、スクシンイミドエステルまたはスルホン酸ハリドから誘導される基を含有する二または多官能性薬剤から選択されるものを含む。
【0097】
この点に関して、本発明は、ペプチドまたは擬似ペプチドVと物質Dとの間の、必要な場合にはLを介しての、好ましくは化学的、生化学的もしくは酵素的経路によるまたは遺伝子工学による、カップリングの段階を含むことを特徴とする、上記で定義したようなコンジュゲート化合物を調製するための方法にも関する。
【0098】
本発明は、上記で定義したような少なくとも1つのコンジュゲート化合物と、1つ以上の医薬的に許容される賦形剤とを含むことを特徴とする医薬組成物にも関する。
【0099】
本発明は、上記で定義したようなコンジュゲート化合物から成る診断用または医療イメージング用の薬物を含むことを特徴とする、診断用組成物にも関する。
【0100】
前記コンジュゲートを任意の医薬的に許容される塩の形態で使用することができる。「医薬的に許容される塩」という表現は、例えばおよび非限定的に、医薬的に許容される塩基または酸付加塩、水和物、エステル、溶媒和物、前駆体、代謝産物または立体異性体、対象の少なくとも1つの物質が負荷された前記ベクターまたはコンジュゲートを指す。
【0101】
「医薬的に許容される塩」という表現は、遊離塩基と適する有機または無機酸とを反応させることによって一般に調製することができる非毒性塩を指す。これらの塩は、遊離塩基の生物学的効力および特性を保持する。そのような塩の代表的な例は、水溶性および水不溶性塩、例えば、酢酸塩、N−メチルグルカミンアンモニウム、アムソナート(4,4−ジアミノスチルベン−2,2’−ジスルホン酸塩)、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重炭酸塩、重硫酸塩、重酒石酸塩、ホウ酸塩、臭化水素酸塩、ブロミド、酪酸塩、カンシラート、炭酸塩、塩酸塩、クロリド、クエン酸塩、クラブラン酸塩、ジクロルヒドラート、二リン酸塩、エデト酸塩、エデト酸カルシウム、エジシラート、エストラート、エシラート、フマル酸塩、グルセプト酸塩、グルコン酸塩、グルタミン酸塩、グリコリルアルサニル酸塩、ヘキサフルオロリン酸塩、ヘキシルレゾルシン酸塩、ヒドラバミン、ヒドロキシナフトエ酸塩、ヨージド、イソチオン酸塩、乳酸塩、ラクトビオン酸塩、ラウリン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マンデル酸塩、メシラート、メチルブロミド、メチル硝酸塩、メチル硫酸塩、ムカート、ナプシル酸塩、硝酸塩、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸塩、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモ酸塩(1,1−メチレン−ビス−2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸塩、またはエンボン酸塩)、パントテン酸塩、リン酸塩、ピクリン酸塩、ポリガラクツロン酸塩、プロピオン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、塩基性酢酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、スルホサリチル酸塩、スラマート、タンニン酸塩、酒石酸塩、テオクル酸塩、トシラート、トリエチオジド、トリフルオロ酢酸塩および吉草酸塩を含む。
【0102】
本発明の組成物は、有利には、医薬的に許容されるベクターまたは賦形剤を含む。前記医薬的に許容されるベクターは、それぞれの投与方式に従って伝統的に用いられているベクターから選択することができる。考えられる投与方式に従って、前記化合物は、固体形態である場合もあり、半固体形態である場合もあり、または液体形態である場合もある。固体組成物、例えば錠剤、ピル、纏まっていないまたはゼラチンカプセル内に含められた粉末または顆粒については、活性物質を、a)希釈剤、例えば、ラクトース、デキストロース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、セルロースおよび/もしくはグリシン;b)滑沢剤、例えば、シリカ、タルク、ステアリン酸、そのマグネシウムもしくはカルシウム塩および/もしくはポリエチレングリコール;c)結合剤、例えば、ケイ酸マグネシウムおよびケイ酸アルミニウム、デンプンペースト、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよび/もしくはポリビニルピロリドン;d)崩壊剤、例えば、デンプン、寒天、アルギン酸もしくはそのナトリウム塩、もしくは発泡性混合物;ならびに/または、e)吸着剤、色素、着香剤および甘味料と併せることができる。賦形剤は、例えば、マンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルク、セルロース、グルコース、スクロース、炭酸マグネシウムおよび医薬品質の類似体であり得る。坐剤などの半固体組成物については、賦形剤は、例えば、エマルジョンもしくは油性懸濁液、またはポリアルキレングリコール、例えばポリプロピレングリコールに基づくものであり得る。液体組成物、特に、注射剤またはソフトカプセルの中に含めるものは、例えば、水、生理食塩水、デキストロース水溶液、グリセロール、エタノール、油およびそれらの類似体などの医薬的に純粋な溶媒への活性物質の溶解、分散などによって調製することができる。
【0103】
本発明の組成物またはコンジュゲートを、任意の適する経路によって投与することができ、例えば皮下、静脈内または筋肉内の経路を介して注射することができる製剤の形態などで非経口経路によって;例えばコーティング錠もしくは素錠、ゼラチンカプセル、粉末、ペレット、懸濁液または経口溶液の形態(1つのそのような経口投与形態は、即時放出を伴う場合もあり、または長期もしくは遅延放出を伴う場合もある)などで経口経路(またはper os)によって;例えば坐剤の形態などで直腸内経路によって;例えばパッチ、ポマードまたはゲルの形態などで局所経路によって、特に経皮経路によって;例えばエアロゾルおよびスプレー形態などで鼻腔内経路によって;経舌経路によって;または、眼内経路によって投与することができるがこれら経路に限らない。
【0104】
前記医薬組成物は、典型的には、有効量の本発明のペプチドまたは擬似ペプチドまたはコンジュゲートを含む。本明細書に記載する場合の「治療有効量」は、所与の条件および投与スケジュールについての治療効果をもたらす用量を指す。典型的には、それは、疾病または病的状態に随伴する症状の一部を明らかに改善するために投与する、活性物質の平均用量である。例えば、脳のまたは他の組織の癌、CNSの病態、病変または障害を治療する際、前記疾患または障害の原因または症状の1つを減少させる、予防する、遅延させる、排除するまたは停止させる活性物質の用量は、治療に有効であるだろう。
