【実施例】
【0197】
実施例
実施例1:HNS製剤
本実施例の実験は、髄腔内送達を意図したpH、イオン強度および緩衝剤型を含む種々の製剤条件におけるヘパラン−N−スルファターゼ(HNS)の安定性を試験するための予備処方試験の一部として設計した。
【0198】
HNSは、一般的にその天然状態で二量体であることが分かっている(Bielicki等、Journal of Biochemistry、1998、329、145〜150)。HNS二量体の分子量は115kDaである。HNSは、典型的にはサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)中に二量体として溶出する。SDS−PAGEゲル上に流すと、ゲルに充填する前に試料を100℃に加熱しない限り(その場合、HNSは単量体(62kDa)として現れる)HNSは二量体として現れる。HNSの全長および成熟配列を表6および表7のそれぞれで以下に示す。成熟HNS配列は、5個のシステイン残基(下線部)を含み、これらは2つの内部ジスルフィド結合および1つの遊離システインを可能にするだろう。
【表6】
【表7】
【0199】
この実施例では、以下の製剤パラメータを試験した:(1)pH3〜8のクエン酸塩製剤およびpH5〜8のリン酸塩製剤中のpH;(2)緩衝剤:クエン酸ナトリウム緩衝液(pH3.0〜8.0)およびリン酸ナトリウム緩衝液(pH5.0〜8.0)、全て20mMの濃度;ならびに(3)イオン強度:NaCl(0〜300mM)。
【0200】
本実施例に記載する全ての予備処方試験は、1〜2mg/mlの低タンパク質濃度で行った。
【0201】
種々のストレス下で生成する製剤生成物および分解生成物を分析するために、SEC−HPCL、SDS−PAGE、示差走査熱量測定(DSC)、濁度(OD320)および酵素活性アッセイを使用した。
【0202】
一般的に、SDS−PAGE結果は、低pH(pH3)で製剤の断片化を示した一方で、高pH製剤は、ほとんど断片化を示さなかった。DSCによる融解温度の評価は、クエン酸塩およびリン酸塩を含むrhHNS製剤が6〜7のpH範囲で最大の熱安定性を有することを示した。酵素活性結果は、評価した全pH値で、クエン酸塩を含むrhHNS製剤が、50℃で7日間の貯蔵後に不活性になることを示した。pH6〜7でリン酸塩を含むrhHNS製剤は、50℃で7日間の貯蔵後に有意な活性を保持した。しかしながら、同じ製剤の別の調製品では一貫して観察されなかったが、高分子量ピーク(「SECにより見られる「16分ピーク」」は、pH7〜8で最大である。
【0203】
イオン強度0〜300mM NaClのrhHNS製剤安定性への影響も評価した。50℃で7日間の加速安定性条件で貯蔵した試料のSDS−PAGEゲルは、内部ロット対照よりも大きな断片化を示さなかった。クエン酸塩を含むrhHNS製剤は、イオン強度にかかわらず50℃で7日後に活性の完全な喪失を示した。リン酸塩を含むrhHNS製剤は、50〜300mM NaClで有意な活性を保持した。しかしながら、16分ピーク(SECによる)は、50〜150mM NaCl範囲で最大である。
方法
pHのrhHNS安定性への影響
【0204】
透析(Piece Slide−A−Lyzer、PN番号66383、ロット番号HK107537)を使用して、rhHNS(10mMリン酸ナトリウム、138mM塩化ナトリウム、pH7.0中9.2mg/ml)を3.0〜8.0のpH範囲を有する20mMクエン酸ナトリウムおよび6.0〜8.0のpH範囲を有する20mMリン酸ナトリウムに緩衝液交換した。各交換した緩衝液中の最終タンパク質濃度を2.0mg/mlに標的化した。これらの溶液を、それぞれ0.5mlで2.0mlガラスバイアル中(West Pharmaceuticals、カタログ番号:6800−0314、ロット番号:30809A2001)に分取し、次いで、50℃、25℃および2〜8℃チャンバー中でインキュベートした。7、14および28日後、凝集(SEC−HPLC)、断片化(SDS−PAGE)、濁度(OD320)および酵素活性の分析のために試料を引き出した。
【0205】
リン酸塩緩衝液中でのその後のpH試験を上記と同じ手順にしたがって反復したが、rhHNSロット番号SS10を使用した。最初のリン酸塩試験についてのpH範囲は狭かったので、より広範なpH範囲を組み込むよう試験を反復した。
OD320
【0206】
OD320測定を行うことにより、rhHNS試料の濁度を決定した。試料を、0.2cm経路長セル中2mg/mlでMolecular Devices SpectraMax Plus 384で測定した。各試験について総量は30μlとした。
SEC−HPLC
【0207】
rhHNSのSEC−HPLC分析のために、Superdex column 200(10/300GL、PN:17−5175−01、GE Healthcare)を使用した。移動相は、0.5ml/分の流速で流れるリン酸緩衝食塩水(25mMリン酸ナトリウム、150mM塩化ナトリウム、pH6)とした。注入量は、1mg/ml(それぞれの緩衝液中2mg/mlから希釈した)の30μlとした。各注入の実行時間は50分とし、214nmの検出波長とした。
SDS−PAGE
【0208】
この方法は、還元および変性条件下でのrhHNSの断片化および凝集を評価する。rhHNS試料をSDS緩衝液と混合し(最終濃度=0.5mg/ml)、DTTを添加した(還元試料のみ)。試料を100℃に5分間加熱した。5分より長い間試料を沸騰させると、rhHNSの断片化が生じた。各レーンに8〜16%勾配アクリルアミドゲル(カタログ番号:EC6045BOX)上rhHNS試料10μgをロードした。ゲルを150Vで流し、次いで、Gel Code Blue Coomassie染料と共に一晩インキュベートした(震盪しながら)。スキャンの1時間前にゲルを水で脱染した。
活性アッセイ
【0209】
rhHNSについての活性アッセイは2ステップ反応である。第1反応では、へパラン−N−スルファアーゼが基質を脱硫酸化する。第2反応で、α−グルコシダーゼ酵素の添加によりさらなる加水分解が起こり、4−MUを放出し、次いでこれを測定することができる。rhHNSを10μg/mlの最終アッセイ濃度にするために1:210希釈した。リン酸塩緩衝液pH試験のために、アッセイを修正し、約100μg/mlの最終アッセイ濃度にするためにrhHNSを1:24希釈した。
DSC
【0210】
示差走査熱量(DSC)測定をMicrocalorimeter instrument(MicroCal VP−DSC)で行った。試験するrhHNS試料は0.5mg/mlとした。温度を10℃に平衡化し、次いで、1分当たり1℃で100℃まで勾配を与えた。
HNS安定性へのイオン強度の影響
【0211】
透析(Piece Slide−A−Lyzerロット番号HK107537)を使用して、rhHNSを0〜300mMの範囲の塩化ナトリウムを含むpH6.0の20mMクエン酸塩緩衝液および0〜300mMの範囲の塩化ナトリウムを含むpH7.0の20mMリン酸塩緩衝液に緩衝液交換した。各交換した緩衝液中の最終タンパク質濃度を2.0mg/mlに標的化した。これらの溶液を、それぞれ0.5mlで2.0mlガラスバイアル中(West Pharmaceuticals、カタログ番号:6800−0314、ロット番号:30809A2001)に分取し、次いで、50℃、25℃および2〜8℃チャンバー中でインキュベートした。7、14および28日後、凝集(SEC−HPLC)、断片化(SDS−PAGE)、濁度(OD320)および酵素活性の分析のために試料を引き出した。
結果
HNS安定性へのpHの影響
OD320および外観
【0212】
濁度を測定するためのOD320値の結果を表8で以下に示す。pH7のリン酸塩またはpH3〜6のクエン酸塩を含むrhHNS製剤の加速安定性条件下で濁度の有意な変化はなかった。しかしながら、pH8.0のリン酸塩およびクエン酸塩製剤の両者ならびにpH7.0のクエン酸塩製剤中の試料は、50℃で7日後に濁度の増加を示した。外観チェックを、ライトボックス(M.W.Technologies、INC、モデル番号:MIH−DX)下で行ったところ、全製剤は無色透明で目に見える粒子がないままのように見えた。
【表8】
SEC−HPLC
【0213】
rhHNSのSEC溶出プロファイルの例示的クロマトグラムを
図1A〜1Cに示す。ベースライン試料は主としてそれぞれ約22分、約26分および約32分の保持時間を有する3つのピークを含む。時折、これはまた、約34分にもピークを有する。SEC−LSにより、約26分の主ピークが二量体として確認された。他のピークの性質は不明である。
【0214】
第1pH試験からのSECデータを表9で以下に概説する。全体的に、全製剤は、ストレス条件(50℃)ならびに加速(25℃)およびリアルタイム貯蔵条件(2〜8℃)下で本質的にほとんど変化を有さなかった。しかしながら、50℃で7日後、pH6〜8のクエン酸塩およびリン酸塩を含むrhHNS製剤は、16分の保持時間を有する高分子量ピークを生成した。pH7.0のリン酸塩を含むrhHNS製剤では、16分ピークは、総面積の約2%を占める。しかしながら、イオン強度試験で調製した同じ製剤は、約0.1%しか含まなかった。
【表9】
【0215】
この現象を検証するために、リン酸塩緩衝液でのpH試験をより広範囲のpHにわたって反復し、SECデータを表10で以下に概説する。この試験では、50℃で7日後にpH5緩衝液には16分ピークは存在しなかったが、実際、pH6〜8の製剤には存在し、これはpHが増加するにつれて増加した。ポリソルベート20(0.05%)の添加は、16分ピークの大きさに有意に影響しなかった。興味深いことに、pH5製剤は安定性試料中にこのピークを含まなかったが、pH5への生理食塩水からの透析の調製中、有意な量のrhHNSが沈殿した。
【表10】
【0216】
予備的特性評価結果は、16分ピークが、スケール変更すると、rhHNS二量体ピークのスペクトルとうまく重ね合わせられるタンパク質を示すスペクトルを有することを確認している(
図1D)。SEC−LSにより試験すると、16分ピークは、1MDaを超える見かけの分子量を示す。このピークの性質を理解するためにはさらなる特性評価が必要となり得る。
酵素活性
【0217】
第1pH試験からの活性データ概要を表5で以下に示す。50℃で7日間の加速安定性条件下で、rhHNSは、pH3〜8の製剤を含む全クエン酸塩中で酵素活性の大半を喪失した一方で、pH7〜8のリン酸塩を含むrhHNS製剤は、活性を保持している。25℃および5℃では、クエン酸塩およびリン酸塩緩衝液の両者中の全rhHNS製剤が活性の大半を保持した。pH3.0のクエン酸塩を含むrhHNS製剤は、より低い全体的活性値を有するように見える。リン酸塩における反復pH試験からの活性データを表11および12に概説する。pH8.0のrhHNS製剤が65%活性を喪失したことを除いては、pH5〜7の全rhHNS製剤が、50℃で7日後に酵素活性の84〜100%を保持している。
【表11】
【表12】
【0218】
例示的SDS−PAGEゲルを
図2および
図3に示す。pH試験からの還元ゲルを
