(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
モータの回転を第1スプロケットに伝え、その第1スプロケットの回転をチェーンにより第2スプロケットに伝えるとともに、前記モータへの駆動電力を出力するインバータを備え、かつ前記モータに流れる電流から前記モータにおけるトルク成分電流および界磁成分電流を検出し、検出したトルク成分電流および界磁成分電流から前記モータの速度を推定し、この推定速度が目標速度となるように前記インバータを制御するコントローラを備えたチェーン搭載装置であって、
前記コントローラは、
前記トルク成分電流に基づき、前記第2スプロケットの“角速度”または“角加速度”の脈動幅を算出し、
前記第2スプロケットの“理論角速度”または“理論角加速度”の脈動幅を、前記第1スプロケットに前記チェーンが噛み合うタイミングと前記第2スプロケットに前記チェーンが噛み合うタイミングとの予め定めた複数の“ずれ量”に対応付けて算出または保持し、
前記算出または保持した“理論角速度”または“理論角加速度”の脈動幅のうち、前記算出した“角速度”または“角加速度”の脈動幅と同じ脈動幅に対応付けられている“ずれ量”に基づき、前記チェーンの伸び量を算出する、
ことを特徴とするチェーン搭載装置。
モータの回転をメイン駆動スプロケットに伝え、そのメイン駆動スプロケットの回転をメイン駆動チェーンによりメイン従動スプロケットに伝え、そのメイン従動スプロケットの回転軸に踏段駆動スプロケットおよび手摺ベルト駆動スプロケットを設け、その踏段駆動スプロケットと踏段従動スプロケットとの間に踏段駆動チェーンを掛け渡し、前記手摺ベルト駆動スプロケットと手摺ベルト従動スプロケットとの間に手摺ベルト駆動チェーンを掛け渡すとともに、前記モータへの駆動電力を出力するインバータを備え、かつ前記モータに流れる電流から前記モータにおけるトルク成分電流および界磁成分電流を検出し、検出したトルク成分電流および界磁成分電流から前記モータの速度を推定し、この推定速度が目標速度となるように前記インバータを制御するコントローラを備えた乗客コンベアであって、
前記コントローラは、
前記トルク成分電流に基づき、前記メイン従動スプロケットの“角速度”または“角加速度”の脈動幅を算出する第1手段と、
前記メイン従動スプロケットの“理論角速度”または“理論角加速度”の脈動幅を、前記メイン駆動スプロケットに前記メイン駆動チェーンが噛み合うタイミングと前記メイン従動スプロケットに前記メイン駆動チェーンが噛み合うタイミングとの予め定めた複数の“ずれ量”に対応付けて算出または保持する第2手段と、
前記第2手段で算出または保持した“理論角速度”または“理論角加速度”の脈動幅のうち、前記第1手段で算出した“角速度”または“角加速度”の脈動幅と同じ脈動幅に対応付けられている“ずれ量”に基づき、前記メイン駆動チェーンの伸び量を算出する第3手段と、
を含む
ことを特徴とする乗客コンベア。
モータの回転を第1スプロケットに伝え、その第1スプロケットの回転をチェーンにより第2スプロケットに伝えるとともに、前記モータへの駆動電力を出力するインバータを備え、前記モータに流れる電流から前記モータにおけるトルク成分電流および界磁成分電流を検出し、検出したトルク成分電流および界磁成分電流から前記モータの速度を推定し、この推定速度が目標速度となるように前記インバータを制御する装置のチェーン伸び検出方法であって、
前記トルク成分電流に基づき、前記第2スプロケットの“角速度”または“角加速度”の脈動幅を算出し、
前記第2スプロケットの“理論角速度”または“理論角加速度”の脈動幅を、前記第1スプロケットに前記チェーンが噛み合うタイミングと前記第2スプロケットに前記チェーンが噛み合うタイミングとの予め定められている複数の“ずれ量”に対応付けて算出または保持し、
前記算出または保持した“理論角速度”または“理論角加速度”の脈動幅のうち、前記算出した“角速度”または“角加速度”の脈動幅と同じ脈動幅に対応付けられている“ずれ量”に基づき、前記チェーンの伸び量を算出する
ことを特徴とするチェーン伸び検出方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[1]第1実施形態
