特許第6074146号(P6074146)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 曙ブレーキ工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6074146-3次元変位量計測装置 図000002
  • 特許6074146-3次元変位量計測装置 図000003
  • 特許6074146-3次元変位量計測装置 図000004
  • 特許6074146-3次元変位量計測装置 図000005
  • 特許6074146-3次元変位量計測装置 図000006
  • 特許6074146-3次元変位量計測装置 図000007
  • 特許6074146-3次元変位量計測装置 図000008
  • 特許6074146-3次元変位量計測装置 図000009
  • 特許6074146-3次元変位量計測装置 図000010
  • 特許6074146-3次元変位量計測装置 図000011
  • 特許6074146-3次元変位量計測装置 図000012
  • 特許6074146-3次元変位量計測装置 図000013
  • 特許6074146-3次元変位量計測装置 図000014
  • 特許6074146-3次元変位量計測装置 図000015
  • 特許6074146-3次元変位量計測装置 図000016
  • 特許6074146-3次元変位量計測装置 図000017
  • 特許6074146-3次元変位量計測装置 図000018
  • 特許6074146-3次元変位量計測装置 図000019
  • 特許6074146-3次元変位量計測装置 図000020
  • 特許6074146-3次元変位量計測装置 図000021
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6074146
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】3次元変位量計測装置
(51)【国際特許分類】
   G01B 5/00 20060101AFI20170123BHJP
   G01B 21/00 20060101ALI20170123BHJP
   G01C 15/00 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
   G01B5/00 B
   G01B21/00 E
   G01C15/00 104Z
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-53470(P2012-53470)
(22)【出願日】2012年3月9日
(65)【公開番号】特開2013-186073(P2013-186073A)
(43)【公開日】2013年9月19日
【審査請求日】2015年1月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000516
【氏名又は名称】曙ブレーキ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】特許業務法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増子 実
(72)【発明者】
【氏名】西條 敦志
【審査官】 神谷 健一
(56)【参考文献】
【文献】 登録実用新案第3058366(JP,U)
【文献】 特開平07−306035(JP,A)
【文献】 特開平05−296757(JP,A)
【文献】 特開2009−258018(JP,A)
【文献】 特開2001−304853(JP,A)
【文献】 特開2006−162308(JP,A)
【文献】 特開2007−315815(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 5/00− 5/30
G01B 21/00−21/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不動点と地滑り等による地表面の変位を計測する計測点とをワイヤで接続し、ワイヤの変位により、計測点の変位量を計測する計測装置において、
