(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
地上にレーザ光を照射し前記地上からの反射光によって前記レーザ光のフットプリントの位置を計測可能なレーザ計測装置から照射されたレーザ光を、前記地上よりも高い反射強度で反射可能な反射面と、
前記地上に設置される設置面と
を具備し、
前記反射面は、展開状態から折り畳み可能な蛇腹構造を有し、
前記反射面の展開状態において、球体の一部を平面で切り出した形状を有し、
前記切り出された平面は、前記レーザ計測装置から地上に照射されるレーザ光のフットプリントの平均間隔よりも大きい半径を有する
反射ターゲット体。
【背景技術】
【0002】
従来、航空機から地上に向けレーザ光を照射し、地上から反射してきたレーザ光のフットプリント(レーザ光の地上における照射点あるいは反射点)の三次元位置座標(水平方向の座標(x,y)及び高さ方向の座標(z))を計測する航空レーザ計測が行われている。航空レーザ計測では、地上に向けて照射されたパルス状のレーザ光が地表面(地表に存在する地物を含む)で反射して戻ってくるまでの往復時間を計測する。そして、航空機の3次元の位置と姿勢、レーザ光の往復時間、ミラーの回転角(レーザ光の照射角度)から地表又は地物までの距離を求め、地表又は地物の高さを計算する。
【0003】
この航空レーザ計測においては、高さ方向の座標の精度については厳格な管理がなされているが、水平方向の座標の精度については高さ方向と同様の管理がなされていないのが実情である。
【0004】
これは、航空機等の移動体を用いたレーザ計測システムにおけるレーザ光は、予め決まった位置に命中するように制御されるものではなく、航空機等が移動中に動揺を受ける中で、地上に機械的かつ断続的に照射されるものであるため、レーザ光のフットプリントの位置には偶然性が伴うこと、また航空レーザ計測に用いられるレーザ光は一般に非可視(例えば、近赤外波長)であるため、フットプリントの位置を直接特定することはできず、航空機の3次元の位置と姿勢、レーザ光の往復時間、ミラーの回転角(レーザ光の照射角度)といった間接的な情報を基にした事後解析によって推定せざるを得ないといった理由等による。ただし、高さ方向については、別途の測量によって高さが分かっている平坦な場所において精度の管理ができる。なぜならば、推定されたフットプリントの水平位置が真の位置(実際にレーザ光が照射された位置)から外れていたとしても、平坦な場所であれば高さの値は変わらず同じとみなすことができるため、その真の位置における高さの値を使って高さに関する精度の管理ができるからである。
【0005】
その結果、日本国の国土地理院が定めた公共測量作業規程準則(平成20年3月31日全部改正、平成25年3月29日一部改正)では、標高についての規程があるだけで、水平位置についての規程は定められていない。
【0006】
航空レーザ計測は、直接的に標高(地形)を取得する測量技術と位置づけられているが、水平位置についての管理がなされていないと、その結果を、DM(Digital Mapping)などの数値地形図と重ねてGIS(Geographic Information System)上の電子地図として利用する上で、異なる地図間での位置的な整合がとれないため、それらの地図を重ね合わせて得られる情報の信頼性が揺らいでしまう。また、急な斜面などでの地形変動を異なる時点(例えば土砂崩れ発生の前後時点)の計測結果の差分から求めるには、水平位置の誤差は結果に大きな影響を与えるため、水平位置についても適切な管理がなされなければならない。
【0007】
上記水平位置を管理する手法としては、例えば以下の(1)〜(4)に示すような手法が挙げられる(下記非特許文献1〜4参照)。
【0008】
(1)この手法は、建物などの構造物における輪郭や切妻屋根の棟などでエッジがはっきりしている場所に注目し、あるいはレーザ光の点群から発生させた段彩図や等高線図から決定されるエッジを用いて、二時点に計測したレーザ計測結果が重なるよう水平位置を調整する手法である。すなわち、当該手法は相対的な位置合わせである。
【0009】
(2)この手法は、レーザ光の点群から発生させた建物などの輪郭等のエッジを使い、既存図面と比較し、水平位置の誤差を評価する手法である。
【0010】
(3)この手法は、建物などの輪郭等のエッジや電柱を用い、その位置座標を航空レーザ計測とは別の独立した測量等で決定し、水平位置の誤差を評価する手法である。この手法は、米国における航空レーザの水平位置の誤差評価のガイドライン(下記特許文献5参照)に採用されている。