【0105】
活性物質の「治療有効量」は、必ずしも疾患または障害を治癒するとは限らないが、この疾患または障害の発現が遅延される、妨げられるもしくは予防される、またはその症状が減弱される、またはその期間が変更されるもしくは例えばあまり重症でなくなる、または患者の回復が加速されるようにこの疾患または障害への治療を行うであろう。
【0106】
人に対する「治療有効量」が、特に、活性物質の活性/効力、その投与回数、その投与経路、その排泄および代謝率、薬の組み合わせ/相互作用、ならびに予防または治癒ベースで治療する疾患(または障害)の重症度、ならびに患者の年齢、体重、総合的健康状態、性別および/または食事を含む様々な要因に依存することとなる、ということは分かっている。
【0107】
カップリングさせる物質に依存して、本発明のコンジュゲートおよび組成物を、非常に多数の病態、とりわけ、CNSを罹患させる病態、感染性病態または癌の治療、予防、診断またはイメージングに使用することができる。
【0108】
この点に関して、本発明は、CNS病態または障害、脳腫瘍または他の癌細胞、および脳または他の組織の細菌、ウイルス、寄生虫または真菌による感染性病態を治療または予防するための、上述のような医薬コンジュゲートまたは組成物の使用に関する。
【0109】
本発明は、CNS病態または障害、脳腫瘍または他の癌細胞、および脳または他の組織の細菌、ウイルス、寄生虫または真菌による感染性病態を診断またはイメージングするための、上述のような医薬コンジュゲートまたは組成物の使用にも関する。
【0110】
本発明は、脳腫瘍または他のタイプの癌細胞を治療、イメージングおよび/または診断するための、上記で定義したようなコンジュゲートまたは組成物の使用にも関する。実際、研究により、特定の癌を有する患者は、低コレステロール血症を有することが示された。この低コレステロール血症は、癌細胞によるコレステロールの過剰使用の結果である。残存する癌細胞は、腫瘍を有する器官内でのLDLR発現レベルの増加を誘導する(Henricksson etal., 1989, Lancet, 2(8673), 1178-1180)。したがって、細胞によるLDLR発現レベルの増加と特定の癌との間には相関関係が存在する。LDLR数が癌細胞などの特定の病的細胞の表面に非常に多いことも、最近証明された。1,000から3,000のLDLRが非病的細胞の表面に存在することは、一般に認められている。同様に、非病的ニューロンは、ほんの少数のLDLRしか有さない(Pitas et al., 1987, J. Biol. Chem., 262, 14352-14360)。膠芽細胞腫の症例において、LDLR過発現が証明された。例えば、脳腫瘍細胞の表面で、125,000(U−251細胞について)から900,000(SF−767細胞について)のLDLRがカウントされた(Malentiska et al.,2000, Cancer Res., 60, 2300-2303; Nikanjam et al.,2007, Int. J. Pharm., 328, 86-94)。多くの腫瘍細胞、例えば、前立腺癌(Chenet al., 2001, Int. J. Cancer, 91, 41-45)、大腸癌(Niendorf et al., 1995, Int. J.Cancer, 61, 461-464)、白血病(Tatidis et al., 2002, Biochem. Pharmacol., 63, 2169-2180)、結腸直腸癌(Carusoet al., 2001, Anticancer Res., 21, 429-433)、乳癌(Graziani et al., 2002, Gynecol. Oncol., 85, 493-497)、ならびに肝臓、膵臓、卵巣、肺および胃などの癌の腫瘍細胞が、LDLRを過発現することにも留意しなければならない。
【0111】
本発明は、脳または他の組織の細菌、ウイルス、寄生虫または真菌による、例えばAIDSまたは髄膜炎などであるがこれらに限定はされない感染性病態を治療、イメージングおよび/または診断するための、上記で定義したようなコンジュゲートまたは組成物の使用にも関する。LDLRは、肝臓細胞上にも存在する。C型肝炎ウイルス(HCV)のエンドサイトーシスがLDLRにより発生し得る、ということは今では公知である。LDLRは、HCVによるヒト肝細胞の感染の早期にウイルス受容体としての役割を果たす(Molina et al., 2007, J. Hepatol., 46(3),411-419)。したがって、本発明のコンジュゲートは、LDLRを発現するウイルス、例えばB型肝炎およびC型肝炎ウイルスによって感染された病的細胞を特異的にターゲッティングするために、ならびに/または正常細胞のウイルス感染プロセスをLDLRにより調節するために、使用することができる。
【0112】
本発明は、例えばアルツハイマー病、パーキンソン病、クロイツフェルト・ヤコブ病、卒中/脳血管障害(CVA)、牛海綿状脳症、多発性硬化症、筋委縮性側索硬化症などであるがこれらに限定はされない神経変性病態を、治療、イメージングおよび/または診断するための、上記で定義したようなコンジュゲートまたは組成物の使用にも関する。
【0113】
本発明は、例えば癲癇、偏頭痛、脳炎、CNS疼痛などであるがこれらに限定はされない神経性病態を、治療、イメージングおよび/または診断するための、上記で定義したようなコンジュゲートまたは組成物の使用にも関する。
【0114】
本発明は、例えばうつ病、自閉症、不安、統合失調症などであるがこれらに限定はされない神経精神性病態を、治療、イメージングおよび/または診断するための、上記で定義したようなコンジュゲートまたは組成物の使用にも関する。
【0115】
「治療」、「治療すること」、「治療する」という用語、および他の同様の表現は、薬理および/もしくは生理的効果、例えば癌細胞成長の阻害、癌細胞死、または疾患もしくは神経障害の改善を得ることを指す。この効果は、病人における、疾患もしくはそのような疾患の症状の悪化もしくは健常被験者におけるその伝播を完全にもしくはある程度予防するために予防的効果もしくは予防効果である場合もあり、ならびに/または、疾患および/もしくはその関連有害作用を完全にもしくはある程度治療するために治療的効果である場合もある。本書類において用いる場合の用語「治療」は、哺乳動物における、より詳細には人間における疾患の任意の治療を包含し、(a)疾患の予防(例えば、癌の予防)、もしくは、この病態もしくは障害の素因を有するが陽性診断をまだ受けていない人において生じ得る状態の予防、(b)疾患の(例えば、その進行を止めることによる)遅速、または(c)疾患からの(例えば、疾患に随伴する症状を低減させることによる)寛解を含む。「治療」という用語は、その必要がある人への本書類に記載するようなベクターまたはコンジュゲートから成る薬物の投与を含む(しかし、これに限定されない)、個体または患者における状態を介護、治癒、寛解、改善、減少または抑制するための活性物質の任意の投与も包含する。