前記不動点及び計測点の一方に、前記ワイヤの長さ方向の変位量を計測するセンサと、該ワイヤの鉛直方向軸(X軸)回り及び水平軸(Y軸)回りの角度変位量を計測するセンサを設け、ワイヤの長さ方向の変位量、鉛直方向軸(X軸)回りの角度変位量及び水平方向軸(Y軸)回りの角度変位量に基づいて、前記不動点に対する計測点の3次元変位量を演算するようにしたことを特徴とする計測装置。
【請求項2】
前記ワイヤの一端がワイヤの長さ方向にスライドするZ軸センサロッドに接続され、該Z軸センサロッドをスライド可能に収容するケースの基端部が、前記鉛直方向軸(X軸)回り及び水平方向軸(Y軸)回りに回転自在な連結機構に接続されており、前記Z軸センサロッドに前記ワイヤの長さ方向の変位量を検出するセンサ、そして、前記連結機構に前記鉛直方向軸(X軸)回り及び水平方向軸(Y軸)回りの角度変位量を検出するセンサをそれぞれ設けたことを特徴とする請求項1に記載の計測装置。
【請求項3】
前記ワイヤの長さ方向の変位量を検出するセンサは、前記ワイヤの巻き取り量により変位量を検出する請求項1に記載の計測装置。
【請求項4】
前記ワイヤの長さ方向の変位量を検出する計測装置の基台に、前記鉛直方向軸(X軸)回り及び水平方向軸(Y軸)回りの角度変位量を検出するセンサを結合した2角度検出ユニットを取り付け、該2角度検出ユニットを通したワイヤを前記ワイヤの長さ方向の変位量を検出する計測装置に接続したことを特徴とする請求項1または3に記載の計測装置。
【請求項5】
前記ワイヤの長さ方向の変位量を検出する計測装置の基台を、前記鉛直方向軸(X軸)回り及び水平方向軸(Y軸)回りに回転自在に支持する支持機構に取り付け、該支持機構に、前記鉛直方向軸(X軸)回り及び水平方向軸(Y軸)回りの角度変位量の計測する前記センサを取り付けたことを特徴とする請求項1または3に記載の計測装置。
【請求項6】
ワイヤの長さ方向の変位量を検出する計測装置の基台に対し、鉛直方向に固定される第1コの字型部材と、
前記第1のコの字型部材に対し、鉛直軸回りに回転自在に連結される中間部材と、
前記中間部材に対し、水平軸回りに回転自在に連結される第2コの字型部材と、
前記中間部材の鉛直軸回りの回転角度変量を計測するX軸変位センサと、
前記第2コの字型部材の水平軸回りの回転角度変量を計測するY軸変位センサと、
前記X軸変位センサとY軸変位センサの計測値を出力する出力端子と、
からなる2角度検出ユニット。
【請求項7】
ワイヤの長さ方向の変位量を検出する計測装置を固定する台座と、
該台座を鉛直軸回りに回転自在に支持する第1コの字型部材と、
前記第1コの字型部材を水平軸回りに回転自在に連結する第2コの字型部材と、
前記第2コの字型部材を前記鉛直軸回りに回転自在に連結する第3コの字型部材と、
前記第3コの字型部材を計測点に鉛直に固定するためのポールと、
前記第1コの字型部材の鉛直軸回りの回転角度変量を計測するX軸変位センサと、
前記第2コの字型部材の水平軸回りの回転角度変量を計測するY軸変位センサと、
前記X軸変位センサとY軸変位センサの計測値を出力する出力端子と、
からなる2角度検出ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不動点と地滑り等による地表面の変位を計測する計測点とをワイヤで接続し、ワイヤの変位により、計測点の3次元の変位量を計測する3次元変位計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、測定対象物がX、Y、Zの3軸方向に変位する場合には、通常、各軸毎に変位計を設置して測定していた。そのため、変位計の設置に費用が掛かり、測定部位によってはスペース的にも技術的にも設置できない場合もあった。そこで、これらの欠点を解決すべく、下記特許文献1、2にみられるように、X、Y、Zの3軸方向に変位する測定対象物に対して、技術的に設置が困難な測定物にも設置できる変位計が提案された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第3062433号公報
【特許文献2】特開2007−309659号公報
【0004】
上記特許文献1に開示された3軸変位計を、図1を用いて簡単に説明する。
固定装置101にZ軸用センサ103とZ軸ガイド110を設けて、Z軸センサ103が伸縮のみ自在にされる。次いで、Z軸ガイド110にユニバーサルジョイント107を設ける。ユニバーサルジョイント108、109を設けて、その中に、X軸センサ104、Y軸センサ105を装着する。