第1実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、モータ駆動されるチェーンを搭載したチェーン搭載装置として、乗客コンベアである例えばエスカレータ1を開示している。エスカレータ1は、トラス2を備える。トラス2は、下階のフロア1Fに据え付けられた下階側水平部2aと、上階のフロア2Fに据え付けられた上階側水平部2bと、下階側水平部2aと上階側水平部2bとの間を結ぶ傾斜部2cと、を備える。
【0015】
トラス2の上階側水平部2b内に機械室3が配置されている。機械室3には、動力源としてモータ4が収容されるとともに、そのモータ4の回転を減速する減速機5、その減速機5の出力軸に固定された駆動スプロケット(第1スプロケット;メイン駆動スプロケット)6などが収容されている。駆動スプロケット6の近傍に駆動軸7が回動自在に配置され、その駆動軸7に従動スプロケット(第2スプロケット;メイン従動スプロケット)8および踏段駆動スプロケット9がそれぞれ同軸状に固定されている。そして、駆動スプロケット6と従動スプロケット8との間に駆動チェーン(メイン駆動チェーン)10が架け渡されている。従動スプロケット8は、中継スプロケットともいう。
【0016】
モータ4が動作すると、モータ4の回転が減速機5を介して駆動スプロケット6に伝わり、駆動スプロケット6が回転する。駆動スプロケット6が回転すると、その回転が駆動チェーン10を介して従動スプロケット8に伝わり、従動スプロケット8が回転する。従動スプロケット8が回転すると、同じ駆動軸7に固定されている踏段駆動スプロケット9も回転する。
【0017】
トラス2の下階側水平部2a内に従動軸11が回動自在に配置され、その従動軸11に踏段従動スプロケット12が同軸状に固定されている。この踏段従動スプロケット12と踏段駆動スプロケット9との間に、踏段駆動チェーン13が架け渡されている。踏段駆動スプロケット9の回転に伴い、踏段駆動チェーン13が踏段駆動スプロケット9と踏段従動スプロケット12との間を無端状に循環走行する。
【0018】
踏段駆動チェーン13は、乗客の運搬に供する往路13aおよびこの往路11aの下方に位置する復路13bを含む。この踏段駆動チェーン13に多数の踏段14が連結されている。踏段14は、エスカレータ1を利用する乗客が乗り込む要素であって、それぞれ前輪14aおよび後輪14bを有する。前輪14aおよび後輪14bは、トラス2内に配置されている図示しないガイドレールに回転自在に接している。これにより、踏段駆動チェーン13が走行すると、踏段駆動チェーン13の往路13aにおいて、複数の踏段14がトラス2の傾斜部2cに沿って階段状に並んだ状態で移動する。各踏段14に乗り込んだ乗客は、下階のフロア1Fから上階のフロア2F又は上階のフロア2Fから下階のフロア1Fに向けて搬送される。
【0019】
従動スプロケット8と踏段駆動スプロケット9が固定された駆動軸7に、手摺ベルト駆動スプロケット15が同軸状に固定されている。この手摺ベルト駆動スプロケット15から離間した位置に手摺ベルト従動スプロケット16が回動自在に配置され、その手摺ベルト従動スプロケット16と手摺ベルト駆動スプロケット15との間に手摺ベルト駆動チェーン17が架け渡されている。手摺ベルト駆動チェーン17は、手摺ベルト駆動スプロケット15の回転を受けて、その手摺ベルト駆動スプロケット15と手摺ベルト従動スプロケット16との間を循環走行する。
【0020】
手摺ベルト従動スプロケット16の回動軸に、手摺ベルト駆動ローラ18が同軸状に固定されている。トラス2から立ち上がる欄干19の外周部に手摺ベルト20が移動自在に装着されており、その手摺ベルト20の一部が手摺ベルト駆動ローラ18に係合する。手摺ベルト駆動ローラ18が回転することにより、手摺ベルト20が欄干19に沿って循環走行する。この手摺ベルト20に、各踏段14に乗り込んだ乗客が手でつかまることができる。
【0021】
駆動スプロケット6、従動スプロケット8、駆動チェーン10を拡大して
図2に示す。また、駆動チェーン10の一部を側方から視た状態を
図3、駆動チェーン10およびその一部断面を上方から視た状態を
図4に示す。駆動チェーン10は、多数の外リンク21と多数の内リンク22とを交互にかつ無端状態に連結したもので、駆動スプロケット6の回転に伴い、張力を受け続けた状態で曲げ伸ばしを繰返しながら、駆動スプロケット6と従動スプロケット8との間を循環走行する。外リンク21は、相対向する一対の剛体勢のリンクプレート21a,21bにより構成される。内リンク22は、相対向する一対の剛体勢のリンクプレート22a,22bにより構成される。