【0116】
本発明は、本発明のペプチドまたは擬似ペプチドの、それをカップリングさせる活性物質または対象の物質(対象の治療用分子、診断用もしくは医療イメージング用の薬剤、または任意の他の分子、例えば分子プローブ)の生物活性を増加させるための、使用にも関する。
【0117】
本発明は、本発明のペプチドまたは擬似ペプチドの、それをカップリングさせる活性物質または対象の物質(対象の治療用分子、診断用もしくは医療イメージング用の薬剤、または任意の他の分子、例えば分子プローブ)の毒性を減少させるための、使用にも関する。
【0118】
本発明の他の態様および利点は、下記実施例を考慮することにより明らかになるだろう。下記実施例は、本質的に例証的なものでしかなく、本出願の範囲を限定しない。
【0119】
実施例
実施例I
ヒトおよびネズミLDLRを安定して発現するCHO細胞系統の構造
発明者らは、ペプチドを、とりわけコレステロールのエンドサイトーシスおよびトランスサイトーシス(経細胞輸送、とりわけBBBを横断して)に関与するヒトおよびネズミ低密度リポタンパク質受容体(hLDLRおよびmLDLR)とのそれらの相互作用と、該受容体に対するそれらの親和性とに基づいて、同定した。これらのペプチドの特性づけの前提条件は、hLDLRおよびmLDLRを構成的におよび高率で発現する安定な細胞系統の真核細胞(チャイニーズハムスター卵巣細胞、CHO)における樹立であった。これらの細胞系統を、I)細胞表面で発現されるhLDLRに結合する、その天然構造での、ペプチドの特性づけのために;II)hLDLRおよびmLDLRが選択ペプチドをエンドサイトーシスにより内在化できることを検証するために、使用する。
【0120】
これらの細胞系統の構造は、国際公開第2010/046588号に記載されている。簡単に説明すると、hLDLRおよびmLDLRをコードするメッセンジャーRNA配列は、データベースから入手できる(アクセッション番号:それぞれ、NM_000527およびNM_010700)。PCRによるcDNA増幅に必要なプライマーであって、pEGFP−N1発現ベクター(Clontech社)においてクローニングするために必要な制限部位(ヒトLDLRについてはHindIIIおよびSalI、ならびにネズミLDLRについてはHindIIIおよびKpnI)をそれらの端(太字)に含むプライマーを選択した。
【0121】
hLDLR
フォワードプライマー:ATATATAAGCTTCGAGGACACAGCAGGTCGTGAT(配列番号18)
リバースプライマー:TTAATTGTCGACCACGCCACGTCATCCTCCAGACT(配列番号19)
mLDLR
フォワードプライマー:ATATATAAGCTTGACGCAACGCAGAAGCTAAG(配列番号20)
リバースプライマー:TTAATTGGTACCGTTGCCACATCGTCCTCCAG(配列番号21)
ヒトおよびネズミの脳から調製した全RNAを、hLDLRおよびmLDLRをコードするDNAフラグメントのPCR増幅のために、逆転写によってcDNAに転換した。増幅後、それらのPCR産物を、それぞれ、HindIII−ShalIおよびHindIII−KpnI制限酵素によって消化し、pEGFP−N1発現ベクター(Clontech社)内にライゲートし、同制限酵素によって消化した。真核細胞におけるトランスフェクションの後、このベクターは、GFPと融合したLDLRであって、それらのC−末端で、すなわちそれらの細胞内ドメインの端で融合したLDLRの、CMVプロモータの制御下での発現を可能にする(
図3)。コンピテント大腸菌DH5α菌を形質転換し、単離されたコロニーを得、そしてプラスミドDNAを調製した後、それらの構築物の両鎖を、検証のためにそっくりそのままシークエンシングした。
【0122】
様々な細胞系統(CHO、COS、N2AおよびHEK293)における一過性のトランスフェクションを行って、生細胞または固定細胞に関してhLDLRおよびmLDLRの発現レベルおよび膜位置を判定した。生細胞上の受容体は、これらの受容体のC−末端に融合したGFPによって放射される緑色蛍光により、免疫染色の必要なく、蛍光顕微鏡下で直接見える。制限希釈により、および発現ベクターによって担持されているゲネチシン耐性遺伝子(G418)により、安定したトランスフェクタントを選択した。これらの細胞系統を、選択圧を維持しながら増幅した。本実施例では、ヒトLDLRに対するおよびGFPに対する抗体での細胞溶解産物のウエスタンブロットによって、予想サイズのhLDLR−GFPの発現を検証した。GFPおよびhLDLRの総合サイズ(190kDa)に相当するタンパク質は、安定した細胞系統から調製した細胞抽出物において抗hLDLR(
図4)および抗GFP抗体によって認識される。GFPを構成的に発現するCHO細胞系統を陰性対照として使用した。抗hLDLR抗体は、GFP細胞系統ではタンパク質を検出しない。
【0123】
CHO−GFP(対照)およびCHO−hLDLR−GFP細胞系統の固定(PFA)細胞に対する抗hLDLR抗体での免疫細胞化学は、hLDLR−GFP融合体が、トランスフェクト細胞において十分に発現されることを示す。透過処理されていない細胞に対するトリトンX100での免疫細胞化学実験は、LDLRの細胞外ドメインが、細胞外レベルで十分に検出されることを示す(
図5)。
【0124】
hLDLRと、蛍光マーカーであるDiIの吸着により蛍光性にした、その天然リガンドLDLとの間の共局在性を示す。この天然蛍光リガンド(DiI−LDL)は、固定細胞を用いて蛍光顕微鏡のもとで視覚化すると、急速に内在化(エンドサイトーシス)されている(
図6−A)。対照的に、DiI−LDLは、対照CHO−GFP細胞系統、または、トランスサイトーシスに関与する別の受容体である例えばヒトトランスフェリン受容体(hTfR、
図6−B)を過発現する別の対照CHO細胞系統によるエンドサイトーシスによっては取り込まれていない。さらに、CHO−LDLR−GFP細胞系統のエンドサイトーシス活性は、LDLRのリガンドに特有である。なぜなら、この細胞系統において、LDLRに対して特異的でないリガンド、例えば、赤色蛍光色素(Texas Red、
図6−C)で染色されたトランスフェリン(Tf)のエンドサイトーシスは観察されないからである。
【0125】