そして、X軸センサ104、Y軸センサ105を取り付けるユニバーサルジョイントの直交する軸のそれぞれに、伝達プレート111、112を取り付け、X軸センサ104、Y軸センサ105の軸に伝達駒113、114を取り付ける。このとき、どちらかのセンサは重力に対して垂直にする。さらに、ユニバーサルジョイント108の最終端に測定位置102を設置する。固定位置101の外周部と測定位置102の外周部との間に、カバー115を設けて防滴構造とする。なお、106は、各センサからの出力を取り出す信号線である。
【0005】
このように構成したことにより、X、Y、Zの3軸方向に任意に移動する測定物の計測が、取付金具116の工夫だけの簡単な取付けにより計測ができることとなった。また、カバー115を付加することで、屋外でも簡単に設置して計測できるようになった。
ところが、この従来のものでは、X軸、Y軸の計測値が、ユニバーサルジョイント108、109上に設けられた回転伝達駒113、114を介してX軸センサ104、Y軸センサ105にセンサに伝達されるため、X軸、Y軸の2軸のセンサが、同一面上に設置することができず、しかも、ユニバーサルジョイント108、109上に設置しなければならないため、ユニバーサルジョイント108、109が長くなる結果、3軸変位計全体の長さが長くなり、設置スペースに制約を生じるおそれがあった。
【0006】
このような問題点を解決するため、上記特許文献2では、一端と他端間とを自在継ぎ手を介して接続するとともにX軸、Y軸及びZ軸の変位を検出する3軸相対変位計において、一端と他端間を2個の自在継ぎ手で連結し、一端の自在継ぎ手にはZ軸センサ用のロッドを接続し、このロッドをホルダ内に軸方向に相対変位自在に収納してZ軸センサを構成し、また他端の自在継ぎ手にはこのZ軸センサのホルダにむけてロッド部を延設する。
さらに、ロッド部を球面状かつフォーク状に囲んで構成する一対のリンクを設け、一方のリンクにはX軸ポテンショセンサを、他方のリンクにはY軸ポテンショセンサを固定することにより、これらのX軸センサ、Y軸センサを略同一平面上に配置し、Z軸センサ、X軸センサ、Y軸センサにより、3軸の変位を同時に計測できるようにした。
【0007】
このように構成することにより、3軸の変位を1つのユニットで測定できるため、各軸毎に変位計を設置する必要がなく、設置費用の低減と省スペースが可能となる。
またリンクを介して設置されるX軸センサ、Y軸センサは略同一平面上に配設することにより、X軸、Y軸の変位を略同一平面内に配設されリンクを介したセンサを使用した計測が可能となるので、Z軸方向の高さを効率よく減少させて3軸変位計をコンパクトに構成することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、従来の3軸相対変位計では、相対変位測定対象物に対し、一端を固定位置、他端を測定位置として、両端間をZ軸センサロッド、Z軸ガイドで連結するものであり、固定位置と測定位置間の距離がZ軸センサロッドの長さに制限されるため、数十センチが限度である。したがって、例えば、地滑り等の地表面の変位を計測するため、長い距離を必要とする不動点と変位計測ポイント間に設置することは困難である。
また、一端側にZ軸ポテンショセンサ、他端側にX軸ポテンショセンサ、Y軸ポテンショセンサが配置されるため、不動点と変位計測ポイント間の長い配線が必要となり、さらなるコストアップを招くことになる。しかも、地滑りにより、他端側が固い岩盤などに激突し、大きな衝撃力が加わると、ロッドの根元部で屈曲してしまうことがあり、このような場合には、X軸ポテンショセンサ、Y軸ポテンショセンサの検出値に屈曲に伴う誤差が発生し、3軸の変位を正確に計測できない場合が生じ得る。
【0009】
一方、地滑り等の地表面の変位を計測するため、図2図3に示されるように、不動点と変位計測ポイントをワイヤで接続し、伸縮計によりワイヤが引き出された量をポテンショメータで計測することが行われている。しかし、このような簡易型の計測装置では、地滑り等による地表面の動きが、伸縮計のワイヤの張り方向に対し大きくずれている場合、実際の変位量Dに対し、検出される変位量はΔLと小さくなってしまい、地滑り量を過小評価することになる。
特にこうした計測装置を使用して警報を出したり、立ち入り制限をかけるような緊急性の高い現場では、地滑り用の過小評価が対応の遅れを招き、重大な災害につながりかねない。
【0010】
