特許第6074069号(P6074069)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6074069極短パルス光のビームをスキャンするためのシステム及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6074069
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】極短パルス光のビームをスキャンするためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61F 9/008 20060101AFI20170123BHJP
   G02B 26/06 20060101ALI20170123BHJP
   G02B 26/10 20060101ALI20170123BHJP
   A61B 18/20 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
   A61F9/008 120F
   G02B26/06
   G02B26/10 C
   A61B18/20
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-560563(P2015-560563)
(86)(22)【出願日】2013年3月15日
(65)【公表番号】特表2016-511044(P2016-511044A)
(43)【公表日】2016年4月14日
(86)【国際出願番号】EP2013055379
(87)【国際公開番号】WO2014139582
(87)【国際公開日】20140918
【審査請求日】2015年9月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】513146099
【氏名又は名称】バーフェリヒト ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100102819
【弁理士】
【氏名又は名称】島田 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100157211
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(74)【代理人】
【識別番号】100159684
【弁理士】
【氏名又は名称】田原 正宏
(72)【発明者】
【氏名】クラウス フォーグラー
(72)【発明者】
【氏名】クラウディア ゴルシュボト
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ ドニツキー
【審査官】 宮崎 敏長
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−104125(JP,A)
【文献】 国際公開第2003/065103(WO,A1)
【文献】 特開2012−173427(JP,A)
【文献】 特開2005−257507(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/069516(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/008 − A61F 9/011
A61B 18/20 − A61B 18/28
G02B 26/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スキャニング光学システム(10)であって、
極短パルス持続期間のパルス光のビーム(38)を提供する光源(22)と、
スキャン角度を通して前記ビームを偏向するための偏向器と、
前記偏向されたビームを集束するための集束対物レンズ(30)を含むレンズシステムと、
前記レンズシステムによって前記ビームのパルスの分散に関連した歪みを低減するための分散補償デバイス(25)であって、可変形状の分散性ミラー(42)及び前記ミラーのためのアクチュエータデバイス(44)を含む、分散補償デバイスと、
前記スキャン角度に従って、前記ミラーの形状を変更するように前記アクチュエータデバイスを制御するためのコントローラ(18)と、を備える、スキャニング光学システム(10)。
【請求項2】
前記可変形状の分散性ミラー(42)が、前記ミラーの反射面上の位置とともに変動する分散特性を提供する多層構造を有する、請求項1に記載の光学システム。
【請求項3】