受容体機能性(エンドサイトーシス能力)は、DiIによって染色された、hLDLRの天然リガンドであるLDLが、GFPのみを発現する細胞、または、エンドサイトーシスに関与する別の受容体である例えばhTfRを発現する細胞(陰性対照)におけるよりも、hLDLR−GFPを発現する細胞において、実際に迅速に、且つ、非常に有効に輸送されることを示す、ビデオ蛍光顕微鏡下でのリアルタイム実験によって確証される。逆に、hTfR−GFPを発現する細胞によるエンドサイトーシスによって非常に有効に取り込まれるTexas Redで染色されたTfを用いて行ったビデオ顕微鏡実験により、トランスフェリンが、対照GFP細胞系統の細胞、またはhLDLR細胞系統の細胞によるエンドサイトーシスによって取り込まれないことが確証される。
【0126】
CHO−hLDLR−GFP細胞系統における高いhLDLR発現レベルにもかかわらず、エンドサイトーシスシステムは有効であるばかりでなく、その選択性も保っていた。GFP融合の存在は、hLDLRの膜挿入特性も改変せず、hLDLR細胞外ドメインの細胞外部への露出も改変せず、エンドサイトーシスプロセスにおける該受容体の機能性も改変しない。
【0127】
実施例II
ペプチドの合成およびトレーサー分子(ビオチン、フルオレセイン、または酵素活性を有するS−Tag)とのカップリング
ポリスチレン−1%DVB上のRink Amide AM樹脂、ポリスチレン−1%DVB上のWang、ポリスチレン−1%DVB上のBarlos(2−クロロトリチルクロリド)、またはポリスチレン−1%DVB上のSieber Amideを用いるFmoc/tBu戦略を用いて、Advanced ChemTech社のApex396(AAPPTec)合成装置、またはLiberty(商標)(CEM)マイクロ波合成装置で、固相ペプチド合成(SPPS)法によりペプチドを合成した。負荷(または置換)は、使用する樹脂に応じて0.25mmol/gを上回り1.6mmol/g未満である。
【0128】
Fmoc(もしくはいくつかのN−末端についてはBoc)によってN保護された、および/または、直交性官能基(とりわけ酸不安定性官能基)によってそれらの側鎖が保護されたアミノ酸、化学的カップリングおよび脱保護試薬、ならびに溶媒を専門の会社から購入し、そしてそのまま使用した。
【0129】
Rink AmideおよびWang樹脂は、それらの側鎖およびそれらのC−末端が完全に脱保護されたペプチド配列の合成を可能にする。したがって、これは、二次元(Fmoc/tBu)直交型SPPSである。
【0130】
BarlosおよびSieber超高感度酸不安定性(HAL)樹脂は、合成されたペプチドの様々なアミノ酸の直交型側鎖保護ならびにその最後のアミノ酸のアミン官能基の末端(N−末端)アミン保護(例えば、新たに合成したペプチド配列の安定性の問題のためにN−アセチル化)を保ちながら、末端(C−末端)酸またはアミド官能基の遊離をそれぞれ可能にする。Fmoc(Prot
1)合成戦略による、これらのタイプの樹脂は、強酸媒体中でのみ開裂可能な酸不安定性直交型側鎖保護(Prot
2:Boc、tBu、OtBu、Trt、Mmt、Acmなど)の使用を可能にするが、保護されたペプチドは、非常に弱い酸性条件下ではカップリングしない。このタイプの開裂は、特に、対象の治療用分子とそのペプチドとのカップリングのためにその側鎖官能基が完全に保護された(Prot
2)ペプチド配列の回収を可能にする。したがって、これは、三次元(BarlosまたはSieber/Fmoc/tBu)直交型SPPSである。
【0131】
ペプチド合成中のそれぞれのアミノ酸について使用した標準的な直交型側鎖保護(Prot
2)は、Arg(N−Pbf)、Arg(N−Pmc)、Asn(N−Trt)、Asp(O−tBu)、Cys(S−Acm)、Cys(S−Mmt)、Cys(S−4MeBn)、Cys(S−tBu)、Cys(S−Tmob)、Cys(S−Trt)、Glu(O−tBu)、Gln(N−Trt)、His(N−Trt)、Lys(N−Boc)、Pen(S−Acm)、Pen(S−Trt)、Ser(O−tBu)、Thr(O−tBu)、Trp(N−Boc)、Tyr(O−tBu)である(Applied Biosystems, 1998, Cleavage, Deprotection, and Isolation of Peptides after Fmoc Synthesis. Technical Bulletin)。Gly、Sar、Ala、Val、Leu、Ile、Phe、Met、Pro、Pip、およびThzは、側鎖保護を有していない。なぜなら、これらの各化学構造は、側鎖保護を必要としないからである。
【0132】
DMF中のDIEA/HBTU/HOBtまたはDIPC/HOBtを使用してn+1アミノ酸の酸性官能基の活性化によりアミノ酸をカップリングさせた。
【0133】
このようにしてカップリングさせた新たなアミノ酸のFmoc(Prot
1)基の脱保護を、DMF中の20%ピペリジンを使用して行った。
【0134】
ペプチドシークエンシング中にカップリングさせた最後のアミノ酸は、Boc官能基によって(合成の最後にその遊離末端アミン官能基を遊離させるために)保護されることとなる、または(合成された新たなペプチドを安定させるためにだが、例えばC−末端の位置での対象の治療用分子の共有結合性カップリング中の二次反応のリスクを低下させるためにも)、アセチル化されることとなる、またはプロピオニル化されることとなる。
【0135】
合成されたペプチドに応じて、当業者により伝統的に使用されているH
2O/AcOH/、/(NH
4)
2CO
3/DMSO、H
2O/AcOH、/(NH
4)
2CO
3、I
2/DMF、I
2/HFIP/DCM、TFA/DMSO/アニソール、I
2/DCM/MeOH/H
2Oなどの試薬を使用して、溶液中または樹脂上のいずれかで、2つの適切に保護されたCys(Acm、Trt、tBuなど)の2つのチオール官能基からの分子内環化により、ジスルフィド架橋を得た。有利には、N−末端位置のCysを、ジスルフィド架橋による環化のためにPenまたはMpaにより置換することができる。当業者に公知の合成経路によって、(デヒドロアラニンによる環化による)ランチオニン架橋、または、(allylGlyによる環化による)ジカルバ架橋も得ることができる。Glu(またはAsp)残基の側鎖酸性官能基とLys上の側鎖アミン官能基またはN−末端アミンとの間に、ラクタム架橋を作ることができる。同様に、Lysの側鎖アミン官能基とそのペプチドのC−末端酸性官能基との間の環化とまさしく同じように、N−末端アミン官能基とC−末端酸官能基(ヘッド/テール)との間の環化をアミド結合によって行うことができる(Majumdar and Siahaan, Med Res Rev., Epub aheadof print)。
【0136】