そこで本発明の目的は、上述した従来の3軸変位計やワイヤを使用した簡易型計測装置の諸課題を解決して、ワイヤを使用して、不動点と変位計測ポイント間を長距離にすることを可能にしながら、地滑り等による地表面の動きが、伸縮計のワイヤの張り方向に対し大きくずれている場合でも正確な変位量を計測可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的を解決するため、本発明の計測装置においては、次のような技術的手段を講じた。
すなわち、
(1)不動点と地滑り等による地表面の変位を計測する計測点とをワイヤで接続し、ワイヤの変位により、計測点の変位量を計測する計測装置において、前記不動点及び計測点の一方に、前記ワイヤの長さ方向の変位量を計測するセンサと、該ワイヤの鉛直方向軸(X軸)回り及び水平軸(Y軸)回りの角度変位量を計測するセンサを設け、ワイヤの長さ方向の変位量、鉛直方向軸(X軸)回りの角度変位量及び水平方向軸(Y軸)回りの角度変位量に基づいて、前記不動点に対する計測点の3次元変位量を演算するようにした。
【0012】
(2)上記の計測装置において、前記ワイヤの一端がワイヤの長さ方向にスライドするZ軸センサロッドに接続され、該Z軸センサロッドをスライド可能に収容するケースの基端部が、前記鉛直方向軸(X軸)回り及び水平方向軸(Y軸)回りに回転自在な連結機構に接続されており、前記Z軸センサロッドに前記ワイヤの長さ方向の変位量を検出するセンサ、そして、前記連結機構に前記鉛直方向軸(X軸)回り及び水平方向軸(Y軸)回りの角度変位量を検出するセンサをそれぞれ設けた。
【0013】
(3)上記の計測装置において、前記ワイヤの長さ方向の変位量を検出するセンサは、前記ワイヤの巻き取り量により変位量を検出するようにした。
【0014】
(4)上記の計測装置において、前記ワイヤの長さ方向の変位量を検出する計測装置の基台に、前記鉛直方向軸(X軸)回り及び水平方向軸(Y軸)回りの角度変位量を検出するセンサを結合した2角度検出ユニットを取り付け、該2角度検出ユニットを通したワイヤを前記ワイヤの長さ方向の変位量を検出する計測装置に接続した。
【0015】
(5)上記の計測装置において、前記ワイヤの長さ方向の変位量を検出する計測装置の基台を、前記鉛直方向軸(X軸)回り及び水平方向軸(Y軸)回りに回転自在に支持する支持機構に取り付け、該支持機構に、前記鉛直方向軸(X軸)回り及び水平方向軸(Y軸)回りの角度変位量の計測する前記センサを取り付けた。
【0016】
また、本発明の2角度検出ユニットにおいては、次のような技術的手段を講じた。
(6)ワイヤの長さ方向の変位量を検出する計測装置の基台に対し、鉛直方向に固定される第1コの字型部材と、前記第1のコの字型部材に対し、鉛直軸回りに回転自在に連結される中間部材と、前記中間部材に対し、水平軸回りに回転自在に連結される第2コの字型部材と、前記中間部材の鉛直軸回りの回転角度変量を計測するX軸変位センサと、前記第2コの字型部材の水平軸回りの回転角度変量を計測するY軸変位センサと、前記X軸変位センサとY軸変位センサの計測値を出力する出力端子からなり、前記計測装置によるワイヤの長さ方向の変位量をZ軸方向として、計測点の3次元変位量を計測可能とした。
【0017】
(7)ワイヤの長さ方向の変位量を検出する計測装置を固定する台座と、該台座を鉛直軸回りに回転自在に支持する第1コの字型部材と、前記第1コの字型部材を水平軸回りに回転自在に連結する第2コの字型部材と、前記第2コの字型部材を前記鉛直軸回りに回転自在に連結する第3コの字型部材と、前記第3コの字型部材を計測点に鉛直に固定するためのポールと、前記第1コの字型部材の鉛直軸回りの回転角度変量を計測するX軸変位センサと、前記第2コの字型部材の水平軸回りの回転角度変量を計測するY軸変位センサと、前記X軸変位センサとY軸変位センサの計測値を出力する出力端子からなり、前記計測装置によるワイヤの長さ方向の変位量をZ軸方向として、計測点の3次元変位量を計測可能した。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ワイヤの鉛直方向軸(X軸)回り及び水平軸(Y軸)回りの角度変位量を計測するセンサにより、ワイヤの長さ方向の変位量を、鉛直方向軸回りの角度変位量及び水平方向軸回りの角度変位量で補正することにより、仮に、伸縮計のワイヤの張り方向に対し大きくずれている場合でも、実際の変位量を正確に演算することが可能となる。
また、不動点及び計測点との一方に、ワイヤの長さ方向の変位量を計測するセンサ、ワイヤの鉛直方向軸(X軸)回り及び水平軸(Y軸)回りの角度変位量を計測するセンサをすべて集約できるので、設置コストを低減することができる。