【0011】
(4)この手法は、等高線などで地形形状を表現し、等高線の屈曲している箇所などの特徴的な箇所を用いて、二時点に計測したレーザ計測結果が重なるように水平位置を調整する手法である。すなわち、当該手法は相対的な位置合わせである。
【0012】
しかしながら、建物の無い、自然地形のみの場所において、エッジのはっきりした地物が存在しない場合には、上記(1)〜(3)の手法は適用外となる。
【0013】
また、(4)に関しては、等高線の形状は、等高線を発生させる元データの点群の配置、間隔に依存する一方、二時点のレーザ計測において、点群の配置、間隔を一致させることはできず、等高線だけから明瞭な特徴点がどこでも多く得られるわけでもない。また、等高線の形状から位置合わせができたとしても相対的な位置合わせに過ぎない。
【0014】
ところで、地上のどこにレーザ光が当たっているのか、つまり、レーザ光のフットプリントの位置を直接捉えることができれば、その場所の座標をGNSS(Global Navigation Satellite System)等の別の独立した手法で計測し、検証点とすることで、レーザ計測の水平位置精度を検証することができる。
【0015】
レーザ光のフットプリントを捉える方法としては、フォトダイオードを地面に敷き詰めて、航空機から瞬間的に照射されたレーザ光のフットプリントの位置と大きさを、レーザ光の照射のタイミングにおいてフォトダイオード上で励起される電圧変動から知る方法が考えられる。しかしこれは、高価な仕組みとなり、実際の計測作業における水平位置の精度を評価する手段としては、水平位置の精度を評価する箇所(以下、検証点)に複数(例えば20程度)配置することが必要であるため、経済的に実現性に乏しい。
【0016】
また、レーザ計測に用いる波長領域(一般に赤外線領域)の光を感知できる赤外線カメラで、地上を動画撮影し、レーザ計測の時間帯においてフットプリントの発生状況をモニター撮影し、撮影した動画からフットプリント地点を判定し、その地点の位置を決定する方法も考えられる。しかし、赤外線カメラは、フォトダイオードの場合と同様に高価であり、実際の計測作業における水平位置の精度を評価する手段としては経済的に実現性に乏しい。
【0017】
さらに、フォトダイオードや赤外線カメラではなく、エッジや輪郭の抽出が可能な人工物を地表に置き、その人工物に当ったレーザ光のフットプリントを判別し、そのXYZ計測値から従前の方法と同様にして水平位置を評価する方法があり得る。しかし、これには、レーザ光のフットプリントの間隔によっては相当な大きさのピラミッド状の人工物を用意することが必要であり(例えばフットプリント間隔が50cm程度の場合に、一つの面を特定するには最低3点のフットプリントを得ることが必要となる。ピラミッド形状の人工物はそのような面を3〜4つで構成する必要があり、空間的を占める面積・高さとも大きくなる。)、検証点となる箇所に複数配置することを前提とすると実現性に乏しい。
【0018】
このような既存技術の問題点に関連して、下記特許文献1には、レーザ光を照射し、反射光によって、反射物体の位置を計測するレーザ計測装置と、上記レーザ計測装置から照射されたレーザ光を反射するマーカを有する校正装置と、上記レーザ計測装置を校正するための計算をする計算機と、を備える校正システムが記載されている。上記校正装置は、第1のマーカ、第2のマーカ及び第3のマーカを含む、少なくとも三つの上記マーカを有し、上記少なくとも三つのマーカは予め定められた相対的な位置関係で配置されている。上記レーザ計測装置は、各上記マーカの位置を計測し、上記計算機は、上記レーザ計測装置によって計測された第2のマーカの位置及び上記レーザ計測装置によって計測された第3のマーカの位置から上記第1のマーカの位置である参照位置を計算し、上記レーザ計測装置によって計測された第1のマーカの位置と、上記参照位置との差によって、上記レーザ計測装置の計測誤差を計算し、上記計算された計測誤差から、上記反射物体までの距離の関数を生成する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、計測誤差を算出するために少なくとも3つのマーカが必要であり、設備が大規模化し処理も煩雑になる。