DCM中の0.5%TFA(v/v)を用いて、またはAcOH/TFE/DCM(1/1/3)を用いて、またはDCM中のHFIP(30%)を用いて、またはDCM中のTFE(30%)を用いてなど、当業者により伝統的に用いられている方法によって、BarlosまたはSieber樹脂からペプチドを開裂させた。
【0137】
TFA/H
2O/TISもしくはTIPS(95/2.5/2.5)を用いて、またはTFA/H
2O/EDT/TISもしくはTIPS(94/2.5/2.5/1)を用いて、またはTFA/チオアニソール/H
2O(94/5/1)を用いて、またはTFA/TIS/H
2O/チオアニソール(90/5/3/2)を用いて、またはTFA/H
2O/フェノール/チオアニソール/EDT(82.5/5/5/5/2.5)を用いてなど、当業者により伝統的に用いられている方法によって、側鎖の脱保護、およびRin AmideまたはWang樹脂からのペプチドの開裂を行った。
【0138】
当業者に公知の伝統的な合成およびカップリング方法に応じて、ビオチン、フルオレセイン、またはS−Tag(以下の実施例IVを参照)を、一般的にはC−末端位置に導入した。これらのトレーサーは、N−末端位置においてカップリングされている場合もある。
【0139】
HPLCを、Chromolith C18(4.6mm×50mm)もしくはNucleosil C18(10mm×250mm)のカラムを有するBeckman System Gold 126装置において、例えば、3.5分間は水性相(H
2O+0.1%TFA)中0%から100%へのアセトニトリル勾配で、その後、1.5分間は100%から0%へのアセトニトリル勾配で(流量:1ml/分から5ml/分)、または、Chromolith Speed ROD RP−18(4.6mm×50mm)カラム(固定相)を有し、Waters 996PDA検出器(190nm〜400nm)による検出を伴うWaters 1525システムにおいて、または、Chromolith Performance RP−18(3mm×100mm)カラム(固定相)を有し、Waters 996PDA検出器(190nm〜400nm)による検出を伴うWaters Alliance2690システムにおいて行うことによりペプチドを単離し、精製した。UV検出を、214nmおよび254nmで行った。
【0140】
Delta−Pak(商標)C18カートリッジ(25mm×10mm)を用いるGuard−Pak(商標)カラム(固定層)を有し、Waters 2487二波長吸光度検出器による検出を伴うWaters Prep LC 4000システムを用いて、分取精製を行った。
【0141】
エレクトロスプレーイオン化(ESI)質量分析装置をポジティブモードで使用して分子量を決定した。LC−MSカップリングを可能にするWaters Alliance 2690HPLCシステムを装備したWaters Micromass Quattro Micro(四重極分析装置)を使用することによりスペクトルを得た。
【0142】
用いたLC−MS分析条件は、下記のとおりであった:
−Chromolith Flash C18カラム(4.6mm×25mm)、
−3ml/分の流量、
−2.5分間、Bの0%から100%への線形勾配(A:0.1%H
2O/HCO
2H;B:0.1%ACN/HCO
2H)。
【0143】
ポジティブ・エレクトロスプレー・モードでの質量スペクトルを100〜200μl/分の流量で獲得した。0.1秒間隔での200〜1700m/zのスキャンモードでデータを得た。
【0144】
実施例III
ペプチドベクター設計
配列番号17/S−Tagのシーケンスのペプチドを基準として用いた。
【0145】
このペプチドから、結合、合成、およびベクター化の特性を向上しようとして様々なアプローチが使用された。したがって、多くのペプチドは、1つまたは複数のアミノ酸残基の削除、および/または、置換、および/または、化学修飾により配列番号17とは異なって合成された。
【0146】
hLDLRを結合するためにこのように合成されたペプチドの能力が決定される。
【0147】
このため、付着性および融合性のCHO−hLDLR−RFP細胞を6−ウェルプレートで培養した。3つのウェルの細胞を条件毎に使用した。
【0148】
10μMのペプチド配列番17/S−Tagを含む溶液を、HamF12〜1%BSAの培地において調製した。この溶液に10μMのペプチドを加えて評価した(競合)。
【0149】
いくつかの対照溶液も調製した:
(i)HamF12〜1%BSAの培地。
【0150】
(ii)HamF12〜1%BSAの培地+10μM対照ペプチドCTRL−S−Tag(S−Tagを含む任意のペプチドの非特異性結合の評価)。
【0151】
(iii)HamF12〜1%BSA培地+10μMペプチド配列番号17/S−Tag+10μM対照ペプチドCTRL(対象のペプチドと対照ペプチドCTRLとの間の「非特異性」競合の評価)。
【0152】
使用したFRETアプローチは、実施例IVにおいて説明されるものである。
【0153】
最良ペプチドについて得られた結果を、以下の表1に示す。この表は、競合の結果を、本発明のペプチドによって置換された、hLDLRに対して親和性を有する、基準ペプチドベクター(配列番号17/S−Tag)の%の単位で示す。置換値が大きいほど、ペプチドがhLDLRに対して有する親和性は高い。この値が50%を上回る場合、ペプチドは、基準ペプチド(配列番号17)の親和性よりも高い親和性を有する。
【0155】
示した結果は、配列番号1〜10の配列を有するペプチドはヒトHDL受容体に対する向上した親和性を有している、ということを表している。これらの結果は、ペプチドの比較的小さなサイズを考慮すると、特に興味深く、ペプチド配列番号11〜16で観察された親和性に対する負の効果を考慮すると、特に注目に値し、且つ、驚くべきことである。
【0156】
したがって、薬化学に基づく化学的最適化アプローチに基づきながら、発明者らは、基準ペプチドベクター(配列番号17)の構造/活性(親和性)関係の理解を、特に、
(i)各アミノ酸残基(Ala−scan、D−scan)の重要性、すなわち、各原残基のアラニンによる、または、それらのD立体配置の非天然類似体による代替置換(1つずつ);
(ii)N−およびC−末端(アセチル化、アミド化など)の重要性;
(iii)前記ペプチドの環化の重要性/利点
において進めた。
【0157】
治療において使用されたペプチド誘導体に一般的には起因する主な限定は:
(i)それらの低い経口バイオアビアビリティ(静脈経路によるそれらの投与が一般的には必要である);
(ii)消化系および血漿のタンパク質分解酵素(特に、ペプチダーゼまたはプロテアーゼ)によるそれらの迅速な分解による短い半減期;