前記多層構造が、前記反射面にわたって、不均一な群遅延、不均一な群遅延分散、及び不均一な三次分散のうちの少なくとも1つをもたらすように構成される、請求項2に記載の光学システム。
【請求項4】
前記分散補償デバイス(25)が、前記レンズシステムによってもたらされる群遅延及び群遅延分散のうちの少なくとも1つのバルクを補償するために空間的に均一な分散特性を有するバルク補償器(46)を更に含む、請求項2または3に記載の光学システム。
【請求項5】
前記光源(22)が、レーザー源であり、前記パルス光が、人間の眼の組織内に切開部を生成するのに好適な中心波長を有する、請求項1〜4のいずれかに記載の光学システム。
【請求項6】
スキャニング光学システム(10)であって、
極短パルス持続期間のパルス光のビーム(38)を提供する光源(22)と、
スキャン角度を通して前記ビームを偏向するための偏向器と、
前記偏向されたビームを集束するための集束対物レンズ(30)を含むレンズシステムと、
可変形状ミラー(42)と、
前記ミラーのためのアクチュエータデバイス(44)と、
前記スキャン角度に従って、前記ミラーの形状を変更するように前記アクチュエータデバイスを制御するためのコントローラ(18)と、を備える、スキャニング光学システム(10)。
【請求項7】
前記可変形状ミラーが非分散性である、請求項6に記載のスキャニング光学システム。
【請求項8】
前記レンズシステムによって前記ビームのパルスの分散に関連した歪みを低減するための分散補償デバイスを含む、請求項7に記載のスキャニング光学システム。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のスキャニング光学システムであって、
前記コントローラによって命令されるような前記ミラーの前記形状の変更が、前記光学システムの群遅延の空間分布の変化量を調整するように設計され、その変化量は、異なるスキャン角度に付随する、スキャニング光学システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、極短パルス光のビームをスキャンするためのシステム及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電磁放射の極短パルスの場合、材料分散は、それらが光学システムにおいてガラスまたは他の光学材料を通って伝播するときに、パルスの望まれていない歪みをもたらす可能性がある。歪みの量は、パルスのスペクトルバンド幅に依存して、パルス持続期間が、2桁のフェムト秒範囲内の値またはそれよりも短い値まで減らされる際に、特に著しくなる。材料分散の悪影響は、伝播時間差(PTD)、または群遅延(GD)、及び群速度分散(GVD)を含む。GVDは、光学材料を通る異なる次数の分散から成る。群遅延分散(GDD)は、二次の分散であり、光学材料を通って伝播するパルスの一時的な広がりをもたらす。高次は、三次分散(TOD)及び四次分散(FOD)を含む。PTD及びGVDの効果のより詳細な記述は、米国特許第2011/0058241号において見付けられ得、その内容は、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0003】
光線によってレンズ内に横断される経路長は、レンズの光軸からの半径方向の距離に依存し得る。例えば、収束レンズは、レンズの中心部分においてより大きな厚みと、レンズの周辺部分においてより小さな厚みを有する。発散レンズでは、経路長は、レンズの周辺部分でより大きく、レンズの中心に向けてより小さくなる。レンズの光軸に対する半径方向の位置に依存して、レンズを通って伝搬する光線は、それ故、異なる量の分散を経験し得る。
【0004】
レンズ内で光線によって横断される経路長はまた、レンズの光軸に対するレンズ材料における光線の伝播の角度にも依存し得る。角度であって、その角度で光線がレンズを横断する角度は、レンズ上の光線の入射角に依存する。同じ位置ではあるが、異なる入射角でレンズ上に入射する光線は、それ故、レンズ内の異なる経路長を経験する。入射角は、光のパルスを伝播するビームが、ビームの伝播の方向に直交する平面にわたってスキャンされる際に、変動し得る。異なる入射角は、それ故、異なるスキャン角度を表し得る。したがって、スキャン角度に依存して、レンズを通って伝搬する光線は、異なる量の分散を経験し得る。特に、光線は、スキャン角度の異なる値についてGDの異なる量を経験し得る。
【0005】
分散性ミラーは、光学システムによってもたらされるGDDを低減するのに有用である。この目的のために、分散性ミラーは、負のチャープをもたらすように設計され得、それは、光学システムを通って移動するパルスのために光学システムによってもたらされる正のチャープ(一時的な広がり)を少なくとも部分的に補償する。米国特許公開第2011/0058241A1号は、入射角とともに変動するGDD値を有するチャープ式多層ミラーを説明する。