【0022】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、レーザ計測における水平位置の計測誤差を、計測位置の環境に依存することなく、簡便かつ高精度に算出することが可能なレーザ計測システム、レーザ計測用反射体及びレーザ計測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るレーザ計測システムは、レーザ計測装置と、反射ターゲット体と、算出装置とを有する。上記レーザ計測装置は、地上にレーザ光を照射し、上記地上からの反射光によって上記レーザ光のフットプリントの位置を計測可能である。上記反射ターゲット体は、上記地上の上記レーザ光を受光可能な位置に設置され、球体の一部を平面で切り出した形状を有し、上記レーザ光を上記地上よりも高い反射強度で反射可能である。上記算出装置は、上記レーザ計測装置から照射され上記反射ターゲット体に反射したと推定される少なくとも4つの反射光から算出される各三次元位置座標を基に、上記球体の中心の水平位置座標を算出し、当該算出された水平位置座標と上記反射ターゲット体の頂点について別途の測量で計測した水平位置座標との差から誤差を算出可能である。
【0024】
上記反射ターゲット体の底面(地上の平面に設置する面)は円の形状となり、その中心は、上記球体の中心と上記ターゲット体の頂点とを結ぶ線上において、上記底面に、上記球体の中心または上記ターゲット体の頂点を投影した位置と一致する。上記ターゲット体を水平に設定した場合、上記ターゲット体の頂点の水平位置座標と、上記円の中心の水平位置座標と、上記球体の中心の水平位置座標とは、いずれも同じ値となる。このことから、上記算出装置は、上記球体の中心の水平位置座標を算出し、それを反射ターゲット体の頂点について別途計測した水平位置座標と比較することで誤差を算出できる。この構成により、上記レーザ計測システムは、上記ターゲット体を用いることで、レーザ計測における水平位置の計測誤差を、計測位置の環境に依存することなく、簡便かつ高精度に算出することができる。
【0025】
上記算出装置は、上記少なくとも4つの反射光から算出される各三次元位置座標を基に、最小二乗法を用いて上記球体の中心の水平位置座標を算出してもよい。
【0026】
これによりレーザ計測システムは、少なくとも4つの反射光の各反射位置を基に、ターゲット体の元になった、半径が未知の球体の水平位置座標を算出することができる。
【0027】
上記算出装置は、上記各三次元位置座標を基に、上記球体の中心の水平位置座標と上記球体の半径とを算出し、上記算出された半径が、上記ターゲット体の製造用に予め設定された球体の半径と一致するか否かを判断してもよい。
【0028】
これによりレーザ計測システムは、算出した球体の中心の水平位置座標の誤差の確からしさを、上記算出された半径が予め設定された半径と一致するか否かを判断することで判断することができる。
【0029】
上記反射ターゲット体は、所定のエリアに複数設置されてもよい。この場合上記算出装置は、上記複数の反射ターゲット体に関する複数の上記誤差をそれぞれ算出し、当該算出された複数の誤差の平均誤差を算出してもよい。
【0030】
これによりレーザ計測システムは、所定のエリア(例えばある地点から数km圏内)に設置された複数のターゲット体を用いて平均誤差を算出することで、当該所定のエリアにおけるレーザ計測結果が全体的にどの程度真の値からずれていたかを把握することができる。
【0031】
上記算出装置は、上記算出された平均誤差によって上記レーザ計測装置による計測結果を補正してもよい。
【0032】
これによりレーザ計測システムは、平均誤差を用いることで、所定のエリアにおける各計測値を全体的に真の値に近づくように補正することができる。
【0033】
上記ターゲット体の上記切り出された平面は、上記レーザ計測装置から地上に照射されるレーザ光のフットプリントの平均間隔よりも大きい半径を有してもよい。
【0034】
これによりレーザ計測システムは、ターゲット体におけるレーザ光のフットプリントを少なくとも4つ確保する確率を高めることができる。さらにその確率を高めるために、上記ターゲット体の上記切り出された平面は、レーザ光のフットプリントの平均間隔の√5/2倍よりも大きい半径を有してもよい。
【0035】
本発明の他の形態に係る反射ターゲット体は、地上にレーザ光を照射し上記地上からの反射光によって上記レーザ光のフットプリントの位置を計測可能なレーザ計測装置から照射されたレーザ光を、上記地上よりも高い反射強度で反射可能な反射面と、上記地上に設置される設置面とを有する。当該反射ターゲット体は、球体の一部を平面で切り出した形状を有し、上記切り出された平面は、上記レーザ計測装置から地上に照射されるレーザ光のフットプリントの平均間隔よりも大きい半径を有する。4つ以上のレーザ光のフットプリントをより高い確率で確保するため、上記切り出された平面は、上記レーザ光のフットプリントの平均間隔の√5/2倍よりも大きい半径を有してもよい。