(iii)肝臓(肝クリアランス)および腎臓(腎臓クリアランス)による循環血液からのそれらの迅速な排泄;
(iv)それらの一般的には親水性の特性のため、生物学的なまたは生理学的な膜を通過するそれらの低い能力;
(v)それらの高い配座柔軟性、このことは、異なる受容体またはターゲットとの相互作用につながる選択性の欠如を含む(結果的に弱い特異的体内分布になる)こともあり、これにより、いくつかのターゲットが活性化され、副作用または不都合な影響が生じる;
(vi)合成および工業生産の高いコスト(5kDaペプチドの生産コストは、500Da有機分子の生産コストよりも高い)。
【0158】
相当注目すべきことに、本発明のペプチドまたは疑似ペプチドは、以下の薬理学的前提条件を有している:
(i)hLDLRに対する高い親和性;
(ii)この受容体に対するそれらの特異性を増進する物理化学的特徴(ジスルフィド架橋を介した環化;いくつかのものについては最大3つの非天然アミノ酸;8個のアミノ酸に低減されたサイズ);
(iii)それらの環化、非天然アミノ酸、およびいくつかのものについては疑似ペプチド結合部の導入による、および、同様に、N−およびC−末端の改質/ブロッキングによる酵素的タンパク質分解に対する比較的高い耐性;
(iv)合成および工業規模での将来的生産のコストを低減することを可能にする小さなサイズおよび1Daに近い分子量。
【0159】
実施例IV
CHO−LDLR−GFP細胞系統におけるhLDLRに対して親和性を有する合成ペプチドの結合およびエンドサイトーシス。
【0160】
hLDLR−GFPに対して親和性を有する本発明のペプチドを、C−末端位置で、一般的には3つのGly残基から成るスペーサーによって隔てて、様々なトレーサー分子、ローダミンまたはS−Tagのいずれか、とカップリング/コンジュゲートさせた(
図7)。S−Tag(ウシ膵臓リボヌクレアーゼAの配列1〜15から誘導された15アミノ酸ペプチド)は、一方では、免疫細胞化学またはFACSアプローチのために抗S−Tag抗体によって認識され得るものであり、そして他方では、FRETWorks S−Tagアッセイキット(Novagen 70724−3)を使用するインビトロでの活性の検定においてリボヌクレアーゼSタンパク質(C−末端部分、アミノ酸21〜124)との結合により酵素活性を再構成することができる。このように活性化されたリボヌクレアーゼは、FRET(蛍光共鳴エネルギー移動)によって視覚化され、96ウェルプレートにおいてベックマン分光蛍光計で定量される被覆蛍光剤を放出するRNA基質を消化する。これらのFRET実験のために、対照CHO細胞を使用し、FRETに用いる波長で強いバックグラウンドノイズを生じさせるhLDLRおよびmLDLRとそのC−末端位置で融合させたGFPを、赤色蛍光タンパク質(RFP)によって置換した。したがって、前記FRET実験のために生じさせた安定な細胞系統は、CHO−RFPおよびCHO−hLDLR−RFPである。
【0161】
前記FRETアプローチのために、細胞を2mlのPBSで2回洗浄し、その後、1時間、37℃で250μlペプチド溶液と共にインキュベートした。それらを再び2mlのPBSで2回、その後、1mlのPBSで2回洗浄し、そしてその後、1mlのPBS中で剥離させ、5分間、1,250rpmで遠心分離した。その後、上清を吸引し、その細胞ペレットを80μlのPBS+0.1%のトリトンX100に溶解した。それぞれの細胞溶解産物20μlを、FRET反応後の蛍光放出を測定することによって分析した。
【0162】
このように、hLDLRを発現する様々な細胞を用いるペプチドのインキュベーションを含む実験を行い、これらのペプチドがCHO−LDLR−GFP細胞に十分に結合すること、および、これらのペプチドがhLDLRを発現する細胞系統の細胞内にエンドサイトーシスによって取り込まれて蓄積されること、しかし対照ペプチドについてはそうではないことを示している。これらの実験において、S−Tagとコンジュゲートしているペプチドと、S−Tagに対する一次抗体(一次Ab)、およびその一次抗体に対する二次抗体(二次Ab)との予備インキュベーションは、ペプチド/S−Tag、一次Ab、および二次Ab間の複合体が、hLDLRを発現する細胞に結合し、そしてエンドサイトーシスによって内在化されることを示す。これらの結果は、このファミリーの環状ペプチドが、hLDLを発現する細胞に結合することができ、そして大きな負荷物(2つの抗体)をベクター化することができる、すなわち、これらの負荷物がエンドサイトーシスによって内在化されることを示している。
【0163】
実施例V
インビトロBBBモデルでの内皮細胞に関するhLDLRに対して親和性を有する合成ペプチドの毒性、エンドサイトーシスおよびトランスサイトーシス。
【0164】
内皮細胞に対するペプチドの潜在的毒性作用、これらの細胞におけるペプチドの結合/蓄積、およびペプチドのトランスサイトーシスによる通行を、インビトロBBBモデルを用いて評価した。このモデル(脳微小血管および星状膠細胞からの内皮細胞の共培養)を準備するために必要な細胞は、Cellial Technologies社(ランス、フランス)が販売するウシ細胞(ウシ脳微小血管内皮細胞、BBMEC)、または、内部ネズミモデルの開発を可能にしたラット細胞(ラット脳毛細管内皮細胞、ラットBCEC)であった。このタイプのインビトロBBBモデルを使用して、多数の分子の、とりわけ医薬製剤のBCECを横断する受動通行または能動輸送を、したがって、外挿入によって、CNS組織に到達するそれらの能力を、インビボで評価した。このウシおよびネズミのモデルは、脳内皮、とりわけ密着結合に特徴的な超微細構造特性、細孔の不在、経内皮チャネルの不在、親水性分子に対する低い透過率および高い電気抵抗を有する。さらに、これらのモデルは、BBBを横断して通行するそれらの特性についてインビトロおよびインビボで評価した様々なモデルに対して行った測定の結果の間に確固たる相関関係を示した。今までのところ、得られた全データは、このインビトロBBBモデルが、細胞培養実験に関連した利点を保ちながらも、インビボで存在する細胞環境の複雑さの一部を再現することによりインビボでの状況を厳密に模倣することを示す。
【0165】
例えば、前記インビトロウシBBBモデルは、BBMECと星状膠細胞との共培養を利用する。細胞培養の前に、BBMECの最適な付着を可能にするために、および基底板の状態を作るために、膜挿入物(Millicell−PC3.0μm;直径30mm)の上部をラット尾コラーゲンで処理した。混合星状膠細胞の一次培養物を新生児ラット大脳皮質から樹立した(Dehouck et al.,1990, J. Neurochem., 54, 1798-1801)。簡単に言うと、髄膜を除去した後、脳組織を82μmナイロンシーブに通した。10%熱不活性化胎仔ウシ血清を補足した2ml最適培養基(DMEM)を用いて星状膠細胞を1.2×10