【発明の概要】
【0006】
本開示は、極短パルス持続期間のパルス光のビームを提供する光源と、スキャン角度を通してビームを偏向するための偏向器と、偏向されたビームを集束するための集束対物レンズを含むレンズシステムと、レンズシステムによってビームのパルスの分散に関連した歪みを低減するための分散補償デバイスと、可変形状の分散性ミラー及びそのミラーのためのアクチュエータデバイスを含む分散補償デバイスと、スキャン角度に従ってミラーの形状を変更するようにアクチュエータデバイスを制御するためのコントローラと、を備える、スキャニング光学システムを提供する。
【0007】
可変形状の分散性ミラーの形状を変更することは、ミラーの異なる位置に入射する波束間の相対遅延をもたらすか変えるのに効果的であり得る。このようにして、ミラーの異なる位置に入射する波束間の相対的な一時的変位が、調節され得、レンズシステムのスキャン角度に対する群遅延(GD)の空間分布の変化量が、少なくとも部分的に補償され得る。可変形状の分散性ミラーの形状を変更することは、ミラーの1つ以上の反射面部分をミラーの1つ以上の他の反射面部分に対して後または前に移動することを含んでもよい。
【0008】
ある特定の実施形態において、可変形状の分散性ミラーは、ミラーの反射面上の位置とともに変動する分散特性を提供する多層構造を有する。例えば、可変形状の分散性ミラーの多層構造は、反射面にわたって、不均一なGD、不均一なGDD、及び不均一なTODのうちの少なくとも1つをもたらし得る。ミラーの不均一なGDは、レンズシステムの光軸からの半径方向のオフセットの異なる値に対してGDの変化量を補償するのに有用であり得る。同様に、ミラーの不均一なGDD及びTODは、レンズシステムの光軸からの半径方向のオフセットの異なる値に対して、それぞれ、GDD及びTODの変化量を補償するのに有用であり得る。GD、GDDまたはTODの空間的な変化量は、例えば、眼科手術のために設計されたフェムト秒レーザーシステムにおいて、使用されるような、大口径光学において特に顕著であり得る。
【0009】
ある特定の実施形態において、分散補償デバイスが、レンズシステムによってもたらされる群遅延及び群遅延分散のうちの少なくとも1つのバルクを補償するための空間的に均一な分散特性を有するバルク補償器を更に含む。
【0010】
ある特定の実施形態において、光源はレーザー源であり、光は、人間の眼の組織内に切開部を生成するのに好適な中心波長を有する。
【0011】
本開示はまた、極短パルス持続期間のパルス光のビームを提供することと、スキャン角度を通してビームを偏向することと、集束対物レンズを用いて偏向されたビームを集束することと、可変形状ミラーを提供することと、異なるスキャン角度に対して集束対物レンズの群遅延の空間分布の変化量を少なくとも部分的に補償するように、スキャン角度に従って可変形状ミラーの形状を制御することと、を含む、スキャニング方法を提供する。
【0012】
本開示のある特定の実施形態において、可変形状の分散性ミラーは、可変形状の非分散性ミラーと取り替えられ得ることに留意する。そのような実施形態において、可変形状ミラーは、光ビームのスキャン角度に基づいて、局地的に、すなわち、異なる空間的な位置について個別に、ミラーと後続の光学部材(例えばレンズ)との間の空隙の長さを調節するために更に使用され得る。このようにして、光学システムの群遅延の空間分布の変化量が調整され得、その変化量は、異なるスキャン角度に付随する。更に、可変形状ミラーは、これらの実施形態においてミラー上に入射するパルスに対する群速度分散をもたらさない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
本開示の実施形態は、ここで、添付の図面を参照にしてより詳細に例として記載されることになる。
【0014】
図1】ある実施形態に係る、人間の眼内に切開部を生成するために有用であるスキャニング光学システムの例を例示する。
図2】ある実施形態に係る分散補償デバイスの詳細を例示する。
図3】ある実施形態に係るスキャニング方法のステップを例示する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