【0036】
本発明のまた別の形態に係るレーザ計測方法は、
地上にレーザ光を照射し上記地上からの反射光によってレーザ光のフットプリントの位置を計測可能なレーザ計測装置からレーザを照射すること、
上記地上の上記レーザ光を受光可能な位置に設置され、球体の一部を平面で切り出した形状を有し、上記レーザ光を上記地上よりも高い反射強度で反射可能な反射ターゲット体に反射したと推定される少なくとも4つの反射光からそれぞれ三次元位置座標を算出すること、
上記算出された各三次元位置座標を基に上記球体の中心の水平位置座標を算出すること、及び、
上記算出された水平位置座標と上記ターゲット体の頂点について別途の測量で計測した水平位置座標との差から誤差を算出することを含む。
【発明の効果】
【0037】
以上説明したように、本発明によれば、レーザ測量における水平位置の計測誤差を簡便かつ高精度に算出することができる。しかし、この効果は本発明を限定するものではない。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0040】
[レーザ計測システムの構成]
図1は、本発明の一実施形態に係るレーザ計測システムの概要を示した図である。
【0041】
同図に示すように、本システムは、航空機10と、反射ターゲット体1と、データ解析装置100とを有する。
【0042】
航空機10は、予め計画された飛行コースに沿って飛行し、各種データを収集する。航空機10には、レーザ測距装置11、GNSS受信機12及びIMU(慣性計測装置:Inertial Measurement Unit)13等の関連機器(図示せず)が搭載される。本実施形態では、これらレーザ測距装置11、GNSS受信機12及びIMU13をまとめてレーザ計測装置と称する場合もある。
【0043】
レーザ測距装置11は、航空機10の飛行中、同図に示す航空機10の進行方向に対して横方向にスキャンするように地上に向けてレーザ光を照射し、そのレーザ光の地上からの反射光を受光し、反射光の地上までの往復時間により地上までの距離を計測する。
【0044】
GNSS受信機12は、航空機10の三次元位置を計測する。この計測データと、地上のGNSS基準局(図示せず)で観測されたデータとにより航空機10の位置が算出される。
【0045】
IMU13は、航空機10の姿勢角(ω、φ、κ)を計測する。この計測値により、レーザ測距装置11から照射されたレーザ光の方向が補正(キャリブレーション)され、上記航空機10の詳細な位置座標が算出される。
【0046】
データ解析装置100は、航空機10上のレーザ計測装置によって計測された測距データ、GNSSデータ、及びIMUデータ(以下、これらをまとめてレーザ計測データとも言う)を基に、レーザ光1点ごとの水平座標値(x,y)及び標高値(z)を算出し、点群データを生成する。
【0047】
さらにデータ解析装置100は、上記点群データに対して各種点検処理やノイズ除去処理等を施し、三次元計測データを生成する。さらに当該三次元計測データがメッシュ処理等の加工を施されることで、DSM(Digital Surface Model:数値表層モデル)やDEM(Digital Elevation Model:数値標高モデル)といったメッシュデータが生成される。
【0048】
反射ターゲット体1は、上記レーザ光を反射するために、上記航空機10の飛行コース下の地上の所定エリアに複数設置される。上記データ解析装置100は、反射ターゲット体1に反射したレーザ光の三次元位置座標データを基に、上記レーザ計測処理における水平位置座標(x,y)の誤差を算出する。反射ターゲット体1の詳細については後述する。
【0049】
[データ解析装置の構成]
図2は、上記データ解析装置100のハードウェア構成を示した図である。データ解析装置100は、本システムにおける各種演算処理を実行する専用のハードウェアとして構成されてもよいが、本実施形態では、汎用のコンピュータ及び当該コンピュータ上で実行されるプログラムによって構成されている。
【0050】
同図に示すように、データ解析装置100は、CPU(Central Processing Unit)110、ROM(Read Only Memory)120、RAM(Random Access Memory)130、入出力インタフェース150、及び、これらを互いに接続するバス140を備える。
【0051】