特に上記(3)によれば、Z軸センサロッドにより計測し得る変位量をさらに拡大することができる。
上記(4)〜(7)によれば、ワイヤの長さ方向の変位量を検出する既存の計測装置と組み合わせることにより、さらにコスト低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】従来の変位計の構造を示す図
図2】従来のワイヤ式変位計の問題点を示す図
図3】従来のワイヤ式変位計の問題点を示す図
図4】実施例1に関わる3軸相対変位計の俯瞰図
図5】実施例に関わる3軸相対変位計不動点側の断面図
図6】自在継ぎ手3をワイヤ1の軸線方向からみた図
図7】Z軸センサ10Zの要部拡大図
図8】実施例1の演算ブロック図
図9】実施例2の全体構成図
図10】実施例3の俯瞰図
図11】実施例3の2角度検出ユニットの説明図
図12】2角度検出ユニットの中間部材拡大図
図13】実施例3の平面図
図14】実施例3の側面図
図15】実施例3のY軸角度変位を示す図
図16】実施例3のX軸角度変位を示す図
図17】実施例3の演算ブロック図
図18】実施例4の2角度検出ユニット
図19】実施例4の2角度検出ユニットがX軸方向、Y軸方向に変位したときの状態を示す図
図20】実施例4の高さ調整機構を示す図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下本発明に係る3軸相対変位計を実施するための好適な形態を図面に基づいて説明する。
【実施例】
【0021】
[実施例1]
図4は、本実施例の3軸相対変位計を不動点側からみた俯瞰図を示し、水平面に対し鉛直方向をX軸、水平方向をY軸、そして、X軸とY軸の交点を原点として、一端が自在継ぎ手に結合されるワイヤ1の長さ方向をZ軸としている。なお、インバー線などからなるワイヤ1の他端は、変位計測ポイントに埋設された杭等の固定部材(図示せず)に連結されている。
【0022】
図5は、不動点側の断面図を示し、図6は、自在継ぎ手3をワイヤ1の軸線方向からみた図、図7は、Z軸センサ10Zの要部拡大図を示す。
不動点側の本体2の内部には、X軸、Y軸、Z軸回りに自由に回転できる自在継ぎ手3が設けられており、この自在継ぎ手3に、ロッド4を介して、円筒状のケース5が連結されている。ケース5の内部には、Z軸センサロッド6を軸方向にスライド可能に案内する案内部7が形成されており、この案内部7に、一端がワイヤ1に連結されたZ軸センサロッド6が挿通されている。
【0023】
Z軸センサロッド6のワイヤ1側端には、ケース5の内部をスムースにスライドするバネ受け6aが設けられ、このバネ受け6aとケース5のワイヤ1側に形成された段差部5aとの間に、戻しバネ8が付勢された状態で配設されており、初期状態において、他端が変位計測ポイントに埋設された固定部材に連結されたワイヤ1に所定の張力を与えている。
なお、ロッド4のケース5側端部と、本体2に設けられた円形開口部との間には、ゴムや合成樹脂で形成されたブーツ9が設けられ、防水性を維持しながら、ロッド4が、自在継ぎ手3との連結点を基点としてスムースに円錐運動できるようになっている。
【0024】
ここで、地滑り等により、不動点に対し変位計測ポイントが、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向にずれたとき、X軸方向及びY軸方向のずれは、図6に示されるように、自在継ぎ手3のX軸回りの回転軸3X、Y軸回りの回転軸3Yにそれぞれ取り付けられたX軸角度センサ10X、Y軸角度センサ10Yにより検出される。
一方、Z軸方向、すなわちワイヤ1の長さ方向のずれは、戻しバネ6に抗したZ軸センサロッド6の軸方向の移動に伴い、回転するZ軸変位センサ10Zにより検出される。
【0025】
この実施例では、Z軸変位センサ10Zとして、図7に示されるように、センサロッド6の外表面に圧接するゴムリングや、Z軸センサロッド6の外表面に軸方向に形成された凹凸と係合する凹凸に備えたリングを備えており、Z軸センサロッド6の軸方向の移動に対しスリップすることなく回転できるようにしている。
なお、X軸角度センサ10X、Y軸角度センサ10Y、Z軸変位センサ10Zとしては、ロータリエンコーダや、ポテンショメータ等を利用することができる。
【0026】
ここで、地滑り等が発生し、X軸角度センサ10X、Y軸角度センサ10Y及びZ軸変位センサ10Zの検出値が、正常時の(θx、θy、Z)に対し(θx+Δθx、θy+Δθy、Z+ΔZ)となった場合を想定すると、次の演算式により、X軸移動量、Y軸移動量、Z軸移動量を演算することができる。