ここで、図面を参照して、開示されるシステム及び方法の例示的実施形態を詳細に示す。以下の説明は、網羅的であること、または別様に、付属の特許請求の範囲を、図面に示され説明において開示される特定の実施形態に限定または制限することを意図しない。図面は可能な実施形態を表しているものの、図面は必ずしも縮尺通りではなく、実施形態をより良く例示するために、ある特定の特徴が簡略化される、誇張される、取り除かれる、または部分的に分割される可能性がある。更に、ある特定の図面は、概略的な形式となり得る。
【0016】
図1は、レーザー光の極短パルスのビームをスキャンして集束することができるスキャニング光学システム10の例示的実施形態を例示する。例示される実施形態において、スキャニング光学システム10は、レーザーデバイス及び制御コンピュータを含む。レーザーデバイスは、レーザー光を使用して、角膜、人間の水晶体、または人間の眼の他の組織構造において切開部を生成することができる。本明細書において使用される際、極短は、100、80、50、または20フェムト秒(fs)より小さいパルス持続期間を意味することが意図される。ある特定の実施形態において、パルス持続期間は、1桁のフェムト秒範囲(すなわち、10fs以下)内にあるか、あるいはアト秒(as)範囲内にある。
【0017】
図1の例示した例において、スキャニング光学システム10は、人間の眼12上でレーザー手術を行う。スキャニング光学システム10は、レーザーデバイス14、患者アダプタ16、制御コンピュータ18、及びメモリ20を含み、それらは、図示されるように結合され得る。レーザーデバイス14は、図示されるように結合されたレーザー源22、ビーム拡大器24、分散補償デバイス25、スキャナ26、1つ以上の光学ミラー28、及び集束対物レンズ30を含む。患者アダプタ16は、接触要素32及びサポートスリーブ34を含み、それらは、図示されるように結合され得る。メモリ20は、制御プログラム36を保存する。
【0018】
レーザー源22は、極短パルスを備えるレーザービーム38を生じる。レーザービーム38の焦点は、眼12の角膜などのような組織または他の組織構造においてレーザー誘起光学ブレークダウン(LIOB)を生成し得る。レーザービーム38は、任意の好適な波長、例えば300〜1900ナノメートル(nm)の範囲内の波長、例えば300〜650、650〜1050、1050〜1250、1100〜1500または1500〜1900nmの範囲内の波長を有し得る。レーザービーム38はまた、比較的小さな集束量、例えば、5マイクロメートル(μm)以下の直径を有し得る。
【0019】
ビーム拡大器24、分散補償デバイス25、横スキャナ26、光学ミラー28、及び集束対物レンズ30は、レーザービーム38のビーム経路にある。
【0020】
ビーム拡大器24は、レーザービーム38の幅または直径を拡大するように構成される。ビーム拡大器24の例は、ガリレイ型の無限焦点望遠鏡である。
【0021】
スキャナ26は、レーザービーム38の焦点を横に制御するように構成される。「横」は、レーザービーム38の伝播方向に直角の方向を指し、「縦」は、ビーム伝播の方向を指す。横方向の平面は、x−y平面として指定することができ、縦方向は、z方向として指定することができる。スキャナ26は、任意の好適な手法でレーザービーム38を横に偏向してもよい。例えば、スキャナ26は、互いに垂直な軸の周りで傾斜され得る、ガルバノ式に作動されるスキャナミラーの対を含んでもよい。別の例として、スキャナ26は、レーザービーム38を電気光学的に操作し得る電気光学結晶を含んでもよい。
【0022】
レーザーデバイス14はまた、z方向にビーム38の焦点を変位させるためにレーザービーム38を縦に誘導することもできる。縦方向のスキャニングの場合、レーザーデバイス14は、縦に調節可能なレンズ、可変屈折力のレンズ、またはビーム焦点のz位置を制御することができる可変形状ミラーを含んでもよい。ある特定の実施形態において、ビーム拡大器24は、2つ以上のレンズから成るレンズアセンブリを含み、ビーム拡大器24のレンズのうちの1つは、縦に調節可能に配置されるか、または可変屈折力を有する。他の実施形態において、スキャナ26は、例えば可変形状ミラーなどのような、縦方向のスキャニング部材を含む。
【0023】
1つ以上の光学ミラー28は、レーザービーム38を集束対物レンズ30に向けて誘導する。例えば、光学ミラー28は、固定式偏位ミラーまたは可動式偏位ミラーであってもよい。代替として、レーザービーム38を屈折及び/または回折し得る光学要素が、光学ミラー28の代わりに提供されてもよい。
【0024】
集束対物レンズ30は、レーザービーム38を眼12のターゲット領域の上に集束させる。集束対物レンズ30は、患者アダプタ16に別個に結合されてもよい。集束対物レンズ30、任意の好適な光学デバイス、例えばFシータ対物レンズであってもよい。ある特定の実施形態において、集束対物レンズ30は、複数の屈折レンズから成るマルチレンズデバイスである。