【0022】
外リンク21と内リンク22との連結部分では、リンクプレート22a,22bの両端部がリンクプレート21a,21bの両端部の内側に所定寸法だけ入り込んで互いに重なり合った状態にある。リンクプレート22a,22bの両端部の内側に筒状のブッシュ23がそれぞれ回動自在に配置され、これらブッシュ23の外周面にチェーンローラ24がそれぞれ回動自在に装着されている。そして、リンクプレート21a,21bの両端部から、リンクプレート22a,22bの両端部および各ブッシュ23の内側を通る状態に、連結用のピン25がそれぞれ挿通されている。各ピン25は、リンクプレート22a,22bの両端部および各ブッシュ23の内周面に対し摺動自在に接している。各ピン25の相互間の長さ(ピン間距離)をチェーンピッチPという。
【0023】
ピン25の外周面とブッシュ23の内周面は、駆動チェーン10に加わる張力を受けて強く接している。ただし、駆動スプロケット6および従動スプロケット8を通過する際の曲がり変形が繰り返されると、やがてピン25とブッシュ23との接触部分に摩耗による隙間が生じるようになる。外リンク21および内リンク22の長さは長期間変化しないが、ピン25とブッシュ23との間の隙間は摩耗によって徐々に増加していく。このため、駆動チェーン10は、見かけ上、外リンク21および内リンク22が伸びたのと同様の状態となる。この伸び量を測定できれば、駆動チェーン10の劣化状態を概ね把握することが可能である。
【0024】
エスカレータ1に搭載された制御回路の要部を
図5に示す。
商用交流電源30にインバータ31が接続され、そのインバータ31の出力端に上記モータ4が接続されている。インバータ31は、商用交流電源30の交流電圧を直流に変換し、変換した直流電圧をスイッチングにより所定周波数およびレベルの交流電圧に変換し出力する。この出力によりモータ4が動作する。インバータ31の出力端とモータ4との間の通電路に電流センサ32が取付けられ、その電流センサ32の検知結果がコントローラ40に供給される。電流センサ32は、モータ4に流れる電流(モータ電流という)を検知する。
【0025】
コントローラ40は、マイクロコンピュータおよびその周辺回路からなり、モータ制御部41、角速度算出部42、理論値算出部43、伸び量算出部44、報知部45を含む。このコントローラ40に、エスカレータ1の運転に関わる種々の情報を表示する表示部50が接続されている。
【0026】
モータ制御部41は、電流センサ32で検知されるモータ電流から、モータ4におけるトルク成分電流Iqおよび界磁成分電流Idを検出し、検出したトルク成分電流Iqおよび界磁成分電流Idからモータ4の速度(ロータ速度)を推定し、この推定速度と予め定められた目標速度との差に対応する目標トルク成分電流Iqrefおよび目標界磁成分電流IdrefをPI制御により求め、上記トルク成分電流Iqおよび上記界磁成分電流Idが目標トルク成分電流Iqrefおよび目標界磁成分電流Idrefとなるようにインバータ31のスイッチングをパルス幅変調(PWM)制御する周知のセンサレス・ベクトル制御を行う。
【0027】
角速度算出部42は、モータ制御部41で検出されるトルク成分電流Iqからモータ4のトルクの脈動を捕らえ、捕らえた脈動に基づく後述の式(12)の演算により、従動スプロケット8の角速度v2(=v2real)およびその角速度v2の脈動幅(脈動振幅ともいう)を逐次に算出する。
【0028】
理論値算出部43は、駆動チェーン10のチェーンピッチP、駆動スプロケット6のピッチ円半径R、従動スプロケット8のピッチ円半径R2など種々の諸元に基づく後述の式(8)の演算により、従動スプロケット8の理論角速度v2theoryおよびその理論角速度v2theoryの脈動幅を、駆動スプロケット6に駆動チェーン10の所定の第1のチェーンローラ24が噛み合うタイミングと従動スプロケット8に駆動チェーン10の所定の第2のチェーンローラ24が噛み合うタイミングとの予め定めた複数の“ずれ量”に対応付けて算出する。“ずれ量”のことを位相ずれ角αという。理論角速度v2theoryは、位相ずれ角αに応じて異なる。そして、理論値算出部43は、算出した理論角速度v2theoryおよびその脈動幅を各位相ずれ角αに対応付けた形で保持する。
【0029】