CPU110は、必要に応じてRAM13等に適宜アクセスし、各種演算処理を行いながらデータ解析装置100の各ブロック全体を統括的に制御する。ROM120は、CPU110に実行させるOS、プログラムや各種パラメータなどのファームウェアが固定的に記憶されている不揮発性のメモリである。RAM130は、CPU110の作業用領域等として用いられ、OS、実行中の各種アプリケーション、処理中の各種データを一時的に保持する。
【0052】
入出力インタフェース150には、表示部160、操作受付部170、記憶部180、通信部190等が接続される。
【0053】
表示部160は、例えばLCD(Liquid Crystal Display)、OELD(Organic ElectroLuminescence Display)、CRT(Cathode Ray Tube)等を用いた表示デバイスである。
【0054】
操作受付部170は、例えばマウス等のポインティングデバイス、キーボード、タッチパネル、その他の入力装置である。操作受付部17がタッチパネルである場合、そのタッチパネルは表示部160と一体となり得る。
【0055】
記憶部180は、例えばHDD(Hard Disk Drive)や、フラッシュメモリ(SSD;SolID State Drive)、その他の固体メモリ等の不揮発性メモリである。当該記憶部18には、上記OSや各種アプリケーション、各種データが記憶される。
【0056】
特に本実施形態において、記憶部180には、上記航空機10を用いて収集されたレーザ計測データ(測距データ、GNSSデータ及びIMUデータ)が記憶され、それらのデータから生成された三次元計測データや、上記反射ターゲット体1を用いて算出された水平位置座標の誤差データ等も記憶される。上記レーザ計測データは、航空機10に設置された記憶装置から可搬性の記憶媒体を介してデータ解析装置100の記憶部180に取り込まれてもよいし、航空機10からデータ解析装置100へ送信され、通信部190を介して受信されて記憶部180に記憶されても構わない。
【0057】
通信部190は、例えばEthernet(登録商標)用のNIC(Network Interface Card)であり、航空機100内の装置やその他の装置との通信処理を担う。
【0058】
[反射ターゲット体の構成]
次に、上記反射ターゲット体1について説明する。
図3は当該反射ターゲット体1の外観を示した図であり、
図4は当該反射ターゲット体1の形状を説明するための図である。また
図5は、当該反射ターゲット体1の設置面の半径について説明するための図である。
【0059】
各図に示すように、反射ターゲット体1は、中心点Cを有する仮想球体S(
図4参照)の一部を平面で切り出した形状を有し、レーザ測距装置11から照射されたレーザ光を反射可能な反射面1aと、地上に設置される円形の設置面1b(切り出し面)とを有する。
【0060】
反射ターゲット体1のサイズについては、航空レーザ計測におけるフットプリントの平均間隔及びフットプリントサイズ、さらに航空レーザの照射角度が勘案される。例えば、反射ターゲット体1の設置面1bの半径r1は800mm、高さhは400mm、反射面1aの曲率半径(仮想球体Sの半径r2)は1000mmとされる。すなわち、上記設置面1bの半径r1は、レーザのフットプリントの平均間隔(例えば700mm)よりも大きく設定される。
【0061】
より詳細には、
図5に示すように、半径r1は、フットプリントの平均間隔sよりも大きく設定されることで、少なくとも4つのフットプリントを得られる可能性が高くなる。さらに、当該半径r1を、フットプリントの平均間隔sの√5/2倍(√5/2s)よりも大きく設定することで、少なくとも4つのフットプリントを得られる可能性をより高めることができる。
【0062】
反射ターゲット体1の反射面1aは、レーザ測距装置11から照射されたレーザ光を、地上よりも高い反射強度で反射可能である。本実施形態では、反射ターゲット体1は発泡スチロールにより製造される。発泡スチロールは白色であるため、高い反射強度を有する。もちろん、反射面1aに発泡スチロール以外の材料(反射体)が用いられても構わないし、反射強度の高い物質が球面に貼付・塗布されても構わない。
【0063】
ただし、反射面1aの反射強度が高すぎると、上記レーザ測距装置11の計測結果に影響を与える可能性があるため、反射強度はそのような影響を与えない程度の値であることが好ましい。
【0064】
ここで地上とは、本実施形態では、地表のみならず例えば建物の上等の地物も含む。
図1では反射ターゲット体1が地表に設置された例が示されており、