【0025】
患者アダプタ16は、眼12の角膜と連動する。スリーブ34は、集束対物レンズ30と結合し、接触要素32を保持する。接触要素32は、レーザー光に対して透明であるか半透明であり、角膜と連動する及び角膜の一部を水平にし得る隣接面40を有する。ある特定の実施形態において、隣接面40は平面であり、角膜上に平面領域を形成する。隣接面40は、平面領域もx−y平面上にあるように、x−y平面上にあってもよい。他の実施形態において、隣接面40は、平面である必要はなく、例えば、凸状または凹状であってもよい。
【0026】
制御コンピュータ18は、制御プログラム36に従って、レーザーデバイス14の制御可能な構成要素、例えば、レーザー源22、ビーム拡大器24、分散補償デバイス25、スキャナ26、及び任意選択的に(複数の)光学ミラー28のうちの少なくとも1つなどを制御する。制御プログラム36は、制御可能な構成要素に、パルスレーザー光線を眼12の領域に集束させてその領域の少なくとも一部を光切断させるように命令する、コンピュータコードを含有する。
【0027】
スキャニング光学システム10のスキャニング構成要素は、任意の好適な幾何形状の切開部を形成するようにレーザービーム38を誘導することができる。眼12の組織の任意の好適な部分が光切断され得る。光学システム10は、所与のスキャン経路に沿ってレーザービーム38の焦点を移動することによって組織層を光切断し得る。レーザービーム38がスキャン経路に沿って移動するにつれて、レーザー光パルスは、眼12の組織において光切断部を生成する。複数の光切断部の並置は、眼12内に任意の所望の幾何形状の切開部を生成することを可能にする。
【0028】
分散補償デバイス25は、レーザービーム38によって伝播されるパルスが分散補償デバイス25を通して移動するように、配置される。分散補償デバイス25は、分散補償デバイス25を横断するパルスに群遅延及び群速度分散の量を加える。より具体的には、分散補償デバイス25は、パルスのためにレーザーデバイス14の残りにもたらされる量を部分的または完全に補償する適切な量のGD及びGDDをもたらす。分散補償デバイス25は、適切な量のTODを更に加えてもよい。レーザーデバイス14からの出力として、レーザーパルスは、それ故、最小量の分散に関連した歪みを有する。
【0029】
ある特定の実施形態において、分散補償デバイス25は、分散補償デバイス25によって提供される分散の量の全てを加える単一の補償器を有しても良い。他の実施形態において、分散補償デバイス25は、別個の量の分散を加える2以上の補償器を含んでもよい。一例において、分散補償デバイス25は、バルク補償器及び残りの補償器を有する。バルク補償器は、レーザーデバイス14の出力においてパルスの分散に関連した歪みを最小量まで減らすために要求される分散のバルクをもたらす。バルク補償器によってもたらされる分散は、空間的に均一であり、すなわち、バルク補償器上のレーザービーム38の波束の入射の全ての位置について同じである。残りの補償器は、分散の残りの量をもたらす。残りの補償器によって加えられた分散は、空間的に不均一であり、すなわち、残りの補償器上のレーザービーム38の波束の入射の異なる位置に対して異なる。ある特定の実施形態において、残りの補償器によって加えられた分散は、回転対称性を有し、対称の軸に対して半径方向に変動する。
【0030】
参照が、ここで、分散補償デバイス25の例示的実施形態を例示する図2に更になされる。図2に示されるように、分散補償デバイス25は、可変形状の分散性(もしくは「チャープ式」)ミラー42、アクチュエータデバイス44、及びバルク補償器46を備える。可変形状の分散性ミラー42は、層ごとに異なる屈折率を有する複数の薄い誘電体層の多層構造によって形成された反射面48を有する。アクチュエータデバイス44は、制御コンピュータ18と接続されており、他の表面部分に対して反射面48の選択された部分を前後に移動することを可能にして、それによって、反射面48の形状を変更する。例示的実施形態において、アクチュエータデバイス44は、複数の個別に制御可能な作動部材を含んでもよく、各作動部材は、反射面48の異なる部分に作用する。可変形状の分散性ミラー42は、任意の好適な種類のものであり得る。ある特定の実施形態において、ミラー42は、区分された反射面を含んでもよく、各区分は、他の区分とは独立して後または前に移動され得る。他の実施形態において、ミラーは、連続的な反射面を有しても良い。例えば、ミラー42は、MEMS(微小電子機械システム)デバイスとして製作されてもよい。