図2に示すが、これはpH3のクエン酸塩を含む製剤の断片化バンドを示している。40℃で7日後のpH8.0クエン酸塩緩衝液でいくらかの高MW凝集が示されたことを除いては、pH4〜8の全ての他の製剤は類似であり、約60kDaで主(単量体)バンドを示すのみである。
図3は、pH試験からの非還元ゲルを示している。ここでもまたpH3のクエン酸塩を含むrhHNS製剤で断片化を見ることができた。
【0219】
これらの結果に基づいて、還元剤の存在または非存在は主バンドの位置に影響を及ぼさないので、rhHNS天然二量体は主に非共有結合していることが明らかであった。しかしながら、かすかな125kDa二量体バンドが主に非還元試料で存在し、このバンドが共有結合した非天然二量体であることを示唆している。非天然二量体バンドは、40℃試料よりもILCおよび25℃試料で明白であった。
pH試験からのDSCデータ
【0220】
図4は、DSCにより決定されるクエン酸塩のpH依存性熱安定性を示している。クエン酸塩中のrhHNSの最高融解温度は、pH6.0で90℃であった。リン酸塩を含むrhHNS製剤は、pH6〜7で最大の熱安定性を示した。試験したpH毎でrhHNSの融解温度は、70℃を超えた。
rhHNS安定性へのイオン強度の影響
濁度および外観
【0221】
OD320値の概要を表13で以下に示す。経時的な試料の濁度の変化および値の温度依存性変化は観察されなかった。各時点で試料の外観は変化しないままであった。全試料は無色透明で目に見える粒子はないように見えた。
【表13】
SEC−HPLC
【0222】
表14は、イオン影響試験からのSEC−HPLCデータ概要を示している。50℃で7日後、全製剤は、16分ピークを除いてはほとんど変化しなかった。クエン酸塩緩衝液では、16分ピーク面積割合は、0.1〜0.3%の間であり、NaClレベルによる具体的な増加または減少傾向を有さなかった。しかしながら、リン酸塩緩衝液では、50〜150mMのイオン強度について約0.5%までの16分ピーク割合の増加があった。より低いおよびより高いイオン強度で、16分ピークは約0.1%まで下がった。
【表14】
酵素活性
【0223】
表15は、50℃で7日の加速条件下でのrhHNS安定性へのイオンの影響の活性データ概要を示している。クエン酸塩を含むrhHNS製剤は、加速条件下でイオン強度にかかわらず8〜30%の活性しか保持しなかった。0〜300mM NaClと共にリン酸塩を含むrhHNS製剤は全て、加速条件下でより高い全体活性、45〜70%を示した。
【表15】
SDS−PAGE
【0224】
図6は、50℃で7日後のイオン影響試験からのrhHNS製剤の銀染色したSDS−PAGEゲルを示している。その後の試験で、rhHNSを5分間沸騰させた場合に断片化は観察されなかったので、10分間沸騰させた試料を使用してこれらのゲルを泳動させたところゲル上に見られる断片化は10分の沸騰によるものであり得る。
【0225】
0〜300mM NaClを含むクエン酸塩製剤および0〜300mM NaClを含むリン酸塩製剤は全て、60kDaに主モノマーバンドを示した。rhHNS製剤の内部ロット標準(−80℃で貯蔵)は、7日間50℃で維持した試料よりも明白な断片バンドを示すように見えた。全体的には、イオン強度はSDSゲル上のバンドパターンに影響を及ぼさなかった。
結論
【0226】
この試験の結果は、製剤スクリーニングについての主要な安定性を示す分析法が酵素活性およびHPLC−SECであることを示している。DSCデータは、rhHNSがpH6〜7で約90℃のTm値の最大熱安定性を有することを示した。クエン酸塩緩衝液中のrhHNSは、全てのpHおよびイオン強度の加速条件下で有意な活性喪失を示し、クエン酸塩が許容できない製剤緩衝液であることを示唆した。リン酸塩についての結果は、かなり良く、pH6〜7の加速条件下で最大活性を保持した。さらに、100〜150mM NaClを含むリン酸塩製剤は、加速条件下で最大の活性保持を示した。しかしながら、SEC−HPLCの高分子量(16分)ピークは、加速条件下、pH6〜8および50〜150mMのイオン強度で最大である。
【0227】
16分ピークの原因をより理解するための追加の製剤実験が進行中である。さらに、非緩衝食塩水製剤を含むリン酸塩製剤の安定性と、低タンパク質濃度対高タンパク質濃度の安定性を比較するための試験が進行中である。
実施例2:RHHNSのための液体製剤
【0228】
この実施例の実験は、髄腔内送達を意図したrhHNS製剤の溶解度を最適化するよう設計した。本明細書に記載するように、髄腔内薬剤送達は、少量の注射液体量を要し、結果として、高濃縮タンパク質溶液が必要とされる。しかしながら、rhHNSは、典型的にはその溶解度に影響する、5.1〜6.5の範囲の等電点範囲を有する不均一電荷プロファイルを有する。本実施例の試験は、rhHNS製品の溶解度へのpHおよび塩化ナトリウム濃度の影響についての情報を提供する。
【0229】
図7で分かるように、pHおよび塩濃度(例えば、塩化ナトリウム)の増加は、rhHNS溶解度の増加をもたらした。rhHNS天然状態を、変化する塩濃度(145mMまたは300mM)で製剤化したrhHNSの分析用超遠心法(AUC)により分析した。
図8で分かるように、rhHNSは同種の分子を含み、pH7で145mM〜300mMの塩濃度で同じ構造を維持する。まとめると、これらの結果は、NaCl濃度の増加がrhHNSの溶解度を増加させることを示した。
【0230】
高塩液体製剤(15mg/mL rhHNS、175mM NaCl、5mMリン酸塩、0.005%ポリソルベート20、pH7.0)およびスクロース含有製剤(15mg/mL rhHNS、2%スクロース、145mM NaCl、5mMリン酸塩、0.005%ポリソルベート20、pH7.0)を含む2種の液体製剤を同定してさらに試験した。
実施例3:RHHNSのための凍結乾燥製剤
【0231】
この実施例の実験は、rhHNSのための凍結乾燥製剤および条件を最適化するよう設計した。特に、これらの試験は、凍結乾燥ケークの外観、rhHNS酵素活性および凍結乾燥製品の化学的完全性を含む、製品の安定性への製剤の影響についての情報を提供する。
【0232】
rhHNSを種々のリン酸塩ベースの凍結乾燥製剤に製剤化した。以下の製剤パラメータを試験した:(1)安定化剤:グルコース(0.5〜1%)もしくはスクロース(1〜1.5%);および界面活性剤:ポリソルベート20(0.02〜0.005%)。試験した全製剤に以下のパラメータを使用した:(3)15mg/mL rhHNS;(4)145mM NaCl;(5)5mMリン酸塩;(6)pH7.0。
【0233】
例示的製剤を表16の条件にしたがって凍結乾燥した。
【表16】
【0234】
グルコース含有製剤は、化学安定性が維持されるが(データ不掲載)、長い再構成時間(30分超)を有することが認められた。
【0235】
1%スクロースを含むrhHNS凍結乾燥製剤は、2〜8℃の15ヶ月データおよび25℃/40℃の3ヶ月データ(表17で以下に示す)を有し、SEC、RPおよびSDS−PAGEで1%以下の変化を示した。
【表17】
【0236】
1.5%スクロースを含むrhHNS凍結乾燥製剤は、2〜8℃の14ヶ月データおよび25℃の3月ヶ月データ(表18で以下に示す)を有し、SEC、RPおよびSDS−PAGEで0.2%以下の変化を示した。
【表18】
【0237】
ケーク外観および完全性(例えば、メルトバック)について凍結乾燥ケークを観察した。
図9Aで分かるように、1.5%スクロースと共に製剤化した凍結乾燥ケークは、1.0%スクロースと共に製剤化したものよりもケーク収縮が大きかった。1.5%スクロースと共に製剤化した凍結乾燥ケークはまた、VirTis装置対LyoStar装置などの異なる凍結乾燥装置により敏感であった(
図9B)。
【0238】
以下の表19に示すように、別の一連の実験により、スクロースの増加がケーク収縮の増大を生じさせることが確認される。
【表19】
【0239】
まとめると、これらのデータは、rhHNS凍結乾燥製剤中のスクロース濃度の増加が、安定性増大ならびに凍結乾燥ケーク収縮増大と相関したことを示している。
【0240】
再構成した凍結乾燥製剤を、Micro−Flow Imaging(MFI)により粒子の存在について観察した。例示的粒子画像を
図10に示す。
図10で分かるように、貯蔵後、1%および1.5%スクロースのいずれかを含む凍結乾燥製剤の再構成後に大きな粒子が観察された。
【0241】
凍結乾燥前製剤を、0.22μm濾過後の粒子の存在について観察した。
図11で分かるように、ポリソルベート20(P20)の存在が、0.22μm濾過時にP20がない場合に産生されるタンパク質様凝集剤を妨げた。したがって、P20は、濾過中に粒子形成を妨げるおよび/またはrhHNSタンパク質を保護するのに有効である。さらなる試験は、P20の存在が、rhHNS製剤中の凍結融解誘発粒子ならびに凍結乾燥誘発粒子の存在を減少させるのに有効であることを示した(データ不掲載)。
凍結乾燥条件
【0242】
凍結乾燥サイクル条件を試験して、rhHNS凍結乾燥製剤への影響を決定した。例えば、一次乾燥温度を−38℃から−20℃まで変化させ、酵素活性、SEC、RPおよびケーク外観によりrhHNS凍結乾燥製剤の安定性を決定した。これらの分析の例示的結果を以下の表20に示す。
【表20】
【0243】
分かるように、−38℃〜−20℃の一次乾燥温度の範囲内で安定性プロファイルの有意な差異は観察されなかった。凍結乾燥ケーク外観は、−20℃の一次乾燥温度でケーク収縮増大を示した。同様の結果が、1.25%および1.0%スクロースを含む凍結乾燥製剤でも観察された(データ不掲載)。
実施例4.ヘパランN−スルファターゼの慢性髄腔内投与
【0244】
本実施例は、ムコ多糖症IIIA(MPS IIIA;サンフィリッポ症候群)に特徴的な臨床像である神経症状を治療するために、髄腔内投与を用いて、組換えヒトヘパランN−スルファターゼ(rhHNS)のようなリソソーム酵素を脳組織内に効率的に送達することができることを示すものである。本実施例に記載されている実験は、rhHNSの慢性IT投与において高い忍容性が認められ、脳、脊髄および肝臓で用量依存的な酵素活性が検出されたことを示している。
【0245】
簡潔に述べれば、ムコ多糖症IIIA(MPS IIIA;サンフィリッポ症候群)に特徴的な臨床像である神経症状を治療するための、組換えヒトヘパランN−スルファターゼ(rhHNS)の髄腔内(IT)製剤を開発した。MPS IIIA患者の平均年齢が4.5歳であることから、発達中の脳に対する影響を評価するためのrhHNSに関するピボタルな毒性学試験を幼若カニクイザルにおいて行った。サルに髄腔内(IT)腰椎薬物送達装置を埋入し、隔週で短時間注入により投与し(1.5、4.5または8.3mg/投与のrhHNSを6か月間;12用量)、装置対照および溶媒対照には、ぞれぞれリン酸緩衝生理食塩水または溶媒を投与した。最後のIT投与の3か月および6か月後に1群当たり8個体(雌雄それぞれ4個体)の剖検を行い(装置対照群は3か月後に剖検)、溶媒群および3つのrhHNS用量群の8個体を最後のIT投与の1か月後に剖検した。rhHNSに関連する臨床兆候または肉眼的な中枢神経系の病変は観察されなかった。対照群に比べ、脳/脊髄を取り囲む髄膜/神経周膜において、脳脊髄液(CSF)白血球、主として好酸球の一過性の増加と相関する極めて軽度のものから最小限の平均重症度の細胞浸潤が見られたが、最終投与の1か月後に大部分が消散した。これらの変化は、脳または脊髄の有害な形態学的変化を伴わなかった。脳、脊髄および肝臓において、平均CSF中rhHNSレベルおよび組織中rhHNS活性レベルが高くなるという用量依存的な傾向があるようであった。無毒性量は最高用量である隔週投与の8.3mg/投与であったが、このことは、rhHNSが8.3mg/投与よりも高い濃度を含めた各種濃度で髄腔内に安全に投与され得ることを示している。