ΔX=(L±ΔL)*(√(sinΔθy*cosΔθx/(sinΔθy*cosΔθx+cosΔθy)) (1)

ΔY=(L±ΔL)*(√(sinΔθx*cosΔθy/(sinΔθx*cosΔθy+cosΔθx)) (2)

ΔZ=(L±ΔL)*(√(cosΔθx*cosΔθy/(sinΔθx*cosΔθy+cosΔθx))−L (3)
なお、上記の演算式において、
ΔX:X軸移動量
ΔY:Y軸移動量
ΔZ:Z軸移動量
L±ΔL:全長±Z軸ポテンショセンサ変化量
Δθx:X軸ポテンショセンサ変化量
Δθy:Y軸ポテンショセンサ変化量
であり、Δθx、Δθyはポテンショセンサからの出力で角度の変化を表し、ΔLはポテンショセンサからの出力で長さの変化を表している。
これらの変化量を上式(1)〜(3)に代入することで、三次元のΔX、ΔY、ΔZの変化(長さ)を表すことができる。
【0027】
この演算を行うブロック図を図8に示す。
X軸角度センサ10X、Y軸角度センサ10Y、Z軸変位センサ10Zからなるセンサ部10の出力変化量Δθx、Δθy、ΔZは、これらを電圧信号あるいは抵抗値信号を、マイコン等の制御部11内の演算処理部12で処理できるよう、制御シグナルコンディショナー(インターフェース)13を介して信号処理(AD変換)がなされる。なお、14、15、16は、それぞれメモリ、外部PCやLANに接続するための通信機、所定以上の地滑りが発生した場合に警報を発するためのランプ、ブザーを作動させる外部出力機である。
【0028】
出力変化量Δθx、Δθy、ΔZは、ワイヤの風による振動など、地滑り以外の要因でノイズを発生する可能性があるので、センサ部10とシグナルコンディショナー13の間に、低域通過フィルタLPFを介在させ、地滑りと関係のない周期の早い変化を除去するようにしてもよい。
また、この例では、X軸角度センサ10X、Y軸角度センサ10Y、Z軸変位センサ10Zを不動点側に設けたが、これらを計測点側に設け、内蔵するバッテリにより、各センサ及び通信を行うようにしてもよい。
【0029】
[実施例2]
実施例1では、装置をコンパクトにできるが、Z軸方向の検出範囲が戻しバネによりZ軸センサロッド6のストロークに限定されてしまうため、計測し得る変位量が限定されたものになってしまう。
そこで、この実施例では、図9に示されるように、Z軸の変位量を既存の伸縮計と同様にワイヤの巻き取り量で検出する。すなわち、本体2の円形開口部には、ゴムブーツ9を介してワイヤ案内部17が自在継ぎ手3との連結点を基点として円錐運動可能に取り付けられており、ワイヤ案内部17の一端から挿通されたワイヤ1は、自在継ぎ手3のX軸とY軸の交点に位置するワイヤ案内部17の他端を介して、ワイヤ巻き取り部18に巻き取られている。
ワイヤ巻き取り部18は、コイルスプリング等により、初期状態において、ワイヤ1に所定の張力を与えるようになっており、地滑り等により、ワイヤ1がワイヤ巻き取り部18に巻き取られたり、あるいは繰り出された場合、ロータリエンコーダやポテンショメータ等を利用したZ軸変位センサ10Zにより検出される。その他の構成は、実施例1と同様である。
【0030】
[実施例3]
この実施例では、X軸回転センサとY軸回転センサを結合した2角度検出ユニットを既存の伸縮計と組み合わせてより低コストを実現する。
すなわち、図10図11に示すように、既存の伸縮計19をZ軸センサとして使用し、その基台に、X軸回転センサ20XとY軸回転センサ20Yを結合した2角度検出ユニット20を配置し、ワイヤ1を、各センサ20X、20Yのワイヤ案内部に通した上で、既存の伸縮計19に連結する。
【0031】
全体構造の平面図、側面図である図13図14に示すように、2角度検出ユニット20は、その台座が水平面となるよう固定されており、その台座に垂直方向に固定され、ワイヤ1を伸縮計19に向けて平行かつ垂直方向に案内する案内部20aが垂直方向に固定された、第1コの字型部材20bと、変位計測ポイントからのワイヤ1が挿通されるワイヤ案内部20cが垂直方向に取り付けられた、第2コの字型部材20dと、固定部材20bに対してX軸回りに回転可能に結合され、かつ、図12に示されるように、第2コの字型部材20dをY軸回りに回転可能に連結する中間部材20eとから構成されている。
【0032】