5細胞/mlの濃度でマイクロプレートウェルに分配した。培地を週に2回交換した。2日ごとに添加した、10%(v/v)ウマ血清および10%熱不活性化ウシ血清、2mMグルタミン、50μg/mlゲンタマイシンおよび1ng/ml塩基性線維芽細胞成長因子を補足したDMEM培地の存在下で、Cellial Technologies社から入手したBBMECを成長させた。その後、そのBBMECを、2ml共培養でフィルターの上面に分散させた。このBBMEC培地を週3回交換した。これらの条件下、分化したBBMECが、7日後に集密細胞の単層を形成した。
【0166】
それらの毒性をテストするために、ローダミンにカップリングした本発明のペプチドを培養システムの上部チャンバにおいて、内皮細胞と接触した状態で、1時間、5時間および24時間インキュベートした。下部チャンバの培養基を様々な時点で回収し、蛍光定量分析によって蛍光を定量した。それらの結果を、内皮表面透過率(Pe)として10
−3cm/分の単位で表示した。BBBをほとんど横断しない小蛍光分子であるルシファーイエロー(LY)を、分析した全ウェルに関してBBBの完全性をインビトロで評価するために先ず使用し、そして次に、ペプチド共インキュベーションのために使用して、このBBBを構成する内皮細胞に対してそのペプチドが毒性を有していないことを評価した。このインビトロバリアは、LYのPe値が1×10
−3cm/分より大きい場合、「透過性」または「開いている」と考えられる。オーム計で測定され、そしてオーム・cm
2で表示される経内皮電気抵抗(TEER)も、BBBを横断する通行の検定中のBBB完全性についてのインビトロ測定を可能にする。品質閾値を>500オーム・cm
2に設定する。
【0167】
行った実験は、使用した対照ペプチドについてばかりでなく、このペプチドについても、毒性の不在、およびBBBの透過特性に対する有害作用の不在を示す。
【0168】
ローダミンとコンジュゲートしている本発明のペプチドのBBBを横断する通行を、上で説明したインビトロウシモデルを用いて判定した。この分析を、様々な時点(1時間、4時間、24時間)でレシーバーウェルに堆積した蛍光の量を蛍光定量法により測定することによって行った。分析した様々なウェルにおけるBBBの完全性を、1つの区画から他の区画に進むLYのレベルの同時測定により時間の関数として評価した。
【0169】
実施例VI
ベクターと対象の治療用分子、イメージング(もしくは診断)剤、または任意の他の分子、例えば分子プローブとから成るコンジュゲートの化学合成のためのプロトコル。
【0170】
対象の治療用分子、またはイメージング用もしくは診断用の薬剤、または任意の他の分子、例えば分子プローブを、細胞膜、より詳細にはBBBを横断する輸送および通行後、ベクターから、例えば、該ベクターと該活性物質との間の化学結合の加水分解または酵素的開裂によるプロドラッグ戦略により、開裂/遊離/再放出させることができる。
【0171】
その反応性側鎖官能基が完全に保護された(C−末端およびN−末端でのカップリング)またはある程度保護された(側鎖の反応性官能基でのカップリング)ペプチドベクターと、対象の治療用分子との共有結合性カップリングを以下の2つの一般戦略、つまり
−タンデムでの合成(すなわち、介在物を伴わない2つの実体間の直接カップリング)、
−リンカーを介しての合成(Temsamani et al., 2004, Drug Discov. Today, 23,1012-1019)
によって行う(
図2)。
【0172】
選択されるペプチドベクターおよび治療上対象の分子に応じて、様々な戦略のうちの1つまたはその他を、C−末端に対して、またはN−末端に対して、またはこのペプチドベクターの側鎖反応性官能基に対して適用する(Majumdar and Siahaan, Med Res Rev., Epub aheadof print)。理想的には、プロドラッグ戦略において、選択されるスペーサーは、前記活性物質の適切な遊離および前記コンジュゲートの溶解度の向上を可能にするはずである(Molema et al.,2001, Vectorization, organ-specific strategies. In:Methods and principles in medicinal chemistry, vol. 12)。したがって、様々な不安定性共有化学結合を、アミド、カルバマート、エステル、チオエステル、ジスルフィドなどのスペーサーを介して、または、介さずに、2つの実体(ベクターと活性物質との)間に生じさせることができる。例えば、血漿中で比較的安定なジスルフィド結合を、タンパク質ジスルフィド還元酵素などの酵素によって、脳内区画内で開裂させて、遊離チオール官能基を回復させることができることが文献に示されている(Saito et al., 2003, Adv. Drug Deliv. Rev.,55, 199-215)。
【0173】
対象の他の化合物は、スペーサーがポリエチレングリコール(PEG)などのポリマーであるものである。実際、生物学上対象の有機分子とPEGとのコンジュゲーションが、この分子の血漿半減期の増加を可能にすること(Greenwald et al., 2003, Adv. Drug Deliv.Rev., 55, 217-250)およびその開裂の減少を可能にすることは、文献に示されている。
【0174】
ベクターと活性物質または対象の物質とのコンジュゲーションは、CNSの病態、病変もしくは障害の、診断、イメージングもしくは治療においてはBBBを横断できる薬物を調製するために使用することができ、脳腫瘍もしくは別のタイプの癌細胞の診断、イメージングもしくは治療においては癌細胞膜を横断することができる薬物を調製するために使用することができ、および/または、感染性病態の診断、イメージングもしくは治療においては細胞膜を横断することができる薬物であって、脳もしくは他の組織の細菌、ウイルス、寄生虫もしくは真菌による感染性病態の感染細胞をターゲッティングできる薬物を調製するために使用することができる。
【0175】
実施例VII
ベクターのみについての、および、ベクターと対象の治療分子またはイメージング(もしくは診断)剤または任意の他の分子、例えば分子プローブとのコンジュゲートについてのin situ脳潅流、ならびにそれらのBBBを横断する輸送動態およびマウスの脳におけるそれらの蓄積についての研究。
【0176】
in situ脳潅流技術(成体オスOF1マウスにおける)を用いて、BBBを横断する脳内への通行を説明する。
【0177】
事前に、ペプチドベクターを、とりわけ組織切片で、放射性化合物の検出に最高の感度を提示する元素であるトリチウム(