【0246】
サンフィリッポA疾患
ムコ多糖症IIIA型(MPS IIIA;サンフィリッポA疾患)は、世界の約100,000に1人が罹患する稀なリソソーム蓄積症であり、ヘパラン硫酸グリコサミノグリカン(GAG)のリソソーム異化作用に関与する外部スルファターゼであるヘパランN−スルファターゼ(HNS)の機能の欠如または不全が原因で生じる(Neufeld EFら,The Metabolic and Molecular Bases of Inherited Disease(2001)pp.3421−3452)。この酵素がなければ、ニューロンおよびグリア細胞のリソソーム内にヘパラン硫酸GAGが蓄積するが、脳以外での蓄積は少ない。この疾患に特徴的な臨床像は中枢神経系(CNS)の変性であり、この変性により、主要な発達段階がなくなるか、またはこれに達することができなくなる。進行性の認知低下から認知症および早期死亡に至る。
【0247】
rhHNSのIT送達
MPS IIIA患者の平均年齢が4.5歳であることから、発達中の脳に対する影響を評価するためのrhHNSに関するピボタルな毒性学試験を幼若カニクイザル(種の選択はヒトとの遺伝的および解剖的類似性に基づいた)において行った。文献によると、ヒトに対応するサルの年齢は、30〜40か月の小児に対して7.6か月〜12.1か月の範囲である(Hood RD,Developmental and Reproductive Toxicology:A practical approach(2006)p.276)。この取組みの一部として、rhHNSのIT腰椎投与を評価するために、幼若カニクイザルにおいて6か月間の毒性学試験を行った。以前の1か月齢幼若カニクイザルでの毒性試験から得られたデータを、6か月間反復投与による幼若サルでの試験の用量レベルの選択および計画の指針とした。今までに知られているデータに基づいて、これが幼若非ヒト霊長類でのERTの慢性IT投与に関する最初の試験である。
【0248】
本試験では、約6〜9か月齢、体重0.82〜1.81kgの56匹の雄および56匹の雌幼若カニクイザル(Macaca fascicularis)を用いた。サルにPMI−Certified Primate Diet 5048(Richmond、IN)のビスケットを毎日15個与えた。水は、ろ過された自動給水システムによる自由摂取とし、採尿期間は水を与えなかった。到着時からサルをステンレス製ケージ内で2〜4週間、グループ(1ケージ当たり2匹)で飼育したが、3か月齢の個体はステンレス製ケージ内で1匹ずつ飼育した。試験期間中は、全個体を、温度と湿度が管理された、明期12時間と暗期12時間のサイクルの部屋で、ステンレス製ケージ内で1匹ずつ飼育した。
【0249】
試験開始前に、全個体にSCポートおよびITカテーテルを外科的に埋入した。手術前にコハク酸プレドニゾロンナトリウム(IV、30mg/kg)およびフルニキシンメグルミン(筋肉内[IM]、2mg/kg)を投与した。個体をSC硫酸アトロピン(0.04mg/kg)で前処置し、IMケタミンHCl;8mg/kgで鎮静させて挿管し、約1L/分の酸素および2.0%イソフルランで維持した。腰椎(L
4、L
5またはL
6)の背側突起の上で切開を行い、先細ポリウレタンカテーテル(長さ25cm、外径0.9mm×内径0.5mm、6個の側孔の直径が0.33mm)を挿入するために、L
3、L
4またはL
5で半側椎弓切除術を行った。硬膜を小さく切開してカテーテルを挿入し、胸腰椎接合部の領域に向かって順方向に約10cm進めた。チタン製SCポートをITカテーテルに装着し、SC組織に埋入した。Isovue−300(0.8ml;Bracco Diagnostics、Inc.、Princeton、NJ)を用いた脊髄造影像により、適切なカテーテル留置を確認した。手術から回復させた後、個体に酒石酸ブトルファノール(IM、0.05mg/kg)およびセフチオフルナトリウム(IM、5.0mg/kg、1日2回を2日間)を投与した。
【0250】
本試験では、rhHNSを5mMリン酸ナトリウム、145mM塩化ナトリウムおよび0.005%ポリソルベート20を含むIT製剤溶媒(pH7.0)に溶かして調製した。rhHNSのEOW投与を、約11分間にわたる短時間注入、すなわち、6mL(4分)、次いで0.5mLリン酸緩衝生理食塩水(PBS)による洗い流し(7分)で行った。溶媒対照群の個体には、IT製剤のみを投与し、DC個体にはPBS(pH7.2)をITで投与した。
【0251】
病的状態および死亡
rhHNSに関連する死亡または早期の屠殺はなかった。投与時または毎日の観察時に、rhHNSに関連する臨床兆候は見られなかった。投与時または投与後に観察された誤留置、掻痒、振戦および運動失調は、投与の数分後〜約4時間後までに消散し、これらはrhHNSまたは溶媒に対する反応ではなく、容積に関連する反応であると考えらた。投与時および投与直後に観察された臨床兆候は、対照群(DCおよび/または溶媒投与群)において同等の発生率で見られたが、用量反応の証拠は見られなかった。一般に、投与時の臨床兆候の発生率は、後の投与ごとに減少していった。rhHNSに関連する、体重、摂餌量、身体所見および神経所見の変化、またはECGもしくは眼科検査における変化は見られなかった。
【0252】
臨床病理学
どのインターバル期間においても、rhHNSに関連すると考えられる血液学、血清化学、凝固または尿検査のパラメータの変化は見られなかった。
【0253】
CSFの細胞計数および化学
投与の24時間後に、DCおよび0mg/投与群を含めた全群の平均CSF白血球数に用量依存的な増加が見られた。投与した各用量で白血球数の全般的な増加が見られた。投与前に約半数の個体からCSFを採取したところ、これらの影響は、前回の投与から2週間で軽減されることが示された。投与5の後に、4.5mg/投与および8.3mg/投与群のrhHNS投与雄において、白血球の増加に加え、投与前の平均に比べて群の平均CSF中総タンパク質およびアルブミンの上昇(4〜5倍以下)が観察された(DCおよび0mg/投与群に対してP≦0.05)が、雌のrhHNS投与群ではそれほど明らかな傾向が見られなかった。
【0254】
rhHNS濃度および抗体解析
一般的に、血清中の平均rhHNSレベルは、全群の全時点において検出限界(LOD)未満であった。DC対照および溶媒投与対照群の個体のCSF中rhHNS濃度は、一般的に定量下限(LOQ)を下回っていた。統計解析は行わなかったが、CSF中の平均rhHNSレベルが1.5、4.5および8.3mg/投与群において高くなるという用量依存的傾向があるようであった。投与前のCSFの平均rhHNSレベルは、投与後のCSF中レベルよりも有意に低かった。試験終了時(主要剖検および回復後剖検)の6か月コホート(雌雄)における平均HNS濃度を表21にまとめる。所与の用量レベルにおいて、血清およびCSF中の抗HNS抗体レベルが試験を通して上昇し続けたにもかかわらず、CSF中のrhHNSの平均濃度は同じ範囲に維持されるようであった(
図12A)。
【表21】
【0255】
6か月/回復コホートでは、試験したどの時点でも、装置対照群(PBSのみ)または溶媒群で血清またはCSF中に抗HNS抗体が生じた個体はいなかった。1.5、4.5および8.3mg/投与群の全個体が、試験前(CSF)および投与2の前に採取した血清およびCSF試料中の抗HNS抗体に関して陰性(LOD未満)の試験結果であった。試験の終わりまでに、全個体が血清中の抗HNS抗体に関して陽性の試験結果となった。
【0256】
1.5mg/投与および8.3mg/投与群の全個体、ならびに4.5mg/投与群の8個体中6個体が、1つ以上の時点でCSF中の抗HNS抗体に関して陽性の試験結果であった。4.5mg群の2個体で、剖検を含めたどの時点でも試料が採取されなかったため、これらの結果は、rhHNSを投与した全個体が抗体反応を生じたことを示すと思われる。
【0257】
3つのすべての用量レベルにおいて、投与2の後に血清中の抗HNS抗体濃度が検出され、投与4の後にレベルが顕著に増加した。統計解析は行わなかったが、血清中の抗体濃度が高くなるという用量依存的傾向があると思われ、試験終了までに、3つのrhHNS投与群間でレベルが同等になった(
図12B)。本試験期間を通して、血清中の抗HNS抗体レベルは常にCSF中のレベルよりも高く(9〜236倍の血清中/CSF中抗体濃度)、CSF中濃度に対する血清中濃度で最も高い比(98および236倍)は、投与の比較的初期(6および10週目)に8.3mgの用量レベルで見られた。
【0258】
血清中の抗HNS抗体濃度は、投与の初期(6週目〜14週目)に、1.5mg、4.5mgおよび8.3mg/投与レベルにおいて、それぞれ9倍、16倍および16倍に増加した。同じ期間でのCSF中抗体濃度は、1.5mg、4.5mgおよび8.3mg/投与レベルにおいて、それぞれ30倍、41倍および52倍に増加し(
図12B)、1か月間の無投与回復相の後でもかなりのレベルが維持されていた(表22)。
【表22】
【0259】
抗HNS抗体が現れたのは、血清中よりもCSF中の方が遅かった(
図12C)。血清中またはCSF中の抗体濃度の明らかな用量依存的な差は観察されず(試料数が少ないため統計解析は行わなかった)、雌雄間での抗体反応の差は見られなかった。
【0260】
CSF中に抗HNS抗体が存在しても、CSF中のrhHNSの平均濃度は維持されるようであったが、このことは、血清およびCSF中に抗HNS抗体が存在しても、IT投与されたrhHNSの濃度レベルが変化しなかったことを示している。6か月間のrhHNS反復投与の6か月/回復コホートの解析は、3か月中間および6か月コホートの屠殺個体の抗HNS抗体濃度が同等であることを示していた(
図12C)。
【0261】
肉眼的および病理組織学的所見
全用量レベルにおいて(全屠殺間隔で、性別特異的に、または用量依存的であるというわけでないが)、脳(主として灰白質)、脊髄(灰白質および白質)、脊髄神経後根/神経節および三叉神経節(中用量雄のみ)の実質に好酸球浸潤(
図13)が見られた(
図13A〜13E)。浸潤は、髄膜/神経周膜の浸潤および/または組織実質内でのrhHNSの存在(透過)に続発するものであるように見えた。炎症型の変化が多数見られたが、カニクイザルはrhHNSの投与に対して忍容性があると思われ、どの浸潤も神経系実質の有害な形態学的変化に関連する、またはこれを引き起こすとは考えられなかった。具体的には、rhHNS投与に関連するニューロン壊死/変性の証拠およびグリア反応が見られなかった。
【0262】