図3では反射ターゲット体1がビルの屋上に設置された例が示されている。
【0065】
反射ターゲット体1の反射面1aが球面で形成されることで、航空レーザ計測において当該反射面1a上に少なくとも4点のフットプリントの計測値が存在すれば、球体の中心座標と球体の半径の公式により、最小二乗法を用いて球体Sの中心Cの座標が算出できる。
【0066】
本実施形態では、航空レーザ計測によって取得した値から算出された球体Sの中心Cの水平位置座標と、反射ターゲット体1が設置された位置の実測値の水平位置座標との差分を、航空レーザ計測における水平位置座標の誤差として検証することが可能である。
【0067】
本発明者等は、上記形状の反射ターゲット体1を制作するにあたり、上記の球体切り出し形状以外に、リング(ドーナツ)形状の反射面を有するターゲット体も検討した。リング形状の場合、リングの中心座標を算出するためには、航空レーザ計測において最低3点のフットプリントが計測される必要がある。しかし本発明者等の検証により、そのような条件を満たすための成功率が低くなり、また反射面の面積を増加させるためには大きなサイズのリングが必要になる。そこで、反射面の面積増加と反射ターゲット体としての取り扱いの容易性(コンパクト性)を検討した結果、上述した本実施形態のような形状が採用されるに至った。
【0068】
[レーザ計測システムの動作]
次に、以上のように構成されたレーザ計測システムの動作について説明する。航空機10によるレーザ計測データ取得後の動作は、データ解析装置100のCPU110等のハードウェアと、記憶部18に記憶されたソフトウェアとの協働により実行される。
【0069】
図6は、上記レーザ計測システムの動作の流れを示したフローチャートである。
【0070】
同図に示すように、まず、作業者が、航空機10の飛行ルート下の所定エリアにおいて、複数の反射ターゲット体1を地上に水平に設置する(ステップ51)。
【0071】
続いて、上記各反射ターゲット体1が設置された真の水平位置座標(Xt, Yt)(ターゲット体1の頂点の座標)が現地における測量により決定される(ステップ52)。
【0072】
続いて航空機10により上記飛行ルート上でレーザ計測が実施される(ステップ53)。これによりレーザ光の往復時間のデータ、GNSSデータ、IMUデータといったレーザ計測データが取得される。
【0073】
続いてデータ解析装置100によるデータ解析処理が実行される。
【0074】
まずデータ解析装置100のCPU110は、反射ターゲット体1の近傍で検出されたフットプリント候補(反射候補点)のうち、反射強度が所定の閾値以上のものを抽出する(ステップ54)。
【0075】
図7は、当該フットプリント候補の検出結果を示した図である。同図は、反射ターゲット体1の近傍を航空機10から撮影した写真がベースとなっている。
【0076】
同図において、実線で囲まれた領域が反射ターゲット体1を示し、破線で囲まれた領域が航空レーザのフットプリントの抽出範囲を示し、黒点が航空レーザのフットプリントを示している。このフットプリントの抽出範囲は、ターゲット体1の半径に外周マージンを加えた値を半径とした円の範囲であり、例えば、航空機10の対地高度が1000mであれば半径91cmの範囲であり、対地高度が2000mであれば半径102cmの範囲とされる。
【0077】
同図に示すように、航空レーザのフットプリントが反射ターゲット体1の表面に複数存在している。
【0078】
図8は、上記フットプリント候補の抽出結果を複数の反射ターゲット体1毎に反射強度と共に示したものである。反射強度は例えば256階調の輝度データとして表現されている。
【0079】
同図に示すように、4つの反射ターゲット体1(ターゲットID:1〜4)について、それぞれ、検出されたフットプリント候補のうち、反射強度が所定の閾値(例えば100)以上であるフットプリント候補を抽出した。いずれの反射ターゲット体1についても、球体の中心座標の算出に必要な最低4つのフットプリント候補が抽出できた。
【0080】
図6に戻り、続いてCPU110は、抽出したフットプリントの三次元座標(X, Y, Z)を基に近似球体の中心座標(X, Y, Z)を求め、当該座標から反射ターゲット体1の中心の水平位置座標(Xm, Ym)を算出する(ステップ55)。
【0081】
図9は、当該反射ターゲット体1の中心のXY座標の算出処理及び当該座標と反射ターゲット体1の真位置の座標との誤差の算出処理を説明するための図である。
【0082】