3H)で放射標識した。高い比放射能(SRA、100Ci/mmol以下)を有する放射性ペプチドを、トリチウム標識無水プロピオン酸(またはプロパン酸)またはトリチウム標識N−プロピオニル−スクシンイミド(NPS)によるN−末端アミン官能基のアシル化の戦略によって調製した。このトリチウム標識法を全てのペプチド(ベクター、または治療用ペプチドとペプチドベクターとの間の、タンデムでの、または、(ペプチドのもしくは有機性の)リンカーを介したコンジュゲート)に適用できるが、但し、N−末端の修飾が、ターゲットとなる受容体(すなわち、LDLR)に対するペプチドの親和性に、または、治療用ペプチドの場合にはそれらの生物活性に影響を及ぼさないことを条件とする。
【0178】
プロピオニル化によるN−末端位置でのペプチドベクターのトリチウム標識反応を、DMF中(溶解度に応じて100μl中1mgのペプチドから450μl中1mgのペプチド)で、5分間、室温でトリチウム標識NPS0.1当量を添加し、その後、1時間、冷NPS(トリチウム標識していないもの)0.9当量を添加し、そしてその後、5時間、冷NPSの新たな当量を添加することによって行った。その後、反応媒体を一晩、4℃で放置し、そして翌日、HPLCによって精製した。それぞれのトリチウム標識ペプチドについてのSRAは、典型的には5Ci/mmolと10Ci/mmolとの間であった。合成により調製した放射能の総量は、一般的に600μCiと950μCiとの間であった。
【0179】
放射標識ペプチド(例えば、
3Hで放射標識されたもの)を、放射標識活性物質(例えば、
14Cで放射標識されたもの)と、例えば実施例VIにおいて説明したように、共有結合的にカップリングさせる。先述のとおり、この共有結合性カップリングは、活性物質の構造および物理化学的特性、特に、この物質の生物活性を減少させることなく修飾することができる官能性化学基の存在に従って行う。放射標識コンジュゲートを、非放射標識コンジュゲートについて開発された合成経路からの外挿によって合成する。
【0180】
活性物質の脳内での分布ならびに、特に、脳内へのこれらの分子の浸透の際のBBBのおよび、さらに特に、LDLRの役割を研究するために、以下に簡単に要約する技術を前もって開発した。in situ脳潅流技術は、マウスにおいて行うには最も技術的に骨の折れるおよび最も難しいものの1つである。しかし、(インビトロモデルのような)in situ脳潅流は、全身分布の破壊要因を伴わずに、動物体内の正常な生理的および解剖学的条件下で脳の細胞および血管新生を維持するために人工潅流液の組成を完全制御することができる。
【0181】
ラットにおいて通常は行われるこのin situ脳潅流戦略を、マウス用に適合させて(Dagenais et al.,2000, J Cereb Blood Flow Metab.,20(2), 381-6)、トランスジェニックおよびKO突然変異体マウスにおいても、受容体、酵素、または活性物質の輸送体についてBBBおよび血液網膜関門での輸送の動態パラメータを評価するためにその適用を広げた。それは、ベクターおよびコンジュゲートの脳への取り込みを評価するために用いる、内頸動脈および翼口蓋動脈を特異的に再灌流するために、麻酔したマウス(典型的にはOF1)における頸動脈のカテーテル留置およびこの頸動脈のいくつかの枝(外枝、甲状枝、後頭枝)の結紮を包含する。このカテーテルは、頸動脈を通ることにより十分に制御された潅流液(重炭酸塩緩衝液、血漿または血液)での潅流による全身循環の置換を可能にする。先ず、酸化クレブスの重炭酸塩緩衝液を使用して、脳へ移るベクターおよびコンジュゲートの能力を評価した。頸動脈のカテーテル留置後、心室を切り出すことによって内因性血流を停止させて、緩衝液と血液の混合および血圧の上昇を避ける。固定流量潅流期間をモニターした。緩衝液潅流を20分まで、または受容体媒介輸送(RMT)の研究については酸素輸送体(洗浄した赤血球)の存在下で1時間まで延長した。
【0182】
行った実験により、本発明のいくつかのペプチドベクターの脳輸送または輸送係数(K
in:分布容積と脳灌漑時間との関係)の決定することができた。これらの実験のための脳潅流期間は、2ml/分の潅流液流量で5分であった。したがって、2Ci/mmolのRASによって放射標識した、配列番号2および配列番号4のペプチドベクターのK
inは、それぞれ、3.3×10
−4ml/秒/gおよび3.0×10
−4ml/秒/gである。
【0183】
対照的に、トランスフェリン(Tf)は、3.0×10
−4ml/秒/gのK
inを有し(Demeule et al.,2008, J. Neurochem., 106(4), 1534-1544)、配列番号17の基準ペプチドは、同じ実験の条件下において、3.2±0.4×10
−4ml/秒/gのK
inを有する。
【0184】
したがって、これらの結果は、本発明のペプチドベクターが、それらの比較的小さなサイズおよび有利な構造により、トランスフェリンよりも非常に高い脳輸送計数を有している、ということを示す。
【0185】
加えて、このタイプのin situ脳潅流実験により、脳血管区画に残存する化合物と、反管腔側内皮膜を横断して脳実質に進入したものとの区別を確証することも可能になる。潅流後毛細血管枯渇と呼ばれるこの技術により、分子が脳実質に進入するために実際に内皮を横断するかどうかを査定できる。この技術の使用により、特定のペプチドベクター(またはコンジュゲート)が脳実質に蓄積することを証明することが可能になる。したがって、この技術(Triguero et al.,1990, J Neurochem., 54(6), 1882-8)を用いて、内皮を通過し、そして細胞外空間または脳細胞経由で脳に進入したベクター(またはコンジュゲート)の画分と、内皮細胞と会合している残存画分とを区別する。
【0186】
したがって、マウスにおけるin situ脳潅流研究の重要な段階を、研究したベクターおよびコンジュゲートについて、次のように要約することができる:
i)BBBでのベクターおよびコンジュゲートの許容性(非毒性)ならびにこの生理的バリアの完全性の保存の評価。
ii)LDLRを介したRMTによる脳取り込みの動態および線形性の研究。
iii)ベクターまたはコンジュゲート濃度の関数としての脳取り込み率の研究(T
max、K
m)。
iv)LDLRを阻害するまたは調節する基質を使用する輸送メカニズムの研究。
v)脳の区画内での分布:毛細血管枯渇(Triguero et al., 1990, J Neurochem., 54(6), 1882-8)。
vi)ベクターおよびコンジュゲートと血漿タンパク質(アルブミンなど)との結合速度の評価、ならびにこれらの分子の脳取り込みに対するそれらの影響についての研究。
vii)静脈内投与、ならびに時間の関数としての組織分布(脳および他の器官)の評価。