脳および脊髄の灰白質における、主として好酸球による細胞浸潤に関連した小膠細胞症は、以前に行った1か月間の幼若サル毒性試験において比較的よく見られた。このような変化は、6か月間の試験の3か月目中間の屠殺ではあまり見られなかったが、このような反応の残存した証拠が6か月のコホートで見られた(
図13F)。ミクログリア細胞の反応は、一部の(通常、タンパク質ベースの)中枢に投与された(または中枢で反応する)被検試料に対する反応の比較的初期の事象であることが多い。好酸球浸潤は、rhHNS投与個体のCSFにおける好酸球数の増加と確かに相関していたが、有害反応を誘発するのに十分な数の細胞は存在しなかった。
【0263】
全用量レベルにおいて、雌雄に関係なく、ほとんどのrhHNS投与群の脊髄神経後根/神経節で好酸球浸潤が観察された。各種神経系組織における浸潤は、髄膜/神経周膜の浸潤および/または組織実質内でのrhHNSの存在(透過)により生じたものであるように見えた。回復後に屠殺した個体では、rhHNSに関連する影響は、一般に見られなかったか、または対照レベルまで減少していた。脊髄の小膠細胞症のような一部の変化は、回復期間の後に完全に消散していた。rhHNSに関連する変化は、脳または脊髄における有害な構造上の顕微鏡的変化を全く伴わないようであった。脳、脊髄または神経節のニューロン壊死は認められなかった。
【0264】
脊髄中の神経線維変性および神経膠症は、ITカテーテルの配置および/または存在に続発性であるように見えた。これらの変化は、対照とrhHNS投与群との間で比較的類似であった。脊髄神経根、シュワン細胞(末梢神経系のミエリン形成細胞)過形成および神経線維変性は、対照およびrhHNS投与サルの両方で存在した。これらの変化は、カテーテル配置時の1つまたは複数の脊髄神経根への損傷が原因であった。
【0265】
HNS酵素活性
6か月/回復コホートでは、溶媒投与群の脊髄および脳におけるrhHNS酵素活性(0.0〜0.154nmol/時・タンパク質mg)は、3か月中間コホートの組織で見られたレベル(0.0〜0.0154nmol/時・タンパク質mg)と同程度であった。脊椎での酵素活性レベルは、脳または肝臓で測定されたレベルよりも高く(腰椎では1桁分高かった)、4.5mgおよび8.3mg/投与群が同等のレベルであった。脊髄スライスのrhHNS酵素活性は、1.5、4.5および8.3mg/投与群において、雄(
図14A)でそれぞれ3.9〜18.6、13.1〜67.1および3.6〜69.2nmol/時・タンパク質mg、雌(
図14B)でそれぞれ1.8〜16.2、4.5〜61.2および21.1〜66.0nmol/時・タンパク質mgの範囲であった。1か月の回復期間後の脊髄組織では、酵素活性レベルが溶媒対照の数値と同じレベルまで戻っていた。
【0266】
脳スライスでのrhHNS酵素活性は、1.5、4.5および8.3mg/投与群において、雄(
図14C)でそれぞれ0.03〜16.0、0.30〜55.7および0.15〜21.2nmol/時・タンパク質mg、雌(
図14D)でそれぞれ0.04〜5.1、0.0〜14.4および0.9〜33.2nmol/時・タンパク質mgの範囲であった。回復後の脳組織では、酵素活性レベルが溶媒対照の数値と同じレベルまで戻っていた。
【0267】
内因性のレベル(DC群)と比較した、脳の異なる領域における活性の変化倍数を
図15Aに示す。表面の試料において分布が増加する傾向が認められたが、腰椎IT投与したrhHNSが脳室周囲領域まで透過することが示された。
【0268】
6か月/回復コホートでは、1.5、4.5および8.3mg/投与群において、肝臓における平均活性レベルが、雄でそれぞれ0.50、2.41および6.65nmol/時・タンパク質mg、雌でそれぞれ1.04、4.15および7.62nmol/時・タンパク質mgであった(
図15B)。溶媒対照個体のレベルは、雄で0.089nmol/時・タンパク質mg、雌で0.083nmol/時・タンパク質mgであった。回復期間後、肝臓におけるrhHNS活性レベルは、全用量群でベースラインの対照レベルと同等であった。
【0269】
免疫組織化学
3か月中間コホートおよび6か月/回復コホートにおけるボーラスIT注射によるCNSへのrhHNS送達の結果、免疫反応性の被検試料が脊髄および脳の軟膜クモ膜組織まで送達された。rhHNSでITを投与した個体では、免疫反応性物質が、髄膜マクロファージおよび血管周囲マクロファージ内(脳/脊髄)に一貫してに存在し、隣接するグリア細胞および神経細胞集団内にばらつきながら存在していた。溶媒投与対照の個体(
図16A)では染色が見られなかったことにより、ヒトHNSに対する抗体の特異性が示された。一般的に、免疫反応性は用量依存的であった(すなわち、半定量的な段階付けスケールを用いて、免疫組織化学染色の一般的な用量依存的増加が認められた)。ボーラスITによるCNSへのrhHNS送達により、大脳皮質および小脳において陽性の免疫染色が生じた(
図16B〜16D)が、免疫反応性は、尾状核/被殻領域、中脳、または脳橋もしくは髄質の深部領域で一貫して明らかというわけではなかった。rhHNSを投与した全個体の肝臓において(肝細胞ではなく、Kupffer細胞を含めた類洞壁細胞において)、免疫反応性が明らかであった。修理不可能なカテーテル漏れのため早期に屠殺した1匹の雌(4.5mg/投与群)では、免疫反応性が明らかではなかった。
【0270】
1.5mg/投与群では、一部の残存した免疫反応性が明らかな肝臓および脳と脊髄の髄膜を除き、基本的に完全な回復が明らかであった。高用量(4.5および8.3mg/投与)では、免疫反応性強度および発生率が投与終了時よりも低かった。全用量レベルにおいて、1か月間の回復後に、脊髄、脳および肝臓のrhHNSレベルが、溶媒投与対照で見られたレベルに近かった。
議論
【0271】
本試験では、ITで行った6か月間のrhHNSのEOW送達では、一般に高い忍容性が認められた。体重、臨床状態、眼科検査/神経学検査/身体検査、ECG、器官重量または器官の肉眼的外観の顕著な変化は観察されなかった。所見は、ごくわずかなものから軽度までの髄膜浸潤および硬膜外炎症を伴った、CSFの臨床病理における一過性の変化に限られていたが、これらは、回復期間後には、最高用量群を除く全群でほぼ完全に回復した。脳および脊髄全体にわたるrhHNSの広範な分布が観察された。
【0272】
rhHNSのEOWでのIT投与により、残存性の白血球浸潤およびアルブミン浸出を特徴とする炎症性応答が誘発され、これが投与の24時間後および剖検時に認められた。特定の理論に拘束されることを望むわけではないが、これはおそらく、カテーテル先端付近のタイトジャンクションの変化に関連した、局所的な一過性のBBBの不完全な開口により、白血球および血漿タンパク質がCSF内に侵入したことによるものであろう (Simard JMら,Lancet Neurol.(2007)6,258−268;Stamatovic SMら,Curr.Neuropharmacol.(2008)6,179−192)。これは2つの要素、すなわち、1つは投与の方法または量に関連する要素、もう1つはタンパク質のIT投与に関連する要素の結果であり得る。
【0273】
BBB透過性の一過性の変化(投与の24時間後の剖検時の各用量群および対照の間に有意な差はなかった)は、いかなる臨床兆候も伴わなかった。
【0274】
平均CSF中rhHNSレベルが高くなるという用量依存的傾向があると思われたが、所与の用量レベルにおいて、血清中およびCSF中の抗HNS抗体レベルの増加にもかかわらず、CSF中のrhHNSの平均濃度は同じ範囲で維持されるようであった。
【0275】
rhHNSを投与した幼若ザルの脳および脊髄において、ごくわずかなものから最小限までの平均重症度の髄膜の細胞浸潤が観察された。この顕微鏡的変化は溶媒投与対照でも認められ、一部の反応がITカテーテル留置および外来タンパク質に対する非特異的炎症性応答に関連していたことを示している。特にCNSに浸透する生物製剤/タンパク質をIT内に導入すると、ほとんどの場合、ある程度の炎症性応答を誘発し(Hovland DNら,Toxicol.Pathol.(2007)35,1013−1029;Butt MT,Toxicol.Pathol.(2011)39,213−219)、隣接する組織に損傷を与えるだけの数が存在すれば、有害作用を示し得る。しかし、本試験では、これらの細胞(主として好酸球)は、組織の反応/組織への浸透のマーカーになると思われ、有害反応と見なすのに十分な量では見られなかった。rhHNSに関連する変化は、脳または脊髄における有害な構造上の顕微鏡的変化を伴わないようであった。脳、脊髄または神経節のニューロン壊死は認められなかった。
【0276】
神経線維変性、カテーテル管線維症および脊髄の圧縮を含む、いくつかのサルにおける薬剤送達装置に関連した脊髄の後脊髄路の変化があった。これらの変化のいずれも、ITカテーテルの近くに生じたという点でrhHNSに関連するとみなされなかった。IT腰椎薬剤送達装置は、ヒトより小さいIT空間を有する幼若サルでのIT埋め込み用に特別に設計されなかった。IT試験における対照(装置および/または生理食塩水投与)動物からの顕微鏡評価データのレトロスペクティブ分析は、いくらかの最小限の髄膜浸潤、ならびにカテーテル管関連炎症、線維症および神経膠症、ならびに脊髄神経線維変性が見られると結論づけた(Butt MT、Toxicol.Pathol.(2011)39、213〜219)。
【0277】
抗被検試料抗体の評価は、被検試料のクリアランスまたは生体内分布に対する中和抗体または結合抗体による潜在的な影響を理由に、毒性試験の重要な側面である(Ponce RPら,Regul.Toxicol.Pharmacol.(2009)54,164−182)。本試験では、3か月中間コホートおよび6か月コホートの脳および脊髄において、用量依存的なおよび定量的に同様のレベルのrhHNS酵素活性が認められ、また血清およびCSF中の抗HNS抗体レベルの増加にもかかわらずCSF中のrhHNS平均濃度が同じ範囲に維持されるようであったが、本発明者らは、中和活性が見られないと結論づけた。
【0278】
脊髄、脳および肝臓において、rhHNS酵素活性のレベルが高くなるという用量依存的傾向が見られるようであったが、そのレベルは、脊髄の腰部領域では注射部位付近が最も高く、脳では均一であり、また吻側から尾側にかけて、および右半球と左半球の間で有意差はなかった。6か月コホートの脳および脊髄組織では、3か月中間コホートに比べて、rhHNS蓄積の証拠が認められなかった。表面試料では分布が増加する傾向が認められたが、腰椎IT投与したrhHNSは深部の脳室周囲領域まで浸透した。肝臓でのrhHNS酵素活性は、rhHNSがIT送達後に全身に再分布することを示していたが、肝臓では、ピボタルな毒性試験における臨床病理パラメータおよび解剖病理パラメータの評価により、rhHNSに関連する有害作用は観察されなかった。
【0279】