同図において、右斜め上方向の斜線で囲まれた球面は反射ターゲット体1を示す。また白の点は、当該反射ターゲット体1に反射したと推定されるフットプリント候補を示している。
【0083】
まずCPU110は、4つのフットプリント候補の三次元座標(X, Y, Z)を、最小二乗法により球面にフィッティングさせることで、当該反射ターゲット体1の切り出し元となった球体の中心の座標及び球体の半径を算出する。以下、その計算手法を説明する。
【0084】
まず、球体の中心座標と球体の半径の公式は、以下の通りである。
( X - a )
2 + ( Y - b )
2 + ( Z - c )
2 = r
2
ここで、球体の中心座標:(a, b, c)
球体の半径:r
【0085】
また、球面上の座標計測値を(Xi, Yi, Zi)とする。iは点番号である(i = 1, 2, ..., n)。
【0086】
ここで、残差Viを次のように定義する。
Vi = {( Xi - a )
2 + ( Yi - b )
2 + ( Zi - c )
2 }‐r
2
【0087】
続いて、最小二乗法を用いて上記残差Viの二乗和(下記のS)が最小となる条件を求めることとする。
S = ΣVi
2
= Σ{Xi
2 + Yi
2 + Zi
2 + AXi + BYi + CYi +D}
2
ここで、A = -2a・・・・・・・・・・・式(1)
B = -2b・・・・・・・・・・・式(2)
C = -2c・・・・・・・・・・・式(3)
D = a
2 + b
2 + c
2 - r
2・・・・・式(4)
【0088】
Sが最小となる条件は、以下のように表わせる。
∂S/∂A = AΣXi
2 + BΣXiYi + CΣXiZi + DΣXi + ΣXi
3 + ΣXiYi
2 + ΣXiZi
2 = 0
∂S/∂B = AΣXiYi + BΣYi
2 + CΣYiZi + DΣYi + ΣXi
2Yi + ΣYi
3 + ΣYiZi
2 = 0
∂S/∂C = AΣXiZi + BΣYiZi + CΣZi
2 + DΣZi + ΣXi
2Zi + ΣYi
2Zi + ΣZi
3 = 0
∂S/∂D = AΣXi + BΣYi + CΣZi + DΣ1 + ΣXi
2 + ΣYi
2 + ΣZi
2 = 0
【0089】
これを行列表現にすると、
図10に示したものになる。この行列の式を解いてA,B,C,Dを求め、上記式(1)〜式(4)より、球体の中心座標(a、b、c)と半径rを求める。
【0090】
ここで、フットプリントを4点以上得られず、3点しか得られなかった場合の救済策について説明する。
【0091】
フットプリントを4点以上得られない場合には、上記[0087]、[0088]及び
図10に示した計算式では、球体の中心座標(a、b、c)と半径rを求めることができない。そこで、3点のフットプリントが得られた場合には、上記[0084]に示した式においてrを、上記ターゲット体1の製造用に予め設定された球体の半径の値として、3点のフットプリントそれぞれの三次元座標を、上記[0084]の式のX,Y,Zに代入し、3元2次連立方程式を解き、球体の中心座標(a、b、c)を求める。これは2次方程式のため解は一意には定まらないが、地表面より低い高さとして求まる球体の中心座標を、ターゲット体1に対応した球体の中心座標として選択することができる。
【0092】
CPU110は、このように求められた球体の中心座標から、航空レーザ計測上の反射ターゲット体1の中心のXY座標(Xm, Ym)を求める。この中心座標が
図9において斜線を付された点で表されており、球体は左斜め上方向の斜線で囲まれた球面として表されている。同図に示すように、反射ターゲット体1の真の位置と、レーザ計測データから算出した球体の位置とがずれていることが分かる。
【0093】
図6に戻り、CPU110は、上記ステップ52において決定した反射ターゲット体1の中心の真の水平位置座標(Xt, Yt)と、上記航空レーザ計測値から算出した反射ターゲット体1の中心の水平位置座標(Xm, Ym)との誤差を算出する(ステップ56)。
図9において、真の水平位置座標(Xt, Yt)は黒色の点で表されており、上記斜線を付された点との差分が誤差eとして表されている。
【0094】
そしてCPU110は、この誤差算出処理を複数の反射ターゲット体1毎に実行し、それらの誤差から平均誤差を算出する(ステップ57)。
【0095】
図11は、上記反射ターゲット体1の中心の真位置と航空レーザ計測上の位置との誤差の評価結果を示した図である。
【0096】