伸び量算出部44は、理論値算出部43で算出(保持)した複数の理論角速度v2theoryの脈動幅のうち、角速度算出部42で算出した“角速度v2の脈動幅”と同じ“理論角速度v2theoryの脈動幅”を選出し、選出した“理論角速度v2theoryの脈動幅”に対応付けられている位相ずれ角αを理論値算出部43から取込み、取込んだ位相ずれ角αに基づいて駆動チェーン10の伸び量dLを算出する。
【0030】
報知部45は、伸び量算出部44で算出された伸び量dLを表示部50の文字表示により報知するとともに、算出された伸び量dLと予め定めた設定値とを比較し、伸び量dLが設定値以上の場合に駆動チェーン10の交換が必要である旨を表示部50の文字表示や画像表示あるいは発光表示(点滅表示を含む)により報知する。表示部50は、エスカレータ1の筐体カバーを外さなくてもユーザや保守員が容易に視認できる個所に、設置されている。
【0031】
なお、角速度算出部42の算出処理は、乗客がエスカレータ1に搭乗しないような時間帯、例えばエスカレータ1が設置されている店舗や駅の開店前の試運転時などに行うのがよい。乗客が搭乗するような時間帯に算出処理を行う場合には、乗客の搭乗の影響を除外するべく、あるいは乗客の搭乗の影響が薄まるよう、複数回分の算出結果の平均値を求め、その平均値を算出結果として伸び量算出部44に供給してもよい。
【0032】
つぎに、駆動スプロケット6の回転と駆動チェーン10の走行との関係を
図6により説明する。
駆動チェーン10の各チェーンローラ24は、一定速度で回転する駆動スプロケット6の歯と順次に噛み合いながら移動していく。この移動に際し、チェーンローラ24Aが噛み合っている駆動スプロケット6の回転速度(角速度)と、チェーンローラ24Bが移動する速度v1とは、完全には一致しない。速度v1は、幾何学的に脈動(変動)する。
【0033】
この幾何学的な脈動を含む速度v1は、理論的に計算することができる。その手法を説明する。
駆動スプロケット6と噛み合ったチェーンローラ24Aは、駆動スプロケット6の回転に伴い、一定の角速度で、微小回転角dθだけ右に進む。その際、駆動スプロケット6に対するチェーンローラ24Bの位置X1は、幾何学的に、下式(1)で求められる。
【数1】
【0034】
Pはチェーンピッチ(各ピン25の相互間距離)、Rは駆動スプロケット6のピッチ円半径、θは駆動スプロケット6上のチェーンローラ24の回転角(回転位置)である。
【0035】
速度v1は、“P−X1”の時間微分であるため、下式(2)の形で算出される。
【数2】
【0036】
この式(2)を計算すると、結局、駆動チェーン10の速度(走行速度)v1は、下式(3)で表わされる。
【数3】
【0037】
この速度v1は、
図7に示すように、駆動チェーン10の各チェーンローラ24が駆動スプロケット6の歯と噛み合う一定周期で、駆動スプロケット6の周速に対して数%程度の変動いわゆる脈動を含む波形となる。この速度v1を微分することにより、
図8に示すように、駆動チェーン10の加速度v1accを求めることができる。加速度v1accも脈動を含む波形となる。
図7中の破線は、駆動チェーン10に伸びが生じた場合の速度v1の値を示す。この速度v1の変動を捕らえることができれば、駆動チェーン10の伸びを検出できると考えられる。
【0038】
しかしながら、駆動チェーン10の加速度v1accの脈動幅は、駆動チェーン10が1%伸びた場合でも、せいぜい1〜2%程度しか変化しない。この微小な変化量は、モータ4のトルク変動のばらつきなどに埋もれてしまい、そのまま検出するのは難しい。
【0039】
これに対し、駆動チェーン10の加速度v1accの脈動は、駆動チェーン10によって駆動される慣性負荷であるところの従動スプロケット8の角速度v2に、さらに脈動が重畳された状態の大きな脈動となって現われる。この角速度v2の脈動は、モータ4のトルク変動に的確に現われる。そして、モータ4のトルク変動は、モータ制御部41で検出されるトルク成分電流Iqの波形に現われる。したがって、角速度算出部42は、トルク成分電流Iqに基づき、従動スプロケット8の角速度v2およびその角速度v2の脈動幅を算出することができる。
【0040】
次に、駆動チェーン10が理論的な速度v1で脈動しながら走行した際に、従動スプロケット8の角速度v2が、理論上、どのようになるかを算出する。
【0041】
なお、ここでの計算において、駆動スプロケット6と従動スプロケット8との間の駆動チェーン10は、リンク数が“n”である場合を想定する。この場合、駆動スプロケット6と従動スプロケット8との間の距離Lは、下式(4)で表わされる。