全般的に、免疫組織化学の結果は、脊髄および脳の軟膜クモ膜髄膜、ならびに髄膜に隣接する神経組織(ニューロン、グリア細胞)において用量依存的な免疫反応性が観察されたという点で、組織酵素活性を裏付けるものであった。ボーラスIT注射または短時間IT注入後に、大脳および小脳の灰白質への良好な浸透が見られた。視床/視床下部の大脳基底核もしくは中心領域、中脳または脳橋/髄質のような深部構造では、免疫反応性は明らかではなかったが、酵素活性の結果は、腰椎IT投与したrhHNSが深部の脳室周囲領域に浸透したことを示している。したがって、免疫組織化学は、被検試料の生体内分布の検出に関しては感度の低い手法であるのかもしれない。免疫反応性は、肝臓のKupffer細胞および内皮細胞(食作用が可能な細胞)では明らかであったが、実質細胞(肝細胞)では明らかではなかった。
【0280】
幼若ザルにおける6か月間のIT反復投与の毒性試験に関する6か月/回復コホートの解析は、脊髄、脳および肝臓における生存中パラメータ、臨床病理および解剖病理、CSFおよび血清中のrhHNSおよび抗HNS抗体の濃度ならびにrhHNSの分布/細胞内局在を含めたrhHNSに関連する変化が、3か月中間屠殺および6か月屠殺の個体において同等であることを示していた。回復後屠殺の個体では、rhHNSの影響が見られなかったか、または有意に減少していた。したがって、6か月幼若ザルにおける試験の無毒性量は、最高投与量の8.3mg/投与であった。
【0281】
CSFの細胞充実度およびタンパク質濃度の変化をモニターすることは、病理組織学的評価で認められる形態学的変化の信頼できる関連要素であると考えられ、rhHNSによりITで治療した患者において有用であり得る。これらの変化は、IT投与したタンパク質に対する予想された反応であると考えられ、回復期間後に大部分が消散した。動物モデルによるこれらのデータは、リソソーム蓄積症の神経症状の治療ストラテジーとしてIT療法を追求するための確信を与えるものである。この幼若非ヒト霊長類での毒性学試験は、IT腰椎薬物送達装置によりrhHNSを小児患者に投与することの実現可能性および忍容性を示している。有害なCNS病理および有害な臨床兆候が見られなかったことは、最近の試験医薬品の書類承認を支持し、また、IT投与したrhHNSがサンフィリッポA症候群のCNS症状を安全かつ効果的に治療し得ることを示すものであった。
【0282】
本実施例に記載されている各種実験で使用された材料および方法の例を以下に記載する。
【0283】
試験計画およびrhHNS投与
サルを無作為に5つの処置群に分けた。群1には処置を施さず(埋植物装置対照[DC]、ポートおよびカテーテル)、溶媒も被検試料も投与しなかった。群2〜5には、0、2.5、7.5または13.8mg/mlのrhHNSを0.6mL(すなわち、0、1.5、4.5または8.3mgの総用量)を、EOWでITにより投与した。3か月目に4個体/性別/群の剖検行い(中間剖検;6回目の投与の24時間後)、投与6か月目に4個体/性別/群(3か月目に剖検するDC群を除く)の剖検を行い(主要剖検:12回目の投与の24時間後)、1か月間の回復期間終了時に残りの4個体/性別/群の剖検を行った。剖検時に、選択した組織を採取し、処理して、顕微鏡で観察した。
【0284】
rhHNSを5mMリン酸ナトリウム、145mM塩化ナトリウムおよび0.005%ポリソルベート20(pH7.0)からなるIT製剤溶媒に溶かして準備した。rhHNSの隔週投与を、約11分間にわたる短時間注入、すなわち、6mL(4分)、次いで0.5mLリン酸緩衝生理食塩水(PBS)による洗い流し(7分)で行った。溶媒対照群の個体には、IT製剤のみを投与し、DC個体にはPBS(pH7.2)をITで投与した。
【0285】
臨床評価
臨床兆候および病的状態および死亡の観察を、最初の投与から始めて少なくとも1日2回記録した。手術前、手術当日、試験期間中の週1回および剖検時に体重を測定した。摂餌量を、手術前から始めて毎日モニターした。試験開始前、試験期間中の毎月および剖検前に身体検査(心拍数、呼吸、体温、聴診、歩行運動、気性、腹部触診、リンパ節および全般的な外観)および神経学的検査(意識のレベル、追跡検査)を行った。運動機能、大脳反射(瞳孔反射、瞬目反射および角膜反射)および脊髄反射(足感覚反射、膝蓋腱反射、皮膚反射、固有感覚反射および尾部反射)も評価した。最初のrhHNS投与前および中間剖検(3か月)または主要剖検(6か月)の前の週に、心電図検査(ECG;リードI、IIおよびIII)および眼科検査を行った。サルをケタミンHCl(IM、8mg/kg)で鎮静させ、眼を1%トロピカミドで散大させて、倒像検眼鏡による眼科検査を行った。
【0286】
臨床病理学
血液試料を、試験開始前、IT投与1、3、5、7、9および11の後、回復期中間および剖検時に、血液学および血清化学用に絶食個体から採取した。尿試料を、投与前、投与期間および回復期間の月1回、ならびに剖検前に受け皿から採取した。全細胞計数および化学分析用のCSF試料を、手術時、およびIT投与1、3、5、7、9、11の24時間後、回復期中間、および剖検時に腰椎カテーテルから採取したが、カテーテルの部分的な閉塞により試料が採取されない場合もあった。予想を上回るCSF白血球数が認められたため、3か月投与の5つのCSF試料は、投与前に各群の半数の個体から、また投与の24時間後に残りの個体から採取した。投与直前にCSFの量をあまり変化させないように、投与前の試料採取を投与の少なくとも1日前に行った。6か月個体および回復個体では、全細胞計数および化学分析用に、CSFを投与前に各群の半数の個体から、また投与の24時間後に残りの個体から採取した。閉塞によりカテーテルから試料が採取されない個体では、剖検時に脊椎穿刺(大槽)を行った。
【0287】
rhHNS解析
rhHNS解析用の血液試料を、IT投与2、4、6、8、10、12の前および24時間後、回復期中間、および剖検時に末梢静脈から採取した。CSF試料を、IT投与2、4、6、8、10、12の前および24時間後、回復期中間、および剖検時に腰椎カテーテルから採取した。rhHNS濃度を酵素結合免疫吸着測定により決定した。捕捉抗体はポリクローナルウサギ抗HNS IgG、検出抗体は同じウサギ抗HNS IgGの西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲートであった。LODは0.22ng/mLであったため、LOQは0.66ng/mLと算出された。血清およびCSF試料を1:100および1:5希釈で二重反復によりスクリーニングし、検量曲線の上限を超えた試料はさらに希釈して再試験した。
【0288】
抗HNS抗体解析
抗体解析用の血液を、IT投与2、4、6、8、10、12の約1週間前、回復期中間、および剖検時に末梢静脈から採取した。抗体解析用のCSF試料を、手術時に、およびIT投与2、4、6、8、10、12の約1週間前、回復期中間、および剖検時に腰椎カテーテルから採取した。Meso Scale Discovery(MSD(登録商標))技術の電気化学発光ブリッジ試験を抗HNS抗体の検出に用いた。このアッセイは、任意の種の抗HNS抗体およびすべての免疫グロブリンアイソタイプのための一般的な高感度のスクリーニング方法である。LODは5ng/mLであり、試料を1:20希釈で二重反復によりスクリーニングし、有効な100ng/mLのアッセイ感度が得られた。検量曲線の上限を上回った試料はさらに希釈して再試験した。
【0289】
剖検および組織標本作成
最後のIT投与の24時間後(主要剖検)または1か月間の回復期間の終了時(回復後剖検)に完全剖検を行った。全個体をケタミンHCl(IM、8mg/kg)で鎮静させ、イソフルラン/酸素混合物下で維持し、ヘパリンナトリウム(200IU/kg)のIVボーラス投与を行った。生理食塩水に溶かした室温の0.001%亜硝酸ナトリウムにより、200ml/分の速度で12分間(約2400ml)、左心室から還流を行った。採取後、組織試料を、病理組織学検査/免疫組織化学解析用には10%中性緩衝ホルマリンで固定し、rhHNS活性の解析用には、ドライアイス上で凍結させて−60℃以下で保管した。
【0290】
脳マトリックス(MBM−2000C、ASI Instruments、Inc.、Warren、MI)で脳を3mmの冠状スライス厚に切った。最も吻側のスライスをスライス1として、スライスに番号を付した。スライス1、4、7、10、13および16を組織病理用に処理し、スライス2、5、8、11、14および17(入手できれば)を免疫組織化学用に処理した。スライス3、6、9、12および15をrhHNS活性の解析用に凍結させた。脊髄(頸部、胸部および腰部)を1cmの切片に切った。最初のスライスと、そこから2枚おきのスライスを病理組織学的評価用に処理し、2番目のスライスと、そこから2枚おきのスライスを免疫組織化学解析用に処理した。3番目のスライスと、そこから2枚おきのスライスをrhHNS解析用に凍結させた。髄腔内カテーテルの先端部を含むスライス(スライス0)がホルマリンで固定され、組織病理に関して解析されるように、スライスの配分を調節した。約5gの肝臓の重複試料を2つの別々の葉から採取してrhHNS解析用に凍結させ、約5gの追加の試料を免疫組織化学解析用に固定した。
【0291】
組織病理学
脳、脊髄、脊髄神経後根/神経節、坐骨神経、脛骨神経および腓腹神経、全組織リスト(この種でのこの期間の前臨床薬物安全性試験に典型的なもの)およびあらゆる肉眼的病変を、剖検時に全個体から採取した。全体的な顕微鏡評価用に、組織切片をパラフィンに包埋し、ヘマトキシリンおよびエオシン(以下に記す特殊なすべての染色/包埋法に加えて)で染色した。
【0292】
パラフィンブロックで作成した装置対照群、溶媒対照群および高用量群個体の脳切片を、フルオロ−Jade B(神経変性の評価の感度を増強する染色)およびBielschowsky銀(軸索、樹状突起および神経フィラメントを直接可視化することができる処理)で染色した。フルオロ−Jade Bで染色したスライドを、フルオレセインイソチオシアネートフィルターキューブを用いて、蛍光下で調べた。
【0293】
脊髄を連続的に薄切し、カテーテル先端の位置の切片を含めた頸部、胸部および腰部で横断切片および斜位切片を切り(各レベルで1枚のスライスを調べた)、馬尾領域からさらに横断切片を切った。脊髄神経後根および神経節(中頸部、中胸部および中腰部)を処理して調べた。末梢神経(坐骨神経、脛骨神経および腓腹神経)を縦方向に薄切してパラフィンに包埋し、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色した。横断切片をオスミウムで前固定してSpurr樹脂に包埋し、薄切して(2μm)、トルイジンブルーで染色した。装置対照群、溶媒対照群および高用量群の脊髄の連続切片、ならびに脊髄神経後根および神経節をBielschowsky銀で染色した。また、これらの群の脊髄切片を、アストロサイトとその突起を直接可視化することができる免疫組織化学染色である抗グリア線維性酸性タンパク質でも染色した。
【0294】
定量分析用の組織抽出物の調製
凍結させた脳スライス3、6、9、12および15を、左半球と右半球に分割して分けた。各半球の表面から4mmを測って表面組織を採取し、残りの組織を深部組織とした。存在すれば(例えば、スライス6および9が)、さらに脳室周囲の試料を冠状スライスから切り取った。脳の半分(右側)だけを処理した(左側は凍結させたままであった)ため、薄切により得られたのは、スライス1枚当たり2つ〜3つの試料、すなわち、右側表面、右側深部および存在すれば右側脳室周囲(すなわち、脳室深部;Vdeep)であった。小脳および脳幹組織が存在すれば、半球を分割する前に分離して別に処理した。これと同様に脊髄切片を処理し、重量を量り、ホモジナイズした。