中間部材20eは、図12に示されるように、略正方形の枠体からなり、各面の中央部に、中心がX軸回転軸に一致するピン20f、20g、Y軸回転軸に一致するピン20h、20iが突出するよう固定されており、図11に示されるように、第1コの字型部材20bの上面には、中間部材20eのピン20f、20g回りの回転角度を検出するY軸角度センサ20Yが取り付けられている。同様に、第2コの字型部材20dの側面には、第2コの字型部材20dのピン20h、20i回りの回転角度を検出するX軸角度センサ20Xが取り付けられている。
なお、第1コの字型部材20bの案内部20a先端は、ピン20fとピン20gを結ぶ線と、ピン20hとピン20iを結ぶ線の交点に一致するよう配置され、この先端が、X軸とY軸が交わる原点となっている。
【0033】
以上の構成により、図15図16に示すように、既存の伸縮計からZ軸変位量を取得し、その基台に取り付けたX軸回転センサ20XとY軸回転センサ20Yから、X軸角度変位量θx、Y軸角度変位θyを取得できる。
そして、図17に示されるように、既存の伸縮計からのZ軸変位量ΔLを外部入力回路30を介してシグナルコンディショナーに取り込めば、実施例1と同様に、X軸移動量ΔX、Y軸移動量ΔY、Z軸移動量ΔZを正確に演算することが可能となる。その他の構成は、実施例1と同様である。
【0034】
[実施例4]
実施例3では、既存の伸縮計19を固設したが、本実施例では、この伸縮計19を固定する台座21をX回転軸及びY軸回転軸回りに回転自在に設けた。
すなわち、図18図20に示されるように、既存の伸縮計19を固定する台座21は、ベアリング22を介して、第1コ字型部材23の底面に取り付けられ、この第1コ字型23の底面と平行を維持しながらスムースに回転できるようになっている。
【0035】
一方、第1コの字型部材23の両部材23a、23bには、スライド溝23cがそれぞれ設けられ、ボルト23dを介して第2コの字部材24に連結されている。
第1コの字型部材23と第2コの字部材24は、第1コの字型部材23のワイヤ1側の側面が、第2コの字型部材24先端を折り曲げることにより形成したストッパにより、両者が常に垂直を維持するよう連結されており、図20に示されるように、第1コの字型部材23の両部材23a、23bに形成されたスライド溝23cにより、第2コの字部材24に対し、第1コの字型部材23を上下方向に位置調整できるよう、ボルト23dにより固定される。
【0036】
また、第2コの字部材24は、不動点に対し垂直方向に立設して固定された第3コの字部材25に対し、水平方向のY回転軸回りに回転自在に連結されており、その回転軸は、既存の伸縮計19における計測原点を通過するようになっている。
そして、台座21の底面に垂直方向に固設された回転軸21aにX軸回転センサ26X、第2コの字部材24の両端から延設された回転軸24aにY軸回転センサ26Yをそれぞれ取り付ける。
【0037】
以上の構成により、ボルト23dを緩め、スライド溝23cにより、ワイヤ1が、この計測原点を通るように調整すれば、図18に示されるとおり、実施例3と同様に、X軸回転センサ26X、Y軸回転センサ26Y、そして、既存の伸縮計19により、X軸移動量ΔX、Y軸移動量ΔY、Z軸移動量ΔZを正確に演算することが可能となる。その他の構成は、実施例1と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上説明したように、本発明によれば、ワイヤの鉛直方向軸(X軸)回り及び水平軸(Y軸)回りの角度変位量を計測するセンサにより、ワイヤの長さ方向の変位量を、鉛直方向軸回りの角度変位量及び水平方向軸回りの角度変位量で補正することにより、低コストな計測装置で地滑り等の災害の発生を正確に予測することが可能となるので、災害対策用警報装置などとして広く採用されることが期待できる。
【符号の説明】
【0039】
1:ワイヤ 2:本体 3:自在継ぎ手 4:ロッド
5:円筒状ケース 6:Z軸センサロッド 7 案内部
8:戻しバネ 9:ブーツ 10X:X軸変位センサ
10Y:Y軸変位センサ 11:制御部 12:演算処理部
13:請求シグナルコンディショナー 14:メモリ 15:通信機
16:ランプ、ブザー 17:ワイヤ案内部 18:ワイヤ巻き取り部
19:伸縮計 20:2角度検出ユニット 21:台座
23:第1コの字型部材 24:第2コの字型部材
25:第3のコの字型部材、
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20