L=n・P……式(4)
この駆動チェーン10が長期間の使用により均等にm%伸びた場合の距離Lの変化量つまり伸び量dLは、下式(5)で算出される。
dL=n・P・m/100……式(5)
新品でまだ伸びがない駆動チェーン10が駆動スプロケット6および従動スプロケット8に噛み合った状態を
図9に概略的に示す。駆動スプロケット6上の所定の第1のチェーンローラ24の回転角(回転位置)をθ1、従動スプロケット8上の所定の第2のチェーンローラ24の回転角をθ2として示している。
【0042】
この駆動チェーン10が長期間にわたり使用されて伸びた場合、
図10に示すように、駆動スプロケット6上の所定の第1のチェーンローラ24の回転角が同じθ1でも、従動スプロケット8上の所定の第2のチェーンローラ24の回転角は初期のθ2から後方に位相角αだけずれる。この位相ずれ角αは、従動スプロケット8のピッチ円半径をR2とした場合、下式(6)で算出される。
α=dL/R2=n・P・m/(100・R2)……式(6)
位相ずれ角αを何らかの方法で求めることができれば、チェーン伸びdLは、下式(7)により、一意に算出できる。
dL=α・R2……式(7)
次に、従動スプロケット8の角速度v2を算出する。駆動スプロケット6により駆動される駆動チェーン10の速度v1は、上記した式(3)で算出される。この速度v1の駆動チェーン10によって駆動される従動スプロケット8の角速度v2は、駆動チェーン10が伸びて位相ずれ角αが生じている場合、下式(8)の形となる。
【数4】
【0043】
この式(8)に基づき、従動スプロケット8の角速度v2およびその角速度v2の脈動幅を、
図11に示すように、複数の位相ずれ角αに対応付けて理論的に算出することができる。分かり易くするため、位相ずれ角αが0度・15度・30度の3つの算出結果のみ示しているが、実際の算出では想定し得る範囲の位相ずれαについて、幅広い範囲で算出を行う。算出される角速度v2の脈動幅をパラメータである複数の位相ずれ角αに対応付けて示したのが
図12のデータである。角速度v2の脈動幅は、位相ずれ角αが小さい領域では小さいが、位相ずれ角αが増えるに従って徐々に大きくなる。
【0044】
理論値算出部43は、上記式(8)により角速度v2およびその角速度v2の脈動幅を算出し、それを理論角速度v2theoryおよびその理論角速度v2theoryの脈動幅として、
図12のように位相ずれ角αに対応付けたデータテーブルの形式で保持する。
【0045】
次に、踏段駆動チェーン13の速度の脈動が、モータ4のトルクに及ぼす影響について説明する。
角速度v2で回転する従動スプロケット8の回転は、従動スプロケット8の回転軸に固定されている踏段駆動スプロケット9を介して踏段駆動チェーン13に伝わる。これにより、踏段駆動チェーン13および多数の踏段14が踏段駆動スプロケット9と踏段従動スプロケット12との間を循環走行する。従動スプロケット8の角速度v2は、脈動を含んだ状態で、そのまま踏段駆動チェーン13および各踏段14の運動速度となる。踏段14の個々の質量をmm、踏段14の個数をnnとした場合、全ての踏段14の全慣性重量Mtotalは、下式(9)となる。
Mtotal=mm・nn……式(9)
この全慣性重量Mtotalが角速度v2で駆動されるため、その駆動に生じる慣性力Fは、下式(10)となる。
F=Mtotal×dv2/dt……式(10)
これを駆動するため、モータ4のトルクTは、概略で、下式(11)で表わされる脈動Ttotalを含むこととなる。
Ttotal=F/R=Mtotal/R・dv2/dt……式(11)
この脈動Ttotalは、
図11に示した角速度v2を微分した波形に相似するもので、モータ制御部41で検出されるトルク成分電流Iqの波形に現われる。
角速度算出部42は、トルク成分電流Iqの波形に現われる脈動Ttotalを捕らえ、その脈動Ttotalを用いる下式(12)の演算を実行することにより、従動スプロケット8の角速度v2の実際の値をv2realとして算出できる。
【数5】
【0046】
そして、伸び量算出部44は、理論値算出部43で算出(保持)した複数の理論角速度v2theoryの脈動幅のうち、角速度算出部42で算出した“角速度v2(=v2real)の脈動幅”と同じ“理論角速度v2theoryの脈動幅”を選出し、選出した“理論角速度v2theoryの脈動幅”に対応付けられている位相ずれ角αを理論値算出部43から取込み、取込んだ位相ずれ角αを用いる上記式(7)の演算を実行することにより、駆動チェーン10の伸び量dLを算出できる。