【0295】
10mM Tris、5mMエチレンジアミン四酢酸、0.1% IgepalにAlpha Completeプロテアーゼ阻害剤微小錠剤(Roche Diagnostics、Indianapolis、IN)を加えて調製した溶解緩衝液(1ml/0.25組織g)中、TeenA Lysing Matrix Aチューブまたはポリプロピレン製コニカルチューブを用いて組織試料をホモジナイズした。Fastprep−24自動ホモジナイザー(MP Biomedicals、Solon、OH)またはPowerGen Model 125動力付きホモジナイザー(Omni International、Kennesaw、GA)で試料を40秒間処理した。ホモジナイズした後、試料をエタノール/乾燥氷浴および37℃の水浴を用いた5回の凍結融解サイクルに供し、次いで、4℃での遠心分離により組織破片を沈殿させ、上清をアッセイまで−80℃で保管した。特異的基質(4−メチルウンベリフェリル−α−D−N−スルホグルコサミニド)を用いて、2段階の蛍光定量アッセイによりrhHNS活性を決定した。
【0296】
免疫組織化学のための組織の処理および染色
ホルマリン固定した厚さ3mmの各個体の冠状脳スライス(スライス番号2、5、8、11、14および17)6枚に、吻側から尾側に向かって1〜6までの番号を付した。一般に、スライス1〜4には基底核/視床/中脳および大脳が、尾側の2枚のスライスには小脳および脳幹(延髄)組織が含まれていた。脳、脊髄および肝臓の切片(H&E染色および各種特殊な染色で用いたものと同じパラフィンブロックのもの)を、rhHNSに対して免疫組織化学的に染色した。特異的マウスモノクローナル抗体(クローン2C7;Maine Biotech、Portland、ME)を用いて、IT投与したrhHNSの細胞内への取込みを検出し、この試薬により、内因性のカニクイザルrhHNSとの交差反応性がないことが示された。陰性対照は無関係なマウスIgGを用いて行った。脱パラフィンしたスライドを、一次マウス抗HNS抗体とともに2〜8℃で一晩インキュベートした。二次ヤギ抗マウスビオチン化免疫グロブリンGを加え、37℃で30分間インキュベートした。アビジン/ビオチン化西洋ワサビペルオキシダーゼ複合体を加えて、30分間インキュベートした。スライドをペルオキシダーゼ基質のジアミノベンジジン溶液中、所望の染色強度になるまでインキュベートした。核をヘマトキシリンで対比染色した。
【0297】
統計解析
体重、体重変化、摂餌量、呼吸数、体温、心拍数、CSF細胞計数、CSF化学、臨床病理学データ、尿データ、ならびに絶対および相対器官重量を、一元配置分散分析、ならびにDunnett検定による装置対照および溶媒対照群と各rhHNS投与群との比較により解析した。さらに、2つの対照群を統計解析により相互に比較した。解析は、両側5%および1%の有意性レベルであった。全データを平均±標準偏差で表す。
【0298】
実施例5:ヘパランN−スルファターゼの生体内分布および薬物動態試験
本実施例の実験は、ラットにおけるrhHNSの静脈内または髄腔内単回投与(1mg/kgまたは10mg/kg)後のrhHNSの組織分布を決定するために計画された。中でも例えば、これらの実験の目的は、陽電子放射断層撮影(PET)を用いてラットにおけるrhHNSの生体内分布(BD)特性を特徴付けること;異なる経路(IVまたはIT)および異なる用量(1mg/kgまたは10mg/kg)で投与したときのrhHNSの分布パターンを比較すること;ならびに上記投与レジメンでの各対象器官におけるrhHNSの薬物動態特性を決定することであった。
【0299】
ラットにおける1mg/kgまたは10mg/kgの
124I−HNS静脈内(IV)または髄腔内(IT)単回投与後の
124I−スルファミダーゼ(rhHNS)の薬物動態(PK)および生体内分布(BD)プロファイルを組織PET画像法により調べた。最初の20分間の動態像ならびにIVまたはIT投与の0.05(IT投与のみ)、1、2、4、8、24、48、96および192時間後の静態像から、対象領域における放射活性−時間のデータ得た。
【0300】
4つの各群(1mg/kg IV、1mg/kg IT、10mg/kg IVおよび10mg/kg IT)の4匹のラットを本試験に用いた。IT投与後に頭部、脳(脳脊髄液、CSFを含む)、脊椎および肝臓領域における放射活性−時間のデータを、またIV投与後に血液、脳(CSFを含む)、肝臓、腎臓、心臓(肺を含む)および皮膚における放射活性−時間のデータを測定した。データをヨウ素124の崩壊半減期(100.2時間)により補正し、対象領域における注射量(%ID)または画像化した組織1グラム当たりの%ID(%ID/g)の百分率として表した後、体重200グラムに対して正規化した。対象領域における投与されたタンパク質総量(ug)または濃度(μg/g)を、対応する%IDまたは%ID/gのデータから計算した。
【0301】
IT投与後の最初の20分間は、1mg/kgおよび10mg/kgにおいて、頭部領域のrhHNSの総量が0.002/分〜0.011/分(λz)の一定速度で減少した。本報告では、2つの用量間および2つの投与経路間での薬物動態の比較にクリアランス速度および分布容積を用いなかった(詳細な情報に関しては結果の節を参照されたい)。脳の一定の消失速度は、2つの試験用量で基本的に同じ(λz:1mg/kgと10mg/kgでそれぞれ0.016/時と0.014/時)あり、IT投与の192時間後までの静態像による決定された半減期は、同じ約2日であった。CmaxおよびAUC(0−lastまたは0−infinit)の値は、投与量に比例していた。これらのIT単回投与レジメンで投与した1〜10mg/kgの用量範囲において、直線的なPK挙動が示された。脊椎の近位部分から遠位部分にかけて、濃度勾配が両用量レベルで観察された。
【0302】
IT投与後、肝臓のrhHNSタンパク質は、1mg/kgのrhHNSでは96時間後まで、10mg/kgのrhHNSでは192時間後まで測定可能であった。肝臓中の濃度は、1mg/kgでは2時間後に、10mg/kgでは7時間後にピークに達した。1mg/kgにおける消失は0.030±0.011/時(平均λz)であり、10mg/kgにおける消失(λz:0.017±0/時)との間に有意差はなく(p=0.10)、対応するt1/2(1mg/kgおよび10mg/kgの用量でそれぞれ28時間と42時間)を有していた。
【0303】
IV投与後の肝臓、腎臓、心臓および皮膚における消失半減期は、1mg/kgおよび10mg/kgでそれぞれ、肝臓が47±10時間および38±13時間、腎臓が54±25時間および29±16時間、心臓が36±15時間および42±19時間、皮膚が40±21時間および31±13時間であったのに対し、脳における半減期は71±23時間および60±53時間であった。肝臓、皮膚、腎臓、心臓および脳のCmaxの平均値は、1mg/kgでは9.6μg/g、0.30μg/g、0.25μg/g、0.22μg/gおよび0.08μg/g、10mg/kgでは132μg/g、7.9μg/g、3.9μg/g、3.7μg/gおよび1.8μg/であった。各個体のCmax値を用量に対して正規化すると、10mg/kgのCmax/投与の値は、上記すべての器官で1mg/kgの値よりも有意に高かった(p値のほとんどが0.05未満、肝臓ではp=0.06)。肝臓、皮膚、腎臓、心臓および脳のAUClastの値は、1mg/kgでは525時間・μg/g、16時間・μg/g、14時間・μg/g、9時間・μg/gおよび7時間・μg/gであり、10mg/kgでは6747時間・μg/g、276時間・μg/g、183時間・μg/g、201時間・μg/gおよび86時間・μg/gであった。正規化後の10mg/kgにおけるAUClast/投与の値は、皮膚では1mg/kgの値よりも有意に高く(p<0.01)、心臓ではわずかな差が見られ(p=0.06)、肝臓、脳および腎臓では有意な差がなかった(p値はすべて0.34を上回った)。
【0304】
同じ用量のrhHNSを注射した場合、髄腔内投与では静脈内投与よりも3logだけ大きい脳曝露量が得られた。脳における消失半減期は、ITでは2日、IV投与では3日であった。しかし、IT投与後の肝臓の曝露量は、同じ用量のrhHNSでIV投与後の曝露量と同程度であった。1mg/kgおよび10mg/kgのIT/IVによる肝臓での曝露量(CmaxおよびAUClast)は、0.4〜1.2の範囲であった。
【0305】
実験計画
中枢神経系(CNS)は大部分のリソソーム蓄積症に対して弱く、サンフィリッポ(ムコ多糖症III)、異染性白質ジストロフィー(MLD)およびハンター症候群のようないくつかのタイプの上記疾患では重度の損傷を受ける。本明細書に記載されているように、末梢投与した場合は血液脳関門を透過しにくいため、酵素タンパク質をCNS内への直接投与することにより、中枢神経組織での酵素タンパク質の濃度が増加し、さらにその治療効果が増強され得るということが考慮される。本試験では、異なる用量レベルで髄腔内(ITまたは大槽)投与を調べてIV投与と比較した。
【0306】
PETは非侵襲性の反復可能な定量技術であり、対象器官における薬物濃度の経時的な動的変化がわかる。標的器官(血液循環中以外の活性部位)における動的な濃度−時間のデータは有用であり、投与薬物の生物活性に直接関連するものである。さらに、動物でのPET試験から得られた組織曝露量に関する情報を、ヒトでの初回投与量の選択の指針として利用することができる。
【0307】
材料および方法
被検試料
rhHNS濃度が20mg/mlのヘパリンN−スルファターゼ(rhHNS)を、145mM塩化ナトリウムを含むpH7.0の5mMリン酸ナトリウム緩衝液中で調製した。この材料をRP−HPLCにより精製して、99.9%が二量体であるヘパリンN−スルファターゼを98.7%含有させた。rhHNSをヨウ素124で標識した。
【0308】
試料入手源
放射活性画像を、
124I−H−N−スルファターゼを1mg/kgおよび10mg/kgでIVおよびIT投与した後のラットから得た。
【0309】
動物
16匹の雄Sprague−DawleyラットをCharles River Laboratories社から購入し(190±60g、n=16)、4群(n=4)に分けた。上記の各ラット群(全4群)に対し、異なる用量(1mg/kgおよび10mg/kg)で単回のIVまたはIT注射を行った。用量および注射量を、各個体の体重に基づき個々に調節した。2つのIV処置群では、35mg/kgの用量のペントバルビタールナトリウムのIV注射により鎮静化を行った。静脈内投与を、尾静脈からボーラス注射で行った。2つのIT処置群では、50mg/kgの用量でペントバルビタールナトリウムを腹腔内投与してマウスを麻酔した。髄腔内投与を、大槽レベルで環椎後頭膜から1分間にわたって行った。実際に投与された放射活性をPETにより測定し、注射量として用いた。
【0310】