同図に示すように、反射ターゲット体1の中心の真位置と航空レーザ計測上の位置との間には、X座標においては平均して+17mm、Y座標においては平均して-79mm、ベクトル(ΔXY)においては平均して125mmの誤差があることが分かった。
【0097】
またΔXYの標準偏差は73mmであった。国土地理院が定める公共測量作業規程の準則(数値地形図データの精度)の許容精度は、地図情報レベル1000の場合、水平位置の標準偏差が700mm以内であることから、本実施形態における手法で評価した本評価結果は、要求精度を十分に満たしているといえる。
【0098】
データ解析装置100は、この平均誤差を用いて、航空レーザ計測データにおけるXY座標を補正してもよい。これにより計測エリアにおける各計測値を、全体的に真の値に近づけることができる。
【0099】
もちろん、必要に応じて、他の値に比べて突出している値(最大値、最小値)が存在する場合には、その値を除いて平均値が再算出されても構わない。
【0100】
以上説明したように、本実施形態によれば、レーザ計測システムは、上記反射ターゲット体1を用いることで、レーザ計測における水平位置の計測誤差を、計測位置の環境に依存することなく(例えば建造物がほとんど存在しないような場所でも)、簡便かつ高精度に算出することができる。
【0101】
また本実施形態では、上記反射ターゲット体1が、
図4で示したように球体の一部を平面で切り取った形状とされる点に特徴を有する。
【0102】
ここで、当該形状に代えて、半球形状を用いた場合、高さ(Z)の値については、幅のある計測値を得ることができる。しかし、この場合、ターゲット体のサイズは高さ方向及び水平方向の双方で大きくなってしまう。
【0103】
また、航空レーザ計測においては、上述のように高さについての評価手法は確立しているため、本実施形態におけるターゲット体1を用いた位置の評価手法については、高さに関する評価について信頼度を求めず、水平位置座標の評価だけを追求することとしている。すなわち、ターゲット体1の形状を半球とせず、球体の一部を平面で切り出した形状とすることで、高低差は小さいが裾野においては範囲が十分な形状(設置面1bの半径r1がフットプリントの平均間隔(好ましくは平均間隔の√5/2倍)よりも大きいドーム状の形状)を実現している。これにより、ターゲット体1のサイズを小さくでき、取り扱いも容易となる。
【0104】
[変形例]
本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更され得る。
【0105】
上記反射ターゲット体1は、現場への持ち運び及び設置が容易になるように形状が工夫されてもよい。例えば
図12に示すように、反射ターゲット体1は、蛇腹状に製造され、同図(A)の展開状態から同図(B)の状態へ折り畳み可能とされてもよい。
【0106】
上述の実施形態では、データ解析装置100は、4つのレーザのフットプリントの計測値を基に、仮想球体Sの中心座標と半径を算出した。ここで、データ解析装置100は、予め反射ターゲット体1の曲率半径(切り出し元の球体の半径)の設定値が分かっている場合には、上記算出した半径が上記設定値とどの程度一致しているかという一致度を判断しても構わない。これによりデータ解析装置100は、算出した水平位置座標の誤差の精度を判断することができる。
【0107】
上述の実施形態においては、本発明が航空レーザ計測システムに適用された例が示されたが、本発明は人工衛星を用いたレーザ計測システムに適用されてもよい。また、地上を走行する車両(自動車等)を用いたMMS(Mobile Mapping System)においても本発明の上記反射ターゲット体1が適用され得る。あるいは、河川の河床に反射ターゲット体1が設置されてもよい。
【0108】
また、航空レーザ計測システムとMMSの双方において同一の反射ターゲット体が用いられてもよい。すなわち、反射ターゲット体1が設置された所定エリアにおいて、航空機によるレーザ計測処理が実行されると同時に、地上では車両によるレーザ計測処理が実行され、それぞれの処理において、水平位置座標の誤差が、同じ反射ターゲット体1を用いて算出されてもよい。
【0109】
上述の実施形態では、反射ターゲット体1を水平に設置した場合を例に説明したが、斜めに設置しても構わない。反射ターゲット体1の頂点の水平位置座標と反射ターゲット体1を構成する球体の中心の水平位置座標は常に一致するため、球体の中心の水平位置座標を算出し、それを反射ターゲット体1の頂点について別途計測した水平位置座標と比較することにより、ターゲット体1を斜めに設置した場合であってもレーザ計測における水平位置の計測誤差を算出することができる。