【0047】
算出された伸び量dLは、報知部45により、表示部50で文字表示される。ユーザや保守員は、この表示部50を見ることにより、エスカレータ1の運転を一時的に停止してエスカレータ1の筐体カバーを外すなど大掛かりな作業を要することなく、駆動チェーン10の伸び量dLを容易かつ的確に認識することができる。保守員にかかる負担が軽減できるとともに、運転の停止による利用者の不便を解消できる。
【0048】
モータ4およびインバータ31をコントローラ40でベクトル制御し、そのベクトル制御の要素であるトルク成分電流Iqに基づいて同コントローラ40が駆動チェーン10の伸び量dLを算出する構成であるから、従来のモータ制御用の回転板やパルスカウンタを要することなく、踏段駆動チェーンに取付ける付属物や通過センサなど専用の器具も要することなく、駆動チェーン10の伸び量dLを簡単な構成で容易かつ的確に捕らえることができる。したがって、コストの上昇を生じない。器具の調整作業も不要となるので、作業員の負担を軽減できる。
【0049】
算出された伸び量dLが予め定めた設定値以上の場合、報知部45により、駆動チェーン10の交換が必要である旨が表示部50の文字表示や画像表示あるいは発光表示(点滅表示を含む)によって報知される。これにより、駆動チェーン10とスプロケット6,8との噛み合いに異常が生じる前に、またスプロケット6,8が摩耗する前に、駆動チェーン10を新品に交換することができる。
【0050】
[2]第2実施形態
第2実施形態の制御回路を
図13に示す。
コントローラ40は、抽出部46、角速度算出部42a,42b,42c、理論値算出部43a,43b,43c、伸び量算出部44a,44b,44c、報知部45を含む。
【0051】
抽出部46は、モータ制御部41で検出されるトルク成分電流Iqから、従動スプロケット8の角速度v2の脈動が含まれる周波数帯域のトルク成分電流(第1トルク成分電流)Iq1と、踏段従動スプロケット12の角速度v2の脈動が含まれる周波数帯域のトルク成分電流(第2トルク成分電流)Iq2と、手摺ベルト従動スプロケット16の角速度v2の脈動が含まれる周波数帯域のトルク成分電流(第3トルク成分電流)Iq3と、をそれぞれ抽出するもので、例えば帯域フィルタを用いる。
【0052】
角速度算出部42aは、抽出部46で抽出されるトルク成分電流Iq1から従動スプロケット8の角速度v2の脈動に対応するモータ4のトルクの脈動を捕らえ、捕らえた脈動に基づく上記式(12)の演算により、従動スプロケット8の角速度v2およびその角速度v2の脈動幅を逐次に算出する。
【0053】
角速度算出部42bは、抽出部46で抽出されるトルク成分電流Iq2から踏段従動スプロケット12の角速度v2の脈動に対応するモータ4のトルクの脈動を捕らえ、捕らえた脈動に基づく上記式(12)の演算により、踏段従動スプロケット12の角速度v2およびその角速度v2の脈動幅を逐次に算出する。
【0054】
角速度算出部42cは、抽出部46で抽出されるトルク成分電流Iq3から手摺ベルト従動スプロケット16の角速度v2の脈動に対応するモータ4のトルクの脈動を捕らえ、捕らえた脈動に基づく上記式(12)の演算により、手摺ベルト従動スプロケット16の角速度v2およびその角速度v2の脈動幅を逐次に算出する。
【0055】
理論値算出部43aおよび伸び量算出部44aの機能は、第1実施形態の理論値算出部43および伸び量算出部44の機能と同じである。よって、その説明は省略する。
【0056】
理論値算出部43bは、踏段駆動チェーン13のチェーンピッチP、踏段駆動スプロケット9のピッチ円半径R、踏段従動スプロケット12のピッチ円半径R2など種々の諸元に基づく上記式(8)の演算により、踏段従動スプロケット12の理論角速度v2theoryおよびその理論角速度v2theoryの脈動幅を、踏段駆動スプロケット9に踏段駆動チェーン13の所定の第1のチェーンローラ24が噛み合うタイミングと踏段従動スプロケット12に踏段駆動チェーン13の所定の第2のチェーンローラ24が噛み合うタイミングとの予め定めた複数の位相ずれ角αに対応付けて算出し保持する。
【0057】