実験方法および/またはアッセイ方法
IV注射後に心臓(肺を含む)、肝臓および腎臓の領域において、IT投与後に頭部領域において、最初の20分間の動態像(2分ごと)を2つ用量で得た。投与の0.05(IT群のみで入手)、1、2、4、8、24、48、96および192時間後に、IV処置群では脳(脳脊髄液CSFを含む)、肝臓、腎臓、心臓(肺を含む)、筋肉、皮膚および骨を含む領域において、IT処置個体では頭部、脳(CSFを含む)および肝臓の領域において静態像を得た。画像を再構築して、3つの身体断面を1つの画像に融合した。
【0311】
データ解析
PETデータを1mL当たり(液体)または1g当たり(組織)のナノキュリー(nCi)数で表した。静態像での脳、肝臓、腎臓、骨格筋、胃、心臓(肺を含む)および皮膚領域の相対活性を得た。IT注射した個体の頭部または脳領域全体の絶対活性を得た。IT注射した個体の脊柱1ミリメートル当たりの放射活性を、3つの選択した断面;近位(頸部)、中位(肝臓上端の背部)および遠位(タンパク質を含む区画の遠位端から1cmのところ)の脊椎において決定した。
【0312】
全データを
124Iの崩壊半減期(100.2時間)により補正し、外部で測定された活性による
124I源の較正に基づく有効な位置合せ対して正規化した。次いで、データを全領域(頭部および脳)の注射量(%ID)または組織1グラム当たりの%ID(%ID/g)の百分率として表した後、体重200グラムに対して正規化した[データの正規化:(%IDまたは%ID/g)/個体体重×200]。各群4個体しか使用しなかったため、正規化を導入してデータのばらつきを低減した。
【0313】
本試験では、各個体に注射したタンパク質投与量を用いて、rhHNSタンパク質の濃度または量を以下のように計算した:タンパク質濃度(μg/g)=(%ID/g)×(注射量のmg/kg×1000×0.2);対象領域における投与タンパク質の総投与量(μg)=%ID×(注射量のmg/kg×1000×0.2)、ここで、注射量は1mg/kgまたは10mg/kgであり、0.2は体重に対する正規化係数である。4つの各群の個々の非コンパートメントデータに基づき、群の各PKパラメータの平均および標準偏差を計算した。Studentのt検定を行って、λz、t1/2、CmaxおよびAUCの値を2つの試験用量間および2つの投与経路間で比較した。統計的有意性は、p値が0.05未満(p<0.05)であることと定めた。
【0314】
結果
下の表、図およびPK解析中のrhHNSの量(μg)または濃度(μg/g)を、注射したタンパク質投与量(1mg/kgまたは10mg/kg)と、対応する%IDまたは%ID/gの値とを乗じることにより計算した。
【0315】
1mg/kgおよび10mg/kgの用量での
124I−HNSによる髄腔内処置
動態像から得られた頭部領域での投与タンパク質の量(μg)を、時間の関数として
図17にプロットした。静態像から得られた脳領域での濃度(μg/g)を、時間の関数として
図18にプロットした。静態像から得られた、脳および脳領域内の注射したタンパク質の総量(μg)を、時間とともにそれぞれ
図19および
図20にプロットした。近位、中位および遠位脊椎の濃度−時間曲線(μg/mm)を
図21〜
図23に示した。
図24は、肝臓中のrhHNS濃度(μg/g)の変化を、1mg/kgおよび10mg/kgでの
124I−HNSのIT投与後の時間とともに示したものである。
【0316】
総量−時間(μg)または濃度−時間(μg/g)のデータを非コンパートメントモデル(WinNonlin 5.2、Pharsight、Mountain View、CA)により解析した。一定の消失速度(λz)、ピーク濃度(Cmax)、終末相半減期(t1/2)、血中濃度曲線下面積(AUClastおよびAUC0−inf)などのPKパラメータを、各個体のデータから推定した。
【0317】
クリアランス速度および分布容積を推定したが(付属書類3参照)、本報告では、以下のような2つの理由で、2つの用量間および2つの投与経路間でのPK比較には使用しなかった:(1)本試験は、血中PKではなく固体組織中のrhHNSの生体内分布に焦点を当てたものであった;(2)脳領域の放射活性は脳組織(固体)とCSF(液体)の放射活性の合計であり、本試験では両者を互いに分離することができなかった。λzは単位時間当たりに消失した注射量の百分率を示すものであったため、これを評価して比較に用いた。
【0318】
群の平均および標準偏差(SD)を計算し、2つの用量間で比較した。これらのPKパラメータを下の表23にまとめる。
【表23】
【0319】
投与後の最初の20分間に、頭部領域のrhHNSの総量(ug)が、1mg/kgでは1分当たり0.002〜0.011(λz、0.005±0.004/分)、10mg/kgでは1分当たり0.003〜0.010(0.007±0.003/分)の一定速度で減少した。これら2つの用量レベルの一定の消失速度の間に有意な差は見られなかった(p=0.57、
図17)。
【0320】
脳の濃度−時間曲線(μg/g、0.05〜192時間)は、二相性のプロファイルを示した(
図18)。初期相は約2時間続く。一次速度過程の後に終末相が続く。脳の一定の消失速度は、2つの試験した用量において非常に類似し(1時間当たり0.0016±0.003および0.014±0.001)、約2日という半減期も類似していた(1mg/kgおよび10mg/kgにおいてそれぞれ45±7および49±4時間)。ピーク濃度の値(257±90および2628±265μg/g)およびAUClast(1mg/kgおよび10mg/kgにおいてそれぞれ8393±2457および83962±10083時)は、用量を1mg/kgから10mg/kgに増加させると約10倍増加する。上記の観察は、これらのIT単回投与レジメンでの1〜10mg/kgの範囲の用量における直線的なPK挙動を示していた。脳ではピーク濃度がIT投与の3分後(Tmax)に現れた。
【0321】
脳および頭部領域の総量−時間曲線(μg、0.05〜192時間)は、脳の濃度−時間曲線(μg/g)で見られたものと同じ二相性のパターンに従っていた(
図19および
図20)。脳領域のCmaxの値は、頭部領域の値よりも有意に低かった(それぞれ、1mg/kgでは69±8と200±0、p<0.01;10mg/kgでは836±117と1844±314ug、p<0.01)。一定の消失速度は、1mg/kgおよび10mg/kgにおいてそれぞれ、脳では0.017±0.002/時と0.014±0.001/時、頭部領域では0.016±0.002/時と0.010±0.001/時であった。平均残留時間の値は、1mg/kgおよび10mg/kgにおいてそれぞれ、脳では42±5時間と51±5時間(p=0.048)、頭部では45±7時間と70±9時間(p<0.01)であった。これらの観察は、投与タンパク質が、低用量において高用量よりも速く両領域から消失することを示していた。rhHNSの1mg/kgおよび10mg/kgでのIT投与後のこれらの領域における平均半減期は、42〜70時間の範囲であった。
【0322】
脊椎の近位部分から中位部分および遠位部分にかけての濃度勾配が両用量レベルで観察された(データ不掲載)。IT投与後に、ピーク濃度(μg/脊柱mm)が、近位部分では30分前後(0〜1時間)、中位部分では1〜4時間(24時間である1匹のラットを除く)、遠位部分では1〜8時間で見られた。これらの部位における半減期には、ばらつきが見られた(平均t1/2:1mg/kgおよび10mg/kgにおいてそれぞれ、脊椎の近位部分では32±13時間と45±18時間、中位部分では39±16時間と約50時間、遠位部分では30±12時間と約123時間)。1mg/kgおよび10mg/kgの
124I−HNSでのピーク濃度の平均値は、これら3つの各部位においてほぼ用量に比例していた(脊椎の近位部分、中位部分および遠位部分において、それぞれ0.5μg/mmと6.0μg/mm、0.2μg/mmと0.9μg/mm、0.1μg/mmと0.5μμg/mm)。AUClastの平均値は、ピーク濃度で見られたものと同じ比例パターンに従っていた(近位部位、中位部位および遠位部位において、それぞれ9.5時間・μg/mmと83時間・μg/mm、6.8時間・μg/mmと35時間・μg/mm、2時間・μg/mmと38時間・μg/mm)。
【0323】
ほとんどの末梢器官ではrhHNSが検出不可能であったが、肝臓においては、IT投与後の早くて1時間後(投与後の最初の画像化時点)から、1mg/kgでは96時間後(4個体のうち3個体)まで、10mg/kgでは192時間後(全4個体)まで測定可能であった(
図24)。肝臓での濃度は、1mg/kgのIT投与の2時間後、10mg/kgのIT投与の7時間後にピークに達し、この後に一次速度過程を伴う消失相が続いた。一定の消失速度は1mg/kg(λz:0.030±0.011/時)の方が10mg/kg(λz:0.017±0/時)よりも速く(p=0.10)、これは1mg/kgの方がt1/2が短い(1mg/kgおよび10mg/kgの用量で、それぞれ28±16時間と42±1時間、p=0.76)ことに対応していた。1mg/kgのAUClast値は、10mg/kgの値と比べて約40倍減少していた(それぞれ204±50μg/gと7987±3276μg/g)。
【0324】
1mg/kgおよび10mg/kgの用量での
124I−HNSによる静脈内処置
脳、肝臓、腎臓、心臓(肺組織を含む)および皮膚における濃度を、ぞれぞれ
図25〜
図29に示されるように、1mg/kgおよび10mg/kgでのrhHNSのIV投与後の時間の関数としてプロットした。本試験では、これらの器官の最初の静態像の時点が投与の1時間後であったため、これらの濃度−時間曲線の初期相を観察することはできない。肝臓、腎臓、心臓および皮膚の濃度−時間曲線は、IV投与後の1〜8時間では平坦相を示した。脳では、この平坦相が投与後24時間続いたが、このことは、脳が末梢器官よりも時間をかけてIV投与タンパク質を吸収したことを示している。残りのデータは、ほぼ一次速度過程を伴う終末消失相を示していた。
【0325】
肝臓、腎臓、心臓および皮膚における消失半減期は、1mg/kgおよび10mg/kgにおいてそれぞれ、肝臓では47±10時間と38±13時間、腎臓では54±25時間と29±16時間、心臓では36±15時間と42±19時間、皮膚では40±21時間と31±13時間であったのに対し、脳での半減期は、1mg/kgおよび10mg/kgにおいて、それぞれ71±23時間と60±53時間であった(10mg/kg群のラット3は、t1/2を決定するためのデータが不十分なため除外した)。p値<0.03の腎臓を除くこれらの器官では、1mg/kgの半減期と10mg/kgの半減期との間に統計的な差は見られなかった。
【0326】