【0031】
可変形状の分散性ミラー42は、残りの補償器として機能して、スキャニング光学システム10の残りにおいてもたらされる群速度分散の空間的な変化量を補償する。可変形状の分散性ミラー42の多層構造は、ミラー42に衝突するパルスのために空間的に不均一な群速度分散を追加するように設計される。ミラー42の空間的に不均一な群速度分散は、少なくともGDDについて、ある特定の実施形態では、また、ミラー42の反射面48上の異なる位置に対するTODについて、異なる値を有する。光線追跡が、(分散補償デバイス25を除いた)スキャニング光学システム10の群速度分散の空間的なパターンを決定する方法として使用され得る。スキャニング光学システム10のGVDパターンに基づいて、可変形状の分散性ミラー42の多層構造が、GVDパターンにおける空間的な変化量を少なくとも部分的に排除するように好適に設計され得る。
【0032】
ある特定の実施形態において、可変形状の分散性ミラー42の多層構造はまた、ミラー42に衝突するパルスのために空間的に不均一な群遅延を加えるように設計される。多層構造によって加えられる群遅延の空間分布は、可変形状ミラー42の形状を変更することによって調節され得る。他の実施形態において、可変形状の分散性ミラー42の多層構造は、群遅延を加えない。そのような実施形態において、反射面48上の異なる位置に入射する波束の相対位相は、それにもかかわらず、ミラー42の形状を変更することによって調節され得、それによって、ミラー42から反射されるパルスのために空間的に不均一な群遅延パターンをもたらす。
【0033】
バルク補償器46は、例えば、反対側に配置された分散性ミラー(詳細には示されない)の対から成る。レーザービーム38は、一方側からミラー間の空間に入り、所定の回数についてミラー間を前後に反射して、次いで、他方側上のミラーの対から去る。対のミラーの一方からレーザー光パルスの全ての反射は、ミラー対によってパルスに加えられる全体の分散が、ミラー対においてパルスによって経験される反射の数に依存するように、分散をパルスに加える。バルク補償器の他の構成、例えば、単一の分散性ミラー、プリズムの対、または回折格子の対が、同様に考えられることが理解されることになる。光学システムによってもたらされる全体の分散が十分に小さい場合などのような、ある特定の実施形態において、バルク補償器46が省略されてもよく、可変形状の分散性ミラー42が、光学システムの分散を補償するための唯一の補償器であってもよい。
【0034】
スキャナ26がレーザービーム38を偏向する際、集束対物レンズ30においてレーザービーム38の光線によって横断される経路長、及び任意の中間の空隙は、変動し得る。図1は、偏向されたレーザービーム38’を破線によって示す。偏向されたレーザービーム38’の偏向の量を変動させることで、すなわち、スキャン角度の値を変動させることで、偏向されたビーム38’のパルスのためにもたらされる群遅延の空間的なパターンは、それが集束対物レンズ30から出力される前に変更できる。そのような変更について調整するために、制御プログラム36は、スキャン角度に従って可変形状ミラー42の形状を変更するようにアクチュエータデバイス44を制御するための命令を有する。可変形状ミラー42の形状の変更は、ミラー42の反射面48上に異なる位置に入射する波束間の相対位相関係を修正するという効果を有する。好適な様式でミラー42の形状を調節することによって、集束対物レンズ30の出力側に偏向されたビーム38’のパルスによって呈される群遅延の空間分布のスキャン角度での変化量は、最小量まで減らされ得る。
【0035】
図3は、スキャニング光学システム10を使用して行われ得るスキャニング方法の例である。方法は、眼12内に切開部を生成するために使用され得る。ステップ200で、パルスレーザー光のビーム38が提供される。ステップ210で、ビーム38は、制御プログラム36に従うスキャン角度を通して、横に、すなわち、x−y平面に平行に偏向され、偏向されたビーム38’を結果としてもたらす。ステップ220で、偏向されたビーム38’は、眼12のターゲット領域に集束されて、眼の組織内にLIOBをベースとする光切断部を生じさせる。偏向されたビーム38’のスキャン角度に基づいて、可変形状の分散性ミラー42の形状は、偏向されたビーム38’のパルスのために集束対物レンズ30によってもたらされる群遅延の空間的なパターンの変化量を考慮するようにステップ230で制御されて、その変化量は、スキャン角度の異なる値に付随する。
図1
図2
図3