理論値算出部43cは、手摺ベルト駆動チェーン17のチェーンピッチP、手摺ベルト駆動スプロケット15のピッチ円半径R、手摺ベルト従動スプロケット16のピッチ円半径R2など種々の諸元に基づく上記式(8)の演算により、手摺ベルト従動スプロケット16の理論角速度v2theoryおよびその理論角速度v2theoryの脈動幅を、手摺ベルト駆動スプロケット15に手摺ベルト駆動チェーン17の所定の第1のチェーンローラ24が噛み合うタイミングと手摺ベルト従動スプロケット16に手摺ベルト駆動チェーン17の所定の第2のチェーンローラ24が噛み合うタイミングとの予め定めた複数の位相ずれ角αに対応付けて算出し保持する。
【0058】
伸び量算出部44aの機能は、第1実施形態の伸び量算出部44の機能と同じである。よって、その説明は省略する。
【0059】
伸び量算出部44bは、理論値算出部43bで算出(保持)した複数の理論角速度v2theoryの脈動幅のうち、角速度算出部42bで算出した“角速度v2の脈動幅”と同じ“理論角速度v2theoryの脈動幅”を選出し、選出した“理論角速度v2theoryの脈動幅”に対応付けられている位相ずれ角αを理論値算出部43bから取込み、取込んだ位相ずれ角αに基づいて踏段駆動チェーン13の伸び量dLを算出する。
【0060】
伸び量算出部44cは、理論値算出部43cで算出(保持)した複数の理論角速度v2theoryの脈動幅のうち、角速度算出部42cで算出した“角速度v2の脈動幅”と同じ“理論角速度v2theoryの脈動幅”を選出し、選出した“理論角速度v2theoryの脈動幅”に対応付けられている位相ずれ角αを理論値算出部43cから取込み、取込んだ位相ずれ角αに基づいて手摺ベルト駆動チェーン17の伸び量dLを算出する。
【0061】
報知部45は、伸び量算出部44a,44b,44cでそれぞれ算出された各伸び量dLを表示部50の文字表示により報知するとともに、算出された各伸び量dLと予め定めた設定値とをそれぞれ比較し、各伸び量dLのいずれかが設定値以上の場合に対応する駆動チェーンの交換が必要である旨を表示部50の文字表示や画像表示あるいは発光表示(点滅表示を含む)により報知する。
【0062】
踏段駆動チェーン13には多数の踏段14の重量がかかることから、踏段従動スプロケット12の角速度v2の脈動は捕らえることが可能なトルク脈動としてトルク成分電流Iq2に現われる。よって、踏段駆動チェーン13の伸び量dLについても、駆動チェーン10の伸び量dLと同じく、的確に検出することができる。
【0063】
ただし、手摺ベルト駆動チェーン17によって駆動される手摺ベルト20は、主に樹脂と布で造られているので重量が軽い。この点を考慮し、
図14に示すように、手摺ベルト従動スプロケット16の回転軸16aに、全慣性重量Mtotalを増すための慣性マス部材60が内蔵されている。
【0064】
慣性マス部材60の重量が手摺ベルト従動スプロケット16に加わることにより、手摺ベルト従動スプロケット16の角速度v2の脈動が捕らえることが可能なトルク脈動となってトルク成分電流Iq3に現われる。よって、手摺ベルト駆動チェーン17の伸び量dLについても、駆動チェーン10の伸び量dLおよび踏段駆動チェーン13の伸び量dLと同じく、的確に検出することができる。
他の構成、作用、効果は、第1実施形態と同じである。
【0065】
なお、踏段従動スプロケット12の角速度v2の脈動および手摺ベルト従動スプロケット16の角速度v2の脈動については、それぞれ平均値を求め、求めた平均値の変化を伸び量検出の要素として用いる構成としてもよい。
【0066】
[3]第3実施形態
第3実施形態の制御回路を
図15に示す。
コントローラ40は、第1実施形態の理論値算出部43に代えて、理論値記憶部47を含む。他の構成は、第1実施形態と同じである。
【0067】
第1実施形態の理論値算出部43が算出して保持したのと同じ理論角速度v2theoryおよびその脈動幅を外部のコンピュータ等で計算し、その計算結果をデータテーブルとして理論値記憶部47に記憶しておく。
他の構成、作用、効果は、第1実施形態と同じである。
【0068】
[4]第4実施形態
第1実施形態では従動スプロケット8の角速度v2の脈動を伸び量検出の要素として用いたが、第4実施形態では、角速度v2を微分して得られる角加速度v2accを伸び量検出の要素として用いる。
【0069】
理論値算出部43は、角加速度v2accおよびその角加速度v2accの脈動幅を算出し、それを理論角加速度v2acctheoryおよびその理論角加速度v2acctheoryの脈動幅として、
図16のように位相ずれ角αに対応付けたデータテーブルの形式で保持する。