肝臓、皮膚、腎臓、心臓および脳のCmaxの平均値は、1mg/kgでは9.6μg/g、0.3μg/g、0.25μg/g、0.22μg/gおよび0.08μg/g、10mg/kgでは132μg/g、7.9μg/g、3.9μg/g、3.7μg/gおよび1.8μg/gであった。上記器官における10mg/kgでのCmax値の1mg/kgでの対応する値に対する比は、14、26、16、17および23であった。各個体のCmax値を用量に対して正規化すると、上記の全器官において、10mg/kgにおけるCmax/投与の値は、1mg/kgにおける値よりも有意に高かった(p値のほとんどが0.05未満、肝臓ではp=0.06)。肝臓、皮膚、腎臓、心臓および脳のAUClastの値は、1mg/kgでは525時間・μg/g、16時間・μg/g、14時間・μg/g、9.3時間・μg/gおよび7時間・μg/g;10mg/kgでは6747時間・μg/g、276時間・μg/g、183時間・μg/g、201時間・μg/gおよび86時間・μg/gであった。上記器官における10mg/kgでのAUClastの1mg/kgでの対応するAUClast値に対する比はそれぞれ、13、17、13、22および12であった。正規化すると、皮膚では10mg/kgにおけるAUClast/投与が1mg/kgにおける値よりも有意に高く(p<0.01)、心臓ではわずかな差が見られ(p=0.06)、肝臓、脳および腎臓では有意な差が見られなかった(p値はすべて0.34を上回った)。
【0327】
これらの観察により、以下のことが示された:(1)ほとんどの器官における半減期は、脳(約3日)を除き約2日であった;(2)肝臓における1グラム当たりの曝露量は皮膚、心臓および腎臓よりも高く、これら3つの曝露量は脳よりも高いかった;(3)用量が10倍増加すると(10/1mg/kg)、全試験器官の10mg/kgでのCmax値が1mg/kgでの値よりも10倍増加した。
【0328】
脳では、IV投与の1〜24時間後(Tmax)にピーク濃度に達した。
【0329】
IV処置とIT処置の比較
1mg/kgおよび10mg/kgでのIVおよびIT投与後の脳および肝臓における濃度−時間曲線を、ぞれぞれ
図30および
図31で比較する。脳におけるIT/IVのCmaxの比は、1mg/kgおよび10mg/kgにおいて、それぞれ3212および1501であった。AUC0−192時間のこの比は1136および978であった。これらの観察は、同じ用量のrhHNSを注射した場合、髄腔内投与により、脳での曝露量が静脈内投与よりも約3log高い曝露量となることを示していた。脳における消失半減期は、両用量レベルにおいて、IT投与では2日(1mg/kgおよび10mg/kgで45時間および49時間)、IV投与では3日(1mg/kgおよび10mg/kgで71時間および60時間)であった。
【0330】
しかし、IT投与後の肝臓における曝露量は、同じ用量のrhHNSでIV投与後の曝露量と同等であった。肝臓における1mg/kgおよび10mg/kgでのIT/IVのCmaxの比は、それぞれ0.5と0.8、AUClastの比は、それぞれ0.4と1.2であった。
【0331】
結論
124I−スルファミダーゼ(rhHNS)の薬物動態および生体内分布プロファイルを、1mg/kgまたは10mg/kgの
124I−スルファミダーゼの静脈内または髄腔内単回投与後のラットにおける組織PET画像により調べた。対象領域における、投与の0.05、1、2、4、8、24、48、96および192時間後の動的(最初の20分)および静的な濃度−時間データが得られた。IT投与後の動態像では、頭部領域のrhHNSの総量が、最初の20分間に0.005/分〜0.007/分(平均λz)の類似した一定速度で減少していた。静態像では、脳からの消失速度は、試験した2つの用量で基本的に同じであり(λz:1mg/kgおよび10mg/kgでそれぞれ0.016/時と0.014/時)、半減期も約2日で同様であった。
【0332】
上記IT単回投与レジメンで投与された1〜10mg/kgの用量範囲において、CmaxおよびAUClastの値は投与量に比例し、直線的PK挙動が示された。
【0333】
両用量レベルにおいて、近位脊椎から遠位脊椎にかけて濃度勾配が観察された。
【0334】
IT投与後、近位部分では20分前後で、中位部分では1〜4時間で、遠位部分では1〜8時間でピーク濃度が見られた。脊椎の異なる部分において、直線的PK挙動も示された。
【0335】
IT投与後、肝臓においては、rhHNSタンパク質が1mg/kgでは非常に早期から96時間後にかけて、10mg/kgでは非常に早期から192時間後にかけて測定可能であった。消失速度は1mg/kg(λz:0.030/時)の方が10mg/kg(λz:0.017/時)よりも速く、これは低用量の方がt1/2が短いことに対応していた(1mg/kgおよび10mg/kgの用量でそれぞれ28±16時間および42±1時間)。
【0336】
肝臓、腎臓、心臓および皮膚におけるIV投与後の消失半減期は、1mg/kgおよび10mg/kgにおいてそれぞれ、肝臓では47±10時間と38±13時間、腎臓では54±25時間と29±16時間、心臓では36±15時間と42±19時間、皮膚では40±21時間と31±13時間であったのに対し、脳での半減期は、1mg/kgおよび10mg/kgにおいて、それぞれ71±23時間と60±53時間であった。肝臓、皮膚、腎臓、心臓および脳のCmaxの平均値は、1mg/kgでは9.6μg/g、0.3μg/g、0.25μg/g、0.22μg/gおよび0.08μg/g、10mg/kgでは132μg/g、7.9μg/g、3.9μg/g、3.7μg/gおよび1.8μg/gであった。各個体のCmax値を用量に対して正規化すると、上記の全器官において、10mg/kgにおけるC
max/投与の値は、1mg/kgにおける値よりも有意に高かった(p値のほとんどが0.05未満、肝臓ではp=0.06)。肝臓、皮膚、腎臓、心臓および脳のAUClastの値は、1mg/kgでは525時間・μg/g、16時間・μg/g、14時間・μg/g、9.3時間・μg/gおよび7時間・μg/g;10mg/kgでは6747時間・μg/g、276時間・μg/g、183時間・μg/g、201時間・μg/gおよび86時間・μg/gであった。正規化すると、皮膚では10mg/kgにおけるAUClast/投与が1mg/kgでの値よりも有意に高く(p<0.01)、心臓ではわずかな差が見られ(p=0.06)、肝臓、脳および腎臓では有意な差が見られなかった(p値はすべて0.34を上回った)。
【0337】
実施例6:RHHNSによるサンフィリッポA(SAN A)患者の処置
例えばIT送達による、CNSへの直接投与を用いて、サンフィリッポA患者を効果的に治療することができる。本実施例は、サンフィリッポAの患者に対して、隔週(EOW)、全40週で、髄腔内薬物送達装置(IDDD)により投与する、3用量レベルまでのrhHNSの安全性を評価するために計画された、多施設用量漸増試験を示すものである。ヒト治療に適した髄腔内薬物送達装置の様々な例を、
図32〜35に図示する。
【0338】
特定の一例では、最大16患者まで登録する。
コホート1:4患者(最低用量−10mg)
コホート2:4患者(中間用量−30mg)
コホート3:4患者(最高用量−100mg)
無作為に4患者を無治療または装置の使用とする。
【0339】
サンフィリッポ症候群A型患者は、一般的に、初期発達里程標石(例えば、歩行、言語、トイレトレーニング)の遅れ、知能欠陥、多動性障害、聴力損失、言語発達障害、運動技能の欠乏、多動性障害、攻撃性および/または睡眠障害などを含む認知および神経発達障害を示す。徴候の全ては治験の基準の一部となり得る。以下の基準の包含に基づく試験のために患者を選択する:(1)3〜18歳;(2)77未満の知能指数または過去3年間におけるIQ15〜30の低下;(3)CSF閉鎖または十分制御できない発作性疾患がない、ならびに(4)麻酔および/または手術危険度を示す共存症がない。
【0340】
遅発乳児型サンフィリッポ症候群A型の子供に6ヶ月間IT注射により投与したrhHNSの上昇用量の安全性を決定する。患者の安全性の十分な評価を提供するには、登録および段階的拡大は非常に遅いだろう。さらに、全体の運動機能に対するrhHNSの臨床的活性、ならびに血清中の単一および反復投与薬物動態、ならびに脳脊髄液(CSF)中の濃度を評価する。
【0341】
本試験の目的は、rhHNSの上昇用量の安全性および耐容性、ならびにIDDDの安全性、耐容性および長期開存性を評価することであるだろう。さらに、CSFおよび血液中の単一および反復IT投与後のrhHNSの濃度、ならびにCFバイオマーカーおよび尿中GAGへのrhHNSの影響がある。さらなる評価には、生理学および神経認知評価、神経機能ならびに脳構造容積などの臨床的パラメータへのrhHNSの影響も含まれるだろう。さらに、日常生活への治療の影響およびバイオマーカーと症状との間の関係を評価することができる。
【0342】
典型的には、rhHNSのIT送達によるサンフィリッポ症候群A型患者の処置は、種々の組織(例えば、神経系、腎臓、胆嚢および他の器官)中のGAGの蓄積の低減を生じさせる。
【0343】
本明細書に記載の化合物、組成物および方法は、特定の実施形態に従って具体的に記載されているが、後の実施例は単に本発明の化合物を例示するためのものであり、これらを限定することを意図するものではない。
【0344】
本明細書および特許請求の範囲で使用される冠詞「a」および「an」は、そうでないことが明記されない限り、複数形の指示対象を含むということを理解するべきである。あるグループの1つ以上の要素の間に「または(もしくは、あるいは)」が含まれる請求項または記載事項は、そうでないことが明記されるかまたは文脈から明らかでない限り、1つ、2つ以上またはすべてのグループの要素が所与の製品または工程に存在する、使用されるまたは関連する場合に満たされるものとする。本発明は、グループの中の正確に1つの要素が所与の製品または工程に存在する、使用されるまたは関連する実施形態を含む。また本発明は、グループの2つ以上の要素または全要素が所与の製品または工程に存在する、使用されるまたは関連する実施形態も含む。さらに本発明は、別途明記されない限り、または矛盾もしくは不一致が生じることが当業者に明らかでない限り、列挙されている1つ以上の請求項の1つ以上の制限、要素、条項、記述用語などが、基本請求項に従属する別の請求項に(または関連する他の任意の請求項として)組み込まれるすべての変更、組合せおよび置換を包含するということを理解するべきである。要素が列挙されている場合(例えば、マーカッシュ群またはこれと同様の形式において)、要素の各下位グループも開示され、任意の要素(1つまたは複数)がそのグループから除外され得ることを理解するべきである。一般に、本発明または本発明の態様が特定の要素、特徴などを含むという場合、本発明の特定の実施形態または本発明の特定の態様は、このような要素、特徴などからなる、またはこのような要素、特性などから本質的になるということを理解するべきである。簡潔にするために、これらの実施形態があらゆる場合に正確に本明細書に具体的に記載されているわけではない。本発明の任意の実施形態または態様が、本明細書において具体的に除外されることが記載されているか否かにかかわらず、請求項から明確に除外され得ることも理解するべきである。本発明の背景を説明するために、および本発明の実施に関するさらなる詳細を提供するために本明細書において参照される刊行物、ウェブサイトおよびその他の参考資料は、参照により本明細書に組み込まれる。