【0070】
伸び量算出部44は、角速度算出部42で算出した角速度v2を微分することにより、角加速度v2accおよびその角加速度v2accの脈動幅を求める。そして、伸び量算出部44は、理論値算出部43で算出(保持)した複数の理論角加速度v2acctheoryの脈動幅のうち、上記求めた“角加速度v2accの脈動幅”と同じ“理論角加速度v2acctheoryの脈動幅”を選出し、選出した“理論角加速度v2acctheoryの脈動幅”に対応付けられている位相ずれ角αを理論値算出部43cから取込み、取込んだ位相ずれ角αに基づいて駆動チェーン10の伸び量dLを算出する。
他の構成、作用、効果は、第1実施形態と同じである。
【0071】
[5]第5実施形態
第5実施形態の制御回路を
図17に示す。
コントローラ40は、第1実施形態の抽出部46、角速度算出部42、理論値算出部43、伸び量算出部44、報知部45のほかに、さらに保持部48を含む。
【0072】
保持部48は、角速度算出部42で算出される角速度v2およびその角速度v2の脈動幅を、定期的たとえば2か月ごとに保持する。
【0073】
伸び量算出部44は、保持部48の定期的な保持が所定回数たとえば3回行われるごとに、伸び量算出の処理を実行する。
【0074】
定期的に保持される角速度v2として、例えば
図18に示すように、互いに異なる値が得られる。この例では、最初に保持される3回分の角速度v2は徐々に減少し、続いて保持される3回分の角速度v2は徐々に増加している。すなわち、角速度v2は、位相ずれαが10度未満の使用初期の段階では位相ずれαの増加に伴って減少方向に変化(3つの丸印)し、その後、位相ずれαが10度以上に増えた段階では位相ずれαの増加に伴って増加方向に変化(3つの三角印)している。
他の構成、作用、効果は、第1実施形態と同じである。
【0075】
なお、
図18に示されるような角速度v2の変化を理論角速度曲線としてコントローラ40の内部メモリに予め登録しておき、伸び量算出部44で算出される角速度v2が保持部48に保持されるごとに、その保持された角速度v2に対応する位相ずれαを理論角速度曲線から抽出し、抽出した位相ずれαに基づいて駆動チェーン10の伸び量dLを算出する構成としてもよい。
【0076】
[6]変形例
使用初期の駆動チェーン10であっても、駆動スプロケット6および従動スプロケット8に対する駆動チェーン10の噛み合い状態によっては、無視できない位相ずれαが初めから存在し、それが伸び量検出の誤差となって現われる可能性がある。
【0077】
対策として、位相ずれαを駆動チェーン10の使用開始時に人為的に測定し、その測定結果を位相ずれαの初期値α0としてコントローラ40に入力する構成を上記各実施形態に付加してもよい。例えば、初期値α0を入力するための操作部をコントローラ40に接続する。この場合、伸び量算出部44は、理論値算出部43から取込んだ位相ずれ角αを操作部から予め入力される初期値α0の分だけ減少方向に補正し、補正した位相ずれ角αに基づいて駆動チェーン10の伸び量dLを算出する。
【0078】
このような構成によれば、駆動チェーン10の伸び量dLをより的確に検出することができる。
【0079】
上記各実施形態では、コントローラ40のモータ制御部41が速度推定のあるセンサレス・ベクトル制御を行う場合を例に説明したが、モータ4の速度を検知する速度センサが用意されていて、その速度センサの検知速度がコントローラ40にフィードバックされる構成である場合には、速度推定のないベクトル制御をモータ制御部41が行う構成としてもよい。
【0080】
上記各実施形態では、モータ駆動されるチェーンを搭載したチェーン搭載装置として乗客コンベアおよびその具体例であるエスカレータ1について説明したが、モータ駆動されるチェーンを搭載したものであれば、路面や床面に設置される移動歩道、荷物を吊り上げるクレーン、荷物を持ち上げて運ぶフォークリフトなどにおいても、同様に実施が可能である。
【0081】
その他、上記各実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【解決手段】チェーン搭載装置は、モータ、第1スプロケット、チェーン、第2スプロケット、インバータ、およびコントローラを備える。コントローラは、モータおよびインバータをベクトル制御し、そのベクトル制御の要素であるトルク成分電流に基づいてチェーンの伸び量を算出する。